JP7098467B2 - セルロースナノファイバーの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、セルロースナノファイバーの製造方法に関する。詳細には、より低エネルギーで製造することができるセルロースナノファイバーの製造方法に関する。
原料であるセルロースを2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)と酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムとの共存下で処理すると、セルロースのミクロフィブリルの表面にカルボキシル基を効率よく導入することができる。このカルボキシル基を導入したセルロースを水中にてミキサー等により機械的に処理すると、ナノスケールの繊維径を有するセルロースナノファイバーへと変換することができることが知られている(特許文献1)。セルロースをナノファイバー化するために行われる機械的処理における電力消費量等のエネルギー消費量を低減させることは、セルロースナノファイバーの製造コストを低減させることにつながるため、好ましい。
このような機械的処理(ナノファイバー化)における低エネルギー化の方法として、機械的処理の前処理として、酸化処理、加水分解処理またはこれらの組み合せからなる化学的処理をパルプ繊維に施し、次いで、上記パルプ繊維をリファイナーにより粗解繊する方法が報告されている(特許文献2)。また、微細化工程(機械的処理)において、圧力式分散機を用いて第1の微細化処理を施した後に、撹拌翼を備えたローターと前記撹拌翼より外側に配置されたスクリーンとを備えた高速回転式分散機を用いて微細化する第2の微細化処理を施すことにより微細化に要するエネルギー消費量を抑える方法が報告されている(特許文献3)。
特開2008-001728号公報 特開2018-3216号公報 特開2014-125690号公報
しかし、特許文献2に記載の方法では、原料であるパルプ(セルロース)の短繊維化が著しく、セルロースナノファイバーの用途によっては、好ましくない場合がある。例えば、セルロースナノファイバーを保形性付与のために用いる場合には、繊維が短いよりも長い方がより高い効果が得られるため、短繊維化は好ましくない。また、特許文献3に記載の方法では、圧力式分散機と高速回転式分散機の2種の分散機を必要とし、製造工程が複雑となり、コストが増加する。
低エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる新たな方法が求められている。
本発明者らは鋭意検討を行った結果、カルボキシル基等のアニオン性基を導入したセルロース(アニオン変性セルロース)の機械的処理において、ホスフィン化合物(一般式:RR’R’’P)(R、R’、R’’は、水素または有機基)をアニオン変性セルロースに添加することにより、より少ないエネルギーで、アニオン変性セルロースの解繊を行うことができることを見出した。
本発明としては、以下に限定されないが、次のものが挙げられる。
(1)アニオン変性セルロースを解繊してナノファイバー化する際に、ホスフィン化合物を添加することを含む、アニオン変性セルロースナノファイバーの製造方法。
(2)ホスフィン化合物が、水酸基を有する、(1)に記載の製造方法。
(3)ホスフィン化合物が、トリスヒドロキシプロピルホスフィン、トリスヒドロキシエチルホスフィン、及びトリスヒドロキシメチルホスフィンからなる群から選択される1つまたは複数の化合物である、(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)アニオン変性セルロースが、カルボキシル基を有する、(1)~(3)のいずれか1つに記載の製造方法。
(5)アニオン変性セルロースが、N-オキシル化合物と酸化剤とを用いてセルロースを酸化することにより得られるカルボキシル基を有するセルロースである、(1)~(4)のいずれか1つに記載の製造方法。
(6)ホスフィン化合物を添加する前に、アニオン変性セルロースにおけるカルボキシル基を酸型(COOH)に変換することを含む、(5)に記載の製造方法。
本発明の方法によれば、アニオン変性セルロースを低エネルギーで解繊することが可能となる。例えば、超高圧ホモジナイザーを用いてアニオン変性セルロースの解繊を行う場合、少ないパス回数で高い透明度を有するナノファイバー分散体を得ることができる。透明度の高さは解繊が進んだことを示す。また、少ないパス回数で流動性の良好な(粘度の低い)ナノファイバー分散体を得ることができる。
本発明は、カルボキシル基などのアニオン性基を導入したセルロース(アニオン変性セルロース)を解繊してナノファイバー化する際に、ホスフィン化合物を添加することにより、解繊に要するエネルギー消費量を低減させる発明である。
<セルロース>
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」ともいう。)がβ-1,4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。本発明では、これらのセルロースのいずれも、アニオン変性セルロースの原料として用いることができる。
天然セルロースとしては、晒パルプまたは未晒パルプ(晒木材パルプまたは未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては例えば、メカニカルパルプ(サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)、ケミカルパルプ(針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)等の亜硫酸パルプ、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)等のクラフトパルプ)等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
<アニオン変性セルロース>
(1)アニオン変性
アニオン変性とはセルロースにアニオン性基を導入することであり、具体的には酸化または置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入することである。本発明において前記酸化反応とはピラノース環の水酸基を直接カルボキシル基に酸化する反応をいう。また、本発明において置換反応とは、当該酸化以外の置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入する反応をいう。
(2)カルボキシル化
アニオン変性セルロースとしてカルボキシル化(酸化)したセルロースを用いることができる。本発明におけるカルボキシル基とは、-COOH(酸型)または-COOM(塩型)をいう(式中、Mは金属イオンである)。カルボキシル化セルロース(「酸化セルロース」とも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されないが、カルボキシル基の量はアニオン変性セルロースまたはアニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、0.6mmol/g~3.0mmol/gが好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gがさらに好ましい。
アニオン変性セルロースまたはアニオン変性セルロースナノファイバーのカルボキシル基量は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシル化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕。
カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物、およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であればいずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol~10mmolが好ましく、0.01mmol~1mmolがより好ましく、0.05mmol~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1mmol/L~4mmol/L程度がよい。
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol~100mmolが好ましく、0.1mmol~10mmolがより好ましく、0.5mmol~5mmolがさらに好ましい。当該変性は酸化反応による変性である。
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol~500mmolが好ましく、0.5mmol~50mmolがより好ましく、1mmol~25mmolがさらに好ましく、3mmol~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1mol~40molが好ましい。
セルロースの酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4℃~40℃が好ましく、また15℃~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間~6時間、例えば、0.5時間~4時間程度である。
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50g/m~250g/mであることが好ましく、50g/m~220g/mであることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1質量部~30質量部であることが好ましく、5質量部~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0℃~50℃であることが好ましく、20℃~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1分~360分程度であり、30分~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶剤中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
酸化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。アニオン変性セルロースにおけるカルボキシル基量とアニオン変性セルロースをナノファイバーとしたときのカルボキシル基量は、通常、同じである。
(2)カルボキシアルキル化
アニオン変性セルロースとして、カルボキシメチル基等のカルボキシアルキル基を導入したセルロースを用いることができる。本発明におけるカルボキシアルキル基とは、-RCOOH(酸型)または-RCOOM(塩型)をいう。ここでRはメチレン基、エチレン基等のアルキレン基であり、Mは金属イオンである。なお、上記カルボキシアルキル基には、カルボキシル基部分が含まれていることから(-COOHまたは-COOM部分)、本発明において、「カルボキシル基を有する」セルロースという場合には、上記のカルボキシル化(酸化)セルロースだけではなく、カルボキシアルキル化セルロースも含むこととする。
カルボキシアルキル化セルロースは公知の方法で得てもよく、また市販品を用いてもよい。セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度は0.40未満であることが好ましい。さらにアニオン性基がカルボキシメチル基である場合、カルボキシメチル置換度は0.40未満であることが好ましい。当該置換度が0.40以上であるとセルロースナノファイバーとしたときの分散性が低下する。またカルボキシアルキル置換度の下限値は0.01以上が好ましい。操業性を考慮すると当該置換度は0.02~0.35であることが特に好ましく、0.10~0.30であることが更に好ましい。なお、無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味し、カルボキシアルキル置換度とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基(-OH)のうちカルボキシアルキルエーテル基(-ORCOOHまたは-ORCOOM)で置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシアルキルエーテル基の数)を示す。
カルボキシアルキル化セルロースを製造する方法の一例として、以下の工程を含む方法が挙げられる。当該変性は置換反応による変性である。カルボキシメチル化セルロースを例にして説明する。
i)発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0℃~70℃、好ましくは10℃~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理する工程、
ii)次いで、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30℃~90℃、好ましくは40℃~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う工程。
発底原料としては前述のセルロース原料を使用できる。溶媒としては、3~20質量倍の水または低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、または2種以上の混合媒体を使用できる。低級アルコールを混合する場合、その混合割合は60質量%~95質量%が好ましい。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することが好ましい。
前述のとおり、セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.40未満であり、0.01以上0.40未満であることが好ましい。セルロースにカルボキシメチル置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カルボキシメチル置換基を導入したセルロースはナノ解繊することができるようになる。なお、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.02より小さいと、ナノ解繊が十分にできない場合がある。アニオン変性セルロースにおけるカルボキシアルキル置換度と、アニオン変性セルロースをナノファイバーとしたときのカルボキシアルキル置換度とは通常、同じである。
グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。メタノール900mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチル化セルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースに変換する。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5g~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80質量%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのHSO)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのHSOのファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター。
カルボキシメチル基以外のカルボキシアルキル基置換度の測定も、上記と同様の方法で行うことができる。
(3)エステル化
アニオン変性セルロースとしてエステル化したセルロースを用いることもできる。エステル化の方法としては、セルロース原料にリン酸系化合物の粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物の水溶液を添加する方法等が挙げられる。リン酸系化合物はリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形態であってもよい。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの1種、あるいは2種以上を併用してセルロースにリン酸基を導入することができる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応を均一に進行できかつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物は水溶液として用いることが望ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
リン酸エステル化セルロースの製造方法の例として、以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1質量%~10質量%のセルロース系原料の懸濁液に、リン酸系化合物を撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース系原料を100質量部とした際に、リン酸系化合物の添加量はリン元素量として、0.2質量部~500質量部であることが好ましく、1質量部~400質量部であることがより好ましい。リン酸系化合物の割合が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えると収率向上の効果は頭打ちとなるので、コスト面から好ましくない。
リン酸系化合物に加えて、他の化合物の粉末や水溶液を混合してもよい。リン酸系化合物以外の他の化合物としては、特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。ここでの「塩基性」は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃色から赤色を呈すること、または水溶液のpHが7より大きいことと定義される。本発明で用いる塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。他の化合物の添加量はセルロース原料の固形分100質量部に対して、2質量部~1000質量部が好ましく、100質量部~700質量部がより好ましい。反応温度は0℃~95℃が好ましく、30℃~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1分~600分程度であり、30分~480分がより好ましい。エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100℃~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100℃~170℃で加熱処理することが好ましい。
リン酸エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上0.40未満であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化されたセルロース系原料は煮沸した後、冷水を用いて洗浄することが好ましい。これらのエステル化による変性は置換反応による変性である。アニオン変性セルロースにおける置換度と、アニオン変性セルロースをナノファイバーとしたときの置換度は、通常、同じである。
(4)アニオン変性セルロース
原料であるセルロースに対し、上記で例示したようなアニオン変性を行うことにより、アニオン変性セルロースを得ることができる。セルロースをアニオン変性してアニオン変性セルロースとすることにより、塩基性のホスフィン化合物と結合させることが可能となる。アニオン変性セルロースの種類としては、ホスフィン化合物との結合のしやすさを考慮すると、カルボキシル化セルロースまたはカルボキシアルキル化セルロースのような、カルボキシル基を有するアニオン変性セルロースが好ましい。特に、N-オキシル化合物と酸化剤とを用いてセルロースを酸化することにより得られたカルボキシル化セルロースは、カルボキシル基が均一に導入されており、このカルボキシル基にホスフィン化合物が結合してホスフィン化合物がアニオン変性セルロースに均一に分布することにより、解繊時の低エネルギー化の効果がよりよく得られるようになることから好ましい。
本発明において、アニオン変性セルロースとしては、水や極性の高い有機溶剤に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものを用いる。繊維状の形状が維持されないもの(すなわち、溶解するもの)を用いると、ナノファイバーを得ることができない。分散した際に繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるとは、アニオン変性セルロースの分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものである。また、X線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるアニオン変性セルロースは好ましい。
アニオン変性セルロースにおけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。結晶性を上記範囲に調整することにより、解繊により繊維を微細化した後も溶解することのない結晶性セルロース繊維を充分に得ることができる。セルロースの結晶性は、原料であるセルロースの結晶化度、及びアニオン変性の度合によって制御できる。アニオン変性セルロースの結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜~30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c-Ia)/I002c×100
Xc:セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度。
アニオン変性セルロースのセルロースI型結晶の割合と、アニオン変性セルロースをナノファイバーとしたときのセルロースI型結晶の割合は、通常同じである。
(5)分散体
次工程の解繊工程に供するために、アニオン変性セルロースの分散体を準備する。分散媒は、水または有機溶剤、あるいはこれらの混合物を適宜選択できる。有機溶剤の種類は問わないが、例えばセルロース中の水酸基との親和性が高い極性溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等を挙げることができる。上記分散媒は単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いてもよい。例えば、有機溶剤を2種類以上混合する形態、水と有機溶剤を含む形態、水のみの形態などを適宜選択することができる。水のみを分散媒として用いること(すなわち、水100%)は、取扱いの容易性から好ましい。水と有機溶剤とを混合する場合の混合割合は特に限定されず、使用する有機溶剤の種類に応じて適宜混合割合を調整すればよい。
分散体におけるアニオン変性セルロース濃度は、解繊時の操業性を考慮すると0.01質量%~10質量%であることが好ましい。
アニオン変性セルロースが、カルボキシル基を有するセルロースである場合には、ホスフィン化合物の添加の前に、カルボキシル基を酸型(COOH)に変換してもよい。ホスフィン化合物の添加の前にカルボキシル基を酸型に変換することにより、ホスフィン化合物とカルボキシル基との結合性が高まり、本発明の解繊時のエネルギー消費量低減の効果をより高く得ることができるようになる。酸型に変換する方法としては、特に限定されず、酸を添加する方法や、酸性イオン交換樹脂とアニオン変性セルロースとを接触させる方法などを挙げることができる。酸を添加する場合、用いる酸の種類は、特に限定されず、汎用的で入手しやすい塩酸や硫酸などの鉱酸等を使用すればよい。酸性イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂や弱酸性陽イオン交換樹脂を挙げることができる。
上記の酸型への変換工程は、通常、アニオン変性セルロースにホスフィン化合物を添加する前に行うことにより、ホスフィン化合物とアニオン変性セルロースとの結合性を高めて、解繊時の低エネルギー化の効果を得るものであるが、解繊して得られた微細繊維の状態のものに対して行うことを妨げるものではない。例えば、解繊が容易でない有機溶剤を分散媒として用いたアニオン変性セルロースナノファイバーを最終的に得たい場合、水などの解繊が容易な分散媒中で解繊して得た微細繊維の状態のアニオン変性セルロースを酸型に変換し、疎水化剤などで改質し、有機溶剤中で再度解繊することにより、有機溶剤中での良好な解繊性を得ることができる。しかし、これに限定されず、水のみを分散媒とした場合にも酸型への変換工程を行ってよいし、また、酸型への変換工程は、分散媒の種類やアニオン変性セルロースの状態にかかわらず、行ってもよいし、行わなくてもよい。
<ホスフィン化合物の添加>
アニオン変性セルロースを解繊する前に、アニオン変性セルロースの分散体に対し、ホスフィン化合物を添加する。これにより、解繊時のエネルギー消費量を低減させることができるようになる。
ホスフィン化合物は、一般式RR’R’’P(式中、R、R’、R’’は、水素または有機基)で表されるリン化合物である。本発明では、上記一般式におけるR、R’、及びR’’の種類は問わないが、R、R’、及びR’’がすべて有機基である三級ホスフィンは塩基性が高くアニオン性セルロースとの結合力が高いことから最も好ましい。有機基の種類としては、例えば分散媒として水を選択した場合には水との親和性を考慮して、上記一般式におけるR、R’、及びR’’が炭素数1~3程度のアルキル基であるホスフィン化合物を用いることが好ましく、溶媒として有機溶剤を選択した場合は炭素数がより多いものを適宜選択すればよい。ホスフィン化合物のうち、水酸基を有するものは、水中、空気中における化合物の安定性が高く、取扱い性に優れるので、好ましい。そのようなホスフィン化合物としては、これらに限定されないが、例えば、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシエチル)ホスフィン)、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン等が挙げられる。
ホスフィン化合物の添加量は、用いるホスフィン化合物の種類、アニオン変性セルロースのアニオン変性の度合いなどに応じて、適宜決めることができる。例えば、ホスフィン化合物が結合可能なアニオン性基の量(モル数)に対して、10%~150%程度の量となるように添加すればよく、好ましくは30%~120%、より好ましくは50%~100%添加すればよい。
解繊工程に供するアニオン変性セルロース分散体のpHは、酸性のアニオン変性セルロースにホスフィン化合物を添加することで変化する。具体的には、ホスフィン化合物をアニオン性基の量(モル数)に対して100%の量となるように添加した場合には、分散体のpHは、中性~弱アルカリ性の範囲(6.0~9.0)となる。添加量をこれより少なくした場合には、水酸化ナトリウムなどの汎用的なアルカリ薬品もしくは有機アルカリを用いて、中性~弱アルカリ性の範囲(pH6.0~9.0、好ましくはpH7.0~8.5)にpHを調整することが好ましい。例えば、カルボキシル基を有するアニオン変性セルロースを酸の添加により酸型に変換し、分散体のpHが酸性となっている場合、水酸基を有するホスフィン化合物を添加することにより分散体のpHを中性~弱アルカリ性の範囲に調整してもよい。
<アニオン変性セルロースの解繊>
アニオン変性セルロースの分散体にホスフィン化合物を添加した後、機械的処理によってアニオン変性セルロースを解繊する。解繊に用いる装置は限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの分散液に強力なせん断力を印加できる装置を用いることが好ましい。効率よく解繊するには、分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。高圧または超高圧ホモジナイザーとは、ポンプにより流体を加圧して高圧にし、流路に設けた非常に繊細な間隙より噴出させることにより、粒子間の衝突、圧力差による剪断力等の総合エネルギーによって乳化、分散、解細、粉砕、及び超微細化を行う装置である。高圧ホモジナイザーでの解繊および分散処理の前に、必要に応じて高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて予備処理を施すこともできる。
解繊に供する分散体は、上記の通り、水もしくは有機溶剤、またはこれらの組み合わせを適宜選択することができる。アニオン変性セルロースの濃度は、0.01質量%~10質量%であることが好ましい。解繊に供する分散体は、上記の通り、ホスフィン化合物を含有している。ホスフィン化合物を含有することにより、少ないエネルギー消費量で、解繊することが可能となる。例えば、高圧または超高圧ホモジナイザーを用いる場合、少ないパス回数で、高い透明度を有するナノファイバー分散体を得ることができる。なお、解繊処理を進める過程で、解繊前のパルプ形状がほぼ見えなくなる状態までは透明度が向上していくが、その後は、透明度はほぼ一定となり、少ないパス回数で高い透明度を得ることができることは、少ないパス回数で高い解繊度のナノファイバーを得ることができることを意味する。また、本願発明では、少ないパス回数で粘度の低いナノファイバー分散体が得られる傾向がある。粘度に関しては解繊前のパルプ形状がほぼみえなくなるタイミングで最大値となり、これ以上進めると低下する傾向がある。
<セルロースナノファイバー>
上記の解繊により、アニオン変性セルロースのナノファイバーを得ることができる。アニオン変性セルロースのナノファイバーは、平均繊維径が3nm~500nm程度、好ましくは3nm~150nm程度、更に好ましくは3nm~20nm程度の繊維である。アスペクト比は30以上、好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。アスペクト比の上限は限定されないが、500以下程度となる。
アニオン変性セルロースのナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、径が20nm未満の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。また、アスペクト比は下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
本発明の製法により、解繊時の少ないエネルギー消費量で透明度の高い分散体を形成するアニオン変性セルロースのナノファイバーを製造することができる。透明度の高さは、解繊によりナノファイバーへの変換が良好に進んだことを示している。例えば、本発明の製法により得られるアニオン変性セルロースのナノファイバーは、これらに限定されないが、固形分1質量%のアニオン変性セルロースの分散体を、100MPa~150MPaの超高圧ホモジナイザーを1回通過させることにより、660nm光の透過率(光路長10mm)(透明度と呼ぶ。)が80.0%~99.9%であるナノファイバー分散体へと変換することができる。また2回通過させると透明度が90.0%~99.9%であるナノファイバー分散体を得ることができる。2回通過させた後の透明度は、好ましくは96.0%~99.9%である。このようなセルロースナノファイバーは、透明性が要求されるような用途に最適に使用することができる。セルロースナノファイバーの透明度の測定方法は、以下の通りである:
セルロースナノファイバー分散体(固形分1質量%、分散媒:水)を調製し、UV-VIS分光光度計UV-1800(株式会社島津製作所製)を用い、光路長10mmの角型セルを用いて、660nm光の透過率を測定する。
また、本発明の製法により、解繊時の少ないエネルギー消費量で粘度の低い分散体を形成するアニオン変性セルロースのナノファイバーを製造することができる。粘度の大きさは、アニオン変性の原料に用いるセルロースの種類によって異なるが、本発明の製法によれば、これらに限定されないが、固形分1質量%のアニオン変性セルロースの分散体を、100MPa~150MPaの超高圧ホモジナイザーを1回通過させることにより、粘度(60rpm、25℃)が2mPa・s~10000mPa・s、好ましくは1000mPa・s~6000mPa・sであるナノファイバー分散体へと変換することができる。また2回通過させると上記粘度が10mPa・s~4000mPa・s、好ましくは500mPa・s~3000mPa・sであるナノファイバー分散体を得ることができる。例えば、通常の製紙用パルプをアニオン変性セルロースの原料とした場合は、固形分1質量%のアニオン変性セルロースの水分散体を、100MPa~150MPaの超高圧ホモジナイザーを1回通過させることにより、粘度(60rpm、25℃)が2000mPa・s~4000mPa・s、好ましくは3000mPa・s~4000mPa・sであるナノファイバー分散体へと変換することができ、また2回通過させると上記粘度が1000mPa・s~1500mPa・sであるナノファイバー分散体を得ることができる。
低粘度のセルロースナノファイバー分散体は、流動性が良好であり、使用しやすいという利点がある。セルロースナノファイバーの粘度の測定方法は、以下の通りである:
セルロースナノファイバー分散体(固形分1質量%、分散媒:水)を調製し、25℃で16時間放置した後、撹拌機を用いて3000rpmで1分間撹拌し、粘度測定用サンプルとする。得られた粘度測定用サンプルについて、B型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて、No.4ローター/回転数60rpmで、3分後の粘度を測定する。
本発明の製法により、解繊時のエネルギー消費量を低減させることができる理由は明らかではないが、ホスフィン化合物がアニオン変性セルロースのアニオン性基と結合してセルロース繊維間に入り込み、セルロース繊維同士を引き離すことで、繊維間への分散媒の侵入が容易になり、解繊性が向上したのではないかと推測している。
以下、本発明を実施例及び比較例をあげてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。
(実施例1)
セルロース原料として漂白済み針葉樹パルプ(日本製紙株式会社製)を用意し、N-オキシル化合物としてTEMPO、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムと臭化ナトリウムを用いて、カルボキシル基量が1.5mmol/gのカルボキシル化セルロースの分散体(分散媒:水)を製造した。カルボキシル化セルロースの水分散体にpHが2.4になるまで塩酸を加えて、カルボキシル基を酸型(COOH)に変換した。次いで、イオン交換水で洗浄した。洗浄後の分散体の固形分濃度は22質量%であった。洗浄後の分散体に、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリン(登録商標)p-540)を分散体のpHが7.0となるまで加えた。得られた分散体の固形分濃度を1質量%に調整し、140MPaの超高圧ホモジナイザーに1回通過させ(1パス)、透明度及び粘度を測定した。同様に、2回及び3回通過させた後の透明度及び粘度を測定した(2パス及び3パス)。カルボキシル基量、透明度、及び粘度の測定方法は上述の通りである。結果を表1に示す。
(比較例1)
トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンの代わりに水酸化ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散体を調製し、透明度及び粘度を測定した。結果を表1に示す。
(比較例2)
トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンの代わりにアンモニア水を用いた以外は実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散体を調製し、透明度及び粘度を測定した。結果を表1に示す。
Figure 0007098467000001
表1の結果より、解繊の際にホスフィン化合物を用いた実施例1では、比較例1及び2に比べて、超高圧ホモジナイザーへの少ないパス回数で高い透明度を達成できることがわかる。また、実施例1は、比較例1及び2に比べて、少ないパス回数で低い粘度を達成できることがわかる。透明度の高さはナノファイバーへの解繊の度合いの高さを示しており、ホスフィン化合物を用いることで、少ないパス回数、すなわち、低いエネルギー消費量で、ナノファイバーへと解繊することができるようになることがわかる。

Claims (6)

  1. アニオン変性セルロースを解繊してナノファイバー化する際に、ホスフィン化合物を添加することを含む、アニオン変性セルロースナノファイバーの製造方法。
  2. ホスフィン化合物が、水酸基を有する、請求項1に記載の製造方法。
  3. ホスフィン化合物が、トリスヒドロキシプロピルホスフィン、トリスヒドロキシエチルホスフィン、及びトリスヒドロキシメチルホスフィンからなる群から選択される1つまたは複数の化合物である、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. アニオン変性セルロースが、カルボキシル基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. アニオン変性セルロースが、N-オキシル化合物と酸化剤とを用いてセルロースを酸化することにより得られるカルボキシル基を有するセルロースである、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. ホスフィン化合物を添加する前に、アニオン変性セルロースにおけるカルボキシル基を酸型(COOH)に変換することを含む、請求項5に記載の製造方法。
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