JP6916902B2 - 印刷付起毛シート及び印刷用起毛シート - Google Patents

Description

本発明は、衣料，靴，家具，カーシート，雑貨製品等の表面素材として用いられる、表面に印刷により意匠が付与された印刷付起毛シート及びそれを製造するための印刷用起毛シートに関する。

従来、スエード調人工皮革やヌバック調人工皮革のような起毛面を有する起毛シートが知られている。起毛シートは、例えば、布帛の表面を起毛処理して形成された起毛面を有する。このような起毛シートは、染料で染色されたり、顔料で着色されたり、その表面に印刷されたりして用いられることが多い。

例えば、下記特許文献１は、極細繊維を含む繊維質基体上に多孔層を有し、該多孔層の表面が直径１μｍ以上の開孔部を有しているとともに、インクジェット印刷によりその表面に解像度５ドット／ｍｍ以上の顔料系のインクによる画像を形成させたヌバック調の皮革様シート状物を開示する。

ところで、起毛シートであるヌバック調人工皮革の外観を向上させるための表面特性を調整する技術が知られている。下記特許文献２は、天然のヌバック皮革調のウェットな触感と優美で均一な色調の外観を有する人工皮革を開示する。具体的には、単繊維繊度が０．０１ｄｔｅｘ以上０．５０ｄｔｅｘ以下の極細繊維からなる繊維絡合体と高分子弾性体を含む人工皮革であって、少なくとも一方の面が起毛を有しており、この起毛を有する起毛面側の断面曲線の算術平均高さＰａ値が２６μｍ以上１００μｍ以下であり、他方の面側の断面曲線の算術平均高さＰａ値が、起毛面側の断面粗さＰａ値の２０％以上８０％以下であり、起毛面側の断面曲線において、凸部の頂点の存在頻度が１．０ｍｍあたり１．８個以上２０個以下であり、他方の面側に、織編物が積層深さ１０％以上５０％以下の位置で積層されていることを特徴とする人工皮革を開示する。

特開２００８−０５７０６２号公報 ＷＯ２０１５／１５１８７２号パンフレット

起毛シートの起毛面に図柄を印刷した場合、印刷面を擦って繊維を逆立てたときに、斑点状の欠点が発生することがあった。これは、起毛された繊維が倒れた裏面は、印刷時に影になって充分にインクが届かないことにより発生する。本発明は、起毛面に印刷された起毛シートにおいて、繊維を逆立てても斑点状の欠点を発生させにくい印刷付起毛シートを提供することを目的とする。

本発明の一局面は、起毛面を有する布帛を含み、起毛面は印刷されており、且つ、ISO 25178に準じた面粗さ測定において、算術平均高さ（Ｓａ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において３０μｍ以下であり、平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において３０／４３２ｍｍ²以下であり、且つそれらの差（絶対値）が２０／４３２ｍｍ²以下である印刷付起毛シートである。このような起毛面を有する印刷付起毛シートにおいては、起毛面を順目方向及び逆目方向の何れの方向に摩擦しても繊維が倒れた状態から一定以上の高さまで起こされにくいために、印刷面を擦っても、印刷時に影になってインクで着色されなかった部分が表出しにくくなる。

布帛は、起毛面に被着された第１の高分子弾性体を含むことが好ましい。起毛面の繊維を第１の高分子弾性体で固定することにより、繊維が倒れた状態から一定以上の高さまで起こされにくく、面粗さの低い起毛面が形成されやすくなる。

また、布帛は、起毛面の形成後に付与された第２の高分子弾性体を含むことが、さらに面粗さの低い起毛面が形成されやすい点から好ましい。

また、布帛が糸タフネスが平均８〜４０ｃＮ・％である繊維を含むことが好ましい。この場合には、繊維が硬くなりすぎないために、起毛処理により起毛面の繊維が短くなりやすい。そのために、斑点状の欠点を生じさせやすい長い立毛した繊維の発生を抑制できる点から好ましい。

また、布帛は、平均繊度０．０１〜０．５ｄｔｅｘのポリエステル繊維を含み、印刷が分散染料インクによる印刷であることが面粗さの低い起毛面を形成させやすく、また、発色性に優れる点から好ましい。

また、布帛は、その内部に付与された第３の高分子弾性体を含む皮革様シートであることが、形態安定性や充実感に優れる布帛になる点から好ましい。

また、布帛は、その内部の空隙に付与された顔料で着色されていることが、起毛面の繊維を逆立てたときに斑点が発生しても目立ちにくくするように調整できる点から好ましい。

また、本発明の他の一局面は、起毛面を有する布帛を含み、起毛面は印刷するために用いられ、且つ、ISO 25178に準じた面粗さ測定において、算術平均高さ（Ｓａ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において２０μｍ以下であり、平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において２０／４３２ｍｍ²以下である印刷用起毛シートである。このような印刷用起毛シートの起毛面に印刷した場合には、起毛面の繊維を逆立てても斑点状の欠点が発生しにくい。

本発明によれば、印刷された起毛面の繊維を逆立てても斑点状の欠点が発生しにくくなる。

本実施形態の印刷用起毛シート及び印刷付起毛シートを詳しく説明する。本実施形態の印刷付起毛シートは、起毛面を有する布帛を含み、起毛面は印刷されており、且つ、ISO25178に準じた面粗さ測定において、算術平均高さ（Ｓａ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において３０μｍ以下であり、平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において３０／４３２ｍｍ²以下であり、且つそれらの差（絶対値）が２０／４３２ｍｍ²以下である印刷付起毛シートである。このような印刷付起毛シートは、繊維が倒れた状態から一定以上の高さまで起こされにくい。このような印刷付起毛シートは、面粗さの低い起毛面が形成された起毛シート（印刷用起毛シート）の起毛面に印刷することにより製造される。

布帛としては、不織布、織物、編み物等が挙げられる。また、布帛を形成する繊維の繊度としては、平均繊度０．０１〜０．５ｄｔｅｘ、さらには０．０５〜０．４ｄｔｅｘ、とくには０．１〜０．３５ｄｔｅｘの極細繊維であることが、面粗さの低い、印刷に適した緻密な起毛面を形成できる点から好ましい。なお、平均繊度は、布帛の厚さ方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡（ＳＥＭ）で３０００倍で拡大撮影し、万遍なく選択された１５本の繊維径から繊維を形成する樹脂の密度を用いて算出した平均値として求められる。平均繊度が高すぎる場合には、起毛面の繊維が長くなったり、起こされやすくなったりする傾向があり、平均繊度が低すぎる場合には、印刷による発色性が低下する傾向がある。

また、布帛を形成する繊維の繊維長としては、所定の長さで意図的に切断処理されたステープルであっても、紡糸後に所定の長さになるように意図的に切断処理されていない連続繊維等の長繊維（フィラメント）であってもよい。これらの中では、起毛面が摩擦されることによって繊維が引きずり出されにくいために長い繊維が表面に表れにくく、また、繊維が寝かされた状態から起こされにくいように固定しやすい点から、長繊維がとくに好ましい。

布帛を形成する繊維を形成する樹脂としては、印刷可能な繊維であって面粗さの低い起毛面を形成できる樹脂であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート（ＰＥＴ），ポリトリメチレンテレフタレート（ＰＴＴ），ポリブチレンテレフタレート（ＰＢＴ），ポリエステル弾性体等のポリエステルまたはそれらのイソフタル酸等による変性物；ナイロン６，ナイロン６６，ナイロン６１０，ナイロン１２，芳香族ナイロン，半芳香族ナイロン，ポリアミド弾性体等のナイロンまたはそれらの変性物；ポリプロピレンなどのポリオレフィン；ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン等が挙げられる。これらの中では、ポリエステルが面粗さの低い起毛面を形成しやすく、また、分散染料インクやカチオン染料インクを用いることにより、発色性に優れた印刷ができる点から好ましい。

布帛は、形態安定性や充実感を付与するために、その内部に高分子弾性体（第３の高分子弾性体）が付与された人工皮革のような皮革様シートであることが好ましい。布帛の内部に付与される第３の高分子弾性体は、起毛処理前の布帛に、高分子弾性体の樹脂液をディップ・ニップ法等により含浸させ、高分子弾性体を凝固させるような方法により付与される。樹脂液としては、高分子弾性体を溶剤に溶解された溶液や、高分子弾性体を乳化分散させたエマルジョンや、高分子弾性体を水系溶媒に分散させた分散液が用いられる。第３の高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン，アクリル樹脂，アクリロニトリル樹脂，オレフィン樹脂，ポリエステル樹脂等の弾性体が挙げられる。これらの中ではポリウレタンが好ましい。

布帛の内部に付与される第３の高分子弾性体の含有割合としては、布帛との合計に対して、０．１〜６０質量％、さらには０．５〜５０質量％、とくには１〜３０質量％であることが、充実感としなやかさ等のバランスに優れる印刷付起毛シートが得られる点から好ましい。高分子弾性体の含有割合が高すぎる場合には得られる印刷付起毛シートがゴムライクになり硬くなる傾向がある。

また、高分子弾性体には、本発明の効果を損なわない範囲で、顔料等の着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤などをさらに含有してもよい。

布帛は起毛面を有する。起毛面は、布帛の一面を好ましくは１２０〜６００番手、さらに好ましくは３２０〜６００番手程度のサンドペーパーやエメリーペーパーを用いてバフィングすることにより形成される。

起毛面には、立毛する繊維を摩擦により起こされにくくするために、高分子弾性体（第１の高分子弾性体）を被着させることが好ましい。起毛面に高分子弾性体を被着させて繊維を固定することにより、繊維が倒れた状態から一定以上の高さまで起こされにくく、面粗さの低い起毛面が形成されやすくなる。起毛面に第１の高分子弾性体を被着させる方法としては、起毛面に第１の高分子弾性体を含有する樹脂液を塗布した後、乾燥させることにより、起毛面に立毛する繊維に高分子弾性体を固着させる方法が挙げられる。このようにして起毛面に存在する繊維に高分子弾性体を固着させることにより、起毛面に存在する立毛した繊維が拘束されて、摩擦により起こされにくくなる。

起毛面に被着させる第１の高分子弾性体は、布帛の内部に付与される第３の高分子弾性体と同じものであっても、種類や分子量が異なるものであってもよいが、繊維に固着しやすい点からポリウレタンがとくに好ましい。起毛面に高分子弾性体を被着させるために用いられる、第１の高分子弾性体を含有する樹脂液を塗布する方法としては、グラビアコーティング法、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等が挙げられる。樹脂液としては、高分子弾性体を溶剤に溶解された溶液や、高分子弾性体を乳化分散させたエマルジョンや、高分子弾性体を水系溶媒に分散させた分散液が用いられる。また、起毛面に樹脂液を付与した後には、繊維に対する接着性をさらに高めるために、高分子弾性体を溶剤で溶解して浸透性を向上させてもよい。

起毛面に被着させる第１の高分子弾性体の含有割合（固形分）としては、起毛面に対して、１〜１０ｇ／ｍ²、さらには２〜８ｇ／ｍ²であることが、起毛面を硬くしすぎずに繊維をしっかりと固定することができる点から好ましい。

本実施形態の印刷付起毛シートの起毛面は、さらに以下のような処理により調整することが好ましい。例えば、起毛面で立毛する繊維を短くすることにより、起毛面が摩擦されたときに繊維がランダムな方向に動くことによる外観変化が抑制される。起毛面で立毛する繊維を短くするためには、バフィングによる起毛処理により、起毛面の繊維が適度に切れて起毛された繊維が短くなりやすくなる繊維を用いることが好ましい。

起毛面の繊維をバフィングにより適度に切れやすくするために、布帛を形成する繊維の粘り強さや剛性の高さを調整することが好ましい。具体的には、例えば、繊維１本あたりの粘り強さや剛性の高さを示す指標となる、糸タフネスを平均８〜４０ｃＮ・％、さらには１０〜３０ｃＮ・％に調整することが好ましい。糸タフネスがこのような範囲である場合には、繊維が硬くなり過ぎないために倒されて固定された繊維が起きにくくなる。糸タフネスは繊維の１本あたりの引張タフネスであり、後述するように算出される。糸タフネスが高すぎる場合には起毛面の繊維が長くなりやすくなり、面粗さが高くなる傾向がある。

また、起毛面に熱を付与して起毛面の繊維を適度に寝た状態で熱セットすることによっても、起毛面の繊維が一定以上の高さ以上に起こされることを抑制することができる。このような熱セットの方法としては、例えば、収縮加工処理が挙げられる。

収縮加工処理は、起毛面を有する布帛をタテ方向（製造ラインの進行方向、または繊維の配向方向）に機械的に収縮させ、繊維を収縮させたまま熱処理してヒートセットすることにより、繊維の配向方向であるタテ方向に平行な断面において、繊維にミクロなうねりを形成させる。収縮加工処理としては、例えば、起毛面を有する布帛を、厚さが数ｃｍ以上の厚い弾性体シート（ゴムシート、フェルトなど）のタテ方向に伸長させた表面に密着させ、弾性体シートの表面を伸長状態から伸長前の状態に弾性回復させることにより、起毛面を有する布帛をタテ方向に収縮させる方法が挙げられる。

また、起毛面を有する布帛には、起毛面を調整するために揉み柔軟化処理を施したり、逆シールのブラッシング、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃剤処理等の仕上げ処理を施したりしてもよい。

また、起毛面を有する布帛には、起毛処理後の布帛に、高分子弾性体（第２の高分子弾性体）がさらに付与されていることが、起毛面に存在する立毛する繊維の動きが拘束されてさらに起こされにくくなる点から好ましい。第２の高分子弾性体は、起毛面を有する布帛に第３の高分子弾性体を付与したのと同様の方法により含浸付与することが好ましい。

起毛処理後の布帛に付与される第２の高分子弾性体も、上述した第１の高分子弾性体及び第３の高分子弾性体と同じものでも、種類や分子量が異なるものであってもよいが、繊維に固着しやすい点からポリウレタンがとくに好ましい。起毛処理後の布帛に付与される第２の高分子弾性体の含有割合としては、布帛との合計に対して、０．１〜１質量％、さらには０．２〜０．７質量％、とくには０．３〜０．５質量％であることが好ましい。

また、起毛面を有する布帛は、その内部の空隙に付与された顔料で着色されていることが、起毛面の繊維を逆立てたときに斑点が発生しても目立ちにくくするように調整できる点から好ましい。このような顔料は、上述した、第１の高分子弾性体、第２の高分子弾性体、または第３の高分子弾性体をバインダとして繊維に固着されていることが好ましい。顔料の種類は特に限定されないが、その具体例としては、例えば、亜鉛華，鉛白，リトポン，二酸化チタン，沈降性硫酸バリウムおよびバライト粉等の白色顔料、鉛丹，酸化鉄赤等の赤色顔料、黄鉛，亜鉛黄（亜鉛黄1種、亜鉛黄2種）等の黄色顔料、ウルトラマリン青，プロシア青（フェロシアン化鉄カリ）等の青色顔料、カーボンブラック等の黒色顔料、フタロシアニン系，アントラキノン系，キナクリドン系，ジオキサジン系，イソインドリノン系，イソインドリン系，インジゴ系，キノフタロン系，ジケトピロロピロール系，ペリレン系，ペリノン系等の縮合多環系有機顔料、ベンズイミダゾロン系，縮合アゾ系，アゾメチンアゾ系等の不溶性アゾ系等の有機顔料が挙げられる。これらの中では無機顔料が耐光性に優れる点から特に好ましい。

上述のように製造される本実施形態の印刷用起毛シートは、印刷される起毛面が、ISO 25178に準じた面粗さ測定において、算術平均高さ（Ｓａ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において２０μｍ以下であり、平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において２０／４３２ｍｍ²以下になるように調整されている。

ここで、ISO 25178（面粗さ測定）は、接触式または非接触式の表面粗さ・形状測定機により表面状態を３次元的に測定する方法を規定している。算術平均高さ（Ｓａ）は表面の平均面に対する各点の高さの差の絶対値の平均を表す。平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）とは、単位面積当たりの山頂点の数のうち平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山の頂点の数を表す。また、起毛面の順目方向とは、起毛面をシールブラシで整毛したときに立毛が倒れて寝かされた方向であり、起毛面の逆目方向とはシールブラシで整毛したときに立毛が起こされる方向である。

印刷用起毛シートの起毛面は、算術平均高さ（Ｓａ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において２０μｍ以下で、平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）が順目方向及び逆目方向の両方向において２０／４３２ｍｍ²以下になるように調整されている。起毛面がこのような表面状態を有することにより、起毛面がどのような方向に摩擦されても繊維が一定の範囲以外に自由に動きにくくなる。その結果、起毛面を順目方向及び逆目方向の何れの方向に摩擦しても繊維が倒れた状態から一定以上の高さまで起こされにくいために、印刷面が擦られても、印刷時に影になってインクで着色されなかった繊維の面が表出しにくくなる。

起毛面の算術平均高さ（Ｓａ）は順目方向及び逆目方向の両方向において２０μｍ以下であり、好ましくは１５μｍ以下である。算術平均高さ（Ｓａ）が順目方向及び逆目方向の何れか一方においても２０μｍを超える場合には印刷面が擦られることによって印刷時に影になってインクで着色されなかった繊維の面が表出しやすくなる。

また、印刷用起毛シートの起毛面の平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）は、順目方向及び逆目方向の両方向において２０／４３２ｍｍ²以下になる山頂点の数であり、好ましくは１０／４３２ｍｍ²以下、さらに好ましくは５／４３２ｍｍ²以下である。山頂点密度（Ｓｐｄ）が順目方向及び逆目方向の何れか一方でも２０／４３２ｍｍ²を超える場合には、印刷面が擦られたときに、印刷時に影になってインクで着色されなかった部分が表出しやすくなる。

さらに、印刷用起毛シートの起毛面の山頂点密度（Ｓｐｄ）は、順目方向及び逆目方向の差が絶対値で１０／４３２ｍｍ²以下、さらには７／４３２ｍｍ²以下、とくには５／４３２ｍｍ²以下であることが好ましい。山頂点密度（Ｓｐｄ）の順目方向及び逆目方向の差の絶対値が大きすぎる場合には、印刷面が擦られたときに、印刷時に影になってインクで着色されなかった部分がやや表出しやすくなる。

本実施形態の印刷付起毛シートは、以上説明した印刷用起毛シートの起毛面に印刷することにより製造される。印刷の手法は特に限定されず、インクジェット印刷，昇華転写インクジェット印刷，スクリーン印刷等、特に限定されない。

印刷に用いられるインクは、着色剤を配合して調製される。インクに含まれる着色剤としては染料であっても顔料であってもよいが染料がとくに好ましい。

染料としては、分散染料，カチオン染料，酸性染料，直接染料等の各種染料が布帛を形成する繊維の種類に応じて選択して用いられる。例えば、布帛がポリエステル繊維を含む場合には、発色性や耐光性に優れる点から分散染料やカチオン染料を用いることが好ましい。分散染料の具体例としては、例えば、ベンゼンアゾ系染料（モノアゾ、ジスアゾなど）、複素環アゾ系染料（チアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、キノリンアゾ、ピリジンアゾ、イミダゾールアゾ、チオフェンアゾなど）、アントラキノン系染料、縮合系染料（キノフタリン、スチリル、クマリンなど）等が挙げられる。これらは、例えば、「Ｄｉｓｐｅｒｓｅ」の接頭辞を有する染料として市販されている。これらは、単独で用いてもよいが、通常、図柄を形成するためには２種以上の染料を組み合わせて用いられる。

なお、印刷後においては、繊維に染着されていない染料を洗浄するために洗浄処理を施すことが好ましい。例えば、ポリエステル繊維を含む布帛の内部にポリウレタンを付与した場合、染料はポリエステル繊維に染着するがポリウレタンには染着しない。そのために、ポリウレタンに吸尽された分散染料を洗浄しなければ染色堅牢性が低くなる。従って、例えば、分散染料を含むインクを用いて印刷した場合には、還元洗浄を行うことが好ましい。

還元洗浄は、例えば、苛性ソーダ等のアルカリ性物質、ハイドロサルファイト類や二酸化チオ尿素等の還元剤および界面活性剤を溶解させた７０〜９５℃程度の湯浴中で３０〜６０分間程度洗浄することが好ましい。また、洗浄回数は、１回であってもよいが、染色堅牢性の程度に応じて、２回以上行ってもよい。また、還元洗浄後には、通常、酸化処理を行う。酸化処理の方法は特に限定されず、空気や酸素ガス、酸化剤を用いて処理する方法がとくに限定なく用いられる。また、必要に応じて中和処理を行い、さらに、ソーピング処理を行ってもよい。そして、乾燥することにより、印刷付起毛シートに仕上げられる。また、乾燥後には、必要に応じて、揉み柔軟化処理、逆シールのブラッシング、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃剤処理等の仕上げ処理を行ってもよい。

このようにして起毛面が印刷された印刷付起毛シートが得られる。本実施形態の印刷付起毛シートの印刷された起毛面は、印刷工程を経ることにより、印刷用起毛シートよりも少し粗くなる。具体的には、ISO 25178に準じた面粗さ測定において、算術平均高さ（Ｓａ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において３０μｍ以下であり、平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において３０／４３２ｍｍ²以下であり、且つそれらの差（絶対値）が２０／４３２ｍｍ²以下である印刷付起毛シートである。

印刷付起毛シートの起毛面は、算術平均高さ（Ｓａ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において３０μｍ以下で、平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）が順目方向及び逆目方向の両方向において３０／４３２ｍｍ²以下になるように調整されている。起毛面がこのような表面状態を有することにより、起毛面がどのような方向に摩擦されても繊維が一定の範囲以外に自由に動きにくくなる。その結果、印刷面を順目方向及び逆目方向の何れの方向に摩擦しても繊維が倒れた状態から一定以上の高さまで起こされにくいために、印刷面が摩擦されても、印刷時に影になってインクで着色されなかった部分が表出しにくくなる。

起毛面の算術平均高さ（Ｓａ）は順目方向及び逆目方向の両方向において３０μｍ以下であり、好ましくは２８μｍ以下、さらに好ましくは２６μｍ以下、最も好ましくは２４μｍ以下である。算術平均高さ（Ｓａ）が順目方向及び逆目方向の何れか一方においても３０μｍを超える場合には起毛面が摩擦されることによって自由に動く繊維が長くなる。その結果、印刷面が摩擦されたときに、印刷時に影になってインクで着色されなかった部分が表出しやすくなる。

また、印刷付起毛シートの起毛面の平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）は、順目方向及び逆目方向の両方向において３０／４３２ｍｍ²以下になる山頂点の数であり、好ましくは２０／４３２ｍｍ²以下、さらに好ましくは１８／４３２ｍｍ²以下である。山頂点密度（Ｓｐｄ）が順目方向及び逆目方向の何れか一方でも３０／４３２ｍｍ²を超える場合には、印刷面が摩擦されたときに、印刷時に影になってインクで着色されなかった部分が表出しやすくなる。

さらに、上記山頂点密度（Ｓｐｄ）は、順目方向及び逆目方向の差が絶対値で２０／４３２ｍｍ²以下であり、１８／４３２ｍｍ²以下であり、さらには１６／４３２ｍｍ²以下であることが好ましい。山頂点密度（Ｓｐｄ）の順目方向及び逆目方向の差が絶対値で２０／４３２ｍｍ²を超える場合には、印刷面が摩擦されたときに、印刷時に影になってインクで着色されなかった部分がやや表出しやすくなる。

このようにして得られた印刷付起毛シートは、一般的な、衣料、靴、雑貨、ボール、内装材等の表皮材としての用途のほか、各種機器のハウジングやカバー等の樹脂成形体の表面に積層一体化して形成される加飾成形体の製造にも好ましく用いられる。

以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。

［実施例１］
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール（ＰＶＡ）、島成分の熱可塑性樹脂としてイソフタル酸変性した変性ＰＥＴ（イソフタル酸単位の含有割合６モル％）を、それぞれ個別に溶融させた。そして、海成分中に均一な断面積の島成分が１２個分布した断面を形成する平均繊度４．８ｄｔｅｘの海島型複合長繊維を紡糸した。そして、海島型複合長繊維の目付約５４ｇ／ｍ²のウェブを製造した。

そして、ウェブを１２層重ね、ニードルパンチングして絡合させることにより、目付７９５ｇ／ｍ²のウェブ絡合シートを得た。ウェブ絡合シートを１１０℃、２３．５％ＲＨの条件でスチーム処理し、９０〜１１０℃のオーブン中で乾燥させた後、さらに、１１５℃で熱プレスすることにより、目付１３８２ｇ／ｍ^２、見掛け密度０．６８２ｇ／ｃｍ^３、厚み２．０３ｍｍの熱収縮処理されたウェブ絡合シートを得た。

そして、熱収縮処理されたウェブ絡合シートに、ポリウレタンのエマルジョンを含浸させ、乾燥させることにより、形成される極細繊維の質量に対して１３％のポリウレタン（第３の高分子弾性体）を付与した。そして、乾燥した後、ニップ処理及び高圧水流処理しながら９５℃の熱水中に１０分間浸漬することによりＰＶＡを溶解除去し、乾燥した。このようにして、設計値が単繊維繊度０．３０ｄｔｅｘである極細繊維を含む、目付１０９７ｇ／ｍ^２、見掛け密度０．５７２ｇ／ｃｍ^３、厚み１．９２ｍｍである、皮革様シートの布帛である人工皮革生機を得た。

そして、人工皮革生機を均等な厚さで２枚にスライスし、スライス片の裏面を♯１２０ペーパーで、主面を♯２４０、♯３２０、♯６００ペーパーを用い、速度３ｍ／分、回転数６５０ｒｐｍの条件で両面を研削することにより、目付３９１ｇ／ｍ^２、見掛け密度０．５３６ｇ／ｃｍ^３、厚み０．７３ｍｍである起毛面を有する人工皮革生機を得た。

そして、起毛面を有する人工皮革生機の主面である起毛面に、ポリウレタンをＤＭＦに溶解させた固形分７質量％の溶液をグラビアコーティングして乾燥させ、さらに、ＤＭＦ／シクロヘキサノン＝１０／９０の液を塗布し乾燥させることにより、起毛面の立毛した極細繊維にポリウレタン（第１の高分子弾性体）を被着させた。なお、ポリウレタンは起毛面に２ｇ／ｍ²の割合で付与された。

次に、起毛面を有する人工皮革生機に、顔料として、カーボンブラックを分散させたポリウレタンのエマルジョンを含浸させ、乾燥させることにより、極細繊維の質量に対して０．４質量％のポリウレタン（第２の高分子弾性体）を付与した。それにより、起毛面を有する人工皮革生機が薄グレー色に着色された。

そして、起毛面を有する人工皮革生機の裏面に難燃剤処理を行った後、収縮加工処理を施した。具体的には、加湿部と加湿部から連続的に送られてくる布帛を収縮加工する収縮部と、この収縮部で収縮加工された布帛をヒートセットするヒートセット部とを備えた、収縮加工装置（小松原鉄工（株）製、サンフォライジング機）を用いて、収縮部の温度１２０℃、ヒートセット部のドラム温度１２０℃、搬送速度１０ｍ／分で処理した。このようにして、極細繊維の繊度が０．３２３ｄｔｅｘであり、目付４８０ｇ／ｍ^２、見掛け密度０．５３６ｇ／ｃｍ^３、厚さ０．８４ｍｍのスエード調の起毛面を有する人工皮革である印刷用起毛シートを得た。印刷用起毛シートに含まれる不織布を形成する繊維の１本あたりの引張タフネスである糸タフネスは、２２．９ｃＮ・％であった。なお、糸タフネスは次のようにして測定及び算出された。

[糸タフネス測定]
紡糸された複数本の海島型複合長繊維を、若干たるませた状態でポリエステルフィルムの表面にセロハンテープで貼り付けた。そして、９５℃の熱水中に３０分間以上浸漬させて海成分を抽出除去することにより極細長繊維を得た。次に、極細長繊維を固定したポリエステルフィルムをＰｏｔ染色機で分散染料で１２０℃×２０分間染色処理し、染色糸を得た。そして、染色後の糸の中から海島型複合長繊維１本に相当する繊維束をまとめたままオートグラフで強伸度を測定し、繊維束の強伸度をオートグラフで測定した。そして、得られたＳＳカーブのピークトップから破断強力と破断伸度を読み取った。そして、染色後の糸タフネス（ｃＮ・％）＝破断強力（ｃＮ）×破断伸度（％）／極細繊維の本数の式から糸タフネスを算出した。

そして、得られた印刷用起毛シートについて、起毛面の表面状態を以下の評価方法に従って測定した。

[起毛面の表面状態の測定]
印刷用起毛シートの起毛面の表面状態は、非接触式の表面粗さ・形状測定機である「ワンショット３Ｄ測定マクロスコープ ＶＲ−３２００」（（株）キーエンス製）を用いてISO 25178（面粗さ測定）に準じて測定した。具体的には、起毛シートの起毛面を順目方向及び逆目方向の各方向にシールブラシで整毛した。そして、整毛された起毛面の１８ｍｍ×２４ｍｍの範囲を高輝度ＬＥＤから照射された構造化照明光により、４００万画素モノクロＣ−ＭＯＳカメラで１２倍の倍率で歪みの生じた縞投影画像撮影を行い、各方向における算術平均高さ（Ｓａ）、及び、平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）を求めた。なお、立毛が倒れる方向を順目方向、立毛が起き上がる方向を逆目方向とした。測定は３回行い、その平均値を各数値として採用した。

そして、印刷用起毛シートの起毛面に印刷した。具体的には、昇華転写インクジェットプリンタを用い、分散染料インクを用いて、黒、赤、青、黄色を含む花柄の模様を起毛面に印刷した。そして、印刷された印刷用起毛シートを還元洗浄、酸化処理、及び中和処理を行った後、乾燥することにより、印刷付起毛シートを得た。そして、印刷付起毛シートに印刷された花柄の模様を摩擦したときの斑点状の欠点の発生を次の方法により評価した。

［斑点状の欠点の発生評価］
印刷付起毛シートの印刷された起毛面をナイロン製リントブラシで、順目、逆目に整毛した際の状態を次の基準に従って判定した。
Ａ：順目方向、逆目方向のいずれにおいても白い斑点が目視では目立たなかった。
Ｂ：順目方向、逆目方向のいずれかにおいて極小の白い斑点がわずかに認められた。
Ｃ：順目方向、逆目方向のいずれかにおいて大きく目立つ白い斑点が現れた。

また、印刷後の起毛面の表面状態も測定した。結果を表１に示す。

［実施例２］
実施例１において、単繊維繊度の設計値が０．３０ｄｔｅｘの極細繊維を形成した代わりに、単繊維繊度の設計値が０．２５ｄｔｅｘの極細繊維を形成した以外は同様にして印刷用起毛シートを得、評価した。結果を表１に示す。

［実施例３］
実施例１において、単繊維繊度の設計値が０．３０ｄｔｅｘの極細繊維を形成した代わりに、設計値が単繊維繊度０．２０ｄｔｅｘの極細繊維を形成し、また、ウェブ絡合シートの形成において積重体を４１８９パンチ／ｃｍ^２でニードルパンチングする代わりに、４２７７パンチ／ｃｍ^２でニードルパンチングした以外は同様にして印刷用起毛シートを得、評価した。結果を表１に示す。

［実施例４］
実施例１において、単繊維繊度の設計値が０．３０ｄｔｅｘの極細繊維を形成した代わりに、単繊維繊度の設計値が０．１０ｄｔｅｘの極細繊維を形成し、また、ウェブ絡合シートの形成において積重体を４１８９パンチ／ｃｍ^２でニードルパンチングする代わりに、３７４５パンチ／ｃｍ^２でニードルパンチングした以外は同様にして印刷用起毛シートを得、評価した。結果を表１に示す。

［実施例５］
実施例１において、単繊維繊度の設計値が０．３０ｄｔｅｘの極細繊維を形成した代わりに、単繊維繊度の設計値が０．０８ｄｔｅｘの極細繊維を形成し、また、ウェブ絡合シートの形成において積重体を４１８９パンチ／ｃｍ^２でニードルパンチングする代わりに、３７４５パンチ／ｃｍ^２でニードルパンチングした以外は同様にして印刷用起毛シートを得、評価した。結果を表１に示す。

［実施例６］
実施例４において、第１の高分子弾性体を付与する工程においてポリウレタン溶液を塗布する代わりに、ポリウレタンエマルジョンを塗布した以外は同様にして印刷用起毛シートを得、評価した。結果を表１に示す。

［比較例１］
実施例１において、第１、第２の高分子弾性体を付与する工程を省略した以外は同様にして印刷用起毛シートを得、評価した。結果を表１に示す。

［比較例２］
実施例１において、第１、第２の高分子弾性体を付与する工程を省略し、さらに、起毛面を有する人工皮革生機の裏面への難燃剤処理と収縮加工処理を施す工程を省略した以外は同様にして印刷用起毛シートを得、評価した。結果を表１に示す。

［比較例３］
実施例２において、第１、第２の高分子弾性体を付与する工程を省略した以外は同様にして印刷用起毛シートを得、評価した。結果を表１に示す。

［比較例４］
実施例２において、第１、第２の高分子弾性体を付与する工程を省略し、さらに、印刷用起毛シートの裏面への難燃剤処理と収縮加工処理を施す工程を省略した以外は同様にして印刷用起毛シートを得、評価した。結果を表１に示す。

[比較例５]
実施例１において、第１高分子弾性体を付与する工程のみ施し、第２高分子弾性体を付与する工程を省略、さらに、印刷用起毛シートの裏面への難燃剤処理と収縮加工処理を施す工程を省略した以外は同様にして印刷用起毛シートを得、評価した。結果を表１に示す。

[比較例６]
実施例１において、第１高分子弾性体を付与する工程のみを省略し、第２高分子弾性体を付与する工程のみを施し、さらに、印刷用起毛シートの裏面への難燃剤処理と収縮加工処理を施す工程を省略した以外は同様にして印刷用起毛シートを得、評価した。結果を表１に示す。

表１の結果を参照すれば、実施例１〜６における、順目方向及び逆目方向の両方向においてＳａが２０μｍ以下で、Ｓｐｄが２０／４３２ｍｍ²以下である印刷用起毛シートに印刷して得られた、両方向においてＳａが３０μｍ以下で、Ｓｐｄが３０／４３２ｍｍ²以下であり且つ順目方向と逆目方向との差が２０／４３２ｍｍ²以下である印刷付起毛シートは、何れも、白斑点が発生しにくかった。一方、何れかの方向においてＳａが２０μｍを超えていたり、Ｓｐｄが、２０／４３２ｍｍ²を超えていたりした比較例１〜４の印刷用起毛シートに印刷して得られた印刷付起毛シートは、何れも、何れかの方向においてＳａが２０μｍを超えていたり、Ｓｐｄが、２０／４３２ｍｍ²を超えていたり、Ｓｐｄの順目方向と逆目方向との差が２０／４３２ｍｍ²を超えていたりした。そして、得られた印刷付起毛シートには、何れも、大きな白斑点が発生していた。

本発明で得られる印刷用起毛シートは、衣料、靴、家具、カーシート、雑貨製品等の表皮素材として好ましく用いられる。

Claims (8)

1. 起毛面を有する布帛を含み、
   前記起毛面は印刷されており、且つ、
   ISO 25178に準じた面粗さ測定において、算術平均高さ（Ｓａ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において３０μｍ以下であり、
   平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において３０／４３２ｍｍ²以下であり、且つそれらの差（絶対値）が２０／４３２ｍｍ²以下である印刷付起毛シート。
2. 前記布帛は、起毛面に被着された第１の高分子弾性体を含む請求項１に記載の印刷付起毛シート。
3. 前記布帛は、前記起毛面の形成後に付与された第２の高分子弾性体を含む請求項１または２に記載の印刷付起毛シート。
4. 前記布帛が糸タフネスが平均８〜４０ｃＮ・％である繊維を含む請求項１〜３の何れか１項に記載の印刷付起毛シート。
5. 前記布帛は平均繊度０．０１〜０．５ｄｔｅｘのポリエステル繊維を含み、前記印刷は分散染料インクによる印刷である請求項１〜４の何れか１項に記載の印刷付起毛シート。
6. 前記布帛は、その内部に付与された第３の高分子弾性体を含む皮革様シートである請求項１〜５の何れか１項に記載の印刷付起毛シート。
7. 前記布帛は、その内部の空隙に付与された顔料で着色されている請求項１〜６の何れか１項に記載の印刷付起毛シート。
8. 起毛面を有する布帛を含み、
   前記起毛面は印刷するために用いられ、且つ、
   ISO 25178に準じた面粗さ測定において、算術平均高さ（Ｓａ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において２０μｍ以下であり、
   平均高さから１００μｍ以上の高さを有する山頂点密度（Ｓｐｄ）が、順目方向及び逆目方向の両方向において２０／４３２ｍｍ²以下である印刷用起毛シート。