JP7284651B2 - 底質からの硫化水素の発生抑制方法 - Google Patents
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この問題に対して、鉄粉や酸化鉄、水酸化鉄を底質に散布することで硫化水素の発生を抑制する手法(非特許文献1、2)が提案されている。また、底質環境中に鉄イオンを継続的に供給することができる部材を散布または配置することによって、微生物の活動を活発化させることにより解決を試みることも提案されている(特許文献3~5)。
(1)鉄粉と炭素前駆体とを造粒焼結したもの。
(2)塊状の炭素質物もしくは無機物の表面に、鉄粉を、炭素前駆体を用いて焼結固定したもの。
鉄-炭素複合体は、水中で鉄イオンを発生し、水酸化鉄の供給源となる。鉄-炭素複合体は、鉄と炭素が物理的、機械的に接触しており、水中に浸漬した際に鉄と炭素間の電位差による局部電池効果によって鉄イオンを生じることができるものであれば特に限定されるものではない。鉄-炭素複合体の好ましい例として、炭素繊維を鉄材に締結したものや、鉄粉と木炭などの炭素質物をセメントや粘土などで造粒したもの、鉄粉を焼酎滓や有機汚泥、デンプン、廃糖蜜などで焼成固化したもの、などのような従来公知のものを使用することができる。
なお、破壊硬度については海水もしくは淡水中に1ケ月浸漬させた後でも50N以上が好ましく、100N以上であることがより好ましい。
なお、焼結により作製される鉄-炭素複合体は、例えば下記(1)、(2)が好ましい例として挙げられる。
(1)鉄粉と炭素前駆体とを造粒焼結したもの(特許文献4参照)。
(2)塊状の炭素質物もしくは無機物の表面に、鉄粉を、炭素前駆体を用いて焼結固定したもの(特許文献5参照)。
なお、コールタールピッチの中でも固定炭素量が50%以上あるものが焼成時の形状維持の面からも好ましく、このようなコールタールピッチとしては、例えば、株式会社シーケム製のBPやIP(いずれも製品名)が例示される。
また、コールタールピッチは、例えば30~150℃に軟化点があるものが好ましい。このような軟化点を持つコールタールピッチの使用は、加熱しながら混合物を成型(造粒)するブリケットマシンや溶融造粒などの乾式造粒などの分子間力による造粒方法には非常に都合がよい。それらによる造粒後、それをそのまま焼成すれば良いので、効率良く鉄-炭素複合体10Aを製造することが可能である。
なお、造粒は人手にて行うことも可能であるが、作業性や安全性、形状制御などの面からは、ペレタイザやブリケットマシン等の造粒機の使用が好ましい。
なお、焼成は複数回行ってもよく、一度焼結した焼結材を鉄やマンガンなどの化合物の水溶液に浸漬したのち、再度焼成を行うこともできる。
鉄粒子11となる鉄原料としては、鉄-炭素複合体10Aと同様のものを用いることができる。
なお、コールタールピッチの中でも固定炭素分が50重量%以上あるものが焼成時の形状維持の面からも好ましく、このようなコールタールピッチとしては、例えば、株式会社シーケム製のBPやIP(いずれも製品名)が例示される。
また、コールタールピッチは、例えば30~150℃の範囲内に軟化点があるものが好ましい。このような軟化点を持つコールタールピッチの使用は、加熱しながら混合物を成型(造粒)するブリケットマシンや、溶融造粒に代表される乾式造粒などの分子間力による造粒方法には非常に都合がよい。これらの方法により、核材13に鉄粒子11を付着させた後、そのまま焼成すれば良いので、効率良く鉄-炭素複合体10Bを製造することが可能である。
結着助剤は、焼成時に分解もしくは炭化するものであればよく、例えば、ゼラチンやデンプン糊、廃糖蜜、リグニンスルホン酸塩、コンニャク飛粉、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、デキストリン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などが好適である。結着助剤を使用する場合、有機バインダーと結着助剤の重量配合比(有機バインダー:結着助剤)は、例えば99:1~30:70とすることが好ましい。このような範囲内となるように結着助剤の配合比を調整することによって、鉄粒子11の付着性や鉄イオンの溶出等に悪影響を及ぼすことなく、鉄-炭素複合体10Bを容易に製造することができる。
鉄粒子11の結着性は、所定量の鉄-炭素複合体10Bを、ミキサーなどを用いて一定時間機械的に撹拌することによって評価することが可能である。鉄粒子11の結着性は、撹拌前の鉄-炭素複合体10Bの重量aに対する撹拌後の鉄-炭素複合体10Bの重量bの比率[(b/a)×100%]として表すことができる。結着性は、95%以上あることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。鉄粒子11の結着性が95%未満であると鉄粒子11の脱落が多くなる。
焼成には、例えば、リードハンマー炉、トップチャージ炉、シャトル炉、トンネル炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルンあるいはマイクロウェーブ等の設備を用いることができるが、特にこれらに限定されるものではなく、連続式又はバッチ式のどちらであってもよい。焼成温度は有機バインダーが炭化する温度であれば特に制限はないが、少なくとも500℃以上であることが好ましい。特に有機バインダーとしてバインダーピッチを使用する場合は、ベンゾピレンなどの芳香族化合物が残留することが無いようにするため、焼成温度は700℃以上であることがより好ましく、900℃以上が更に好ましく、1000℃以上であることが最も好ましい。500℃以上の不活性または還元雰囲気下で焼成を行うことにより、有機バインダーを確実に炭化させるとともに、鉄原料中に含まれる酸化鉄の還元も行うことができる。焼成により得られた鉄-炭素複合体10Bは、BODの増加や有害な化学物質および重金属の溶出などの環境負荷がなく、局部電池効果によって2価鉄イオンを速やかに、かつ多量に溶出することができる。焼成工程を経た鉄-炭素複合体10Bは、その後、不活性または還元雰囲気下のまま徐冷、もしくは徐冷の後、大気雰囲気下で取り扱いが可能な温度まで放冷されたのち、使用に供される。
本発明の底質からの硫化水素の発生抑制方法は、鉄-炭素複合体を硫化水素の発生のおそれがある水域に浸漬することによって行われる。このとき、鉄-炭素複合体の浸漬は、湖沼や港湾といった外界との水の交換が少ない閉鎖性水域が好ましいが、河口などのある程度流れのある場所も構わない。また、浸漬に際しては淡水域もしくは海域、汽水域のいずれであっても構わないが、水中の電気伝導度が高いことが好ましく、さらに塩化物イオンもしくは硫酸イオンが比較的多量に存在する場所がより好ましい。
また、水面100aからの深さD1が50cmよりも浅いと、発生した水酸化鉄が海流や波浪などによって拡散してしまうために、硫化水素の発生を抑制するに十分な水酸化鉄の沈降と底質への供給、堆積が困難になる。また、水底101からの距離D2が50cm未満となると、設置場所の深度や環境によっては溶存酸素が減少するために溶出した鉄イオンが水酸化鉄になりにくくなるため適さない。また、溶存酸素低下に伴い底棲生物への悪影響も懸念される。一方で、水底101からの距離D2が大きすぎると、発生した水酸化鉄が海流や波浪などによって拡散してしまうために、硫化水素の発生を抑制するに十分な水酸化鉄の沈降と底質への供給、堆積が困難になる。このような観点から、水底101からの距離D2は、水深や溶存酸素量にもよるものの、例えば50cm以上から設置箇所の水深の2/3の深さまでがより好ましく、50cm以上から設置箇所の水深の1/2の深さまでがさらに好ましい。なお、水温躍層や密度躍層が形成されるような環境においては、前記位置に加えて、D2は少なくとも形成された躍層よりも浅い位置とすることが好ましい。
海水中では、鉄イオン(Fe2+)は酸化され、水酸化物となるが、その主体は、非常に微細なγ-FeOOHのオキシ水酸化鉄(含水酸化鉄)であり、Fe2O3やFe3O4に比べ結晶性が低いために、反応性が高く、硫化水素をトラップしやすいのでより都合がよい。また、水酸化鉄は、Fe3+であることから溶存酸素を低下させることもない。
なお、鉄のみの場合にも、同様に水酸化鉄(ここでは、含水酸化鉄やFe(OH)3を意味する)や酸化鉄(Fe2O3やFe3O4)が発生するが、強硬な酸化鉄皮膜が覆い安定した含水酸化鉄の発生能力は低下する。
つまり、本発明の硫化水素の発生抑制は、
(i)すでに底質から発生している硫化水素の水酸化鉄によるトラップ、
(ii)堆積した水酸化鉄によってヘドロ化した底質のORPを上昇させて、硫酸塩還元菌の活動を抑制することによる硫化水素の発生の抑制、
という2つの作用によるものであるといえる。そして、鉄-炭素複合体を水酸化鉄の大量かつ長期的、安定的な供給ソースとして水面近くで浸漬した状態におくことによって、前記硫化水素の発生抑制メカニズムを長期間働かせることができるのである。
また、潮汐や波浪を利用して水酸化鉄の発生と、沈降を促進することを目的に、鉄-炭素複合体とともに収容体20の内部に浮きを収納してもよい。浮きは、収容体20が水面に完全に浮上しない程度の浮力を与えるような数や量で、鉄-炭素複合体とともに収納することが好ましい。
また、収容体20からの水酸化鉄の放出を効率的に行うため、図示は省略するが、水流を利用して、収容体20全体の揺動を促進する揺動促進手段や、収容体20の全体の回転を促進する回転促進手段などを付属させてもよい。揺動促進手段、回転促進手段としては、例えば水流に対する抵抗を増大させる短冊状の薄板などを用いることができる。さらに、水酸化鉄の発生を促進するために、収容体20の内部へのエアレーションを行う装置や、動力によって収容体20を揺動させたり、回転させたりする揺動装置や回転装置などを設けてもよい。
造粒物の崩壊する荷重(座屈する荷重)を圧壊荷重(破壊硬度)とした。荷重測定には、藤原製作所 木屋式硬度計1600-C(最大200N)を使用し、サンプルに圧縮荷重を加え、最大荷重を圧壊荷重とし、造粒物5点の平均値を採用した。
ヘドロから1cm上の水をピペットで採取し、株式会社共立理化学研究所のパックテスト(型式:WAK-S)にて測定した。
ヘドロから1cm上の部位にORP電極(株式会社堀場製作所:LAQUA act D-74 電極型式:9300)を設置し、ヘドロ直上の海水のORPを測定した。
ヘドロから1cm上の部位にpH電極(堀場製作所:LAQUA F-72 電極型式:9615S)を設置し、ヘドロ直上の海水のpHを測定した。
800℃で焼成した造粒物(約2.0g)を30mlの海水中に開放状態で浸漬し、7日後に造粒物のみを取り出し、発生した水酸化鉄を採取し、10%硝酸1mlを添加、加熱することで溶解し、鉄イオン発生量を、株式会社共立理化学研究所のパックテスト(型式:全鉄WAK-Fe)にて測定した。
発生した鉄イオン溶出速度は、発生鉄量÷浸漬日数÷造粒物重さで求めた。
図1に示したものと同様の構成を有する鉄-炭素複合体10Aを使用した。すなわち、鋳鉄粉(竹内工業株式会社製、28メッシュアンダー品 炭素:2~4重量%、Si:4重量%以下、Mn:0.5~1.5重量%、P:0.03重量%以下、S:0.03重量%以下)とニードルコークス粉(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、9メッシュアンダー)をバインダーピッチ(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、軟化点:90℃)とデンプン(浅田製粉株式会社製、ライ麦粉α化品)を用いてブリケットマシンにて造粒(ポケット:18×14×深さ3.3mm)し、非酸化性雰囲気下800℃の温度で焼結して鉄-炭素複合体10Aを作製した。表1に、使用した鉄-炭素複合体10Aの詳細を示す。
底面の内直径が55mmで容量220mlの丸型ねじ口瓶に150mlのヘドロ(福岡県平松漁港にて採取)を入れ、次いで、直径30mm(内直径21mm)、高さ25cmのアクリル製の円筒を取り付けたふたをし、天然海水(福岡県平松漁港にて採取)を瓶内のヘドロが巻き上がらないように静かに230ml注ぎ込み、水層容量/へドロ層容量が1.5となるようにした。鉄-炭素複合体10Aは円筒の上部からナイロン糸で結わえて回転駆動部80から吊り下げて5mm径の空気穴を設けた栓をした。
ねじ口瓶は恒温水槽に設置し、27℃の温度にセットして静置し、10日間馴致したのち、11日目に円筒内の部分の海水を入れ替え、回転駆動部80を起動して100rpmの速度で鉄-炭素複合体10Aを回転させながら約50日間さらに静置して瓶内の海水のORP、硫化水素濃度を定期的に測定した。
実施例1における試験装置の概要を図5(a)に、評価結果を図6に示す。図5(a)において、符号50は試験容器、符号60はヘドロ、符号70は海水、符号80は回転駆動部を意味する(図5(b)~(d)において同様である)。なお、鉄-炭素複合体10Aは、ブリケット成型し、800℃で焼成した造粒物(重さ:2.0g)を使用した。
底面の内直径が55mmで容量220mlの丸型ねじ口瓶に150mlのヘドロ(福岡県平松漁港にて採取)を入れ、鉄-炭素複合体10Aを投入しなかったもの(比較例1;図示省略)、鉄-炭素複合体10Aをヘドロ上に置いたもの(比較例2;図5(b)参照)、鉄-炭素複合体10Aをヘドロ中(ヘドロから2.5cm下)に埋めたもの(比較例3;図5(c)参照)、ヘドロ上に水酸化鉄21mg相当を散布したもの(比較例4;図5(d)参照)を作製した。なお、比較例4では、鉄-炭素複合体10Aを海水中に浸漬することによって生成した水酸化鉄を回収し、40℃で乾燥したものを使用した。図5(d)において、水酸化鉄層を符号90で示す。
次いで、直径30mm(内直径21mm)、高さ25cmのアクリル製の円筒を取り付けたふたをし、天然海水(福岡県平松漁港にて採取)を瓶内のヘドロが巻き上がらないように静かに230ml注ぎ込み、水層容量/へドロ層容量が1.5となるようにした。円筒は上部に5mm径の空気穴を設けた栓をした。
ねじ口瓶は恒温水槽に設置し、27℃の温度にセットして10日間馴致したのち、11日目に円筒内の部分の海水を入れ替え、さらに約50日間静置して瓶内の海水のORP、硫化水素濃度を定期的に測定した。
以上の比較例1~4の評価結果を図6に示す。
一方、実施例1については、上部に吊るした鉄-炭素複合体10Aから継続して発生した鉄イオンが溶存酸素と反応して水酸化鉄に変化し、回転により鉄-炭素複合体10Aから剥離・沈降して絶えずヘドロ表面に供給されるため、静置50日経過後でも茶褐色の水酸化鉄層がヘドロ表面に堆積していた。このような機構によって、実施例1では、硫化水素がほとんど発生せず、ORPも高い状態を継続しつづけることが確認され、発明の効果を実証することができた。
Claims (4)
- 底質からの硫化水素の発生を抑制する方法であって、
鉄と炭素を含む複合体を、浸漬深さが水面を基準として50cm以上の深さであって水底からの距離が50cmまでの範囲内の水中に浸漬して、局部電池効果により鉄イオンを発生せしめ、発生した前記鉄イオンを溶存酸素によって水酸化鉄に変化させて沈降させることによって、前記底質表面に連続的に供給することを特徴とする底質からの硫化水素の発生抑制方法。 - 前記複合体の破壊硬度が50N以上である請求項1に記載の底質からの硫化水素の発生抑制方法。
- 前記複合体として、下記(1)、(2)のいずれか一種を用いる請求項1又は2に記載の底質からの硫化水素の発生抑制方法。
(1)鉄粉と炭素前駆体とを造粒焼結したもの。
(2)塊状の炭素質物もしくは無機物の表面に、鉄粉を、炭素前駆体を用いて焼結固定したもの。 - 前記複合体の水中への浸漬が、前記水酸化鉄が沈降可能な収容体に前記複合体を収納し、水中に吊り下げることによる請求項1から3のいずれか1項に記載の底質からの硫化水素の発生抑制方法。
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