JP6976023B1 - 熱伝導性グリス - Google Patents
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Abstract
Description
熱伝導性グリスとしては、従来から、シリコーンオイルを基油とし、熱伝導性充填剤として無機粉末を含有した熱伝導性シリコーングリスが広く知られている(特許文献1)。しかし、シリコーンオイルに含まれる低分子シロキサンが熱により二酸化ケイ素、炭化ケイ素などの絶縁物として析出し、これが電子機器に不具合をもたらすことがあった。
このような問題点から、非シリコーン系の熱伝導性グリスの開発も進められている。特許文献2では、不飽和ジカルボン酸ジブチルエステルとα−オレフィンとのコポリマーからなり、40℃における粘度が112〜770mm2/sである基油と、基油中に充填された熱伝導性充填剤とを含有する熱伝導性グリス(非シリコーン系)に関する発明が開示されており、高い熱伝導性と良好なディスペンス性とを兼ね備えることが示されている。
本発明は、以下の[1]〜[8]を提供する。
[1]発熱体の発熱を冷却部品へ伝達する熱伝導性グリスであって、不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルとα−オレフィンとのコポリマー、及びポリα−オレフィンから選ばれる少なくとも1種からなる基油と、リン酸系アニオン界面活性剤からなる分散剤と、熱伝導性充填剤とを含有する熱伝導性グリス。
[2]前記基油が不飽和ジカルボン酸ジブチルエステルとα−オレフィンのコポリマーである、上記[1]に記載の熱伝導性グリス。
[3]前記リン酸系アニオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレン脂肪族エーテルとリン酸骨格を備える化合物である、上記[1]又は[2]に記載の熱伝導性グリス。
[4]前記ポリオキシアルキレン脂肪族エーテルにおける、脂肪族を構成する脂肪族基の炭素数が8〜16である、上記[3]に記載の熱伝導性グリス。
[5]前記ポリオキシアルキレン脂肪族エーテルにおける、脂肪族を構成する脂肪族基が分岐鎖である、上記[3]又は[4]に記載の熱伝導性グリス。
[6]前記ポリオキシアルキレン脂肪族エーテルにおける、脂肪族を構成する脂肪族基の炭素数が10〜16である、上記[5]に記載の熱伝導性グリス。
[7]前記分散剤の酸価が80〜200mgKOH/gである、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の熱伝導性グリス。
[8]前記熱伝導性充填剤が、金属、金属酸化物、及び金属窒化物からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の熱伝導性グリス。
本発明の熱伝導性グリスに含まれる基油は、不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルとα−オレフィンとのコポリマー、及びポリα−オレフィンから選ばれる少なくとも1種からなる。本発明における基油と後述する特定の分散剤とを併用することで、熱伝導性充填剤を含有する熱伝導性グリスの粘度を効果的に低下させることができ、熱伝導効率を向上させることができる。中でも、熱伝導効率をより高める観点から、基油は不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルとα−オレフィンとのコポリマーであることが好ましい。
基油として使用される不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルとα−オレフィンとのコポリマー(以下、単にコポリマーという場合もある)の構成単位である不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルは、不飽和ジカルボン酸とアルコールとがエステル化した化合物であり、具体的には、不飽和ジカルボン酸の2つのカルボン酸とアルコールとがエステル化した化合物である。
不飽和ジカルボン酸としては、炭素−炭素二重結合と2つのカルボン酸を有する化合物が挙げられ、好ましくはマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸などである。
アルコールは、熱伝導性グリスの粘度を低下させやすいため、好ましくは炭素数3〜10のアルコールであり、より好ましくは炭素数3〜6のアルコールであり、さらに好ましくは炭素数4のアルコール(ブタノール)である。
したがって、コポリマーの中でも、不飽和ジカルボン酸ジブチルエステルとα−オレフィンのコポリマーが特に好ましい。
基油として使用されるポリα−オレフィン(PAO)は、α−オレフィンの重合体である。α−オレフィンの種類に特に制限はなく、直鎖であっても、分岐鎖であってもよく、好ましくは炭素数6〜16のα−オレフィンの重合体である。ポリα−オレフィンは、単一のα−オレフィンの重合体であってもよいし、2種以上のα−オレフィンの共重合体であってもよい。
本発明の熱伝導性グリスは、リン酸系アニオン界面活性剤からなる分散剤を含む。上記した特定の基油と、リン酸系アニオン界面活性剤とを併用することにより、熱伝導性充填剤を含有する熱伝導性グリスの粘度が低下し、熱伝導効率に優れる熱伝導性グリスを得ることができる。この理由は定かではないが、リン酸系アニオン界面活性剤のリン酸部分が、熱伝導性充填剤への吸着性に優れ、かつリン酸系アニオン界面活性剤のリン酸部分を含む親水性部位と熱伝導性充填剤との親和性、並びに疎水性部位と基油(マトリックス)との親和性が共に良好であり、その結果、粘度が低い熱伝導性グリスが得られるものと考えられる。
また、nは1〜50であり、好ましくは3〜40であり、より好ましくは5〜30である。
式(2)で表される化合物としては、熱伝導性グリスの粘度を低下させ、熱伝導効率を高める観点から、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンエチルヘキシルエーテルリン酸エステル、又はポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルリン酸エステルなどが好ましく、この中でも、ポリオキシエチレンエチルヘキシルエーテルリン酸エステル、又はポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルリン酸エステルがより好ましく、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルリン酸エステルがさらに好ましい。
本発明の熱伝導性グリスは、熱伝導性充填剤を含有する。熱伝導性充填剤を含有することにより、熱伝導性グリスの熱伝導性が向上し、発熱体の発熱を冷却部品へ伝達することができる。また、上記したように、本発明の熱伝導性グリスは、特定の基油及び分散剤を併用しているため、熱伝導性充填剤を含有しつつ粘度が低下し、熱伝導効率が高いものとなる。
金属としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケルなどが挙げられ、中でもアルミニウムが好ましい。
金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などが挙げられ、中でも酸化アルミニウムが好ましい。
金属窒化物としては、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウムが挙げられ、中でも窒化アルミニウムが好ましい。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウムが挙げられる。
金属炭化物としては、炭化ケイ素が挙げられる。
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、樹脂繊維を炭化処理した繊維、樹脂繊維を黒鉛化処理した繊維などが挙げられる。
熱伝導性充填剤の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の熱伝導性充填剤50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。なお、ここで測定する熱伝導性充填剤の粒径は、球状、破砕状、鱗片状である場合はその長径とすることができ、繊維状の場合は繊維長とすることができる。
熱伝導性グリスの熱伝導率を、熱抵抗測定機を用いてASTM D5470−06に準拠した方法で測定した。
(測定機)
図1に示すように、熱抵抗測定機は、側面が断熱材21で覆われた第1の銅製ブロック22及び第2の銅製ブロック23を備えている。第1の銅製ブロック22は、熱抵抗測定機の下部に配置され、第2の銅製ブロック23は、第1の銅製ブロック22の上方に配置されている。第1の銅製ブロック22の上面は、熱伝導性グリス(試料)S2が載置される載置面Q1であり、この載置面Q1の寸法は、25.4mm×25.4mmである。熱抵抗測定機は、第1の銅製ブロック22の下面を加熱するヒーター24と、第2の銅製ブロック23の上面を冷却するファン付きヒートシンク25とをさらに備えている。熱抵抗測定機は、第2の銅製ブロック23に接続されたシリンダ26をさらに備えている。第2の銅製ブロック23は、第1の銅製ブロック22の載置面Q1に載置された試料S2をシリンダ26の押圧動作によって圧縮するように構成されている。
(測定)
熱伝導率の測定は、まず、試料S2を第1の銅製ブロック22の載置面Q1に塗布し、続いて第2の銅製ブロック23で圧縮して、試料S2の厚みが1.5mmとなるように圧縮した。次に、はみ出した試料を拭き取り、第1の銅製ブロック22の載置面Q1の温度が80℃となるようにヒーター24を発熱させた。第1の銅製ブロック22の載置面Q1の温度(温度θj1)が80℃の定常状態となるように15分間放置した後、第2の銅製ブロック23の下面Q2(試料S2に接触している接触面)の温度(温度θj0)を測定した。さらに、このときのヒーター24の発熱量(発熱量Q)、及び試料S2の正確な厚み(厚みT)を測定した。
さらに試料の厚みを1.0mm、0.5mmとなるように調整して、同様の測定を行い、下記式(2)から算出した各試料S2の熱抵抗の値を、縦軸が熱抵抗、横軸が厚みとなるグラフにプロットして、その傾きから熱伝導率を求めた。
熱抵抗=(θj1−θj0)/Q・・・(2)
熱伝導性グリスの粘度は、粘度計(Brookfield社製「DV2T ヘリパススタンド(Tバースピンドル T−D(94))」)を用いて、室温下(25℃)で、回転数1rpmで60秒間測定して、50〜60秒の平均値を測定値とした。
各実施例で作製した熱伝導性グリスの粘度の改善効果は、同種、同量の熱伝導性充填剤を用いた比較例を比較対象として、以下の基準で行った。なお、粘度の改善効果が最も高い場合を「A」と評価しており、粘度の改善効果が高い場合は、熱伝導効率が高く、放熱性に優れた熱伝導性グリスと判断できる。
<基準>
A・・比較対象に対して、粘度が20%未満であったもの
B・・比較対象に対して、粘度が20%以上40%未満であったもの
C・・比較対象に対して、粘度が40%以上90%未満であったもの
D・・比較対象に対して、粘度が90%以上95%未満であったもの
E・・比較対象に対して、粘度が95%以上であったもの
F・・粉状または粒状であり、比較できなかったもの
・基油1:不飽和ジカルボン酸ジブチルエステルとα−オレフィンとのコポリマー Italmatch Chemicals社製「Ketjenlube 115」 動粘度115mm2/s(40℃)
・基油2:ポリα−オレフィン ExxonMobil社製「SpectraSyn 10」 動粘度66mm2/s(40℃)
・基油3:シリコーンオイル(ジメチルポリシロキサン) The Dow Chemical company社製「Dowsil SH200CV」 動粘度110mm2/s(40℃)
・分散剤1:ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルリン酸エステル ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK−102」 酸価101mgKOH/g
・分散剤2:ポリオキシエチレンエチルヘキシルエーテルリン酸エステルを主成分とする 第一工業製薬株式会社製「プライサーフA208F」 酸価165〜195mgKOH/g
・分散剤3:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステルを主成分とする 第一工業製薬株式会社製「プライサーフA208B」 酸価160〜185mgKOH/g
・分散剤4:トリオレイン酸ソルビタン 日本サーファクタント工業製「NIKKOL SO−30V」
・酸化亜鉛:球状、平均粒径0.75μm
・アルミニウム1:球状、平均粒径1μm
・アルミニウム2:球状、平均粒径7μm
・酸化アルミニウム1:球状、平均粒径3μm
・酸化アルミニウム2:球状、平均粒径18μm
・窒化アルミニウム1:破砕状、平均粒径5μm
・窒化アルミニウム2:球状、平均粒径30μm
表1に示す配合で、熱伝導性グリスを得た。具体的には、表1で示す基油に、分散剤及び添加剤を添加して攪拌し、次いで小粒径熱伝導性充填剤(平均粒径が0.1μm以上5μm以下)を添加し攪拌した後、さらに大粒径熱伝導性充填剤(平均粒径5μm超70μm以下)を添加し攪拌して、熱伝導性グリスを得た。各評価結果を表1に示す。
実施例の中でも、基油として不飽和ジカルボン酸ジブチルエステルとα−オレフィンとのコポリマーを用いた実施例1〜5は、基油としてポリα−オレフィンを用いた実施例6よりも粘度改善効果に優れていた。
また、実施例1〜5の熱伝導性グリス中でも、分散剤として脂肪族を構成する脂肪族基が分岐鎖であるものを使用した実施例1、2、4、5の熱伝導性グリスは、分散剤として脂肪族を構成する脂肪族基が直鎖であるものを使用した実施例3と比較して、粘度の改善効果が高いことが分かった。さらに、分散剤として脂肪族を構成する脂肪族基が分岐鎖であり、かつ炭素数10〜16のものを使用した実施例1、4、5は、粘度の改善効果が他の例よりも大きく、熱伝導効率に特に優れる熱伝導性グリスであることが分かった。
以上より、特定の基油及び特定の分散剤を併用した本発明の熱伝導性グリスにより、発熱体の発熱を冷却部品へ効果的に伝達できることが分かった。
22 第1の銅製ブロック
23 第2の銅製ブロック
24 ヒーター
25 ヒートシンク
26 シリンダ
Q1 載置面
Q2 第2の銅製ブロックの下面
S2 試料
Claims (8)
- 発熱体の発熱を冷却部品へ伝達する熱伝導性グリスであって、
不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルとα−オレフィンとのコポリマー、及びポリα−オレフィンから選ばれる少なくとも1種からなる基油と、
リン酸系アニオン界面活性剤からなる分散剤と、
熱伝導性充填剤とを含有する熱伝導性グリス。 - 前記基油が不飽和ジカルボン酸ジブチルエステルとα−オレフィンのコポリマーである、請求項1に記載の熱伝導性グリス。
- 前記リン酸系アニオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレン脂肪族エーテルとリン酸骨格を備える化合物である、請求項1又は2に記載の熱伝導性グリス。
- 前記ポリオキシアルキレン脂肪族エーテルにおける、脂肪族を構成する脂肪族基の炭素数が8〜16である、請求項3に記載の熱伝導性グリス。
- 前記ポリオキシアルキレン脂肪族エーテルにおける、脂肪族を構成する脂肪族基が分岐鎖である、請求項3又は4に記載の熱伝導性グリス。
- 前記ポリオキシアルキレン脂肪族エーテルにおける、脂肪族を構成する脂肪族基の炭素数が10〜16である、請求項5に記載の熱伝導性グリス。
- 前記分散剤の酸価が80〜200mgKOH/gである、請求項1〜6のいずれかに記載の熱伝導性グリス。
- 前記熱伝導性充填剤が、金属、金属酸化物、及び金属窒化物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性グリス。
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