本開示に係る移動範囲報知装置の一実施形態に係る実施例1の移動範囲報知装置20を、図1から図5を用いて説明する。実施例1の移動範囲報知装置20は、図1に示すように、作業車両の一例としての積載形トラッククレーンであるクレーン車1に用いる。クレーン車1は、走行体(キャリヤ)2と、走行体2の前部に設けられたキャビン3と、キャビン3の後方に設けられたクレーン部4と、クレーン部4の後方に設けられた荷台5と、を備える。
走行体2は、走行機能を有する車両の本体部分(車体)となり、複数の車輪と、車輪およびクレーン部4を駆動する駆動源と、を有する。走行体2には、クレーン部4から延びる左右一対のアウトリガ6(図1に走行体2の左側のみ図示)が設けられる。各アウトリガ6は、左右の張り出しおよび格納を可能とし、適宜張り出して地面Gに接地することで後述するブーム8を用いた作業時(クレーン作業)に走行体2を安定して支持する。キャビン3は、走行時等に作業者(オペレータ)が乗る場所であり、走行体2の走行やエンジンの始動および停止等の操作が可能とされている。荷台5は、走行体2上において後述する吊荷17等を載せる箇所である。
クレーン部4は、走行体2の上部において旋回可能とされたブームサポート7を有する。ブームサポート7は、ブーム8を取り付ける箇所であり、ブーム8を水平旋回可能とする。また、ブームサポート7は、ブーム8の基端部がブーム根本支点ピンを介して取り付けられ、そのブーム根本支点ピンを中心にしてブーム8を起伏可能とする。ブームサポート7は、走行体2との間に旋回油圧モータ9が設けられ、旋回油圧モータ9が駆動されることで走行体2に対して旋回される。また、ブームサポート7では、ブーム8との間に起伏シリンダ11が設けられ、起伏シリンダ11を伸縮することでブーム8が起伏される。ブーム8は、複数のブーム部が外側から内側へと入れ子式に組み合わせて収納して構成され、伸縮シリンダ12が伸縮することで伸縮される。この旋回油圧モータ9と起伏シリンダ11と伸縮シリンダ12とは、ブーム8を駆動させるブーム駆動部13を構成している。なお、ブーム8は、箱型構造ジブとしているが、クレーン部4の一端を支点とした腕となる構造体であればよく、ラチス構造ジブやブームを伸長するための補助ジブも含む。
クレーン部4の基端位置には、作業者が各種の操作を行うための操作部14が設けられる。その各種の操作としては、例えば、ブーム8(ブームサポート7)の旋回、ブーム8の起伏および伸縮、ブームサポート7に設けたウインチの巻上および巻下、各アウトリガ6の張出および格納、エンジンの始動および停止等がある。
ブーム8の先端に設けられたシーブ15には、ウインチで巻き上げられるまたは巻き下げられるワイヤロープ16が巻き掛けられている。ワイヤロープ16には、吊荷17等が玉掛けされるフック18が吊り下げられている。吊荷17は、ウインチによるワイヤロープ16の巻上または巻下の操作によりフック18とともに昇降する。ブーム8は、使用時には各ブーム部が適宜旋回されるとともに、適宜起伏および進退され、そこから吊り下げられるフック18が適宜昇降されることで吊荷17を移動させる。また、ブーム8は、走行時等の非使用時には、フック18が最も上昇されつつ各ブーム部が最も後退されて収納した状態とされる。
このブーム8の伸縮、起伏および旋回や、フック18の昇降は、操作部14の操作に従って行われる。操作部14は、入力された操作に対応した操作信号を出力する。操作部14から出力された操作信号は、油圧ポンプ、方向制御弁、流量制御弁等の駆動装置の動作を制御する。それらの動作により、クレーン部4のブーム駆動部13(旋回油圧モータ9、起伏シリンダ11、伸縮シリンダ12)やウインチの駆動のための油圧モータが作動して、ブーム8の伸縮、起伏および旋回や、フック18の昇降が行われる。
ブーム8は、フック18に吊るされた吊荷17を所望の位置まで移動させるために、姿勢すなわち物理量としての長さ(以下ではブーム長ともいう)や起伏の程度(以下では起伏角度ともいう)や旋回角度がブーム駆動部13の駆動に応じて適宜調整される。ここで、ブーム8は、複数のブーム部で伸縮可能に構成されていることや、俯瞰して走行体2が長方形状とされていること等に起因して、フック18で吊り下げることのできる限界荷重が、姿勢の変化に応じて変化する。クレーン車1は、吊荷17を吊り下げているブーム8を、現在の状態(現状)から、あとどれだけ移動(姿勢を変化)させることができるのか(移動可能な範囲)を報知するために移動範囲報知装置20を用いている。
移動範囲報知装置20は、図2に示すように、旋回角度検出器21と起伏圧力検出器22と起伏角度検出器23とブーム長検出器24とが、制御部25に接続されて形成されている。
旋回角度検出器21は、旋回油圧モータ9により旋回可能とされたブーム8のその時点での旋回角度(旋回方向)を検出する。旋回角度は、クレーン車1におけるブームサポート7の旋回姿勢、すなわち走行体2における基準とする方向とブーム8が延びる方向とが為す角度であり、実施例1では、走行体2における進行方向後側を基準の方向としている。旋回角度検出器21は、ブーム8の旋回角度を即時連続的に検出し、その検出した旋回角度を示す検出信号S1を制御部25に出力する。
起伏圧力検出器22は、起伏可能とされたブーム8を支える起伏シリンダ11に掛かる圧力を検出する。起伏圧力検出器22は、起伏シリンダ11における圧力を即時連続的に検出し、その検出した圧力を示す検出信号S2を制御部25に出力する。
起伏角度検出器23は、起伏シリンダ11により起伏可能とされたブーム8の起伏角度(水平面または基準姿勢に対する角度)を検出する。起伏角度検出器23は、ブーム8の起伏角度を即時連続的に検出し、その検出した起伏角度を示す検出信号S3を制御部25に出力する。
ブーム長検出器24は、伸縮シリンダ12により伸縮可能とされたブーム8の長さ(伸縮度合(補助ジブも含む))を検出する。ブーム長検出器24は、ブーム8の長さを即時連続的に検出し、その検出した長さを示す検出信号S4を制御部25に出力する。これらのことから、旋回角度検出器21と起伏角度検出器23とブーム長検出器24とは、ブーム駆動部13の駆動に応じて変化するブーム8の物理量(ブーム長、起伏角度、旋回角度)の情報を取得する物理量情報取得部として機能する。
制御部25は、記憶部(内蔵する内蔵メモリ26)や演算部を有するマイクロコンピュータであり、実施例1ではクレーン部4に設けられる(図1参照)。制御部25は、内蔵メモリ26あるいは接続される記憶部に格納されたプログラムに基づき、旋回角度検出器21、起伏圧力検出器22、起伏角度検出器23、ブーム長検出器24および後述する報知部32の動作を統括的に制御し、それらから適宜情報を取得する。制御部25は、それらからの各種情報の取得処理や、ブーム8の現状の物理量である現状物理量Ppを検出する検出処理や、ブーム8の吊荷17の実荷重Wの演算処理や、実荷重Wに応じる後述する限界物理量Plの限界値算出処理や、後述する差分物理量Pdを求める差分算出処理の制御を行う。制御部25は、実施例1では、ブーム8の現状物理量Ppの検出処理を行う物理量検出部27と、実荷重Wの演算処理を行う実荷重演算部28と、限界物理量Plの算出処理を行う限界値算出部29と、差分物理量Pdの差分算出処理を行う差分算出部31と、を有する。
物理量検出部27は、旋回角度検出器21からブーム8のその時点での旋回角度の検出信号S1と、起伏角度検出器23からブーム8のその時点での起伏角度の検出信号S3と、ブーム長検出器24からブーム8のその時点でのブーム長の検出信号S4と、が入力される。すると、物理量検出部27は、現状のブーム8の現状物理量Ppとしてのブーム長、起伏角度および旋回角度を検出する。この現状物理量Ppは、ブーム8の姿勢の変化に応じて刻一刻と変化する。物理量検出部27は、検出したブーム8の現状物理量Pp(それを示す信号)を限界値算出部29および差分算出部31に出力する。
実荷重演算部28は、起伏圧力検出器22から起伏シリンダ11における圧力の検出信号S2と、起伏角度検出器23からブーム8の起伏角度の検出信号S3と、ブーム長検出器24からブーム8のブーム長の検出信号S4と、が入力される。すると、実荷重演算部28は、ブーム8の起伏角度およびブーム長に基づいて、クレーン車1の作業半径を求める。また、実荷重演算部28は、起伏シリンダ11における圧力から、ブーム8やフック18等の自重成分を差し引くことで、フック18に吊荷17等が吊り下げられたことに起因して起伏シリンダ11に掛かるモーメントを演算する。そして、実荷重演算部28は、作業半径に基づいてモーメントからブーム8の吊荷17の実荷重Wを演算する。このため、起伏圧力検出器22と起伏角度検出器23とブーム長検出器24とは、実荷重演算部28がクレーン車1のブーム8の吊荷17の実荷重Wを演算するための実荷重を検出する荷重検出器として機能する。実荷重演算部28は、演算結果としての実荷重W(それを示す信号)を限界値算出部29に出力する。なお、荷重検出器は、フック18に玉掛けされた吊荷17の実荷重Wを検出するものであればよく、実施例1の構成に限定されない。
限界値算出部29は、実荷重演算部28から実荷重W(それを示す信号)が入力される。すると、限界値算出部29は、ブーム8(クレーン車1)における限界荷重(転倒モーメントの限界値)が実荷重Wと等しくなる際のブーム8の限界物理量Plを算出する。実施例1では、ブーム8の限界物理量Pl(物理量)を、クレーン車1におけるクレーン部4の旋回中心からの水平方向の長さ(大きさ)である作業半径で示すものとしている。クレーン車1では、ブーム8のブーム長や起伏角度が変化すると作業半径が変化するとともに限界荷重が変化する(図3参照)。この変化は、作業半径が増加するほど限界荷重が減少する関係性とされている。限界値算出部29は、クレーン車1における限界荷重と作業半径との関係性を示すグラフ(そのデータ)を内蔵メモリ26あるいは接続される記憶部から読み込み、そのグラフから限界荷重が実荷重Wと等しくなる作業半径、すなわち実荷重Wを吊るすことのできる移動可能な作業半径を求めて限界物理量Plとする。なお、限界値算出部29は、アウトリガ6の張出量が可変とされている場合には、その張出量を考慮して補正した限界荷重および実荷重Wに基づいて、上記したように作業半径で示す限界物理量Plを求めてもよい。
ここで、実施例1のクレーン車1では、ブーム8が、各ブーム部が入れ子式とされて構成され、各ブーム部を1段ずつ伸ばしたり縮めたりすることで伸縮可能とされている。すると、ブーム8は、各ブーム部を伸ばした段数により、限界荷重と作業半径との関係性を示す特性線が変化する。以下では、ブーム8のブーム長を、最も縮小したブーム長を1段ブームとし、最も伸長したブーム長を5段ブームとするように、各ブーム部を伸ばした段数に応じてn段ブーム(nは自然数1〜5)ともいう。図3は、一例として、ブーム8が5段階に伸縮するものとして、各ブーム長(n段ブーム(nは1〜5))における限界荷重と作業半径との関係性を示す特性線を示している。
実施例1の限界値算出部29は、物理量検出部27からブーム8の現状物理量Pp(それを示す信号)が入力される(図2参照)。限界値算出部29は、ブーム8の現状物理量Ppとしてのブーム長すなわち段数に基づいて、用いる特性線を設定する。すると、限界値算出部29は、設定した特性線において、限界荷重が実荷重Wと等しくなる点を求め、その点が示す作業半径を求める。例えば、ブーム8が3段ブームとされ、実荷重Wがα(t)であると、限界値算出部29は、3段ブームを示す特性線上で限界荷重がα(t)となる点を求め、その点の作業半径であるβ(m)を求めて限界物理量Plとする。
また、実施例1の限界値算出部29は、図2に示すように、ブーム駆動部13から駆動状況を示す駆動信号S5が入力される。限界値算出部29は、ブーム駆動部13の駆動状況に応じて、用いる特性線の設定を変更する。一例として、限界値算出部29は、ブーム8が2段ブームであると物理量検出部27が検出したことで2段ブームの特性線を用いる設定とした状態において、ブーム8を伸ばすようにブーム駆動部13の伸縮シリンダ12が駆動されたことを検出すると、3段ブームの特性線を用いる設定に変更する。この場合、限界値算出部29は、設定を変更した特性線において、上記したことと同様に、限界荷重が実荷重Wと等しくなる点を求め、その点の作業半径を求めて限界物理量Plとする。限界値算出部29は、求めた作業半径で示す限界物理量Pl(それを示す信号)を差分算出部31に出力する。
加えて、実施例1では、ブーム8の限界物理量Plを、ブーム8のブーム長(段数)や起伏角度で示すものとしている。これは、クレーン車1では、上記したように、ブーム長や起伏角度の変化に伴い作業半径が変化するため、実質的に作業半径で示すことと同様に考えることができることによる。ブーム8は、例えば、起伏角度が一定とすると、ブーム長の変化のみに起因して作業半径が変化するとともに限界荷重が変化する。また、ブーム8は、例えば、ブーム長が一定とすると、起伏角度の変化のみに起因して作業半径が変化するとともに限界荷重が変化する。このため、限界値算出部29は、上記した作業半径を求めることと同様に、実荷重Wを吊るすことのできる移動可能な(伸ばすことのできる)ブーム長や移動可能な起伏角度(立てた状態を基準として最も大きく倒すことのできる角度)を求めることができる。限界値算出部29は、求めたブーム8のブーム長および起伏角度で示す限界物理量Pl(それらを示す信号)を差分算出部31に出力する。その実荷重Wを吊るすことのできる移動可能なブーム長とは、ブーム8を伸長させる状況において、限界荷重が実荷重Wと等しくなるときのブーム長のことをいう。また、移動可能な起伏角度とは、ブーム8を倒伏させる状況において、限界荷重が実荷重Wと等しくなるときの起伏角度のことをいう。
さらに、実施例1では、ブーム8の限界物理量Plを、ブーム8の回転姿勢(旋回角度)で示すものとしている。これは、俯瞰して走行体2が長方形状とされていること等に起因して、走行体2の向きに対するブーム8の回転姿勢に応じて、限界荷重が変化することによる。この場合、限界値算出部29は、例えば、作業半径が一定(ブーム長や起伏角度が変化されることなく旋回角度が変化されている)とすると、一定とされた作業半径での限界荷重に、走行体2の向きに対するブーム8の旋回角度に応じた補正値を乗算する。そして、限界値算出部29は、旋回角度毎に、補正した限界荷重と実荷重Wとを比較することで、実荷重Wを吊るすことのできる旋回角度を求め、それらで示す限界物理量Pl(それを示す信号)を差分算出部31に出力する。この実荷重Wを吊るすことができる旋回角度とは、ブーム8を旋回させる状況において、限界荷重が実荷重Wと等しくなるときの旋回角度のことをいう。
そして、実施例1の限界値算出部29は、駆動信号S5が示すブーム駆動部13の駆動状況に応じて、限界物理量Plの算出対象とするブーム8の物理量を変更する。換言すると、限界値算出部29は、ブーム駆動部13の駆動により変化状態とされているブーム8の物理量を、限界物理量Plとしての算出対象とする。この変化状態とは、ブーム駆動部13の駆動により実際に変化されているものや、ブーム駆動部13により駆動待機状態とされているものをいい、実施例1ではブーム駆動部13の駆動により実際に変化されているものとしている。実施例1の限界値算出部29は、起伏シリンダ11および伸縮シリンダ12が駆動されていると作業半径で示す限界物理量Plを求め、伸縮シリンダ12のみが駆動されていると作業半径で示す限界物理量Plおよびブーム長で示す限界物理量Plを求める。また、実施例1の限界値算出部29は、起伏シリンダ11のみが駆動されていると作業半径で示す限界物理量Plおよび起伏角度で示す限界物理量Plを求め、旋回油圧モータ9のみが駆動されていると旋回角度で示す限界物理量Plを求める。なお、限界値算出部29は、ブーム駆動部13の駆動により変化状態とされているブーム8の物理量を限界物理量Plとしての算出対象とすれば、作業半径、ブーム長、起伏角度および旋回角度のうちのいずれか1つを算出対象としてもよく、それらのうちの複数(全部を含む)を算出対象としてもよく、駆動状態と物理量との組み合わせは上記した例に限定されない。
差分算出部31は、限界値算出部29からのブーム8の限界物理量Plと、物理量検出部27からの現時点のブーム8の現状物理量Ppと、に基づいて、吊荷17を吊り下げているブーム8を、現状からあとどれだけ移動させることができるのかをブーム8の物理量で示す差分物理量Pdを算出する。差分算出部31は、例えば、ブーム8の物理量を作業半径で示す場合には、限界物理量Plとしての実荷重Wを吊るすことのできる移動可能な作業半径、すなわち限界荷重が実荷重Wと等しくなるときの限界物理量PIとしての作業半径と、現状物理量Ppとしての現状の作業半径と、の差分を算出して差分物理量Pdとする。この差分物理量Pdは、吊荷17を吊り下げているブーム8の現状からの移動可能な範囲(大きさ)を、作業半径で示すものとなる。なお、上記したように、ブーム8の限界物理量Plがブーム長や起伏角度や旋回角度とされた場合であっても、差分算出部31は、同様の工程を行うことによりブーム長や起伏角度や旋回角度で示す差分物理量Pdを算出することができる。このため、上記したように限界値算出部29が限界物理量Plの算出対象とするブーム8の物理量を変更することは、制御部25が限界物理量Plや差分物理量Pd等を示すブーム8の物理量を設定することとなる。
制御部25には、報知部32が接続されている。報知部32は、制御部25の制御下で差分算出部31が算出した差分物理量Pdを作業者に報知するもので、実施例1では表示部で形成されている。報知部32は、実施例1では、移動可能な範囲として差分物理量Pdが示す数値を表示する。なお、報知部32は、実施例1では表示部としているが、差分物理量Pdを報知するものであれば、音声発生器やメータ等で構成してもよく、他の構成でもよく、実施例1の構成に限定されない。
次に、移動範囲報知装置20において、制御部25の制御下で、吊荷17の移動可能な範囲を報知する移動範囲報知処理の一例について、図4を用いて説明する。図4は、実施例1における制御部25にて実行される移動範囲報知処理(移動範囲報知方法)を示すフローチャートである。この移動範囲報知処理は、制御部25の内蔵メモリ26もしくは記憶部に記憶されたプログラムに基づいて制御部25が実行する。以下では、図4のフローチャートの各ステップ(各工程)について説明する。図4のフローチャートは、移動範囲報知装置20が移動範囲報知処理を実行する状態とされることにより開始される。移動範囲報知装置20は、常に移動範囲報知処理を実行する状態とされていてもよく、操作部14の操作で実行の有無を切り替え可能としてもよい。実施例1では、常に移動範囲報知処理を実行する状態とされており、クレーン車1が起動されると移動範囲報知処理を実行する状態となり、図4のフローチャートが開始される。
ステップS1は、現状物理量Ppを検出し、ステップS2へ進む。ステップS1は、物理量検出部27が、この時点でのブーム8の姿勢を示す現状物理量Ppを検出し、その現状物理量Ppを限界値算出部29および差分算出部31に出力する。
ステップS2は、実荷重Wを演算し、ステップS3へ進む。ステップS2は、実荷重演算部28が、フック18で吊り下げた吊荷17の実荷重Wを演算し、その実荷重Wを限界値算出部29に出力する。なお、このステップS1およびステップS2は、いずれから先に行うものとしてもよく、実施例1の順番に限定されない。
ステップS3は、限界物理量Plを算出し、ステップS4へ進む。ステップS3は、限界値算出部29が、限界物理量Plすなわち実荷重Wを吊るすことのできる限界となる限界物理量Plを求め、その限界物理量Plを差分算出部31に出力する。
ステップS4は、差分物理量Pdを算出し、ステップS5へ進む。ステップS4は、差分算出部31が、限界物理量Plから現状物理量Ppを減算して差分物理量Pdを求める。この差分物理量Pdとは、吊荷17を吊り下げているブーム8の現状からの移動可能な範囲をブーム8の物理量で示すものである。
ステップS5は、差分物理量Pdを報知し、ステップS6へ進む。ステップS5は、報知部32を駆動して、移動可能な範囲としての差分物理量Pdを表示させる。
ステップS6は、移動範囲報知処理を終了するか否かを判断し、YESの場合は移動範囲報知処理を終了し、NOの場合はステップS1へ戻る。このステップS6は、クレーン車1を停止することや、移動範囲報知装置20を停止することや、操作部の操作で実行をしない旨が選択されると、移動範囲報知処理を終了すると判断し、実施例1ではクレーン車1が停止されると移動範囲報知処理を終了する。
次に、移動範囲報知装置20において、制御部25の限界値算出部29が限界物理量Plを算出する限界物理量算出処理(図4のフローチャートのステップS3)の一例について、図5を用いて説明する。図5は、実施例1における限界値算出部29にて実行される限界物理量算出処理(限界物理量算出方法)を示すフローチャートである。以下では、図5のフローチャートの各ステップ(各工程)について説明する。
ステップS11は、ブーム駆動部13の駆動状況を検出し、ステップS12へ進む。ステップS11は、ブーム駆動部13から取得した駆動信号S5から、ブーム駆動部13の駆動状況、すなわち旋回油圧モータ9と起伏シリンダ11と伸縮シリンダ12の各々の駆動状況を検出する。
ステップS12は、伸縮シリンダ12が駆動しているか否かを判断し、YESの場合はステップS13へ進み、NOの場合はステップS16へ進む。ステップS12は、伸縮シリンダ12が駆動しているか否か、すなわちブーム8が伸縮されているか否かを判断する。
ステップS13は、起伏シリンダ11が駆動しているか否かを判断し、YESの場合はステップS14へ進み、NOの場合はステップS15へ進む。ステップS13は、起伏シリンダ11が駆動しているか否か、すなわちブーム8が起伏されているか否かを判断する。
ステップS14は、作業半径で示す限界物理量Plを求めて、限界物理量算出処理を終了する。ステップS14は、起伏シリンダ11および伸縮シリンダ12が駆動されている、すなわちブーム8が伸縮されつつ起伏されているので、実荷重Wを吊るすことのできる最低限移動可能な作業半径で示す限界物理量Pl(最も小さい限界物理量Pl)を求める。なお、ステップS14は、変化されているブーム長や起伏角度で示す限界物理量Plを併せて求めてもよい。この実荷重Wを吊るすことのできる最低限移動可能な作業半径とは、ブーム8が伸縮されつつ起伏される状況において、限界荷重が実荷重Wと等しくなるときの作業半径のことをいう。また、最も小さい限界物理量PIとは、ブーム8を伸縮および起伏させたときに限界荷重が実荷重Wと等しくなるときの限界物理量をいう。その限界物理量は、ブーム8を伸縮のみさせたときに限界荷重が実荷重Wと等しくなるときの限界物理量よりも小さく、かつ、ブーム8を起伏のみさせたときに限界荷重が実荷重Wと等しくなるときの限界物理量よりも小さくなる。
ステップS15は、作業半径で示す限界物理量Plおよびブーム長で示す限界物理量Plを求めて、限界物理量算出処理を終了する。ステップS15は、伸縮シリンダ12のみが駆動されている、すなわちブーム8が伸縮されているので、作業半径で示す限界物理量Plおよびブーム長で示す限界物理量Plを求める。なお、ステップS15は、変化されているブーム長で示す限界物理量Plのみを求めてもよい。
ステップS16は、起伏シリンダ11が駆動しているか否かを判断し、YESの場合はステップS17へ進み、NOの場合はステップS18へ進む。ステップS16は、ステップS13と同様である。
ステップS17は、作業半径で示す限界物理量Plおよび起伏角度で示す限界物理量Plを求めて、限界物理量算出処理を終了する。ステップS17は、起伏シリンダ11のみが駆動されている、すなわちブーム8が起伏されているので、作業半径で示す限界物理量Plおよび起伏角度で示す限界物理量Plを求める。なお、ステップS17は、変化されている起伏角度で示す限界物理量Plのみを求めてもよい。
ステップS18は、旋回油圧モータ9が駆動しているか否かを判断し、YESの場合はステップS19へ進み、NOの場合はステップS20へ進む。ステップS18は、旋回油圧モータ9が駆動しているか否か、すなわちブーム8が旋回されているか否かを判断する。
ステップS19は、旋回角度で示す限界物理量Plを求めて、限界物理量算出処理を終了する。このステップS19は、旋回油圧モータ9が駆動されている、すなわちブーム8が旋回されているので、旋回角度で示す限界物理量Plを求める。
ステップS20は、これ以前に求めた限界物理量Plを採用して、限界物理量算出処理を終了する。このステップS20は、ブーム駆動部13が駆動されていないので、これ以前に限界物理量算出処理で求めた限界物理量Plをそのまま採用する。
次に、移動範囲報知装置20による、吊荷17を吊り下げているブーム8の現状からの移動可能な範囲を報知する動作の一例を説明する。
先ず、クレーン車1が起動されて、フック18に玉掛けされた吊荷17を吊り下げた(地切りした)状態から、ブーム8が伸ばされつつ起伏角度が減少しているものとする。すると、移動範囲報知装置20は、図4のフローチャートでステップS1→S2と進み、この時点でのブーム8の姿勢を示す現状物理量Ppと、フック18で吊り下げた吊荷17の実荷重Wと、を求め、ステップS3に進んで限界物理量Plを求める。すると、限界値算出部29は、ブーム8が伸ばされつつ起伏角度が減少しているので、図5のフローチャートに示す限界物理量算出処理において、ステップS11→S12→S13→S14と進んで、実荷重Wを吊るすことのできる最低限移動可能な作業半径で示す限界物理量Pl(最も小さい限界物理量Pl)を求める。そして、図4のフローチャートで、ステップS4→S5と進み、吊荷17を吊り下げているブーム8の現状からの移動可能な範囲を作業半径の大きさで示す差分物理量Pdを求め、その差分物理量Pdを報知部32が表示する。これにより、作業者は、現状から差分物理量Pdが示す数値だけ作業半径を大きくできることを容易に把握することができる。このとき、上述したように変化されているブーム長や起伏角度で示す各々の限界物理量Plを併せて求めて表示すると、作業者は、現状から差分物理量Pdが示す数値だけブーム8を伸ばしたり起伏角度を小さくできたりすることも併せて容易に把握することができる。
次に、クレーン車1では、ブーム8が一度停止されたものとする。すると、移動範囲報知装置20は、上記した場面と同様に、図4のフローチャートでステップS1→S2と進んで現状物理量Ppと実荷重Wとを求めて、ステップS3に進む。限界値算出部29は、ブーム8が停止されているので、図5のフローチャートでステップS11→S12→S16→S18→S20と進んで、これ以前に限界物理量算出処理で求めた限界物理量Plすなわち作業半径で示す限界物理量Plをそのまま採用する。すると、図4のフローチャートでステップS4→S5と進み、上記した場面と同じ作業半径の大きさで示す差分物理量Pdを報知部32が表示する。このとき、作業者は、吊荷17を移動させていないので、報知部32の表示が変化しなくても違和感を覚えることはない。
次に、クレーン車1では、ブーム8が伸ばされて吊荷17が上昇されるものとする。すると、移動範囲報知装置20は、上記した場面と同様に、図4のフローチャートでステップS1→S2と進んで現状物理量Ppと実荷重Wとを求めて、ステップS3に進む。限界値算出部29は、ブーム8が伸ばされているので、図5のフローチャートでステップS11→S12→S13→S15と進んで、実荷重Wを吊るすことのできる移動可能な作業半径で示す限界物理量Plおよびブーム長で示す限界物理量Plを求める。この実荷重Wを吊るすことのできる移動可能な作業半径とは、ブーム8が伸縮される状況において、限界荷重が実荷重Wと等しくなるときの作業半径のことをいう。また、実荷重Wを吊るすことのできる移動可能なブーム長とは、ブーム8が伸縮される状況において、限界荷重が実荷重Wと等しくなるときのブーム長のことをいう。そして、図4のフローチャートでステップS4→S5と進み、ブーム8の現状からの移動可能な範囲を作業半径の大きさで示す差分物理量Pdおよびブーム長の大きさで示す差分物理量Pdを求め、それらの差分物理量Pdを報知部32が表示する。これにより、作業者は、吊荷17を吊り下げているブーム8を、現状から差分物理量Pdが示す数値だけ作業半径を大きくできることと、現状から差分物理量Pdが示す数値だけ伸ばせることと、を容易に把握することができる。
次に、クレーン車1では、ブーム8が旋回されて、吊荷17が目標位置の上まで移動されるものとする。すると、移動範囲報知装置20は、上記した場面と同様に、図4のフローチャートでステップS1→S2と進んで現状物理量Ppと実荷重Wとを求めて、ステップS3に進む。すると、限界値算出部29は、ブーム8が旋回されているので、図5のフローチャートでステップS11→S12→S16→S18→S19と進んで、実荷重Wを吊るすことのできる旋回角度で示す限界物理量Plを求める。そして、図4のフローチャートで、ステップS4→S5と進み、吊荷17を吊り下げているブーム8の現状からの移動可能な範囲を旋回角度の大きさで示す差分物理量Pdを求め、その差分物理量Pdを報知部32が表示する。これにより、作業者は、吊荷17を吊り下げているブーム8を、現状から差分物理量Pdが示す数値だけ旋回できることを容易に把握することができる。
次に、クレーン車1では、ブーム8の起伏角度が減少されて、吊荷17が目標位置に移動される(下ろされる)ものとする。すると、移動範囲報知装置20は、上記した場面と同様に、図4のフローチャートでステップS1→S2と進んで現状物理量Ppと実荷重Wとを求めて、ステップS3に進む。すると、限界値算出部29は、ブーム8の起伏角度が減少されているので、図5のフローチャートでステップS11→S12→S16→S17と進んで、実荷重Wを吊るすことのできる移動可能な作業半径で示す限界物理量Plおよび移動可能な起伏角度で示す限界物理量Plを求める。この実荷重Wを吊るすことのできる移動可能な作業半径とは、ブーム8が起伏される状況において、限界荷重が実荷重Wと等しくなるときの作業半径のことをいう。また、実荷重Wを吊るすことのできる移動可能な起伏角度とは、ブーム8が起伏される状況において、限界荷重が実荷重Wと等しくなるときの起伏角度のことをいう。そして、図4のフローチャートで、ステップS4→S5と進み、吊荷17を吊り下げているブーム8の現状からの移動可能な範囲を作業半径の大きさで示す差分物理量Pdおよび起伏角度の大きさで示す差分物理量Pdを求め、それらの差分物理量Pdを報知部32が表示する。これにより、作業者は、吊荷17を吊り下げているブーム8を、現状から差分物理量Pdが示す数値だけ作業半径を大きくできることと、現状から差分物理量Pdが示す数値だけ起伏角度を小さくできることと、を容易に把握することができる。
移動範囲報知装置20は、上記した各場面において、ステップS6→S1と進んで上記した動作を繰り返すことで、ブーム8の移動に応じて変化する移動可能な範囲としての大きさ(差分物理量Pd)を報知部32でリアルタイムに表示できる。
このように、移動範囲報知装置20は、吊荷17を吊り下げているブーム8の現状からの移動可能な範囲を数値(大きさ)で示す差分物理量Pdを報知部32で報知する。このため、作業者は、ブーム8の移動可能な範囲を数値(差分物理量Pd)で知ることができるので、吊荷17を吊るしているブーム8の移動可能な範囲を直感的に把握することができる。また、移動範囲報知装置20は、限界物理量Plや差分物理量Pd等を示すブーム8の物理量を、ブーム8の駆動状況に応じて、作業半径、ブーム長、起伏角度および旋回角度としている。このため、移動範囲報知装置20は、実際にブーム8において変化されている物理量で表した大きさとしての差分物理量Pdを報知部32で報知できるので、例えばブーム8を伸ばしている際にはあとどれだけ伸ばせるのかの数値を提供するように、操作している際に欲しい情報を作業者に提供でき、使い勝手を向上させることができる。
一実施例の移動範囲報知装置20は、以下の各作用効果を得ることができる。
移動範囲報知装置20は、実荷重Wが限界荷重と等しくなる際の限界物理量Plを限界値算出部29が算出し、現時点でのブーム8の現状物理量Ppを物理量検出部27が検出する。移動範囲報知装置20は、限界物理量Plから現状物理量Ppを減算することで差分算出部31が差分物理量Pdを求め、その差分物理量Pdを報知部32が報知する。このため、移動範囲報知装置20は、吊荷17を吊り下げているブーム8の現状からの移動可能な範囲として、ブーム8の物理量の大きさで示す差分物理量Pdを報知することができる。これにより、移動範囲報知装置20は、作業者に、ブーム8をあとどの位移動させることができるのか(移動可能な範囲)を直感的に把握させることができる。また、移動範囲報知装置20は、吊荷17を吊るしているブーム8の姿勢の変化に応じてリアルタイムに差分物理量Pdを報知するので、作業者に常に移動可能な範囲を把握させつつブーム8を操作させて吊荷17を移動させることができる。
また、移動範囲報知装置20は、ブーム8の物理量を作業半径としている。このため、移動範囲報知装置20は、作業者がクレーン車1を扱う際に常に留意している作業半径で表した値で差分物理量Pdを報知できるので、あとどれだけ離れた位置まで移動できるのかを直感的に把握させることができる。
さらに、移動範囲報知装置20は、ブーム8の物理量をブーム長としている。このため、移動範囲報知装置20は、作業者がクレーン車1で吊荷17を移動させる際に伸縮させるブーム8のブーム長で表した値で差分物理量Pdを把握させることができるので、あとどれだけブーム8を伸ばせるのかを直感的に把握させることができる。このことは、例えば、高所に吊荷17を移動させる際に、あとどれだけ高さ方向に移動できるのかが解るので、より効果的である。
移動範囲報知装置20は、ブーム8の物理量を起伏角度としている。このため、移動範囲報知装置20は、作業者がクレーン車1で吊荷17を移動させる際に起伏させるブーム8の起伏角度で表した値で差分物理量Pdを把握させることができるので、あとどれだけブーム8の起伏角度を小さく(減少)できるのかを直感的に把握させることができる。
移動範囲報知装置20は、ブーム8の物理量を旋回角度としている。このため、移動範囲報知装置20は、作業者がクレーン車1で吊荷17を移動させる際に旋回させるブーム8の旋回角度で表した値で差分物理量Pdを把握させることができるので、あとどれだけブーム8を旋回できるのかを直感的に把握させることができる。
移動範囲報知装置20は、ブーム8の物理量をブーム駆動部13の駆動により変化されているものとしている。すなわち、ブーム駆動部13の駆動により変化されているブーム8の物理量を、限界物理量Plや差分物理量Pd等としての算出対象とする。このため、移動範囲報知装置20は、実際に変化しているブーム8の物理量で表した大きさとしての差分物理量Pdを把握させることができるので、ブーム8を操作している作業者が欲しい情報を提供でき、より使い勝手を向上させることができる。
移動範囲報知装置20は、ブーム駆動部13の動作に基づいて、ブーム8において変化する物理量を検出している。このため、移動範囲報知装置20は、簡易な構成でブーム8において変化する物理量を確実に検出することができ、変化する物理量に適切に対応する差分物理量Pdを報知することができる。
移動範囲報知装置20は、入れ子式とされて段階的に伸縮するブーム8における段数に対応する限界荷重に基づいて限界物理量Plを算出し、それを用いて差分物理量Pdを求めている。このため、移動範囲報知装置20は、段階的に変化するブーム8の限界荷重に適切に対応する差分物理量Pdを報知でき、より使い勝手を向上させることができる。このことは、以下の構成と比較してより効果的である。例えば、従来の負荷率を表示する装置では、ブームの段数の変化に拘わらず、その時点での負荷率を表示するものがある。その従来の装置では、例えば、余裕のある負荷率が表示されていることで吊荷の移動を継続していると、ブームの段数の変化により限界荷重が急激に変化することで限界負荷率に急に到達してしまう場面が生じ得る。これに対し、移動範囲報知装置20は、ブーム8の段数に対応した差分物理量Pdを報知するため、現時点での段数またはそこから変更された段数であとどれだけ移動させることができるのかを直感的に把握させることができるので、急に限界値に到達してしまうことを作業者に予見させることができる。これにより、移動範囲報知装置20は、より使い勝手を向上できる。
移動範囲報知装置20は、実荷重演算部28が実荷重Wを算出すると、その実荷重Wを利用して直ちに差分物理量Pdを求め、その差分物理量Pdを報知部32で報知する。このため、移動範囲報知装置20は、吊荷17を吊り下げた(地切りした)時点で、その吊荷17を吊り下げているブーム8の現状からの移動可能な範囲を、ブーム8の物理量の大きさで示す差分物理量Pdを報知することができ、吊荷17の移動の作業をより効率の良いものにできる。
移動範囲報知装置20は、差分物理量Pdを報知部32で報知するので、ブーム8をあとどの位移動させることができるのかを確実にかつ様々な方法で把握させることができる。これは、以下の構成との比較による。ブーム8をあとどの位移動させることができるのかを直感的に把握させるためには、例えば、ブーム8で吊るした吊荷を写すようにカメラを設け、そのカメラで取得した映像内に限界負荷率となる限界位置を表示する構成とすることも考えられる。しかしながら、この構成では、限界負荷率となる位置が吊荷の現状の位置から離れている場合には、映像の縮尺を小さくしないと限界位置を表示できず、あとどの位移動できるのかを把握させることができなくなる。また、この構成では、映像の縮尺を変更すると映像内における実際の距離の把握が困難となるので、あとどの位移動できるのかの把握が容易ではなくなる。さらに、この構成では、ブーム8の先端近傍にカメラを設けて吊るされた吊荷を含む映像を取得させることが考えられるが、上方の映像が取得できないので高さ方向での限界位置を表示させることができず、あとどれだけブーム8を伸ばせるのかを把握させることができなくなる。
移動範囲報知装置20は、旋回角度検出器21で検出したブーム8の旋回角度と、起伏角度検出器23で検出したブーム8の起伏角度と、ブーム長検出器24で検出したブーム8のブーム長と、を利用して差分物理量Pdを求め、その差分物理量Pdを報知部32で報知する。このため、移動範囲報知装置20は、従来から検出している旋回角度と起伏角度とブーム長とを用いるとともに、差分物理量Pdを報知可能な装置を報知部32として用いればよいので、差分物理量Pdの報知のためだけに設ける新たな構成を最小限に留めることができ、コストの増大を招くことのない簡易な構成で実現できる。このことは、例えば、上記したカメラを設ける構成では、ブーム8で吊るした吊荷を写すようにカメラを設けるとともに、そこで取得した画像内における吊荷の実荷重に応じて変化する限界位置の算出が必要となるため、コストの増大を招くとともに複雑な構成となるので、この構成と比較してより効果的である。
したがって、本開示に係る移動範囲報知装置の一実施例としての移動範囲報知装置20は、吊るしている吊荷17の移動可能な範囲を直感的に把握させることができる。
以上、本開示の移動範囲報知装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
例えば、実施例1では、移動範囲報知装置20を用いる作業車両として積載形トラッククレーンであるクレーン車1を示していたが、伸縮するブーム8を搭載するものであれば、例えばオールテレーンクレーンやラフテレーンクレーンでもよく、他の構成の作業車両でもよく、実施例1に限定されない。
また、実施例1では、限界値算出部29(制御部25)が、上記したようにブーム駆動部13の駆動状況に応じてブーム8の物理量を用いるものとしていたが、ブーム駆動部13の駆動により変化されているブーム8の物理量を用いればよく、実施例1の構成に限定されない。例えば、起伏シリンダ11および伸縮シリンダ12の少なくとも一方が駆動されている場合に旋回油圧モータ9が合せて駆動されていると、ブーム8の物理量として作業半径やブーム長や起伏角度とともに旋回角度を用いてもよい。ここで、ブーム8の物理量を複数用いる場合、例えば、ブーム長が大きくなりつつ起伏角度が減少していると、特性線上での限界荷重の変化により実荷重Wに至る可能性があるとともに特性線の変更による限界荷重の変化により実荷重Wに至る可能性があることのように、ブーム8の各物理量の変化が互いの限界物理量Plの変化に影響を及ぼす場合がある。この場合、限界値算出部29は、ブーム駆動部13の各部の駆動速度を鑑みて、最も早く限界荷重が実荷重Wと等しくなるブーム8の物理量で示す限界物理量Pl(最も小さい限界物理量Pl)のみを求めてもよく、その限界物理量Plと他の限界物理量Plとを区別可能として複数の限界物理量Plを求めてもよい。ここで、制御部25は、複数の限界物理量Plを求めた場合、それぞれに基づく複数の差分物理量Pdのうちの最も小さい限界物理量PIに基づく差分物理量Pdのみを報知部32で報知させてもよく、全ての差分物理量Pdを報知部32で報知させてもよい。その後者の場合、最も小さい限界物理量PIに基づく差分物理量Pdを他の差分物理量Pdよりも強調して報知部32で報知させることにより、他の差分物理量Pdと区別できるようにする。
さらに、実施例1では、ブーム8の物理量として、作業半径とブーム長と起伏角度と旋回角度とを選択して用いていたが、ブーム駆動部13の駆動状況に拘わらず、作業半径とブーム長と起伏角度と旋回角度とのうちの1つまたは複数(全部を含む)を用いるものとしてもよく、上記した実施例1の構成に限定されない。ここで、ブーム駆動部13の駆動状況に拘わらず全てのブーム8の物理量で示す各差分物理量Pdを報知するものとすると、吊荷17を移動させる前に、どの操作があとどれだけ行うことができるのかを把握させることができ、使い勝手を向上させることができる。また、作業半径とブーム長と起伏角度と旋回角度とから報知する差分物理量Pd(ブーム8の物理量)を選択可能な構成とすると、作業者の好みに合わせて必要とする差分物理量Pdを報知できるので、より使い勝手を向上させることができる。
実施例1では、ブーム駆動部13により変化状態とされたものとして、ブーム駆動部13により変化されているものをブーム8の物理量としている。しかしながら、ブーム8の物理量は、ブーム駆動部13により変化状態とされたものであればよいので、ブーム駆動部13により駆動待機状態とされているものでもよい。この一例として、次のような構成とすることがあげられる。先ず、操作部14が、ブーム8の伸縮操作、起伏操作および旋回操作を可能とするか否かを個別に対応して切り替える切替スイッチと、その切替スイッチにより可能とされた操作の操作量を調節する調節レバーと、を有するものとする。この操作部14は、持ち運び可能な所謂リモコンとして構成してもよく、キャビン3やクレーン部4の基端位置に設けてもよい。また、この操作部14をリモコンとする場合、報知のために差分物理量Pdを表示する報知部32を、リモコンに搭載した液晶表示部としてもよい。この操作部14は、切替スイッチにより実行する操作が選択されることで、選択された操作を行うことが可能な操作待機状態とし、調節レバーを操作することで操作待機状態とした操作を実行することができる。このため、この構成では、操作部14の切替スイッチにより選択された操作が、ブーム駆動部13による駆動が可能とされた駆動待機状態とされる。操作部14は、各切替スイッチにより選択されて操作待機状態とされた操作すなわちブーム駆動部13により駆動待機状態とされた操作を示す信号を、限界値算出部29に出力する。限界値算出部29は、操作待機状態とされた操作により変化され得るブーム8の物理量すなわちブーム駆動部13により駆動待機状態とされたブーム8の物理量を、限界物理量Plとしての算出対象とする。この例では、例えば、操作部14の各切替スイッチにより伸縮操作および起伏操作が操作待機状態とされると、ブーム駆動部13により駆動待機状態とされたブーム長および起伏角度がブーム8の物理量となり、実施例1と同様とすると作業半径で示す差分物理量Pdが報知部32で報知される。このことは、作業半径、ブーム長、起伏角度および旋回角度のいずれか1つまたはそれらのうちの複数(全部を含む)が、ブーム駆動部13により駆動待機状態とされてブーム8の物理量とされた場合でも同様である。このようにブーム駆動部13により駆動待機状態とされたものをブーム8の物理量とすると、その大きさで示す差分物理量Pdを報知することで、吊荷17を移動させる前に、その移動のために行おうとしている操作があとどれだけ行うことができるのかを把握させることができ、使い勝手を向上させることができる。
上記した実施例1では、走行体2の向きに対するブーム8の回転姿勢が変化した際のブーム8の物理量をブーム8の回転姿勢(旋回角度)で示すものとしている。しかしながら、ブーム8の回転姿勢が変化した際のブーム8の物理量として、ブーム8の旋回角度に応じた変位長で示すものとしてもよい。この変位長は、旋回した際にブーム8(そこに吊り下げている吊荷17)が移動する距離(変位する長さ)を示すもので、吊るすことのできない旋回角度となるまでの移動の軌跡となる円弧の長さとしてもよく、その旋回角度となるまでの距離を示す弦の長さとしてもよい。このように旋回角度に応じた変位長をブーム8の物理量とすると、同じ旋回角度であってもブーム長に応じて変化する吊荷17の移動可能な長さを報知できるので、より使い勝手を向上できる。なお、旋回角度とそれに応じた変位長との双方を報知するものとしてもよく、いずれか1つの報知を選択可能な構成としてもよい。