JP6812182B2 - 藻類増殖促進用資材 - Google Patents

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Description

本発明は、藻類増殖促進用資材に関する。
養殖池または閉鎖性水域(内湾、内海、湖沼等の水の出入りの悪い水域)において、水棲生物の養殖を行うに際し、餌の残渣や水棲生物の排泄物等に由来する、水溶性リン酸、アンモニア態窒素、及び硝酸態窒素等が水中に放出、蓄積されることで、養殖池等が富栄養状態となる場合がある。
養殖池等が富栄養状態となった場合、アオコ等が発生することで、水中の溶存酸素量が低下し、水棲生物にとって酸素不足となる。
これに対して、水中において、珪藻を増殖させることで、アオコ等の発生を抑制する方法が知られている。アオコ等と異なり珪藻の毒性は低く、また、各種の水棲生物は珪藻を餌として利用できることから、珪藻を増殖させることで、水棲生物の生存率および体重増加率を高めることができる。
水中の珪藻を増殖させる方法としては、例えば、水ガラスまたはシリカゲルを散布する方法、ケイ酸カルシウムを含む材料を散布する方法等が挙げられる。これらの方法によれば、珪藻の増殖に必要なケイ素(Si)が、水中にSiOとして放出されることによって、珪藻の増殖を促進して、アオコ等の発生を抑制することができる。
一方、アオコ等の発生に起因して、養殖池または閉鎖性水域の水質が変化する等によって、水底に堆積した有機質成分(餌の残渣や水棲生物の排泄物等に由来するもの)が分解すると、水中の溶存酸素量が更に低下し、嫌気性微生物が増殖する。その結果、水棲生物にとって有害な硫化水素が発生して、珪藻の減少や水棲生物の生存率の低下等の問題が生じる。
硫化水素の発生による問題を解決する方法としては、例えば、養殖池等の水を定期的に入れ替えて水質を維持する方法や、硫化水素が発生する水底に改質材料を散布する方法等が挙げられる。
養殖池等の水を定期的に入れ替える方法は、頻繁に実施する必要があり、ポンプの稼働コストが高いこと、および、大型の養殖池等は水量が多いため、水質改善するには時間がかかること、等の問題がある。
また、硫化水素の発生を抑制し、水底の底質や水質を改善する方法として、例えば、特許文献1には、製鋼スラグを含有する下部層を底泥中または底泥から突出するように形成し、その上に高炉水砕スラグを含有する上部層を形成することを特徴とする底質・水質浄化法が記載されている。
また、特許文献2には、高炉水砕スラグを破砕処理又は/及び分級して得られた細粒高炉水砕スラグ(A)を水底に投入し、底質の上層に捕捉された前記細粒高炉水砕スラグ(A)をその水硬反応により固結させ、しかる後、前記細粒高炉水砕スラグ(A)以外の覆砂材(B)を前記水底に投入することにより、細粒高炉水砕スラグ(A)による下部覆砂層と、覆砂材(B)による上部覆砂層とを有する覆砂層を形成することを特徴とする水底の覆砂方法が記載されている。
特開2001−252693公報 特開2007−61054公報
製鋼スラグや高炉水砕スラグ等のスラグを用いて、水質を改善する場合、スラグに含まれるフッ素、硫黄、アルミニウム等が溶出して、藻類や水棲生物の生育に悪影響を与えることがある。また、スラグに含まれるカルシウムにより、養殖池または閉鎖性水域の水のpHが強アルカリ性(例えば、12〜13程度)となり、藻類や水棲生物の生育に悪影響を与えることがある。
また、アオコ等の発生を抑制する目的で、藻類(例えば、珪藻)を増殖させるには、藻類の栄養成分であるケイ酸、及びカルシウムが、長期に亘って安定的に供給されることが望ましい。
本発明の目的は、藻類を増殖させるための水のpHが強アルカリ性(例えば、10.0以上)になること、及び、該水中に硫化水素が発生することを防ぐことができ、該水中にケイ酸、及びカルシウムを安定的に供給することができ、かつ、回収等が不要で、管理が容易な資材を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ケイ酸カルシウム含有材料、腐植物質、及び鉄化合物を含む藻類増殖促進用資材によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[8]を提供するものである。
[1] ケイ酸カルシウム含有材料、腐植物質、及び鉄化合物を含むことを特徴とする藻類増殖促進用資材。
[2] 上記ケイ酸カルシウム含有材料が、トバモライト、ゾノトライト、CSHゲル、フォシャジャイト、ジャイロライト、ヒレブランダイト、およびウォラストナイトからなる群より選ばれる1種以上を含み、かつ、上記腐植物質が、フミン酸、フルボ酸、およびヒューミンからなる群より選ばれる1種以上を含む前記[1]に記載の藻類増殖促進用資材。
[3] 上記鉄化合物が、硫酸鉄、塩化鉄、硝酸鉄、及び酢酸鉄からなる群より選ばれる1種以上を含む前記[1]または[2]に記載の藻類増殖促進用資材。
[4] 上記ケイ酸カルシウム含有材料100質量部に対して、上記腐植物質の量が1〜50質量部、上記鉄化合物の量が1〜50質量部である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の藻類増殖促進用資材。
[5] 上記藻類増殖促進用資材が、粉粒状、造粒物、またはペレット状物の形態を有する前記[1]〜[4]のいずれかに記載の藻類増殖促進用資材。
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載の藻類増殖促進用資材を用いた藻類の増殖方法であって、上記藻類を増殖させるための水の中に、上記藻類増殖促進用資材を供給して、上記藻類を増殖させることを特徴とする藻類の増殖方法。
[7] 上記藻類を増殖させるための水が、底質が嫌気状態である水域における水である前記[6]に記載の藻類の増殖方法。
[8] 上記藻類が、珪藻である前記[6]または[7]に記載の藻類の増殖方法。
本発明の藻類増殖促進用資材によれば、珪藻等の藻類を増殖させるための水(以下、「藻類増殖水」ともいう。)の中にケイ酸、及びカルシウムを安定的に供給して藻類の増殖を促進することができる。その結果、アオコ等の発生を抑制し、養殖池等の底質が嫌気状態になることを防いで、水棲生物の生育環境を改善することができる。
また、本発明の藻類増殖促進用資材によれば、アオコ等の発生を抑制することができるので、養殖池等の水中における硫化水素の発生を抑制することができる。また、本発明の藻類増殖促進用資材によれば、硫化水素の発生の抑制のためにスラグを用いなくてもよいので、養殖池等の水のpHが強アルカリ性(例えば、10.0以上)になることを防ぐことができる。
さらに、本発明の藻類増殖促進用資材は、徐々に溶けて最終的には消滅することから、回収や除去が不要であり、管理が容易である。
本発明の藻類増殖促進用資材は、ケイ酸カルシウム含有材料、腐植物質、及び鉄化合物を含むものである。
ケイ酸カルシウム含有材料とは、ケイ酸とカルシウムを含む化合物である。具体的にはトバモライト、ゾノトライト、CSHゲル、フォシャジャイト、ジャイロライト、ヒレブランダイト、及びウォラストナイト等からなる群より選ばれる1種以上を含むものである。
トバモライトとは、結晶性のケイ酸カルシウム水和物であり、Ca・(Si18)・4H2O(板状の形態)、Ca・(Si18)(板状の形態)、Ca・(Si18)・8H2O(繊維状の形態)等の化学組成を有するものである。
ゾノトライトとは、結晶性のケイ酸カルシウム水和物であり、Ca・(Si17)・(OH)2(繊維状の形態)等の化学組成を有するものである。
CSHゲルとは、αCaO・βSiO2・γH2O(ただし、α/β=0.7〜2.3、γ/β=1.2〜2.7である。)の化学組成を有するものである。具体的には、3CaO・2SiO2・3H2Oの化学組成を有するケイ酸カルシウム水和物等が挙げられる。
フォシャジャイトとは、Ca(SiO(OH)等の化学組成を有するものである。
ジャイロライトとは、(NaCa)Ca14(Si23Al)O60(OH)・14HO等の化学組成を有するものである。
ヒレブランダイトとは、CaSiO(OH)等の化学組成を有するものである。
ウォラストナイトとは、CaO・SiO(繊維状又は柱状の形態)等の化学組成を有するものである。
また、ケイ酸カルシウム含有材料として、トバモライトを主成分とする軽量気泡コンクリート(ALC)や、ゾノトライトを含む保湿材等の、ケイ酸カルシウムを含む建築材料(特に、端材や廃材)を用いてもよい。
中でも、入手の容易性および経済性の観点から、トバモライトを主成分とする軽量気泡コンクリート(ALC)を用いることが好ましい。また、廃棄物の利用促進の観点から、軽量気泡コンクリートの製造工程や建設現場で発生する軽量気泡コンクリートの端材を用いることが、より好ましい。
ここで、軽量気泡コンクリートとは、トバモライト、および、未反応の珪石からなるものであり、かつ、80体積%程度の空隙率を有するものである。ここで、空隙率とは、コンクリートの全体積中の、空隙の体積の合計の割合をいう。
軽量気泡コンクリート中のトバモライトの割合は、軽量気泡コンクリートの内部の空隙部分を除く固相の全体を100体積%として、65〜80体積%である。
軽量気泡コンクリートは、例えば、珪石粉末、セメント、生石灰粉末、発泡剤(例えば、アルミニウム粉末)、水等を含む原料(例えば、これらの混合物からなる硬化体)をオートクレーブ養生することによって得ることができる。
また、ケイ酸カルシウム含有材料は多孔質であることが好ましい。ケイ酸カルシウム含有材料が多孔質である場合、該材料を水中に添加した際に、該材料の多孔質部分に存在する空気が、水中に連行されることによって、水中の溶存酸素量の低下を防ぐことができる。
本発明で用いるケイ酸カルシウム含有材料は、粉粒状物であることが好ましい。
ここで、本明細書中、「粉粒状」とは、粉状の材料(0.1mm未満の粒度を有するもの;粉体)の集合体、粒状の材料(0.1mm以上の粒度を有するもの;粒体)の集合体、または、粉状の材料および粒状の材料を含む集合体の形態を有することを意味する。また、「粉粒状物」とは、粉体の集合体、粒体の集合体、または、粉体および粒体を含む集合体を意味する。さらに、「粒度」とは、粉体または粒体における最大寸法(例えば、断面がだ円である粉体においては、長軸の寸法をいう。)
ケイ酸カルシウム含有材料の粒度は、該材料に含まれる水溶性SiOの溶出量をより多くする観点から、好ましくは6mm以下、より好ましくは5mm以下、特に好ましくは4.5mm以下である。該粒度の下限値は、粉砕に要するエネルギーの削減の観点から、好ましくは0.05mm、より好ましくは0.1mm、特に好ましくは0.5mmである。
なお、水溶性SiOの溶出量が多くなれば、藻類(特に、珪藻)の成育がより安定し、その増殖がより促進される。
ケイ酸カルシウム含有材料の粒度分布は、水溶性SiOの溶出量を多くする観点から、好ましくは6mm以下の粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものであり、より好ましくは5mm以下の粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものであり、特に好ましくは4mm以下の粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものである。
本明細書中、粒度の値は、篩の目開き寸法に対応する値である。
本明細書中、「腐植物質」とは、土壌中の動植物等の遺体が、微生物による分解を経て形成された最終生成物をいい、様々な有機化合物を含むものである。
具体的には、フミン酸、フルボ酸、およびヒューミンからなる群より選ばれる1種以上を含むものである。中でも、藻類の生育性の観点から、フミン酸およびフルボ酸が好ましく、フミン酸がより好ましい。
なお、フミン酸とは、腐植物質を構成する成分の中でも、アルカリに溶け、酸に溶けない成分をいう。フルボ酸とは、腐植物質を構成する成分の中でも、アルカリ及び酸に溶ける成分をいう。ヒューミンとは、腐植物質を構成する成分の中でも、アルカリ及び酸に溶けない成分をいう。
本発明の藻類増殖促進用資材は腐植物質を含むため、藻類増殖水のpHを好ましくは10.0未満、より好ましくは3.5〜9.5、さらに好ましくは4.0〜9.0、さらに好ましくは5.0〜8.6、特に好ましくは5.8〜8.6にすることができる。なお、該pHは、長期に亘って養殖水が強アルカリ性になることを防ぐ観点から、本発明の藻類増殖促進用資材を供給後、好ましくは1日以上、より好ましくは2日以上、特に好ましくは6日以上経過した時点の数値である。
また、水中へのカルシウム、及びケイ酸の単位時間当たりの供給量を、長期に亘って安定的に維持することができる。
藻類増殖促進用資材において、ケイ酸カルシウム含有材料100質量部に対する腐植物質の量は、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは3〜45質量部、さらに好ましくは6〜42質量部、さらに好ましくは8〜37質量部、特に好ましくは15〜35質量部である。該量が1質量部以上であれば、水中へのカルシウム、ケイ酸、及び鉄の供給量を、長期に亘って安定的に維持することができる。また、藻類増殖水のpHが強アルカリ性(pH10.0以上)になることを防ぐことができる。該量が50質量部以下であれば、水のpHが強酸性(pH3.5未満)になることを防ぐことができる。
なお、本明細書中、強アルカリ性とは、pHが10.0以上のものを意味し、強酸性とは、pHが3.5未満であるものを意味する。
また、腐植物質の量が多くなるほど、水中へのカルシウム、ケイ酸、及び鉄の供給量が多くなる傾向にあることから、腐植物質の量を調整することによって、水中へのカルシウム、ケイ酸、及び鉄の供給量を調整することが可能である。
本発明の藻類増殖促進用資材は、鉄化合物を含むため、水中に該資材を供給することで、該資材から鉄(鉄イオン)が溶出する。
鉄化合物から水中に溶出した鉄イオンは、藻類の栄養成分として利用される。また、該鉄イオンは硫化物イオン(S2−)と反応するため、水中に硫化水素が発生することを防ぐことができる。
本発明で用いる鉄化合物は、2価の鉄化合物(第一鉄化合物)および3価の鉄化合物(第二鉄化合物)のいずれでもよい。
具体的には、本発明で用いる鉄化合物は、硫酸鉄(硫酸第一鉄、硫酸第二鉄)、塩化鉄(塩化第一鉄、塩化第二鉄)、硝酸鉄(硝酸第一鉄、硝酸第二鉄)、酢酸鉄(酢酸第一鉄、酢酸第二鉄)等からなる群より選ばれる1種以上を含むものである。
中でも、藻類の生育性、及び、鉄化合物から水中に溶出した3価の鉄イオン(2価の鉄イオンが酸化してなるものを含む)が、水酸化鉄(III)(Fe(OH))となって、水底に沈殿することから、2価の鉄化合物が好ましい。
藻類増殖促進用資材において、ケイ酸カルシウム含有材料100質量部に対する鉄化合物の量は、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは3〜45質量部、さらに好ましくは6〜42質量部、さらに好ましくは8〜37質量部、特に好ましくは15〜35質量部である。該量が1質量部以上であれば、水中への鉄の供給量を増やすことができる。また、硫化水素の発生をより防ぎ、藻類や水棲生物の生育環境をより改善することができる。該量が50質量部以下であれば、鉄化合物から水中に溶出した3価の鉄イオン(2価の鉄イオンが酸化してなるものを含む)が、水酸化鉄(III)となって、水底に沈殿することが起こりにくくなる。
本発明の藻類増殖促進用資材は、ケイ酸カルシウム含有材料と鉄化合物を含むため、水中へケイ酸、カルシウム及び鉄を供給して、藻類増殖水中の藻類(例えば、珪藻)の増殖を安定化および促進することができる。その結果、アオコ等の発生を防いで、水質の悪化を防ぐことができる。
藻類増殖促進用資材の形態は、特に限定されるものではなく、ケイ酸カルシウム含有材料、腐植物質および鉄化合物を混合してなる粉粒状の形態(粉粒状の混合物の形態)、該混合物を造粒してなる造粒物の形態、該混合物をペレット状に成形してなるペレット状物の形態等が挙げられる。
中でも、ケイ酸、カルシウムおよび鉄の供給量をより大きくする観点からは、ケイ酸カルシウム含有材料、腐植物質および鉄化合物を混合してなる粉粒状の形態が好ましい。
また、ケイ酸カルシウム含有材料、腐植物質および鉄化合物が水中において長期間に亘り分離しないようにする観点からは、造粒物の形態又はペレット状物の形態が好ましい。
ケイ酸カルシウム含有材料、腐植物質および鉄化合物を混合する方法は、特に限定されるものではなく、公知のミキサーを用いればよい。
ケイ酸カルシウム含有材料、腐植物質および鉄化合物を混合してなる粉粒状の混合物を造粒する方法としては、例えば、該混合物と水を混合してペースト状にし、次いで、ペースト状の混合物を造粒した後、乾燥する方法や、該混合物をパンペレタイザー等の造粒機を用いて、散水しながら造粒する方法等が挙げられる。散水しながら造粒する方法において、混合物の添加及び散水を繰り返すことで、得られる造粒物の粒度を調整することができる。また、造粒物の粒度を調整することで、水中におけるケイ酸、カルシウムおよび鉄の供給量を調整し、また、造粒物を水の中に沈降し易くすることができる。
ケイ酸カルシウム含有材料、腐植物質および鉄化合物を混合してなる粉粒状の混合物をペレット状物に成形する方法としては、例えば、該混合物、または、該混合物と水を混練してなる混練物を加圧して成形する方法等が挙げられる。
上記方法によって得られた造粒物やペレット状物は、水中において沈降することが好ましい。このため、造粒物やペレット状物の比重は、好ましくは1g/cm以上、より好ましくは1.2g/cm以上である。
本発明の藻類増殖促進用資材を、藻類を増殖させるための水(藻類増殖水)の中に供給することで、該水の中の藻類を増殖させることができる。
藻類としては、本発明の藻類増殖促進用資材によって、その増殖が促進されるものであればよく、例えば、珪藻が挙げられる。
藻類増殖水としては、特に限定されるものではなく、淡水、汽水および海水のいずれでも良い。また、藻類増殖水とは、上述した淡水等の水を収容した養殖池若しくは養殖槽、または、自然界における海水域若しくは河川域等であって、上記藻類が存在している水をいう。該藻類は、自然に存在するものであっても、人為的に投入されたものであってもよい。
本発明の藻類増殖促進用資材は、藻類の増殖を促進できる観点から、好ましくは、藻類が減少した海水域若しくは河川域、または、藻類の少ない養殖池若しくは養殖槽に供給する。
また、本発明の藻類増殖促進用資材は、水中に硫化水素(底質において増殖した嫌気性微生物に起因する硫化水素)が発生することを防いで、水棲生物への悪影響を少なくする観点から、好ましくは、底質が嫌気状態であり、硫化水素が発生している、または、硫化水素が発生する虞がある水域における水(藻類増殖水)に供給する。
なお、底質が嫌気状態になりやすい水域としては、養殖池、養殖槽、及び閉鎖性水域(内湾、内海、湖沼等の水の出入りの悪い水域)が挙げられる。
また、底質とは、養殖池等の水域において、水底を構成している表層をいう。
藻類増殖促進用資材を、藻類増殖水の中に供給する方法としては、藻類増殖促進用資材を、そのまま水中に散布する方法や、藻類増殖促進用資材を収容することができ、かつ、通水性を有する収容手段に、藻類増殖促進用資材を収容した後、水中に沈める方法等が挙げられる。
本発明の粉粒状の形態の藻類増殖促進用資材を、そのまま水中に散布する場合、該資材を構成するケイ酸カルシウム含有材料、腐植物質および鉄化合物が水中で分離しないようにする観点から、水深が浅い場所に藻類増殖促進用資材を投入することが好ましい。また、該資材を養殖池や養殖槽に投入する場合において、養殖池等に水を入れる前に、あるいは、養殖池等に水を入れ始めた後であってまだ水深が浅いときに、藻類増殖促進用資材を投入することが好ましい。
ここで、通水性を有する収容手段とは、例えば、セルロース繊維、ポリアミド合成繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維、アラミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維等の有機繊維や、ガラス繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ロックウール、スラグウール等の無機繊維等の繊維を用いた、織布または不織布からなる袋;鉄、プラスチック、木材、石材、陶磁器、または、セメント等の水硬性組成物を原料として形成した、収納スペースを有する容器等が挙げられる。
収容手段における通水性を有する部分は、収容手段の一部分(一領域)でもよいし、全体(全領域)であってもよい。
通水性を有する部分の目開きの寸法は、藻類増殖促進用資材の流出を防ぐ観点から、収容手段に収容された藻類増殖促進用資材が通過することができない寸法であることが好ましい。例えば、粒度が30mmである造粒物からなる藻類増殖促進用資材を収容する収容手段として、目開きの寸法が10mmであるネット状の袋を使用することができる。
収容手段に収容した藻類増殖促進用資材を、藻類増殖水の中に供給した後、該資材は、ケイ酸、カルシウムおよび鉄が水中に供給されるに従って、徐々に小さくなる。該資材の粒度が、収容手段の通水性を有する部分の目開き寸法よりも小さくなった場合、該資材は、該部分から落下する。該資材が収容手段の中で無くなった場合、新しい資材を収容手段の中に供給すればよい。新しい資材を供給すべき時期は、収容手段の中の藻類増殖促進用資材の目視等によって判断できる。
なお、収容手段の内部または水底に、小さくなった藻類増殖促進用資材が残存していても、時間が経てば自然に消滅するので、除去する必要はない。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)ケイ酸カルシウム含有材料:トバモライトを含む軽量気泡コンクリートを破砕した粒状のもの(以下、「ALC粒状物」ともいう。)、粒度:1〜4mm
(2)腐植物質A:フミン酸(和光純薬工業社製)
(3)腐植物質B:フルボ酸(日本フミン化学社製)
(4)腐植物質C:ヒューミン(土壌から抽出した腐植物質を酸およびアルカリに混合し、酸およびアルカリの両方に溶解せずに残存したもの)
(5)鉄化合物A:硫酸第一鉄(和光純薬工業社製)
(6)鉄化合物B:塩化第一鉄(和光純薬工業社製)
(7)硫化物:硫化水素ナトリウム(和光純薬工業社製)
[藻類増殖促進用資材A〜Kの作製]
上記材料を、表1に示す配合に従って混合して藻類増殖促進用資材A〜Kを得た。なお、藻類増殖促進用資材Kは、ケイ酸カルシウム含有材料のみからなるものである。
[実施例1]
蒸留水330ミリリットルに、藻類増殖促進用資材Aを、1.2g/リットルとなる量で投入した後、振とう機を用いて、70rpmの条件で攪拌して混合し、該資材と水の混合物を得た。
混合後、3時間、1日、2日、3日、7日、14日経過後の各時点における、混合物のpH、ケイ素(Si)濃度、カルシウム(Ca)濃度、鉄(Fe)濃度を測定した。なお、ケイ素濃度、カルシウム濃度、鉄濃度は、ICPを用いて測定した。
[実施例2〜10]
藻類増殖促進用資材Aの代わりに、表2〜5に示す種類の藻類増殖促進用資材(B〜J)を使用する以外は、実施例1と同様にして混合物を得た。
得られた混合物のpH等を実施例1と同様にして測定した。
[比較例1]
藻類増殖促進用資材の代わりに、藻類増殖促進用資材Kを用いる以外は、実施例1と同様にして混合物を得た。
得られた混合物のpH等を実施例1と同様にして測定した。
結果を表2〜5に示す。なお、表2〜5中、藻類増殖促進用資材A〜Kを資材A〜Kと示す。
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表2から、本発明の藻類増殖促進用資材を用いた場合(実施例1〜10)、3時間〜14日経過時のpHは、3.3〜9.9の範囲内であり、強アルカリ性(pHが10.0以上)でないことがわかる。特に、実施例3の混合物における3時間〜14日経過時のpHは、5.9〜8.4の範囲内であり、排水基準値であるpH5.8〜8.6の範囲内であることがわかる。
表3から、本発明の藻類増殖促進用資材を用いた場合(実施例1〜10)と、ケイ酸カルシウム含有材料のみを用いた場合(比較例1)を比較すると、実施例1〜10では、14日経過時におけるカルシウム濃度は、19.0〜83.2mg/リットルであり、比較例1(18.4mg/リットル)よりも多いことがわかる。また、1日経過以降であっても安定的にカルシウム濃度が多くなっていることから、長期に亘って安定的に、カルシウムを水中に供給できることがわかる。
表4から、本発明の藻類増殖促進用資材を用いた場合(実施例1〜10)と、ケイ酸カルシウム含有材料のみを用いた場合(比較例1)を比較すると、実施例1〜10では、14日経過時におけるケイ素濃度は、6.1〜19.6mg/リットルであり、比較例1(6.5mg/リットル)と同様以上であることがわかる。特に、実施例2〜10では、14日経過時におけるケイ素濃度は、7.0〜19.6mg/リットルであり、比較例1(6.5mg/リットル)よりも多いことがわかる。
また、1日経過以降であっても安定的にケイ素濃度が多くなっていることから、長期に亘って安定的に、ケイ酸を水中に供給できることがわかる。
表5から、本発明の藻類増殖促進用資材を用いた場合(実施例1〜10)、散布後3時間における鉄濃度は3.0〜50.0mg/リットルであり、比較例1(0.0mg/リットル)よりも多いことがわかる。また、2日間に亘って、鉄の持続的な溶出が確認できた。
また、実施例1〜4、6〜7から、腐植物質の量が増加すると、カルシウムおよびケイ素濃度が増加することがわかる。
さらに、実施例4と実施例5から、腐植物質の量が増加すると、鉄濃度が増加することがわかる。
実施例4、8、9より、配合する腐植物質の種類(フミン酸、フルボ酸、ヒューミン)によって、水中のpHや、カルシウム濃度、ケイ素濃度および鉄濃度の増加する程度が異なることがわかる。例えば、ヒューミンを用いた場合(実施例9)、カルシウム濃度およびケイ素濃度は、フミン酸を用いた場合(実施例4)およびフルボ酸を用いた場合(実施例8)よりも大きくなるが、鉄濃度は小さくなることがわかる。また、フミン酸を用いた場合(実施例4)、カルシウム濃度、ケイ素濃度および鉄濃度がバランスよく大きくなることがわかる。
これらのことから、配合する腐植物質の種類を選択することによって、水中のpHや、カルシウム濃度、ケイ素濃度および鉄濃度を調整できることがわかる。
また、硫酸第一鉄を用いた場合(実施例4、8、9)と、塩化第一鉄を用いた場合(実施例10)を比較すると、硫酸第一鉄を用いた場合、カルシウム濃度、ケイ素濃度および鉄濃度が、塩化第一鉄を用いた場合よりも大きくなることがわかる。
[実施例11]
藻類増殖促進用資材Aを入れた三角フラスコに、蒸留水に硫化水素ナトリウムを添加して、硫化物イオン(S2−)の濃度を2mg/リットルに調整してなる硫化物イオン含有水250ミリリットルを静かに注いだ。藻類増殖促進用資材Aの量は、上記硫化物イオン含有水に対して、1.2g/リットルとなる量であった。
シリコン栓を用いて三角フラスコに蓋をした後、三角フラスコの上部を持ってゆっくりと10回振って、藻類増殖促進用資材Aと硫化物イオン含有水を混合して、混合物を得た。
混合後、静置して、3時間、1日、2日経過後、各時点における、ろ過により得られたろ液のケイ素濃度、カルシウム濃度、硫化物イオン(S2−)濃度を測定した。
なお、ケイ素濃度、カルシウム濃度は、ICPを用いて測定した。硫化物イオン濃度は、「JIS K 0102(工場排水試験方法)」の39.1(メチレンブルー吸光光度法)に準拠して測定した。
[実施例12〜19]
藻類増殖促進用資材Aの代わりに、表6〜7に示す種類の藻類増殖促進用資材(B〜I)を用いる以外は、実施例11と同様にして混合物を得た。
得られた混合物のpH等を実施例11と同様にして測定した。
[比較例2]
藻類増殖促進用資材Aの代わりに、藻類増殖促進用資材Kを用いる以外は、実施例11と同様にして混合物を得た。
得られた混合物のpH等を実施例11と同様にして測定した。
結果を表6〜7に示す。なお、表6〜7中、実施例等で使用した藻類増殖促進用資材A〜Kを資材A〜Kと示す。
Figure 0006812182
Figure 0006812182
表7から、本発明の藻類増殖促進用資材を硫化物イオン含有水と混合した場合(実施例11〜19)、硫化物イオンの濃度が減少したことがわかる。具体的には、実施例11では2日経過後、実施例12〜13では1日経過後、実施例14〜19では3時間経過後に検出されなくなった。このことから、本発明の藻類増殖促進用資材には、硫化物イオンの低減する効果があり、水中における硫化水素の発生を防げることがわかる。
なお、ケイ酸カルシウム含有材料のみを用いた場合(比較例2)、硫化物イオンの減少はほとんど確認されなかった。
また、表6から、本発明の藻類増殖促進用資材を用いた場合(実施例11〜19)、3時間〜2日経過時のpHは、5.0〜8.8の範囲内であり、強アルカリ性(pHが10.0以上)でないことがわかる。
また、表6、7から、本発明の藻類増殖促進用資材を用いた場合(実施例11〜19)、カルシウム及びケイ酸を供給できることがわかる。なお、実施例1〜10と比較して、実施例11〜19におけるケイ素濃度およびカルシウム濃度が小さいのは、実施例11〜19では撹拌が行われなかったためである。

Claims (5)

  1. ケイ酸カルシウム含有材料、腐植物質、及び鉄化合物を含み、
    上記ケイ酸カルシウム含有材料が軽量気泡コンクリートの粉粒状物であり、上記腐植物質がフミン酸であり、上記鉄化合物が硫酸鉄であり、
    上記ケイ酸カルシウム含有材料100質量部に対して、上記腐植物質の量が15〜35質量部で、かつ、上記鉄化合物の量が15〜35質量部であることを特徴とする藻類増殖促進用資材。
  2. 上記藻類増殖促進用資材が、粉粒状、造粒物、またはペレット状物の形態を有する請求項に記載の藻類増殖促進用資材。
  3. 請求項1または2に記載の藻類増殖促進用資材を用いた藻類の増殖方法であって、上記藻類を増殖させるための水の中に、上記藻類増殖促進用資材を供給して、上記藻類を増殖させることを特徴とする藻類の増殖方法。
  4. 上記藻類を増殖させるための水は、底質が嫌気状態である水域における水である請求項に記載の藻類の増殖方法。
  5. 上記藻類が、珪藻である請求項またはに記載の藻類の増殖方法。
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