JP6926778B2 - 玉軸受用片円環型樹脂保持器の製造方法 - Google Patents
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Description
このような玉軸受用片円環型樹脂保持器は、潤滑剤の供給が良好で軽量かつ低騒音であるため広く使用されており、射出成形により一体成形される(例えば、特許文献2及び3参照)。
射出成形金型の成形空間であるキャビティへ溶融樹脂材料を注入するゲートは、保持器の内径面側又は外径面側に配置される(例えば、特許文献2の[0024]並びに図1及び図10参照)。
固化した保持器の成形品を射出成形用金型から取り出す際には、射出成形用金型のゲート部エッジで保持器とゲート部との接続部をせん断することにより保持器とゲート部を切り離す。よって、ゲート部を切断したゲート跡が保持器の内径面側又は外径面側に残り、不連続なノッチとして保持器表面に存在することになる。
このような円環引張試験は、円を長円状に変形させるように引張力が働くことから、前記中心軸から見て引張方向に直交する対向位置(引張方向と90°位相が異なる位置)の内径側には引張応力が作用し、前記対向位置の外径側には圧縮応力が作用する。
よって、例えば特許文献2の図2のように円環状基部のポケット下の内径面側に前記ゲート跡が存在する場合、円環引張試験で前記ゲート跡に引張応力が作用した際に、ウェルド部ではなく、応力集中により前記ゲート跡を起点として破壊する可能性がある。
射出成形用金型の成形空間であるキャビティへ、隣り合う前記ポケット間の柱部の内径面側に設けたゲートから溶融樹脂材料を注入して固化させる射出成形工程を含み、
前記ゲートの前記内径面の底側端部の前記内径面の底からの距離Zが、
前記ポケットの内径面の底部の厚みをT、前記柱部の高さをH、成形後に前記ゲートとの接続部をせん断で切り離した跡であるゲート跡の軸方向長さをFとして、T≦Z≦(H−2・F)となる範囲に前記ゲートを配置してなることを特徴とする(請求項1)。
前記樹脂溜りにおける前記柱部と連通する連通部の前記柱部の内径面の底側端部の前記内径面の底からの距離Z1が、
成形後に前記連通部との接続部をせん断で切り離した跡である樹脂溜り跡の軸方向長さをF1として、T≦Z1≦(H−2・F1)となる範囲に前記連通部を配置してなるのが、好ましい実施態様である(請求項2)。
射出成形用金型の成形空間であるキャビティへ、隣り合う前記ポケット間の柱部の外径面側に設けたゲートから溶融樹脂材料を注入して固化させる射出成形工程を含み、
前記溶融樹脂材料を貯留可能な樹脂溜りを前記柱部の内径面側に設け、
前記樹脂溜りにおける前記柱部と連通する連通部の前記内径面の底側端部の前記内径面の底からの距離Z1が、
前記ポケットの内径面の底部の厚みをT、前記柱部の高さをH、成形後に前記連通部との接続部をせん断で切り離した跡である樹脂溜り跡の軸方向長さをF1として、T≦Z1≦(H−2・F1)となる範囲に前記連通部を配置してなることを特徴とする(請求項3)。
よって、円環引張試験で前記ゲート跡及び/又は前記樹脂溜り跡から破壊することをなくして破壊強度を高めることができる。
その上、距離Z≦(H−2・F)として、柱部内径面の先端とゲートとの距離をゲート跡の軸方向長さ以上確保しているので、成形後に、保持器と前記ゲートとの接続部をせん断で切り離しやすくなる。
その上さらに、距離Z1≦(H−2・F1)として、柱部内径面の先端と樹脂溜りの連通部との距離を樹脂溜り跡の軸方向長さ以上確保しているので、成形後に、保持器と前記連通部との接続部をせん断で切り離しやすくなる。
なお、以下において、本発明の実施の形態に係る玉軸受用片円環型樹脂保持器を玉軸受に装着した状態で、玉軸受の回転軸の方向を「軸方向」、軸方向に直交する方向を「径方向」という。
図1の斜視図、及び図2の要部を拡大して示す斜視図に示すように、本発明の実施の形態に係る玉軸受用片円環型樹脂保持器の製造方法により製造した深溝玉軸受用冠型樹脂保持器1は、円環状基部2と基部2の軸方向一側面から軸方向へ突出する複数の片持ち状弾性片3,3,…とを備える。
冠型樹脂保持器1は、深溝玉軸受の転動体である図示しないボールを、周方向に隣り合う弾性片3,3間の球面状のポケットPに保持する。
冠型樹脂保持器1は、隣り合うポケットP,P間の柱部Cの内径面にゲートGの跡が視認される。
本発明の実施の形態に係る玉軸受用片円環型樹脂保持器の製造方法は、図1に示す形状の冠型樹脂保持器1の成形空間であるキャビティを有する射出成形用金型を用い、柱部Cの内径面側に設けたゲートGから前記キャビティに溶融樹脂材料を注入して固化させる射出成形工程を含む。
前記樹脂材料は、例えば、脂肪族ナイロン(PA66、PA46等)、芳香族ナイロン(PA6T、PA9T等)、PPS、PEEK等の熱可塑性樹脂材料であり、要求仕様に応じてガラス繊維や炭素繊維等の繊維強化材を10〜50重量%添加してもよい。
ゲートGは、本実施の形態では一箇所であるが、複数箇所であってもよい。よって、柱部Cの内径面に視認されるゲートGの跡は、一箇所又は複数箇所にある。
次に、円環引張試験について説明する。
図3の概略説明図に示すように、試験用保持器Aを、その中心軸Oから径方向に見えるウェルド部Wの方向が、円環引張治具B1,B2による引張方向に直交するように、円環引張治具B1,B2に取り付け、引張試験機により試験用保持器Aの破壊強度を測定する。
次に、円環引張試験を想定して行った応力解析について説明する。
図1及び図2の冠型樹脂保持器1を、対称性を考慮して周方向の1/2をモデル化した。
保持器1の寸法は、内径D1は222mm、外径D2は243mm、ポケットPの内径面の底部の厚みTは4.5mm、柱部Cの高さHは12.5mmである。
周方向の1/2をモデル化しているので、図4の内径側の下辺は、図1ないし図3のゲートGの中心位置上にある。ゲートGの中心位置を通る軸方向(前記下辺に沿う方向)の応力分布を見ると、図2の柱部Cの内径面の底D側の応力が大きく、弾性片3,3,…側(爪先側)の応力は小さいことが分かる。
図6のグラフから、柱部C内径面の最大主応力は、柱部C内径面の底D(Z=0)が最大で、Zの増加に伴って単調に減少することが分かる。そして、柱部C内径面の最大主応力は、「ポケット底位置」(Z=T)では、柱部C内径面の底Dの最大主応力の56%になり、Z>Tでは大幅に減少する。
前記[発明が解決しようとする課題]に示した知見のとおり、円環引張試験で引張応力が作用した際に、ウェルド部ではなく、応力集中によりゲートGの跡を起点として破壊する可能性がある。
図6の柱部C内径面の最大主応力の変化に基づき、図5に示すゲートGの位置について検討する。
よって、ゲートGの底D側の端部をG0とすると、端部G0は、柱部Cの内径面の底DからポケットPの内径面の底部の厚みT分離間した位置Eにあるか(図5でZ=Tの場合)、あるいは当該位置Eよりも爪先側に位置するようにする(Z>T)。
すなわち、端部G0の柱部C内径面の底Dからの距離Zは、Z≧Tとする。
図5に示す柱部C内径面の先端IとゲートGの柱部C内径面の爪先側端部G1との距離Lの部分は、前記ゲートカットの際にせん断力を受ける。したがって、ゲートカットの際にゲート切れ性を良好にするために、距離Lは、ゲートGの軸方向長さ(成形後にゲートGとの接続部をせん断で切り離した跡であるゲート跡の軸方向長さ)F以上にする必要がある(L≧F)。
よって、Z=H−F−Lであり、F≦Lであるので、Z≦(H−2・F)とする。
前記円環引張試験を想定して行った応力解析を行った冠型樹脂保持器1と同じ寸法の冠型樹脂保持器について、ゲートGの直径を1.5mmとし、図5において、ゲートGの軸方向位置(端部G0の位置)をZ=2.25mm(0.5T)として製作したものを比較例とし、ゲートGの軸方向位置(端部G0の位置)をZ=6.8mm(≒1.5T)として製作したものを実施例とした。
比較例及び実施例ともに、製作した保持器の外観及び寸法精度に問題はなかった。
図5に示すゲートGの底D側の端部G0の位置がZ=0.5Tである比較例では、ウェルド部WではなくゲートGの跡を起点として破壊した。
それに対して、図5に示すゲートGの底D側の端部G0の位置がZ≒1.5Tである実施例では、ゲートGの跡を起点として破壊することはなく、ウェルド部Wから破壊した。
円環引張強度は、比較例よりも実施例の方が1.5倍高かった。
それに対して厚みTが3mm以上の保持器である場合、ゲートGの底D側の端部G0の柱部C内径面の底Dからの距離をZとして、0<Z<Tの範囲内、又は、0<Z<Tの範囲にゲートGの一部がかかるような位置にゲートGを設定することが可能となる。
しかし、このような位置にゲートGを設定すると、円環引張試験で前記比較例に示すようにゲート跡から破壊するので、円環引張試験でウェルド部から破壊するものよりも円環引張強度が低くなる。
よって、ゲートGの底D側の端部G0の位置Zが、柱部の高さをH、成形後に前記ゲートとの接続部をせん断で切り離した跡であるゲート跡の軸方向長さをFとして、T≦Z≦(H−2・F)となる範囲にゲートGを配置することにより、ゲート切れ性を低下させることなく、円環引張強度を向上させることが可能となる。
また、ゲートGの周方向位置は、図5のような柱部Cの中央に限定されない。例えば、ポケットP,P,…の個数が奇数である場合、ウェルド部WをポケットPの底の最薄部から外すために、柱部Cの中央から周方向へずらしてもよい。
よって、柱部Cの内径面側のゲートGの位置と同様に、樹脂溜りの前記連通部の位置についても配慮が必要になる。
そして、距離Z1の上限についても、成形後に前記連通部との接続部をせん断で切り離した跡である樹脂溜り跡の軸方向長さをF1として、Z1≦(H−2・F1)とする。
すなわち、前記樹脂溜りにおける柱部Cと連通する連通部の柱部Cの内径面の底D側端部の内径面の底Dからの距離Z1は、T≦Z1≦(H−2・F1)とする。
よって、円環引張試験で前記ゲートGの跡及び/又は前記樹脂溜り跡から破壊することをなくして破壊強度を高めることができる。
その上、距離Z≦(H−2・F)として、柱部C内径面の先端IとゲートGとの距離をゲート跡の軸方向長さF以上確保しているので、成形後に、保持器1とゲートGとの接続部をせん断で切り離しやすくなる。
その上さらに、距離Z1≦(H−2・F1)として、柱部C内径面の先端Iと樹脂溜りの連通部との距離を樹脂溜り跡の軸方向長さ以上確保しているので、成形後に、保持器1と前記連通部との接続部をせん断で切り離しやすくなる。
2 円環状基部
3 弾性片
A 試験用保持器
B1,B2 円環引張治具
C 柱部
D 柱部内径面の底
D1 内径
D2 外径
E 内径面の底からポケットの内径面の底部の厚み分離間した位置
F ゲート跡の軸方向長さ
G ゲート
G0 ゲートの柱部内径面の底側端部
G1 ゲートの柱部内径面の爪先側端部
H 柱部の高さ(柱部の軸方向長さ)
I 柱部内径面の先端
L 柱部内径面の先端とゲートの柱部内径面の爪先側端部との距離
O 中心軸
P ポケット
T ポケット内径面の底部の厚み
W ウェルド部
Claims (3)
- 円環状基部と前記基部の軸方向一側面から軸方向へ突出する複数の片持ち状弾性片とを備え、周方向に隣り合う前記弾性片間の球面状のポケットに転動体であるボールを保持する玉軸受用片円環型樹脂保持器を射出成形で製造する方法であって、
射出成形用金型の成形空間であるキャビティへ、隣り合う前記ポケット間の柱部の内径面側に設けたゲートから溶融樹脂材料を注入して固化させる射出成形工程を含み、
前記ゲートの前記内径面の底側端部の前記内径面の底からの距離Zが、
前記ポケットの内径面の底部の厚みをT、前記柱部の高さをH、成形後に前記ゲートとの接続部をせん断で切り離した跡であるゲート跡の軸方向長さをFとして、T≦Z≦(H−2・F)となる範囲に前記ゲートを配置してなることを特徴とする、
玉軸受用片円環型樹脂保持器の製造方法。 - 前記溶融樹脂材料を貯留可能な樹脂溜りを前記柱部の内径面側に設け、
前記樹脂溜りにおける前記柱部と連通する連通部の前記柱部の内径面の底側端部の前記内径面の底からの距離Z1が、
成形後に前記連通部との接続部をせん断で切り離した跡である樹脂溜り跡の軸方向長さをF1として、T≦Z1≦(H−2・F1)となる範囲に前記連通部を配置してなる、
請求項1記載の玉軸受用片円環型樹脂保持器の製造方法。 - 円環状基部と前記基部の軸方向一側面から軸方向へ突出する複数の片持ち状弾性片とを備え、周方向に隣り合う前記弾性片間の球面状のポケットに転動体であるボールを保持する玉軸受用片円環型樹脂保持器を射出成形で製造する方法であって、
射出成形用金型の成形空間であるキャビティへ、隣り合う前記ポケット間の柱部の外径面側に設けたゲートから溶融樹脂材料を注入して固化させる射出成形工程を含み、
前記溶融樹脂材料を貯留可能な樹脂溜りを前記柱部の内径面側に設け、
前記樹脂溜りにおける前記柱部と連通する連通部の前記内径面の底側端部の前記内径面の底からの距離Z1が、
前記ポケットの内径面の底部の厚みをT、前記柱部の高さをH、成形後に前記連通部との接続部をせん断で切り離した跡である樹脂溜り跡の軸方向長さをF1として、T≦Z1≦(H−2・F1)となる範囲に前記連通部を配置してなることを特徴とする、
玉軸受用片円環型樹脂保持器の製造方法。
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