JP6869774B2 - アニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量の測定方法 - Google Patents
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Description
即ち、本発明者らは、下記の〔1〕〜〔14〕を提供する。
〔1〕少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含み、B型粘度が測定を実施するpH範囲において、60rpm、20℃の条件で100mPa・s未満であり、6rpm、20℃の条件で500mPa・s未満である測定溶液を酸性にする工程Aと、酸性にした前記測定溶液が塩基性になるまで塩基性溶液を添加して置換反応を行い、塩基性溶液の添加量、測定溶液の電気伝導度の測定値及びpH値を継時的に測定する工程Bと、前記電気伝導度の測定値に下記一般式(1)で算出される係数を乗じて電気伝導度の補正値を算出する工程Cと、前記測定溶液中のアニオン性官能基が実質的に未置換の第1段階、前記測定溶液中のアニオン性官能基と塩基性溶液とが反応しアニオン性官能基とその共役塩基とが共存する第2段階、及び前記測定溶液中のアニオン性官能基の共役塩基への置換が実質的に完了する第3段階について塩基性溶液の添加量と電気伝導度の補正値との相関関係を得て、下記一般式(2)によりセルロース系材料のアニオン性官能基量を算出する工程Dと、を有するアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量の測定方法(以下、単に「測定方法」ともいう)。
〔2〕前記アニオン性官能基が、カルボキシル基、カルボキシメチル基又はリン酸エステル基である上記〔1〕に記載の測定方法。
〔3〕前記アニオン性官能基が、カルボキシル基又はカルボキシメチル基である上記〔2〕に記載の測定方法。
〔4〕前記セルロース系材料が、セルロースナノファイバーである上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の測定方法。
〔5〕前記工程Bにおいて、前記測定溶液の温度を一定に保つ上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の測定方法。
〔6〕前記第2段階における塩基性溶液の添加量が、前記第1、2及び3段階について塩基性溶液の添加量−電気伝導度曲線を作成し、第1段階における前記曲線から求められる第1漸近線と第2段階における前記曲線から求められる第2漸近線との交点における前記添加量を、前記第2漸近線と第3段階における前記曲線から求められる第3漸近線との交点における前記添加量から差し引いて求められる添加量である上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の測定方法。
〔7〕前記第1〜前記第3漸近線が、最小二乗法で算出される上記〔6〕に記載の測定方法。
〔8〕少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含む測定溶液を撹拌する手段Aと、塩基性溶液を前記測定溶液に添加する手段Bと、前記塩基性溶液の添加量、pH値及び電気伝導度の値を計測する手段Cと、前記電気伝導度の値を補正し、補正した前記電気伝導度の値と前記塩基性溶液の添加量から滴定曲線を作成する手段Dと、を有するアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量測定用システム(以下、単に「測定用システム」ともいう)。
〔9〕前記手段Bにおいて、前記測定溶液の温度を一定に保つ手段b、をさらに有する上記〔8〕に記載の測定用システム。
〔10〕上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の測定方法、又は上記〔8〕若しくは〔9〕に記載の測定用システムに用いられるアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量測定用キットであって、測定溶液を調製するための溶液と、所定濃度の塩基性溶液と、を含むキット(以下、単に「キット」ともいう)。
〔11〕セルロース原料にアニオン性官能基を導入する工程と、アニオン性官能基を導入したセルロースを解繊してセルロースナノファイバーを製造する工程と、上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の測定方法により、前記セルロース又は前記セルロースナノファイバーのアニオン性官能基量を測定して品質を判定する工程と、を有するセルロースナノファイバーの製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう)。
〔12〕前記アニオン性官能基が、カルボキシル基、カルボキシメチル基又はリン酸エステル基である上記〔11〕に記載の製造方法。
〔13〕前記アニオン性官能基が、カルボキシル基又はカルボキシメチル基である上記〔12〕に記載の製造方法。
〔14〕前記セルロース又は前記セルロースナノファイバーの前記品質を判定する工程において、測定回数2〜5における、前記アニオン性官能基量の算出値の差が0.15mmol/g以上である場合に、前記セルロース又は前記セルロースナノファイバーを製品から除外する上記〔11〕〜〔13〕のいずれかに記載の製造方法。
本発明の測定方法は、少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含み、B型粘度が電気伝導度の測定を実施するpH範囲において、60rpm、20℃の条件で100mPa・s未満であり、6rpm、20℃の条件で500mPa・s未満である測定溶液を酸性にする工程Aと、酸性にした測定溶液が塩基性になるまで塩基性溶液を添加して置換反応を行い、塩基性溶液の添加量、測定溶液の電気伝導度の測定値及びpH値を継時的に測定する工程Bと、電気伝導度の測定値に下記一般式(1)で算出される係数を乗じて電気伝導度の補正値を算出する工程Cと、測定溶液中のアニオン性官能基が実質的に未置換の第1段階、測定溶液中のアニオン性官能基と塩基性溶液とが反応しアニオン性官能基とその共役塩基とが共存する第2段階、及び測定溶液中のアニオン性官能基の共役塩基への置換が実質的に完了する第3段階について塩基性溶液の添加量と電気伝導度の補正値との相関関係を得て、下記一般式(2)によりアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量を算出する工程Dと、を有する。以下、各工程の詳細を個別に説明する。
工程Aは、少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含み、B型粘度が電気伝導度の測定を実施するpH範囲において、60rpm、20℃の条件で100mPa・s未満であり、6rpm、20℃の条件で500mPa・s未満である測定溶液を酸性にする工程である。ここで、「酸性にする」とは、セルロース系材料に導入したアニオン変性官能基が、溶液中で共役塩基ではなくブレンステッド酸として存在するpH値にすることをいう。一例として、アニオン性官能基がカルボキシル基又はカルボキシメチル基である場合、カルボキシレート基(COO−基)ではなくカルボキシル基(COOH基)として存在するpH値にすることをいう。アニオン性官能基がカルボキシル基又はカルボキシメチル基である場合、pH値2.6未満にすることが好ましく、2.4未満にすることがより好ましい。
また、アニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料としては、例えば、酸化セルロース(「カルボキシル化セルロース」や「酸化パルプ」ともいう)やカルボキシメチル化セルロース、それらを解繊処理して得られるセルロースナノファイバー(例えば、カルボキシル化セルロースナノファイバーやカルボキシメチル化セルロースナノファイバー)が挙げられる。
水溶液の調製に使用する水は、不純物による電気伝導度の測定値の影響を少なくするという理由で、超純水やイオン交換水を用いることが好ましい。
測定溶液のB型粘度は測定を実施するpH範囲において、60rpm、20℃の条件では、100mPa・s未満であり、80mPa・s未満であることが好ましく、60mPa・s未満であることがさらに好ましい。また、6rpm、20℃の条件では、500mPa・s未満であり、250mPa・s未満であることが好ましく、130mPa・s未満であることがさらに好ましい。
測定溶液は、電気伝導度の閾値を底上げする目的で塩化ナトリウム等の電解質を含んでもよいし、含まなくてもよい。但し、滴定に無関係な電解質の濃度を可能な限り少なくするという理由で、電解質を含まないことが好ましい。
なお、B型粘度は、例えば、TV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定することができる。
工程Bは、酸性にした測定溶液が塩基性になるまで塩基性溶液を添加して置換反応を行い、塩基性溶液の添加量、測定水溶液の電気伝導度の測定値及びpH値を継時的に測定する工程である。ここで、「置換反応」とは、測定溶液中のセルロース系材料に導入したアニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、カルボキシル基)を共役塩基(例えば、カルボキシレート基)に置換する反応を言う。測定は、酸性にした測定溶液が塩基性になるまで行う。より詳しくは、セルロース系材料に導入したアニオン性官能基が、溶媒中でブレンステッド酸ではなく共役塩基として存在するpH値になるまで行う。一例として、アニオン性官能基がカルボキシル基又はカルボキシメチル基である場合、カルボキシル基(COOH基)ではなくカルボキシレート基(COO−基)として存在するpH値にすることをいう。アニオン性官能基がカルボキシル基又はカルボキシメチル基である場合、pH値は11程度になるまで行う。
なお、工程Bにおいて、測定溶液の温度は一定に保つことが好ましい。
なお、調製に使用する溶液は、工程Aで測定溶液の調製に用いたものと同じ溶液を用いる。一例として水を用いる場合は、不純物による電気伝導度の測定値の影響を少なくするという理由で、超純水やイオン交換水が好ましい。
第1段階は、測定溶液中のアニオン性官能基(例えば、カルボキシル基)が実質的に置換されていない段階であり、強酸の中和段階である。電気伝導度の値(測定値及び補正値)は通常、工程B開始時には最高値を示しており、第1段階が進むにつれプロトンが中和されることにより低下する。
第2段階は、測定溶液中のアニオン性官能基(例えば、カルボキシル基)と塩基性溶液とが反応しアニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、カルボキシル基)とその共役塩基(例えば、カルボキシレート基)とが共存する段階であり、弱酸の中和段階である。第2段階における電気伝導度の値(測定値及び補正値)は、第1段階から引き続き低下するが、アニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、COOH)からその共役塩基(例えば、COO−)への置換が進むことにより緩衝状態となり、第2段階の途中で低下が止まり微増する。
第3段階は、測定溶液中のアニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、カルボキシル基)のその共役塩基(例えば、カルボキシレート基)への置換が実質的に完了した段階である。第3段階においては、中和終了に伴い、塩基性溶液中のイオン(例えば、水酸化物イオン)により電気伝導度の値(測定値及び補正値)が上昇する。
工程Cは、電気伝導度の測定値に下記一般式(1)で算出される係数を乗じて電気伝導度の補正値を算出する工程である。
工程Dは、測定溶液中のアニオン性官能基(例えば、カルボキシル基)が実質的に未置換の第1段階、測定溶液中のアニオン性官能基(例えば、カルボキシル基)と塩基性溶液とが反応しアニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、カルボキシル基)とその共役塩基(例えば、カルボキシレート基)とが共存する第2段階、及び測定溶液中のアニオン性官能基のブレンステッド酸(例えば、カルボキシル基)の共役塩基(例えば、カルボキシレート基)への置換が実質的に完了する第3段階について塩基性溶液の添加量と電気伝導度の補正値との相関関係を得て、下記一般式(2)によりアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量を算出する工程である。
なお、漸近線は、1)の領域では、pH値2.0付近の電気伝導度における接線をもとに作成し、2)の領域では、電気伝導度が最小の値である点を通る水酸化ナトリウムの添加量軸と平行な直線として作成し、3)の領域では、pH値10.0付近の電気伝導度における接線をもとに直線として作成する。
従来の測定方法では、測定水溶液を希釈すると、漸近線の誤差が大きくなるため、作成した漸近線と滴定曲線の傾きとの解離が無視できないほど大きくなる。そのため、高粘度のセルロース系材料の測定水溶液を希釈して粘度を低減することはできなかった。
なお、漸近線は、以下のようにして作成している。1)の領域では、pH値が2.4〜2.8の範囲で最小二乗法により第1漸近線を作成し、2)の領域では、pH値が4.8〜6.0の範囲で最小二乗法により第2漸近線を作成し、3)の領域では、pH値が10.4〜10.8の範囲で最小二乗法により第3漸近線を作成する。
本発明の測定用システムは、少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含む測定溶液を撹拌する手段Aと、塩基性溶液を測定溶液に添加する手段Bと、塩基性溶液の添加量、pH値及び電気伝導度の値を計測する手段Cと、電気伝導度の値を補正し、補正した電気伝導度の値と塩基性溶液の添加量から滴定曲線を作成する手段Dと、を有する。当該システムを利用することで、本発明の測定方法を簡便に行うことができる。以下、各手段の詳細を個別に説明する。
手段Aは、少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含む測定溶液を撹拌する手段である。撹拌は、従来公知の方法で行うことができ、例えば、スターラーを用いて行うことができる。
手段Bは、塩基性溶液を測定溶液に添加する手段である。添加は、従来公知の方法で行うことができ、例えば、ビュレットや自動滴定装置を用いて滴下して行うことができる。
手段Cは、塩基性溶液の添加量、pH値及び電気伝導度の値を計測する手段である。本手段では、所定時間毎に目視で数値を計測してもよく、機器を用いて所定時間毎に数値を計測してもよい。中でも、人為的誤差を少なくするという理由で、機器を用いて所定時間毎に数値を計測することが好ましい。
なお、機器を用いて数値を計測する場合、データメモリに保存したデータをパーソナルコンピューターに読み込んでデータ入力してもよく、機器とパーソナルコンピューターを接続して測定と同時にデータ入力してもよい。中でも、利便性の観点から機器とパーソナルコンピューターを接続して測定と同時にデータ入力することが好ましい。
手段Dは、電気伝導度の値を補正し、補正した電気伝導度の値と塩基性溶液の添加量から滴定曲線を作成する手段である。電気伝導度の値の補正、及び補正した電気伝導度の値と塩基性溶液の添加量から作成する滴定曲線は、データ入力したパーソナルコンピューター上で行うことが好ましい。
本発明のキットは、本発明の測定方法、又は本発明の測定用システムに用いられるアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量測定用キットであって、測定溶液を調製するための溶液と、所定濃度の塩基性溶液と、を含む。
なお、測定に使用した機器を洗浄するための洗浄液を含むものであってもよい。
本発明の製造方法は、セルロース原料にアニオン性官能基を導入する工程と、アニオン性官能基を導入したセルロースを解繊してセルロースナノファイバーを製造する工程と、本発明の測定方法により、アニオン性官能基を導入したセルロース又はセルロースナノファイバーのアニオン性官能基量を測定して品質を判定する工程と、を有する。
カルボキシル基は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化することにより調製することができる。
カルボキシル化の一例として、セルロース原料を、N−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物、又はこれらの混合物と、の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法がある。この酸化反応により、セルロース表面のピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化される。その結果、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(−COOH)又はカルボキシレート基(−COO−)と、を有する酸化セルロースを得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下であることが好ましい。
N−オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol〜10mmolが好ましく、0.01mmol〜1mmolがより好ましく、0.05mmol〜0.5mmolがさらに好ましい。また、その濃度は、反応系に対し、0.1mmol/L〜4mmol/L程度が好ましい。
臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物及びヨウ化物の合計量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol〜100mmolが好ましく、0.1mmol〜10mmolがより好ましく、0.5mmol〜5mmolがさらに好ましい。
酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol〜500mmolが好ましく、0.5mmol〜50mmolがより好ましく、1mmol〜25mmol、3mmol〜10mmolがさらに好ましい。また、例えば、N−オキシル化合物1molに対して1mol〜40molが好ましい。
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常、0.5時間〜6時間であり、0.5時間〜4時間であることが好ましい。
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段階目の反応終了後に濾別して得られたカルボキシル化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化することにより、1段階目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化することができる。
オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50g/m3〜250g/m3であることが好ましく、50g/m3〜220g/m3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1質量部〜30質量部であることが好ましく、5質量部〜30質量部であることがより好ましい。
オゾン処理温度は、0℃〜50℃であることが好ましく、20℃〜50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1分〜360分程度であり、30分〜360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、カルボキシル化セルロースの収率が良好となる。
カルボキシメチル基は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより導入することができる。
なお、溶媒の使用量は、質量部換算で、セルロース原料の3〜20倍である。
マーセル化剤の使用量は、モル換算で、出発原料のピラノース残基当たり0.5〜20倍である。
リン酸エステル基を導入したセルロースは、例えば、セルロース原料に対し、リン酸基を有する化合物を反応させて調製することができる。セルロース原料とリン酸基を有する化合物を反応させる方法としては、例えば、セルロース原料にリン酸基を有する化合物の粉末又は水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸基を有する化合物の水溶液を添加する方法等が挙げられる。
これらの中でも、反応の均一性が高まり、かつリン酸エステル基の導入効率が高くなることから、セルロース原料又はそのスラリーにリン酸基を有する化合物の水溶液を混合する方法が好ましい。リン酸基を有する化合物の水溶液のpHは、リン酸基の導入の効率を高める観点から7以下が好ましく、加水分解を抑える観点から3〜7がより好ましい。
なお、リン酸基を有する化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上の組み合わせて用いてもよい。
リン酸基を有する化合物の添加量は、0.2質量部〜500質量部が好ましく、1質量部〜400質量部がより好ましい。
塩基性化合物は特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。「塩基性を示す」とは、通常、フェノールフタレイン指示薬の存在下で塩基性化合物の水溶液が桃〜赤色を呈すること、または塩基性化合物の水溶液のpHが7より大きいことを意味する。
塩基性化合物の添加量は、2〜1000質量部が好ましく、100〜700質量部がより好ましい。反応温度は、0〜95℃が好ましく、30〜90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常、1〜600分程度であり、30〜480分が好ましい。反応条件がこれらのいずれかの範囲内であると、セルロースに過度にリン酸エステル基が導入されて溶解し易くなることを防ぐことができ、リン酸エステル基を導入したセルロースの収率を向上させることができる。
リン酸エステル基を導入したセルロースにおいて、グルコース単位当たりのリン酸エステル基の置換度の下限は、0.001以上が好ましい。斯かる範囲であることにより、十分な解繊(例えば、ナノ解繊)を実施し得る。また、リン酸エステル基の置換度の上限は、0.60以下が好ましい。斯かる範囲であることにより、リン酸エステル基を導入したセルロースの膨潤又は溶解を防止し、ナノファイバーが得られない事態を防止することができる。
グルコース単位当たりのリン酸エステル基の置換度は、0.001〜0.60であることが好ましい。
リン酸エステル基を導入したセルロースは、煮沸後、冷水で洗浄する等の洗浄処理を施すことが好ましい。洗浄処理を施すことにより、効率よく解繊を行うことができる。
アニオン性官能基を導入したセルロース原料を解繊する際に用いる装置は特に限定されない。例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式等の従来公知の装置を用いることができる。
解繊の際には、強力なせん断力を印加して解繊することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーを用いることがより好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊及び分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサー等の公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、予備処理を施してもよい。
さらに、上記した反応物繊維を溶媒によって希釈、分散する際には、少量の溶媒を加えて段階的に分散を試みると、効率的にナノファイバーレベルの繊維の分散体を得ることができる場合があり好ましい。操作上の問題から、分散処理後の状態は粘性のある分散液又はゲル状の状態となるように分散条件を選ぶことが好ましい。
本発明の製造方法は、本発明の測定方法により、アニオン性官能基を導入したセルロース又はセルロースナノファイバーのアニオン性官能量を測定して品質を判定する工程を有する。
本発明の測定方法が、セルロース系材料に限定がなく、種々のセルロース系材料のアニオン性官能基量を正確性の高い数値で得られるため、斯かる品質の判定に利用し得る。そのため、今後ますます需要が見込まれるセルロースナノファイバー等の品質管理に利用することができる。
品質の判定は、平均値や標準偏差等により、適宣設定することができる。例えば、測定回数2〜5における、アニオン性官能基量の算出値の差が0.15mmоl/g以上である場合に、セルロース又はセルロースナノファイバーを製品から除外することが好ましい。
漂白済み針葉樹未叩解パルプ(日本製紙社製)5g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社製)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム754mg(7.4mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に2M次亜塩素酸ナトリウム水溶液14ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するので、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に維持した。2時間反応させた後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化セルロースを得た。なお、酸化セルロースから調製した水分散体(濃度0.3質量%)のB型粘度は、60rpm、20℃の条件で28mPa・sであり、6rpm、20℃の条件で200mPa・sであった。
製造例1で得られた酸化セルロースの乾燥物7サンプルについて、下記に記す方法でカルボキシル基量の測定を、各サンプルについて2回ずつ行った。結果を表1にまとめて記す。
電気伝導度の測定値に下記一般式(1)で表される係数を乗じて、電気伝導度の補正値を算出した。
第1漸近線と第2漸近線の交点をカルボキシル基の置換開始点、第2漸近線と第3漸近線の交点をカルボキシル基の置換終了点とみなして、第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の量を算出した。算出した第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の量を下記一般式(2−1)に代入することにより、各サンプルのカルボキシル基量を算出した。
製造例1で得られた酸化セルロースの乾燥物7サンプルについて、下記に記す方法でカルボキシル基量の測定を、各サンプルについて2回ずつ行った。結果を表1にまとめて記す。
第1漸近線と第2漸近線の交点をカルボキシル基の置換開始点、第2漸近線と第3漸近線の交点をカルボキシル基の置換終了点とみなして、第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の量を算出した。算出した第2段階における水酸化ナトリウム水溶液の量を下記一般式(2−2)に代入することにより、各サンプルのカルボキシル基量を算出した。
従って、本発明の測定方法を用いると、酸化セルロースのカルボキシル基量の再現性がよく、良好な精度で測定し得ることがわかる。
なお、図4にサンプルNo.1の実施例1のn1の滴定曲線を示す。
製造例1で得られた酸化セルロースのスラリーを水で1%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、140MPa)で3回処理し、透明なゲル状のカルボキシル化セルロースナノファイバー塩の分散液を得た。なお、カルボキシル化セルロースナノファイバー塩から調製した水分散体(濃度0.2質量%)のB型粘度はpH2.5にて、60rpm、20℃の条件で57mPa・sであり、6rpm、20℃の条件で130mPa・sであった。
製造例2で用いた酸化セルロース(サンプルNo.1)と、製造例2で得られたカルボキシル化セルロースナノファイバー塩について、カルボキシル基量の測定を2回ずつ行った。結果を表2にまとめて記す。
なお、酸化セルロースのカルボキシル基量の測定は上記実施例と同じである。また、カルボキシル化セルロースナノファイバー塩のカルボキシル基量の測定は、酸化セルロースをカルボキシル化セルロースナノファイバー塩に変更したこと以外は上記実施例と同じである。
製造例2で得られたカルボキシル化セルロースナノファイバー塩0.4g(絶乾質量)にイオン交換水100mLを加え、十分に撹拌して測定水溶液を調製した。この条件で調製した水分散体(濃度0.4質量%)のB型粘度は、60rpm、20℃の条件で116mPa・sであり、6rpm、20℃の条件で519mPa・sであった。当該測定水溶液を用いてカルボキシル基量の測定を行ったところ、粘度が過度に高くなり、第1漸近線を作成できず、カルボキシル基量を算出することができなかった。
Claims (12)
- 少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含み、B型粘度が測定を実施するpH範囲において、60rpm、20℃の条件で100mPa・s未満であり、6rpm、20℃の条件で500mPa・s未満であり、アニオン変性セルロース系材料の濃度が0.1〜0.3wt%に調整した測定溶液を酸性にする工程Aと、
酸性にした前記測定溶液が塩基性になるまで塩基性溶液を添加して置換反応を行い、塩基性溶液の添加量、測定溶液の電気伝導度の測定値及びpH値を継時的に測定する工程Bと、
前記電気伝導度の測定値に下記一般式(1)で算出される係数を乗じて電気伝導度の補正値を算出する工程Cと、
前記測定溶液中のアニオン性官能基が実質的に未置換の第1段階、前記測定溶液中のアニオン性官能基と塩基性溶液とが反応しアニオン性官能基とその共役塩基とが共存する第2段階、及び前記測定溶液中のアニオン性官能基の共役塩基への置換が実質的に完了する第3段階とについて塩基性溶液の添加量と電気伝導度の補正値の相関関係を得て、下記一般式(2)によりアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量を算出する工程Dと、を有し、
前記第2段階における塩基性溶液の添加量が、前記第1、2及び3段階について塩基性溶液の添加量−電気伝導度曲線を作成し、第1段階における前記曲線から求められる第1漸近線と第2段階における前記曲線から求められる第2漸近線との交点における前記添加量を、前記第2漸近線と第3段階における前記曲線から求められる第3漸近線との交点における前記添加量から差し引いて求められる添加量であり、
前記第1〜第3漸近線が、それぞれ、pH値が2.4〜2.8の範囲で最小二乗法により、pH値が4.8〜6.0の範囲で最小二乗法により、pH値が10.4〜10.8の範囲で最小二乗法により、それぞれ作成される漸近線である、
セルロース系材料のアニオン性官能基量の測定方法。
- 前記アニオン性官能基が、カルボキシル基、カルボキシメチル基又はリン酸エステル基である請求項1に記載の測定方法。
- 前記アニオン性官能基が、カルボキシル基又はカルボキシメチル基である請求項2に記載の測定方法。
- 前記セルロース系材料が、セルロースナノファイバーである請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定方法。
- 前記工程Bにおいて、前記測定溶液の温度を一定に保つ請求項1〜4のいずれか1項に記載の測定方法。
- 少なくともアニオン性官能基を導入したアニオン変性セルロース系材料を含む測定溶液を撹拌する手段Aと、
塩基性溶液を前記測定溶液に添加する手段Bと、
前記塩基性溶液の添加量、pH値及び電気伝導度の値を計測する手段Cと、
前記電気伝導度の値を補正し、補正した前記電気伝導度の値と前記塩基性溶液の添加量から滴定曲線を作成する手段Dと、を有し、請求項1〜5に記載の測定方法を実施するための、アニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量測定用システム。 - 前記手段Bにおいて、前記測定溶液の温度を一定に保つ手段b、をさらに有する請求項6に記載の測定用システム。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の測定方法、又は請求項6若しくは7に記載の測定用システムに用いられるアニオン変性セルロース系材料のアニオン性官能基量測定用キットであって、
測定溶液を調製するための溶液と、所定濃度の塩基性溶液と、を含むキット。 - セルロース原料にアニオン性官能基を導入する工程と、
アニオン性官能基を導入したセルロースを解繊してセルロースナノファイバーを製造する工程と、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の測定方法により、前記セルロース又は前記セルロースナノファイバーのアニオン性官能基量を測定して品質を判定する工程と、を有するセルロースナノファイバーの製造方法。 - 前記アニオン性官能基が、カルボキシル基、カルボキシメチル基又はリン酸エステル基である請求項9に記載の製造方法。
- 前記アニオン性官能基が、カルボキシル基又はカルボキシメチル基である請求項10に記載の製造方法。
- 前記セルロース又は前記セルロースナノファイバーの前記品質を判定する工程において、
測定回数2〜5における、前記アニオン性官能基量の算出値の差が0.15mmоl/g以上である場合に、前記セルロース又は前記セルロースナノファイバーを製品から除外する請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
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