JP6944774B2 - 焼結体及びその製造方法 - Google Patents
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また、特許文献2および3のような材料については、鉄と炭素の局部電池作用を利用するために鉄の溶出量は多いものの、バインダーとして、澱粉や焼酎滓などの水溶性有機物を使用しているため、実際に一旦塊状物が崩壊してしまうと鉄と炭素の接触が不充分になりやすく、長期的な底質改善には疑問がある。また、バインダーとして使用した水溶性有機物が、逆に底質環境の生物学的酸素必要量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)を上げてしまうという問題もある。
さらに、特許文献4については、鉄を焼結するために有機系産業廃棄物を主とする有機物を使用しているため、鉄の溶出効率の低下や廃棄物に含まれる有害な重金属等による新たな汚染の可能性がある。
前記鉄粒子と前記炭素質物との比率が、鉄元素と炭素元素の重量比(鉄元素:炭素元素)で95:5〜5:95であり、
見かけ比重が1.1〜4.0であり、
開気孔率が20〜70%であり、
かつ、
圧壊荷重が50N以上であることを特徴とする。
鉄原料、炭素質原料及び有機バインダーを加熱溶融混練し、それらの複合物を製造する工程と、
前記複合物を不活性または還元雰囲気において500℃以上で焼結して焼結体を得る工程と、
を含むことを特徴とする。
鉄原料、炭素質原料、有機バインダー及び水または有機溶媒を混合、混練してそれらの混合物を得る工程と、
前記混合物を造粒する工程と、
前記造粒物を不活性または還元雰囲気において500℃以上で焼結して焼結体を得る工程と、
を含むことを特徴とする。
図1に示すように、本実施の形態の焼結体10は、複数の鉄粒子1と炭素質物3とを含有する多孔質な焼結体である。焼結体10において、複数の鉄粒子1は、炭素質物3によって固定化されている。炭素質物3は、鉄粒子1を担持する構造体として機能するとともに、鉄粒子1との接触によって局部電池を形成する。焼結体10は、後述するように、所定の見かけ比重と開気孔率を有する多孔質体であり、複数の細孔5が形成されている。図2に例示するように、炭素質物3は、コークス等の炭素質原料由来部分3aと、有機バインダー等の有機物に由来する接着部分3bとが区別できる状態で存在していてもよいし、あるいは、両者が互いに区別できない状態で実質的に一体となって炭素質物3を形成していてもよい。
焼結体10における鉄粒子1と炭素質物3との重量比は、水中での2価鉄イオン溶出の持続性に応じて調整され得るが、例えば、鉄粒子1:炭素質物3=95:5〜5:95の範囲であり、好ましくは20:80〜80:20、より好ましくは50:50〜80:20である。炭素質物3に対する鉄粒子1の重量比が5重量%未満であると炭素質物3が多すぎて、水との接触面積が小さく、2価鉄イオンの供給能力が低いとともに持続性が悪くなる。一方、炭素質物3に対する鉄粒子1の重量比が95重量%を超えると、局部電池が形成され十分な鉄イオン供給能力は備わっているが、炭素分が少ない為に一体化物として脆くなり、表面から鉄粒子1が欠落したり、焼結体10の崩壊が発生しやすくなる。なお、焼結体10には、鉄、炭素以外に酸素(10重量%以下)やその他微量の元素(Ni、Mnなど)も含まれるが、上記重量比は、単純に鉄元素と炭素元素の比率をいう。また、炭素質物3には、予め配合するコークス等の炭素質原料以外に、有機バインダーなどの有機物が焼成されて、炭化された炭素も含む。
本実施の形態の焼結体10は、1.1〜4.0の見かけ比重(嵩密度)と20〜70%の開気孔率を有する多孔質な焼結体であることが好ましい。ここで、見かけ比重は、1.3〜3.5であるとより好ましい。見かけ比重が1.1未満であると水中で浮遊してしまい散布域から焼結体10が流出しやすくなるほか、4.0を超えると、内部空隙が減少するので2価鉄イオンの溶出量が少なくなってしまう。また、開気孔率は30〜60%であるとより好ましい。開気孔率が20%未満であると2価鉄イオンの溶出量が少なくなり、70%を超えると、材料の強度が低下して崩壊しやすくなるため好ましくない。
本実施の形態の焼結体10は、圧壊荷重が50N以上であることが好ましく、80N以上であることがより好ましい。圧壊荷重が50N未満であると、散布時や散布後に水流による搖動で粒子同士が接触して焼結体10が破壊されやすくなる。このように、水流によって焼結体10が破壊されると、鉄と炭素が分離することにより局部電池の効果が消失し、2価鉄イオンの溶出が少なくなってしまう恐れがある。このような観点から、本実施の形態の焼結体10は、5重量%濃度の塩水浸漬10日後の圧壊荷重が、50N以上であり、かつ、塩水浸漬前の圧壊荷重の1/2以上維持していることが、さらに好ましい。5重量%濃度の塩水浸漬10日後の圧壊荷重が、塩水浸漬前の圧壊荷重の1/2以上であることによって、局部電池の効果を長期間保持することができる。
また、本実施の形態の焼結体10は、5重量%濃度の塩水浸漬10日後の2価鉄イオンの溶出量が2ppm以上であることが好ましく、より好ましくは5ppm以上、さらに、10ppm以上であることが望ましい。このように底質環境中に高濃度の2価鉄イオンを供給することによって、硫化水素やリンをトラップして短期間で水質改善効果を得ることができるほか、微生物をはじめとする生物群の活性を高めてより高い水質改善効果を上げることが可能となる。
さらに、本実施の形態の焼結体10は、不活性雰囲気中での熱重量分析における室温〜500℃までの温度における焼結体10の重量減少率が3%以下であることが好ましい。室温から500℃までの重量減少率が3%以下であるということは、有機バインダーおよびコークス粉が完全に炭素化していることを示している。そのため、水中に散布したときに焼結体10が崩壊しにくく、かつ環境に有害な有機化合物が焼結体10から溶出することが無いため、本材料による新たな環境負荷を生じることもない。
本実施の形態の焼結体10は、0価の金属鉄が炭素と接触することによる局部電池の形成により、水中へ2価鉄イオンとして溶出し、夏場、特に貧酸素状態での悪臭(硫化水素など)や赤潮(異常プランクトン発生)を抑制するとともに、磯やけによる藻場の再生に寄与するものである。このため、鉄粒子1としては、鉄原料の段階で酸化鉄であっても、焼成後の最終製品で金属鉄になっていれば良いが、好ましくは鉄(Fe)を主成分として炭素(C)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)の少なくとも一種以上が0.5重量%以上含まれている鉄鋼材料を原料とすることが良い。なお、このような鉄粒子1として、鋳鉄や炭素鋼、ステンレス鋼等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
本発明において炭素質物3は、鉄と局部電池を形成する為に必要であり、鉄との接触が非常に重要である。局部電池を形成させるための炭素質物3の原料(炭素質原料)としては、例えば、コークス、木炭、石炭粉、黒鉛、コールタールピッチや有機化合物、高分子材料の炭化物等が使用可能である。これらは単独もしくは2種以上混合して使用することもできる。炭素質原料の形状は問われないが、焼結後に鉄粒子1との接触箇所を多くして局部電池機能を発現しやすい粉粒状、塊状などが好ましく、不定形な外観形状であってもよい。鉄原料と配合する炭素質原料の50重量%以上は、高温で溶融して流動性を示さない固体炭素質材料であることが好ましい。そのような固体炭素質材料としては、例えば黒鉛、コークス粉などを挙げることができ、特に、450℃以上の温度履歴があり、かつ導電性を有するピッチコークス粉であることがより好ましい。
本実施の形態の焼結体10は、有機物ではない導電性を有する炭素と、鉄との焼結体であるが、その製造過程において有機バインダーを使用する。有機バインダーを用いることによって、粉粒状の原料の凝集を促進させて粒状化速度を上げ、収率を向上させるとともに、焼結体10の物性(強度、表面状態、耐崩壊性など)を改善し、さらには鉄粒子1と炭素質物3との接着を強固なものとすることができる。そのような観点から、有機バインダーとしては、固定炭素分を20重量%以上有しており、芳香環を多く含有したピッチやフェノール樹脂、リグニン、またはフェノール成分を主成分とするリグニンスルホン酸塩などが好ましく、これらの中でも、固定炭素及び結着力に優れたコールタールピッチが最も好ましい。なお、有機バインダーとしては、水溶性であったり、水溶性でなくても鉄粒子1と炭素質物3との間に水が容易に浸透するような弱い接着状態しか得られないものは好ましくない。
なお、コールタールピッチの中でも固定炭素量が50%以上あるものが焼成時の形状維持の面からも好ましく、このようなコールタールピッチとしては、例えば、株式会社シーケム製のBPやIP(いずれも製品名)が例示される。
また、コールタールピッチは、例えば30〜150℃に軟化点があるものが好ましい。このような軟化点を持つコールタールピッチの使用は、加熱しながら混合物を成型(造粒)するブリケットマシンや溶融造粒などの乾式造粒などの分子間力による造粒方法には非常に都合がよい。それらによる造粒後、それをそのまま焼成すれば良いので、効率良く焼結体10を製造することが可能である。
本実施の形態の焼結体10は、鉄原料と炭素質原料の混合物に有機バインダーを配合して、必要に応じて所望の形状に造粒したのち、不活性または還元雰囲気において500℃以上の温度で焼結することによって製造される。
鉄原料としての鉄粒子または酸化鉄粒子、炭素質原料及び有機バインダーを加熱溶融混練し、それらの複合物を製造する工程と、
複合物を不活性または還元雰囲気において500℃以上で焼結して焼結体10を得る工程と、
得られた焼結体を冷却する工程と、
を含むことができる。
鉄原料としての鉄粒子または酸化鉄粒子、炭素質原料、有機バインダー、及び水または有機溶媒を混合、混練してそれらの混合物を得る工程と、
混合物を造粒して造粒物を得る工程と、
造粒物を不活性または還元雰囲気において500℃以上で焼結して焼結体10を得る工程と、
得られた焼結体を冷却する工程と、
を含むことができる。
なお、造粒は人手にて行うことも可能であるが、作業性や安全性、形状制御などの面からは、ペレタイザやブリケットマシン等の造粒機の使用が好ましい。
なお、焼成は複数回行ってもよく、一度焼結した焼結材を鉄やマンガンなどの化合物の水溶液に浸漬したのち、再度焼成を行うこともできる。
造粒物の体積(V)を105℃で乾燥した造粒物の重さ(W1)で割った値(=W1/V)を見かけ比重とし、造粒物5点の平均値を採用した。
105℃で乾燥した造粒物を純水に浸漬し、25℃、真空下(−0.88MPa)で2時間脱気処理を行い、取り出して、造粒物表面に付着した水を紙ウエスで拭きとり、水分を含有した造粒物の重量を測定する(W2)。含水による重量増加分を体積増加分と見なして、(W2−W1)/Vを開気孔率とし、造粒物5点の平均値を採用した。
造粒物の崩壊する荷重(座屈する荷重)を圧壊荷重とした。荷重測定には、島津製作所製 油圧式REH竪型100kN引張-圧縮試験機を使用し、サンプルに圧縮荷重を加え、最大荷重を圧壊荷重とし、造粒物5点の平均値を採用した。
造粒物を乳鉢で粉砕し、窒素雰囲気下で熱重量分析(TGA)を行い、熱重量減少率を測定した。測定には、株式会社リガク製 急速加熱示差熱天秤 R−TG−DTA/H8120を用い、昇温スピードは15℃/分で、100℃から500℃まで昇温させたときの重量減少率を測定した。
焼成した造粒物を乳鉢で粉砕し、ICP発光分光分析法で測定した。
JIS K−2425に準拠して測定した。
5重量%濃度の塩化ナトリウム水溶液を作製し、超音波で10分処理した後、25℃、真空下(0.88MPa)で60分間、脱気処理したものを塩水浸漬テストに用いた。また、塩水浸漬は窒素雰囲気のデシケータ内で行った。
造粒物の重量に対して、20倍量の塩化ナトリウム水溶液をガラス製サンプル瓶にいれる(たとえば、造粒物が5gの場合には100gの塩化ナトリウム水溶液に浸漬する)。これを真空デシケータ内で、真空下(0.88MPa)で60分間、脱気処理して、窒素ガスを大気圧になるまで封入する。10日静置後、上澄み液をパックテスト(登録商標;株式会社共立理化学研究所)によって2価鉄イオン濃度及びCODを測定した。
・造粒方法A
原料(鉄粉、炭素粉、有機バインダー)を所定量測りとり、150℃でニーダーにより混合・混練し、直径約1cmの球状の粒を手動(手のひらで丸めて球形にする)で作成した。
・造粒方法B
原料(鉄粉、炭素粉、有機バインダー)を所定量測りとり、アルミナ乳鉢で混合して、水を固形分量に対して10〜20重量%添加し、直径約1cmの球状の粒を手動(手のひらで丸めて球形にする)で作成した。実施例6に関しては、バインダーは非水溶性で予め溶液であることから水は添加しなかった。
・造粒方法C
原料(鉄粉、炭素粉、有機バインダー)を所定量測りとり、Vブレンダーで混合し、パン型造粒機(型式1237-S-3 株式会社 吉田製作所)を使用して、傾斜角度45℃、回転数40rpmで、原料100重量部に対して、水分20重量部を噴霧して、直径約1cmの球状粒を作製した。
・造粒方法D
原料(鉄粉、炭素粉、有機バインダー、水)を所定量測りとり、混合攪拌機で混合・混練した後、ブリケッタ(BGS IN型 新東工業株式会社)を使用して、ポケット:18×14×深さ3.3mm、ロール回転:8rpm、ロール加圧力:12KNの条件で、ラグビーボール状粒を作製した。
なお、造粒方法B,C,Dにおいて、水を使用する場合には、70℃で乾燥して水分を除去した。
造粒物をコークス粉が詰められた還元雰囲気焼成炉に入れ、100℃/時間で昇温し、400℃、900℃、1200℃でそれぞれ2時間焼成した。焼成後は、自然放冷して、50℃以下になった時点で造粒物を取り出した。
・鉄粉
鋳鉄粉(竹内工業株式会社 28メッシュアンダー品 炭素:2〜4重量%、Si:4重量%以下、Mn:0.5〜1.5重量%、P:0.03重量%以下、S:0.03重量%以下)
・コークス粉
ピッチコークス粉(新日鉄住金化学株式会社製 200メッシュアンダー、50〜200メッシュ、6〜9メッシュ)
・有機バインダー
(1)コールタールピッチ(新日鉄住金化学株式会社製 軟化点:85℃、固定炭素分:58重量%、50メッシュアンダー)
(2)ゼラチン(和光純薬製 固定炭素分:16.2重量%)
(3)可溶性でんぷん(和光純薬製 固定炭素分:9.3重量%)
(4)リグニンスルホン酸マグネシウム(日本製紙株式会社製 商品名サンエキスP321、リグニンスルホン酸マグネシウム:59重量%、還元性糖類:17重量%、糖変性物:18重量%、無機塩類:6重量%、灰分:12重量%、灰分を予め差し引きした固定炭素分:25重量%)
(5)エチルセルロース(日新化成株式会社製 商品名 ECビヒクル EC−100 固形分濃度9重量% エチルセルロース粉の固定炭素分:1重量%以下)
表1〜3に示す配合及び造粒方法で実施例および比較例となる鉄粒子と炭素質物の焼結体を作成し、それぞれの圧壊荷重、及び塩水浸漬10日後の造粒物の形状、圧壊荷重、圧壊荷重維持率、鉄イオン発生濃度、CODを測定し、底質環境改善材としての評価を行った。
なお、結果についても表1〜3に記す。
Claims (5)
- 鉄粒子と炭素質物とを含有し、海水中で底質環境改善材として用いられる多孔質な焼結体であって、
前記鉄粒子と前記炭素質物との比率が、前記鉄粒子中の鉄元素と前記炭素質物中の炭素元素との重量比(鉄元素:炭素元素)で95:5〜5:95であり、
見かけ比重が1.1〜4.0であり、
開気孔率が20〜70%であり、
圧壊荷重が50N以上であり、かつ、
濃度5重量%の塩水に10日間浸漬後の圧壊荷重が、塩水浸漬前の圧壊荷重の1/2以上であることを特徴とする焼結体。 - 濃度5重量%の塩水に10日間浸漬後の塩水中の2価鉄(Fe2+)イオン溶出量が2ppm以上である請求項1に記載の焼結体。
- 請求項1又は2に記載の焼結体を製造する焼結体の製造方法であって、
鉄原料、炭素質原料及び固定炭素分を20重量%以上含有する有機バインダーを加熱溶融混練し、それらの複合物を製造する工程と、
前記複合物を不活性または還元雰囲気において500℃以上で焼結して焼結体を得る工程と、
を含むことを特徴とする焼結体の製造方法。 - 請求項1又は2に記載の焼結体を製造する焼結体の製造方法であって、
鉄原料、炭素質原料、固定炭素分を20重量%以上含有する有機バインダー及び造粒助剤と、水または有機溶媒を混合、混練してそれらの混合物を得る工程と、
前記混合物を造粒する工程と、
前記造粒物を不活性または還元雰囲気において500℃以上で焼結して焼結体を得る工程と、
を含むことを特徴とする焼結体の製造方法。 - 前記鉄原料が炭素(C)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)の少なくとも1種以上の元素を含む鉄鋼材料または酸化鉄であり、前記炭素質原料の50重量%以上がピッチコークス粉である請求項3又は4に記載の焼結体の製造方法。
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