以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨は限定されない。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
以下、ハロゲン原子、炭素原子数1以上10以下のアルキル基、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1又は4のアルキル基、炭素原子数1以上3以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上22以下のアリール基、炭素原子数6以上14以下のアリール基、炭素原子数6以上10以下のアリール基、炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基、及び炭素原子数7以上20以下のアラルキル基は、何ら規定していなければ、各々次の意味である。
ハロゲン原子(ハロゲン基)としては、例えば、フッ素原子(フルオロ基)、塩素原子(クロロ基)、臭素原子(ブロモ基)及びヨウ素原子(ヨード基)が挙げられる。
炭素原子数1以上10以下のアルキル基、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1又は4のアルキル基、及び炭素原子数1以上3以下のアルキル基は、各々、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上10以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、直鎖状又は分枝鎖状のヘキシル基、直鎖状又は分枝鎖状のヘプチル基、直鎖状又は分枝鎖状のオクチル基、直鎖状又は分枝鎖状のノニル基、及び直鎖状又は分枝鎖状のデシル基が挙げられる。炭素原子数1以上8以下のアルキル基の例は、炭素原子数1以上10以下のアルキル基の例として述べた基のうち、炭素原子数が1以上8以下である基である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基の例は、炭素原子数1以上10以下のアルキル基の例として述べた基のうち、炭素原子数が1以上6以下である基である。炭素原子数1又は4のアルキル基の例は、炭素原子数1以上10以下のアルキル基の例として述べた基のうち、炭素原子数が1又は4である基である。炭素原子数1以上3以下のアルキル基の例は、炭素原子数1以上10以下のアルキル基の例として述べた基のうち、炭素原子数が1以上3以下である基である。
炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基及び炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基は、各々、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基及びヘキシル基が挙げられる。炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基の例は、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基の例として述べた基のうち、炭素原子数が1以上3以下である基である。
炭素原子数6以上22以下のアリール基、炭素原子数6以上14以下のアリール基、及び炭素原子数6以上10以下のアリール基は、各々、非置換である。炭素原子数6以上22以下のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、インダセニル基、ビフェニレニル基、アセナフチレニル基、アントリル基、フェナントリル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、プレイアデニル基、ピセニル基、ペリレニル基、ペンタフェニル基及びペンタセニル基が挙げられる。炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、インダセニル基、ビフェニレニル基、アセナフチレニル基、アントリル基及びフェナントリル基が挙げられる。炭素原子数6以上10以下のアリール基としては、例えば、フェニル基及びナフチル基が挙げられる。
炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基は、各々、非置換である。炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロペンタデシル基、シクロヘキサデシル基、シクロオクタデシル基、シクロノナデシル基及びシクロイコシル基が挙げられる。炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基の例は、炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基の例として述べた基のうち、炭素原子数が3以上10以下である基である。
炭素原子数7以上20以下のアラルキル基は、非置換である。炭素原子数7以上20以下のアラルキル基としては、例えば、炭素原子数6以上14以下のアリール基を有する炭素原子数1以上6以下のアルキル基が挙げられる。
<第一実施形態:キノン誘導体>
本発明の第一実施形態は、一般式(1)で表される化合物(以下、キノン誘導体(1)と記載することがある)に関する。
一般式(1)中、R1及びR2は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有してもよい炭素原子数6以上22以下のアリール基、炭素原子数7以上20以下のアラルキル基、炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基を表す。R3は、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表す。nは、1以上4以下の整数を表す。nが2以上4以下の整数の場合、複数のR3は、互いに同一でも異なっていてもよい。
キノン誘導体(1)は、電子写真感光体(以下、感光体と記載することがある)の感光層形成に用いることができ、感光体の感度特性の向上と結晶化の抑制とを両立できる。その理由は以下のように推測される。
キノン誘導体(1)は、一般式(1)中のインダンジオン環に含まれるベンゼン環が置換基(具体的には、一般式(1)中のR3で表される基)を有し、且つ所定の化学構造を有する。そして、キノン誘導体(1)は、R3で表される基の結合部位、個数及び種類を調節することで、例えば、後述するように化学構造の対称性が低下し、感光層形成用の溶剤に対する溶解性やバインダー樹脂に対する相溶性が向上する。また、別の例として、キノン誘導体(1)は、R3で表される基をハロゲン原子、又はハロゲン原子を有するアルキル基とすることで、ハロゲン原子の電気陰性度の高さによって分子の極性が増大し、感光層形成用の溶剤に対する溶解性が向上する。このように、キノン誘導体(1)は、R3で表される基により、感光層形成用の溶剤に対する溶解性や、バインダー樹脂に対する相溶性が向上するため、均一な感光層を形成することによって感光体の感度特性を向上できると共に、結晶化も抑制できる。
R1及びR2が表す炭素原子数1以上8以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素原子数1又は4のアルキル基がより好ましく、メチル基又はtert−ブチル基が更に好ましい。
R1及びR2が表す炭素原子数6以上22以下のアリール基としては、炭素原子数6以上14以下のアリール基が好ましく、炭素原子数6以上10以下のアリール基がより好ましい。R1及びR2が表す炭素原子数6以上22以下のアリール基は、置換基として、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有していてもよい。
R1及びR2が表す炭素原子数7以上20以下のアラルキル基としては、炭素原子数6以上14以下のアリール基を有する炭素原子数1以上6以下のアルキル基が好ましい。
R1及びR2が表す炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基としては、炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基が好ましい。
R1及びR2が表す炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基としては、炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基が好ましい。
R1及びR2は、同一であることが好ましく、いずれもメチル基を表すか、又はいずれもtert−ブチル基を表すことがより好ましい。
R3が表すハロゲン原子としては、塩素原子又はフッ素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
R3が表す炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、炭素原子数1又は4のアルキル基が好ましく、メチル基又はn−ブチル基がより好ましい。R3が表す炭素原子数1以上6以下のアルキル基は、置換基としてハロゲン原子を有してもよい。ハロゲン原子としては、塩素原子又はフッ素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。ハロゲン原子を有する炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上3以下のアルキル基の水素原子の全てをフッ素原子で置換した基(炭素原子数1以上3以下のパーフルオロアルキル基)が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
一般式(1)中、1又は複数のR3は、全てがハロゲン原子を表すか、全てが炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すか、全てがハロゲン原子を有する炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すか、又は少なくとも1つが炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表し、かつ少なくとも1つがハロゲン原子を表すことが好ましい。一般式(1)中、nが2以上4以下の整数であり、かつ複数のR3の全てがハロゲン原子を表す場合、複数のR3は、全てがフッ素原子を表すか、全てが塩素原子を表すか、又は少なくとも1つがフッ素原子を表し、かつ少なくとも1つが塩素原子を表すことが好ましい。
感光体の感度特性を更に向上しつつ結晶化を更に抑制するためには、一般式(1)中、1又は複数のR3のうち少なくとも一つは、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有する炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことが好ましい。その理由は以下のように推測される。
ハロゲン原子、及びハロゲン原子を有するアルキル基は、電子求引性基である。そのため、一般式(1)中、1又は複数のR3のうち少なくとも一つがハロゲン原子、又はハロゲン原子を有するアルキル基を表すことで、電荷発生剤からキノン誘導体(1)への電子受容性が向上する。また、キノン誘導体(1)がハロゲン原子を有することで、分子全体における極性が増大し、感光層形成用の溶剤に対する溶解性が向上する。これらにより、ハロゲン原子を有するキノン誘導体(1)は、感光体の形成に用いた場合に更に均一な感光層を形成することができ、感光体の感度特性を更に向上しつつ結晶化を更に抑制できる。
ハロゲン原子及びハロゲン原子を有するアルキル基のうち、ハロゲン原子の方が電子求引性に優れる。また、ハロゲン原子の中では、フッ素原子の電子求引性が特に優れる。そのため、一般式(1)中、1又は複数のR3のうち少なくとも一つはハロゲン原子を表すことがより好ましく、1又は複数のR3の全てがフッ素原子を表すことが更に好ましい。
感光体の感度特性を更に向上しつつ結晶化を更に抑制するためには、キノン誘導体(1)は、一般式(1’)で表されることが好ましい。その理由は、以下のように推測される。一般式(1’)中に、2つのベンゼン環及び1つのシクロペンタンジオン環の各中心を通る線(以下、線Zと記載することがある)を想定する。この線Zに対して、一般式(1’)で表されるキノン誘導体(1)は、非対称の構造を有している。具体的には、R3a〜R3dのうち、R3a及びR3dは線Zを軸として線対称となる位置に存在し、またR3b及びR3cも線Zを軸として線対称となる位置に存在する。一般式(1’)では、R3a及びR3dが異なるか、又はR3b及びR3cが異なるため、キノン誘導体(1)は非対称構造を有する。このように、キノン誘導体(1)が非対称構造を有することで、感光層形成用の溶剤に対する溶解性やバインダー樹脂に対する相溶性が向上する。これにより、キノン誘導体(1)は、感光体の形成に用いた場合に更に均一な感光層を形成することができ、感光体の感度特性を更に向上しつつ結晶化を更に抑制できる。
一般式(1’)中、R3a、R3b、R3c及びR3dは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表す。但し、R3a及びR3dが同一であり、かつR3b及びR3cが同一である場合を除く。
R3a、R3b、R3c及びR3dで表されるハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基として好ましい基は、R3で表されるハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基として好ましい基と同様である。
感光体の感度特性を更に向上しつつ結晶化を更に抑制するためには、キノン誘導体(1)として好ましくは、化学式(1−1)、(1−2)、(1−3)、(1−4)、(1−5)、(1−6)、(1−7)、(1−8)及び(1−9)で表される化合物(以下、それぞれをキノン誘導体(1−1)、(1−2)、(1−3)、(1−4)、(1−5)、(1−6)、(1−7)、(1−8)及び(1−9)と記載することがある)が挙げられる。化学式(1−1)〜(1−3)及び化学式(1−5)〜(1−9)中、t−Buは、tert−ブチル基を表す。化学式(1−4)中、n−Buは、n−ブチル基を表す。
(キノン誘導体(1)の合成)
キノン誘導体(1)は、例えば、反応式(R−1)及び(R−2)で表される反応(以下、反応(R−1)及び(R−2)と記載することがある)に従って、又はこれに準ずる方法によって合成される。なお、反応式(R−1)及び(R−2)で示される一般式(A)、(B)、(C)及び(D)で表される化合物を、各々、化合物(A)、(B)、(C)及び(D)と記載することがある。一般式(A)及び(B)中のYは、各々独立に、ハロゲン原子を表す。一般式(B)、(C)及び(D)中のR1、R2、R3及びnは、各々、一般式(1)中のR1、R2、R3及びnと同義である。Yが表すハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。
反応(R−1)では、1モル当量の化合物(A)と1モル当量の化合物(B)とを反応させて、1モル当量の化合物(C)を得る。詳しくは、化合物(A)及び化合物(B)を、酸触媒の存在下で反応させる。これにより、化合物(A)から−COYが脱離して化合物(C)が得られる。酸触媒としては、塩化アルミニウム及び四塩化チタンが挙げられ、塩化アルミニウムが好ましい。反応(R−1)は、溶媒存在下で行われてもよい。溶媒としては、例えば、ニトロベンゼンが挙げられる。反応(R−1)は、不活性ガス雰囲気下(例えば、窒素ガス雰囲気下)で行われてもよい。反応(R−1)の反応温度は、50℃以上100℃以下であることが好ましい。反応(R−1)の反応時間は、1時間以上10時間以下であることが好ましい。反応(R−1)の終了後、塩化アルミニウム等の配位子を外すために酸を添加してもよい。酸としては、塩酸及びシュウ酸が挙げられ、シュウ酸が好ましい。
反応(R−2)では、1モル当量の化合物(C)と1モル当量の化合物(D)とを反応させて、1モル当量のキノン誘導体(1)を得る。詳しくは、化合物(C)及び化合物(D)を、塩基触媒の存在下で反応させる。塩基触媒としては、例えば、ピリジン及びピコリンが挙げられ、ピリジンが好ましい。なお、ここで挙げた塩基触媒は、溶媒としても機能する。反応(R−2)の反応温度は、15℃以上30℃以下であることが好ましい。反応(R−2)の反応時間は、1時間以上5時間以下であることが好ましい。
反応(R−1)を行った後、得られた化合物(C)を精製してもよい。また、反応(R−2)を行った後、得られたキノン誘導体(1)を精製してもよい。精製方法としては、例えば、公知の方法(例えば、ろ過、シリカゲルクロマトグラフィー又は晶析)が挙げられる。
<第二実施形態:電子写真感光体>
本発明の第二実施形態は、感光体に関する。以下、図1(a)〜図1(c)を参照して、感光体1の構造について説明する。図1(a)〜図1(c)は、各々、第二実施形態に係る感光体1の一例を示す断面図である。
図1(a)に示すように、感光体1は、例えば、導電性基体2と感光層3とを備える。感光層3は単層(一層)である。感光体1は、単層の感光層3を備える単層型電子写真感光体である。
図1(b)に示すように、感光体1は、導電性基体2と、感光層3と、中間層4(下引き層)とを備えてもよい。中間層4は、導電性基体2と感光層3との間に設けられる。図1(a)に示すように、感光層3は導電性基体2上に直接設けられてもよい。或いは、図1(b)に示すように、感光層3は導電性基体2上に中間層4を介して設けられてもよい。中間層4は、一層であってもよく、複数の層であってもよい。
図1(c)に示すように、感光体1は、導電性基体2と、感光層3と、保護層5とを備えてもよい。保護層5は、感光層3上に設けられる。保護層5は、一層であってもよく、複数の層であってもよい。
感光層3の厚さは、感光層3としての機能を十分に発現できる限り、特に限定されない。感光層3の厚さは、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
以上、図1(a)〜図1(c)を参照して、感光体1の構造について説明した。以下、感光体について更に詳細に説明する。
<感光層>
感光層は、電荷発生剤と、キノン誘導体(1)とを少なくとも含有する。感光層は、正孔輸送剤を更に含有してもよい。感光層は、バインダー樹脂を更に含有してもよい。感光層は、必要に応じて、添加剤を含有してもよい。
(キノン誘導体(1))
感光層は、キノン誘導体(1)を含有する。感光層は、例えば、電子輸送剤としてキノン誘導体(1)を含有する。感光層がキノン誘導体(1)を含むことにより、第二実施形態に係る感光体は、優れた感度特性と結晶化の抑制とを両立できる。
感光層は、電子輸送剤としてキノン誘導体(1)のみを含有してもよい。また、感光層は、キノン誘導体(1)に加えて、キノン誘導体(1)以外の電子輸送剤(以下、その他の電子輸送剤と記載することがある)を更に含有してもよい。その他の電子輸送剤の例としては、キノン化合物、ジイミド系化合物、ヒドラゾン系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸及びジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。キノン化合物としては、例えば、ジフェノキノン化合物、アゾキノン化合物、アントラキノン化合物、ナフトキノン化合物、ニトロアントラキノン化合物及びジニトロアントラキノン化合物が挙げられる。
感光層は、キノン誘導体(1)の1種のみを含有してもよく、2種以上を含有してもよい。感光層は、キノン誘導体(1)に加えて、その他の電子輸送剤の1種のみを含有してもよく、その他の電子輸送剤の2種以上を含有してもよい。キノン誘導体(1)の含有量は、電子輸送剤の合計質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
キノン誘導体(1)の含有量は、100質量部のバインダー樹脂に対して、5質量部以上100質量部以下であることが好ましく、20質量部以上40質量部以下であることがより好ましく、33質量部以上40質量部以下であることが更に好ましい。キノン誘導体(1)の含有量が100質量部のバインダー樹脂に対して5質量部以上であると、感光体の感度特性を向上させ易い。キノン誘導体(1)の含有量が100質量部のバインダー樹脂に対して100質量部以下であると、感光層形成用の溶剤にキノン誘導体(1)が溶解し易く、均一な感光層を形成し易くなる。
ここで、一般的な電子輸送剤は、その含有量を増加させるほど感光体の感度特性を向上させることができる。しかし、一般的な電子輸送剤は、その含有量が100質量部のバインダー樹脂に対して33質量部以上であると、感光体の結晶化を生じるおそれがあり、含有量の増加による感光体の感度特性の向上には一定の限界がある。これに対し、キノン誘導体(1)は、上述の通り感光層形成用の溶剤に対する溶解性や、バインダー樹脂に対する相溶性に優れるため、その含有量を100質量部のバインダー樹脂に対して33質量部以上にしても、感光体の結晶化を抑制しつつ感度特性をより向上することができる。つまり、キノン誘導体(1)の含有量を100質量部のバインダー樹脂に対して33質量部以上とすることで、感光体の感度特性の向上と結晶化の抑制とをより高いレベルで達成することができる。
(電荷発生剤)
電荷発生剤は、感光体用の電荷発生剤である限り、特に限定されない。電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(例えば、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム又はアモルファスシリコン)の粉末、ピリリウム顔料、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料及びキナクリドン系顔料が挙げられる。電荷発生剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
フタロシアニン系顔料としては、例えば、無金属フタロシアニン及び金属フタロシアニンが挙げられる。無金属フタロシアニンは、例えば、化学式(CGM2)で表される。金属フタロシアニンとしては、例えば、チタニルフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン及びクロロガリウムフタロシアニンが挙げられる。チタニルフタロシアニンは、化学式(CGM1)で表される。フタロシアニン系顔料は、結晶であってもよく、非結晶であってもよい。フタロシアニン系顔料の結晶形状(例えば、α型、β型、Y型、V型又はII型)については特に限定されず、種々の結晶形状を有するフタロシアニン系顔料が使用される。
無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、無金属フタロシアニンのX型結晶(以下、X型無金属フタロシアニンと記載することがある)が挙げられる。チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、チタニルフタロシアニンのα型、β型及びY型結晶(以下、α型、β型及びY型チタニルフタロシアニンと記載することがある)が挙げられる。
例えば、デジタル光学式の画像形成装置(例えば、半導体レーザーのような光源を使用した、レーザービームプリンター又はファクシミリ)には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体を用いることが好ましい。700nm以上の波長領域で高い量子収率を有することから、電荷発生剤としては、フタロシアニン系顔料が好ましく、無金属フタロシアニン又はチタニルフタロシアニンがより好ましく、X型無金属フタロシアニン又はY型チタニルフタロシアニンが更に好ましく、Y型チタニルフタロシアニンが特に好ましい。
Y型チタニルフタロシアニンは、CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、例えば、ブラッグ角(2θ±0.2°)の27.2°に主ピークを有する。CuKα特性X線回折スペクトルにおける主ピークとは、ブラッグ角(2θ±0.2°)が3°以上40°以下である範囲において、1番目又は2番目に大きな強度を有するピークである。
CuKα特性X線回折スペクトルの測定方法の一例について説明する。試料(チタニルフタロシアニン)をX線回折装置(例えば、株式会社リガク製「RINT(登録商標)1100」)のサンプルホルダーに充填して、X線管球Cu、管電圧40kV、管電流30mA、かつCuKα特性X線の波長1.542Åの条件で、X線回折スペクトルを測定する。測定範囲(2θ)は、例えば3°以上40°以下(スタート角3°、ストップ角40°)であり、走査速度は、例えば10°/分である。
短波長レーザー光源(例えば、350nm以上550nm以下の波長を有するレーザー光源)を用いた画像形成装置に適用される感光体には、電荷発生剤として、アンサンスロン系顔料が好適に用いられる。
電荷発生剤の含有量は、感光層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上4.5質量部以下であることが特に好ましい。
(正孔輸送剤)
正孔輸送剤としては、例えば、トリフェニルアミン誘導体、ジアミン誘導体(例えば、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェニレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルナフチレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェナントリレンジアミン誘導体又はジ(アミノフェニルエテニル)ベンゼン誘導体)、オキサジアゾール系化合物(例えば、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)、スチリル系化合物(例えば、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン)、カルバゾール系化合物(例えば、ポリビニルカルバゾール)、有機ポリシラン化合物、ピラゾリン系化合物(例えば、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン)、ヒドラゾン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物及びトリアゾール系化合物が挙げられる。正孔輸送剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
感光層は、一般式(10)で表される化合物(以下、化合物(10)と記載することがある)を含有することが好ましい。感光層は、例えば、正孔輸送剤として、化合物(10)を含有することが好ましい。
一般式(10)中、R101、R102、R103、R104、R105及びR106は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基又は炭素原子数6以上14以下のアリール基を表す。a、b、c及びdは、各々独立に、0以上5以下の整数を表す。e及びfは、各々独立に、0以上4以下の整数を表す。
aが2以上5以下の整数を表す場合、複数のR101は、互いに同一であっても異なっていてもよい。bが2以上5以下の整数を表す場合、複数のR102は、互いに同一であっても異なっていてもよい。cが2以上5以下の整数を表す場合、複数のR103は、互いに同一であっても異なっていてもよい。dが2以上5以下の整数を表す場合、複数のR104は、互いに同一であっても異なっていてもよい。eが2以上4以下の整数を表す場合、複数のR105は、互いに同一であっても異なっていてもよい。fが2以上4以下の整数を表す場合、複数のR106は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
一般式(10)中、R101、R102、R103、R104、R105及びR106は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことが好ましく、炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表すことがより好ましく、メチル基を表すことが更に好ましい。a、b、c及びdは、各々独立に、0又は1を表すことが好ましく、1を表すことがより好ましい。e及びfは、各々独立に、0又は1を表すことが好ましく、0を表すことがより好ましい。
化合物(10)の好適な例としては、下記化学式(10−1)で表される化合物(以下、化合物(10−1)と記載することがある)が挙げられる。
感光層は、正孔輸送剤として化合物(10)のみを含有してもよい。化合物(10)の含有量は、正孔輸送剤の質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
感光層に含有される正孔輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル酸重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂及びポリエーテル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂及びメラミン樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ化合物のアクリル酸付加物及びウレタン化合物のアクリル酸付加物が挙げられる。感光層は、これらのバインダー樹脂の1種のみを含有してもよく、2種以上を含有してもよい。
これらの樹脂の中では、加工性、機械的特性、光学的特性及び耐摩耗性のバランスに優れた感光層が得られることから、ポリカーボネート樹脂が好ましい。ポリカーボネート樹脂の例としては、ビスフェノールZC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂及びビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂が挙げられる。ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂は、下記化学式(20)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート樹脂である。以下、化学式(20)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート樹脂を、ポリカーボネート樹脂(20)と記載することがある。
(添加剤)
添加剤としては、例えば、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項消光剤又は紫外線吸収剤)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤及びレベリング剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール(例えば、ジ(tert−ブチル)p−クレゾール)、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノン若しくはこれらの誘導体、有機硫黄化合物及び有機燐化合物が挙げられる。
<導電性基体>
導電性基体は、感光体の導電性基体として用いることができる限り、特に限定されない。導電性基体は、少なくとも表面部が導電性を有する材料で形成されていればよい。導電性基体の一例としては、導電性を有する材料で形成される導電性基体が挙げられる。導電性基体の別の例としては、導電性を有する材料で被覆される導電性基体が挙げられる。導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼及び真鍮が挙げられる。これらの導電性を有する材料を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて(例えば、合金として)用いてもよい。これらの導電性を有する材料のなかでも、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることから、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
導電性基体の形状は、画像形成装置の構造に合わせて適宜選択される。導電性基体の形状としては、例えば、シート状及びドラム状が挙げられる。また、導電性基体の厚さは、導電性基体の形状に応じて適宜選択される。
<中間層>
中間層(下引き層)は、例えば、無機粒子及び中間層に用いられる樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層が存在することにより、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、感光体を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇が抑えられると考えられる。
無機粒子としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム、鉄又は銅)、金属酸化物(例えば、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ又は酸化亜鉛)の粒子及び非金属酸化物(例えば、シリカ)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中間層用樹脂としては、中間層を形成する樹脂として用いることができる限り、特に限定されない。中間層は、添加剤を含有してもよい。中間層に含有される添加剤の例は、感光層に含有される添加剤の例と同じである。
<感光体の製造方法>
感光体は、例えば、以下のように製造される。感光体は、感光層用塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥することによって製造される。感光層用塗布液は、電荷発生剤、電子輸送剤及び必要に応じて添加される成分(例えば、正孔輸送剤、バインダー樹脂及び添加剤)を、溶剤に溶解又は分散させることにより製造される。
感光層用塗布液に含有される溶剤は、塗布液に含まれる各成分を溶解又は分散できる限り、特に限定されない。溶剤の例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール又はブタノール)、脂肪族炭化水素(例えば、n−ヘキサン、オクタン又はシクロヘキサン)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン又はキシレン)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素又はクロロベンゼン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル又はプロピレングリコールモノメチルエーテル)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン又はシクロヘキサノン)、エステル類(例えば、酢酸エチル又は酢酸メチル)、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。感光体の製造時の作業性を向上させるためには、溶剤として非ハロゲン溶剤(ハロゲン化炭化水素以外の溶剤)を用いることが好ましい。
感光層用塗布液は、各成分を混合し、溶剤に分散することにより調製される。混合又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー又は超音波分散機を用いることができる。
感光層用塗布液は、各成分の分散性を向上させるために、例えば、界面活性剤を含有してもよい。
感光層用塗布液を塗布する方法としては、塗布液を導電性基体上に均一に塗布できる方法である限り、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ブレードコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法及びバーコート法が挙げられる。
感光層用塗布液を乾燥する方法としては、塗布液中の溶剤を蒸発させ得る限り、特に限定されない。例えば、高温乾燥機又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
なお、感光体の製造方法は、必要に応じて、中間層を形成する工程及び保護層を形成する工程の一方又は両方を更に含んでもよい。中間層を形成する工程及び保護層を形成する工程では、公知の方法が適宜選択される。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
<感光層を形成するための材料>
感光体の感光層を形成するための材料として、以下の電荷発生剤、正孔輸送剤、バインダー樹脂及び電子輸送剤を準備した。
(電荷発生剤)
電荷発生剤として、Y型チタニルフタロシアニン及びX型無金属フタロシアニンを準備した。Y型チタニルフタロシアニンは、第二実施形態で述べた化学式(CGM1)で表され、Y型の結晶構造を有するチタニルフタロシアニンであった。X型無金属フタロシアニンは、第二実施形態で述べた化学式(CGM2)で表され、X型の結晶構造を有する無金属フタロシアニンであった。
(正孔輸送剤)
正孔輸送剤として、第二実施形態で述べた化合物(10−1)(以下、正孔輸送剤(H−1)と記載することがある)を準備した。
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂として、第二実施形態で述べたポリカーボネート樹脂(20)を準備した。ポリカーボネート樹脂(20)の粘度平均分子量は、50000であった。
(電子輸送剤)
電子輸送剤として、第一実施形態で述べたキノン誘導体(1−1)〜(1−9)を準備した。キノン誘導体(1−1)〜(1−9)の各々は、以下の方法で合成した。なお、以下で述べる化学式(A−1)、(B−1)、(C−1)及び(D−1)で表される化合物を、各々、化合物(A−1)、(B−1)、(C−1)及び(D−1)と記載する。また、各化合物の収率はモル比換算により求めた。
(キノン誘導体(1−1)の合成)
反応式(r−1)及び反応式(r−2)で表される反応(以下、反応(r−1)及び(r−2)と記載することがある)に従って、キノン誘導体(1−1)を合成した。
反応(r−1)では、化合物(A−1)及び化合物(B−1)を反応させて、化合物(C−1)を得た。詳しくは、化合物(A−1)1.41g(10mmol)、化合物(B−1)1.54g(10mmol)、及び塩化アルミニウム3.96g(30mmol)をニトロベンゼン(30mL)に溶解させた。得られたニトロベンゼン溶液を窒素ガス雰囲気下、80℃で5時間攪拌した。その後、ニトロベンゼン溶液に10%シュウ酸水溶液(100mL)を加えて、クロロホルムで抽出し、蒸留により溶媒を留去して残渣を得た。展開溶媒としてクロロホルムを用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで残渣を精製した。これにより、化合物(C−1)が得られた。化合物(C−1)の収量は、0.96gであった。化合物(A−1)からの化合物(C−1)の収率は、60%であった。
反応(r−2)では、化合物(C−1)及び化合物(D−1)を反応させて、キノン誘導体(1−1)を得た。詳しくは、化合物(C−1)1.6g(10mmol)及び化合物(D−1)2.2g(10mmol)をピリジン(50mL)に溶解させた。得られたピリジン溶液を室温(25℃)で3時間攪拌した。その後、ピリジン溶液に水100mLを加えて、生じた固体をろ取した。ろ取した固体を、展開溶媒としてクロロホルムを用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、キノン誘導体(1−1)を1.81g得た。化合物(C−1)からのキノン誘導体(1−1)の収率は、50%であった。
(キノン誘導体(1−2)〜(1−9)の合成)
以下の点を変更した以外は、キノン誘導体(1−1)の合成と同様の方法で、化合物(1−2)〜(1−9)を各々合成した。なお、キノン誘導体(1−2)〜(1−9)の合成において使用される各原料は、キノン誘導体(1−1)の合成において使用される対応する原料のモル数と同じモル数で添加した。
反応(r−1)の化合物(B−1)を、表1に示す種類の化合物(具体的には、化合物(B−2)〜(B−9))に変更した。その結果、反応(r−1)の反応生成物として、化合物(C−1)の代わりに、表1に示す種類の化合物(具体的には、化合物(C−2)〜(C−9))が得られた。反応(r−1)で得られた化合物(C−2)〜(C−9)の収量及び収率を表1に示す。なお、化合物(C−2)〜(C−9)は、各々、下記化学式(C−2)〜(C−9)で表される。
反応(r−2)の化合物(C−1)を、表2に示す種類の化合物(具体的には、それぞれ化合物(C−2)〜(C−9))に変更した。また、キノン誘導体(C−4)の合成においては、反応(r−2)の化合物(D−1)を化合物(D−2)に変更した。その結果、反応(r−2)の反応生成物として、キノン誘導体(1−1)の代わりに、表2に示す種類のキノン誘導体(1)(具体的には、キノン誘導体(1−2)〜(1−9))が得られた。反応(r−2)で得られたキノン誘導体(C−2)〜(C−9)の収量及び収率を表2に示す。なお、化合物(C−2)〜(C−9)及び(D−2)は、各々、下記化学式(C−2)〜(C−9)及び(D−2)で表される。
次に、1H−NMR(プロトン核磁気共鳴分光計)を用いて、キノン誘導体(1−1)〜(1−9)の1H−NMRスペクトルを測定した。磁場強度は300MHzに設定した。溶媒として、重水素化クロロホルム(CDCl3)を使用した。内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を使用した。キノン誘導体(1−1)〜(1−9)のうちの代表例として、キノン誘導体(1−2)の1H−NMRスペクトルの化学シフト値を以下に示す。測定された1H−NMRスペクトルの化学シフト値から、キノン誘導体(1−2)が得られていることを確認した。キノン誘導体(1−1)及びキノン誘導体(1−3)〜(1−9)についても、測定された1H−NMRスペクトルの化学シフト値から、キノン誘導体(1−1)及びキノン誘導体(1−3)〜(1−9)の各々が得られていることを確認した。
キノン誘導体(1−2):1H−NMR(300MHz,CDCl3)δ=8.78−8.81(m,2H),7.77−7.83(m,2H),7.43−7.49(m,1H),1.36(s,9H),1.35(s,9H)
比較例で使用する電子輸送剤として、下記化学式(E−1)で表される化合物(以下、化合物(E−1)と記載することがある)も準備した。
<感光体の製造>
感光層を形成するための材料を用いて、感光体(A−1)〜(A−18)及び(B−1)〜(B−4)の各々を製造した。
(感光体(A−1)の製造)
容器内に、電荷発生剤としてのX型無金属フタロシアニン2質量部、正孔輸送剤としての化合物(10−1)50質量部、電子輸送剤としてのキノン誘導体(1−1)30質量部、バインダー樹脂としてのポリカーボネート樹脂(20)100質量部及び溶剤としてのテトラヒドロフラン600質量部を投入した。容器の内容物を、ボールミルを用いて12時間混合して、溶剤に材料を分散させた。これにより、感光層用塗布液を得た。感光層用塗布液を、導電性基体(アルミニウム製のドラム状支持体、直径30mm、全長238.5mm)上に、ブレードコート法を用いて塗布した。塗布した感光層用塗布液を、120℃で80分間熱風乾燥させた。これにより、導電性基体上に、単層の感光層(膜厚30μm)を形成した。その結果、感光体(A−1)が得られた。
(感光体(A−2)〜(A−18)及び(B−1)〜(B−4)の製造)
次の点を変更した以外は、感光体(A−1)の製造と同じ方法で、感光体(A−2)〜(A−18)及び(B−1)〜(B−4)の各々を製造した。感光体(A−1)の製造においては電荷発生剤としてX型無金属フタロシアニンを使用したが、感光体(A−2)〜(A−18)及び(B−1)〜(B−4)の各々の製造においては表3に示す種類の電荷発生剤を使用した。感光体(A−1)の製造においては電子輸送剤としてキノン誘導体(1−1)を使用したが、感光体(A−2)〜(A−18)及び(B−1)〜(B−4)の各々の製造においては表3に示す種類の電子輸送剤を使用した。
<感度特性の評価>
感光体(A−1)〜(A−18)及び(B−1)〜(B−4)の各々に対して、感度特性の評価を行った。感度特性の評価は、温度23℃及び相対湿度50%RHの環境下で行った。まず、ドラム感度試験機(ジェンテック株式会社製)を用いて、感光体の表面を+600Vに帯電させた。次いで、バンドパスフィルターを用いて、ハロゲンランプの白色光から単色光(波長780nm、半値幅20nm、光エネルギー1.5μJ/cm2)を取り出した。取り出された単色光を、感光体の表面に照射した。照射が終了してから50ミリ秒経過した時の感光体の表面電位を測定した。測定された表面電位を、露光後電位(VL、単位:+V)とした。測定された感光体の露光後電位(VL)を、表3に示す。なお、露光後電位(VL)が小さい正の値であるほど、感光体の感度特性(特に、露光光に対する感度特性)が優れていることを示す。露光後電位(VL)が+155V以上である感光体を、感光体の感度特性が不良であると評価した。
<結晶化の有無の評価>
感光体(A−1)〜(A−18)及び(B−1)〜(B−4)の各々の表面(感光層)全域を、肉眼で観察した。そして、感光層における結晶化した部分の有無を確認した。確認結果を、表3に示す。
表1中、CGM、HTM、ETM、VL、X−H2Pc、及びY−TiOPcは、各々、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、露光後電位、X型無金属フタロシアニン、及びY型チタニルフタロシアニンを示す。表1中、「なし」は感光層に結晶化した部分が確認されなかったことを示し、「若干結晶化」は感光層に結晶化した部分が若干確認されたことを示す。
感光体(A−1)〜(A−18)は、導電性基体と、単層の感光層とを備えていた。感光層は、電荷発生剤とキノン誘導体(1)とを少なくとも含有していた。具体的には、感光層は、一般式(1)に包含されるキノン誘導体(1−1)〜(1−9)の何れかを含有していた。そのため、表3から明らかなように、感光体(A−1)〜(A−18)では、露光後電位が小さい正の値であり、感光体の感度特性が優れていた。また、感光体(A−1)〜(A−18)では、感光層に結晶化した部分が確認されず、感光層の結晶化も抑制されていた。このように、感光体(A−1)〜(A−18)では、優れた感度特性と結晶化の抑制とが両立していた。
一方、感光体(B−1)〜(B−4)の感光層は、キノン誘導体(1)が含有されていなかった。具体的には、感光体(B−1)〜(B−4)の感光層には化合物(E−1)が含有されていたが、化合物(E−1)は一般式(1)に包含される化合物ではなかった。そのため、表3から明らかなように、感光体(B−1)〜(B−3)では、露光後電位が大きい正の値であり、感度特性が不合格であった。また、感光体(B−3)〜(B−4)では、感光層に結晶化した部分が若干確認され、結晶化が抑制されていなかった。このように、感光体(B−1)〜(B−4)では、優れた感度特性と結晶化の抑制とを両立していなかった。
以上のことから、本発明に係るキノン誘導体は、感光体の感度特性の向上と結晶化の抑制とを両立できた。また、本発明に係る感光体は、優れた感度特性と結晶化の抑制とを両立できた。