図1は、溶射装置1の構成を示す図である。溶射装置1は、基材9上にプラズマ溶射を行う装置である。溶射装置1は、溶射ガン11と、プラズマガス供給部12と、材料貯溜部13と、搬送ガス供給部14と、材料搬送部15とを備える。溶射ガン11は、プラズマフレア8を発生する。プラズマガス供給部12は、プラズマガスを溶射ガン11に供給する。プラズマガスは、例えばアルゴンガスおよび水素ガスである。プラズマガスは、ヘリウムガスや他のガスであってもよい。材料貯溜部13は、溶射に用いられる溶射材料を貯溜する。搬送ガス供給部14は、材料搬送部15に搬送ガスを供給する。搬送ガスは、例えばアルゴンガスである。搬送ガスは、アルゴンガス以外のガスであってもよい。材料搬送部15は、搬送ガス供給部14からの搬送ガスを利用して溶射材料をプラズマフレア8内へと供給する。
溶射ガン11は、溶射を行う噴出ノズルである。溶射ガン11内には、プラズマガスの流路21が設けられる。流路21の中央に陰極22が配置され、陰極22の下流側に流路を囲うように陽極23が配置される。陰極22と陽極23との間の放電により、噴出口24からプラズマフレア8が噴出される。
材料搬送部15は、定量供給部31と、搬送管32とを備える。定量供給部31は、材料貯溜部13から単位時間当たり一定の量の溶射材料を取り出し、搬送ガスに合流させる。搬送管32の端部は噴出口33となっており、噴出口33から溶射材料が搬送ガスと共に噴出される。溶射材料は、プラズマフレア8の進行方向側方からプラズマフレア8の中央に向かって垂直に導入される。
溶射材料は粉体であり、各粒子(以下、「溶射用粒子」という。)は搬送管32を詰まらせない大きさを有する。後述するように、各溶射用粒子は、さらに微細な微粒子を含む樹脂の粒子である。溶射用粒子に含まれる微粒子は、セラミック粒子または金属粒子である。プラズマフレア8により溶射材料(溶射用粒子)の樹脂が焼失し、溶融状態または半溶融状態の微粒子が基材9に向かってプラズマフレア8と共に流れる。その結果、基材9上に微粒子が堆積し、被膜(すなわち、溶射被膜)が形成される。
次に、実際に溶射材料を製造した例(以下、「製造例」という。)を参照しつつ溶射材料の製造について説明する。図2は、溶射材料の製造の流れを示す図である。まず、セラミックスまたは金属の微粒子が準備され、さらに、熱硬化性を有する液状の樹脂が準備される。ここでは、同じ材料で形成され、かつ、平均粒径が異なる第1微粒子および第2微粒子が、当該微粒子として利用される。第1微粒子の平均粒径は、第2微粒子の平均粒径よりも大きい。製造例にて使用された第1微粒子は、平均粒径が3.6μm(マイクロメートル)の安定化ジルコニア微粒子(第一希元素化学工業株式会社製、品番「UZY−8H」)であり、第2微粒子は、平均粒径が200nm(ナノメートル)の安定化ジルコニア微粒子(共立マテリアル株式会社製、品番「KZ−8YF」)である。
ここで、第1および第2微粒子の平均粒径は、例えば、レーザ回折・散乱法により求めた粒度分布から算出される。典型的には、第1微粒子として準備される粒子群の粒度分布から算出されるメジアン径(d50)が、第1微粒子の平均粒径である。第2微粒子の平均粒径も同様である。また、第1および第2微粒子が混在した状態で微粒子が準備されてもよい。この場合に、当該微粒子の粒度分布において、例えば、有意な2つのピークが確認されるときには、粒度が大きい方のピークが属する区間(粒度)の中央の値が第1微粒子の平均粒径として扱われ、粒度が小さい方のピークが属する区間の中央の値が第2微粒子の平均粒径として扱われてもよい。第1および第2微粒子が混在する微粒子の粒度分布では、統計学的手法により、第1微粒子の平均粒径と、第2微粒子の平均粒径とが求められてもよい。第1微粒子の平均粒径は、第1微粒子の粒度分布における代表的な粒径を示すものであればよく、第2微粒子の平均粒径も同様である。なお、微粒子の平均粒径についてレーザ回折・散乱法による測定が困難な場合は、動的光散乱法により測定が行われてもよい。第1微粒子の製造メーカが示す平均粒径と、第2微粒子の製造メーカが示す平均粒径とが十分に相違する(例えば、一方が他方の10倍以上である)場合等には、製造メーカが示す平均粒径がそのまま採用されてもよい。
第1微粒子の平均粒径は、例えば1μmよりも大きく、好ましくは2μm以上であり、より好ましくは2.5μm以上である。第1微粒子の平均粒径は、溶射用粒子の平均粒径よりも小さい。第2微粒子の平均粒径は、好ましくは、25nm以上1000nm以下である。換言すれば、第2微粒子は、いわゆるナノ粒子であることが好ましい。さらに好ましくは、第2微粒子の平均粒径は、製造メーカからの入手が容易な50nm以上500nm以下である。また、第1微粒子の平均粒径は、第2微粒子の平均粒径の10倍以上であることが好ましい。上記の理由については後述する。
微粒子の材料は、上述のジルコニア(ZrO2)には限定されず、様々に変更されてよい。例えば、微粒子のセラミックス材料としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ムライト(Al2O3・SiO2)、酸化ジルコニウム、ジルコン(ZrO2・SiO2)、フォルステライト(2MgO・SiO2)、ステアタイト(MgO・SiO2)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化イットリウム、酸化銀、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化バリウム、等を含む酸化物および複合酸化物群;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、等を含む窒化物群;炭化ケイ素等を含む炭化物群;WC/C、WC/Ni、WC/CrC/Ni、WC/Cr/Co、CrC/NiCr、サイアロン(SiN4・Al2O3)等を含むサーメット群が利用可能である。金属の場合の微粒子の材料としては、アルミニウム、銅等の様々な金属が利用可能である。
製造例にて使用された液状の熱硬化性樹脂は、アクリル系の樹脂(JSR株式会社製、品番「KC1280」)である。液状の樹脂は、有機物を主体とするものであれば様々なものが採用されてよく、光硬化性であってもよい。もちろん、他の硬化性樹脂でもよい。硬化性樹脂としては様々なものが利用可能である。例えば、フェノール、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド、ポリアミノビスマレイミド、カゼイン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂等を含む熱硬化性プラスチック群の中から選択された一種または複数種が利用可能である。
微粒子および熱硬化性樹脂が準備されると、これらの混合が行われる(ステップS11)。製造例では、まず、平均粒径が200nmの第2微粒子および液状の樹脂が150cm3の密閉容器内に入れられる。密閉容器内の材料全体の体積に対する第2微粒子の体積比率は、42vol%(質量比率は78.1wt%)である。そして、自転および公転を伴う攪拌・脱泡装置(株式会社写真化学製、品番「SK−350T」)により、第2微粒子を均一に単分散させたペースト状の混合物が得られる。攪拌・脱泡の条件としては、例えば、自転および公転は共に1340rpmであり、運転時間は840秒である。
続いて、平均粒径が3.6μmの第1微粒子が、複数回に分けて混合物に追加される。このとき、所定量の第1微粒子を混合ペーストに追加する毎に、攪拌・脱泡が行われる。混合物における第1微粒子の最終的な体積比率(混合物の全体に対する体積比率)は、48.3vol%であり、第2微粒子の最終的な体積比率は、21.7vol%である。第1および第2微粒子を含む微粒子全体の体積比率は、70vol%である。これにより、混合物は、液状の樹脂中において微粒子がある程度密に充填された状態、換言すると、微粒子が均一に分散した状態となる。なお、混合物における第1微粒子の質量比率は63.4wt%であり、第2微粒子の質量比率は28.5wt%であり、微粒子全体の質量比率は92.0wt%である。
後述する混合物の硬化では、混合物において微粒子の分散状態がある程度保持されることが好ましい。ここで、微粒子が一定の粒径の理想的な球体であり、かつ、混合物において微粒子が単純立方構造をとると仮定する。この場合、単純立方構造の充填率は約52.4%となるため、第1および第2微粒子を含む微粒子全体の体積比率が52vol%以上であれば、混合物において微粒子の分散状態が適切に保持されるといえる。実際には、微粒子は、平均粒径が互いに異なる第1微粒子と第2微粒子とを含む。したがって、微粒子の分散状態をより確実に保持するには、微粒子の体積比率は、60vol%以上であることが好ましく、65vol%以上であることがより好ましい。溶射材料の溶射では、微粒子の体積比率が高いほど成膜速度が大きくなり、成膜効率(生産性)が向上する。混合物における微粒子の体積比率は、例えば90vol%以下であり、微粒子間に入り込む樹脂の量をある程度多くする場合には、微粒子の体積比率は、85vol%以下であることが好ましい。
既述のように、第1微粒子の平均粒径は、第2微粒子の平均粒径の10倍以上であることが好ましい。ここで、直径が1である大球が充填された空間において、大球間の隙間に内接することが可能な小球の直径について考える。3個の大球を正三角形の頂点に配置する場合に、これらの大球に内接する小球の直径は0.155となり、4個の大球を正四面体の頂点に配置する場合に、これらの大球に内接する小球の直径は0.225となる。また、6個の大球を正八面体の頂点に配置する場合に、これらの大球に内接する小球の直径は0.414となり、8個の大球を正六面体の頂点に配置する場合に、これらの大球に内接する小球の直径は0.732となる。したがって、大球の直径と小球の直径との比の値は、1.37〜6.45となる。
大球および小球は、それぞれ第1微粒子および第2微粒子に相当すると考えることができ、第1微粒子の粒径が第2微粒子の粒径の6.45倍以上であれば、第2微粒子は、第1微粒子間の隙間に内接可能となる。実際には、混合物における流動性を確保するために、第2微粒子と第1微粒子との間に樹脂が介在する、ある程度の隙間が必要となる。したがって、第1微粒子の平均粒径は、第2微粒子の平均粒径の10倍以上であることが好ましいといえる。上記隙間をさらに大きくするには、第1微粒子の平均粒径は、第2微粒子の平均粒径の15倍以上であることが好ましい。第1微粒子間の隙間に第2微粒子を充填するという観点では、混合物における第1微粒子の体積比率は、第2微粒子の体積比率よりも大きいことが好ましい。
続いて、微粒子および液状の樹脂の混合物は、ホットプレート等により加熱される。これにより、微粒子の分散状態を保ったまま、当該混合物が硬化し、硬化物が得られる(ステップS12)。製造例では、ペースト状の混合物が約150℃で30分間加熱される。当該硬化物は、室温まで自然冷却される。液状の樹脂として光硬化性の樹脂が使用される場合は、混合物に紫外線等の光を照射することにより、硬化物が得られる。液状の樹脂は、硬化性を有すればよく、例えば、放置することにより自然に硬化する樹脂であってもよい。
その後、硬化物は、振動式のミル(いわゆる、高速振動試料粉砕機)を用いて粉砕される(ステップS13)。粉砕後の硬化物は、篩を用いて分画される。これにより、微粒子よりも粒径が大きい粒子(すなわち、溶射用粒子)である溶射材料が得られる。製造例では、粉砕後の硬化物は、45μm以上106μm以下の粒度範囲で分画される。なお、篩上に残留した粒子(すなわち、上記粒度範囲よりも粒径が大きい粗大粒子)は、例えば、上述のミルに戻されて再度粉砕されてもよい。また、当該粒度範囲よりも粒径が小さい過粉砕粒子は、例えば、ステップS11において微粒子と共に液状の樹脂に混合されてもよい。
図3Aおよび図3Bは、製造例の溶射材料を示す図であり、走査型電子顕微鏡を用いて撮像した写真である(後述の図5A、図5B、図6A、図6B、図7A、図7B、図8A、図8B、図9Aおよび図9Bにおいて同様である。)。図3Aおよび図3Bの溶射材料では、平均粒径が3.6μmの第1微粒子と、平均粒径が200nmの第2微粒子とを含む微粒子が、微粒子間に存在する樹脂により互いに結合されて溶射用粒子が形成されている。このように、各溶射用粒子は、複数の微粒子と、これらの微粒子を保持する樹脂部とを備える。溶射用粒子は、各微粒子(第1微粒子または第2微粒子)よりも粒径が大きい樹脂の粒子であると捉えることもでき、この場合、微粒子は、当該樹脂の粒子の内部に分散して存在しているといえる。溶射用粒子における微粒子の体積比率(平均的な体積比率)は、上記混合物における体積比率とほぼ同じである。
溶射用粒子の粒度範囲は、溶射装置1にて利用可能であれば様々に変更されてよい。粒度範囲は、分級に使用する篩の目開きにより定義可能である。硬化物の粉砕により得られる溶射用粒子の粒径は、含有する微粒子よりも大きいのであれば様々に決定されてよい。ここで、10μm以下の粒径を有する粉末については、通常の粉末供給装置においてガス搬送を安定して行うことが容易ではなく、搬送管を詰まらせることがある。したがって、溶射装置1にて容易にガス搬送を行うには、溶射用粒子の粒径は、10μmよりも大きいことが好ましい。また、各溶射用粒子において、ある程度の個数の第1微粒子を含ませるという観点では、溶射用粒子の粒径は、第1微粒子の平均粒径の5倍以上であることが好ましい。溶射装置1の搬送管32において、溶射用粒子が詰まることを防止するには、溶射用粒子の粒径は、搬送管32の内径未満であり、例えば1500μm以下である。好ましくは、溶射用粒子の粒径は、350μm以下である。
図4は、溶射装置1による溶射の流れを示す図である。上述のステップS11〜S13の製造方法にて製造された溶射材料(溶射用粒子の集合)が準備されると(ステップS21)、当該溶射材料が材料貯溜部13に充填される(ステップS22)。その後、当該溶射材料を用いてプラズマ溶射が行われる(ステップS23)。これにより、加熱された微粒子が基材9上で結合し、基材9上に被膜が形成される。実際には、基材9上への被膜の形成により、溶射製品が製造される。
図5Aおよび図5Bは、上記製造例の溶射材料を用いて溶射装置1により基材9上に形成された被膜の断面を拡大して示す図である。ここでは、基材9として、50mm×50mm×6mmのステンレス鋼(SUS316)の板を用い、当該板の表面に予めブラスト処理を施した。また、溶射ガン11として、スルザーメテコ社製の溶射ガン(商品名「F4 Spray Gun」)を用い、材料搬送部15として、スルザーメテコ社製の粉末供給装置(商品名「TWIN−120」)を用いた。溶射ガン11への印加電力は33.6kWとした。プラズマガスとして、アルゴンガスおよび水素ガスを用い、搬送ガスとして、アルゴンガスを用いた。溶射ガン11と基材9との間の距離を50mmに設定し、基材9の表面に沿う方向への溶射ガン11の相対移動(トラバース)を、速度9.9m/minで11回繰り返すことにより、基材9上に被膜を形成した。被膜の厚さは340μmであり、溶射ガン11の1回の相対移動により形成される被膜の厚さ、すなわち、成膜速度は、30.9μmであった。当該成膜速度は、一般的なサスペンション溶射における成膜速度よりも十分に大きい。
図5Aおよび図5Bでは、密な部分と粗な部分とを含む被膜が形成されている。密な部分では、微粒子が溶融結合しており、ジルコニア粒子を用いた焼結体の硬度(1100〜1300HV)と同等の硬度であると想定される。また、粗な部分では、平均粒径が200nmの第2微粒子が未溶融の状態で存在している。このように、上記製造例の溶射材料を用いることにより、粗密を有する被膜が得られる。粗密が形成される理由は明確ではないが、平均粒径が200nmの第2微粒子では、平均粒径が3.6μmの第1微粒子と比較して、溶射において基材9に衝突する際の運動エネルギーが低く、緻密な組織を形成しにくいことが一因と考えられる。換言すると、微粒子が、粒径が比較的小さい第2微粒子を含むことにより、被膜において粗な部分が形成される。同様に、微粒子が、粒径が比較的大きい第1微粒子を含むことにより、被膜において密な部分が形成される。このように、被膜において密な部分を形成するという観点では、第1微粒子の平均粒径は、1μmよりも大きいことが好ましい。当該密な部分をより確実に形成するには、第1微粒子の平均粒径は、2μm以上であることが好ましく、2.5μm以上であることがより好ましい。
上記のように、粗密を有する構造は、バイモーダル微細構造と呼ばれ、粗密の割合を制御することにより、被膜の機械的特性を調整することが可能である。例えば、被膜において密な部分を多く設ける場合、基材9と被膜との間の付着力(界面靱性、ボンド強さ)が向上する。クラックの拡がりも抑制されるため、高い靱性および耐摩耗性が得られる。また、被膜において粗な部分を多く設ける場合、削られやすい特性を有する被膜、すなわち、アブレイダブル被膜が得られる。さらに、粗密の割合によっては、熱拡散性が低く、熱膨張性が高い遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating)を実現することもできる。
次に、溶射材料の他の製造例について述べる。当該他の製造例では、平均粒径が26.4μmの安定化ジルコニア微粒子(昭和電工株式会社製、品番「SHOCOAT K−90」)が、第1微粒子として用いられる。当該安定化ジルコニア微粒子の粒度分布では、約90%の粒子が10〜45μmの粒径範囲に含まれる。第2微粒子および液状の樹脂は、上記製造例と同じである。
図2のステップS11では、上記製造例と同じ体積比率にて第2微粒子と液状の樹脂とを混合し、同様の処理にて第2微粒子を均一に単分散させたペースト状の混合物が得られる。続いて、平均粒径が26.4μmの第1微粒子が、複数回に分けて混合物に追加される。このとき、所定量の第1微粒子を混合ペーストに追加する毎に、攪拌・脱泡が行われる。混合物における第1微粒子の最終的な体積比率は、65.6vol%(質量比率は77.9wt%)であり、第2微粒子の最終的な体積比率は、14.5vol%(質量比率は17.2wt%)である。第1および第2微粒子を含む微粒子全体の体積比率は、80vol%(質量比率は95.2wt%)である。これにより、混合物は、液状の樹脂中において微粒子がある程度密に充填された状態、換言すると、微粒子が均一に分散した状態となる。混合物の硬化および硬化物の粉砕(ステップS12,S13)は、上記製造例と同様である。
図6Aおよび図6Bは、上記他の製造例の溶射材料を示す図である。図6Aおよび図6Bの溶射材料では、平均粒径が26.4μmの第1微粒子と、平均粒径が200nmの第2微粒子とを含む微粒子が、樹脂により互いに結合されて溶射用粒子が形成されている。
図7Aおよび図7Bは、上記他の製造例の溶射材料を用いて溶射装置1により基材9上に形成された被膜の断面を拡大して示す図である。溶射における条件は、図5Aおよび図5Bの被膜の形成と同様である。被膜の厚さは305μmであり、溶射ガン11の1回の相対移動により形成される被膜の厚さ、すなわち、成膜速度は、27.7μmであった。
図7Aおよび図7Bにおいても、図5Aおよび図5Bと同様に、密な部分と粗な部分とを含む被膜が形成されている。密な部分では、微粒子が溶融結合している。また、粗な部分では、平均粒径が200nmの第2微粒子が未溶融の状態で存在している。このように、上記他の製造例の溶射材料を用いることにより、粗密を有する被膜が得られる。
ここで、比較例の溶射材料の製造について述べる。比較例の溶射材料の製造では、上記製造例における第1微粒子または第2微粒子の一方のみを微粒子として用いて、図2と同様の処理を行った。詳細には、第1ないし第4比較例の溶射材料を製造した。第1比較例では、平均粒径が3.6μmの第1微粒子のみを用い、かつ、混合物における第1微粒子の体積比率を60vol%として溶射材料(以下、「3.6μm−60vol%の溶射材料」という。以下同様である。)を製造した。同様に、第2ないし第4比較例では、3.6μm−65vol%の溶射材料、200nm−57vol%の溶射材料、および、200nm−60vol%の溶射材料を製造した。第1ないし第4比較例の溶射材料を用いて、上記の例と同様の条件で被膜を形成したところ、成膜速度は、それぞれ11.8μm、15.5μm、13μm、20.9μmであった。
ここで、3.6μm−65vol%の溶射材料を製造する第2比較例では、第1微粒子と液状の樹脂とを混合した混合物においてダイラタンシーが発現する(第1比較例において同様)。これにより、混合物を速くかき混ぜることができなくなり、混合物における第1微粒子の体積比率をさらに大きくすることが容易ではない。200nm−60vol%の溶射材料を製造する第4比較例においても、混合物における第2微粒子の体積比率をさらに大きくすると、第2微粒子の塊が発生し、第2微粒子を分散させることが容易ではない。
これに対し、図2の溶射材料の製造では、第1微粒子と、第1微粒子よりも平均粒径が小さい第2微粒子とを含む微粒子が利用される。これにより、微粒子と液状の樹脂との混合物において、粗粒である第1微粒子間の隙間に、細粒である第2微粒子を入り込ませることができ、混合物における微粒子の体積比率を容易に大きくすることができる。その結果、図2の処理により製造される溶射材料では、溶射時における成膜速度を大きくすることが可能となる。なお、異なる溶射方法を採用する等により、上記溶射材料を用いて緻密な被膜が形成されてもよい。この場合、第2微粒子の平均粒径は、1μmよりも大きくてもよく、例えば、25nm以上10μm以下である。
上記溶射材料では、第1および第2微粒子が同じ材料であるが、第1および第2微粒子が異なる材料であってもよい。次に、第1および第2微粒子が異なる材料である溶射材料の製造について、製造例を参照しつつ説明する。以下の説明では、第1および第2微粒子が同じ材料である上述の溶射材料を、「単一材料型の溶射材料」という。
まず、第1および第2微粒子を含む微粒子と、熱硬化性を有する液状の樹脂が準備される。以下の処理により製造される溶射材料では、溶射が行われた際に、第1微粒子により溶射被膜のベース部分が形成されるため、以下、第1微粒子を「ベース微粒子」という。ベース微粒子は、セラミックスまたは金属であるベース材料により形成される。また、第2微粒子は、溶射の際に、ベース材料による被膜の形成を補助するため、以下、第2微粒子を「補助微粒子」という。後述するように、補助微粒子は、ベース材料を主成分とする溶射被膜の緻密化に寄与する。補助微粒子は、ベース材料とは異なる補助材料により形成される。製造例にて使用されたベース微粒子は、平均粒径が26.4μmの安定化ジルコニア微粒子(昭和電工株式会社製、品番「SHOCOAT K−90」)であり、補助微粒子は、平均粒径が0.6μmであり、Bi2O3・ZnO・B2O3を主成分とするガラスフリット(旭硝子株式会社製、品番「ASF−4001B」)である。
単一材料型の溶射材料の場合と同様に、ベース微粒子(第1微粒子)の平均粒径は、例えば1μmよりも大きく、好ましくは2μm以上であり、より好ましくは2.5μm以上である。ベース微粒子の平均粒径は、溶射用粒子の粒径よりも小さい。補助微粒子(第2微粒子)の平均粒径は、好ましくは、25nm以上10μm以下である。典型的には、補助微粒子の平均粒径は、ベース微粒子の平均粒径よりも小さい、すなわち、ベース微粒子の平均粒径は、補助微粒子の平均粒径よりも大きい。溶射時における成膜速度を大きくするには、ベース微粒子の平均粒径は、補助微粒子の平均粒径の10倍以上であることが好ましく、15倍以上であることがより好ましい。
ベース材料であるジルコニア(ZrO2)は、例えば、CaO、MgO、Y2O3等を固溶させた安定化ジルコニア、または、部分安定化ジルコニア(PSZ)であり、好ましくは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)である。ベース材料としては、単一材料型の溶射材料における微粒子と同様に、様々なセラミックスまたは金属が利用可能である。ベース材料として、複数種類のセラミックスまたは複数種類の金属が混合されてもよい。一例では、ZrO2およびAl2O3の組合せにより、ジルコニア強化アルミナまたはアルミナ強化ジルコニアの靱性に優れた被膜が形成可能となる。さらに、ベース材料として、セラミックスと金属とが混合されてもよい。
補助材料としては、SiO2、B2O3、Bi2O3、Al2O3、ZnO、PbO、BaO、CaO、MgO、SrO、Li2O、Na2O、K2O、V2O5等から選択された一種または複数種を含むガラスが利用可能である。また、補助材料として金属等が利用されてもよい。金属の場合の補助材料としては、Mn、Zn、Mg、Al、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、Mo、W等から選択された一種または複数種が利用可能である。補助材料は、MCrAlY(M:Co、Co−Ni、Ni−Co、Ni、Fe)等の合金であってもよい。
製造例にて使用された液状の熱硬化性樹脂は、アクリル系の樹脂(JSR株式会社製、品番「KC1280」)である。単一材料型の溶射材料の製造と同様に、液状の樹脂は、有機物を主体とするものであれば様々なものが採用されてよく、他の硬化性樹脂でもよい。
ベース微粒子、補助微粒子および熱硬化性樹脂が準備されると、単一材料型の溶射材料の製造と同様に、これらの混合が行われる(図2:ステップS11)。製造例では、まず、補助微粒子および液状の樹脂が混合され、補助微粒子を均一に分散させたペースト状の混合物が得られる。そして、ベース微粒子が、複数回に分けて混合物に追加される。混合物におけるベース微粒子の最終的な体積比率は、63.0vol%であり、補助微粒子の最終的な体積比率は、7.0vol%である。すなわち、ベース微粒子と補助微粒子の体積比は、90:10である。また、ベース微粒子および補助微粒子を含む微粒子全体の体積比率は、70vol%である。これにより、混合物は、液状の樹脂中において微粒子がある程度密に充填された状態、換言すると、微粒子が均一に分散した状態となる。
単一材料型の溶射材料の製造と同様に、混合物において、ベース微粒子および補助微粒子を含む微粒子の体積比率は、52vol%以上であることが好ましく、60vol%以上であることがより好ましい。また、ベース微粒子間の隙間に補助微粒子を充填するという観点では、混合物におけるベース微粒子の体積比率は補助微粒子の体積比率よりも大きい、すなわち、補助微粒子の体積比率はベース微粒子の体積比率よりも小さいことが好ましい。
続いて、混合物が加熱されることにより、微粒子の分散状態を保ったまま、当該混合物が硬化し、硬化物が得られる(ステップS12)。製造例では、補助材料の軟化温度(472℃)よりも低い温度で混合物が加熱される。その後、硬化物が、振動式のミルを用いて粉砕される(ステップS13)。粉砕後の硬化物は、篩を用いて分画される。これにより、ベース微粒子および補助微粒子よりも粒径が大きい粒子(すなわち、溶射用粒子)である溶射材料が得られる。当該溶射材料は、ベース材料により形成されるベース微粒子、および、補助材料により形成される補助微粒子を微粒子として含むため、以下、当該溶射材料を「複合材料型の溶射材料」という。製造例では、粉砕後の硬化物は、45μm以上106μm以下の粒度範囲で分画される。溶射用粒子の粒度範囲は、溶射装置1にて利用可能であれば様々に変更されてよい。
図8Aおよび図8Bは、製造例の溶射材料を示す図である。図8Aおよび図8Bの溶射材料では、平均粒径が26.4μmのベース微粒子と、平均粒径が0.6μmの補助微粒子とを含む微粒子が、微粒子間に存在する樹脂により互いに結合されて溶射用粒子が形成されている。溶射用粒子は、各微粒子(ベース微粒子または補助微粒子)よりも粒径が大きい樹脂の粒子であると捉えることもでき、この場合、微粒子は、当該樹脂の粒子の内部に分散して存在しているといえる。溶射用粒子における微粒子の体積比率(平均的な体積比率)は、上記混合物における体積比率とほぼ同じである。
上記製造例の溶射材料を用いて溶射装置1により基材9上に溶射を行うと、ベース微粒子が溶融結合することにより、ベース材料を主成分とする被膜が形成される。このとき、平均粒径が大きく、基材9に衝突する際の運動エネルギーが高いベース微粒子により、被膜において密な部分が形成される。また、ベース微粒子の融点よりも、軟化温度が十分に低い補助微粒子は、プラズマフレア8により容易に溶融状態となり、溶融した補助材料により、ベース材料(密な部分)間の隙間が充填される。これにより、緻密な被膜が得られる。被膜が形成された基材9(溶射製品)は、例えば、焼却炉の炉壁等に利用される部材であり、この場合における被膜は、例えば防食コートである。
次に、複合材料型の溶射材料の他の製造例について述べる。当該他の製造例では、平均粒径が0.9μmであり、SiO2・Al2O3・RO(R:Mg、Ca、Sr、Ba)を主成分とするガラスフリット(岡本硝子株式会社製、品番「CAS9」)が、補助微粒子として用いられる。ベース微粒子および液状の樹脂は、上記製造例と同じである。
図2のステップS11では、上記製造例と同様に、補助微粒子および液状の樹脂が混合され、その後、ベース微粒子が、複数回に分けて混合物に追加される。混合物におけるベース微粒子の最終的な体積比率は、63.0vol%であり、補助微粒子の最終的な体積比率は、7.0vol%である。すなわち、ベース微粒子と補助微粒子の体積比は、90:10である。また、ベース微粒子および補助微粒子を含む微粒子全体の体積比率は、70vol%である。これにより、混合物は、液状の樹脂中において微粒子がある程度密に充填された状態、換言すると、微粒子が均一に分散した状態となる。混合物の硬化および硬化物の粉砕(ステップS12,S13)は、上記製造例と同様である。なお、本補助材料の軟化温度は、855℃であり、硬化時における混合物の加熱温度よりも十分に高い。
図9Aおよび図9Bは、他の製造例の溶射材料を示す図である。図9Aおよび図9Bの溶射材料では、平均粒径が26.4μmのベース微粒子と、平均粒径が0.9μmの補助微粒子とを含む微粒子が、微粒子間に存在する樹脂により互いに結合されて溶射用粒子が形成されている。本溶射材料を用いて基材9上に溶射を行う場合も、ベース材料を主成分とする被膜が形成されるとともに、ベース材料間の隙間が、溶融した補助材料により充填される。これにより、緻密な被膜が得られる。
次に、複合材料型の溶射材料のさらに他の製造例について述べる。ここでは、平均粒径が3.6μmの安定化ジルコニア微粒子(第一希元素化学工業株式会社製、品番「UZY−8H」)が、ベース微粒子として用いられる。補助微粒子および液状の樹脂は、図9Aおよび図9Bの製造例と同じである。
図2のステップS11では、上記製造例と同様に、補助微粒子および液状の樹脂が混合され、その後、ベース微粒子が、複数回に分けて混合物に追加される。混合物におけるベース微粒子の最終的な体積比率は、54.0vol%であり、補助微粒子の最終的な体積比率は、6.0vol%である。すなわち、ベース微粒子と補助微粒子の体積比は、90:10である。また、ベース微粒子および補助微粒子を含む微粒子全体の体積比率は、60vol%である。これにより、混合物は、液状の樹脂中において微粒子がある程度密に充填された状態となる。混合物の硬化および硬化物の粉砕(ステップS12,S13)は、上記製造例と同様である。
図10Aおよび図10Bは、本製造例の溶射材料を示す図である。図10Aおよび図10Bの溶射材料では、平均粒径が3.6μmのベース微粒子と、平均粒径が0.9μmの補助微粒子とを含む微粒子が、微粒子間に存在する樹脂により互いに結合されて溶射用粒子が形成されている。本溶射材料を用いて基材9上に溶射を行う場合も、ベース材料を主成分とする被膜が形成されるとともに、ベース材料間の隙間が、溶融した補助材料により充填される。これにより、緻密な被膜が得られる。なお、図10Aおよび図10Bの溶射材料を用いて基材9上に形成された被膜については後述する。
ところで、通常の溶射で扱われる原材料の粉末は、粒径10〜100μm程度と粗大であり、形成された被膜には気孔や亀裂等の欠陥が必然的に生じる。したがって、被膜の機械的特性の低下や、被膜による外部環境の遮断が不完全なことによる基材の防食性の低下等が問題となる。通常行われる対策は、溶射による被膜の形成後にさらなる処理を施すものであり、例えば被膜へのMn等の金属融体の浸透・焼結処理による緻密化や、封孔処理が挙げられる。封孔処理については、溶射被膜が高温下で使用される場合には有機系封孔剤では耐用できないため、ガラス系成分を含む液状の封孔剤を塗布・浸透させた後、溶剤を蒸発させてガラス系成分を固化させる手法が一般的である。しかしながら、これらの緻密化の手法は溶射施工後にさらなる処理工程が必要となり、焼結処理を行う場合には専用の加熱設備も必要となる。
これに対し、複合材料型の溶射材料の製造では、利用される微粒子が、ベース材料により形成されるベース微粒子と、溶射被膜を緻密化するための補助材料により形成される補助微粒子とを含む。すなわち、溶射被膜のベースとなる粒子に加えて、金属粒子やガラス質粒子をも分散させた溶射材料が製造される。そして、当該溶射材料を溶射することにより、溶射被膜の欠陥部分に金属成分やガラス成分が充填された緻密な被膜が形成され、溶射施工工程のみで被膜の緻密化を達成することができる。
溶射材料におけるベース微粒子と補助微粒子の体積比は、単一材料の場合に形成される被膜の気孔率を参考にして決定することが好ましい。通常の原材料を用いる場合、溶射被膜の気孔率は、数%〜十数%である。遮熱コーティングのトップコートとなるYSZ被膜では、最大40%程度の気孔率もあり得る。したがって、複合材料型の溶射材料を用いて緻密な被膜を形成する場合には、被膜のベース成分(YSZ粒子等のベース微粒子)と、被膜の欠陥部を充填する成分(ガラス粒子や金属粒子である補助微粒子)の体積比は、例えば(60±10):(40±10)、(80±10):(20±10)、(95±5):(5±5)等となる。
また、ベース微粒子および補助微粒子のサイズは任意に選択可能である。ベース微粒子の平均粒径と補助微粒子の平均粒径の組合せを、例えば10〜100μmと1〜10μm、10〜100μmと25〜1000nm、1〜10μmと25〜1000nmとして、両者に粒径差を設ける場合には、被膜においてベース材料の隙間を補助材料が埋める組織となりやすい。したがって、緻密な被膜を形成する場合、ベース微粒子の平均粒径は、補助微粒子の平均粒径よりも大きいことが好ましい。この場合、単一材料型の溶射材料と同様に、混合物における微粒子の体積比率を容易に大きくすることもでき、溶射時における成膜速度を向上することができる。
複合材料型の溶射材料では、補助材料がガラスであることにより、緻密な被膜をより確実に形成することが可能となるが、既述のように、補助材料は、金属であってもよい。この場合に、当該補助材料の融点がベース材料の融点よりも低いことにより、溶射の際に、ベース材料間の隙間が、溶融した補助材料により充填されやすくなる。その結果、緻密な被膜をより確実に形成することができる。
上記単一材料型の溶射材料、および、複合材料型の溶射材料は、プラズマ溶射以外の溶射に用いられてもよい。図11は、溶射装置の他の例を示す図である。図11の溶射装置1aは、基材9上にガスフレーム溶射を行う装置である。溶射装置1aは、溶射ガン16と、燃料ガス供給部17と、圧縮空気供給部18と、材料搬送部15とを備える。溶射ガン16は、材料搬送路25と、燃料ガス流路26と、圧縮空気流路27とを備える。材料搬送路25は、所定の中心軸J1に沿って延びる。燃料ガス流路26は、中心軸J1に沿って延びる筒状の流路であり、材料搬送路25の周囲を囲む。圧縮空気流路27は、中心軸J1に沿って延びる筒状の流路であり、燃料ガス流路26の周囲を囲む。
燃料ガス供給部17は、燃料ガスを燃料ガス流路26に供給する。燃料ガスは、例えば酸素およびアセチレンの混合ガスである。燃料ガスは、プロパン等の他のガスであってもよい。燃料ガス流路26の先端から噴出される燃料ガスにより、燃焼フレーム8aが発生する。材料搬送部15は、図1の溶射装置1と同様の構造であり、搬送ガス供給部14(図1参照)からの搬送ガスを利用して溶射材料を燃焼フレーム8a内へと供給する。溶射装置1aでは、溶射材料が、燃焼フレーム8aの中心に向かって、燃焼フレーム8aの噴射方向と同じ方向に導入される。燃焼フレーム8aにより溶射材料の樹脂が焼失し、微粒子が溶融状態または半溶融状態となる。圧縮空気供給部18は、圧縮空気を圧縮空気流路27に供給する。圧縮空気流路27の先端から噴出される圧縮空気により、溶融状態または半溶融状態の微粒子が基材9に向かって流れる。その結果、基材9上に微粒子が堆積し、被膜が形成される。以上のように、図11の溶射装置1aにおいても、単一材料型の溶射材料、および、複合材料型の溶射材料を用いて、基材9上に適切な被膜を形成することが可能である。
図12Aおよび図12Bは、図10Aおよび図10Bの溶射材料を用いて溶射装置1aにより基材9上に形成された被膜の断面を拡大して示す図である。図12Aおよび図12Bでは、緻密な被膜が得られていることが判る。図13は、被膜の断面における成分分析結果を示す図である。図13中の右上の画像は、ベース材料に含まれるZrの分布を示し、図13中の左下の画像は、補助材料に含まれるAlの分布を示し、図13中の右下の画像は、補助材料に含まれるSiの分布を示す。これらの画像では、Zrが少ない領域(黒い領域)が、AlおよびSiが多い領域(白い領域)となっており、ベース材料間の隙間が、補助材料により充填されていることが判る。
上述の溶射材料の製造および溶射装置1,1aでは、様々な変更が可能である。
単一材料型の溶射材料として説明した溶射材料において、第1および第2微粒子が、複数種類の材料により形成されてもよい。また、第1微粒子の材料と第2微粒子の材料とが相違してもよい。複合材料型の溶射材料では、ベース微粒子の平均粒径が、補助微粒子の平均粒径以下であってもよい。
溶射装置1,1aでは、互いに異なる溶射材料を貯溜する複数の材料貯溜部13を設け、溶射ガン11,16に供給する溶射材料を順次変更することにより、2種類以上の被膜が積層されてもよい。もちろん、2種類以上の被膜を繰り返し積層してもよい。
上記実施の形態における溶射は、基材上に被膜が形成された様々な溶射製品の製造に利用することができる。さらには、被膜部分のみを製品として利用することも可能である。粗密構造を形成する場合、溶射は、触媒の担体、各種電池電極、フィルタ、遮熱コーティング、断熱カバー等の製造に利用することができる。緻密な構造を形成する場合、溶射は、例えば、防食コーティング、機械加工部品(カッター等)、耐熱部品(るつぼやボイラ管等)の製造に利用することができる。
溶射装置は、レーザ溶射を行う装置であってもよい。上述の製造方法にて製造された溶射材料は、プラズマ溶射、フレーム溶射またはレーザ溶射に用いることが可能である。いずれの溶射方法であっても、既存の装置をほとんど変更することなく、または、全く変更することなく、溶射被膜を形成することができる。
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。