以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
図1に示すように、本実施形態に係るシーリング除去工具1は、例えば建物における外壁2の補修作業に利用される。作業者3は、シーリング除去工具1を利用して、外壁2の目地部4に充填されたシーリング材(目地材)5を除去する。シーリング除去工具1は、超音波帯域の周波数で刃部20を高速振動させることにより、被切削物の切削を行う。すなわち、シーリング除去工具1は、超音波振動を切断に利用するいわゆる超音波カッターである。超音波帯域の周波数とは、人間の可聴周波数以上の高い周波数であり、例えば20kHz以上である。
外壁2は、複数のパネル材6を有している。このパネル材6は、例えば軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)である。パネル材6は、小口面同士が対面し、小口面の間に所定の隙間が形成されるように配置されている。図6に示すように、パネル材6の小口面には、凹部7と面取面8とが形成されている。隣接するパネル材6は、これら凹部7同士が対向すると共に、面取面8同士が対向するように配置されている。互いに対向する一対の凹部7は、目地溝9を形成している。また、互いに対向する一対の面取面8は、面取溝10を形成している。
目地溝9には、シーリング材5が充填されている。シーリング材5としては、例えば湿式シーリング材であるポリウレタン系樹脂を主成分とするシーリング材等が挙げられる。シーリング材5は、目地溝9の側面9a,9bに対し接着されている一方、目地溝9の目地底9cには接着されていない。すなわち、シーリング材5は、いわゆる二面接着とされている。目地底9cには、例えばボンドブレーカー等の絶縁テープが貼られている。なお、シーリング材5は、側面9a,9bと共に目地底9cにも接着された、いわゆる三面接着とされていてもよい。
シーリング材5の表面5aは、目地溝9又は面取溝10内に位置している。すなわち、シーリング材5は、パネル材6の表面6aに対して窪んでいる。なお、面取面8とシーリング材5の表面5aとには、塗膜層(不図示)が形成されていてもよい。
図2は、本発明の一実施形態に係るシーリング除去工具1を示す斜視図である。図2に示すように、シーリング除去工具1は、刃部20と、本体部30(把持部)と、駆動部40と、を備えている。
刃部20は、本体部30に取り付けられ、本体部30の軸X方向に延びている。刃部20は、軸X方向に沿った振動方向A(一方向)に超音波領域の周波数で高速に微振動する。以下、この超音波領域の周波数で高速に微振動することを、単に「超音波振動」ともいう。刃部20は、板状である。なお、刃部20の形状等の詳細については、図3及び図4を参照して後述する。刃部20は、雄ねじ部21を有し、当該雄ねじ部21によって本体部30に対して取り付け及び取り外し可能である。すなわち、刃部20は、本体部30に対し交換可能である。
本体部30は、略筒状を有している。本体部30は、その一端側30aにおいて刃部20が取り付けられ、その他端側30bにおいてケーブル51を介して駆動部40が接続されている。本体部30は、駆動部40から電圧が加えられることにより振動方向Aに伸縮振動する振動子(不図示)を内蔵している。振動子には例えば圧電素子が用いられている。刃部20は、この振動子に接続されており、この振動子の伸縮振動によって、振動方向Aに超音波振動する。
本体部30は、取付部31と、保護カバー33と、保持部35と、を有している。取付部31は、本体部30の一端側30aに位置しており、刃部20が取り付けられる。取付部31は、刃部20の雄ねじ部21が捩じ込まれる雌ねじ部32を有している。刃部20を取付部31に取り付ける際には、例えば、取付部31の雌ねじ部32に対し、刃部20の雄ねじ部21を作業者の手によって締め込んだ後、モンキースパナ及び片口スパナ等を使用して増し締めを行う。また、刃部20を取付部31から取り外す際には、例えばモンキースパナ及び片口スパナ等を使用して、刃部20の雄ねじ部21を緩める。
保護カバー33は、取付部31と保持部35との間に位置し、可動保護カバー34と保持部35とを連結している。保護カバー33には、保護カバー33の周面33a上を摺動可能な可動保護カバー34が取り付けられている。可動保護カバー34は、上端部及び下端部が開口された円筒状であり、シーリング除去工具1の使用時には、作業者の手により可動保護カバー34が保護カバー33側へ移動させられ、刃部20が可動保護カバー34から露出した状態となっている(図1参照)。可動保護カバー34は、保護カバー33側にフランジ部34aを有している。
保持部35は、その一端側35aで保護カバー33と接続され当該保護カバー33を保持すると共に、その他端側35bでケーブル51を介して駆動部40と接続されている。保持部35は、一端側35aに作動スイッチ36を有している。作動スイッチ36は、保持部35の周方向で、等間隔に複数(例えば、三つ)配置されている。作動スイッチ36は、押圧されるとスイッチがオンとなる。作動スイッチ36がオンとなると、本体部30内の振動子に通電され、刃部20が超音波振動する。作動スイッチ36が押圧されないときにはスイッチがオフとなる。作動スイッチ36がオフとなると、本体部30内の振動子に通電されず、刃部20が超音波振動しない。すなわち、刃部20は、作動スイッチ36が押圧されている間だけ超音波振動する。なお、作動スイッチ36は、押圧時のみ作動する押圧式に限られず、単純な入り切りで連続作動する連続式であってもよい。すなわち、刃部20は、作動スイッチ36が一回押圧されることによって超音波振動を開始し、作動スイッチ36が再度押圧されるまで連続して超音波振動してもよい。
本体部30は、シーリング除去工具1の使用時に作業者によって把持される。例えば、作業者3は、保持部35と、保護カバー33の一部と、保護カバー33上を覆う可動保護カバー34と、を手で支えるようにして、本体部30を把持する(図1参照)。作業者3は、パネル材6の上方側から下方側へ向かってシーリング除去工具1を目地部4に沿って引くようにしてパネル材6の面に切れ目を入れる。
駆動部40は、例えば電力増幅回路又は発振源等の回路を含んで構成された超音波発振器である。駆動部40は、本体部30内の振動子を駆動させる。具体的には、駆動部40は、ケーブル51を介して本体部30内の振動子に周期的に電圧を印加することで、当該振動子を共振させる。これにより、駆動部40は、刃部20を超音波振動させる。
駆動部40は、刃部20の超音波振動の周波数及び振幅を制御する。駆動部40は、例えば、刃部20の超音波振動の周波数が、超音波帯域の周波数の中で比較的低い周波数帯域(例えば21kHz〜1.5kHz)になるように制御する。超音波帯域の周波数は、可聴周波数に比べると振幅が小さいが、このように超音波帯域の周波数の中で比較的低い周波数帯域とすることにより、超音波帯域の中で比較的大きい振幅とすることができる。このように刃部20が、高速且つ大きい振幅で振動することにより、切削抵抗が非常に小さくなり、作業者の負担が極端に低減される。また、駆動部40は、刃部20の超音波振動の振幅を、例えば30μm〜40μmになるように制御してもよい。
次に、図3及び図4を参照して、刃部20の形状等について詳細に説明する。図3は、図2の刃部20の平面図、断面図、及び端面図である。図3の(a)は刃部20の表面23a側から見た平面図を示し、図3の(b)は図3の(a)のIII-III線に沿った断面図を示し、図3の(c)は矢印Cの方向から見た端面図を示している。図4は、図2の刃部20を表面23aに略平行な方向から見た平面図である。図3及び図4において、本体部30の軸Xを示している。
図3及び図4に示すように、刃部20は、雄ねじ部21と、刃身部23と、を有している。雄ねじ部21は、前述した通り、刃部20を本体部30の取付部31に取り付けるために形成されている。雄ねじ部21は、貫入部21aと、基部21bとを有している。貫入部21aは、取付部31の雌ねじ部32内に捩じ込まれる。基部21bは、貫入部21aと刃身部23との間に配置され、貫入部21aと刃身部23とを接続している。基部21bは、例えば多角柱状(本実施形態では、六角柱状)を有している。基部21bには、刃身部23が差し込まれており、当該差し込まれた部分が溶接等によって接続されることにより、刃身部23が固定されている。
刃身部23は、板状であって、平面視でその基端部27側から先端部26側に向かって尖った形状を有している。刃身部23の表面23a側には、平面状の平面部28からその先端側へ向かって下り勾配状の切刃24,25が形成されている。刃身部23の裏面23b側は、平面状である。すなわち、刃部20は、片面側に切刃24,25が設けられた片刃である。切刃24と切刃25とは、軸Xについて対称的に形成されている。切刃24,25には、その先端側に、被切削物を切削する刃先11,12が形成されている。
刃先11,12の稜の部分には、刃線11a,12a(傾斜刃線)が形成されている。すなわち、刃部20は、一対の傾斜刃線を有している。刃線11a,12aは、刃身部23の基端部27側から先端部26側へ向かうほど軸X側へ近づくようにそれぞれ傾斜している。なお、ここで、傾斜しているとは、基準となる方向に対する垂直方向及び平行方向からずれていることをいう。刃線11a,12aは、それぞれ振動方向Aに対し傾斜しており、刃線11aの振動方向Aに対する傾斜度と、刃線12aの振動方向Aに対する傾斜度とは、略同じである。刃線11a,12aは、振動方向Aに沿った軸Xを対称軸として、当該対称軸に対して線対称となるように形成されている。なお、図4においては、刃部20を切刃24側から見た場合の平面図を示している。刃部20を切刃25側から見た場合は、図4と同様であるため、図示を省略している。
また、図3の(b)に示すように、切刃24,25は、それぞれ、少なくとも二段階の傾斜面が形成された切刃である。具体的に、切刃24,25は、刃線11a,12aに沿った刃先11,12上の面である外側傾斜面24b,25bと、外側傾斜面24b,25bに沿った内側傾斜面24a,25aと、を有している。内側傾斜面24a,25aは、外側傾斜面24b,25bよりも平面部28側に位置している。外側傾斜面24b,25bと、内側傾斜面24a,25aとは、それぞれ裏面23bに対して鋭角の勾配を有している。外側傾斜面24b,25bの裏面23bに対する傾斜角度は、内側傾斜面24a,25aの裏面23bに対する傾斜角度よりも大きい。つまり、二段階の傾斜面のうち、内側傾斜面24a,25aは外側傾斜面24b,25bより緩やかな勾配を有しており、外側傾斜面24b,25bは内側傾斜面24a,25aよりも急な勾配を有している。このように、外側傾斜面24b,25bを、内側傾斜面24a,25aよりも鈍い刃角にすることにより、切刃24,25の割れ及び欠け等を抑制し、刃もちを良くすることができる。
次に、図5及び図6を参照して、上述したシーリング除去工具1を用いたシーリング除去方法について説明する。図5は、シーリング除去方法の流れを示すフローチャートである。図6は、作業時における刃部20の向きを示す図である。
目地部4に充填されたシーリング材5を除去するためには、シーリング除去工具1によって目地溝9の両側の位置でパネル材6の面に切れ目を入れてから、当該切れ目に沿ってシーリング材5を抜き取る。なお、図6において、紙面に垂直な方向で手前側がパネル材6の下方側であり、奥側がパネル材6の上方側である。パネル材6の面に切れ目を入れる作業時において、駆動部40が作動され、且つ作動スイッチ36が押圧されることにより、刃部20は振動方向Aに超音波振動している。以下、詳細に説明する。
まず、図6の(a)に示すように、目地部4の一端側に沿って、パネル材6の面に切れ目を入れる(S1)。具体的には、刃身部23の表面23aを目地溝9の側面9a側に向け、且つ、切刃24をパネル材6の下方側(紙面手前側)に向けた状態で、パネル材6の面取面8に対し、作動スイッチ36が押圧されて超音波振動している刃身部23を当接させる。これにより、刃身部23は、面取面8に対し、その振動方向Aが交差する向きで面取面8を切り込む。この際、作業者3は、刃身部23を、面取面8に対して所定の切断位置8cで当接させ、刃身部23の超音波振動によってパネル材6を所定の深さまで切り込む。所定の切断位置8cとは、例えば目地溝9の側面9aから1mm程度の位置に刃先11の刃線11aが当たる位置である。所定の深さとは、例えば目地底9cの位置である。なお、作業者3は、刃身部23を、先端部26が面取面8に対して略直交するように、面取面8に当接させてもよい。この場合、刃身部23は、その振動方向Aが略直交する向きで面取面8を切り込むため、パネル材6の所定の深さ方向に切れ易くすることができる。
そして、このように超音波振動によってパネル材6を所定の深さまで切り込みつつ、刃身部23を、パネル材6の目地部4に沿って移動させる。例えば、図1に示すように、作業者3は、パネル材6に作用する刃身部23よりも本体部30が下方側に位置するように本体部30を把持した状態で、パネル材6の上方側から下方側へ向かう方向(図6の(a)においては、紙面に垂直な方向で奥側から手前に向かう方向)で、面取面8の切断位置8cで切り込まれた刃身部23を移動させる。このとき、切刃24はパネル材6の下方側に向けられ、切刃25はパネル材6の上方側に向けられている。刃先11,12の各刃線11a,12aは、面取面8に対して斜めに交差している(図7参照)。すなわち、刃先11,12は、面取面8を斜めに切り込む。
作業者3は、刃身部23が目地部4に沿って移動する方向側に向かって本体部30を傾けた状態で、面取面8に切り込まれた刃身部23を目地部4に沿って刃先11側に引くようにして切る。つまり、面取面8に切り込まれた刃先11の刃線11aが刃先12の刃線12aよりも面取面8側に近づくように傾けられた状態で、目地部4に沿って刃身部23を移動させる。その結果、刃先11が面取面8に目地部4に沿った方向(パネル材6の上下方向)で切れ目を入れる刃として作用する。これにより、パネル材6には目地溝9の側面9aに沿った切れ目が形成される。S1の作業が終了すると、作業者は、作動スイッチ36を押圧していた指を外して作動スイッチ36をオフにし、刃身部23が超音波振動しないようにする。
続いて、図6の(b)に示すように、作業者は、本体部30を持ち替えることによって刃身部23の向きを反転させて、切刃25がパネル材6の下方側(紙面手前側)になるようにする(S2)。続いて、目地部4の他端側に沿って、パネル材6の面に切れ目を入れる(S3)。具体的には、刃身部23の表面23aを目地溝9の側面9b側に向け、且つ、切刃25をパネル材6の下方側(紙面手前側)に向けた状態で、パネル材6の面取面8に対し、作動スイッチ36が押圧されて超音波振動している刃身部23を当接させる。これにより、刃身部23は、面取面8に対し、その振動方向Aが交差する向きで面取面8を切り込む。この際、作業者3は、刃身部23を、面取面8に対して所定の切断位置8dで当接させ、刃身部23の超音波振動によってパネル材6を所定の深さまで切り込む。所定の切断位置8dとは、例えば目地溝9の側面9bから1mm程度の位置に刃先12の刃線12aが当たる位置である。所定の深さとは、例えば目地底9cの位置である。なお、S1同様、作業者3は、刃身部23を、先端部26が面取面8に対して略直交するように、面取面8に当接させてもよい。
そして、このように超音波振動によってパネル材6を所定の深さまで切り込みつつ、S1同様、刃身部23を、パネル材6の目地部4に沿って移動させる。すなわち、作業者3は、パネル材6に作用する刃身部23よりも本体部30が下方側に位置するように本体部30を把持した状態で、パネル材6の上方側から下方側へ向かう方向(図6の(b)においては、紙面に垂直な方向で奥側から手前に向かう方向)で、面取面8の切断位置8dで切り込まれた刃身部23を移動させる。このとき、切刃25はパネル材6の下方側に向けられ、切刃24はパネル材6の上方側に向けられている。刃先11,12の各刃線11a,12aは、面取面8に対して斜めに交差している。すなわち、刃先11,12は、面取面8を斜めに切り込む。
作業者3は、刃身部23が目地部4に沿って移動する方向側に向かって本体部30を傾けた状態で、面取面8に切り込まれた刃身部23を目地部4に沿って刃先12側に引くようにして切る。つまり、面取面8に切り込まれた刃先12の刃線12aが刃先11の刃線11aよりも面取面8に近づくように傾けられた状態で、目地部4に沿って刃身部23を移動させる。その結果、刃先12が面取面8に目地部4に沿った切れ目を入れる刃として作用する。これにより、パネル材6には目地溝9の側面9bに沿った切れ目が形成される。S3の作業が終了すると、作業者は、作動スイッチ36を押圧していた指を外して作動スイッチ36をオフにし、刃身部23が超音波振動しないようにする。
そして、S1及びS3においてそれぞれパネル材6に形成された切れ目に沿って、目地溝9に充填されたシーリング材5を取り除く(S4)。この際、上述したように、目地底9cにはシーリング材5が接着されていないため、シーリング材5を引っ張ることにより、目地底9cにおける表層が剥がれ、S1及びS3で入れた切れ目の間にあるシーリング材5が目地溝9から取り除かれる。この際、シーリング材5と共に、当該切れ目よりも目地部4側のパネル材6の端部も取り除かれる。
次に、上述したシーリング除去工具1及びこれを用いたシーリング除去方法の作用効果について、図7を参照して説明する。
図7は、パネル材6の面取面8に切り込まれる刃身部23を表面23a側から見た概念図である。図7に示すように、パネル材6の面取面8に切れ目を入れる刃先11,12の刃線11a,12aが、超音波振動による切断方向となる振動方向Aに対して傾斜している。このため、刃線11a,12aがパネル材6の面取面8と交差する位置が、超音波振動による刃身部23の位置に応じて移動する。例えば、刃線11aが面取面8と交差する位置は、超音波振動による刃身部23の位置に応じて、位置P1から刃先11側の位置P2へと面取面8に沿って移動する。これにより、超音波振動が、パネル材6の面取面8に切り込まれた刃身部23を目地部4に沿った刃先11側の方向B(すなわち、パネル材6の上方側から下方側へ向かう方向)へ移動させる作用となる。よって、刃部20に接続された本体部30を把持する作業者3が積極的に力を加えなくても、目地部4に沿って刃先11側の方向Bへと刃部20を容易に移動させることができ、その結果、目地部4に沿って直進性を保つように刃部20を移動させることが可能となる。なお、図7では、刃先11側の方向Bへ刃部20を移動させる場合を示しているが、刃先12側の方向へ刃部20を移動させる場合も同様である。
以上のように、本実施形態によれば、作業が容易であり、且つ、直進性を向上させることができるシーリング除去工具1が提供される。
そして、このように、直進性を向上させることができる結果、目地部4にがたつき等のない綺麗な切れ目がパネル材6に形成され、パネル材6の新規な面が露出するため、パネル材6の強度が回復する。また、シーリング材5だけでなく、目地溝9の側面9a,9b側に沿って形成された切れ目よりも目地溝9側のパネル材6毎、除去することにより、シーリング材5がパネル材6の小口面に残らないようにすることができる。
さらに、本実施形態によれば、刃部20は、片面側に切刃24,25が設けられた片刃であるため、パネル材6の面取面8に切れ目を入れる際、切刃24,25が設けられた表面23a側を目地部4側に向けることにより、パネル材6側からの支持力と、シーリング材5からの切刃24,25の厚み分の収縮によって生じた反力とが均衡となる位置で、刃部20を目地部4に沿って移動させることができ、直進性をより向上させることができる。
また、刃部20は、外側傾斜面24b,25bと内側傾斜面24a,25aとの二段階の傾斜面が形成された切刃24,25を有するため、パネル材6に切れ目を入れる際、傾斜がより緩やかな内側傾斜面24a,25aによってシーリング材5側が押さえられ、傾斜がより急な外側傾斜面24b,25bとシーリング材5側とが接触し難くなる。よって、切刃の傾斜面が一段階である場合よりも、切刃とシーリング材5側との接触面積を少なくすることができ、接触による摩擦を抑制することができる。
また、本実施形態に係るシーリング除去工具1によれば、作動スイッチ36が保持部35の周方向で等間隔に配置されているため、作業者3は保持部35を適宜回転させて容易に持ち替えることができる。また、刃部20を使用しないときには可動保護カバー34に収容することができると共に、刃部20を使用するときには可動保護カバー34から刃部20を露出させ、作動スイッチ36を押圧したときだけ刃部20を超音波振動させることができるため、高い安全性を確保することができる。特に、超音波振動は振動しているか否かが視覚又は聴覚等では確認し難いため、このような安全性を確保しておくことで、危険を回避することができる。また、パネル材6間の目地部4に充填されたシーリング材5を除去する場合には、足場が狭いところでの作業が必要となる等、危険な環境で作業を要する可能性があるため、高い安全性を確保することが重要である。
また、本実施形態に係るシーリング除去方法では、上述のシーリング除去工具1を用いることにより、目地溝9の側面9a側に沿って切れ目を入れる工程S1において、刃部20に接続された本体部30に対し作業者3が積極的に力を加えなくても、刃部20を目地部4に沿って容易に移動させることができ、その結果、目地部4に沿って直進性を保つように刃部20を移動させることが可能となる。続いて、刃部20の向きを反転させることにより、刃部20の向きを目地溝9の側面9b側に対応する向きとした上で、刃部20によって、パネル材6の面取面8に目地溝9の側面9b側に沿って切れ目を入れる。この際、刃先11,12の刃線11a,12aが、振動方向Aの対称軸に対して線対称となるように形成されているため、目地溝9の側面9b側においても、目地溝9の側面9a側と同様の操作により、パネル材6の面取面8に切れ目を入れることができる。以上より、作業が容易であり、且つ、直進性を向上させることができるシーリング除去方法が提供される。
さらに、シーリング除去方法において、工程S1と工程S3とでは、刃部20を目地部4に沿って刃先11,12側に移動させる方向に本体部30を傾けた状態で、刃部20を目地部4に沿って刃先11,12側に引くようにして切れ目を入れる。よって、本体部30に対し、刃部20が目地部4に沿って刃先11,12側に移動させる方向へ力をかけやすいため、より容易に刃部20を目地部4に沿って移動させることができ、直進性の更なる向上を図ることができる。
また、このように、刃部20を目地部4に沿って刃先11,12側に引くようにして切れ目を入れることで、見かけ上の刃の角度を鋭くすることができ、切断時に生じる切り屑(粉塵)の量を少なくすることができる。また、切断面に切り屑が付き難く、切れ味を維持することができる。
しかも、S1及びS3において、刃部20を目地部4に沿って刃先11,12側に移動させる方向はパネル材6の上方側から下方側へ向かう方向であって、作業者3は、刃部20をパネル材6の上方側から下方側に向かう方向で引くようにして移動させるため、シーリング除去工具1の自重等に抵抗する必要がなく手首の回転等を活かして容易に直進性を保つことができる。
以上、本発明を一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他に適用してもよい。
例えば、刃部20の形状は、上記の図3及び図4を参照して説明した形状に限られず、種々の形状を取り得る。例えば、刃部20は、平面視したときの形状が五本以上の辺を有する多角形形状であっていてもよい。具体的に、シーリング除去工具は、刃部20に代えて、図8及び図9に示すような刃部60を有していてもよい。図8は、変形例に係る刃部60の平面図、断面図及び端面図である。図8の(a)は刃部60の面63a側から見た平面図を示し、図8の(b)は図3の(a)のVIII-VIII線に沿った断面図を示し、図3の(c)は矢印Cの方向から見た端面図を示している。図9は、変形例に係る刃部60を面63aに略平行な方向から見た平面図である。以下、刃部60について詳細に説明する。
刃部60は、基部61と、刃身部63と、を有している。基部61の一端には、刃身部63が差し込まれており、当該差し込まれた部分が溶接等によって接続されることにより、刃身部63が固定されている。なお、基部61の他端には、刃身部63を本体部30の取付部31に取り付けるために、取付部31の雌ねじ部32に捩じ込まれる貫入部(不図示)が接続されている。
刃身部63は、板状であって、その両面側に刃が設けられた両刃である。刃身部63の両面側、すなわち面63a側と面63b側とには、平面状の平面部69からその先端側へ向かって下り勾配状の切刃64,65,66,67,68がそれぞれ形成されている(図8の(b)及び(c)参照)。切刃64,65,66,67,68は、軸Xについて対称的に形成されている。例えば、切刃66は、軸Xを通る位置に配置されており、切刃64,65と、切刃67,68とは、軸Xを挟んで対向するように配置されている。
各切刃64,65,66,67,68の稜の部分には、刃線64a,65a,66a,67a,68aが形成されている。刃線65a,67aは、振動方向Aに対し傾斜しており、刃線65aの振動方向Aに対する傾斜度と、刃線67aの振動方向Aに対する傾斜度とは、略同じである。刃線65a,67aは、一対の傾斜刃線であって、振動方向Aに沿った軸Xを対称軸として、当該対称軸に対して線対称となるように形成されている。なお、図9においては、刃部60を切刃68側から見た場合の平面図を示している。刃部60を切刃64側から見た場合は、図9と同様であるため、図示を省略している。
刃線64a,68aは、振動方向Aに対し傾斜しており、刃線64aの振動方向Aに対する傾斜度と、刃線68aの振動方向Aに対する傾斜度とは、略同じである。刃線64a,68aの振動方向Aに対する傾斜度は、刃線65a,67aの振動方向Aに対する傾斜度よりも緩やかであり、刃線64a,68aは、振動方向Aに対して刃線65a,67aとは異なる角度で交差する。すなわち、刃部60は、振動方向Aに対する傾斜度が各対で異なる二対の傾斜刃線を有している。刃線64a,68aは、振動方向Aに沿った軸Xを対称軸として、当該対称軸に対して線対称となるように形成されている。刃線66aは、振動方向Aに対して略直交している。すなわち、刃部60は、振動方向Aに対して傾斜する刃線だけでなく、振動方向Aに対して直交する刃線66aも有している。
このような変形例に係る刃部60を備えるシーリング除去工具においても、刃部60が振動方向Aに対し傾斜する刃線65a,67a及び刃線64a,68aを有することにより、上記実施形態と同様の効果を奏する。すなわち、刃線65a,67a及び刃線64a,68aが、パネル材6の面取面8と交差する位置が、超音波振動による刃身部63の変位に応じて移動する。これにより、超音波振動が、パネル材6の面取面8に切り込まれた刃身部63を目地部4に沿った方向へ移動させる作用となる。よって、刃部60に接続された本体部30に対し作業者3が積極的に力を加えなくても、刃部60を目地部4に沿って容易に移動させることができ、その結果、目地部4に沿って直進性を保つように刃部60を移動させることが可能となる。また、二対の刃線65a,67a及び刃線64a,68aが、それぞれ、振動方向Aの対称軸に対して線対称となるように形成されているため、目地溝9の側面9a側と側面9b側とのそれぞれに対し、同様の操作により、パネル材6の面取面8に目地部4に沿った切れ目を入れることができる。以上より、本変形例においても、作業が容易であり、且つ、直進性を向上させることができるシーリング除去工具が提供される。
さらに、刃部60は、振動方向Aに対して傾斜している刃線65a,67aに加え、振動方向Aに対して刃線65a,67aとは異なる角度で交差する刃線64a,68aを有している。すなわち、刃部60は、振動方向Aに対する傾斜度が各対で異なる二対の傾斜刃線を有しているため、必要に応じて、パネル材6の面取面8に対し色々な角度で当てることができ、切り込み易い方向から容易にパネル材6を切り込むことができる。また、刃部60は、両刃であるため、一方の面63aと他方の面63bとで、刃先のバランスが均等にすることができ、安定した超音波振動が可能となる。
また、上記実施形態において、一対の傾斜刃線は、対称軸に対して線対称となるように形成されているが、完全な線対称に限られず、線対称状であればよい。すなわち、一対の傾斜刃線は、対称軸に対して反転させた場合に完全に重なり合わなくてもよく、例えば2mm〜3mm程度ずれていてもよい。また、刃部は、傾斜刃線を三対以上有していてもよい。また、刃部は、一方向に対して傾斜していない刃線(すなわち、一方向に対して直交する刃線又は一方向に対して平行な刃線)を有していてもよい。
なお、上記実施形態において、シーリング除去工具は、ALCパネルに対して適用されているが、これに限られず例えばコンクリート等に対して適用されてもよい。