JP6745078B2 - 立毛調人工皮革 - Google Patents

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本発明は、衣料、靴、家具、カーシート、雑貨製品等の表面素材として用いられる染色された立毛調人工皮革に関し、詳しくは、表面に遊離した繊維が摩擦によって絡み合い,小さな球状の塊を生じる現象であるピリングを発生させにくい耐ピリング性に優れた立毛調人工皮革に関する。
従来、スエード調人工皮革やヌバック調人工皮革のような立毛調人工皮革が知られている。立毛調人工皮革は、高分子弾性体を含浸付与された極細繊維の不織布を含む繊維基材の表面を起毛処理することにより毛羽立たせた立毛面を有する。立毛調人工皮革においては、立毛面が摩擦されることによって極細繊維が素抜けしたり切れたりし、表面で遊離する極細繊維がさらに摩擦されることによって絡み合い、小さな球状の毛玉のような塊を生じる現象であるピリングが発生するという問題があった。
ピリングの発生を抑制する方法として、不織布を形成する極細繊維の絡合度合いを高めたり、不織布に含浸付与される高分子弾性体の含有割合を高くして極細繊維を拘束したりするような方法が知られている。しかしながら、極細繊維の絡合度合いを増大させすぎたり、高分子弾性体の含有割合を高めすぎたりするような方法によれば、立毛調人工皮革の風合いが硬くなることがあった。
また、立毛調人工皮革の風合いを硬くすることなくピリングの発生を抑制する技術として、例えば、下記特許文献1は、極細長繊維の繊維束からなる不織布構造体、および、該不織布構造体内部に任意に含有された高分子弾性体からなり、少なくとも一方の表面に極細長繊維の立毛を有する立毛調人工皮革であって、立毛の根元およびその近傍には高分子弾性体の水分散体から得られた高分子弾性体が存在する立毛調人工皮革を開示する。
特開2011−74541号公報
立毛調人工皮革は、染色されることにより意匠性が高められる。染色された立毛調人工皮革には、発色性が不充分であったり、耐候性が不充分であったりするという問題があった。不織布を形成する極細繊維を太くすることにより、発色性や耐候性が向上する。
特許文献1に開示された技術によれば、立毛調人工皮革のピリングの発生をある程度抑制することができる。しかしながら、極細繊維を太くした場合には、ピリングの発生を充分に抑制できないことがあった。また、極細繊維を太くした場合のピリングの発生を抑制するために、立毛の根元およびその近傍に付与する高分子弾性体の量を増やしすぎた場合には、表面の風合いが硬くなるという問題があった。
本発明は、染色された立毛調人工皮革において、極細繊維の繊維径、立毛の根元およびその近傍に付与する高分子弾性体の量、不織布の絡合度合い等を全体として調整することにより、立毛面に発生するピリングの発生が抑制された、染色された立毛調人工皮革を提供することを目的とする。
上述のように、従来、立毛面におけるピリングの発生を抑制するために、立毛の根元及びその近傍に付与する高分子弾性体の量を増量したり、または極細繊維の絡合度合いを高めたりするような方法は知られていたが、それらは個別に適用されていただけであった。本発明者らは、ピリングの発生は立毛面から素抜けした極細繊維の本数が多かったり、立毛面で遊離する極細繊維が長かったりした場合にそれらが絡み合って発生しやすくなるという知見を有していた。そして、これらの知見に基づいて、素抜けする極細繊維の本数が少なく、また、立毛面で遊離する極細繊維が短くなる立毛調人工皮革を得るために、以下に示す表面剥離処理前後の立毛面のL値の変化率を指標とすることを見出し、ピリングの発生を顕著に抑制できる立毛調人工皮革を得た。
すなわち本発明の一局面は、立毛面を有する染色された立毛調人工皮革であって、第一の高分子弾性体を含浸付与された平均繊維径1.0〜7.0μmのポリエステル系樹脂の極細繊維の不織布を含み、見掛け密度が0.495〜0.7g/cm 3 であり、立毛面のL値が85以下であり、2.5cm幅の立毛調人工皮革の立毛面に対する裏面に伸び止め用の素材を貼着した試験片の立毛面の一部分に、以下の接着条件で接着する、架橋剤を含むポリウレタン系接着剤を50〜70g/m 2 塗布を2回行い、2.5cm幅のポリウレタン製ゴムシートの表面にも1回塗布し、110℃で3分間熱処理し、塗布面が90mm重なるように貼り合わせ、ハンドローラーで圧着し、70℃で1時間処理して接着し、試験片とポリウレタン製ゴムシートとの互いの重なっていない部分を引張速度100mm/分で互いに逆方向に引張ることにより立毛面の極細繊維を剥離させる表面剥離処理の前後における立毛面の分光光度計で測定されるL***表色系に基づくL値の変化率が+9%以下である立毛調人工皮革である。立毛面のL値は明度を示し、L値変化率は明度の変化率である。
また、立毛調人工皮革においては、極細繊維1本あたりの繊維の粘り強さを示す指標となる、糸タフネスが平均8〜40cN・%であることが好ましい。糸タフネスがこのような範囲である場合には、立毛面が摩擦されたときに極細繊維の太さに関わらず切れやすくなり、立毛面で遊離する極細繊維が短くなるために、ピリングの発生が抑制される。
毛調人工皮革の見掛け密度は0.495〜0.7g/cm3である。立毛面のL値変化率が+9%以下である場合には、ピリングの発生は抑制されるが、見掛け密度がこのような範囲であることにより、ボキ折れとも称される座屈するような低品位の折れ方をしない充実感と柔軟な風合いとのバランスに優れた立毛調人工皮革が得られる。
また、立毛調人工皮革に含まれる不織布を形成する極細繊維は長繊維であることが、極細繊維が素抜けしにくくなる点から好ましい。
また、立毛面の極細繊維は、その根元近傍で第二の高分子弾性体で固着されていることが好ましい。
また、立毛面のL値は85以下であることが意匠性に優れる点から好ましい。
また、JIS L 1096(6.17.5E法 マーチンデール法)に準じたマーチンデール摩耗試験機を用いて、押圧荷重12kPa、摩耗回数5万回で摩耗させたときに発生するピリングの最大径が5mm以下であることがピリングの発生が充分に抑制される点から好ましい。
また、本発明の他の一局面は、上記何れかに記載の染色された立毛調人工皮革の製造方法であって、第一の高分子弾性体を含浸付与した平均繊維径1.0〜7.0μmの極細繊維の不織布を含む繊維基材を準備する工程と、繊維基材の片面又は両面を起毛処理して立毛面を形成する工程と、立毛面の極細繊維の根元に第二の高分子弾性体を固着させる工程と、極細繊維の不織布を染色する工程と、を備える。
本発明によれば、耐ピリング性に優れた立毛調人工皮革が得られる。
本実施形態の立毛調人工皮革をその製造方法の一例に沿って詳しく説明する。
本実施形態の立毛調人工皮革の製造においては、はじめに、第一の高分子弾性体を含浸付与された平均繊維径1.0〜7.0μmの極細繊維の不織布を準備する。
極細繊維の不織布の製造においては、はじめに、極細繊維発生型繊維の繊維ウェブを製造する。繊維ウェブの製造方法としては、例えば、極細繊維発生型繊維を溶融紡糸し、これを意図的に切断することなく長繊維のまま捕集するような方法や、ステープルに切断した後、公知の絡合処理を施すような方法が挙げられる。なお、長繊維とは、所定の長さで切断処理されたステープルではない繊維であり、その長さとしては、例えば、100mm以上、さらには、200mm以上であることが繊維密度を充分に高めることができる点から好ましい。長繊維の上限は、特に限定されないが、連続的に紡糸された数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。これらの中では、繊維の素抜けが発生しにくく、耐ピリング性に優れた立毛調人工皮革が得られる点から、極細繊維発生型繊維の長繊維ウェブ(スパンボンドシート)を製造することが特に好ましい。本実施形態においては、代表例として、極細繊維発生型繊維の長繊維ウェブを製造する場合について詳しく説明する。
なお、極細繊維発生型繊維とは、紡糸後の繊維に化学的な後処理または物理的な後処理を施すことにより、極細繊維を形成するための繊維である。その具体例としては、例えば、繊維断面において、マトリクスとなる海成分のポリマー中に、海成分とは異なる種類のドメインとなる島成分のポリマーが分散されており、後に海成分を除去することにより、島成分のポリマーを主体とする繊維束状の極細繊維を形成する海島型複合繊維や、繊維外周に複数の異なる樹脂成分が交互に配置されて花弁形状や重畳形状を形成しており、物理的処理により各樹脂成分が剥離することにより分割されて束状の極細繊維を形成する剥離分割型複合繊維、等が挙げられる。海島型複合繊維によれば、後述するニードルパンチ処理等の絡合処理を行う際に、割れ、折れ、切断などの繊維損傷が抑制される。本実施形態では、代表例として海島型複合繊維を用いて長繊維の極細繊維(極細長繊維)を形成する場合について詳しく説明する。
海島型複合繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であり、海成分ポリマーからなるマトリクス中に島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型複合繊維の長繊維ウェブは、海島型複合繊維を溶融紡糸し、これを切断せずに長繊維のままネット上に捕集して形成される。
島成分ポリマーは極細繊維を形成しうる、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート(PTT),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエステル弾性体等のポリエステル系樹脂またはそれらのイソフタル酸等による変性物が挙げられる。これらは、熱処理により収縮しやすいために充実感のある立毛調人工皮革が得られる点から好ましい。また、島成分ポリマーは本発明の効果を損なわない範囲で、顔料などの着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、無機微粒子等をさらに含有してもよい。
海成分ポリマーとしては、島成分ポリマーよりも溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が高いポリマーが選ばれる。また、島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーよりも小さいポリマーが海島型複合繊維の紡糸安定性に優れている点から好ましい。このような海成分ポリマーの具体例としては、例えば、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂(水溶性PVA)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン系共重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−エチレン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体などが挙げられる。これらの中では水溶性PVAが有機溶剤を用いることなく水系溶媒により溶解除去が可能であるために環境負荷が低い点から好ましい。
海島型複合繊維は海成分ポリマーと島成分ポリマーとを複合紡糸用口金から溶融押出する溶融紡糸により製造することができる。複合紡糸用口金の口金温度は海島型複合繊維を構成するそれぞれのポリマーの融点よりも高い溶融紡糸可能な温度であれば特に限定されないが、通常、180〜350℃の範囲が選ばれる。
海島型複合繊維の繊度は平均繊維径1.0〜7.0μmの極細繊維を形成できる限りとくに限定されないが、0.5〜10dtex、さらには0.7〜5dtexであることが好ましい。また、海島型複合繊維の断面における海成分ポリマーと島成分ポリマーとの平均面積比は5/95〜70/30、さらには10/90〜50/50であることが好ましい。また、海島型複合繊維の断面における島成分のドメインの数は特に限定されないが、工業的な生産性の観点からは5〜1000個、さらには、10〜300個程度であることが好ましい。
複合紡糸用口金から吐出された溶融状態の海島型複合繊維は、冷却装置により冷却され、さらに、エアジェットノズルなどの吸引装置により目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取速度に相当する速度の高速気流により牽引細化される。そして牽引細化された長繊維を移動式ネットなどの捕集面上に堆積させることにより長繊維ウェブが得られる。なお、必要に応じて、形態を安定化させるために長繊維ウェブをさらに熱プレスすることにより部分的に圧着させてもよい。このようにして得られる長繊維ウェブの目付はとくに限定されないが、例えば、10〜1000g/m2の範囲であることが好ましい。
そして、得られた長繊維ウェブに絡合処理を施すことにより絡合ウェブを製造する。
長繊維ウェブの絡合処理の具体例としては、例えば、長繊維ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチするような処理が挙げられる。ニードルパンチによる1cm2あたりのパンチ数(パンチ/cm2)としては、2000〜5000パンチ/cm2、さらには、2500〜4500パンチ/cm2であることが好ましい。1cm2あたりのパンチ数が少なすぎる場合には不織布の絡合状態が低くなって極細繊維が立毛面における摩擦により素抜けしやすくなる傾向がある。また、1cm2あたりのパンチ数が多すぎる場合には不織布が硬くなりすぎて風合いが低下する傾向がある。
長繊維ウェブには海島型複合繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、油剤や帯電防止剤を付与してもよい。さらに、必要に応じて、長繊維ウェブを70〜150℃程度の温水に浸漬する収縮処理を行うことにより、長繊維ウェブの絡合状態を予め緻密にしておいてもよい。また、ニードルパンチの後、熱プレス処理することによりさらに繊維密度を緻密にして形態安定性を付与してもよい。
また、絡合ウェブを必要に応じて熱収縮させることにより繊維密度および絡合度合が高められる処理を施してもよい。熱収縮処理の具体例としては、例えば、絡合ウェブを水蒸気に接触させる方法や、絡合ウェブに水を付与した後、絡合ウェブに付与した水を加熱エアーや赤外線などの電磁波により加熱する方法が挙げられる。また、熱収縮処理により緻密化された絡合ウェブをさらに緻密化するとともに、絡合ウェブの形態を固定化したり、表面を平滑化したりすること等を目的として、必要に応じて、熱プレス処理を行うことによりさらに、繊維密度を高めてもよい。収縮処理工程における絡合ウェブの目付の変化としては、収縮処理前の目付に比べて、1.1倍(質量比)以上、さらには、1.3倍以上で、2倍以下、さらには1.6倍以下であることが好ましい。このようにして得られる絡合ウェブの目付としては100〜2000g/m2程度の範囲であることが好ましい。
そして、緻密化された絡合ウェブ中の海島型複合繊維から海成分ポリマーを除去することにより、繊維束状の極細長繊維の絡合体である極細長繊維の不織布が得られる。海島型複合繊維から海成分ポリマーを除去する方法としては、海成分ポリマーのみを選択的に除去しうる溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理するような従来から知られた極細繊維の形成方法が特に限定なく用いられうる。具体的には、例えば、海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合には溶剤として熱水が用いられ、海成分ポリマーとして易アルカリ分解性の変性ポリエステルを用いる場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が用いられる。
海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合、80〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することにより、水溶性PVAの除去率が95〜100質量%程度になるまで抽出除去することが好ましい。なお、ディップニップ処理を繰り返すことにより、水溶性PVAを効率的に抽出除去できる。水溶性PVAを用いた場合には、有機溶剤を用いずに海成分ポリマーを選択的に除去することができるために、環境負荷が低く、また、VOCの発生を抑制できる点から好ましい。
極細繊維の平均繊維径は1.0〜7.0μmであり、2.0〜6.5μm、さらには3.0〜6.0μmであることが好ましい。極細繊維の平均繊維径が7.0μmを超える場合には、立毛面の摩擦により遊離する極細繊維の繊維長が長くなり、ピリングが発生しやすくなる。また、極細繊維の平均繊維径が1.0μm未満の場合には、発色性や耐候性が低下する。なお、平均繊維径は、立毛調人工皮革の厚さ方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で1000倍で拡大撮影し、万遍なく選択された15本の繊維径の平均値として求められる。また、極細繊維の繊度は0.001〜1dtex、さらには0.002〜0.2dtexであることが好ましい。
極細繊維の不織布の目付は、140〜3000g/m2、さらには200〜2000g/m2であることが好ましい。
本実施形態の立毛調人工皮革の製造においては、海島型複合繊維のような極細繊維発生型繊維を極細繊維化する前後において、得られる極細繊維の不織布に形態安定性や充実感を付与するために、極細繊維の不織布の内部空隙に第一の高分子弾性体を含浸付与する。
第一の高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等の弾性体が挙げられる。これらの中ではポリウレタンが好ましい。
なお、ポリウレタンは、ポリウレタンエマルジョン、または、水系溶媒に分散されたポリウレタン分散液から凝固されるようなポリウレタンが特に好ましい。また、エマルジョンが感熱ゲル化性を有している場合には、エマルジョン粒子がマイグレーションすることなく感熱ゲル化するので、高分子弾性体を不織布に均一に付与することができる。
不織布に第一の高分子弾性体を含浸付与する方法としては、極細繊維化する前の絡合ウェブや極細繊維化した後の不織布に第一の高分子弾性体を含有するエマルジョン,分散液,または溶液を含浸させた後、乾燥凝固させる乾式法または湿式法等により凝固させる方法が極細繊維の表面との間に空隙が形成されることにより硬くなりすぎない点から好ましい。なお、凝固後に架橋構造を形成する高分子弾性体を用いた場合には、架橋を促進させるために、必要に応じて、凝固及び乾燥後に熱処理するキュア処理を行ってもよい。
第一の高分子弾性体のエマルジョン、分散液、または溶液等の含浸方法としては、プレスロール等で所定の含浸状態になるように絞るという処理を1回又は複数回行うディップニップ法や、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等が挙げられる。
なお、第一の高分子弾性体は、本発明の効果を損なわない範囲で、染料や顔料などの着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤などをさらに含有してもよい。
第一の高分子弾性体の含有割合としては、極細繊維の質量に対して、0.1〜60質量%、さらには0.5〜60質量%、とくには1〜50質量%であることが、得られる立毛調人工皮革の充実感としなやかさ等のバランスに優れる点から好ましい。第一の高分子弾性体の含有割合が高すぎる場合には得られる立毛調人工皮革の立毛面からの極細繊維の素抜けが抑制されて耐ピリング性は向上するが風合いがゴムライクになり硬くなる傾向がある。また、第一の高分子弾性体の含有割合が低すぎる場合には立毛面から極細繊維が素抜けしやすくなるために、耐ピリング性が低下する傾向がある。
このようにして第一の高分子弾性体を含浸付与された極細繊維の不織布である繊維基材が得られる。このようにして得られた繊維基材は、必要に応じて厚さ方向と垂直な方向に複数枚にスライスしたり、研削したりすることにより厚さ調節された後、少なくとも一面を好ましくは120〜600番手、さらに好ましくは320〜600番手程度のサンドペーパーやエメリーペーパーを用いてバフィング処理することにより起毛処理が施される。このようにして、片面又は両面に立毛された極細繊維が存在する立毛面を有する人工皮革基材が得られる。
人工皮革基材の立毛面には、起毛された極細繊維の素抜けを抑制するためにその根元近傍に第二の高分子弾性体を固着させることが好ましい。具体的には、立毛面に第二の高分子弾性体を含有する樹脂液を塗布した後、第二の高分子弾性体を凝固させる。このように立毛面に存在する極細繊維の根元近傍を第二の高分子弾性体で固着させることにより、立毛面に存在する極細繊維の根元近傍が第二の高分子弾性体で拘束されて、極細繊維が素抜けしにくくなる。その結果、表面の摩擦により、抜けた繊維や飛び出した繊維が毛玉を作るようなピリングの発生を抑制することができる。
第二の高分子弾性体としては第一の高分子弾性体と同じものでも、種類や分子量等が異なるものであってもよい。第二の高分子弾性体の具体例としても、例えば、ポリウレタン、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等の弾性体が挙げられる。これらの中では、極細繊維の根元近傍を固着しやすい点からポリウレタンが好ましい。
人工皮革基材の立毛面に第二の高分子弾性体を含有する樹脂液を塗布する方法としては、グラビアコーティング法、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等が挙げられる。そして、人工皮革基材の立毛面の極細繊維の根元近傍に第二の高分子弾性体を含有する樹脂液を塗布し、必要に応じて乾燥凝固させることにより、立毛面で起毛された極細繊維の根元近傍に第二の高分子弾性体を固着させる。
第二の高分子弾性体も、本発明の効果を損なわない範囲で、染料や顔料などの着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤などをさらに含有してもよい。
第二の高分子弾性体の含有割合(固形分)としては、人工皮革基材の立毛面に対して、1〜10g/m2、さらには3〜8g/m2であることが、立毛面を硬くしすぎずに極細繊維の素抜けを抑制することができる点から好ましい。
そして、人工皮革基材は染色される。染料は極細繊維の種類により適切なものが適宜選択される。例えば、極細繊維がポリエステル系樹脂から形成されている場合には分散染料で染色することが好ましい。分散染料の具体例としては、例えば、ベンゼンアゾ系染料(モノアゾ、ジスアゾなど)、複素環アゾ系染料(チアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、キノリンアゾ、ピリジンアゾ、イミダゾールアゾ、チオフェンアゾなど)、アントラキノン系染料、縮合系染料(キノフタリン、スチリル、クマリンなど)等が挙げられる。これらは、例えば、「Disperse」の接頭辞を有する染料として市販されている。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、染色方法としては、高圧液流染色法、ジッガー染色法、サーモゾル連続染色機法、昇華プリント方式等による染色方法が特に限定なく用いられる。
また、人工皮革基材は、さらに風合いを調整するために柔軟性を付与する収縮加工処理や揉み柔軟化処理を施したり、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃処理等の仕上げ処理を施されたりしてもよい。
例えば、収縮加工処理としては、人工皮革基材を弾性体シートに密着させてタテ方向に機械的に収縮させ、その収縮状態で熱処理してヒートセットするような処理が挙げられる。この収縮加工処理についてさらに詳しく説明する。
収縮加工処理は、人工皮革基材をタテ方向(製造ラインの進行方向、または繊維の配向方向)に機械的に収縮させ、繊維を収縮させたまま熱処理してヒートセットすることにより、繊維の配向方向であるタテ方向に平行な断面において、繊維にミクロなうねりを形成させる。このようなうねりは繊維が伸びきっておらず、収縮している状態でセットされているために、タテ方向に伸縮性が付与される。収縮加工処理としては、例えば、人工皮革基材を厚さが数cm以上の厚い弾性体シート(ゴムシート、フェルトなど)のタテ方向に伸長した表面に密着させ、弾性体シートの表面を伸長状態から伸長前の状態に弾性回復させることにより、人工皮革基材をタテ方向に収縮させる方法が挙げられる。
収縮加工処理においては人工皮革基材を進行方向(タテ方向)に追い込むように収縮させるので、収縮加工処理された人工皮革基材は、極細繊維の繊維束と任意の高分子弾性体からなるミクロな挫屈構造(うねり構造)を有していることが好ましい。ミクロな挫屈構造は人工皮革基材がタテ方向に収縮した結果、タテ方向に沿って生じるうねり構造であり、収縮加工処理された人工皮革基材は極細繊維からなる不織布構造を有しているので、このうねり構造が形成され易い。うねり構造は連続している必要はなく、タテ方向に不連続であっても良い。収縮加工処理された人工皮革基材は、繊維自体の伸縮性ではなく、このような挫屈構造の変化(伸長)によりタテ方向に伸びる。
このようにして立毛面を有する染色された立毛調人工皮革が得られる。立毛調人工皮革の起毛された極細繊維の長さは特に限定されないが、1〜500μm、さらには、30〜200μmであることが好ましい。なお、起毛された繊維の長さは、例えば、立毛調人工皮革の表面の立毛を手で起こした状態で走査型電子顕微鏡(SEM)により断面写真を撮影し、任意の50本のその根元である絡合表面から立毛繊維の上端までの長さを計測し、その平均値を算出することにより得られる。
本実施形態の立毛調人工皮革は、裏面に伸び止め用の素材が貼着された2.5cm幅の立毛調人工皮革の試験片の立毛面の一部分に架橋剤を含むポリウレタン系接着剤で2.5cm幅のポリウレタン製ゴムシートの一部分に重ねるように接着し、試験片とポリウレタン製ゴムシートとの互いの重なっていない部分を引張速度100mm/分で互いに逆方向に引張ることにより立毛面の極細繊維を剥離させる表面剥離処理の前後における立毛面の分光光度計で測定されるL***表色系に基づくL値の変化率が+9%以下の範囲になるように調整されている。なお、L値は表面剥離処理後の表面には触れない状態で、剥離開始点から1.5〜4.5cmの間で3点測定し平均値を算出し、L値の変化率は、L値変化率(%)=(表面剥離処理後L値−表面剥離処理前L値)/表面剥離処理前L値×100、の式から算出される。
伸び止め用の素材としては、例えば織物を含む布ホットメルトテープ(サン化成(株)製メルコテープ)等が用いられる。また、架橋剤を含むポリウレタン系接着剤は特に限定されない。また、ゴムシートとしては、厚さ3〜5mm程度のポリウレタン製ゴムシートが用いられる。
立毛調人工皮革の立毛面のL値は、立毛面の明度を示し、L値が高いほど色が明るいことを示す。本実施形態の立毛調人工皮革においては、立毛調人工皮革の立毛面の上記L値の変化率が+9%以下の範囲になるように調整されていることによりピリングの発生が抑制される。なお、L値の変化率をこのように調整することによりピリングの発生が抑制されるメカニズムは本発明者らは次のように考えている。立毛調人工皮革の立毛面から極細繊維が素抜けした場合、立毛面に遊離する極細繊維の長さに応じて分光光度計で測定されるL値が変化する。極細繊維が素抜けしやすかったり切れにくかったりして立毛面に遊離した極細繊維が長い場合にはL値が高くなり、極細繊維が切れやすくて立毛面に遊離した極細繊維が短い場合にはL値が低くなる。そして、L値変化率が+9%以下の範囲になるように調整した場合には、極細繊維が素抜けにくく、また、立毛面に遊離する極細繊維も比較的短くなり、その結果、遊離する長い極細繊維が絡まって発生するピリングの発生が抑制されていると考えている。従って、このような立毛調人工皮革は、極細繊維の繊維径、立毛の根元およびその近傍に付与する高分子弾性体の量、不織布の絡合度合い等を全体として調整することにより得られる。
L値変化率が+9%以下の範囲であり、好ましくは-10〜+5%、とくに好ましくは-10〜0%である。L値変化率が+9%を超える場合にはピリングが発生しやすくなり、L値変化率が低すぎる場合には、風合いが低下したり、表面摩耗したりしやすくなる傾向がある。
なお、立毛調人工皮革の立毛面の表面剥離処理前のL値は、85以下であり、80〜5、とくには75〜10であることが意匠性に優れる点から好ましい。
なお、切れやすい極細繊維は、粘り強さの低い脆い極細繊維を意味し、本実施形態においては、極細繊維1本あたりの繊維の粘り強さを示す指標となる、糸タフネスが平均で8〜40cN・%、さらには10〜30cN・%であることが好ましい。糸タフネスは後述するように算出できる、極細繊維の1本あたりの引張タフネスである。糸タフネスが高すぎる場合には立毛面が摩擦されたときに極細繊維が切れにくくなり、立毛面に長いままで遊離する傾向がある。そして、立毛面に遊離する長い極細繊維は摩擦により絡んでピリングとなる。一方、糸タフネスが低すぎる場合にはピリングは形成されにくいが、摩耗減量が多くなる傾向がある。
立毛調人工皮革の見かけ密度は、0.495〜0.7g/cm 3 であるとによりボキ折れしない充実感と柔軟な風合いとのバランスに優れた立毛調人工皮革が得られる。立毛調人工皮革の見かけ密度が低すぎる場合には、充実感が低いためにボキ折れしやすくなり、また、極細繊維が素抜けしやすくなってL値変化率が高くなる傾向もある。一方、立毛調人工皮革の見かけ密度が高すぎる場合には、しなやかな風合いが低下する傾向がある。
本実施形態の立毛調人工皮革は、ピリングが発生しにくく、また、発生したとしても大きなピリングは発生しにくいことを特徴とする。具体的には、後述するような、JIS L 1096(6.17.5E法 マーチンデール法)に準じたマーチンデール摩耗試験機を用いて、押圧荷重12kPa、摩耗回数5万回で摩耗させたときに発生するピリングの最大径が5mm以下、さらには3mm以下になるような耐ピリング性を有する。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール(PVA)、島成分の熱可塑性樹脂としてイソフタル酸変性した変性PET(イソフタル酸単位の含有割合6モル%)を、それぞれ個別に溶融させた。そして、海成分中に均一な断面積の島成分が12個分布した断面を形成しうるような、12個のノズル孔が並列状に配置された複合紡糸用口金に、それぞれの溶融樹脂を供給した。このとき、海成分と島成分との質量比が海成分/島成分=25/75となるように圧力調整しながら供給した。そして、口金温度260℃に設定されたノズル孔より単孔吐出量1.0g/分で吐出させた。
そして、ノズル孔から吐出された溶融繊維を紡糸速度が3700m/分となるように気流の圧力を調節したエアジェットノズル型の吸引装置で吸引することにより延伸し、平均繊度3.0dtexの海島型複合長繊維を紡糸した。紡糸された海島型複合長繊維は、可動型のネット上に、ネットの裏面から吸引しながら連続的に堆積された。このようにして、目付40g/m2の長繊維ウェブ(スパンボンドシート)を得た。
次に、クロスラッパー装置を用いて長繊維ウェブを16層重ねて総目付が640g/m2の重ね合せウェブを作成し、更に、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、重ね合せウェブをニードルパンチングすることにより三次元絡合処理した。具体的には、バーブ数1個でニードル番手42番のニードル針、及びバーブ数6個でニードル番手42番のニードル針を用いて積重体を3645パンチ/cm2でニードルパンチ処理して絡合させることによりウェブ絡合シートを得た。得られたウェブ絡合シートの目付は840g/m2、層間剥離力は5.5kg/2.5cmであった。また、ニードルパンチ処理による面積収縮率は22.2%であった。
得られたウェブ絡合シートを110℃、23.5%RHの条件でスチーム処理し、48%面積収縮させた。そして、90〜110℃のオーブン中で乾燥させた後、さらに、115℃で熱プレスすることにより、目付1580g/m2、見掛け密度0.681g/cm3、厚み2.28mmの熱収縮処理されたウェブ絡合シートを得た。
次に、熱収縮処理されたウェブ絡合シートに、ポリウレタン弾性体のエマルジョン(固形分22.5質量%)をpick up50%で含浸させた。なお、ポリウレタン弾性体は、ポリカーボネート系無黄変ポリウレタンである。エマルジョンには、ポリウレタン弾性体100質量部に対してカルボジイミド系架橋剤4.9質量部と硫酸アンモニウム6.4質量部が添加され、ポリウレタン弾性体の固形分が極細繊維の質量に対して13%となるよう調整されていた。ポリウレタン弾性体は熱処理することにより架橋構造を形成する。そして、エマルジョンが含浸された熱収縮処理されたウェブ絡合シートを115℃、25%RH雰囲気下で乾燥処理し、さらに、150℃で乾燥処理した。次に、ポリウレタン弾性体が充填されたウェブ絡合シートを、ニップ処理、及び高圧水流処理しながら95℃の熱水中に10分間浸漬することによりPVAを溶解除去し、さらに、乾燥することにより、平均繊維径4.2μm(単繊維繊度0.19dtex)、目付1110g/m2、見掛け密度0.555g/cm3、厚み2.00mmである、ポリウレタン弾性体と極細繊維の長繊維の繊維束の絡合体である不織布との複合体を得た。
次に、ポリウレタン弾性体と極細繊維の長繊維の繊維束の絡合体である不織布との複合体を均等な厚さで2枚にスライスした。そして、スライス片の裏面を♯120ペーパーで、主面を♯240、♯320、♯600ペーパーを用い、速度3.0m/分、回転数650rpmの条件で両面を研削することにより、目付360g/m2、見掛け密度0.498g/cm3、厚み0.72mmである人工皮革基材を得た。
そして、第二の高分子弾性体としてポリカーボネート系無黄変ポリウレタンの水分散体を付与し、乾燥させることにより、立毛面における起毛された極細繊維の根元近傍を第二の高分子弾性体で固着させた。なお、第二の高分子弾性体は3g/m2の割合で付与された
。そして、分散染料を用いて120℃で高圧染色を行うことにより黒色のスエード調人工皮革基材を得た。
次に、スエード調人工皮革基材の裏面に難燃処理を行った後、収縮加工処理を施した。具体的には、加湿部と加湿部から連続的に送られてくるスエード調人工皮革基材を収縮加工する収縮部と、この収縮部で収縮加工された布帛をヒートセットするヒートセット部とを備えた、収縮加工装置(小松原鉄工(株)製、サンフォライジング機)を用いて、収縮部の温度120℃、ヒートセット部のドラム温度120℃、搬送速度10m/分で処理することにより、目付455g/m2、見掛け密度0.529g/cm3、厚み0.86mmのスエード調人工皮革を得た。また、スエード調人工皮革に含まれる不織布を形成する極細繊維の1本あたりの引張タフネスである糸タフネスは、22.1cN・%であった。なお、糸タフネスは次のようにして測定及び算出された。
[糸タフネス測定]
紡糸された複数本の海島型複合長繊維を、若干たるませた状態でポリエステルフィルムの表面にセロハンテープで貼り付けた。そして、95℃の熱水中に30分間以上浸漬させて海成分を抽出除去することにより極細長繊維を得た。次に、極細長繊維を固定したポリエステルフィルムをPot染色機で120℃×20分染色処理し、染色糸を得た。そして、染色糸の中から海島型複合長繊維1本に相当する極細繊維束をまとめてオートグラフで強伸度を測定し、12本の極細繊維の繊維束の強伸度をオートグラフで測定した。そして、得られたSSカーブのピークトップから破断強力と破断伸度を読み取り、染色後の糸タフネス(cN・%)=破断強力(cN)×破断伸度(%)/極細繊維の本数(12本) の式から糸タフネスを算出した。
そして、得られたスエード調人工皮革について、表面剥離処理の前後における立毛面のL値変化率、耐ピリング性、摩耗減量、風合いを以下評価方法に従って評価した。
[立毛面のL値変化率]
スエード調人工皮革の裏面に伸び止め用の布ホットメルトテープ(サン化成(株)製メルコテープ)を130℃、30秒間アイロンで貼り合わせ、2.5cm幅、長さ25cmの短冊状にカットして試験片を得た。そして、試験片の立毛面である主面へ、以下の接着条件で接着する、架橋剤を5%含むポリウレタン系接着剤を50〜70g/m2塗布を2回行い、ポリウレタン製ゴムシートの表面にも1回塗布し、スチーム乾燥機110℃で3分間熱処理した。その後、塗布面が90mm重なるように貼り合わせ、ハンドローラーで圧着し、70℃で1時間処理して接着した。このようにして得られた試験片とゴムシートとをそれぞれ引張試験機のチャックに挟み、引張速度100mm/分で引張って主面の繊維を剥離させた。スエード調人工皮革の表面剥離処理の前後におけるL***表色系に基づくL値は、分光光度計(日立製作所製 U−3010)を用いて測定された。なお、L値は表面剥離処理後の表面には触れない状態で剥離開始点から1.5〜4.5cmの間で3点測定し平均値を算出した。そして、各試験片について、L値変化率(%)=(表面剥離処理後L値−表面剥離処理前L値)/表面剥離処理前L値×100、の式からL値変化率を算出し、3点の試験片の平均値を算出した。
[耐ピリング性]
JIS L 1096(6.17.5E法 マーチンデール法)に準じ、押圧荷重12kPa、摩耗回数5万回でマーチンデール摩耗試験機を用いて試験を行い、以下の等級基準で判定した。
5:変化なし
4:最大径1mm未満のピリングが僅かに発生した。
3:最大径2〜3mmのピリングが発生した。
2:最大径3〜5mmのピリングが発生した。
1:最大径5mm超のピリングが多量に発生した。
[摩耗減量]
直径13cmの円状にカットしたスエード調人工皮革をテーバーアブレージョンテスター(TABERINSTRUMENT Corp製)のターンテーブル上にセットした。そして、2個の摩耗輪(CS−10(ダイトエレクトロン社製))で1000回摩耗させた。なお、荷重は0.5kgにセットした。そして、このときのスエード調人工皮革の摩耗減量を求めた。
[風合い]
得られた立毛調人工皮革を折り曲げて、立毛調天然皮革と比較した、腰や柔軟性の違いを以下の基準で判定した。
3:充実感と柔軟性とのバランスに優れた風合いであった。
2:硬い風合いであった。
1:充実感に乏しく、ボキ折れするような風合いであった。
結果をまとめて表1に示す。
[実施例2]
実施例1において、第二の高分子弾性体を3g/m2の割合で付与した代わりに、第二の高分子弾性体を6g/m2の割合で付与した以外は同様にしてスエード調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1において、平均繊度3.0dtexの12島の海島型複合長繊維を紡糸する工程を経て平均繊維径4.2μm(単繊維繊度0.19dtex)の極細繊維を形成した代わりに、平均繊度3.0dtexの25島の海島型複合長繊維を紡糸する工程を経て平均繊維径3.1μm(単繊維繊度0.1dtex)の極細繊維を形成し、第二の高分子弾性体を付与する工程を省略し、さらに、スエード調人工皮革基材に収縮加工処理を施す工程を省略した以外は同様にしてスエード調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[参考例4]
実施例3において、ウェブ絡合シートをスチーム処理し48%面積収縮させた代わりに、ウェブ絡合シートを20%面積収縮させ、スエード調人工皮革基材を染色した後にスエード調人工皮革基材の裏面の難燃処理を省略した以外は同様にしてスエード調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[参考例5]
実施例1において、第二の高分子弾性体を付与する工程を省略し、さらに、スエード調人工皮革基材を染色した後に、スエード調人工皮革基材の裏面の難燃処理と、その後の収縮加工処理も省略した。そして、染色後のスエード調人工皮革基材をクリアランスを狭めた条件で熱プレス処理を施した以外は同様にしてスエード調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[実施例6]
実施例2において、平均繊度3.0dtexの海島型複合長繊維を紡糸する工程を経て平均繊維径4.2μm(単繊維繊度0.19dtex)の極細繊維を形成した代わりに、平均繊度4.5dtexの12島の海島型複合長繊維を紡糸する工程を経て平均繊維径5.3μm(単繊維繊度0.31dtex)の極細繊維を形成した以外は同様にしてスエード調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[実施例7]
実施例1において、変性PETの代わりにカーボンブラック3質量%を混練させた変性PETを用い、第二の高分子弾性体を付与する工程を省略し、さらに、スエード調人工皮革基材の裏面への難燃処理と収縮加工処理を施す工程を省略した以外は同様にしてスエード調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1において、第二の高分子弾性体を付与する工程を省略し、さらに、スエード調人工皮革基材の裏面への難燃処理と収縮加工処理を施す工程を省略した以外は同様にしてスエード調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例6において、第二の高分子弾性体を付与する工程を省略し、さらに、スエード調人工皮革基材の裏面への難燃処理と収縮加工処理を施す工程を省略した以外は同様にしてスエード調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例6において、第二の高分子弾性体を付与する工程及び染色する工程を省略し、さらに、スエード調人工皮革基材の裏面の難燃処理と収縮加工処理を施す工程を省略した以外は同様にしてスエード調人工皮革を得、評価した。なお、糸タフネスは次のようにして測定した。
[糸タフネス測定]
紡糸された複数本の海島型複合長繊維を、若干たるませた状態でポリエステルフィルムの表面にセロハンテープで貼り付けた。そして、95℃の熱水中に30分間以上浸漬させて海成分を抽出除去することにより極細長繊維を得た。そして、海成分の抽出除去後、1本の海島型複合長繊維に由来する12本の極細繊維の繊維束の強伸度をオートグラフで測定した。そして、得られたSSカーブのピークトップから破断強力と破断伸度を読み取り、糸タフネス(cN・%)=破断強力(cN)×破断伸度(%)/本数(12本) の式から糸タフネスを算出した。結果を表1に示す。
L値の変化率が+9%以下である実施例1〜3,6,7,参考例4,5で得られたスエード調人工皮革はいずれも耐ピリング性の等級基準が4以上であり、耐ピリング性が高かった。なお、参考例4で得られたスエード調人工皮革は見掛け密度がやや低いために充実感がやや低かった。また、参考例5で得られたスエード調人工皮革は見掛け密度がやや高いためにやや硬い風合いであった。また、実施例7で得られたスエード調人工皮革は極細繊維にカーボンブラックを含有するために糸タフネスが低く、耐ピリング性には優れるものの、摩耗減量が多かった。
一方、L値の変化率が+9%を超える比較例1〜2で得られたスエード調人工皮革はいずれも耐ピリング性の等級基準が3以下であり、耐ピリング性が低かった。また、染色していない比較例3のスエード調人工皮革は、L値の変化率が+9%以下であったが、糸タフネスが高すぎるために耐ピリング性が低かった。
本発明で得られる立毛調人工皮革は、衣料、靴、家具、カーシート、雑貨製品等の表皮素材として好ましく用いられる。

Claims (5)

  1. 立毛面を有する染色された立毛調人工皮革であって、
    第一の高分子弾性体を含浸付与された平均繊維径1.0〜7.0μmのポリエステル系樹脂の極細繊維の不織布を含み
    見掛け密度が0.495〜0.7g/cm 3 であり、
    前記立毛面のL値が85以下であり、
    2.5cm幅の前記立毛調人工皮革の前記立毛面に対する裏面に伸び止め用の素材を貼着した試験片の前記立毛面の一部分に、以下の接着条件で接着する、架橋剤を含むポリウレタン系接着剤を50〜70g/m 2 塗布を2回行い、2.5cm幅のポリウレタン製ゴムシートの表面にも50〜70g/m 2 塗布を1回塗布し、110℃で3分間熱処理し、塗布面が90mm重なるように貼り合わせ、ハンドローラーで圧着し、70℃で1時間処理して接着し、前記試験片と前記ポリウレタン製ゴムシートとの互いの重なっていない部分を引張速度100mm/分で互いに逆方向に引張ることにより前記立毛面の前記極細繊維を剥離させる表面剥離処理の前後における前記立毛面の分光光度計で測定されるL***表色系に基づくL値の変化率が+9%以下であることを特徴とする立毛調人工皮革。
  2. 糸タフネスが平均8〜40cN・%である請求項1に記載の立毛調人工皮革。
  3. 前記極細繊維は長繊維である請求項1または2に記載の立毛調人工皮革。
  4. 前記立毛面における前記極細繊維は、その根元近傍が第二の高分子弾性体で固着されている請求項1〜3の何れか1項に記載の立毛調人工皮革。
  5. JIS L 1096(6.17.5E法 マーチンデール法)に準じたマーチンデール摩耗試験機を用いて、押圧荷重12kPa、摩耗回数5万回で摩耗させたときに発生するピリングの最大径が5mm以下である請求項1〜4の何れか1項に記載の立毛調人工皮革。
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