(アルカリ形燃料電池10の構成)
以下、水酸化物イオンをキャリアとする電気化学セルの一例として、アルカリ形燃料電池(AFC:Alkaline Fuel Cell)10の構成について図面を参照しながら説明する。図1は、実施形態に係るアルカリ形燃料電池10の構成を示す断面図である。
アルカリ形燃料電池10は、カソード12、アノード14、及び電解質16を備える。アルカリ形燃料電池10は、下記の電気化学反応式に基づいて、比較的低温(例えば、50℃〜250℃)で発電する。ただし、下記の電気化学反応式では、燃料の一例としてメタノールが用いられている。
・カソード12: 3/2O2+3H2O+6e−→6OH−
・アノード14: CH3OH+6OH−→6e−+CO2+5H2O
・全体 : CH3OH+3/2O2→CO2+2H2O
(カソード12)
カソード12は、一般的に空気極と呼ばれる陽極である。カソード12は、本発明に係る「電極」の一例である。カソード12は、電解質16に接合される。カソード12及び電解質16は、電解質/電極接合体を構成する。
カソード12には、アルカリ形燃料電池10の発電中、酸化剤供給手段13を介して、酸素(O2)を含む酸化剤が供給される。酸化剤としては、空気を用いるのが好ましく、空気は加湿されていることがより好ましい。カソード12は、内部に酸化剤を拡散可能な多孔質体である。カソード12の気孔率は特に制限されない。
図2は、カソード12の表面を拡大した平面図である。
カソード12は、電子伝導性を有する複数のカソード触媒粒子21(「触媒粒子」の一例)と、少なくとも1つのカソード触媒粒子21をそれぞれ担持する複数のカソード担体粒子22(「担体粒子」の一例)と、3以上の層状複水酸化物粒子(以下、「LDH粒子」という。)23が連結することによって構成される複数の層状複水酸化物粒子連結体(以下、「LDH粒子連結体」という。)24とを含む。カソード触媒粒子21、カソード担体粒子22及びLDH粒子連結体24によって、カソード12の内部において水酸化物イオンを伝導するネットワーク構造(以下、「水酸化物イオン伝導ネットワーク構造」という。)が形成される。
カソード触媒粒子21は、カソード担体粒子22に担持される。カソード触媒粒子21は、AFCに使用される公知のカソード触媒粒子であればよく、特に限定されない。カソード触媒粒子21としては、例えば、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の第8〜10族元素(IUPAC形式での周期表において第8〜10族に属する元素)、Cu、Ag、Au等の第11族元素(IUPAC形式での周期表において第11族に属する元素)、ロジウムフタロシアニン、テトラフェニルポルフィリン、Coサレン、Niサレン(サレン=N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、銀硝酸塩、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
カソード担体粒子22は、導電性を有する材料であればよく特に限定されないが、電子伝導のネットワークをより高めることで電極性能は向上するため、電子伝導性の高い材料であることがより好ましく、特にカーボン材料が好ましい。また、電子を介した電極での電気化学反応はカソード触媒粒子21の表面で起こるため、カソード担体粒子22としてカーボン材料を用い、カソード触媒粒子21と一体化した形態で用いることが特に好ましい。
カーボン材料は、多孔質構造を有していてもよいし、多孔質構造を有していなくてもよい。多孔質構造を有するカーボン材料としては、メソポーラスカーボンなどが挙げられる。多孔質構造を有さないカーボン材料としては、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバーなどが挙げられる。なお、カソード12におけるカソード触媒粒子22の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.05〜10mg/cm2、より好ましくは、0.05〜5mg/cm2である。
LDH粒子連結体24は、3以上のLDH粒子23が連結することによって構成される。LDH粒子連結体24は、水酸化物イオンを伝導する長距離パスとして機能するとともに、水酸化物イオン伝導ネットワーク構造の骨格としても機能する。これによって、水酸化物イオン伝導ネットワーク構造の強度を向上させることができるため、アルカリ形燃料電池10の作動及び停止に伴ってカソード12が昇降温した場合に、カソード触媒粒子21、カソード担体粒子22及びLDH粒子23それぞれが膨張収縮しても、カソード触媒粒子21とLDH粒子23との接続がはずれてしまうことを抑制できる。その結果、カソード12における水酸化物イオン伝導ネットワーク構造を長期間にわたって維持することができる。
本実施形態において、「LDH粒子連結体24が3以上のLDH粒子23が連結することによって構成される」とは、複数のLDH粒子連結体24それぞれを構成する複数のLDH粒子23の平均個数(以下、「LDH粒子23の平均個数」という。)が3以上であることを意味する。LDH粒子連結体24を構成するLDH粒子23の平均個数は、次の通り測定される。まず、カソード12の表面を極低加速フィールドエミッション走査型電子顕微鏡(ZEISS社製、型式ULTRA55)で50,000−300,000倍に拡大した画像を任意の10視野で取得する。次に、各視野の画像からLDH粒子連結体24を10個ずつ無作為に選択することによって、合計100個のLDH粒子連結体24を特定する。次に、100個のLDH粒子連結体24に含まれるLDH粒子23の総個数を数える。そして、LDH粒子23の総個数を100で割った値が、LDH粒子連結体24を構成するLDH粒子23の平均個数である。
なお、LDH粒子連結体24を構成するLDH粒子23の平均個数が3以上である限り、カソード12は、単独で存在するLDH粒子23を含んでいてもよいし、2つのLDH粒子23の連結体をふくんでいてもよい。
LDH粒子連結体24を構成する3以上のLDH粒子23は、互いに一部が接触していればよい。1つのLDH粒子23は、他の1つのLDH粒子23と接触していてもよいし、他の2以上のLDH粒子23と接触していてもよい。LDH粒子連結体24を構成する3以上のLDH粒子23どうしの配置は特に制限されず、LDH粒子連結体24の全体形状はLDH粒子連結体24ごとに異なっていてもよい。
LDH粒子連結体24は、カソード触媒粒子21と接触していることが好ましい。これにより、触媒反応で生成される水酸化物イオンをLDH粒子連結体24で収集して効率的に伝導させることができる。
LDH粒子連結体24は、2以上のカソード触媒粒子21と接触していることが好ましい。このように、LDH粒子連結体24と触媒粒子21との接点を複数設けておくことによって、イオン伝導ネットワーク構造が断絶してしまうことを抑制できる。従って、カソード12における水酸化物イオン伝導ネットワーク構造をより長期間にわたって維持することができる。
LDH粒子連結体24は、カソード担体粒子22を支持していることが好ましい。カソード担体粒子22を支持するとは、LDH粒子連結体24の少なくとも一部がカソード担体粒子22と直接的に接触していることをいう。カソード担体粒子22がLDH粒子連結体24によって支持されることによって、水酸化物イオン伝導ネットワーク構造の強度をより向上させることができる。
LDH粒子連結体24を構成する3以上のLDH粒子23の平均アスペクト比は、3以上であることが好ましい。これによって、1つのLDH粒子連結体24の全体サイズを大きくすることができるため、1つのLDH粒子連結体24と接触するカソード触媒粒子21及びカソード担体粒子22の数を多くすることができる。その結果、LDH粒子連結体24の長距離パスとしての機能を向上させることができる。LDH粒子連結体24を構成する3以上のLDH粒子23の平均アスペクト比は、5以上がより好ましく、10以上が特に好ましい。
LDH粒子連結体24を構成する3以上のLDH粒子23の平均アスペクト比は、上述したLDH粒子連結体24を構成するLDH粒子23の平均個数を測定するために特定した100個のLDH粒子連結体24に含まれる各LDH粒子23のアスペクト比を算術平均することによって算出される。LDH粒子23のアスペクト比は、LDH粒子23の最大フェレー径を最小フェレー径で割ることによって算出される。LDH粒子23の最大フェレー径及び最小フェレー径は、カソード12の表面を極低加速フィールドエミッション走査型電子顕微鏡(ZEISS社製、型式ULTRA55)で50,000−300,000倍に拡大した画像において測定される。最大フェレー径とは、LDH粒子23を挟む2本の平行接線間の最大距離であり、最小フェレー径とは、LDH粒子23を挟む2本の平行接線間の最小距離である。
カソード触媒粒子21の平均粒径に対するLDH粒子23の平均粒径の比は、50以下であることが好ましい。このように、カソード触媒粒子21に対するLDH粒子23の平均粒径の比を十分小さくすることによって、1つのLDH粒子23と接触するカソード触媒粒子21の数を多くすることができるため、1つのLDH粒子23によってカソード触媒粒子21同士を繋ぐ伝導パスを形成できる。その結果、カソード12の反応抵抗を低減させることによってカソード特性を向上させることができる。この観点から、カソード触媒粒子21に対するLDH粒子23の粒径比は、40以下がより好ましく、30以下が特に好ましい。
また、カソード触媒粒子21に対するLDH粒子23の平均粒径の比は、5以上であることが好ましい。このように、カソード触媒粒子21に対するLDH粒子23の平均粒径の比が小さくなりすぎることを抑えることによって、LDH粒子23がカソード触媒粒子21に接触しないことを抑制できる。その結果、カソード12の反応抵抗をより低減させることによってカソード特性をより向上させることができる。この観点から、カソード触媒粒子21に対するLDH粒子23の平均粒径の比は、7以上がより好ましく、10以上が特に好ましい。
カソード触媒粒子21の平均粒径は、カソード12の表面を透過電子顕微鏡装置(日立ハイテクノロジーズ社製、型式HT7830)で400,000倍に拡大した画像において、任意に選択した10個のカソード触媒粒子21それぞれの円相当径の算術平均値である。カソード触媒粒子21の円相当径とは、観察画像上において、1つのカソード触媒粒子21と同じ面積を有する円の直径である。カソード触媒粒子21の平均粒径は特に制限されないが、触媒活性と耐久性を両立するという観点から2.0nm以上10nm以下であることが好ましい。カソード触媒粒子21の平均粒径は、触媒活性と耐久性を両立するという観点から、1.0nm以上15nm以下がより好ましく、1.5nm以上10nm以下が特に好ましい。
LDH粒子23の平均粒径は、上述したLDH粒子連結体24を構成するLDH粒子23の平均個数を測定するために特定した100個のLDH粒子連結体24に含まれる各LDH粒子23の最大フェレー径の算術平均値である。LDH粒子23の最大フェレー径とは、観察画像上において、LDH粒子23を挟む2本の平行接線間の最大距離である。LDH粒子23の平均粒径は特に制限されないが、カソード触媒粒子21との接触性と水酸化物イオン伝導ネットワーク構造の強度の向上という観点から10nm以上200nm以下であることが好ましい。
また、カソード担体粒子22の平均粒径に対するLDH粒子23の平均粒径の比は、4以下であることが好ましい。このように、カソード担体粒子22に対するLDH粒子23の平均粒径の比を十分小さくすることによって、1つのLDH粒子23と接触するカソード担体粒子22の数を多くすることができるため、1つのLDH粒子23によってカソード担体粒子22同士を繋ぐ伝導パスを形成できる。その結果、カソード12の反応抵抗を低減させることによってカソード特性を向上させることができる。この観点から、カソード担体粒子22に対するLDH粒子23の平均粒径の比は、3.5以下がより好ましく、3以下が特に好ましい。
また、カソード担体粒子22に対するLDH粒子23の平均粒径の比は、0.15以上であることが好ましい。このように、カソード担体粒子22に対するLDH粒子23の平均粒径の比が小さくなりすぎることを抑制することによって、LDH粒子23がカソード担体粒子22と接触しないことを抑制できる。その結果、カソード12の反応抵抗をより低減させることによってカソード特性をより向上させることができる。この観点から、カソード担体粒子22に対するLDH粒子23の平均粒径の比は、0.2以上がより好ましく、0.3以上が特に好ましい。
カソード担体粒子22の平均粒径は、カソード12の表面を透過電子顕微鏡装置(日立ハイテクノロジーズ社製、型式HT7830)で400,000倍に拡大した画像において任意に選択した10個のカソード担体粒子22それぞれの円相当径を算術平均した値である。カソード担体粒子22の円相当径とは、観察画像上において、1個のカソード担体粒子22と同じ面積を有する円の直径である。カソード担体粒子22の平均粒径は特に制限されないが、触媒活性と耐久性を両立するという観点から30以上100nm以下であることが好ましい。
また、カソード触媒粒子21及びカソード担体粒子22の合計面積に対するLDH粒子23の合計面積の比は、0.2以上2.0以下であることが好ましい。これによって、電子伝導性と水酸化物イオン伝導性を両立することができる。
カソード触媒粒子21、カソード担体粒子22及びLDH粒子23それぞれの面積は、カソード12の表面を透過電子顕微鏡装置(日立ハイテクノロジーズ社製、型式HT7830)で400,000倍に拡大した画像において観察される各粒子の全平面積を足した値である。
LDH粒子23を構成する層状複水酸化物((LDH:Layered Double Hydroxide)は、M2+ 1−xM3+ x(OH)2An−x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4、mは水のモル数を意味する任意の整数である)の一般式で示される基本組成を有する。M2+の例としてはMg2+、Ca2+、Sr2+、Ni2+、Co2+、Fe2+、Mn2+、及びZn2+が挙げられ、M3+の例としては、Al3+、Fe3+、Ti3+、Y3+、Ce3+、Mo3+、及びCr3+が挙げられ、An−の例としてはCO3 2−及びOH−が挙げられる。M2+及びM3+としては、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。中間層は、陰イオン及びH2Oで構成される。水酸化物基本層は、例えば金属MがNi、Al、Tiの場合には、Ni、Al、Ti及びOH基を含む。以下、LDHの水酸化物基本層がNi、Al、Ti及びOH基を含む場合について説明する。
LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi2+であると考えられるが、Ni3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi4+であると考えられるが、Ti3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましいが、他の元素ないしイオンを含んでいてもよいし、不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物は、製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。
LDHの中間層は、陰イオン及びH2Oで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH−及び/又はCO3 2−を含む。
上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi2+、Al3+、Ti4+及びOH基で構成されるものと想定した場合、LDHは、一般式:Ni2+ 1−x−yAl3+ xTi4+ y(OH)2An− (x+2y)/n・mH2O(式中、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni2+、Al3+、Ti4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
(アノード14)
アノード14は、一般的に燃料極と呼ばれる陰極である。アノード14は、本発明に係る「電極」の一例である。アノード14は、電解質16に接合される。アノード14及び電解質16は、電解質/電極接合体を構成する。
アノード14には、アルカリ形燃料電池10の発電中、燃料供給手段15を介して、水素原子(H)を含む燃料が供給される。アノード14は、内部に燃料を拡散可能な多孔質体である。アノード14の気孔率は特に制限されない。
水素原子を含む燃料は、アノード14において水酸化物イオン(OH−)と反応可能な燃料化合物を含んでいればよく、液体燃料及び気体燃料のいずれの形態であってもよい。
燃料化合物としては、例えば、(i)ヒドラジン(NH2NH2)、水加ヒドラジン(NH2NH2・H2O)、炭酸ヒドラジン((NH2NH2)2CO2)、硫酸ヒドラジン(NH2NH2・H2SO4)、モノメチルヒドラジン(CH3NHNH2)、ジメチルヒドラジン((CH3)2NNH2、CH3NHNHCH3)、及びカルボンヒドラジド((NHNH2)2CO)等のヒドラジン類、(ii)尿素(NH2CONH2)、(iii)アンモニア(NH3)、(iv)イミダゾール、1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール等の複素環類化合物、(v)ヒドロキシルアミン(NH2OH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NH2OH・H2SO4)等のヒドロキシルアミン類、及びこれらの組合せが挙げられる。これらの燃料化合物のうち炭素を含まない化合物(すなわち、ヒドラジン、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、アンモニア、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン等)は、一酸化炭素による触媒被毒の問題が無いため特に好適である。
燃料化合物は、そのまま燃料として用いてもよいが、水及び/又はアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール等)に溶解させた溶液として用いてもよい。例えば、上記燃料化合物のうち、ヒドラジン、水化ヒドラジン、モノメチルヒドラジン及びジメチルヒドラジンは液体であるので、そのまま液体燃料として使用可能である。また、炭酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、カルボンヒドラジド、尿素、イミダゾール、及び3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、及び硫酸ヒドロキシルアミンは固体であるが水に可溶である。1,3,5−トリアジン及びヒドロキシルアミンは固体であるがアルコールに可溶である。アンモニアは気体であるが水に可溶である。このように、固体の燃料化合物は、水又はアルコールに溶解させて液体燃料として使用可能である。燃料化合物を水及び/又はアルコールに溶解させて用いる場合、溶液中の燃料化合物の濃度は、例えば30〜99.9重量%であり、好ましくは66〜99.9重量%である。
また、メタノール、エタノール等のアルコール類やエーテル類を含む炭化水素系液体燃料、メタン等の炭化水素系ガス、或いは純水素などは、そのまま燃料として用いることができる。特に、本実施形態に係るアルカリ形燃料電池10に用いられる燃料としては、メタノールが好適である。メタノールは、気体状態、液体状態、及び、気液混合状態のいずれであってもよい。
図3は、アノード14の表面を拡大した平面図である。
アノード14は、電子伝導性を有するアノード触媒粒子41(「触媒粒子」の一例)と、少なくとも1つのアノード触媒粒子41をそれぞれ担持する複数のアノード担体粒子42(「担体粒子」の一例)と、3以上のLDH粒子43が連結することによって構成される複数のLDH粒子連結体44とを含む。アノード触媒粒子41、アノード担体粒子42及びLDH粒子連結体44によって、アノード14の内部における水酸化物イオン伝導ネットワーク構造が形成される。
アノード触媒粒子41は、アノード担体粒子42に担持される。アノード触媒粒子41は、AFCに使用される公知のアノード触媒粒子であればよく、特に限定されない。例えば、アノード触媒粒子41としては、Pt、Ni、Co、Ag、Fe、Ru、Sn、Pd、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
アノード担体粒子42は、導電性を有する材料であればよく特に限定されないが、電子伝導のネットワークをより高めることで電極性能は向上するため、電子伝導性の高い材料であることがより好ましく、特にカーボン材料が好ましい。また、電子を介した電極での電気化学反応はアノード触媒粒子41の表面で起こるため、アノード触媒粒子41を担持するアノード担体粒子42としてカーボン材料を用い、アノード触媒粒子41と一体化した形態で用いることが特に好ましい。
カーボン材料は、多孔質構造を有していてもよいし、多孔質構造を有していなくてもよい。アノード14におけるアノード触媒粒子42の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.05〜10mg/cm2であり、より好ましくは0.05〜5mg/cm2である。
LDH粒子連結体44は、3以上のLDH粒子43が連結することによって構成される。LDH粒子連結体44は、水酸化物イオンを伝導する長距離パスとして機能するとともに、水酸化物イオン伝導ネットワーク構造の骨格としても機能する。これによって、水酸化物イオン伝導ネットワーク構造の強度を向上させることができるため、アルカリ形燃料電池10の作動及び停止に伴ってアノード14が昇降温した場合に、アノード触媒粒子41、アノード担体粒子42及びLDH粒子43それぞれが膨張収縮しても、アノード触媒粒子41とLDH粒子43との接続がはずれてしまうことを抑制できる。その結果、アノード14における水酸化物イオン伝導ネットワーク構造を長期間にわたって維持することができる。
本実施形態において、「LDH粒子連結体44が3以上のLDH粒子43が連結することによって構成される」とは、複数のLDH粒子連結体44それぞれを構成する複数のLDH粒子43の平均個数(以下、「LDH粒子連結体44を構成するLDH粒子43の平均個数」という。)が3以上であることを意味する。LDH粒子連結体44を構成するLDH粒子43の平均個数は、次の通り測定される。まず、アノード14の表面を極低加速フィールドエミッション走査型電子顕微鏡(ZEISS社製、型式ULTRA55)で50,000−300,000倍に拡大した画像を任意の10視野で取得する。次に、各視野の画像からLDH粒子連結体44を10個ずつ無作為に選択することによって、合計100個のLDH粒子連結体44を特定する。次に、100個のLDH粒子連結体44に含まれるLDH粒子43の総個数を数える。そして、LDH粒子43の総個数を100で割った値が、LDH粒子連結体44を構成するLDH粒子43の平均個数である。
なお、LDH粒子連結体44を構成するLDH粒子43の平均個数が3以上である限り、アノード14は、単独で存在するLDH粒子43を含んでいてもよいし、2つのLDH粒子43の連結体をふくんでいてもよい。
LDH粒子連結体44を構成する3以上のLDH粒子43は、互いに一部が接触していればよい。1つのLDH粒子43は、他の1つのLDH粒子43と接触していてもよいし、他の2以上のLDH粒子43と接触していてもよい。LDH粒子連結体44を構成する3以上のLDH粒子43どうしの配置は特に制限されず、LDH粒子連結体44の全体形状はLDH粒子連結体44ごとに異なっていてもよい。
LDH粒子連結体44は、アノード触媒粒子41と接触していることが好ましい。これにより、電解質16から供給される水酸化物イオンをLDH粒子連結体44からアノード触媒粒子41に効率的に伝導させることができる。
LDH粒子連結体44は、2以上のアノード触媒粒子41と接触していることが好ましい。このように、LDH粒子連結体44と触媒粒子41との接点を複数設けておくことによって、イオン伝導ネットワーク構造が断絶してしまうことを抑制できる。従って、アノード14における水酸化物イオン伝導ネットワーク構造をより長期間にわたって維持することができる。
LDH粒子連結体44は、アノード担体粒子42を支持していることが好ましい。アノード担体粒子42を支持するとは、LDH粒子連結体44の少なくとも一部がアノード担体粒子42と直接的に接触していることをいう。アノード担体粒子42がLDH粒子連結体44によって支持されることによって、水酸化物イオン伝導ネットワーク構造の強度をより向上させることができる。
LDH粒子連結体44を構成する3以上のLDH粒子43の平均アスペクト比は、3以上であることが好ましい。これによって、1つのLDH粒子連結体44の全体サイズを大きくすることができるため、1つのLDH粒子連結体44と接触するアノード触媒粒子41及びアノード担体粒子42の数を多くすることができる。その結果、LDH粒子連結体44の長距離パスとしての機能を向上させることができる。LDH粒子連結体44を構成する3以上のLDH粒子43の平均アスペクト比は、5以上がより好ましく、10以上が特に好ましい。
LDH粒子連結体44を構成する3以上のLDH粒子43の平均アスペクト比は、上述したLDH粒子連結体44を構成するLDH粒子43の平均個数を測定するために特定した100個のLDH粒子連結体44に含まれる各LDH粒子43のアスペクト比を算術平均することによって算出される。LDH粒子43のアスペクト比は、LDH粒子43の最大フェレー径を最小フェレー径で割ることによって算出される。LDH粒子43の最大フェレー径及び最小フェレー径は、アノード14の表面を極低加速フィールドエミッション走査型電子顕微鏡(ZEISS社製、型式ULTRA55)で50,000−300,000倍に拡大した画像において測定される。最大フェレー径とは、LDH粒子43を挟む2本の平行接線間の最大距離であり、最小フェレー径とは、LDH粒子43を挟む2本の平行接線間の最小距離である。
アノード触媒粒子41の平均粒径に対するLDH粒子43の平均粒径の比は、50以下であることが好ましい。このように、アノード触媒粒子41に対するLDH粒子43の平均粒径の比を十分小さくすることによって、1つのLDH粒子43と接触するアノード触媒粒子41の数を多くすることができるため、1つのLDH粒子43によってアノード触媒粒子41同士を繋ぐ伝導パスを形成できる。その結果、アノード14の反応抵抗を低減させることによってアノード特性を向上させることができる。この観点から、アノード触媒粒子41に対するLDH粒子43の平均粒径の比は、40以下がより好ましく、30以下が特に好ましい。
また、アノード触媒粒子41に対するLDH粒子43の平均粒径の比は、5以上であることが好ましい。このように、アノード触媒粒子41に対するLDH粒子43の平均粒径の比が小さくなりすぎることを抑えることによって、LDH粒子43がアノード触媒粒子41に接触しないことを抑制できる。その結果、アノード14の反応抵抗をより低減させることによってアノード特性をより向上させることができる。この観点から、アノード触媒粒子41に対するLDH粒子43の平均粒径の比は、7以上がより好ましく、10以上が特に好ましい。
アノード触媒粒子41の平均粒径は、アノード14の表面を透過電子顕微鏡装置(日立ハイテクノロジーズ社製、型式HT7830)で400,000倍に拡大した画像において、任意に選択した10個のアノード触媒粒子41それぞれの円相当径の算術平均値である。アノード触媒粒子41の円相当径とは、観察画像上において、1つのアノード触媒粒子41と同じ面積を有する円の直径である。アノード触媒粒子41の平均粒径は特に制限されないが、触媒活性と耐久性を両立するという観点から2.0nm以上10nm以下とすることが好ましい。
LDH粒子43の平均粒径は、上述したLDH粒子連結体44を構成するLDH粒子43の平均個数を測定するために特定した100個のLDH粒子連結体44に含まれる各LDH粒子43の最大フェレー径の算術平均値である。LDH粒子43の最大フェレー径とは、観察画像上において、LDH粒子43を挟む2本の平行接線間の最大距離である。LDH粒子43の平均粒径は特に制限されないが、LDH粒子43の平均粒径は特に制限されないが、アノード触媒粒子41との接触性と水酸化物イオン伝導ネットワーク構造の強度を向上するという観点から10nm以上200nm以下であることが好ましい。
また、アノード担体粒子42の平均粒径に対するLDH粒子43の平均粒径の比は、4以下であることが好ましい。このように、アノード担体粒子42に対するLDH粒子43の平均粒径の比を十分小さくすることによって、1つのLDH粒子43と接触するアノード担体粒子42の数を多くすることができるため、1つのLDH粒子43によってアノード担体粒子42同士を繋ぐ伝導パスを形成できる。その結果、カソード12の反応抵抗を低減させることによってカソード特性を向上させることができる。この観点から、アノード担体粒子42に対するLDH粒子43の平均粒径の比は、3.5以下がより好ましく、3以下が特に好ましい。
また、アノード担体粒子42に対するLDH粒子43の平均粒径の比は、0.15以上であることが好ましい。このように、アノード担体粒子42に対するLDH粒子43の平均粒径の比が小さくなりすぎることを抑制することによって、LDH粒子43がアノード担体粒子42と接触しないことを抑制できる。その結果、カソード12の反応抵抗をより低減させることによってカソード特性をより向上させることができる。この観点から、アノード担体粒子42に対するLDH粒子43の平均粒径の比は、0.2以上がより好ましく、0.3以上が特に好ましい。
アノード担体粒子42の平均粒径は、アノード14の表面を透過電子顕微鏡装置(日立ハイテクノロジーズ社製、型式HT7830)で400,000倍に拡大した画像において任意に選択した10個のアノード担体粒子42それぞれの円相当径を算術平均した値である。アノード担体粒子42の円相当径とは、観察画像上において、1個のアノード担体粒子42と同じ面積を有する円の直径である。アノード担体粒子42の平均粒径は特に制限されないが、触媒活性と耐久性を両立するという観点から30以上100nm以下であることが好ましい。
また、アノード触媒粒子41及びアノード担体粒子42の合計面積に対するLDH粒子43の合計面積の比は、0.2以上2.0以下であることが好ましい。これによって、電子伝導性と水酸化物イオン伝導性を両立することができる。
アノード触媒粒子41、アノード担体粒子42及びLDH粒子43それぞれの面積は、アノード14の表面を透過電子顕微鏡装置(日立ハイテクノロジーズ社製、型式HT7830)で400,000倍に拡大した画像において観察される各粒子の全平面積を足した値である。
(電解質16)
電解質16は、カソード12とアノード14との間に配置される。電解質16は、カソード12及びアノード14のそれぞれに接続される。電解質16は、膜状、層状、或いは、シート状に形成される。
電解質16は、水酸化物イオン伝導性を有する電解質材料を含有する。電解質16は、所望により樹脂バインダなどを含有していてもよい。電解質材料としては、上述したLDHが好適であるが、これに限られず、例えば、SnP2O7、Li5AlO4などを用いることができる。電解質16における電解質材料の含有量は特に制限されないが、例えば25体積%以上90体積%以下とすることができる。
なお、電解質16は、電解質材料が多孔質基材の空隙に充填された構成を有していてもよい。
(アルカリ形燃料電池10の製造方法)
次に、アルカリ形燃料電池10の製造方法の一例について説明する。
まず、金型一軸プレスや冷間等方圧加圧(CIP)などの公知の手法で電解質材料を圧粉成形することによって電解質16を形成する。
次に、以下の第1工程、第2工程、第3工程、及び第4工程を経てカソード12を形成する。
まず、第1工程において、カソード触媒粒子21が担持されたカソード担体粒子22を準備する。
次に、第2工程において、カソード担体粒子22に層状複水酸化物の前駆体を共沈法によって担持させる。詳細には、まず、中間層を構成する陰イオンを含む水溶液を準備し、この水溶液中にカソード触媒粒子21を担持するカソード担体粒子22の粉末を投入する。この水溶液に対して、水酸化物基本層を構成する2価金属イオン及び3価金属イオンを含む金属塩水溶液を滴下し、さらに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は尿素などを滴下する。そして、この混合水溶液をろ過して洗浄することによって、カソード触媒粒子21と層状複水酸化物の前駆体とが担持されたカソード担体粒子22の粉末が得られる。
次に、第3工程において、層状複水酸化物の前駆体に対して水熱合成を行うことによって、カソード担体粒子22に担持された層状複水酸化物の前駆体からLDH粒子23を生成する。
詳細には、第2工程によって得られた、カソード触媒粒子21と層状複水酸化物の前駆体とが担持されたカソード担体粒子22の粉末を尿素水溶液に投入して水熱合成を行う。これによって、3以上のLDH粒子23によって構成されるLDH粒子連結体24が形成される。LDH粒子連結体24を構成するLDH粒子23の数は、尿素水溶液中のカチオン濃度を調整することによって制御可能である。具体的には、尿素水溶液中のカチオン濃度を高めるとLDH粒子連結体24を構成するLDH粒子23の数は多くなり、尿素水溶液中のカチオン濃度を低めるとLDH粒子連結体24を構成するLDH粒子23の数は少なくなる。
また、この水熱合成において、水熱合成の温度と時間を調整することによって、LDH粒子連結体24に接触するカソード触媒粒子21の数を制御することができる。具体的には、水熱合成温度を低くし、合成時間を長くするとLDH粒子連結体24に接触するカソード触媒粒子21の数は多くなり、水熱合成温度を高くし、合成時間短くするとLDH粒子連結体24に接触するカソード触媒粒子21の数は少なくなる。
なお、水熱合成温度は、例えば、20〜200℃とすることができ、好ましくは50℃〜180℃であり、さらに好ましくは100℃〜150℃である。また、水熱合成時間は、1時間以上とすることができ、好ましくは2時間以上、さらに好ましくは5時間以上である。
第4工程では、第3工程によって得られた水熱合成生成物にバインダを混合させる。詳細には、まず、第3工程によって得られた水熱合成生成物をろ過及び洗浄し、窒素雰囲気で乾燥させる。次に、乾燥後の材料を粉砕機などによって解砕することによって得た粉末とバインダ(例えば、PVDFなど)とを混合することによってカソード用スラリーを形成する。
そして、このカソード用スラリーを電解質16の一方の主面に塗布し、熱処理することによってカソード12が形成される。
アノード14は、上述したカソード12と実質的に同様の方法によって調製したアノード用スラリーを電解質16の他方の主面に塗布し、熱処理することによって形成される。
以上により、アルカリ形燃料電池10が完成する。
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
[変形例1]
上記実施形態では、本発明に係る電解質/電極接合体を適用した電気化学セルの一例として、水酸化物イオンをキャリアとするアルカリ形燃料電池について説明したが、本発明に係る電極は、種々の電気化学セルに適用可能である。電気化学セルとは、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための装置、或いは、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるための装置であって、一対の電極と電解質とを備えるものの総称である。電気化学セルとしては、例えば、二次電池(ニッケル亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池など)、水蒸気から水素と酸素を生成する電解セルなどが挙げられる。
[変形例2]
上記実施形態では、本発明に係る電極構成をカソード12及びアノード14それぞれに適用することとしたが、これに限られない。本発明に係る電極構成は、カソード12及びアノード14のうち一方のみに適用されていてもよい。
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例には限定されない。
(アルカリ形燃料電池の作製)
実施例1〜12及び比較例1〜4に係るアルカリ形燃料電池を次の通り作製した。
まず、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)によって構成される多孔質基材を用意した。次に、多孔質基材をアルミナ及びチタニアの混合ゾルに含浸させて熱処理することによって、多孔質基材の内表面にアルミナ・チタニア層を形成した。次に、原料水溶液(ニッケルイオン、尿素を含む水溶液)に多孔質基材を浸漬させ、原料水溶液中で水熱処理(5時間、120℃)した。これにより、多孔質基材の三次元網目構造の隙間にLDHが配置された電解質を形成した。
次に、Pt粒子(触媒粒子)とカーボン粒子(担体粒子)とを含む触媒担持担体としてPt/C(Pt担持量50wt%、田中貴金属工業(株)社製TEC10E50E)を準備した。
次に、純水中にPt/Cを投入した後、硝酸アルミニウム水溶液を滴下し、さらに撹拌しながら水酸化ナトリウム水溶液と炭酸ナトリウム水溶液の混合溶液を滴下した。
次に、この混合水溶液をろ過して洗浄することによって、Pt粒子とLDHの前駆体とが担持されたカーボン粒子を得た。
次に、Pt粒子とLDHの前駆体とが担持されたカーボン粒子を硝酸マグネシウムと尿素を含んだ水溶液に投入して水熱合成(120℃、5時間)を行うことによって、LDH粒子連結体を形成した。この際、尿素水溶液中のカチオン(硝酸マグネシウム)の濃度を調整することによって、表1及び表2に示すように、LDH粒子連結体を構成するLDH粒子の数を制御した。ただし、比較例1では、LDH粒子連結体は形成されず、単体のLDH粒子のみを形成した。また、水熱合成の原料濃度、温度と時間を調整することによって、表1及び表2に示すように、LDH粒子連結体と接触するPt粒子の数を制御した。
次に、水熱合成生成物をろ過及び洗浄した後、窒素雰囲気で乾燥させた。そして、乾燥後の材料を粉砕機によって解砕することによって得た粉末と樹脂バインダとを混合することによってカソード用スラリーを形成した。
次に、カソード用スラリーを電解質の一方の主面に塗布し、熱処理することによってカソードを形成した。
続いて、上述したカソードと実質的に同様の方法によって調製したアノード用スラリーを電解質の他方の主面に塗布し、熱処理することによってアノードを形成した。ただし、アノードでは、触媒担持担体としてPt−Ru/C(Pt−Ru担持量54wt%(田中貴金属工業(株)社製TEC61E54)を用いた。
なお、アノードにおいても、尿素水溶液中のカチオン(硝酸マグネシウム)の濃度を調整することによって、表1及び表2に示すように、LDH粒子連結体を構成するLDH粒子の数を制御した。
(アルカリ形燃料電池の熱サイクル試験)
1.実施例1〜6及び比較例1〜2
実施例1〜6及び比較例1〜2では、以下のように、気相系燃料を用いてアルカリ形燃料電池を作動させた。
まず、評価温度120℃においてアノードに30℃加湿H2ガスを供給するとともに、カソードに50℃加湿空気を供給しながら、電流密度0.2A/cm2で通電した際のセル電圧値[V]を読み取って、セル出力密度[W/cm2]を求めた。
続いて、アノードに30℃加湿H2ガスを供給するとともに、カソードに50℃加湿空気を供給しながら、アルカリ形燃料電池を1時間で120℃まで昇温して1時間保持した後に室温まで冷却する工程を100回繰り返す熱サイクル試験を行った。
その後、評価温度120℃においてアノードに30℃加湿H2ガスを供給するとともに、カソードに50℃加湿空気を供給しながら、電流密度0.2A/cm2で通電した際のセル電圧値[V]を読み取って、セル出力密度[W/cm2]を求めた。
そして、熱サイクル試験前のセル出力密度で熱サイクル試験後のセル出力密度を割ることによって、熱サイクル試験前のセル出力密度を1として熱サイクル試験後のセル出力密度を規格化した値を算出した。算出結果は表1に示すとおりである。表1では、熱サイクル試験後のセル出力密度が0.98以上であった場合を◎と評価し、熱サイクル試験後のセル出力密度が0.95以上0.98未満であった場合を○と評価し、熱サイクル試験後のセル出力密度が0.92以上0.95未満であった場合を△と評価し、熱サイクル試験後のセル出力密度が0.92未満であった場合を×と評価した。
2.実施例7〜12及び比較例3〜4
実施例7〜12及び比較例3〜4では、以下のように、液相系燃料を用いてアルカリ形燃料電池を作動させた。
まず、評価温度70℃においてアノードに50%メタノール水溶液を供給するとともに、カソードに50℃加湿空気を供給しながら、電流密度0.1A/cm2で通電した際のセル電圧値[V]を読み取って、セル出力密度[W/cm2]を求めた。
続いて、アノードに50%メタノール水溶液を供給するとともに、カソードに20℃加湿空気を供給しながら、アルカリ形燃料電池を30分で70℃まで昇温して1時間保持した後に室温まで冷却する工程を100回繰り返す熱サイクル試験を行った。
その後、評価温度70℃においてアノードに50%メタノール水溶液を供給するとともに、カソードに50℃加湿空気を供給しながら、電流密度0.1A/cm2で通電した際のセル電圧値[V]を読み取って、セル出力密度[W/cm2]を求めた。
そして、熱サイクル試験前のセル出力密度で熱サイクル試験後のセル出力密度を割ることによって、熱サイクル試験前のセル出力密度を1として熱サイクル試験後のセル出力密度を規格化した値を算出した。算出結果は表2に示すとおりである。表2では、表1と同様、熱サイクル試験後のセル出力密度が0.98以上であった場合を◎と評価し、熱サイクル試験後のセル出力密度が0.95以上0.98未満であった場合を○と評価し、熱サイクル試験後のセル出力密度が0.92以上0.95未満であった場合を△と評価し、熱サイクル試験後のセル出力密度が0.92未満であった場合を×と評価した。
3.結果
表1及び表2に示すように、カソード及びアノードにおいてLDH粒子連結体を構成しなかった比較例1,3、及び、カソード及びアノードにおいてLDH粒子連結体を構成するLDH粒子の数が3未満であった比較例2,4では、熱サイクル試験によってセル出力が大きく低下した。一方、カソード及びアノードにおいてLDH粒子連結体を構成するLDH粒子の数を3つ以上とした実施例1〜12では、比較例1〜4に比べて、熱サイクル試験によるセル出力の低下を抑制できた。このような結果が得られたのは、カソード及びアノードにおいて、3以上のLDH粒子が連結したLDH粒子連結体を形成することによって、水酸化物イオン伝導ネットワーク構造の強度を向上させることができたからである。
また、表1及び表2に示すように、カソード及びアノードにおいてLDH粒子連結体と接触する触媒粒子数を2以上とした実施例4〜6,10〜12では、熱サイクル試験によるセル出力の低下をより抑制できた。このような結果が得られたのは、カソード及びアノードにおいて、LDH粒子連結体と触媒粒子との接点を予め複数設けておくことによって、熱サイクル試験中にイオン伝導ネットワーク構造が断絶してしまうことを抑制できたからである。