[第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態の積層制振構造が適用された制振材30は、板材22と板材22の両面に配置された2枚の制振層36とで構成される積層体38と、積層体38の両面にそれぞれ配置され、積層体38の外面を拘束する2枚の拘束板32と、を備えている。
板材22はステンレス板で形成され、制振層36よりも高剛性とされている。なお、板材22を形成する板状材料としては、ステンレス板の他、例えば鉛やアルミなどの金属板、合板・パーティクルボード・MDFなどの木質板、石膏ボード・ケイ酸カルシウム板・フレキシブルボードなどの不燃性石質板、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)・炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの繊維強化プラスチック板、高硬度ゴム板などを用いることができ、制振層36よりも高剛性の素材であればよい。
制振層36はシート状に成形したエラストマーで形成され、板材22と接着固定されている。また、制振層36は、板材22と厚みが等しい。なお、制振層36を形成するエラストマーとしては、天然ゴム、合成ゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等を用いることができる。また、エラストマーに代えてアスファルト系材料、ナノコンポジットゲルや高分子ハイドロゲルなどの高分子材料を用いることもできる。ナノコンポジットゲルや高分子ハイドロゲルなどの含水量が大きな材料を用いることで、耐熱効果を得ることができる。
拘束板32は板材22と厚みの等しいステンレス板とされ、積層体38の両面、すなわち積層体38を構成する外側の制振層36の表面に接着固定されている。これにより、拘束板32と積層体38とで、パネル状の制振材30を構成している。なお、本実施形態において拘束板32は板材22と同じ構成とされているが、板材22と異なる厚みで形成してもよいし、異なる材質でもよい。拘束板32を形成する材料としては、板材22と同様、制振層36よりも高剛性の素材であればよい。なお、拘束板32は、本発明における拘束部材の一例である。
制振材30の製造方法は、一例として、拘束板32の表面に接着剤を均一に塗布した後に制振層36を載置し、この制振層36の表面に接着剤を塗布して板材22を載置する。その後、制振層36、拘束板32を順に接着剤を塗布しながら積層し、最終的に両側から圧力をかけて圧着固定する。
なお、各部材同士は接着により接合されていなくてもよい。例えば各部材同士は接着剤を用いずに積層し、積層後に外側にある拘束板32同士をタッカーやリベットを用いて接合してもよいし、積層後に拘束板32同士を枠材で挟み込んで固定してもよい。つまり、制振層36と板材22及び制振層36と拘束板32とが何らかの方法でバラバラにならないように接合されていればよい。
また、本実施形態においては制振層36が2枚のシート状エラストマーで形成されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、容器に収容され、熱を加えて融解させた樹脂材料に板材22を沈め、板材22を引き上げて、自重で樹脂材料を落下させ、板材22の両面に付着した樹脂材料を常温下で凝固させることにより、制振層36を形成してもよい。この場合、制振層36は板材22全体を被覆するように形成される。
また、制振層36と板材22とで形成された積層体38の外面に拘束部材を形成する方法として、積層体38を、常温下での剛性が制振層36よりも高い材料を溶かした液体に沈め、積層体38を引き上げて、積層体38の両面に付着した材料を常温下で凝固させることにより、拘束板32を形成してもよい。このように融解材料に沈めて凝固させる製造方法によると、板材22を芯材として、2層の制振層36あるいは2層の拘束板32を一度に形成することができるので、制振材30の製造効率が高い。
また、本実施形態において積層体38は、1枚の板材22の両面に2枚の制振層36を設けているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば積層体38は、図8(A)に示すように、板材22を複数積層させ、各板材22の間に制振層36を配置して構成することもできる。
(作用・効果)
第1実施形態に係る制振材30は、「制振層36と板材22」、「制振層36と拘束板32」がそれぞれ接合されている。このため運搬時にバラバラにならない。したがって、制振材30は、例えば建物の壁、床、天井などの仕上げ材や下地材として用いることができるほか、建設現場の仮囲い、高速道路の遮音壁など、制振材30自体を構造体として用いることもできる。あるいは、プレス加工して洗濯機や自動車などのボディ材として用いることもできる。
なお、制振材30は、人力で揚重できる程度の重量・厚み・大きさのものから、クレーンなどで吊下することが必要なものまでを含む。このため例えば図8(B)に示すように、制振材30自体をスラブとして構成し、梁101に架け渡すものとすることもできる。
第1実施形態の制振材30の制振効果を、制振層の数又は板材の材質を変えたものと比較して説明する。詳細は以下に記すが、図2(A)に示された制振材42は制振層34が1層とされており、図2(B)に示された制振材30は制振層36が2層とされ、制振層36の間に板材22が配置されている。また、図2(C)に示された制振材48は板材22と異なる材質の板材35を備えている。
なお、以下の説明における制振層34、36はエラストマーとされ、拘束板31、32はステンレス板とされている。
図2(A)には、制振材42を曲げ変形させた場合の、変形前と変形後の形状が模式的に示されている。なお、曲げ変形が振動として入力される場合、図2(A)に示された変形と、この変形と逆方向の変形とが周期的に繰り返される。後述する図2(B)、(C)についても同様である。
制振材42は、制振層34が1層とされ、制振層34の両面に拘束板32が接着された、従来の制振材である。
この制振材42を曲げ変形させた際には、上下の拘束板32は、それぞれ略同形状に変形する。例えば図2(A)に示す方向の変形では、拘束板32は中立軸32Aよりも上側が伸び変形し、下側が縮み変形する。このとき、下側の拘束板32の上面の変形に追随して、制振層34の下面が図中に矢印で示した方向に伸び変形する。また、上側の拘束板32の下面の変形に追随して、制振層34の上面が図中に矢印で示した方向に縮み変形する。すなわち、制振層34が上下の拘束板32に対してずり変形し、せん断歪みエネルギーによる振動の減衰効果を得ることができる。なお、このときのせん断歪みを歪み量ε1とする。
図2(B)には、第1実施形態の制振材30を曲げ変形させた場合の、変形前と変形後の形状が模式的に示されている。制振材30では、制振層36が2層とされ、2層の制振層36の間に板材22が接着されて積層体38を構成している。さらに、積層体38の両面に拘束板32が接着されて、制振材30が構成されている。板材22は拘束板32と同一の材質であり、制振層36の厚みはそれぞれ、制振材42に使用されている制振層34の厚みの半分とされている。すなわち、制振材30に使用されている2層の制振層36の厚みの合計は、制振材42に使用されている1層の制振層34の厚みと等しい。
この制振材30を曲げ変形させた際には、板材22と拘束板32は、それぞれ略同形状に変形する。例えば図2(B)に示す方向の変形では、中立軸22A、32Aよりも上側が伸び変形し、下側が縮み変形する。このとき、板材22の上面及び拘束板32の上面の変形に追随して、2層の制振層36の下面がそれぞれ図中に矢印で示した方向に伸び変形する。また、板材22の下面及び拘束板32の下面の変形に追随して、2層の制振層36の上面がそれぞれ図中に矢印で示した方向に縮み変形する。すなわち、制振層36にはせん断歪みが発生し、その結果、振動の減衰効果を得ることができる。なお、このときのせん断歪みを歪み量ε2とする。
ここで、制振材30と、上述した制振材42とを比較すると、制振材30は制振層36が板材22を挟んで2層で形成されているのに対し、制振材42は制振層34が1層で形成されている。この2層の制振層36の歪み量の合計、すなわち歪み量の和(ε2+ε2)は、制振材42における制振層34の歪み量ε1よりも大きい。より具体的には、制振材30における制振層36の歪み量ε2は、制振材42における制振層34の歪み量ε1とほぼ等しく、2層の制振層36の歪み量の和(ε2+ε2)は、制振層34の歪み量ε1のほぼ2倍となる。
このため、第1実施形態の制振材30は、制振層36の厚みの合計と等しい厚みを有する制振層34を1層しか備えない制振材42よりも、振動低減性能が高い。また、振動低減性能を等しくする場合、制振層が1層の場合よりも、制振層を2層にした場合の方が、制振層の合計の厚みを小さくすることができる。すなわち、制振層の総数を増やせば、振動低減性能を確保しつつ積層制振構造の厚みを小さくすることができる。
また、図2(C)には、第1実施形態の変形例である制振材48を曲げ変形させた場合の、変形前と変形後の形状が模式的に示されている。制振材48は、制振層36に挟まれた板材35の剛性及び制振層36との拘束方法が、図2(B)に示した制振材30において制振層36に挟まれた板材22と異なる。図2(C)に示すように、板材の剛性や拘束板に対する制振層の拘束条件などによっては、制振材に曲げ変形を加えた際に、拘束板と板材同士が相対的に水平移動(図2(C)にσ3で示す距離)することがある。このように、拘束板と板材が不規則に変形しても制振層はずり変形するので、振動の減衰効果を得ることができる。
[第2実施形態]
図3に示すように、第2実施形態の積層制振構造は、デッキプレート58の上部にコンクリート62を打設して形成されるデッキスラブ60に適用される。
デッキスラブ60は、波型に形成されたデッキプレート58と、デッキプレート58の谷部に載置され、板材52と板材52の両面に配置された2枚の制振層54とで構成された積層体56と、積層体56の上に打設されたコンクリート62と、を備えている。なお、デッキプレート58及びコンクリート62は、本発明における拘束部材の一例である。
デッキプレート58は亜鉛メッキにより防錆処理された波型鋼板で、建物の梁に架け渡されて、デッキスラブ60及びデッキスラブ60の上に載置される物品等の荷重を支持している。
板材52はステンレス板で形成され、デッキプレート58の谷部に配置するために短冊状に細長く切断加工されている。板材52は制振層54よりも高剛性とされている。なお、板材52を形成する板状材料は、第1実施形態の板材22と同様の材質とすることができる。
制振層54は、シート状に成形したエラストマーで形成され、デッキプレート58の谷部に配置するために短冊状に細長く切断加工されている。制振層54を形成する材料としては、第1実施形態の制振層36と同様の材質とすることができる。
なお、図3において板材52、制振層54はデッキプレート58の内側面58Aに対して隙間なく配置されているが、実施形態はこれに限られず、施工性を考慮して隙間を設けて配置することができる。
あるいは、板材52を融解させた樹脂材料に沈めて引き上げ、板材52の両面に付着した樹脂材料を常温下で凝固させることにより、板材52全体を被覆するような制振層54を形成してもよい。このようにして形成された積層体56をデッキプレート58の谷部に配置することによっても、振動の減衰効果を得ることができる。
本実施形態における積層制振構造の施工方法は、一例として、デッキプレート58を建物の梁の上に架け渡した後、デッキプレート58の谷部に制振層54、板材52、制振層54を順に重ねて配置する。この際、デッキプレート58と制振層54、及び、板材52と制振層54は、コンクリート62の荷重により互いに密着できるため、互いに接着しない。次に、デッキプレート58の上部に配筋し(図示略)、コンクリート62を打設する。なお、工場などでデッキプレート58に予め配筋されている場合は、配筋作業は省略することができる。
(作用・効果)
第2実施形態に係る積層制振構造は、制振対象であるデッキスラブ60を構成するデッキプレート58及びコンクリート62を、制振層54の外面を拘束する拘束部材として用いている。デッキプレート58と制振層54、板材52と制振層54は、コンクリート62の荷重により互いに密着するため、摩擦力によって制振層54の外面は拘束される。このため、デッキプレート58と制振層54とを接着する手間を削減することができ、板材52と制振層54とを接着する手間を削減することができる。
また、デッキスラブ60に例えば重量物が落下して振動が加えられた場合、デッキスラブ60は微小に曲げ変形する。曲げ変形が最も大きい箇所は、デッキスラブ60の中立軸60Aから最も離れたデッキプレート58の谷部であるが、本実施形態においては、この谷部に沿って、板材52と制振層54とで構成された積層体56が配設されている。このため、本実施形態における積層制振構造は効率よく振動を低減し、重量物の落下に伴う衝撃音が階下に伝わることを抑制できる。
なお、本実施形態において積層体56はデッキプレート58の谷部に配置されているが本発明の実施形態はこれに限られず、例えば図3に点線で示した山部に配置してもよいし、デッキプレート58の形状に沿うように波型に配置してもよい。
また、第2実施形態に係る積層制振構造は、積層体56が、拘束部材としてのデッキプレート58及びコンクリート62に挟まれた構成としたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば図8(C)に示すように、積層体56は両面をコンクリート62に挟まれた構成としてもよい。このように、積層体56の両面がコンクリート62に挟まれた構成は、スラブの他、例えば設備基礎に適用して設備の振動を低減したり、機械室周囲の壁体に適用して機械室の騒音を低減することができる。
また、積層体56の構成についても、1枚の板材52と2枚の制振層54とによる構成に限られず、図8(D)に示すように、板材52を複数積層させ、各板材52の間に制振層54を配置して構成することもできる。
[第3実施形態]
図4に示すように、第3実施形態の積層制振構造は、コンクリートのスラブ64に配置された支持脚66の上に敷設する床材68に適用される。
床材68は、支持脚66の上に敷設する下地材78と、下地材78の上に載置され、板材72と板材72の両面に配置された2枚の制振層74とで構成された積層体76と、積層体76の上に載置されたフローリング材80と、を備えている。なお、下地材78及びフローリング材80は、本発明における拘束部材の一例である。
板材72はステンレス板で形成され、制振層74は、シート状に成形したエラストマーで形成されている。板材72、制振層74はそれぞれ例えば500mm角のタイル状に形成され、下地材78の上部に制振層74、板材72、制振層74の順に、施工現場で敷き詰められる。なお、板材72と制振層74とは、工場で予め接着して一体化し、この一体化された積層体76を、現場で下地材78の上部に敷き詰めてもよい。
なお、板材72を形成する板状材料は、第1実施形態の板材22と同様の材質とすることができる。また、制振層74を形成する材料は、第1実施形態の制振層36と同様の材質とすることができる。すなわち、制振層74は、板材72、下地材78及びフローリング材80よりも低剛性とされていればよい。
また、板材72、制振層74の形やサイズは特に限定されず、例えば900mm×1800mm程度の板状であってもよいし、二重床の平面形状に合わせて不定形状にカットされていてもよい。
下地材78は、木材の小片を接着剤と混合し熱圧成型したパーティクルボードを用いて形成され、表面が粗面とされており、上部に載置される制振層74との摩擦力が高められている。
フローリング材80は、無垢の木材、樹脂、樹脂の表面に木材を貼り付けた複合材、コルクなどの材料により形成され、一定間隔でビス81を用いて積層体76を貫通して下地材78に固定されている。なお、フローリング材80の下に床暖房が敷設される場合や、フローリング材80が畳やタイルとされている場合などは、ビス81を用いない構成とすることができる。
(作用・効果)
第3実施形態に係る積層制振構造は、コンクリートのスラブ64に配置された支持脚66の上に床材68を敷設した二重床に適用される。このため、上階で発生した騒音が階下に伝わることを抑制できる。また、フローリング材80の下に、フローリング材80よりも剛性の小さい(柔らかい)制振層74が敷設されるので、歩行による足腰への負担を軽減し、また、転倒時の衝撃を緩和することができる。
なお、積層制振構造は、二重床に適用されるものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、図8(E)に示すように、下地材78、支持脚66を省略し、スラブ64の上に積層体76とフローリング材80とを重ねて配置した構成(所謂直床フローリング)に適用することもできる。この場合、スラブ64が拘束部材となる。
また、積層体76の構成についても、1枚の板材72と2枚の制振層74とによる構成に限られず、図8(F)に示すように、板材72を複数積層させ、各板材72の間に制振層74を配置して構成することもできる。
[第4実施形態]
第4実施形態に係る積層制振構造においては、図9に示すように、積層体106は板材102と、制振層104とを含んで構成されている。積層体106を上下から拘束する拘束部材については後述する。
それぞれの制振層104は、セルロース繊維を含有する中芯原紙108Aの両面に、ポリエチレンを主成分とする樹脂層108Bを接着剤で貼り合わせて形成されたシート材108を、3層重ねて構成されている。シート材108は両面がそれぞれ凹凸を備えて形成され、上下に隣接するシート材108同士の間の摩擦力が高められている。また、板材102はベニヤ板(JAS普通合板)とされている。なお、シート材108は、建設現場などで養生シートとして用いられる汎用品である。
積層体106は、図10に示すように、CLTスラブ110とトップコンクリート112との間に配置されている。より詳細には、図10に点線の囲み線で拡大部分を示したように、CLTスラブ110の上に拘束部材としての板材102が載置され、板材102の上に積層体106(7枚の板材102のそれぞれの両面に制振層104が配置されて形成された積層体)が載置され、積層体106の上に拘束部材としてのトップコンクリート112が打設されている。なお、これらのCLTスラブ110、トップコンクリート112、積層体106を組み合わせたものを以下の説明においてはスラブ100と称す。なお、CLTスラブ110の上に載置した板材102は省略することもできる。この場合、CLTスラブ110が拘束部材として機能する。
(作用・効果)
第4実施形態に係る積層制振構造は、制振層104が、それぞれシート材108を複数層(3層)積層させて形成されている。このため、スラブ100に曲げ振動モードが作用したときに、制振層104における各シート材108同士がずり変形する。このため、各制振層104が単一層のシート材108で形成されている場合と比較して、振動減衰効果が高められている。
さらに、このシート材108は、中芯原紙108Aの両面に樹脂108Bが貼り合わされて構成されている。このため、スラブ100に曲げ振動モードが作用したときに、シート材108における中芯原紙108Aと樹脂層108B(図9参照)とがずり変形する。このため、各シート材108が単一の材料で形成されている場合と比較して、振動減衰効果が高められている。
なお、本実施形態において各制振層104は、シート材108が3層配置されているが、本発明の実施形態はこれに限らず、2層以下又は4層以上でもよい。例えば1層の場合であっても、シート材108が中芯原紙108Aと樹脂層108Bにより複数層の構成とされていれば、単一の材料を単一層で形成した制振層と比較して振動減衰効果を高めることができる。
また、シート材108は、中芯原紙108Aの両面に樹脂層108Bを接着剤で貼り合わせて構成しているが、本発明の構成はこれに限らない。例えば中芯原紙108Aを液状の樹脂に浸したり液状の樹脂を塗布した後で乾燥させることにより、中芯原紙108Aを樹脂層108Bでコーティング(ラミネート)して構成してもよい。このようにすれば接着剤が不要になる。さらに、樹脂層108Bは、中芯原紙108Aの両面ではなく片面のみに貼りあわせてもよい。
また、各制振層104が2層以上のシート材108で形成されていれば、それぞれのシート材108は、単一の材料で構成してもよい。この場合においても、単一の材料を単一層で形成した制振層と比較して振動減衰効果を高めることができる。
なお、本実施形態における制振層104の構成は、第1〜第3実施形態においても適用することができる。また、本実施形態における制振層104として、第1〜第3実施形態における制振層36、54、74を適用することもできる。
[第5実施形態]
第5実施形態に係る積層制振構造においては、図11に示すように、積層体126は板材122と、制振層124とを含んで構成されている。制振層124の構成は、図9に示す制振層104の構成と等しい。同様に、板材122の構成も図9に示す板材102の構成と等しい。
積層体126は、スラブ121と隙間を空けて形成された天井120において野縁134に固定された下地板132と、石膏ボード130との間に配置されている。より詳細には、野縁134に拘束部材としての下地板132が固定され、下地板132の下に積層体126(2枚の板材122のそれぞれの両面に制振層124が配置されて形成された積層体)が固定され、積層体126の下に拘束部材としての石膏ボード130が固定されている。積層体126の施工に当たっては、板材122、制振層124をタッカー等で仮止めしながら積層したのち、ビスを用いて板材122、制振層124を一体的に下地板132又は野縁134に固定する。
なお、本実施形態においては下地板132を拘束部材として用いているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば下地板132を設けず、積層体126を直接野縁134に固定してもよい。この場合、野縁134が拘束部材として機能する。このように、拘束部材は必ずしも板状の構成にする必要はなく、制振層よりも高剛性の素材により、制振層の外面を全体的又は部分的に拘束するものであればよい。
(作用・効果)
第5実施形態に係る積層制振構造によると、スラブ121と隙間を空けて形成された天井120に積層体126が設置される。これにより、スラブ121と天井120との間の隙間の空気の共振により上階で発生した騒音が下階へ伝達することを抑制できる。なお、積層体126における板材122の積層数は、例えば共振周波数などに合わせて適宜調整できる。
なお、本実施形態において積層体126はスラブ121と隙間を空けて形成された天井120に設置するものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らず、スラブ121に直接固定してもよい。
[性能試験]
本発明の実施形態にかかる積層制振構造の振動の減衰効果を実証するために、下記に示す試験(第1試験〜第5試験)を実施した。
第1試験では、まず、鋼板90、制振鋼板92、制振鋼板94を用意する。制振鋼板94は本発明の実施形態の一例であり、鋼板90、制振鋼板92は比較例である。図5(A)に示すように、鋼板90は厚み0.8mm、短辺の長さ100mm、長辺の長さ200mmのステンレス製の板材である。また、図5(B)に示すように、制振鋼板92は、厚み0.6mmの制振層84の両面に厚み0.4mmのステンレス製の拘束板82を接着して構成された、短辺の長さ100mm、長辺の長さ200mmの制振材である。また、図5(C)に示すように、制振鋼板94は、3層の制振層36と制振層36の間にそれぞれ配置された2枚のステンレス製の板材22とが互いに接着されて構成された積層体38と、積層体38の両面に接着されたステンレス製の拘束板32、とを備えた制振材である。制振層36、板材22、拘束板32はそれぞれ厚み0.2mm、短辺の長さ100mm、長辺の長さ200mmとされている。なお、制振層36、84は共にエラストマーとされている。
次に、各試験片の1方の短辺を固定して片持ち状態として、他方の短辺寄りの部分に加速度センサーを設置して、その近傍をインパルスハンマーで打撃した。そして、その際に発生した加速度[m/s2]と加振力[N]を測定し、アクセレランス[(m/s2)/N]を算出した。このアクセレランスの値が小さいほど、加振力に対して試験片に発生する加速度が小さいことを示すので、振動低減効果が高い。
図6のグラフには、振動数[Hz]とアクセレランス[(m/s2)/N]との関係が鋼板90、制振鋼板92、制振鋼板94毎に示されている。なお、図6では、鋼板90を1点鎖線A、制振鋼板92を点線B、制振鋼板94を実線Cで示している。図6に示された周波数域では、アクセレランスの最大値は、鋼板90、制振鋼板92、制振鋼板94でそれぞれ約60[(m/s2)/N]、7.5[(m/s2)/N]、4.5[(m/s2)/N]となり、制振鋼板94が最も振動低減効果が高い。
第1試験ではさらに、各試験片をインパルスハンマーで打撃して発生した加速度[m/s2]の経時変化を測定した。図7のグラフには、加速度[m/s2]と時間[秒]との関係が、鋼板90、制振鋼板94毎に示されている。なお、図7では、鋼板90を1点鎖線A、制振鋼板94を実線Cで示している。図7に示されるように、制振鋼板94は、鋼板90と比較して、発生する加速度の最大値が小さく、減衰が早い。
このように、本発明の実施形態に係る積層制振構造によると、制振材が単層とされた積層制振構造と比較して、高い振動低減効果が得られる。また、振動低減性能を確保しつつ、制振層が単層とされた積層制振構造と比較して制振層を薄くできる。
次に第2試験で、試験体2A、2B、2C、2Dの振動低減効果の比較を行った。ここで試験体2Aは、短辺300mm、長辺900mm、厚さ20mmのパーティクルボードであり、本試験における比較例である。
試験体2Bは、試験体2Aと同様のパーティクルボード上に、第4実施形態における厚み0.15mmのシート材108を3層(図9における制振層104)及び厚み4mmのベニヤ板(JAS普通合板)を1層積層させたものを8セット(すなわち、(3層+1層)×8セット)重ね合わせた積層制振構造体である。
試験体2Cは、パーティクルボード上に、シート材108を12層及びベニヤ板を4層積層させたものを2セット(すなわち、(12層+4層)×2セット)重ね合わせた積層制振構造体である。
試験体2Dは、パーティクルボード上に、シート材108を24層及びベニヤ板を8層積層させた(すなわち、(24層+8層)×1セット)積層制振構造体である。
試験体2B、2C、2Dでは、積層されているシート材108の数及びベニヤ板の総数は等しいが、試験体2B、2C、2Dの順に、各ベニヤ板間に挟まれるシート材108の単位枚数が少ない。
これらの試験体2A、2B、2C、2Dの両端部を支持脚で支持し、中央部の裏面に設加速度センサーを設置して、中央部の表面をインパルスハンマーで打撃した。そして、その際に発生した加速度[m/s2]と加振力[N]を測定し、アクセレランス[(m/s2)/N]を算出した。
図12に示すように、シート材108を用いた試験体2B、2C、2Dは、シート材108を用いていない試験体2Aと比較して、アクセレランスのピーク値が小さく、振動低減効果が高いことがわかる。また、試験体2Bと、試験体2C及び2Dとを比較すると、各ベニヤ板間に挟まれるシート材108の単位枚数が少ない試験体2Bのほうが、アクセレランスのピーク値が小さく、振動低減効果が高い。
次に第3試験で、試験体3A、3B、3C、3D、3E、3Fの振動低減効果の比較を行った。ここで試験体3Aは、第2試験における試験体2Aと同様の短辺300mm、長辺900mm、厚さ20mmのパーティクルボードであり、本試験における比較例である。
試験体3Bは、厚み1mmのオレフィン系樹脂で形成された制振材を1層及び厚み4mmのベニヤ板を1層重ねたものを4セット重ね合わせた比較例である。
試験体3Cは、厚み0.15mmのシート材108を3層(図9における制振層104)及び厚み4mmのベニヤ板(JAS普通合板)を1層積層させたものを4セット(すなわち、(3層+1層)×4セット)重ね合わせた積層制振構造体である。
試験体3Dは、シート材108を3層及びベニヤ板を1層積層させたものを7セット(すなわち、(3層+1層)×7セット)重ね合わせた積層制振構造体である。
試験体3Eは、厚み1.5mmの発泡ポリエチレンシートを3層及びベニヤ板を1層積層させたものを4セット(すなわち、(3層+1層)×4セット)重ね合わせた比較例である。なお、発泡ポリエチレンシートは、シート材108と同様に、建設現場などで養生シートとして用いられる汎用品である。
試験体3Fは、発泡ポリエチレンシートを3層及びベニヤ板を1層積層させたものを7セット(すなわち、(3層+1層)×7セット)重ね合わせた比較例である。
これらの試験体3A、3B、3C、3D、3E、3Fについて、第2試験と同様の試験を行った。図13には、各試験体3A、3B、3C、3D、3E、3Fにおける固有振動数が折れ線グラフで、各試験体3A、3B、3C、3D、3E、3Fにおける振動低減効果(各試験体におけるアクセレランスのピーク値から試験体3Aにおけるアクセレランスのピーク値を引いた値)が棒グラフで示されている。
図13の棒グラフに示すように、シート材108を用いた試験体3C、3Dは、シート材108を用いていない試験体3Aと比較して、振動低減効果があることがわかる。また、シート材108を用いた試験体3C、3Dは、シート材108に代えて厚み1.5mmの発泡ポリエチレンシートを用いた試験体3E、3Fと比較して、振動低減効果が高い。さらに、シート材108を用いた試験体3Cは、シート材108に代えて厚み1mmのオレフィン系樹脂を用いた試験体3Bとほぼ同等の振動低減効果がある。シート材108の厚みは1枚あたり0.15mmであるため、試験体3Bと試験体3Cとを比較すると、試験体3Cのほうが少ない厚みで同等の振動低減効果を発揮できる。
次に第4試験で、試験体4A、4B、4C、4D、4Eの振動低減効果の比較を行った。ここで試験体4Aは、図14に示す鋼製の大梁140と、大梁140に架設された鋼製の小梁142と、で形成された略水平構面に敷設された、厚み3.2mmの鋼製床144である。鋼製床の平面寸法は、図14に示すX方向で約2400mm、Y方向で約6300mmとされている。
試験体4Bは、図15(B)に示すように鋼製床144の上に厚み2.4mmのベニヤ板146を載置し、ベニヤ板146の上に制振層104(厚み0.15mmのシート材108を3層)を載置し、制振層104の上に厚み20mmのパーティクルボード148を載置した比較例である。
試験体4Cは、図15(C)に示すように鋼製床144の上に、ベニヤ板146及び制振層104を積層させたものを2セット重ね合わせた積層制振構造体である。
試験体4Dは、図15(D)に示すように鋼製床144の上に、ベニヤ板146及び制振層104を積層させたものを4セット重ね合わせた積層制振構造体である。
試験体4Eは、図15(E)に示すように鋼製床144の上に、ベニヤ板146及び制振層104を積層させたものを8セット重ね合わせた積層制振構造体である。
これらの試験体4A、4B、4C、4D、4Eに対し、所定の位置からゴムボールを自由落下した。そして、その際に発生した加速度[m/s2]と加振力[N]を測定し、アクセレランス[(m/s2)/N]を算出した。
図16に示すように、制振層104(3層のシート材108)を用いた試験体4B、4C、4D、4Eは、制振層104を備えない試験体4Aと比較すると、振動低減効果があることがわかる。また、試験体4B、4C、4D、4Eをそれぞれ比較すると、制振層104の総数が多いほど、より高い振動低減効果が得られることがわかる。
なお、本実施形態において、シート材108はセルロース繊維を含有する中芯原紙108Aの両面にポリエチレンを主成分とする樹脂層108Bを貼りあわせたものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば中芯原紙108Aに代えてアモルファス金属系薄帯を用い、樹脂層108Bとしてポリエチレン(PE)に代えてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いてもよい。このような磁気シールドシート材を用いることで、ずり変形による振動減衰効果のほか、磁気シールド効果を得ることができる。
この中芯原紙及びPEを用いたシート材108及びアモルファス金属系薄帯及びPETを用いた磁気シールドシート材による振動減衰効果を比較するため、第5試験を行った。
第5試験では、試験体5A、5B、5C、5D、5E、5Fの振動低減効果の比較を行った。ここで試験体5Aは、第2試験における試験体2Aと同様の短辺300mm、長辺900mm、厚さ20mmのパーティクルボードであり、本試験における比較例である。
試験体5Bは、試験体5Aと同様のパーティクルボード上に、厚み0.15mmのシート材108を3層(図9における制振層104)及び厚み4mmのベニヤ板(JAS普通合板)を1層積層させた積層制振構造体である。
試験体5Cは、パーティクルボード上に、シート材108を3層(図9における制振層104)及びベニヤ板を1層積層させたものを4セット(すなわち、(3層+1層)×4セット)重ね合わせた積層制振構造体である。
試験体5Dは、試験体5Bのシート材108に代えて、磁気シールドシート材を用いた積層制振構造体である。
試験体5Eは、試験体5Cのシート材108に代えて、磁気シールドシート材を用いた積層制振構造体である。
試験体5Fは、パーティクルボード上に、シート材108を3層及びベニヤ板を1層積層させ、さらに磁気シールドシート材を3層及びベニヤ板を1層積層させた積層制振構造体である。
これらの試験体5A、5B、5C、5D、5E、5Fの両端部を支持脚で支持し、中央部の裏面に加速度センサーを設置して、中央部の表面をインパルスハンマーで打撃した。そして、その際に発生した加速度[m/s2]と加振力[N]を測定し、アクセレランス[(m/s2)/N]を算出した。
図17に示すように、シート材108に代えて磁気シールドシート材を用いた試験体5D、5E(何れも1点鎖線)は、シート材108及び磁気シールドシート材の何れも備えていない試験体5A(点線)と比較してアクセレランスのピーク値が小さく、振動低減効果が高いことがわかる。
また、シート材108を用いた試験体5B(実線)と、シート材108に代えて磁気シールドシート材を用いた試験体5D(一点鎖線)の振動低減効果は近似している。また、シート材108を用いた試験体5C(実線)と、シート材108に代えて磁気シールドシート材を用いた試験体5E(一点鎖線)の振動低減効果は近似している。
また、シート材108及び磁気シールドシート材を複合して用いた試験体5Fの振動低減効果は、シート材108のみを用いた試験体5Cあるいは磁気シールドシート材のみを用いた試験体5Eと比較して振動低減効果は近似している。
これらの試験体5A、5B、5C、5D、5E、5Fを用いた第5試験により、アモルファス金属系薄帯及びPETを用いた磁気シールドシート材は中芯原紙及びPEを用いたシート材108と比較して遜色しない振動低減効果を備えていることがわかった。