以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図1は、本実施の形態にかかる圧延設備1を含むH形鋼の製造ラインTについての説明図である。図1に示すように、製造ラインTには上流側から順に、加熱炉2、サイジングミル3、粗圧延機4、中間ユニバーサル圧延機5、仕上ユニバーサル圧延機8が配置されている。また、中間ユニバーサル圧延機5に近接してエッジャー圧延機9が設けられている。なお、以下では、説明のために製造ラインTにおける鋼材を、総称して「被圧延材A」と記載し、各図において適宜その形状を破線・斜線等を用いて図示する場合がある。
図1に示すように、製造ラインTでは、加熱炉2から抽出された例えばスラブ11等の被圧延材Aがサイジングミル3ならびに粗圧延機4において粗圧延される。次いで、中間ユニバーサル圧延機5において中間圧延される。この中間圧延時には、必要に応じてエッジャー圧延機9によって被圧延材の端部等(後述するフランジ部80)に対して圧下が施される。通常の場合、サイジングミル3及び粗圧延機4のロールには、合わせて4〜6個程度の孔型が刻設されており、これらを経由して複数パス程度のリバース圧延でH形粗形材13が造形され、該H形粗形材13を前記中間ユニバーサル圧延機5−エッジャー圧延機9の2つの圧延機からなる圧延機列を用いて、複数パスの圧下が加えられ、中間材14が造形される。そして中間材14は、仕上ユニバーサル圧延機8において製品形状に仕上圧延され、H形鋼製品16が製造される。
次に、以下では図1に示したサイジングミル3及び粗圧延機4に刻設される孔型構成や孔型形状について図面を参照して説明する。図2〜図7は粗圧延工程を行うサイジングミル3及び粗圧延機4に刻設される孔型についての概略説明図である。ここで、説明する第1孔型〜第4孔型は、例えばサイジングミル3に全て刻設されても良く、サイジングミル3及び粗圧延機4に第1孔型〜第5孔型の5つの孔型が分けて刻設されても良い。即ち、第1孔型〜第4孔型はサイジングミル3及び粗圧延機4の両方に亘って刻設されても良く、どちらか一方の圧延機に刻設されても良い。通常のH形鋼の製造における粗圧延工程では、これら各孔型において1又は複数パスでの造形が行われる。
また、本実施の形態では刻設される孔型の基本的な構成が6孔型である場合を例示して説明するが、その孔型数についても、必ずしも6孔型である必要はなく、6以上の複数の孔型数であっても良い。即ち、H形粗形材13を造形するために好適な孔型構成であれば良い。なお、図2〜図7では、各孔型における造形時の被圧延材Aの概略最終パス形状を破線にて図示している。
図2は第1孔型K1の概略説明図である。第1孔型K1は、一対の水平ロールである上孔型ロール20と下孔型ロール21に刻設され、これら上孔型ロール20と下孔型ロール21のロール隙において被圧延材Aが圧下・造形される。また、上孔型ロール20の周面(即ち、第1孔型K1の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部25が形成されている。更に、下孔型ロール21の周面(即ち、第1孔型K1の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部26が形成されている。これら突起部25、26はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部25と突起部26とでそれぞれ等しく構成されている。突起部25、26の高さ(突出長さ)をh1とし、先端部角度をθ1aとする。
この第1孔型K1においては、突起部25、26が被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に押し当てられ、割り込み28、29が形成される。第1孔型K1は、スラブ端面に溝(割り込み28、29)を付与する孔型であることから「溝付け孔型」とも呼称される。ここで、突起部25、26の先端部角度(ウェッジ角度とも呼称する)θ1aは例えば50°未満であることが望ましい。
ここで、第1孔型K1の孔型幅は、被圧延材Aの厚み(即ち、スラブ厚)とほぼ等しいことが好ましい。具体的には、第1孔型K1に形成された突起部25、26の先端部における孔型の幅と、スラブ厚を同一にすることで、被圧延材Aの左右センタリング性が好適に確保される。また、このような孔型寸法の構成とすることで、図2に示すように、第1孔型K1での造形時において、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)においては、上記突起部25、26及び孔型側面(側壁)の一部が被圧延材Aと接していて、割り込み28、29により4つの要素(部位)に分割されたスラブ上下端部に対して、第1孔型K1の上面及び底面にて積極的な圧下が行われない方が好ましい。孔型の上面及び底面による圧下は、被圧延材Aの長手方向への伸びを生じさせてしまい、フランジ(後述するフランジ部80)の生成効率を低下させてしまうからである。即ち、第1孔型K1においては、突起部25、26が被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に押し当てられ、割り込み28、29が形成される際の突起部25、26における圧下量(ウェッジ先端圧下量)は、スラブ上下端部における圧下量(スラブ端面圧下量)よりも十分に大きなものとされ、これにより割り込み28、29が形成される。
図3は第2−1孔型K2−1の概略説明図である。第2−1孔型K2−1は、一対の水平ロールである上孔型ロール30と下孔型ロール31に刻設される。上孔型ロール30の周面(即ち、第2−1孔型K2−1の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部35が形成されている。更に、下孔型ロール31の周面(即ち、第2−1孔型K2−1の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部36が形成されている。これら突起部35、36はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部35と突起部36とでそれぞれ等しく構成されている。これら突起部35、36の先端部角度は50°未満のウェッジ角度θ1bであることが望ましい。なお、これら突起部35、36等、各孔型に形成される突起部は、本明細書において「ウェッジ部」、「ウェッジ」とも呼称する場合がある。
ここで、突起部35、36のウェッジ角度θ1bの好適な数値範囲を50°未満とすべき理由と、それに合わせて上記第1孔型K1のウェッジ角度θ1aの数値も好適な数値範囲とする理由について説明する。
ウェッジ角度の下限値は通常ロールの強度により決まる。被圧延材Aがロール(第2−1孔型K2−1では上孔型ロール30及び下孔型ロール31、第1孔型K1では上孔型ロール20及び下孔型ロール21)と接触し、その間に受ける熱によりロールが膨張し、被圧延材Aがロールから離れるとロールが冷却され収縮する。造形中はこれらのサイクルが繰り返されるが、ウェッジ角度が小さすぎると、突起部の厚みが薄いために被圧延材Aからの入熱が当該突起部の左右から入りやすくなり、ロールがより高温になり易い。ロールが高温になると熱振れ幅が大きくなるためにヒートクラックが入り、ロール破損に至る恐れがある。このような理由によりウェッジ角度θ1a、θ1b共に25°以上、より好ましくは30°以上であることが望ましい。
一方、ウェッジ角度θ1a、θ1bが大きくなると、ウェッジ傾斜角が拡大するために、被圧延材Aに対して摩擦力による上下方向への押し下げ力が作用し易く、割り込み形成時にフランジ相当部の内面部において肉引けが生じ、特に第2−1孔型K2−1以降での造形においてフランジの生成効率が低下する。従って、ウェッジ角度θ1a、θ1bは50°未満であることが望ましい。
なお、上記第1孔型K1のウェッジ角度θ1aは、誘導性を高め、圧延の安定性を担保するためには、後段の第2孔型K2のウェッジ角度θ1bと同じ角度であることが好ましい。
突起部35、36の高さ(突出長さ)h2aは、上記第1孔型K1の突起部25、26の高さh1より高く構成されており、h2a>h1となっている。また、突起部35、36の先端部角度は上記第1孔型K1の突起部25、26の先端部角度と同じであることが圧延寸法精度上、好ましい。これら上孔型ロール30と下孔型ロール31のロール隙において、上記第1孔型K1通材後の被圧延材Aが更に造形される。
ここで、第1孔型K1に形成される突起部25、26の高さh1より、第2−1孔型K2−1に形成される突起部35、36の高さh2aの方が高く、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)への侵入長さも同様に第2−1孔型K2−1の方が長くなる。第2−1孔型K2−1での突起部35、36の被圧延材Aへの侵入深さは、突起部35、36の高さh2aと同じである。即ち、第1孔型K1での突起部25、26の被圧延材Aへの侵入深さh1’と、第2−1孔型K2−1での突起部35、36の被圧延材Aへの侵入深さh2aはh1’<h2aとの関係になっている。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面30a、30b及び孔型底面31a、31bと、突起部35、36の傾斜面とのなす角度θfは、図3に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
図3に示すように、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)へ押し当てられた時の突起部の侵入長さが長いことから、第2−1孔型K2−1においては、第1孔型K1において形成された割り込み28、29が更に深くなるように造形が行われ、割り込み38、39が形成される。この第2−1孔型K2−1は、「割り込み孔型」とも呼称される。
また、第2−1孔型K2−1での造形は多パスにより行われるが、当該多パス造形においては、最終パスにて被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と、それに対向する孔型上面30a、30b及び孔型底面31a、31bとが接触するような造形が行われる。これは、第2−1孔型K2−1での全てのパスにおいて被圧延材Aの上下端部と孔型内部とを非接触とすると、フランジ相当部(後述するフランジ部80に対応する部位)が左右非対称に造形されるといった形状不良が生じる恐れがあり、通材性の面で問題があるからである。
図4は第2−2孔型K2−2の概略説明図である。第2−2孔型K2−2は、一対の水平ロールである上孔型ロール40と下孔型ロール41に刻設される。上孔型ロール40の周面(即ち、第2−2孔型K2−2の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部45が形成されている。更に、下孔型ロール41の周面(即ち、第2−2孔型K2−2の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部46が形成されている。これら突起部45、46はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部45と突起部46とでそれぞれ等しく構成されている。これら突起部45、46の先端部角度は50°未満のウェッジ角度θ1bであり、上記第2−1孔型K2−1のウェッジ角度と同じ角度に設計されることが望ましい。
突起部45、46の高さ(突出長さ)h2bは、上記第2−1孔型K2−1の突起部35、36の高さh2aより高く構成されており、h2b>h2aとなっている。これら上孔型ロール40と下孔型ロール41のロール隙において、上記第2−1孔型K2−1通材後の被圧延材Aが更に造形される。
ここで、第2−1孔型K2−1に形成される突起部35、36の高さh2aより、第2−2孔型K2−2に形成される突起部45、46の高さh2bの方が高く、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)への侵入長さも同様に第2−2孔型K2−2の方が長くなる。第2−2孔型K2−2での突起部45、46の被圧延材Aへの侵入深さは、突起部45、46の高さh2bと同じである。即ち、第2−1孔型K2−1での突起部35、36の被圧延材Aへの侵入深さh2aと、第2−2孔型K2−2での突起部45、46の被圧延材Aへの侵入深さh2bはh2a<h2bとの関係になっている。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面40a、40b及び孔型底面41a、41bと、突起部45、46の傾斜面とのなす角度θfは、図4に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
図4に示すように、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)へ押し当てられた時の突起部の侵入長さが長いことから、第2−2孔型K2−2においては、第2−1孔型K2−1において形成された割り込み38、39が更に深くなるように造形が行われ、割り込み48、49が形成される。この第2−2孔型K2−2は、「割り込み孔型」とも呼称される。
なお、ここで形成される割り込み48、49の寸法に基づき粗圧延工程でのフランジ造形工程終了時のフランジ片幅が決定される。
また、第2−2孔型K2−2での造形は多パスにより行われるが、当該多パス造形においては、最終パスにて被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と、それに対向する孔型上面40a、40b及び孔型底面41a、41bとが接触するような造形が行われる。これは、第2−2孔型K2−2での全てのパスにおいて被圧延材Aの上下端部と孔型内部とを非接触とすると、フランジ相当部(後述するフランジ部80に対応する部位)が左右非対称に造形されるといった形状不良が生じる恐れがあり、通材性の面で問題があるからである。
図5は第3孔型K3の概略説明図である。第3孔型K3は、一対の水平ロールである上孔型ロール50と下孔型ロール51に刻設される。上孔型ロール50の周面(即ち、第3孔型K3の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部55が形成されている。更に、下孔型ロール51の周面(即ち、第3孔型K3の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部56が形成されている。これら突起部55、56はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部55と突起部56とでそれぞれ等しく構成されている。
上記突起部55、56の先端部角度θ2は、上記角度θ1bに比べ広角に構成され、突起部55、56の被圧延材Aへの侵入深さh3は、上記突起部45、46の侵入深さh2bよりも短くなっている(即ち、h3<h2b)。この角度θ2は例えば70°以上110°以下が好ましい。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面50a、50b及び孔型底面51a、51bと、突起部55、56の傾斜面とのなす角度θfは、図5に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
図5に示すように、第3孔型K3では、第2−2孔型K2−2通材後の被圧延材Aに対し、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)において第2−2孔型K2−2において形成された割り込み48、49が、突起部55、56が押し当てられることにより、割り込み58、59となる。即ち、第3孔型K3での造形における最終パスでは、割り込み58、59の最深部角度(以下、割り込み角度とも呼称する)がθ2となる。換言すると、第2−2孔型K2−2において割り込み48、49の形成と共に造形された分割部位(後述するフランジ部80に対応する部位)が外側に折り曲げられるような造形が行われる。この第3孔型K3は「折り曲げ孔型」とも呼称される。
また、図5に示す第3孔型K3での造形は少なくとも1パス以上によって行われ、このうちの少なくとも1パス以上は、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部(第3孔型K3の上面及び底面)が接触した状態で行われる。この被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部が接触した状態においては、当該端部の軽圧下が行われることが好ましい。
図6は第4孔型K4の概略説明図である。第4孔型K4は、一対の水平ロールである上孔型ロール60と下孔型ロール61に刻設される。上孔型ロール60の周面(即ち、第4孔型K4の上面)には、孔型内部に向かって突出する突起部65が形成されている。更に、下孔型ロール61の周面(即ち、第4孔型K4の底面)には、孔型内部に向かって突出する突起部66が形成されている。これら突起部65、66はテーパー形状を有しており、その突出長さ等の寸法は、突起部65と突起部66とでそれぞれ等しく構成されている。
上記突起部65、66の先端部角度θ3は、上記角度θ2に比べ広角に構成され、突起部65、66の被圧延材Aへの侵入深さh4は、上記突起部55、56の侵入深さh3よりも短くなっている(即ち、h4<h3)。
また、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に対向する孔型上面60a、60b及び孔型底面61a、61bと、突起部65、66の傾斜面とのなす角度θfは、上記第3孔型K3と同様に、図6に示す4箇所ともに約90°(略直角)に構成されている。
第4孔型K4では、第3孔型K3通材後の被圧延材Aに対し、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)において第3孔型K3において形成された割り込み58、59が、突起部65、66が押し当てられることにより押し広げられ、割り込み68、69となる。即ち、第4孔型K4での造形における最終パスでは、割り込み68、69の最深部角度(以下、割り込み角度とも呼称する)がθ3となる。換言すると、第3孔型K3において割り込み58、59の形成と共に造形された分割部位(後述するフランジ部80に対応する部位)が更に外側に折り曲げられるような造形が行われる。この第4孔型K4は「折り曲げ孔型」とも呼称される。
このようにして造形された被圧延材Aの上下端部の部位は、後のH形鋼製品のフランジに相当する部位であり、ここではフランジ部80と呼称する。
図6に示す第4孔型K4での造形は少なくとも1パス以上によって行われ、このうちの少なくとも1パス以上は、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部(第4孔型K4の上面及び底面)が接触した状態で行われる。この被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)と孔型内部が接触した状態においては、当該端部の軽圧下が行われることが好ましい。
図7は第5孔型K5の概略説明図である。第5孔型K5は、一対の水平ロールである上孔型ロール85と下孔型ロール86から構成される。図7に示すように、第5孔型K5では、第4孔型K4までに造形された被圧延材Aが90°あるいは270°回転させられ、第4孔型K4までは被圧延材Aの上下端に位置していたフランジ部80が、圧延ピッチライン上に来るような配置となる。そして、第5孔型K5では、2か所のフランジ部80を繋ぐ接続部であるウェブ部82の圧下及びフランジ部80のフランジ先端部を圧下することでフランジ幅の寸法調整が行われる。このようにしていわゆるドッグボーン形状のH形粗形材(図1に示すH形粗形材13)が造形される。なお、この第5孔型K5はウェブ部82を圧下して減厚させることから、「ウェブ減厚孔型」あるいは「平造形孔型」とも呼称される。なお、この平造形孔型(第5孔型K5)における圧延造形は、1又は任意の複数パスで行われる。
このように造形されたH形粗形材13に対し、既知の圧延機である中間ユニバーサル圧延機5−エッジャー圧延機9の2つの圧延機からなる圧延機列を用いて、複数パスのリバース圧延が加えられ、中間材14が造形される。そして中間材14は、仕上ユニバーサル圧延機8において製品形状に仕上圧延され、H形鋼製品16が製造される(図1参照)。
上述したように、本実施の形態にかかる第1孔型K1〜第4孔型K4を用いて被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)に割り込みを入れ、それら割り込みによって左右に分かれた各部分を左右に折り曲げる加工を行い、フランジ部80を形成するといった造形をすることで、従来行われていたスラブ端面を常に圧下する粗圧延方法に比べ、フランジ幅を広幅化させてH形粗形材13を造形することが可能となり、その結果、フランジ幅の大きな最終製品(H形鋼)を製造することができる。
ここで、上記説明した第1孔型K1〜第4孔型K4を用いた造形方法において、特に第2−1孔型K2−1や第2−2孔型K2−2といった割り込み孔型における造形では、被圧延材Aの上下端部(スラブ端面)において孔型と被圧延材Aをできるだけ接触させずに、積極的な圧下を行わないものとしている。これは、圧下により被圧延材Aの長手方向への伸びを生じさせ、フランジ相当部(即ち、後のフランジ部80)の生成効率が低下するのを避けるためである。更に、第2−1孔型K2−1や第2−2孔型K2−2では、被圧延材Aの側面を孔型によって拘束するといった構成は採っておらず、被圧延材Aの左右方向に関する溝ずれ等のセンタリング不良が懸念される。
加えて、第3孔型K3、第4孔型K4でも被圧延材Aの側面を孔型によって拘束するといった構成は採られないために、当該溝ずれ等のセンタリング不良は解消せず、製品形状不良につながってしまう恐れがある。
なお、溝ずれとは、第2−1孔型K2−1や第2−2孔型K2−2での圧延造形において、突起部によって割り込みを形成させる際に、形成された割り込みの中心部が、被圧延材Aの幅方向中心部に対してずれてしまう現象である(図8参照)。
本発明者らは、上述した第2−1孔型K2−1や第2−2孔型K2−2における溝ずれ等のセンタリング不良が生じる条件について更に検討を行い、以下のような知見を得た。即ち、第2−1孔型K2−1や第2−2孔型K2−2における突起部35、36(45、46)による被圧延材Aの誘導性には、当該突起部35、36(45、46)による圧延抵抗力(摩擦抵抗力)が関係しており、突起部35、36(45、46)の先端部分及び側面部分の摩擦抵抗に応じて誘導性が変わる。具体的には、例えば突起部35、36(45、46)の先端部分の曲率が同じである場合、圧延パスの進行による突起部35、36(45、46)の打ち込み長さ(割り込み長さ)が長くなる程、当該突起部35、36(45、46)の側面部分の摩擦抵抗が大きくなる。このような突起部35、36(45、46)による圧延抵抗力が高まった条件下において、圧延の対称性を損なう要素(温度、ロールのセットアップ等)が存在した場合、上記摩擦抵抗に比例して溝ずれ等のセンタリング不良が生じると考えられる。
このような知見に鑑み、本発明者らは、被圧延材Aの誘導性は、突起部35、36(45、46)による圧延抵抗力(摩擦抵抗力)に関係しており、突起部35、36(45、46)の先端部分及び側面部分の摩擦抵抗に応じて誘導性が変わることに着目し、突起部35、36(45、46)の形状に工夫を施し、突起部先端部分及び側面部分の摩擦抵抗を低減させる技術を創案した。以下では、図9〜10を参照して、割り込み孔型に形成された突起部の形状に改良を施し、当該突起部と被圧延材との間の摩擦抵抗を低減させることが可能な孔型構成について説明する。なお、以下では、上記説明した孔型構成のうち、割り込み孔型の第2−2孔型K2−2孔型に形成された突起部45、46の形状に改良を施した場合を例示して説明する。
図9は、改良後の突起部形状に関する概略説明図であり、本実施の形態で上述した第2−2孔型K2−2において、突起部45、46の形状に改良を施し、突起部45’、46’とした場合の構成を示す説明図である。なお、図9には、上方の突起部45’周辺を拡大した拡大図も併せて示している。
図9に示すように、改良後の突起部45’、46’は、孔型内部に向かって突出するテーパー形状の先端部45a(46a)と、テーパー形状を有さず厚みがほぼ一定であるような形状の根元部45b(46b)からなり、図示の通り、根元部45b(46b)の側方には被圧延材Aと孔型内面とが非接触であるような逃がし部90が形成されることになる。即ち、改良後の突起部45’、46’においては、突起部高さ方向において、被圧延材Aと接触する先端部45a(45b)の区間(高さh)と、非接触である根元部45b(46b)の区間(高さh’)とに分けられ、高さh’の区間において根元部45b(46b)の側方に逃がし部90が形成されることになる。なお、先端部45a(46a)の先端部角度(ウェッジ角度)は従前と同じくθ1bとされる。
以上図9を参照して説明した改良後の突起部45’、46’に係る構成を有する割り込み孔型においては、従前の突起部45、46に係る構成に比べ突起部側面と被圧延材Aとの接触長さ(以下、単に接触長さとも記載)が短くなっている。具体的に、図4に係る孔型構成と図9に係る孔型構成を比較すると、従前の突起部45、46における一方の側面での接触長さはh2b/cos(θ1b/2)であるのに対し、改良後の突起部45’、46’における一方の側面での接触長さはh/cos(θ1b/2)である。図9に示す通り、h2b>hであることから、改良後の突起部における接触長さは従前の接触長さに比べて短くなっていることは明らかである。
上述した通り、割り込み孔型における被圧延材Aの誘導性は、突起部による圧延抵抗力(摩擦抵抗力)に関係しており、突起部の先端部分及び側面部分の摩擦抵抗に応じて誘導性が変わることが分かっている。図9に示す改良後の突起部45’、46’を備えた孔型構成によれば、改良後の突起部における接触長さは従前の接触長さに比べて短くなっていることから、従前の構成に比べ突起部による圧延抵抗力(摩擦抵抗力)が低減され被圧延材Aの誘導性の向上が実現される。誘導性の向上に伴い、溝ずれ等のセンタリング不良や通材不良を抑制し、圧延の安定性を向上させることが可能となる。
ここで、本発明者らは、図9に示したような改良後の突起部45’、46’について、被圧延材Aの誘導性(通材性)をより向上させるための寸法条件等が存在すると考え、更なる検討を行った。具体的には、ウェッジ角度θ1b及びウェッジ先端曲率R等を所定の条件下とした場合の、先端部45a(46a)の最大幅長さB1の好適な範囲について検討を行った。なお、ウェッジ角度θ1b及びウェッジ先端曲率R等の所定の条件が定まっている場合、改良後の突起部45’、46’における先端部45a(46a)の高さh、根元部45b(46b)の高さh’の値は、上記B1が定まれば一義的に定まる。
先端部45a(46a)の最大幅長さB1の好適な範囲を定めるにあたり、本発明者らは、割り込み孔型での圧延造形によって生じる恐れのある溝ずれ等のセンタリング不良や通材不良を評価する指標としてウェッジ投影幅比Wを規定し、このウェッジ投影幅比Wの値と溝ずれ挙動(センタリング性に関する挙動)について検討を行った。なおウェッジ投影幅比Wは以下の式(1)で示される。
W=B/T ・・・(1)
B:ウェッジ投影幅、T:スラブ厚
なお、図10はウェッジ投影幅Bの説明図であり、ある所定のパスにおける割り込み孔型の突起部近傍を拡大した図である。
表1は、割り込み孔型での圧延造形において、ウェッジ角度θ1b(表中、単に角度と記載)、ウェッジ先端曲率R、ウェッジ高さH、スラブ厚Tを変化させた場合の溝ずれ挙動との関係を示すデータである。また、図11は、表1に記載のデータをプロットしたものであり、ウェッジ投影幅比Wと溝ずれ挙動との関係を示すグラフである。なお、表1及び図11における溝ずれ挙動の記載としては、+1が溝ずれ挙動が良好である場合を示し、0が溝ずれ挙動が許容範囲内である場合を示し、−1が溝ずれ挙動が変動大である場合(即ち、センタリング不良である場合)を示している。
溝ずれ挙動が許容範囲内である場合(表1、図11における溝ずれ挙動0)とは、具体的には、圧延造形時に溝ずれは発生するものの、当該溝ずれ量が30mm以下であり、後段の孔型(例えば第3孔型K3、第4孔型K4)や中間ユニバーサル圧延機5、仕上ユニバーサル圧延機8での圧延工程により、寸法矯正が可能な程度である場合を示している。
表1及び図11において、ウェッジ角度θ1bは30〜50°、ウェッジ先端曲率Rは10〜30mm、スラブ厚Tは250〜300mmとした。
幾何学上、同一ロール隙の状態でも、ウェッジ角度θ1bが大きくなる程、ウェッジ投影幅Bは大きくなり、ウェッジ投影幅比Wは大きくなる傾向がある。同様に、ウェッジ先端曲率Rが大きくなる程、ウェッジ投影幅Bは大きくなり、ウェッジ投影幅比Wは大きくなる傾向がある。また、スラブ厚Tが薄くなる程、ウェッジ投影幅比Wが大きくなる傾向がある。
また、表1及び図11に示すように、本実験・検討によれば、ウェッジ投影幅比Wが68%以下の範囲内に設定される条件下であれば、ウェッジ角度θ1b、ウェッジ先端曲率R、ウェッジ高さH、スラブ厚Tがどのような値であったとしても、溝ずれ挙動は良好(表1、図11中の+1表記)となっており、圧延の安定化が実現される。
一方、ウェッジ投影幅比Wが68%〜82%の範囲内に設定される条件下では、溝ずれ挙動が許容範囲内である場合と変動大である場合が混在しており、溝ずれ等のセンタリング不良や通材不良が十分に抑制されず、圧延の安定化が図られない。
更には、ウェッジ投影幅比Wが82%超の範囲に設定される条件下では、溝ずれ挙動が変動大となり、圧延の安定化が図られない。
表1及び図11を参照して説明したように、ウェッジ角度θ1bは30°以上50°未満、ウェッジ先端曲率Rは10〜30mm、スラブ厚Tは250〜300mmとの条件下においては、ウェッジ投影幅比Wを68%以下の範囲内に設定することで、溝ずれ挙動が良好に保たれ、圧延の安定化が実現されることが分かる。
以上説明したウェッジ投影幅比Wに関する条件を、本実施の形態に係る改良後の突起部45’、46’を有する孔型構成に適用し、先端部45a(46a)の最大幅長さB1を、以下の式(2)で定まるウェッジ投影幅比W(=B1/T)が68%以下の範囲となるような長さにすることが好ましいことが分かる。
W=B1/T ・・・(2)
ウェッジ角度θ1b、ウェッジ先端曲率R、スラブ厚Tが定まっている条件下において、先端部45a(46a)の好適な最大幅長さB1が決まることで、先端部45a(46a)の好適な高さも定まることになる。即ち、図9に示す先端部45a(46a)の高さhが定まり、突起部45(46)の全体の高さh2bも決まっていることから、根元部45b(46b)の高さh’も定まることになる。逃がし部90の高さは根元部45b(46b)の高さh’と同じ値であるため、溝ずれ挙動が良好に保たれる(即ち、ウェッジ投影幅比W(=B1/T)が68%以下となる)ような逃がし部90の高さh’の値が定まることになる。
また、本実施の形態に係る改良後の突起部45’、46’を有する孔型構成における先端部45a(46a)の最大幅長さB1は、第1孔型K1に形成された突起部25、26の最大幅長さB2(図2参照)よりも大きく設計される必要がある。これは、先端部45a(46a)の最大幅長さB1が突起部25、26の最大幅長さB2以下であった場合、前段において形成された割り込みを更に深くするような圧延造形(いわゆる割り込み圧延造形)が実現できない恐れがあるからである。
以上説明した、改良後の突起部45’、46’を備えた割り込み孔型による圧延造形を行うH形鋼の製造方法によれば、第2−1孔型K2−1や第2−2孔型K2−2といった割り込み孔型、特に第2−2孔型K2−2での圧延造形において従前の割り込み孔型に比べ突起部と被圧延材Aとの間の摩擦抵抗を低減させることが可能となるため、被圧延材Aの誘導性を向上させ、溝ずれ等のセンタリング不良や通材不良を抑制し、圧延の安定性を向上させることが可能となる。具体的には、ウェッジ角度θ1bが30°以上50°未満、ウェッジ先端曲率Rが10〜30mm、スラブ厚Tが250〜300mmとの条件下において、ウェッジ投影幅比W(=B1/T)が好適な範囲内(68%以下)となるように逃がし部90の高さh’(=根元部45b(46b)の高さh’)を設定することで、溝ずれ等のセンタリング不良や通材不良を抑制し、圧延の安定性を向上させることができる。
例えば、スラブ厚Tが250mmの素材を用い、フランジ幅450mmのH形鋼製品を製造する場合に、製品フランジ片幅はおよそ225mmである。粗圧延工程においてフランジ片幅は所望の値に造形されていることが圧延造形上好ましいため、粗圧延工程後のフランジ幅は、スラブ厚250mm+片幅225mm×2=700mmとなる。ここで、ウェッジ投影幅Bはウェッジ角度が30°の場合、700mm×1/2×sin(30°/2)×2≒181mmである。この時のウェッジ投影幅比Wは181/250≒0.73であり、本実施の形態で説明した範囲内(68%=0.68以下)とはなっておらず、溝ずれ挙動が生じる範囲内である(図11参照)。このような場合に、本実施の形態で説明した改良後の突起部45’、46’を備えた割り込み孔型設計を適用し、圧延造形を行うことで、ウェッジ投影幅比Wの値の増加を抑制させ、圧延安定性の向上が実現される。
また、例えば、スラブ厚Tが300mmの素材を用い、フランジ幅500mmのH形鋼製品を製造する場合に、製造フランジ片幅は250mmである。粗圧延工程においてフランジ片幅は所望の値に造形されていることが圧延造形上好ましいため、粗圧延工程後のフランジ幅は、スラブ厚300mm+片幅250mm×2=800mmとなる。ここで、ウェッジ投影幅Bはウェッジ角度が30°の場合、800mm×1/2×sin(30°/2)×2≒207mmである。この時のウェッジ投影幅比Wは207/300=0.69であり、本実施の形態で説明した範囲内(68%=0.68以下)とはなっておらず、溝ずれ挙動が生じる範囲内である(図11参照)。このような場合に、本実施の形態で説明した改良後の突起部45’、46’を備えた割り込み孔型設計を適用し、圧延造形を行うことで、ウェッジ投影幅比Wの値の増加を抑制させ、圧延安定性の向上が実現される。
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施の形態においては、第1孔型K1〜第4孔型K4として図示・説明した孔型群を用いて被圧延材Aの造形を行い、その後、第5孔型K5を用いて平造形圧延を行う技術を説明したが、粗圧延工程を実施する孔型数はこれに限られるものではなく、更に多くの孔型を用いて実施しても良い。即ち、上記実施の形態に示した孔型構成は一例であり、サイジングミル3や粗圧延機4に刻設される孔型の数は任意に変更可能であり、好適に粗圧延工程を実施することができる程度に適宜変更される。
また、上記実施の形態では、割り込み孔型としてウェッジ高さの異なる第2−1孔型K2−1及び第2−2孔型K2−2が刻設されているものとして説明した。その場合、上述したように第2−2孔型K2−2において改良された形状の突起部45’、46’が形成されても良く、また、同様の形状の突起部が第2−1孔型K2−1にも形成されても良い。特に、後段の第2−2孔型K2−2に形成される突起部を改良した形状(突起部45’、46’)とすることで、割り込み圧延の最終段階において被圧延材Aの十分な誘導性を担保することができるため、圧延の安定性をより高めることが可能となる。
また、割り込み孔型を1孔型のみとし、当該割り込み孔型に形成される突起部について、上記実施の形態で説明した改良を施すといった事もできる。製造するH形鋼製品の寸法がそれ程大型でない場合には、割り込み孔型を1孔型とした孔型構成であっても十分な寸法精度での圧延造形が可能であり、且つ、孔型を刻設するロールに関し大幅なロール胴幅の削減、ロール胴幅寸法の効率化が図られる。
(本発明の変形例)
上記実施の形態では、割り込み孔型としてウェッジ高さの異なる第2−1孔型K2−1及び第2−2孔型K2−2が刻設されている場合を図示し説明したが、これらの孔型では、被圧延材Aの側面を孔型によって拘束するといった構成を採っていないために、被圧延材Aの左右方向に関する溝ずれ等のセンタリング不良が懸念され、これにより、造形されるフランジ相当部の厚みが上下左右方向において不均一になり、特にフランジ左右厚みに差異が生じ易いといった事が問題となる場合がある。特に、例えば、フランジ幅を500mm以上に造形するために第2−1孔型K2−1の突起部高さと第2−2孔型K2−2の突起部高さとの差が大きい場合や、スラブ厚260mm未満の素材から製品フランジ幅400mm以上の大型H形鋼製品を製造する場合には、このような問題が顕著に起こり易い。
また、ロール胴長制約等の理由により割り込み孔型が1孔型しか刻設できない場合も考えられる。そのような場合には、被圧延材の誘導性が不十分となり、溝ずれ等に起因し、造形されるフランジ相当部の厚みが上下左右方向において不均一になり、特にフランジ左右厚みに差異が生じるといった問題が懸念される。
上記問題点に鑑み、本発明の変形例として、割り込み孔型の左右に形成されている孔型側面が被圧延材Aを拘束するように、当該被圧延材Aに当接する構成(いわゆる袋孔型形状)が創案される。
図12は、本発明の変形例に係る孔型構成の概略説明図であり、いわゆる袋孔型形状である割り込み孔型120において、上記実施の形態で説明した改良後の突起部形状を適用した場合の概略図である。図12に示す通り、袋孔型形状の割り込み孔型120においては、孔型側面122及び123が被圧延材Aを拘束するように孔型の左右に形成されている。
被圧延材Aにおける孔型側面122、123との当接箇所は、第1孔型K1で造形され、割り込み孔型120に導入された直後の被圧延材Aの厚みにおいて最も厚みが大きい箇所とすることが望ましく、その箇所は、通常、被圧延材Aのフランジ相当部(後のフランジ部80)の外側面の中央部近傍である。
また、図12に示す孔型構成において、孔型側面122、123の形状は、被圧延材Aを左右から効率的に拘束するという観点から、孔型ロール軸に対して垂直となる鉛直形状が好ましいが、ロール摩耗に伴うロールの修復を容易にするために、鉛直方向に対し例えば5〜10%程度のテーパー角度を付けた形状とすることが望ましい。
本変形例に係る割り込み孔型120に示した孔型側面122、123を被圧延材Aの側面に当接させるような構成を採ることで、上記実施の形態で説明した誘導性の向上といった作用効果に加え、造形されるフランジ相当部の厚みが上下左右方向において不均一になり、特にフランジ左右厚みに差異が生じるといった形状不良が抑制され、製品寸法精度の向上が実現される。特に、割り込み孔型を1孔型のみとし、フランジ幅の広い大型H形鋼を製造する場合に側壁拘束型の本変形例に係る孔型形状を採ることで更なる圧延安定化が達成される。
また、上記実施の形態では、図9を参照し、改良後の突起部形状として、孔型内部に向かって突出するテーパー形状の先端部45a(46a)と、テーパー形状を有さず厚みがほぼ一定であるような形状の根元部45b(46b)からなる形状を例示し、このような形状により逃がし部90が形成されていると説明している。但し、このような根元部45bの形状は本発明の一例であり、突起部形状としては割り込み時に根元部45bが被圧延材に対し非接触であるような種々の形状が設計可能である。ここでは、根元部45bの厚み(ウェッジ幅とも呼称される)の最適化について簡単に説明する。
図13は、本発明に係る突起部形状の最適化に関する概略説明図である。根元部45bの形状としては、圧延造形時に当該根元部45bに生じる応力が一定となるような形状に設計することが好ましい。被圧延材Aの中央と突起部中央とがずれて噛み込んだ場合、先端部45aにオフセットした荷重Pが負荷される。図示の割り込み孔型において、前段の割り込み孔型のウェッジ高さをL、ウェッジ幅をY1とし、圧延方向に応力が及ぶ範囲をbとすると、ウェッジ先端部からウェッジ高さがLの位置での応力σ1は、以下の式(3)で表される。
σ1=6PL/(bY12) ・・・(3)
図示の割り込み孔型において、被圧延材Aとウェッジ側面とが非接触となるように逃がし部を設けた場合、例えば、根元部45bの厚みを前段の割り込み孔型のウェッジ幅Y1と同じ厚みとした場合、負荷される応力はウェッジの付根(根元)に近づくに従い漸増し、任意の位置でのウェッジ高さをXとした場合、当該高さXに比例して増大する。
そこで、ウェッジ高さXの値(位置)にかかわらず、応力σの値が一定となるような根元部45bの形状を考えると、変更できる寸法項目はウェッジ幅Yである。応力値σをσ1で一定とすると、以下の式(4)が成り立つ。
Y2=6PX/(bσ1) ・・・(4)
更に、上記式(3)より、以下の式(5)が成り立つ。
Y2=(X/L)Y12 ・・・(5)
即ち、ウェッジ幅Yはウェッジ高さX0.5に比例するように決定することが好ましい。
なお、このような考え方は、圧延方向にロール形状が同一である場合に成り立つものであり、正確にはロール形状は円柱状であることから発生する応力はウェッジ高さによらず、完全に一定にはならないが、従来形状に対し応力の変動が大きく改善されると言える。
図14は、上述した突起部形状の最適化に関する具体例を示すグラフであり、前段の割り込み孔型のウェッジ高さを200mm、ウェッジ先端角度を30°とした場合に、後段の改良された割り込み孔型における突起部に発生する応力を一定にするための形状について計算し、ウェッジ高さXとウェッジ幅Yとの関係を示したグラフである。なお、図14には、説明のため、従来のテーパー形状の突起部の場合(従来形状)と、改良後の突起部の場合(改良後形状)を図示している。
図14に示されるように、例えばウェッジ高さXが400mmの位置において、従来形状ではウェッジ幅Yは約220mmであるが、改良後の形状では約150mmまで小さくできる。その結果、ウェッジ高さが200mmを超える全領域において、逃がし部を設ける形状となっており、上記実施の形態で説明したように圧延の安定性が図られていることは明らかである。同時に、ウェッジ高さが200mmを超える領域では、突起部に発生する曲げ応力はウェッジ高さによらずほぼ一定となる。
なお、上記実施の形態ならびにその変形例等においては、H形鋼を製造する際の素材としてはスラブを例示して説明したが、類似形状のその他素材についても本発明は当然適用可能である。