JP7098467B2 - セルロースナノファイバーの製造方法 - Google Patents
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(1)アニオン変性セルロースを解繊してナノファイバー化する際に、ホスフィン化合物を添加することを含む、アニオン変性セルロースナノファイバーの製造方法。
(2)ホスフィン化合物が、水酸基を有する、(1)に記載の製造方法。
(3)ホスフィン化合物が、トリスヒドロキシプロピルホスフィン、トリスヒドロキシエチルホスフィン、及びトリスヒドロキシメチルホスフィンからなる群から選択される1つまたは複数の化合物である、(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)アニオン変性セルロースが、カルボキシル基を有する、(1)~(3)のいずれか1つに記載の製造方法。
(5)アニオン変性セルロースが、N-オキシル化合物と酸化剤とを用いてセルロースを酸化することにより得られるカルボキシル基を有するセルロースである、(1)~(4)のいずれか1つに記載の製造方法。
(6)ホスフィン化合物を添加する前に、アニオン変性セルロースにおけるカルボキシル基を酸型(COOH)に変換することを含む、(5)に記載の製造方法。
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」ともいう。)がβ-1,4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。本発明では、これらのセルロースのいずれも、アニオン変性セルロースの原料として用いることができる。
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
(1)アニオン変性
アニオン変性とはセルロースにアニオン性基を導入することであり、具体的には酸化または置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入することである。本発明において前記酸化反応とはピラノース環の水酸基を直接カルボキシル基に酸化する反応をいう。また、本発明において置換反応とは、当該酸化以外の置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入する反応をいう。
アニオン変性セルロースとしてカルボキシル化(酸化)したセルロースを用いることができる。本発明におけるカルボキシル基とは、-COOH(酸型)または-COOM(塩型)をいう(式中、Mは金属イオンである)。カルボキシル化セルロース(「酸化セルロース」とも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されないが、カルボキシル基の量はアニオン変性セルロースまたはアニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、0.6mmol/g~3.0mmol/gが好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gがさらに好ましい。
カルボキシル化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕。
アニオン変性セルロースとして、カルボキシメチル基等のカルボキシアルキル基を導入したセルロースを用いることができる。本発明におけるカルボキシアルキル基とは、-RCOOH(酸型)または-RCOOM(塩型)をいう。ここでRはメチレン基、エチレン基等のアルキレン基であり、Mは金属イオンである。なお、上記カルボキシアルキル基には、カルボキシル基部分が含まれていることから(-COOHまたは-COOM部分)、本発明において、「カルボキシル基を有する」セルロースという場合には、上記のカルボキシル化(酸化)セルロースだけではなく、カルボキシアルキル化セルロースも含むこととする。
ii)次いで、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30℃~90℃、好ましくは40℃~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う工程。
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。メタノール900mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチル化セルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースに変換する。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5g~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80質量%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター。
(3)エステル化
アニオン変性セルロースとしてエステル化したセルロースを用いることもできる。エステル化の方法としては、セルロース原料にリン酸系化合物の粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物の水溶液を添加する方法等が挙げられる。リン酸系化合物はリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形態であってもよい。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの1種、あるいは2種以上を併用してセルロースにリン酸基を導入することができる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応を均一に進行できかつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物は水溶液として用いることが望ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
原料であるセルロースに対し、上記で例示したようなアニオン変性を行うことにより、アニオン変性セルロースを得ることができる。セルロースをアニオン変性してアニオン変性セルロースとすることにより、塩基性のホスフィン化合物と結合させることが可能となる。アニオン変性セルロースの種類としては、ホスフィン化合物との結合のしやすさを考慮すると、カルボキシル化セルロースまたはカルボキシアルキル化セルロースのような、カルボキシル基を有するアニオン変性セルロースが好ましい。特に、N-オキシル化合物と酸化剤とを用いてセルロースを酸化することにより得られたカルボキシル化セルロースは、カルボキシル基が均一に導入されており、このカルボキシル基にホスフィン化合物が結合してホスフィン化合物がアニオン変性セルロースに均一に分布することにより、解繊時の低エネルギー化の効果がよりよく得られるようになることから好ましい。
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜~30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c-Ia)/I002c×100
Xc:セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度。
(5)分散体
次工程の解繊工程に供するために、アニオン変性セルロースの分散体を準備する。分散媒は、水または有機溶剤、あるいはこれらの混合物を適宜選択できる。有機溶剤の種類は問わないが、例えばセルロース中の水酸基との親和性が高い極性溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等を挙げることができる。上記分散媒は単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いてもよい。例えば、有機溶剤を2種類以上混合する形態、水と有機溶剤を含む形態、水のみの形態などを適宜選択することができる。水のみを分散媒として用いること(すなわち、水100%)は、取扱いの容易性から好ましい。水と有機溶剤とを混合する場合の混合割合は特に限定されず、使用する有機溶剤の種類に応じて適宜混合割合を調整すればよい。
アニオン変性セルロースが、カルボキシル基を有するセルロースである場合には、ホスフィン化合物の添加の前に、カルボキシル基を酸型(COOH)に変換してもよい。ホスフィン化合物の添加の前にカルボキシル基を酸型に変換することにより、ホスフィン化合物とカルボキシル基との結合性が高まり、本発明の解繊時のエネルギー消費量低減の効果をより高く得ることができるようになる。酸型に変換する方法としては、特に限定されず、酸を添加する方法や、酸性イオン交換樹脂とアニオン変性セルロースとを接触させる方法などを挙げることができる。酸を添加する場合、用いる酸の種類は、特に限定されず、汎用的で入手しやすい塩酸や硫酸などの鉱酸等を使用すればよい。酸性イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂や弱酸性陽イオン交換樹脂を挙げることができる。
アニオン変性セルロースを解繊する前に、アニオン変性セルロースの分散体に対し、ホスフィン化合物を添加する。これにより、解繊時のエネルギー消費量を低減させることができるようになる。
アニオン変性セルロースの分散体にホスフィン化合物を添加した後、機械的処理によってアニオン変性セルロースを解繊する。解繊に用いる装置は限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの分散液に強力なせん断力を印加できる装置を用いることが好ましい。効率よく解繊するには、分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。高圧または超高圧ホモジナイザーとは、ポンプにより流体を加圧して高圧にし、流路に設けた非常に繊細な間隙より噴出させることにより、粒子間の衝突、圧力差による剪断力等の総合エネルギーによって乳化、分散、解細、粉砕、及び超微細化を行う装置である。高圧ホモジナイザーでの解繊および分散処理の前に、必要に応じて高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて予備処理を施すこともできる。
上記の解繊により、アニオン変性セルロースのナノファイバーを得ることができる。アニオン変性セルロースのナノファイバーは、平均繊維径が3nm~500nm程度、好ましくは3nm~150nm程度、更に好ましくは3nm~20nm程度の繊維である。アスペクト比は30以上、好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。アスペクト比の上限は限定されないが、500以下程度となる。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
セルロースナノファイバー分散体(固形分1質量%、分散媒:水)を調製し、UV-VIS分光光度計UV-1800(株式会社島津製作所製)を用い、光路長10mmの角型セルを用いて、660nm光の透過率を測定する。
セルロースナノファイバー分散体(固形分1質量%、分散媒:水)を調製し、25℃で16時間放置した後、撹拌機を用いて3000rpmで1分間撹拌し、粘度測定用サンプルとする。得られた粘度測定用サンプルについて、B型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて、No.4ローター/回転数60rpmで、3分後の粘度を測定する。
セルロース原料として漂白済み針葉樹パルプ(日本製紙株式会社製)を用意し、N-オキシル化合物としてTEMPO、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムと臭化ナトリウムを用いて、カルボキシル基量が1.5mmol/gのカルボキシル化セルロースの分散体(分散媒:水)を製造した。カルボキシル化セルロースの水分散体にpHが2.4になるまで塩酸を加えて、カルボキシル基を酸型(COOH)に変換した。次いで、イオン交換水で洗浄した。洗浄後の分散体の固形分濃度は22質量%であった。洗浄後の分散体に、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリン(登録商標)p-540)を分散体のpHが7.0となるまで加えた。得られた分散体の固形分濃度を1質量%に調整し、140MPaの超高圧ホモジナイザーに1回通過させ(1パス)、透明度及び粘度を測定した。同様に、2回及び3回通過させた後の透明度及び粘度を測定した(2パス及び3パス)。カルボキシル基量、透明度、及び粘度の測定方法は上述の通りである。結果を表1に示す。
トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンの代わりに水酸化ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散体を調製し、透明度及び粘度を測定した。結果を表1に示す。
トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンの代わりにアンモニア水を用いた以外は実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散体を調製し、透明度及び粘度を測定した。結果を表1に示す。
Claims (6)
- アニオン変性セルロースを解繊してナノファイバー化する際に、ホスフィン化合物を添加することを含む、アニオン変性セルロースナノファイバーの製造方法。
- ホスフィン化合物が、水酸基を有する、請求項1に記載の製造方法。
- ホスフィン化合物が、トリスヒドロキシプロピルホスフィン、トリスヒドロキシエチルホスフィン、及びトリスヒドロキシメチルホスフィンからなる群から選択される1つまたは複数の化合物である、請求項1または2に記載の製造方法。
- アニオン変性セルロースが、カルボキシル基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
- アニオン変性セルロースが、N-オキシル化合物と酸化剤とを用いてセルロースを酸化することにより得られるカルボキシル基を有するセルロースである、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
- ホスフィン化合物を添加する前に、アニオン変性セルロースにおけるカルボキシル基を酸型(COOH)に変換することを含む、請求項5に記載の製造方法。
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