JP6891821B2 - 連続鋳造機 - Google Patents

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Description

本願は、溶鋼など溶融金属の連続鋳造において、静磁場を利用して鋳型内の溶融金属流を制動する技術を開示するものである。
溶鋼(鉄以外のクロムやニッケルなどの合金元素の含有量の合計が50%を超える高合金鋼が溶融したものも含む。以下において同じ。)など溶融金属の連続鋳造において、鋳型内への溶融金属の供給には、耐火物製の浸漬ノズルを用いる方法が広く行われている。
スラブの連続鋳造など矩型比の大きな(鋳型の厚みに対して鋳型の幅方向が長い)鋳型へ溶融金属を供給する浸漬ノズルは、鋳型幅方向中央から鋳型両短辺に向かって2つの吐出孔を穿った2孔ノズルであるのが一般的である。
ブルーム連続鋳造機に比べ鋳片厚みが小さく高速鋳造が可能なスラブ連続鋳造機においては、通常、2孔ノズルからの溶融金属流は斜め下向きに吐出し、鋳型短辺近傍で上下に分かれて、短辺に沿った上昇流と短辺に沿った下降流を形成する。高速鋳造条件下においては、浸漬ノズルからの吐出流は、短辺の凝固シェルを溶解してブレークアウトを引き起こしたり、短辺に沿った上昇流が湯面を乱して鋳片表面品質を悪化させたり、短辺に沿った下降流が非金属介在物を鋳片深くへ持ち込んで鋳片内部品質を悪化させたりと、様々な悪影響を及ぼす。その中でも特にブレークアウトは、何トンもの溶鋼が流出する重大なトラブルであり、その防止は優先度の高い課題である。
ブレークアウトにはいくつかの発生機構があり、その中の1つに、いわゆる再溶解性ブレークアウトがある。再溶解性ブレークアウトは、浸漬ノズルからの吐出流の熱量を受けて一旦成長した凝固シェルが再溶解することで生じる。再溶解性ブレークアウトは、浸漬ノズルからの吐出流が衝突する鋳型短辺で主に生じる。とりわけ、鋳型短辺と鋳型長辺とが交わる鋳片コーナー部の近傍で生じることが多い。鋳片コーナー部は、鋳型長辺および鋳型短辺の両方の凝固シェルが収縮する影響を受けて鋳片が鋳型から離れやすく、凝固が遅れがちであることがその理由である。
再溶解性ブレークアウトを防止するには、鋳型内における凝固シェルの成長を健全に保つことが求められる。そのためには、(1)浸漬ノズルからの吐出流を制動し、鋳型短辺に衝突する溶鋼の流速を低下させること、(2)鋳型短辺を、収縮しながら成長する凝固シェルにしっかり押し付けること、(3)鋳型短辺銅板に熱伝導率の高い材料を用い抜熱量を確保することの3つのポイントを同時に満たす対策を講じる必要がある。
まず、1つ目のポイントである浸漬ノズルからの吐出流を制動することに対しては、静磁場を利用して浸漬ノズルからの吐出流を制動する電磁ブレーキ技術が知られている。静磁場は、永久磁石を用いても得られるが、鉄心にコイルを巻いて通電する電磁石が広く用いられている。
例えば、特許文献1の図6に開示されているように、左右に分かれた電磁ブレーキの鉄心およびコイルが、それぞれ逆の極性で静磁場を発生する技術が知られている。あるいは、特許文献2に開示されているように、鋳型全幅に渡る鉄心を有する電磁ブレーキ技術が知られている。
次に、2つ目のポイントである鋳型短辺を、収縮しながら成長する凝固シェルにしっかりと押し付けることに対しては、鋳型短辺のテーパーを適正化する技術が知られている。
例えば、特許文献3や特許文献4に開示されているように、鋳型短辺のテーパーを適正な範囲に制御する方法である。
特開昭62−254954号公報 特開平9−285854号公報 特開昭54−163726号公報 特開昭58−145344号公報
しかしながら、上記1つ目のポイントに関しては、再溶解性ブレークアウト防止の観点から、電磁ブレーキの鉄心や磁場極性の配置に言及した事例は乏しく、特許文献1や特許文献2においても、その検討は不十分であった。
また、上記2つ目のポイントに関しては、鋳型短辺テーパーと鋳型長辺テーパーとの関係にまで踏み込んで短辺とりわけ鋳型コーナー近傍の凝固シェル再溶解を防止しようとした事例は乏しく、特許文献3や特許文献4においても、その検討は不十分であった。
また、再溶解性ブレークアウトの防止に対して、上記の電磁ブレーキおよび短辺テーパーの工夫に組み合わせて、上記3つ目のポイントである鋳型短辺銅板材質の重要性に言及した従来技術は存在しない。そのため、再溶解性ブレークアウトを防止するための技術には、さらなる改善の余地が残されていた。
そこで本願は、再溶解性ブレークアウトを防止することが可能な、連続鋳造機を開示する。
本発明者らは、これら従来の再溶解性ブレークアウト対策の不備を解消し、安定した連続鋳造操業をもたらすことを目的とした検討を重ね、本開示の連続鋳造機を成すに至った。
まず、浸漬ノズルからの吐出流を制動する電磁ブレーキに関しては、鋳型幅方向全体に渡って同一極性の磁場を発生する電磁ブレーキは、再溶解性ブレークアウト防止には不利である。
鋳型幅方向全体に渡って同一極性の磁場を発生する電磁ブレーキの場合、電磁ブレーキ制動力を生む渦電流は、磁場の極性が幅方向で単一であることに対応して1つのループとなる。それゆえ、浸漬ノズルの左右2つの吐出孔からの流速に偏り(いわゆる偏流)が生じた場合に、その偏りを矯正することが難しい。
それに対して、鋳型幅方向の左右に分かれて配置された電磁コイルが、それぞれ逆の極性で静磁場を発生する電磁ブレーキは、以下の理由で再溶解性ブレークアウト防止に有利である。すなわち、左右に分かれた電磁コイルがそれぞれ逆の極性で静磁場を発生する電磁ブレーキの場合は、浸漬ノズルから吐出された左右の吐出流(以下において、「溶鋼金属流」とも称する。)それぞれに対して、渦電流とそれに伴う制動力が生じる。その結果、浸漬ノズルから吐出された吐出流が偏った(偏流が生じた)場合にも、吐出流速の大きさに応じた制動力が作用し、偏流が自発的に抑制される効果が発現するので、再溶解性ブレークアウトを効果的に防止できるのである。
一方、鋳型幅方向の左右に分かれた電磁コイルがそれぞれ逆の極性で静磁場を発生する電磁ブレーキにおいて、電磁コイルあるいは鉄心が鋳型幅に対して小さいと、電磁ブレーキ域を迂回する流れが生じて、その制動効果が安定しない傾向がある。そのため、鋳型幅に対して、鉄心の占有割合を一定値以上に保つ必要がある。この鉄心の占有割合さえ十分であれば、左右に分かれた電磁コイルがそれぞれ逆の極性で静磁場を発生する電磁ブレーキの特性を、十分に発揮することができる。
次に、鋳型テーパーに関しては、金属の凝固収縮に応じて鋳型断面積を徐々に絞ることが技術常識であり、鋳型の長辺および短辺ともにテーパーを付与することが一般的である。
一方、鋳型テーパーの付与は、鋳型と凝固シェルとの摩擦抵抗を増すという側面もあり、過大な鋳型テーパーを付与すると、摩擦抵抗に耐えられなくなった凝固シェルが破断するトラブル(ブレークアウト)を招く。本発明者らは、試行錯誤を伴う調査研究の結果、鋳型長辺に鋳型短辺と同じテーパーを付与した場合には、鋳型長辺と凝固シェルとの摩擦抵抗が、鋳型短辺と凝固シェルとの摩擦抵抗に比べて過大になりやすいことを突き止めた。これは、鋳型幅が鋳型厚みよりも大きい(すなわち水平方向の長さが、長辺の方が大きい)ことから、凝固シェルのバルジング(溶鋼静圧による膨らみ)が長辺においてより大きく生じ、その結果として鋳型長辺が凝固シェルとより密着することに起因する。本発明者らは、その発見を基に、鋳型短辺のテーパー率を0.8%/m〜2.0%/m、鋳型長辺のテーパー率を0.4%/m〜1.5%/mの適正な範囲に定めた上で、さらに再溶解性ブレークアウトが生じやすい鋳型短辺のテーパーを相対的に強化する(鋳型短辺のテーパー率を鋳型長辺のテーパー率よりも大きくする)ことにより、摩擦抵抗増大に起因する拘束性ブレークアウトが生じやすい鋳型長辺テーパーを相対的に抑制する、という方法を見出した。これは、再溶解性ブレークアウトと拘束性ブレークアウトという、相反する機構で発生するブレークアウトのリスクバランスをとって、総合的なブレークアウト発生リスクを最小化する方法である。
ここで、テーパー率の定義を以下に説明する。図5は鋳型短辺のテーパーを説明する図である。鋳型短辺のテーパーを例にとると、テーパー率とは鋳型長さ(図5の紙面上下方向における鋳型の長さ。単位はm。以下において同じ。)1mあたり鋳型幅を何%絞るかを示した値である。具体的には、鋳型短辺のテーパー率(%)は、鋳型の両短辺に付与したテーパー量(図5参照)の和を鋳型幅(鋳型出口幅を鋳型幅の代表値として用いる。)で除し、さらに鋳型長さで除した値に100を乗じることにより求められる。同様に、鋳型長辺のテーパー率(%)とは、鋳型長さ1mあたり鋳型厚みを何%絞るかを示した値であり、鋳型の両長辺に付与したテーパー量の和を鋳型厚み(鋳型出口厚みを鋳型厚みの代表値として用いる。)で除し、さらに鋳型長さで除した値に100を乗じることにより求められる。テーパーが鋳型長手方向で一定でない場合は、その平均値を用いてテーパー率を定義する。
万一、凝固シェルが破断し溶融金属が漏れ出したとしても、それが鋳型内で生じ速やかに漏れ出した溶融金属を凝固させることできれば、ブレークアウトに至らずに済む。この最後の砦には、鋳型銅板の熱伝導率が効く。すなわち再溶解性ブレークアウトが発生しやすい鋳型短辺には熱伝導率が高い銅板材質を用いることが望ましいのである。
銅は純度が高いほど熱伝導率が高いのであるが、一般に鋳型に用いられる銅板は、強度を高めて変形を防止したり、電気伝導度を下げて電磁撹拌の効率を高めたりする目的で合金成分を添加しており、熱伝導率が低下しがちである。本発明者らは、鋳型短辺に関してはブレークアウト防止を優先して熱伝導率の高い銅板を用いることが有効であることを知見した。その結果、本開示の連続鋳造機では、鋳型長辺の銅板に対して鋳型短辺の銅板の熱伝導率が高くなることを許容する。
本開示の連続鋳造機は、これらの骨子に他の技術要素を加えて完成されたものであり、主に鋳型短辺に沿う凝固シェルに生じる再溶解性ブレークアウトの防止を目的としている。
以下、本開示の連続鋳造機についてさらに具体的に説明する。本開示の連続鋳造機において、鋳型幅は鋳型厚みの少なくとも3倍以上である。
本開示の連続鋳造機は、溶融金属の連続鋳造機であって、水平断面が矩形である鋳型と、該鋳型の上方に配置されたタンディッシュと、該タンディッシュから鋳型内へと溶融金属を供給する浸漬ノズルと、該浸漬ノズルから鋳型の両短辺に向かって吐出される2つの溶融金属流を、静磁場を用いて制動する電磁ブレーキ装置と、を備え、該電磁ブレーキ装置は、鋳型の幅方向の左右に並べて配置された2つの鉄心と、該2つの鉄心のそれぞれと鋳型を挟んで対向するように配置された2つの鉄心と、を有し、鋳型を挟んで対向するように配置された2つの鉄心、および、鋳型の幅方向に並べて配置された2つの鉄心に励磁される電磁石の極性は、互いに逆であり、鋳型の幅方向の左右に並べて配置された2つの鉄心は、左側に配置された鉄心の左端と右側に配置された鉄心の右端との距離(以下において、「鉄心両端距離」と称することがある。)が鋳型の幅の85%よりも大きく、且つ、該2つの鉄心の間隔が鋳型の幅の30%よりも小さく、且つ、該2つの鉄心の間隔が鋳型の厚みの60%よりも大きく、且つ、該2つの鉄心が鋳型の幅に占める割合が65%以上となるように、配置され、鉄心に巻かれたコイルと鋳型の背面との平均距離が、鉄心の鋳型厚み方向長さの0.5倍よりも小さく、最大磁束密度が2500gauss以上である静磁場を印加可能であり、鋳型の短辺のテーパー率が鋳型の幅に対して0.8%/m〜2.0%/mであり、且つ、鋳型の長辺のテーパー率が鋳型の厚みに対して0.4%/m〜1.5%/mであり、且つ、鋳型の短辺のテーパー率が鋳型の長辺のテーパー率よりも大きく、鋳型の短辺を構成する銅板の熱伝導率が、300W/m・K以上であることを特徴とする、連続鋳造機である。
鋳型幅方向の左右に分かれて配置された電磁コイルが、それぞれ逆の極性で静磁場を発生する電磁ブレーキ装置が備えられることにより、偏流が生じた場合にも適切な制動力を作用させることが可能である。また、鋳型の幅方向の左右に並べて配置された2つの鉄心が上記条件を満たすように配置されることにより、電磁ブレーキ装置の制動効果を安定させることが可能である。さらに、鉄心に巻かれたコイルと鋳型の背面との平均距離が上記条件を満たすことにより、電磁石の背面すなわち鋳型から遠い側からの漏洩磁束を減らし、効率良く電磁ブレーキを作用させることが可能である。さらにまた、最大磁束密度が2500gauss以上であることにより、吐出流を十分に制動することが可能である。加えて、鋳型の短辺および長辺のテーパー率が上記条件を満たすことにより、総合的なブレークアウト発生リスクを最小化することが可能である。また、鋳型の短辺を構成する銅板の熱伝導率が300W/m・K以上であることにより、凝固シェルが破断し漏れ出した溶融金属を鋳型内で速やかに凝固させることが可能なので、ブレークアウトを防止することができる。したがって、上記形態にすることにより、再溶解性ブレークアウトを防止することが可能な、連続鋳造機を提供することができる。
本開示の連続鋳造機によれば、再溶解性ブレークアウトを防止することが可能な、連続鋳造機を提供することができる。
連続鋳造機100の構成を説明するための概略図である。 電磁ブレーキ装置40の構成を説明するための概略図である。 鋳型幅方向で左右に分かれた電磁コイル42の極性を説明するための概略図である。 鉄心両端距離、鉄心間隔、鋳型幅、鋳型厚み、コイルと鋳型の背面との平均距離、および、鉄心の鋳型厚み方向長さを説明するための概略図である。 鋳型短辺のテーパーを説明するための概略図である。 実施例1に係る電磁ブレーキ装置を説明するための概略図である。 実施例2に係る電磁ブレーキ装置を説明するための概略図である。 実施例3に係る電磁ブレーキ装置を説明するための概略図である。 比較例1に係る電磁ブレーキ装置を説明するための概略図である。 比較例2に係る電磁ブレーキ装置を説明するための概略図である。 比較例3に係る電磁ブレーキ装置を説明するための概略図である。 比較例7に係る電磁ブレーキ装置を説明するための概略図である。
以下、本開示の連続鋳造機について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図1に、連続鋳造機100の構成を概略的に示す。図1では、電源などの記載を省略している。図1に示した連続鋳造機100は、水平断面が矩形である鋳型30と、鋳型30の上方に配置されたタンディッシュ10と、タンディッシュ10から鋳型30内へと溶融金属1を供給する浸漬ノズル20と、浸漬ノズル20から鋳型30の両短辺に向かって吐出される2つの溶鋼金属流を、静磁場を用いて制動する電磁ブレーキ装置40と、を備えている。
図2に、電磁ブレーキ装置40の構成を概略的に示す。図2に示したように、電磁ブレーキ装置40は、4つの電磁石A〜Dを有している。電磁石Aおよび電磁石Cと、電磁石Bおよび電磁石Dは、それぞれ、鋳型30の幅方向の左右に並列して設置され、電磁石Aおよび電磁石Bと、電磁石Cおよび電磁石Dは、それぞれ、鋳型30を挟んで対向するように設置されている。電磁石A〜Dは、それぞれ、鉄心41a〜41d、および、そのまわりに巻かれたコイル42a〜42dを有している。鋳型30を挟んで対向するように設置された電磁石Aおよび電磁石Bの、コイル42aおよびコイル42bは、それぞれ電源43に接続されている。また、鋳型30を挟んで対向するように設置された電磁石Cおよび電磁石Dの、コイル42cおよびコイル42dは、それぞれ電源44に接続されている。電磁ブレーキ装置40は、浸漬ノズル20からの吐出流を制動することを目的としていることから、連続鋳造方法として最も一般的な、浸漬ノズルを用いたパウダーキャスティングを対象としている。ゆえに、連続鋳造機100の鋳型30に至る給湯は、上方のタンディッシュ10から浸漬ノズル20を介して鋳型30内へ溶融金属を供給する構成である。
図3は、連続鋳造機100における、電磁石の極性を説明する図である。図3に示したように、鋳型30の紙面上側に設置された電磁石Aは極性Nであり、電磁石Cは極性Sである。また、鋳型30の紙面下側に設置された電磁石Bは極性Sであり、電磁石Dは極性Nである。このような形態にすることにより、電磁ブレーキ装置40によって溶鋼金属流を制動する際に、浸漬ノズル20からの吐出流が跳ね返されることなく減速し、鋳型の短辺に沿った緩やかな上昇流および下降流を形成する。その結果、鋳型内は比較的静穏に保たれる。
図4は、鋳型の幅方向の左右に並べて配置された2つの鉄心のうち、左側に配置された鉄心の左端と右側に配置された鉄心の右側との距離(以下において、「鉄心両端距離」と称することがある。)、当該2つの鉄心のうち、左側に配置された鉄心の右端と右側に配置された鉄心の左端との距離(以下において、「鉄心の間隔」と称することがある。)、鋳型幅、鋳型厚み、鉄心に巻かれたコイルと鋳型の背面との平均距離、および、鉄心の鋳型厚み方向長さを説明する上面図である。図4を参照しつつ、電磁ブレーキ装置40が満たす条件について、以下に説明する。
鉄心両端距離は鋳型幅の85%よりも大きい。これにより、鉄心と鋳型30の短辺との間隙を下へ抜ける回避流が生じ難くなるので、電磁ブレーキ装置40の制動効果を安定して発揮することができる。電磁ブレーキ装置40において、鉄心両端距離の上限値は特に限定されないが、電磁ブレーキ装置40の制動効果を適切に得られやすくする等の観点からは、例えば鋳型の幅の150%以下にすることができる。
また、鉄心の間隔は、鋳型幅の30%よりも小さく且つ鋳型厚みの60%よりも大きい。鉄心の間隔が鋳型厚みの60%よりも大きいことにより、左右のコイル間の相互作用が過度に強くならないので、鋳型30を挟んで対向する鉄心へと到達する磁束密度(すなわち電磁ブレーキ装置40の制動力を発揮する磁場の強さ)が低減し難い。その結果、電磁ブレーキ装置としての効率を高めることができる。さらに、鉄心の間隔が鋳型幅の30%よりも小さいことにより、左右の鉄心の間を下へ抜ける回避流が生じ難くなるので、電磁ブレーキ装置40の制動効果を安定して発揮しやすくなる。
また、鋳型の幅方向の左右に並べて配置された2つの鉄心が鋳型の幅に占める割合(以下において、「鉄心幅占有率」と称することがある。)が65%以上である。これにより、左右の鉄心の間や、鉄心と鋳片30の短辺との間隙を下へ抜ける回避流が生じ難くなるので、電磁ブレーキ装置40の制動効果を安定して発揮しやすくなる。電磁ブレーキ装置40において、鉄心幅占有率の上限値は特に限定されず、例えば、90%以下にすることができる。
また、鉄心41a〜41dのそれぞれに巻かれたコイル42a〜42dと鋳型30の背面との平均距離(コイル42a〜42dのそれぞれと鋳型30の背面との距離の平均値)が、鉄心41a〜41dの、鋳型の厚み方向の長さ(鉄心41a〜41dそれぞれの、鋳型の厚み方向の長さの平均値)の0.5倍よりも小さい。例えば、図4に示すように、コイル42a〜42dのいずれについても、鉄心41a〜41dの鋳型厚み方向中央よりも鋳型寄りに設けられている(コイルの鋳型厚み方向中央の位置が、鉄心の鋳型の厚み方向中央の位置よりも鋳型寄りに設けられている)ことが好ましい。
コイル42aと鋳型30の背面との距離とは、コイル42aの中央の位置(図4において、コイルの紙面上下方向中央の破線で示される位置)と鋳型30の背面との距離をいう。尚、例えば、コイル42aが鋳型30の背面に対して傾いている場合(図4の破線で示されるコイル42aの中央を示す線が、鋳型30の背面と平行となっていない場合)は、平均値でもってコイル42aと鋳型30の背面との距離を特定する。コイル42b〜42dについても同様にして、コイルと鋳型30の背面との距離を特定できる。鋳型30の背面とは、例えば、鋳型30よりも図4の紙面上側に配置されているコイル42aの場合、鋳型30の一対の長辺のうち、図4の紙面上側にある鋳型30の長辺の、鉄心41aに対向する面をいう。また、鉄心41a〜41dの鋳型厚み方向長さとは、図4の紙面上下方向における鉄心41a〜41dの長さをいう。
これにより、電磁石の背面すなわち鋳型から遠い側からの漏洩磁束を減らし、効率良く電磁ブレーキを作用させることができる。電磁石背面からの漏洩磁束が多いと、電磁ブレーキとしての効率が低下するのに加え、周囲の鉄を磁化させたり、計測器に影響を与えたりといった問題を生じる。
また、電磁ブレーキ装置40によって印加される静磁場の最大磁束密度は、2500gauss以上である。これにより、吐出流を十分に制動することができる。最大磁束密度の上限値は特に限定されず、経済性の観点から実質的には5000gauss程度である。
また、鋳型短辺のテーパー率が鋳型の幅に対して0.8%/m〜2.0%/mである。鋳型短辺のテーパー率が鋳型の幅に対して0.8%/m以上であることにより、凝固シェルと鋳型とを密着させて凝固シェルを健全に成長させることができる。また、鋳型短辺のテーパー率が鋳型の幅に対して2.0%/mを超えると、凝固シェルと鋳型との密着によるメリットを摩擦抵抗増大のデメリットが上回るので好ましくない。鋳型短辺のテーパー率は、より好ましくは、下限が0.9%/m以上で、上限が1.5%/m以下である。
また、鋳型の長辺のテーパー率が鋳型の厚みに対して0.4%/m〜1.5%/mである。鋳型長辺のテーパー率が鋳型の厚みに対して0.4%/m以上であることにより、凝固シェルと鋳型とを密着させて凝固シェルを健全に成長させることができる。一方、鋳型長辺のテーパー率が鋳型の厚みに対して1.5%/mを超えると、凝固シェルと鋳型との密着によるメリットを摩擦抵抗増大のデメリットが上回るので好ましくない。鋳型長辺のテーパー率のより好ましい範囲は、0.5%/m〜1.2%/mである。
さらに、連続鋳造機100では、鋳型短辺のテーパー率が鋳型長辺のテーパー率よりも大きい。これは、長辺の凝固シェルのバルジング変形が大きく、鋳型と密着しやすい傾向を考慮したものである。より理想的には、鋳型の長辺幅が短辺厚に対して大きいほど、鋳型長辺のテーパー率を鋳型短辺のテーパー率に対して相対的に小さくすることが望ましい。具体的には、鋳型の矩形比を鋳型長辺幅/鋳型短辺厚と定義した時に、鋳型短辺テーパー率/鋳型長辺テーパー率の値が鋳型矩形比の0.05倍に0.95を加えた値よりも大きくなるように設定するのが良い。
ここで、鋳型のテーパー率が一定でない場合には、その平均値をもってテーパー率を特定する。なお、「鋳型のテーパー率が一定である」とは 鋳型の傾きが直線状すなわち鋳型が平面である(曲面ではない)形態を意味する。
また、鋳型短辺の銅板の熱伝導率が、300W/m・K以上である。これにより、万一溶融金属が漏れ出した場合にも鋳型内で迅速に凝固させてブレークアウト事故を防止することができる。鋳型の銅板は、強度を高める目的で純銅に対して様々な元素が添加される結果として、純銅よりも熱伝導率が低下する。連続鋳造機100は、鋳型短辺に関しては銅板の強度よりも熱伝導率に重きを置く思想をもって、再溶解性ブレークアウトの防止を優先するものである。
このように連続鋳造機100によれば、電磁ブレーキ装置が浸漬ノズルからの吐出流を効果的に制動するとともに、鋳型と凝固シェルが適切に密着し凝固シェルが成長する。加えて、鋳型短辺の熱伝導率が十分に高いので、万一鋳型内で短辺の凝固シェルが破断した場合にも、迅速に溶融金属が凝固する。それらの相乗作用として、ブレークアウトが発生しない安定した連続鋳造機を構成できる。
以下に、具体例をあげて、本開示の連続鋳造機について説明する。表1に、以下に説明する例の具体的な条件を示す。なお、実施例および比較例を示す図6〜図12においては、図1〜図5よりも鋳型を簡略化して示し、さらに、簡略化のため、鋳型および電磁ブレーキ装置の上面図ならびに正面図を模式的に示している。
Figure 0006891821
1.実施例
1.1.実施例1
図6および表1に示した実施例1は、請求項1で規定した条件をすべて満たす実施例である。
実施例1においては、電磁ブレーキ装置の鉄心およびコイルの配置、電磁ブレーキ装置の最大磁束密度、鋳型テーパー率、ならびに、鋳型短辺銅板の熱伝導率のすべてが請求項1で規定した条件を満たしている。そのため、2孔浸漬ノズルからの吐出流を十分に制動することができ、加えて鋳型に対する凝固シェルの密着を適度に保つことができる。その結果、凝固シェルを健全に成長させることが可能で、ブレークアウトのリスクが小さい安定した連続鋳造操業を実現することができる。
1.2.実施例2
図7および表1に示した実施例2は、請求項1で規定した条件をすべて満たす実施例である。
実施例2においては、電磁ブレーキ装置の鉄心およびコイルの配置、電磁ブレーキ装置の最大磁束密度、鋳型テーパー率、ならびに、鋳型短辺銅板の熱伝導率のすべてが請求項1で規定した条件を満たしている。そのため、2孔浸漬ノズルからの吐出流を十分に制動することができ、加えて鋳型に対する凝固シェルの密着を適度に保つことができる。その結果、凝固シェルを健全に成長させることが可能で、ブレークアウトのリスクが小さい安定した連続鋳造操業を実現することができる。
1.3.実施例3
図8および表1に示した実施例3は、請求項1で規定した条件をすべて満たす実施例である。
実施例3においては、電磁ブレーキ装置の鉄心およびコイルの配置、電磁ブレーキ装置の最大磁束密度、鋳型テーパー率、ならびに、鋳型短辺銅板の熱伝導率のすべてが請求項1で規定した条件を満たしている。そのため、2孔浸漬ノズルからの吐出流を十分に制動することができ、加えて鋳型に対する凝固シェルの密着を適度に保つことができる。その結果、凝固シェルを健全に成長させることが可能で、ブレークアウトのリスクが小さい安定した連続鋳造操業を実現することができる。
2.比較例
2.1.比較例1
図9および表1に示した比較例1は、請求項1で規定した条件を満たさない比較例である。
より具体的には、鋳型幅に対する鉄心両端距離の割合が85%未満であり、さらに、2つの鉄心が鋳型幅に占める割合が65%未満であるため、請求項1で規定した条件を満たさない。比較例1の条件では、電磁ブレーキ域の外側(鋳型短辺近傍)を回避する流動が生じやすく、吐出流の制動効果が不安定になるため、再溶解性のブレークアウトが発生しやすい。
2.2.比較例2
図10および表1に示した比較例2は、請求項1で規定した条件を満たさない比較例である。
より具体的には、左右鉄心間隔が鋳型厚みの60%未満であり、加えて鉄心に巻かれたコイルと鋳型背面との平均距離が鉄心の鋳型厚み方向長さの0.5倍以上である点で、請求項1で規定した条件を満たさない。比較例2の条件では、電磁ブレーキの効率が低く最大磁束密度が小さいので、再溶解性ブレークアウトが発生しやすい。
2.3.比較例3
図11および表1に示した比較例3は、請求項1で規定した条件を満たさない比較例である。
より具体的には、左右鉄心間隔が鋳型幅の30%以上であり、加えて2つの鉄心が鋳型幅に占める割合が65%未満である点で、請求項1で規定した条件を満たさない。比較例3の条件では、左右電磁ブレーキ域の間(鋳型幅中央近傍)を回避する流動が生じやすく、吐出流の制動効果が不安定なので、再溶解性ブレークアウトが発生しやすい。
2.4.比較例4
鋳型のテーパー率に関する条件以外は実施例1と共通する表1に示した比較例4は、請求項1で規定した条件を満たさない比較例である。
より具体的には、鋳型短辺のテーパー率が鋳型幅に対して2.0%/mよりも大きく、加えて鋳型長辺のテーパー率が鋳型厚みに対して1.5%/mよりも大きい点で、請求項1で規定した条件を満たさない。比較例4の条件では、鋳型と凝固シェルとの間の摩擦抵抗が大きくなり、焼き付きが発生しやすい問題がある。加えて、鋳型短辺のテーパー率に対して鋳型長辺のテーパー率が大きすぎるので、鋳型長辺が鋳型短辺に比べて過剰に凝固シェルに密着し、凝固シェルのコーナー部を歪ませてしまう問題がある。凝固シェルコーナー部の歪みは、再溶解性ブレークアウトの起点となる内部割れを発生させるので、再溶解性ブレークアウトが発生しやすい。
2.5.比較例5
鋳型のテーパー率に関する条件以外は実施例1と共通する表1に示した比較例5は、請求項1で規定した条件を満たさない比較例である。
より具体的には、鋳型短辺のテーパー率が鋳型幅に対して0.8%/mよりも小さく、加えて鋳型長辺のテーパー率が鋳型厚みに対して0.4%/mよりも小さい点で、請求項1で規定した条件を満たさない。比較例5の条件では、鋳型と凝固シェルが十分に密着せず、凝固シェルの成長が滞る。その結果、再溶解性のブレークアウトが発生しやすい問題がある。
2.6.比較例6
鋳型短辺銅板の熱伝導率に関する条件以外は実施例1と共通する表1に示した比較例6は、請求項1で規定した条件を満たさない比較例である。
より具体的には、鋳型短辺銅板の熱伝導率が300W/m・K未満である点で、請求項1で規定した条件を満たさない。比較例6の条件では、万一鋳型内で凝固シェルが破断した場合に、漏れ出した溶融金属が迅速に凝固せず、ブレークアウト事故に至る確率が高まることが問題である。
2.7.比較例7
図12および表1に示した比較例7は、請求項1で規定した条件を満たさない比較例である。
より具体的には、鋳型幅全体に同一極性の静磁場を作用させる電磁ブレーキ装置を用いている点で、請求項1で規定した条件を満たさない。この型式の電磁ブレーキ装置は、請求項1で規定した条件を満たす電磁ブレーキ装置に比べ、浸漬ノズルの閉塞によって吐出流の偏りが生じた場合に、その矯正作用に乏しい弱点があり、再溶解性ブレークアウトの防止効果が小さい。請求項1で規定した条件を満たす電磁ブレーキ装置は、浸漬ノズル左右に穿たれた2つの吐出孔からの吐出流それぞれに対し独立した静磁場が作用するので、吐出流が偏った場合にそれぞれの吐出流速に応じた制動力が作用し、偏流を矯正できる。比較例7のように、鋳型幅全体に同一極性の静磁場を作用させる電磁ブレーキ装置では、左右の吐出流に作用する制動力が独立したものとはならないので、偏流の矯正作用が弱いのである。
A、B、C、D…電磁石
1…溶融金属
10…タンディッシュ
20…浸漬ノズル
30…鋳型
40…電磁ブレーキ装置
41a、41b、41c、41d…鉄心
42a、42b、42c、42d…コイル
43、44…電源
100…連続鋳造機

Claims (1)

  1. 溶融金属の連続鋳造機であって、
    水平断面が矩形である鋳型と、
    前記鋳型の上方に配置されたタンディッシュと、
    前記タンディッシュから前記鋳型内へと溶融金属を供給する浸漬ノズルと、
    前記浸漬ノズルから前記鋳型の両短辺に向かって吐出される2つの溶融金属流を、静磁場を用いて制動する電磁ブレーキ装置と、を備え、
    前記電磁ブレーキ装置は、前記鋳型の幅方向の左右に並べて配置された2つの鉄心と、該2つの鉄心のそれぞれと前記鋳型を挟んで対向するように配置された2つの鉄心と、を有し、
    前記鋳型を挟んで対向するように配置された前記2つの鉄心、および、前記鋳型の幅方向に並べて配置された前記2つの鉄心に励磁される電磁石の極性は、互いに逆であり、
    前記鋳型の幅方向の左右に並べて配置された前記2つの鉄心は、左側に配置された鉄心の左端と右側に配置された鉄心の右端との距離が前記鋳型の幅の85%よりも大きく、且つ、該2つの鉄心の間隔が前記鋳型の幅の30%よりも小さく、且つ、該2つの鉄心の間隔が前記鋳型の厚みの60%よりも大きく、且つ、該2つの鉄心が前記鋳型の幅に占める割合が65%以上となるように、配置され、
    前記鉄心に巻かれたコイルと前記鋳型の背面との平均距離が、前記鉄心の鋳型厚み方向長さの0.5倍よりも小さく、
    最大磁束密度が2500gauss以上である前記静磁場を印加可能であり、
    前記鋳型の短辺のテーパー率が前記鋳型の幅に対して0.8%/m〜2.0%/mであり、且つ、前記鋳型の長辺のテーパー率が前記鋳型の厚みに対して0.4%/m〜1.5%/mであり、且つ、前記鋳型の短辺のテーパー率が前記鋳型の長辺のテーパー率よりも大きく、
    前記鋳型の短辺を構成する銅板の熱伝導率が、300W/m・K以上であることを特徴とする、連続鋳造機。
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