以下では、本発明の実施の形態に係る金属メッシュの製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
(実施の形態1)
[スクリーンメッシュ(金属メッシュ)]
まず、本実施の形態に係るスクリーンメッシュ(金属メッシュ)の概要について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10の平面図である。図2は、図1のII−II線における本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10の断面図である。
スクリーンメッシュ10は、図1に示すように、複数のタングステン線100を用いて製網された金属メッシュの一例であり、スクリーン印刷用のスクリーンメッシュである。スクリーンメッシュ10の織組織は、例えば、綾織(具体的には、2/2の綾組織を持つ四つ綾)である。具体的には、図2に示すように、タテ糸11を構成する複数のタングステン線100と、ヨコ糸12を構成する複数のタングステン線100とが2本ずつ交互に上下を交差することで、スクリーンメッシュ10は形成されている。
なお、スクリーンメッシュ10の織組織は、これに限定されず、三つ綾、又は、3/1の綾組織を持つ四つ綾などの他の綾織でもよい。あるいは、スクリーンメッシュ10の織組織は、平織、又は、繻子織でもよい。
複数のタテ糸11及び複数のヨコ糸12はそれぞれ、略等間隔に配置されている。隣り合う2本のタテ糸11の間隔(ピッチ)、及び、隣り合う2本のヨコ糸12の間隔(ピッチ)はそれぞれ、特に限定されない。タテ糸11のピッチとヨコ糸12のピッチとは、同じでもよく、異なっていてもよい。例えば、タテ糸11及びヨコ糸12はそれぞれ、1インチ当たり430本ずつ配置されている。
タテ糸11及びヨコ糸12の各々を構成する複数のタングステン線100は、例えば、全て同じであるが、互いに異なっていてもよい。例えば、タテ糸11とヨコ糸12とで異なる線径のタングステン線100を用いてもよい。タングステン線100の詳細については、後で説明する。
タテ糸11とヨコ糸12とが互いに略直角に交差することで、複数の交差部分に複数の開口(網目)13が形成されている。開口13は、隣り合う2本のタテ糸11(タングステン線100)と、隣り合う2本のヨコ糸12(タングステン線100)とによって形成される平面視形状が略矩形の開口である。
開口13は、スクリーン印刷に用いる印刷材料(インク)を通過させる部分である。所望の配線パターンなどに応じて複数の開口13を選択的に埋めることで、スクリーンメッシュ10には、印刷材料が通過可能な部分(通過部22(図5参照))と通過不可能な部分(非通過部23(図5参照))とが形成される。これにより、スクリーン印刷によって所望の配線パターンを基板などの被写体に印刷することができる。なお、開口13の穴埋めには、乳剤などが用いられる。スクリーン印刷の詳細については、図5及び図6を用いて後で説明する。
スクリーンメッシュ10を平面視した場合の、単位面積当たりの開口13の個数(開口数)、及び、単位面積当たりの開口13の面積(開口率)は特に限定されない。開口数が多く、開口率が大きい場合には、スクリーンメッシュ10を用いたスクリーン印刷の精度を高めることができる。例えば、スクリーン印刷によって、高精細な配線パターンを形成することができる。
本実施の形態では、タテ糸11及びヨコ糸12の各々の表面には、微小凹凸が形成されている。微小凹凸は、タテ糸11及びヨコ糸12の各々の表面に、不規則な配置で、かつ、略均一に形成された不規則な形状の複数の凹部(又は凸部)で構成されている。微小凹凸が形成されていることにより、タテ糸11及びヨコ糸12の各々の表面粗さRaは、例えば、0.10μmより大きくなり、好ましくは、0.15μm以上になる。タテ糸11及びヨコ糸12の表面粗さRaが大きくなることにより、乳剤の保持力を高めることができる。
なお、タテ糸11及びヨコ糸12を構成するタングステン線100を線引きする際に、タングステン線100の延伸方向に沿った長尺な溝(ライン状の凹部)が表面に形成されうる。本実施の形態では、タテ糸11及びヨコ糸12の各々の表面には、当該ライン状の凹部だけでなく、不規則な配置及び形状の微小凹凸(例えば、平面視形状が円形の凹部など)が形成されている。
スクリーンメッシュ10は、製網後に圧延されてもよい。図3は、本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10aの平面図である。図4は、図3のIV−IV線における本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10aの断面図である。
スクリーンメッシュ10aは、図1及び図2に示すスクリーンメッシュ10を圧延したものである。具体的には、圧延ロールなどを用いて、スクリーンメッシュ10を厚み方向に圧延する。これにより、図3及び図4に示すように、スクリーンメッシュ10のタテ糸11及びヨコ糸12の各々には、圧延部14が形成される。
圧延部14は、スクリーンメッシュ10が厚み方向に押圧されることで形成された平坦部である。具体的には、圧延部14は、タテ糸11及びヨコ糸12の各々が塑性変形した部分である。図4に示すように、圧延部14は、タテ糸11及びヨコ糸12の各々の上面と下面とに形成される。
圧延されたスクリーンメッシュ10aは、タテ糸11とヨコ糸12との固着強度が増加する。このため、スクリーン印刷の際のスキージなどによって押し込まれた場合であっても、開口13の形状が変形することが抑制される。したがって、スクリーン印刷の精度を高めることができる。
図3及び図4に示すスクリーンメッシュ10aにおいても、タテ糸11及びヨコ糸12の各々の表面には、微小凹凸が形成されている。具体的には、圧延部14の表面にも微小凹凸が形成されている。例えば、圧延部14の表面粗さRaは、例えば、0.10μmより大きく、好ましくは、0.15μm以上である。このように、スクリーンメッシュ10aでは、タテ糸11及びヨコ糸12の表面の略全体(圧延部14も含む)に、微小凹凸が形成されている。
[タングステン線]
続いて、スクリーンメッシュ10及び10aに用いられるタングステン線100について説明する。上述したスクリーンメッシュ10及び10aは、以下に示す特徴を有するタングステン線100を用いて製網されたものである。
タングステン線100は、極細の金属細線(金属繊維)であり、タングステン線100の線径(直径)(図1及び図2に示す線径d)は、例えば、22μm以下である。例えば、タングステン線100の線径は、18μm、16μm、13μm、9μm又は5μm以下などでもよい。
本実施の形態では、タングステン線100の表面粗さRaは、0.10μm以下である。例えば、表面粗さRaは、0.7μm又は0.4μm以下でもよい。このように、タングステン線100の表面が滑らかであるので、タングステン線100を用いた製網の際の設備摩耗、及び、圧延時の断線などを抑制することができる。なお、製網後のタングステン線100(すなわち、タテ糸11及びヨコ糸12)の表面粗さRaは、0.10μmより大きくなっていてもよい。
タングステン線100の引張強度は、例えば、3700MPa以上4200MPa以下である。
また、タングステン線100は、真直性に優れている。真直性は、垂下長さで表すことができる。垂下長さは、所定の長さのタングステン線100を、鉛直方向に沿った姿勢で真っ直ぐに引っ張った状態から張力を解いたときのタングステン線100の長さに相当する。具体的には、タングステン線100の長さが1000mmである場合における垂下長さは、例えば、900mm以上である。つまり、1000mmのタングステン線100の両端を持って、鉛直方向に引っ張って真っ直ぐに伸ばした後、下端を放した場合のタングステン線100の長さ(垂下長さ)は、900mm以上である。簡単に言い換えると、タングステン線100は、ほとんど縮まずに真っ直ぐな状態を保っている。
また、タングステン線100は、例えば、純タングステンによって構成されている。純タングステンは、純度99.9%以上のタングステンである。タングステン線100の純度は、例えば、95%以上でもよいが、これらに限定されない。本実施の形態では、タングステン線100の純度は、略100%である。
タングステン線100は、例えば、次のような方法で製造することができる。まず、粒径5μmのタングステン粉末をプレス成型して焼結してインゴット化する。次に、インゴット化したタングステン塊に対して、周囲から鍛造圧縮して伸展するスエージング加工を施すことによりワイヤ状にする。その後、孔径を漸次小さくした複数の伸線ダイスを用いた線引き(伸線)を繰り返し行う。このとき、例えば、50MG時点での酸化物量の重量比を0.2%以上0.5%以下として、線引きを孔径200μmの単結晶ダイヤモンドダイスから始める。これにより、表面粗さRaが0.10μm以下のタングステン線100を製造することができる。なお、「MG」とは、長さ200mmの線の質量をミリグラムで表した数値を示す単位である。
なお、スエージング加工後に熱処理、及び、線引き後に電解研磨などを適宜行ってもよい。これにより、タングステン線100の表面性を一層高めることができる。すなわち、タングステン線100の表面粗さRaを一層小さくすることができる。
[スクリーン印刷]
図5は、本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10を用いたスクリーン板20の平面図である。図6は、本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10を用いたスクリーン印刷を模式的に示す断面図である。
図5に示すように、スクリーンメッシュ10は、接着剤などを用いて枠材21に固定される。枠材21は、例えば、木枠又はアルミ枠などを用いて形成される。枠材21の大きさは、印刷対象のサイズなどに依存し、特に限定されない。
必要に応じてスクリーンメッシュ10の洗浄を行った後、スクリーンメッシュ10の全面(具体的には、枠材21の枠内)に感光性の乳剤を塗布(コーティング)する。所望のパターンに対応するマスク(ポジフィルムなど)を用いて露光することで、通過部22と非通過部23とを形成する。
通過部22は、スクリーン印刷の印刷材料(インク)32が通過する部分であり、スクリーンメッシュ10によって乳剤が保持されていない部分である。すなわち、通過部22は、埋められていない複数の開口13の集合である。図5に示す例では、アルファベットの「A」の字状に通過部22が形成されている。
非通過部23は、スクリーン印刷の印刷材料32が通過しない部分であり、スクリーンメッシュ10によって乳剤が保持されている部分である。すなわち、非通過部23に含まれる複数の開口13の各々は、乳剤で埋められている。非通過部23は、枠材21の枠内の通過部22を除いた部分である。
図6に示すように、スクリーン印刷は、図5で示すスクリーン板20を用いて行われる。ここでは、スクリーン印刷によって、基板40の表面に導電性の配線パターン41を形成する方法について説明する。
具体的には、スクレーパー(図示せず)を用いて、印刷材料32を通過部22内に充填させる。印刷材料32は、例えば、配線パターンを形成する場合には、銀ペーストなどの導電性材料であるが、これに限定されない。
通過部22に印刷材料32が充填された後、図6の紙面右向きの矢印で示すように、スキージ31をスクリーンメッシュ10の表面に沿って移動させる。具体的には、枠材21と基板40の表面との間には、一定の隙間が形成されているので、スキージ31は、スクリーンメッシュ10を基板40に向けて押し込むように移動させる。これにより、通過部22に充填された印刷材料が基板40に付着し、配線パターン41が形成される。
[スクリーンメッシュの製造方法]
続いて、本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10及び10aの製造方法について説明する。ここでは、図7を用いて、スクリーンメッシュ10aの製造方法について説明する。図7は、本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10aの製造方法を示すフローチャートである。なお、スクリーンメッシュ10は、図7に示す圧延工程(S12)を省略することで製造される。
まず、複数のタングステン線100を用いて、スクリーン印刷用のスクリーンメッシュ10aを製網する(S10)。具体的には、製網装置(織機)を用いて複数のタングステン線100をそれぞれタテ糸11及びヨコ糸12として織り込むことで、圧延前のスクリーンメッシュが製網される。
製網工程(S10)で用いるタングステン線100の表面粗さRaは、上述したように、例えば、0.10μm以下である。つまり、製網直後のスクリーンメッシュ10aのタテ糸11及びヨコ糸12の表面粗さRaは、タングステン線100の表面粗さRaと略同じであり、例えば、0.10μm以下である。
また、製網工程(S10)で用いるタングステン線100の引張強度は、例えば、3700MPa以上4200MPa以下である。また、製網工程(S10)で用いるタングステン線100の線径は、22μm以下である。また、製網工程(S10)で用いるタングステン線100の長さが1000mmである場合における垂下長さは900mm以上である。なお、タングステン線100の表面粗さRa、引張強度、線径及び垂下長さなどは、これらの例に限らない。
次に、製網されたスクリーンメッシュ10aを圧延する(S12)。例えば、圧延ロールなどを用いてスクリーンメッシュ10aを厚み方向に押圧することで、タテ糸11及びヨコ糸12の各々の上面及び下面に圧延部14を形成する。圧延部14は、平坦化されており、例えば、表面粗さRaが0.10μm以下である。
次に、製網されたスクリーンメッシュ10aを構成するタテ糸11及びヨコ糸12の表面に微小凹凸を形成する(S14)。すなわち、スクリーンメッシュ10aの粗面化を行う。本実施の形態では、圧延する工程(S12)の後に、微小凹凸を形成する。具体的には、タテ糸11及びヨコ糸12の、圧延部14も含む表面全体に微小凹凸を形成する。例えば、スクリーンメッシュ10aに薬剤を接触させることで、微小凹凸を形成する。
薬剤は、例えば、過酸化水素水(H2O2)又はアルカリ系の溶液である。適当な大きさの容器に入れられた薬剤にスクリーンメッシュ10aを浸すことで、タテ糸11及びヨコ糸12の全面に薬剤を接触させることができ、全面に微小凹凸を形成することができる。
これにより、タテ糸11及びヨコ糸12の表面粗さRaは、例えば、0.10μmより大きくなる。薬剤の成分濃度及び薬剤との接触時間を制御することで、処理後の表面粗さRaを調整することができる。
図8は、本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10aの薬剤処理による表面粗さRa及び膜厚の変化を示す図である。図8は、薬剤に接触させる前の初期状態と、接触後に所定期間経過した時点(t1〜t4)の状態との各々(横軸)における膜厚(左側の縦軸)と表面粗さRa(右側の縦軸)とを表している。なお、時点t1〜t4は、この順で初期状態からの経過時間が長くなっている。
ここでは、初期状態の線径が16μmで、表面粗さRaが0.11μmのタングステン線100を用いて製網されたスクリーンメッシュ10aに対して表面の粗面化を行った。なお、スクリーンメッシュ10aの膜厚は、開口13に直交する方向(図3の紙面直交方向)における長さであり、上側のタングステン線100(例えば、タテ糸11)の上面から下側のタングステン線100(例えば、ヨコ糸12)の下面までの距離である。
図8に示すように、初期状態からの経過時間が長くなるにつれて、表面粗さRaが大きくなっている。つまり、スクリーンメッシュ10aと薬剤との接触時間を長くすることで、表面粗さRaを大きくすることができることが分かる。したがって、適切な接触時間を設計することで、所望の表面粗さRaにすることができる。一方で、経過時間に依らず、スクリーンメッシュ10aの膜厚は略一定である。
以上のことから、スクリーンメッシュ10aの膜厚を略一定に保った状態で、タテ糸11及びヨコ糸12の表面粗さRaを大きくすることができる。これにより、スクリーンメッシュ10aの強度を保ちながら、乳剤の保持力を向上させることができる。
[効果など]
以下では、スクリーンメッシュ10又は10a及びタングステン線100の効果について、本発明に至った経緯も含めて説明する。
従来、スクリーン印刷用のスクリーンメッシュは、ステンレス線(SUS線)を用いて製造されていた。しかしながら、ステンレス線は強度が十分ではないために、ステンレス線を用いて製網されたスクリーンメッシュでは、スキージに押し込まれた時に伸びてしまい、網目(開口)の形状が変形するという問題がある。
そこで、本発明者らは、強度がより強い材料を用いてスクリーンメッシュを製造することを検討した。具体的には、本発明者らは、強度が強い材料としてタングステンに着目し、スクリーンメッシュを製造することを検討した。タングステン線は、硬度はステンレス線の4倍程度であり、引張強度はステンレス線の1.3倍程度である。このように、タングステン線はステンレス線よりも強くて伸びにくいので、タングステン線を用いて製網されたスクリーンメッシュは、スキージに押し込まれた時の網目の変形が抑制される。したがって、スクリーン印刷を精度良く行うことができる。
ところで、スクリーンメッシュには、スクリーン印刷における印刷パターンを形成する乳剤の保持力が求められる。スクリーンメッシュによる乳剤の保持力が弱い場合、パターニングした乳剤の形状が崩れてスクリーン印刷の精度が低下する。
そこで、本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10又は10aの製造方法は、複数のタングステン線100を用いて、スクリーン印刷用のスクリーンメッシュ10又は10a(金属メッシュ)を製網する工程と、製網されたスクリーンメッシュ10又は10aを構成する複数のタングステン線100(タテ糸11及びヨコ糸12)の表面に凹凸を形成する工程とを含む。
これにより、スクリーンメッシュ10又は10aがタングステン線100を用いて製網されているので、スクリーンメッシュ10又は10aの強度を高めることができる。
また、スクリーンメッシュ10又は10aを構成するタングステン線100の表面、すなわち、タテ糸11及びヨコ糸12の表面に凹凸を形成するので、形成された微小凹凸に乳剤が保持されやすくなる。したがって、スクリーンメッシュ10又は10aによる乳剤の保持力を高めることができる。
また、微小凹凸の形成(すなわち、粗面化)は、スクリーンメッシュ10又は10aの製網後に行われるので、製網に用いるタングステン線として、表面性に優れた(具体的には、表面粗さRaが十分に小さい)タングステン線100を用いることができる。したがって、製網中の断線の発生、及び、製網装置の筬などの設備の摩耗を抑制することができる。
また、例えば、スクリーンメッシュ10aの製造方法は、さらに、製網されたスクリーンメッシュ10を圧延する工程を含み、形成する工程では、圧延する工程の後に、凹凸を形成する。
これにより、スクリーンメッシュ10aは圧延されているので、タテ糸11とヨコ糸12との固着強度が増加する。したがって、スキージなどによって押し込まれた場合であっても、開口13の形状が変形することが抑制されるので、スクリーン印刷の精度を高めることができる。
また、例えば、形成する工程では、スクリーンメッシュ10又は10aに薬剤を接触させることで、凹凸を形成する。
これにより、スクリーンメッシュ10又は10aを薬剤に接触させるという簡単な処理で、スクリーンメッシュ10又は10aの粗面化を行うことができる。また、薬剤の成分濃度及び薬剤との接触時間を制御することで、所望の表面粗さを実現することができる。
ところで、タングステン線には、表面が粗いという問題がある。表面が粗いタングステン線を用いて製網を行った場合、製網装置(織機)などの設備の摩耗が激しい。具体的には、製網装置が備える部品(具体的には、タングステン線を押さえる筬)が摩耗により消耗し、交換頻度が増加する。また、製網時の設備の摩耗だけでなく、製網後に圧延したときにタングステン線に割れが発生する。
さらに、発明者らは、製網時の設備の摩耗及び圧延時のタングステン線の割れを抑制すべく、鋭意検討を重ねた結果、タングステン線の表面性を十分に高めることで、これらの問題を解決することができた。
以下では、表面粗さRaが異なる複数のタングステン線に対して、製網中の断線の発生、及び、製網装置の筬などの設備の摩耗について評価した結果について説明する。ここでは、表面粗さRaが0.04μm、0.07μm、0.10μm、0.12μm、0.15μmの5種類のタングステン線について評価した。図9は、本実施の形態に係るタングステン線100の評価結果を示す図である。
図9に示すように、表面粗さRaが0.10μm以下のタングステン線を用いて製網した場合、断線及び設備の摩耗はほとんど発生しなかった。一方で、表面粗さRaが0.12μm及び0.15μmのタングステン線を用いて製網した場合、断線及び設備の摩耗の発生が確認された。具体的には、表面粗さRaが0.15μmのタングステン線を用いて製網した場合には、タテ糸の約20%に断線が発生した。また、表面粗さRaが0.15μmのタングステン線を用いて製網した場合には、タテ糸を押さえる筬が激しく摩耗した。
以上のことから、本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10又は10aの製造方法では、例えば、製網する工程で用いるタングステン線100の表面粗さRaは、0.10μm以下であり、スクリーンメッシュ10を構成するタテ糸11及びヨコ糸12の表面粗さRaは、0.10μmより大きい。
これにより、表面粗さRaが0.10μm以下であるような十分に表面性が高いタングステン線100を用いることで、製網装置の摩耗を抑制することができる。また、タングステン線100の滑りが良くなるので、製網の加工性も向上する。具体的には、タテ糸11及びヨコ糸12の歪み及び位置ずれなどが抑制されて、面内で均一な形状の複数の開口13を有するスクリーンメッシュ10を製網することができる。
さらに、タングステン線100の表面の凹凸(亀裂)が少なくなるので、製網後の圧延時に、タングステン線100に割れが発生するのを抑制することができる。このため、タングステン線100の断線の発生が少なくなるので、スクリーンメッシュ10の歩留まりの低下を抑制することができる。
また、製網後のタテ糸11及びヨコ糸12の表面粗さRaが0.10μmより大きいので、乳剤を表面の凹凸に保持させることができる。したがって、スクリーンメッシュ10による乳剤の保持力を高めることができる。
また、例えば、製網する工程で用いるタングステン線100の引張強度は、3700MPa以上4200MPa以下である。
これにより、タングステン線100の引張強度が3700MPa以上であって高いので、スクリーンメッシュ10の耐久性を高めることができる。具体的には、スクリーン印刷の際にスキージ31に押し込まれた場合でも、タングステン線100の断線などを抑制することができる。また、タングステン線100の引張強度は4200MPa以下であって高すぎないので、タングステン線100が硬すぎて割れてしまうことを抑制することができる。
また、例えば、製網する工程で用いるタングステン線100の長さが1000mmである場合における垂下長さは、900mm以上である。
これにより、タングステン線100の真直性が十分に高いので、製網時の断線の発生を抑制することができる。したがって、タングステン線100を用いて製網したスクリーンメッシュ10の歩留まりの低下を抑制することができる。
また、例えば、製網する工程で用いるタングステン線100の線径は、22μm以下である。
これにより、タングステン線100の線径が22μm以下であるので、タングステン線100の柔軟性が高く、曲げやすくなる。したがって、製網の加工性を高めることができる。また、タングステン線100の線径が22μm以下であるので、タングステン線100を用いて製網されたスクリーンメッシュ10の耐久性を高めることができる。したがって、スクリーン印刷に繰り返し使用した場合であっても網目(開口13)の崩れなどの発生が抑制されて、高精度のスクリーン印刷を行うことができる。
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2について説明する。
実施の形態1では、金属メッシュをスクリーン印刷用のスクリーンメッシュ10として用いる例について示したが、金属メッシュの用途はこれに限定されない。本実施の形態では、放射性物質の吸着及び回収用途に用いられる金属メッシュについて説明する。
以下では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、同じ点については説明を省略又は簡略化する。
[構成]
図10は、本実施の形態に係る金属メッシュ110の外観図である。なお、図10では、金属メッシュ110の一部にのみ網目を図示しているが、金属メッシュ110の全体が網目状になっている。
本実施の形態に係る金属メッシュ110は、複数のタングステン線100を用いて製網されている。金属メッシュ110の織組織は、例えば、綾織(具体的には、2/2の綾組織を持つ四つ綾)である。具体的には、タテ糸111を構成するタングステン線100とヨコ糸112を構成する複数のタングステン線100とが2本ずつ交互に上下を交差することで、金属メッシュ110は形成されている。
金属メッシュ110の具体的な構成は、実施の形態1に係るスクリーンメッシュ10と略同じである。タテ糸111及びヨコ糸112の各々が、タングステン線100の単線ではなく、繊維が織り込まれたタングステン線100(タングステン繊維)から構成されている点が相違する。
図11は、本実施の形態に係る金属メッシュ110の製網に用いるタングステン繊維120の模式図である。具体的には、タングステン繊維120は、金属メッシュ110を構成する複数のタテ糸111及び複数のヨコ糸112の各々に相当する。
タングステン繊維120は、タングステン線100と化学繊維とを含む複合線である。具体的には、タングステン繊維120は、タングステン線100を芯線として、化学繊維からなる仮撚糸121が巻回された金属繊維である。図11に示すタングステン繊維120を、タテ糸111及びヨコ糸112として用いることで、図10に示す金属メッシュ110が製網されている。
仮撚糸121は、タングステン線100に織り込まれた繊維の一例であり、例えば、化学繊維から構成されている。仮撚糸121を構成する化学繊維としては、例えば、ポリエステル、アクリル又はナイロンなどの合成繊維が用いられる。化学繊維としては、合成繊維に限らず、レーヨンなどの再生繊維、又は半合成繊維を用いてもよい。また、化学繊維の代わりに、天然繊維を仮撚糸121として用いてもよい。
本実施の形態では、仮撚糸121には、放射性物質を吸着する吸着剤が付着されている。吸着剤は、例えば、プルシャンブルーであるが、これに限定されない。
プルシャンブルーは、紺青と呼ばれる青色の人工顔料である。プルシャンブルーの一般的な組成式は、AyFe[Fe(CN)6]x・zH2Oで表される。組成式中の「A」は、セシウムイオン(Cs+)などの金属陽イオンである。組成式中の「x」、「y」及び「z」は、所定の定数である。プルシャンブルーは、金属錯体又は配位高分子と呼ばれる物質群の一種で、粒径10nm以下の微結晶の内部に複数の空隙を持つ構造を有する。プルシャンブルーは、当該空隙にセシウムを取り込むことで、セシウムイオンを選択的に吸着する性質を有する。
[製造方法]
続いて、本実施の形態に係る金属メッシュ110の製造方法について説明する。図12は、本実施の形態に係る金属メッシュ110の製造方法を示すフローチャートである。
図12に示すように、まず、放射性物質を吸着する吸着剤を複数のタングステン線100に保持させる(S8)。具体的には、プルシャンブルーを複数のタングステン線100の各々に付着させる。
本実施の形態では、複数のタングステン線100の各々に繊維(仮撚糸121)を織り込み、織り込んだ繊維にプルシャンブルーを付着させる。例えば、仮撚糸121が織り込まれたタングステン線100に、プルシャンブルーを含む塗料を塗布することで、仮撚糸121にプルシャンブルーを付着させる。あるいは、仮撚糸121にプルシャンブルーを含浸させてもよい。すなわち、プルシャンブルーが予め付着された仮撚糸121をタングステン線100に織り込んでもよい。
ここで、タングステン線100に織り込まれた繊維(仮撚糸121)ではなく、タングステン線100の表面に直接プルシャンブルーを付着させてもよい。例えば、プルシャンブルーを含む塗料を複数のタングステン線100の各々の表面に塗布してもよい。
あるいは、タングステン線100を製造する際に、タングステン線100の原材料にプルシャンブルーを混入してもよい。具体的には、タングステン粉末とプルシャンブルーとの混合物をプレス成型して焼結してインゴット化してもよい。インゴット化された混合物に対して、スエージング加工及び線引きを行うことで、プルシャンブルーを含有するタングステン線100を製造することができる。
次に、プルシャンブルーが保持された複数のタングステン線100を用いて、金属メッシュ110を製網する(S10)。具体的な処理は、実施の形態1と同様である。
以上のように、本実施の形態では、プルシャンブルーの保持工程(S8)は、製網工程(S10)より前に行われる。なお、実施の形態1と同様に、製網後に、圧延(S12)及び粗面化(S14)を行ってもよい。
[効果など]
従来、原子力発電所において、ウラン、プルトニウムなどの核燃料を使用した場合に、核分裂生成物として、セシウム、コバルトなどの放射性物質が生成される。放射性物質は、人体及び環境などに悪影響を与えるため、外部に漏れ出ないように、かつ、漏れ出た場合には速やかに効率良く回収することが望まれている。
上述したように、プルシャンブルーは、放射性物質であるセシウムなどを吸着するので、セシウムの回収を容易に行うことができる。しかしながら、セシウムを吸着したプルシャンブルーが放射線の放出源となるので、このプルシャンブルーの回収が困難となる。
そこで、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、タングステン繊維とプルシャンブルーとを利用して、効率良く放射性物質を回収することを見出した。具体的には、本実施の形態に係るタングステン繊維120は、タングステン線100と、タングステン線100に保持された、放射性物質を吸着する吸着剤とを有する。ここで、吸着剤は、例えば、プルシャンブルーである。
一般的に、タングステンは、比重が重いので、放射線の遮蔽効果を有する。具体的には、タングステンをガンマ線が通過する際に、ガンマ線が減衰する。したがって、放射性物質の周囲をタングステンで囲むことで、放射性物質からの放射線が外部に放出されるのを抑制することができる。
本実施の形態では、プルシャンブルーがタングステン線100に保持されているので、プルシャンブルーが吸収したセシウムなどの放射性物質から放出される放射線は、プルシャンブルーに近接しているタングステン線100によって遮蔽される。すなわち、金属メッシュ110は、プルシャンブルーによって放射性物質を吸着することができ、かつ、吸着した放射性物質からの放射線が外部に放出されるのを抑制することができる。したがって、放射性物質を金属メッシュ110ごと回収することができる。
また、例えば、タングステン繊維120は、さらに、タングステン線100に織り込まれた繊維(具体的には、仮撚糸121)を有し、吸着剤は、繊維に付着されている。
これにより、タングステン線100に仮撚糸121が織り込まれているので、タングステン繊維120の表面積を大きくすることができる。プルシャンブルーの付着面積が大きくなるので、放射性物質の吸着力を高めることができる。
また、例えば、タングステン繊維120は、吸着剤は、タングステン線100の表面に付着されている。
これにより、タングステン線100の表面にプルシャンブルーが付着されているので、プルシャンブルーが吸着した放射性物質から放出される放射線をタングステン線100が効率良く減衰させることができる。したがって、タングステン繊維120による放射線の遮蔽効果を高めることができる。また、タングステン線100の表面を荒らした場合には、タングステン線100の表面積を大きくすることができるので、プルシャンブルーの付着面積を大きくすることができる。
また、本実施の形態に係る金属メッシュ110の製造方法は、さらに、放射性物質を吸着する吸着剤(具体的には、プルシャンブルー)を複数のタングステン線100に保持させる工程(S8)を含む。また、例えば、保持させる工程(S8)は、製網する工程(S10)の前に行う。
これにより、プルシャンブルーによってセシウムなどを吸着することができ、吸着されたセシウムなどから放出される放射線をタングステン線100によって遮蔽する。よって、金属メッシュ110を用いて放射性物質の回収を簡単に行うことができる。
また、例えば、保持させる工程(S8)では、複数のタングステン線100の各々に繊維(具体的には、仮撚糸121)を織り込み、織り込んだ繊維に吸着剤を付着させる。
これにより、タングステン線100に仮撚糸121を織り込むので、金属メッシュ110の表面積を大きくすることができる。プルシャンブルーの付着面積が大きくなるので、放射性物質の吸着力を高めることができる。
[変形例]
以下では、本実施の形態に係る金属メッシュ110及びタングステン繊維120の変形例について説明する。
例えば、本実施の形態では、タングステン線100に仮撚糸121を織り込み、織り込んだ仮撚糸121にプルシャンブルーを付着させたが、これに限らない。タングステン線100の表面に直接、プルシャンブルーなどの吸着剤を塗布してもよい。
図13は、本変形例に係る金属メッシュの製造方法を示すフローチャートである。
図13に示すように、製網工程(S10)と粗面化工程(S14)とを行う。これらの工程は、実施の形態1と略同じである。具体的には、製網工程(S10)では、仮撚糸121が織り込まれていないタングステン線100を用いて金属メッシュ(図1及び図2に示すスクリーンメッシュ10)を製網する。
なお、製網工程(S10)では、各々に繊維(仮撚糸121)が織り込まれた複数のタングステン線100を用いて、金属メッシュを製網してもよい。また、図13に示す例では、圧延工程(S12)を省略しているが、圧延工程を行ってもよい。
次に、プルシャンブルーを複数のタングステン線100に保持させる(S16)。具体的には、複数のタングステン線100の表面にプルシャンブルーを塗布する。例えば、プルシャンブルーを含む塗料に、製網された金属メッシュを浸漬することで、金属メッシュの全面にプルシャンブルーを塗布する。あるいは、噴霧器などを用いてプルシャンブルーを含む塗料を金属メッシュに吹き付けてもよい。
以上のように、例えば、本変形例に係る金属メッシュの製造方法は、保持させる工程(S16)は、製網する工程(S10)の後に行う。
これにより、放射性物質の回収用途に用いる場合に、必要に応じて金属メッシュに放射性物質の吸着力を持たすことができる。また、金属メッシュの製網後にプルシャンブルーを保持させるので、プルシャンブルーを保持させる前の金属メッシュを、放射性物質の回収以外の用途(例えば、スクリーン印刷)に用いることができる。すなわち、金属メッシュの汎用性を高めることができる。また、異なる用途に利用可能な金属メッシュを大量生産しておくことで、コストの低下を実現することができる。
また、本変形例では、保持させる工程(S16)は、粗面化工程(S14)の後に行う。タングステン線100の表面を荒らすことで、プルシャンブルーの付着面積が増加する。したがって、放射性物質の吸着力を高めることができる。
なお、本発明は、プルシャンブルーなどの吸着剤が保持されたタングステン線100を用いた繊維製品であれば、金属メッシュに限定されない。例えば、繊維製品は、タングステン繊維120を原糸とする織物、編物又は不織布などの繊維布帛でもよい。繊維布帛の形状は、例えば、布状又はシート状であるが、これに限らない。例えば、タングステン繊維120を綿状(ワタ状)にまとめてもよい。
また、例えば、タングステン繊維120は、図11に示すような構成に限らず、タングステン線100と化学繊維からなる糸とを撚り又は引き揃えたものでもよい。
また、例えば、タングステン繊維120は、タングステン線100と仮撚糸121との複合線に限らず、プルシャンブルーなどの吸着剤が保持されたタングステン線100の単線でもよい。
また、例えば、本実施の形態では、タングステン線100を製網する例について示したが、これに限らない。例えば、表面にプルシャンブルーを塗布した複数のタングステン線100を撚り又は引き揃えただけでもよい。
また、本実施の形態では、図12で示したように、タングステン線100の粗面化を行わなくてもよい。
(その他)
以上、本発明に係る金属メッシュの製造方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
例えば、上記の実施の形態では、製網されたスクリーンメッシュ10又は10aを薬剤に浸すことで、スクリーンメッシュ10又は10aと薬剤との接触を行ったが、これに限らない。製網されたスクリーンメッシュ10又は10aに対して、噴霧器などを用いて薬剤を吹き付けてもよい。
また、例えば、製網されたスクリーンメッシュ10又は10aの粗面化の方法は、薬剤処理に限らない。例えば、ショットブラスト法によってスクリーンメッシュ10又は10aを粗面化してもよい。
また、例えば、上記の実施の形態では、タングステン線100の引張強度、垂下長さ及び線径の数値の例示を行ったが、例示した数値に限定されない。例えば、タングステン線100の引張強度は、4200MPaより大きくてもよく、3700MPaより小さくてもよい。例えば、タングステン線100の長さが1000mmである場合における垂下長さは、900mmより短くてもよい。タングステン線100の線径は、22μmより大きくてもよい。
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。