JP6902331B2 - 弾性経編地およびスポーツ用衣料 - Google Patents

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Description

本発明は、2枚筬により編成される弾性経編地および該弾性経編地を用いて作製されたスポーツ用衣料に関する。
従来、弾性繊維と非弾性繊維を交編した弾性経編地は、主にスポーツ用シャツ・パンツ、インナー、スパッツ、水着等、ストレッチ性を要求される衣料の素材として用いられている。
近年、激しい運動に伴う身体の動きを補助する機能を有するとともに、筋肉の疲労を軽減させるモーションサポート機能を有する弾性経編地への要求が高まってきている。この要求に応えるために、生地を厚く仕上げたり、生地の主力素材である非弾性繊維の繊度を太くしたりする方法が用いられている。
しかしながら、単に非弾性繊維の繊度を太くしたり、仕上げ生地密度を詰めて生地を厚くしたりすると、破裂強力はアップするものの衣服が嵩ばるため、動きにくくなることに加えて風合いも粗硬になり、特に激しい運動を伴うスポーツ用衣料としては適さないという問題があった。
この課題を克服するために、弾性繊維を太繊度化し、該弾性繊維を挿入組織として、非弾性繊維と交編する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法で得られた生地には、いわゆるワライの問題があり、実用性に欠けたものであった。ここでワライとは、生地の伸長と緩和を繰り返すことにより、生地中の弾性繊維が初期の位置よりずれて生地がひずむ現象をいう。
また、軽量かつ経方向、緯方向の伸長特性に優れた弾性経編地を提供する方法として、4枚筬を使用して、挿入組織とニット組織を特殊に組み合わせて弾性繊維と非弾性繊維を交編する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法の場合、生地に特異な柄感が出るため汎用性がないことに加え、4枚筬で編成するため生産性が低くコストアップになり、実用性に乏しかった。
一方、水着用の編地として、少なくとも片面が平滑加工され、かつ、その平滑加工された面に面積比を規定した撥水加工部分を有し、さらに目付と経方向、緯方向の伸長率とが規定された弾性経編地が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この方法による編地は水着用としては適しているものの、ハイパワーな伸長・高回復性が要望されるスポーツ用衣料には適していないという問題があった。
特開2000−199159号公報 特開2005−89909号公報 特開平8−311751号公報
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ハイパワーな伸長・高回復性と十分な破裂強力を有し、身体の激しい動きを補助する機能と筋肉の疲労を軽減させるモーションサポート機能とを具備した弾性経編地および該弾性経編地を用いて作製されたスポーツ用衣料を提供することを目的とする。
本発明に係る弾性経編地は、2枚筬により編成される経編地であって、非弾性繊維からなるフロント筬と、弾性繊維からなるバック筬と、を備え、経方向または緯方向のいずれか一方のみにおける100%伸長時の応力が9.8N以上19.6N以下であり、かつ伸長率が100%以下の領域における伸長・応力曲線の変曲定数が2.0未満であることを特徴とする。
本発明に係る弾性経編地は、上記発明において、目付が180g/m以上240g/m以下であることを特徴とする。
本発明に係る弾性経編地は、上記発明において、前記非弾性繊維は、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維およびポリプロピレン系繊維の内の少なくとも一種から選択された繊維からなることを特徴とする。
本発明に係る弾性経編地は、上記発明において、前記弾性繊維は、ポリウレタン系弾性繊維、ポリエーテル・エステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維およびポリスチレン系弾性繊維の内の少なくとも一種から選択された繊維からなることを特徴とする。
本発明に係る弾性経編地は、上記発明において、破裂強力が300kPa以上であることを特徴とする。
本発明に係る弾性経編地は、上記発明において、100%伸長時の応力が9.8N以上19.6N以下である方向の100%の伸長・回復後の仕事回復率が50%以上であることを特徴とする。
本発明に係る弾性経編地は、上記発明において、100%伸長時の応力が9.8N以上19.6N以下である方向の100%の伸長・回復後の伸長回復率が85%以上であることを特徴とする。
本発明に係る弾性経編地は、上記発明において、編地組織が逆ハーフ組織であることを特徴とする。
本発明に係るスポーツ用衣料は、上記弾性経編地を少なくとも一部に用いて作製してなることを特徴とする。
本発明によれば、ハイパワーな伸長・高回復性と十分な破裂強力を有し、身体の激しい動きを補助する機能と筋肉の疲労を軽減させるモーションサポート機能とを具備した弾性経編地および該弾性経編地を用いて作製されたスポーツ用衣料を得ることができる。
図1は、本発明の実施の形態に係る弾性経編地の伸長・応力曲線の一態様を示す図である。 図2は、本発明の実施の形態に係る弾性経編地の伸長・応力曲線における変曲定数を説明するための図である。 図3は、本発明の実施例に係る弾性経編地の編地編方図である。 図4は、比較例に係る弾性経編地の編地編方図である。 図5は、比較例に係る弾性経編地の編地編方図である。
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。本発明の実施の形態に係る弾性経編地は、2枚筬により編成される経編地であって、フロント筬に非弾性繊維を配するとともに、バック筬に弾性繊維を配し、交編してなる。
経編機としてはシングルトリコット機またはシングルラッシェル機のいずれも使用可能であり、特に限定されるものではない。ただし、生産効率の良さと編機ゲージが多彩で選定しやすい点を考慮した場合、シングルトリコット機を使用することがより好ましい。
シングルトリコット機の場合、筬枚数は通常2〜4枚で使用されるが、筬枚数が増えるに従って生産効率が下がり、かつ、目付がアップする。このことから、2枚筬からなる編地組織を選定することが好ましい。また、編地のストレッチ特性や編地形態の安定性の点から、各筬がループ形成される編地組織であることが好ましい。
そのような観点から2枚筬でかつ各筬がループ形成される編地組織としては、ハーフ組織、逆ハーフ組織、ダブルデンビ組織、ダブルコード組織、アトラス組織、サテン組織等があり、いずれも使用可能である。このうち、スポーツ用素材として目付の軽量化がしやすく、ハイパワーな伸長・高回復特性および形態安定性もよく、かつ、生地表面の平滑感が得やすい逆ハーフ組織を選定することが好ましい。
本実施の形態に係る弾性経編地は、フロント筬に非弾性繊維を配するとともに、バック筬に弾性繊維を配して形成される。バック筬に弾性繊維を配することにより、編地の中層部には弾性繊維が配置されやすくなるため、染色性が劣るなどの弾性繊維特有の欠点をカバーするとともに、目付の増加を抑制することができる。また、フロント筬に配された非弾性繊維は、編地表裏に配置されやすくなるため、非弾性繊維の特徴を表現しやすくなる。特に、逆ハーフ組織を採用してバック筬プレーンコード組織に弾性繊維を配することにより、ハーフ組織のバック筬デンビー組織に弾性繊維を配する場合と比較して、弾性繊維のニットループ間隔を長く設定して編地の構造歪を抑制し、弾性繊維の高回復性を編地に十分反映させることができる。
また、本実施の形態に係る弾性経編地の編地設計においては、使用する各筬の給糸長バランスの設定が重要である。弾性経編地の給糸長はランナー長と呼ばれる。ランナー長とは単位ループ数あたりの給糸長のことである。単位ループ数は480と定められているため、ランナー長は480コースあたりの給糸長のことである。ランナー長は、使用する筬の枚数に応じて、筬ごとに定められる。各筬相互間のランナー長の比率をランナー比という。
本実施の形態に係る弾性経編地のランナー比の具体例を説明する。例えば、逆ハーフ組織の場合、フロント筬デンビー組織の非弾性繊維に対するバック筬プレーンコード組織の弾性繊維のランナー比は、1:1.20〜1.40が好ましい。このように、一般的なツーウエイ逆ハーフ組織のランナー比1:1.50〜1.80に比べてバック筬プレーンコード組織の弾性繊維のランナー長を短くすることにより、ハイパワーな伸長・高回復特性を有するとともに形態安定性に優れた弾性経編地を得ることができる。
本実施の形態に係る弾性経編地に用いる非弾性繊維は、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維およびポリプロピレン系繊維のうちの少なくとも一種から選択された繊維からなることが好ましい。これらの合成繊維の糸種は特に限定されるものではないが、マルチフィラメント糸を使用することが好ましい。マルチフィラメント糸は、モノフィラメント糸よりも肌触りが良好で、着用感に優れるためである。
マルチフィラメント糸を構成する合成繊維としては、JISL0204−3(1998)に該当する弾性繊維(ゴム状弾性を有する繊維)を除く、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートなどからなる芳香族ポリエステル系繊維、芳香族ポリエステルに第三成分を共重合した芳香族ポリエステル系繊維、L乳酸を主成分とするもので代表される脂肪族ポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66、およびナイロン56等のポリアミド系繊維、ならびにポリプロピレン系繊維等が挙げられる。本実施の形態では、これらの合成繊維を単独または2種以上の混合物として使用することができるが、ポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維を主成分とする合成繊維を使用するのが好ましい。
一般に、ポリエステル系繊維は分散染料を用いて染められるが、弾性繊維として後述するポリウレタン系繊維を使用した場合、分散染料はポリウレタン系繊維を汚染してしまうため、最終製品において色移り等の堅牢度不良を発生させることがある。そこで、非弾性繊維にポリエステル系繊維を採用する場合には、カチオン染料で染色することができるカチオン可染型ポリエステル系繊維を用いることがより好ましい。
また、合成繊維マルチフィラメント糸として、通常のフラットヤーン以外に、仮撚り加工糸または混繊糸等のフィラメントヤーンを用いることができる。
合成繊維マルチフィラメント糸の総繊度は、22〜55デシテックスが好ましく、22〜44デシテックスであればより好ましい。この総繊度が22デシテックス未満の場合には、破裂強力が不十分である。また、総繊度が55デシテックスより大きい場合には、目付が重くなりすぎる。
合成繊維マルチフィラメント糸のフィラメント数は、10〜55フィラメントが好ましく、24〜44フィラメントであればより好ましい。フィラメント数が10フィラメント未満の場合には、風合いが粗硬気味となる。また、フィラメント数が55フィラメントより大きい場合には、スナッグやピリングなどの物性が劣化する。
合成繊維マルチフィラメント糸を構成する単繊維の繊度は、0.5〜5.5デシテックスが好ましく、0.5〜3.0デシテックスであればより好ましい。単繊維繊度が0.5デシテックス未満の場合には、スナッグやピリング等の物性が劣化する。単繊維繊度が5.5デシテックスより大きい場合には、風合いが粗硬気味となる。
単繊維の断面は、丸断面、三角断面、Y型断面、H型断面、T型断面、W型断面、X型断面、プラス(+)型断面、ダルマ型断面、および八葉型断面等のいずれかでよく、特に限定されない。
一方、本発明に用いる弾性繊維としては、ポリウレタン系弾性繊維、ポリエーテル・エステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維およびポリスチレン系弾性繊維のうちの少なくとも一種から選択された繊維からなることが好ましい。
この弾性繊維は、ゴム状弾性を持っている繊維からなるものであればいかなるものでもよく、例えばJISL0204−3(1998)に該当する繊維からなるものが用いられる。このような繊維には、例えば、外力に対して原長の5〜7倍に伸びる一方、外力を取り除いた場合に原長に近い長さに復元する特性を持つ繊維が含まれる。具体的には、ポリウレタン系弾性繊維、上述した弾性を有するポリエステル系弾性繊維、ポリエーテル・エステル系弾性繊維およびポリスチレン系弾性繊維等が挙げられる。このうち、ストレッチ性と復元性に優れた東レ・オペロンテックス(株)製“ライクラ”(登録商標)に代表されるポリウレタン系弾性繊維を用いることが好ましい。弾性繊維の太さは、例えば77デシテックス以上165デシテックス以下が好ましく、88デシテックス以上144デシテックス以下であればより好ましい。
交編される非弾性繊維と弾性繊維糸の混率は、編地生機または最終の仕上がり編地で非弾性繊維が25質量%以上60質量%以下、弾性繊維が40質量%以上75質量%以下であることが好ましい。
弾性繊維糸条が40質量%未満の場合は狙いとするスポーツ用シャツ・パンツ素材やスポーツ用インナー素材としてストレッチ不足となり、75質量%より大きい場合はストレッチパワーが強すぎるため着脱し難く、コストが増加する。
本実施の形態に係る弾性経編地の目付は、180g/m以上240g/m以下であることが好ましく、190g/m以上230g/m以下であればより好ましく、200g/m以上220g/m以下であればさらに好ましい。目付が240g/mより大きい場合には、スポーツ用シャツ・パンツ素材やスポーツ用インナー素材として要求される軽量感を得ることができず、動きが妨げられやすくなることから疲れが増すだけでなく、着用時の不快感を生じるなど着用性に劣る場合がある。目付が180g/m2未満の場合には、動きやすいものの、狙いとする身体の激しい動きの補助と筋肉の疲労を軽減させるモーションサポート機能に劣る。
本実施の形態に係る弾性経編地によれば、従来のハイパワーなストレッチ特性を有するスポーツ用シャツ・パンツ素材やスポーツ用インナー素材とは異なる軽量の目付を有することにより、着用した時に、軽くて、かつ、身体の激しい動きの補助と筋肉の疲労を軽減させるモーションサポート機能を得ることができる。
本実施の形態に係る弾性経編地は、破裂強力が300kPa以上であることが好ましく、350kPa以上であればより好ましく、400kPa以上であればさらに好ましい。弾性経編地の破裂強力が300kPa未満の場合は、運動時の激しい動きから生地の破れが発生することがある。
また、本実施の形態に係る弾性経編地の厚さは、0.40mm以上0.80mm以下であることが好ましく、0.40mm以上0.70mm以下であればより好ましく、動きやすさの観点から0.45mm以上0.65mmであればさらに好ましい。弾性経編地の厚さが0.80mmより大きい場合には、スポーツ用シャツ・パンツ素材やスポーツ用インナー素材としては厚くなり過ぎ、動いている状態でかさばるのを感じたり、動きが妨げられることにより疲れが増し、かえって着用時の不快感を生じるなど着用性に劣る場合がある。また、弾性経編地の厚さが0.40mm未満の場合には、動きやすいものの生地が薄すぎて透けなどの問題も発生し、審美性の観点からも好ましくない。また、弾性経編地の厚さが0.40mm未満の場合は、破裂強力も低くなり、生地物性面でスポーツ用シャツ・パンツ素材やスポーツ用インナー素材として不適合である。
本実施の形態に係る弾性経編地は、経方向または緯方向のいずれか一方のみの100%伸長時の応力が9.8N以上19.6N以下である。経方向または緯方向のいずれか一方のみの100%伸長時とは、本発明者らが身体の運動時の皮膚伸びを計測した結果、陸上短距離走の男子選手の場合、股関節動作時の最大角度が約100度の時、臀部の皮膚伸びが約100%であることから設定したものである。また、上述した応力の範囲(9.8N以上19.6N以下)によれば、最大皮膚伸びの100%に対し、ハイパワーでもあまり抵抗を感じることなく伸長し、かつ、高回復することにより、身体の激しい動きの補助と筋肉の疲労を軽減させるモーションサポート機能を得ることができる。
このハイパワーな伸長・高回復性は、弾性経編地の経方向または緯方向のいずれか一方向のみに有すればよく、この特性を有する編地方向を身体の皮膚伸びに追従する方向に使用すればよい。例えば、ツーウエイ逆ハーフ組織からなる弾性経編地の場合は、緯方向が経方向よりハイパワーな伸長・高回復性を有することから、編地の緯方向を身長方向に用いればよい。
本発明者らは、ハイパワーな伸長・高回復性を有する弾性経編地のスポーツウエアにより運動着用評価を行った。その結果、皮膚伸びの大きな身長方向の部位に編地のハイパワーな伸長・高回復性を有する方向を合わせ、身長方向とは異なる部位に編地のローパワーな伸長・低回復性を有する方向を合わせて使用することとした。これにより、動きやすさと筋肉への適度な締め付け感を有し、経方向と緯方向の両方向ともハイパワーな伸長・高回復性を有する弾性経編地よりも運動がしやすいことを見出した。
図1は、本実施の形態の弾性経編地の伸長・応力曲線の一態様を示す概念図である。同図に示す伸長・応力曲線L1において、点Aがゼロ荷重位置(伸長開始位置)であり、点Bが編地の100%伸長時における応力位置であり、点Cが伸長後のゼロ荷重位置(回復位置)である。また点Dは、編地の100%伸長時の位置を示している。編地の伸長・応力の具体的な評価方法については、後述する実施例で説明する。
図2は、弾性経編地の伸長・応力曲線における変曲域を説明するための概念図である。同図に示す伸長・応力曲線L2は、編地を伸長開始位置(点E)から14.7Nの定荷重伸長位置(点F、伸長率L%)まで伸長させた後、元のゼロ荷重位置(点G)まで回復させた場合の伸長・応力曲線である。伸長・応力曲線L2における変曲域とは、伸長時(点E→点F)において、曲線の曲り方が所定の基準より大きくなる領域を意味している。
具体的には、まず図2において基準とする伸長領域として、伸長率10%(応力a(N))から伸長率20%(応力b(N))までの領域I0を基準領域として応力差b−a(N)を求める。ここで、基準領域I0を伸長率10〜20%の領域とするのは、伸長応力が立ち上がってから安定し始める領域であり、かつ伸長・応力曲線が直線状をなすとみなすことができる領域であるためである。
その後、基準領域よりも伸長率が大きい領域において伸長率の差が10%であるような領域Iを設定し、この領域の端点における応力差d−c(N)を求める。このとき、変曲定数Kを以下の式で定義する。
変曲定数K=(d−c)/(b−a) ・・・(1)
この変曲定数Kは、領域I0の端点を通過する直線m1の傾きに対する、領域Iの端点を通過する直線m2の傾きの比率に相当する量である。二つの直線m1、m2の交点をPとすると、領域Iは常に交点Pよりも右側に位置する。本実施の形態では、変曲定数Kが2.0以上となる領域を変曲域とする。このとき、本実施の形態の弾性経編地は、伸長率が100%以下の領域における伸長・応力曲線の変曲定数Kが2.0未満である。換言すると、本実施の形態の弾性経編地は、伸長・応力曲線の変曲域が伸長率100%以下領域に存在しない。
このような変曲特性を有する弾性経編地を少なくとも一部に用いて作製されるスポーツ用衣料は、運動時の最大皮膚伸びの100%に相当する編地の伸長率100%以下領域に変曲域が存在しないため、運動の激しい動きにも編地の伸長・回復特性が追従しやすい。したがって、動きやすく、かつ疲労感を感じにくい。これに対して、変曲域が編地の伸長率100%以下領域に存在する弾性経編地を用いる場合には、運動での激しい動きに編地の伸長・回復特性が追従しにくくなり、動きにくく、かつ疲労感を感じやすい。
また、変曲定数Kが2.0未満の領域では、伸長時の伸長・応力曲線は、伸長時にほぼ直線的に応力が増加した後、緩やかな曲線状をなして応力が増加する。したがって、この意味でも、本実施の形態の弾性経編地を少なくとも一部に用いて作製されるスポーツ用衣料は、動きやすく、かつ疲労感を感じにくい。一方、変曲域を示す変曲定数Kが2.0以上の領域では、編地の伸びと共に伸長曲線の立ち上がりが徐々に強くなると共に直線状に立ち上がっていくため、動き難く、疲労感を感じやすい衣料となる。
理想的な伸長・回復特性を示す一例として、ゴム状弾性体に近い弾性経編地を挙げることができる。この場合は、伸長開始から伸長率100%以上領域を含めてほぼ直線状をなし、変曲定数Kが常に2.0未満である。このような弾性経編地には、変曲域が存在しない。なお、変曲域および変曲定数の具体的な計測の方法については、後述する実施例で説明する。
本実施の形態の弾性経編地は、100%伸長時の応力が9.8N以上19.6N以下である方向の100%の伸長・回復後の仕事回復率が50%以上であることが好ましい。図1に示す伸長・応力曲線L1において、点Bから点Cに回復する回復時の曲線と伸長率の軸で囲まれた面積(伸長・応力曲線の仕事回復面積)をS1(cm2)とし、伸長時の曲線と回復時の曲線と伸長率の軸で囲まれた面積(伸長・応力曲線の仕事ロス面積)をS2(cm2)とすると、伸長時の仕事量はS1+S2(cm2)に比例する量として与えられる。このとき、100%伸長・回復の仕事回復率は、
仕事回復率(%)=S1/(S1+S2)×100 ・・・(2)
で定義される。なお、100%伸長・回復の仕事ロス率(%)は、S2/(S1+S2)×100で定義される。
本実施の形態の弾性経編地は、上記の如く定義される仕事回復率が50%以上であり、55%以上であればより好ましく、60%以上であればさらに好ましい。仕事回復率が50%未満の場合は、編地の仕事ロス率が大きく、伸長回復率に劣ることとなる。仕事回復率が50%未満の弾性経編地を用いて作製したスポーツ用衣料は、激しい運動による衣料の伸長・回復が身体の動きに追従できないことから、フィット性に劣るとともに、見栄えの悪いものとなる。
理想的な伸長・応力特性を示すゴム状弾性体に近い弾性経編地の場合、伸長・応力曲線がほぼ直線状をなすため、仕事回復率は90%以上となる。これに対して、一般的な弾性経編地の場合は、非弾性繊維の糸が多く含まれることから、仕事回復率の最大値は70%程度である。編地の仕事回復率の具体的な評価方法については、後述する実施例で説明する。
本実施の形態の弾性経編地は、100%伸長時の応力が9.8N以上19.6N以下である方向の100%の伸長・回復後の伸長回復率が85%以上であることが好ましい。図1において、100%伸長時の応力位置である点Bから回復到達位置である点Cまで回復した後の回復長をR(cm)とし、このときの残留歪長をN(cm)としたとき、伸長回復率は、
伸長回復率(%)=R/(N+R)×100 ・・・(3)
で定義される。この伸長回復率は、好ましくは90%以上である。伸長回復率が85%未満の弾性経編地を用いて作製したスポーツ用衣料は、激しい運動による衣料の伸長・回復が身体の動きに追従できないことから、フィット性に劣るとともに、見栄えの悪いものとなる。編地の伸長回復率の具体的な評価方法については、後述する実施例で説明する。
本実施の形態の弾性経編地において、製編された生機の熱処理、精練、染色などの加工は、特に限定されるものではなく、使用する素材構成や用途によって適した一般的な加工工程および加工法に準じて実施すればよい。例えば、ナイロンとポリウレタン系弾性繊維で構成されたツーウエイトリコット編地の場合には、連続リラクサー熱セット機でリラックス、精練、予備熱セットを行い、液流染色機で染色した後、熱セット機で仕上げればよい。
染色段階での付帯加工として、例えば、機能剤の付与による撥水加工剤、防汚加工剤、抗菌加工剤、消臭加工剤、防臭加工剤、吸汗加工剤、吸湿加工剤、および紫外線吸収加工剤を適用することが好ましい。その場合には、求められる用途や要望により適用する加工剤を適宜選択することができる。
また、機能剤付与の加工以外の付帯加工として、カレンダー加工、エンボス加工、プリント加工等を、最終用途の要求特性に応じて適宜付与することができる。
本実施の形態の弾性経編地は、洗濯収縮率が経方向および緯方向ともに−6%以下であることが好ましく、−5%以下であればより好ましい。この洗濯収縮率は、前述した編地設計における使用糸の繊度バランス、ランナー比、染色加工条件の適正化を図ることにより、−6%以下を達成しやすくなる。洗濯収縮率が−6%を超えると、洗濯することにより大きく収縮し、運動がしにくくなるとともに、見栄えの悪いものとなる。なお、洗濯収縮率の評価は、JISL1096(2010)8.39G法(家庭用電気洗濯機法)に準じて行えばよい。
また、本実施の形態の弾性経編地を少なくとも一部に用いて作製されるスポーツ用衣料は、例えば、スポーツ用シャツ・パンツやスポーツ用インナーの全部分、あるいは大腿部や上身頃のみに使用することも可能である。また、本実施の形態の弾性経編地の使用面積をスポーツ用衣料の全面積の30%以上とすれば、身体の激しい動きの補助と筋肉の疲労を軽減させるモーションサポート機能を実感することができる。このように、本実施の形態の弾性経編地は、スポーツ用衣料の全部分への使用、あるいは、ある特定部分の一部分に使用するなどいずれも幅広く採用することができる。
以上説明した本発明の実施の形態によれば、非弾性繊維からなるフロント筬と、弾性繊維からなるバック筬と、を備え、経方向または緯方向のいずれか一方のみにおける100%伸長時の応力が9.8N以上19.6N以下であり、かつ伸長率が100%以下の領域における伸長・応力曲線の変曲定数が2.0未満であるため、ハイパワーな伸長・高回復性と十分な破裂強力を有し、身体の激しい動きを補助する機能と筋肉の疲労を軽減させるモーションサポート機能とを具備した弾性経編地および該弾性経編地を用いて作製されたスポーツ用衣料を提供することができる。
次に、本発明の弾性経編地およびスポーツ用衣料について実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明において用いた評価は、それぞれ次の方法により行ったものである。
(1)弾性経編地の目付
最終加工上がりの編地から、JISL1096(2010)の第8.3項に記載のA法に準じて目付の測定を行った。すなわち、最終加工上がりの編地から、20cm×20cmの試験片3枚を採取し、それぞれの標準状態における質量(g)を測定し、次の式によって1m当たりの質量(g/m)を求め、その平均値を算出し、四捨五入して目付(g/m)とした。
目付(g/m)=W/A
ここで、Wは標準状態における試験片の質量(g)を表し、Aは試験片の面積(m)を表す。
(2)弾性経編地の厚さ
最終加工上がりの編地から、JISL1096(2010)の第8.4項に記載のA法(JIS法)に準じて厚さの測定を行った。即ち、試料の異なる5か所について厚さ測定器を用いて、一定時間及び一定圧力の下で厚さ(mm)を測定し、その平均値を算出し、四捨五入して小数点以下2桁で表した。このときの測定時の一定圧力は、0.7kPaとした。
(3)弾性経編地の破裂強力
最終加工上がりの編地から、JISL1096(2010)の第8.18項に記載のA法(ミューレン形法)に準じて破壊強力の測定を行った。即ち、試料の異なる3か所について破裂強力(kPa)を測定し、その平均値を算出して表した。
(4)弾性経編地の100%伸長時の応力
標準状態に調温湿した試料から、幅5cm×長さ15cmの試験片を経方向及び緯方向の各々3枚を採取した。試験片を自記記録装置付定速伸長形引張試験機で、上下つかみ幅は表裏とも5cm、つかみ間隔10cm、初荷重3cN、引張速度10cm/分の条件で伸長率100%まで引っ張った後、即、ゼロ荷重まで戻す伸長・応力曲線(図1)を描き、100%伸長時の応力(図1のMに相当)を求め、経方向及び緯方向の各々3枚の平均値を算出し、四捨五入して小数点以下1桁で表した。
(5)弾性経編地の14.7N定荷重伸長時での変曲域と変曲定数K
まず、上記(4)と同様に、試験片を経方向及び緯方向の各々3枚を採取し、この試験片を同一の引張試験機で、同一の上下つかみ幅、つかみ間隔、初荷重、引張速度の条件で14.7N荷重まで引っ張った後、即、ゼロ荷重まで戻す伸長・応力曲線(図2)を描いた。
この後、図2における基準領域I0の端点(伸長率10%、20%)における応力差b−a(N)を算出するとともに、基準領域I0と伸長・応力曲線L2との2つの交点が通過する直線m1を引いた。
続いて、基準領域I0よりも伸長率が大きい領域Iを設定し、その領域Iの端点における応力差d−c(N)を算出するとともに、その領域Iの端点と伸長・応力曲線L2の伸長時の曲線との2つの交点を通過する直線m2を引いた。
2つの応力差b−a(N)、d−c(N)を用いて、上述した式(1)にしたがって変曲定数Kを算出する。算出の結果、K≧2.0であれば、領域Iを変曲域とする。一方、算出の結果、K<2.0であれば、伸長率の最小値を所定値(例えば10%)大きくした新たな領域Iを設定し、K≧2.0の領域が見つかるまで繰り返す。
なお、この変曲域の位置は、試験片の経方向及び緯方向の各々3枚であって変曲定数K≧2.0を満足する3枚の伸長率の平均値を算出し、その平均値を含むような10%間隔単位で表した。例えば、平均値が85%の場合には、80〜90%と表した。
(6)弾性経編地の100%の伸長・回復後の仕事回復率:
上記(4)と同様に、試験片を経方向及び緯方向の各々3枚採取し、この試験片を同一の引張試験機で、同一の上下つかみ幅、つかみ間隔、初荷重、引張速度の条件で伸長率100%まで引っ張った後、即、ゼロ荷重まで戻す。この操作を3回繰り返し、3回目の伸長・応力曲線を描く(図1を参照)。
その後、図1に示す面積S1およびS2を計測する。この際には、デジタルプラニメーター((株)内田洋行製 KP−90タイプ)を使用し、試験片の経方向及び緯方向の各々3枚を計測した平均値を算出し、四捨五入して小数点以下1桁で表した。
続いて、計測した面積S1およびS2を上述した式(2)に代入することにより、弾性経編地の100%の伸長・回復後の仕事回復率を算出した。
(7)弾性経編地の100%の伸長・回復後の伸長回復率:
上記(6)と同一の伸長・応力曲線(図1を参照)に基づいて回復長Rおよび残留歪長Nを求め、上述した式(3)に代入することにより、弾性経編地の100%の伸長・回復後の伸長回復率を算出した。なお、この伸長回復率は試験片の経方向及び緯方向の各々3枚を計測した平均値を算出し、四捨五入して小数点以下1桁で表した。
(8)スポーツ用衣料の素材としての総合評価
総合評価の基準は、次のとおりである。
○:動きやすく、疲労感も少なく、スポーツ用衣料の素材として適している。
△:動きが妨げられることもなく、スポーツ用衣料の素材として適している。
×:動きにくく、疲労感も感じることから、スポーツ用衣料の素材として適していない。
判定表示で○と△の場合、運動したとき、通常のスポーツ用ウエアに比べ、身体の激しい動きに追従するモーションサポート機能を実感できることから「合格」とした。
[実施例1]
ナイロンからなるフラットヤーンで総繊度44デシテックス、フィラメント数34フィラメント(東レ(株)製)とポリウレタン系弾性繊維の130デシテックス(東レ・オペロンテックス(株)製“ライクラ”(登録商標))を使用し、シングルトリコット28ゲージ機で編成し、編地組織を得た。具体的には、図3の編地編方図に示す2枚筬によって、フロント筬(F)の編地構成糸Y1にナイロン糸を配するとともに、バック筬(B)の編地構成糸Y2にポリウレタン系弾性繊維を配し、逆ハーフ組織で編成し、各混率がナイロン32質量%、ポリウレタン系弾性繊維68質量%の編地生機を得た。
この逆ハーフ組織のループ形成は、以下の通りである。図3における編針の列n1〜nkにおいて、フロント筬(F)での編針の列の針間を0、1、2とし、バック筬(B)での編針の列の針間を0、1、2、3とすると、フロント筬(F)の編地構成糸Y1のループ形成は1−0/1−2となり、バック筬(B)の編地構成糸Y2のループ形成は2−3/1−0となる。
次に、この生機編地を通常のナイロンツーウエイトリコット編地の染色加工に準じて温度80℃の浴中でのリラックスと精練投入、予備熱セット、温度100℃の浴中で酸性染料での染色および付帯加工としてナイロン用吸水加工剤による吸汗加工を行った。その後、乾燥、仕上げセットを行い、スポーツ用シャツ・パンツ用編地として仕上げた。
この弾性経編地の目付は220g/m、厚さは0.41mm、破裂強力は355kPa、100%伸長時の応力は経方向52.0N、緯方向16.3Nであった。伸長・応力曲線における変曲域の位置は、経方向では14.7N定荷重伸長時の100%以下領域に存在せず、また、経伸びが少なく、100%以下の伸長率であった。一方、緯方向では100%以下領域および100%以上領域にも存在しなかった。このことから変曲定数Kも存在しないことが分かった。
また、この弾性経編地の伸長・回復後の仕事回復率は経方向50.2%、緯方向70.1%であり、伸長・回復後の伸長回復率は経方向91.9%、緯方向95.7%であった。
これらのことから、本実施例1の弾性経編地は、編地の緯方向が経方向に比べ、100%伸長時の応力が低く、かつ、仕事回復率と伸長回復率も高く、緯方向および経方向ともに変曲域が100%以下領域に存在しないことから、スポーツ用衣料に好適であることが分かった。
この弾性経編地の緯方向を身体の身長方向に使用する衣服設計で陸上競技用のハーフパンツを試作し、19〜22歳の男女5名ずつに対して100m短距離走による試着評価を行った結果、動きに伴う身体への適度な締め付け感も良く、かつ、激しい動きに追従するモーションサポート機能を実感できるという評価が得られ、スポーツ用衣料に好適な素材であることが確認された。
[実施例2]
カチオン染料可染型ポリエステルからなるフラットヤーンで総繊度56デシテックス、フィラメント数24フィラメント(東レ(株)製“テトロン”(登録商標))と、ポリウレタン系弾性繊維の90デシテックス(東レ・オペロンテックス(株)製“ライクラ”(登録商標))とを使用し、実施例1と同様に編成した。すなわち、シングルトリコット28ゲージ機で、図3に示す2枚筬によって、フロント筬(F)の編地構成糸Y1にカチオン染料可染型ポリエステルを配するとともに、バック筬(B)の編地構成糸Y2にポリウレタン系弾性繊維を配し、逆ハーフ組織で編成し、各混率がカチオン染料可染型ポリエステル55質量%、ポリウレタン系弾性繊維45質量%の編地生機を得た。
次に、この生機編地を通常のポリエステルツーウエイトリコット編地の染色加工に準じて温度80℃の浴中でのリラックスと精練投入、予備熱セット、温度130℃の浴中でカチオン染料での染色および付帯加工としてポリエステル用吸水加工剤による吸汗加工を行った。その後、乾燥、仕上げセットを行い、スポーツ用シャツ・パンツ用編地として仕上げた。
この弾性経編地の目付は215g/m、厚さは0.59mm、破裂強力は381kPa、100%伸長時の応力は経方向44.5N、緯方向12.1Nであった。伸長・応力曲線における変曲域の位置は、経方向が70〜80%であり、緯方向は100〜110%であった。各変曲域における変曲定数Kは、経方向が3.3、緯方向が2.3であった。
また、この弾性経編地の伸長・回復後の仕事回復率は経方向49.7%、緯方向60.3%であり、伸長・回復後の伸長回復率は経方向86.2%、緯方向88.3%であった。
これらのことから、実施例1と同様にスポーツ用衣料の編地として優れていると推察できるものであった。
この弾性経編地の緯方向を身体の身長方向に使用する衣服設計で陸上競技用のロングパンツを試作し、実施例1と同様に、19〜22歳の男女5名ずつに対して100m短距離走による試着評価を行った結果、動きに伴う身体への適度な締め付け感は実施例1に比べ若干弱いものの、激しい動きに追従するモーションサポート機能を十分に実感できるという評価が得られ、スポーツ用衣料の素材として適した素材であることが確認された。
[比較例1]
実施例2と同一のカチオン染料可染型ポリエステルからなるフラットヤーンで総繊度56デシテックス、フィラメント数24フィラメント(東レ(株)製“テトロン”(登録商標))と、ポリウレタン系弾性繊維の44デシテックス(東レ・オペロンテックス(株)製“ライクラ”(登録商標))とを使用し、シングルトリコット28ゲージ機で編成し、編地組織を得た。具体的には、図4の編地編方図に示す2枚筬によって、フロント筬(F)の編地構成糸Y1にカチオン染料可染型ポリエステルを、バック筬(B)の編地構成糸Y2にポリウレタン系弾性繊維を配して、ハーフ組織で編成し、各混率がカチオン染料可染型ポリエステル82質量%、ポリウレタン系弾性繊維18質量%の編地生機を得た。
このハーフ組織のループ形成は、以下の通りである。図4における編針の列n1〜nkにおいて、フロント筬(F)での編針の列の針間を0、1、2、3とし、バック筬(B)での編針の列の針間を0、1、2とすると、フロント筬(F)の編地構成糸Y1のループ形成は1−0/2−3となり、バック筬(B)の編地構成糸Y2のループ形成は1−2/1−0となる。
次に、この生機編地を実施例2と同様に通常のポリエステルツーウエイトリコット編地の染色加工に準じて温度80℃の浴中でのリラックスと精練投入、予備熱セット、温度130℃の浴中でカチオン染料での染色および付帯加工としてポリエステル用吸水加工剤による吸汗加工を行った。その後、乾燥、仕上げセットを行い、スポーツ用シャツ・パンツ用編地として仕上げた。
この弾性経編地の目付は210g/m、厚さは0.70mm、破裂強力は422kPa、100%伸長時の応力は経方向10.5N、緯方向13.3Nであった。伸長・応力曲線での変曲域の位置は、経方向が90〜100%であり、緯方向が60〜70%であった。各変曲域における変曲定数Kは、経方向が2.3、緯方向が2.7であった。
また、この弾性経編地の伸長・回復後の仕事回復率は経方向54.1%、緯方向40.6%であり、伸長・回復後の伸長回復率は経方向86.3%、緯方向85.6%であった。
これらのことから、編地の経方向、緯方向とも100%伸長時の応力は適しているものの、変曲域の位置は両方向とも100%以下域であり、スポーツ用衣料の素材として適していないことが分かった。
この弾性経編地の経方向を身体の身長方向に使用する衣服設計で陸上競技用のハーフパンツを試作し、実施例1と同様に、19〜22歳の男女5名ずつに対して100m短距離走による試着評価を行った。その結果、動きに伴う身体への編地の伸縮追従性が劣り、動き難く、また、疲れやすいことから、スポーツ用衣料の編地として適していないとの評価が得られた。
[比較例2]
ナイロンからなるフラットヤーンで総繊度33デシテックス、フィラメント数26フィラメント(東レ(株)製)と、ポリウレタン系弾性繊維の22デシテックス(東レ・オペロンテックス(株)製“ライクラ”(登録商標))とを使用し、シングルトリコット28ゲージ機で編成し、編地組織を得た。具体的には、図5の編地編方図に示す3枚筬によって、フロント筬(F)の編地構成糸Y1にナイロン糸を配し、ミドル筬(M)の編地構成糸Y3にも同一のナイロン糸を配するとともに、バック筬(B)の編地構成糸Y2にはポリウレタン系弾性繊維を配し、ミドル筬(M)の編地構成糸Y3が挿入される3枚挿入組織で編成し、各混率がナイロン90質量%、ポリウレタン系弾性繊維10質量%の編地生機を得た。
この3枚挿入組織のループ形成は、以下の通りである。図5においてフロント筬(F)の編地構成糸Y1のループ形成は1−0/2−3となり、ミドル筬(M)の編地構成糸Y3のループ形成は0−0/1−1となり、バック筬(B)の編地構成糸Y2のループ形成は1−2/1−0となる。
次に、この生機編地を実施例1と同様に通常のナイロンツーウエイトリコット編地の染色加工に準じて、温度80℃の浴中でのリラックスと精練投入、予備熱セット、温度100℃の浴中で酸性染料での染色および付帯加工としてナイロン用吸水加工剤による吸汗加工を行った。その後、乾燥、仕上げセットを行い、スポーツ用シャツ・パンツ用編地として仕上げた。
この弾性経編地の目付は227g/m、厚さは0.73mm、破裂強力は450kPa、100%伸長時の応力は経方向12.0N、緯方向13.7Nであった。伸長・応力曲線における変曲域の位置は、経方向が70〜80%であり、緯方向が60〜70%であった。各変曲域における変曲定数Kは、経方向が2.4、緯方向が2.7であった。
また、この編地の伸長・回復後の仕事回復率は経方向47.5%、緯方向40.7%であり、伸長・回復後の伸長回復率は経方向82.7%、緯方向85.8%であった。
これらのことから、比較例1と同様に編地の経方向、緯方向とも100%伸長時の応力は適しているものの、変曲域の位置は両方向とも100%以下域であるため、スポーツ用衣料の素材として適していないことが分かった。
この弾性経編地の経方向を身体の身長方向に使用する衣服設計で陸上競技用のハーフパンツを試作し、実施例1と同様に、19〜22歳の男女5名ずつに対して100m短距離走による試着評価を行った。その結果、動きに伴う身体への編地の伸縮追従性が劣り、動き難く、また、疲れやすいという評価が得られた。更に、編地組織が3枚挿入組織のため、激しい動きで編地中の弾性繊維が初期の位置よりずれて生地がひずむワライ現象が発生したことから、スポーツ用衣料の素材として適していないことが明らかになった。
以上説明した実施例1、2および比較例1、2の結果をまとめた表を示す。
Figure 0006902331
L1、L2 伸長・応力曲線
Y1、Y2、Y3 編地構成糸
(F) フロント筬
(M) ミドル筬
(B) バック筬

Claims (8)

  1. 2枚筬により編成される経編地であって、
    非弾性繊維からなるフロント筬と、
    弾性繊維からなるバック筬と、
    を備え、
    逆ハーフ組織で編成し、
    前記フロント筬での編針の列の針間を0、1、2とし、前記バック筬での編針の列の針間を0、1、2、3とするとき、前記フロント筬の編地構成糸のループ形成が1−0/1−2であり、前記バック筬の編地構成糸のループ形成が2−3/1−0であり、
    経方向または緯方向のいずれか一方のみにおける100%伸長時の応力が9.8N以上19.6N以下であり、かつ経方向または緯方向の少なくともいずれか一方において、伸長・応力曲線の変曲域が、伸長率が100%以下の領域に存在しないことを特徴とする弾性経編地。
  2. 目付が180g/m以上240g/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の弾性経編地。
  3. 前記非弾性繊維は、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維およびポリプロピレン系繊維の内の少なくとも一種から選択された繊維からなることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性経編地。
  4. 前記弾性繊維は、ポリウレタン系弾性繊維、ポリエーテル・エステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維およびポリスチレン系弾性繊維の内の少なくとも一種から選択された繊維からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の弾性経編地。
  5. 破裂強力が300kPa以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の弾性経編地。
  6. 100%伸長時の応力が9.8N以上19.6N以下である方向の100%の伸長・回復後の仕事回復率が50%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の弾性経編地。
  7. 100%伸長時の応力が9.8N以上19.6N以下である方向の100%の伸長・回復後の伸長回復率が85%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の弾性経編地。
  8. 請求項1〜のいずれか一項に記載の弾性経編地を少なくとも一部に用いて作製してなることを特徴とするスポーツ用衣料。
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