JP6886861B2 - アルミニウム合金の溶接方法 - Google Patents

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本発明は、アルミニウム合金の溶接方法に関する。
近年、海上輸送用船舶やLNGタンク、化学プラントなどの構造物にアルミニウム合金が用いられている。アルミニウム合金を適用する上では、各部位に必要とされる強度や耐食性、成形性、接合性などを満たす必要があり、種々の検討が成されている。
従来使用されている高強度溶接構造体用アルミニウム合金材としては、5083合金が知られている。前記5083合金は、Mgを4.0〜4.9mass%の間で含有するAl−Mg系合金であって、JIS規格における強度下限値は275MPaである。
Al−Mg系合金の溶接構造体を製造するための溶接方法としては、アーク溶接や電子ビーム溶接、レーザ溶接等が用いられる。また、溶接に際して溶加材を用いる場合には、JIS Z3604に示される指針に沿った溶加材を選定することになる。すなわち、5083合金を溶接する場合に選択される溶加材は5183や5356、5556である。これは、溶接割れを抑制し、高い継手強度が得られるためである。
これに対し、アルミニウム合金材及び溶接継手の高強度化に対する要求が年々高まっている。前記アルミニウム合金材及び溶接継手の高強度化により、同一耐荷重における構成材料の必要厚さは薄くなり、さらに重量は減少することになる。したがって、材料費の低減が可能であるだけでなく、特に船舶などにおいては、積載量の増加にもつながることとなる。
Al−Mg系合金の強度は、Mgやその他の微量元素の添加量によって決まり、Mgを5%以上添加することでJIS5083合金よりも高強度であるAl−Mg系合金も開発されている。しかしながら、これらの高強度Al−Mg系合金に対して、JIS Z3604の指針に沿った溶加材を用いた場合では、溶接継手の強度が使用するAl−Mg系合金相当には達しない。
溶接継手の強度は使用するアルミニウム合金材のO材強度と溶接金属部の強度の関係で決まる。すなわち、O材強度が320MPaを超える高強度Al−Mg系合金を5183や5356などの溶加材で溶接した場合、余盛除去後の溶接継手の強度が315MPaを超えることは無い。これは、母材のO材強度に対して、溶接金属部の強度が低くなるためであり、この時の溶接継手の強度は溶接金属部の強度と同等になる。したがって、高強度Al−Mg系合金を使用して溶接継手を高強度化するためには、溶接金属部を高強度化する必要がある。
また、溶接構造体の製造においては、溶接継手の加工性も重要である。特に、最終的な製品形状を得るためには溶接継手を成形加工する場合が多いため、成形性や曲げ加工性の向上が必要とされている。一般的に、材料及び溶接継手の高強度化により成形性や曲げ加工性は低下するため、加工性を維持しつつ高強度化を実現することが重要である。
特開昭52−128854号公報
5083合金の強度規格下限値が275MPaであることを考慮すると、特許文献1に記載されたアルミニウム合金溶加材を用いたとき、強度が下限に近い5083合金であれば継手効率の低下は発生しない。しかしながら、5083規格以上の強度を有する高強度アルミニウム合金による継手を作製する際には、継手効率が低下することが明白である。また、特許文献1では大入熱溶接として25kJ/cmにおいて継手強度が改善されているが、これよりも高い入熱量になった場合に充分な継手強度を示すかは不明である。さらに、溶接構造体を形成するために重要な曲げ性の評価等なされていない。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、JIS規格の5083合金よりも高強度なAl−Mg系合金を溶接する方法であって、高い継手効率が得られるアルミニウム合金の溶接方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係るアルミニウム合金の溶接方法は、
Mg:5.0〜10.0%(mass%、以下同じ。)、Mn:0.4〜1.5%、Cr:0.05〜0.25%、Zr:0.05%以下、Si:0.4%以下、Fe:0.4%以下、Cu:0.05〜0.50%、Zn:0.25%以下、及びTi:0.25%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成を有するアルミニウム合金の溶加材を使用して、Mg:5.0〜6.5%、Mn:0.5〜1.0%、Cr:0.05〜0.25%、Zn:0.2%以下、Fe:0.25%以下、及びSi:0.25%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成を有するアルミニウム合金の被溶接材を溶接する溶接方法であって、溶接時の入熱量が20〜90kJ/cmである、
ことを特徴とする。
上記のアルミニウム合金の溶接方法において、
記被溶接材がさらにCu:0.05〜0.5%を含む、
こととしてもよい。
前記被溶接材の調質Oにおける引張強さが320MPa以上である、
こととしてもよい。
本発明に係るアルミニウム合金の溶接方法によれば、高Mg添加アルミニウム合金を溶接する場合であっても、高い継手効率、曲げ加工性を有する溶接継手が得られる。さらに大入熱溶接であっても同等の効果を奏する。
本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、高Mg添加アルミニウム合金の調質Oにおける強度と同等の溶接金属部強度を実現するために必要な溶加材組成を見出した。
本発明に係る溶接方法は、所定のアルミニウム合金組成を有する溶加材を使用し、所定のアルミニウム合金成分を有する材料を溶接する際に効果を発揮する。以下に、これらについて説明する。
1.溶加材のアルミニウム合金組成
本発明に係る溶接方法は、Mg:5.0〜10.0%(mass%、以下同じ。)、Mn:0.4〜1.5%、Cr:0.05〜0.25%、Zr:0.05%以下、Si:0.4%以下、Fe:0.4%以下、Cu:0.01〜0.50%、Zn:0.25%以下、及びTi:0.25%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成を有するアルミニウム合金溶加材を使用する。
Mg:5.0〜10.0mass%
Mgは、溶接金属の高強度化を図る上において必須の添加元素である。Mgの有効な添加効果を得る上においては、5.0mass%以上の含有量とする必要がある。他方、Mgの含有量が10.0mass%を超えるようになると、ワイヤ製造のためのビレットを鋳造する際に、金属組織中にMg−Si系脆化層が形成されるようになる。そのため、熱間加工、抽伸加工することが困難となって、目的とする直径の溶加材を得ることが出来なくなる。
Mn:0.40〜1.5mass%
Mnは、溶接金属の高靭性化、溶接継手の曲げ加工性に寄与する成分である。Mnの添加効果を充分に発揮させるためには、0.40mass%以上の割合で含有せしめる必要がある。他方、Mnの含有量が多くなり過ぎると、ワイヤ製造のためのビレット鋳造する際に、粗大なAl−Mn系晶出物が生成して、抽伸加工が困難となる等の問題を惹起するようになる。
Cr:0.050〜0.25mass%
Crは、溶接割れ感受性の低減に効果を奏する元素である。Crの有効な添加効果を得るためには、0.050mass%以上の割合で含有せしめる必要がある。他方、Crの含有量が0.25mass%を超えるようになると、ワイヤ製造のためのビレットを鋳造する際に、金属組織中に粗大なAl−Cr系晶出物を生成して、溶加材としてのワイヤを得るための抽伸加工操作が困難となる問題を惹起する。
Zr:0.050mass%以下
Si:0.40mass%以下
Fe:0.40mass%以下
Zn:0.25mass%以下
Zr、Si、Fe、Znは、何れも、不純物元素であって、それぞれ、上記で規定される含有量以下となるように制御されることが望ましい。Zr含有量が多くなり過ぎると、金属組織中に粗大な凝集物を生成して溶接継手の曲げ加工性を低下する問題を惹起する。Si含有量が多くなり過ぎると、溶接金属部の溶接割れ感受性が高くなる問題が惹起される。Fe含有量が多くなり過ぎると、ワイヤ製造のためのビレットを鋳造する際に、粗大なAl−Fe系晶出物を生成して、抽伸加工操作が困難となる問題を生じる。Zn含有量が多くなり過ぎると、溶接金属部にMg−Zn系脆化層が形成され、溶接継手部位の特性、中でも強度を低下せしめる問題が生じる。
Cu:0.010.50
Cuは選択的添加元素として、溶加材中に所定の成分範囲において添加されることで溶接金属部の強度を高める元素である。さらにはAl−Mg系合金の粒界析出相の一部をAlMgCu系化合物に変化させることで粒界析出相を分断し、粒界耐食性を向上させる働きがある。添加量が0.01mass%未満では効果が不十分であり、0.50mass%を超えると溶接割れ感受性が高くなる問題を惹起する。
2.被溶接材
本発明に係る溶接方法は、Mg:5.0〜6.5%、Mn:0.5〜1.0%、Cr:0.05〜0.25%、Zn:0.2%以下、Fe:0.25%以下、Si:0.25%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成を有するアルミニウム合金を溶接する際に、特にその効果を発揮する。さらにCuを0.050〜0.5mass%添加しても良い。以下に合金組成の限定理由を記す。
Mg:5.0〜6.5mass%
Mgはアルミニウム中に固溶し、強度を高める元素である。添加量が5.0mass%未満であると、目標とする強度が得られない。一方、Mgの添加量が6.5mass%を超えると、工業的な製造が困難であることに加え、溶接継手の曲げ加工性が低下する。
Mn:0.50〜1.0mass%
Mnは鋳造時に強制固溶されたMnが均質化処理及び熱間圧延工程で微細なAl−Mn系化合物を形成し分散強化として強度向上に寄与する元素である。添加量が0.50mass%未満では効果が十分でなく、1.0mass%を超えると効果が飽和するとともに凝固時に巨大な金属間化合物を生成しやすくなる。
Cr:0.050〜0.25mass%
Crはマトリックス中に微細な金属間化合物を形成し、結晶粒径の微細化として作用する。添加量が0.050mass%未満では効果が不十分であり、0.25mass%を超えると凝固時に巨大な金属間化合物を生成しやすくなる。
Zn:0.2mass%以下
Znは、アルミニウム合金の耐応力腐食割れ性を低下させる元素であり、0.2mass%以下に制御する必要がある。Znの含有量が0.2mass%を超えると応力腐食により割れが形成される場合がある。
Fe、Siは工業的なアルミニウム合金中に不可避的に含有される不純物元素であるが、何れも0.25mass%未満であれば特性を損なうものではない。
Cu:0.050〜0.50mass%
Cuはアルミニウム中に固溶し、強度を高める元素である。さらにはAl−Mg系合金の粒界析出相の一部をAlMgCu系化合物に変化させることで粒界析出相を分断し、粒界耐食性を向上させる働きがある。添加量が0.050mass%未満では効果が不十分であり、0.50mass%を超えると熱間圧延性を劣化させる。
その他の元素:
また、本発明に係る高Mg添加アルミニウム合金の残部は、Alと不可避的不純物とからなる。ここで、不可避的不純物は、各々が0.050mass%以下で、かつ、合計で0.150mass%以下であれば、本発明で得られるAl合金材としての特性を損なうことはない。
3.製造方法
本発明に従う溶加材は、上記した合金成分を有するアルミニウム合金を用いて、常法に従って作製されるものである。一般的には、JIS Z3232に規定される径及び許容差の溶接棒又は電極ワイヤとして、実現されることとなる。
4.溶接方法
本発明に係る溶接方法には、アーク溶接等の溶融溶接手法が採用されて、前記した溶加材によって形成される溶接継手を介して一体的に接合されて、目的とする形状乃至は構造の部材を与える接合体が形成される。
さらに、入熱量が20〜90kJ/cmの範囲で溶接することで効果を有する。溶接時の1パスあたりの入熱量は、被溶接材の厚さと溶接パス数により大凡決まる。片側1パス、両側2パスにて突合せ溶接を行う場合、厚さ10mmの被溶接材を溶接する際に10〜20kJ/cmの入熱量が必要となる。したがって、生産性の向上を目的として、低パス数で厚い被溶接材を溶接する際には20kJ/cmを超える入熱量が必要となる。しかしながら、高Mg添加アルミニウム合金を高入熱で溶接する場合には、Mgの蒸発が生じることによって、特に継手効率が低下することが知られている。本発明に係る溶接方法では、Mgの蒸発を補うことが出来るため20kJ/cm以上の高入熱溶接であっても継手効率を低下させることが無い。入熱量が20kJ/cm未満の条件で溶接する場合においては、5183合金、5356合金又は5556合金等の従来の溶加材を使用することで、高い継手効率、曲げ加工性が得られるため、本発明に係る溶接方法は特別な効果を持たない。入熱量が90kJ/cmを越える溶接条件ではパッカリングが発生するため溶接が不可能である。
さらに、被溶接材の調質Oにおける引張強さが320MPa以上であるときに、本発明に係るアルミニウム合金の溶接方法は顕著な効果を奏する。調質Oにおける引張強さが320MPa未満であるアルミニウム合金に対しては、5183合金、5356合金又は5556合金等の従来の溶加材でも充分な継手効率を得ることが出来る。
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
先ず、被溶接材(母材)について、表1に示される各種合金組成のAl−Mg系合金を、通常のDC(Direct Chill)鋳造法によりスラブを作製した。次いで、ここで得られたスラブを均質化処理した後、常法に従って熱間圧延により10〜80mmの板厚を有する調質OのAl材料を得た。ここで、母材No.5については熱間圧延時に割れが発生し、所定の厚さまで熱延出来なかった。なお、表1及び後述の表2の化学成分において、「−」は当該化学成分が検出限界未満であることを示す。
Figure 0006886861
一方、溶加材についても、表2に示される各種合金組成からなるアルミニウム合金を溶製した後、通常のDC鋳造法により各種ビレットを作製した。次いで、得られたビレットを均質化処理した後、常法に従って直接押出して、抽伸用素材を得た。その後、線径が2.4、4.0、4.8mmである溶接ワイヤとして、従来と同様な抽伸加工にて、目的とする各種溶加材を作製した。ここで、溶加材No.10、12、15〜18に記載の成分ではワイヤ抽伸加工時に割れが発生し、目的の線径を有する溶接ワイヤを得ることが出来なかった。
Figure 0006886861
次いで、MIG溶接にて溶接継手の作製を行った。作製した溶接継手はJIS Z3604に準拠したX形開先の突合せ継手である。全ての母材に対し、片側1パス、両側2パスの突合せ溶接を実施し、被溶接材の各板厚に対して用いたMIG溶接条件は表3の通りである。ここで、入熱量については、以下の数式を用いて算出した。
入熱量(kJ/cm)=溶接電流(A)×溶接電圧(V)×60/溶接速度(cm/min)/1000
Figure 0006886861
表1の母材と表2の溶加材、表3の溶接条件によって作製した溶接継手の評価結果を表4に示す。母材強度はJIS Z2241に準拠した方法にて引張試験を行い測定した。継手強度はJIS Z3121に準拠した方法にて引張試験を実施し、継手効率は継手強度と母材強度との比として算出した。また、溶接割れの評価においては、溶接部の外観及び断面観察より、割れが存在しなかったものを「○」、割れが存在したものを「×」とした。さらに、JIS Z3122に準拠した方法にて溶接継手の曲げ試験を行い、表面に割れが発生しなかったものを「○」、3mm未満の割れが発生したものを「△」、3mm以上の割れが発生したもの「×」とした。また、良好な溶接を行うことが不可能であった例については、継手強度、継手効率、溶接割れ評価及び溶接継手曲げ試験の各項目を「−」で表示した。
Figure 0006886861
表4の結果から明らかな如く、本発明に従う合金組成の溶加材及び被溶接材を用いて、所定の入熱条件範囲内でMIG溶接したものである試験結果(No.13〜15、18〜20、23〜24、30〜32、35〜37、40〜41、48〜49、50、53〜55、58〜59)においては、本発明外を溶加材として使用した場合よりも継手効率が高くなり、かつ97%以上の高い継手効率が得られた。
これに対して、被溶接材が低強度であったり(No.1〜8)、溶接時の入熱量が20kJ/cm未満であったりする場合(No.1、2、10、11、27、28、45、46)には、A5183WYを溶加材として使用しても97%以上の継手効率が得られた。この結果から、上記の条件では本発明に従う溶加材を使用する効果は無いことがわかる。
さらに、入熱量が90kJ/cmを超える溶接条件No.5を使用した試験(No.9、26、44、62)では、溶接時の電流値が高すぎることによるパッカリングの発生が見られたため、被溶接材を両側2パスにて良好な溶接を行うことは不可能であった。
溶加材のSi量、Cu量が本発明の上限値より高い場合(No.16、21、33、38、51、56)には、溶接部に割れが発生した。溶接部に割れが発生したものについては、引張試験を実施しなかった。
溶加材のMn量が下限値より低い場合や、Zr量が上限値より高い場合(No.25、42、43、60、61)には、継手効率が96%以下に低下し、溶接継手の曲げ加工性が低下した。

Claims (3)

  1. Mg:5.0〜10.0%(mass%、以下同じ。)、Mn:0.4〜1.5%、Cr:0.05〜0.25%、Zr:0.05%以下、Si:0.4%以下、Fe:0.4%以下、Cu:0.05〜0.50%、Zn:0.25%以下、及びTi:0.25%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成を有するアルミニウム合金の溶加材を使用して、Mg:5.0〜6.5%、Mn:0.5〜1.0%、Cr:0.05〜0.25%、Zn:0.2%以下、Fe:0.25%以下、及びSi:0.25%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物である合金組成を有するアルミニウム合金の被溶接材を溶接する溶接方法であって、溶接時の入熱量が20〜90kJ/cmである、
    ことを特徴とするアルミニウム合金の溶接方法。
  2. 記被溶接材がさらにCu:0.05〜0.5%を含む、
    ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金の溶接方法。
  3. 前記被溶接材の調質Oにおける引張強さが320MPa以上である、
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム合金の溶接方法。
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