以下、本発明の熱線遮蔽粒子、熱線遮蔽粒子の製造方法、熱線遮蔽粒子分散液、熱線遮蔽粒子分散液の製造方法、熱線遮蔽粒子分散体、熱線遮蔽合わせ透明基材、熱線遮蔽透明基材の一実施形態について説明する。
[熱線遮蔽粒子]
本実施形態の熱線遮蔽粒子は、複合タングステン酸化物を含有する粒子とすることができる。
上記複合タングステン酸化物は、M元素(M:H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素)とタングステンと酸素とを含むことができる。
上記複合タングステン酸化物は、M元素の席占有率(S)が85%以上であり、正方晶、立方晶、六方晶、及び単斜晶から選択される1種類以上の結晶構造を有し、X線回折法により求めた、複合タングステン酸化物の格子歪は0.25%以下とすることができる。
そして、本実施形態の熱線遮蔽粒子は、平均粒径を5nm以上200nm以下とすることができる。
本発明の発明者らは、耐侯性を高めた熱線遮蔽粒子とすることを目的とし鋭意検討を行った。
複合タングステン酸化物を含有する粒子である熱線遮蔽粒子は、可視光透過性の向上や、光の散乱の抑制等を目的として、ミクロンオーダーの複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子から、ナノメートルオーダーに微細化する処理が行われている。しかし、熱線遮蔽粒子をナノメートルオーダーまで微細化する際、熱線遮蔽粒子の表面に表面劣化層が生じ、耐侯性を低下させる原因となっていることを本発明の発明者らは見出した。具体的には、熱線遮蔽粒子の表面に表面劣化層が生じることで耐侯性が低下し、例えば熱線遮蔽粒子を含む熱線遮蔽粒子分散体等を長期間、屋外等で用いると、加熱劣化、湿熱劣化等の問題が生じたり、また、上記熱線遮蔽粒子を含む熱線遮蔽粒子分散体等が太陽光線に短時間さらされるだけで、そのさらされた部分のみが太陽光線中の紫外線成分により表面劣化層に起因する紫外線着色等の光着色が生じ、著しい外観不良・機能不良を引き起こすことを見出した。
そこで、さらに検討を行い、表面劣化層を抑制した熱線遮蔽粒子とすることで、耐侯性を高められることを見出し、本発明を完成させた。
本実施形態の熱線遮蔽粒子は、複合タングステン酸化物を含有する粒子とすることができる。
複合タングステン酸化物は、既述の様にM元素と、タングステンと、酸素とを含有することができる。
M元素としては、上述の様にH、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素が挙げられる。
複合タングステン酸化物の結晶構造は特に限定されないが、例えば正方晶、立方晶、六方晶、及び単斜晶から選択される1種類以上の結晶構造を有することができる。特に耐久性に優れることから、複合タングステン酸化物の結晶構造は、正方晶、立方晶、六方晶から選択される1種類以上の結晶構造であることが好ましく、六方晶であることがより好ましい。これは、六方晶の複合タングステン酸化物が、高い可視光透過率と、高い近赤外光吸収率の両立という観点からして、最も適しているからである。
上述の様に複合タングステン酸化物は六方晶の結晶構造を有することがより好ましい。そして、複合タングステン酸化物は、M元素により取りやすい結晶構造があることから、M元素は複合タングステン酸化物が六方晶を取りやすい元素であることが好ましい。このため、複合タングステン酸化物のM元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上であることが好ましく、K、Cs、Rbから選択される1種類以上であることがより好ましい。
複合タングステン酸化物としては、例えばMxWOy(Mは上述のM元素、Wはタングステン、Oは酸素)で表される化合物を挙げることができる。上述の式中、M元素の添加量xは、0.001以上1.1以下が好ましく、0.3以上1/3以下であることがより好ましい。特に0.33付近がさらに好ましい。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出されるxの値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。一方、酸素の存在量yは2.2以上3.0以下が好ましい。典型的な例としてはCs0.33WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3などを挙げることができるが、x、yが上記の範囲に収まるものであれば、特に有用な近赤外線吸収特性を得ることができる。
複合タングステン酸化物としては、例えばCsxWOy(Csはセシウム、Wはタングステン、Oは酸素、0.3≦x≦1/3、2.2≦y≦3.0)を主成分として含有することが好ましい。ここでいう主成分として含有するとは、複合タングステン酸化物のうち、含有量が最も多いことを意味し、例えば50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましい。なお、上限値は特に限定されないが、例えば複合タングステン酸化物は、上述のCsxWOyから構成することもできることから、100質量%以下とすることができる。
そして、既述の様に、本実施形態の熱線遮蔽粒子は、表面劣化層が抑制されていることが好ましい。なお、ここでいう表面劣化層とは、例えば熱線遮蔽粒子をナノメートルオーダーに微細化する際、粒子表面において表面のM元素が脱離した層を意味する。係る表面劣化層を含有する程度は、例えば熱線遮蔽粒子に含まれる複合タングステン酸化物の、M元素の席占有率や、格子歪により評価することができる。
本実施形態の熱線遮蔽粒子が含有する複合タングステン酸化物のM元素の席占有率は、既述の様に85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。なお、M元素の席占有率の上限値は特に限定されないが、M元素の席占有率は表面劣化層を含まないことを意味する100%であることが好ましいことから、100%以下であることが好ましい。
なお、M元素の席占有率は、例えば熱線遮蔽粒子について粉末X線回折により、XRDパターンを測定し、Rietveld法等により算出することができる。
また、格子歪は0.25%以下であることが好ましく、0.20%以下であることがより好ましい。格子歪の下限値は特に限定されないが、例えば0%以上とすることができる。格子歪についても、M元素の席占有率と同様に、粉末X線回折の回折パターンからRietveld法等により算出することができる。
なお、本実施形態の熱線遮蔽粒子は、粒子表面の上述のM元素が脱離した層である表面劣化層の厚さは薄い方が好ましく、表面劣化層の厚さは例えば1nm以下であることが好ましく、0.5nm以下であることがより好ましい。表面劣化層の厚さの下限値は特に限定されないが、表面劣化層はないことが好ましいことから、下限値は0であることが好ましい。
表面劣化層の厚さは、例えば球面収差補正透過型電子顕微鏡(Cs−TEM:Spherical Aberration Corrected Transmission Electron Microscope)による表面劣化層の直接観察、あるいは、複合タングステン酸化物を含有する熱線遮蔽粒子膜や熱線遮蔽粒子分散体における表面劣化層の修復前後の可視光透過率の変化からの間接的算出などにより評価することができる。
本実施形態の熱線遮蔽粒子は、既述の様に可視光透過率の向上や、光の散乱抑制等を目的として微細化され、ナノメートルオーダーの粒径を有することが好ましい。
特に、熱線遮蔽粒子の、粒子による光の散乱を低減することを重視するのであれば、熱線遮蔽粒子の平均粒径は200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
これは、熱線遮蔽粒子の平均粒径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm〜780nmの可視光線領域における光の散乱が低減されるからである。
特に熱線遮蔽粒子の平均粒径(分散粒子径)を200nm以下に低下させていくことで、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。そして、幾何学散乱等の光の散乱が低減される結果、該熱線遮蔽粒子を含む熱線遮蔽膜が曇りガラスのようになって鮮明な透明性が得られなくなるのを回避でき好ましい。これは、当該レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、平均粒径の低下に伴い散乱が低減し、透明性が向上するからである。さらに、分散粒子径が50nm以下になると、散乱光は非常に少なくなりより好ましい。
光の散乱を回避する観点からは平均粒径が小さい方が好ましいため、熱線遮蔽粒子の平均粒径の下限値は特に限定されないが、工業的に容易に製造できるサイズである5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。
なお、平均粒径とは粒度分布における積算値50%での粒径を意味しており、本明細書において他の部分でも平均粒径は同じ意味を有している。該粒度分布の測定方法としては、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた粒子ごとの粒径の直接測定を用いることができる。
以上に説明した本実施形態の熱線遮蔽粒子は、耐久性・耐侯性に優れており、安定した熱線遮蔽機能を発揮することができる。
[熱線遮蔽粒子の製造方法]
次に、本実施形態の熱線遮蔽粒子の製造方法の一構成例について説明する。
本実施形態の熱線遮蔽粒子の製造方法により、既述の熱線遮蔽粒子を製造することができるため、既に説明した事項については、一部説明を省略する。
本実施形態の熱線遮蔽粒子の製造方法は、複合タングステン酸化物を含有する粒子である熱線遮蔽粒子の製造方法である。
なお、既述の様に複合タングステン酸化物は、M元素(M:H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素)とタングステンと酸素とを含み、複合タングステン酸化物は正方晶、立方晶、六方晶、及び単斜晶から選択される1種類以上の結晶構造を有することができる。そして、以下の工程を有することができる。
平均粒径が0.5μm以上20μm以下の複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を、平均粒径5nm以上200nm以下にまで微細化する微細化工程。
微細化工程において、複合タングステン酸化物を含有する粒子の表面に形成された、M元素が脱離した層である表面劣化層に、M元素を再挿入する修復工程。
本実施形態の熱線遮蔽粒子の製造方法の各工程について説明する。
微細化工程では、上述の様に、平均粒径が0.5μm以上20μm以下の複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を、平均粒径5nm以上200nm以下にまで微細化することができる。
なお、複合タングステン酸化物の結晶構造は特に限定されないが、例えば正方晶、立方晶、六方晶、及び単斜晶から選択される1種類以上の結晶構造を有することができる。特に耐久性に優れることから、複合タングステン酸化物の結晶構造は、正方晶、立方晶、六方晶から選択される1種類以上の結晶構造であることが好ましく、六方晶であることがより好ましい。
そして、複合タングステン酸化物のM元素は複合タングステン酸化物が六方晶を取りやすい元素であることが好ましい。このため、複合タングステン酸化物のM元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上であることが好ましく、K、Cs、Rbから選択される1種類以上であることがより好ましい。
複合タングステン酸化物としては、例えばMxWOy(Mは上述のM元素、Wはタングステン、Oは酸素)で表される化合物を挙げることができる。上述の式中、M元素の添加量xは、0.001以上1.1以下が好ましく、0.3以上1/3以下であることがより好ましい。特に0.33付近がさらに好ましい。一方、酸素の存在量yは2.2以上3.0以下が好ましい。典型的な例としてはCs0.33WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3などを挙げることができるが、x、yが上記の範囲に収まるものであれば、特に有用な近赤外線吸収特性を得ることができる。
複合タングステン酸化物としては、例えばCsxWOy(Csはセシウム、Wはタングステン、Oは酸素、0.3≦x≦1/3、2.2≦y≦3.0)を主成分として含有することが好ましい。ここでいう主成分として含有するとは、複合タングステン酸化物のうち、含有量が最も多いことを意味し、例えば50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上とすることがより好ましい。なお、上限値は特に限定されないが、例えば複合タングステン酸化物は、上述のCsxWOyから構成することもできることから、100質量%以下とすることができる。
そして、微細化工程において、複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を微細化する方法は特に限定されない。例えば分散処理、粉砕処理から選択された1種類以上の処理により微細化することができる。
分散処理としては、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカーなどの媒体ミルや、超音波分散、高圧衝突式分散機、高圧噴霧式分散機等により、複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を、粉砕し、溶媒中に分散する処理が挙げられる。分散処理を行う場合、溶媒(分散媒)としては、例えば熱線遮蔽粒子分散液について後述する液状媒体等を好ましく用いることができる。
なお、複合タングステン酸化物を含有する粒子を溶媒中に分散した際、分散性を高めるため、必要に応じて分散剤、カップリング剤、界面活性剤等を添加することもできる。
また、粉砕処理としては、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカーなどの媒体ミルやジェットミル、高圧衝突式分散機、高圧噴霧式分散機等で、複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を粉砕する処理が挙げられる。
微細化工程においては、例えば複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を、平均粒径が200nm以下となるように微細化することが好ましく、100nm以下となるように微細化することがより好ましく、50nm以下となるように微細化することがさらに好ましい。
なお、微細化工程において、複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を微細化する際、過度に微細化すると微細化工程に長時間を要することになるので、平均粒径が5nm以上となるように微細化することが好ましく、10nm以上となるように微細化することがより好ましい。
微細化工程における微細化条件は特に限定されるものではなく、例えば微細化工程に供する複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子と、微細化工程で用いる装置等を用いて、予め所望の平均粒径まで微細化できるように、微細化処理の条件を選択しておくことが好ましい。
次に、修復工程について説明する。修復工程では、微細化工程において、複合タングステン酸化物を含有する粒子の表面に形成された、M元素が脱離した層である表面劣化層に、M元素を再挿入することができる。
M元素を再挿入する方法は特に限定されないが、例えば修復工程において、表面劣化層を有する複合タングステン酸化物を含有する粒子を、M元素を含有する化合物と接触させ、還元雰囲気下で加熱処理を行い、表面劣化層に、M元素を再挿入することができる。
なお、微細化工程において、分散処理を行う場合(以下、微細化工程において分散処理も行う場合、係る工程を「微細化・分散化工程」と記載する)、複合タングステン酸化物を含有する粒子から脱離したM元素は、例えば分散液の分散媒(溶媒)中に含まれている。このため、修復工程ではM元素を含有する化合物は新たに添加せずに、分散液の分散媒(溶媒)中に含まれているM元素、もしくはM元素を含有する化合物を用い、還元雰囲気下で係る分散液を加熱処理するのみとすることもできる。
微細化・分散化工程を行った場合、得られた複合タングステン酸化物を含有する粒子を分散させた分散液について、修復工程を実施することで、表面劣化層を修復した熱線遮蔽粒子、もしくは熱線遮蔽粒子膜を得ることができる。
なお、微細化工程において、複合タングステン酸化物を含有する粒子の表面にM元素が脱離した層である表面劣化層が形成されると同時に、M元素を再挿入する方法を採用することもできる。この場合、微細化工程において、表面劣化層の形成を抑制する方法も広義の修復工程に含め、微細化工程と修復工程が共存したものとみなすことができる。上述の表面劣化層の形成を抑制する方法とは、例えば複合タングステン酸化物を含有する粒子に含まれる複合タングステン酸化物のタングステン(W)が酸化され、タングステンの酸化に伴うM元素の脱離することを抑制する方法を意味する。
以上のように微細化工程と、修復工程とを同時に実施することもできる。
具体的には例えば、微細化工程を、還元雰囲気下で実施し、上述のように、微細化工程と、修復工程とを同時に実施することもできる。微細化工程を、還元雰囲気下で実施し、微細化工程と、修復工程とを同時に実施する場合、例えば、微細化工程が上述の微細化・分散化工程であれば、別途修復工程を実施せず、微細化・分散化工程で得られた熱線遮蔽粒子分散液を乾燥等することで、液状媒体を除去し、所望の熱線遮蔽粒子を得ることもできる。
なお、微細化工程と修復工程とを同時に実施する場合でも、修復工程と同時に行った微細化工程の後、さらに修復工程を実施しても良い。
還元雰囲気としては特に限定されないが、還元性ガスを含有する雰囲気、例えば水素(H2)、及びヒドラジン(N2H4)から選択された1種類以上を含有する雰囲気とすることができる。
修復工程において加熱処理を行う場合、加熱処理の際の条件は特に限定されるものではなく、表面劣化層にM元素を再挿入できるように予備試験等を行い、温度等の条件を選択することができる。
本実施形態の熱線遮蔽粒子の製造方法は、上述の工程以外に任意の工程を有することもできる。
例えば微細化工程に供する複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を製造する工程を有することもできる。なお、本実施形態の熱線遮蔽粒子の製造方法は、上述の様に複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を製造する工程をさらに有することもできるが、予め製造された複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を用い、該複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を製造する工程は有しなくても良い。
微細化工程に供する複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子は、例えばタングステン化合物出発原料や、元素M含有出発原料を含有する原料を、それぞれを良く混合した後、不活性雰囲気または還元雰囲気中で熱処理して得ることができる。
タングステン化合物出発原料としては特に限定されないが、例えば三酸化タングステン粉末、二酸化タングステン粉末、酸化タングステンの水和物、六塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末、タングステン酸から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
さらに、上記タングステン化合物出発原料へ、元素M含有出発原料を添加することができる。元素Mとしては、既述のようにH、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素を挙げることができる。元素M含有出発原料としては、上述の元素Mの元素単体、及び元素Mを含有する化合物から選択された1種類以上が挙げられる。
熱処理に供する原料は、上述のタングステン化合物出発原料と、元素M含有出発原料との固体混合物であってもよい。特に、熱処理に供する原料は、各成分が分子レベルで均一に混合していることが理想的であって、係る各分子が分子レベルで均一に混合した原料を製造する為には、各原料を溶液の形で混合することが好ましい。
このため、元素M含有出発原料、及びタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素M含有出発原料、及びタングステン化合物出発原料として、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等が挙げられる。もっとも、これらに限定されるものではなく、溶液状になるものであれば好適に用いることができる。なお、原料が固体混合物の場合には、分子レベルでの均一な混合は不可能であるが、この場合でも、できるだけ均一な状態になるように十分に混合しておくことが好ましい。
不活性雰囲気中における熱処理条件としては、熱処理温度が650℃以上であることが好ましい。650℃以上の熱処理で得られる複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子は、十分な近赤外線吸収力を有し熱線遮蔽粒子として効率が良い。不活性ガスとしては、例えばアルゴン(Ar)、窒素(N2)等を用いることができる。
一方、還元雰囲気中における熱処理条件としては、まず原料を還元雰囲気中にて温度100℃以上650℃以下で熱処理し、次いで不活性雰囲気中において、温度650℃以上1200℃以下で熱処理することが好ましい。このときの還元性ガスは特に限定されないが、水素(H2)が好ましい。そして、還元性ガスとして水素を用いる場合、還元雰囲気の組成は、例えば、アルゴン、窒素等の不活性ガスに水素を体積比で0.1%以上混合したものが好ましく、0.2%以上混合することがより好ましい。これは水素が体積比で0.1%以上である還元雰囲気は、効率よく還元を進めることができるからである。
水素を含む還元雰囲気中で還元熱処理で得られる複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子は良好な熱線遮蔽特性を示し、この状態であっても熱線遮蔽粒子として使用可能である。しかし、上記還元熱処理で得られた複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子は、さらに熱処理を継続して施すことで、その結晶性を高めて安定化することが好ましい。しかしながら、そのままの還元熱処理を長時間行うと、還元が過剰に進み過ぎて目的と異なる構造をもつ複合タングステン酸化物や、金属タングステンといった意図しない副反応物が生成する可能性がある。そこで、上記還元熱処理で得られた複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子に対し、水素等の還元性ガスを含まない不活性雰囲気中、温度650℃以上1200℃以下で追加の熱処理することで、複合タングステン酸化物の結晶構造を維持したまま結晶性を向上させ、より耐候性に優れた安定な熱線遮蔽粒子を得ることができる。上記熱処理時の不活性雰囲気の種類は特に限定されないが、工業的観点から窒素や、アルゴンが好ましい。
[熱線遮蔽粒子分散液]
次に、本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液の一構成例について説明する。
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液は、液状媒体中に、既述の熱線遮蔽粒子が分散した分散液とすることができる。
ここでいう液状媒体の種類は特に限定されないが、例えば水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、可塑剤から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
有機溶媒としては、熱線遮蔽粒子の分散性を保つための機能と、分散液を塗布する際に塗布欠陥を生じさせないための機能を有していることが好ましい。有機溶媒としては例えば、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール(DAA)等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、ギ酸アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸ブチル、酪酸イソプロピル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3−オキシプロピオン酸メチル、3−オキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸メチル、2−オキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸プロピル、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−エトキシプロピオン酸メチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−メトキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−エトキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸メチル、2−オキソブタン酸エチル等のエステル系溶媒、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、1、3−オクチレングリコール等のグリコール系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BCS)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC、またはPGMEA)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体、トルエン、キシレン、メシチレン、ドデシルベンゼン等のベンゼン誘導体、2−アミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、ジエタノールアミン等のアミン系溶媒、ホルムアミド(FA)、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、エチレンクロライド、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ミネラルスピリッツ、ターピネオール等を挙げることができ、これらの中から選択した1種類、または2種類以上を組みあわせて用いることができる。
上記した中でも、有機溶媒としては極性の低い有機溶媒をより好ましく用いることができ、特にMIBK、MEK等のケトン系溶媒や、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、PGM−AC、PE−AC等のグリコール誘導体等、疎水性の高いものがより好ましい。このため、これらの中から選択した1種類または2種類以上を組みあわせて用いることが好ましい。
油脂としては例えば、アマニ油、ヒマワリ油、桐油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類、アイソパーE、エクソールHexane、エクソールHeptane、エクソールE、エクソールD30、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(以上、エクソンモービル製)などの石油系溶剤から選択された1種類以上を用いることができる。
液状樹脂としては、例えば液状アクリル樹脂、液状エポキシ樹脂、液状ポリエステル樹脂、液状ウレタン樹脂から選択された1種類以上を用いることができる。
可塑剤としては、例えば液状プラスチック用可塑剤等を用いることができる。
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液は、上述の熱線遮蔽粒子、及び液状媒体以外にも、任意の成分を含有することもできる。
任意の成分として、熱線遮蔽粒子分散液は、例えば分散剤、カップリング剤、界面活性剤から選択された1種類以上をさらに含有することもできる。
分散剤、カップリング剤、界面活性剤は、用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基から選択された1種類以上の官能基を有しているものであることが好ましい。これらの官能基は熱線遮蔽粒子の表面に吸着し、熱線遮蔽粒子の凝集を防ぐことができ、例えば熱線遮蔽粒子分散液中で、熱線遮蔽粒子を均一に分散させることができる。また、熱線遮蔽粒子分散液を用いて作製した熱線遮蔽粒子分散体中や熱線遮蔽コーティング層中において、熱線遮蔽粒子を均一に分散させる効果を発揮する。
分散剤、カップリング剤、界面活性剤としては、例えばリン酸エステル化合物、高分子系分散剤、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、等を好適に用いることができるが、これらに限定されるものではない。高分子系分散剤としては、アクリル系高分子分散剤、ウレタン系高分子分散剤、アクリル・ブロックコポリマー系高分子分散剤、ポリエーテル類分散剤、ポリエステル系高分子分散剤等が挙げられる。
熱線遮蔽粒子分散液への分散剤、カップリング剤、界面活性剤から選択された1種類以上の材料の添加量は、熱線遮蔽粒子100質量部に対し1質量部以上100質量部以下の範囲であることが好ましく、5質量部以上50質量部以下の範囲であることがより好ましい。例えば分散剤等の添加量が上記範囲にあれば、熱線遮蔽粒子の分散液中での凝集を抑制し、分散安定性を高く保つことができるため、好ましい。
以上に説明した本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液は、既述の耐侯性に優れた熱線遮蔽粒子を含んでいる。このため、本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液についても耐侯性に優れ、熱線遮蔽機能が安定した特性を有することができる。
[熱線遮蔽粒子分散液の製造方法]
次に、本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液の製造方法の一構成例について説明する。
なお、本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液の製造方法により、既述の熱線遮蔽粒子分散液を製造することができるため、既に説明した事項については、一部説明を省略する。
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液の製造方法は、液状媒体中に、複合タングステン酸化物を含有する粒子である熱線遮蔽粒子が分散した熱線遮蔽粒子分散液の製造方法に関し、以下の微細化・分散化工程、及び修復工程を有することができる。
なお、上記複合タングステン酸化物は、M元素(M:H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選択される1種類以上の元素)とタングステンと酸素とを含むことができる。また、複合タングステン酸化物は正方晶、立方晶、六方晶、及び単斜晶から選択される1種類以上の結晶構造を有することができる。
微細化・分散化工程は、平均粒径が0.5μm以上20μm以下の複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を、湿式分散処理により平均粒径が5nm以上200nm以下になるまで微細化し、かつ液状媒体中に分散することができる。
修復工程は、微細化・分散化工程において複合タングステン酸化物を含有する粒子の表面に形成された、M元素が脱離した層である表面劣化層に、M元素を再挿入することができる。
なお、上記複合タングステン酸化物の結晶構造は特に限定されないが、例えば正方晶、立方晶、六方晶、及び単斜晶から選択される1種類以上の結晶構造を有することができる。特に耐久性に優れることから、複合タングステン酸化物の結晶構造は、正方晶、立方晶、六方晶から選択される1種類以上の結晶構造であることが好ましく、六方晶であることがより好ましい。
そして、複合タングステン酸化物は、M元素により取りやすい結晶構造があることから、M元素は複合タングステン酸化物が六方晶を取りやすい元素であることが好ましい。このため、複合タングステン酸化物のM元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上であることが好ましく、K、Cs、Rbから選択される1種類以上であることがより好ましい。
複合タングステン酸化物としては、例えばMxWOy(Mは上述のM元素、Wはタングステン、Oは酸素)で表される化合物を挙げることができる。上述の式中、M元素の添加量xは、0.001以上1.1以下が好ましく、0.3以上1/3以下であることがより好ましい。特に0.33付近がさらに好ましい。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出されるxの値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。一方、酸素の存在量yは2.2以上3.0以下が好ましい。典型的な例としてはCs0.33WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3などを挙げることができるが、x、yが上記の範囲に収まるものであれば、特に有用な近赤外線吸収特性を得ることができる。
複合タングステン酸化物としては、例えばCsxWOy(Csはセシウム、Wはタングステン、Oは酸素、0.3≦x≦1/3、2.2≦y≦3.0)を主成分として含有することが好ましい。ここでいう主成分として含有するとは、複合タングステン酸化物のうち、含有量が最も多いことを意味し、例えば50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましい。なお、上限値は特に限定されないが、例えば複合タングステン酸化物は、上述のCsxWOyから構成することもできることから、100質量%以下とすることができる。
微細化・分散化工程では、上述のように平均粒径が0.5μm以上20μm以下の複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を、湿式分散処理により平均粒径が5nm以上200nm以下になるまで微細化し、かつ液状媒体中に分散することができる。
微細化・分散化工程では、例えば熱線遮蔽粒子分散液の原料混合物について、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカーなどの媒体ミルや、超音波分散、高圧衝突式分散機、高圧噴霧式分散機等を用いて湿式分散処理を行うことができる。
熱線遮蔽粒子分散液の原料混合物は、例えば既述の複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子と、液状媒体とを含有することができる。液状媒体については既に説明したため、ここでは説明を省略する。
また、熱線遮蔽粒子分散液の原料混合物は、例えば必要に応じて既述の分散剤、カップリング剤、界面活性剤や金属塩等を含有することもできる。
微細化・分散化工程においては、例えば複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を、平均粒径が200nm以下となるように、例えば粉砕などで微細化することが好ましく、100nm以下となるように微細化することがより好ましく、50nm以下となるように微細化することがさらに好ましい。
なお、微細化・分散化工程において、複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を微細化する際、過度に微細化しようとすると、微細化・分散化工程に長時間を要することになるので、平均粒径が5nm以上となるように粉砕することが好ましく、10nm以上となるように粉砕することがより好ましい。
修復工程では、上述のように微細化・分散化工程において複合タングステン酸化物を含有する粒子の表面に形成された、M元素が脱離した層である表面劣化層に、M元素を再挿入することができる。
M元素を再挿入する方法は特に限定されないが、例えば修復工程において、還元剤が存在する環境下で表面劣化層を有する複合タングステン酸化物を含有する粒子を、M元素を含有する化合物と接触させ、表面劣化層に、M元素を再挿入することができる。
M元素を含有する元素は、例えば微細化・分散化工程終了後に得られた分散液に添加することもできる。ただし、微細化・分散化工程において複合タングステン酸化物を含有する粒子から脱離したM元素は、分散媒(溶媒)である液状媒体中に含まれている。このため、修復工程ではM元素を含有する化合物は新たに添加せずに、液状媒体中に含まれているM元素、もしくはM元素を含有する化合物のみを用いることもできる。
還元剤が存在する環境下とは、例えば微細化・分散化工程で得られた分散液内、及び該分散液を配置した容器内の雰囲気から選択した1以上の領域に還元剤が存在している環境を意味する。
このため、還元剤が存在する環境下とする方法としては、例えば微細化・分散化工程で得られた分散液に還元剤を添加する方法や、微細化・分散化工程で得られた分散液を収容した容器の雰囲気を還元雰囲気にする方法が挙げられる。なお、微細化・分散化工程で得られた分散液に還元剤を添加し、かつ該分散液を収容した容器内の雰囲気を還元雰囲気とすることもできる。
また、微細化・分散化工程で得られた分散液に還元剤を添加する方法としては、還元剤が液体や固体の場合には、分散液に添加、混合する方法が挙げられ、還元剤が気体の場合には還元剤をバブリング等して分散液中に少なくとも一部を溶解させる方法が挙げられる。
修復工程では、表面劣化層を有する複合タングステン酸化物を含有する粒子と、M元素を含有する化合物との接触を促進し、表面劣化層にM元素を再挿入し易いように、還元剤、及びM元素を含有する化合物が存在する環境下で、微細化・分散化工程で得られた分散液の加熱や、攪拌を実施することが好ましい。
修復工程において分散液を加熱する場合、加熱温度は特に限定されないが、分散液の液状媒体が完全に除去されない加熱温度、加熱時間を選択することが好ましい。また、修復工程において攪拌する場合、攪拌する手段は特に限定されず、通常の攪拌翼を用いる方法でも良いし、生産性の観点からすると、例えば微細化・分散化工程で用いた湿式分散処理手段を攪拌の代用として適用することもできる。修復工程においては分散液の加熱と、攪拌を併用することもできる。
なお、微細化・分散化工程において、複合タングステン酸化物を含有する粒子の表面にM元素が脱離した層である表面劣化層が形成されると同時に、M元素を再挿入する方法を採用することもできる。この場合、微細化・分散化工程において、表面劣化層の形成を抑制する方法も広義の修復工程に含め、微細化・分散化工程と修復工程が共存したものとみなすことができる。上述の表面劣化層の形成を抑制する方法とは、例えば複合タングステン酸化物を含有する粒子に含まれる複合タングステン酸化物のタングステン(W)が酸化され、タングステンの酸化に伴うM元素の脱離することを抑制する方法を意味する。
以上のように、微細化・分散化工程と、修復工程とを同時に実施することもできる。
微細化・分散化工程と、修復工程とを同時に実施する場合、微細化・分散化工程を還元剤の存在する環境下で実施することができる。
具体的には例えば、微細化・分散化工程において湿式分散処理を行う際、該湿式分散処理を、還元剤の存在する環境下で実施することができる。
湿式分散処理を、還元剤の存在する環境下で実施する方法として、熱線遮蔽粒子の原料混合液に還元剤を添加しておく方法や、湿式分散処理を行う際の雰囲気を還元雰囲気、具体的には還元剤を含有する雰囲気とする方法等から選択された1種類以上が挙げられる。
還元剤の種類は特に限定されないが、例えば水素(H2)や、ヒドラジン(N2H4)等から選択された1種類以上を挙げることができる。還元剤はヒドラジンを含有することが好ましく、還元剤はヒドラジンから構成することもできる。
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液の製造方法は、前述した微細化・分散化や、修復工程以外に任意の工程を有することもできる。本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液の製造方法は、例えば微細化・分散化工程に供する複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を製造する工程を有することもできる。複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を製造する工程については熱線遮蔽粒子の製造方法で既述のため、ここでは説明を省略する。
また、熱線遮蔽粒子分散液の製造方法は上述の例に限定されない。例えば熱線遮蔽粒子の製造方法で既述の修復工程の後、得られた熱線遮蔽粒子を、液状媒体中に再分散することで、熱線遮蔽粒子分散液を得ることもできる。ただし、この場合、熱線遮蔽粒子に表面劣化層を再度形成しない程度の力により、熱線遮蔽粒子を液状媒体中に分散することが好ましい。
[熱線遮蔽粒子分散体]
次に、本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体の一構成例について説明する。
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体は、既述の熱線遮蔽粒子と、熱可塑性樹脂とを含有することができる。
熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール樹脂という樹脂群から選択される1種類の樹脂、または、上記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の混合物、または、上記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の共重合体、のいずれかを用いることが好ましい。
熱線遮蔽粒子の含有量は特に限定されないが、本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体は、熱線遮蔽粒子を例えば0.5質量%以上80.0質量%以下含むことが好ましく、1.0質量%以上60.0質量%以下含むことがより好ましい。
これは熱線遮蔽粒子分散体中の熱線遮蔽粒子の含有量を0.5質量%以上とすることで、熱線遮蔽粒子分散体について過度に厚くすることなく、熱線遮蔽粒子分散体が必要な熱線遮蔽効果を得ることができ、各種用途に用いることができるからである。
ただし、熱線遮蔽粒子分散体の強度を保つため、熱線遮蔽粒子分散体中のバインダーとなる熱可塑性樹脂の割合を一定割合確保することが好ましい。このため、熱線遮蔽粒子の含有量は上述のように80.0質量%以下であることが好ましい。
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体は、上述の熱線遮蔽粒子と、熱可塑性樹脂以外にも任意の成分を含有することもできる。後述のように本実施形態の熱線遮蔽粒子は、既述の熱線遮蔽粒子分散液を用いて製造することもできる。このため、熱線遮蔽粒子分散液に由来する、分散剤等を含有することもできる。また、例えば可塑剤等を含有することもできる。
なお、熱線遮蔽粒子分散体が十分な熱線吸収効果を得、かつ可視光の透過率も十分に確保する観点から、単位投影面積あたりの熱線遮蔽粒子の含有量が0.01g/m2以上5.0g/m2以下であることが好ましく、0.1g/m2以上2.0g/m2以下であることがより好ましい。
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体の形状は特に限定されるものではないが、例えばシート形状、ボード形状またはフィルム形状とすることができ、様々な用途に適用できる。
以上に説明した本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体は、既述の耐侯性に優れた熱線遮蔽粒子を含んでいる。このため、本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体についても耐侯性に優れ、熱線遮蔽機能が安定した特性を有することができる。
[熱線遮蔽粒子分散体の製造方法]
ここで、本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体の製造方法の一構成例を説明する。
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体の製造方法により、既述の熱線遮蔽粒子分散体を製造することができる。このため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体の製造方法は特に限定されるものではなく、ここまで説明した熱線遮蔽粒子が、熱可塑性樹脂中に分散するように製造できれば足りる。
熱線遮蔽粒子分散体は、例えば上述の熱可塑性樹脂と、熱線遮蔽粒子とを混合し、所望の形状に成形した後、硬化させることで製造することができる。
熱線遮蔽粒子分散体は、例えば既述の熱線遮蔽粒子分散液を用いて製造することもできる。例えば、熱線遮蔽粒子分散液と、熱可塑性樹脂とを混合し、該混合液を塗布、乾燥させた後、熱可塑性樹脂を硬化させる等して製造することもできる。
また、最初に以下に説明する熱線遮蔽粒子分散粉や、可塑剤分散液、マスターバッチを製造し、次いで、該熱線遮蔽粒子分散粉等を用いて熱線遮蔽粒子分散体を製造することもできる。以下に具体的に説明する。
まず、既述の熱線遮蔽粒子分散液と、熱可塑性樹脂あるいは可塑剤とを混合する混合工程を実施することができる。次いで、熱線遮蔽粒子分散液由来の溶媒成分、すなわち液状媒体を除去する乾燥工程を実施することができる。液状媒体を除去することで、熱可塑性樹脂中及び/または熱線遮蔽粒子分散液由来の分散剤等の中に熱線遮蔽粒子が高濃度に分散した分散体である熱線遮蔽粒子分散粉(以下、単に「分散粉」と呼ぶことがある)や、可塑剤中に熱線遮蔽粒子が高濃度に分散した分散液(以下、単に「可塑剤分散液」と呼ぶことがある)を得ることができる。
熱線遮蔽粒子分散液と熱可塑性樹脂等との混合物から溶媒成分を除去する方法としては特に限定されるものではないが、例えば熱線遮蔽粒子分散液と熱可塑性樹脂等との混合物を減圧乾燥する方法を用いることが好ましい。具体的には、熱線遮蔽粒子分散液と熱可塑性樹脂等との混合物を攪拌しながら減圧乾燥し、分散粉もしくは可塑剤分散液と溶媒成分とを分離することができる。減圧乾燥に用いる装置としては、真空攪拌型の乾燥機が挙げられるが、上記機能を有する装置であれば良く、特に限定されない。また、乾燥工程の減圧の際の圧力値は特に限定されるものではなく任意に選択することができる。
溶媒成分を除去する際に減圧乾燥法を用いることで、熱線遮蔽粒子分散液と熱可塑性樹脂等との混合物からの溶媒成分の除去効率を向上させることができる。また、減圧乾燥法を用いた場合、熱線遮蔽粒子分散粉や可塑剤分散液が長時間高温に曝されることがないので、分散粉中や可塑剤分散液中に分散している熱線遮蔽粒子の凝集が起こらず好ましい。さらに熱線遮蔽粒子分散粉や可塑剤分散液の生産性も上がり、蒸発した溶媒を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
上記乾燥工程後に得られた熱線遮蔽粒子分散粉や可塑剤分散液において、残留する溶媒成分は5質量%以下であることが好ましい。残留する溶媒成分が5質量%以下の場合、該熱線遮蔽粒子分散粉や可塑剤分散液を用いて、例えば後述する熱線遮蔽合わせ透明基材を製造する際等に気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれるからである。
また、上述のように熱線遮蔽粒子分散体を製造する際にマスターバッチを用いることもできる。
マスターバッチは例えば、熱線遮蔽粒子分散液や熱線遮蔽粒子分散粉を樹脂中に分散させ、該樹脂をペレット化することで製造することができる。
マスターバッチの他の製造方法として、まず熱線遮蔽粒子分散液や熱線遮蔽粒子分散粉と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレット、および必要に応じて他の添加剤を均一に混合する。そして該混合物を、ベント式一軸若しくは二軸の押出機で混練し、一般的な溶融押出されたストランドをカットする方法によりペレット状に加工することによっても、製造することができる。この場合、その形状としては円柱状や角柱状のものを挙げることができる。また、溶融押出物を直接カットするいわゆるホットカット法を採ることも可能である。この場合には球状に近い形状をとることが一般的である。
以上の手順により、熱線遮蔽粒子分散粉、可塑剤分散液、マスターバッチを製造することができる。
そして、本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体は、熱線遮蔽粒子分散粉、可塑剤分散液、またはマスターバッチをバインダーとなる有機バインダー具体的には例えば熱可塑性樹脂中へ均一に混合し、所望の形状に成形することで、製造することができる。この際、バインダーとしては既述のように熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
バインダーとして熱可塑性樹脂を用いる場合、熱線遮蔽粒子分散粉、可塑剤分散液またはマスターバッチと、熱可塑性樹脂と、所望に応じて可塑剤その他添加剤とをまず混練することができる。そして、得られた混練物を、押出成形法、射出成形法、カレンダーロール法、押出法、キャスティング法、インフレーション法等の各種成形方法により、例えば、平面状や曲面状に成形された、シート形状や、ボード形状、フィルム形状の熱線遮蔽粒子分散体を製造することができる。
なお、バインダーとして熱可塑性樹脂を用いた熱線遮蔽粒子分散体を例えば透明基材等の間に配置する中間膜として用いる場合等で、該熱線遮蔽粒子分散体に含まれる熱可塑性樹脂が柔軟性や透明基材等との密着性を十分に有しない場合、熱線遮蔽粒子分散体を製造する際に可塑剤を添加することが好ましい。具体的には例えば、熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂である場合は、さらに可塑剤を添加することが好ましい。
添加する可塑剤としては特に限定されるものではなく、用いる熱可塑性樹脂に対して可塑剤として機能できる物質であれば用いることができる。例えば熱可塑性樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を用いる場合、可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系の可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系の可塑剤等を好ましく用いることができる。
可塑剤は、室温で液状であることが好ましいことから、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物であることがより好ましい。
そして、既述のように本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体は、任意の形状を有することができ、例えば、シート形状、ボード形状またはフィルム形状を有することができる。
シート形状、ボード形状またはフィルム形状の熱線遮蔽粒子分散体を用いて、例えば後述する、熱線遮蔽合わせ透明基材や、熱線遮蔽透明基材等を製造することができる。
[熱線遮蔽合わせ透明基材]
次に、本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材の一構成例について説明する。
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材は、上述の熱線遮蔽粒子分散体を有することができ、その具体的な形態は特に限定されるものではないが、例えば複数枚の透明基材と、既述の熱線遮蔽粒子分散体とを有し、熱線遮蔽粒子分散体は、複数枚の透明基材の間に配置された構成とすることができる。
この際、用いる透明基材の種類は特に限定されるものではなく、熱線遮蔽合わせ透明基材の用途等に応じて任意に選択することができ、例えば、ガラス基材や、各種樹脂基材等を好適に用いることができる。また、複数枚の透明基材についてすべて同じ材質の基材であってもよいが、異なる材質の基材を組み合わせて用いることもできる。
ただし、本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材に用いる基材としては、耐侯性や、可視光透過率の高さから、例えば複数枚の透明基材の内、少なくとも1枚がガラス基材であることが好ましい。また、複数枚の透明基材全てをガラス基材とすることもできる。例えば透明基材として無機ガラスのガラス基材を用いた熱線遮蔽合わせガラスの場合、自動車のフロント用のガラスや、建物の窓として特に好適に使用することができる。
なお、熱線遮蔽合わせ透明基材が透明基材を3枚以上有する場合、透明基材間は2以上存在することになる。この場合、透明基材間のうち選択された1以上の透明基材間に熱線遮蔽粒子分散体を配置すればよく、熱線遮蔽粒子分散体を配置しない透明基材間が生じても良いし、全ての透明基材間に熱線遮蔽粒子分散体が配置されていてもよい。熱線遮蔽粒子分散体を配置しない透明基材間がある場合、該透明基材間の構成は特に限定されず、例えば上述の熱線遮蔽粒子分散体とは異なる機能を有する中間膜を配置したり、該透明基材間を真空とするか、または熱伝導率の低いガスを封入して断熱性能を高めたりすることもできる。
また、熱線遮蔽粒子分散体は単体で透明基材間に配置することもできるが、後述するように、熱線遮蔽粒子分散体と他の膜とから構成される多層膜を形成してから透明基材間に配置することもできる。
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材は例えば、上述の熱線遮蔽粒子分散体を挟み込んで存在させた対向する複数枚の透明基材を、公知の方法で貼り合わせ一体化することによって得られる。
熱線遮蔽合わせ透明基材を製造する際、透明基材間に、上述の熱線遮蔽粒子分散体と共に、他の樹脂中間膜等任意の中間膜を一層以上挟み込むこともできる。このような他の中間膜として、例えば紫外カット、遮音、調色、密着力の調整といった機能を有する中間膜を用いることで、より高機能な熱線遮蔽合わせ透明基材を実現することもできる。
さらに、上述の熱線遮蔽粒子分散体と、赤外線反射フィルムとを併用した、熱線遮蔽合わせ透明基材とすることもできる。熱線遮蔽粒子分散体と赤外線反射フィルムとを併用する場合、例えば、赤外線反射フィルムを、本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体と透明な樹脂膜とで挟みこんで一体化して多層膜とすることができる。そして、赤外線反射フィルム、及び本実施形態の熱線遮蔽粒子分散体とを有する多層膜を対向する複数枚の透明基材、例えば無機ガラス等のガラス基材や透明樹脂基材で挟み込み、公知の方法で貼り合わせ一体化することによって、熱線遮蔽合わせ透明基材とすることができる。
この際、熱線遮蔽粒子分散体と、赤外線反射フィルムとの位置関係について特に限定されるものではなく、使用する環境等に応じて任意に選択することができる。例えば熱線遮蔽合わせ透明基材を自動車や建築物等の窓に用いる場合、自動車内や室内の温度上昇抑制効果を考慮して、赤外線反射フィルムを熱線遮蔽粒子分散体より外側に位置するように構成することが好ましい。
ここで説明した赤外線反射フィルムの特性は特に限定されるものではなく、熱線遮蔽合わせ透明基材とした場合に要求される性能等に応じて任意に選択することができる。
ただし、熱線遮蔽能や光学特性等を考慮すると、赤外線反射フィルムは可視領域にほとんど太陽光の吸収をもたず、主に可視光の長波長領域から近赤外線領域、例えば波長700nmから1200nmの範囲の光を反射するものであること好ましい。
具体的には、赤外線反射フィルムの光学特性としては、可視光透過率85%以上、日射反射率18%以上であることが好ましく、可視光透過率88%以上、日射反射率21%以上であることがより好ましい。なお、可視光透過率はJIS R 3106に基いて評価することができる。以下、他の部材についても可視光透過率は同様にして評価することができる。また、日射反射率についてもJIS R 3106に規定されている。
また、自動車のフロントガラスや、建築物の窓等、所定の波長域の電磁波の透過が要求される用途に熱線遮蔽合わせ透明基材を使用する場合、赤外線反射フィルムは携帯電話やETCに用いられている波長域の電磁波を透過させるものが好ましい。このため、この場合赤外線反射フィルムとしては、導電性を有し、上述のような波長域の電磁波を透過させない金属膜付きフィルムよりも、電磁波を透過させる樹脂多層膜付きフィルムやコレステリック液晶により赤外線を反射する特性を有するフィルムを好ましく用いることができる。
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材の遮熱特性は、可視光透過率に対する日射透過率で示される。可視光透過率に対して日射透過率が低いほど遮熱特性に優れた熱線遮蔽合わせ透明基材となる。具体的には例えば、熱線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率が70%となるように熱線遮蔽粒子分散体への複合タングステン酸化物の添加量等を選択した場合に、熱線遮蔽合わせ透明基材の日射透過率が50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
熱線遮蔽合わせ透明基材を例えば自動車のフロントガラス等の窓材に用いる場合は、道路運送車両法にて規定されている可視光透過率が70%以上を満たす必要があり、あわせて高い熱線遮蔽能を有することが好ましい。このため、例えば上述のように熱線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率を70%とした場合に日射透過率は50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
そして、特に本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材は可視光透過率が70%以上であり、かつ日射透過率が50%以下であることが好ましい。また、可視光透過率が70%以上であり、かつ日射透過率が40%以下であることがより好ましい。
このように高い熱線遮蔽能をもつ熱線遮蔽合わせ透明基材を用いることで、特にハイブリッドカーや電気自動車のような電池を用いる自動車においては、電池の消費を抑えられることから、航続距離の延長などに有意な効果が見られる。従って、自動車の燃費向上、温室効果ガス排出量削減に寄与することが期待できることから、将来的には熱線遮蔽合わせ透明基材が自動車の設計上、必須の部材となることも予想される。
熱線遮蔽合わせ透明基材は、例えば自動車や建築物の窓材をその用途とする場合には、自然な色調、すなわち透明または無彩色に近いことが好ましい。特に、本実施形態に係る熱線遮蔽合わせ透明基材が自動車のフロントガラス等に用いる場合を想定すると、運転中の安全を担保するため、透視像の色が正常に識別可能であることが好ましい。
このため係る用途に用いる場合、熱線遮蔽合わせ透明基材に用いる熱線遮蔽粒子分散体は、例えば自動車用合わせガラスに求められる性能を規定したJIS R 3211およびJIS R 3212に基づく色の識別試験において、透視像の色が正常に識別可能であることが好ましい。
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材は各種用途に用いることができるが、既述のように、係る熱線遮蔽合わせ透明基材を含む窓材は、自動車や、建築物の窓として好適に用いることができる。具体的には例えば熱線遮蔽合わせ透明基材を含む窓材を搭載した自動車や、熱線遮蔽合わせ透明基材含む窓材を備えた建築物とすることができる。
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材の製造方法は特に限定されるものではなく、上述の熱線遮蔽粒子分散体を含む中間層を透明基材間に配置し、透明基材と熱線遮蔽粒子分散体を含む中間層とを貼り合せる貼り合せ工程を有することができる。
透明基材と熱線遮蔽粒子分散体とを貼り合せる方法は特に限定されるものではなく、接着剤等により貼り合せる方法や、熱圧着する方法等各種方法を用いることができる。
また、熱線遮蔽粒子分散体を含む中間層とは、熱線遮蔽粒子分散体から構成される単一膜であっても良く、例えば上述のように、赤外線反射フィルムと熱線遮蔽粒子分散体とを一体化した多層膜のように他の膜と積層、一体化した膜(層)であっても良い。
本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材は、既述の耐侯性に優れた熱線遮蔽粒子を含んでいる。このため、本実施形態の熱線遮蔽合わせ透明基材についても耐侯性に優れ、熱線遮蔽機能が安定した特性を有することができる。
[熱線遮蔽透明基材]
次に、本実施形態の熱線遮蔽透明基材の一構成例について説明する。
本実施形態の熱線遮蔽透明基材は、透明基材と、透明基材の少なくとも一方の面上に配置された熱線遮蔽コーティング層とを有し、該熱線遮蔽コーティング層は、既述の熱線遮蔽粒子と、バインダー樹脂とを含み、透明基材は透明樹脂基材、または透明ガラス基材とすることができる。
熱線遮蔽コーティング層が含有するバインダー樹脂は特に限定されるものではなく、例えば紫外線(UV)硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等から選択された1種類以上の有機バインダーや、これに珪素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム等から選択された1種類以上の無機酸化物を変成させた有機無機ハイブリッドバインダーや、珪素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム等から選択された1種類以上の無機酸化物の重合した無機バインダー等を使用できる。
特にバインダー樹脂としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂から選択される1種類以上を好ましく用いることができ、特に紫外線硬化性樹脂をより好ましく用いることができる。
なお、バインダー樹脂が熱可塑性樹脂を含む場合、熱可塑性樹脂としては特に限定されるものではなく、要求される透過率や、強度等に応じて任意に選択することができる。熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール樹脂という樹脂群から選択される1種類の樹脂、または、上記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の混合物、または、上記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の共重合体、のいずれかを好ましく用いることができる。
一方バインダー樹脂が紫外線硬化性樹脂を含む場合、紫外線硬化性樹脂としては特に限定されるものではなく、例えばアクリル系紫外線硬化性樹脂を好適に用いることができる。
熱線遮蔽コーティング層中に分散して含まれる熱線遮蔽粒子の含有量については特に限定されるものではなく、用途等に応じて任意に選択することができる。熱線遮蔽コーティング層中の熱線遮蔽粒子の含有量は例えば、0.5質量%以上80.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上60.0質量%以下であることがより好ましい。
これは、熱線遮蔽コーティング層中の熱線遮蔽粒子の含有量を0.5質量%以上とすることで、熱線遮蔽コーティング層について過度に厚くすることなく、熱線遮蔽透明基材が必要な熱線遮蔽効果を得ることができ、各種用途に用いることができるからである。
ただし、熱線遮蔽コーティング層の強度を保つため、熱線遮蔽コーティング層中のバインダーとなる熱可塑性樹脂の割合を確保することが好ましい。このため、熱線遮蔽粒子の含有量は上述のように80.0質量%以下であることが好ましい。
熱線遮蔽コーティング層の厚さは特に限定されないが、厚くなりすぎると、可視光透過性等が低下する恐れがあることから、例えば熱線遮蔽コーティング層の厚さは10μm以下であることが好ましい。熱線遮蔽コーティング層の厚さの下限値は特に限定されないが、十分な量の熱線遮蔽粒子を含有しつつ、強度が確保できるように、例えば0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。
熱線遮蔽コーティング層に含まれる熱線遮蔽粒子の量は特に限定されないが、熱線遮蔽透明基材が十分な熱線吸収効果を得、かつ可視光の透過率も十分に確保する観点から、熱線遮蔽コーティング層中の熱線遮蔽粒子の単位投影面積あたりの含有量が0.01g/m2以上5.0g/m2以下であることが好ましい。
透明基材としては、上述の様に透明樹脂基材、または透明ガラス基材を用いることができる。ただし、透明ガラス基材とすると、重くなる恐れがあることから、透明樹脂基材をより好ましく用いることができる。透明樹脂基材としては、特に透明性が高いことから、ポリエステルフィルムを特に好ましく用いることができる。
透明基材の厚さは、透明基材の材料等に応じて任意に選択することができ、特に限定されないが、例えば透明基材が透明樹脂基材の場合は3μm以上が好ましい。これは、透明基材が透明樹脂基材の場合、厚さを3μm以上とすることで、十分な強度を有することができるからである。
透明基材が透明樹脂基材の場合、厚さの上限値は特に限定されるものではないが、取扱い性等を考慮すると、100μm以下であることが好ましい。
また、透明基材が透明ガラス基材の場合、透明ガラス基材の厚さは1mm以上であることが好ましい。これは透明ガラス基材の厚さを1mm以上とすることで十分な強度を有することができるからである。
透明基材が透明ガラス基材の場合の厚さの上限値についても特に限定されるものではないが、例えば5mm以下であることが好ましい。これは透明ガラス基材の厚さが5mmを超えると、重量が増加し、取扱い性が低下する等の問題を生じるためである。
なお、透明基材は単層および複層のいずれの形態を有していてもよく、透明基材が複数の層から構成される場合、各層が、上記範囲であることが好ましい。
また、透明基材表面には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理等の物理的処理、下塗り処理等の化学的処理などの表面処理が施されていてもよい。
透明基材は、高い透明性を有している基材であることが好ましい。例えば、JIS K 7361−1に基いて評価した、透明基材の可視光波長領域における全光線透過率は85%以上であることが好ましく、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。
また、透明基材のJIS K 7136に基いて評価したヘイズは、例えば、1.5%以下が好ましく、より好ましくは1.0%以下である。
以上に説明した本実施形態の熱線遮蔽透明基材は、既述の耐侯性に優れた熱線遮蔽粒子を含んでいる。このため、本実施形態の熱線遮蔽透明基材についても耐侯性に優れ、熱線遮蔽機能が安定した特性を有することができる。
[熱線遮蔽透明基材の製造方法]
次に、本実施形態の熱線遮蔽透明基材の製造方法の一構成例について説明する。
なお、本実施形態の熱線遮蔽透明基材の製造方法により、既述の熱線遮蔽透明基材を製造できる。このため、既に説明した事項の一部は記載を省略する。
熱線遮蔽透明基材は、バインダー樹脂と既述の熱線遮蔽粒子分散液とを混合して、またはバインダー樹脂と既述の熱線遮蔽粒子とを混合して塗布液とする塗布液調製工程を有することができる。そして、透明基材上に塗布液を塗布する塗布工程。さらに、透明基材上に塗布した塗布液を乾燥、硬化する乾燥・硬化工程を有することができる。
なお、塗布液を調製する際、必要に応じて溶媒を添加してもよい。
透明基材上への塗布液の塗布方法は特に限定されるものではなく、ディッピング法、フローコート法、スプレー法、バーコート法、スピンコート法、グラビヤコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、ブレードコート法など、塗布液を平坦かつ薄く均一に塗布できる方法であれば如何なる方法でもよい。透明基材上における熱線遮蔽コーティング層の厚さは、可視光透過性や前述した熱線遮蔽性能による制約に加え、強度等の物理的な制約があり、特に限定されないが10μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましい。これは熱線遮蔽コーティング層の厚さが10μm以下であれば、十分な鉛筆硬度を発揮して耐擦過性を有することに加えて、熱線遮蔽コーティング層における溶媒の揮散およびバインダーの硬化の際に、透明基材の反り発生等の工程異常発生を抑制できるからである。
また、透明基材上に塗布した塗布液を硬化させる方法は、バインダーの種類によって適宜選択される。紫外線硬化性樹脂であればそれぞれの光開始剤の共鳴波長や、目的の硬化速度にあわせて紫外線ランプを選択すればよい。代表的なランプとしては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、パルスキセノンランプ、無電極放電ランプ等が挙げられる。光開始剤を使用しない電子線硬化タイプの樹脂バインダーの場合は、走査型、エレクトロンカーテン型等の電子線照射装置を使用して硬化させればよい。熱硬化性樹脂バインダーの場合は、目的の温度で加熱すればよく、また常温硬化性樹脂の場合は、塗布後そのまま放置しておけばよい。
なお、ここでは塗布液を調製し、該塗布液を塗布、乾燥、硬化することにより、熱線遮蔽透明基材を製造した例を示したが、係る形態に限定されるものではない。例えば、熱線遮蔽粒子分散液を透明基材上に塗布し、その後、熱線遮蔽粒子分散液を塗布した面上にさらにバインダーを塗布し、乾燥、硬化することにより熱線遮蔽透明基材を製造することもできる。
以下に実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(熱線遮蔽粒子、熱線遮蔽粒子膜の作製)
以下の工程に従い熱線遮蔽粒子、及び該熱線遮蔽粒子を含む熱線遮蔽粒子膜を製造した。
(1)複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を製造する工程
微細化・分散化工程に供する、複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を製造する工程を実施した。
タングステン化合物出発原料であるタングステン酸(H2WO4、分子量:249.85)345.7gに対し、元素M含有出発原料である炭酸セシウム(Cs2CO3、分子量:325.82)74.3gを純水70gに溶解させた水溶液を添加し、十分混合した後、100℃で攪拌しながら乾燥させて水分を除去し、混合粉末を得た。なお、得られた混合粉末中のCsと、Wとのモル比はCs/W=0.33になる。得られた混合粉末を、窒素をキャリアとし、体積比で5%の水素を含有する水素・窒素混合ガス(5%水素−95%窒素)を供給する還元雰囲気下で熱処理として、600℃の温度で1時間の還元処理を行った。その後、窒素を供給する不活性雰囲気下で800℃の温度で2.5時間熱処理し、平均粒径1.8μmの複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を得た。
なお、複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子は、組成式がCs0.33WO3、で表される六方晶の複合タングステン酸化物から構成されていることが確認できた。複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子の粉体色を評価したところ、L*が35.2745、a*が1.4918、b*が−5.3118であった。
複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子をX線回折分析(XRD)によりXRDパターンを測定し、得られたXRDパターンからRietveld法により、格子歪、およびCs席占有率を算出した。その結果、格子歪は0.01%、Cs席占有率は93%であることが確認され、複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子内には表面劣化層等の劣化領域がほぼ見られないことが確認された。
なお、複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子の平均粒径は上述のように1.8μmであった。
(2)微細化・分散化工程
得られた複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を1.5gと、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)8.5gとを秤量し、0.3mmφZrO2ビ−ズを30g入れたペイントシェーカーに装填し、6時間粉砕および分散処理することによって、複合タングステン酸化物を含有する粒子の分散液を調製した(微細化・分散化工程)。
なお、既述のように、微細化・分散化工程とは、微細化工程において分散処理を行っていることを示しており、既述の熱線遮蔽粒子の製造方法における微細化工程に対応する。
ここで、微細化・分散化工程後に得られた分散液内における複合タングステン酸化物を含有する粒子の平均粒径を透過型電子顕微鏡(TEM)で測定したところ35nmであった。また、分散液内の複合タングステン酸化物を含有する粒子には、Cs成分が脱離したWOy(2.2≦y≦3.0)を主成分とする表面劣化層が、球面収差補正透過型電子顕微鏡(Cs−TEM)で確認された。複合タングステン酸化物を含有する粒子について、X線回折分析(XRD)を行い、得られたXRDパターンをRietveld法により解析した結果、複合タングステン酸化物は格子歪が0.31%、Cs席占有率が81%であったことから内部弱劣化領域が確認されている。なお、分散液内には脱離したCs成分が含有されている。
(3)修復工程
微細化・分散化工程で得られた複合タングステン酸化物を含有する粒子について、修復工程を実施した。また、これにより熱線遮蔽粒子、及び該熱線遮蔽粒子を含有する熱線遮蔽粒子膜を製造した。
上記複合タングステン酸化物を含有する粒子の分散液を、25℃のソーダライムガラス基材上の全面にバーNo.がNo.4、線径が0.1mmのワイヤーバーを用いて、ワイヤーバーコーティングした。なお、複合タングステン酸化物を含有する粒子の分散液は、微細化・分散化工程で離脱したCsを含有する化合物を含んでいる。また、透明ガラス基材であるソーダライムガラス基材は、幅10cm、奥行10cm、厚み3mmであり、可視光透過率が91.1%、ヘイズ値が0.2%であった。用いたソーダライムガラス基材の透過プロファイルを図1に示す。
その後、40℃で5分間乾燥し、更に体積比で3%水素−97%窒素の還元雰囲気(3リッター/分供給)において、500℃まで50分かけて昇温(昇温速度:10℃/分)し、500℃で30分間焼成して、熱線遮蔽粒子を得た(修復工程)。なお、この際、熱線遮蔽粒子は、上記透明ガラス基材上に分散された熱線遮蔽粒子膜の状態で形成されているが、バインダー等を添加していないため、個別の粒子として存在している。
(評価)
上述の工程により得られた熱線遮蔽粒子の評価を実施した。また、得られた熱線遮蔽粒子を用いて熱線遮蔽透明基材を作製し、耐侯性を評価するため、光着色評価、120℃耐熱評価、耐湿熱評価を行った。
(1)熱線遮蔽粒子の評価
上記平均粒径が35nmの熱線遮蔽粒子を球面収差補正透過型電子顕微鏡(Cs−TEM)で観察した。その結果、微細化・分散化工程後に得られた複合タングステン酸化物を含有する粒子に含まれていた上記WOZ(2.2≦z≦3.0)を主成分とする表面劣化層にCsが再挿入されて修復されていることが確認された。すなわち、上記透過型電子顕微鏡では検出できないまでに表面劣化層が無くなっていることを確認できた。
また、得られた熱線遮蔽粒子について、X線回折分析(XRD)を行い、得られたXRDパターンをRietveld法により解析した結果、得られた熱線遮蔽粒子の複合タングステン酸化物は、格子歪が0.16%、Cs席占有率が92%であることが確認できた。
上記結果から、修復工程後に得られた熱線遮蔽粒子は、微細化・分散化工程後の複合タングステン酸化物を含有する粒子と比較して、複合タングステン酸化物の格子歪が低下し、Cs席占有率(M元素席占有率)が上昇しており、特性が改善されていることが確認できた。
また、微細化・分散化工程後の複合タングステン酸化物を含有する粒子と比較して、得られた熱線遮蔽粒子は内部弱劣化領域が修復されていることも確認された。なお、上記還元雰囲気中での加熱処理による表面劣化層や内部弱劣化領域の修復により、熱線遮蔽に有効な複合タングステン酸化物が実質的に増加するため、上記加熱処理前後で、熱線遮蔽粒子を分散した熱線遮蔽粒子膜の可視光透過率と日射透過率は共に低下しており、可視光透過率では約7%程度低下している。
(2)光着色評価
上記の熱線遮蔽粒子、熱線遮蔽粒子膜の作製と同様にして作製した熱線遮蔽粒子膜上に、紫外線硬化性樹脂(東亜合成製UV3701)を、ワイヤーバー(No.4、線径:0.1mm)を用いてオーバーコートし、紫外線コンベアで硬化(波長365nmのUV光線強度=300mJ/cm2)させた。これにより透明ガラス基材上に熱線遮蔽粒子を含有する熱線遮蔽コーティング層を備えた、熱線遮蔽透明基材を作製した。
これにより、ガラス基材/熱線遮蔽粒子膜(複合タングステン酸化物を含有する粒子+紫外線硬化性樹脂)/紫外線硬化性樹脂層、で構成される積層構造の熱線遮蔽透明基材を作製した。なお、熱線遮蔽粒子膜(複合タングステン酸化物を含有する粒子+紫外線硬化性樹脂)が熱線遮蔽コーティング層に相当し、紫外線硬化性樹脂層は熱線遮蔽コーティング層上に形成されたオーバーコート層に相当する。熱線遮蔽コーティング層の厚さは約0.5μmであり、熱線遮蔽コーティング層中の、熱線遮蔽粒子の単位投影面積当たりの含有量は1.2g/m2になる。以下の120℃耐熱評価の試料や、耐湿熱評価用の試料、他の実施例、比較例でも熱線遮蔽コーティング層の厚さ、および熱線遮蔽コーティング層中の、熱線遮蔽粒子の単位投影面積当たりの含有量が同様の条件となるように熱線遮蔽透明基材を作製している。
その後、熱線遮蔽透明基材に強力紫外線(メタルハライドランプ;岩崎電気製;80W/cm−1kWランプ、ランプと試料間の照射距離=20cm)を20分間照射して、熱線遮蔽透明基材の可視光透過率の低下量(ΔVLT)を、光着色の指標として評価した。
光着色前後の透過プロファイルを図2に示す。
(3)120℃耐熱評価
光着色評価に供した試料と同様にして熱線遮蔽透明基材を作製した後、大気中120℃に30日間保持して、熱線遮蔽透明基材の日射透過率の上昇(ΔST)を、120℃耐熱の指標として評価した。
120℃耐熱評価前後の透過プロファイルを図3に示す。
(4)耐湿熱評価
上記の熱線遮蔽粒子、熱線遮蔽粒子膜の作製と同様にして作製した熱線遮蔽粒子膜上に、紫外線硬化性樹脂(テスク製A−1632B)を、ワイヤーバー(No.4、線径:0.1mm)を用いてオーバーコートし、紫外線コンベアで硬化(波長365nmのUV光線強度=1000mJ/cm2)させた。これにより、ガラス基材/熱線遮蔽粒子膜(複合タングステン酸化物を含有する粒子+紫外線硬化性樹脂)/紫外線硬化性樹脂層、で構成される積層構造の熱線遮蔽透明基材を作製した。なお、熱線遮蔽粒子膜、及び紫外線硬化性樹脂層が熱線遮蔽コーティング層に相当する。
その後、高温高湿(85℃×90%RH)中に30日間保持して、熱線遮蔽透明基材の日射透過率の上昇(ΔST)を、耐湿熱の指標として評価した。
耐湿熱評価前後の透過プロファイルを図4に示す。
光着色評価、120℃耐熱評価、耐湿熱評価での試験結果(ΔVLT/光着色、ΔST/120℃耐熱評価、耐湿熱評価)、および、評価に用いた積層構造の熱線遮蔽透明基材の可視光透過率(VLT)とヘイズ値(H)、日射透過率(ST)、格子歪、Cs席占有率をそれぞれ表1に示す。
表1中、光着色評価等に用いた試料と、その評価結果は、備考欄に「光着色用サンプル」と、120℃耐熱評価を行った試料とその結果は「120℃耐熱評価用サンプル」、耐湿熱評価を行った試料とその結果は「耐湿熱評価用サンプル」として示している。
なお、可視光透過率(VLT)(単位:%)、日射透過率(ST)(単位:%)は、分光光度計U−4100(日立製作所製)を用い、JIS R 3106に基いて測定した。また、ヘイズ値(H)(単位:%)は、日本電色(株)社製のヘイズメーター(NDH5000)を用いJIS K 7136に基づいて測定した。上記可視光透過率(VLT)、日射透過率(ST)、ヘイズ値(H)は、透明基材(透明ガラス基材)上に熱線遮蔽コーティング層を有する熱線遮蔽透明基材について、透明基材を含む熱線遮蔽透明基材全体の値として測定した値である。
[実施例2]
以下の2点以外は実施例1と同様にして、透明ガラス基材上に分散された熱線遮蔽粒子膜の状態の熱線遮蔽粒子を作製した。
微細化・分散化工程で得られた複合タングステン酸化物を含有する粒子の分散液を、25℃のソーダライムガラス基材上の全面にワイヤーバーコーティング(No.5、線径:0.125mm)した点。修復工程で、3%水素−97%窒素の還元雰囲気(3リッター/分供給)において500℃で30分間焼成する代わりに、体積比で0.1%ヒドラジン−99.9%窒素の還元雰囲気(3リッター/分供給)において、400℃で30分間焼成した点。
得られた熱線遮蔽粒子の複合タングステン酸化物について、実施例1と同様に格子歪、Cs席占有率を測定、算出した。結果を表1に示す。
また、得られた平均粒径が35nmの熱線遮蔽粒子を球面収差補正透過型電子顕微鏡(Cs−TEM)で観察した。その結果、微細化・分散化工程後に得られた複合タングステン酸化物を含有する粒子に含まれていたWOZ(2.2≦z≦3.0)を主成分とする表面劣化層にCsが再挿入されて修復されていることが確認された。すなわち、上記透過型電子顕微鏡では検出できないまでに表面劣化層が無くなっていることを確認できた。
上記熱線遮蔽粒子、熱線遮蔽粒子膜を用いた点以外は実施例1と同様にして、光着色用、120℃耐熱評価用、耐湿熱評価用のサンプルである熱線遮蔽透明基材を作製し、評価を行った。
実施例1と同様に、光着色評価、120℃耐熱評価、耐湿熱評価での試験結果(ΔVLT/光着色、ΔST/120℃耐熱評価、耐湿熱評価)、および、評価に用いた積層構造の熱線遮蔽透明基材の可視光透過率(VLT)とヘイズ値(H)、日射透過率(ST)をそれぞれ表1に示す。
[実施例3]
以下の2点以外は実施例1と同様にして、透明ガラス基材上に分散され、熱線遮蔽粒子膜の状態の熱線遮蔽粒子を作製した。
微細化・分散化工程で得られた複合タングステン酸化物を含有する粒子の分散液を、25℃のソーダライムガラス基材上の全面にワイヤーバーコーティング(No.5、線径:0.125mm)した点。修復工程で、3%水素−97%窒素の還元雰囲気(3リッター/分供給)において500℃で30分間焼成する代わりに、体積比で0.1%ヒドラジン−99.9%窒素の還元雰囲気(3リッター/分供給)において300℃で30分間焼成した点以外は実施例1と同様にして、透明ガラス基材上に分散され、熱線遮蔽粒子膜の状態の熱線遮蔽粒子を作製した。得られた熱線遮蔽粒子の複合タングステン酸化物について、実施例1と同様に格子歪、Cs席占有率を測定、算出した。結果を表1に示す。
また、得られた平均粒径が35nmの熱線遮蔽粒子を球面収差補正透過型電子顕微鏡(Cs−TEM)で観察した。その結果、微細化・分散化工程後に得られた複合タングステン酸化物を含有する粒子に含まれていたWOZ(2.2≦z≦3.0)を主成分とする表面劣化層にCsが再挿入されて修復されていることが確認された。すなわち、上記透過型電子顕微鏡では検出できないまでに表面劣化層が無くなっていることを確認できた。
上記熱線遮蔽粒子、熱線遮蔽粒子膜を用いた点以外は実施例1と同様にして、光着色用、120℃耐熱評価用、耐湿熱評価用のサンプルである熱線遮蔽透明基材を作製し、評価を行った。
実施例1と同様に、光着色評価、120℃耐熱評価、耐湿熱評価での試験結果(ΔVLT/光着色、ΔST/120℃耐熱評価、耐湿熱評価)、および、評価に用いた積層構造の熱線遮蔽透明基材の可視光透過率(VLT)とヘイズ値(H)、日射透過率(ST)をそれぞれ表1に示す。
[実施例4]
以下の手順により熱線遮蔽粒子を作製し、評価を行った。
(1)微細化・分散化・修復工程
実施例1の(1)複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子を製造する工程により得られた複合タングステン酸化物を含有する粗大粒子(格子歪=0.01%、Cs席占有率=93%)を1.5gと、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)8.5gと、還元剤である抱水ヒドラジン(N2H4・H2O)0.13gとを秤量し、0.3mmφZrO2ビ−ズを30g入れたペイントシェーカーに装填した。そして、6時間粉砕および分散処理することによって、熱線遮蔽粒子分散液を調製した(微細化・分散化・修復工程)。
なお、微細化・分散化・修復工程とは、微細化・分散化工程と修復工程とを同時に実施していることを示している。
得られた熱線遮蔽粒子分散液内における熱線遮蔽粒子の平均粒径を透過型電子顕微鏡(TEM)で測定したところ40nmであった。
得られた熱線遮蔽粒子分散液内の熱線遮蔽粒子について球面収差補正透過型電子顕微鏡(Cs−TEM)で観察したところ、WOZ(2.2≦z≦3.0)を主成分とする表面劣化層の厚さが最も厚い部分でも0.5nm未満であることが確認された。そして、X線回折分析(XRD)を行い、得られたXRDパターンをRietveld法により解析した結果、熱線遮蔽粒子分散液内の熱線遮蔽粒子の複合タングステン酸化物は、格子歪が0.23%、Cs席占有率が88%であることが確認できた。従って、実施例1の微細化・分散化工程の後に得られた複合タングステン酸化物を含有する粒子の分散液の場合(格子歪=0.31%、Cs席占有率=81%)と比較すると、表面劣化層等の内部弱劣化領域の形成が抑制されていることが確認できた。これは、還元剤であるヒドラジンを液状媒体、すなわち分散媒中に共存させたことで、熱線遮蔽粒子の劣化が緩和されたためである。
上記熱線遮蔽粒子分散液を、25℃の実施例1と同じソーダライムガラス基材上の全面にバーNo.がNo.3、線径が0.75mmのワイヤーバーを用いて、ワイヤーバーコーティングした。その後、40℃で5分間乾燥し、熱線遮蔽粒子を得た。なお、この際、熱線遮蔽粒子は、上記透明ガラス基材上に分散された熱線遮蔽粒子膜の状態で形成されているが、バインダー等を添加していないため、個別の粒子として存在している。
また、上記熱線遮蔽粒子、熱線遮蔽粒子膜を用いた点以外は実施例1と同様にして、光着色用、120℃耐熱評価用、耐湿熱評価用のサンプルである熱線遮蔽透明基材を作製し、評価を行った。
実施例1と同様に、光着色評価、120℃耐熱評価、耐湿熱評価での試験結果(ΔVLT/光着色、ΔST/120℃耐熱評価、耐湿熱評価)、および、評価に用いた積層構造の熱線遮蔽透明基材の可視光透過率(VLT)とヘイズ値(H)、日射透過率(ST)、格子歪、Cs席占有率をそれぞれ表1に示す。
[比較例1]
実施例1と同様にして、微細化・分散化工程で得られた複合タングステン酸化物を含有する粒子の分散液を、25℃のソーダライムガラス基材上の全面に、ワイヤーバーコーティング(No.4、線径:0.1mm)し、40℃で5分間乾燥した。ただし、その後、3%水素−97%窒素の還元雰囲気(3リッター/分供給)において500℃で30分間焼成する修復工程を行わなかった。以上のように修復工程を行わなかった点以外は実施例1と同様にして、透明ガラス基材上に分散され、熱線遮蔽粒子膜の状態の熱線遮蔽粒子を作製した。得られた熱線遮蔽粒子の複合タングステン酸化物について、実施例1と同様に格子歪、Cs席占有率を測定、算出した。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして、光着色用、120℃耐熱評価用、耐湿熱評価用のサンプルである熱線遮蔽透明基材を作製し、評価を行った。
実施例1と同様に、光着色評価、120℃耐熱評価、耐湿熱評価での試験結果(ΔVLT/光着色、ΔST/120℃耐熱評価、耐湿熱評価)、および、評価に用いた積層構造の熱線遮蔽透明基材の可視光透過率(VLT)とヘイズ値(H)、日射透過率(ST)をそれぞれ表1に示す。
光着色前後、120℃耐熱評価前後、耐湿熱評価前後の熱線遮蔽透明基材の透過プロファイルを、それぞれ図5〜図7に示す。
実施例1〜実施例3では、微細化・分散化工程において複合タングステン酸化物を含有する粒子表面からのCs成分の脱離(WOy層の形成)、および、粉砕エネルギーによる結晶構造へのダメージによる結晶格子の乱れ(格子歪増加、席占有率低下)により表面劣化層等が形成されていることを確認できた。しかし、M元素が存在する環境下での還元雰囲気での熱処理を行う修復工程により、表面劣化層を効果的に修復できることを確認できた。その結果、得られた熱線遮蔽粒子を用いた熱線遮蔽透明基材において、光着色、熱劣化、湿熱劣化が抑制されていることが確認できた。
実施例4では、微細化・分散化工程において、溶媒に還元剤を添加しておくことで、処理中のWの酸化(価数の上昇)による複合タングステン酸化物を含有する粒子の表面からのCs成分の脱離が抑制され、表面劣化層の形成を抑制できることを確認できた。その結果、得られた熱線遮蔽粒子を用いた熱線遮蔽透明基材において、光着色、熱劣化、湿熱劣化が抑制されていることが確認できた。
一方、修復工程を実施していない比較例1では、得られた熱線遮蔽粒子を用いた熱線遮蔽透明基材において、光着色、熱劣化、湿熱劣化が実施例1〜4と比較して、試験前後で大幅に数値が変動していることが確認できた。
以上の結果から、実施例1〜4においては、修復工程や、微細化・分散化・修復工程を実施していない比較例1の場合と比較して、得られる熱線遮蔽粒子について、表面劣化層の形成を抑制できていることを確認できた。このため、耐侯性に優れた熱線遮蔽粒子を得られていることを確認できた。
上記実施例1〜4では、得られた熱線遮蔽粒子を用いて熱線遮蔽透明基材を製造した例や、熱線遮蔽分散液を製造した例を示したが、熱線遮蔽分散体や、熱線遮蔽合わせ透明基材とした場合でも同様に、耐候性に優れた熱線遮蔽分散体、熱線遮蔽合わせ透明基材とすることができる。