以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1は、水中推進装置の第1実施形態として、本発明の水中推進装置をメインの推進装置として備えた水中航走体の概略切断側面図である。図2は水中推進装置における制御系を示す図である。図3は、制御装置の処理の一例を示すフロー図である。
本実施形態の水中推進装置は、図1に符号1で示すもので、一軸方向として、水中航走体2の航走方向となる前後軸方向に延びるケーシング3と、ケーシング3の一端側としての前端側に取り付けられたモータ4と、モータ4の出力軸5の回転により回転する駆動側ゴム保持部6と、ケーシング3の他端側としての後端側に回転可能に保持されたプロペラ軸7と、プロペラ軸7に取り付けられたプロペラ8と、プロペラ軸7を回転する従動側ゴム保持部9と、駆動側ゴム保持部6と従動側ゴム保持部9との間に掛けられたゴム10とを備え、更に、図2に示すモータ4の運転を制御する制御装置11を備えた構成とされている。
本実施形態の水中推進装置1を適用する水中航走体2は、機体12の内側に、機体12の後端側から前後軸方向に沿って前方に向けて延びる収容空間13を備えている。また、機体12における収容空間13の後側となる位置には、端壁14が、収容空間13と外部とを仕切る姿勢で取り付けられている。
なお、図示しないが、水中航走体2は、本実施形態の水中推進装置1を、従来の推進装置に代えて備える点以外は、既存の水中航走体と同様の構成と機能を備えている。すなわち、水中航走体2は、たとえば、慣性航法装置、DVLのような対水対地速度計、音響測位装置、全地球航法衛星システム(GNSS)などを用いた自機位置の検出装置と、操舵装置と、設定された航走経路を記憶する記憶部と、航走制御装置と、音響通信や無線通信用の通信機などを備えている。
本実施形態では、水中航走体2の機体12における収容空間13の周囲の壁と、端壁14が、水中推進装置1のケーシング3として機能している。
モータ4は、収容空間13の前端寄りとなる個所に、出力軸5を後方に向けた姿勢で配置されている。この状態で、モータ4は、固定部材15を介して収容空間13の壁に取り付けられている。
図1では、固定部材15は、一例として、外周部が収容空間13の周壁に取り付けられた板状の部材の中央部に、前後方向に貫通する開口16を備えた構成のものとして示してある。これにより、モータ4は、開口16に出力軸5を挿通させた状態で、固定部材15の前面側に取り付けることで、固定部材15を介して収容空間13の周壁に固定されている。
なお、固定部材15は、本実施形態の水中推進装置1の使用時にモータ4に作用する力に抗してモータ4の位置を保持できるようにしてあれば、固定部材15の形状や、モータ4に対する取り付け位置と取り付け方、収容空間13の壁に対する取り付け位置と取り付け方は、それぞれ自在に設定してよいことは勿論である。
駆動側ゴム保持部6は、本実施形態では、図1に示す如きフック形状を備えて、モータ4の出力軸5の先端側に、直接取り付けられた構成とされている。
なお、駆動側ゴム保持部6は、後方から掛けられるゴム10を外れないように保持することができれば、図示したフック形状以外の形状としてもよいことは勿論である。
端壁14には、中央部に、前後方向に貫通する孔17が設けられている。端壁14の後面には、孔17の周縁に沿って、リング状のスラスト軸受18が設けられている。
プロペラ軸7は、長手方向の中間部が、端壁14の孔17およびスラスト軸受18に挿通して配置されている。更に、プロペラ軸7には、長手方向におけるスラスト軸受18のすぐ後方となる位置に、周方向の全周に亘り外周側に突出するスラスト受け19が設けられている。これにより、プロペラ軸7に前向きの力が作用している状態のときには、スラスト受け19がスラスト軸受18に後方から接して受けられるため、この状態でプロペラ軸7は円滑に回転することができる。
機体12から後方に突出するプロペラ軸7の後端側には、プロペラ8が取り付けられている。プロペラ8は、水を後方へ押す機能を得るために、使用時の回転方向が定められている。このプロペラ8の回転方向は、以下、所定の回転方向という。
これにより、本実施形態の水中推進装置1では、プロペラ8を所定の回転方向へ回転ささせると、前方への推力が発生し、この推力が、プロペラ軸7およびスラスト受け19を介して、スラスト軸受18が取り付けられた端壁14へ、更には、端壁14から機体12へ付与される。このため、本実施形態の水中推進装置1は、プロペラ8を所定の回転方向へ回転駆動することにより、水中航走体2を前方へ航走させることができる。
なお、プロペラ8は、直径を大きくし、回転を低速とすることにより、プロペラ効率が高まることが一般に知られている。
また、ゴム10から従動側ゴム保持部9を介してプロペラ軸7に付与される力の特性は、ゴム10を後述するように設定される最大の巻き数まで巻いたときに、プロペラ軸7に作用するトルクが最大となり、ゴム10が巻き戻ることに伴ってプロペラ軸7に作用するトルクは徐々に小さくなる。このプロペラ軸7に作用するトルクは、試験や数値計算により推定することができる。
そこで、本実施形態の水中推進装置1では、プロペラ8は、たとえば、2枚羽根とされ、更に、ゴム10よりプロペラ軸7に最大のトルクが作用する状態であっても、プロペラ8が水の抵抗を受けながら回転することで、キャビテーションを生じるような回転数に達することがなく、できるだけプロペラ効率が1に近くなるように、直径および形状が設計されている。
これにより、本実施形態の水中推進装置1は、水中航走体2の前方への航走を行うときには、前記の設計に基づき、大径のプロペラ8がゆっくりと回転するものとなる。
従動側ゴム保持部9は、本実施形態では、図1に示す如きフック形状を備えて、収容空間13の内側に突出しているプロペラ軸7の前端側に、直接取り付けられた構成とされている。
なお、従動側ゴム保持部9は、前方から掛けられるゴム10を外れないように保持することができれば、図示したフック形状以外の形状としてもよいことは勿論である。
ゴム10は、駆動側ゴム保持部6と、従動側ゴム保持部9との間に前後方向に延びるように配置された動力用ゴムであり、前後の両端側が駆動側ゴム保持部6と、従動側ゴム保持部9にそれぞれ掛けられて保持されている。
この状態で、モータ4の運転により、出力軸5を介して駆動側ゴム保持部6を、プロペラ8の所定の回転方向と同じ回転方向へ回転させる。この際、プロペラ軸7に取り付けられた従動側ゴム保持部9の回転速度は、前記したように水の抵抗を受けながら回転するプロペラ8の回転速度に応じて制限される。そこで、モータ4は、駆動側ゴム保持部6を、従動側ゴム保持部9の回転速度よりも速い回転速度で回転させることができるものとする。これにより、ゴム10は、駆動側ゴム保持部6と従動側ゴム保持部9との回転の差に応じて、巻かれた状態に弾性変形して、エネルギーを蓄積することができる。
たとえば、モータ4による駆動側ゴム保持部6の回転数がR1[rpm]、プロペラ軸7と一体の従動側ゴム保持部9の回転数が、R2[rpm](ただしR2<R1)のときには、ゴム10を、1分間当たり、(R1−R2)回転分、巻くことができる。
この際、図2に示すように、駆動側ゴム保持部6が回転した回数を計測する駆動側カウンタ20と、従動側ゴム保持部9が回転した回数を計測する従動側カウンタ21とを備えた構成とすれば、ゴム10の巻き数は、駆動側カウンタ20による駆動側ゴム保持部6の回転した回数の計測値と、従動側カウンタ21による従動側ゴム保持部9の回転した回数の計測値との差として検出することができる。
なお、駆動側カウンタ20は、駆動側ゴム保持部6の回転した回数を直接計測するものであってもよいし、モータ4の出力軸5が回転した回数を計測し、その計測結果を基に、駆動側ゴム保持部6の回転した回数を求める機能を備えるものであってもよい。更に、駆動側カウンタ20は、モータ4に装備された図示しないエンコーダが出力するモータ4の回転に関する情報を基に、駆動側ゴム保持部6の回転した回数を求める機能を備えていてもよい。
従動側カウンタ21は、従動側ゴム保持部9の回転した回数を直接計測するものであってもよいし、プロペラ軸7やプロペラ8が回転した回数を計測し、その計測結果を基に、従動側ゴム保持部9の回転した回数を求める機能を備えていてもよい。
ゴム10は、巻き過ぎると切れるので、ゴム10を、繰り返し巻いても断裂が生じない範囲で、最大の巻き数が設定される。
具体的には、たとえば、水中航走体2の一回の運用で航走する経路が決まれば、その経路の距離などに応じて、水中航走体2の一回の運用中に、本実施形態の水中推進装置1にてゴム10を巻く操作が必要となる回数は推定できる。よって、その推定されたゴム10を巻く操作の回数に、設定された余裕分を足した回数、ゴム10を最大の巻き数まで繰り返し巻いても断裂が生じない範囲で、最大の巻き数を設定するようにすればよい。
更に、ゴム10は、前記のように巻かれてエネルギーを蓄積した状態になると、その巻かれた状態から巻き戻ろうとする復元力を発揮する。このとき、モータ4の出力軸5および駆動側ゴム保持部6が所定の回転方向とは逆の方向へ回転しないようにしてあれば、ゴム10が巻き戻ろうとする復元力は、従動側ゴム保持部9を介して、プロペラ軸7およびプロペラ8に、所定の回転方向へ回転させるための駆動力として付与することができる。
ゴム10は、たとえば、ゴム動力方式の模型などで用いられているような、数ミリメートル程度の太さの紐状のゴムを束ねて輪にしたものを使用することが好適である。これは、ゴム動力方式の模型の分野で蓄積された動力用ゴムについて得られている経験則や実績を基に、本発明の水中推進装置1で用いるゴム10の量と長さ、ゴム10に蓄積すべきエネルギー量、ゴム10の最大巻き数の設定などの設計を行うことが可能になるためである。
たとえば、ゴム動力方式の模型の分野で使用されているゴムには、1[g]で、約10[J]のエネルギーを蓄積できるものがある。
また、競技用ゴム動力飛行機では、約700mmの長さに、1250gのゴムを掛けて巻き数を2000回とした結果、約45分間の滞空時間を得たという記録がある。この場合、平均出力は、ギヤによる損失がない構成として概算すると、
12500[J]/2700[s]=4.6[W]
になる。
これに対し、たとえば、本実施形態の水中推進装置1を適用する水中航走体2は、全長が約3500mmの場合は、ゴム10の長さを約2800mmに設定することが可能である。この場合、ゴム10の単位長さ当たりの重量が前記条件と同様であるとすると、ゴム10は、約5000[g]搭載可能となり、蓄積可能なエネルギーEは、約50000[J]となる。
この場合、水中航走体2の流体抵抗が、たとえば、
D[N]=α×v×v
ここで、α≒8[kg/m]、v:速度[m/s]
であるとする。
また、プロペラ8は、大径のプロペラ8がゆっくりと回ることに伴い、たとえば、プロペラ軸7の図示しないシールの損失(抵抗(一定)×回転速度)は無視することができるものとする。
プロペラ8の効率は、1に近いものとすれば、必要な仕事率は、
P[W]=D×v=α×v×v×v
となる。
一般に、ゴム動力を用いた移動体では、ゴムの巻き数が多いほど速度が大となり、ゴムが巻き戻って巻き数が少なくなるに従い速度は低下する。しかし、ここでは、計算を簡単にするために、本実施形態の水中推進装置1を備えた水中航走体2の速度を一定と考えると、本実施形態の水中推進装置1では、ゴム10が巻かれてエネルギーEが約50000[J]蓄積された状態からであれば、
航続時間は、t[s]=E/P=E/(α×v×v×v)
航続距離は、S[m]=t×v=E/(α×v×v)
で求めることができる。
水中航走体2の速度が1ノット(0.514[m/s])、2ノット(1.028[m/s])、3ノット(1.543[m/s])の場合は、それぞれの場合の仕事率P[W]、航続時間t、航続距離Sは次の表のようになる。なお、表では、速度vは、単位を、メートル毎秒に代えて、水中航走体2の航走速度の単位として一般的に使用されているノットで示してあり、これに伴い、航続時間tは、単位を秒から時間に換算して示してあり、また、航続距離Sは、単位をメートルからキロメートルに換算して示してある。
なお、ゴム10は、駆動側ゴム保持部6と従動側ゴム保持部9との間に掛けられた状態で、モータ4の運転により巻かれた状態に弾性変形することによってエネルギーを蓄積することができ、その巻かれた状態から巻き戻る復元力により、プロペラ軸7に回転駆動力を付与できる機能を備えていればよい。したがって、本実施形態の水中推進装置1では、ゴム10は、前記した紐状のゴムを束ねて輪にしたもの以外の任意の形状のものを採用してもよいことは勿論である。
収容空間13の内部には、液体として、シリコーンオイルのようなオイル22が満たされている。なお、オイル22は、ゴム10およびモータ4、更には、収容空間13の内部に配置された各機器の素材を侵さないものを使用する。これにより、収容空間13の内部の機器は、モータ4およびゴム10も含めて油漬けにされて均圧化されている。図1では、オイル22は、ドットのハッチングを付して示してある。
したがって、本実施形態の水中推進装置1は、水中では、収容空間13の内部が、外部の水圧と等しい圧力になる。よって、本実施形態の水中推進装置1は、収容空間13を囲むケーシング3となる部分については、外部から作用する水圧に耐え得る耐圧構造を特に必要としない構成とすることができる。
収容空間13の端壁14の孔17には、プロペラ軸7との隙間を塞ぐ図示しないシールを備えた構成としてある。なお、このシールは、水中航走体2が船上や地上などで空気中に配置されているときには、収容空間13に満たされているオイル22と、外部の空気との交換を防ぐ仕切りとして機能すればよい。また、このシールは、水中航走体2が水中に配置されているときには、収容空間13に満たされているオイル22と、外部の水との混合や交換を防ぐ仕切りとして機能すればよい。よって、このシールは、簡易な構造のものとすることができる。
更に、端壁14の孔17と、プロペラ軸7との隙間が狭くて、収容空間13に満たされたオイル22と、外部の空気または水との自由な交換や混合を抑制できる場合は、前記シールを省略した構成としてもよい。
なお、収容空間13の内部は、オイル22のような液体を満たさない構成としてもよく、この場合は、端壁14の孔17の部分に、プロペラ軸7との隙間を、水圧に抗して水密に保つためのシールまたはカップリングを備えるようにすればよい。
制御装置11は、図3にフロー図を示す制御則に基づいて、図2に示すように、モータ4に運転開始指令C1と運転停止指令C2を与える機能を備えている。
以下、制御装置11による制御の説明に即して本実施形態の水中推進装置1の作用について説明する。
水中航走体2は、本実施形態の水中推進装置1におけるゴム10の巻き数が少なくなるに従って、航走する速度が低下する。そのため、水中航走体2に所望される最低限の航走速度を得るためには、ゴム10に最低限必要とされる巻き数が定まる。このように定められた巻き数が、ゴム10の最小の巻き数Xaとして設定されて、制御装置11に保存されている。
また、制御装置11には、ゴム10の巻き過ぎを防ぐために前記のように設定されたゴム10の最大の巻き数Xbが保存されている。
この状態で、制御装置11は、図3に示すように、設定された時間間隔で、駆動側カウンタ20から駆動側ゴム保持部6の回転した回数の計測値x1を取得し、従動側カウンタ21から従動側ゴム保持部9の回転した回数の計測値x2を取得する(ステップS1)。
次に、制御装置11は、計測値x1と計測値x2の差として、ゴム10の現在の巻き数X(=x1−x2)をリアルタイムで求める(ステップS2)。
次いで、制御装置11は、モータ4が停止しているか否かの判断を行う(ステップS3)。制御装置11は、モータ4が停止していると判断される場合には、ステップS4に進む。一方、モータ4が停止していないと判断される場合、すなわち、モータ4が運転中の場合には、制御装置11は、ステップS7に進む。制御装置11のステップS7以降の処理については後述する。
ステップS4では、制御装置11は、前記ステップS2で求めたゴム10の現在の巻き数Xが、設定されたゴム10の最小の巻き数Xaよりも少なくなっているか否かを判断する。
前記ステップS4にて、ゴム10の現在の巻き数Xが、最小の巻き数Xaよりも少なくなっている場合は、制御装置11は、ステップS5に進み、モータ4に運転開始指令C1を与える。
これにより、本実施形態の水中推進装置1では、モータ4が、制御装置11より受け取る運転開始指令C1に従って運転を開始する(ステップS6)。
このモータ4の運転により回転する駆動側ゴム保持部6の回転数R1[rpm]は、従動側ゴム保持部9の回転数R2[rpm]よりも速く設定されているので、ゴム10は、回転数R1[rpm]と回転数R2[rpm]の差に応じた速さでの巻きが開始される。このため、ゴム10は、現在の巻き数Xが増加する。
制御装置11は、前記ステップS6の後は、ステップS1に戻り、設定された時間間隔で、ステップS1からの処理を再開する。
一方、前記ステップS3でモータ4が停止中と判断され、その後、前記ステップS4にて、ゴム10の現在の巻き数Xが、最小の巻き数Xa以上であると判断される場合は、本実施形態の水中推進装置1では、ゴム10が巻かれた状態から巻き戻るときの復元力によるプロペラ8の回転が行われている状態である。このとき、水中航走体2は、所望される最低限の航走速度以上の速度で航走している。よって、この場合、制御装置11は、モータ4への指令を発することなく、ステップS1に戻る。
制御装置11は、ステップS1に戻った後は、設定された時間間隔で、ステップS1からの処理を再開する。
したがって、制御装置11は、前記ステップS4にて、ゴム10の現在の巻き数Xが、最小の巻き数Xa未満になったと判断されるまでは、ステップS1からステップS4の処理ループを繰り返し実施する。
前記ステップS6で、制御装置11からの運転開始指令C1に従ってモータ4が運転を開始し、その後、ステップS1に戻った場合は、制御装置11は、ステップS1から再開した処理がステップS3に進んだ時点で、モータ4が運転中であると判断するようになる。よって、この場合は、制御装置11は、ステップS7に進む。
ステップS7では、制御装置11は、ゴム10の現在の巻き数Xが、最大の巻き数Xb以上であるか否かを判断する。
前記ステップS7にて、ゴム10の現在の巻き数Xが最大の巻き数Xb以上ではない、すなわち、現在の巻き数Xが最大の巻き数Xb未満であると判断される場合は、モータ4の運転に伴いゴム10を巻く処理が行われている状態ではあるが、ゴム10は、最大の巻き数Xbに達するまでに更に巻くことができる状態である。
よって、この場合は、制御装置11は、ステップS7からステップS1に戻り、ステップS1からステップS7までの処理ループを繰り返すことで、モータ4の運転によってゴム10を巻く処理を継続して実施する。
前記ステップS7にて、ゴム10の現在の巻き数Xが最大の巻き数Xb以上であると判断されるようになった場合は、制御装置11は、ステップS8に進み、モータ4に運転停止指令C2を与える。
これにより、本実施形態の水中推進装置1では、モータ4が、制御装置11より受け取る運転停止指令C2に従って運転を停止する(ステップS9)。このとき、ゴム10の現在の巻き数Xは、最大の巻き数Xbに達した状態になっている。
制御装置11は、前記ステップS9の後は、ステップS1に戻り、設定された時間間隔で、ステップS1からの処理を再開する。
したがって、本実施形態の水中推進装置1は、図3に示した処理が制御装置11で実施されることにより、ゴム10の現在の巻き数Xが、最小の巻き数Xa未満の場合は、制御装置11からの運転開始指令C1によりモータ4の運転が開始されて、ゴム10を巻く操作が行われるようになる。
このゴム10の巻き操作によって、ゴム10の現在の巻き数Xが最大の巻き数Xbに達すると、制御装置11からの運転停止指令C2によりモータの運転が停止される。
本実施形態の水中推進装置1では、前記のようにモータ4の運転が開始されてから停止されるまでゴム10の巻き操作が行われている期間であっても、巻かれている最中のゴム10が巻き戻ろうとする復元力によってプロペラ軸7と共にプロペラ8の回転は行われる。このモータ4の運転によりゴム10を巻きながらプロペラ8の回転駆動を行う期間は、以下、第1駆動パターンの期間という。
よって、この第1駆動パターンの期間では、本実施形態の水中推進装置1は、水中航走体2に前進航走を行わせることができる。
また、本実施形態の水中推進装置1は、ゴム10が最大の巻き数Xbまで巻かれた状態でモータ4の運転が停止されると、モータ4が停止された時点から、ゴム10が最小の巻き数Xaまで巻き戻るまでの期間は、巻かれたゴム10に蓄積されたエネルギーのみによってプロペラ8の回転駆動が行われる。このモータ4の運転を伴わずにゴム10の巻き戻る力のみによってプロペラ8の回転駆動を行う期間は、以下、第2駆動パターンの期間という。
よって、本実施形態の水中推進装置1は、この第2駆動パターンの期間中も、水中航走体2に前進航走を行わせることができる。
このように、本実施形態の水中推進装置1によれば、モータ4を運転しながら水中航走体2に推進力を付与する第1駆動パターンの期間と、水中航走体2に推進力を付与しつつ、モータ4の運転は停止する第2駆動パターンの期間とを交互に設けることができる。
よって、本実施形態の水中推進装置1は、第2駆動パターンの期間のときには、モータ4の運転に起因する超音波領域の音響ノイズを発生させることなく、水中航走体2の航走を実施することができる。
この第2駆動パターンの期間では、水中航走体2は、たとえば、前記の表に示したように、速度が1ノットであれば約23.6km、速度が2ノットであれば約5.9km、速度が3ノットであれば約2.6kmの距離を航走することができる。
したがって、本実施形態の水中推進装置1を備えた水中航走体2は、たとえば、航走しながら水中航走体2に搭載された図示しない音響計測装置による音響計測を行うときには、前記第2駆動パターンの期間中に、音響計測装置による音響計測を行うようにすればよい。
これにより、音響計測装置では、音響計測の結果を、モータ4の運転に起因する超音波領域の音響ノイズの影響を受けない状態で得ることができる。このため、音響計測装置については、音響計測の精度の向上化や、音響計測による探知能力の向上化を図ることが可能になる。
更に、本実施形態の水中推進装置1を備えた水中航走体2では、本実施形態の水中推進装置1の前記第2駆動パターンの期間中に、母船との音響通信や、母船からの音響測位を行うようにすれば、その音響通信や音響測位を、モータ4の運転に起因する超音波領域の音響ノイズの影響を受けない状態で実施することが可能になる。
[第1実施形態の応用例]
ところで、水中航走体2を海底の探査に用いる場合には、図4に示すように、海底に、音響計測装置による音響計測の対象となる探査範囲23が設定され、この探査範囲23に、水中航走体2の航走経路24が次のような配置で設定されることがある。
すなわち、探査範囲23には、探査範囲23の全面を音響計測装置の音響計測可能なレンジで漏れなく覆うために、水中航走体2を航走させるための直線状に延びる探査用経路25が、設定された間隔で平行に複数配列される。
各探査用経路25には、予め航走順序が設定される。図4では、5つの探査用経路25が、航走順序の順に並ぶように配置された例が示してある。
更に、探査範囲23の外側には、航走順序が並ぶ2つの探査用経路25のうち、航走順序が前の探査用経路25の終点25eから、航走方向を180度反転させて航走順序が次の探査用経路25の始点25sへ向かう接続用経路26が設定される。
したがって、各探査用経路25が対応する接続用経路26により順次接続されて、水中航走体2を航走させるための一連の航走経路24が設定される。
なお、このような航走経路24に沿い水中航走体2を航走させる場合は、航走経路24上における各探査用経路25の始点25sと終点25eとなる地点に、図4に示すようにウェイポイントWPを設定して、水中航走体2をウェイポイント制御することが一般的に行われている。
図4に示した如き航走経路24にて、本実施形態の水中推進装置1を備えた水中航走体2を航走させて、音響計測装置による音響計測を行う場合は、探査範囲23に設定される個々の探査用経路25の距離が、本実施形態の水中推進装置1における第2駆動パターンの期間中に水中航走体2が航走可能な距離に収まるように設定すればよい。
すなわち、水中航走体2の速度が1ノット、2ノット、3ノットの場合、1つの探査用経路25の距離が、それぞれ23.6km以下、5.9km以下、2.6km以下の距離となるように設定すればよい。
なお、このように探査用経路25の距離が設定された場合、本実施形態の水中推進装置1は、探査用経路25の途中の位置で、ゴム10の巻き数が最小の巻き数Xa未満にならないようにする必要がある。
そこで、本応用例では、制御装置11は、図2に一点鎖線で示すように、水中航走体2の記憶部27から、図4に示した如き航走経路24における各探査用経路25の始点25sと終点25eのウェイポイントWPの情報を取得すると共に、水中航走体2の自機位置の検出装置28から水中航走体2の現在位置の情報を取得する機能を備える。
更に、制御装置11は、水中航走体2の現在位置が、航走経路24において、探査用経路25上ではなく、且つ、次に航走する探査用経路25の始点25sよりも上流側に位置している場合には、その探査用経路25の始点25sに到達するまでの距離と時間とを鑑みて、その探査用経路25の始点25sに到達する時点で、ゴム10の巻き数が最大の巻き数Xbになるように、モータ4に強制的に運転開始指令C1を与える機能を備えるようにすればよい。
また、制御装置11は、水中航走体2の現在位置が、航走経路24上で、或る探査用経路25の終点25eに到達した場合であって、接続用経路26を経て次の探査用経路25へ移動することが計画されている場合は、前記或る探査用経路25の終点25eに到達した時点から、次の探査用経路25の始点25sに到達するまでにゴム10の巻き数が最大の巻き数Xbになるように、モータ4に強制的に運転開始指令C1を与える機能を備えるようにすればよい。
このようにすれば、水中航走体2が航走経路24上で各探査用経路25の始点25sに到達するときには、いつもゴム10の巻き数が最大の巻き数Xbになる。
よって、制御装置11は、水中航走体2の現在位置が、航走経路24上で各探査用経路25の始点25sに到達した時点で、モータ4に運転停止指令C2を与えるので、本応用例の水中推進装置1は、各探査用経路25では、モータ4の運転を停止した第2駆動パターンの期間を開始させることができる。
よって、本応用例の水中推進装置1を備えた水中航走体2は、各探査用経路25を航走するときには、モータ4の運転に起因する超音波領域の音響ノイズを発生させることなく、音響計測装置による音響計測を行うことができる。
[第2実施形態]
図5は、水中推進装置の第2実施形態を示すもので、図5(a)は、水中推進装置を備えた水中航走体の概略切断側面図、図5(b)は、図5(a)のA−A矢視図である。
なお、図5(a)(b)において、第1実施形態と同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
本実施形態の水中推進装置1は、第1実施形態と同様の構成において、モータ4の出力軸5に取り付けられた1つの駆動側ゴム保持部6と、プロペラ軸7に取り付けられた1つの従動側ゴム保持部9との間にゴム10を掛けた構成に代えて、図5(a)(b)に示すように、モータ4の出力軸5と連動して回転する複数の駆動側ゴム保持部6と、プロペラ軸7と連動して回転する複数の従動側ゴム保持部9との間に、複数のゴム10を掛けた構成としたものである。
固定部材15には、開口16と外周部との間となる位置に、周方向の複数個所、たとえば、2個所に、回転軸29が、回転自在に取り付けられている。
モータ4の出力軸5には、駆動ギヤ30が取り付けられ、各回転軸29には、駆動ギヤ30に噛合する従動ギヤ31が取り付けられている。
各回転軸29の後端部には、個別の駆動側ゴム保持部6が取り付けられている。
これにより、モータ4の出力軸5が回転すると、駆動ギヤ30と従動ギヤ31とを介して各回転軸29に回転が伝達される。よって、各回転軸29に取り付けられた各駆動側ゴム保持部6は、モータ4の出力軸5と連動して回転する。この際、駆動ギヤ30と従動ギヤ31との歯数の比を調整することで、出力軸5が360度回転するときに各駆動側ゴム保持部6が回転する角度を適宜設定することができる。
たとえば、駆動ギヤ30の歯数が、従動ギヤ31の歯数に比して大となるように設定すれば、各駆動側ゴム保持部6を、出力軸5の回転速度よりも速い回転速度で回転させることができる。よって、この場合は、各駆動側ゴム保持部6に掛けられたゴム10を、モータ4の出力軸5が回転する回数よりも多く巻くことができる。
端壁14には、固定部材15に取り付けられた各回転軸29と前後方向に対向する配置で、2つの回転軸32が、回転自在に取り付けられている。
プロペラ軸7の前端側には、動力伝達用のギヤ33が取り付けられ、このギヤ33に噛合するギヤ34が、各回転軸32に取り付けられている。
これにより、プロペラ軸7が回転するときには、ギヤ33とギヤ34を介して各回転軸32に回転が伝達される。よって、各回転軸32に取り付けられた各従動側ゴム保持部9は、プロペラ軸7と連動して回転する。この際、ギヤ33とギヤ34との歯数の比を調整することで、プロペラ軸7と各従動側ゴム保持部9が回転する角度を適宜設定することができる。
たとえば、ギヤ33の歯数が、ギヤ34の歯数に比して大となるように設定すれば、プロペラ軸7を介してプロペラ8を回転させるトルクを増加させるのに有利な構成となる。
対向して配置されている2組の駆動側ゴム保持部6と従動側ゴム保持部9の間には、それぞれゴム10が掛けられている。
以上の構成としてある本実施形態の水中推進装置1は、第1実施形態の水中推進装置と同様に使用して同様の効果を得ることができる。
更に、本実施形態では、複数組の駆動側ゴム保持部6と従動側ゴム保持部9との間にゴム10を掛ける構成としてあるため、1組の駆動側ゴム保持部6と従動側ゴム保持部9との間に掛けることが可能なゴム10よりも多い量のゴム10を、動力源として使用することができる。したがって、本実施形態の水中推進装置1は、出力をより増加させる場合に有利な構成とすることができる。
なお、本発明は前記各実施形態と応用例にのみ限定されるものではなく、モータ4、駆動側ゴム保持部6、ゴム10、従動側ゴム保持部9、プロペラ8などの各構成機器や部材のサイズや、各構成機器や部材同士の寸法比は、図示するための便宜上のものであり、実際のサイズや寸法比を反映したものではない。また、水中航走体2とプロペラ8のサイズの比は、図示するための便宜上のものであり、実際のサイズの比を反映したものではない。
第2実施形態において、第1実施形態の応用例と同様な制御を行うようにしてもよい。
モータ4には、モータ4の運転を停止しているときに、ゴム10が巻き戻ろうとする力を受ける出力軸5が所定の回転方向とは逆方向へ回転しないようにするためのブレーキなどの逆回転防止手段を備えていてもよい。
また、モータ4の逆回転防止手段としては、モータ4の出力側にウォームギヤを用いたギヤボックスを設け、このギヤボックスの出力軸の回転により、駆動側ゴム保持部6が回転する機構を備える構成としてもよい。
図3に示した制御装置11の処理は一例であり、制御装置11は、ゴム10の巻きが少なくなると、それを検出してモータ4の運転を開始し、ゴム10の巻き数が設定された最大の巻き数Xbに達したら、モータ4の運転を停止する機能を備えていれば、処理のステップは図3に示した以外のものであってもよい。
たとえば、ゴム10の巻き数とプロペラ8の回転速度には相関があるため、制御装置11は、ゴムの巻き数を、水中航走体2の対水速度を基に推定する機能を備えるようにしてもよい。
前記各実施形態と応用例では、本発明の水中推進装置1は、水中航走体2の機体12の一部をケーシング3とするものとして説明したが、水中航走体2の機体12とは別体で、機体12の外部に取り付けられる独自のケーシング3を備える構成としてもよい。
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。