JP6774846B2 - レトルトバッター用澱粉組成物及びレトルトバッター - Google Patents
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Description
バッターは、家庭や飲食店等で調理する直前に、粉体混合物である小麦粉組成物(いわゆるバッターミックス)に加水して調製される。しかしながら、ダマの形成や容器への小麦粉組成物の付着等がなくなるように均質なバッターを手早く調製する必要があり、調理の簡便化を図るために出来合いのバッターの提供が望まれている。
バッターには、その利用における問題点と保存における問題点がある。
バッターの利用における問題点としては、バッター内で形成されたグルテンが凝集物となって沈殿して液状部と塊状部に分離する現象、及び、小麦粉や穀粉類に内在しているアミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ等の消化酵素により澱粉、ヘミセルロース、タンパク質等の小麦粉や穀粉類の構成成分が消化されて粘度が低下する現象が生じるために、バッターの品質が経時的に損なわれていくことが知られている(非特許文献1)。これらの現象は冷蔵下でも進行するため、品質を維持したままバッターを冷蔵保存することも困難である。品質が損なわれたバッターに小麦粉又は小麦粉組成物を追い添加して品質を回復することが行われているが、小麦粉組成物を水に溶いて得た当初のバッターの品質に到底及ぶものではない。
食品又は調理食材を保存する方法として冷凍、レトルト処理等が上げられる。バッターの保存における問題点としては、冷凍解凍による離水等や、レトルト処理等の熱処理による澱粉質の糊化を経た餅様のゲル化が生じるために、バッターとしての品質が著しく劣化することが知られている。バッターを保存する手段として、特許文献1では真空包装した冷凍もんじゃ焼き生地だねが提案されているが、その製造方法が煩雑である上に、汎用性の高いものではなかった。
[1]糊化抑制澱粉と糊化促進澱粉とからなるレトルトバッター用澱粉組成物であって、澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉を15〜85質量%及び糊化促進澱粉を85〜15質量%含有し、
前記糊化抑制澱粉が、5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化しないという特性;及び前記加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜3,000mPa・sであるという特性を有する澱粉であり、
前記糊化促進澱粉が、5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合した際に糊化するという特性;及び前記加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の24℃における粘度が4,000〜50,000mPa・sであるという特性を有する澱粉である、前記レトルトバッター用澱粉組成物。
[2]前記[1]記載のレトルトバッター用澱粉組成物を、バッター全量に対して4.5〜13.5質量%含有し、且つ24℃における粘度が3,000〜15,000mPa・sであるレトルトバッター。
本発明における糊化抑制澱粉とは、5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化しないという特性;及び前記加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜4,000mPa・sであるという特性を有する澱粉をいう。
このような澱粉は、澱粉の水懸濁液を撹拌しながら加熱・冷却して粘度を連続的に測定した際にピーク粘度が発現した後の粘度低下(ブレークダウン)が生じ難く、つまり膨潤した澱粉粒の崩壊による糊化が起こり難く、冷却時の粘度上昇が低く、冷蔵条件下においても流動性が損なわれにくい傾向にある。このような糊化抑制澱粉としては、架橋処理が高度に施された澱粉が適しており、特にリン酸架橋澱粉が適しており、その製造方法として特開2011−211922を例示できる。前記の性質を有していれば、更にエーテル化やエステル化、酸化等の化学変性を併用した架橋澱粉であってもよく、リン酸架橋と他の化学変性が併用された糊化抑制澱粉の製造方法としては、特開2006−282785及び特開2004−204197を例示できる。また、食用として市販されている糊化抑制澱粉としては、リン酸架橋澱粉を例示できる。
なお、架橋処理が施された澱粉であっても、架橋度が低ければ膨潤した澱粉粒の崩壊を十分に抑制することができず、本発明で定義する糊化抑制澱粉として使用することはできない。
このような澱粉は、澱粉の水懸濁液を撹拌しながら加熱・冷却して粘度を連続的に測定した際にピーク粘度が発現した後の粘度低下が著しく生じ、つまり膨潤した澱粉粒の大多数が崩壊して糊化し、冷却時の粘度上昇が高く、冷蔵条件下においてゲル化(固化)しない傾向にある。このような糊化促進澱粉としては、ヒドロキシプロピル化(以下、HP化と略す)等のエーテル化処理又はアセチル化やリン酸化等のエステル化処理が高度に施された澱粉が適しており、特にHP化澱粉が適している。前記の性質を有していれば、更に架橋、酸化、エーテル化、エステル化等の化学変性を併用したエーテル化又はエステル化澱粉であってもよい。エーテル化又はエステル化澱粉の製造方法として、特開2008−289397を例示できる。また、食用として市販されている糊化促進澱粉としては、HP化澱粉、HP化リン酸架橋澱粉を例示できる。
糊化抑制澱粉が15質量%未満(糊化促進澱粉が85質量%超)になると、バッターを調製した際の粘度が高くなり過ぎ(15,000mPa・s超)、トロミ及び粘りの強いゾルになるため、調理作業性が損なわれる。また糊化抑制澱粉が85質量%超(糊化促進澱粉が15質量%未満)になると、粘度が低くなりすぎ(3,000mPa・s未満)トロミはあるもののバッターとしては流動性の高いサラサラのゾルになるため、調理作業性が損なわれる。
上記調理作業性の観点から、本発明のレトルトバッターは24℃における粘度が3,000〜15,000mPa・sである。好ましくは4,500〜14,500mPa・sであり、最も好ましくは5,000〜10,000mPa・sである。
本発明のレトルトバッターは上記レトルトバッター用澱粉組成物、水、その他の副資材を混合してバッターを得、得られたバッターをレトルト処理することにより製造することができる。例えば糊化抑制澱粉と糊化促進澱粉を粉体混合して澱粉組成物を得、澱粉組成物を水に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化することによりバッターを得た。このバッターを耐熱性容器(例えばレトルトパウチ)に充填・密封し121℃で40分間レトルト処理することにより製造することができる。
[評価例1 糊化抑制澱粉の選抜]
本発明に使用する糊化抑制澱粉を選抜するための簡易的な評価指標として、表1記載の澱粉9質量部を91質量部の水に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化した澱粉液の糊化(指標1)、75℃から室温に冷却した澱粉液の状態(指標2)、75℃から室温に冷却の後、レトルトパウチに200gずつ充填して121℃で30分間レトルト処理し、室温に冷却したレトルト澱粉液の粘度(指標3)と200〜230℃のホットプレートで焼成した際のゲル化性(指標4)を採用した。
ここで指標1及び指標3はそれぞれ糊化抑制澱粉の性質「5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化しない」及び「加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜4,000mPa・sである」の評価指標となる。なお、指標2は指標3の評価を行う上での目安であり、指標2で低粘性ゾル又は高粘性ゾルと判定したものについて指標3の粘度を測定したが餅様ゲルと判定したものについては評価しなかった。指標4は澱粉をレトルトバッターに使用した際の焼成ゲルの状態及び作業性の目安となる。
澱粉液の粘度は、No.4ローターを装着したC型粘度計(東京計器社製のCVR−20形粘度計)を使用して、24℃の温度条件下、回転速度20rpmで1分間回転後の指示値を読み取ることで測定した。
評価2:リン酸架橋馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製のひょうたん(高架橋タイプ)
評価3:リン酸架橋コーンスターチは、松谷化学社製のNE−2
評価4:リン酸架橋小麦澱粉は、松谷化学社製のフードスターチBS2
評価5:リン酸架橋ワキシーコーンスターチは、松谷化学社製のF−102
評価6:リン酸架橋馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製のNo.9R(低架橋タイプ)
評価7:リン酸架橋タピオカ澱粉は、日本食品化工社製のネオビスT−100
評価8:リン酸架橋ワキシーコーンスターチは、日本食品化工社製のネオビスC−6
評価9:リン酸架橋タピオカ澱粉は、日殿化学社製のPB−2000
評価10:リン酸架橋タピオカ澱粉は、日本食品化工社バッタースターチ200N(油脂加工も施されている)
評価2と6は架橋度が異なるリン酸架橋馬鈴薯澱粉であり、評価6の低架橋タイプが糊化及び餅用固化していることから、評価7〜10のリン酸架橋澱粉も低架橋タイプであると考えられた。
なお、化学変性していない穀粉(小麦粉、米粉)及び化学変性していない澱粉(タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉)を同様の指標で評価したところ、何れも75℃加熱混合処理により糊化し、室温へ冷却すると餅様に固化した。
本発明に使用する糊化促進澱粉を選抜するための簡易的な評価指標は、表2記載の澱粉を使用した以外は評価例1記載の指標1〜4を採用した。
ここで指標1及び指標3はそれぞれ糊化促進澱粉の性質「5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化する」及び「加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜4,000mPa・sである」の評価指標となる。なお、指標2は指標3の評価を行う上での目安であり、指標2で低粘性ゾル又は高粘性ゾルと判定したものについて指標3の粘度を測定したが粘性ゾル、軟餅様ゲル、餅様ゲルと判定したものについては評価しなかった。指標4は澱粉をレトルトバッターに使用した際の焼成ゲルの状態及び作業性の目安となる。
評価12:HP化リン酸架橋コーンスターチは、松谷化学社製のVA70C
評価13:HP化リン酸架橋ワキシーコーンスターチは、松谷化学社製のVA70QM
評価14:HP化リン酸架橋馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製VA70X
評価15:HP化リン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製のエリアンVE540
評価16:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、松谷化学社製のVA70TJ
評価17:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、イングレディオン社製の78−0148
評価18:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、日澱化学社製のG−800
評価19:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、三和澱粉社のタピオカα―NTP
なお、市販のHP化澱粉については、室温の糊液の粘度が高くなって軟餅様のゲルになる恐れがあるため、評価を行わなかった。
表4記載の質量部の評価1の糊化抑制澱粉(リン酸架橋澱粉)と評価11の糊化促進澱粉(HP化リン酸架橋澱粉)とを粉体混合し、91質量部の水に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化し、200gをレトルトパウチに充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してレトルトバッターを得た。得られたバッターを24℃における粘度をC型粘度計により測定した。また、レトルトバッターを200〜230℃に加温したホットプレートに投入し、ヘラで混ぜながら200〜230℃で焼成した。得られた焼成ゲルの状態及び作業性を10名の専門パネラーにより下記基準表3および4に基づき官能評価を行った。
澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉が15質量%未満である比較例1、2では、レトルトバッターの粘度が高く粘りが強いために、ホットプレート上でのバッターの広がりが悪く、ヘラでの混合にムラが生じ易く作業性に難があり、弾力が強くて硬い塊状のゲルが得られた。澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉が85質量%を超える比較例3、4では、レトルトバッターの粘度が低く流動性が高いために、ホットプレート上でのバッターの広がりが著しく、作業性に難があり、弾力に乏しく粘りのない薄くて弱い皮膜状のゲルが得られた。
表6記載の質量部の評価1の糊化抑制澱粉(リン酸架橋澱粉)、評価11の糊化促進澱粉(HP化リン酸架橋澱粉)及び水を使用した以外は、試験例1に従ってレトルトバッターを調製して評価した。結果を表6に示す。
レトルトバッター用澱粉組成物が、バッター全量に対して4.5質量%未満である比較例5では、レトルトバッター粘度が低くいので、ホットプレート上でのバッターのまとまりが悪く、焼成に時間を要するため、作業性が悪かったが、得られたゲルは薄めではあるものの弾力を有する膜状ゲルが得られ、作業性とゲルの状態とを勘案すると許容範囲には幾分及ばなかった。レトルトバッター用澱粉組成物が、バッター全量に対して13.5質量%を超える比較例6では、レトルトバッター粘度が高いので、ホットプレート上での広がりが悪く、ヘラでの混合にムラができ易く、作業性が悪かったが、得られたゲルは厚みがあってやや硬い膜状ゲルが得られ、作業性とゲルの状態とを勘案すると許容範囲には至らなかった。
[製造例1 お好み焼き様食品の製造]
糊化抑制澱粉6.5質量部と糊化促進澱粉6.5質量部とを粉体混合した後、魚節と昆布のだし汁87質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してお好み焼き用バッターを得た。これをレトルトパウチに200gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してお好み焼き用レトルトバッターを得た。
お好み焼き用レトルトバッター200gを容器に投入し、3mm幅のキャベツ200g、5mm角のイカ20g、揚げ玉20g、山芋パウダー10g、タマゴ2個を加えて十分に練り上げた。これを220℃に加熱したホットプレートで焼成したところ、良好なお好み焼き様食品が得られた。
糊化抑制澱粉5.5質量部と糊化促進澱粉5.5質量部とを粉体混合した後、魚節と昆布のだし汁89質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してたこ焼き用バッターを得た。これをレトルトパウチに300gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してたこ焼き用レトルトバッターを得た。
たこ焼き用レトルトバッター300gを容器に投入し、小口切りのネギ25g、みじん切りの紅生姜25g、揚げ玉25g、ベーキングパウダー10g、タマゴ1個を加えて十分に練り上げた。これを200℃に加熱したたこ焼き用鉄板に流し込み、1cm角のタコを各穴に投入して焼成したところ、良好なたこ焼き様食品が得られた。
糊化抑制澱粉4.5質量部と糊化促進澱粉4.5質量部とを粉体混合した後、水86質量部とウスターソース5質量部との混合液に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してもんじゃ焼き用バッターを得た。これをレトルトパウチに200gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してもんじゃ焼き用レトルトバッターを得た。
もんじゃ焼き用レトルトバッター200gを容器に投入し、5mm角のキャベツ150g、スイートコーン20g、5mm角のイカ15g、揚げ玉15gを加えて十分に練り上げた。これを220℃に加熱したホットプレートで焼成したところ、良好なもんじゃ焼き様食品が得られ、お焦げも賞味することができた。
糊化抑制澱粉6質量部と糊化促進澱粉6質量部とを粉体混合した後、2質量%の砂糖水88質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してクレープ用バッターを得た。これをレトルトパウチに300gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してクレープ用レトルトバッターを得た。
クレープ用レトルトバッター300gを容器に投入し、スキムミルク30g、タマゴ1個を加えて十分に練り上げた。これを200℃に加熱したホットプレートに流し込み、円形になるようにのばして焼成したところ、良好なクレープ様食品が得られた。
糊化抑制澱粉5質量部と糊化促進澱粉5質量部とを粉体混合した後、水90質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化して揚物用バッターを得た。これをレトルトパウチに250gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理して揚物用レトルトバッターを得た。
揚物用レトルトバッター200gを容器に投入し、一口サイズの豚肉(1.0×2.5×3.5cm)へ均等に揚物用レトルトバッターを被覆させ、パン粉を満遍なく付着させた後、180℃に熱した食用油でフライしたところ、良好なトンカツ様食品が得られた。
Claims (2)
- 糊化抑制澱粉と糊化促進澱粉とからなるレトルトバッター用澱粉組成物であって、澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉を15〜85質量%及び糊化促進澱粉を85〜15質量%含有し、
前記糊化抑制澱粉が、5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化しないという特性;及び前記加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜4,000mPa・sであるという特性を有する澱粉であり、
前記糊化促進澱粉が、5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合した際に糊化するという特性;及び前記加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が4,000〜50,000mPa・sであるという特性を有する澱粉である、前記レトルトバッター用澱粉組成物。 - 請求項1に記載のレトルトバッター用澱粉組成物を、バッター全量に対して4.5〜13.5質量%含有し、且つ24℃における粘度が3,000〜15,000mPa・sであるレトルトバッター。
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