以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず図1を参照して本発明の第1実施の形態における二方向クラッチ10について説明する。図1は本発明の一実施の形態における二方向クラッチ10の断面図である。二方向クラッチ10は、本実施の形態では車両に搭載されている。
図1に示すように二方向クラッチ10は、同一の軸線O上に配置される入力軸11と出力軸12との間のトルクの伝達または遮断を行うための装置である。二方向クラッチ10は、入力軸11に結合される第1部材20と、出力軸12に結合される第2部材30と、第1部材20と第2部材30とを係合する第1係合子40及び第2係合子50と、第1部材20及び第2部材30が係合する方向へそれぞれ第1係合子40及び第2係合子50を付勢するばね43,53と、ばね43,53の弾性力に抗して第1係合子40及び第2係合子50の係合を解除するカム機構60と、を備えている。
図2を参照して第1部材20について説明する。図2は図1のII−II線における二方向クラッチ10の断面図である。第1部材20は入力軸11に結合すると共に、軸受13によって出力軸12に内周が回転可能に支持される略円環状の部材である。第1部材20の第1面21は軸線Oと直交する平坦面である。第1部材20には、軸線O方向に延びる円筒部22が、第1面21の外周に結合している。
第1部材20は、第1面21に、直径の異なる円環状の溝23,26が形成されている。第1面21は、溝23上に複数(本実施の形態では8個)の第1凹部24が形成され、溝26上に複数(本実施の形態では8個)の第2凹部27が形成されている。溝26の直径は溝23の直径よりも小さい。第1部材20は、第1部材20を厚さ方向(軸線O方向)に貫通する貫通孔25が、第1凹部24内の溝23上に成形されており、第1部材20を厚さ方向に貫通する貫通孔28が、第2凹部27内の溝26上に成形されている。
第1凹部24は、第2部材30に揺動可能に支持される第1係合子40の本体部41(後述する)が進入する部位である。第2凹部27は、第2部材30に揺動可能に支持される第2係合子50の本体部51(後述する)が進入する部位である。第1凹部24及び第2凹部27は、正面視が略矩形の開口を有し、溝23,26の円周上にそれぞれ略均等な間隔で形成されている。第1凹部24及び第2凹部27の径方向の幅は、第1係合子40の本体部41及び第2係合子50の本体部51の幅よりわずかに大きい。これにより、本体部41,51は第1凹部24及び第2凹部27に進入できる。
溝23はリング部材44(図1参照)を周方向および軸線O方向に移動可能に収容する部位であり、溝26はリング部材54(図1参照)を周方向および軸線O方向に移動可能に収容する部位である。溝23,26はいずれも軸線Oを含む断面において矩形の断面形状を有している。貫通孔25,28は、ピン45,55(図1参照)がそれぞれ摺動可能に嵌る部位である。ピン45,55は、リング部材44,54にカム機構60の力を伝達する。リング部材44,54は第1係合子40及び第2係合子50の揺動を規制する。
図3(a)を参照して第2部材30について説明する。図3(a)は図1のIIIa−IIIa線における二方向クラッチ10の断面図である。第2部材30は、スプラインによって出力軸12に結合する略円環状の部材である。第2部材30は円筒部22(図1参照)の内側に配置される。第2部材30は、円筒部22に固定された規制部材14(図1参照)によって、第1部材20に対する軸線O方向の移動が規制される。第2部材30の第2面31は軸線Oと直交する平坦面である。第2面31は、第1部材20の第1面21と軸線O方向に対向する。
第2面31は、第1面21(図2参照)の第1凹部24に対応する位置に、複数(本実施の形態では8個)の第1収容部32が形成されており、第1面21の第2凹部27に対応する位置に複数(本実施の形態では8個)の第2収容部36が形成されている。第1収容部32に第1係合子40が収容され、第2収容部36に第2係合子50が収容される。
図3(b)及び図3(c)を参照して第1係合子40及び第2係合子50について説明する。図3(b)は第1係合子40の正面図であり、図3(c)は第1係合子40の側面図である。なお、第1係合子40及び第2係合子50は、第2部材30に配置される周方向の向きが異なる以外は同一に構成されている。よって、第1係合子40の各部を説明して、第2係合子50の各部の説明は省略する。
第1係合子40は、正面視が略T字状の板状体であり、正面視して略矩形状に形成される本体部41と、本体部41の端部の両側縁から両側に突設される略棒状の腕部42とを備えている。第1係合子40及び第2係合子50は、互いに異なる方向のトルクを伝達する。
図3(a)に戻って説明する。第1収容部32は、第1係合子40の本体部41が収容される浅い窪みである本体収容部33と、腕部42が収容される浅い窪みである腕収容部34とを備えている。腕収容部34は本体収容部33に連接されている。第1収容部32は、本体収容部33を円周方向に並べた状態で、腕収容部34を径方向の内外に向けて配置されている。
第1収容部32は、本体収容部33よりも深い窪みであるばね収容部35が、腕収容部34と反対側の本体収容部33に連接されている。ばね収容部35にばね43(図1参照)が収容される。ばね収容部35を本体収容部33に加えた周方向の長さは、本体収容部33及びばね収容部35に第1係合子40の本体部41を収容するため、第1係合子40の本体部41の長さよりもわずかに長い。円周方向に隣り合う第1収容部32は、腕収容部34とばね収容部35とが向き合う。本実施の形態では、ばね43はねじりコイルばねであるが、これに限られるものではない。ねじりコイルばねに代えて、圧縮コイルばね等を用いることは当然可能である。
第2収容部36は、第2係合子50の本体部51が収容される浅い窪みである本体収容部37と、腕部52が収容される浅い窪みである腕収容部38とを備えている。腕収容部38は本体収容部37に連接されている。第2収容部36は、本体収容部37を円周方向に並べた状態で、腕収容部38を径方向の内外に向けて配置されている。
第2収容部36は、本体収容部37よりも深い窪みであるばね収容部39が、腕収容部38と反対側の本体収容部37に連接されている。ばね収容部39にばね53(図1参照)が収容される。本実施の形態では、ばね53はねじりコイルばねである。ばね収容部39を本体収容部37に加えた周方向の長さは、本体収容部37及びばね収容部39に第2係合子50の本体部51を収容するため、第2係合子50の本体部51の長さよりもわずかに長い。円周方向に隣り合う第2収容部36は、腕収容部38とばね収容部39とが向き合う。第2収容部36及び第1収容部32は、周方向の向きを互いに異ならせて配置されている。
図1に示すように、第2部材30の第1収容部32に第1係合子40及びばね43が収容され、第2収容部36に第2係合子50及びばね53が収容される。一方、第1部材20の溝23,26にリング部材44,54がそれぞれ収容される。第2部材30の第2面31が第1部材20の第1面21と対面するように、第1部材20に第2部材30が組み付けられる。
二方向クラッチ10は、第1部材20と第2部材30との相対回転によって第1凹部24の位置に第1係合子40が来ると、ばね43の弾性力により、第1係合子40の腕部42を軸にして本体部41が揺動し、本体部41の端部が第1凹部24に進入する。同様に、第2凹部27の位置に第2係合子50が来ると、ばね53の弾性力により、第2係合子50の腕部52を軸にして本体部51が揺動し、本体部51の端部が第2凹部27に進入する。
これに対し、後述するカム機構60(図1参照)が、貫通孔25,28に嵌ったピン45,55を第1凹部24及び第2凹部27側へ押し出すと、溝23,26に収容されたリング部材44,54が第1凹部24及び第2凹部27内へ押し出される。第1凹部24及び第2凹部27内へ押し出されたリング部材44,54は、第1係合子40及び第2係合子50の第1凹部24及び第2凹部27への進入を阻止する。
次にカム機構60(図1参照)について説明する。カム機構60は、第1係合子40及び第2係合子50の動作を制限する機構である。カム機構60は、第1係合子40に対する軸線O方向に配置された第1カム61と、第2係合子50に対する軸線O方向に配置された第2カム63と、第1カム61及び第2カム63に対向する第3カム65と、を備えている。第1カム61と第3カム65との間に複数の第1ボール68が介在し、第2カム63と第3カム65との間に複数の第2ボール69が介在する。
第1カム61は、第1部材20を挟んで第2部材30の反対側に入力軸11を取り囲んで配置される円環状の部材である。第1カム61は、円筒部22及び第1カム61に形成されたスプラインの係合により円筒部22と一体に回転すると共に、円筒部22に対して軸線O方向に移動可能に円筒部22の内側に配置されている。第1カム61には、第1部材20の反対側に開放するカム溝62が形成されている。カム溝62は、径方向へ延びる例えば断面三角形の溝であり、周方向に間隔をあけて複数設けられている。
第2カム63は、第1部材20を挟んで第2部材30の反対側、且つ、第1カム61の内側(軸線O側)に配置される円環状の部材である。第2カム63は入力軸11を取り囲んでいる。第2カム63は、入力軸11及び第2カム63に形成されたスプラインの係合により入力軸11と一体に回転すると共に、入力軸11に対して軸線O方向に移動可能に入力軸11の外側に配置されている。第2カム63は、第1カム61に対して軸線O方向に移動可能である。第2カム63には、第1部材20の反対側に開放するカム溝64が形成されている。カム溝64は、径方向へ延びる例えば断面三角形の溝であり、周方向に間隔をあけて複数設けられている。
第3カム65は、第1カム61及び第2カム63に対向する円環状の部材である。第3カム65は入力軸11を取り囲んでいる。第3カム65は、入力軸11及び円筒部22に対して回転自在に円筒部22の内側に配置されている。第3カム65は、円筒部22に固定された円環状の軸受70により、第1部材20と反対側への軸線O方向の移動が規制されている。第3カム65には、第1部材20側に開放するカム溝66,67が形成されている。カム溝66は、第1カム61のカム溝62と対向する位置に設けられており、カム溝67は、第2カム63のカム溝64と対向する位置に設けられている。カム溝66,67は、径方向に延びる例えば断面三角形の溝である。
第1カム61及び第2カム63と第3カム65とは、回転方向の位相差が設けられている。第1カム61及び第2カム63と第3カム65とは、その位相差の分だけ、第1ボール68及び第2ボール69の反力を受けながら相対回転できる。第1カム61及び第2カム63と第3カム65との相対回転により、第1ボール68又は第2ボール69が第1カム61又は第2カム63と第3カム65とに係合すると、第1カム61又は第2カム63と第3カム65とは一体に回転する。第3カム65は軸線O方向の移動が規制されているので、第1カム61及び第2カム63と第3カム65とに回転差が生じると、第1カム61又は第2カム63を軸線O方向(第2部材30側)へ移動させる。
図4(a)は第3カム65の模式図(カム線図)である。図4(a)は、第3カム65のカム溝66,67が、軸線O回りの回転角を合わせて左右に図示されている。図4(a)に示す矢印Fは、入力軸11(図1参照)の回転方向(正転方向)を示している(以上は図4(b)においても同じ)。
図4(a)に示すように、カム溝66の回転方向における傾斜の向きは、カム溝67の回転方向における傾斜の向きと反対である。第2カム63(図1参照)と第3カム65との相対回転(矢印F方向)により、カム溝67の傾斜に沿って第2ボール69が軸線O方向の第1部材20側(図4(a)右側)へ近づくと、第2ボール69がカム溝64(図1参照)を軸線O方向へ押して、第2カム63は第3カム65から遠ざかるように軸線O方向へ移動する。第2カム63が回転するときは第1カム61も回転するが、カム溝66の傾斜の向きはカム溝67の傾斜の向きと反対なので、第1ボール68は第1カム61(図1参照)を軸線O方向に移動させない。
これにより、図1に示すように、第2カム63は貫通孔28に嵌ったピン55を第2凹部27側へ押し出し、溝26に収容されたリング部材54を第2凹部27内へ押し出す。第2凹部27内へ押し出されたリング部材54は、第2係合子50の第2凹部27への進入を阻止する。
これとは反対に、図4(a)に示すように、第1カム61(図1参照)と第3カム65との相対回転(反矢印F方向)により、カム溝66の傾斜に沿って第1ボール68が軸線O方向の第1部材20側(図4(a)右側)へ近づくと、第1ボール68がカム溝62(図1参照)を軸線O方向へ押して、第1カム61は第3カム65から遠ざかるように軸線O方向へ移動する。第1カム61が回転するときは第2カム63も回転するが、カム溝67の傾斜の向きはカム溝66の傾斜の向きと反対なので、第2ボール69は第2カム63(図1参照)を軸線O方向に移動させない。
これにより、図1に示すように、第1カム61は貫通孔25に嵌ったピン45を第1凹部24側へ押し出し、溝23に収容されたリング部材44を第1凹部24内へ押し出す。第1凹部24内へ押し出されたリング部材44は、第1係合子40の第1凹部24への進入を阻止する。
なお、図4(a)に示す第3カム65は、第1部材20側へ第1カム61及び第2カム63がピン45,55を押し出さない位置(カム溝66,67の底の位置)が同じ回転角となるようにカム溝66,67が設定されている。即ち、カム機構60は、逆転方向(反矢印F方向)から正転方向(矢印F方向)へ第1カム61の回転方向を切り換えるときに第1係合子40及び第2係合子50が噛み合うように軸方向の移動量が設定されている。第1係合子40及び第2係合子50が第1凹部24及び第2凹部27にそれぞれ噛み合った後、第2係合子50の噛み合いが外れるので、第1カム61及び第2カム63と第3カム65との相対回転によって、第1係合子40又は第2係合子50を第1凹部24又は第2凹部27に噛み合い易くできる(遊びを少なくできる)。よって、第1部材20と第3部材30とを素早く同期できる。
図1に示すように第3カム65は、カム溝66が形成された面の反対側の面に、係合部71が設けられている。本実施の形態では、係合部71は第3カム65の径方向の中心から軸線O方向に突出した円筒状の部位であり、係合部71は第3カム65に結合する。
図5は図1のV−V線における二方向クラッチ10の断面図である。図5に示すように第3カム65は、係合部71に質量体72が取り付けられている。質量体72は、第3カム65の慣性質量を大きくするための部材であり、軸線O方向から見て各々が略扇形に形成されている。質量体72は、係合部71の周囲に複数(本実施の形態では2つ)が互いに周方向に間隔をあけて配置されている。質量体72は、係合部71の外周に接触面73が接触する。質量体72の外周に形成された周方向に延びる溝部74に、弾性体75が巻かれている。溝部74は弾性体75の軸線O方向の移動を規制する。本実施の形態では、弾性体75は引張コイルばねの両端に設けられたフックを互いに掛けて環状に形成されている。
制動機構80(図1参照)は、ケース81に固定された摩擦材82を備えている。摩擦材82は質量体72の軸線O方向の端面に接触して、質量体72の回転を規制する。質量体72は、弾性体75により係合部71へ近づく方向(径方向の内側)へ付勢され、接触面73が係合部71に押し付けられる。従って、第3カム65及び係合部71が静止しているときや第3カム65及び係合部71の回転数が低いときには、第3カム65及び係合部71が第1カム61又は第2カム63と一緒に回転しないように、第3カム65に制動力を与えることができる。質量体72によって第3カム65の慣性質量を大きくできるので、位相差の分だけ第1カム61及び第2カム63が相対回転するときに、第1ボール68又は第2ボール69を第1カム61又は第2カム63と第3カム65とに係合し易くできる。
一方、第1ボール68又は第2ボール69が第1カム61又は第2カム63と第3カム65とに係合して、第1カム61又は第2カム63と第3カム65とが一体に回転し、第3カム65及び係合部71の回転数が高くなると、弾性体75の弾性力に抗して、遠心力により質量体72の重心は係合部71から離れる方向(径方向の外側)へ移動する。質量体72の接触面73と係合部71との摩擦力が小さくなると、係合部71は質量体72に対して滑り状態になる。これにより、第1カム61又は第2カム63と一体に回転する第3カム65の慣性モーメントを軽減できるので、フリクションによる損失を少なくできる。
次に図6を参照して、二方向クラッチ10の動作について説明する。図6(a)は入力軸11に正転方向(矢印F方向)のトルクが入力された二方向クラッチ10の模式図である。図6(b)は入力軸11に逆転方向(矢印R方向)のトルクが入力された二方向クラッチ10の模式図である。
図6(a)に示すように第1係合子40及び第2係合子50は、ばね43,53によって、それぞれ第1部材20側へ付勢されている。入力軸11と一体に回転する第1カム61のカム溝62と第3カム65のカム溝66との間の第1ボール68が、正転方向(矢印F方向)へ回転することでカム溝62,66に係合し、第1カム61が第1部材20に対して遠ざかる。一方、第2カム63のカム溝64は、第1カム61のカム溝62と位相が異なるため、第3カム65と第2カム63との間にある第2ボール69の反力により、第2カム63は第1部材20に近づく。
第2カム63は、ばね53の弾性力に抗してピン55を第1部材20側へ押し込み、ピン55に押されたリング部材54は、第2係合子50の本体部51を第2部材30の第2収容部36内へ収容する。第2係合子50は第2凹部27内へ揺動できないので、第2係合子50によるトルク伝達は遮断される。
一方、ばね43に付勢された第1係合子40は揺動して第1凹部24内へ進入する。よって、第1係合子40により第1部材20から第2部材30へ正転方向(矢印F方向)のトルクが伝達される。
この状態から、入力軸11の回転が遅くなるか出力軸12の回転が速くなり、第2部材30の回転数が第1カム61及び第2カム63の回転数より高くなると、第1係合子40の本体部41は第1凹部24と係合できないので、トルク伝達が遮断される。
図6(b)に示すように、入力軸11と一体に回転する第2カム63のカム溝64と第3カム65のカム溝67との間の第2ボール69が、逆転方向(矢印R方向)へ回転することでカム溝64,67に係合し、第2カム63が第1部材20に対して遠ざかる。一方、第1カム61のカム溝62は、第2カム63のカム溝64と位相が異なるため、第3カム65と第1カム61との間にある第1ボール68の反力により、第1カム61は第1部材20に近づく。
第1カム61は、ばね43の弾性力に抗してピン45を第1部材20側へ押し込み、ピン45に押されたリング部材44は、第1係合子40の本体部41を第2部材30の第1収容部32内へ収容する。第1係合子40は第1凹部24内へ揺動できないので、第1係合子40によるトルク伝達は遮断される。
一方、ばね53に付勢された第2係合子50は揺動して第2凹部27内へ進入する。よって、第2係合子50により第1部材20から第2部材30へ逆転方向(矢印R方向)のトルクが伝達される。
この状態から、入力軸11の回転が遅くなるか出力軸12の回転が速くなり、第2部材30の回転数が第1カム61及び第2カム63の回転数より高くなると、第2係合子50の本体部51は第2凹部27と係合できないので、トルク伝達が遮断される。
以上のように、二方向クラッチ10はカム機構60により第1係合子40及び第2係合子50を係合不能にするので、電気エネルギーを機械運動に変換するソレノイド等の装置を不要にできる。ソレノイド等の装置を不要にできる分だけ、二方向クラッチ10を小型化できると共に省電力化できる。
第1カム61、第2カム63及び第3カム65を備えるカム機構60は、第1部材20及び第2部材30と同じ軸線O上に配置される。よって、二方向クラッチ10の大きさが径方向に拡大しないようにできる。また、第1カム61及び第2カム63を備えているので、入力軸11と出力軸12との間で、正転方向および逆転方向のトルクを伝達できる。
第3カム65に配置された弾性体75は、質量体72を係合部71へ近づく方向へ付勢するので、第3カム65の回転数が低いときは、第3カム65の回転数が高いときに比べて、質量体72及び弾性体75によって第3カム65の慣性質量を大きくできる。よって、第3カム65の回転数が低いときにカム機構60を動作(係合)させ易くできると共に、第3カム65の回転数が高いときのフリクションを軽減できる。
第3カム65は、ケース81に固定された摩擦材82によって、質量体72を介して回転方向の摩擦力が付与され、制動作用が生じる。よって、入力軸11、第1カム61及び第2カム63の回転数が低いときは、制動作用によって、カム機構60の動作に必要な第1カム61及び第2カム63と第3カム65との相対回転を発生させ易くできる。
一方、第3カム65の回転数が高くなり、遠心力により質量体72の重心が係合部71から離れる方向(径方向の外側)へ移動すると、係合部71は質量体72に対して滑り状態になるので、摩擦材82による制動作用が低減する。よって、入力軸11の回転数が低いときにカム機構60を動作させ易くできると共に、入力軸11の回転数が高いときのフリクションを軽減できる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、第1係合子40及び第2係合子50の数は例示であり、適宜設定できる。
上記実施の形態では、入力軸11の正転方向のトルクを伝達する第1係合子40を第2部材30の外周側に配置し、入力軸11の逆転方向のトルクを伝達する第2係合子50を第2部材30の内周側に配置する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。これとは逆に、第1係合子40を内周側に配置し、第2係合子50を外周側に配置することは当然可能である。
上記実施の形態では、リング部材44,54を介して第1係合子40及び第2係合子50を軸線O方向に押圧する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。リング部材44,54を省略し、ピン45,55の先端形状や第1係合子40及び第2係合子50の形状を変更することで、ピン45,55を介して第1係合子40及び第2係合子50を軸線O方向に押圧することは当然可能である。
上記実施の形態では、第1カム61及び第2カム63がピン45,55を第1部材20側へ押し出さない位置(カム溝66,67の底の位置)が同じ回転角となるように第3カム65のカム溝66,67が設定される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。図4(b)に示すようにカム溝66,67を設定することは当然可能である。
図4(b)は別の第3カム85の模式図である。図4(b)は、第3カム85のカム溝66,67が、軸線O回りの回転角を合わせて左右に図示されている。第3カム85は、第1カム61及び第2カム63がピン45,55を第1部材20側へ押し出さす位置(カム溝66,67の頂の位置)が同じ回転角となるようにカム溝66,67が設定されている。
即ち、逆転方向(反矢印F方向)から正転方向(矢印F方向)へ第1カム61の回転方向を切り換えるときに第1係合子40及び第2係合子50の噛み合いが外れるように、第3カム85に対する第1カム61及び第2カム63の軸方向の移動量が設定されている。第1係合子40及び第2係合子50が第1凹部24及び第2凹部27から外れた後、第1係合子40が第1凹部24に噛み合うので、第1カム61及び第2カム63と第3カム85との相対回転によって、第1係合子40及び第2係合子50を第1凹部24及び第2凹部27に噛み合い難くできる(遊びを多くできる)。よって、第1係合子40及び第2係合子50が同時に噛み合わないようにできる。
上記実施の形態では、第3カム65に質量体72及び弾性体75を配置すると共に、ケース81に固定された摩擦材82を質量体72に接触させる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。質量体72及び弾性体75、摩擦材82を両方とも省略することは当然可能である。また、質量体72及び弾性体75、摩擦材82のいずれか一方を省略することも当然可能である。質量体72及び弾性体75を省略した場合に、ケース81に固定された摩擦材82を第3カム65に接触させて制動作用を得ることは当然可能である。
上記実施の形態では、第1係合子40及び第2係合子50が同一形状の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1係合子40及び第2係合子50の長さ、幅、厚さが互いに異なるように構成することは当然可能である。
上記実施の形態では、摩擦材82が固定される固定要素としてケース81を例示して説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。固定要素は、第3カム65、85と一体に回転しない部材であれば、ケース81以外にも適宜設定できる。