JP5214864B2 - 構造物の補強方法 - Google Patents

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Description

本発明は、繊維強化シートを使用して、土木建築構造物であるコンクリート構造物或いは鋼構造物、更には、木製構造物、プラスチック製構造物、或いは、これらの複合構造物(本願明細書では、コンクリート構造物、鋼構造物、木製構造物、プラスチック製構造物、及び、これらの複合構造物を含めて単に「構造物」という。)を補強する構造物の補強方法に関するものである。
近年、既存或いは新設の構造物の補強方法として、特許文献1に記載されるような、構造物の表面に、炭素繊維シートやアラミド繊維シートなどの連続強化繊維シートを貼り付けたり、巻き付けたりする炭素繊維シート接着工法やアラミド繊維シート接着工法などの連続繊維シート接着工法、或いは、未硬化のマトリクス樹脂を連続繊維束に含浸させたシートを接着後硬化させる工法、がある。
更には、現場樹脂含浸を省略するため工場生産した板厚1〜2mm、幅5cm程度のFRP板をコンクリート表面にパテ状接着樹脂を用いて接着するFRP板接着補強工法も開発されている。
特開平3−224901号公報
しかしながら、上記連続繊維シート接着工法は、マトリクス樹脂(含浸接着剤)を連続繊維シートに工事現場で含浸させながら補強構造物に接着するために、マトリクス樹脂の強化繊維束への含浸に手間を要し、マトリクス樹脂の含浸不良、連続繊維シートの膨れ、浮きの発生など現地施工による品質不良が生じ易いという欠点があった。
また、繊維シートの連続繊維に施工現場で樹脂を含浸させるため、繊維シートの繊維目付量を大きくすると、繊維束内部まで含浸接着剤が含浸しないといった問題、また、含浸用の低粘度のマトリクス樹脂を構造物との接着樹脂として兼用するため、繊維シートの重量が重くなり過ぎると接着樹脂の硬化前に連続繊維シートが剥離、脱落する恐れがあった。
このため、連続繊維シートの繊維目付量を大きくすることが難しく炭素繊維シートの場合で600g/m2程度が限界であった。
このため、必要補強量が多い場合には多層積層する必要があり、工期が長くなる、コスト高となる、などの欠点があった。
また、例えば、下地処理後のコンクリート構造物の表面にはコンクリートに内在する気泡が表面に巣穴状に露出していたり、型枠段差などの凹凸もある。このようなコンクリート表面に連続繊維シートの繊維束に含浸させるための低粘度樹脂(粘度40,000mPa・sec以下)の含浸接着剤を用いて直接シートを接着すると、シートを段差形状に追従させて固定することができず、浮きが発生したり、巣穴状気泡内の空気の膨張によりシートに膨れが発生する、などの施工不良が生じる。
このため、コンクリート表面にエポキシ樹脂パテなどの不陸修正材を塗布してコテ仕上により平滑化し、不陸修正材が硬化した後、改めてシート接着用の含浸接着剤を塗布する必要があり、長工期、コスト高となる、といった問題があった。
又、上記未硬化のマトリクス樹脂を連続繊維束に含浸させたシートを接着後硬化させる工法は、樹脂含浸された連続繊維シートが通気性がないため接着面のシート間の空気が抜けにくく連続繊維シートの膨れ,浮きの発生など現地施工による品質不良が生じやすいという欠点があった。
更に、板厚1〜2mm、幅5cm程度のFRP板をコンクリート表面にパテ状接着樹脂を用いて接着するFRP板接着補強工法は、板幅が小さく構造物全面を覆って接着することが困難であり、床版などの面部材に適用することが困難であった。
また、連続繊維シートの厚さ0.1mm〜0.5mm程度に比べ板厚が厚いFRP板を帯状に部分的に接着するため、連続繊維シート接着工法に比べて接着面積が極端に小さく接着界面に作用する付着せん断応力の集中のため端部から剥離が発生し易い、という欠点があった。
更には、板厚が厚いため接着剤による重ね継手ではFRP板の引張強度に達する前に継手部の剥離が発生するために、重ね継手が使用できず補強範囲全長に渡って1本のFRP板を接着する必要があり、長尺構造物では施工性に問題があった。
そこで、本発明の目的は、繊維強化シートを構成する繊維束内への樹脂の現場含浸が不要で含浸不良の恐れがなく、また、作業効率が高い構造物の補強方法を提供することである。
上記目的は本発明に係る構造物の補強方法にて達成される。要約すれば、本発明は、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した、直径が0.5〜3mmの円形断面形状であるか、又は、幅が1〜10mm、厚みが0.1〜2mmとされる矩形断面形状である繊維強化プラスチック線材を複数本、互いに0.05〜3.0mmだけ離間して長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維強化シートを、構造物の表面に結合材にて接着して一体化する構造物の補強方法であって、
前記結合材は、パテ状の熱硬化性樹脂、又は、無機系結合材料であり、
前記結合材は、前記構造物の表面に塗布され未硬化の状態で、背面及び鉛直面に対して塗布厚さが5mm以上であっても滴下、ダレ落ちをせず、前記結合材の塗布面に前記繊維強化プラスチック線材の間隔0.05mm、前記線材の直径3mmの前記繊維強化シートを1MPa以下の圧力で加えた状態で各線材間を前記結合材が通過しうる粘性度を有する液状であることを特徴とする構造物の補強方法である。
本発明の一実施態様によれば、前記パテ状の熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、又は、不飽和ポリエステル樹脂であり、前記無機系結合材料はポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、又は、セメントペーストである。
本発明の他の実施態様によれば、前記熱硬化性樹脂は、その粘度が23℃において50,000〜5,000,000mPa・secの範囲にあり、チクソトロピックインデックスが4〜7である。
本発明の他の実施態様によると、前記繊維強化シートは、予め未硬化の前記結合材を、
(a)前記構造物表面に塗布した後、又は、
(b)前記構造物表面に対面した側の前記繊維強化シートに塗布した後、又は、
(c)前記構造物表面と、前記構造物表面に対面した側の前記繊維強化シートとに塗布した後、
前記構造物表面に押し付けて接着する。
本発明の他の実施態様によると、前記構造物表面に接着した前記繊維強化シートの、前記構造物表面に接着した側とは反対側の表面に結合材を塗布して前記繊維強化シートを前記構造物と一体化する。
本発明の他の実施態様によると、複数の前記繊維強化シートを、互いに隣り合う端部を所定長さ重ね合わせて継手部となし、結合材で継手部を接着する。
本発明の他の実施態様によると、前記構造物の折曲部には、予め前記構造物の折曲部に合わせて曲げ成型した前記繊維強化シートを接着し、前記曲げ成型した前記繊維強化シートの端部は、前記構造物の直線部に接着した前記繊維強化シートと所定長さ重ね合わせて継手部となす。
本発明の他の実施態様によると、前記繊維強化シートは、複数層にて前記構造物に積層して接着され、前記構造物と一体化する。
本発明の他の実施態様によると、前記複数層積層する前記繊維強化シートの長さは、前記構造物表面から離間する外層に行くに従って順に短くして、前記繊維強化シートの端部を階段状に積層する。
本発明の他の実施態様によると、前記繊維強化シートの端部及び/又は前記繊維強化シート中間部を、前記繊維強化シート上から定着手段にて前記構造物に固定する。
本発明の他の実施態様によると、前記構造物は、長手軸線方向に延在する柱又は梁であり、前記構造物の軸方向に前記繊維強化シートの前記繊維強化プラスチック線材が配向するようにして前記構造物の表面に前記繊維強化シートを結合材で接着した後、前記繊維強化シートの外周に、樹脂が未含浸又は未硬化の連続繊維シートを、強化繊維が前記繊維強化シートの繊維強化プラスチック線材に対して直交するように巻き付けて、接着剤で固定する。
本発明の他の実施態様によると、前記繊維強化プラスチック線材の強化繊維は、炭素繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用される。
本発明の他の実施態様によると、前記繊維強化プラスチック線材のマトリクス樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ナイロン、ビニロンなどの熱可塑性樹脂である。
本発明の他の実施態様によると、前記繊維強化プラスチック線材は、その表面が粗面とされる。
本発明の他の実施態様によると、前記繊維強化シートは、幅が100〜1000mmである。
本発明の他の実施態様によると、前記線材固定材は、前記各繊維強化プラスチック線材の長手方向に対して垂直方向に複数本の前記繊維強化プラスチック線材を編み付ける横糸である。他の実施態様によると、前記横糸は、ガラス繊維或いは有機繊維から成る糸条である。
本発明の他の実施態様によると、前記線材固定材は、前記スダレ状に引き揃えた複数本の線材の片側面、又は、両面に配置され、接着されたメッシュ状支持体シートである。他の実施態様によると、前記メッシュ状支持体シートは、ガラス繊維から成る糸条を1軸、2軸或いは3軸に配向して形成し、前記糸条表面に被覆された樹脂により前記スダレ状に引き揃えた複数本の繊維強化プラスチック線材に接着される。
本発明の他の実施態様によると、前記線材固定材は、前記各繊維強化プラスチック線材の長手方向に対して垂直方向に複数本の前記繊維強化プラスチック線材の片側面、又は、両面に貼り付けて固定する可撓性帯材である。他の実施態様によると、前記可撓性帯材は、粘着テープ又は接着テープである。又、更に他の実施態様によると、前記可撓性帯材は、前記各繊維強化プラスチック線材の長手方向に対して垂直方向に複数本の前記繊維強化プラスチック線材の片側面、又は、両面に熱融着される、ナイロン、EVAなどの熱可塑性樹脂である。
本発明の他の実施態様によると、前記繊維強化プラスチック線材の強化繊維は、炭素繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用される。
本発明の他の実施態様によると、前記繊維強化プラスチック線材のマトリクス樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ナイロン、ビニロンなどの熱可塑性樹脂である。
本発明の構造物の補強方法によれば、以下の特長を有している。つまり、
(1)樹脂を予め含浸硬化させた繊維強化プラスチック線材をシート状に保形した補強材を用いるため,繊維束内への樹脂の現場含浸が不要で含浸不良の恐れがなく、含浸作業が不要なため作業効率が高い。
(2)樹脂を予め含浸硬化させた繊維強化プラスチック線材を用いているので一体化に用いる結合材は連続繊維束に含浸させる必要がなく、パテ状の樹脂或いはセメントペーストやポリマーセメントモルタルなどの下向き面又は鉛直面に5mm以上の厚さで塗布しても滴下の生じない高粘度のものを使用することが可能であり、繊維目付量の大きな繊維強化シートでも容易に構造物に接着することが可能である。
(3)各線材の間には0.05〜3mm程度の適度の間隔を設けることができるので、通気性が良好であり、補強対象構造物と繊維強化シート或いは繊維強化シート相互の層間の空気が容易に排出され浮きや膨れの発生が生じにくい。
(4)高粘度のパテ状結合材を用いるので、コンクリート表面の不陸修正材としても機能するので、通常の連続繊維シート接着工法のように予め不陸修正材を用いて平滑化した後に接着用樹脂を塗布する必要がなく、不陸修正と繊維強化シート接着が一度の結合材塗布で同時に行えるため極めて効率的である。
結合材としては、線材直径3mm、間隔0.05mmの繊維強化シートを背面や鉛直面に保持して線材間から結合材が染み出して繊維強化シートを固結する必要があるので、繊維強化シートと構造物の結合材がコンクリート及び鋼板の表面に塗布され未硬化の状態で、背面及び鉛直面に対して塗布厚さが5mm以上であっても滴下、ダレ落ちをほとんど生じず、結合材の塗布面に線材の間隔0.05mm、線材の直径3mmの繊維強化シートを1MPa以下の圧力で加えた状態で線材間を結合材が通過しうる粘性度の高い液状であることが望ましい。
また、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を結合材として用いる場合には、その粘度が23℃において50,000〜5,000,000mPa・secの範囲にあり、チクソトロピックインデックス(回転粘度計による異なる回転数による粘度の測定値の比(2rpmでの粘度)÷(20rpmでの粘度))が4〜7であることが望ましい。すなわち,粘度が50000mPa・secより小さくチクソトロピックインデックスが4以下であれば繊維シートを背面や鉛直面に貼り付けた場合、繊維シートの自重で剥離や脱落が生じる可能性が高い。また逆に粘度が5,000,000mPa・secより大きくチクソトロピックインデックスが7以下であれば樹脂が硬く繊維シートの線材間隔を通過して一体化させることがローラーしごきなどの押し付け操作を行っても困難となる。
(5)連続繊維シート接着工法と同様に、100〜1000mm程度の幅広のシート状補強材を用いるので、補強構造物の補強面全面を覆って接着することが容易で、50mm程度の幅狭のFRPプレートを接着するのに比べて接着面積を広くとることが可能であり接着面の剥離が生じにくく、高い補強効果を得ることができる。
(6)曲げモーメント及び軸力を主として受ける部材に対しては、曲げモーメントにより生じる引張応力或いは圧縮応力の主応力方向に繊維強化プラスチック線材の方向を概ね一致させて接着することで、繊維強化シートが効果的に応力を負担し、効率的に構造物の耐荷力を向上させることが可能である。
(7)2方向スラブのように直交する2方向に曲げモーメントが作用する場合、強化繊維プラスチック線材の方向が曲げモーメントにより生じる主応力に概ね一致するように2層以上の繊維シートを直交させて積層接着することで効率的に耐荷力の向上が図れる。
(8)補強対象構造物が鉄筋コンクリート或いは無筋コンクリートなどのコンクリート構造物でせん断力を受ける棒部材であるとき、棒材の側面に繊維シートを接着することにより、効率的に構造物の耐荷力を向上させることが可能である。
(9)必要補強量が多い場合には複数層の繊維シートを接着することが可能である。また、複数層積層する繊維強化シートの長さを外層を順に30〜300mm程度短くして端部を階段状に積層することにより、シート端部での応力集中を低減し、剥離抵抗を向上させることが可能となる。
(10)繊維強化シートの剥離は、シート端部及び/又はシート中間部のコンクリートのひび割れ付近から水平せん断力や繊維シート面の鉛直方向のずれ変形によるピーリングにより生じることが多い。このためシート端部や中間部で適宜、シート上に鋼板などの定着手段を接着してアンカーボルトで補強対象構造物に固定して繊維強化シートを拘束することで繊維シートの剥離防止を図ることができる。
(11)棒部材の軸方向に繊維強化シートを接着した場合には、繊維強化シートの外側に部材軸方向に樹脂未含浸又は未硬化の柔軟な連続繊維シートを部材軸方向の全周或いは3面に巻き付けて軸方向の繊維強化シートを拘束することにより前記定着手段と同様に剥離防止を図ることができる。
(12)繊維強化プラスチック線材が直径小さいため、重ね代を50〜300mm程度とりパテ状エポキシ樹脂接着剤は用いて貼り合せた重ね継手で十分な継手強度を得ることが可能であり、補強範囲の長い部材の補強が容易に行える。
(13)柱部材の周方向に繊維強化シートを配置する場合やハンチ入隅部に繊維強化シートを配置する場合、繊維強化プラスチック線材が直線状のシートでは出隅、入隅部で繊維強化プラスチック線材の曲げ破壊が生じる可能性がある。そのため,予め曲げ成型した繊維強化プラスチック線材をシート状にした繊維強化シートとをコーナー部に配置し、一般部には直線状の繊維強化シートを配置して両シートを重ね継手で接合することにより、柱部材の周方向に連続して繊維シートを巻きたてたり、入隅を有するハンチ部分を連続して補強することができる。
以下、本発明に係る構造物の補強方法を図面に則して更に詳しく説明する。
実施例1
(繊維強化シート)
図1及び図2に、本発明に係る構造物の補強方法に使用する繊維強化シート1の一実施例を示す。繊維強化シート1は、連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定される。
繊維強化プラスチック線材2は、一方向に配向された多数本の連続した強化繊維fにマトリクス樹脂Rが含浸され硬化された細長形状(細径)のものであり、弾性を有している。従って、斯かる弾性の繊維強化プラスチック線材2をスダレ状に、即ち、線材2が互いに近接離間して引き揃えられたシート形状とされる繊維強化シート1は、その長手方向に弾性を有している。そのために、例えば、繊維強化シート1は、搬送時には、所定半径にて巻き込んだ状態にて持ち運びが可能であり、極めて可搬性に富んでいる。また、繊維強化シート1は、繊維強化プラスチック線材2にて構成されているために、搬送時に、従来の未含浸強化繊維シートのように、強化繊維の配向が乱れたり、糸切れを生じるといった心配は全くない。
更に説明すると、細径の繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)が0.5〜3mmの略円形断面形状(図3(a))であるか、又は、幅(w)が1〜10mm、厚み(t)が0.1〜2mmとされる略矩形断面形状(図3(b))とし得る。勿論、必要に応じて、その他の種々の断面形状とすることができる。また、繊維強化プラスチック線材2は、使用時における接着力を向上させるために、その表面が、ショットブラストや、金ブラシなどを用いて目荒らしを行い粗面とするのが好ましい。
上述のように、一方向に引き揃えスダレ状とされた繊維強化シート1において、各線材2は、互いに空隙(g)=0.05〜3.0mmだけ近接離間して、線材固定材3にて固定される。また、このようにして形成された繊維強化シート1の長さ(L)及び幅(W)は、補強される構造物の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(W)は、100〜1000mmとされる。又、長さ(L)は、1〜5m程度の短冊状のもの、或いは、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
また、繊維強化シート1の長さ(L)を1〜5m程度として、幅Wをこれより長く1〜10m程度として製造することも可能である。この場合、繊維強化プラスチック線材2を伸ばした状態で繊維強化プラスチック線材2に対して直角方向に巻き、スダレ状に巻き込んで搬送することもできる。
強化繊維fとしては、炭素繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。
繊維強化プラスチック線材2に含浸されるマトリクス樹脂Rは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%とされる。
又、各線材2を線材固定材3にて固定する方法としては、図1に示すように、例えば、線材固定材3として横糸を使用し、一方向にスダレ状に配列された複数本の線材2から成るシート形態とされる線材、即ち、連続した線材シートを、線材に対して直交して一定の間隔(P)にて打ち込み、編み付ける方法を採用し得る。横糸3の打ち込み間隔(P)は、特に制限されないが、作製された繊維強化シート1の取り扱い性を考慮して、通常10〜100mm間隔の範囲で選定される。
このとき、横糸3は、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維を複数本束ねた糸条とされる。又、有機繊維としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用される。
各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、図2(a)に示すように、線材固定材3としてメッシュ状支持体シートを使用することができる。
つまり、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた複数本の線材2、即ち、線材シートの片側面、又は、両面を、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維にて作製したメッシュ状の支持体シート3により支持した構成とすることもできる。
この場合には、例えば、2軸構成とされるメッシュ状支持体シート3を構成する縦糸4及び横糸5の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シート3をスダレ状線材シートの両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート3の縦糸4及び横糸5の部分をスダレ状線材シートに溶着する。
メッシュ状支持体シート3は、2軸構成のほかに、ガラス繊維を3軸に配向して形成したり、或いは、ガラス繊維を線材2に対して直交する横糸5のみを配置した、所謂、1軸に配向して形成して前記シート状に引き揃えた複数本の線材2に接着することもできる。
又、上記線材固定材3の糸条としては、例えばガラス繊維を芯部に有し、低融点の熱融着性ポリエステルをその周囲に配したような二重構造の複合繊維も又好ましく用いられる。
更に、各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、図2(b)に示すように、線材固定材3として、例えば、粘着テープ又は接着テープなどとされる可撓性帯材を使用することができる。可撓性帯材3は、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に、複数本の繊維強化プラスチック線材2の片側面、又は、両面を貼り付けて固定する。
つまり、可撓性帯材3として、幅(w1)2〜30mm程度の、塩化ビニルテープ、紙テープ、布テープ、不織布テープなどの粘着テープ又は接着テープが使用される。これらテープ3を、通常、10〜100mm間隔(P)で各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に貼り付ける。
更に、可撓性帯材3としては、ナイロン、EVA樹脂などの熱可塑性樹脂を帯状に、線材2の長手方向に対して垂直方向に片側面、又は、両面に熱融着させることによっても達成される。
(補強方法)
次に、図4を参照して、構造物の補強方法について説明する。本発明によれば、前述のようにして製造された繊維強化シート1を用いて、構造物の補強が行われる。
つまり、本発明の構造物の補強方法によれば、強化繊維fにマトリクス樹脂Rが含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材2を互いに線材固定材3にて固定した繊維強化シート1を、構造物の表面に結合材にて接着して一体化する。
構造物の補強に際して、曲げモーメント及び軸力を主として受ける部材(構造物)に対しては、曲げモーメントにより生じる引張応力或いは圧縮応力の主応力方向に繊維強化プラスチック線材2の方向を概ね一致させて接着することで、繊維強化シート1が効果的に応力を負担し、効率的に構造物の耐荷力を向上させることが可能である。
また、2方向スラブのように直交する2方向に曲げモーメントが作用する場合、繊維強化プラスチック線材2の方向が曲げモーメントにより生じる主応力に概ね一致するように2層以上の繊維強化シート1を直交させて積層接着することで効率的に耐荷力の向上が図れる。
補強対象構造物が鉄筋コンクリート或いは無筋コンクリートなどのコンクリート構造物でせん断力を受ける棒部材であるときは、棒材の側面に繊維シートを接着する。
以下の本実施例にて、構造物としては、コンクリート構造物を例に説明するが、本発明は、被補強物である構造物としては、コンクリート構造物に限ることなく、鋼製構造物、木製構造物、プラスチック製構造物、或いは、これらの複合構造物などにも好適に、適用可能である。
(第1工程)
図4(a)、(b)に示すように、コンクリート構造物100の被補強面(即ち、被接着面)101の脆弱部101aを、ディスクサンダー、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェットなどの研削手段50により除去し、構造物100の被接着面101を適度な粗度を持つ面102となるように下地処理をする。
(第2工程)
下地処理した面102にエポキシ樹脂プライマー103を塗布する(図4(c))。プライマー103としては、エポキシ樹脂系に限ることなくMMA系樹脂など結合材104(図4(d))と被補強構造物100の材質に合わせて適宜選定される。
なお、プライマー103の塗布工程は、省略することも可能である。
(第3工程)
下地処理した面に結合材104を所要の厚さ(T)にて塗布する(図4(d))。塗布厚さ(T)は、被接着面102の表面の凹凸、繊維強化シート1の厚さに応じて適宜設定されるが、一般に2〜10mm程度とされる。
結合材104としては、パテ状熱硬化性樹脂、例えば、パテ状のエポキシ樹脂、MMA樹脂などアクリル系樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が好適に使用される。更に、結合材104としては、無機系結合材料である、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、セメントペーストなどを用いることができる。
更に説明すると、本実施例では、線材2の直径(d)が最大3mm、間隔(g)が最小0.05mmとされる繊維強化シート1を、構造物100の背面や鉛直面に保持して線材2、2間から結合材104が染み出して繊維強化シート1を固結する必要がある。従って、繊維強化シート1と構造物100の結合材104がコンクリート及び鋼板の表面に塗布され未硬化の状態で、構造物100の背面及び鉛直面に対して塗布厚さ(T)が5mm以上であっても滴下、ダレ落ちをほとんど生じず、結合材104の塗布面に線材2、2の間隙(g)0.05mm、線材2の直径(d)3mmの繊維強化シート1を1MPa以下の圧力で加えた状態で線材2、2間を結合材104が通過し得る粘性度の高い液状であることが望ましい。
そこで、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を結合材104として用いる場合には、その粘度が23℃において50,000〜5,000,000mPa・secの範囲にあり、チクソトロピックインデックス(回転粘度計による異なる回転数による粘度の測定値の比(2rpmでの粘度)÷(20rpmでの粘度))が4〜7であることが望ましい。
すなわち、粘度が50000mPa・secより小さくチクソトロピックインデックスが4以下であれば繊維強化シート1を構造物100の背面や鉛直面に貼り付けた場合、繊維強化シート1の自重で剥離や脱落が生じる可能性が高い。また逆に、粘度が5,000,000mPa・secより大きくチクソトロピックインデックスが7以下であれば樹脂が硬く繊維強化シート1の線材2、2間隙(g)を通過して一体化させることがローラーしごきなどの押し付け操作を行っても困難となる。
(第4工程)
図4(e)、(f)に示すように、結合材104を塗布した面に、繊維強化シート1を押し付けて補強対象コンクリート構造物100の表面102に接着する。
この時、繊維強化シート1をローラーやゴムベラで押え付けて接着界面の空気層を強化繊維プラスチック線材2、2の隙間gから排気するようにすると良い。
本実施例によれば、繊維強化シート1は、樹脂を予め含浸硬化させた繊維強化プラスチック線材2を用いているので一体化に用いる結合材104は連続繊維束に含浸させる必要がない。そのために、結合材104として、上述のように、パテ状の樹脂、又は、セメントペーストやポリマーセメントモルタルなどの下向き面或いは鉛直面に5mm以上の厚さ(T)で塗布しても滴下の生じない高粘度のものを使用することができる。従って、繊維目付量の大きな繊維強化シート1でも容易に構造物100に接着することが可能である。
また、本実施例によれば、繊維強化シート1を使用した場合には、各線材2の間には0.05〜3mm程度の適度の間隔(g)を設けることができるので、通気性が良好であり、補強対象構造物100と繊維強化シート1との間の空気が、又は、後述するように、繊維強化シート1を複数枚積層した場合においては、繊維強化シート1、1相互の層間の空気が容易に排出され、浮きや膨れの発生が生じにくい。
更に、高粘度のパテ状結合材104を用いるので、結合材104は、コンクリート表面の不陸修正材としても機能することができる。従って、通常の連続繊維シート接着工法のように予め不陸修正材を用いて平滑化した後に接着用樹脂を塗布する必要がなく、不陸修正と繊維強化シート1との接着が一度の結合材塗布で同時に行えるため極めて効率的である。
従来の連続繊維シート接着工法と同様に100〜1000mm程度の幅広のシート状補強材、即ち、繊維強化シート1を用いるので、補強構造物100の補強面全面を覆って接着することが容易である。また、従来の50mm程度の幅狭のFRPプレートを接着する工法に比べて接着面積を広くとることが可能であり接着面の剥離が生じにくく、高い補強効果を得ることができる。
(第5工程)
図4(g)に示すように、結合材104により補強対象コンクリート構造物100の表面102に接着した繊維強化シート1の上に更に結合材104を、上記第4工程にて使用したと同様の結合材104、例えばパテ状エポキシ樹脂を塗布してゴムベラなどで平滑に仕上げることも可能である。これにより、繊維強化シート1は、より強固に構造物100に一体化される。
(第6工程)
更に、複数層の繊維強化シート1を貼り付ける場合は、上記と同様に、結合材104の塗布、繊維強化シート1の貼り付け、必要に応じて結合材104の上塗り、を繰り返すことで複数層の繊維強化シート1をコンクリート構造物100と一体化することが可能である。
上記実施例では、コンクリート構造物100に結合材104を塗布した面に繊維強化シート1を押し付けて接着したが、繊維強化シート1の接着面上に結合材104を塗布して、この繊維強化シート1の結合材塗布面をコンクリート構造物100の被接着面102に押し付けて接着することも可能である。
更には、コンクリート構造物100の表面、及び、繊維強化シート1の接着面上に結合材104を塗布して、この繊維強化シート1の結合材塗布面を、結合材104が塗布されたコンクリート構造物100の被接着面102に押し付けて接着することも可能である。
つまり、繊維強化シート1は、予め未硬化の結合材104を、
(a)構造物表面に塗布した後、又は、
(b)構造物表面に対面した側の繊維強化シート1に塗布した後、又は、
(c)構造物表面と、構造物表面に対面した側の繊維強化シート1とに塗布した後、
構造物表面に押し付けて接着することもできる。
また、必要補強量が多い場合には、構造物表面に複数層の繊維シート1を接着することが可能である。ただ、複数層の繊維強化シート1を積層して接着すると、端部に応力集中が生じ、剥離破壊抵抗が低下することがある。
そこで、剥離破壊破壊を防止するために、図5に示すように、各層の繊維強化シート1のシート長さ(L)(図1参照)を変化させるのが好ましい。例えば、複数層積層する繊維強化シート1の長さは、構造物表面102から離間する外層に行くに従って順に短くして、繊維強化シート1の端部1aを階段状に積層する。端部1aのずらし長さ(h)は、30mm〜300mm程度とするのが適当である。例えば、シート端部1aが100mmづつ短くなるように接着することにより、好結果を得ることができた。
つまり、複数層積層する繊維シート1の長さ(L)を外層を順に30〜300mm程度短くして端部1aを階段状に積層することにより、シート端部1aでの応力集中を低減し、剥離抵抗を向上させることが可能である。
(変更実施例)
又、図6(a)、(b)に示すように、例えば、コンクリート構造物100が、長尺の梁のようなものである場合には、貼着した繊維強化シート1のシート端部1a及び/又は斜めひび割れ発生位置1bでの繊維強化シート1の剥離防止のため、幅5cm、板厚9mmの鋼板(定着手段)200を繊維強化シート1上にエポキシ樹脂で接着し、更に、直径12mmコンクリートアンカー201とナット202を用いてコンクリート梁100に定着するのが好ましい。
なお、定着手段200としては、上記定着鋼板の代わりにガラス繊維強化プラスチック平板を用いることも可能である。
つまり、繊維強化シート1の剥離は、シート端部1a及び/又はシート中間部1bのコンクリートのひび割れ付近から水平せん断力や繊維強化シート面の鉛直方向のずれ変形によるピーリングにより生じることが多い。このためシート端部1aや中間部1bで適宜、繊維強化シート1上に定着鋼板200を接着してアンカーボルト201、202で補強対象構造物100に固定して繊維強化シート1を拘束することで繊維強化シート1の剥離防止を図ることができる。
(変更実施例)
構造物100が棒部材とされる場合に、棒部材100の軸方向に繊維強化シート1を接着した場合には、繊維強化シート1の外側に部材軸方向に樹脂未含浸又は未硬化の柔軟な連続繊維シートを部材軸方向の全周或いは3面に巻き付けて軸方向の繊維強化シート1を拘束することにより前記補強鋼板と同様に剥離防止を図ることができる。
本実施例では、図7に示すように、被補強構造物100がコンクリート柱とされる場合には、コンクリート柱100の軸方向に繊維強化シート1を接着した後、強化繊維11が一方向に引き揃えてシート状とされ、樹脂未含浸の一方向炭素繊維シート(引張強度3400MPa、繊維目付量200g/m2)10を1層全周に巻きつけて接着した。これにより、繊維強化シート1の剥離を防止することができた。
このとき、連続繊維シート10は、その強化繊維11が繊維強化シート1の繊維強化プラスチック線材2に対して直交するように巻き付けるのが好ましい。
又、他の変更例として、図8(a)、(b)に示すように、被補強構造物100がスラブ付コンクリート梁である場合には、梁100の下面に梁軸方向に繊維強化シート1を接着した後、剥離防止のため樹脂未含浸の一方向炭素繊維シート(引張強度3400MPa、繊維目付量200g/m2)10を1層だけ、梁側面から下面再び梁側面と3面を覆って繊維方向を部材軸直角方向として接着し、良好な結果を得ることができた。
剥離防止用の連続繊維シート10としては、強化繊維11として炭素繊維を使用した炭素繊維シートのほかに、強化繊維11としてアラミド繊維やガラス繊維を使用した、アラミド繊維シートやガラス繊維シートなどを使用することができる。
又、上記説明では、強化繊維11は、一方向に引き揃えた1方向繊維シートであるとしたが、これに限定されるものではなく、強化繊維11が2方向、或いは、複数方向に配向された2方向或いは多方向繊維シートも又使用可能である。ただ、少なくとも一つの強化繊維11は、繊維強化シート1の繊維強化プラスチック線材2に対して直交するように巻き付けるのが好ましい。
(変更実施例)
図9を参照して接着継手、即ち、重ね継手の実施例について説明する。
繊維強化シート1は、作業のし易さから、長さ(L)(図1参照)として2〜3mに切断して使用することができる。このとき補強範囲の長さが1枚に繊維強化シート1の長さ以上の場合は、重ね継手110を設けて繊維強化シート1、1間で応力伝達を図る。
本実施例では、隣り合う繊維強化シート1の端部1aを線材2方向に、所定の継手長さ(j)にて重ね、更に、結合材104としてのエポキシ樹脂パテで接着して重ね継手110とした。継手長さjとしては、50mm〜300mmが好適であり、継手部11の剥離より線材2の破壊が先行する長さとするのが良い。本実施例では、継手長さ(j)は、200mmとした。
このように、本実施例によれば、繊維強化プラスチック線材2の直径(d)が小さいため、重ね代(継手長さj)を50〜300mm程度とり、パテ状エポキシ樹脂接着剤を用いて貼り合せた重ね継手110で十分な継手強度を得ることが可能であり、補強範囲の長い部材の補強が容易に行える。
(変更実施例)
構造物の補強に際し、柱部材の周方向に繊維強化シート1を配置する場合や、ハンチ入隅部に繊維強化シート1を配置する場合には、繊維強化プラスチック線材2が直線状の繊維強化シート1では出隅部、入隅部で繊維強化プラスチック線材2の曲げ破壊が生じる可能性がある。
そこで、予め曲げ成型した繊維強化プラスチック線材2をシート状にした繊維強化シート1を、被補強構造物のコーナー部に配置し、一般部には直線状の繊維強化シート1を配置して両繊維強化シート1、1を重ね継手で接合することにより、柱部材の周方向に連続して繊維強化シート1を巻きたてたり、入隅を有するハンチ部分を連続して補強することができる。
図10(a)、(b)に、上記補強方法を実施するに際して使用する、曲げ成型繊維強化シート1A、1Bの実施例を示す。
曲げ成型繊維強化シート1A、1Bは、補強対象構造物の角部に配置することができる。つまり、曲げ成型繊維強化シート1A、1Bにおいては、予め強化繊維プラスチック線材2が曲げ成型されている。曲げ成型は、直角、鈍角、鋭角など角型として角部に適度な曲率を持たせることができる。また、角部の形状を、90°円弧、或いは、半円などの曲線形状とすることも可能である。
図11(a)、(b)に、上記曲げ成型繊維強化シート1A、1Bを使用した補強方法を示す。
図11(a)の実施例に示すように、断面矩形の角柱状構造物100に対して、曲げ成型された繊維シート1Aを角部に配置し、平面部に配置された直線状の繊維強化シート1と組み合わせて重ね継手110で接続することにより角柱部材100の周方向に繊維強化プラスチック線材2を配向させて閉合して補強することができる。
また、図11(b)の実施例に示すように、ハンチ入隅部及び出隅部に曲げ成型された繊維シート1Bを配置し、平面部に配置された直線状の繊維強化シート1と組み合わせて重ね継手110で接続することによりハンチ形状のある構造物を補強することができる。
従来の現場含浸型の連続繊維シート接着工法では、繊維束の直径数μm程度の極細径の強化繊維フィラメント間に樹脂が含浸する必要があるために非常に低粘度の樹脂を用いる必要があった。
従って、図12(a)、(b)に示すように、構造物100の角部のような折曲部での補強に際しては、強化繊維の応力集中による強度低下や繊維の跳ね上がりによる施工不良を防止するため、コンクリート構造物100の角部100Cを、半径(R)50mm程度の滑らかな湾曲形状とする必要がある。そのために、角部100Cを切削するか、パテ状不陸修正材で角部100Cに擦り付けて半径(R)50mm程度の曲面に成型し、その後、連続繊維シート接着用の樹脂を塗布してシート貼り付ける必要があった。そのために、施工に手間を要していた。
これに対して、本実施例の補強方法によれば、繊維強化シート1は、予めマトリクス樹脂が含浸硬化された強化繊維プラスチック線材2となっているので高粘度の結合材104を用いることができる。
また、曲げ成型繊維強化シート1Aにおける強化繊維プラスチック線材2は、予め適当な形状(曲率)をもって成型されている。そのため,コンクリート躯体(被補強構造物)100を切削したり不陸修正して滑らかな曲面としなくても、図12(c)に示すように、結合材104を角部100Cに十分な厚さに塗布した後に曲げ成型繊維強化シート1Aを押し付けて接着することで隙間無く良好にコンクリート構造物の角部に一体化することができ、工事期間の短縮,粉塵発生の抑制,コスト削減が図れる。
次に、本発明に係る構造物の補強方法の作用効果を実証するために以下の実験を行った。
実験例1
本実験例では、繊維強化シート1を使用して、接着工法に従ってコンクリート梁100を補強した。また、本実験例で使用した繊維強化シート1は、図1を参照して説明した構成の繊維強化シート1であった。
繊維強化シート1における繊維強化プラスチック線材2は、強化繊維fとして平均径7μm、収束本数12000本のPAN系炭素繊維ストランドを用い、マトリクス樹脂Rとして常温硬化型のエポキシ樹脂を含浸し、硬化して作製した。樹脂含浸量は、50重量%であり、硬化後の繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)1.1mmの円形断面を有していた。
このようにして得た繊維強化プラスチック線材2を、一方向に引き揃えてスダレ状に配置した後、ポリエステル繊維を横糸3として平織りによりシート状に保持した。横糸3の間隔(P)は50mmであった。
このようにして作製した繊維強化シート1は、幅(W)が100mm、長さ(L)が2000mであった。各線材2、2間の間隙(g)は、0.1〜0.3mmであった。
次に、上記繊維強化シート1を使用してコンクリート梁100を、図4を参照して説明したと同様の繊維シート接着工法により、次のようにして補強した。ただ、本実験例では、コンクリート梁100の下面側(即ち、梁の背面側)に繊維強化シート1を貼付するものとした。
先ず、本実験例では、コンクリート梁100の下面をディスクサンダー50によりケレンした。ケレンしたコンクリート梁100の表面102上にエポキシ樹脂プライマー(日鉄コンポジット(株)製「FP−NS」(商品名))103を0.2kg/m2塗布した。
エポキシ樹脂プライマー103が硬化した後、塗布面を背面とした体勢で結合材104としてパテ状エポキシ樹脂(日鉄コンポジット(株)製「FE−Z」(商品名))を、およそ5mmの厚さ(T)となるよう、ゴムベラでコンクリート梁(供試体)100に塗布した。このときパテ状エポキシ樹脂は、塗布完了後も自重で滴下することはなくコンクリート供試体100に付着していた。
結合材104として用いたパテ状エポキシ樹脂の23℃におけるBS型回転粘度計による粘度は、回転数2rpmで75,000mPa・sec、回転数10rpmで400,000mPa・secであった。
また、チクソトロピックインデックス(回転数10rpmにおける粘度÷回転数2rpmにおける粘度)は5.48であった。
次に、繊維強化シート1をエポキシ樹脂塗布面に軽く押し付けた後、繊維強化シート1の上を幅100mm直径10mmプラスチックローラーを100N程度の押し付け力を加えながら移動させた。このときローラーの接触面積をローラーの投影面積の1/2とすると接触面積はS=100*10/2=500mm2となり、接触圧力はP=F/S=100/500=0.2MPa程度となる。
プラスチックローラーによりシート1上から転圧することで、エポキシ樹脂パテは、繊維強化シート1の各繊維強化プラスチック線材2の0.1〜0.3mmの隙間(g)から染み出した状態となっており、なんら保持をしなくてもコンクリート梁100に貼りついた状態で剥離することはなかった。
更に、エポキシ樹脂パテ104を1.5kg/m2繊維強化シート1の表面に塗布してゴムベラにより表面を平坦に仕上げた。その後、室温で1週間養生した。繊維強化シート1の貼着面に、何らボイドを発生することなく、コンクリート梁100に極めて良好に接着することができた。
以上のようにして作成した繊維シート補強コンクリート梁100と、繊維強化シート1を接着しない無補強のコンクリート梁100に対して、梁の支点間スパン1800mm、加力点間隔400mmとして4点曲げ試験を試験を行った。コンクリート梁100の断面は、幅120mm高さ200mm、全長2000mmである。主鉄筋として梁下側にD10の異形鉄筋を2本配置してある。2つの供試体は、繊維シートの有無以外は同じ構造、材料で作製した。
加力試験の結果を、図13に示す。
無補強供試体は、25.6kNで主鉄筋が降伏し、その後最大耐力29.5kNで破壊した。繊維強化シート1を接着補強した供試体では、44.8kNで主鉄筋が降伏し降伏荷重が1.75に増加した。その後さらに荷重を増加すると、最大耐力65.3kNで破壊に至り最大荷重は2.2倍に増加した。
このように、本発明に従った構造物の補強方法によれば、鉄筋コンクリート梁を有効に補強できることが明らかとなった。
上記実施例1、各変更実施例、実験例1では、コンクリート構造物100の補強に関して説明したが、本発明の繊維強化シート1を使用した補強方法は、鋼構造物、木造構造物、及び、プラスチック構造物、更には、これらの組み合わせた構造物の補強に際しても同様に適用することでき、同様の作用効果を達成し得る。
本発明の構造物の補強方法に使用し得る繊維強化シートの一実施例を示す斜視図である。 本発明の構造物の補強方法に使用し得る繊維強化シートの他の実施例を示す斜視図である。 本発明の構造物の補強方法に使用し得る繊維強化シートを構成する繊維強化プラスチック線材の断面図である。 本発明の構造物の補強方法の一実施例を説明する工程図である。 本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図である。 本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図で、図6(a)は、補強された構造物の正面図であり、図6(b)は、側面図である。 本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図である。 本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図で、図8(a)は、補強された構造物の正面図であり、図8(b)は、側面図である。 本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図である。 本発明の構造物の補強方法に使用し得る繊維強化シートの他の実施例を示す斜視図である。 本発明の構造物の補強方法の他の実施例を説明する図である。 図12(a)、(b)は、従来の構造物の角部の補強方法を説明する図であり、図12(c)は、本発明に従った構造物の角部の補強方法を説明する図である。 本発明の構造物の補強方法の効果上の優位性を説明する図である。
符号の説明
1 繊維強化シート
2 繊維強化プラスチック線材
3 線材固定材(横糸、メッシュ支持体シート、可撓性帯材)
10 一方向炭素繊維シート(連続繊維シート)
100 構造物
103 プライマー
104 結合材
110 重ね継手
200 定着鋼板(定着手段)

Claims (24)

  1. 強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した、直径が0.5〜3mmの円形断面形状であるか、又は、幅が1〜10mm、厚みが0.1〜2mmとされる矩形断面形状である繊維強化プラスチック線材を複数本、互いに0.05〜3.0mmだけ離間して長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維強化シートを、構造物の表面に結合材にて接着して一体化する構造物の補強方法であって、
    前記結合材は、パテ状の熱硬化性樹脂、又は、無機系結合材料であり、
    前記結合材は、前記構造物の表面に塗布され未硬化の状態で、背面及び鉛直面に対して塗布厚さが5mm以上であっても滴下、ダレ落ちをせず、前記結合材の塗布面に前記繊維強化プラスチック線材の間隔0.05mm、前記線材の直径3mmの前記繊維強化シートを1MPa以下の圧力で加えた状態で各線材間を前記結合材が通過しうる粘性度を有する液状であることを特徴とする構造物の補強方法。
  2. 前記パテ状の熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、又は、不飽和ポリエステル樹脂であり、前記無機系結合材料はポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、又は、セメントペーストであることを特徴とする請求項の構造物の補強方法。
  3. 前記熱硬化性樹脂は、その粘度が23℃において50,000〜5,000,000mPa・secの範囲にあり、チクソトロピックインデックスが4〜7であることを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の補強方法。
  4. 前記繊維強化シートは、予め未硬化の前記結合材を、
    (a)前記構造物表面に塗布した後、又は、
    (b)前記構造物表面に対面した側の前記繊維強化シートに塗布した後、又は、
    (c)前記構造物表面と、前記構造物表面に対面した側の前記繊維強化シートとに塗布した後、
    前記構造物表面に押し付けて接着することを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  5. 前記構造物表面に接着した前記繊維強化シートの、前記構造物表面に接着した側とは反対側の表面に結合材を塗布して前記繊維強化シートを前記構造物と一体化することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  6. 複数の前記繊維強化シートを、互いに隣り合う端部を所定長さ重ね合わせて継手部となし、結合材で継手部を接着することを特徴とする請求項1〜のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  7. 前記構造物の折曲部には、予め前記構造物の折曲部に合わせて曲げ成型した前記繊維強化シートを接着し、前記曲げ成型した前記繊維強化シートの端部は、前記構造物の直線部に接着した前記繊維強化シートと所定長さ重ね合わせて継手部となすことを特徴とする請求項1〜のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  8. 前記繊維強化シートは、複数層にて前記構造物に積層して接着され、前記構造物と一体化することを特徴とする請求項1〜のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  9. 前記複数層積層する前記繊維強化シートの長さは、前記構造物表面から離間する外層に行くに従って順に短くして、前記繊維強化シートの端部を階段状に積層することを特徴とする請求項の構造物の補強方法。
  10. 前記繊維強化シートの端部及び/又は前記繊維強化シート中間部を、前記繊維強化シート上から定着手段にて前記構造物に固定することを特徴とする請求項1〜のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  11. 前記構造物は、長手軸線方向に延在する柱又は梁であり、前記構造物の軸方向に前記繊維強化シートの前記繊維強化プラスチック線材が配向するようにして前記構造物の表面に前記繊維強化シートを結合材で接着した後、前記繊維強化シートの外周に、樹脂が未含浸又は未硬化の連続繊維シートを、強化繊維が前記繊維強化シートの繊維強化プラスチック線材に対して直交するように巻き付けて、接着剤で固定することを特徴とする請求項1〜10のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  12. 前記繊維強化プラスチック線材の強化繊維は、炭素繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  13. 前記繊維強化プラスチック線材のマトリクス樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ナイロン、ビニロンなどの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  14. 前記繊維強化プラスチック線材は、その表面が粗面とされることを特徴とする請求項1〜13のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  15. 前記繊維強化シートは、幅が100〜1000mmであることを特徴とする請求項1〜14のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  16. 前記線材固定材は、前記各繊維強化プラスチック線材の長手方向に対して垂直方向に複数本の前記繊維強化プラスチック線材を編み付ける横糸であることを特徴とする請求項1〜15のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  17. 前記横糸は、ガラス繊維或いは有機繊維から成る糸条であることを特徴とする請求項16の構造物の補強方法。
  18. 前記線材固定材は、前記スダレ状に引き揃えた複数本の線材の片側面、又は、両面に配置され、接着されたメッシュ状支持体シートであることを特徴とする請求項1〜15のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  19. 前記メッシュ状支持体シートは、ガラス繊維から成る糸条を1軸、2軸或いは3軸に配向して形成し、前記糸条表面に被覆された樹脂により前記スダレ状に引き揃えた複数本の繊維強化プラスチック線材に接着されることを特徴とする請求項18の構造物の補強方法。
  20. 前記線材固定材は、前記各繊維強化プラスチック線材の長手方向に対して垂直方向に複数本の前記繊維強化プラスチック線材の片側面、又は、両面に貼り付けて固定する可撓性帯材であることを特徴とする請求項1〜15のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  21. 前記可撓性帯材は、粘着テープ又は接着テープであることを特徴とする請求項20の構造物の補強方法。
  22. 前記可撓性帯材は、前記各繊維強化プラスチック線材の長手方向に対して垂直方向に複数本の前記繊維強化プラスチック線材の片側面、又は、両面に熱融着される、ナイロン、EVAなどの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項20の構造物の補強方法。
  23. 前記繊維強化プラスチック線材の強化繊維は、炭素繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用されることを特徴とする請求項1〜22のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
  24. 前記繊維強化プラスチック線材のマトリクス樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ナイロン、ビニロンなどの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜23のいずれかの項に記載の構造物の補強方法。
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