以下、本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
<全体構成>
図1は、本実施の形態に係る二次電池システム2が搭載された車両1の全体構成を概略的に示す図である。車両1は、二次電池システム2から供給される電力を用いて駆動力を発生させる車両である。本実施の形態においては、車両1はハイブリッド自動車である例について説明する。なお、車両1は、二次電池システム2から供給される電力を用いて駆動力を発生させる車両であればよく、ハイブリッド自動車に限られるものではない。たとえば、車両1は、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車および燃料電池自動車であってもよい。
車両1は、二次電池システム2と、パワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)30と、モータジェネレータ41,42と、エンジン50と、動力分割装置60と、駆動軸70と、駆動輪80とを備える。二次電池システム2は、バッテリ10と、監視ユニット20と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)100とを備える。
エンジン50は、空気と燃料との混合気を燃焼させたときに生じる燃焼エネルギーをピストンおよびロータなどの運動子の運動エネルギーに変換することによって動力を出力する内燃機関である。
動力分割装置60は、たとえば、サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構(図示せず)を含む。動力分割装置60は、エンジン50から出力される動力を、モータジェネレータ41を駆動する動力と、駆動輪80を駆動する動力とに分割する。
モータジェネレータ41,42の各々は、交流回転電機であり、たとえば、ロータに永久磁石(図示せず)が埋設された三相交流同期電動機である。モータジェネレータ41は、主として、動力分割装置60を経由してエンジン50により駆動される発電機として用いられる。モータジェネレータ41が発電した電力は、PCU30を介してモータジェネレータ42またはバッテリ10に供給される。
モータジェネレータ42は、主として電動機として動作し、駆動輪80を駆動する。モータジェネレータ42は、バッテリ10からの電力およびモータジェネレータ41の発電電力の少なくとも一方を受けて駆動され、モータジェネレータ42の駆動力は駆動軸70に伝達される。一方、車両1の制動時や下り斜面での加速度低減時には、モータジェネレータ42は、発電機として動作して回生発電を行なう。モータジェネレータ42が発電した電力は、PCU30を介してバッテリ10に供給される。
PCU30は、ECU100からの制御信号に従って、バッテリ10とモータジェネレータ41,42との間で双方向の電力変換を実行する。PCU30は、モータジェネレータ41,42の状態を別々に制御可能に構成されており、たとえば、モータジェネレータ41を回生状態(発電状態)にしつつ、モータジェネレータ42を力行状態にすることができる。PCU30は、たとえば、モータジェネレータ41,42に対応して設けられる2つのインバータと、各インバータに供給される直流電圧をバッテリ10の出力電圧以上に昇圧するコンバータ(いずれも図示せず)とを含んで構成される。
バッテリ10は、複数のセル12を含んで構成される組電池である。各セル12は、たとえば、リチウムイオン二次電池またはニッケル水素二次電池などの二次電池である。本実施の形態においては、セル12がリチウムイオン二次電池である例について説明する。バッテリ10は、モータジェネレータ41,42を駆動するための電力を蓄え、PCU30を通じてモータジェネレータ41,42へ電力を供給する。また、バッテリ10は、モータジェネレータ41,42の発電時にPCU30を通じて発電電力を受けて充電される。
監視ユニット20は、電圧センサ21と、電流センサ22と、温度センサ23とを含む。電圧センサ21は、バッテリ10の電圧VBを検出する。電流センサ22は、バッテリ10に入出力される電流IBを検出する。温度センサ23は、バッテリ10の温度TBを検出する。各センサは、その検出結果を示す信号をECU100に出力する。なお、バッテリ10および監視ユニット20の構成については図2にて、より詳細に説明する。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)100aと、メモリ(ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory))100bと、各種信号が入出力される入出力ポート(図示せず)とを含んで構成される。ECU100は、各センサから受ける信号ならびにメモリ100bに記憶されたプログラムおよびマップに基づいて、車両1を所望の状態に制御するための各種処理を実行する。
より具体的には、ECU100は、エンジン50およびPCU30を制御することによってバッテリ10の充放電を制御する。また、ECU100は、バッテリ10のSOC(State Of Charge)を推定する。SOCの推定には、電流積算法、OCV−SOCカーブを用いる手法など公知の手法を用いることができる。さらに、ECU100は、バッテリ10のインピーダンス(内部抵抗)を算出する。バッテリ10のインピーダンスは、電圧VBと電流IBとの比(=VB/IB)から算出することができる。インピーダンスの算出については後に詳細に説明する。
図2は、バッテリ10および監視ユニット20の構成をより詳細に示す図である。図1および図2を参照して、バッテリ10は、直列接続されたM個のブロック11を含む。各ブロック11は、並列接続されたN個のセル12を含む。M,Nは、2以上の自然数である。
電圧センサ21は、各ブロック11の電圧を検出する。電流センサ22は、すべてのブロック11を流れる電流IBを検出する。温度センサ23は、バッテリ10の温度を検出する。ただし、電圧センサの監視単位はブロックに限定されず、セル12毎であってもよいし、隣接する複数(ブロック内のセル数未満の数)のセル12毎であってもよい。また、温度センサ23の監視単位も特に限定されず、たとえばブロック毎(あるいはセル毎)の温度が検出されてもよい。
このようなバッテリ10の内部構成および監視ユニット20の監視単位は例示に過ぎず、特に限定されるものではない。したがって、以下では、複数のブロック11を互いに区別したり複数のセル12を互いに区別したりせず、単にバッテリ10と包括的に記載する。また、監視ユニット20は、バッテリ10の電圧VB,電流IBおよび温度TBを監視すると記載する。
<車両走行中における電圧および電流の変化>
以上のように構成された車両1の走行中においては、バッテリ10の電圧VB、電流IB、温度TBおよびSOCが時間経過とともに変化し得る。なお、車両1の「走行中」とは、車両1がイグニッションオンされて走行可能な状態であればよく、車両1が一時停止した状態が含まれていてもよい。
図3は、車両1の走行中におけるバッテリ10の電流IB、温度TBおよびSOCの時間変化の一例を示す図である。図3において、横軸には経過時間が示されており、縦軸には上から順に、電流IB、温度TBおよびSOCが示されている。なお、電圧VBも電流IBと同様に不規則に変化し得るが、図面が煩雑になるのを防ぐため、電圧VBについては図示を省略する。
図3を参照して、温度TBおよびSOCの変化にはある程度の時間を要し、温度TBおよびSOCは比較的滑らかに変化する場合が多い。これに対し、車両1の走行中には、モータジェネレータ42が発生させる駆動力が調整されるのに伴ないバッテリからの放電電流が変動したり、モータジェネレータ42の回生発電に伴ないバッテリ10に充電電流が流れたりすることで、電流IBが不規則に変化する可能性がある。このように不規則に変化する電流IBに基づいてバッテリ10のインピーダンスを算出する際に、本実施の形態では以下に説明するように、インピーダンスの周波数依存性が考慮される。
<インピーダンス算出>
図4は、バッテリ10のインピーダンスを説明するための図である。図4には、バッテリ10(より詳細には各セル12)の正極、負極およびセパレータの等価回路図の一例が示されている。一般に、二次電池のインピーダンスは、直流抵抗RDCと、反応抵抗Rcと、拡散抵抗Rdとに大別される。
直流抵抗RDCとは、主に電子抵抗に起因するインピーダンス成分である。また、電解液および各電極近傍のイオン脱着に伴なうインピーダンス成分を含む。直流抵抗RDCは、二次電池に高負荷が印加された場合(高電圧が印加されたり大電流が流れたりした場合)の電極体の塩濃度分布等の偏りによる増加する。直流抵抗RDCは、図4に示す等価回路図において、正極の活物質内の電子抵抗Ra1、負極の活物質内の電子抵抗Ra2およびセパレータの電解液抵抗R3として表わされる。
反応抵抗Rcとは、電解液と活物質(正極活物質および負極活物質の表面)とにおける電荷の授受(電荷移動)に関連するインピーダンス成分である。反応抵抗Rcは、高SOC状態の二次電池が高温環境下にある場合に活物質/電解液界面に被膜が成長することなどにより増加する。反応抵抗Rcは、等価回路図において、正極の抵抗成分Rc1および負極の抵抗成分Rc2として表わされる。
拡散抵抗Rdとは、電極体中での塩または活物質中の電荷輸送物質の拡散に関連するインピーダンス成分である。拡散抵抗Rdは、高負荷印加時の活物質割れや電極体に生じた塩濃度の偏りなどに起因して増加する。拡散抵抗Rdは、正極に発生する平衡電圧Veq1と、負極に発生する平衡電圧Veq2と、セル内に発生する塩濃度過電圧Vov3(セパレータ内で活物質の塩濃度分布が生じることに起因する過電圧)とから定まる。
バッテリ10のインピーダンスには上記のような様々なインピーダンス成分が含まれるところ、電流IBの変化に対する応答時間がインピーダンス成分毎に異なる。応答時間が相対的に短いインピーダンス成分は、電圧VBの高周波数での変化に追従可能である。一方、応答時間が相対的に長いインピーダンス成分は、高周波数での電圧VBの変化には追従することができない。したがって、以下に説明するように、低周波数帯域、中周波数帯域および高周波数帯域の周波数帯域毎に、その周波数帯域において主として寄与するバッテリ10のインピーダンス成分が存在する。
図5は、バッテリ10のインピーダンス成分の周波数依存性を説明するための図である。図5および後述する図9において、横軸は電流IB(または電圧VB)の周波数を示し、縦軸はバッテリ10のインピーダンスを示す。
以下においては、電流IBの周波数が高周波数帯域に含まれる場合に測定されるインピーダンスを「高周波インピーダンスZH」ともいう。電流IBの周波数が中周波数帯域に含まれる場合に測定されるインピーダンスを「中周波インピーダンスZM」ともいう。電流IBの周波数が低周波数帯域に含まれる場合に測定されるインピーダンスを「低周波インピーダンスZL」ともいう。
図5に示すように、高周波数帯域においては、主としてバッテリ10の直流抵抗RDCが寄与している。つまり、高周波インピーダンスZHには、主としてバッテリ10の直流抵抗RDCが反映されている。中周波数帯域においては、主としてバッテリ10の反応抵抗Rcと直流抵抗RDCとが寄与している。つまり、中周波インピーダンスZMには、主としてバッテリ10の反応抵抗Rcと直流抵抗RDCとが反映されている。低周波数帯域においては、主としてバッテリ10の反応抵抗Rc、直流抵抗RDCおよび拡散抵抗Rdとが寄与している。つまり、低周波インピーダンスZLには、主としてバッテリ10の反応抵抗Rc、直流抵抗RDCおよび拡散抵抗Rdとが反映されている。中周波数帯域および高周波数帯域においては、主として拡散抵抗Rdが寄与していない。
<フーリエ変換>
本実施の形態においては、周波数帯域毎のインピーダンス(低周波インピーダンスZL,中周波インピーダンスZM,高周波インピーダンスZH)の算出にフーリエ変換が用いられる。
図6は、フーリエ変換による周波数帯域毎のインピーダンスの算出手法を説明するための概念図である。図6に示すように、電流IB(および電圧VB)にフーリエ変換を施すことにより、電流IBを低周波数成分と中周波数成分と高周波数成分とに分解することができる。このように分解された電圧VBおよび電流IBに基づいて、周波数帯域毎にインピーダンスを算出することができる。
なお、以下では、電圧VBおよび電流IBに対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を実施することによりインピーダンスを算出する例について説明する。ただし、フーリエ変換のアルゴリズムはFFTに限定されず、離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transform)であってもよい。
図7は、インピーダンスの算出結果の一例を示す図である。図7において、横軸は、周波数を対数目盛りで示す。低周波数帯域は、たとえば0.001Hz以上かつ0.1Hz未満の周波数帯域である。中周波数帯域は、たとえば1Hz以上かつ10Hz未満の周波数帯域である。高周波数帯域は、たとえば100Hz以上かつ1kHz未満の周波数帯域である。図7の縦軸は、インピーダンスを示す。
図7に示すように、各周波数帯域において、周波数が異なる多数のインピーダンスが算出される。そのため、ECU100は、低周波数帯域、中周波数帯域および高周波数帯域の各々について、多数のインピーダンスから代表値を決定する。
たとえばインピーダンスの平均値を代表値とする場合には、ECU100は、低周波数帯域におけるインピーダンスの平均値を低周波インピーダンスZLに決定する。また、ECU100は、中周波数帯域におけるインピーダンスの平均値を中周波インピーダンスZMに決定する。ECU100は、高周波数帯域におけるインピーダンスの平均値を高周波インピーダンスZHに決定する。なお、平均値を代表値とすることは一例であり、各周波数帯域内におけるインピーダンス成分の最大値を代表値としてもよいし、中間値を代表値としてもよいし、最頻値を代表値としてもよい。
<データ取得期間>
FFTの精度を確保するためには、サンプリング周期毎に繰り返し取得されたデータ(電圧VBおよび電流IB)を、ある程度の期間、ECU100のメモリ100bに格納した上でFFTを実施することが求められる。このようにデータを取得してメモリ100bに記憶する期間を「データ取得期間」とも記載する。なお、データ取得期間は、本開示に係る「所定期間」に相当する。
バッテリ10のインピーダンス(各周波数帯域のインピーダンス)は、電流依存性、温度依存性およびSOC依存性を有し得る。そのため、あるデータ取得期間中にバッテリ10の電流IB、温度TBおよびSOCのいずれかが過度に変化した場合には、そのデータ取得期間中のある期間(変化前の期間)と別の期間(変化後の期間)とでは依存性(電流依存性、温度依存性またはSOC依存性)の影響が異なるにもかかわらず一括してフーリエ変換(FFT)が実施されることになるので、高精度にインピーダンスを算出することができなくなる可能性がある。
このような事情に鑑み、FFTの対象とするデータには、データ取得期間中にバッテリ10の電流IB、温度TBおよびSOCがいずれも大きく変化していないとの条件を課すこととする。この条件が成立しているか否かは、電流変化幅ΔIB、温度変化幅ΔTBおよびSOC変化幅ΔSOCに基づいて判定される。
図8は、データ取得期間Pnにおけるデータの時間変化の一例を示す図である。図8に示すように、電流変化幅ΔIBは、あるデータ取得期間(nを自然数として、データ取得期間Pnと記載する)におけるバッテリ10の充電方向および放電方向の両方向を考慮した上で、電流IBの変化幅(充電方向の最大電流と放電方向の最大電流との差)から算出することができる。温度変化幅ΔTBは、データ取得期間Pnにおける最高温度(温度TBの最高値)と最低温度(温度TBの最低値)との差分から算出することができる。SOC変化幅ΔSOCは、データ取得期間Pnにおける最高SOCと最低SOCとの差分から算出することができる。
電流変化幅ΔIB、温度変化幅ΔTBおよびSOC変化幅ΔSOCのいずれもが、それぞれの対応する許容変化幅(後述)未満である場合に、ECU100は、データ取得期間Pnに取得したデータに対してFFTを実施して、インピーダンスを算出する。
<経時劣化およびハイレート劣化>
ここで、バッテリ10の劣化の要因(劣化モード)としては、主として経時劣化とハイレート劣化とが考えられる。経時劣化は、バッテリ10の使用および時間の経過によって材料の特性が変化することなどに起因した劣化である。ハイレート劣化は、大電流での充放電が継続的に行なわれることによって電極体の塩濃度に偏りが生じることなどに起因する劣化である。たとえば、ハイレート劣化が生じた状態でバッテリ10の使用が継続されると、バッテリ10の過充電耐性が低下したり、電極におけるリチウム金属の析出が生じたりする可能性がある。そこで、バッテリ10の経時劣化とハイレート劣化とを切り分けて、劣化の要因に応じた制御をすることが望ましい。
そこで、本発明者らは、バッテリ10が経時劣化した場合におけるインピーダンスの初期からの増加率と、バッテリ10がハイレート劣化した場合におけるインピーダンスの初期からの増加率との比率が、周波数帯域毎に異なる、という特性に着目した。以下においては、当該特性を「劣化特性」ともいう。
図9は、バッテリ10の劣化特性に関する実験結果を示す図である。図9においては、バッテリ10の初期、バッテリ10が所定時間使用されて経時劣化したとき、および、バッテリ10が所定時間使用されてハイレート劣化したときのそれぞれの周波数とインピーダンスとの関係が示されている。破線L1は、バッテリ10の初期における周波数とインピーダンスとの関係を示している。一点鎖線L2は、バッテリ10が経時劣化したときの周波数とインピーダンスとの関係を示している。実線L3は、バッテリ10がハイレート劣化したときの周波数とインピーダンスとの関係を示している。
まず、バッテリ10の初期における周波数とインピーダンスとの関係(破線L1)とバッテリ10が経時劣化したときの周波数とインピーダンスとの関係(一点鎖線L2)とを比較する。図9に示されるように、バッテリ10が経時劣化した場合においては、高周波数帯域Aにおけるインピーダンスは、初期からほぼ増加しておらず、初期と同程度となっている。中周波数帯域Bおよび低周波数帯域Cにおけるインピーダンスは、初期から増加しており、両周波数帯におけるインピーダンスの初期からの増加率は同程度となっている。これは、両周波数帯域において、バッテリ10の経時劣化によって増加した反応抵抗に起因すると考えられる。
次いで、バッテリ10の初期における周波数とインピーダンスとの関係(破線L1)とバッテリ10がハイレート劣化したときの周波数とインピーダンスとの関係(実線L3)とを比較する。図9に示されるように、バッテリ10がハイレート劣化した場合においては、高周波数帯域Aおよび中周波数帯域Bにおけるインピーダンスは、初期と同程度となっている。これに対して、図9に示されるように、低周波数帯域Cにおけるインピーダンスは、周波数によって初期からの増加率が異なっている。
具体的には、低周波数帯域Cは、図9に示されるように、低周波数帯域C1,C2の2つの帯域に分けられる。低周波数帯域C1は、低周波数帯域C2に含まれる周波数よりも高い周波数を含む周波数帯域である。バッテリ10がハイレート劣化した場合においては、低周波数帯域Cにおけるインピーダンスは、低周波数帯域C1においては初期から増加しているが、低周波数帯域C2においては初期から減少している。なお、上記は以下の理由によるものと想定され得る。
上述したとおり、低周波インピーダンスには、電極体に生じた塩濃度分布の偏りなどに起因する拡散抵抗Rdが反映される。バッテリ10がハイレート劣化して電極体に塩濃度分布が生じると、拡散抵抗Rdが反映されることによって、低周波数帯域C1におけるインピーダンスが初期から増加していると考えられる。そして、さらに周波数が低い帯域(低周波数帯域C2)においては、電極体に生じた塩濃度分布の偏りなどに起因して、電極体中におけるリチウムイオンの濃度が濃くなること、つまり、電極体中の電解液の抵抗が低くなることによって、インピーダンスが初期よりも低くなっていると想定され得る。以下においては、低周波数帯域C1に対応する低周波インピーダンスを「低周波インピーダンスZL1」ともいい、低周波数帯域C2に対応する低周波インピーダンスを「低周波インピーダンスZL2」ともいう。なお、低周波数帯域C1は、本開示に係る「第1周波数帯域」に相当し、低周波数帯域C2は、本開示に係る「第2周波数帯域」に相当する。
<経時劣化とハイレート劣化との切り分け>
そこで、上述の劣化特性に鑑みて、本実施の形態においては、低周波インピーダンスZL2の初期からの増加率と、たとえば中周波インピーダンスZMの初期からの増加率との比率を算出することによって、バッテリ10がハイレート劣化状態にあるか否かを推定する。劣化特性によれば、中周波インピーダンスZMは、バッテリ10が経時劣化した場合には初期から増加しているが、バッテリ10がハイレート劣化した場合には初期からほぼ増加していない。また、低周波インピーダンスZL2は、バッテリ10が経時劣化した場合には初期から増加しているが、バッテリ10がハイレート劣化した場合には初期から減少している。そこで、バッテリ10が経時劣化した場合とバッテリ10がハイレート劣化した場合とで、インピーダンスの初期からの増加率が異なる周波数帯域のインピーダンスを用いることによって、精度よくバッテリ10がハイレート劣化状態にあるか否かを推定することができる。
低周波インピーダンスZL2の初期からの増加率IRLは、低周波数帯域C2に対応する初期の低周波インピーダンスZL20を用いて、以下の式(1)で表わされる。
IRL=ZL2/ZL20…(1)
中周波インピーダンスZMの初期からの増加率IRMは、初期の中周波インピーダンスZM0を用いて、以下の式(2)で表わされる。
IRM=ZM/ZM0…(2)
バッテリ10に経時劣化が生じている場合には、上述したように、中周波数帯域Bおよび低周波数帯域Cにおけるインピーダンスは、初期から同程度の増加率となるため、増加率IRMと増加率IRLとの比率は「1」程度となることが想定される。一方、バッテリ10にハイレート劣化が生じている場合には、劣化特性によれば、たとえば、分子を増加率IRMとし、分母を増加率IRLとしたときの、増加率IRMと増加率IRLとの比率E1は「1」よりも大きくなることが想定される。具体的には、式(3)が満たされる場合、つまり、比率E1(IRM/IRL)が1よりも大きい場合には、バッテリ10がハイレート劣化状態にあると推定される。一方、比率E1が1よりも大きくない場合には、バッテリ10が経時劣化していると推定される。
E1=(IRM/IRL)>1…(3)
ここで、式(3)に式(1)および式(2)を代入し、変形すると、式(4)を得ることができる。
(ZM/ZL2)>(ZM0/ZL20)…(4)
式(4)における右辺(ZM0/ZL20)は、バッテリ10の仕様や初期における測定などから予め定めておくことができる。そこで、(ZM0/ZL20)を予め基準値Kとして設定しておく。これによって、式(5)が得られる。なお、基準値Kは、各種センサの検出誤差などを考慮して設定されてもよい。
E=(ZM/ZL2)>K…(5)
中周波インピーダンスZMと低周波インピーダンスZL2の比率E(=ZM/ZL2)を基準値Kと比較することによって、式(3)を用いた推定と同様に、バッテリ10がハイレート劣化状態にあるか否かを推定することができる。具体的には、式(5)が満たされた場合にはバッテリ10がハイレート劣化していると推定でき、式(5)が満たされない場合にはバッテリ10が経時劣化していると推定できる。このように、基準値Kを設定することによって、算出された中周波インピーダンスZMと低周波インピーダンスZL2とを用いて、バッテリ10がハイレート劣化状態にあるか、経時劣化状態にあるかを推定することができる。
<ECUにおいて実行される処理>
図10は、本実施の形態に係るECU100において実行されるバッテリ10の劣化状態を推定するための処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、ECU100において所定の演算周期ごとにメインルーチンから呼び出されて実行される。図10に示すフローチャートの各ステップは、ECU100によるソフトウェア処理によって実現される場合について説明するが、その一部あるいは全部がECU100内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。
ステップ1(以下ステップを「S」と略す)において、ECU100は、あるデータ取得期間Pnにおいて、バッテリ10の監視ユニット20内の各センサから予め定められたサンプリング周期で電圧VB、電流IBおよび温度TBを取得する。データ取得期間Pnの長さは、たとえば数秒〜数十秒程度に設定することができる。サンプリング周期は、たとえばミリ秒オーダー〜数百ミリ秒オーダーに設定することができる。また、ECU100は、所定の周期でバッテリ10のSOCを推定する。ECU100は、すべてのデータ(電圧VB、電流IB、温度TBの取得結果およびSOCの算出結果)を、メモリ100bに一時的に記憶する。
S3において、ECU100は、データ取得期間Pnにおける電流IBの変化幅を示す電流変化幅ΔIBを算出する。また、ECU100は、データ取得期間Pnにおける温度TBの変化幅を示す温度変化幅ΔTBを算出する。さらに、ECU100は、データ取得期間Pnにおけるバッテリ10のSOCの変化幅を示すSOC変化幅ΔSOCを算出する。
図8において説明したように、電流変化幅ΔIBは、データ取得期間Pnにおけるバッテリ10の充電方向および放電方向の両方向を考慮した上で、電流IBの変化幅から算出することができる。温度変化幅ΔTBは、データ取得期間Pnにおける最高温度と最低温度との差分から算出することができる。SOC変化幅ΔSOCは、データ取得期間Pnにおける最高SOCと最低SOCとの差分から算出することができる。
図10に戻り、S5において、ECU100は、メモリ100bに予め不揮発的に記憶されたマップMP1を参照することによって許容電流変化幅ΔIBmaxを取得する。許容電流変化幅ΔIBmaxとは、S1にてメモリ100bに記憶されたデータをインピーダンス算出に使用するか否かの判定基準となるパラメータであり、電流変化幅ΔIBの許容上限を示すものである。さらに、ECU100は、温度変化幅ΔTBの許容上限を示す許容温度変化幅ΔTBmax、および、SOC変化幅ΔSOCの許容上限を示す許容SOC変化幅ΔSOCmaxについても同様にマップMP1を参照することによって取得する。
図11は、マップMP1の一例を示す図である。図11に示すように、マップMP1においては、データ取得期間Pnにおけるバッテリ10の平均温度TBaveの範囲毎に、データ取得期間Pnにおける許容電流変化幅ΔIBmax、許容温度変化幅ΔTBmaxおよび許容SOC変化幅ΔSOCmaxが定められている。図11に示した具体的な数値は、マップMP1の理解を容易にするための例示に過ぎないことに留意すべきである。
なお、マップMP1に代えて、たとえば関数または変換式が用いられてもよい。また、平均温度TBaveに代えて、たとえば最高温度または最低温度を用いてもよいし、温度TBの最頻値を用いてもよい。さらに、詳細な説明は繰り返さないが、温度TB(平均温度TBave、最高温度、最低温度または最頻温度)に代えて、電流IB(たとえば平均電流、最高電流、最低電流)またはSOC(たとえば平均SOC、最高SOC、最低SOC)を用いてもよい。また、マップMP1では、温度TB、電流IBおよびSOCのうちの2つまたは3つを組み合わせて用いてもよい。
図10に戻り、S7において、ECU100は、電流変化幅ΔIBが許容電流変化幅ΔIBmax未満であるか否かを判定する。さらに、ECU100は、温度変化幅ΔTBが許容温度変化幅ΔTBmax未満であるか否かを判定する。さらに、ECU100は、SOC変化幅ΔSOCが許容SOC変化幅ΔSOCmax未満であるか否かを判定する。
電流変化幅ΔIB、温度変化幅ΔTBおよびSOC変化幅ΔSOCがいずれも対応する許容変化幅未満である場合、すなわち、ΔIB<ΔIBmaxとの電流条件が成立し、かつ、ΔTB<ΔTBmaxとの温度条件が成立し、かつΔSOC<ΔSOCmaxとのSOC条件が成立する場合(S7においてYES)、ECU100は、S1においてメモリ100bに記憶したデータ(電圧VBおよび電流IB)に対してFFTを実施する(S9)。
さらに、ECU100は、周波数毎にインピーダンスを算出する(S11)。各周波数毎のインピーダンスは、その周波数の電圧VBと電流IBとの比(VB/IB)により算出することができる(インピーダンスの詳細な算出式については、たとえば特許文献1を参照)。ECU100は、低周波数帯域C1,C2、中周波数帯域B、および高周波数帯域Aの各々について、多数のインピーダンスから代表値を決定し、低周波インピーダンスZL1,ZL2、中周波インピーダンスZMおよび高周波インピーダンスZHを算出する。
ECU100は、各周波数帯域におけるインピーダンスの算出後には、メモリ100bに記憶されたデータを破棄(消去)する(S15)。
S7において、電流変化幅ΔIB、温度変化幅ΔTBおよびSOC変化幅ΔSOCのうちの少なくともいずれか1つが対応する許容変化幅以上である場合、すなわち、ΔIB≧ΔIBmax、ΔTB≧ΔTBmaxおよびΔSOC≧ΔSOCmaxのうちの少なくとも1つの関係式が成立する場合(S7においてNO)には、ECU100は、S9,S11の処理をスキップして処理をS15に進め、メモリ100bに記憶されたデータを破棄する。
ECU100は、S11で算出された各周波数帯域のインピーダンスを用いて、バッテリ10がハイレート劣化状態にあるか否かを推定するための処理を実行する(S20)。以下においては、当該処理を「ハイレート劣化推定処理」ともいう。
具体的には、ECU100は、中周波インピーダンスZMと低周波インピーダンスZL2との比率E(=ZM/ZL2)が基準値Kよりも大きいか否かを判定する(S21)。ECU100は、比率Eが基準値Kよりも大きい場合(S21においてYES)、バッテリ10がハイレート劣化状態にあると推定し(S23)、制限制御を実行する(S25)。
制限制御とは、バッテリ10の入出力を制限したり、バッテリ10の使用を禁止したりする制御である。制限制御が実行されることによって、ハイレート劣化状態でのバッテリ10の使用が制限されるので、ハイレート劣化状態でのバッテリ10の使用に起因したバッテリ10の過充電耐性の低下を抑制したり、電極におけるリチウム金属の析出を抑制したりすることができる。
一方、ECU100は、比率Eが基準値K以下である場合(S21においてNO)、バッテリ10の劣化が経時劣化によるものであると推定する(S27)。ECU100は、経時劣化の場合には、制限制御を実行せずに、処理を終了する。
以上のように、本実施の形態においては、バッテリ10が経時劣化した場合におけるインピーダンスの初期からの増加率と、バッテリ10がハイレート劣化した場合におけるインピーダンスの初期からの増加率との比率が、周波数帯域毎に異なる、という特性(劣化特性)に着目する。そして、劣化特性を利用してバッテリ10がハイレート劣化状態にあるか否かが推定される。具体的には、劣化特性を利用して、低周波数帯域C2に対応した低周波インピーダンスZL2と中周波数帯域Bに対応した中周波インピーダンスZMとの比率Eを、予め定められた基準値Kと比較することによって、バッテリ10の経時劣化とハイレート劣化とを切り分けることができる。
また、バッテリ10がハイレート劣化状態にあるか否かに用いられる各インピーダンスは、データ取得期間Pnにおいて電流条件、温度条件およびSOC条件がいずれも成立した場合において算出されたものである。これにより、バッテリ10がハイレート劣化状態にあるか否かの推定に用いられるインピーダンスに、インピーダンスの電流依存性、温度依存性およびSOC依存性の影響を適切に反映させることが可能になる。このようにして算出されたインピーダンスを用いることによって、バッテリ10がハイレート劣化状態にあるか否かを精度よく推定することができる。
また、バッテリ10がハイレート劣化状態にあると推定された場合には、制限制御が実行される。これによって、バッテリ10がハイレート劣化状態である場合のバッテリ10の使用が制限される。ゆえに、ハイレート劣化状態でのバッテリ10の使用に起因したバッテリ10の過充電耐性の低下を抑制したり、電極におけるリチウム金属の析出を抑制したりすることができる。
<制限制御の実行による効果>
図12は、制限制御の実行による効果を説明するための図である。図12には、常温(たとえば25度)において、バッテリ10のSOCをあるSOCにした状態で、ある一定の電流をある時間流したときの電圧変動からバッテリ10の内部抵抗を算出した実験結果が示されている。内部抵抗は、直流抵抗RDC、反応抵抗Rcおよび拡散抵抗Rdを含み、バッテリ10の温度などによって、いずれの抵抗(直流抵抗RDC,反応抵抗Rc,拡散抵抗Rd)が主として寄与するかが変化し得る。図12の横軸には、図10で示したフローチャートの処理が実行された回数が示され、縦軸には、内部抵抗の増加率が示されている。図12における実線L4は制限制御が実行される場合(実施の形態)の内部抵抗の増加率を示し、破線L5は制限制御が実行されない場合(比較例)の内部抵抗の増加率を示している。
内部抵抗の増加率とは、バッテリ10の内部抵抗の初期からの増加率を指す。図12に示される上限値は、内部抵抗の増加率の許容上限を示す値であり、たとえば、10Y%(>100%)に設定される。
図12を参照して、制限制御が実行されない場合(比較例)には、バッテリ10の使用および時間経過に伴なって、内部抵抗の増加率が上昇し、上限値を超えてしまっている。これに対して、制限制御が実行される場合(実施の形態)には、内部抵抗の増加率が上昇し、バッテリ10がハイレート劣化状態にあると推定された時点(回数X1の時点)で制限制御が実行される。これによって、バッテリ10の使用が制限される。そうすると、時間の経過に伴なってハイレート劣化が緩和されるため、内部抵抗の増加率が減少し、回数X2の時点で内部抵抗の増加率が100%に戻っている。このように、制限制御が実行されることによって、内部抵抗の増加率を上限値以下にすることができる。
(変形例1)
実施の形態においては、分子を中周波インピーダンスZM(あるいは高周波インピーダンスZH)とし、分母を低周波インピーダンスZL2としたときの比率E(=ZM/ZL2)を基準値Kと比較することによって、バッテリ10のハイレート劣化を推定した。しかしながら、比率Eは、これに限られるものではなく、たとえば、分子を低周波インピーダンスZL2とし、分母を中周波インピーダンスZMとしてもよい。
上記の場合には、たとえば、式(6)で表わされるように、低周波インピーダンスZL2と中周波インピーダンスZMとの比率E2(=ZL2/ZM)を基準値K1と比較することによって、バッテリ10がハイレート劣化状態にあるか否かが推定される。基準値K1は、基準値Kと同様に、初期の低周波インピーダンスZL20と初期の中周波インピーダンスZM0との比(ZL20/ZM0)に各種センサの検出誤差などを考慮して適切に設定される。
E2=(ZL2/ZM)<K1…(6)
比率E2が基準値K1よりも小さい場合には、バッテリ10がハイレート劣化状態にあると推定される。比率E2が基準値K1以上である場合には、バッテリ10が経時劣化していると推定される。
変形例においても、実施の形態と同様に、バッテリ10の経時劣化とハイレート劣化とを切り分けることができる。ゆえに、バッテリ10がハイレート劣化状態にあるか否かを精度よく推定することができる。
(変形例2)
実施の形態および変形例1においては、劣化特性に鑑みて、低周波数帯域C2に対応した低周波インピーダンスZL2と中周波数帯域Bに対応した中周波インピーダンスZMとの比率E(あるいは比率E2)を、予め定められた基準値K(あるいは基準値K1)と比較することによって、バッテリ10のハイレート劣化状態を推定する例について説明した。しかしながら、バッテリ10のハイレート劣化状態の推定は、上記2つのインピーダンスに比率を用いることに限られるものではない。バッテリ10のハイレート劣化状態の推定に用いられる比率には、劣化特性においてバッテリ10の経時劣化とバッテリ10のハイレート劣化とで初期からのインピーダンスの増加率が異なる周波数帯域に対応したインピーダンスが少なくとも1つ含まれればよい。
たとえば、具体的に例示すると、バッテリ10のハイレート劣化状態の推定には、低周波数帯域C2に対応した低周波インピーダンスZL2と、低周波数帯域C1に対応した低周波インピーダンスZL1との比率が用いられてもよいし、低周波インピーダンスZL2と、高周波数帯域Aに対応した高周波インピーダンスZHとの比率が用いられてもよいし、低周波インピーダンスZL1と、高周波インピーダンスZHとの比率が用いられてもよい。また、バッテリ10のハイレート劣化状態の推定には、中周波数帯域Bに対応した中周波インピーダンスZMと、高周波インピーダンスZHとの比率が用いられてもよい。
上記の例においても、実施の形態と同様に、バッテリ10の仕様や初期における測定などから、予め基準値を設定することができる。また、基準値は、各種センサの検出誤差などを考慮して設定されてもよい。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。