以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図1は、本実施の形態にかかる圧延設備1を含むH形鋼の製造ラインTについての説明図である。図1に示すように、製造ラインTには上流側から順に、加熱炉2、サイジングミル3、粗圧延機4、中間ユニバーサル圧延機5、仕上ユニバーサル圧延機8が配置されている。また、中間ユニバーサル圧延機5に近接してエッジャー圧延機9が設けられている。なお、以下では、説明のために製造ラインTにおける鋼材を、総称して「被圧延材A」と記載し、各図において適宜その形状を破線・斜線等を用いて図示する場合がある。
図1に示すように、製造ラインTでは、加熱炉2から抽出された例えばスラブ11等の被圧延材Aがサイジングミル3ならびに粗圧延機4において粗圧延される。次いで、中間ユニバーサル圧延機5において中間圧延される。この中間圧延時には、必要に応じてエッジャー圧延機9によって被圧延材の端部等(後述するフランジ部80)に対して圧下が施される。通常の場合、サイジングミル3及び粗圧延機4のロールには、合わせて4〜6個程度の孔型が刻設されており、これらを経由して複数パス程度のリバース圧延でH形粗形材13が造形され、該H形粗形材13を前記中間ユニバーサル圧延機5−エッジャー圧延機9の2つの圧延機からなる圧延機列を用いて、複数パスの圧下が加えられ、中間材14が造形される。そして中間材14は、仕上ユニバーサル圧延機8において製品形状に仕上圧延され、H形鋼製品16が製造される。
次に、以下では図1に示したサイジングミル3及び粗圧延機4に刻設される孔型構成や孔型形状について図面を参照して説明する。図2〜図6は粗圧延工程を行うサイジングミル3及び粗圧延機4に刻設される孔型についての概略説明図である。ここで、説明する第1孔型〜第4孔型は、例えばサイジングミル3に全て刻設されても良く、サイジングミル3及び粗圧延機4に第1孔型〜第5孔型の5つの孔型が分けて刻設されても良い。即ち、第1孔型〜第4孔型はサイジングミル3及び粗圧延機4の両方に亘って刻設されても良く、どちらか一方の圧延機に刻設されても良い。通常のH形鋼の製造における粗圧延工程では、これら各孔型において1又は複数パスでの造形が行われる。
また、本実施の形態では刻設される孔型が5つの場合を例示して説明するが、その孔型数についても、必ずしも5孔型である必要はなく、5以上の複数の孔型数であっても良い。即ち、H形粗形材13を造形するために好適な孔型構成であれば良い。なお、図2〜図6では、各孔型における造形時の被圧延材Aの概略最終パス形状を破線にて図示している。
図2は第1孔型K1の概略説明図である。第1孔型K1は、一対の水平ロールである上孔型ロール20と下孔型ロール21に刻設され、これら上孔型ロール20と下孔型ロール21のロール隙において被圧延材Aが圧下・造形される。また、上孔型ロール20の周面(即ち、第1孔型K1の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部25が形成されている。更に、下孔型ロール21の周面(即ち、第1孔型K1の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部26が形成されている。これら突起部25、26はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部25と突起部26とでそれぞれ等しく構成されている。突起部25、26の高さ(突出長さ)をh1とし、先端部角度をθ1aとする。
この第1孔型K1においては、突起部25、26が被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に押し当てられ、割り込み28、29が形成される。ここで、突起部25、26の先端部角度(ウェッジ角度とも呼称される)θ1aは例えば25°以上40°以下であることが望ましい。
ここで、第1孔型K1の孔型幅は、被圧延材Aの厚み(即ち、スラブ厚)とほぼ等しいことが好ましい。具体的には、第1孔型K1に形成された突起部25、26の先端部における孔型の幅と、スラブ厚を同一にすることで、被圧延材Aの左右センタリング性が好適に確保される。また、このような孔型寸法の構成とすることで、図2に示すように、第1孔型K1での造形時において、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)においては、上記突起部25、26及び孔型側面(側壁)の一部が被圧延材Aと接していて、割り込み28、29により4つの要素(部位)に分割されたスラブ上下端部に対して、第1孔型K1の上面及び底面にて積極的な圧下が行われない方が好ましい。孔型の上面及び底面による圧下は、被圧延材Aの長手方向への伸びを生じさせてしまい、フランジ(後述するフランジ部80)の生成効率を低下させてしまうからである。即ち、第1孔型K1においては、突起部25、26が被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に押し当てられ、割り込み28、29が形成される際の突起部25、26における圧下量(ウェッジ先端圧下量)は、スラブ上下端部における圧下量(スラブ端面圧下量)よりも十分に大きなものとされ、これにより割り込み28、29が形成される。
図3は第2孔型K2の概略説明図である。第2孔型K2は、一対の水平ロールである上孔型ロール30と下孔型ロール31に刻設される。上孔型ロール30の周面(即ち、第2孔型K2の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部35が形成されている。更に、下孔型ロール31の周面(即ち、第2孔型K2の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部36が形成されている。これら突起部35、36はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部35と突起部36とでそれぞれ等しく構成されている。これら突起部35、36の先端部角度は25°以上40°以下のウェッジ角度θ1bであることが望ましい。
なお、上記第1孔型K1のウェッジ角度θ1aは、フランジ相当部の先端部厚みを確保し、誘導性を高め、圧延の安定性を担保するために、後段の第2孔型K2のウェッジ角度θ1bと同じ角度であることが好ましい。
突起部35、36の高さ(突出長さ)h2は、上記第1孔型K1の突起部25、26の高さh1より高く構成されており、h2>h1となっている。また、突起部35、36の先端部角度は上記第1孔型K1の突起部25、26の先端部角度と同じであることが圧延寸法精度上、好ましい。これら上孔型ロール30と下孔型ロール31のロール隙において、上記第1孔型K1通材後の被圧延材Aが更に造形される。
ここで、第1孔型K1に形成される突起部25、26の高さh1より、第2孔型K2に形成される突起部35、36の高さh2の方が高く、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)への侵入長さも同様に第2孔型K2の方が長くなる。第2孔型K2での突起部35、36の被圧延材Aへの侵入深さは、突起部35、36の高さh2と同じである。即ち、第1孔型K1での突起部25、26の被圧延材Aへの侵入深さh1’と、第2孔型K2での突起部35、36の被圧延材Aへの侵入深さh2はh1’<h2との関係になっている。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面30a、30b及び孔型底面31a、31bと、突起部35、36の傾斜面とのなす角度θfは、図3に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
図3に示すように、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)へ押し当てられた時の突起部の侵入長さが長いことから、第2孔型K2においては、第1孔型K1において形成された割り込み28、29が更に深くなるように造形が行われ、割り込み38、39が形成される。なお、ここで形成される割り込み38、39の寸法に基づき粗圧延工程でのフランジ造形工程終了時のフランジ片幅が決定される。
図4は第3孔型K3の概略説明図である。第3孔型K3は、一対の水平ロールである上孔型ロール40と下孔型ロール41に刻設される。上孔型ロール40の周面(即ち、第3孔型K3の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部45が形成されている。更に、下孔型ロール41の周面(即ち、第3孔型K3の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部46が形成されている。これら突起部45、46はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部45と突起部46とでそれぞれ等しく構成されている。
上記突起部45、46の先端部角度θ2は、上記角度θ1bに比べ広角に構成され、突起部45、46の被圧延材Aへの侵入深さh3は、上記突起部35、36の侵入深さh2よりも短くなっている(即ち、h3<h2)。この角度θ2は例えば70°以上110°以下が好ましい。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面40a、40b及び孔型底面41a、41bと、突起部45、46の傾斜面とのなす角度θfは、図4に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
図4に示すように、第3孔型K3では、第2孔型K2通材後の被圧延材Aに対し、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)において第2孔型K2において形成された割り込み38、39が、突起部45、46が押し当てられることにより、割り込み48、49となる。即ち、第3孔型K3での造形における最終パスでは、割り込み48、49の最深部角度(以下、割り込み角度とも呼称する)がθ2となる。換言すると、第2孔型K2において割り込み38、39の形成と共に造形された分割部位(後述するフランジ部80に対応する部位)が外側に折り曲げられるような造形が行われる。
なお、図4に示す第3孔型K3での造形は複数パスによって行われる。
図5は第4孔型K4の概略説明図である。第4孔型K4は、一対の水平ロールである上孔型ロール50と下孔型ロール51に刻設される。上孔型ロール50の周面(即ち、第4孔型K4の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部55が形成されている。更に、下孔型ロール51の周面(即ち、第4孔型K4の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部56が形成されている。これら突起部55、56はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部55と突起部56とでそれぞれ等しく構成されている。
上記突起部55、56の先端部角度θ3は、上記角度θ2に比べ広角に構成され、突起部55、56の被圧延材Aへの侵入深さh4は、上記突起部45、46の侵入深さh3よりも短くなっている(即ち、h4<h3)。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面50a、50b及び孔型底面51a、51bと、突起部55、56の傾斜面とのなす角度θfは、上記第3孔型K3と同様に、図5に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
第4孔型K4では、第3孔型K3通材後の被圧延材Aに対し、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)において第3孔型K3において形成された割り込み48、49が、突起部55、56が押し当てられることにより押し広げられ、割り込み58、59となる。即ち、第4孔型K4での造形における最終パスでは、割り込み58、59の最深部角度(以下、割り込み角度とも呼称する)がθ3となる。換言すると、第3孔型K3において割り込み48、49の形成と共に造形された分割部位(後述するフランジ部80に対応する部位)が更に外側に折り曲げられるような造形が行われる。このようにして造形された被圧延材Aの上下端部の部位は、後のH形鋼製品のフランジに相当する部位であり、ここではフランジ部80と呼称する。
なお、図5に示す第4孔型K4での造形は複数パスによって行われる。
図6は第5孔型K5の概略説明図である。第5孔型K5は、一対の水平ロールである上孔型ロール85と下孔型ロール86から構成される。図6に示すように、第5孔型K5では、第4孔型K4までに造形された被圧延材Aが90°あるいは270°回転させられ、第4孔型K4までは被圧延材Aの上下端に位置していたフランジ部80が、圧延ピッチライン上に来るような配置となる。そして、第5孔型K5では、2か所のフランジ部80を繋ぐ接続部であるウェブ部82の圧下及びフランジ部80のフランジ先端部を圧下することでフランジ幅の寸法調整が行われる。このようにしていわゆるドッグボーン形状のH形粗形材(図1に示すH形粗形材13)が造形される。なお、この第5孔型K5はウェブ部82を圧下して減厚させることから、ウェブ減厚孔型あるいは平造形孔型とも呼称される。なお、この平造形孔型(第5孔型K5)における圧延造形は、1又は任意の複数パスで行われる。
このように造形されたH形粗形材13に対し、既知の圧延機である中間ユニバーサル圧延機5−エッジャー圧延機9の2つの圧延機からなる圧延機列を用いて、複数パスのリバース圧延が加えられ、中間材14が造形される。そして中間材14は、仕上ユニバーサル圧延機8において製品形状に仕上圧延され、H形鋼製品16が製造される(図1参照)。
上述したように、本実施の形態にかかる第1孔型K1〜第4孔型K4を用いて被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に割り込みを入れ、それら割り込みによって左右に分かれた各部分を左右に折り曲げる加工を行い、フランジ部80を形成するといった造形をすることで、被圧延材A(スラブ)の上下端面をほぼ上下方向に圧下することなくH形粗形材13の造形を行うことができる。即ち、従来行われていたスラブ端面を常に圧下する粗圧延方法に比べ、フランジ幅を広幅化させてH形粗形材13を造形することが可能となり、その結果、フランジ幅の大きな最終製品(H形鋼)を製造することができる。
ここで、本実施の形態に係るH形鋼の製造方法では、第1孔型K1及び第2孔型K2において被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に割り込みを入れ、それら割り込みによって左右に分かれた分割部位を第3孔型K3及び第4孔型K4において左右に折り曲げる加工を行うといった構成を採っている。このような圧延造形方法では、ウェッジ角度の変更に伴い、圧延造形される被圧延材Aの形状が大きく変化することから、圧延定常部に至る過程でロールと被圧延材Aの接触弧長が大きいにも関わらず、接触面積が狭くなる特徴があり、噛み込み性が悪いと同時に圧延の非対称条件によって圧延造形が不安定になり易いといった側面がある。
本発明者らの検証によれば、被圧延材Aの折り曲げ造形(即ち、第3孔型K3及び第4孔型K4での造形)を1パスで実施した場合、被圧延材Aの長手方向での噛み込み端における折り曲げ角度は、定常部での折り曲げ角度に比べて大きく、一方、被圧延材Aの長手方向での蹴出し端における折り曲げ角度は、定常部での折り曲げ角度に比べて小さいことが分かった。
図7は折り曲げ造形後の被圧延材Aの長手方向の様子を示す概略説明図である。図7に示すように、折り曲げ後の被圧延材Aの噛み込み端の折り曲げ角度をθT、定常部(長手方向の略中央部)の折り曲げ角度をθM、蹴出し端の折り曲げ角度をθBとすると、θT>θM>θBとの関係になるような造形が行われている。このような現象は、本実施の形態に係る第3孔型K3における折り曲げ造形と、第4孔型K4における折り曲げ造形の両方において見受けられる現象である。
上記現象は、被圧延材Aの長手方向での噛み込み端が、被圧延材Aの後続材に拘束された状態で折り曲げ造形が実施されるために、折り曲げ造形時の圧下によるメタルフローが長手方向に流れず、幅方向に拡がるためであると推定される。また、被圧延材Aの長手方向の蹴出し端は、後端にいくに従って後続材の影響が小さくなるために、長手方向へのメタルフローが生じやすく、折り曲げ造形時の圧下によるメタルフローがクロップとして圧延出側に流れるために十分な折り曲げが実施されないことに起因すると推定される。
図7に示すように、第4孔型K4までの圧延造形において、長手方向に寸法分布を持った被圧延材Aが造形された場合、後段の第5孔型K5(平造形孔型)での圧延造形では、ウェッジ角度が大きい噛み込み端(ウェッジ角度:θT)でフランジ部80の内側への倒れ込み現象が発生しやすく、この平造形孔型での圧延造形時や、後段の中間圧延時(ユニバーサル圧延時)に、フランジ先端部にすり下げ疵を発生させやすいといった問題点がある。
図8は、ウェッジ角度が大きい噛み込み端(ウェッジ角度:θT)が平造形圧延された場合の断面形状を示す概略説明図である。なお、図8においては、フランジ部80を拡大するように被圧延材Aの一部(1/4部分)を拡大して図示している。
ウェッジ角度が定常部よりも大きいθTである噛み込み端においては、図8に示すように、フランジ先端部が内側に張り出してしまうといった現象(いわゆるオーバーハング、図中破線部参照)が生じやすい。一旦張り出しが発生すると、次工程であるユニバーサル圧延(中間圧延)にて、フランジ内側にすり下げ疵を発生させてしまう可能性が極めて高い。また、フランジ部80の折れ曲がりといった形状不良も懸念される。
図7、図8を参照して上述した問題点に鑑み、本発明者らは、折り曲げ造形時の被圧延材Aの長手方向寸法変動の発生を抑制させるための技術について鋭意検討を行い、以下に説明する2つの対策により、当該問題点を解決することが可能であるとの知見を見出した。以下、本知見について説明する。
先ず、第3孔型K3や第4孔型K4での折り曲げ造形に起因する、被圧延材Aの長手方向寸法変動の発生について、ウェブ高さの変動を例に挙げて調査を行った。図9は、2000mm幅のスラブを素材とし、本実施の形態に係る圧延造形方法を以下の表1に示すパススケジュールでもって適用し、その中で第4孔型K4において折り曲げ造形を1パスで行った場合の被圧延材長手方向でのウェブ高さの変動を示す説明図であり、(a)は長手方向位置とウェブ高さとの関係を示すグラフ、(b)はウェブ高さの説明図である。なお、以下の表1に示すように、本調査では、第3孔型K3及び第4孔型K4でのパス回数は1パスとして折り曲げ造形を行った。ここで、表1のロール隙とは、孔型の上下ロールでのウェッジ先端間の距離で定義される。
図9(a)に示すように、同一の被圧延材Aの長手方向において、噛み込み端に近づく程、折り曲げ角度が大きくなり、その結果ウェブ高さは短くなっている。一方、蹴出し端に近づく程、折り曲げ角度が小さくなり、その結果ウェブ高さは長くなっている。なお、本明細書における「噛み込み端」については、図9に示すウェブ高さの値が略一定であるような被圧延材Aの長手方向部位を定常部とし(図9(a)参照)、孔型に対して噛み込む側の端部における定常部以外の寸法変動が見られる範囲を「噛み込み端」と記載し、孔型から蹴出しされる側の端部における定常部以外の寸法変動が見られる範囲を「蹴出し端」として記載している。
図9に示すように、2000mm幅のスラブを素材とし、表1に示すパススケジュールを適用した場合に、噛み込み端は約0.7〜0.8m、蹴出し端は約0.4〜0.5mである。このように、同一の被圧延材Aの長手方向においてウェブ高さが異なるといった、長手方向寸法変動が発生することに鑑み、本発明者らは、折り曲げ造形中のロール隙の変更を行うことで当該寸法変動を抑えることが可能であると考え、更なる検討を行った。
本発明者らの検討によれば、上述したように、本実施の形態に係る折り曲げ造形時には、被圧延材の長手方向寸法変動が顕著になり易い。そこで、図9(a)を参照して上述したように、寸法変動が特に顕著となる箇所が被圧延材の噛み込み端であることに鑑み、折り曲げ造形時に、上下孔型ロールのロール隙を好適なタイミングで開放することで噛み込み端での寸法変動を抑制させる技術を創案した。
図10は、ロール隙の開放に関する概略説明図である。具体的には、折り曲げ造形を行う孔型の一例としての第4孔型K4(上下孔型ロール50、51)での圧延造形でロール隙の開放を行う場合の説明図であり、側面から見た概略側面図である。なお、図10には説明のため、任意パスでの圧延造形前の被圧延材A(図中左側)と、当該パスでの圧延造形開始直後(図中中央)と、当該パスでの圧延造形終了後(図中右側)を図示している。
図10に示すように、折り曲げ造形を行う孔型(例えば第3孔型K3、第4孔型K4)において、造形開始時にはロール隙を開放しておき、噛み込み端の所定区間Lだけ被圧延材Aが孔型ロールを通過した後にロール隙を狭めて折り曲げ造形を行うことが望ましい。
このように実施される折り曲げ造形では、被圧延材Aに対して、噛み込み端の所定区間Lについては他の区間と比べて圧下量が少ない状態(あるいは圧下量が無い状態)で折り曲げ造形が実施される。これにより、図9(a)に示したような折り曲げ造形が過多となりウェブ高さ寸法が定常部に比べて短くなってしまうような、長手方向寸法変動を抑制させることができる。
一方、被圧延材Aの蹴出し端に関しては、定常部と同様のロール隙にて折り曲げ造形を行っても良いが、寸法変動の更なる抑制のためには、蹴出し端の所定区間圧下時のロール隙を、定常部に対するロール隙と比べて更に狭くなるような制御を行っても良い。これにより、被圧延材Aの蹴出し端に対しても長手方向寸法変動の抑制を図ることが可能となる。
ここで説明した折り曲げ造形中のロール隙の開放は、折り曲げ造形が複数パスで行われる場合の全パスに適用しても良く、一部パスに適用しても良い。また、複数パスでの折り曲げ造形において被圧延材Aをリバースさせる際には、それぞれの各パスにおける被圧延材Aの噛み込み端に対しロール隙の開放を適用することで、被圧延材Aの長手方向両端部に対して寸法変動の抑制が可能となる。
ここで、所定区間Lとしては、図9を参照して上述した、被圧延材長手方向における定常部を除く範囲とすることが望ましいがその範囲は適宜任意に設定することができる。また、素材寸法やパススケジュール等によっても所定区間Lは異なる場合があり、例えば図9及び表1に示したような条件では、噛み込み端における約0.7〜0.8m、蹴出し端における約0.4〜0.5mとすることが好ましい。
また、折り曲げ造形を過剰に行うと、次工程であるユニバーサル圧延(中間圧延)で疵が発生してしまうといった事情がある(図8参照)ことから、ロール隙開放の適用範囲である所定区間Lをある程度広めに設定し、ウェブ高さが定常部に比べて小さくなり過ぎるような寸法変動が抑制されるような構成にすることが望ましい。
図11は、上記表1に示す条件において、第4孔型K4での折り曲げ造形についてロール隙の開放及び締込を行った場合の被圧延材の長手方向位置とウェブ高さとの関係を示すグラフである。ここで、ロール隙の開放を行う所定区間Lの長さは、噛み込み端で0.8m、ロール隙の締込を行う所定区間Lの長さは蹴出し端で0.5mとした。また、ロール隙の開放及び締込量はいずれも20mmを最大値とし、定速度で上記表1に示すパススケジュール位置に一致するような設定とした。
図9(a)と図11を比較すると、ウェブ高さの寸法変動が噛み込み端及び蹴出し端の両方で縮小されていることがわかる。即ち、折り曲げ造形時に、所定区間Lにおいて、噛み込み端においては、孔型ロールのロール隙を開放し、蹴出し端においては、孔型ロールのロール隙を閉め込むといった本発明に係る技術を適用することで、被圧延材長手方向においてウェブ高さが異なるといった、長手方向寸法変動を縮小させるとの効果が検証された。なお、ここで図9や図11を参照して説明した所定区間Lやロール隙開放量といった各数値は、素材寸法や圧延パススケジュール等の種々の要因によって好適に最適化されるものであり、本発明範囲は上記検証条件に限られるものではない。
以上説明したロール隙の変更を実施するためには、折り曲げ造形を行う孔型(例えば第3孔型K3あるいは第4孔型K4)が刻設されるサイジングミル3及び粗圧延機4に関し、孔型ロールのロール隙を変更させるための機構を備えた構成とすることが望ましい。当該機構としては、例えば油圧式の圧下機構が挙げられる。
以上説明した、本実施の形態に係るH形鋼の製造方法によれば、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に割り込みを入れ、それら割り込みによって左右に分かれた各部分を左右に折り曲げる加工を行い、フランジ部80を形成するといった造形をすることで、被圧延材A(スラブ)の上下端面を上下方向にほぼ圧下することなくH形粗形材13の造形を行うことができる。即ち、従来行われていたスラブ端面を常に圧下する粗圧延方法に比べ、フランジ幅を広幅化させてH形粗形材13を造形することが可能となり、その結果、フランジ幅の大きな最終製品(H形鋼)を製造することができる。
更に、上記作用効果に加え、本実施の形態に係るH形鋼の製造方法において、上述した折り曲げ造形中のロール隙の変更を適用することで、同一の被圧延材Aの長手方向においてウェブ高さが異なるといった、長手方向寸法変動の発生を抑えることが可能となる。これにより、平造形孔型での圧延造形時や後段の中間圧延時(ユニバーサル圧延時)に、フランジ先端部にすり下げ疵を発生させてしまうといった問題が解消され、安定的にH形鋼製品の製造を行うことが可能となる。
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
上記実施の形態において、第1孔型K1〜第4孔型K4の4つの孔型を用いて被圧延材Aの造形を行い、その後、第5孔型K5を用いて平造形圧延を行う技術を説明したが、粗圧延工程を実施する孔型数はこれに限られるものではなく、第1孔型K1〜第4孔型K4に示す圧延造形工程を更に多くの孔型を用いて実施しても良い。即ち、上記実施の形態に示した孔型構成は一例であり、サイジングミル3や粗圧延機4に刻設される孔型の数は任意に変更可能であり、好適に粗圧延工程を実施することができる程度に適宜変更される。
折り曲げ造形を行う孔型についても、第3孔型K3及び第4孔型K4であるとして説明しているが、更に多くの孔型を用いて折り曲げ造形を行っても良い。
また、H形鋼を製造する際の素材としてはスラブを例示して説明したが、類似形状のその他素材についても本発明は当然適用可能である。即ち、例えばビームブランク素材を造形してH形鋼を製造する場合にも適用できる。