以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を備え、前記被覆層が、水酸基を有する高分子を含む。なお、本明細書中、「多孔質ポリマ粒子の表面」とは、多孔質ポリマ粒子の外側の表面のみでなく、多孔質ポリマ粒子の内部における細孔の表面を含むものとする。例えば、多孔質ポリマ粒子の外側の表面、及び/又は、多孔質ポリマ粒子の内部における細孔の表面に、水酸基を有する高分子がコーティングされていてもよい。
本実施形態によれば、通液性を確保しつつ、タンパク質吸着量を向上できると共に非特異吸着を低減できる。また、本実施形態によれば、親水性天然高分子を母体とする充填材が有する、タンパク質等の生体高分子の分離に対する優れた分離能を保持しながら、疎水的相互作用による非特異吸着がなく、且つ、静電的相互作用やアフィニティ精製により生体高分子を分離精製するカラム充填材を提供することができる。
(多孔質ポリマ粒子)
本実施形態の多孔質ポリマ粒子は、例えば、モノマを重合することにより得られる重合体を含み、モノマ由来の構造単位を有することができる。多孔質ポリマ粒子は、粒子の全質量基準で50質量%以上のポリマを含んでいてもよく、ポリマからなる粒子であってもよい。また、多孔質ポリマ粒子は、モノマと多孔質化剤とを含む組成物を重合させた後、多孔質化剤を除去することによって得ることができる。多孔質ポリマ粒子は、例えば、従来の懸濁重合、乳化重合等によって合成することができる。モノマとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系モノマ、スチレン系モノマ等のビニルモノマを使用することができる。具体的なモノマとしては、以下のような多官能性モノマ、単官能性モノマ等が挙げられる。
多官能性モノマとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフェナントレン等のジビニル化合物;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコール系ジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート等の3官能以上の(メタ)アクリレート;エトキシ化ビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;ジアリルフタレート及びその異性体;トリアリルイソシアヌレート及びその誘導体が挙げられる。多官能性モノマとしては、新中村化学工業株式会社製のNKエステル(A−TMPT−6P0、A−TMPT−3E0、A−TMM−3LMN、A−GLYシリーズ、A−9300、AD−TMP、AD−TMP−4CL、ATM−4E、A−DPH等)、新日鉄住金化学株式会社のジビニルベンゼン(DVB960)などが商業的に入手可能である。多官能性モノマは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
上記の中でも、耐久性及び膨潤性に優れる観点から、ジビニルベンゼンを使用することが好ましい。モノマがジビニルベンゼンを含む場合、ジビニルベンゼンの含有量は、耐アルカリ性及び耐圧性に優れる観点から、モノマ全質量基準で、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
単官能性モノマとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等のスチレン及びその誘導体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸フェニル、α−クロロアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル;N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸テトラフルオロプロピル等の含フッ素化モノマ;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンが挙げられる。単官能性モノマは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。上記の中でも、耐酸性及び耐アルカリ性に優れる観点から、スチレンを使用することが好ましい。また、カルボキシ基、アミノ基、水酸基、アルデヒド基等の官能基を有するスチレン誘導体も使用することができる。
多孔質化剤は、重合時に相分離を促して粒子の多孔質化を促進する添加剤である。多孔質化剤としては、溶媒(有機溶媒等)、油溶性界面活性剤(乳化剤)などが挙げられる。
溶媒としては、アルコール、脂肪酸等が挙げられる。アルコールとしては、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール、ヘキサノール(例えば1−ヘキサノール)、エチルヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール(例えば2−オクタノール)、デカノール、ドデカノール、イソアミルアルコール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール、ジメチルフタレート、ジエチレングリコールモノブチルアルコール、へプチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。脂肪酸としては、ブタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ラウリル酸等が挙げられる。溶媒としては、HLB値1〜9の有機溶媒を用いることができる。
油溶性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;分岐C16〜C24(炭素数16〜24。以下の「C」も同様)脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C18脂肪酸のソルビタンモノエステル(例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノミリステート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、又は、ヤシ脂肪酸から誘導されるソルビタンモノエステル);分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C18脂肪酸のソルビタンジエステル(例えば、ソルビタンジステアレート);分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C18脂肪酸のプロピレングリコールモノエステル(例えば、プロピレングリコールモノラウレート);分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のグリセロールモノエステル(例えば、グリセロールモノオレエート、又は、グリセロールモノステアレート);分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のジグリセロールモノエステル(例えば、ジグリセロールモノオレエート(例えば、C18:1(炭素数18個、二重結合数1個)脂肪酸のジグリセロールモノエステル)、ジグリセロールモノミリステート、ジグリセロールモノイソステアレート、又は、ヤシ脂肪酸のジグリセロールモノエステル);分岐C16〜C24アルコール(例えば、ゲルベアルコール)、鎖状不飽和C16〜C22アルコール又は鎖状飽和C12〜C14アルコール(例えば、ヤシ脂肪アルコール)のジグリセロールモノ脂肪族エーテル;及び、これらの混合物が挙げられる。油溶性界面活性剤としては、HLB値1〜9の油溶性界面活性剤を用いることができる。
好ましい油溶性界面活性剤としては、ソルビタンモノラウレート(例えば、SPAN(登録商標)20。好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノラウレート);ソルビタンモノオレエート(例えば、SPAN(登録商標)80。好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノオレエート);ジグリセロールモノオレエート(例えば、好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるジグリセロールモノオレエート);ジグリセロールモノイソステアレート(例えば、好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるジグリセロールモノイソステアレート);ジグリセロールモノミリステート(好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノミリステート);ジグリセロールのココイル(例えば、ラウリル基、ミリストイル基等)エーテル;及び、これらの混合物が挙げられる。
多孔質化剤である溶媒は、モノマ全質量基準で、0〜200質量%の範囲で使用できる。多孔質化剤である油溶性界面活性剤は、モノマ全質量基準で、5〜80質量%の範囲で使用できる。油溶性界面活性剤の含有量が5質量%以上であると、水滴の安定性が充分となることから、大きな単一孔を形成しやすくなる。油溶性界面活性剤の含有量が80質量%以下であると、重合後に多孔質ポリマ粒子が形状をより保持しやすくなる。
多孔質化剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。多孔質化剤の量によって、多孔質ポリマ粒子の空隙率をコントロールできる。さらに、多孔質化剤の種類によって、多孔質ポリマ粒子の細孔の大きさ及び形状をコントロールできる。水を取り込みやすい物質を多孔質化剤として使用した場合、粒子内部に大きな孔が空きやすくなる。また、溶媒として使用する水を多孔質化剤として使用することもできる。水を多孔質化剤として使用する場合、モノマに油溶性界面活性剤を溶解させることで、水を吸収し、粒子を容易に多孔質化させることができる。
上記のような多孔質化剤は、多孔質ポリマ粒子の合成後、多孔質化剤を溶解可能な溶媒で洗浄して除去する必要がある。特に、HLB値(Hydrophile−Lipophile Banlance値)1〜9の有機溶媒又はHLB値1〜9の油溶性界面活性剤が粒子(例えば粒子表面)に過剰量残存していると、非特異吸着が発生しやすくなることから、これらの多孔質化剤をソックスレー等で洗浄して除去することが好ましい。
このような観点から、本実施形態の分離材は、HLB値1〜9の有機溶媒及びHLB値1〜9の油溶性界面活性剤の少なくとも一方の成分Aを含有し、アセトニトリルを含む洗浄液(例えば、アセトニトリルからなる洗浄液)に前記分離材を24時間浸漬する前後において、前記洗浄液における前記成分Aの含有量の変化量が前記分離材1g当たり5000ppm以下である。この場合、非特異吸着の発生を抑制可能であり、通液性を確保しつつ、タンパク質吸着量を向上できると共に非特異吸着を低減できる。変化量が5000ppmを超える場合、前記多孔質化剤が粒子(例えば粒子表面)に過剰量残存していることから、非特異吸着が発生しやすい。前記多孔質化剤の含有量の変化量は、例えば、アセトニトリルを含む洗浄液に分離材から溶出する多孔質化剤の溶出量である。本実施形態の分離材では、少なくとも一種の前記成分Aが上記変化量を満たせばよい。多孔質化剤の残存量は、アセトニトリルを含む洗浄液中に分離材を24時間浸漬し、液体クロマトグラフィー等で測定することにより求めることができる。
アセトニトリルを含む洗浄液の使用量は、例えば、分離材1gに対して10gである。分離材を浸漬する温度は、例えば、アセトニトリルの沸点(82℃)以下(例えば25℃)である。分離材を含む液を浸漬中に撹拌してもよい。撹拌手段としては、スリーワンモータ、スターラー、ミックスローター等が挙げられる。撹拌速度は、例えば500rpm以下である。
前記成分Aの含有量の変化量の上限は、非特異吸着の発生をさらに抑制する観点から、4500ppm以下が好ましく、4000ppm以下がより好ましく、3000ppm以下がさらに好ましく、3000ppm未満が特に好ましい。前記成分Aの含有量の変化量の下限は、例えば10ppmであってもよい。
HLB値が1〜9の有機溶媒としては、C16以下のアルキルアルコール、C16以下の脂肪酸等が挙げられる。HLB値が1〜9の油溶性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、プロピレングリコールモノラウレート、ソルビタンジステアレート、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート等が挙げられる。
多孔質ポリマ粒子を得るための組成物は、多孔質化剤として溶解性粒子を含んでいてもよい。溶解性粒子とは、例えば、酸、アルカリ、溶剤等に溶解させることが可能な粒子である。溶解性粒子は、重合中には溶解せず、粒子形成後にポリマ粒子を酸溶液に浸すことによって粉体多孔質化剤を溶解する方法等により、除去することができる。溶解性粒子の構成材料としては、具体的には、炭酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、シリカ、ポリマ、金属コロイド等を使用することができる。溶解性粒子の構成材料としては、除去しやすさの観点から、炭酸カルシウム、第三リン酸カルシウム等を用いることが好ましい。溶解性粒子の粒径は、0.6〜5μmが好ましい。溶解性粒子の粒径は、分離材内の通液性をさらに向上させる観点から、1〜5μmがより好ましい。なお、溶解性粒子の平均粒径は、後述の多孔質ポリマ粒子の平均粒径の測定方法と同様の方法で測定することができる。
重合反応に用いられる水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体等が挙げられる。水性媒体には、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性イオン系の界面活性剤のうち、いずれも用いることができる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸塩;アルカンスルホン酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩;アルケルニルコハク酸塩(ジカリウム塩);アルキルリン酸エステル塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩が挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールエステル類、ポリエチレングリコールソルビタンエステル類、ポリアルキレングリコールアルキルアミン又はアミド類等の炭化水素系ノニオン界面活性剤;シリコンのポリエチレンオキサイド付加物類、ポリプロピレンオキサイド付加物類等のポリエーテル変性シリコン系ノニオン界面活性剤;パーフルオロアルキルグリコール類等のフッ素系ノニオン界面活性剤が挙げられる。
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の炭化水素界面活性剤;リン酸エステル系界面活性剤;亜リン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記界面活性剤の中でも、モノマの重合時の分散安定性に優れる観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
必要に応じて添加される重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤は、モノマ100質量部に対して、0.1〜7.0質量部の範囲で使用することができる。
重合温度は、モノマ及び重合開始剤の種類に応じて適宜選択することができる。重合温度は、25〜110℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
多孔質ポリマ粒子の合成(重合工程)において、粒子の分散安定性を向上させるために、高分子分散安定剤を用いてもよく、乳化液に高分子分散安定剤を添加してもよい。
高分子分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルピロリドンが挙げられ、トリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンが好ましい。高分子分散安定剤の添加量は、モノマ100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
モノマが単独で重合することを抑えるため(例えば、水中でモノマが単独に乳化重合した粒子の発生を抑えるため)に、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。
多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、好ましくは300μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。また、多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、通液性の更なる向上の観点、及び、カラム充填後のカラム圧が増加することを抑制する観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは50μm以上である。
多孔質ポリマ粒子の細孔容積(空隙率)は、多孔質ポリマ粒子の全体積基準で30〜70体積%であることが好ましく、40〜70体積%であることがより好ましく、50〜70体積%であることがさらに好ましい。多孔質ポリマ粒子は、細孔径(モード径)が0.01μm以上0.6μm未満である細孔、すなわちマクロポアー(マクロ孔)を有することが好ましい。細孔径は、0.02μm以上0.6μm未満であることがより好ましい。細孔径が0.01μm以上であると、細孔内に物質が入りやすくなる傾向があり、細孔径が0.6μm未満であると、比表面積が充分なものになる。これらは上述の多孔質化剤により調整可能である。
多孔質ポリマ粒子の粒径の変動係数(C.V.)は、通液性の更なる向上の観点から、3〜15%が好ましく、3〜12%がより好ましく、3〜10%がさらに好ましい。C.V.を低減する方法としては、マイクロプロセスサーバー(例えば株式会社日立製作所製)等の乳化装置により単分散化することが挙げられる。
多孔質ポリマ粒子の比表面積は、30m2/g以上が好ましい。比表面積が30m2/g以上であると、分離する物質の吸着量が大きくなる傾向がある。多孔質ポリマ粒子の比表面積は、より高い実用性の観点から、35m2/g以上がより好ましく、40m2/g以上がさらに好ましい。
(被覆層)
本実施形態の被覆層は、水酸基を有する高分子(例えば水溶性高分子)を含む。水酸基を有する高分子で多孔質ポリマ粒子を被覆することによりカラム圧の上昇を抑制することができると共に、タンパク質の非特異吸着を抑制することが可能となる上、分離材のタンパク質吸着量を、天然高分子を用いた場合と同等又はそれ以上とすることができる。さらに、水酸基を有する高分子が架橋されていると、カラム圧の上昇をさらに抑制することが可能となる。
水酸基を有する高分子は、1分子中に2個以上の水酸基を有することが好ましい。また、水酸基を有する高分子は、親水性高分子であることが好ましい。水酸基を有する高分子としては、例えば多糖類(アガロース、デキストラン、セルロース、ポリビニルアルコール、キトサン等)が挙げられ、各々重量平均分子量1万〜20万程度のものが使用できる。
また、水酸基を有する高分子としては、界面吸着能を向上させる観点から、疎水基により変性された変性体(疎水基を導入した変性体等)を用いることができる。疎水基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基等が挙げられる。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。疎水基は、水酸基と反応する官能基(エポキシ基等)及び疎水基を有する化合物(グリシジルフェニルエーテル等)を、水酸基を有する高分子と従来公知の方法で反応させることにより導入することができる。このような変性体としては、例えば、多糖類の変性体が挙げられ、具体的には、アガロースの変性体(変成アガロース)、デキストランの変性体、セルロースの変性体、ポリビニルアルコールの変性体、キトサンの変性体等が挙げられる。
[被覆層の形成方法]
水酸基を有する高分子を含む被覆層は、例えば、以下に示す方法により形成することができる。被覆層は、水酸基を有する高分子を多孔質ポリマ粒子にコーティングさせることで形成することができる。被覆層の形成方法としては、例えば、水酸基を有する高分子の溶液を多孔質ポリマ粒子表面に吸着させ、未吸着分を除去後、架橋剤により架橋反応させて、細孔内に担持させる方法が挙げられる。水酸基を有する高分子の溶液の溶媒としては、水酸基を有する高分子を溶解することのできるものであれば、特に限定されないが、水が最も一般的である。溶媒に溶解させる高分子の濃度は、5〜20mg/mLが好ましい。
この溶液を多孔質ポリマ粒子に含浸させる。含浸方法としては、水酸基を有する高分子の溶液に多孔質ポリマ粒子を加えて一定時間放置する方法が挙げられる。含浸時間は、多孔質ポリマ粒子の表面状態によっても変わるが、通常一昼夜含浸すれば高分子濃度が多孔質ポリマ粒子の内部で外部濃度と平衡状態となる。その後、水、アルコール等の溶媒で洗浄し、水酸基を有する高分子の未吸着分を除去する。
[架橋処理]
次いで、架橋剤を加えて、多孔質ポリマ粒子表面に吸着された水酸基を有する高分子を架橋反応させて、架橋体を形成する。例えば、架橋剤を加えて、多孔質ポリマ粒子の表面に吸着した水酸基を有する高分子を架橋反応させて、高分子の架橋ゲルを形成させる。このとき、架橋体において、例えば、水酸基を有する高分子が3次元架橋網目構造を有するようになる。
架橋剤としては、例えば、エピクロロヒドリン等のエピハロヒドリン、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物、メチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジル化合物などのような、水酸基(OH基)に活性な官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。また、水酸基を有する高分子として、キトサンのような、アミノ基を有する化合物を使用する場合には、ジクロロオクタンのようなジハライドも架橋剤として使用できる。
この架橋反応には通常触媒が用いられ、該触媒は架橋剤の種類により異なるが、例えば、架橋剤がエピクロロヒドリン等の場合には水酸化ナトリウム等のアルカリが有効であり、架橋剤がジアルデヒド化合物の場合には塩酸等の鉱酸が有効である。
架橋剤による架橋反応は、通常、架橋前の分離材を適当な媒体中に分散、懸濁させた系に架橋剤を添加することによって行うことができる。架橋剤の添加量は、水酸基を有する高分子として多糖類又はその変性体を使用した場合、単糖類の1単位を1モルとすると、それに対して0.1〜100モル倍の範囲内で、目的とする分離材の性能に応じて選定することができる。一般的に、架橋剤の添加量が0.1モル倍未満であると、被覆層が多孔質ポリマ粒子から剥離しやすくなる傾向がある。また、架橋剤の添加量が100モル倍を超え、且つ、水酸基を有する高分子との反応率が高い場合、原料の水酸基を有する高分子の特性が損なわれる傾向がある。
また、架橋反応時の触媒の使用量としては、架橋剤の種類にもよるが、通常、水酸基を有する高分子として多糖類を使用する場合、多糖類を形成する単糖類の1単位を1モルとすると、これに対して好ましくは0.01〜10モル倍の範囲、より好ましくは0.1〜5モル倍の範囲で使用される。
例えば、該架橋反応条件を温度条件とした場合、反応系の温度を上げ、その温度が反応温度に達すれば架橋反応が生起する。
水酸基を有する高分子の溶液等を吸着させた多孔質ポリマ粒子を分散、懸濁させる媒体の具体例としては、吸着させた高分子、架橋剤等を抽出してしまうことなく、且つ、架橋反応に不活性なものであれば制限はない。そのような媒体としては、具体的には、水、アルコール等が挙げられる。
架橋反応は、通常、5〜90℃の範囲の温度で、1〜24時間かけて行う。好ましくは、30〜90℃の範囲の温度である。
架橋反応終了後、生成した多孔質ポリマ粒子(多孔質体)と架橋ゲルとの複合体をろ別し、次いで、水、親水性有機溶媒(メタノール、エタノール等)などで洗浄し、未反応の高分子、懸濁用媒体等を除去すれば、多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部が、水酸基を有する高分子を含む被覆層により被覆された分離材が得られる。本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜400mgの被覆層を備えることが好ましい。被覆層の量は、熱分解の重量減少等で測定することができる。
[イオン交換基の導入]
被覆層を備える分離材は、イオン交換基、リガンド(プロテインA)等を粒子表面の水酸基等を介して導入することによりイオン交換精製、アフィニティ精製等に使用することができる。イオン交換基の導入方法としては、例えば、ハロゲン化アルキル化合物(ハロゲン化アルキル基含有化合物)を用いる方法が挙げられる。
ハロゲン化アルキル化合物としては、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸及びそのナトリウム塩;ジエチルアミノエチルクロライド等の、ハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する1級、2級又は3級アミン;ハロゲン化アルキル基を有する4級アンモニウムの塩酸塩などが挙げられる。ハロゲン化アルキル化合物としては、臭化物又は塩化物が好ましい。ハロゲン化アルキル化合物の使用量は、イオン交換基を導入する分離材(イオン交換基を導入する前の分離材)の全質量基準で0.2質量%以上が好ましい。
イオン交換基の導入には、反応を促進させるために、有機溶媒を用いることが有効である。有機溶媒としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、イソペンタノール等のアルコールが挙げられる。
通常、イオン交換基の導入は、分離材表面の水酸基に行われるので、湿潤状態の粒子を、ろ過等により水切りした後、所定濃度のアルカリ性水溶液に浸漬し、一定時間放置した後、水、又は、水−有機溶媒混合系で、上記ハロゲン化アルキル化合物を添加し反応させる。イオン交換基の導入方法としては、一般的には、水酸化ナトリウム水溶液に親水性天然高分子を溶解し、水、又は、水−有機溶媒混合系で、ハロゲン化アルキル化合物と反応させる方法が挙げられる。ハロゲン化アルキル化合物の使用量は、例えば、親水性天然高分子の全質量基準で0.2質量%以上である。この反応は、温度40〜90℃で、還流下、0.5〜12時間行うことが好ましい。上記の反応で使用されるハロゲン化アルキル化合物の種類により、付与されたイオン交換基が決定される。
弱塩基性基であるアミノ基をイオン交換基として導入する方法としては、前記ハロゲン化アルキル化合物のうち、モノ−、ジ−又はトリ−アルキルアミノクロライド、モノ−、ジ−又はトリ−アルカノールアミノクロライド、モノ(又はジ−)アルキル−モノ(又はジ−)アルカノールアミノクロライド等の2級又は3級アミノハロゲナイドなどを反応させる方法が挙げられる。これらのアミンの使用量は、例えば、イオン交換基を導入する分離材の全質量基準で0.2質量%以上である。反応条件は、例えば、40〜90℃で0.5〜12時間である。
強塩基性基である4級アンモニウム基をイオン交換基として導入する方法としては、まず、3級アミノ基を導入し、該3級アミノ基にエピクロロヒドリン等のハロゲン化アルキル化合物を反応させて4級アンモニウム基に変換させる方法などが挙げられる。又は、4級アンモニウムクロライド等の4級アミノハロゲナイドなどを上述の1〜3級アミノクロライドと同様の方法で分離材(複合体)と反応させてもよい。
弱酸性基であるカルボキシ基をイオン交換基として導入する方法としては、上記ハロゲン化アルキル化合物として、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸又はそのナトリウム塩を反応させる方法が挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物の使用量は、例えば、イオン交換基を導入する分離材の全質量基準で0.2質量%以上である。
強酸性基であるスルホン酸基をイオン交換基として導入する方法としては、分離材に対してエピクロロヒドリン等のグリシジル化合物を反応させ、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の飽和水溶液に分離材を添加する方法が挙げられる。反応条件は、例えば、30〜90℃で1〜10時間である。
イオン交換基を導入する他の方法としては、アルカリ性雰囲気下で、分離材に1,3−プロパンスルトンを反応させる方法も挙げられる。1,3−プロパンスルトンは、例えば、イオン交換基を導入する分離材の全質量基準で0.4質量%以上使用する。反応条件は、例えば、0〜90℃で0.5〜12時間である。
これらの方法以外のイオン交換基の導入方法としては、スルホプロピルを反応させる方法や、エピハロヒドリンジグリシジル化合物等を付加させた後にグリシジル基にイオン交換基を導入する方法も挙げられる。一般的には、水酸化ナトリウム水溶液に親水性天然高分子を溶解し、水、又は、水−有機溶媒混合系で、ハロゲン化アルキル基含有化合物と反応させる方法が挙げられる。ハロゲン化アルキル基含有化合物の使用量は、例えば、親水性天然高分子の全質量基準で0.2質量%以上であり、この反応は、温度40〜90℃、還流下で、0.5〜12時間行うのが好ましい。
本実施形態の分離材の吸湿度は、1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、1〜10質量%がさらに好ましい。吸湿度が30質量%以下であると、被覆層の厚みにより分離材の通液性が低下することをさらに抑制できる。
本実施形態の分離材の細孔径分布のモード径(細孔径分布の最頻値、最大頻度径)は、0.05〜0.6μmであることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。細孔径分布のモード径がこの範囲にあると、粒子中に液が流れやすくなり、動的吸着量を多くしやすい。
本実施形態の分離材の比表面積は、30m2/g以上であることが好ましい。より高い実用性の観点から、比表面積は、35m2/g以上であることがより好ましく、40m2/g以上であることがさらに好ましい。比表面積が30m2/g以上であると、分離する物質の吸着量が大きくなりやすい傾向がある。分離材の比表面積の上限は、特に限定されないが、例えば300m2/g以下とすることができる。
本実施形態の分離材又は多孔質ポリマ粒子の細孔容積、細孔径(モード径)及び比表面積は、水銀圧入測定装置(オートポア:株式会社島津製作所製)を用いて、例えば、以下のようにして測定することができる。試料約0.05gを、標準5mL粉体用セル(ステム容積0.4mL)に加え、初期圧21kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)の条件で測定する。水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130degrees、水銀表面張力485dynes/cmに設定する。また、細孔径0.05〜5μmの範囲に限定してそれぞれの値を算出する。
本実施形態の分離材又は多孔質ポリマ粒子の平均粒径及び粒径のC.V.(変動係数)は、以下の測定法により求めることができる。
1)超音波分散装置を使用して粒子を水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の粒子を含む分散液を調製する。
2)粒度分布計(シスメックスフローFPIA−3000、シスメックス株式会社製)を用いて、上記分散液中の粒子約1万個の画像により平均粒径と粒径のC.V.(変動係数)を測定する。
本実施形態の分離材の平均粒径は、カラム内圧の極端な増加を避ける観点(例えば、分取用又は工業用のクロマトグラフィーでの使用においてカラム内圧の極端な増加を避ける観点)から、10〜300μmが好ましい。
分離材の細孔径、比表面積等は、多孔質ポリマ粒子の原料、多孔質化剤、水酸基を有する高分子等を適宜選択することによって調整することができる。
本実施形態の分離材は、タンパク質の静電的相互作用による分離、アフィニティ精製等に用いるのに好適である。例えば、イオン交換基を導入した分離材(イオン交換体)を用いて、以下の方法により、タンパク質を回収することができる。まず、タンパク質を含む混合溶液の中に本実施形態の分離材を添加し、静電的相互作用によりタンパク質だけを分離材に吸着させた後、分離材を溶液からろ別し、塩濃度の高い水溶液中に添加すれば、分離材に吸着しているタンパク質を容易に脱離及び回収できる。また、本実施形態の分離材は、例えば、液体クロマトグラフィー用分離材として、カラムクロマトグラフィーにおいて使用することもできる。本実施形態のカラムは、本実施形態の分離材を備え、例えば、本実施形態の分離材を充填してなる。
本実施形態の分離材を用いて分離できる生体高分子としては、水溶性物質が好ましい。具体的には、血清アルブミン(BSA:Bovine Serum Alubumin)、免疫グロブリン等の血液タンパク質などのタンパク質;生体中に存在する酵素;バイオテクノロジーにより生産されるタンパク質生理活性物質;DNA;生理活性をするペプチド等の生体高分子である。生体高分子の分子量は、200万以下が好ましく、50万以下がより好ましい。また、公知の方法に従い、タンパク質の等電点、イオン化状態等によって、分離材の性質、条件等を選ぶことができる。公知の方法としては、例えば、特開昭60−169427号公報等に記載の方法が挙げられる。
水酸基を有する高分子の架橋体により多孔質ポリマ粒子をコーティングした後、粒子表面、及び/又は、細孔内にイオン交換基、プロテインA等を導入することにより、タンパク質等の生体高分子の分離において、天然高分子及びポリマからなる粒子の持つそれぞれの利点をあわせ持った特性を示しやすい。この性能は、従来の技術では発揮されなかったものである。特に、このような本実施形態の分離材の骨格となる多孔質ポリマ粒子は、上記のような方法で得られる粒子であるため、耐久性及び耐アルカリ性に優れる。また、水酸基を有する高分子の架橋体をコーティングすることにより、非特異吸着がさらに起こりにくく、タンパク質の脱吸着が起こりやすい傾向にある。さらに、本実施形態の分離材は、同一流速下でのタンパク質等の吸着容量(動的吸着容量)が大きい点でも従来のイオン交換樹脂に比べて好ましい性質を有する。
本明細書における「通液速度」とは、φ7.8×300mmのステンレスカラムに本実施形態の分離材を充填し、液を流した際の通液速度を表す。本実施形態の分離材をカラムに充填した場合、カラム圧が0.3MPaのときの通液速度(流速)は、800cm/h以上であることが好ましい。カラムクロマトグラフィーでタンパク質の分離を行う場合、カラムに通液されるタンパク質溶液等の通液速度としては、一般的に400cm/h以下の範囲であるが、本実施形態の分離材を使用した場合は、通常のタンパク質分離用の分離材よりも速い通液速度である800cm/h以上でも高吸着容量で使用できる。
本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーでカラム充填材として使用した場合、使用する溶出液の性質によらず、カラム内での体積変化が少ないため、操作性に優れる。
なお、本実施形態では、主に、イオン交換基を導入する形態の分離材について説明したが、イオン交換基を導入しなくても分離材として用いることができる。このような分離材は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーに利用することができる。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
(多孔質ポリマ粒子1の合成)
500mLの三口フラスコ中で、モノマとして純度96質量%のジビニルベンゼン(DVB960、新日鉄住金化学株式会社)10.7g及びスチレン5.3gと、多孔質化剤としてトルエン14.4g及びドデカノール21.6gと、開始剤として過酸化ベンゾイル0.64gとを、分散安定剤としてのポリビニルアルコール水溶液(0.5質量%)に加え、マイクロプロセスサーバーを使用して乳化させた。得られた乳化液をフラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら、撹拌機を用いて約8時間撹拌して粒子を得た。得られた粒子をろ過後、水で洗浄を行った。さらに、ソックスレー抽出装置でアセトン洗浄を8時間行い、多孔質ポリマ粒子1を得た。得られた粒子の粒径をフロー型粒径測定装置で測定し、平均粒径及び粒径のC.V.値を算出した。結果を表1に示す。
(被覆層の形成:水酸基を有する水溶性高分子によるコーティング)
アガロース水溶液(2質量%)100mLに、水酸化ナトリウム4gと、グリシジルフェニルエーテル0.14gとを加え、70℃で12時間反応させることにより、アガロースにフェニル基を導入した。得られた変性アガロースをイソプロピルアルコールで沈殿させ、洗浄した。
20mg/mLの変性アガロース水溶液400mLに多孔質ポリマ粒子1を10gの含有量で投入し、55℃で24時間撹拌することにより、多孔質ポリマ粒子1に変性アガロースを吸着させ、多孔質ポリマ粒子1の表面に被覆層を形成した。その後、ろ過を行い、熱水で洗浄した。
粒子に吸着した変性アガロースを次のようにして架橋させた。エチレングリコールジグリシジルエーテル0.64M及び水酸化ナトリウム0.4Mを含む水溶液に、水溶液35mLに対して粒子1gの割合で粒子を添加し、室温にて24時間撹拌した。その後、加熱した2質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液で洗浄後、純水で洗浄した。
上記で得られた粒子を含む水懸濁液をろ過して得られた粒子(乾燥質量20g)を5Mの水酸化ナトリウム水溶液200mLに投入し、室温で1時間放置した。ジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩の所定量(60g)に水を添加して水溶液200gを得た。水溶液の温度を70℃まで上げ、撹拌しながら2時間反応させた。反応終了後、生成物をろ別して水洗し、ジエチルアミノエチル(DEAE)基をイオン交換基として有する分離材(DEAE変性分離材)を得た。得られたDEAE変性分離材の細孔径(モード径)及び比表面積を水銀圧入法により測定した。また、DEAE変性分離材を乾燥後、熱重量分析により被覆層の被覆量(水溶性高分子の被覆量)を定量した。結果を表2に示す。
(多孔質化剤の溶出量測定)
DEAE変性分離材5gを25℃のアセトニトリル50g中に投入した後、ミックスローターを用いて100rpmにて24時間撹拌した。次に、液体クロマトグラフィーを使用して、アセトニトリルに溶出した溶出物(多孔質化剤)を検出すると共に、アセトニトリル中における溶出物の含有量(溶出量。分離材(粒子)1g当たりの量)を計測した。なお、分離材を浸漬する前において、アセトニトリルが上記多孔質化剤を含有していないことを確認した。
(タンパク質の非特異吸着能評価)
得られた粒子(分離材)0.5gをBSA濃度20mg/mLのリン酸緩衝液(pH7.4)50mLに投入し、室温で24時間撹拌を行った。その後、遠心分離で上澄みをとった後、分光光度計でろ液のBSA濃度を算出することにより、粒子に吸着したBSA量を算出した。BSA濃度は、分光光度計により280nmの吸光度から算出した。非特異吸着量が5mg以下である場合を「○」と評価し、5mgを超える場合を「×」と評価した。結果を表3に示す。
(カラム特性評価)
DEAE変性分離材をφ7.8×300mmのステンレスカラムにスラリー(溶媒:メタノール)濃度30質量%にて15分かけて充填した。その後、流速を変えて水をカラムに流し、流速とカラム圧との関係を測定し、カラム圧0.3MPa時の線流速(カラム流速)を算出した。結果を表3に示す。
また、タンパク質回収率を以下のようにして測定した。まず、20mmol/LのTris−塩酸緩衝液(pH8.0)をカラムに10カラム容量流した。その後、20mmol/LのTris−塩酸緩衝液を用いて調製されたBSA濃度2mg/mLのBSA溶液を800cm/hで流し、UVによりカラム出口でのBSA濃度を測定した。そして、10%breakthroughにおける動的吸着量(動的結合容量、(BSA吸着量))を下記式により算出した。次に、カラム入口と出口のBSA濃度が一致するまでBSA濃度2mg/mLのBSA溶液を流し、5カラム容量分の1MのNaClのTris−塩酸緩衝液を流し、溶出したBSA量(BSA回収量)を得た。そして、「BSA回収量/BSA吸着量×100(%)」に基づきタンパク質回収率を算出した。結果を表3に示す。
q10=cfF(t10−t0)/VB
q10:10%breakthroughにおける動的吸着量(mg/mL wet resin)
cf:注入しているBSA濃度(mg/mL)
F:流速(mL/min)
VB:ベッド体積(mL)
t10:10%breakthroughにおける時間(min)
t0:BSA注入開始時間(min)
<実施例2>
多孔質ポリマ粒子1と同様にして多孔質ポリマ粒子2を合成した。多孔質ポリマ粒子の合成後におけるソックスレー抽出での洗浄時間を5時間に変更した以外は、実施例1と同様に処理することによって分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
<実施例3>
多孔質ポリマ粒子1と同様にして多孔質ポリマ粒子3を合成した。多孔質ポリマ粒子の合成後におけるソックスレー抽出での洗浄時間を3時間に変更した以外は、実施例1と同様に処理することによって分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
<実施例4>
多孔質ポリマ粒子1と同様にして多孔質ポリマ粒子4を合成した。多孔質ポリマ粒子の合成後におけるソックスレー抽出での洗浄時間を2時間に変更した以外は、実施例1と同様に処理することによって分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
<実施例5>
モノマとして、ジビニルベンゼン10.7g及びスチレン5.3gに代えて、ジビニルベンゼン14.4g及びスチレン3.6gを使用して多孔質ポリマ粒子5を合成した以外は、実施例1と同様に処理することによって分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
<実施例6>
モノマとして、ジビニルベンゼン10.7g及びスチレン5.3gに代えて、ジビニルベンゼン18gを使用して多孔質ポリマ粒子6を合成した以外は、実施例1と同様に処理することによって分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
<実施例7>
多孔質化剤として、トルエン14.4g及びドデカノール21.6gに代えて、ソルビタンモノオレエート8gを使用して多孔質ポリマ粒子7を合成した以外は、実施例1と同様に処理することによって分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
<実施例8>
多孔質化剤として、トルエン14.4g及びドデカノール21.6gに代えて、ソルビタンモノラウレート8gを使用して多孔質ポリマ粒子8を合成した以外は、実施例1と同様に処理することによって分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
<実施例9>
多孔質化剤として、トルエン14.4g及びドデカノール21.6gに代えて、グリセロールモノオレエート8gを使用して多孔質ポリマ粒子9を合成した以外は、実施例1と同様に処理することによって分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
<比較例1>
粒子洗浄法としてソックスレー抽出の代わりに500mLのアセトン中で10min撹拌洗浄を2回行って多孔質ポリマ粒子10を合成した以外は、実施例1と同様に処理することによって分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
<比較例2>
粒子洗浄法としてソックスレー抽出の代わりに500mLのアセトン中で10min撹拌洗浄を1回行って多孔質ポリマ粒子11を合成した以外は、実施例1と同様に処理することによって分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
<比較例3>
多孔質化剤として、トルエン14.4g及びドデカノール21.6gに代えて、ソルビタンモノオレエート8gを使用した以外は実施例1と同様にして粒子を合成後、粒子洗浄法としてソックスレー抽出の代わりに500mLのアセトン中で10min撹拌洗浄を2回行って多孔質ポリマ粒子12を合成した以外は、実施例1と同様に処理することによって分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
<比較例4>
市販のアガロース粒子(Capto DEAE、GEヘルスケア製)を多孔質ポリマ粒子13として用いて、この多孔質ポリマ粒子13について実施例1と同様の評価を行った。
表3の結果から分かる通り、本願実施例1〜9は、比較例1〜4に比べて、タンパク質の非特異吸着を低減しつつ、タンパク質回収率が高く、且つ、カラムとして用いたときの通液性等のカラム特性に優れることが判明した。