JP6835469B2 - 多芯プラスチック光ファイバケーブル - Google Patents

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Description

本発明は、多芯プラスチック光ファイバケーブルに関する。
プラスチック光ファイバは、透明樹脂からなる芯の周囲を該透明樹脂より低屈折率の樹脂からなる鞘層で囲んだ構造を有し、芯と鞘層との境界で光を反射させることにより芯内で光信号を伝送する媒体である。通常、プラスチック光ファイバは、物理的あるいは化学的な損傷を防止するために芯と鞘層とからなるプラスチック光ファイバの外側に被覆層を設けたプラスチック光ファイバケーブルとして使用されている。そして近年の通信情報量の増加に伴い、屋内通信のみならず屋外や車載用途等、あらゆる環境下でプラスチック光ファイバケーブルは使用され始めており、その為、高い温度下でも伝送損失が少なく、かつ、ケーブル端末部に被覆を付けたままコネクタのフェルールに取り付けた場合でも十分な信頼性が得られるような、プラスチック光ファイバと被覆層との接着力が大きいプラスチック光ファイバケーブルが求められている。
プラスチック光ファイバケーブルの中でも多芯プラスチック光ファイバケーブルは、曲げによる透過光量の低下を少なくできるため広く利用されている。高い温度下でも伝送損失の少ない多芯プラスチック光ファイバとして、ポリメチルメタクルリレート系の芯樹脂とエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体の鞘樹脂からなるものが提案されている(特許文献1参照)。
また、短期耐熱性を有し、多芯プラスチック光ファイバと被覆層との接着力が大きい多芯プラスチック光ファイバケーブルが提案されている(特許文献2参照)。
特開2010−266720号公報 特開2010−32641号公報
しかし、特許文献1の多芯プラスチック光ファイバケーブルは、長期耐熱性を有するが、多芯プラスチック光ファイバと被覆層の接着力は、ケーブルの端末部において被覆を付けたままコネクタのフェルールに取り付けて用いるには十分とは言えない。
また、特許文献2の多芯プラスチック光ファイバケーブルは、長期耐熱性が不十分である。
上記事情に鑑み、本発明は、長期耐熱性を有し、且つ、多芯プラスチック光ファイバと被覆層の接着力が大きい多芯プラスチック光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、多芯プラスチック光ファイバケーブルを構成する材料として特定の樹脂を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
裸線と、前記裸線の外側に設けられた保護層と、前記保護層の外側に設けられた被覆層と、を有する多芯プラスチック光ファイバケーブルであって、
前記裸線が、ポリメチルメタクルリレート系樹脂からなる芯と、前記芯の周りを取り囲んだ鞘と、を含み、
前記鞘を形成する樹脂(鞘樹脂)が、(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位とを重合単位の主成分とする共重合体を含み、前記共重合体中の(A)と(B)との質量比(B)/(A)が1.4〜1.7、(A)と(C)との質量比(C)/(A)が0.75〜0.95であり、且つ、前記共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を含み、
前記保護層が、ビニリデンフルオライド単位20〜62モル%、テトラフルオロエチレン単位28〜70モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位8〜16モル%からなる共重合体を含み、
前記被覆層が、ポリアミド樹脂を含む、
多芯プラスチック光ファイバケーブル。
[2]
前記芯の本数が7〜10000本である、上記[1]記載の多芯プラスチック光ファイバケーブル。
[3]
前記鞘樹脂に含まれる共重合体が、150〜200℃の範囲に融点を有し、ナトリウムD線により20℃で測定した屈折率が1.37〜1.41であり、メルトフローレート(230℃、荷重3.8kg、オリフィスの直径2mm、長さ8mm条件)が5〜100g/10分であり、23℃におけるショアD硬度(ASTM D2240)の値が50〜90である、上記[1]又は[2]記載の多芯プラスチック光ファイバケーブル。
[4]
前記保護層が、ビニリデンフルオライド単位20〜35モル%、テトラフルオロエチレン単位55〜70モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位10〜16モル%からなる共重合体を含む、上記[1]〜[3]のいずれか記載の多芯プラスチック光ファイバケーブル。
[5]
前記保護層の厚さが1〜50μmである、上記[1]〜[4]のいずれか記載の多芯プラスチック光ファイバケーブル。
[6]
前記裸線と前記保護層とを含む素線と、前記被覆層との接着力が50N以上である、上記[1]〜[5]のいずれか記載の多芯プラスチック光ファイバケーブル。
本発明により、長期耐熱性を有し、且つ、多芯プラスチック光ファイバ(素線)と被膜層の接着力が大きい多芯プラスチック光ファイバケーブルを提供することができる。本発明の多芯プラスチック光ファイバケーブルは、高い温度下で、ケーブルの端末部において被覆を付けたままコネクタのフェルールに取り付けて用いることができる。
本実施形態の多芯プラスチック光ファイバケーブルの一態様の断面図である。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
本実施形態の多芯プラスチック光ファイバケーブルは、
裸線と、前記裸線の外側に設けられた保護層と、前記保護層の外側に設けられた被覆層と、を有し、
前記裸線が、ポリメチルメタクルリレート系樹脂からなる芯と、前記芯の周りを取り囲んだ鞘と、を含み、
前記鞘を形成する樹脂(鞘樹脂)が、(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位とを重合単位の主成分とする共重合体を含み、前記共重合体中の(A)と(B)との質量比(B)/(A)が1.4〜1.7、(A)と(C)との質量比(C)/(A)が0.75〜0.95であり、且つ、前記共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を含み、
前記保護層が、ビニリデンフルオライド単位20〜62モル%、テトラフルオロエチレン単位28〜70モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位8〜16モル%からなる共重合体を含み、
前記被覆層が、ポリアミド樹脂を含む、多芯プラスチック光ファイバケーブルである。
図1は、本実施形態の多芯プラスチック光ファイバケーブルの一態様の断面模式図を示す。多芯プラスチック光ファイバケーブル7は、芯1が鞘2によって取り囲まれた海島構造の裸線5の外側に保護層3が形成されており、さらに素線6の外側に被覆層4が被覆形成された構造を有する。素線6は、裸線5と保護層3とを含む構造をいう。被覆層4の外側には、外被覆層(図示せず。)を更に設けてもよく、これにより屋外での長期使用や、外部から接触する化学薬品等の影響から光ファイバ素線をより確実に保護することができる。
本実施形態において、芯の直径は5〜500μm、芯の本数は7〜10000本、裸線の直径は250〜3000μmであることが好ましい。より好ましくは、芯の直径は10〜250μm、芯の本数は19〜1000本、裸線の直径は400〜1500μmである。芯の直径が5μm以上である場合、通過する光量を大きくすることができる傾向にあり、芯の直径が500μm以下である場合、曲げによる透過光量の低下を少なくできる傾向にある。また、芯の本数が7本以上である場合、曲げによる透過光量の低下を少なくできる傾向にあり、芯の本数が10000本以下である場合、通過する光量を大きくすることができる傾向にある。さらに、裸線の直径が250μm以上である場合、扱いやすい太さとなる傾向にあり、3000μm以下である場合、柔軟で扱いやすくなる傾向にある。
[芯]
本実施形態における多芯プラスチック光ファイバの芯を形成する樹脂(以下、「芯樹脂」ともいう。)としては、ポリメチルメタクリレート系樹脂(PMMA系樹脂)を用いる。PMMA系樹脂としては、メチルメタクリレート単独重合体(PMMA)や、メチルメタクリレートを50質量%以上と、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル類;イソプロピルマレイミド等のマレイミド類;アクリル酸、メタクリル酸、及びスチレン等からなる群から選択される1種以上との共重合体が挙げられる。PMMA系樹脂の分子量は、メルトフロー(成形し易さ)の観点から、重量平均分子量として8万〜20万の範囲にあることが好ましく、10万〜12万の範囲にあることがより好ましい。
[鞘]
芯を取り囲む鞘を形成する樹脂(以下、「鞘樹脂」ともいう。)としては、(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位とを重合単位の主成分とする共重合体であって、且つ、共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を含む共重合体を用いる。なお、共重合体の末端のみにカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を有する場合も共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を含む共重合体に含まれるものとする。また、カーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方とは、カーボネート基とハロホルミル基の両方を有する場合も含む。
ここで、「主成分」とは、前記(A)〜(C)成分以外の成分の量が相対的に少ないことを意味し、前記共重合体中の前記(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位の合計含有量が70質量%以上であれば十分である。前記共重合体中の(A)〜(C)の合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。また、本願発明の効果を損なわない範囲で、上記(A)〜(C)に加えて、(A)〜(C)と共重合可能な他の単量体を共重合させてもよい。(A)〜(C)と共重合可能な他の単量体としては、特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロイソブテン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等のオレフィン系単量体が挙げられる。
本実施形態においては、鞘樹脂に含まれる共重合体として、(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位との質量比(B)/(A)が1.4〜1.7であり、(A)エチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位との質量比(C)/(A)が0.75〜0.95である共重合体を使用する。鞘樹脂を形成する共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を有し、且つ、前記共重合体中の(A)〜(C)の質量比が上記範囲であることにより、光ファイバケーブルの長期耐熱性を向上させることができる。特に前記共重合体中にカーボネート基を含む場合、長期耐熱性をより一層向上させることができる傾向にある。また、前記共重合体の末端にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方が存在する場合、長期耐熱性をより一層向上させることができる傾向にある。
共重合体中や共重合体末端にカーボネート基やハロホルミル基を導入する方法は、公知の方法により行うことができ、例えば、重合開始剤として重合中に用いて、共重合体に導入することが好ましい。重合開始剤の量は、共重合体100質量部に対して、重合開始剤0.05〜20質量部であることが好ましい。例えば、重合時に重合開始剤としてパーオキシカーボネートを用いることで、共重合体にカーボネート基を容易に導入することができる。また、ハロホルミル基は、上述の方法で得られたカーボネート基を有する共重合体を加熱させ、熱分解させることによって得ることができる。
カーボネート基やハロホルミル基は、共重合体の主鎖中に導入されていてもよく、側鎖中に導入されていてもよい。また、共重合体の主鎖の末端に導入されていてもよく、側鎖の末端に導入されていてもよい。さらに、主鎖の両側の末端に導入されていてもよく、片側の末端のみに導入されていてもよい。さらに、カーボネート基とハロホルミル基の両方の基が導入されていてもよい。
前記共重合体に含まれるカーボネート基とハロホルミル基の数としては、特に限定されないが、カーボネート基を含む場合は、共重合体の炭素数1×106個当たりに含まれるカーボネート基の数が3〜1000個であると、長期耐熱性が一層向上する傾向にある。共重合体中のカーボネート基の数は、より好ましくは20〜800個であり、さらに好ましくは50〜700個、特に好ましくは100〜600個である。
共重合体がハロホルミル基を含む場合、共重合体の炭素数1×106個当たりに含まれるハロホルミル基の数が3〜1000個であると、曲げによる光ロスが小さく、長期耐熱性が一層向上する傾向にある。共重合体中のハロホルミル基の数は、より好ましくは20〜800個であり、さらに好ましくは50〜700個であり、特に好ましくは100〜600個である。
特に、共重合がカーボネート基とハロホルミル基の両方を含む場合は、共重合体の炭素数1×106個当たりに含まれるカーボネート基とハロホルミル基の合計数が3〜1000個であると、曲げによる光ロスが小さく、長期耐熱性が一層向上する傾向にある。共重合体中のカーボネート基とハロホルミル基の合計数は、より好ましくは20〜800個であり、さらに好ましくは50〜700個であり、特に好ましくは100〜600個である。
共重合体の炭素数1×106個当たりに含まれるカーボネート基やハロホルミル基の数は、後述する実施例に記載された方法に従って測定することができる。
共重合体の炭素数1×106個当たりに含まれるカーボネート基やハロホルミル基の数は、カーボネート基やハロホルミル基を共重合体中に導入する際に使用する重合開始剤の量を調整することで調節することができる。
また、共重合体中にカーボネート基やハロホルミル基が導入された共重合体を鞘樹脂に使用することで、隣接する層、特に裸線の外側に設けられた保護層との接着性を向上させることができる。接着性の観点からは、カーボネート基を有する共重合体を用いることが特に好ましい。
共重合体の融点は150〜200℃の範囲にあることが好ましい。共重合体の融点が上記温度範囲である場合、芯を形成するポリメチルメタクリレート系樹脂の熱分解が生じない300℃以下の成型温度で成形可能となるため好ましい。融点の測定は、示差走査熱量測定器によって行うことができる。例えば、セイコーインスツルメンツ社製の示差走査熱量計(商品名:EXSTAR DSC6200)を用いて、サンプルを昇温速度20℃/分で昇温することにより測定することができる。
共重合体のナトリウムD線により20℃で測定した屈折率は1.37〜1.41の範囲にあることが好ましく、屈折率が上記範囲である場合、曲げによる透過光量の低下を少なくできる傾向にある。
共重合体のメルトフローレート(230℃、荷重3.8kg、オリフィスの直径2mm、長さ8mm条件)は、5〜100g/10分の範囲にあることが好ましい。共重合体のメルトフローレートが5未満である場合、各芯を万遍なく被覆するのが困難になる傾向にある。また、共重合体のメルトフローレートが100を超える場合、強度が弱くなり、芯を強固に支持することが困難になる傾向にある。共重合体のメルトフローレートは、より好ましくは5〜40g/10分である。
共重合体のASTM D2240に準拠して測定した23℃におけるショアD硬度の値は50〜90の範囲にあることが好ましい。共重合体のシェアD硬度が50以上であると、裸線の表面が硬くなり扱い易くなる傾向にあり、90以下であると、芯が鞘から飛び出すという問題が生じ難くなる傾向にある。なお、共重合体中にカーボネート基やハロホルミル基を導入することで、芯との接着性が一層向上するため、鞘樹脂が硬くても芯から容易に剥離し難く、芯が鞘から飛び出すという問題は生じ難くなる。
共重合体の数平均分子量は1000〜1000000であることが好ましく、より好ましくは1500〜50000である。
なお、鞘には、本願発明の効果を損なわない範囲で、上記共重合体以外の添加剤成分が含まれていてもよい。添加剤としては、使用目的に応じて、抗酸化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、金属不活性剤、滑剤、難燃(助)剤、充填剤等を用いることができる。
[保護層]
本実施形態における多芯プラスチック光ファイバケーブルは、上述した裸線の外側に保護層が設けられている。
保護層は、ビニリデンフルオライド単位20〜62モル%、テトラフルオロエチレン単位28〜70モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位8〜16モル%からなる共重合を含む。上記各成分を上記割合で含むことにより、素線と被覆層との接着力が大きくなる傾向にある。共重合体は、素線の耐熱性がより一層向上する傾向にあるため、ビニリデンフルオライド単位20〜35モル%、テトラフルオロエチレン単位55〜70モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位10〜16モル%からなる共重合体であることが好ましい。
共重合体は、芯樹脂及び鞘樹脂と複合紡糸し易くなる傾向にあるため、融点が120〜190℃、メルトフローレート(230℃、荷重3.8kg、オリフィスの直径2mm、長さ8mm条件)が1〜100g/10分、ASTM D2240に準拠して測定した23℃におけるショアD硬度が38〜59であることが好ましい。
共重合体は、素線の耐熱性がより一層向上する傾向にあるため、融点が150〜190℃、メルトフローレート(230℃、荷重3.8kg、オリフィスの直径2mm、長さ8mm条件)が1〜7g/10分、ASTM D2240に準拠して測定した23℃におけるショアD硬度が50〜59であることがより好ましい。
保護層の厚さは、特に限定されないが、1〜50μmであることが好ましい。保護層の厚さが1μm未満であると、保護層と被覆層の接着力が不足する傾向にある。また、保護層の厚さが50μmを超えると、素線に占める芯の比率が小さくなるため通過する光量が少なくなる傾向にある。
[被覆層]
本実施形態における多芯プラスチック光ファイバケーブルは、上述した保護層の外側に被覆層が設けられている。
被覆層は、ポリアミド樹脂(以下、「ナイロン樹脂」ともいう。)を含む層である。ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン12、ナイロン6−12共重合体、ナイロン11等が挙げられる。なお、被覆層を形成するポリアミド樹脂中には、必要に応じてワックスなどの添加剤を微量添加してもよい。被覆層の厚さは、20〜700μmであることが好ましく、50〜600μmであることがより好ましく、100〜300μmであることがさらに好ましい。被覆層の厚さが20μm未満であると、保護層と被覆層の接着力が不足する傾向にあり、700μmを超えると、ケーブルが剛直となり扱い難くなる傾向にある。
[多芯プラスチック光ファイバケーブルの製造方法]
本実施形態における多芯プラスチック光ファイバケーブルに含まれる素線の製造方法としては、公知の複合紡糸ダイにより多芯プラスチック光ファイバ裸線を紡糸した後に保護層を被覆形成する方法と、複合紡糸ダイにより一気に多芯プラスチック光ファイバ素線を紡糸する方法が挙げられる。複合紡糸ダイ出口のストランドを、機械的強度を付与するため、通常110℃〜150℃程度の温度で1.3〜5倍に延伸させ、その後、歪みをとるため同様の温度で熱処理をすることが好ましい。
ナイロン樹脂を被覆層として多芯プラスチック光ファイバ素線に被覆した場合、保護層とナイロン樹脂とが強く密着し、一体的に扱うことができる。そのため、ナイロン樹脂からなる被覆層と素線とを一体的にコネクタ処理することが可能となり、ナイロン被覆層の厚さが100μm程度あれば、光ファイバが長期間耐熱下に置かれた場合でも、ナイロン被覆層がファイバの配向緩和による膨張を抑えることによってしっかりとファイバ形状を保持し、その結果、伝送損失を低減することができる。
多芯プラスチック光ファイバケーブルを製造する際には、クロスヘッドダイにより熱溶融したナイロン樹脂を素線に被覆する方法を好適に用いることができる。
本実施形態における多芯プラスチック光ファイバケーブルは、105℃の温度下に5000時間放置しても伝送損失の変動は小さい。また、素線と被覆層との接着力が大きく、通常、50N以上の接着力を得ることができる。ここで、素線と被覆層の接着力は、後述する実施例の方法に従って測定することができる。
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
共重合体に含まれるカーボネート基の個数は以下のとおりに測定した。
鞘樹脂の溶融押出しペレットの切断片を室温にて圧縮成形し、厚さ0.1mmのフィルムを作成した。このフィルムの赤外吸収スペクトル分析を行い、カーボネート基〔−OC(=O)O−〕のカルボニル基が帰属するピークである1809cm-1(νC=O)の吸収波長の吸光度を測定した。測定した吸収スペクトルと、既知のフィルムの赤外吸収スペクトルとを比較し、そのスペクトルの差から、次式により炭素数106個当たりのカーボネート基の個数(N)を算出した。
N=(l×K)/t
l:吸光度
K:補正係数
t:フィルム厚(mm)
なお、赤外吸収スペクトル分析は、Perkin−Elmer FTIRスペクトロメーター1760X(パーキンエルマー社製)を用いて40回スキャンして行った。得られたIRスペクトルをPerkin−Elmer Spectrum for WindowsVer.1.44Cにて自動でベースラインを判定させ、1809cm-1のピークの吸光度を測定した。また、フィルムの厚さはマイクロメーターにて測定した。
[実施例1]
芯樹脂としては、屈折率が1.492、重量平均分子量が11万、メルトフローレート(230℃、荷重3.8Kg、オリフィスの直径2mm、長さ8mmの条件で測定)が1.5g/10分であるポリメチルメタクリレート樹脂を用いた。
鞘樹脂としては、(A)エチレン、(B)テトラフルオロエチレン、(C)ヘキサフルオロプロピレンからなる単量体成分を、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネートを重合開始剤として重合させた共重合体を用いた。前記共重合体の末端にはカーボネート基が導入されていた(以下、「カーボネート基含有共重合体」という。)。前記カーボネート基含有共重合体中の(A)と(B)の質量比(B)/(A)は1.56であり、(A)と(C)の質量比(C)/(A)は0.86であった。また、前記カーボネート基含有共重合体中の(A)〜(C)の合計含有量は97質量%であり、前記鞘樹脂中の前記カーボネート基含有共重合体の含有量は100質量%であった。また、得られた共重合体の炭素数1×106個当たりに含まれるカーボネート基の数は251個であった。
保護層を形成する樹脂としては、ビニリデンフルオライド単位30モル%、テトラフルオロエチレン単位57モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位13モル%からなる共重合を用いた。
上記芯樹脂、鞘樹脂、保護層を、容積の比率が80対16対4になるように19芯からなる複合紡糸ダイに導入し、ダイの温度を245℃に設定し、紡糸した。ダイから吐出されたストランドを2倍に延伸し熱処理して、直径1.00mmの多芯プラスチック光ファイバ素線を製造した。次に、上記多芯プラスチック光ファイバ素線を電線被覆用のクロスヘッドダイに導入し、205℃で溶融させたナイロン12で被覆し、直径1.5mmの多芯プラスチック光ファイバケーブルを得た。
得られた多芯プラスチック光ファイバケーブルの保護層の厚さは10μm、被覆層の厚さは250μmであった。
[長期耐熱性の評価]
上記で製造した多芯プラスチック光ファイバケーブル7mをサンプルとして用い、耐熱性の信頼性テストを行った。装置としては、オプティカルパワーメーター(ハクトロニクス社製、PHOTOM205)を用いた。テスト前の出射光量が−14.5dBmであったサンプルを105℃で5000時間置いた結果、出射光量は−15.2dBmとなった。
[接着力の評価]
次いで、上記で製造した多芯プラスチック光ファイバケーブルの保護層とナイロン12被覆層の間の引抜き強度を測定した。まず、50mmの長さのプラスチック光ファイバケーブルを採取し、片端から5mmずつ注意深く被覆層を剥ぎ取ることによって片側10mmずつ全部で長さ20mmの被覆層を剥ぎ取り、30mmについては被覆層を残した。被覆層を剥ぎ取ったプラスチック光ファイバ素線部を直径1.1mmの孔を明けた厚さ5mmのアクリル板に貫通させ、その素線を引きながら、ナイロン被覆層とプラスチック光ファイバ素線が引き抜かれる強度を、デジタルフォースゲージ(イマダ社製、モデルDS2)を用いて測定した結果、71Nであった。
[比較例1]
芯樹脂としては、実施例1と同じ樹脂を用いた。
鞘樹脂としては、(A)エチレン、(B)テトラフルオロエチレン、(C)ヘキサフルオロプロピレンからなる単量体成分を、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネートを重合開始剤として使用して重合させた共重合体を用いた。前記共重合体の末端にはカーボネート基が導入されていた。前記カーボネート基含有共重合体中の(A)と(B)の質量比(B)/(A)は1.56であり、(A)と(C)の質量比(C)/(A)は0.86であった。また、前記カーボネート基含有共重合体中の(A)〜(C)の合計含有量は97質量%であり、前記鞘樹脂中の前記カーボネート基含有共重合体の含有量は100質量%であった。また、得られた共重合体の炭素数1×106個当たりに含まれるカーボネート基の数は251個であった。
上記芯樹脂、鞘樹脂を、容積の比率が80対20になるように19芯からなる複合紡糸ダイに導入し、ダイの温度を245℃に設定し、紡糸した。ダイから吐出されたストランドを2倍に延伸し熱処理して、直径1.00mmの多芯プラスチック光ファイバ裸線を製造した。
次に、上記プラスチック光ファイバ裸線を電線被覆用のクロスヘッドダイに導入し、205℃で溶融させたナイロン12で被覆し、直径1.5mmの多芯プラスチック光ファイバケーブルを得た。
得られた多芯プラスチック光ファイバケーブルの被覆層の厚さは250μmであった。
[長期耐熱性の評価]
上記製造した多芯プラスチック光ファイバケーブル7mをサンプルとして用い、耐熱性の信頼性テストを行った。テスト前の出射光量が−14.9dBmであったサンプルを105℃で5000時間置いた結果、出射光量は−15.5dBmとなった。
[接着力の評価]
次いで、上記で製造した多芯プラスチック光ファイバケーブル裸線とナイロン12被覆層の間の引抜き強度を測定した。まず、50mmの長さの多芯プラスチック光ファイバケーブルを採取し、片端から5mmずつ注意深く被覆層を剥ぎ取ることにより片側10mmずつ全部で長さ20mmの被覆層を剥ぎ取り、30mmについては被覆層を残した。被覆層を剥ぎ取ったプラスチック光ファイバ裸線部を直径1.1mmの孔を明けた厚さ5mmのアクリル板に貫通させ、その素線を引きながら、ナイロン被覆層と多芯プラスチック光ファイバ裸線が引き抜かれる強度を測定した結果、16Nであった。
[比較例2]
芯樹脂としては、屈折率が1.492、重量平均分子量が11万、メルトフローレート(230℃、荷重3.8Kg、オリフィスの直径2mm、長さ8mmの条件で測定)が1.5g/10分であるポリメチルメタクリレート樹脂を用いた。
鞘樹脂としては、ビニリデンフルオライド単位57モル%、テトラフルオロエチレン単位32モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位11モル%からなる共重合を用いた。
保護層を形成する樹脂としては、ビニリデンフルオライド単位30モル%、テトラフルオロエチレン単位57モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位13モル%からなる共重合を用いた。
上記芯樹脂、鞘樹脂、保護層を、容積の比率が80対16対4になるように19芯からなる複合紡糸ダイに導入し、ダイの温度を245℃に設定し、紡糸した。ダイから吐出されたストランドを2倍に延伸し熱処理して、直径1.00mmの多芯プラスチック光ファイバ素線を製造した。次に、上記多芯プラスチック光ファイバ素線を電線被覆用のクロスヘッドダイに導入し、205℃で溶融させたナイロン12で被覆し、直径1.5mmの多芯プラスチック光ファイバケーブルを得た。
得られた多芯プラスチック光ファイバケーブルの保護層の厚さは10μm、被覆層の厚さは250μmであった。
[長期耐熱性の評価]
上記で製造した多芯プラスチック光ファイバケーブル7mをサンプルとして用い、耐熱性の信頼性テストを行った。テスト前の出射光量が−14.9dBmであったサンプルを105℃で5000時間置いた結果、出射光量は−18.2dBmとなった。
[接着力の評価]
次いで、上記で製造した多芯プラスチック光ファイバケーブルの保護層とナイロン12被覆層の間の引抜き強度を測定した。まず、50mmの長さのプラスチック光ファイバケーブルを採取し、片端から5mmずつ注意深く被覆層を剥ぎ取ることによって片側10mmずつ全部で長さ20mmの被覆層を剥ぎ取り、30mmについては被覆層を残した。被覆層を剥ぎ取ったプラスチック光ファイバ素線部を直径1.1mmの孔を明けた厚さ5mmのアクリル板に貫通させ、その素線を引きながら、ナイロン被覆層とプラスチック光ファイバ素線が引き抜かれる強度を測定した結果、70Nであった。
本発明の多芯プラスチック光ファイバケーブルは、長期耐熱性を有し、且つ、光ファイバ素線と保護層の接着力が大きいため、ケーブルの端末部において被覆を付けたままコネクタのフェルールに取り付けて用いることができる。
1 芯(島)
2 鞘(海)
3 保護層
4 被覆層
5 多芯プラスチック光ファイバ裸線
6 多芯プラスチック光ファイバ素線
7 多芯プラスチック光ファイバケーブル

Claims (4)

  1. 裸線と、前記裸線の外側に設けられた保護層と、前記保護層の外側に設けられた被覆層と、を有する多芯プラスチック光ファイバケーブルであって、
    前記裸線が、ポリメチルメタクルリレート系樹脂からなる芯と、前記芯の周りを取り囲んだ鞘と、を含み、
    前記芯の本数が7〜10000本であり、
    前記鞘を形成する樹脂(鞘樹脂)が、(A)エチレン単位と(B)テトラフルオロエチレン単位と(C)ヘキサフルオロプロピレン単位とを重合単位の主成分とする共重合体を含み、前記共重合体中の(A)と(B)との質量比(B)/(A)が1.4〜1.7、(A)と(C)との質量比(C)/(A)が0.75〜0.95であり、且つ、前記共重合体中にカーボネート基又はハロホルミル基の少なくとも一方を含み、
    前記保護層が、ビニリデンフルオライド単位20〜35モル%、テトラフルオロエチレン単位57〜70モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位8〜16モル%からなる共重合体を含み、
    前記被覆層が、ポリアミド樹脂を含み、
    前記裸線と前記保護層とを含む素線と、前記被覆層との接着力が50N以上である、
    多芯プラスチック光ファイバケーブル。
  2. 前記鞘樹脂に含まれる共重合体が、150〜200℃の範囲に融点を有し、ナトリウムD線により20℃で測定した屈折率が1.37〜1.41であり、メルトフローレート(230℃、荷重3.8kg、オリフィスの直径2mm、長さ8mm条件)が5〜100g/10分であり、23℃におけるショアD硬度(ASTM D2240)の値が50〜90である、請求項1記載の多芯プラスチック光ファイバケーブル。
  3. 前記保護層が、ビニリデンフルオライド単位20〜35モル%、テトラフルオロエチレン単位57〜70モル%、ヘキサフルオロプロピレン単位10〜16モル%からなる共重合体を含む、請求項1又は2記載の多芯プラスチック光ファイバケーブル。
  4. 前記保護層の厚さが1〜50μmである、請求項1〜3のいずれか1項記載の多芯プラスチック光ファイバケーブル。
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