以下、本発明の実施形態に係るSAW素子(弾性波素子の一例)について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
変形例等の説明において、既に説明された構成と類似する構成については、細部が異なっていても、既に説明された構成に付された符号と同一の符号を用い、また、図示および説明を省略することがある。
同一または類似する構成については、「第1反射器7A」、「第2反射器7B」のように、同一名称に対して互いに異なるアルファベットを付して呼称することがあり、また、この場合において、単に「反射器7」といい、これらを区別しないことがある。
<SAW素子>
(SAW素子の構成)
図1は、本発明の実施形態に係るSAW素子1の構成を示す平面図である。なお、この図は断面図ではないが、図を見やすくするために、ハッチングを適宜に付している。
SAW素子1は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下の説明では、便宜的に、D1軸、D2軸およびD3軸からなる直交座標系を定義し、D3軸の正側(図1の紙面手前側)を上方として、上面等の語を用いることがあるものとする。なお、D1軸は、後述する圧電基板3の上面(紙面手前側の面。通常は主面。)に沿って伝搬するSAWの伝搬方向に平行になるように定義され、D2軸は、圧電基板3の上面に平行かつD1軸に直交するように定義され、D3軸は、圧電基板3の上面に直交するように定義されている。
SAW素子1は、いわゆる1ポートSAW共振子を構成しており、例えば、第1端子51Aおよび第2端子51Bの一方から所定の周波数の電気信号が入力されると共振を生じ、その共振を生じた信号を第1端子51Aおよび第2端子51Bの他方から出力する。なお、端子51は、SAW素子1と他の素子とを接続する配線であってもよい。
このような1ポートSAW共振子としてのSAW素子1は、例えば、圧電基板3と、圧電基板3の上面上に設けられたIDT電極5と、IDT電極5の両側に位置する第1反射器7Aおよび第2反射器7Bと、IDT電極5と反射器7との接続等のための配線21とを有している。
圧電基板3は、例えば、圧電性を有する単結晶からなる。単結晶は、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶またはタンタル酸リチウム(LiTaO3)単結晶である。カット角は、利用するSAWの種類等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、圧電基板3は、回転YカットX伝搬のものである。すなわち、X軸は圧電基板3の上面(D1軸)に平行であり、Y軸は、圧電基板3の上面の法線に対して所定の角度で傾斜している。
IDT電極5、反射器7および配線21は、圧電基板3の上面上に設けられた層状導体によって構成されている。IDT電極5、反射器7および配線21は、例えば、互いに同一の材料および厚さで構成されている。これらを構成する層状導体は、例えば、金属である。金属は、例えば、AlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)である。Al合金は、例えば、Al−Cu合金である。層状導体は、複数の金属層から構成されてもよい。層状導体の厚さは、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。一例として、層状導体の厚さは50nm〜400nmである。
IDT電極5は、第1櫛歯電極9Aおよび第2櫛歯電極9Bを有している。各櫛歯電極9は、互いに対向する2本のバスバー11と、各バスバー11から他のバスバー11側へ互いに並列に延びる複数の電極指13とを有している。1対の櫛歯電極9は、複数の電極指13が互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。なお、各櫛歯電極9は、上記の他、例えば、電極指13間においてバスバー11から他方の櫛歯電極9のバスバー11側へ突出し、他方の櫛歯電極9の電極指13の先端と対向するダミー電極を有していてもよい。
バスバー11は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向(D1軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。そして、一対のバスバー11は、SAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)において互いに対向している。なお、バスバー11は、幅が変化したり、SAWの伝搬方向に対して傾斜したりしていてもよい。
各電極指13は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。複数の電極指13は、例えば、互いに同等の長さおよび幅であり、また、SAWの伝搬方向に概ね一定の間隔で配列されている。なお、IDT電極5は、複数の電極指13の長さ(別の観点では交差幅W)が互いに異なる、いわゆるアポダイズが施されていてもよい。電極指13の本数は、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。なお、図1等は模式図であることから、電極指13の本数は少なく示されている。実際には、図示よりも多くの電極指13が配列されてよい。後述する反射器7のストリップ電極17についても同様である。
第1櫛歯電極9Aの電極指13と第2櫛歯電極9Bの電極指13とは、基本的には、SAWの伝搬方向において交互に配列されている。1対の櫛歯電極9の複数の電極指13のピッチp(例えば電極指13の中心線間の長さ)は、基本的に一定であり、共振させたい周波数でのSAWの波長λの半波長と同等とされている。波長λ(2p)は、例えば、1.5μm〜6μmである。各電極指13の幅は、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定され、例えば、ピッチpに対して0.4p〜0.7pである。
複数の電極指13の一部においては、そのピッチpが相対的に小さくされたり、逆に、ピッチpが相対的に大きくされたりしてもよい。このような狭ピッチ部または広ピッチ部を設けることによって、SAW素子の周波数特性が向上することが知られている。また、種々の目的で、ピッチpが通常のピッチp(λ/2)の整数倍となるいわゆる間引きが行われてもよい。なお、本実施形態において、単にピッチpという場合、特に断りがない限り、上記のような特異な部分(狭ピッチ部、広ピッチ部又は間引き部等)を除いた部分(複数の電極指13の大部分)のピッチpまたはその平均値(いずれも基本的にはλ/2)をいうものとする。
反射器7は、一般的な格子状の反射器を分割したような構成となっている。すなわち、反射器7は、複数の分割反射器15を有しており、各分割反射器15は、SAWの伝搬方向に並べられた所定本数(図示の例では2本)のストリップ電極17と、所定本数のストリップ電極17を接続する接続部19とを有している。
ストリップ電極17は、概して言えば、電極指13と同様の構成である。具体的には、例えば、各ストリップ電極17は、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。反射器7において、複数のストリップ電極17は、例えば、互いに同等の長さおよび幅であり、また、SAWの伝搬方向に概ね一定の間隔で配列されている。ストリップ電極17の長さ(D2軸方向)は、例えば、IDT電極5のバスバー11間の距離と同等とされている。ストリップ電極17の幅およびピッチpは、例えば、IDT電極5の電極指13の幅およびピッチpと同等とされている。また、反射器7のIDT電極5側の端に位置するストリップ電極17と、IDT電極5の反射器7側の端に位置する電極指13との間隔(ピッチ)は、IDT電極5の電極指13のピッチpと同等(またはその概ね整数倍)である。
各反射器7におけるストリップ電極17の合計本数N(以下、単に「合計本数N」ということがある。)は、反射器7に要求される反射率等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、国際公開第2013/002033号では、1本のストリップ電極17における、主共振を発生させる弾性波の反射率をΓ%としたときに、合計本数Nは、100%/Γ%±1本程度の本数で十分であるとしており、合計本数Nの具体例として6〜7本を例示している。また、一般に、合計本数Nが10本以上であれば、弾性波を大体反射でき、合計本数Nが20本以上であれば完全に反射できると考えられている。従って、合計本数Nは、例えば、6本以上であり、より好ましくは、10本以上または20本以上である。また、一般的に合計本数Nは比較的多く、例えば、1ポートSAW共振子では、合計本数Nは30本以上40本以下、多重モード型SAWフィルタでは合計本数Nは50本以上100本以下とされている。本実施形態における合計本数Nは、このような本数とされてもよい。
各分割反射器15におけるストリップ電極17の本数n(以下、「分割本数n」ということがある。)は、2本以上であればよく、また、複数の分割反射器15間で同じでもよいし、異なっていてもよい。図1では、全ての分割反射器15間で分割本数nが同じで、かつ分割本数nが2本である場合を例示している。
接続部19は、例えば、IDT電極5のバスバー11と同様の電極を分割した形状とされている。従って、例えば、接続部19は、概ね矩形状であり、バスバー11と同等の幅(D2軸方向)と、分割本数n(図1では2本)のストリップ電極17の配置範囲に亘る長さ(D1軸方向)とを有している。接続部19は、例えば、ストリップ電極17の両端に設けられている。ただし、接続部19は、例えば、ストリップ電極17の一方の端部のみに設けられてもよい。
分割反射器15の数は、例えば、上述した各反射器7において要求される合計本数Nが満たされるように設定されてよい。例えば、上述したように、概ね全ての分割反射器15間で分割本数nが同じ場合、分割反射器15の数は、合計本数Nを分割本数nで割った数とされてよい。割り切れない場合においては、例えば、割り切れるように合計本数Nを増やしたり、割った余りの数を分割本数nとする分割反射器15を1つ設けたりしてよい。また、後述するように、分割反射器15は、容量素子を構成する電極として機能するから、要求される容量が確保されるように分割反射器15の数が設定されてもよい。この場合、合計本数Nは、例えば、反射に必要な合計本数Nを超えてもよい。図1では、各反射器7において、2本のストリップ電極17を有する3つの分割反射器15を図示しているが、実際には、これよりも多くの分割反射器15が設けられていてもよい。
各反射器7において、複数の分割反射器15は、隣接するもの同士が交互に異なる端子に接続されおり、容量素子である所謂インターディジタル・キャパシタとして機能している。より具体的には、図示の例では、互いに隣接する分割反射器15同士において、ストリップ電極17およびその両端の接続部19が対向しており、容量素子の容量は、これらの長さ(D2軸方向)、厚み(D3軸方向)およびギャップ(D1軸方向)によって規定されている。図示の例では、複数の分割反射器15から形成される容量素子の端子は、IDT電極5の端子である第1端子51Aおよび第2端子51Bに接続されており、電気的にはIDT電極5と並列に接続されているが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、IDT電極5と直列に接続されていてもよいし、別のデバイスと接続されていても良い。
分割反射器15の数が3以上の場合においては、複数の分割反射器15がSAWの伝搬方向における配列に関して交互に(1つ置きに)接続されることによって、容量素子が構成されてもよい。図示の例では、各反射器7における3つの分割反射器15のうち、両側の2つの分割反射器15が互いに接続され、この2つの分割反射器15と、中央の分割反射器15とで、容量素子の1対の電極が構成されている。
容量素子(反射器7)は、例えば、IDT電極5に対して並列に接続されている。すなわち、容量素子の1対の電極のうち一方は、1対の櫛歯電極9の一方に接続され、容量素子の1対の電極のうち他方は、1対の櫛歯電極9の他方に接続されている。
なお、分割反射器15同士の接続および分割反射器15と櫛歯電極9との接続は、例えば、既述の配線21によってなされている。配線21の経路及び幅等は適宜に設定されてよい。
上記のような構成のSAW素子1において、IDT電極5の電極指13によって圧電基板3に電圧が印加されると、圧電基板3の上面付近において上面に沿ってD1軸方向に伝搬するSAWが誘起される。誘起されたSAWは、電極指13によって機械的に反射される。その結果、電極指13のピッチpを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指13によって取り出される。このようにしてSAW素子1は共振子として機能する。
また、IDT電極5において誘起されたSAWは、反射器7のストリップ電極17によって機械的に反射される。また、互いに隣接するストリップ電極17が接続部19によって互いに接続されていることから、IDT電極5からのSAWは、電気的にもストリップ電極17によって反射される。これにより、SAWの発散が抑制され、IDT電極5における定在波が強く立ち、SAW素子1の共振子としての機能が向上する。
なお、特に図示しないが、圧電基板3の上面は、IDT電極5および反射器7の上からSiO2等からなる保護膜によって覆われていてもよい。保護膜は、単にIDT電極5等の腐食を抑制するためのものであってもよいし、温度補償に寄与するものであってもよい。また、保護膜が設けられる場合等において、IDT電極5および反射器7の上面または下面には、SAWの反射係数を向上させるために、絶縁体または金属からなる付加膜が設けられてもよい。
また、SAW素子1を含むSAW装置では、例えば、特に図示しないが、圧電基板3の上面の振動を許容してSAWの伝搬を容易化する空間が圧電基板3上に構成される。この空間は、例えば、圧電基板3の上面に被せられる箱型のカバーを形成することによって、または、回路基板の主面と圧電基板3の上面とをバンプを介在させつつ対向させることによって構成される。
(ストリップ電極の本数の変形例)
図1では、各分割反射器15におけるストリップ電極17の本数nが2本である場合を例示した。しかし、既に述べたように、分割本数nは、2本以上であればよく、例えば、図2(a)に示すように3本でもよいし、図2(b)に示すように4本でもよいし、図2(c)に示すように5本でもよい。
なお、図2(a)〜図2(c)に例示した反射器7は、いずれも、図1と同様に、分割本数nが、概ね全ての分割反射器15同士で同一のものである。また、図2(a)〜図2(c)では、2つの分割反射器15のみを図示しているが、これよりも多くの分割反射器15が設けられてよいこと、分割反射器15の配列方向に関して1つ置きに分割反射器15同士が接続されてよいことも、図1と同様である。
<実施例および比較例>
図1および図2(a)〜図2(c)に示したSAW素子1を実際に作製して、種々の特性を調べた。その結果、複数の分割反射器15からなる反射器7(容量素子)は、反射器としての機能および容量素子としての機能を十分に果たすことが確認された。また、各分割反射器15におけるストリップ電極17の本数nがSAW素子1の特性に及ぼす影響についての知見も得られた。具体的には、以下のとおりである。
実施例および比較例の条件を以下に示す。特に断りが無い限り、後述する実施例および比較例の条件は、下記に示すものである。
圧電基板:
材料:LiTaO3単結晶基板
カット角:42°Yカット−X伝播
IDT電極および反射器に共通の条件:
材料:Al−Cu合金
厚み:160nm
交差幅W:42μm
ピッチp:1.06μm
電極指またはストリップ電極の幅:p×0.5(すなわち0.53μm)
IDT電極:
電極指の本数:200本
反射器:
分割本数n:2、3、4または5本
合計本数N:n=2のときは30本
:n=3のときは30本
:n=4のときは28本
:n=5のときは30本
:比較例のときは30本
容量:n=2のときは0.5pF
n=3のときは0.4pF
各反射器7において、各分割反射器15におけるストリップ電極17の本数nは、複数の分割反射器15同士で同一である。また、反射器7は、各反射器7におけるストリップ電極17の合計本数Nが約30となるようにした。従って、分割本数nが2、3、4または5本のケースで容量は互いに異なっている。
(反射器としての機能の確認)
通常の反射器を有する1ポートSAW共振子(比較例1)と、分割反射器15を含む反射器7を有する1ポートSAW共振子(比較例2〜5)とを作製して、これらの共振子特性を比較した。
比較例1で用いた通常の反射器は、全て(合計本数N)のストリップ電極17が互いに接続されているものである。比較例2〜5それぞれでは、各分割反射器15におけるストリップ電極17の本数nは、2、3、4または5本とされている。
ここで、分割反射器15を含む反射器7(本実施形態の反射器7)を有するSAW共振子も比較例としているのは、複数の分割反射器15同士を互いに接続せず、また、複数の分割反射器15をIDT電極5と接続していないことからである。すなわち、ここでは、分割反射器15を含む反射器7を容量素子として機能させずに、反射器の分割が反射器としての機能に及ぼす影響のみに着目している。
比較例1〜5の概要を以下にまとめる。
比較例1:通常の反射器
比較例2:n=2
比較例3:n=3
比較例4:n=4
比較例5:n=5
図3(a)および図3(b)は、比較例1〜5の共振子特性を示す図である。これらの図において、横軸は周波数(MHz)を示している。図3(a)において縦軸はインピーダンスの絶対値(Ω)を示している。図3(b)において縦軸はインピーダンスの位相(°)を示している。
これらの図において、通常の反射器を有する比較例1の共振子特性を示す線と、本実施形態の反射器7を有する比較例2〜5の共振子特性を示す線とは、ほとんど重なっている。すなわち、反射器を分割本数n毎に分割しても、反射器としての機能が十分に果たされ、ひいては、共振子特性が維持されることが確認された。
図4は、図3(b)の領域IVの拡大図である。
共振点よりも若干高周波側において、比較例2および4を示す線は、比較例1を示す線にほとんど重なっている。一方、比較例3を示す線は、比較例1を示す線よりも若干位相が低くなっている。また、比較例5を示す線は、比較例3ほどではないが、比較例1を示す線よりも若干位相が低くなっている。ここで、共振点よりも高周波側ではインピーダンスの位相が90°に近いほど、共振子の損失は少ない。従って、各分割反射器15におけるストリップ電極17の本数nが奇数本(3本または5本)の場合は、損失が若干生じることが分かった。
(容量素子としての機能の確認)
上述の比較例1に係る1ポートSAW共振子と、各分割反射器15におけるストリップ電極17の本数nを2本とした1ポートSAW共振子(SAW素子1、実施例1)と、比較例1に係る1ポートSAW共振子のIDT電極5に反射器とは別に設けた容量素子を並列接続したもの(比較例6)とを作製して、これらの共振子特性を比較した。
なお、比較例6の容量素子は、IDT電極5と同様に1対の櫛歯電極からなるものとした。ただし、この容量素子は、反射器の外側にあり、IDT電極5におけるSAWの伝搬には影響を及ぼさない。また、比較例6の容量素子の容量は、実施例と同じである。
着目する比較例および実施例の概要を以下にまとめる。
比較例1:容量素子無し
実施例1:反射器が容量素子(n=2)
比較例6:外付けの容量素子
図5(a)および図5(b)は、比較例1、実施例1および比較例6の共振子特性を示す図である。これらの横軸および縦軸の意味は、図3(a)および図3(b)と同様である。
これらの図に示すように、実施例1を示す線と、比較例6を示す線とはほとんど重なっている。従って、分割されて容量素子とされた反射器7は、容量素子として十分に機能することが確認された。
なお、実施例1および比較例6では、容量素子がIDT電極5に並列に接続されることによって、比較例1に比較して反共振点を低周波数側に移動させる作用が生じている。別の観点では、帯域(例えば共振点と反共振点との間の帯域)を調整する作用が生じている。これにより、例えば、SAW素子を用いたSAWフィルタにおいて、より急峻なフィルタ特性を得ることができる。
(分割本数nの影響)
各分割反射器15におけるストリップ電極17の本数nが互いに異なる実施例1〜4に係るSAW素子1を作製して、これらの共振子特性を比較した。実施例1〜4の分割本数nは、2〜5本である。
着目する比較例および実施例の概要を以下にまとめる。
比較例1:容量素子無し
実施例1:n=2
実施例2:n=3
実施例3:n=4
実施例4:n=5
図6(a)および図6(b)は、比較例1、実施例1〜4の共振子特性を示す図である。これらの横軸および縦軸の意味は、図3(a)および図3(b)と同様である。
これらの図から、反共振点の低周波数側への移動量(帯域調整度)は、分割本数nによって異なることが分かる。具体的には、帯域調整度が大きいものから順に、n=2、4、3および5である。別の観点では、分割本数nが偶数本の場合は、分割本数nが奇数本の場合よりも帯域調整度が大きい。
図7(a)は、図6(b)の領域VIaの拡大図である。
この図において、比較例1、実施例1および実施例3は概ね重なっており、また、スプリアスが発生している。一方、これらに比較して、実施例2および実施例4では、スプリアスが低減されており、特に、実施例3ではスプリアスが好適に低減されている。別の観点では、分割本数nが奇数本の場合は、分割本数nが偶数本の場合よりもスプリアスを低減できるという付加的な機能が発現する。
図7(b)は、図6(b)の領域VIbの拡大図である。
図4を参照して説明したように、共振点よりも高周波側では、インピーダンスの位相が90°に近いほど、伝搬損失は小さい。そして、図7(b)において、実施例1〜4は、比較例に比較して、若干伝搬損失が生じている。具体的には、伝搬損失の大きさは、3本≒4本<2本≒5本となっており、n=3または4のときに伝搬損失が小さくなっている。ただし、その差は顕著なものではない。
図8(a)および図8(b)は、分割本数nが偶数本である場合に分割本数nが奇数本である場合よりも帯域調整度が大きいことの一因を説明するための模式図である。
これらの図は、圧電基板3の上面付近における、IDT電極5の電極指13および分割反射器15のストリップ電極17に直交する断面を模式的に示している。図8(a)は、分割本数nが2本の場合を示しており、図8(b)は、分割本数nが3本の場合を示している。電極指13およびストリップ電極17の上方に記載した+および−は、ある瞬間における電極指13およびストリップ電極17における電位の正負を示している。また、その下の波線は、前記の瞬間におけるSAWの変位を示しており、便宜的に山および谷が電極指13に交互に位置するように記載している。SAWの山および谷に付した+および−は、SAWの山および谷に対応すべき電極指13の電位の正負を示している。
いずれの図においても、複数のストリップ電極17は、複数の電極指13のピッチと同一のピッチで複数の電極指13に続いているから、SAWは、複数の電極指13に対して交互に山および谷が位置したように、複数のストリップ電極17に対しても交互に山および谷が位置するように伝搬しようとする。しかし、各分割反射器15において、ストリップ電極17は隣接するもの同士で接続されていることから、ストリップ電極17は、電極指13とは異なり、SAWの山および谷に対して交互に電位が変化する関係とはならない。その結果、先に言及した電気的な反射が生じる。
ただし、分割反射器15間においては、電位差が生じる。例えば、図8(a)の範囲R1においては、分割反射器15間において電位差が生じ、ストリップ電極17間に電圧が印加される。また、範囲R2においても、分割反射器15間において電位差が生じ、ストリップ電極17間に電圧が印加される。ただし、図から分かるように、その電圧の極性とSAWの山および谷との関係は、範囲R1と範囲R2で逆になっている。このため、反射器内でのSAWの励振効果は相殺され、反射器の電極指全体が同電位にショートされている通常の反射器と同様に振舞う。ただし、分割反射器15間の容量は発生するため、反共振点を低周波側へ移動させる効果が発現する。
同様に、n=3の場合も範囲R3と範囲R4で分割反射器15間において電位差が生じる。ただし、その電圧の極性とSAWの山および谷との関係は、範囲R3と範囲R4で同じなっている。このため、反射器内でも若干のSAWの励振効果が生じる。これが原因で反共振点を高周波側へ移動させる効果が生じ、分割反射器15間の容量が反共振点を低周波側へ移動させる効果が弱められると推定される。なお、この機構の副作用として、分割本数nが奇数本の場合は共振点よりも低周波側のスプリアスを低減できるという効果が発現すると考えられる。
言い換えると、図8(a)に示す場合には、IDT電極側から数えて一つめの分割反射器にSAWが伝搬するときの、分割反射器の電位とSAWの位相との組み合わせと、次の分割反射器にSAWが伝搬するときの、分割反射器の電位とSAWの位相との組み合わせと、が異なるため、反射器内でのSAWの励振は抑制される。これに対して、図8(b)に示す例では、IDT電極側から数えて一つめの分割反射器にSAWが伝搬するときの、分割反射器の電位とSAWの位相との組み合わせと、次の分割反射器にSAWが伝搬するときの、分割反射器の電位とSAWの位相との組み合わせとが同じになるため、IDT部と同じ位相関係のSAWが反射器内でも励振されることとなる。
別の観点では、n=2の場合は、反射器はあたかもピッチがIDT13の2倍のIDTのような構成に見える。このため、共振周波数の1/2の周波数域に小さな共振を生じる。ただし、この共振が、IDT13の共振に影響を与えることはない。n=3の場合は、反射器はあたかもピッチがIDT13の3倍のIDTのような構成に見える。このため、共振周波数の1/3の周波数域に小さな共振を生じる。この共振の3次共振はIDT13の共振周波数と等しくなり、IDT13の共振に影響を与える。この影響が、前述した反共振点を低周波側へ移動させる効果が弱くなることと、共振点よりも低周波側のスプリアスが低減されるという効果になると考えられる。
<SAW素子の利用例>
図9は、SAW素子1の利用例としての分波器101を示す模式図である。
分波器101は、例えば、送信端子105からの送信信号をフィルタリングしてアンテナ端子103へ出力する送信フィルタ109と、アンテナ端子103からの受信信号をフィルタリングして1対の受信端子107に出力する受信フィルタ111とを有している。
送信フィルタ109は、例えば、ラダー型フィルタによって構成されている。すなわち、複数のSAW素子1が直列に接続されるとともに並列に接続されている。なお、複数のSAW素子1を構成するIDT電極5および1対の反射器7は、例えば、同一の圧電基板3に設けられている。
受信フィルタ111は、例えば、互いに直列に接続されたSAW素子1およびSAW素子201によって構成されている。これらを構成するIDT電極5および1対の反射器7は、例えば、同一の圧電基板3に設けられている。この圧電基板3は、送信フィルタ109が構成される圧電基板3と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
SAW素子201は、例えば、縦結合多重モード(2重モードを含むものとする)型SAWフィルタであり、SAWの伝搬方向に配列された複数のIDT電極5と、その両側に配置された1対の反射器207とを有している。反射器207は、例えば、分割されていない通常の格子状の反射器によって構成されている。ただし、反射器207に代えて、複数の分割反射器15を含む反射器7が設けられてもよい。
図10は、分波器101を有する通信装置151の要部を示すブロック図である。通信装置151は、電波を利用した無線通信を行うものである。
通信装置151において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF−IC(Radio Frequency Integrated Circuit)153によって変調および周波数の引き上げ(搬送波周波数の高周波信号への変換)がなされて送信信号TSとされる。送信信号TSは、バンドパスフィルタ155によって送信用の通過帯以外の不要成分が除去され、増幅器157によって増幅されて分波器101(送信端子105)に入力される。そして、分波器101は、入力された送信信号TSから送信用の通過帯以外の不要成分を除去し、その除去後の送信信号TSをアンテナ端子103からアンテナ159に出力する。アンテナ159は、入力された電気信号(送信信号TS)を無線信号(電波)に変換して送信する。
また、通信装置151において、アンテナ159によって受信された無線信号(電波)は、アンテナ159によって電気信号(受信信号RS)に変換されて分波器101に入力される。分波器101は、入力された受信信号RSから受信用の通過帯以外の不要成分を除去して増幅器161に出力する。出力された受信信号RSは、増幅器161によって増幅され、バンドパスフィルタ163によって受信用の通過帯以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RSは、RF−IC153によって周波数の引き下げおよび復調がなされて受信情報信号RISとされる。
なお、送信情報信号TISおよび受信情報信号RISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)でよく、例えば、アナログの音声信号もしくはデジタル化された音声信号である。無線信号の通過帯は、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)等の各種の規格に従ったものでよい。送信用の通過帯と、受信用の通過帯とは、通常、互いに重なっていない。変調方式は、位相変調、振幅変調、周波数変調もしくはこれらのいずれか2つ以上の組み合わせのいずれであってもよい。回路方式は、図10では、ダイレクトコンバージョン方式を例示したが、それ以外の適宜なものとされてよく、例えば、ダブルスーパーヘテロダイン方式であってもよい。また、図10は、要部のみを模式的に示すものであり、適宜な位置にローパスフィルタやアイソレータ等が追加されてもよいし、また、増幅器等の位置が変更されてもよい。
以上のとおり、本実施形態では、SAW素子1は、圧電基板3と、IDT電極5と、反射器7とを有している。IDT電極5は、圧電基板3の上面にてSAWの伝搬方向に配列されている複数の電極指13を有している。反射器7は、圧電基板3の上面にて複数の電極指13のピッチと同一のピッチでSAWの伝搬方向に配列されている複数のストリップ電極17を有しており、IDT電極5に対してSAWの伝搬方向に隣接している。また、反射器7は、複数のストリップ電極17のうちSAWの伝搬方向に連続している2本以上のストリップ電極17が互いに接続されてなる分割反射器15を2以上含んでおり、少なくとも2つの分割反射器15がSAWの伝搬方向に互いに隣接して容量素子を構成している。さらに、反射器7は、3つ以上の分割反射器15を含み、および/または、3本以上のストリップ電極17からなる分割反射器15がIDT電極5に隣接している。
従って、例えば、反射器7を容量素子として機能させることができる。その一方で、ストリップ電極17は、SAWの伝搬方向に連続して配列されているもの同士で接続されていることから、電気的な反射も好適に行うことができる。すなわち、反射器7は、反射器としての機能を十分に果たすことができる。また、例えば、ストリップ電極17(および接続部19)の長さに亘って、平行平板型の容量素子として機能する部分を確保することができ、電極指の先端とバスバーとを容量素子として利用する場合に比較して、容量を確保することが容易である。
なお、従来のSAW共振子においても、反射器を分割する意図は無いにも関わらず、IDT電極と反射器との間に、2本の同電位の電極指が介在することがあり、この2本の電極指が分割反射器の2本のストリップ電極として機能する可能性がある。しかし、このような場合であっても、3つ以上の分割反射器15が構成されたり、IDT電極と反射器との間で3本以上の同電位の電極指が介在したりすることはない。
また、本実施形態では、容量素子(本実施形態では反射器7の全体)における全ての分割反射器15は、偶数本(0本を除く。例えば2本または4本。)のストリップ電極17が接続されてなるものであってもよい。別の観点では、容量素子において、偶数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15の数が奇数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15の数(0を含む)よりも多くてもよい。
この場合、図6(b)を参照して説明したように、反共振点の低周波数側への移動量を大きくできる。また、図8を参照して説明したように、IDT電極5に隣接する分割反射器15におけるストリップ電極17の数が偶数であれば、移動量が特に大きくなる。
なお、反射器7またはその反射器に含まれる容量素子において、奇数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15が混じっても、その数よりも偶数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15の数が多ければ、偶数本のときの特性が現れやすい。また、偶数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15のストリップ電極17の合計が、反射器7またはその反射器に含まれる容量素子の全てのストリップ電極17の数に占める割合が半分を超える場合においても、偶数本のときの特性が現れやすい。また、反射器として重要な、IDT電極5から10本のストリップ電極17が、偶数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15のものであれば、偶数本のときの特性が現れやすい。
また、本実施形態では、容量素子(本実施形態では反射器7の全体)における全ての分割反射器15は、奇数本(1本を除く。例えば3本または5本。)のストリップ電極17が接続されてなるものであってもよい。別の観点では、容量素子において、奇数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15の数が偶数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15の数(0を含む)よりも多くてもよい。
この場合、図7(a)を参照して説明したように、共振点の低周波数側のスプリアスを低減することができる。
なお、反射器7またはその反射器に含まれる容量素子において、偶数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15が混じっても、その数よりも奇数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15の数が多ければ、奇数本のときの特性が現れやすい。また、奇数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15のストリップ電極17の合計が、反射器7またはその反射器に含まれる容量素子の全てのストリップ電極17の数に占める割合が半分を超える場合においても、奇数本のときの特性が現れやすい。また、反射器として重要な、IDT電極5から10本のストリップ電極17が、奇数本のストリップ電極17が接続されてなる分割反射器15のものであれば、奇数本のときの特性が現れやすい。
(反射器の変形例)
図11(a)〜図11(c)および図12(a)〜図12(c)は、反射器7(分割反射器15)の変形例を示す平面図である。なお、図11、図12は、変形例の特徴部分を抽出したものであり、図示していない部分に容量素子として機能する更なる分割反射器15を備えていてもよい。
図11(a)〜図11(c)に示すように、各分割反射器15におけるストリップ電極17の本数nは、分割反射器15同士で互いに異なっていてもよい。
この場合において、図11(a)に示すように、分割本数nが絶対的に多い(例えば6本以上)分割反射器15が、分割本数nが絶対的に少ない(例えば5本以下)の分割反射器15の外側(IDT電極5とは反対側)に位置してもよい。別の観点では、分割本数nが他の分割反射器15に比較して相対的に多い分割反射器15が前記の他の分割反射器15よりも外側に位置してもよい。さらに別の観点では、前記の分割本数nが絶対的にまたは相対的に多い分割反射器15が反射器7において最も外側に位置してもよい。
また、上記とは逆に、図11(b)に示すように、分割本数nが絶対的に多い(例えば6本以上)分割反射器15が、分割本数nが絶対的に少ない(例えば5本以下)の分割反射器15の内側(IDT電極5側)に位置してもよい。別の観点では、分割本数nが他の分割反射器15に比較して相対的に多い分割反射器15が前記の他の分割反射器15よりも内側に位置してもよい。さらに別の観点では、前記の分割本数nが絶対的にまたは相対的に多い分割反射器15が反射器7において最も内側に位置してもよい。
図11(a)および図11(b)のいずれの変形例においても、例えば、分割数(分割反射器15の数)が少なくても、要求された容量が確保できた場合に、分割本数nが多い分割反射器15を設けることにより、必要以上に容量が大きくなることを抑制しつつ、通常の反射器を設けたときと同様の共振子特性を得やすくなる。
また、図11(a)の変形例では、例えば、分割本数nが少ない分割反射器15がIDT電極5に隣接または相対的に近いことによる効果を得ることができる。例えば、分割本数nが奇数のときにおいては、図7で説明したようなスプリアスの抑制効果を得ることができる。一方、図11(b)の変形例では、例えば、分割本数nが多い分割反射器15をIDT電極5に隣接または相対的に近づけて、SAW素子1の特性を通常の反射器を用いた場合のSAW素子の特性に近づけることができる。
分割反射器15のうち少なくとも互いに隣接する3つが容量素子8を構成すればよく、図11(b)に示すように、残りの分割反射器15は、例えば、電気的に浮遊状態とされていてもよい。容量素子8を構成する分割反射器15のいずれにも基準電位が付与されない態様においては、容量素子8を構成しない分割反射器15には基準電位が付与されてもよい。なお、図11(b)では、反射器7において内側に位置し、かつ分割本数nが絶対的または相対的に多い分割反射器15が、容量素子8を構成しない分割反射器とされているが、容量素子8を構成しない分割反射器は、反射器7において外側に位置し、および/または、分割本数nが絶対的もしくは相対的に少ない分割反射器15であってもよい。
図11(c)に示すように、分割本数nが2本以上5本以下の分割反射器15を適宜に組み合わせてもよい。例えば、図11(c)では、分割本数nは、IDT電極5側から順に2本、3本および2本とされている。このような構成においては、例えば、2本のときのメリットと3本のときのメリットとを組み合わせることができる。
図12(a)〜図12(c)に示すように、容量素子を構成する分割反射器15のSAWの伝搬方向に直交する方向の長さは、IDT電極5のSAWの伝搬方向に直交する方向の長さよりも長くてもよいし(図12(a)および図12(c))、短くてもよい(図12(b))。ただし、分割反射器15がSAWの伝搬方向に直交する方向において短い場合においては、SAWの漏れが生じないように、ストリップ電極17の長さが交差幅W(アポダイズが施されているときは例えば反射器7に隣接する位置における交差幅W)以上であることが好ましい。
また、分割反射器15の、SAWの伝搬方向に直交する方向の長さの調整は、ストリップ電極17の長さの調整によってなされてもよいし(図12(a)および図12(b))、接続部19の長さの調整によってなされてもよいし(図12(c))、これらの組み合わせによってなされてもよい。
図12(a)〜図12(c)のいずれも、例えば、反射器7の容量を調整するために、図示したような長さとされてよい。なお、図11(a)〜図11(c)のように分割数の調整によって容量を調整する場合、容量の変化は段階的なものとなる。一方、図12(a)〜図12(c)のように分割反射器15の、SAWの伝搬方向に直交する方向の長さによって容量を調整する場合、容量の変化は連続的なものとなる。容量の調整に際しては、両者の調整方法が適宜に選択または組み合わされてよい。
ここで、図11に示す例のように、分割反射器15のうち容量素子とし機能するものが反射器7の中のどの部分に位置するかを異ならせた場合の共振子特性への影響を調査するために、比較例1と実施例5,6の共振子特性を図13に示した。
具体的には、実施例5は、30本のストリップ電極を備える反射器7のうち、IDT電極5に隣接する10本を、2本ずつの分割反射器15を5個形成するようにした。残りの20本は、容量素子を構成しない1個の分割反射器15で構成した。実施例6は、IDT電極5と最も離れた外側の10本を、2本ずつの分割反射器15を5個形成するようにした。残りの20本は、容量素子を構成しない1個の分割反射器15で構成した。
図13(a)および図13(b)は、比較例1、実施例5,6の共振子特性を示す図である。これらの図において、横軸は周波数(MHz)を示している。図13(a)において縦軸はインピーダンスの絶対値(Ω)を示している。図13(b)において縦軸はインピーダンスの位相(°)を示している。
これらの図において、実施例5,6は、通常の反射器を有する比較例1に比べ、反共振点を低周波数側に移動させる作用が生じている。別の観点では、帯域(例えば共振点と反共振点との間の帯域)を調整する作用が生じている。これにより、例えば、SAW素子を用いたSAWフィルタにおいて、より急峻なフィルタ特性を得ることができる。また、実施例5,6の共振子特性は、比較例1の共振子特性と比べてロスが悪化することもない。このことから、容量素子とし機能する分割反射器と、容量素子として機能しない分割反射器とを混在させても共振子特性を悪化させることがないことを確認した。
また、実施例5,6の共振子特性を示す線は殆ど重なっている。このことから、容量素子とし機能する分割反射器の配置位置を適宜変更しても共振子特性を悪化させることがないことを確認した。
なお、分割反射器を接続する接続線の長さが異なるため、容量素子とし機能する分割反射器の配置位置を異ならせることでインピーダンス調整を行なうこともできる。
次に、図12に示す例のように、分割反射器の長さを異ならせた場合の共振子特性への影響を調査するために、比較例1と実施例1と実施例7との共振子特性を図14に示した。具体的には、実施例7は、基本構成は実施例1と同様であるが、反射器を構成するストリップ電極の長さを通常の42μmから24μmだけ幅広にした。これにより、実施例7の容量素子として機能する分割反射器で構成される容量は、実施例1の場合の約1.5倍となる。
図14(a)および図14(b)は、比較例1、実施例1,7の共振子特性を示す図である。これらの図において、横軸は周波数(MHz)を示している。図14(a)において縦軸はインピーダンスの絶対値(Ω)を示している。図14(b)において縦軸はインピーダンスの位相(°)を示している。
これらの図において、実施例7は、実施例1や通常の反射器を有する比較例1に比べ、反共振点を低周波数側に移動させる作用が生じている。別の観点では、帯域(例えば共振点と反共振点との間の帯域)を調整する作用が生じている。これにより、例えば、SAW素子を用いたSAWフィルタにおいて、より急峻なフィルタ特性を得ることができる。
このように、実施例7によれば、大きく容量を調整することができる。また、SAWの伝搬方向において共振子サイズを小さくする必要がある場合にも、分割共振子の長さを調整することで、小型化と帯域調整とを両立させることができる。
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
弾性波素子は、IDT電極および反射器を有するものであればよく、SAW素子に限定されない。例えば、弾性波素子は、バルク波素子であってもよいし、弾性境界波(ただし、広義のSAWに含まれる)素子であってもよい。また、弾性波素子は、1ポートSAW共振子に限定されず、例えば、実施形態で言及した縦結合多重モード型フィルタであってもよいし、横結合多重モード型フィルタであってもよい。
反射器に含まれる容量素子は、当該反射器が隣接するIDT電極に並列に接続されるのではなく、隣接するIDT電極に直列に接続されてもよい。また、反射器に含まれる容量素子は、当該反射器が隣接するIDT電極とは別のIDT電極(別の弾性波素子)に接続されたり、IDT電極に接続される用途とは全く別の用途に利用されたりしてもよい。いずれにせよ、反射器が容量素子として利用されることによって、例えば、電子部品の小型化が図られる。
反射器は、分割反射器同士の対向によって構成される容量素子に、他の容量素子が組み合わされてもよい。例えば、分割反射器は、ストライプ電極の両端に位置する1対の接続部の一方と、ストライプ電極の先端とを対向させて構成される容量素子(特許文献2参照)が組み合わされてもよい。また、弾性波の伝搬方向に直交する方向における反射器の外側に、分割反射器の接続部に対して対向する電極を設けて、当該電極と接続部とで容量素子が構成されてもよい。反射器は、容量素子だけでなく、例えば、ミアンダ型のコイルを構成してもよい。
分割反射器とIDT電極との接続は、IDT電極のバスバーと分割反射器の接続部とを接続することによって行ったり、IDT電極の電極指または分割反射器のストライプ電極を利用して行ったりしてもよい。なお、この場合、IDT電極と反射器との境界において、弾性波の伝搬方向に直交する方向に延びる電極が、電極指およびストライプ電極のいずれであるかの区別については、例えば、同一の電位の2以上の電極が弾性波の伝搬方向に続けば、ストライプ電極と判断してよい。
反射器は、IDT電極に隣接している(両者の間に弾性波の伝搬を阻害する部材(電極等)が介在していない)が、この隣接の間隔は、実施形態においても言及したように、電極指のピッチに限定されず、当該ピッチの整数倍であってもよい。また、分割反射器同士の間隔または各分割反射器内のストリップ電極のピッチについても、電極指のピッチの整数倍となる部分があってもよい。
また、圧電基板として厚みが1μm〜30μmの薄いものを用いて、その裏面に圧電基板よりも線膨張係数の小さな材料からなる基板を支持基板として貼り合せてもよい。支持基板の材料としては、サファイアやシリコン基板を用いることができる。