JP6825348B2 - 溶銑予備処理方法、溶銑予備処理制御装置、プログラム及び記録媒体 - Google Patents

溶銑予備処理方法、溶銑予備処理制御装置、プログラム及び記録媒体 Download PDF

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Description

本発明は、転炉を用いた溶銑予備処理において、溶銑Si濃度を適正に調整することにより、溶銑P濃度を精度高く制御する、溶銑予備処理方法、溶銑予備処理制御装置、プログラム及び記録媒体に関する。
近年、転炉を用いた溶銑予備処理の技術の向上により、鋼材の高品質化が実現されてきた。溶銑予備処理の対象となる成分としては、PおよびSiなど、鋼材の品質に関わる成分が挙げられる。特に、溶銑P濃度の制御は鋼材の品質管理上非常に重要である。そのため、溶銑からPを除去する脱りん処理は、溶銑予備処理において重要なプロセスである。
下記式(1)に脱りん反応式を示す。なお、下記式(1)において、「[物質X]」は溶銑中の物質Xを示し、「(物質Y)」はスラグ中の物質Yを示す。
Figure 0006825348
一般的に、上記式(1)のスラグ中FeOの濃度は、脱珪反応が終了してから高くなる。つまり、脱珪反応が終了したのちに、脱りん反応が進行する。これは、吹錬において酸素が転炉内の溶銑に供給されると、熱力学的な観点から、溶銑中のSiが他の成分よりも優先的に酸化されるためである。
ところで、近年、高炉から出銑される溶銑に含まれるSi濃度が高くなっている。これは、高炉の構造が変化したこと、またはSi成分を多く含有する鉄鉱石の使用が増加したためと考えられている。そのため、溶銑Si濃度が高い場合、脱珪反応に多くの時間が費やされ、脱りん反応が開始する(スラグ中FeO濃度が上昇する)までのタイミングが遅くなる。
そこで、脱珪反応の影響を抑えるために、転炉において吹錬を用いた脱珪処理後に一度吹錬を停止し、転炉内で生成されたSiOリッチなスラグを当該転炉から排出し、その後吹錬を再開して脱りん処理を行う技術が提案されている。
例えば、下記特許文献1には、脱珪処理中に、酸素バランスを逐次計算して算出される不明酸素量に基づいて転炉内のスラグ中FeO濃度を推定し、推定したスラグ中FeO濃度の推移に応じて上吹きランスからの酸素ガス流量等を調整して、脱珪処理開始時から9分経過時点までに転炉内のスラグ中FeO濃度を所定範囲(3.0〜30質量%)に調整し、その後転炉内のスラグの少なくとも一部を排滓し、再度上吹きランスからの酸素ガスの供給を再開して脱りん処理を行う技術が開示されている。
特開2013−136831号公報
しかし、本発明者は実際の溶銑予備処理における吹錬では、脱珪反応と脱炭反応が同時に発生しており、脱珪反応および脱炭反応に寄与する酸素量の分配率がチャージごとに異なることを、見出した。図7および図8は、各チャージにおける各溶銑成分の酸素との反応における酸素分配率の変化を示すグラフである。図7および図8に示すように、溶銑Siの酸素分配率が0に漸近する(つまり、脱珪反応が終了する)タイミングが、チャージ間において異なることが示されている。これは、すなわち、脱珪処理の進行がチャージごとに変動することを示している。そのため、脱珪処理終了時の溶銑Si濃度のばらつきが生じるので、溶銑予備処理終了時の溶銑P濃度の制御が困難となる。したがって、上記特許文献1に開示されているように、脱珪処理の時間を固定していては、溶銑P濃度を確実に目標値まで低減させることが困難となる。
また、上記特許文献1に開示された技術では、溶銑予備処理において、脱珪処理により生じたSiOリッチなスラグの排滓処理が行われる。このような排滓処理に係る作業を挟むことにより、1チャージあたりの溶銑予備処理に係る処理時間が長くなる。したがって、生産スケジュールがタイトである場合、上記特許文献1に開示された技術の適用は好ましくない。また、当該排滓処理が行われている間は吹錬が中止となるため、当該排滓処理の間に溶銑から大量の熱が失われる。その結果、溶銑温度の管理の負担が大きくなり、操業コストが悪化し得る。すなわち、溶銑予備処理の生産効率が悪化する。
ゆえに、溶銑予備処理を精度高く、かつ生産効率を向上させるためには、脱珪処理の進行の程度を把握し、その進行の程度に応じた操作をすることが肝要である。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、脱珪処理の進行の程度を把握して溶銑Si濃度を適正に調整することが可能な、新規かつ改良された溶銑予備処理方法、溶銑予備処理制御装置、プログラムおよび記録媒体を提供することにある。溶銑Si濃度を適正に調整することにより、溶銑P濃度を精度高く制御し、かつ、生産効率を向上させることが可能となる。
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、転炉を用いた吹錬による溶銑予備処理方法であって、少なくともSi、Fe、およびCを含む溶銑成分の初期濃度を含む初期溶銑データを取得するデータ取得ステップと、取得された前記初期溶銑データ、並びに、前記転炉から排出された排ガスの成分および流量を含む時系列排ガスデータ、および前記転炉に投入された石灰石の重量を含む石灰石投入データに基づいて、上吹きランスから溶銑に供給された吹込み酸素と前記溶銑との酸化反応である火点反応と、前記火点反応が進行する領域である火点領域とは異なる領域において進行する前記溶銑とスラグとの界面における反応であるスラグメタル界面反応とが複合された複合反応モデルを用いて、溶銑Si濃度を逐次的に推定する溶銑Si濃度推定ステップと、前記溶銑Si濃度が目標溶銑Si濃度に到達すると予定された時点である目標濃度到達時点に達したとき、前記目標濃度到達時点において推定された溶銑Si濃度と前記目標溶銑Si濃度との差に基づいて、溶銑Si濃度を調整するための操作を行う溶銑Si濃度適正化ステップと、を含む溶銑予備処理方法が提供される。
前記目標濃度到達時点は、溶銑予備処理前の溶銑Si濃度および溶銑予備処理の操業条件に基づいて設定されてもよい。
前記操作は、酸化鉄を含む副原料を前記転炉に投入する操作を含んでもよい。
前記操作は、前記上吹きランスから供給される吹込み酸素量を増加する操作を含んでもよい。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、転炉を用いた吹錬による溶銑予備処理を制御する溶銑予備処理制御装置であって、少なくともSi、Fe、およびCを含む溶銑成分の初期濃度を含む初期溶銑データを取得するデータ取得部と、取得された前記初期溶銑データ、並びに、前記転炉から排出された排ガスの成分および流量を含む時系列排ガスデータ、および前記転炉に投入された石灰石投入データに基づいて、上吹きランスから溶銑に供給された酸素と前記溶銑との酸化反応である火点反応と、前記火点反応が進行する領域である火点領域とは異なる領域において進行する前記溶銑とスラグとの界面における反応であるスラグメタル界面反応とが複合された複合反応モデルを用いて、溶銑Si濃度を逐次的に推定する溶銑Si濃度推定部と、前記溶銑Si濃度が目標溶銑Si濃度に到達すると予定された時点である目標濃度到達時点に達したとき、前記目標濃度到達時点において前記溶銑Si濃度推定部により推定された溶銑Si濃度と前記目標溶銑Si濃度との差に基づいて、溶銑Si濃度を調整するための操作内容を決定する適正化処理部と、を備える溶銑予備処理制御装置が提供される。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、転炉を用いた吹錬による溶銑予備処理を制御する溶銑予備処理制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、少なくともSi、Fe、およびCを含む溶銑成分の初期濃度を含む初期溶銑データを取得するデータ取得機能と、取得された前記初期溶銑データ、並びに、前記転炉から排出された排ガスの成分および流量を含む時系列排ガスデータ、および前記転炉に投入された石灰石投入データに基づいて、上吹きランスから溶銑に供給された酸素と前記溶銑との酸化反応である火点反応と、前記火点反応が進行する領域である火点領域とは異なる領域において進行する前記溶銑とスラグとの界面における反応であるスラグメタル界面反応とが複合された複合反応モデルを用いて、溶銑Si濃度を逐次的に推定する溶銑Si濃度推定機能と、前記溶銑Si濃度が目標溶銑Si濃度に到達すると予定された時点である目標濃度到達時点に達したとき、前記目標濃度到達時点において前記溶銑Si濃度推定機能により推定された溶銑Si濃度と前記目標溶銑Si濃度との差に基づいて、溶銑Si濃度を調整するための操作内容を決定する適正化処理機能と、をコンピュータに実現させるためのプログラムが提供される。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、転炉を用いた吹錬による溶銑予備処理を制御する溶銑予備処理制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムが記録された記録媒体であって、少なくともSi、Fe、およびCを含む溶銑成分の初期濃度を含む初期溶銑データを取得するデータ取得機能と、取得された前記初期溶銑データ、並びに、前記転炉から排出された排ガスの成分および流量を含む時系列排ガスデータ、および前記転炉に投入された石灰石投入データに基づいて、上吹きランスから溶銑に供給された酸素と前記溶銑との酸化反応である火点反応と、前記火点反応が進行する領域である火点領域とは異なる領域において進行する前記溶銑とスラグとの界面における反応であるスラグメタル界面反応とが複合された複合反応モデルを用いて、溶銑Si濃度を逐次的に推定する溶銑Si濃度推定機能と、前記溶銑Si濃度が目標溶銑Si濃度に到達すると予定された時点である目標濃度到達時点に達したとき、前記目標濃度到達時点において前記溶銑Si濃度推定機能により推定された溶銑Si濃度と前記目標溶銑Si濃度との差に基づいて、溶銑Si濃度を調整するための操作内容を決定する適正化処理機能と、をコンピュータに実現させるためのプログラムが記録された記録媒体が提供される。
上記溶銑予備処理方法は、火点反応を表現する数理モデルとスラグメタル界面反応を表現する数理モデルとを複合させたモデルである複合反応モデルを用いて溶銑Si濃度を逐次的に推定する。これにより、脱珪反応の進行の程度を高精度で把握することが可能となる。また、推定結果から溶銑Si濃度を適正に調整するので、脱珪処理を適正化することが可能である。これにより、溶銑P濃度の制御を精度高く行いつつ、排滓処理を不要とするので、生産効率を向上させることが可能となる。
以上説明したように本発明によれば、脱珪処理の進行の程度を把握して溶銑Si濃度を適正に調整することが可能である。その結果、溶銑P濃度を精度高く制御し、かつ、生産効率を向上させることが可能となる。
本発明の一実施形態に係る火点反応およびスラグメタル界面反応の複合反応モデルの概要を示す図である。 式(6)により算出される脱炭速度ΔCに基づく脱炭酸素効率dC/dOの推移を示すグラフである。 式(8)により算出される脱炭速度ΔCに基づく脱炭酸素効率dC/dOの推移を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る溶銑予備処理システムの構成例を示す図である。 同実施形態に係る溶銑予備処理システムによる溶銑予備処理方法のフローチャートの一例を示す図である。 実施例および比較例に係るチャージに含まれる各成分の推定濃度を示すグラフである。 第1のチャージにおける各溶銑成分の酸素との反応における酸素分配率の変化を示すグラフである。 第2のチャージにおける各溶銑成分の酸素との反応における酸素分配率の変化を示すグラフである。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<<1.本実施形態に係る溶銑予備処理方法>>
本実施形態に係る溶銑予備処理システム1の構成、機能および処理の流れについて説明する前に、本実施形態に係る溶銑予備処理方法について説明する。なお、以下の説明においては、特記しない限り、各成分の濃度の単位である[質量%]は、[%]と記載する。本実施形態に係る溶銑予備処理方法は、溶銑Si濃度の推定、および当該推定の結果に基づく溶銑Si濃度の適正化により構成される。すなわち、本実施形態に係る溶銑予備処理方法では、まず、溶銑予備処理中の溶銑Si濃度の推定が行われ、そして溶銑Si濃度の推定結果を利用して、溶銑Si濃度の適正化のための操作が行われる。以下、順に説明する。
<1.1.溶銑Si濃度の推定>
まず、本実施形態における溶銑Si濃度の推定に用いられる複合反応モデルについて説明する。
(複合反応モデルの概要)
一般に脱りん反応は、スラグメタル界面において生じる。スラグメタル界面とは、転炉内における溶銑とスラグとの界面である。スラグメタル界面における反応(以下、「スラグメタル界面反応」と呼称する)を表現するモデル(いわゆる「競合反応モデル」)については、S.Ohguchi et. Al,“Simultaneous dephosphorisation and desulphurization of molten pig iron”,Ironmaking and Steelmaking,11,(1984),p.41に記載されている(以下、当該文献を「非特許文献」と呼称する)。この競合反応モデルは、スラグメタル界面における溶銑およびスラグに含まれる各成分の物質移動に適用することが可能である。つまり、上記の競合反応モデルを用いることにより、溶銑およびスラグ中の各成分の濃度を推定することはある程度可能である。
しかし、従来の競合反応モデルはあくまでもスラグメタル界面反応にのみ適用可能なモデルであり、吹錬により供給される酸素と溶銑との間で生じる酸化反応(いわゆる「火点反応」)は、競合反応モデルに反映されていない。そのため、例えば、火点反応により生じたSiO等の酸化物のスラグへの移動等が、従来の競合反応モデルには反映されていない。したがって、従来の競合反応モデルをそのまま、火点反応が伴う溶銑予備処理における溶銑およびスラグ中の各成分の濃度の推定に用いることは困難であった。
そこで、本発明者は、火点反応を表現する数理モデルと、火点反応が進行する領域とは異なる領域において進行する競合反応モデルをベースとしたスラグメタル界面反応を表現する数理モデルとを複合させた「複合反応モデル」を提案するに至った。以下、複合反応モデルについて具体的に説明する。
図1は、本実施形態に係る火点反応およびスラグメタル界面反応の複合反応モデルの概要を示す図である。図1に示すように、火点反応が起こる火点領域と、スラグメタル界面との間においては、溶銑に含まれる物質の移動が生じ得る。また、火点反応により生成されるSiOおよびFeO等の酸化物は、スラグメタル界面を介してスラグに流入する。これらの酸化物の物質移動量は、脱炭反応により生成されるCOまたはCO等の排ガスデータに基づいて算出される。この複数領域間における溶銑中の各成分の物質移動、および火点反応により生じた酸化物のスラグへの物質移動のそれぞれを考慮した反応モデルが、複合反応モデルである。
複合反応モデルは、火点反応における物質収支および熱収支、並びに、スラグメタル界面反応における物質収支および熱収支を複合させたモデルである。物質収支および熱収支とは、火点領域と、スラグ領域と、当該火点領域および当該スラグ領域のいずれでもない溶銑領域の3つの領域間における、各成分の物質移動および熱移動の収支である。複合反応モデルにおいては、火点反応により生成されるSiO等を含む酸化物のスラグメタル界面への物質移動が、競合反応モデルに組み込まれる。これにより、Siを含む溶銑およびスラグ中の各成分の濃度を高精度で推定することが可能であることを本発明者は見出した。また、火点反応において排ガスデータを利用することにより、火点反応により生成されるSiO等の酸化物の生成速度を高精度で推定することが可能であることを本発明者は見出した。以下、火点反応を表現する数理モデルとスラグメタル界面反応を表現する数理モデルとを複合させたモデルである複合反応モデルについて具体的に説明する。
なお、以下の説明においては、特に説明がない限り、[X]は溶銑に含まれる元素Xの濃度を表現し、(XO)はスラグに含まれる元素Xの酸化物XOの濃度を表現する。(XO)は下記式(2)の反応式によって表され、nは元素Xに応じて定まる値である。
Figure 0006825348
(火点反応)
まず、火点反応を表現する数理モデルについて説明する。火点領域においては、上吹きランス等から溶銑に酸素が供給されることにより、溶銑に含まれるSi、CおよびFeの酸化反応(火点反応)が生じる。Si、CおよびFeの火点反応による物質収支は、以下の式(3)〜(5)に表現される。式(3)は、脱珪反応による火点領域におけるSiの物質収支を示す。式(4)は、脱炭反応による火点領域におけるCの物質収支を示す。式(5)は、火点領域におけるFeの物質収支を示す。
Figure 0006825348
Figure 0006825348
Figure 0006825348
ここで、[Si]、[C]、および[Fe]は、火点領域における溶銑含有成分[%]である。[Si]、[C]、および[Fe]は、火点領域以外における溶銑含有成分[%]である。kSiは、脱珪反応速度定数[%/sec]である。ΔCは、排ガスデータから求めた脱炭速度[%/sec]である。ΔFeは、排ガスデータから求めたFeの酸化速度[%/sec]である。Vは、火点領域の溶銑堆積[m]である。また、Qは、転炉内の溶銑の還流量[m/sec]である。
上記脱炭速度ΔCは、排ガスデータに含まれる排ガスの成分および流量を用いることにより算出される。具体的には、下記式(6)に示すように、脱炭速度ΔCは、転炉11より排出される排ガスに含まれるCOまたはCOの少なくともいずれかを含むガス成分の流量等を用いることにより算出され得る。
Figure 0006825348
ここで、Qoffgasは、転炉より排出される排ガスの流量[Nm/hr]である。また、上記式(6)内のCO、およびCOは、転炉より排出されるCOの濃度、およびCOの濃度[%]である。また、Wは、火点領域における溶銑の重量[ton]である。
ところで、近年、式(1)の脱りん反応を促進させる副原料であるCaO源として、生石灰(酸化カルシウム:CaO)の代わりに、安価な石灰石(炭酸カルシウム:CaCO)が利用されることが多くなった。この場合、石灰石を転炉に投入した際に、石灰石の滓化に伴って、石灰石がCaOとCOに分解される。
そうすると、転炉より排出されるCOガスは、脱炭反応により生じるCOガスと石灰石の滓化により生じるCOガスとが混在する状態となる。したがって、単に転炉より排出される排ガスに係る排ガスデータを上記式(6)に適用させると、脱炭速度ΔCが実際よりも高く見積もられ得る。
そこで、本発明者は、脱炭反応により生じるCOガスと石灰石の滓化により生じるCOガスとを明確に区別して脱炭速度ΔCを算出する手法を開発した。具体的には、本発明者は、下記式(7)に示すように、式(6)に、石灰石の滓化の際におけるCOガスの発生を考慮した、石灰石滓化速度ΔWCaCO3[ton/sec]に係る変数を追加した。これにより、脱炭速度ΔCの精度を向上させることができる。
Figure 0006825348
なお、上記式(7)の石灰石滓化速度ΔWCaCO3の係数である0.12は、化学量論的に定められる定数である。また、石灰石滓化速度ΔWCaCO3は、一次遅れを仮定した下記式(8)により算出される。
Figure 0006825348
ここで、WCaCO3は石灰石投入量[ton]である。また、tは石灰石の投入時点を起点とする経過時間[sec]である。また、TCaCO3は時定数[sec]であり、適当な数値が用いられ得る。例えば、TCaCO3は60secであってもよい。
図2は、式(6)により算出される脱炭速度ΔCに基づく脱炭酸素効率dC/dOの推移を示すグラフである。また、図3は、式(7)により算出される脱炭速度ΔCに基づく脱炭酸素効率dC/dOの推移を示すグラフである。なお、本実施形態において、脱炭酸素効率dC/dO[%/(Nm/ton)]は、下記式(9)を用いて算出される。下記式(9)において、ΔOは酸素原単位[Nm/ton]である
Figure 0006825348
また、図2および図3に示す脱炭酸素効率dC/dOは、同一のチャージから得られる排ガスデータ等に基づいて算出されたものである。当該チャージでは、吹錬開始から100秒後に石灰石(5.1[kg/ton])が投入されている。
図2に示すグラフGr1を参照すると、石灰石の投入直後から脱炭酸素効率dC/dOが増加している。また、脱炭酸素効率dC/dOは、領域R1が示す範囲において(200秒経過前後)、脱炭酸素効率の最大理論値を上回っている。この結果から、石灰石を転炉に投入する場合において、石灰石の滓化を考慮していない式(6)を用いることは好ましくないことが分かる。
一方、図3に示すグラフGr2を参照すると、石灰石の投入以降においても、脱炭酸素効率dC/dOが横ばいの値を示していることが分かる。また、脱炭酸素効率dC/dOが、脱炭酸素効率の取り得る理論値の範囲内で推移していることが分かる。この結果から、石灰石を転炉に投入する場合において、石灰石の滓化を考慮した式(7)を用いることにより、妥当な脱炭酸素効率dC/dO(すなわち、脱炭速度ΔC)を算出できることが示された。
以降の説明では、式(7)で算出された脱炭速度ΔCを用いることを前提とする。
次に、Feの酸化速度ΔFeの算出方法について説明する。本実施形態においては、溶銑に供給された酸素は溶銑中のSi、C、およびFeにより全て酸化反応に用いられると仮定されている。一般的に、溶銑中のSiおよびCの酸化反応が、溶銑中のFeとの酸化反応と比較して、優先的に進行することが知られている。そのため、本実施形態では、溶銑中のSiまたはCと反応しなかった残留酸素のみが溶銑中のFeと反応すると仮定した。以上の仮定に基づき、本実施形態においてFeの酸化速度ΔFeは、下記式(10)に示すように、転炉内の溶銑に供給された酸素の供給量(FO[Nm/hr])から、脱珪反応および脱炭反応により消費された酸素量を差し引くことにより算出された酸素量から求められる。
Figure 0006825348
ただし、上記式(10)の右辺第1項の括弧内の値が0を下回る場合、つまり、下記式(11)を満たす場合、ΔFe=0とみなされる。
Figure 0006825348
このように、火点領域における溶銑中のSi、C、およびFeの物質収支の算出に、転炉から排出された排ガスに係る排ガスデータ、および転炉に投入された石灰石投入データを用いることにより、実際に火点反応において各溶銑成分と反応する酸素の量を推定することができる。これにより、火点領域における酸化反応のモデルをより忠実に表現することができ、各溶銑成分の濃度をより高精度に推定することが可能となる。
火点領域において酸化されるSiおよびFeの濃度変化(d[Si]/dt、およびd[Fe]/dt[%/s])は、火点反応を起因とするスラグ中のSiOおよびFeOの濃度変化に対応する。これは、火点領域において酸化反応により減少したSiおよびFeがSiOおよびFeOに変化し、スラグへと取り込まれるためである。よって、火点反応を起因とするスラグ中のSiOおよびFeOの、スラグの重量Wに対する濃度変化を、d(SiO2f)/dt、およびd(FeO)/dt[%/s]とすると、上記濃度変化は下記式(12)および式(13)により表現される。
Figure 0006825348
Figure 0006825348
以上説明したように、火点反応による火点領域における各成分の物質収支は、式(3)〜式(5)、式(12)、および式(13)により表現される。また、火点領域における熱収支は、火点反応により生じる酸化反応等の反応熱を考慮して、下記式(14)のように表現される。
Figure 0006825348
ここで、cpは、火点領域における溶銑の比熱[kcal/(kg・℃)]である。Tは、火点領域における溶銑の温度[℃]である。Hreac,fは、火点領域における反応熱[kcal/s]であり、例えば、[Si]、[C]、および[Fe]を用いて算出される。RQは、転炉内の還流による火点領域への流入熱量[kcal/s]であり、火点領域以外の領域における溶銑の温度Tの値を用いて算出される。RQは、転炉内の還流による火点領域からの流出熱量[kcal/s]であり、例えば、Tの値を用いて算出される。
以上より、火点領域における溶銑成分の挙動、および火点反応により生成されてスラグに流入する酸化物の挙動は、式(3)〜式(5)、式(7)、式(8)、式(10)〜式(14)により表現される。
(スラグメタル界面反応)
続いて、スラグメタル界面反応を表現する数理モデルについて説明する。まず、スラグメタル界面における溶銑成分に関する反応は、スラグメタル界面における溶銑成分の平衡濃度と火点領域以外における溶銑の濃度との差を推進力とする物質移動により表現される。すなわち、スラグメタル界面における溶銑に含まれる元素X(Si、C、Fe、Mn、P)の物質収支は、下記式(15)のように表現される。
Figure 0006825348
ここで、[X]は、火点領域以外の領域における溶銑に含まれる元素Xの濃度[%]である。Vは、火点領域以外の溶銑の体積[m]である。Aは、スラグメタル界面の界面積[m]である。Kは、溶銑成分である元素Xの物質移動係数[m/s]である。[X*]は、スラグメタル界面における溶銑に含まれる元素Xの平衡濃度[%]である。[X]は、火点領域における溶銑に含まれる元素Xの濃度[%]である。WX,SUBは、副原料の投入による溶銑成分である元素Xの濃度の増加を考慮するための投入項[%/s]である。
上記式(15)は、従来の競合反応モデルに加えて、火点領域から火点領域以外の領域に流動する溶銑成分の物質移動(Q×([X]−[X])に相当する)による物質収支を表現する。つまり、上記式(15)は、スラグメタル界面反応により進行する溶銑からスラグメタル界面への物質移動(A×K×([X]−[X*])に相当する)のみならず、火点領域から火点領域以外の領域への物質移動に基づいて溶銑中のSi、C、およびFeの成分の濃度変化を算出する。これにより、火点反応による溶銑中のSi、C、およびFeの成分の濃度変化の影響を、スラグメタル界面反応に反映させることができる。
なお、本実施形態に係る複合反応モデルでは、Si、C、およびFe以外の元素X(例えば、Mn、P)の酸化物は火点反応により生成されないと仮定されている。したがって、Si、C、およびFe以外の元素Xの物質収支について、上記式(15)における[X]−[X]の値は0となる。
また、非特許文献に記載されているように、スラグメタル界面における溶銑に含まれる元素Xの平衡濃度[X*]は、界面酸素濃度aoを用いることにより表現される。当該界面酸素濃度aoは、スラグメタル界面における酸素収支式により算出される(当該非特許文献参考)。
次に、スラグメタル界面におけるスラグ成分に関する反応は、溶銑成分に関する反応と同様に、スラグメタル界面におけるスラグ成分の平衡濃度とスラグのバルク内の成分の濃度との差を推進力とする物質移動により表現される。すなわち、スラグメタル界面におけるスラグ成分XO(SiO、FeO、MnO、PO2.5、AlO1.5、CaO等)の物質収支は、下記式(16)のように表現される。
Figure 0006825348
ここで、(XO)はスラグに含まれる元素Xの酸化物の濃度[%]である。Vは、スラグの体積[m]である。KXOnは、スラグ成分である酸化物XOの物質移動係数[m/s]である。(XO *)は、スラグメタル界面におけるスラグに含まれる元素Xの酸化物の平衡濃度[%]である。WXOn,SUBは、生石灰やスケール等の副原料の投入によるスラグ成分である酸化物XOの濃度の増加を考慮するための投入項[%/s]である。
また、スラグに含まれるSiOおよびFeOの濃度は、図1に示したように、火点反応により生じた酸化物のスラグへの流入によっても変化する。そのため、SiOとFeOの濃度変化については、スラグメタル界面反応による濃度変化のみならず、火点反応により生成された酸化物の生成速度を考慮する必要がある。そのため、SiOおよびFeOのスラグ中の濃度変化は、従来の競合反応モデルに、火点反応により生成された酸化物によるスラグ中の濃度変化の項を加えた下記式(17)および式(18)を用いて算出される。これにより、火点反応により生成された酸化物のスラグへの流入によるスラグ成分の濃度の変化を表現することができる。
Figure 0006825348
Figure 0006825348
なお、(SiO)はスラグ中のSiO濃度を表し、(SiO )はスラグメタル界面におけるSiOの平衡濃度を表す。また、(FeO)はスラグ中のFeO濃度を表し、(FeO)はスラグメタル界面におけるFeOの平衡濃度を表す。
以上説明したように、スラグメタル界面反応によるスラグメタル界面における各成分の物質収支は、式(15)〜式(18)により表現される。また、スラグメタル界面反応を構成する溶銑部分の熱収支、およびスラグ部分の熱収支は、スラグメタル界面反応により生じる反応等の反応熱を考慮して、下記式(19)、および式(20)のようにそれぞれ表現される。
Figure 0006825348
ここで、Wは火点領域以外の領域における溶銑の重量[ton]である。cpは、火点領域以外の領域における溶銑の比熱[kcal/(kg・℃)]である。Tは、火点領域以外の領域における溶銑の温度[℃]である。Hreacは、スラグメタル界面反応で生じた反応熱のうち溶銑に分配される反応熱[kcal/s]であり、スラグメタル界面反応に伴う各成分の物質移動に基づいて算出される。また、QSUBは、溶銑への副原料の溶解により生じる抜熱量[kcal/s]である。
Figure 0006825348
ここで、cpは、スラグの比熱[kcal/(kg・℃)]である。Tは、スラグの温度[℃]である。Hreac,Sは、スラグメタル界面反応で生じた反応熱のうちスラグに分配される反応熱[kcal/s]であり、スラグメタル界面反応に伴う各成分の物質移動に基づいて算出される。また、RQは、スラグ表面からの抜熱量[kcal/s]である。
以上より、火点反応による溶銑成分の挙動を含めたスラグメタル界面における溶銑成分およびスラグ成分の挙動は、式(15)〜式(20)により表現される。
以上説明したように、本実施形態に係る複合反応モデルは、火点反応を表現する式(3)〜式(14)(式(6)、式(9)を除く)と、火点反応を考慮した競合反応モデルにより構成されるスラグメタル界面反応を表現する式(15)〜式(20)とを複合させた数理モデルである。当該複合反応モデルに係る上記の連立方程式を逐次的に解くことにより、溶銑Si濃度を含む溶銑成分の濃度およびスラグ成分の濃度を推定する。例えば、上記複合反応モデルを用いて、溶銑Si濃度を逐次的に推定することが可能である。
<1.2.溶銑Si濃度の適正化>
次に、上述した溶銑Si濃度の推定結果を用いて、実際のチャージの溶銑Si濃度の適正化する処理について説明する。ここで、溶銑Si濃度の適正化とは、実際の脱珪処理において当初到達すべき目標溶銑Si濃度と溶銑Si濃度の推定値とが乖離している場合に、脱珪反応を促進させるための操作を行い、溶銑Si濃度を調整することを意味する。
本実施形態において、上述した操作とは、具体的には、脱珪反応を促進するために転炉内に酸素源を追加的に投入する操作を含む。この酸素源の追加投入に係る操作として、(1)鉄鉱石等の酸化鉄を含む副原料の投入、および(2)上吹きランスからの上吹き酸素流量の増加等が挙げられる。なお、酸化鉄を含む副原料は、鉄鉱石以外に、スケールまたは焼結鉱等、FeO、Fe、またはFeの組成を有する鉄系酸化物であれば、特に限定されない。このような酸化鉄を含む副原料は、従来、式(1)に示した脱りん反応を促進させるためのFeO源として期待されて用いられている。一方、本実施形態に係る溶銑予備処理方法においては、酸化鉄を含む副原料は、酸素源としての役割を有し、脱珪反応を促進させ、溶銑Si濃度の適正化のために用いられる。
本実施形態に係る溶銑Si濃度の適正化処理においては、目標溶銑Si濃度に到達すべき時点tにおける溶銑Si濃度の推定値と目標溶銑Si濃度との差を算出し、次に、当該差に基づいて上記の転炉の操業に係る操作量を決定する。操作量を溶銑Si濃度の推定値と目標溶銑Si濃度との差に基づいて算出することにより、脱珪処理を確実に促進させ、かつ、過剰操作による溶銑の熱損失または操業時間の長時間化等の生産効率の悪化を回避することができる。
ここで、目標溶銑Si濃度([XSiaim)に到達すべき時点(目標濃度到達時点と呼称する)tは、溶銑予備処理前に予め設定される、吹錬開始時tからの経過時間である。すなわち、脱珪処理の終了予定時点が、目標濃度到達時点tに相当する。本実施形態に係る目標濃度到達時点tは、溶銑予備処理前の溶銑Si濃度(すなわち初期溶銑Si濃度[XSit0)および、溶銑予備処理の操業条件(例えば、溶銑温度、塩基度等)に基づいて設定され得る。具体的には、目標濃度到達時点tは、下記の表1の例に示すように、初期溶銑Si濃度と溶銑温度に応じて適宜設定され得る。また、目標濃度到達時点tは、吹錬設備の仕様(例えば上底吹きガスの流量等)または製造する鋼種に応じて、過去の経験に基づき適宜設定され得る。
Figure 0006825348
本実施形態に係る適正化処理では、まず、目標濃度到達時点tにおける溶銑Si濃度の推定値[XSit1と、目標溶銑Si濃度[XSiaimとを比較する。ここで、溶銑Si濃度の推定値[XSit1が、目標溶銑Si濃度[XSiaim以下である場合(すなわち、[XSit1−[XSiaim≦0の場合)、脱珪処理が予定通り、または予定よりも早いペースで行われているため、溶銑Si濃度の適正化に係る操作は行われない。
一方、溶銑Si濃度の推定値[XSit1が、目標溶銑Si濃度[XSiaimを上回る場合(すなわち[XSit1−[XSiaim>0の場合)、上述した操作による溶銑Si濃度の適正化が行われる。
なお、目標溶銑Si濃度[XSiaimは、最終的に得られる鋼種等に応じて適宜決定される。例えば、目標溶銑Si濃度[XSiaimは、0.01%であってもよい。
以下では、実際の操作として、鉄鉱石等の酸化鉄を含む副原料を転炉内に投入する例について説明する。
転炉内に投入される副原料の投入量WFeOre[ton]は、目標濃度到達時点tにおいて溶銑中に存在すると考えられる余剰なSiを酸化させるのに必要な酸素量に基づいて決定され得る。具体的には、投入量WFeOreは、下記式(21)に基づいて決定され得る。
Figure 0006825348
ここで、αは換算係数[Nm/(%・ton)]であり、化学量論的に決定される値である。本実施形態に係る換算係数αは8.0とした。またWHMは溶銑の装入量[ton]であり、OFeOreは、副原料の酸素含有量[Nm/ton]である。
かかる鉄鉱石の投入により、転炉内の溶銑中に存在するSiが鉄鉱石に含有される酸素と反応して酸化される。すなわち、脱珪反応が促進されるので、溶銑Si濃度を目標溶銑Si濃度まで迅速に低下させ、脱珪反応終了時期を適正化することができる。よって、溶銑Si濃度が適正に調整されるので、溶銑P濃度を高精度に制御することが可能となる。
ただし、上述した鉄鉱石等の酸化鉄を含む副原料の投入量に対して、溶銑の熱的余裕がない場合がある。この場合、副原料の投入とともに、または副原料の投入に替えて、吹込み酸素量ΔOblowを増加する調整を行うことが好ましい。
例えば、下記式(22)が成立しない場合、すなわち、副原料の投入による溶銑温度の降下量[℃]が、溶銑温度THMおよび脱珪処理終了時点における目標温度Taim等、溶銑の熱収支に係る変数を独立変数とする関数fにより一意に定まる溶銑の熱余裕度[℃]よりも大きい場合、吹込み酸素量の増加分ΔOblowを増加する調整を行うことが好ましい。
Figure 0006825348
ここで、上記式(22)の左辺は、副原料の一例であるスクラップが溶銑重量WHMの1%だけ投入された場合に溶銑温度が20℃低下すると仮定した場合における、スクラップの投入による冷却効果を基準とする副原料の投入による溶銑温度の降下量を示している。また、γFeOreは、投入される副原料に応じて定められる冷却係数である。当該冷却係数γFeOreはスクラップの冷却効果を基準として定められている。すなわち、上記式(22)において、スクラップの冷却係数γScrapは1.0である。また、上記式(22)の左辺のWFeOreには、上記式(21)により算出されるWFeOreが代入される。
上記式(22)が成立しない場合は、副原料の投入を行うとともに、または副原料の投入に替えて、吹込み酸素流量を増加させる操業が行われ得る。まず、副原料の投入とともに吹込み酸素流量を増加させる場合、副原料の投入可能量W’FeOreは、下記式(23)により算出される。
Figure 0006825348
そして、吹込み酸素量の増加分ΔOblowは、下記式(24)により算出される。なお、下記式(24)の右辺第1項かっこ内のWFeOreには、上記式(21)により算出されるWFeOreが代入される。
Figure 0006825348
また、副原料の投入に替えて吹込み酸素量を増加させる操業を行う場合、吹込み酸素量の増加分ΔOblowは、下記式(25)により算出される。ただし、吹込み酸素量の増加は処理時間の延長を伴うため、熱余裕がある場合には鉄鉱石等の副原料を投入する操業を行うことが望ましい。
Figure 0006825348
以上の各式から算出される操作量に応じた操業を行うことにより、脱珪反応が促進される。これにより、溶銑Si濃度が適正化されるので、スラグの排滓処理を行うことなく、溶銑予備処理終了時における溶銑P濃度を高精度に制御することが可能となる。
以上、本実施形態に係る溶銑予備処理方法について説明した。
<<2.本実施形態に係る溶銑予備処理システム>>
<2.1.溶銑予備処理システムの構成>
次に、上述した本実施形態に係る溶銑予備処理方法を実現するためのシステムの一例について説明する。図4は、本発明の一実施形態に係る溶銑予備処理システム1の構成例を示す図である。図4を参照すると、本実施形態に係る溶銑予備処理システム1は、転炉吹錬設備10、溶銑予備処理制御装置20および計測制御装置30を備える。
(転炉吹錬設備)
転炉吹錬設備10は、転炉11、煙道12、上吹きランス13、排ガス成分分析計101および排ガス流量計102を備える。転炉吹錬設備10は、例えば、計測制御装置30より出力された制御信号に基づいて、上吹きランス13による溶銑への酸素の供給の開始および停止、冷材および副原料の投入、並びに、転炉11による溶銑およびスラグの排滓に関する処理を行う。転炉吹錬設備10には、上吹きランス13に対して酸素を供給するための送酸装置、転炉11に対して冷材を投入するための駆動系を有する冷材投入装置、並びに転炉11に対して副原料を投入するための駆動系を有する副原料投入装置等、一般的な転炉による吹錬に用いられる各種装置が設けられ得る。
転炉11の炉口からは吹錬に用いられる上吹きランス13が挿入されており、送酸装置から送られた酸素14が上吹きランス13を通じて炉内の溶銑に供給される。また、溶銑の撹拌のために、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス等が底吹きガス15として転炉11の底部から導入され得る。転炉11内には、高炉から出銑された溶銑、少量の鉄スクラップ、溶銑(溶鋼)温度を調整するための冷材、並びに石灰石等のスラグ形成のための副原料および溶銑Si濃度の適正化のための鉄鉱石等の酸化鉄を含む副原料が装入/投入される。なお、副原料が粉体である場合は、上吹きランス13を通じて酸素14とともに転炉11内に供給されてもよい。
溶銑中のSi等は供給された酸素と酸化反応し、酸化物が生成される。ここで生じた酸化物は、スラグとして安定化する。また、溶銑中のCは供給された酸素と酸化反応し、COまたはCOが生成され、排ガスとして転炉11から煙道12へ排出される。吹錬による酸化反応によって不純物の成分が除去され、溶銑中のCの量が制御されることにより、低炭素で不純物の少ない鋼が生成される。
転炉11において発生した排ガスは、転炉11外に設けられる煙道12へと流れる。煙道12には、排ガス成分分析計101、および排ガス流量計102が設けられる。排ガス成分分析計101は、排ガスに含まれる成分を分析する。排ガス成分分析計101は、例えば、排ガスに含まれるCOおよびCOの濃度を分析する。排ガス流量計102は、排ガスの流量を測定する。排ガス成分分析計101および排ガス流量計102は、所定のサンプリング周期(例えば5〜10sec周期)で、逐次的に、排ガスの成分分析および流量測定を行う。排ガス成分分析計101によって分析された排ガス成分に係るデータ、および排ガス流量計102によって測定された排ガス流量に係るデータ(以下、これらのデータを「排ガスデータ」と呼称する)は、計測制御装置30を介して溶銑予備処理制御装置20に、時系列データとして逐次出力される。その際、排ガス成分分析計101および排ガス流量計102より出力される排ガスデータの出力周期は、溶銑予備処理制御装置20による溶銑Si濃度の推定周期と同期し得る。
(溶銑予備処理制御装置20)
溶銑予備処理制御装置20は、データ取得部201、溶銑Si濃度推定部202、および適正化処理部203を備える。溶銑予備処理制御装置20は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ストレージおよび通信装置等のハードウェア構成を備え、これらのハードウェア構成によって、データ取得部201、溶銑Si濃度推定部202、適正化処理部203および溶銑予備処理データベース21の各機能が実現される。また、入出力部22は、キーボード、マウス、またはタッチパネル等の入力装置、ディスプレイ、またはプリンタ等の出力装置、および通信装置等により実現される。
溶銑予備処理制御装置20は、溶銑予備処理データベース21に格納されている各種データ、並びに排ガス成分分析計101および排ガス流量計102から取得される排ガスデータを入力値として、溶銑Si濃度を推定する。入力値とされるデータは、後述するデータ取得部201の有する機能により取得される。また、溶銑Si濃度は、後述する溶銑Si濃度推定部202の有する機能により推定される。また、溶銑予備処理制御装置20は、推定された溶銑Si濃度を、溶銑予備処理における操業の制御に用いる。具体的には、溶銑予備処理制御装置20は、推定された溶銑Si濃度と目標溶銑Si濃度との差に基づいて、上述した溶銑Si濃度を適正化するための操作の内容(例えば、操作タイミング、操作量)を決定する。当該適正化処理は、後述する適正化処理部203の有する機能により決定される。
なお、本実施形態に係る溶銑予備処理制御装置20の各機能部が有する具体的な機能については後述する。
また、溶銑予備処理制御装置20は、例えば、転炉11への酸素の吹込み、並びに冷材および副原料の投入等の溶銑予備処理に関するプロセス全体を制御する機能を有する。具体的には、溶銑予備処理制御装置20は、転炉11への吹込み酸素量、冷材の投入量(以降、冷材量と呼称する)および副原料の投入量等を決定する機能等を有する。これらの機能における具体的な処理としては、後述する適正化処理部203の有する機能により実現される処理を除いて、各種の公知の方法が適用され得るため、ここでは詳細な説明は省略する。
溶銑予備処理データベース21は、溶銑予備処理制御装置20において用いられる各種データを格納するデータベースであり、ストレージ等の記憶装置により実現される。溶銑予備処理データベース21は、例えば、図4に示したように、溶銑データ211、目標データ212、およびパラメータ213等を格納する。これらのデータは、不図示の入力装置や通信装置を介して追加、更新、変更、または削除されてもよい。溶銑予備処理データベース21に記憶されている各種データは、データ取得部201により呼び出される。なお、本実施形態に係る溶銑予備処理データベース21を有する記憶装置は、図4に示すように溶銑予備処理制御装置20と一体となって構成されているが、他の実施形態においては、溶銑予備処理データベース21を有する記憶装置は、溶銑予備処理制御装置20とは分離された構成であってもよい。
溶銑データ211は、転炉11内の溶銑に関する各種のデータである。例えば、溶銑データ211には、溶銑についての情報(チャージごとの初期の溶銑重量、溶銑成分(C、P、Si、Fe、Mn等)の濃度、溶銑温度、溶銑率等)が含まれる。溶銑データ211には、その他にも、一般的に溶銑予備処理および脱炭処理において用いられる各種の情報(例えば、副原料および冷材の投入についての情報(副原料および冷材量についての情報)、吹込み酸素量についての情報等)が含まれ得る。目標データ212には、溶銑予備処理時における溶銑中の目標成分濃度、目標濃度到達時点および目標温度等のデータが含まれる。パラメータ213は、後述する溶銑Si濃度推定部202および適正化処理部203において用いられる各種のパラメータである。例えば、パラメータ213には、脱珪反応速度定数等が含まれる。
入出力部22は、例えば、溶銑Si濃度推定部202による溶銑Si濃度の推定結果、および適正化処理部203により決定される操業に関する情報(操業開始タイミング、操業に係る操作量)等を取得し、各種出力装置に出力する機能を有する。例えば、入出力部22は、推定された溶銑Si濃度をオペレータに表示させてもよい。また、入出力部22は、後述する適正化処理部203により決定された操業に関する情報に基づいて、転炉吹錬の制御に関する指示を、計測制御装置30に出力してもよい。この場合、当該指示は、適正化処理部203により決定された操業に関する情報に基づいて自動的に生成される指示であってもよいし、表示された溶銑Si濃度の推定値に係る情報を閲覧したオペレータの操作により入力される指示であってもよい。また、入出力部22は、溶銑予備処理データベース21に格納されている各種データを追加、更新、変更、または削除するための入力インタフェースの機能を有してもよい。
(計測制御装置)
計測制御装置30は、CPU、ROM、RAM、ストレージおよび通信装置等のハードウェア構成を備える。計測制御装置30は、転炉吹錬設備10の備える各装置と通信し、転炉吹錬設備10の全体の動作を制御する機能を有する。例えば、計測制御装置30は、溶銑予備処理制御装置20からの指示に応じて、転炉11への冷材および副原料の投入、並びに上吹きランス13の酸素14の吹込みに係る操業を制御する。また、計測制御装置30は、排ガス成分分析計101、および排ガス流量計102等の転炉吹錬設備10の各装置から得られたデータを取得して、溶銑予備処理制御装置20に送信する。
<2.2.各機能部の構成および機能>
次に、本実施形態に係る溶銑予備処理制御装置20の各機能部の構成および機能について説明する。
再度図4を参照すると、本実施形態に係る溶銑予備処理制御装置20には、データ取得部201、溶銑Si濃度推定部202および適正化処理部203の各機能部が備えられる。
(データ取得部)
データ取得部201は、溶銑Si濃度を推定するための各種データ、および推定された溶銑Si濃度等を用いて転炉の操業の制御を行うための各種データを取得する。例えば、データ取得部201は、溶銑予備処理データベース21に記憶されている溶銑データ211、目標データ212およびパラメータ213を取得する。また、データ取得部201は、排ガス成分分析計101および排ガス流量計102から出力される排ガスデータを取得する。取得される排ガスデータは、時系列データである。すなわち、本実施形態に係るデータ取得部201は、排ガス成分分析計101および排ガス流量計102が逐次的に測定する排ガスデータを逐次的に取得する。
なお、データ取得部201は、上述した各種データ以外にも、溶銑予備処理に係る各種データを取得し得る。また、データ取得部201は、転炉吹錬設備10に備えられる各種装置から出力されるデータを、計測制御装置30を介して取得し得る。
データ取得部201は、取得した各種データを溶銑Si濃度推定部202および適正化処理部203にそれぞれ出力する。
(溶銑Si濃度推定部)
溶銑Si濃度推定部202は、データ取得部201から出力された各種データ等を用いて、溶銑Si濃度を推定する。すなわち、溶銑Si濃度推定部202は、上述した溶銑Si濃度の推定に係る機能を有する。具体的には、溶銑Si濃度推定部202は、溶銑予備処理データベース21に格納されている各種データ、一時点前に推定したSiを含む各溶銑成分の推定濃度、および排ガス成分分析計101および排ガス流量計102から取得した排ガスデータを式(3)〜式(20)(ただし式(6)、式(9)を除く)に代入して連立方程式を解くことにより、溶銑Si濃度[XSi]を逐次的に推定する。
(適正化処理部)
適正化処理部203は、溶銑Si濃度推定部202により推定された目標濃度到達時点tにおける溶銑Si濃度[XSit1と目標溶銑Si濃度[XSiaimとの差に基づいて、実際の溶銑Si濃度を調整するための操作内容を決定する機能を有する。すなわち、適正化処理部203は、上述した溶銑Si濃度の適正化に係る機能を有する。なお、当該操作内容には、操作を行うタイミング、および操作量が含まれる。
具体的には、適正化処理部203は、データ取得部201から出力された目標溶銑Si濃度[XSiaimおよび目標濃度到達時点tを取得し、目標濃度到達時点tにおける溶銑Si濃度[XSit1と目標溶銑Si濃度[XSiaimとの差を算出する。そして、適正化処理部203は、当該差に基づいて、適正化処理を行うか否かを判定する。例えば、[XSit1−[XSiaim≦0の場合、適正化処理部203は、溶銑Si濃度を調整するための操作を特に行わないことを決定する。一方で、[XSit1−[XSiaim>0の場合、適正化処理部203は、溶銑Si濃度を調整するための操作内容を決定する。
この場合、適正化処理部203は、目標濃度到達時点tを操作開始のタイミングとして、酸化鉄を含む副原料の投入量および/または上吹きランス13からの吹込み酸素量の増加量を決定する。当該投入量および増加量は、操作量の一例である。この操作量は、上述した式(21)〜式(25)により決定される。
適正化処理部203は、溶銑Si濃度を調整する操作を行う必要があると判定した場合、当該操作に係る指示を計測制御装置30に出力する。当該指示には、操作内容(すなわち、操作量等)が含まれる。計測制御装置30は、当該指示を受信して、当該指示に基づいて当該操作の制御を転炉吹錬設備10に対して行う。これにより、転炉吹錬設備10において、溶銑Si濃度を適正化するための操作が行われる。
以上、図4を参照して、本実施形態に係る溶銑予備処理制御装置20の各機能部の構成および機能について説明した。
<2.3.溶銑予備処理システムによる処理フロー>
図5は、本実施形態に係る溶銑予備処理システム1による溶銑予備処理方法のフローチャートの一例を示す図である。図5を参照しながら、本実施形態に係る溶銑予備処理システム1による溶銑予備処理方法の処理の流れについて説明する。なお、図5に示す各処理は、図4に示す溶銑予備処理制御装置20によって実行される各処理に対応している。そのため、図5に示す各処理の詳細については省略し、各処理の概要を説明するに留める。
本実施形態に係る溶銑予備処理方法では、まず、溶銑予備処理開始前に、溶銑予備処理データベース21に格納されたデータ等の各種データが取得される(ステップS101)。具体的には、ステップS101では、データ取得部201は、溶銑データ211、目標データ212、およびパラメータ213を取得する。
次に、溶銑予備処理が開始されると、排ガスデータが収集される(ステップS103)。具体的には、ステップS103では、データ取得部201は、排ガス成分分析計101および排ガス流量計102によって測定された排ガスデータを排ガス成分分析計101および排ガス流量計102から逐次的に取得する。
次いで、溶銑Si濃度が逐次的に推定される(ステップS105)。具体的には、ステップS105では、溶銑Si濃度推定部202は、上述した各種データ、および一時点前のSi含む各溶銑成分の推定濃度を複合反応モデルに適用させることにより、溶銑Si濃度を推定する。ステップS103およびステップS105に係る処理(排ガスデータ取得処理、溶銑Si濃度推定処理)は、目標濃度到達時点tに達するまで逐次的に繰り返し実行される(ステップS107/YES)。
次に、目標濃度到達時点tに達したとき(S107/NO)、溶銑Si濃度を調整するための操作を行うか否かが判定される(S109)。具体的には、適正化処理部203は、目標濃度到達時点tにおける推定された溶銑Si濃度[XSit1と目標溶銑Si濃度[Xsiaimとの差を算出し、当該差に基づいて溶銑Si濃度を調整するための操作内容を決定する。溶銑Si濃度[XSit1−濃度[Xsiaim≦0であれば(S109/NO)、当該操作は行わないと判定される。一方で、溶銑Si濃度[XSit1−濃度[Xsiaim>0であれば(S109/YES)、溶銑Si濃度を調整するための操作が行われる(S111)。具体的には、適正化処理部203は、当該操作に係る操作量等の操作内容を決定し、当該操作内容を含む指示を計測制御装置30に出力する。そして、計測制御装置30は、当該指示に基づいて転炉吹錬設備10に対する各種操作を制御する。
以上、図5を参照して、本実施形態に係る溶銑予備処理方法の処理の流れについて説明した。
<<3.まとめ>>
以上、本実施形態に係る溶銑予備処理方法、並びに当該溶銑予備処理方法を実現するための溶銑予備処理システムおよび溶銑予備処理制御装置について説明した。本実施形態によれば、溶銑Si濃度の推定、および推定結果を用いた実際の溶銑Si濃度の調整に係る操作の制御が行われる。かかる技術により、脱珪反応が芳しくない場合における脱珪処理を適正化させることが可能である。これにより、溶銑P濃度の制御を精度高く行いつつ、排滓処理を不要とするので、溶銑予備処理における生産効率を向上させることが可能となる。
また、溶銑Si濃度の調整に係る操作として、鉄鉱石等の酸化鉄を含む副原料を投入する操作が行われ得る。本実施形態においては、当該副原料は、脱りん反応を促進させるためのFeO源としてだけではなく、脱珪反応を促進させるための酸素源としても用いられ得る。
また、本実施形態に係る複合反応モデルは、転炉から排出されるCOガスを、脱りん反応を促進させるための安価な副原料として用いられ得る石灰石の溶解により生じるCOガスと、脱炭反応により生じるCOガスとに区別する。これにより、脱炭反応速度をより正確に推定することができる。ゆえに、副原料の投入コストを抑制しつつ、溶銑Si濃度の推定濃度の精度を向上させることが可能となる。
なお、図4に示す構成は、あくまで本実施形態に係る溶銑予備処理システム1の一例であり、溶銑予備処理システム1の具体的な構成はかかる例に限定されない。溶銑予備処理システム1は、本発明に係る溶銑予備処理方法を実現可能に構成されればよく、一般的に想定され得るあらゆる構成を取ることができる。
例えば、溶銑予備処理制御装置20が備える各機能は、1台の装置においてその全てが実行されなくてもよく、複数の装置の協働によって実行されてもよい。例えば、データ取得部201、溶銑Si濃度推定部202および適正化処理部203のうちの1又は複数のいずれかの機能のみを有する一の装置が、他の機能を有する他の装置と通信可能に接続されることにより、図示する溶銑予備処理制御装置20と同等の機能が実現されてもよい。
また、図4に示す本実施形態に係る溶銑予備処理制御装置20の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、PC等の処理装置に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
次に、本発明の実施例について説明する。本発明の効果を確認するために、本実施例では、上記実施形態に係る溶銑予備処理方法により推定される溶銑Si濃度に基づく溶銑Si濃度を調整するための操作の制御の有効性について検証した。なお、以下の実施例は本発明の効果を検証するために行ったものに過ぎず、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例および比較例として、上記実施形態に係る溶銑予備処理方法を適用させたチャージおよび適用させていないチャージのそれぞれについて、溶銑中のSi、FeOおよびPの推定濃度の推移を評価した。具体的には、実施例に係るチャージでは、目標濃度到達時点tにおける推定された溶銑Si濃度[XSit1と目標溶銑Si濃度[XSiaimとの差に基づいて算出された投入量の鉄鉱石を、目標濃度到達時点tにおいて転炉に投入する操作を行った。一方、比較例に係るチャージでは、推定された溶銑Si濃度[XSi]が目標溶銑Si濃度[XSiaimに到達した時点tにおいて、元々脱りん反応促進の目的で投入されるべき所定の投入量の鉄鉱石を転炉に投入する操作を行った。
本実施例および比較例に係る各チャージの初期の溶銑成分の濃度、溶銑温度、および溶銑予備処理時間を、表2に示す。
Figure 0006825348
なお、実施例に係るチャージにおいては、目標濃度到達時点t=280secであり、鉄鉱石の投入量は、式(21)による算出結果から表2に示すように13.7kg/tonとした。一方、比較例に係るチャージにおいては、推定された溶銑Si濃度[XSi]が目標溶銑Si濃度[XSiaimに到達した時点t=371secであり、鉄鉱石の投入量は表2に示すように4.4kg/tonとした。また、溶銑予備処理後の目標溶銑P濃度を0.025%と設定した。
以下、各チャージにおける各成分の推定濃度の推移を示す。図6は、実施例および比較例に係るチャージに含まれる各成分の推定濃度を示すグラフである。グラフAは、溶銑Si濃度の推定値の推移を示し、グラフBは、スラグ中FeO濃度の推定値の推移を示し、グラフCは、溶銑P濃度の推定値の推移を示す。また、グラフC中のX印は、溶銑予備処理後の溶銑P濃度の実績値を示す。
図6を参照すると、グラフCに示すように、実施例および比較例に係るチャージの溶銑予備処理終了時点における溶銑P濃度の推定値と、同時点における溶銑P濃度の実績値がほぼ同一であることが分かる。この結果から、上記の複合反応モデルを用いた推定方法により、溶銑P濃度を精度高く制御することができることが示された。
また、グラフAの領域R2に示されるように、実施例に係るチャージでは、目標濃度到達時点tにおいて鉄鉱石が投入されたタイミングで、溶銑Si濃度の推定値が急激に降下したことが分かる。これにより、溶銑Si濃度が目標溶銑Si濃度(0.01%)に短時間で到達したことが分かる。すると、グラフCに示すように、溶銑P濃度の下降が開始する時点が前倒しされた。すなわち、脱りん処理の開始が前倒しされた。さらに、グラフBに示すように、スラグ中FeO濃度が比較例に係るチャージと比較して実施例に係るチャージでは顕著に増加している。これにより、脱りん反応が促進され、溶銑P濃度の脱りん速度が大きいことが分かる。その結果、溶銑予備処理終了時点の溶銑P濃度は目標P濃度の0.025%を下回り、0.02%程度となった。
一方、比較例に係るチャージでは、推定された溶銑Si濃度[XSi]が目標溶銑Si濃度[XSiaimに到達した時点tで、実施例の場合よりも投入量の少ない鉄鉱石(元々脱りん反応促進の為に計画した量)を投入している。そのため、脱りん処理の開始時点が遅れ、また、脱りん処理における脱りん速度も低い。その結果、溶銑予備処理終了時点における溶銑P濃度は目標溶銑P濃度の0.025%を下回らなかった。
これらの結果から、上記実施形態に係る溶銑予備処理方法を適用することで、鉄鉱石が適切な量だけ投入されたため、脱珪処理が適正化されることが示された。また、その結果として、脱りん反応が促進されていることが示された。
また、本実施例に係るチャージの結果から、上記実施形態に係る溶銑予備処理方法を適用することにより、排滓処理を行わずに、十分に溶銑P濃度を目的溶銑P濃度以下に制御できることが示された。すなわち、溶銑予備処理における生産効率を向上することが可能なことが示された。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1 溶銑予備処理システム
10 転炉吹錬設備
11 転炉
12 煙道
13 上吹きランス
20 溶銑予備処理制御装置
21 溶銑予備処理データベース
22 入出力部
30 計測制御装置
101 排ガス成分分析計
102 排ガス流量計
201 データ取得部
202 溶銑Si濃度推定部
203 適正化処理部

Claims (7)

  1. 転炉を用いた吹錬による溶銑予備処理方法であって、
    少なくともSi、Fe、およびCを含む溶銑成分の初期濃度を含む初期溶銑データを取得するデータ取得ステップと、
    取得された前記初期溶銑データ、並びに、前記転炉から排出された排ガスの成分および流量を含む時系列排ガスデータ、および前記転炉に投入された石灰石の重量を含む石灰石投入データに基づいて、上吹きランスから溶銑に供給された吹込み酸素と前記溶銑との酸化反応である火点反応と、前記火点反応が進行する領域である火点領域とは異なる領域において進行する前記溶銑とスラグとの界面における反応であるスラグメタル界面反応とが複合された複合反応モデルを用いて、溶銑Si濃度を逐次的に推定する溶銑Si濃度推定ステップと、
    前記溶銑Si濃度が目標溶銑Si濃度に到達すると予定された時点である目標濃度到達時点に達したとき、前記目標濃度到達時点において推定された溶銑Si濃度と前記目標溶銑Si濃度との差に基づいて、溶銑Si濃度を調整するための操作を行う溶銑Si濃度適正化ステップと、
    を含む溶銑予備処理方法。
  2. 前記目標濃度到達時点は、溶銑予備処理前の溶銑Si濃度および溶銑予備処理の操業条件に基づいて設定される、請求項1に記載の溶銑予備処理方法。
  3. 前記操作は、酸化鉄を含む副原料を前記転炉に投入する操作を含む、請求項1または2に記載の溶銑予備処理方法。
  4. 前記操作は、前記上吹きランスから供給される吹込み酸素量を増加する操作を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶銑予備処理方法。
  5. 転炉を用いた吹錬による溶銑予備処理を制御する溶銑予備処理制御装置であって、
    少なくともSi、Fe、およびCを含む溶銑成分の初期濃度を含む初期溶銑データを取得するデータ取得部と、
    取得された前記初期溶銑データ、並びに、前記転炉から排出された排ガスの成分および流量を含む時系列排ガスデータ、および前記転炉に投入された石灰石投入データに基づいて、上吹きランスから溶銑に供給された酸素と前記溶銑との酸化反応である火点反応と、前記火点反応が進行する領域である火点領域とは異なる領域において進行する前記溶銑とスラグとの界面における反応であるスラグメタル界面反応とが複合された複合反応モデルを用いて、溶銑Si濃度を逐次的に推定する溶銑Si濃度推定部と、
    前記溶銑Si濃度が目標溶銑Si濃度に到達すると予定された時点である目標濃度到達時点に達したとき、前記目標濃度到達時点において前記溶銑Si濃度推定部により推定された溶銑Si濃度と前記目標溶銑Si濃度との差に基づいて、溶銑Si濃度を調整するための操作内容を決定する適正化処理部と、
    を備える溶銑予備処理制御装置。
  6. 転炉を用いた吹錬による溶銑予備処理を制御する溶銑予備処理制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって
    少なくともSi、Fe、およびCを含む溶銑成分の初期濃度を含む初期溶銑データを取得するデータ取得機能と、
    取得された前記初期溶銑データ、並びに、前記転炉から排出された排ガスの成分および流量を含む時系列排ガスデータ、および前記転炉に投入された石灰石投入データに基づいて、上吹きランスから溶銑に供給された酸素と前記溶銑との酸化反応である火点反応と、前記火点反応が進行する領域である火点領域とは異なる領域において進行する前記溶銑とスラグとの界面における反応であるスラグメタル界面反応とが複合された複合反応モデルを用いて、溶銑Si濃度を逐次的に推定する溶銑Si濃度推定機能と、
    前記溶銑Si濃度が目標溶銑Si濃度に到達すると予定された時点である目標濃度到達時点に達したとき、前記目標濃度到達時点において前記溶銑Si濃度推定機能により推定された溶銑Si濃度と前記目標溶銑Si濃度との差に基づいて、溶銑Si濃度を調整するための操作内容を決定する適正化処理機能と、
    をコンピュータに実現させるためのプログラム。
  7. 転炉を用いた吹錬による溶銑予備処理を制御する溶銑予備処理制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムが記録された記録媒体であって、
    少なくともSi、Fe、およびCを含む溶銑成分の初期濃度を含む初期溶銑データを取得するデータ取得機能と、
    取得された前記初期溶銑データ、並びに、前記転炉から排出された排ガスの成分および流量を含む時系列排ガスデータ、および前記転炉に投入された石灰石投入データに基づいて、上吹きランスから溶銑に供給された酸素と前記溶銑との酸化反応である火点反応と、前記火点反応が進行する領域である火点領域とは異なる領域において進行する前記溶銑とスラグとの界面における反応であるスラグメタル界面反応とが複合された複合反応モデルを用いて、溶銑Si濃度を逐次的に推定する溶銑Si濃度推定機能と、
    前記溶銑Si濃度が目標溶銑Si濃度に到達すると予定された時点である目標濃度到達時点に達したとき、前記目標濃度到達時点において前記溶銑Si濃度推定機能により推定された溶銑Si濃度と前記目標溶銑Si濃度との差に基づいて、溶銑Si濃度を調整するための操作内容を決定する適正化処理機能と、
    をコンピュータに実現させるためのプログラムが記録された記録媒体。
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