以下、本開示の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
(SAW共振子の基本構成)
図1は、SAW共振子1の構成を示す模式的な斜視図である。
SAW共振子1は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下の説明では、便宜的に、D1軸、D2軸およびD3軸からなる直交座標系を定義し、D3軸の正側を上方として、上面等の語を用いることがあるものとする。なお、D1軸は、後述する基板3の上面(通常は最も広い面(主面))に沿って伝搬するSAWの伝搬方向に平行になるように定義され、D2軸は、基板3の上面に平行かつD1軸に直交するように定義され、D3軸は、基板3の上面に直交するように定義されている。
SAW共振子1は、いわゆる1ポートSAW共振子を構成しており、例えば、模式的に示す第1端子31Aおよび第2端子31Bの一方から所定の周波数の電気信号が入力されると共振を生じ、その共振を生じた信号を第1端子31Aおよび第2端子31Bの他方から出力する。
このようなSAW共振子1は、例えば、基板3と、基板3上に位置している電極部とを有している。電極部は、基板3上に設けられた層状導体(例えば金属)によって構成されており、IDT電極5と、IDT電極5の両側に位置する1対の反射器7とを有している。
なお、図1は、あくまで要部を模式的に示すものであり、SAW共振子1は、上記の他、適宜な構成要素を有していてよい。また、SAW共振子1は、例えば、IDT電極5および反射器7上に空間を構成するカバーが基板3に被せられた、いわゆるウェハレベルパッケージのものであってもよいし、他の回路基板に基板3の上面を空間を介して対向させて実装されるものであってもよい。
基板3は、圧電基板であり、例えば、圧電性を有する単結晶からなる。単結晶は、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO3)単結晶である。カット角は、利用するSAWの種類等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、基板3は、回転YカットX伝搬のものである。すなわち、X軸は基板3の上面(D1軸)に平行であり、Y軸は、基板3の上面の法線に対して所定の角度で傾斜している。所定の角度は、例えば、42°±10°である。なお、基板3は、比較的薄く形成され、裏面(D3軸負側の面)に無機材料または有機材料からなる支持基板が貼り合わされたものであってもよい。
IDT電極5は、1対の櫛歯電極9を有している。各櫛歯電極9は、バスバー11と、バスバー11から互いに並列に延びる複数の電極指13と、複数の電極指13の間にてバスバー11から突出する複数のダミー電極15とを有している。1対の櫛歯電極9は、複数の電極指13が互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。すなわち、1対の櫛歯電極9の2本のバスバー11は互いに対向して配置され、一方の櫛歯電極9の電極指13と他方の櫛歯電極9の電極指13とはその幅方向に基本的に交互に配列されている。また、一方の櫛歯電極9の複数のダミー電極15は、その先端が他方の櫛歯電極9の電極指13の先端と対向している。
バスバー11は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向(D1軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。そして、一対のバスバー11は、SAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)において互いに対向している。なお、バスバー11は、幅が変化していたり、SAWの伝搬方向に対して傾斜していたりしてもよい。
各電極指13は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。複数の電極指13は、例えば、SAWの伝搬方向に配列されており、また、互いに同等の長さである。なお、IDT電極5は、複数の電極指13の長さ(別の観点では交差幅)が伝搬方向の位置に応じて変化する、いわゆるアポダイズが施されていてもよい。
電極指13の本数は、SAW共振子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。なお、図1等は模式図であることから、電極指13の本数は少なく示されている。実際には、図示よりも多く(例えば50本以上)の電極指13が配列されてよい。
複数の電極指13のピッチ(電極指ピッチ、図2(a)のp0参照)は、例えば、IDT電極5全体に亘って概ね一定とされている。ただし、後述するように、本実施形態においては、一部のピッチが大部分のピッチよりも小さくされることがある。ピッチは、基本的に、基板3上を伝搬するSAWのうち共振させたい周波数と同等の周波数を有するSAWの波長λの半分(p0=λ/2)とされている。
複数のダミー電極15は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に突出する。その先端と複数の電極指13の先端とのギャップは、例えば、複数のダミー電極15間で同等である。複数のダミー電極15の幅、本数およびピッチは、複数の電極指13と同等である。なお、ダミー電極15の幅は電極指13と異なっていてもよい。IDT電極5は、ダミー電極15を有さないものであってもよい。
反射器7は、例えば、格子状に形成されている。すなわち、反射器7は、互いに対向する1対のバスバー17と、1対のバスバー17間において延びる複数のストリップ電極19とを有している。
バスバー17およびストリップ電極19の形状等は、ストリップ電極19の両端が1対のバスバー17に接続されていることを除いては、IDT電極5のバスバー11および電極指13と同様とされてよい。
例えば、1対のバスバー17は、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向(D1軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されており、SAWの伝搬方向に交差する方向において互いに対向している。複数のストリップ電極19は、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されており、SAWの伝搬方向に一定のピッチで配列されている。なお、1対のバスバー17は、SAWの伝搬方向に対して傾斜していてもよいし、1対のバスバー17間の距離(ストリップ電極19の長さ)は、SAWの伝搬方向の位置に応じて変化していてもよい。
複数のストリップ電極19の幅およびピッチは、例えば、複数の電極指13(の大部分)の幅およびピッチと同等である。ただし、後述するように、本実施形態では、複数のストリップ電極19のピッチは、複数の電極指13のピッチよりも小さくされることがある。
複数のストリップ電極19の本数は、例えば、利用を意図しているモードのSAWの反射率が概ね100%以上となるように設定されている。その理論的な必要最小限の本数は、例えば、数本〜10本程度であり、通常は、余裕を見て20本以上または30本以上とされている。
1対の反射器7は、例えば、SAWの伝搬方向においてIDT電極5の両側に隣接している。従って、複数のストリップ電極19は、複数の電極指13の配列に続いて配列されている。反射器7とIDT電極5との間で互いに隣接するストリップ電極19と電極指13とのピッチは、例えば、複数の電極指13(の大部分)のピッチと同等である。ただし、後述するように、本実施形態では、このピッチは、複数の電極指13のピッチよりも小さくされることがある。
なお、特に図示しないが、基板3の上面は、IDT電極5および反射器7の上から、SiO2等からなる保護膜によって覆われていてもよい。保護膜は、単にIDT電極5等の腐食を抑制するためのものであってもよいし、温度補償に寄与するものであってもよい。また、保護膜が設けられる場合等において、IDT電極5および反射器7の上面または下面には、SAWの反射係数を向上させるために、絶縁体または金属からなる付加膜が設けられてもよい。
1対の櫛歯電極9に電圧が印加されると、電極指13によって基板3に電圧が印加され、基板3の上面付近において上面に沿ってD1軸方向に伝搬する所定のモードのSAWが励起される。励起されたSAWは、電極指13によって機械的に反射される。その結果、電極指13のピッチを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指13によって取り出される。このようにしてSAW共振子1は共振子として機能する。その共振周波数は、電極指ピッチを半波長として基板3上を伝搬するSAWの周波数と概ね同一の周波数である。
IDT電極5において励起されたSAWは、反射器7のストリップ電極19によって機械的に反射される。また、互いに隣接するストリップ電極19がバスバー17によって互いに接続されていることから、IDT電極5からのSAWは、電気的にもストリップ電極19によって反射される。これにより、SAWの発散が抑制され、IDT電極5における定在波が強く立ち、SAW共振子1の共振子としての機能が向上する。
(厚膜部)
一般には、IDT電極5および1対の反射器7の厚みはこれら全体に亘って一定とされる。本実施形態においては、IDT電極5のD1軸方向の端部5e、および反射器7の少なくとも一方(図1では双方)は、IDT電極5のD1軸方向の中央部5aよりも厚く形成されている。
換言すれば、端部5eの電極指13およびストリップ電極19の少なくとも一方は、中央部5aの電極指13よりも厚い厚膜部(符号省略)を有している。また、端部5eの電極指13が厚膜部を有する場合において、IDT電極5のバスバー11は、例えば、端部5eの電極指13を接続する部分において、厚膜部と同等の厚さとなっている。ストリップ電極19が厚膜部を有する場合において、反射器7のバスバー17は、例えば、厚膜部と同等の厚さとなっている。
厚膜部の厚さ(図2(b)のteおよびtr参照)は、中央部5a(別の観点ではIDT電極5の大部分)の厚さ(図2(b)のt0参照)に対して適宜に設定されてよい。例えば、前者は、後者の1倍超1.5倍以下である。なお、中央部5aの厚さt0は、例えば、SAWの励振効率が最も高くなるように設定される。例えば、厚みt0を中央部5aのピッチp0で正規化した正規化厚みte/2p0はAlもしくはAl合金を使用した電極の場合は0.07以上0.1以下である。
一の端部5eにおける電極指13の本数は、適宜に設定されてよいが、例えば、5本以上10本以下である。図1等は模式図であることから、端部5eにおける電極指13の本数は、上記の例よりも少なく示されている。
(ピッチおよびギャップ)
図2(a)は、図1のIIa−IIa線における断面図である。
この図に示すように、IDT電極5の中央部5aにおける電極指13のピッチをp0とし、端部5eにおける電極指13のピッチをpeとし、反射器7におけるストリップ電極19のピッチをprとする。これらのピッチは、隣り合う電極指13または隣り合うストリップ電極19の中心間距離である。また、中央部5aにおける電極指13間のギャップの大きさをG0とし、中央部5aの電極指13と端部5eの電極指13との間のギャップの大きさをGeとし、IDT電極5の電極指13と反射器7のストリップ電極19とのギャップの大きさをGrとする。これらのギャップの大きさは、隣り合う電極指13またはストリップ電極19の縁部間の距離である。なお、便宜上、ギャップの大きさをギャップと略すことがある。
一般には、電極指13のピッチp0およびpeは、IDT電極5全体に亘って一定とされる。ひいては、一般には、電極指13のギャップG0およびGeは、IDT電極5全体に亘って一定である。また、一般には、反射器7のピッチprは、電極指13のピッチp0およびpeと同等とされる。また、一般には、隣り合う電極指13とストリップ電極19とのピッチ(符号省略)は、電極指13のピッチp0およびpeと同等である。ひいては、IDT電極5と反射器7との間のギャップGrは、電極指13のギャップG0およびGeと同等である。
ただし、本実施形態では、以下の少なくともいずれか1つが成り立つように、ピッチおよび/またはギャップが設定される。端部5eにおけるピッチpeは、中央部5aにおけるピッチp0よりも小さい。中央部5aと端部5eとの間のギャップGeは、中央部5aにおける電極指13間のギャップG0よりも小さい。反射器7におけるピッチprは、中央部5aにおけるピッチp0よりも小さい。IDT電極5と反射器7との間のギャップGrは、中央部5aにおける電極指13間のギャップG0よりも小さい。
より具体的には、例えば、ギャップGeおよび/またはギャップGrは、ギャップG0の0.7倍以上1倍未満である。ピッチpeおよび/またはピッチprは、例えば、ピッチp0の0.9倍以上1倍未満である。
なお、中央部5a(IDT電極5の大部分)のピッチp0は、既に言及した基本的な大きさである。すなわち、ピッチp0は、基板3上を伝搬するSAWのうち共振させたい周波数と同等の周波数を有するSAWの波長λの半分(p0=λ/2)である。ただし、IDT電極5は、特性の向上または微調整のために、複数の電極指13の一部に狭ピッチ部または広ピッチ部を設けることがある。また、交互に配列されている1対の櫛歯電極9の電極指13を適宜な本数(例えば3本)無くす、またはこれと実質的に等価な電極指13の幅または配列の変更を行う、いわゆる間引きが行われることがある。中央部5aのピッチp0の特定においては、このような特異な部分のピッチは除くものとする。また、ピッチp0が中央部5a全体に亘って微小範囲内で変動するような場合においては、その平均値を用いてよい。
また、中央部5aのギャップG0は、ピッチp0と電極指13の幅w(別の観点ではデューティー(w/p0))とによって決定される。幅wは、例えば、IDT電極5および反射器7全体で一定である。中央部5aのデューティーは、例えば、SAWの励振効率が最も高くなるように設定される。例えば、デューティーは、0.4以上0.6以下である。
(厚膜部の材料)
図2(b)は、図2(a)の領域IIb(2箇所)の拡大図である。
SAW共振子1は、例えば、基板3上に順に積層された、第1導電層21A、第2導電層21B、第3導電層21Cおよび第4導電層21Dを有している。IDT電極5および反射器7の厚膜部でない部分(図示の例では中央部5a全体)は、これら4層のうち第1導電層21Aおよび第2導電層21Bによって構成されている。一方、厚膜部(図示の例では端部5e全体および反射器7全体)は、これら4層によって構成されている。
第1導電層21Aの材料および第2導電層21Bの材料の組み合わせと、第3導電層21Cの材料および第4導電層21Dの材料の組み合わせとは、例えば、同一とされている。例えば、第1導電層21Aおよび第3導電層21Cの材料はチタン(Ti)である。第2導電層21Bおよび第4導電層21Dの材料は、アルミニウム(Al)またはAl合金である。Al合金は、例えば、Al−Cu合金である。
第1導電層21Aは、例えば、第2導電層21Bに比較して薄くされている。例えば、第1導電層21Aの厚さは、第1導電層21Aおよび第2導電層21Bの合計の厚さ(t0)の5%以下である。第3導電層21Cの厚さは、例えば、第1導電層21Aの厚さと同等である。第4導電層21Dの厚さは、例えば、上記のように設定された第1導電層21A〜第3導電層21Cの厚さとで厚膜部について所望の厚さ(teおよび/またはtr)を実現するように設定される。
(作用の例)
比較例および実施例に係るSAW共振子について、シミュレーション計算を行ってその特性を調べた。以下では、その計算結果の例を参照して、上述した構成(厚膜部とピッチまたはギャップの縮小との組み合わせ)の作用について説明する。
図3(a)は、比較例および実施例に係るSAW共振子の周波数特性を示す図である。この図において、横軸は周波数を示し、縦軸はインピーダンスの位相を示している。なお、シミュレーションは有限要素法(FEM)を用い、基本モデルのパラメーターを以下の通りとした。
・SAW共振1子の電極指13の本数:150本
・反射器7のストリップ電極19の本数:20本
・電極指13:材料 Al、厚み t0=0.16um、ピッチp0=1um、Duty比0.5
・反射器7:材料 Al、Duty比0.5
線L1は、通常のSAW共振子(比較例。以下、「通常共振子」ということがある。)の特性を示している。ここでいう通常共振子は、IDT電極5および反射器7の厚さ(t0、teおよびtr)がこれらの電極全体に亘って一定であり、電極指13およびストリップ電極19のピッチ(p0、peおよびpr)がIDT電極5および反射器7の全体に亘って一定である(ひいてはG0、GeおよびGrは同一である)ものをいう。
線L2は、他の比較例に係る共振子の特性を示している。線L2の比較例は、反射器7の厚さtrをIDT電極5の厚さ(t0およびte)よりも厚くした点のみが通常共振子(線L1)と相違する。別の観点では、線L2の比較例は、通常共振子に比較して反射器7が厚くされている。シミュレーションではtr/t0=1.25とした。
線L3は、実施例に係る共振子の特性を示している。線L3の実施例は、反射器7のピッチprが中央部5aのピッチp0よりも狭くされている点のみが線L2の比較例と相違する。別の観点では、線L3の実施例は、通常共振子(線L1)と比較して、反射器7が厚くされているとともにピッチprが狭くされている。シミュレーションではpr/p0=0.98とした。
線L1〜L3によって示されているように、共振周波数付近(約1980MHz)から反共振周波数付近(約2050MHz)までの範囲においては、インピーダンスの位相は約90°となり、その外側の周波数範囲においては、インピーダンスの位相は約−90°となる。なお、以下では、インピーダンスの位相が約90°となっている範囲の低周波数側を共振側といい、上記範囲の高周波数側を反共振側ということがある。
線L1によって示されているように、通常共振子では、共振側にリップルが生じ(領域Ar1)、また、反共振側にもリップルが生じている(領域Ar2)。一方、線L2によって示されているように、反射器7をIDT電極5よりも厚くすると、通常共振子(線L1)よりも共振側の特性が改善される。すなわち、領域Ar1のリップルが小さくなるとともに、位相が−90°に近づいている。これは、この領域で電気的損失が減少していることを示している。ただし、反共振側の特性は、通常共振子と同等である。
そして、線L3によって示されているように、反射器7をIDT電極5よりも厚くし、かつ反射器7のピッチprをIDT電極5のピッチp0よりも狭くすると、共振側および反共振側の双方において、通常共振子(線L1)よりも特性が改善される。すなわち、領域Ar2のリップルが小さくなるとともに、位相が−90°に近づいている。これは、この領域で電気的損失が減少していることを示している。また、領域Ar2のみではなく、領域Ar2から反共振にかけての周波数領域での電気的損失が減少している。ただし、図示の例では、共振側における特性の改善量は、線L2の比較例よりも低い。
図3(b)および図3(c)は、上記のように特性が改善する理由を説明するための模式図である。これらの図において、横軸fは周波数を示しており、縦軸|Z|はインピーダンスの絶対値を示している。
線L5は、SAW共振子(例えば通常共振子)における周波数とインピーダンスの絶対値との関係を示している。SAW共振子において、インピーダンスの絶対値は、共振周波数において値が極小となり(共振点P1)、反共振周波数において値が極大となる(反共振点P2)。
線L6は、通常共振子における反射器7の動作範囲(ストップバンド)を示している。通常共振子において、動作範囲の下端(低周波数側の端部)は、共振周波数に一致している。また、通常共振子において、動作範囲の上端(高周波数側の端部)は、例えば、反共振周波数よりも高い。
反射器7の動作範囲の下端と共振周波数とが一致していることから、共振周波数よりも低周波数側においてはSAWを閉じ込める作用が低下する。また、利用対象のモード以外のSAWが反射器7内で生じる。その結果、低周波数側においてリップルが生じる。また、IDT電極5と反射器7との間のミスマッチに起因して、理想(無限周期の一様なIDT電極5)では抑制される後方散乱BAW(Bulk Acoustic Wave)が発生する。その結果、反共振周波数付近乃至は反射器7の動作範囲の上端においてリップルが生じる。
ここで、反射器7を厚くすると、図3(b)において線L7によって示すように、動作範囲の幅が低周波数側に広がる。すなわち、反射器7の動作範囲の下端は、IDT電極5の共振周波数よりも低くなる。その結果、図3(a)において線L2で示したように、共振側におけるリップルの発生が低減される。
さらに、反射器7のピッチprを小さくすると、図3(c)において線L8によって示すように、反射器7の動作範囲が高周波数側へ移動する。その結果、図3(a)において線L3で示したように、反共振側におけるスプリアスが低減される。この際、反射器7の動作範囲を高周波数側へ移動させつつも、反射器7の動作範囲の下端をIDT電極5の共振周波数よりも低く維持することにより、通常共振子に比較して、共振側のリップルの発生も低減される。
このように、反射器7を厚くする構成と反射器7のピッチprを小さくする構成とが組み合わされることにより、反射器7の動作範囲の低周波数側への拡張と前記動作範囲の高周波数側への移動とが組み合わされ、ひいては、共振側および反共振側の双方において特性が改善される。なお、当然に、反射器7を厚くせずに、ピッチprを小さくした場合、共振側の特性が悪化するから、ピッチprを小さくする構成は、反射器7を厚くする構成と組み合わされて初めて特性改善に対して有効な構成となる。
図4は、比較例および他の実施例に係るSAW共振子の周波数特性を示す、図3(a)と同様の図である。この図における線L1は、図3(a)の線L1と同じである。
線L11は、比較例に係る共振子の特性を示している。線L11の比較例は、IDT電極5と反射器7との間のギャップGrがIDT電極5のギャップG0よりも狭くされている点のみが通常共振子と相違する。別の観点では、線L11の比較例は、通常共振子(線L1)と比較して、ギャップGrが狭くされている。なおGr/G0=0.8とした。
線L12は、実施例に係る共振子の特性を示している。線L12の実施例は、反射器7の厚さtrをIDT電極5の厚さ(t0およびte)よりも厚くした点のみが線L11の比較例と相違する。別の観点では、線L12の実施例は、通常共振子(線L1)と比較して、反射器7が厚くされているとともに、ギャップGrが狭くされている。なおGr/G0=0.8とした。
線L13は、他の実施例に係る共振子の特性を示している。線L13の実施例は、反射器7のピッチprがIDT電極5のピッチ(p0およびpe)よりも狭くされている点のみが線L12の実施例と相違する。別の観点では、線L13の実施例は、通常共振子(線L1)と比較して、反射器7が厚くされ、ギャップGrが狭くされ、ピッチprが狭くされている。なおPr/P0=0.98、Gr/G0=0.8とした。
線L11によって示されているように、IDT電極5と反射器7との間のギャップGrを狭くすると、通常共振子(線L1)に比較して、反共振側の特性が改善される。これは、例えば、IDT電極5と反射器7との間のミスマッチが低減され、後方散乱BAWの発生が低減されることからである。しかし、その一方で、線L11の比較例では、共振側において特性が低下している。すなわち、共振周波数が高周波側に移動して、共振−反共振の周波数差(Δf)が小さくなるとともに、共振側に大きなリップルが生じてしまっている。これは、例えば、ギャップGrを狭くしたことによって、反射器7の動作範囲が高周波数側へ移動したことからである。
線L12によって示されているように、反射器7をIDT電極5よりも厚くし、かつIDT電極5と反射器7との間のギャップGrをIDT電極5のギャップG0よりも狭くすると、共振側および反共振側の双方において、通常共振子(線L1)よりも特性が改善される。なお、線L12の実施例における反共振側の特性改善量は、線L11の比較例における反共振側の特性改善量と同程度で得られている。線L12の実施例において共振側の特性が改善する理由は、例えば、図3(b)を参照して説明した理由と同様である。
線L13によって示されているように、反射器7をIDT電極5よりも厚くし、IDT電極5と反射器7との間のギャップGrをIDT電極5のギャップG0よりも狭くし、かつ反射器7のピッチprをIDT電極5のピッチp0よりも狭くすると、共振側および反共振側の双方において、線L11の比較例よりも特性が改善される。なお、線L13の実施例において線L11の比較例よりも共振側の特性が改善する理由は、例えば、図3(b)を参照して説明した理由と同様である。なお、線L13の実施例は、L11の比較例よりも小さいが、依然共振側に大きなリップルが生じており、通常共振子(線L1)に比較して共振側の特性が低下しているが、反射器7をさらに厚くすることなどによって共振側の特性を通常共振子に比較して向上させることも可能である。
図5は、比較例および他の実施例に係るSAW共振子の周波数特性を示す、図3(a)と同様の図である。この図における線L1およびL11は、図4の線L1およびL11と同じである。
線L15は、比較例に係る共振子の特性を示している。線L15の比較例は、IDT電極5の端部5eの厚さteを中央部5aの厚さt0よりも厚くした点のみが通常共振子(線L1)と相違する。別の観点では、線L15の比較例は、通常共振子と比較して、厚さteが厚くされている。端部5eは電極指両端の電極指5本分とした。
線L16は、実施例に係る共振子の特性を示している。線L16の実施例は、IDT電極5の端部5eのピッチpeが中央部5aのピッチp0よりも狭くされている点のみが線L15の比較例と相違する。別の観点では、線L16の実施例は、通常共振子(線L1)と比較して、厚さteが厚くされ、ピッチpeが狭くされている。シミュレーションではpe/p0=0.98とした。
線L15によって示されているように、IDT電極5の端部5eを厚くすると、例えば、通常共振子(線L1)に比較して、共振側および反共振側の双方において特性が改善される。これは、例えば、端部5eを厚くしたことによって、端部5eにおける反射帯域が低周波数側に移動し、また、反射器7を端部5eに近づけたのと同様の効果が生じたことからである。
線L16によって示されているように、IDT電極5の端部5eを厚くし、かつ端部5eのピッチpeを狭くすると、通常共振子(線L1)に比較して、反共振側において特性が改善し、その一方で、共振側においては特性の劣化が生じていない。より具体的には、反共振側の特性改善量は、線L15の比較例よりも高く、線L11の比較例よりは低い。また、共振側は、線L11の比較例に比較すると、特性が改善されている。このような作用の理由は、例えば、図3(b)および図3(c)を参照して説明した理由と同様である。
図6(a)は、比較例および他の実施例に係るSAW共振子の周波数特性を示す、図3(a)と同様の図である。図6(b)、図6(c)および図6(d)は、図6(a)の領域VIb、VIcおよびVIdの拡大図である。これらの図における線L1およびL11は、図4の線L1およびL11と同じである。
線L21は、実施例に係る共振子の特性を示している。線L21の実施例は、反射器7の厚さtrおよびIDT電極5の端部5eの厚さteを中央部5aの厚さt0よりも厚くしている点のみが線L11の比較例と相違する。別の観点では、線L21の実施例は、通常共振子と比較して、厚さtrおよびteが厚くされ、かつIDT電極5と反射器7との間のギャップGrが狭くされている。なお、シミュレーションではtr/t0=te/t0=1.25、端部5eは電極指両端の電極指5本分とした。また、Gr/G0=0.8とした。
線L22は、他の実施例に係る共振子の特性を示している。線L22の実施例は、反射器7の厚さtrおよびIDT電極5の端部5eの厚さteを中央部5aの厚さt0よりも厚くし(線L21と同等である)、かつ反射器7のピッチprおよび端部5eのピッチpeが中央部5aのピッチp0よりも狭くされている点のみが通常共振子(線L1)と相違する。別の観点では、線L22の実施例は、通常共振子と比較して、厚さtrおよびteが厚くされ、かつピッチprおよびピッチpeが狭くされている。
線L21および線L22のいずれの実施例においても、通常共振子に比較して、共振側および反共振側の双方において特性が改善されている。また、いずれの実施例も、反共振側においては、線L11の比較例と同等の改善効果を得ることができており、かつ共振側においては、線L11の比較例よりも特性が改善されている。このように、反射器7の厚さtrを厚くする構成と、IDT電極5の端部5eの厚さteを厚くする構成とを組み合わせることにより、共振側および反共振側の双方において特性を大幅に改善することが容易になる。
(特性が改善する組み合わせの例)
図7は、厚さtrおよびte、ギャップGrおよびGeならびにピッチprおよびpeについて、SAW共振子1の特性が改善する組み合わせの例(実施例1〜20)を示す図表である。この組み合わせは、シミュレーション計算によって得られている。
図7に示す実施例に共通の条件は、以下のとおりである。
基板3:
材料:LiTaO3単結晶
結晶方位:42°回転Y板
IDT電極5および反射器7:
第1導電層21A:
材料:Ti
厚さ:6nm
第2導電層21B:
材料:Al−Cu合金
厚さ:115nm
第3導電層21C:
材料:Ti
厚さ:6nm
第4導電層21D:
材料:Al−Cu合金
厚さ:trおよび/またはteに応じて変化
ピッチp0:1.00μm
デューティー:0.5
IDT電極5の一の端部5eにおける電極指13の本数は、実施例4〜7では5本(両端部5eで合計10本)とし、他の実施例では10本(両端部5eで合計20本)とした。
図7では、tr、te、Gr、Ge、prおよびpeは、中央部5aの値に対する比(tr/t0、te/t0、Gr/G0、Ge/G0、pr/p0およびpe/p0)によって示されている。また、これらの値が1となる欄は、図表を見やすくするために「−」としている。
例4は、Gr/G0、Ge/G0、pr/p0およびpe/p0のいずれも1未満とされておらず、比較例となるものである。ここでは、便宜上、実施例に続けて番号を付している。
特性の評価は、通常共振子に対してIDT電極5と反射器7との間のギャップGrを狭くしたもの(例えば図4の線L11を参照)を基準として行った。このようにしたのは、以下の理由による。通常共振子に対する共振側における改善量は相対的に小さいことから、ギャップGrを狭くした比較例と比較した方が改善の有無の判定について客観性が確保され易い。一方で、反共振側について、ギャップGrを狭くした比較例に対する改善量が小さくても(改善の有無の判定が困難でも)、通常共振子に対しては改善されていることが明らかである。ギャップGrを狭くした比較例と比較して、共振側において特性が改善し、かつ反共振側において同等の特性を得ることができていれば、ギャップまたはピッチを小さくする構成と、電極膜厚を厚くする構成との組み合わせの効果が現れているといえる。
評価の基準とした比較例のギャップGr/G0は、実施例1〜7においては0.8であり、他の実施例においては0.9である。
図7では、「評価」の列において「共振側」および「反共振側」それぞれにおける評価結果を示している。「共振側」および「反共振側」の各列において、「○」は、比較例に対して特性が改善していることを意味している。「=」は、比較例と同等の特性であることを意味している。「△」は、比較例に対して特性が低下したことを意味している。
図7は、特性が改善するパラメータの組み合わせ例を示しているものであるので、基本的に、評価は○となっている。実施例1および4においては、反共振側の評価が△となっている。ただし、通常共振子と比較すれば、これらの実施例においても反共振側の特性は改善している。実施例10は、共振側の評価が△となっているが、その低下の程度が比較的微小であるのに対して、反共振側の特性の改善量が著しいことから、特性が改善するパラメータの組み合わせとして例示している。
図7の特性が改善する例では、各パラメータは、以下の範囲にある。tr/t0およびte/t0は、それぞれ、1.1以上1.4以下である。Gr/G0は0.75以上0.90以下であり、pr/p0および/またはpe/p0が1未満であれば1でもよい。Ge/G0は0.78以上0.98以下であり、Gr/G0、pr/p0および/またはpe/p0が1未満であれば1でもよい。pr/p0は0.98であり、Gr/G0、Ge/G0および/またはpe/p0が1未満であれば1でもよい。pe/p0は0.97以上0.99以下であり、Gr/G0、Ge/G0および/またはpr/p0が1未満であれば1でもよい。
図7は、特性が改善するパラメータの組み合わせと、特性が改善しないパラメータの組み合わせとの境界に位置するパラメータの組み合わせを示すものではない。例えば、実施例12〜15は、tr/t0、te/t0およびGr/G0を適宜に設定したときに概ね最も特性がよくなるGe/G0を示している。従って、上記の範囲を広げても、特性は改善する。
例えば、図7に示した例およびその他のシミュレーション計算または実験結果から、各パラメータは、以下の範囲にしてよいと考えられる。tr/t0および/またはte/t0は、1超1.5以下である。Gr/G0は、0.70以上1未満であり、Ge/G0、pr/p0および/またはpe/p0が1未満であれば1でもよい。Ge/G0は、0.70以上1未満であり、Gr/G0、pr/p0および/またはpe/p0が1未満であれば1でもよい。pr/p0は、0.9以上1未満であり、Gr/G0、Ge/G0および/またはpe/p0が1未満であれば1でもよい。pe/p0は、0.9以上1未満であり、Gr/G0、Ge/G0および/またはpr/p0が1未満であれば1でもよい。
(パラメータの相互影響)
図8は、実施例のうちGr/G0が1未満のものについて、tr/t0(横軸)とGr/G0(縦軸)との関係を示す図である。図7において共振側の評価が△となった実施例10は、図8において△でプロットされ、他の実施例については図8において○でプロットされている。
図3を参照して説明した作用から理解されるように、厚さtrの増加量に対してギャップGrの縮小量が大きいと、共振側における特性が低下する。しかし、図8に示すように、少なくとも線L26(Gr/G0=0.85−0.5×(tr/t0−1))から紙面右上側においては、共振側および反共振側の双方において特性を改善させる、または共振側の特性低下を殆ど生じさせずに反共振側の特性を向上させることができる。
なお、プロットした実施例は、ギャップGr以外のギャップまたはピッチも縮小されたものを多く含む。ギャップGr以外のギャップまたはピッチの縮小も、ギャップGrの縮小と同様に、反射器7の動作範囲を高周波側へ移動させ、共振側における特性を低下させるおそれがある。従って、ギャップGr以外のギャップまたはピッチが狭くされている実施例もプロットされていることは、上記の知見に影響しない。
また、プロットした実施例は、厚さtrだけでなく、厚さteも厚くされたものを多く含む。厚さteの増加は、共振側の特性劣化のおそれを低減する。ただし、△でプロットされた実施例10が厚さtrだけでなく、厚さteも厚くされている一方で、線L26の右上に位置し、かつ図8において実施例10に最も近い実施例2(tr/t0=1.25、Gr/G0=0.8)は、厚さteが厚くされていない。従って、厚さteも厚くされたものがプロットされていることは、線L26よりも右上側において共振側における特性が確保されるという知見に殆ど影響しないといえる。
図9(a)は、Grおよびprのいずれを縮小するかが互いに異なる実施例1および2について、Gr/G0(横軸)とpr/p0(縦軸)との関係を示す図である。
この図に示されているように、概略、ギャップGrの縮小量の1/10とピッチprの縮小量とが同等の作用を期待できる値である。従って、例えば、Gr/G0−10×(1−pr/p0)が図8の線L26の右上に位置するようにGrおよび/またはprを設定してよい。
図9(b)は、Geおよびpeのいずれを縮小するかが互いに異なる実施例17および18について、Ge/G0(横軸)とpe/p0(縦軸)との関係を示す図である。
この図に示されているように、概略、ギャップGeの縮小量の1/10とピッチpeの縮小量とが同等の作用を期待できる値であることが分かる。従って、例えば、Ge/G0−10×(1−pe/p0)が後述するGeの値の範囲を超えないようにGeおよび/またはpeを設定してよい。
図10は、tr/t0、te/t0、Gr/G0およびGe/G0が適宜に設定され、pr/p0およびpe/p0が一定とされた実施例13〜15(14−4は除く)、18および20について、tr/t0(横軸。これらの実施例ではtr=te)と、Ge/G0(縦軸)との関係を示す図である。既に言及したように、これらの実施例は、tr/t0、te/t0およびGr/G0を適宜に設定したときに概ね最も特性がよくなるGe/G0を求めている。線L31、L32およびL33は、それぞれGr/G0=0.9、0.85または0.8に対応している。
図11は、上記と概ね重複する実施例13〜15、18および20について、Gr/G0(横軸)と、Ge/G0(縦軸)との関係を示す図である。線L35、L36、L37およびL38は、それぞれtr/t0=1.15、1.2、1.3または1.4に対応している。
図10に示されているように、膜厚が厚くなるほど、特性が概ね最良となるGeは小さくなる。これは、Geを小さくすることによってGrを小さくしたときと同様に反射器7の動作範囲が高周波側にシフトするからである。変化率は、図8の線L26と概ね同等である。
図11に示されているように、Grが小さいほど特性が概ね最良となるGeは大きくなる。ただし、膜厚がある程度まで厚くなり、Geがある程度まで小さくなると、Grの変化がGeの変化に及ぼす影響は小さく、または無くなる。また、図10と図11との比較から理解されるように、図示の範囲(tr/t0<1.5、Gr/G0>0.7)では、GrによるGeの変化よりもtrによるGeの変化の方が大きい。
従って、例えば、tr/t0が1.3超では、Grの値に関わらずに、Geが図8の線L26よりも右上に位置するようにGeを設定してよい。また、例えば、tr/t0が1.3以下では、Gr/G0−a×(1−Ge/G0)が図8の線L26よりも右上に位置するようにGrおよびGeを設定してよい。aは、例えば、tr/t0が1超1.1以下では1であり、tr/t0が1.1超1.2以下では0.4、tr/t0が1.2超1.3以下では0.2である。
(分波器)
図12は、SAW共振子1の利用例としての分波器101を示す模式図である。
分波器101は、例えば、送信端子105からの送信信号をフィルタリングしてアンテナ端子103へ出力する送信フィルタ109と、アンテナ端子103からの受信信号をフィルタリングして1対の受信端子107に出力する受信フィルタ111とを有している。
送信フィルタ109は、例えば、ラダー型フィルタによって構成されている。すなわち、送信フィルタ109は、ラダー型に接続された1以上の直列共振子および1以上の並列共振子を有している。そして、これらの共振子のうち少なくとも1つ(図示の例では全て)は、SAW共振子1によって構成されている。これら複数のSAW共振子1は、例えば、同一の基板3に設けられている。
受信フィルタ111は、例えば、互いに直列に接続されたSAW共振子1およびSAWフィルタ113によって構成されている。これらを構成するIDT電極5および1対の反射器7は、例えば、同一の基板3に設けられている。受信フィルタ111が構成される基板3は、送信フィルタ109が構成される基板3と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
SAWフィルタ113は、例えば、縦結合多重モード(2重モードを含むものとする)型共振子フィルタであり、SAWの伝搬方向に配列された複数のIDT電極5と、その両側に配置された1対の反射器7とを有している。
(通信装置)
図13は、SAW共振子1の利用例としての通信装置151の要部を示すブロック図である。
通信装置151は、電波を利用した無線通信を行うものである。通信装置151は、上述した分波器101を有していることによって、SAW共振子1を利用している。具体的には、以下のとおりである。
通信装置151において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF−IC(Radio Frequency Integrated Circuit)153によって変調および周波数の引き上げ(搬送波周波数の高周波信号への変換)がなされて送信信号TSとされる。送信信号TSは、バンドパスフィルタ155によって送信用の通過帯以外の不要成分が除去され、増幅器157によって増幅されて分波器101(送信端子105)に入力される。そして、分波器101は、入力された送信信号TSから送信用の通過帯以外の不要成分を除去し、その除去後の送信信号TSをアンテナ端子103からアンテナ159に出力する。アンテナ159は、入力された電気信号(送信信号TS)を無線信号(電波)に変換して送信する。
また、通信装置151において、アンテナ159によって受信された無線信号(電波)は、アンテナ159によって電気信号(受信信号RS)に変換されて分波器101(アンテナ端子103)に入力される。分波器101は、入力された受信信号RSから受信用の通過帯以外の不要成分を除去して受信端子107を介して増幅器161に出力する。出力された受信信号RSは、増幅器161によって増幅され、バンドパスフィルタ163によって受信用の通過帯以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RSは、RF−IC153によって周波数の引き下げおよび復調がなされて受信情報信号RISとされる。
なお、送信情報信号TISおよび受信情報信号RISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)でよく、例えば、アナログの音声信号もしくはデジタル化された音声信号である。無線信号の通過帯は、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)等の各種の規格に従ったものでよい。変調方式は、位相変調、振幅変調、周波数変調もしくはこれらのいずれか2つ以上の組み合わせのいずれであってもよい。回路方式は、図13では、ダイレクトコンバージョン方式を例示したが、それ以外の適宜なものとされてよく、例えば、ダブルスーパーヘテロダイン方式であってもよい。また、図13は、要部のみを模式的に示すものであり、適宜な位置にローパスフィルタやアイソレータ等が追加されてもよいし、また、増幅器等の位置が変更されてもよい。
以上のとおり、本実施形態では、SAW共振子1は、基板3と、基板3の上面に位置しているIDT電極5と、基板3の上面においてIDT電極5に対してSAWの伝搬方向(D1軸方向)の両側に位置している1対の反射器7とを有している。基板3は、回転YカットLiTaO3板である。IDT電極5は、D1軸方向に配列されている複数の電極指13を有している。1対の反射器7は、D1軸方向に配列されている複数のストリップ電極19を有している。複数のストリップ電極19およびIDT電極5の両端側(端部5e)の電極指13の少なくとも一方は、IDT電極5の中央側(中央部5a)の電極指13よりも厚い厚膜部を有している。また、複数のストリップ電極19のピッチprが中央部5aの電極指13のピッチp0よりも小さい、1対の反射器7とIDT電極5との間のギャップGrが中央部5aの電極指13間のギャップG0よりも小さい、端部5eの電極指13のピッチpeが中央部5aの電極指13のピッチp0よりも小さい、および端部5eの電極指13と中央部5aの電極指13との間のギャップGeが中央部5aの電極指13間のギャップG0よりも小さい、の少なくともいずれか一つが成り立つ。
従って、図3〜図7を参照して説明したように、共振側および反共振側の双方において特性を向上させ、または共振側および反共振側の一方の特性の低下を抑制しつつ他方の特性を向上させることができる。具体的には、pr、Gr、p0およびG0の少なくともいずれか1つを小さくすることによって反共振側の特性を向上させることができる。また、trおよびteの少なくとも一方を厚くすることによって、上記のpr、Gr、p0およびG0のいずれか1つ以上を小さくしたことによる共振側の特性の低下を抑制し、または共振側の特性を向上させることができる。teを厚くする場合は、これにより、共振側だけでなく、反共振側の特性も向上させることができる。
また、本実施形態では、SAW共振子1は、第1導電層21A〜第4導電層21Dを有している。第1導電層21Aは、基板3の上面上に位置している。第2導電層21Bは、第1導電層21A上に位置し、第1導電層21Aとは材料が異なる。第3導電層21Cは、第1導電層21Aと同一の材料からなり、第2導電層21B上に位置している。第4導電層21Dは、第2導電層21Bと同一の材料からなり、第3導電層21C上に位置している。中央部5aの電極指13は、第1導電層21Aおよび第2導電層21Bにより構成されている。端部5eおよび反射器7の厚膜部は、第1導電層21A〜第4導電層21Dにより構成されている。
従って、例えば、CVD(chemical vapor deposition)またはスパッタリング等によって厚膜部を形成するときに、単一の金属材料を厚くする場合に比較して、結晶性および配向性を向上させることができる。その結果、例えば、実際の膜厚、ピッチおよび/またはギャップを設計値に近づけることができる。ひいては、これらの微調整による特性改善の実効性が高くなる。また、例えば、耐電力性を向上させることができる。
また、本実施形態では、例えば、複数のストリップ電極19は、厚膜部を有している(trはt0よりも厚い)。1対の反射器7は、複数のストリップ電極19の端部同士を接続している、ストリップ電極19と同等の厚さのバスバー17をさらに有している。
同様に、本実施形態では、例えば、端部5eの電極指13は、厚膜部を有している(teはt0よりも厚い)。IDT電極5は、複数の電極指13の端部同士を接続しているバスバー11をさらに有している。バスバー11は、端部5eの電極指13の端部同士を接続する部分において電極指13の厚膜部と同等の厚さを有している。
従って、例えば、CVDまたはスパッタリング等によって厚いストリップ電極19および/または電極指13を形成するときに、ストリップ電極19のバスバー17との接続部および/または電極指13のバスバー11との接続部まで確実に厚くすることができる。
本開示の技術は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
反射器のストリップ電極が厚膜部を有する場合において、反射器のバスバーは、厚膜部と同等の厚さとされずに、IDT電極の中央側の電極指と同等の厚さとされてもよい。同様に、IDT電極の端部側の電極指が厚膜部を有する場合において、IDT電極のバスバーは、端部側において厚膜部と同等の厚さとされずに、IDT電極の中央側の電極指と同等の厚さとされてもよい。IDT電極の端部側の電極指と反射器のストリップ電極との双方が厚膜部を有する場合において、両者の厚さは互いに異なっていてもよい。
厚膜部および厚膜部以外の部分は、適宜な数の導電層によって構成されてよい。例えば、厚膜部および厚膜部以外の部分は、いずれも1層によって形成されてもよいし、いずれも2層によって形成され、1層目の厚さが共通で2層目の厚さが互いに異なってもよい。