本発明のペンタメチレンジイソシアネートの製造方法は、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とを混合して、ペンタメチレンジアミン塩酸塩を得る造塩工程と、ペンタメチレンジアミン塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させて、ペンタメチレンジイソシアネートを得るイソシアネート化工程とを含んでいる。
1.造塩工程
このペンタメチレンジイソシアネートの製造方法では、まず、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とを混合して、ペンタメチレンジアミン塩酸塩を製造する(塩酸塩法)。
ペンタメチレンジアミンとしては、例えば、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,4−ペンタメチレンジアミンなどが挙げられる。ペンタメチレンジアミンは、単独使用または2種類以上併用することができる。
ペンタメチレンジアミンとして、好ましくは、1,5−ペンタメチレンジアミンが挙げられる。なお、ペンタメチレンジアミンは、例えば、市販品として入手することもできるが、例えば、リシンおよび/またはその塩の脱炭酸酵素反応など、生化学的手法によって得ることもできる。
そして、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とは、例えば、不活性溶媒存在下において混合される。
不活性溶媒は、造塩工程およびイソシアネート化工程における各種成分(ペンタメチレンジアミン、塩化水素、ペンタメチレンジアミン塩酸塩、塩化カルボニル、およびペンタメチレンジイソシアネートなど)に対して、不活性な(反応しない)有機溶媒であれば、特に制限されない。具体的には、不活性溶媒として、例えば、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、脂肪族炭化水素類(例えば、オクタン、デカンなど)、脂環族炭化水素類(例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなど)、ハロゲン化芳香族炭化水素類(例えば、クロロトルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジブロモベンゼンなど)、含窒素化合物類(例えば、ニトロベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルイミダゾリジノンなど)、エーテル類(例えば、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、アニソール、フェネトール、メトキシトルエン、ベンジルエーテル、ジフェニエーテルなど)、ケトン類(例えば、ヘプタノン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなど)、エステル類(例えば、ギ酸アミル、酢酸−n−アミル、酢酸イソアミル、酢酸メチルイソアミル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−2−エチルブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸エトキシエチル、酢酸メトキシエチル、酢酸メトキシプロピル、酢酸エチル、酢酸第2ヘキシル、酢酸−2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸フェニル、酢酸メチルカルビトール、エチレングリコールジアテート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−ブチル、プロピオン酸イソアミル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸イソアミル、ステアリン酸ブチル、乳酸ブチル、乳酸アミル、フタル酸ジメチル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなど)などが挙げられる。このような不活性溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
不活性溶媒のなかでは、好ましくは、ハロゲン化芳香族炭化水素類が挙げられ、さらに好ましくは、ジクロロベンゼンが挙げられる。
このような造塩工程では、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とが混合されると、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が粒子(二次粒子)として得られる。そして、造塩工程では、得られるペンタメチレンジアミン塩酸塩の全粒子のうち、二次粒子径が50μmを超過し200μm未満の範囲内であるペンタメチレンジアミン塩酸塩の粒子(以下、50−200μmのPDA塩酸塩粒子とする。)の存在比率が、体積基準で50%以上となるように調整される。
このような造塩工程は、例えば、図1に示す撹拌装置1により実施される。また、好ましくは、造塩工程に続いて、イソシアネート化工程が、撹拌装置1により実施される。
撹拌装置1は、撹拌槽10と、アミン供給ライン12と、塩化水素供給ライン13と、塩化カルボニル供給ライン11と、輸送ライン14と、回転軸15と、回転羽根16とを備えている。なお、本実施形態では、撹拌装置1は、撹拌槽10内にバッフルを備えていない。
撹拌槽10は、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とを撹拌混合するための槽である。撹拌槽10は、好ましくは、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とを撹拌混合するための槽と、ペンタメチレンジアミン塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させるための反応容器(ホスゲン化反応槽)とを兼ねていてもよい。撹拌槽10は、例えば、温度・圧力が制御可能な耐熱耐圧容器からなる。撹拌槽10は、アミン供給口10Aと、塩化水素供給口10Bと、塩化カルボニル供給口10Cと、排出口10Dとを有する。
アミン供給口10A、塩化水素供給口10Bおよび塩化カルボニル供給口10Cのそれぞれは、撹拌槽10の上部に形成されている。排出口10Dは、撹拌槽10の底部に形成されている。
アミン供給ライン12は、撹拌槽10にペンタメチレンジアミンを供給するための配管である。アミン供給ライン12の下流端部は、アミン供給口10Aに接続されている。アミン供給ライン12の上流端部は、図示しないが、ペンタメチレンジアミンが溶解されたアミン溶液(後述)を貯留するタンクに接続されている。
塩化水素供給ライン13は、撹拌槽10に塩化水素を供給するための配管である。塩化水素供給ライン13の下流端部は、塩化水素供給口10Bに接続されている。塩化水素供給ライン13の上流端部は、図示しないが、塩化水素を貯留するタンクに接続されている。
塩化カルボニル供給ライン11は、撹拌槽10に塩化カルボニルを供給するための配管である。塩化カルボニル供給ライン11の下流端部は、塩化カルボニル供給口10Cに接続されている。塩化カルボニル供給ライン11の上流端部は、図示しないが、塩化カルボニルを貯留するタンクに接続されている。
輸送ライン14は、撹拌槽10内において生成される反応混合物(後述)を、撹拌槽10から排出するための配管である。輸送ライン14の上流端部は、排出口10Dに接続されている。なお、図示しないが、輸送ライン14には、輸送ライン14を開閉するためのバルブが設けられている。バルブは、常には、輸送ライン14を閉鎖している。
回転軸15は、回転羽根16を回転させるための軸部であって、回転羽根16を支持している。回転軸15は、上下方向に延びている。回転軸15は、回転方向Rに回転可能となるように、撹拌槽10に支持されている。回転軸15の上端部は、撹拌槽10の外側において、駆動源に接続されている。回転軸15の下端部は、撹拌槽10内に位置している。
回転羽根16は、撹拌槽10内の塩酸塩スラリー(後述)を撹拌するための撹拌翼である。回転羽根16は、回転軸15の下端部に設けられている。これにより、回転羽根16は、撹拌槽10内に配置される。回転羽根16は、特に制限されないが、例えば、図2に示すフルゾーン翼(以下、FZ翼21とする。)、図3に示す3枚後退翼22などが挙げられる。
図2に示すように、FZ翼21は、第1翼21Aと、第2翼21Bとを備えている。第1翼21Aは、第2翼21Bに対して下側に位置している。第1翼21Aは、所定方向に延びる板形状を有している。所定方向における第1翼21Aの両端部は、互いに逆方向に向かって屈曲している。第1翼21Aは、第1翼21Aの厚み方向が回転軸15の軸線方向と直交するように、回転軸15に固定されている。
第2翼21Bは、第1翼21Aとは異なる方向に延びる板形状を有している。第2翼21Bは、回転軸15の軸線方向から見て、第1翼21Aと交差するように延びている。第2翼21Bは、第2翼21Bの厚み方向が回転軸15の軸線方向と直交するように、回転軸15に固定されている。第2翼21Bは、第2翼21Bの下端縁の中央部分から上方に向かって凹む凹部を有する。
図3および図4に示すように、3枚後退翼22は、3つの後退翼22Aを備えている。後退翼22Aは、回転軸15の回転方向Rに互いに等間隔を空けて配置されている。後退翼22Aは、回転軸15から径方向外側に向かって延びている。後退翼22Aは、回転軸15の径方向外側に向かうにつれて、回転方向Rの上流側に向かって湾曲している。
次に、撹拌装置1による造塩工程について説明する。
図1に示すように、まず、撹拌槽10に不活性溶媒を予め仕込む。
予め仕込まれる不活性溶媒の質量割合は、造塩工程に供されるペンタメチレンジアミンおよび不活性溶媒の質量の総和(予め仕込まれる不活性溶媒と後述するアミン溶液との総和)に対して、例えば、20質量%以上、好ましくは、50質量%以上、例えば、80質量%以下、好ましくは、70質量%以下である。
その後、回転羽根16を回転させて不活性溶媒の撹拌を開始する。
回転羽根16の周速は、撹拌槽10の内容積が1Lである場合、例えば、0.3m/s以上、好ましくは、0.5m/s以上、例えば、3.0m/s以下、好ましくは、2.0m/s以下である。回転羽根16の回転数は、撹拌槽10の内容積が1Lである場合、例えば、100rpm以上、好ましくは、200rpm以上、例えば、700rpm以下、好ましくは、500rpm以下である。
撹拌装置1の単位体積あたりの撹拌動力(Pv)は、例えば、0.03kW/m3以上、好ましくは、0.10kW/m3以上、例えば、20kW/m3以下、好ましくは、16kW/m3以下である。なお、撹拌装置1の単位体積あたりの撹拌動力(Pv)は、後述する塩酸塩スラリー(造塩工程における最終液量)1m3当たりの撹拌動力(kw)である。
また、撹拌装置1の単位体積あたりの撹拌動力は、回転羽根16の種類に応じて、好適な範囲が変動する。
回転羽根16がFZ翼21である場合、撹拌装置1の単位体積あたりの撹拌動力は、例えば、0.03kW/m3以上、好ましくは、0.10kW/m3以上、例えば、10kW/m3以下、好ましくは、4.0kW/m3以下である。
回転羽根16が3枚後退翼22である場合、撹拌装置1の単位体積あたりの撹拌動力は、例えば、0.5kW/m3以上、好ましくは、1.0kW/m3以上、例えば、20kW/m3以下、好ましくは、16kW/m3以下、さらに好ましくは、5.0kW/m3以下である。
撹拌装置1の単位体積あたりの撹拌動力が上記上限以下であれば、50−200μmのPDA塩酸塩粒子の存在比率を上記範囲内に確実に調整できる。撹拌装置1の単位体積あたり撹拌動力が上記下限以上であれば、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とを確実に混合することができる。
次いで、撹拌槽10内の温度を造塩温度に昇温する。
造塩温度としては、例えば、90℃を超過し、好ましくは、100℃以上、例えば、不活性溶媒の沸点以下、好ましくは、180℃以下、さらに好ましくは、160℃以下である。
造塩温度が上記下限以上であれば、50−200μmのPDA塩酸塩粒子の存在比率を上記範囲内により確実に調整できる。造塩温度が上記上限以下であれば、不活性溶媒が揮発することを抑制でき、撹拌槽10内の圧力が過度に上昇することを抑制できる。
このとき、撹拌槽10内の圧力は、例えば、常圧(0.1MPa)以上、例えば、1.0MPa以下、好ましくは、0.5MPa以下である。
次いで、撹拌装置1による撹拌を維持しながら、上記造塩温度および圧力において、塩化水素ガスを、塩化水素供給ライン13を介して撹拌槽10に供給する。
塩化水素ガスの供給は、断続的であっても連続的であってもよいが、好ましくは、連続的である。
塩化水素ガスの供給速度は、撹拌槽10の内容積が1Lである場合、例えば、5.0g/hr以上、好ましくは、30g/hr以上、例えば、300g/hr以下、好ましくは、100g/hr以下である。
次いで、撹拌装置1による撹拌を維持しながら、上記造塩温度および圧力において、不活性溶媒にペンタメチレンジアミンが溶解されたアミン溶液をアミン供給ライン12から撹拌槽10に供給する。
アミン溶液におけるペンタメチレンジアミンの含有割合は、特に制限されないが、例えば、3.0質量%以上、好ましくは、4.5質量%以上、例えば、20質量%以下、好ましくは、17質量%以下である。
アミン溶液の供給は、断続的であっても連続的であってもよいが、好ましくは、連続的である。つまり、造塩工程では、好ましくは、ペンタメチレンジアミンを連続的に供給する。
ペンタメチレンジアミンの供給速度は、撹拌槽10の内容積が1Lである場合、例えば、7g/hr以上、好ましくは、14g/hr以上、例えば、150g/hr以下、好ましくは、100g/hr以下である。
ペンタメチレンジアミンの供給時間は、例えば、1.0hr以上、好ましくは、1.5hr以上、例えば、10hr以下、好ましくは、5hr以下である。
造塩工程における、ペンタメチレンジアミンおよび不活性溶媒の質量の総和(予め仕込んだ不活性溶媒と供給されたアミン溶液との総和)に対する、ペンタメチレンジアミンの供給量は、例えば、0.005/hr以上、好ましくは、0.010/hr以上、さらに好ましくは、0.040/hr以上、例えば、0.30/hr以下、好ましくは、0.14/hr未満である。
上記のペンタメチレンジアミンの供給量[/hr]は、造塩工程に供されるペンタメチレンジアミンおよび不活性溶媒の質量の総和に対する、単位時間当たりのペンタメチレンジアミンの供給量であって、例えば、下記式(1)により算出される。
ペンタメチレンジアミンの供給量[/hr]=造塩工程において供給したペンタメチレンジアミンの全量[g]/アミン溶液の供給時間[hr]×(予め仕込んだ不活性溶媒量[g]+供給したアミン溶液の全量[g])・・・(1)
ペンタメチレンジアミンの供給量が上記下限以下であれば、50−200μmのPDA塩酸塩粒子の存在比率を上記範囲内により一層確実に調整できる。ペンタメチレンジアミンの供給量が上記上限以下であれば、造塩工程に要する時間の低減を図ることができ、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の生産効率の向上を図ることができる。
また、ペンタメチレンジアミンおよび不活性溶媒の質量の総和(予め仕込んだ不活性溶媒と供給されたアミン溶液との総和)に対する、造塩工程において供給したペンタメチレンジアミンの質量割合(全アミン濃度)は、例えば、5質量%以上、例えば、40質量%以下、好ましくは、35質量%以下、さらに好ましくは、10質量%以下である。
全アミン濃度が上記下限以上であれば、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の生産効率の向上を図ることができる。全アミン濃度が上記上限以下であれば、塩酸塩スラリー(後述)の流動性の低下を抑制でき、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の撹拌槽10に対する付着を抑制できる。
なお、アミン溶液の供給時において、塩化水素ガスの供給は維持されている。塩化水素の供給割合は、ペンタメチレンジアミンのアミノ基1つに対して、例えば、1倍mol以上、好ましくは、1.1倍mol以上、例えば、10倍mol以下、好ましくは、6倍mol以下である。
また、アミン溶液の供給停止後、必要により、例えば、10分間〜2時間、塩化水素ガスの供給を維持して熟成させる。次いで、未反応塩化水素を、反応系外(撹拌槽10外)に放出する。
以上により、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とが、上記の造塩温度において、上記の撹拌動力で撹拌装置に撹拌混合されて、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が製造される(塩酸塩化反応)。そして、撹拌槽10の内容物がスラリー状液(造塩混合物)として調製される。以下において、ペンタメチレンジアミンの塩酸塩を含有するスラリー状液(造塩混合物)を、塩酸塩スラリーとする。
ペンタメチレンジアミンの塩酸塩の粒子の平均二次粒子は、例えば、30μm以上、好ましくは、50μm以上、例えば、200μm未満、好ましくは、150μm以下である。なお、ペンタメチレンジアミンの塩酸塩の粒子の平均二次粒子は、実施例に記載の方法により測定できる。
また、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の全粒子のうち、50−200μmのPDA塩酸塩粒子の存在比率は、体積基準で、50%以上、好ましくは、80%以上、さらに好ましくは、85%以上、例えば、100%以下、好ましくは、95%以下である。なお、ペンタメチレンジアミンの塩酸塩の粒子の存在比率は、実施例に記載の方法により測定できる。
50−200μmのPDA塩酸塩粒子の存在比率が上記範囲内であれば、塩酸塩スラリーの流動性の低下を抑制でき、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が撹拌槽10に付着することを抑制できる。
また、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の全粒子のうち、二次粒子の粒子径が50μm以下のPDA塩酸塩粒子の存在比率は、体積基準で、例えば、0%以上、好ましくは、5%以上、例えば、50%以下、好ましくは、20%以下である。
また、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の全粒子のうち、二次粒子の粒子径が200μm以上のPDA塩酸塩粒子の存在比率は、体積基準で、例えば、0%以上、好ましくは、5%以上、例えば、50%以下、好ましくは、20%以下である。
2.イソシアネート化工程
次いで、ペンタメチレンジアミン塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させて、ペンタメチレンジイソシアネートを得る。
イソシアネート化工程では、撹拌槽10内の圧力を、例えば、常圧(0.1MPa)以上、例えば、1.0MPa以下、好ましくは、0.5MPa以下とする。また、撹拌槽10内の温度を、例えば、80℃以上、好ましくは、90℃以上、例えば、180℃以下、好ましくは、160℃以下に昇温する。
そして、昇温後、塩化カルボニル供給ライン11を介して塩化カルボニルを撹拌槽10内に供給して、例えば、30分以上20時間以下、塩化カルボニルの供給を継続して、反応させる(イソシアネート化反応、ホスゲン化)。
なお、イソシアネート化反応の進行は、発生する塩化水素ガスの量と、上記の塩酸塩スラリーの懸濁が消失し、反応液(反応混合物)が澄明均一になることより確認できる。
これによって、塩化カルボニルとペンタメチレンジアミン塩酸塩とが反応して、ペンタメチレンジイソシアネートが、主成分として生成する。
得られるペンタメチレンジイソシアネートは、原料成分として用いられる上記のペンタメチレンジアミンに対応し、より具体的には、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,4−ペンタメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。例えば、1,5−ペンタメチレンジアミンが用いられる場合には、1,5−ペンタメチレンジイソシアネートが得られる。
以上によって、反応混合物(反応液)が製造される。
また、好ましくは、反応混合物(反応液)から、反応工程において余剰な塩化カルボニルや、副生する塩化水素などのガスを除去する(脱ガス工程)。
ガスを除去する方法としては、例えば、不活性ガスを供給して通気する方法や、公知のフラッシュタンクにより、上記ガスを反応混合物(反応液)から分離する方法が挙げられる。
不活性ガスを供給して通気する方法により、反応混合物(反応液)からガスを除去するには、例えば、80〜220℃、好ましくは、100〜170℃の反応混合物に、不活性ガスを、例えば、単位体積当たり0.01〜0.5/min、好ましくは、0.02〜0.2/minの供給速度で供給する。
不活性ガスとしては、例えば、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられ、好ましくは、窒素が挙げられる。このような不活性ガスは、単独使用または2種類以上併用することができる。
また、フラッシュタンクによりガスを反応混合物(反応液)から分離するには、例えば、ガスを含む反応混合物(反応液)を、フラッシュタンク内に流入させて急激に減圧する。これにより、ガスと液状成分(例えば、ペンタメチレンジイソシアネートや、不活性溶媒など)とを分離する。
これによって、反応混合物から、余剰な塩化カルボニルや、副生する塩化水素などのガスが除去される。
また、好ましくは、脱ガス工程後、例えば、公知の蒸留塔により、反応混合物から不活性溶媒を留去する(脱溶媒工程)。
蒸留塔における塔底温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、90℃以上、例えば、160℃以下、好ましくは、150℃以下である。蒸留塔における塔頂温度は、例えば、60℃以上、好ましくは、70℃以上、例えば、100℃以下、好ましくは、90℃以下である。蒸留塔内の圧力は、例えば、1kPa以上、好ましくは、2kPa以上、例えば、10kPa以下、好ましくは、5kPa以下である。
これによって、反応混合物から不活性溶媒が除去される。
3.脱タール工程、熱処理工程、蒸留工程
また、上記の反応混合物は、ペンタメチレンジイソシアネートに加えて、タール成分と、加水分解性塩素とを含有する場合がある。
そこで、本実施形態は、好ましくは、脱タール工程と、熱処理工程と、蒸留工程とをさらに含んでいる。なお、脱タール工程と熱処理工程との順序は、イソシアネート化工程の後であれば、特に制限されない。脱タール工程後に熱処理工程が実施されてもよく、熱処理工程後に脱タール工程が実施されてもよい。また、蒸留工程は、脱タール工程および熱処理工程の両工程の後に実施される。
脱タール工程では、反応混合物からタール成分を除去する。タール成分は、イソシアネート化工程において副生するポリイソシアネート残渣である。脱タール工程では、例えば、公知の薄膜蒸発器によって、反応混合物からタール成分を除去する。
脱タール工程における温度は、例えば、100℃以上、好ましくは、110℃以上、例えば、150℃以下、好ましくは、140℃以下である。脱タール工程における圧力は、例えば、2.6kPa以下、好ましくは、1.3kPa以下である。
これによって、反応混合物からタール成分が分離される。
熱処理工程では、反応混合物を加熱処理して、加水分解性塩素を分解除去する。
加水分解性塩素は、イソシアネート化工程において副生する有機塩素化合物であって、ポリウレタン樹脂の着色原因となる化合物である。また、加水分解性塩素は、加水分解により塩化水素を生成する化合物である。熱処理工程では、例えば、反応混合物に、必要により不活性ガス(例えば、窒素など)を導入しながら加熱する。
熱処理温度は、例えば、140℃以上、好ましくは、160℃以上、例えば、260℃以下、好ましくは、220℃以下である。熱処理時間(滞留時間)は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、1時間以上、例えば、12時間以下、好ましくは、6時間以下である。熱処理工程における圧力は、例えば、1kPa以上、好ましくは、10kPa以上、例えば、1000kPa以下、好ましくは、500kPa以下、さらに好ましくは、常圧(0.1MPa)である。
これにより、加水分解性塩素が加熱により分解される。そして、加水分解性塩素に由来する塩素分を、ガス成分として反応混合物から除去する。
蒸留工程では、反応混合物を蒸留して、反応混合物からペンタメチレンジイソシアネートを分離する。
蒸留温度としては、例えば、90℃以上、好ましくは、100℃以上、例えば、160℃以下、好ましくは、150℃以下である。蒸留圧力としては、例えば、1.0kPa以上、好ましくは、2.0kPa以上、例えば、4.0kPa以下、好ましくは、3.0kPa以下である。
また、蒸留時間(滞留時間)は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.5時間以上、さらに好ましくは、1時間以上、例えば、12時間以下、好ましくは、10時間未満、さらに好ましくは、8時間以下である。
以上により、反応混合物から、純度の高いペンタメチレンジイソシアネート(精ペンタメチレンジイソシアネート)が分離される。
精ペンタメチレンジイソシアネートの純度は、例えば、95質量%以上、好ましくは、98質量%以上、例えば、100質量%以下、好ましくは、99.999質量%以下である。
また、精ペンタメチレンジイソシアネートは、ペンタメチレンジイソシアネートと、少量の加水分解性塩素とを含有する組成物である。
精ペンタメチレンジイソシアネート中の加水分解性塩素の濃度は、例えば、5ppm以上、好ましくは、10ppm以上、例えば、150ppm以下、好ましくは、100ppm以下、さらに好ましくは、90ppm以下である。なお、加水分解性塩素の濃度は、JIS K−1603−3(2007)に記載されている加水分解性塩素の求め方に準拠して測定できる。
4.プラント
このようなペンタメチレンジイソシアネートの製造方法は、図5に示すように、例えば、プラント100により、工業的に連続実施される。
プラント100は、上記した方法でペンタメチレンジイソシアネートを製造するペンタメチレンジイソシアネートの製造装置である。プラント100は、撹拌装置1と、脱ガスユニット7と、脱溶媒ユニット3と、脱タールユニット4と、熱処理ユニット5と、蒸留ユニット8とを備えている。
撹拌装置1は、図1に示される撹拌装置1であって、造塩工程およびイソシアネート化工程の両工程が実施されるように構成されている。なお、図5に示すように、輸送ライン14の下流端部は、フラッシュタンク40(後述)の上下方向略中央部に接続されている。
脱ガスユニット7は、脱ガス工程を実施するように構成されており、フラッシュタンク40と、流出ライン41と、排気ライン42とを備えている。
フラッシュタンク40は、公知のフラッシュタンクであって、例えば、特開2009−119346号公報に記載のフラッシュタンクなどが挙げられる。
流出ライン41は、ガスが除かれた反応混合物を脱溶媒ユニット3に輸送するための配管である。流出ライン41の上流端部は、フラッシュタンク40の塔底部に接続されている。流出ライン41の下流端部は、蒸留塔18(後述)の上下方向略中央部に接続されている。
排気ライン42は、フラッシュタンク40により、反応混合物から分離されるガスを排出するための配管である。排気ライン42の上流端部は、フラッシュタンク40の塔頂部に接続されている。
脱溶媒ユニット3は、脱溶媒工程を実施するように構成されている。脱溶媒ユニット3は、蒸留塔18と、缶出ライン19と、留出ライン20とを備えている。
蒸留塔18は、例えば、温度・圧力制御可能な公知の蒸留塔からなり、好ましくは、連続式の蒸留塔である。
缶出ライン19は、蒸留塔18からの缶出液、つまり、不活性溶媒が除かれた反応混合物を脱タールユニット4に輸送するための配管である。缶出ライン19の上流端部は、蒸留塔18の塔底部に接続されている。缶出ライン19の下流端部は、薄膜蒸発器23(後述)の上下方向略中央部に接続されている。
留出ライン20は、蒸留塔18からの留出液、つまり、不活性溶媒を留去するための配管である。留出ライン20の上流端部は、蒸留塔18の塔頂部に接続されている。留出ライン20の下流端部は、図示しないが、溶媒を回収する溶媒タンクに接続されているか、撹拌槽10に接続されており、不活性溶媒を再使用可能としている。
脱タールユニット4は、脱タール工程を実施するように構成されている。脱タールユニット4は、薄膜蒸発器23と、第1抜出ライン24と、第2抜出ライン28とを備えている。
薄膜蒸発器23は、公知の薄膜蒸発器であって、ケーシング25と、ワイパ26と、内部コンデンサ27とを備えている。
ケーシング25には、ケーシング25内を加熱するためのジャケットおよびケーシング25内を減圧するための吸引管(図示せず)が設けられている。
ワイパ26は、ケーシング25内に配置されている。ワイパ26は、ケーシング25の内周面と僅かに間隔を空けて配置されている。ワイパ26は、図示しないモータにより回転可能である。
内部コンデンサ27は、例えば、冷媒が循環される熱交換器からなる。内部コンデンサ27は、ケーシング25内において、ケーシング25の底壁に設けられている。
第1抜出ライン24は、ケーシング25から、タール成分が除かれた反応混合物を熱処理ユニット5に輸送するための配管である。第1抜出ライン24の上流端部は、内部コンデンサ27に接続されている。第1抜出ライン24の下流端部は、熱処理槽30(後述)の上下方向略中央部に接続されている。
第2抜出ライン28は、ケーシング25からタール成分を抜き出すための配管である。第2抜出ライン28の上流端部は、ケーシング25の下側部分に接続されている。第2抜出ライン28の下流端部は、図示しないが、タール成分を貯留するためのタンクに接続されている。
熱処理ユニット5は、熱処理工程を実施するように構成されており、熱処理槽30と、ガス供給ライン32と、輸送ライン33と、排気ライン34とを備えている。
熱処理槽30は、例えば、水平はね式撹拌機を備え、温度・圧力制御可能な耐熱耐圧容器からなる。
ガス供給ライン32は、熱処理槽30に、上記不活性ガスを供給するための配管である。ガス供給ライン32の下流端部は、熱処理槽30に接続されている。ガス供給ライン32の上流端部は、図示しないが、不活性ガスを貯留するガスタンクに接続されている。
輸送ライン33は、熱処理槽30において熱処理された反応混合物を、蒸留ユニット8に輸送するための配管である。輸送ライン33の上流端部は、熱処理槽30の下端部(底部)に接続されている。輸送ライン33の下流端部は、蒸留塔44(後述)の上下方向中央に接続されている。
排気ライン34は、ガス供給ライン32により供給される不活性ガスを、熱処理槽30から排出するための配管である。排気ライン34の上流端部は、熱処理槽30の上端部(頂部)に接続されている。
蒸留ユニット8は、蒸留工程を実施するように構成されている。蒸留ユニット8は、蒸留塔44と、缶出ライン31と、留出ライン46とを備えている。
蒸留塔44は、例えば、温度・圧力制御可能な公知の蒸留塔からなり、好ましくは、連続式の蒸留塔である。
缶出ライン31は、蒸留残渣を蒸留塔44から排出するための配管である。缶出ライン31の上流端部は、蒸留塔44の塔底部に接続されている。
留出ライン46は、蒸留塔44からの留出液、つまり、精ペンタメチレンジイソシアネートを排出するための配管である。留出ライン46の上流端部は、蒸留塔44の塔頂部に接続されている。留出ライン46の下流端部は、精ペンタメチレンジイソシアネートを貯留するためのタンクに接続されている。
次に、プラント100の動作について説明する。
プラント100では、まず、上記のアミン溶液が、上記の供給速度(供給量)で、アミン供給ライン12を介して、撹拌槽10に連続的に供給される。また、塩化水素ガスが、上記の供給速度で、塩化水素供給ライン13を介して、撹拌槽10に連続的に供給される。
そして、上記の造塩温度および圧力において、上記の撹拌動力で撹拌装置1により、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とが撹拌混合される。これにより、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が生成し、ペンタメチレンジアミン塩酸塩を含有するスラリー状液(塩酸塩スラリー)が製造される(造塩工程)。
このとき、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の全粒子のうち、50−200μmのPDA塩酸塩粒子の存在比率が体積基準で上記の範囲に調整されている。
次いで、塩化カルボニルが、上記のイソシアネート化工程の条件下において、塩化カルボニル供給ライン11を介して、撹拌槽10に連続的に供給される。
これにより、塩化カルボニルとペンタメチレンジアミン塩酸塩とが反応して、ペンタメチレンジイソシアネートが、主成分として生成する(イソシアネート化工程)。
以上によって、ペンタメチレンジイソシアネートと、タール成分と、加水分解性塩素と、不活性溶媒とを含有する反応混合物が製造される。
その後、反応混合物は、輸送ライン14を介して、フラッシュタンク40内に流入する。そして、反応混合物は、余剰の塩化カルボニルおよび塩化水素などのガスと、ペンタメチレンジイソシアネートや不活性溶媒などの液状成分とに分離される(脱ガス工程)。
そして、ガスは、排気ライン42を介して、フラッシュタンク40から排出され、ガスが除去された反応混合物は、流出ライン41を介して、フラッシュタンク40から流出し、蒸留塔18に輸送される。
次いで、反応混合物は、上記の脱溶媒工程の条件で、蒸留塔18において蒸留される(脱溶媒工程)。
そして、不活性溶媒は、留出ライン20により、蒸留塔18から留去される。留去された不活性溶媒は、必要に応じて再利用される。
一方、不活性溶媒が留去された反応混合物は、蒸留塔18の缶出液として、缶出ライン19を介して、蒸留塔18から薄膜蒸発器23に輸送される。
そして、反応混合物は、上記の脱タール工程の条件下において、ワイパ26とケーシング25の内周面との隙間において液膜に形成される。
ここで、タール成分は、液膜から蒸発することなく濃縮され、第2抜出ライン28から流出される。これにより、反応混合物から、タール成分が除去される(脱タール工程)。
一方、脱タールされた反応混合物は、加熱により蒸発し、内部コンデンサ27で濃縮され、第1抜出ライン24から流出される。
その後、反応混合物は、第1抜出ライン24を介して、熱処理槽30に輸送される。
熱処理槽30には、ガス供給ライン32を介して、不活性ガスが供給される。熱処理槽30に供給された反応混合物は、熱処理槽30内において、不活性ガスを導入されながら、上記の熱処理工程の条件で熱処理される(熱処理工程)。
これにより、加水分解性塩素は、加熱により分解される。そして、加水分解性塩素に由来する塩素分は、不活性ガスとともに、排気ライン34を介して熱処理槽30から排気される。その後、熱処理された反応混合物は、輸送ライン33を介して、蒸留塔44に輸送される。
次いで、反応混合物は、上記の蒸留工程の条件で、蒸留塔44において蒸留される(蒸留工程)。そして、精ペンタメチレンジイソシアネートが、留出ライン46から留出する。なお、蒸留塔44の釜残分(蒸留残渣)は、缶出ライン31を介して排出される。
以上により、ペンタメチレンジイソシアネート(精ペンタメチレンジイソシアネート)が、連続的に製造される。
5.作用効果
しかるに、造塩工程において、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の全粒子のうち、二次粒子径が上記の範囲未満であるペンタメチレンジアミン塩酸塩の粒子の存在比率が増加すると、比較的小さな粒子が互いに凝集して、塩酸塩スラリーの流動性が低下し、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が撹拌槽10に付着する場合がある。
また、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の全粒子のうち、二次粒子径が上記の範囲を超過するペンタメチレンジアミン塩酸塩の粒子の存在比率が増加すると、比較的大きな粒子の間に比較的小さな粒子が入りこみ、粒子間の空間が減少するので、塩酸塩スラリーの流動性の低下し、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が撹拌槽10に付着する場合がある。
一方、上記の実施形態では、造塩工程において、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とを、二次粒子径が上記の範囲内であるペンタメチレンジアミン塩酸塩の粒子の存在比率が上記下限以上となるように調整して混合する。
そのため、ペンタメチレンジアミン塩酸塩を含む塩酸塩スラリーの流動性の低下を抑制でき、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が撹拌槽10に付着することを抑制できる。
より具体的には、撹拌装置1がFZ翼21を備える場合、造塩工程において、好ましくは、ペンタメチレンジアミンおよび不活性溶媒の質量の総和に対する、ペンタメチレンジアミンの供給量が、0.010/hr以上0.050/hr以下であり、塩化水素の供給割合がペンタメチレンジアミンのアミノ基1つに対して、1.1倍mol以上6倍mol以下である。
そして、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とが、不活性溶媒存在下において、好ましくは、100℃以上160℃以下の造塩温度で、FZ翼21を備える撹拌装置1により、単位体積あたりの撹拌動力が0.10kW/m3以上4.0kW/m3以下の撹拌条件で撹拌混合される。
また、撹拌装置1が3枚後退翼22を備える場合、造塩工程において、好ましくは、ペンタメチレンジアミンおよび不活性溶媒の質量の総和に対する、ペンタメチレンジアミンの供給量が、0.010/hr以上0.050/hr以下であり、塩化水素の供給割合がペンタメチレンジアミンのアミノ基1つに対して、1.1倍mol以上6倍mol以下である。
そして、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とが、不活性溶媒存在下において、好ましくは、100℃以上160℃以下の造塩温度で、3枚後退翼22を備える撹拌装置1により、単位体積あたりの撹拌動力が1.0kW/m3以上5kW/m3以下の撹拌条件で撹拌混合される。
これらによって、ペンタメチレンジアミンと塩化水素とを、二次粒子径が上記の範囲内であるペンタメチレンジアミン塩酸塩の粒子の存在比率が上記下限以上となるように調整して混合することができる。
6.変形例
上記の実施形態では、撹拌装置1が、撹拌槽10内にバッフルを備えていないが、これに限定されない。撹拌装置1は、図6に示すように、撹拌槽10内にバッフル50を備えていてもよい。撹拌装置1がバッフル50を備える場合、バッフル50の個数は、2以下である。バッフル50は、回転軸15の軸線方向に延びる板形状を有している。バッフル50は、回転軸15の径方向に沿うように配置される。2つのバッフル50は、撹拌槽10内において、回転軸15の回転方向Rに互いに180°の間隔を空けて位置している。
上記の実施形態では、造塩工程において、撹拌槽10に不活性溶媒を予め仕込み、上記造塩温度に昇温した後、塩化水素ガスおよびアミン溶液を順に供給開始するが、これに限定されない。例えば、塩化水素ガスおよびアミン溶液を同時に供給開始することもできる。また、撹拌槽10にアミン溶液を予め仕込み、上記造塩温度に昇温した後、塩化水素ガスを供給してもよい。
上記の実施形態では、造塩工程後にイソシアネート化工程が実施されているが、これに限定されない。例えば、造塩工程とイソシアネート化工程とを同時に実施することもできる。より詳しくは、ペンタメチレンジアミンに、塩化水素ガスを供給するとともに、塩化カルボニルを供給して、ペンタメチレンジアミン塩酸塩を製造するとともに、ペンタメチレンジアミン塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させて、ペンタメチレンジイソシアネートを得ることもできる。
上記の実施形態では、造塩工程とイソシアネート化工程とが、同一の撹拌槽10において実施されているが、これに限定されない。例えば、撹拌槽10において造塩工程を実施し、撹拌槽10とは別の反応容器においてイソシアネート化工程を実施することもできる。この場合、撹拌槽10には、塩化カルボニル供給ライン11が接続されておらず、輸送ライン14の下流端部は、反応容器に接続されている(図1参照)。また、反応容器には、塩化カルボニル供給ライン11が接続されている(図1参照)。
そして、撹拌槽10において、上記実施形態と同様に造塩工程が実施され、塩酸塩スラリーが調製された後、塩酸塩スラリーは、輸送ライン14を介して反応容器に輸送(移液)される。
このとき、上記のように、塩酸塩スラリーの流動性の低下が抑制されているので、塩酸塩スラリーを円滑に輸送(移液)することができる。
その後、反応容器において、塩酸塩スラリーに塩化カルボニル供給ライン11を介して塩化カルボニルが供給されて、上記実施形態と同様にイソシアネート化工程が実施される。これによっても、ペンタメチレンジイソシアネート(反応混合物)を製造することができる。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。
また、以下において記載される各種物性の測定法を下記する。
<二次粒子径の測定(単位:μm)および存在比率(単位:vol%)>
ペンタメチレンジアミン塩酸塩をアセトンにより質量比で5倍に希釈して、塩酸塩スラリーを調製した。次いで、塩酸塩スラリーをスライドグラス上に滴下し、プリヒーター(商品名:FR−830、白光社製)により加熱して溶媒を揮発させた。その後、デジタルマイクロスコープ(商品名:VHX−700F、キーエンス社製)にて、ペンタメチレンジアミン塩酸塩粒子を写真撮影した。
当該写真から、ペンタメチレンジアミン塩酸塩粒子の二次粒子径を測定した。また、ペンタメチレンジアミン塩酸塩粒子の二次粒子径の測定結果から、下記表1に示す二次粒子径の範囲内であるペンタメチレンジアミン塩酸塩の粒子の存在比率を算出した。
実施例1〜6および比較例1、2
(1)造塩工程
撹拌槽(内容積1L)と、撹拌槽内に配置される回転羽根(FZ翼)とを備える撹拌装置を準備した。撹拌槽には、還流冷却管、温度計、アミン供給ライン、塩化水素導入ラインおよび塩化カルボニル導入ラインが設けられる。なお、実施例4および比較例2では、さらに、撹拌槽内にバッフルが下記表1に示す個数設けられる。
撹拌槽にo−ジクロロベンゼン582.4質量部を仕込んだ。次いで、下記表1に示す撹拌条件(周速および回転数)で撹拌を開始し、撹拌槽内の温度を下記表1に示す造塩温度に昇温した。そして、塩化水素ガスを、塩化水素導入ラインから撹拌槽に、連続的に下記表1に示す塩化水素供給速度で供給した。
次いで、1,5−ペンタメチレンジアミン(PDA)71質量部をo−ジクロロベンゼン346.65質量部に溶解したアミン溶液(アミン濃度:17質量%)を、アミン供給ラインから撹拌槽に、連続的に下記表1に示すPDA供給速度で、下記表1に示す供給時間供給した。
なお、ジクロロベンゼンと1,5−ペンタメチレンジアミンとの総和(予め仕込んだジクロロベンゼンとアミン溶液との総和)に対する、ペンタメチレンジアミンの質量割合(全アミン濃度)は、7.1質量%であった。
また、ジクロロベンゼンと1,5−ペンタメチレンジアミンとの総和(予め仕込んだジクロロベンゼンとアミン溶液との総和)に対する、PDA供給量、および、撹拌装置の単位体積あたりの撹拌動力(Pv)を下記表1に示す。
これにより、1,5−ペンタメチレンジアミンと塩化水素とが、下記表1に示す造塩温度において、下記表1に示す撹拌動力で撹拌装置に撹拌混合されて、1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩が製造された。撹拌槽内の混合溶液は、淡褐白色スラリー状液となった。
そして、そのスラリー状液(塩酸塩スラリー)の流動性を、造塩時の塩酸塩スラリーの滞留部の有無(目視)、および、造塩時の局所加熱の有無(内温制御性)を指標として、下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
良好:塩酸塩スラリーの滞留部が観測されず、かつ、造塩時に加熱量一定で内温が一定。
不良:塩酸塩スラリーの滞留部が観測されるか、または、造塩時に加熱量一定で内温が上昇。
また、造塩工程における、1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩(PDA塩酸塩)の撹拌槽に対する付着を、造塩終了後の抜き出し可能分と槽内付着分との割合を指標として、下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
少:撹拌槽内の混合溶液の総量に対し、抜き出し可能な量が90%以上。
多:撹拌槽内の混合溶液の総量に対し、抜き出し可能な量が90%未満。
その後、アミン溶液のフィード終了後、30分間、塩化水素ガスの供給を維持して熟成させた後、塩化水素ガスの供給を停止した。その後、撹拌槽内を脱ガスした。
このとき、撹拌槽内の混合溶液(塩酸塩スラリー)の一部をサンプリングして、上記のように、1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩の二次粒子径、および、二次粒子径が50μmを超過し200μm未満の範囲内である1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩の存在比率を算出した。その結果を表1に示す。
(2)イソシアネート化工程
次いで、撹拌槽の内液を徐々に160℃まで昇温した。その後、塩化カルボニルを、塩化カルボニル導入ラインから撹拌槽に、連続的に33g/hrで20時間加えた。そして、1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩を、圧力0.25MPa、反応温度160℃でイソシアネート化した。反応の過程で、撹拌槽内液は、淡褐色澄明溶液となった。
イソシアネート化終了後、160℃において、窒素ガスを100L/時で通気し、余剰の塩化カルボニル、副生する塩化水素を除去した(脱ガス工程)。その後、脱ガス工程後の反応液を、100℃において、減圧下でo−ジクロロベンゼンを留去した(脱溶媒工程)。
以上によって、反応混合物を得た。反応混合物は、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)と、タール成分とを含有していた。
次いで、公知の薄膜蒸発器によって、反応混合物からタール成分を分離し除去した(脱タール工程)。薄膜蒸発器内の温度は、125℃であり、薄膜蒸発器内の圧力は、0.13kPaであった。
次いで、脱タール後の反応混合物200質量部を、撹拌機、温度計および窒素導入管を備えたフラスコ(熱処理容器)に装入し、窒素をフラスコ内に30分間導入した後、引き続き、窒素を、10mL/min(窒素の反応混合物の単位体積当たりの供給速度:0.05/min)で導入するとともに、250rpmで撹拌しながら、常圧(0.1MPa)下、200℃で4時間加熱した。その後、40℃以下に冷却して、熱処理後の反応混合物を得た。
次いで、熱処理後の反応混合物を、撹拌機、フラスコおよび冷却管を備える蒸留装置により、120〜150℃、1.7〜2.4kPaの条件で蒸留(精留)した(蒸留工程)。
そして、初留分12質量%(12質量部)を留出させた後、主留分(本留分)76質量%(76質量部)を、精ペンタメチレンジイソシアネートとして採取した。なお、釜残分(蒸留残渣)は、12質量%(12質量部)であった。
実施例7および比較例3〜6
回転羽根を3枚後退翼に変更したこと、撹拌槽に仕込むジクロロベンゼンを370.4質量部に変更したこと、アミン溶液を1,5−ペンタメチレンジアミン(PDA)45.2質量部をo−ジクロロベンゼン220.4質量部に溶解して調製したこと、各種造塩条件(撹拌条件、造塩温度、塩化水素供給速度、PDA供給速度、供給時間、PDA供給量、および、Pv)を下記表2に示す値に変更したこと以外は、実施例1〜6および比較例1、2と同様にして、精ペンタメチレンジイソシアネートを得た。
なお、比較例6では、アミン溶液を、供給(2秒間)と供給停止(2秒間)とを繰り返して断続的に、撹拌槽に供給した。