本発明の実施形態のオイル供給装置が用いられるエンジンは、クランクケース、シリンダ、シリンダヘッド、およびクラッチカバーを備えている。クランクケースの内部前側にはクランク室が形成され、クランク室内にはクランクシャフトが収容されている。また、クランクケースの内部後側にはトランスミッション室が形成され、トランスミッション室内にはトランスミッション装置が収容されている。シリンダはクランクケースの前側部分の上方に設けられ、シリンダ内にはピストンが設けられている。シリンダヘッドはシリンダの上方に設けられ、シリンダヘッドの内部には動弁機構が設けられている。クラッチカバーはクランクケースの左右方向一側に取り付けられている。クラッチカバーとクランクケースとの間にはクラッチ室が形成され、クラッチ室内にはクラッチ装置が収容されている。
オイル貯留部は、第1のオイル貯留部と第2のオイル貯留部とに分割されている。第1のオイル貯留部はトランスミッション室内に形成されている。第2のオイル貯留部はクラッチ室内に形成されている。第1のオイル貯留部および第2のオイル貯留部にはそれぞれオイルが貯留されている。
潤滑オイルポンプはクランクケースまたはクラッチカバーに設けられている。潤滑オイルポンプは、第1のオイル貯留部に貯留されたオイルを、クランクシャフトおよび動弁機構を含む要潤滑部に供給するポンプである。
冷却オイルポンプはクランクケースまたはクラッチカバーに設けられている。冷却オイルポンプは、第2のオイル貯留部に貯留されたオイルを、シリンダおよびシリンダヘッドを含む要冷却部に供給するポンプである。
このように、本発明の実施形態のオイル供給装置においては、オイル貯留部がトランスミッション室内に形成された第1のオイル貯留部と、クラッチ室内に形成された第2のオイル貯留部とに分割されている。そして、第1のオイル貯留部に貯留されたオイルが潤滑オイルポンプにより要潤滑部へ供給され、要潤滑部の潤滑を終えたオイルが第1のオイル貯留部に戻る。また、第2のオイル貯留部に貯留されたオイルが冷却オイルポンプにより要冷却部へ供給され、要冷却部の冷却を終えたオイルが第2のオイル貯留部に戻る。したがって、第1のオイル貯留部に貯留されたオイルが要潤滑部の潤滑に用いられることによって生じるオイルの温度変化と、第2のオイル貯留部に貯留されたオイルが要冷却部の冷却に用いられることによって生じるオイルの温度変化とはそれぞれ独立している。それゆえ、要潤滑部の潤滑に用いられることによって生じるオイルの温度上昇によって、要冷却部の冷却に用いられるオイルの温度が上昇することを抑制することができる。よって、温度上昇によるオイルの冷却性能の低下を抑制することができる。
(エンジン)
図1は本発明の実施例のオイル供給装置40が設けられたエンジン1の全体を示している。図2ないし図3はエンジン1の下側部分を右方から見た状態を示している。具体的には、図2はアウタカバー15を外した状態を示し、図3はさらにクラッチカバー本体14およびクラッチ装置28を外した状態を示している。
図1に示すエンジン1は、自動二輪車等の鞍乗型車両に用いられる単気筒のガソリンエンジンである。なお、本実施例において、装置、部品、部材等の形状や配置、動作を説明するに当たって方向を示す場合には、エンジン1が搭載された鞍乗型車両の運転席に座する運転者を基準にする。各図の右下の矢印は、当該運転者を基準にした上(U)、下(D)、左(L)、右(R)、前(F)、後(B)をそれぞれ示している。
エンジン1は、エンジン1の下側部分の外殻を構成するクランクケース2、クランクケース2の前側部分の上方に設けられたシリンダ3、シリンダ3の上方に設けられたシリンダヘッド4、シリンダヘッド4を上方から覆うシリンダヘッドカバー5、およびクランクケース2の右側部分に設けられたクラッチカバー13を備えている。クランクケース2は、左側ケース部2Lと右側ケース部2Rとを左右に合わせて結合することにより形成されている。
クランクケース2の内部前側にはクランク室25(図5参照)が形成されている。クランク室25内にはクランクシャフトが設けられている。また、クランクケース2の内部後側にはトランスミッション室26(図5参照)が形成されている。トランスミッション室26内にはトランスミッション装置が設けられている。また、トランスミッション装置の右側には、図2に示すように、クラッチ装置28が設けられている。また、シリンダ3内にはピストンが設けられ、ピストンはコネクティングロッドを介してクランクシャフトに連結されている。また、シリンダヘッド4には吸気ポートおよび排気ポート29が形成され、シリンダヘッド4内には吸気バルブ、排気バルブおよびこれらのバルブを開閉させる動弁機構が設けられている。また、シリンダヘッド4には点火プラグが取り付けられている。
図2中のX1はクランクシャフトの軸心を示し、X2はトランスミッション装置のメインシャフトの軸心を示している。エンジン1の稼働時において、クランクシャフトは軸心X1を中心に回転する。クランクシャフトの回転は、図3に示すプライマリドライブギヤ30、プライマリドリブンギヤ31、および図2に示すクラッチ装置28を介してトランスミッション装置のメインシャフトに伝達される。これにより、メインシャフトは軸心X2を中心に回転する。
図4および図5はクランクケース2の右側ケース部2Rを示し、具体的には、図4は右側ケース部2Rを右方から見た状態を示し、図5は右側ケース部2Rを左方から見た状態を示している。図4に示すように、右側ケース部2Rの右面側(外面側)には、ガスケット21(図3参照)を介してクラッチカバー本体14を右側ケース部2Rに結合するための右側合わせ面7が形成されている。また、図5に示すように、右側ケース部2Rの左面側(内面側)には、左側ケース部2Lの合わせ面と合わせて右側ケース部2Rと左側ケース部2Lとを結合するための左側合わせ面8が形成されている。また、右側ケース部2Rの左面側には、クランク室25とトランスミッション室26とを隔てる内部壁部10が形成されている。左側ケース部2Lの右面側にも同様の内部壁部10が形成されている。左側ケース部2Lと右側ケース部2Rとが互いに結合された状態では、左側ケース部2Lおよび右側ケース部2Rにそれぞれ形成された内部壁部10が左右に互いに結合されて1つの内部壁となる。この内部壁により、クランクケース2の内部空間は、クランク室23とトランスミッション室26とに分断されている。また、右側ケース部2Rには、クランクシャフトの右端部が挿通されるクランクシャフト挿通孔11、およびトランスミッション装置のメインシャフトの右端部が挿通されるメインシャフト挿通孔12が形成されている。
また、図1に示すように、クラッチカバー13は、クランクケース2の右側の後端部分近傍から前端部分近傍にかけて伸長し、クランクケース2の右面の略全面を覆っている。また、クラッチカバー13は、クラッチカバー本体14とアウタカバー15とを備えている。ここで、図6はクラッチカバー本体14を右方から見た状態を示し、図7はクラッチカバー本体14を左方から見た状態を示している。図8はクラッチカバー本体14の前側部分の右面側を示している。図6に示すように、クラッチカバー本体14の後側部分には開口部16が形成され、開口部16内には図2に示すようにクラッチ装置28が配置されている。また、クラッチカバー本体14の右面側(外面側)には、図6に示すように、アウタカバー15を合わせて結合するための右側合わせ面17が形成されている。また、クラッチカバー本体14の左面側(内面側)には、図7に示すように、ガスケット21を介してクラッチカバー本体14を右側ケース部2Rに結合するための左側合わせ面18が形成されている。アウタカバー15はクラッチカバー本体14の後側部分に右方から取り付けられ、開口部16を閉塞する。図1に示すように、アウタカバー15はクラッチ装置28を右方から覆っている。
また、図3に示すように、クランクケース2とクラッチカバー13との間にはクラッチ室32が形成されている。クラッチ室32内には、クランクシャフトの右端部に結合されたプライマリドライブギヤ30と、メインシャフトの右端部に結合されたプライマリドリブンギヤ31と、潤滑オイルポンプ41と、潤滑オイルポンプ41を駆動するための第1の駆動ギヤ42と、プライマリドリブンギヤ31の回転を第1の駆動ギヤ42に伝達する第1のアイドルギヤ43と、冷却オイルポンプ61を駆動するための第2の駆動ギヤ64と、プライマリドライブギヤ30の回転を第2の駆動ギヤ64に伝達する第2のアイドルギヤ65等が設けられている。
(オイル供給装置)
図2において、エンジン1は本発明の実施例のオイル供給装置40を備えている。オイル供給装置40は、クランクシャフト、ピストンの裏面側および動弁機構等の要潤滑部を潤滑するために、これら要潤滑部へオイルを供給し、かつシリンダ3およびシリンダヘッド4等の要冷却部を冷却するために、これら要冷却部へオイルを供給する装置である。以下、主に要潤滑部の潤滑に用いられるオイルを潤滑オイルといい、主に要冷却部の冷却に用いられるオイルを冷却オイルということがある。なお、後述するように、本実施例では、共通のオイルが潤滑オイルおよび冷却オイルとしてそれぞれ用いられる。
(潤滑に関する構成)
オイル供給装置40は、主に潤滑オイルを要潤滑部へ供給する構成として、第1のオイル貯留部(トランスミッション室26)、潤滑オイルポンプ41、オイルフィルタ44、第1の潤滑オイル供給通路47、第2の潤滑オイル供給通路48、潤滑オイル中継室51、第3の潤滑オイル供給通路(図示せず)、第4の潤滑オイル供給通路53、および第5の潤滑オイル供給通路55等を備えている。
第1のオイル貯留部は潤滑オイルを貯留する部分である。第1のオイル貯留部は、図5に示すトランスミッション室26である。すなわち、潤滑オイルはトランスミッション室26内における底側に貯留される。
潤滑オイルポンプ41は、トランスミッション室26内に貯留された潤滑オイルを要潤滑部へ供給するポンプである。本実施例において、潤滑オイルポンプ41は、図3に示すように、クランクケース2の右側ケース部2Rに設けられている。具体的には、潤滑オイルポンプ41は右側ケース部2Rの右面(外面)における下部に取り付けられており、クラッチ室32内に位置している。また、潤滑オイルポンプ41は、右側ケース部2Rの前後方向において、クランクシャフトの軸心X1とメインシャフトの軸心X2との間に配置されている。
また、クラッチ室32内には潤滑オイルポンプ41に動力を伝達するための第1の駆動ギヤ42および第1のアイドルギヤ43が設けられている。第1の駆動ギヤ42および第1のアイドルギヤ43は例えば右側ケース部2Rの右面においてクランクシャフトの軸心X1よりも後方の部分に回転可能に支持されている。第1のアイドルギヤ43はプライマリドリブンギヤ31の内周側に形成された歯に噛合している。第1の駆動ギヤ42は第1のアイドルギヤ43に噛合している。潤滑オイルポンプ41の回転軸は第1の駆動ギヤ42に接続されている。第1のアイドルギヤ43および第1の駆動ギヤ42により、プライマリドリブンギヤ31の回転が減速されて潤滑オイルポンプ41に伝達される。これにより、潤滑オイルポンプ41が駆動する。
オイルフィルタ44は潤滑オイルを濾過するためのフィルタであり、図2に示すように、クラッチカバー本体14の前側部分に設けられている。本実施例においてオイルフィルタ44は、クラッチカバー本体14の前側部分の右面(外面)における上側部分に取り付けられている。また、オイルフィルタ44はクラッチカバー本体14の前後方向において冷却オイルポンプ61の後方に配置されている。具体的には、図8に示すように、クラッチカバー本体14の前側部分の右面における上側部分には、円筒状のオイルフィルタ取付部45が形成されており、オイルフィルタ44はオイルフィルタ取付部45の内側に収容されている。また、図1に示すように、オイルフィルタ取付部45には、オイルフィルタ44が収容された状態でオイルフィルタカバー46が取り付けられている。
第1の潤滑オイル供給通路47は、図2において破線で示すように、トランスミッション室26内に貯留された潤滑オイルを潤滑オイルポンプ41へ導く通路である。第1の潤滑オイル供給通路47は、図3に示すように、クランクケース2の右側ケース部2Rに形成されている。第1の潤滑オイル供給通路47は右側ケース部2Rを貫通する穴である。第1の潤滑オイル供給通路47の吸入口47Aは、図5に示すように、右側ケース部2Rの左面の下部に配置されており、トランスミッション室26内の底側部分に開口している。トランスミッション室26の底面は、トランスミッション室26の前後方向中央部付近で最も低くなっている。第1の潤滑オイル供給通路47の吸入口47Aは、トランスミッション室26の最も低くなった底面近傍に位置している。第1の潤滑オイル供給通路47の流出口47Bは、図4に示すように、右側ケース部2Rの右面の下部に配置されており、クラッチ室32内の底側部分に開口している。第1の潤滑オイル供給通路47において流出口47Bは吸入口47Aよりも高い位置にある。第1の潤滑オイル供給通路47の流出口47Bは潤滑オイルポンプ41の吸込口に接続されている。
第2の潤滑オイル供給通路48は、図2において破線で示すように、潤滑オイルポンプ41から吐出された潤滑オイルをオイルフィルタ44へ導く通路である。第2の潤滑オイル供給通路48は、図7に示すように、クラッチカバー本体14の左面側(内面側)に形成されている。第2の潤滑オイル供給通路48の流入口48Aは、図2において破線で示すように、クラッチ室32内の底側部分に位置し、潤滑オイルポンプ41の吐出口に接続されている。第2の潤滑オイル供給通路48の流出口48Bは、図8に示すように、クラッチカバー本体14の前上側部分に形成されたオイルフィルタ取付部45の内側に開口しており、オイルフィルタ取付部45に取り付けられたオイルフィルタ44の入口側に接続されている。第2の潤滑オイル供給通路48は、図7に示すように、クラッチカバー本体14の左面側をその底側部分から前上側部分に向かって伸長している。例えば、クラッチカバー本体14には、その左面の一部が左方へ隆起して筋状に伸長し、当該隆起した部分の内部にその伸長方向に沿って伸長する穴を有する管状構造が成形されている。第2の潤滑オイル供給通路48はこの管状構造により形成されている。
また、図8に示すように、オイルフィルタ取付部45には、オイルフィルタ44を通過した後の潤滑オイルを図示しない第3の潤滑オイル供給通路へ送り出す流出穴50が形成されている。第3の潤滑オイル供給通路は、潤滑オイルをトランスミッション装置等へ供給するための通路である。
また、オイルフィルタ取付部45には、オイルフィルタ44を通過した後の潤滑オイルを潤滑オイル中継室51(図4および図7参照)へ送り出す流出穴52が形成されている。潤滑オイル中継室51は、クラッチカバー本体14の左面側の前上側部分と右側ケース部2Rの右面側の前上側部分との間に形成されている。
また、クラッチカバー本体14には、潤滑オイル中継室51内に送り出された潤滑オイルをクランクシャフトへ供給する第4の潤滑オイル供給通路53(図7および図6参照)が形成されている。
また、右側ケース部2Rには、潤滑オイル中継室51内に送り出された潤滑オイルをオイルジェット54(図5参照)へ供給する第5の潤滑オイル供給通路55(図4参照)が形成されている。オイルジェット54は、潤滑オイルをピストンの裏面側へ供給するための穴である。
また、クランク室25内、シリンダ3の周壁部内、およびシリンダヘッド4の周壁部内等には、クランクシャフトを潤滑した後の潤滑オイルを動弁機構へ供給する通路(図示せず)が設けられている。
オイル供給装置40により作り出される潤滑オイルの流れは次の通りである。すなわち、潤滑オイルポンプ41が駆動すると、トランスミッション室26内に貯留された潤滑オイルは、第1の潤滑オイル供給通路47および第2の潤滑オイル供給通路48を順次流通し、続いてオイルフィルタ44を通過して濾過される。オイルフィルタ44を通過した潤滑オイルは、第3の潤滑オイル供給通路を流通してトランスミッション装置等へ供給される。また、オイルフィルタ44を通過した潤滑オイルは、潤滑オイル中継室51および第4の潤滑オイル供給通路53等を流通してクランクシャフトおよび動弁機構へ供給される。また、オイルフィルタ44を通過した潤滑オイルは、潤滑オイル中継室51および第5の潤滑オイル供給通路55を流通してオイルジェット54からピストンの裏面側へ供給される。トランスミッション装置を潤滑した後の潤滑オイルは、トランスミッション室26の底側へ落下する。また、クランクシャフト、動弁機構およびピストンの裏面側を潤滑した後の潤滑オイルは、クランク室25内の底側へ落下する。クランク室25内の底側へ落下した潤滑オイルは、例えばクランクケース2内のマグ室側に別途設けられたスカベンジングポンプ(図示せず)によりトランスミッション室26内へ戻される。
(冷却に関する構成)
オイル供給装置40は、主に冷却オイルを要冷却部へ供給する構成として、第2のオイル貯留部(クラッチ室32)、冷却オイルポンプ61、第1の冷却オイル供給通路66、第2の冷却オイル供給通路67、およびオイルクーラインレット配管接続部68等を備えている。
第2のオイル貯留部は冷却オイルを貯留する部分である。本実施例において、第2のオイル貯留部は、図2および図3に示すように、クランクケース2とクラッチカバー13との間に形成されたクラッチ室32である。すなわち、冷却オイルはクラッチ室32内における底側に貯留される。
上述したように、エンジン1において、オイルを貯留するオイル貯留部は、トランスミッション室26に形成された第1のオイル貯留部と、クラッチ室32に形成された第2のオイル貯留部とに分割され、第1のオイル貯留部に潤滑オイルが貯留され、第2のオイル貯留部に冷却オイルが貯留されている。しかしながら、クラッチ室32内に貯留された冷却オイルと、トランスミッション室26内に貯留された潤滑オイルとは共通のオイルである。図3に示すように、クランクケース2の右側ケース部2Rの下部には、右側ケース部2Rを貫通し、クラッチ室32とトランスミッション室26との間を連通させる連通穴76が形成されている。クラッチ室32内に貯留されたオイルおよびトランスミッション室26内に貯留されたオイルは連通穴76を介して両室間を移動することができる。しかしながら、連通穴76は単一であり、連通穴76の面積は小さい。このため、オイルの両室間における所定時間当たり移動量は制限される。また、連通穴76は、第1の冷却オイル供給通路66の吸入口66Aから離れた位置に配置されている。具体的には、連通穴76は、吸入口66Aよりも後側であり、かつ吸入口66Aよりも高い位置に配置されている。
冷却オイルポンプ61は、クラッチ室32内に貯留された冷却オイルを要冷却部へ供給するポンプである。冷却オイルポンプ61は、図2に示すように、クラッチカバー本体14の前側部分の右面(外面)における上側部分に取り付けられている。冷却オイルポンプ61は潤滑オイルポンプ41よりも前方かつ上方に配置されている。また、冷却オイルポンプ61は、クランクシャフトの軸心X1の前方かつ上方に配置されている。また、冷却オイルポンプ61は、オイルフィルタ44よりも前側であって、オイルフィルタ44よりも若干低い位置に配置されている。具体的には、図8に示すように、クラッチカバー本体14の前側部分の右面における上側部分であってオイルフィルタ取付部45よりも前側には、略円筒状の冷却オイルポンプ取付部62が形成されている。冷却オイルポンプ61は冷却オイルポンプ取付部62の内側に収容されている。また、図1に示すように、冷却オイルポンプ取付部62には、冷却オイルポンプ61が収容された状態でオイルポンプカバー63が取り付けられている。
また、図3に示すように、クラッチ室32内には、クランクシャフトの回転を冷却オイルポンプ61に伝達する動力伝達機構としての第2の駆動ギヤ64および第2のアイドルギヤ65が設けられている。第2の駆動ギヤ64および第2のアイドルギヤ65は例えば右側ケース部2Rの右面またはクラッチカバー本体14の左面に回転可能に支持されている。また、第2の駆動ギヤ64および第2のアイドルギヤ65はクランクシャフトの軸心X1よりも前方かつ上方に配置されている。第2のアイドルギヤ65の外周側の歯はプライマリドライブギヤ30に噛合している。第2の駆動ギヤ64は第2のアイドルギヤ65の内周側の歯に噛合している。冷却オイルポンプ61の回転軸は第2の駆動ギヤ64に接続されている。第2のアイドルギヤ65および第2の駆動ギヤ64により、プライマリドライブギヤ30の回転が減速されて冷却オイルポンプ61に伝達される。これにより、冷却オイルポンプ61が駆動する。
第1の冷却オイル供給通路66は、図2に示すように、クラッチ室32内に貯留された冷却オイルを冷却オイルポンプ61へ導く通路である。第1の冷却オイル供給通路66は、図6に示すように、クラッチカバー本体14の右面側(外面側)に形成されている。
第1の冷却オイル供給通路66の吸入口66Aは、クラッチ室32内の底側部分に開口している。クラッチ室32の底面は、クラッチ室32の前後方向中央部付近で最も低くなっている。第1の冷却オイル供給通路66の吸入口66Aは、クラッチ室32の最も低くなった底面に開口している。また、第1の冷却オイル供給通路66の吸入口66Aはプライマリドリブンギヤ31の中心部分の略真下に位置している。ここで、図9は、図6中の矢示IX−IX方向から見たクラッチカバー本体14における第1の冷却オイル通路66の吸入口66A付近の断面を示している。図9に示すように、第1の冷却オイル供給通路66の吸入口66Aは、クラッチカバー本体14の下部内面に開口している。そして、第1の冷却オイル供給通路66の吸入側端部は、クラッチカバー本体14の下部内面から下方に伸長した後、右方(外側方向)へ曲がり、続いて上方へ曲がり、続いて、図6に示すように前方へ曲がっている。さらに、第1の冷却オイル供給通路66の中間部分は、前方に行くに従って上方へ行くように緩やかに湾曲しつつ、クラッチカバー本体14の前上側部分に向かって伸長している。また、第1の冷却オイル供給通路66はクラッチカバー本体14の外形(クラッチカバー本体14の下縁部分から前縁部分にかけての湾曲した形状)に沿うように伸長している。また、図8に示すように、第1の冷却オイル供給通路66の流出口66Bは、クラッチカバー本体14の前上側部分に形成された冷却オイルポンプ取付部62の内側に開口しており、冷却オイルポンプ取付部62に取り付けられた冷却オイルポンプ61の吸込口に接続されている。
例えば、クラッチカバー本体14には、図6に示すように、その右面の一部が右方へ隆起して筋状に伸長し、当該隆起した部分の内部にその伸長方向に沿って伸長する穴を有する管状構造が成形されている。第1の冷却オイル供給通路66はこの管状構造により形成されている。また、第1の冷却オイル供給通路66は、第2の潤滑オイル供給通路48と略対応する位置に形成されている。すなわち、第1の冷却オイル供給通路66と第2の潤滑オイル供給通路48とは、クラッチカバー本体14を挟んでその左右両側を並走するように設けられている。
第2の冷却オイル供給通路67は、図6に示すように、冷却オイルポンプ61から吐出された冷却オイルを、オイルクーラインレット配管接続部68へ導く通路である。第2の冷却オイル供給通路67はクラッチカバー本体14の前上側部分に設けられている。
オイルクーラインレット配管接続部68は、図1に示すように、クラッチカバー本体14の前上側端部に形成されている。オイルクーラインレット配管接続部68には、冷却オイルをオイルクーラへ送り出す流出口68Aが形成されている。オイルクーラインレット配管接続部68には、冷却オイルをオイルクーラの流入口へ導くオイルクーラインレット配管が接続される。
また、シリンダヘッド4の右側部分には、オイルクーラアウトレット配管接続部69が形成されている。オイルクーラアウトレット配管接続部69には、オイルクーラの流出口から流出した冷却オイルをオイルクーラアウトレット配管接続部69へ導くオイルクーラアウトレット配管が接続される。また、オイルクーラアウトレット配管接続部69には、オイルクーラアウトレット配管を介して供給された冷却オイルをオイルジャケットへ送り込むための流入口69Aが形成されている。オイルジャケットは、シリンダ3の周壁部、並びにシリンダヘッド4の周壁部または内部において燃焼室の周囲および排気ポートの周囲等に形成されている。
図10ないし図14は冷却オイル戻り通路71に関する図である。具体的には、図10はエンジン1の下側部分を右前上方から見た状態を示している。図11は図3中の矢示XI−XI方向から見たクランクケース2およびガスケット21の断面を示している。図12は冷却オイル戻り通路71およびその周辺部分を示している。図13は冷却オイル戻り通路71の流出口71B付近がガスケット21の一部により覆われた状態を示している。図14は冷却オイル戻り通路71の流出口71B付近に配置された第2の駆動ギヤ64および第2のアイドルギヤ65を示している。
図10に示すように、クランクケース2の右側ケース部2Rには、オイルジャケットを通過した冷却オイルをクラッチ室32へ戻す冷却オイル戻り通路71が形成されている。冷却オイル戻り通路71は、右側ケース部2Rの上部前側に配置されている。
右側ケース部2Rの前側部分における上面には、シリンダ3の下面を合わせて結合するための上側合わせ面9が形成されている。冷却オイル戻り通路71の流入口71Aは、この上側合わせ面9の前部に開口している。そして、冷却オイル戻り通路71は、図12において破線で示すように、上側合わせ面9から右側ケース部2Rの上側壁部の内部を下方へ伸長している。
冷却オイル戻り通路71は、図11に示すように、右側ケース部2Rの上側壁部を貫通している。そして、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bは、クラッチ室32内においてクランクシャフトの軸心X1よりも前方かつ上方の位置に開口している。
また、図12に示すように、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bの周囲にはリブ72が形成されている。また、リブ72の下部には切り欠き73が形成されている。冷却オイル戻り通路71の流出口71Bから流出した冷却オイルは切り欠き73の内側を通ってクラッチ室32内を下方へ流れることができる。リブ72および切り欠き73は、後述する隔壁部74と協働し、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bから流出した冷却オイルをクラッチ室32内の底側へ導く案内部としての機能を有している。具体的には、流出口71Bの下側後方に配置されたリブ72は、流出口71Bから流出した冷却オイルがクラッチ室32内の前側の壁面を伝ってクラッチ室32内の底側へ流れるように、冷却オイルの流れをクラッチ室32内の前側へ向ける機能を有している。
また、図13に示すように、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bの右方は、ガスケット21の一部により形成された隔壁部74に覆われている。図3に示すように、クランクケース2の右側ケース部2Rとクラッチカバー本体14との間に設けられたガスケット21の前上側部分には隔壁部74が形成されている。すなわち、ガスケット21は、略環状の薄板状に形成されており、ガスケット21の前上側部分を除く部分は、右側ケース部2Rの右側合わせ面7(図4参照)またはクラッチカバー本体14の左側合わせ面18(図7参照)に沿うように細幅に形成されている。ところが、ガスケット21の前上側部分は幅が太くなっており、右側ケース部2Rの右側合わせ面7またはクラッチカバー本体14の左側合わせ面18に対応する部分を越えて広く下方へ拡がっている。このガスケット21の前上側部分の太幅の部分が隔壁部74である。
隔壁部74は、図13に示すように、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bの周囲に形成されたリブ72の全体を覆っており、リブ72の突出端側(右端側)の開口部分を塞いでいる。さらに、隔壁部74は、このリブ72よりも下側の部分をも広く覆っている。これにより、図14に示すように、第2の駆動ギヤ64と右側ケース部2Rの右面(リブ72の右端面)との間、および第2のアイドルギヤ65の一部と右側ケース部2Rの右面との間が隔壁部74により隔てられている。隔壁部74は、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bから流出し、第2の駆動ギヤ64または第2のアイドルギヤ65へ向かう冷却オイルの流れを制限する機能を有している。流出口71Bから流出した冷却オイルの大部分は隔壁部74の左面に当たり、その流通方向が下方へ変えられる。これにより、冷却オイルの大部分はリブ72に形成された切り欠き73の内側を通ってクラッチ室32の底側へ向かって流れ落ちる。
また、ガスケット21の隔壁部74には、図13に示すように、オイル供給穴75が形成されている。オイル供給穴75は隔壁部74を貫通している。これにより、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bから流出した冷却オイルの一部はオイル供給穴75を通って第2の駆動ギヤ64と第2のアイドルギヤ65との噛合部分に供給される。もっとも、オイル供給穴75の面積は小さい。それゆえ、流出口71Bから流出してオイル供給穴75を通って第2の駆動ギヤ64側に至る冷却オイルは少量であり、第2の駆動ギヤ64と第2のアイドルギヤ65との噛合部分を潤滑することができる程度の量である。
オイル供給装置40により作り出される冷却オイルの流れは次の通りである。すなわち、冷却オイルポンプ61が駆動すると、クラッチ室32内に貯留された冷却オイルは、第1の冷却オイル供給通路66および第2の冷却オイル供給通路67を順次流通し、オイルクーラインレット配管接続部68の流出口68Aから流出する。オイルクーラインレット配管接続部68の流出口68Aから流出した冷却オイルは、オイルクーラインレット配管を通ってオイルクーラに供給され、オイルクーラを通過してオイルクーラにより冷却され、オイルクーラアウトレット配管を通ってオイルクーラアウトレット配管接続部69の流入口69Aに流入する。オイルクーラアウトレット配管接続部69の流入口69Aに流入した冷却オイルは、シリンダ3およびシリンダヘッド4に形成されたオイルジャケットを流通し、シリンダ3の周囲、燃焼室の周囲、排気ポートの周囲等を冷却する。オイルジャケットを流通し終えた冷却オイルは、冷却オイル戻り通路71の流入口71Aに流入し、冷却オイル戻り通路71を流通し、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bから流出する。冷却オイル戻り通路71の流出口71Bから流出した冷却オイルは、リブ72およびガスケット21の隔壁部74により流通方向が規制され、その大部分がリブ72の切り欠き73の内側を通ってクラッチ室32内を下方へ落ちる。そして、この冷却オイルは、クラッチ室32内の前側の壁面(クラッチ室32内に臨むクラッチカバー本体14の面またはクラッチ室32内に臨む右側ケース部2Rの面)を伝ってクラッチ室32の底側へ流れる。また、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bから流出した冷却オイルの一部はオイル供給穴75を通って第2の駆動ギヤ64と第2のアイドルギヤ65との噛合部分に供給され、当該噛合部分を潤滑する。
ここで、クラッチ室32内に貯留された冷却オイル、およびトランスミッション室26内に貯留された潤滑オイルは、右側ケース部2Rの下部に形成された連通穴76(図3参照)を通ってクラッチ室32からトランスミッション室26へ、またはトランスミッション室26からクラッチ室32へ移動することができる。しかしながら、連通穴76は単一であり、連通穴76の面積が小さい。このため、オイルの両室間における所定時間当たり移動量は少ない。エンジン1の稼働中は、潤滑オイルポンプ41の駆動によりトランスミッション室26内と要潤滑部との間でオイルが循環するが、そのオイルの大部分はトランスミッション室26内に貯留されたオイルである。エンジン1の稼働中にクラッチ室32から連通穴76を通ってトランスミッション室26内に移動したオイルが要潤滑部へ供給されることもあるが、その量は少ない。また、エンジン1の稼働中は、冷却オイルポンプ61の駆動によりクラッチ室32内と要冷却部との間でオイルが循環するが、そのオイルの大部分はクラッチ室32内に貯留されたオイルである。エンジン1の稼働中にトランスミッション室26から連通穴76を通ってクラッチ室32内に移動したオイルが要冷却部へ供給されることもあるが、その量は少ない。すなわち、エンジン1の稼働中は、要潤滑部の潤滑に用いられるオイルと要冷却部の冷却に用いられるオイルとはほとんど混ざらない。
エンジン1の稼働中は、トランスミッション室26内に貯留されたオイルがトランスミッション室26と要潤滑部とを循環する。この過程において、オイルが各潤滑オイル供給通路やオイルジャケットの内面等に付着するため、トランスミッション室26内に貯留されたオイルのオイル面は、エンジン1の停止中と比較して低下する。同様に、エンジン1の稼働中は、クラッチ室32内に貯留されたオイルがクラッチ室32と要潤滑部とを循環するが、オイルが各冷却オイル供給通路やオイルジャケットの内面等に付着するため、クラッチ室32内に貯留されたオイルのオイル面は、エンジン1の停止中と比較して低下する。エンジン1の稼働中は、トランスミッション室26内に貯留されたオイルと、クラッチ室32内に貯留されたオイルとはほとんど混ざらないので、トランスミッション室26内に貯留されたオイルのオイル面の高さと、クラッチ室32内に貯留されたオイルのオイル面の高さとが互いに異なることが多い。
また、エンジン1の稼働中において、トランスミッション室26内に貯留されたオイルはトランスミッション室26と要潤滑部とを循環する過程で温度が上昇する。また、エンジン1の稼働中において、クラッチ室32内に貯留されたオイルはクラッチ室32と要冷却部とを循環する過程で温度が上昇する。エンジン1の稼働中は、トランスミッション室26内に貯留されたオイルと、クラッチ室32内に貯留されたオイルとはほとんど混ざらないので、トランスミッション室26内に貯留されたオイルの温度と、クラッチ室32内に貯留されたオイルの温度とが互いに異なることが多い。多くの場合、トランスミッション室26内に貯留されたオイルの温度の方が、クラッチ室32内に貯留されたオイルの温度よりも高くなる。
一方、エンジン1の停止中等、潤滑オイルポンプ41および冷却オイルポンプ61の駆動が停止している間に、連通穴76を介してトランスミッション室26とクラッチ室32との間でオイルが移動することにより、両室のオイル面およびオイルの温度が互いに均一になる。上述したように、連通穴76を通ってトランスミッション室26とクラッチ室32との間で移動することができるオイルの量は少量であるので、両室のオイル面およびオイルの温度が互いに均一になるまでには時間がかかる。この時間の具体的な値は、両室におけるオイル面の差、おより温度差に応じて異なるが、大まかに見て数分ないし数十分である。
以上、説明した通り、本発明の実施例のオイル供給装置40においては、オイル貯留部が第1のオイル貯留部と第2のオイル貯留部とに分割され、第1のオイル貯留部がトランスミッション室26であり、第2のオイル貯留部がクラッチ室32である。そして、エンジン1の稼働中において、潤滑オイルポンプ41の駆動によりトランスミッション室26と要潤滑部との間を循環するオイルと、冷却オイルポンプ61の駆動によりクラッチ室32と要冷却部との間を循環するオイルとはほとんど混ざらない。したがって、トランスミッション室26内に貯留されたオイルが要潤滑部の潤滑に用いられることによって生じるオイルの温度変化と、クラッチ室32内に貯留されたオイルが要冷却部の冷却に用いられることによって生じるオイルの温度変化とはそれぞれ独立している。それゆえ、要潤滑部の潤滑に用いられることによって生じるオイルの温度上昇によって、要冷却部の冷却に用いられるオイルの温度が上昇することを抑制することができる。よって、温度上昇によるオイルの冷却性能の低下を抑制することができる。
また、本発明の実施例のオイル供給装置40は、トランスミッション室26内に貯留されたオイルを潤滑オイルポンプ41へ導く第1の潤滑オイル供給通路47と、クラッチ室32内に貯留されたオイルを冷却オイルポンプ61へ導く第1の冷却オイル供給通路66とを備えている。そして、第1の潤滑オイル供給通路47と第1の冷却オイル供給通路66とは互いに繋がっていない。このように、要潤滑部へ供給するオイルの経路と、要冷却部へ供給するオイルの経路とはそれぞれ独立しているので、要潤滑部の潤滑に用いられるオイルの温度上昇の影響が、要冷却部の冷却に用いられるオイルに及ぶことを抑制することができる。
また、本発明の実施例のオイル供給装置40においては、冷却オイルポンプ61がクラッチカバー本体14に取り付けられ、第1の冷却オイル供給通路66の吸入口66Aがクラッチカバー本体14の下部に設けられている。これにより、クラッチ室32内において冷却オイルのオイル面が低下し、または、鞍乗型車両の傾斜や振動により冷却オイルのオイル面が傾いても、冷却オイルを冷却オイルポンプ61により確実に吸引することができる。また、気泡の吸引を抑えることができ、冷却オイルによる冷却効率を高めることができる。
また、本発明の実施例のオイル供給装置40において、クランクケース2の右側ケース部2Rには、トランスミッション室26とクラッチ室32との間を連通し、両室間でオイルの移動を可能にする連通穴76が形成されている。これにより、エンジン1の停止中には、オイルがトランスミッション室26とクラッチ室32との間を移動し、トランスミッション室26内に貯留されたオイルとクラッチ室32内に貯留されたオイルとが混ざり、両室内に貯留されたオイルの温度が均一になる。これにより、要潤滑部の潤滑により上昇した潤滑オイルの温度を常温へ下げるのにかかる時間を短くすることができる。
また、連通穴76は第1の冷却オイル供給通路66の吸入口66Aよりも高い位置に配置されているので、トランスミッション室26内から連通穴76を通ってクランク室32内に流入した比較的高温のオイルが冷却オイルポンプ61により直接吸引されることを防止することができる。これにより、オイルによる要冷却部の冷却効果を高めることができる。
また、本発明の実施例のオイル供給装置40においては、要冷却部の冷却を終えた冷却オイルをクラッチ室32へ戻す冷却オイル戻り通路71がクランクケース2の右側ケース部2Rの上部前側に設けられ、かつ、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bがクラッチ室32内においてクランクシャフトの軸心X1よりも前方かつ上方の位置に開口している。これにより、冷却オイル戻り通路71を短くすることができる。従来のエンジンの中には、オイルをクランクケースの底側やオイルパンへ導くために、クランクケースの上側から底側に向かって伸長する長い管路をクランクケース内等に設けたものがある。このような従来のエンジンと比較して、本発明の実施例のオイル供給装置40によれば、右側ケース部2Rの上部前側に短い冷却オイル戻り通路71を設けるのみであるので、右側ケース部2Rの構造を簡素化することができる。
また、本発明の実施例のオイル供給装置40は、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bと第2の駆動ギヤ64等との間を隔てる隔壁部74を備えている。隔壁部74により、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bから流出した多量の冷却オイルが第2の駆動ギヤ64または第2のアイドルギヤ65に掛かることを抑制することができ、オイル攪拌によるメカロスの増加を抑制することができる。また、隔壁部74をガスケット21の一部により形成したことにより、隔壁部74を容易に形成することができ、右側ケース部2Rまたはクラッチカバー本体14の構造が複雑化することを防止することができる。また、隔壁部74を設けるために部品を追加しなくてもよいので、部品の増加を防ぐことができる。
また、隔壁部74には、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bから流出した冷却オイルの一部を第2の駆動ギヤ64と第2のアイドルギヤ65との噛合部分へ供給するオイル供給穴75が形成されている。オイル供給穴75を介して冷却オイルを上記噛合部分へ供給することにより、冷却オイルを利用して上記噛合部分を効率良く潤滑することができる。
また、本発明の実施例のオイル供給装置40では、冷却オイル戻り通路71の流出口71Bから流出した冷却オイルを、右側ケース部2Rに形成されたリブ72および切り欠き73によって、クラッチ室32内の底側へ導く。これにより、冷却オイルをクランク室32内の底側に円滑に戻すことができる。また、このような冷却オイルを導く機能を、リブ72を利用して形成することにより、右側ケース部2Rまたはクラッチカバー本体14の構造が複雑化することを防止することができ、また、部品の増加を防ぐことができる。
なお、上述した実施例では、潤滑オイルポンプ41をクランクケース2の右側ケース部2Rに取り付けたが、潤滑オイルポンプ41をクラッチカバー本体14に取り付けてもよい。また、上述した実施例では、冷却オイルポンプ61をクラッチカバー本体14に取り付けたが、冷却オイルポンプ61を右側ケース部2Rに取り付けてもよい。また、潤滑オイルポンプ41と冷却オイルポンプ61とを同軸に配置し、左右方向に並ぶように配置してもよい。
また、上述した実施例では、プライマリドリブンギヤ31の回転を潤滑オイルポンプ41に伝達する動力伝達機構として第1の駆動ギヤ42および第1のアイドルギヤ43を用いたが、例えば第1のアイドルギヤ43に代えてチェーンまたはベルトを用いてもよい。同様に、プライマリドライブギヤ30の回転を冷却オイルポンプ61に伝達する動力伝達機構において、第2のアイドルギヤ65に代えてチェーンまたはベルトを用いてもよい。
また、上述した実施例では、トランスミッション室26とクラッチ室32との間を連通する単一の連通穴76を設けたが、両室間を流通するオイルの量を制限することができる限度で、連通穴76の個数を増やしてもよい。
また、本発明のオイル供給装置を適用するエンジンは単気筒に限らない。また、本発明のオイル供給装置を適用する車両は自動二輪車に限らず、自動三輪車やバギー車等、他の種類の車両でもよい。
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うオイル供給装置もまた本発明の技術思想に含まれる。