以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
第2実施形態以降において、既に説明した実施形態の構成と同一または類似する構成については、既に説明した実施形態の構成に付した符号と同一の符号を付すことがあり、また、説明を省略することがある。
同一または類似する構成については、「第1櫛歯電極11A」、「第2櫛歯電極11B」のように、同一名称に対して互いに異なるアルファベットを付して呼称することがあり、また、この場合において、単に「櫛歯電極11」といい、これらを区別しないことがある。
<第1実施形態>
(基本形のSAW共振子の構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係るSAWフィルタ51(図2(c))に用いられる基本形のSAW共振子1(SAW共振子の典型例)の構成を示す平面図である。
SAW共振子1(SAWフィルタ51)は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下の説明では、便宜的に、D1軸、D2軸およびD3軸からなる直交座標系を定義し、D3軸の正側(図1の紙面手前側)を上方として、上面等の語を用いることがあるものとする。なお、D1軸は、後述する圧電基板3の上面(紙面手前側の面。通常は主面。)に沿って伝搬するSAWの伝搬方向に平行になるように定義され、D2軸は、圧電基板3の上面に平行かつD1軸に直交するように定義され、D3軸は、圧電基板3の上面に直交するように定義されている。
SAW共振子1は、いわゆる1ポートSAW共振子を構成しており、例えば、模式的に示す第1端子31Aおよび第2端子31Bの一方から所定の周波数の電気信号が入力されると共振を生じ、その共振を生じた信号を第1端子31Aおよび第2端子31Bの他方から出力する。
このような1ポートSAW共振子としてのSAW共振子1は、例えば、圧電基板3と、圧電基板3上に設けられた共振子電極部5とを有している。共振子電極部5は、IDT電極7と、IDT電極7の両側に位置する1対の反射器9とを有している。
圧電基板3は、例えば、圧電性を有する単結晶からなる。単結晶は、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶またはタンタル酸リチウム(LiTaO3)単結晶である。カット角は、利用するSAWの種類等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、圧電基板3は、回転YカットX伝搬のものである。すなわち、X軸は圧電基板3の上面(D1軸)に平行であり、Y軸は、圧電基板3の上面の法線に対して所定の角度で傾斜している。なお、圧電基板3は、比較的薄く形成され、裏面(D3軸負側の面)に無機材料または有機材料からなる支持基板が貼り合わされたものであってもよい。
IDT電極7および反射器9は、圧電基板3上に設けられた層状導体によって構成されている。IDT電極7および反射器9は、例えば、互いに同一の材料および厚さで構成されている。これらを構成する層状導体は、例えば、金属である。金属は、例えば、AlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)である。Al合金は、例えば、Al−Cu合金である。層状導体は、複数の金属層から構成されてもよい。層状導体の厚さは、SAW共振子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。一例として、層状導体の厚さは50nm〜400nmである。
IDT電極7は、第1櫛歯電極11A(視認性をよくする便宜上ハッチングを付す)および第2櫛歯電極11Bを有している。各櫛歯電極11は、バスバー13と、バスバー13から互いに並列に延びる複数の電極指15と、複数の電極指15の間にてバスバー13から突出する複数のダミー電極17とを有している。1対の櫛歯電極11は、複数の電極指15が互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。すなわち、1対の櫛歯電極11の2本のバスバー13は互いに対向して配置され、第1櫛歯電極11Aの電極指15と第2櫛歯電極11Bの電極指15とはその幅方向に基本的に交互に配列されている。また、一方の櫛歯電極11の複数のダミー電極は、その先端が他方の櫛歯電極11の電極指15の先端と対向している。
バスバー13は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向(D1軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。そして、一対のバスバー13は、SAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)において互いに対向している。なお、バスバー13は、幅が変化していたり、SAWの伝搬方向に対して傾斜していたりしてもよい。
各電極指15は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。複数の電極指15は、例えば、SAWの伝搬方向に配列されており、また、互いに同等の長さである。なお、IDT電極7は、複数の電極指15の長さ(別の観点では交差幅)が伝搬方向の位置に応じて変化する、いわゆるアポダイズが施されていてもよい。
電極指15の本数は、SAW共振子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。なお、図1等は模式図であることから、電極指15の本数は少なく示されている。実際には、図示よりも多く(例えば100本以上)の電極指15が配列されてよい。後述する反射器9のストリップ電極21についても同様である。
複数の電極指15のピッチp(電極指ピッチ)は、例えば、IDT電極7全体に亘って概ね一定とされている。なお、ピッチpは、例えば、互いに隣り合う2本の電極指15(または後述するストリップ電極21)の中心間距離である。ピッチpは、基本的に、圧電基板3上を伝搬するSAWのうち共振させたい周波数と同等の周波数を有するSAWの波長λの半分(p=λ/2)とされている。
複数のダミー電極17は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に突出する長尺状に形成されている。その先端と複数の電極指15の先端とのギャップは、例えば、複数のダミー電極17間で同等である。複数のダミー電極17の幅、本数およびピッチは、複数の電極指15と同等である。
なお、IDT電極7は、ダミー電極17を有さないものであってもよい。以下の説明では、ダミー電極17の説明および図示を省略する。
反射器9は、例えば、格子状に形成されている。すなわち、反射器9は、互いに対向する1対のバスバー19と、1対のバスバー19間において延びる複数のストリップ電極21とを有している。
バスバー19およびストリップ電極21の形状は、ストリップ電極21の両端が1対のバスバー19に接続されていることを除いては、IDT電極7のバスバー13および電極指15と同様とされてよい。
例えば、バスバー19は、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向(D1軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。各ストリップ電極21は、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。また、複数のストリップ電極21は、例えば、SAWの伝搬方向に配列されており、また、互いに同等の長さである。複数のストリップ電極21の幅およびピッチは、例えば、複数の電極指15の幅およびピッチと同等である。
複数のストリップ電極21の本数は、例えば、利用を意図しているモードのSAWの反射率が概ね100%以上となるように設定されている。その理論的な必要最小限の本数は、例えば、数本〜10本程度であり、通常は、余裕を見て20本以上または30本以上とされている。
1対の反射器9は、例えば、SAWの伝搬方向においてIDT電極7の両側に隣接している。従って、複数のストリップ電極21は、複数の電極指15の配列に続いて配列されている。反射器9とIDT電極7との間で互いに隣接するストリップ電極21と電極指15とのピッチは、例えば、複数の電極指15のピッチと同等である。
なお、特に図示しないが、圧電基板3の上面は、IDT電極7および反射器9の上から、SiO2等からなる保護膜によって覆われていてもよい。保護膜は、単にIDT電極7等の腐食を抑制するためのものであってもよいし、温度補償に寄与するものであってもよい。また、保護膜が設けられる場合等において、IDT電極7および反射器9の上面または下面には、SAWの反射係数を向上させるために、絶縁体または金属からなる付加膜が設けられてもよい。
また、SAW共振子1を含むSAW装置では、例えば、特に図示しないが、圧電基板3の上面の振動を許容してSAWの伝搬を容易化する空間が圧電基板3上に構成される。この空間は、例えば、圧電基板3の上面に被せられる箱型のカバーを形成することによって、または、回路基板の主面と圧電基板3の上面とをバンプを介在させつつ対向させることによって構成される。
1対の櫛歯電極11に電圧が印加されると、電極指15によって圧電基板3に電圧が印加され、圧電基板3の上面付近において上面に沿ってD1軸方向に伝搬する所定のモードのSAWが励起される。励起されたSAWは、電極指15によって機械的に反射される。その結果、電極指15のピッチを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指15によって取り出される。このようにしてSAW共振子1は共振子として機能する。その共振周波数は、電極指ピッチを半波長として圧電基板3上を伝搬するSAWの周波数と概ね同一の周波数である。
IDT電極7において励起されたSAWは、反射器9のストリップ電極21によって機械的に反射される。また、互いに隣接するストリップ電極21がバスバー19によって互いに接続されていることから、IDT電極7からのSAWは、電気的にもストリップ電極21によって反射される。これにより、SAWの発散が抑制され、IDT電極7における定在波が強く立ち、SAW共振子1の共振子としての機能が向上する。
なお、本実施形態の説明において共振周波数という場合においては、上記のような、意図した周期およびモードのSAWによって生じる共振(主共振)の周波数を指し、いわゆるスプリアスまたは副共振の周波数は指さない。
共振周波数には、厳密には、電極指ピッチだけでなく、電極指15の厚さおよびデューティー比(電極指ピッチに対する電極指15の幅の比)等のパラメータも影響する。ただし、以下において、IDT電極7間における共振周波数の関係について言及するとき、特に断りがない限り、複数のIDT電極7(または複数のSAW共振子1)間では、電極指ピッチ以外の条件は同一であるものとする。例えば、複数のIDT電極7間で共振周波数が同等という場合、特に断りが無い限り、複数のIDT電極7間で電極指ピッチは同等である。
IDT電極7は、特性の向上または微調整のために、その一部(例えば電極指ピッチの総数の5%未満)に、大部分の電極指ピッチとは異なる大きさの電極指ピッチが設定されることがある。例えば、IDT電極7は、SAWの伝搬方向の両側に、他の大部分よりも電極指ピッチが小さい狭ピッチ部が設けられることがある。また、例えば、交互に配列されている1対の櫛歯電極11の電極指15を1〜3本程度無くす、またはこれと実質的に等価な電極指15の幅または配列の変更を行う、いわゆる間引きが行われることがある。このような場合においては、複数のIDT電極7(複数のSAW共振子1)間で電極指ピッチが同等という場合(例えば後述する付加IDT電極部(8F等)と並列腕IDT電極部(8P等)とで電極指ピッチが同等という場合)、大部分の電極指ピッチが同等であればよいものとする。例えば、各IDT電極7の電極指ピッチの総数の95%以上について、IDT電極7同士で電極指ピッチが同等であればよい。
また、IDT電極は、特性の向上または微調整のために、電極指ピッチが互いに若干(例えば3%未満程度で)異なり、それぞれ比較的多くの電極指を有する複数の領域が設けられることもある。このような態様については、1つの共振点が現れる態様と、複数の共振点が現れる態様とがある。後者の場合において、IDT電極7間で共振周波数が同等という場合(例えば後述する付加IDT電極部(8F等)と並列腕IDT電極部(8P等)とで共振周波数が同等という場合)、最も支配的な共振点の周波数が比較されてよい。最も支配的な共振点は、例えば、最もインピーダンスの絶対値が低い共振点である。
IDT電極7間で共振周波数が同等といっても、IDT電極7の寸法の公差等に起因して多少の差があってもよいことは当然である。許容される差は、例えば、SAW共振子1に要求される仕様等に応じて決定される。
(SAWフィルタ)
図2(a)〜図2(c)は、比較例1、比較例2および第1実施形態に係るSAWフィルタの構成を模式的に示す平面図である。以下では、まず、比較例1および比較例2に係るSAWフィルタについて説明し、次に、本実施形態に係るSAWフィルタについて説明する。
(比較例1のSAWフィルタ)
図2(a)に示す比較例1に係るSAWフィルタ41は、公知の一般的なラダー型フィルタである。このSAWフィルタ41は、第1端子31Aと第2端子31Bとを接続する直列腕43Sと、直列腕43Sと基準電位部33とを接続する並列腕43Pとを有している。直列腕43Sは、直列腕共振子1Sを有している。並列腕43Pは、並列腕共振子1Pを有している。
なお、直列腕43Sは、互いに直列に接続された複数の直列腕共振子1Sを有していてよく、また、SAWフィルタ41は、直列腕43Sの互いに異なる位置と基準電位部33とを互いに並列に接続する複数の並列腕43P(別の観点では並列腕共振子1P)を有していてもよい。
ただし、ここでは、1つの直列腕共振子1Sおよび1つの並列腕共振子1Pからなる、1段型のラダー型フィルタを例にとって説明するものとする。
直列腕共振子1Sおよび並列腕共振子1Pは、例えば、図1を参照して説明した基本形のSAW共振子1と同様の構成である。すなわち、直列腕共振子1Sおよび並列腕共振子1P(ならびに後述する他のSAW共振子1)それぞれは、圧電基板3と、圧電基板3上に設けられた共振子電極部5(IDT電極7および反射器9)とを有している。
直列腕共振子1Sおよび並列腕共振子1Pは、同一の圧電基板3に設けられている。別の観点では、直列腕共振子1Sおよび並列腕共振子1Pは、圧電基板3の一部と、その上に設けられた共振子電極部5とを有しており、その配置範囲は共振子電極部5によって規定されている。なお、以下では、便宜上、共振子の用語を共振子電極部の用語と同義で用いることがある。
直列腕共振子1Sは、IDT電極7からなる直列腕IDT電極部8Sと、その両側に位置しており、1対の反射器9と同様の1対の直列腕反射器9Sとを有している。また、並列腕共振子1Pは、IDT電極7からなる並列腕IDT電極部8Pと、その両側に位置しており、1対の反射器9と同様の1対の並列腕反射器9Pとを有している。
比較例1では、IDT電極部8とIDT電極7とは同一のものである。ただし、後述する実施形態で示すように、IDT電極部8は、2以上のIDT電極7によって構成されてもよいことから、IDT電極部の用語を用いている。
直列腕共振子1Sは、第1端子31Aと第2端子31Bとの間に接続されている。すなわち、1対の櫛歯電極11のうち一方が第1端子31Aと接続され、1対の櫛歯電極11のうち他方が第2端子31Bと接続されている。
並列腕共振子1Pは、直列腕共振子1Sの第1端子31A側または第2端子31B側と、基準電位部33との間に接続されている。すなわち、1対の櫛歯電極11のうち一方が直列腕共振子1Sの1対の櫛歯電極11のいずれか一方と接続され、1対の櫛歯電極11のうち他方が基準電位部33と接続されている。
なお、図示の例では、端子31、基準電位部33、直列腕共振子1Sおよび並列腕共振子1Pの接続は、模式的に示した配線によってなされている。ただし、これらの接続は、例えば、バスバー13同士が直接に接続されることなどによってなされていてもよい。また、逆に、抵抗またはインダクタ等の適宜な電子素子が介在してもよい。後述する他のSAW共振子1の接続についても同様である。
直列腕共振子1Sおよび並列腕共振子1Pは、直列腕共振子1Sの共振周波数に並列腕共振子1Pの反共振周波数が概ね一致するように、電極指ピッチおよび容量等が設定される。そして、並列腕共振子1Pの共振周波数と直列腕共振子1Sの反共振周波数との間の周波数範囲が概ね通過帯域となる。
なお、複数の並列腕共振子1Pを設けるラダー型フィルタにおいては、並列腕共振子1Pと同様に直列腕43Sと基準電位部33とを接続するように配置され、かつ並列腕共振子1Pとは異なり、共振周波数が通過帯域よりも高い共振子が設けられることがある。本実施形態の説明等において、ラダー型フィルタの並列腕共振子または単に並列腕共振子という場合、そのような、共振周波数が通過帯域に対して高周波側に位置する共振子は除くものとする。
端子31および基準電位部33は、例えば、圧電基板3上に設けられた導体層によって構成されている。なお、第1端子31Aおよび第2端子31Bは、信号が入力される入力端子および信号を出力する出力端子であり、いずれが入力端子または出力端子であってもよい。別の観点では、図示の例において、並列腕共振子1Pは、直列腕共振子1Sに対して、入力側に接続されていると捉えられてもよいし、出力側に接続されていると捉えられてもよい。基準電位部33は、基準電位が付与される部分である。ただし、基準電位は0Vとは限らない。
(比較例2のSAWフィルタ)
図2(b)に示す比較例2に係るSAWフィルタ45は、特許文献1において開示されているものである。SAWフィルタ45は、比較例1に係るSAWフィルタ41に対して付加共振子1Fを追加した構成である。
付加共振子1Fの構成は、図1を参照して説明した基本形のSAW共振子1の構成と同様である。すなわち、付加共振子1Fは、IDT電極7からなる付加IDT電極部8Fと、その両側に位置しており、1対の反射器9と同様の1対の付加反射器9Fとを有している。
付加共振子1Fは、直列腕共振子1Sに対して並列接続となるように直列腕43Sに接続されている。すなわち、付加共振子1Fの1対の櫛歯電極11のうち一つは直列腕共振子1Sの1対の櫛歯電極11のうち一つと接続され、付加共振子1Fの1対の櫛歯電極11のうち残りの一つは直列腕共振子1Sの1対の櫛歯電極11の残りの一つと接続されている。なお、図示の例では、紙面左右方向(図1のD2方向)に関して、同一側に位置する櫛歯電極11同士が接続されているが、互いに逆側に位置する櫛歯電極11同士が接続されていてもよい。
付加共振子1Fの共振周波数は、並列腕共振子1Pの共振周波数と同等とされている。すなわち、付加IDT電極部8Fの電極指ピッチと、並列腕IDT電極部8Pの電極指ピッチとは同等である。
このような付加共振子1Fを設けると、例えば、直列腕共振子1Sに並列に容量が接続されることになり、直列腕共振子1Sの反共振周波数が低くなり、ひいては、Δf(反共振周波数−共振周波数)が小さくなる。また、例えば、付加共振子1Fは、単なる容量ではなく、共振子であることから、直列腕43Sにおいては、見かけ上、直列腕共振子1Sの共振周波数よりも低周波側に新たな減衰極が形成される。これらの結果、例えば、SAWフィルタ45の通過帯域の低周波側および高周波側において、周波数の変化に対する減衰量の変化が大きくなり、フィルタ特性が向上する。
(第1実施形態のSAWフィルタ)
図2(c)に示す第1実施形態に係るSAWフィルタ51は、比較例2に係るSAWフィルタ45において、付加IDT電極部8Fを1対の並列腕反射器9Pの間に配置した構成である。すなわち、付加IDT電極部8Fは、並列腕共振子1Pに挿入されている。具体的には以下のとおりである。
図2(c)に示す並列腕共振子1Pは、便宜上、図2(a)に示す並列腕共振子1Pと同一符合を付して示しているように、付加IDT電極部8Fの挿入によって並列腕IDT電極部8Pと一方の並列腕反射器9Pとの距離が広くされていることを除いては、比較例1の並列腕共振子1Pと同様のものである。
付加IDT電極部8Fの電極指ピッチの大きさおよび電極指15の本数等は、比較例2に係る付加IDT電極部8Fのものと同様でよい。付加IDT電極部8Fにおける電極指15の数は、例えば、直列腕IDT電極部8Sにおける電極指15の数よりも少ない。例えば、前者は後者の半分程度またはそれ以下である。
付加IDT電極部8Fは、SAWの伝搬方向において並列腕IDT電極部8Pと隣接している。すなわち、付加IDT電極部8Fおよび並列腕IDT電極部8Pは、縦結合するように配置されている。また、1対の並列腕反射器9Pは、付加IDT電極部8Fおよび並列腕IDT電極部8Pに対してその両側に隣接している。比較例2に係るSAWフィルタ45における1対の付加反射器9Fは、本実施形態では設けられていない。
付加IDT電極部8Fと並列腕IDT電極部8Pとのギャップ(付加IDT電極部8Fの並列腕IDT電極部8P側の端部に位置する電極指15と、並列腕IDT電極部8Pの付加IDT電極部8F側の端部に位置する電極指15とのピッチ)は、例えば、付加IDT電極部8Fおよび並列腕IDT電極部8Pの電極指ピッチと同等である。付加IDT電極部8Fとこれに隣接する並列腕反射器9Pとのギャップ、および並列腕IDT電極部8Pとこれに隣接する並列腕反射器9Pとのギャップは、例えば、付加IDT電極部8Fおよび並列腕IDT電極部8Pの電極指ピッチと同等である。
付加IDT電極部8Fにおける電極指15の長さ、交差幅またはバスバー13間の距離等は、適宜に設定されてよい。好ましくは、これらは、並列腕IDT電極部8Pにおけるものと同等とされる。
付加IDT電極部8Fおよび並列腕IDT電極部8Pの紙面左側の櫛歯電極11(第1櫛歯電極11A)は、比較例2と同様に、いずれも第1端子31Aに接続されている。ただし、本実施形態では、付加IDT電極部8Fおよび並列腕IDT電極部8Pの第1櫛歯電極11Aのバスバー13がその端部にて互いに直接的に接続されている。別の観点では、両バスバー13は一体的に1つのバスバーを構成している。これにより、付加IDT電極部8Fおよび並列腕IDT電極部8Pは、第1端子31Aとの接続のための配線が共通化されている。なお、このようなバスバー13の直接的な接続はなされなくてもよい。別の観点では、第1端子31Aとの接続のための配線は、その一部または全部が付加IDT電極部8Fと並列腕IDT電極部8Pとで別個であってもよい。
以上のような本実施形態の構成であっても、例えば、比較例2と同様に、付加IDT電極部8Fを追加したことによるフィルタ特性の向上の効果が得られる。その一方で、付加IDT電極部8Fのためだけに付加反射器9Fを設ける必要がないことから、実施形態に係るSAWフィルタ51は、比較例2に係るSAWフィルタ45よりも小型化が可能である。付加IDT電極部8Fおよび並列腕IDT電極部8Pは、共振周波数(電極指ピッチ)が同等であるから、付加IDT電極部8Fを並列腕共振子1Pに挿入したことによるスプリアスの発生は抑えられる。
なお、IDT電極部8間で共振周波数が同等といっても、IDT電極部8の寸法の公差等に起因して多少の差があってもよいこと、この許容される差が、要求される仕様に応じて適宜に決定されてよいことは、既に述べたとおりであり、このことは、付加IDT電極部8Fおよび並列腕IDT電極部8P間の共振周波数が同等という場合についても同様である。
例えば、並列腕43P(並列腕IDT電極部8P)が少なくとも2つ設けられる場合において、2つの並列腕IDT電極部8P間の共振周波数が離れ過ぎると2つの減衰極が生じることになり、その間で減衰特性が悪化する。このような事情の下では、許容される差は、一般に共振周波数の0.2%程度である。従って、付加IDT電極部8Fおよび並列腕IDT電極部8P間の共振周波数が同等という場合、要求される仕様等にもよるが、並列腕IDT電極部8Pの共振周波数の0.3%未満の差があってもよいと考えられる。
(第1実施形態に係るシミュレーション計算結果)
比較例1、比較例2および第1実施形態に係るSAWフィルタについて、具体的な寸法等を設定し、その通過特性を調べるためのシミュレーション計算を行った。シミュレーションの条件は、付加IDT電極部8Fの有無、および付加IDT電極部8Fが設けられている場合における付加IDT電極部8Fの位置を除いて、比較例1、比較例2および第1実施形態で共通である。
並列腕IDT電極部8Pの電極指15の本数は200本とした(比較例1、比較例2および第1実施形態)。これに対して、付加IDT電極部8Fにおける電極指15の本数は100本とした(比較例2および第1実施形態)。
図3(a)〜図3(e)は、計算結果を示す図である。図3(a)において、横軸は周波数(MHz)を示し、縦軸は通過特性(dB)を示している。図3(b)は、通過帯域およびその周辺における図3(a)の拡大図である。図3(c)は、通過特性が高い領域における図3(b)の拡大図である。図3(d)は、入力端子側における定在波比である。図3(e)は、出力端子側における定在波比である。これらの図において、線CE1、CE2およびE1はそれぞれ、比較例1、比較例2および第1実施形態に係る結果を示している。
第1実施形態は、通過帯域が崩れることなく、比較例1,2に比べても遜色のない通過帯域を形成していることを確認した。
図3(c)に特に示されているように、第1実施形態(E1)では、比較例2(CE2)と同様に、比較例1(CE1)に比較して、通過帯域の低周波側および高周波側において、通過特性を示す曲線が急峻化されている。すなわち、付加IDT電極部8Fを並列腕共振子1Pに挿入しても、比較例2と同様に、フィルタ特性を向上させる効果が得られることが確認された。
さらに、図3(c)に示されているように、通過特性の低周波側において、第1実施形態のほうが比較例2よりも通過特性を示す曲線が若干ではあるが急峻である。従って、付加IDT電極部8Fを並列腕共振子1Pに挿入することにより、比較例2よりも特性が向上する部分が存在し得ることが分かった。
以上のとおり、本実施形態では、SAWフィルタ51は、圧電基板3、直列腕共振子1S、並列腕共振子1Pおよび付加IDT電極部8Fを有している。直列腕共振子1Sは、圧電基板3上にてラダー型フィルタの直列腕43Sを構成しており、直列腕IDT電極部8Sと、当該直列腕IDT電極部8Sに対してSAWの伝搬方向の両側に位置している1対の直列腕反射器9Sとを有している。並列腕共振子1Pは、圧電基板3上にてラダー型フィルタの並列腕43Pを構成しており、並列腕IDT電極部8Pと、並列腕IDT電極部8Pに対してSAWの伝搬方向の両側に位置している1対の並列腕反射器9Pとを有している。付加IDT電極部8Fは、圧電基板3上に設けられており、直列腕IDT電極部8Sに対して並列接続となるように直列腕43Sに接続されており、並列腕IDT電極部8Pの共振周波数と同等の共振周波数を有している。さらに、付加IDT電極部8Fは、1対の並列腕反射器9Pの間において並列腕IDT電極部8Pに対してSAWの伝搬方向に位置している。
従って、上記のように、比較例1に比較してフィルタ特性を向上させることができ、かつ付加反射器9Fが不要な分だけ、比較例2に比較して小型化を図ることができる。
また、本実施形態では、並列腕IDT電極部8Pは、1つのIDT電極7からなる。付加IDT電極部8Fは、1つのIDT電極からなる。並列腕IDT電極部8Pおよび付加IDT電極部8FはSAWの伝搬方向において互いに隣接しており、その両側に1対の並列腕反射器9Pが隣接している。
従って、例えば、後述する他の実施形態に比較して、簡素な構成であり、IDT電極7および配線等のレイアウトの自由度が高い。
また、本実施形態では、付加IDT電極部8Fにおける電極指15の本数は、直列腕IDT電極部8Sにおける電極指15の本数よりも少ない。
この場合、例えば、あくまで直列腕IDT電極部8Sを基本としてSAWフィルタ51の主要な特性を決定し、その上で付加IDT電極部8Fによってフィルタ特性を向上させることができる。
<第2実施形態>
図4(a)は、第2実施形態に係るSAWフィルタ251の構成を模式的に示す平面図である。
SAWフィルタ251は、第1実施形態に係るSAWフィルタ51と同様に、比較例2に係るSAWフィルタ45において、付加IDT電極部208Fを並列腕共振子1Pに挿入した構成である。ただし、付加IDT電極部208Fの具体的な配置が第1実施形態と相違する。具体的には以下のとおりである。
図4(a)に示す並列腕共振子1Pは、便宜上、図2(b)に示す並列腕共振子1Pと同一符合を付して示しているように、付加IDT電極部208Fの挿入によって並列腕IDT電極部8Pと1対の並列腕反射器9Pとの距離が広くされていることを除いては、比較例1の並列腕共振子1Pと同様のものである。
付加IDT電極部208Fは、第1実施形態の付加IDT電極部8Fとは異なり、2つの付加IDT電極7Fからなる。2つの付加IDT電極7Fは、互いに並列に接続されている。ここでいう並列に接続は、比較例2の説明において述べた直列腕共振子1Sと付加共振子1Fとの並列接続と同様に、2つの付加IDT電極7F間で、1対の櫛歯電極11の一つ同士が接続されるとともに1対の櫛歯電極の残りの一つ同士が接続されている状態である。紙面左右方向(図1のD2方向)におけるいずれの櫛歯電極11同士が接続されてよいことも既述の説明と同様である。
付加IDT電極部208Fにおける電極指15の本数(2つの付加IDT電極7Fにおける電極指15の本数の合計)は、例えば、第1実施形態における付加IDT電極部8Fにおける電極指15の本数と同等でよい。すなわち、本実施形態の付加IDT電極7Fは、第1実施形態における付加IDT電極部8F(そのIDT電極7)を2つに分割したものであってよい。従って、例えば、付加IDT電極部208Fにおける電極指15の本数(合計)は、直列腕IDT電極部8Sにおける電極指15の本数よりも少ない。電極指15の本数について、2つの付加IDT電極7F間における大小関係は適宜に設定されてよい。例えば、両者は同等(1本分の誤差がある場合を含む。)である。
なお、付加IDT電極部208Fは、上記のように分割されていることを除いては、比較例2および第1実施形態の付加IDT電極部8Fと同様である。例えば、付加IDT電極部208Fは、直列腕IDT電極部8Sに対して並列に接続されており、また、その共振周波数は並列腕IDT電極部8Pの共振周波数と同等である。
2つの付加IDT電極7Fは、並列腕IDT電極部8Pに対してSAWの伝搬方向の両側に隣接している。すなわち、2つの付加IDT電極7Fは、並列腕IDT電極部8Pに対して縦結合するように配置されている。1対の並列腕反射器9Pは、2つの付加IDT電極7Fに対してSAWの伝搬方向の両側に隣接している。付加IDT電極7Fと並列腕IDT電極部8Pとのギャップ、および付加IDT電極7Fと並列腕反射器9Pとのギャップは、例えば、付加IDT電極7Fおよび並列腕IDT電極部8Pの電極指ピッチと同等である。
2つの付加IDT電極7Fおよび並列腕IDT電極部8Pの紙面左側の櫛歯電極11(第1櫛歯電極11A)は、第1実施形態と同様に、バスバー13の端部同士が直接的に接続されている(3つのバスバー13が一体的になっている。)。これにより、2つの付加IDT電極7Fおよび並列腕IDT電極部8Pは、第1端子31Aとの接続のための配線が共通化されている。図示の例とは異なり、共通化されなくてもよいことも、第1実施形態と同様である。
なお、図4(a)において絶縁体53を介して配線が立体交差しているように、圧電基板3上では、適宜に配線の立体交差部が形成されてよい。
以上のような第2実施形態に係る構成においても、第1実施形態と同様に、付加IDT電極部208F(付加IDT電極7F)が、1対の並列腕反射器9Pの間において並列腕IDT電極部8Pに対してSAWの伝搬方向に位置していることから、第1実施形態と同様の効果が奏される。すなわち、フィルタ特性を向上させつつ小型化が可能である。
また、本実施形態では、並列腕IDT電極部8Pは、1つのIDT電極7からなる。付加IDT電極部208Fは、1対の並列腕反射器9Pの間においてSAWの伝搬方向の互いに異なる位置にある、互いに並列に接続された2つのIDT電極7(付加IDT電極7F)からなる。並列腕IDT電極部8Pに対してSAWの伝搬方向の両側に2つの付加IDT電極7Fが隣接しており、その両側に1対の並列腕反射器9Pが隣接している。
従って、例えば、第1実施形態に比較して、1対の並列腕反射器9P間の構成を、並列腕IDT電極部8Pを中心とした線対称の構成にすることが容易である。その結果、例えば、付加IDT電極部208Fの電極指15の数等の設定によらずに、安定した特性を得ることが容易化される。また、例えば、1対の並列腕反射器9P間においては、その中央側においてSAWの定在波の振幅が大きくなりやすい。そのような位置に並列腕IDT電極部8Pを配置しやすいことから、例えば、付加IDT電極部208Fの挿入によって並列腕IDT電極部8Pの機能が低下するおそれが抑制される。
<第3実施形態>
図4(b)は、第3実施形態に係るSAWフィルタ351の構成を模式的に示す平面図である。
SAWフィルタ351は、第1実施形態に係るSAWフィルタ51と同様に、比較例2に係るSAWフィルタ45において、付加IDT電極部8Fを並列腕共振子301Pに挿入した構成である。ただし、付加IDT電極部8Fの具体的な配置が第1実施形態と相違する。具体的には以下のとおりである。
図4(b)に示す並列腕共振子301Pは、他の実施形態の並列腕共振子1Pと同様に、並列腕IDT電極部308Pと、その両側に位置する並列腕反射器9Pとを有している。ただし、並列腕IDT電極部308Pは、他の実施形態の並列腕IDT電極部8Pとは異なり、2つの並列腕IDT電極7Pからなる。
2つの並列腕IDT電極7Pは、互いに並列に接続されている。ここでいう並列に接続は、比較例2の説明において述べた直列腕共振子1Sと付加共振子1Fとの並列接続と同様に、2つの並列腕IDT電極7P間で、1対の櫛歯電極11の一つ同士が接続されるとともに1対の櫛歯電極の残りの一つ同士が接続されている状態である。紙面左右方向(図1のD2方向)におけるいずれの櫛歯電極11同士が接続されてよいことも既述の説明と同様である。
並列腕IDT電極部308Pにおける電極指の本数(2つの並列腕IDT電極7Pにおける電極指15の本数の合計)は、例えば、第1実施形態における並列腕IDT電極部8Pにおける電極指15の本数と同等でよい。すなわち、本実施形態の並列腕IDT電極7Pは、第1実施形態における並列腕IDT電極部8P(IDT電極7)を2つに分割したものであってよい。電極指15の本数について、2つの並列腕IDT電極7P間における大小関係は適宜に設定されてよい。例えば、両者は同等(1本分の誤差がある場合を含む。)である。
なお、並列腕IDT電極部308Pは、上記のように分割されていることを除いては、第1実施形態の並列腕IDT電極部8Pと同様である。例えば、並列腕IDT電極部308Pは、直列腕43Sと基準電位部33との間に接続されており、また、その反共振周波数は直列腕IDT電極部8Sの共振周波数と同等である。
本実施形態の付加IDT電極部8Fは、第1実施形態の付加IDT電極部8Fと同一の符号を付して示すように、第1実施形態の付加IDT電極部8Fと同様である。例えば、付加IDT電極部8Fは、1つのIDT電極7からなり、直列腕IDT電極部8Sと並列に接続され、その共振周波数は並列腕IDT電極部308Pの共振周波数と同等である。また、例えば、付加IDT電極部8Fにおける電極指15の本数は、直列腕IDT電極部8Sにおける電極指15の本数よりも少ない。
2つの並列腕IDT電極7Pは、付加IDT電極部8Fに対してSAWの伝搬方向の両側に隣接している。すなわち、2つの並列腕IDT電極7Pは、付加IDT電極部8Fに対して縦結合するように配置されている。1対の並列腕反射器9Pは、2つの並列腕IDT電極7Pに対してSAWの伝搬方向の両側に隣接している。付加IDT電極部8Fと並列腕IDT電極7Pとのギャップ、および並列腕IDT電極7Pと並列腕反射器9Pとのギャップは、例えば、付加IDT電極部8Fおよび並列腕IDT電極7Pの電極指ピッチと同等である。
他の実施形態と同様に、2つの並列腕IDT電極7Pおよび付加IDT電極部8Fの紙面左側の櫛歯電極11(第1櫛歯電極11A)のバスバー13は互いに直接的に接続されている。これらのバスバー13同士が直接的に接続されなくてもよいことも他の実施形態と同様である。
以上のような第3実施形態に係る構成においても、第1実施形態と同様に、付加IDT電極部8Fが、1対の並列腕反射器9Pの間において並列腕IDT電極部308Pに対してSAWの伝搬方向に位置していることから、第1実施形態と同様の効果が奏される。すなわち、フィルタ特性を向上させつつ小型化が可能である。
また、本実施形態では、並列腕IDT電極部308Pは、1対の並列腕反射器9Pの間においてSAWの伝搬方向の互いに異なる位置にある、互いに並列に接続された2つのIDT電極7(並列腕IDT電極7P)からなる。付加IDT電極部8Fは、1つのIDT電極7からなる。付加IDT電極部8Fに対してSAWの伝搬方向の両側に2つの並列腕IDT電極7Pが隣接しており、その両側に1対の並列腕反射器9Pが隣接している。
従って、例えば、第1実施形態に比較して、1対の並列腕反射器9P間の構成を、付加IDT電極部8Fを中心とした線対称の構成にすることが容易である。その結果、例えば、付加IDT電極部8Fの電極指15の数等の設定によらずに、安定した特性を得ることが容易化される。また、例えば、1対の並列腕反射器9P間においては、その中央側においてSAWの定在波の振幅が大きくなりやすい。そのような位置に付加IDT電極部8Fを配置しやすいことから、例えば、付加IDT電極部8Fの電極指の数が少なくても、付加IDT電極部8Fの効果を期待できる。
<第1〜第3実施形態に係るシミュレーション計算結果>
第1〜第3実施形態に係るSAWフィルタについて、具体的な寸法等を設定し、その通過特性を調べるためのシミュレーション計算を行った。シミュレーションの条件は、付加IDT電極部8Fまたは208Fの配置方法を除いて、第1〜第3実施形態で共通である。
並列腕IDT電極部8Pまたは308Pの電極指15の本数は200本とし、付加IDT電極部8Fまたは208Fにおける電極指15の本数は100本とした。なお、これらの条件は、上述した図3(a)〜図3(e)の計算における第1実施形態の条件と同一である。
また、第2実施形態において、付加IDT電極部208Fの分割方法は、等分割とした。すなわち、付加IDT電極部208Fにおいて、付加IDT電極7Fそれぞれの電極指15の本数は50本(=100/2)である。第3実施形態において、並列腕IDT電極部308Pの分割方法は、等分割とした。すなわち、並列腕IDT電極部308Pにおいて、並列腕IDT電極7Pそれぞれの電極指15の本数は100本(=200/2)である。
図5(a)〜図5(e)は、計算結果を示す、図3(a)〜図3(e)と同様の図である。これらの図において、線E1〜E3はそれぞれ、第1〜第3実施形態に係る結果を示している。
これらの図に示されているように、第1〜第3実施形態で、その作用は大きくは変わらない。ただし、若干ではあるが、第2実施形態(E2)は、通過帯域の低周波側および高周波側において、周波数の変化に対する通過特性を示す曲線が急峻になっている。
<第4実施形態>
(第4実施形態に係るSAWフィルタの構成)
図6(a)は、第4実施形態に係るSAWフィルタ451を模式的に示す平面図である。
SAWフィルタ451は、第1実施形態に係るSAWフィルタ51に対して、共用共振子1Kを追加した構成となっている。具体的には以下のとおりである。
共用共振子1Kは、例えば、図1を参照して説明した基本形のSAW共振子1と同様の構成である。すなわち、共用共振子1Kは、IDT電極7からなる共用IDT電極部8Kと、その両側に位置しており、1対の反射器9と同様の1対の共用反射器9Kとを有している。共用共振子1Kの共振周波数は、例えば、並列腕共振子1Pの共振周波数と同等である。
共用共振子1Kは、直列腕IDT電極部8Sに対して並列接続となり、かつ付加IDT電極部8Fに対して直列接続となるように設けられている。従って、共用共振子1Kは、付加IDT電極部8Fと同様の効果を奏するものとして捉えることができる。
一方で、共用共振子1Kは、直列腕43Sと並列腕IDT電極部8P(基準電位部33)との間で、並列腕IDT電極部8Pに対して直列接続となるように設けられている。従って、共用共振子1Kは、並列腕IDT電極部8Pと同様の効果を奏するものとして捉えることもできる。
以上のような第4実施形態に係る構成においても、付加IDT電極部8Fを並列腕共振子1Pに挿入することによって、フィルタ特性を向上させつつ、小型化を図ることができる。なお、第1実施形態のSAWフィルタに共用共振子1Kを設けた場合について説明したが、共用共振子1Kは、第2または第3実施形態のSAWフィルタに設けられてもよい。
(第4実施形態のシミュレーション計算結果)
図3(b)等と同様に、第4実施形態に係るSAWフィルタについて、透過特性を調べるためのシミュレーション計算を行った。
シミュレーション計算は、比較例1、第1実施形態および第4実施形態に係るSAWフィルタについて行った。シミュレーションの条件は、付加IDT電極部8Fの有無、共用共振子1Kの有無、および電極指15の本数を除いて、比較例1、第1および第4実施形態で共通である。
各IDT電極部8における電極指15の本数は、具体的には以下のとおりである。以下では、直列腕IDT電極部8Sにおける本数/並列腕IDT電極部8Pにおける本数/付加IDT電極部8Fにおける本数/共用IDT電極部8Kにおける本数の順で記載している。
比較例1:150/100/0/0
第1実施形態:150/150/50/0
第4実施形態:150/200/200/200
図6(b)は、計算結果を示す図3(b)等と同様の図である。この図において、線CE11、E11およびE14はそれぞれ、比較例1、第1実施形態および第4実施形態に係る計算結果を示している。
この図に示されているように、第4実施形態の計算結果(E14)は、比較例1(CE11)の計算結果に比較して、通過帯域の低周波側および高周波側において、通過特性を示す曲線が急峻化されている。また、その急峻化された部分は、概ね、第1実施形態の計算結果(E11)と重なっている。すなわち、第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が奏されることが確認された。
<分波器>
(分波器の構成)
図7は、上述した実施形態に係るSAWフィルタの利用例としての分波器101を示す模式図である。なお、この図の説明では、第1実施形態のSAWフィルタ51の構成および符号を引用するが、SAWフィルタ51に代えて、他の実施形態のSAWフィルタが用いられてもよい。
分波器101は、例えば、送信端子105からの送信信号をフィルタリングしてアンテナ端子103へ出力する送信フィルタ109と、アンテナ端子103からの受信信号をフィルタリングして1対の受信端子107に出力する受信フィルタ111とを有している。
送信フィルタ109は、例えば、図2(a)を参照して説明した比較例1に係る1段式のラダー型フィルタ(SAWフィルタ41)、および図2(c)を参照して説明した第1実施形態に係る1段式のラダー型フィルタ(SAWフィルタ51)を含む、多段式のラダー型フィルタによって構成されている。
具体的には、送信フィルタ109は、送信端子105(第1端子31Aおよび第2端子31Bの一方に相当)と、アンテナ端子103(第1端子31Aおよび第2端子31Bの他方に相当)とを接続する直列腕143Sと、直列腕143Sと基準電位部33とを接続する複数の並列腕143Pとを有している。直列腕143Sは、送信端子105とアンテナ端子103との間で互いに直列に接続された複数の直列腕共振子1Sを有している。各並列腕143Pは、直列腕143Sと基準電位部33とを接続する並列腕共振子1Pを有している。複数の並列腕共振子1P(複数の並列腕143P)は、直列腕143Sに対する接続位置が複数の直列腕共振子1Sに対して互いに異なり、また、互いに並列に接続されている。
複数の直列腕共振子1Sおよび複数の並列腕共振子1P(複数の共振子電極部5)は、例えば、同一の圧電基板3に設けられている。特に図示しないが、送信フィルタ109は、インダクタ等の共振子以外の構成を適宜な位置に有していてもよい。
なお、図7では、直列腕共振子1Sと、その直列腕共振子1Sに対して送信端子105側に接続されている並列腕共振子1Pとを点線で囲い、SAWフィルタ41または51の符号を付しているが、これは便宜上のものである。従って、例えば、図7とは逆に、直列腕共振子1Sと、その直列腕共振子1Sに対してアンテナ端子103側に接続されている並列腕共振子1Pとが1段式のラダー型フィルタ(最小単位)として捉えられてよい。また、例えば、図示のように送信フィルタ109を1段式のラダー型フィルタによって概念的に区分けしたときに、送信端子105側および/またはアンテナ端子103側に、直列腕共振子1Sまたは並列腕共振子1Pの余りがあってもよい。
送信フィルタ109に含まれる複数の1段式のラダー型フィルタのうち、少なくとも1つは、第1実施形態に係るSAWフィルタ51とされている。すなわち、直列腕共振子1Sに並列に接続され、並列腕共振子1Pに挿入された付加IDT電極部8Fが少なくとも1つ設けられている。なお、送信フィルタ109に含まれる全ての1段式のラダー型フィルタが第1実施形態に係るSAWフィルタ51であってもよい。
複数の直列腕共振子1Sの共振周波数(電極指ピッチ)は、基本的には互いに同等である。同様に、複数の並列腕共振子1Pの共振周波数(電極指ピッチ)は、基本的には互いに同等である。ただし、フィルタ特性を向上させるために、複数の直列腕共振子1S同士で共振周波数を互いに僅かに異ならせたり、複数の並列腕共振子1P同士で共振周波数を互いに僅かに異ならせたりすることがある。このような場合において、付加IDT電極部8Fは、いずれの並列腕共振子1Pに挿入されてもよい。
上記のように複数の並列腕共振子1Pの共振周波数が互いに僅かに異なる場合において、付加IDT電極部8Fの共振周波数は、いずれの並列腕共振子1Pの共振周波数と同等(または最も近い。以下、同様)であってもよい。好ましくは、付加IDT電極部8Fの共振周波数は、その付加IDT電極部8Fがまさに挿入される並列腕共振子1Pの共振周波数と同等である。この場合、予期しないスプリアスが発生することが抑制される。
また、複数の並列腕共振子1Pの共振周波数が互いに僅かに異なる場合において、好ましくは、付加IDT電極部8Fは、全ての並列腕共振子1Pのうち、共振周波数が最も高い並列腕共振子1Pに挿入される。この場合、例えば、上記のように付加IDT電極部8Fの共振周波数を、その付加IDT電極部8Fがまさに挿入される並列腕共振子1Pの共振周波数と同等にすることによって、付加IDT電極部8Fの共振周波数を極力高くすることができる。その結果、例えば、付加IDT電極部8Fによって直列腕共振子1Sに見かけ上新たに形成される減衰極の周波数が極力高くされることになり、ひいては、通過特性の低周波側の急峻性がより向上する。
なお、ここでいう並列腕共振子1Pは、既に述べたように、通過帯域を構成する共振子を対象としており、例えば、並列腕共振子1Pと同様の接続態様とされていても、共振周波数が通過帯域よりも高いような共振子は対象としていない。換言すれば、ここでいう共振周波数が最も高い並列腕共振子1Pは、直列腕143Sと基準電位部33とを接続する共振子のうち、共振周波数が通過帯域の中心周波数よりも低いものの中で、最も共振周波数が高い共振子である。
受信フィルタ111は、例えば、互いに直列に接続されたSAW共振子61およびSAWフィルタ63によって構成されている。これらを構成するIDT電極7および反射器9は、例えば、同一の圧電基板3に設けられている。受信フィルタ111が構成される圧電基板3は、送信フィルタ109が構成される圧電基板3と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
SAW共振子61は、例えば、図1を参照して説明した基本形のSAW共振子1と同様の構成のものである。SAWフィルタ63は、例えば、縦結合多重モード(2重モードを含むものとする)型共振子フィルタであり、SAWの伝搬方向に配列された複数のIDT電極7と、その両側に配置された1対の反射器9とを有している。
(分波器に係るシミュレーション計算結果)
上記のような分波器101に係るシミュレーション計算を行った例を示す。ただし、シミュレーション計算では、送信フィルタ109は、1段式のラダー型フィルタからなるものとした。また、そのラダー型フィルタとして、比較例1、比較例2および第1〜第3実施形態のSAWフィルタを仮定した。
シミュレーションの条件は、付加IDT電極部8Fまたは208Fの有無、付加IDT電極部がある場合におけるその配置方法を除いて、比較例1、比較例2および第1〜第3実施形態で共通である。
並列腕IDT電極部8Pまたは308Pの電極指15の本数は174本とし、付加IDT電極部8Fまたは208Fにおける電極指15の本数は40本とした。第2実施形態において、付加IDT電極部208Fの分割方法は等分割とした。すなわち、付加IDT電極部208Fにおいて、付加IDT電極7Fそれぞれの電極指15の本数は20本(=40/2)である。第3実施形態において、並列腕IDT電極部308Pの分割方法は等分割とした。すなわち、並列腕IDT電極部308Pにおいて、並列腕IDT電極7Pそれぞれの電極指15の本数は87本(=174/2)である。
図8(a)〜図8(e)は、計算結果を示す、図3(a)〜図3(e)と同様の図である。これらの図では、分波器101のうち、送信フィルタ109の通過特性のみを示している。また、これらの図において、線CE21、CE22およびE21〜E23はそれぞれ、比較例1、比較例2および第1〜第3実施形態に係る結果を示している。
これらの図から、分波器101においても、付加IDT電極部8Fまたは208Fを並列腕共振子1Pまたは201Pに挿入可能であることが確認された。
図9(a)は、図8(c)における通過帯域の低周波側部分を拡大して示す図である。図9(b)は、図8(c)における通過帯域の高周波側部分を拡大して示す図である。
これらの図では、第1〜第3実施形態(E21〜E23)のいずれも、比較例1(CE21)および比較例2(CE2)よりも通過特性を示す線が通過帯域の内側に位置している。これは、第1〜第3実施形態において良好な急峻性が得られた結果によるものである。また、この図においては、第3実施形態(E23)が最も通過帯域の内側に位置している。
<通信装置>
図10は、上述した分波器101の利用例としての通信装置151の要部を示すブロック図である。
通信装置151において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF−IC(Radio Frequency Integrated Circuit)153によって変調および周波数の引き上げ(搬送波周波数の高周波信号への変換)がなされて送信信号TSとされる。送信信号TSは、バンドパスフィルタ155によって送信用の通過帯以外の不要成分が除去され、増幅器157によって増幅されて分波器101(送信端子105)に入力される。そして、分波器101は、入力された送信信号TSから送信用の通過帯以外の不要成分を除去し、その除去後の送信信号TSをアンテナ端子103からアンテナ159に出力する。アンテナ159は、入力された電気信号(送信信号TS)を無線信号(電波)に変換して送信する。
また、通信装置151において、アンテナ159によって受信された無線信号(電波)は、アンテナ159によって電気信号(受信信号RS)に変換されて分波器101に入力される。分波器101は、入力された受信信号RSから受信用の通過帯以外の不要成分を除去して増幅器161に出力する。出力された受信信号RSは、増幅器161によって増幅され、バンドパスフィルタ163によって受信用の通過帯以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RSは、RF−IC153によって周波数の引き下げおよび復調がなされて受信情報信号RISとされる。
なお、送信情報信号TISおよび受信情報信号RISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)でよく、例えば、アナログの音声信号もしくはデジタル化された音声信号である。無線信号の通過帯は、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)等の各種の規格に従ったものでよい。変調方式は、位相変調、振幅変調、周波数変調もしくはこれらのいずれか2つ以上の組み合わせのいずれであってもよい。回路方式は、図10では、ダイレクトコンバージョン方式を例示したが、それ以外の適宜なものとされてよく、例えば、ダブルスーパーヘテロダイン方式であってもよい。また、図10は、要部のみを模式的に示すものであり、適宜な位置にローパスフィルタやアイソレータ等が追加されてもよいし、また、増幅器等の位置が変更されてもよい。
なお、以上の実施形態において、SAWフィルタ51、251、351および451ならびに送信フィルタ109はそれぞれ弾性波フィルタの一例である。
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
弾性波は、SAWに限定されない。例えば、弾性波は、圧電基板内を伝搬するバルク波であってもよいし、圧電基板と圧電基板を覆う絶縁層との境界部を伝搬する弾性境界波(ただし、広義にはSAWの一種である。)であってもよい。
付加IDT電極部の並列腕共振子への挿入の仕方は、実施形態に限定したものに限定されない。例えば、付加IDT電極部および/または並列腕IDT電極部は、3以上に分割されてもよいし、偏った比率で分割されてもよい(等分割でなくてよい。)。
また、例えば、1つの並列腕共振子内の複数の並列腕IDT電極は、互いに並列に接続されるのではなく、互いに直列に接続され、その配列の間に付加IDT電極が配置されてもよい。1つの付加IDT電極部内の複数の付加IDT電極も同様である。
また、例えば、付加共振子を直列接続または並列接続となるように分割して、その一部の付加IDT電極部のみを並列腕共振子に挿入してもよい。また、例えば、並列腕共振子を直列接続または並列接続となるように分割して、その一部に付加IDT電極部を挿入してもよい。
図7の例では、付加IDT電極部は、当該付加IDT電極部と並列接続されている直列腕共振子の入力側または出力側に接続されている並列腕共振子(最も近い並列腕共振子)に挿入された。ただし、付加IDT電極部は、他の直列腕共振子の入力側または出力側に接続されている並列腕共振子(他の直列腕共振子を介して離れている並列腕共振子)に挿入されていてもよい。
1つの付加IDT電極部は、1つの直列腕共振子に並列に接続されるのではなく、2以上の直列腕共振子に並列に接続されてもよい。例えば、図7の送信フィルタ109において、1つの櫛歯電極11が送信端子105と最も紙面右側の直列腕共振子1Sとの間に接続されるとともに、もう1つの櫛歯電極11が最も紙面左側の直列腕共振子1Sとアンテナ端子103との間に接続されてもよい。
実施形態では、複数の共振子は、電極指ピッチ以外のパラメータ(例えば、電極指の材料、電極指の厚さまたはデューティー比)が互いに同一であるものとした。ひいては、付加IDT電極部と並列腕共振子(並列腕IDT電極部)とは、電極指ピッチを含む、共振周波数に影響を及ぼすパラメータが互いに同一であるものとした。ただし、複数の共振子は、電極指ピッチ以外の共振周波数に影響を及ぼすパラメータが互いに異なっていてもよい。付加IDT電極部と並列腕共振子とについても同様である。すなわち、付加IDT電極部と並列腕共振子とは、種々のパラメータの調整の結果として、共振周波数が同等とされていてもよい。ただし、付加IDT電極部と並列腕共振子とは、電極指ピッチを含む、共振周波数に影響を及ぼすパラメータが互いに同一である方が、スプリアスの抑制の観点から好ましい。