本発明のペンタメチレンジイソシアネートの製造方法は、ペンタメチレンジアミンを含有するアミン原料と塩化水素とを混合して、ペンタメチレンジアミン塩酸塩を得る造塩工程と、ペンタメチレンジアミン塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させて、ペンタメチレンジイソシアネートを得るイソシアネート化工程とを含んでいる。
1.造塩工程
(1−1)アミン原料の準備
ペンタメチレンジイソシアネートの製造方法では、まず、アミン原料を準備する。
アミン原料は、主成分としてペンタメチレンジアミンを含有しており、さらに、不純物としてテトラヒドロピリジンを含有している。つまり、アミン原料は、ペンタメチレンジアミンと、テトラヒドロピリジンとを含有する組成物である。
ペンタメチレンジアミンとしては、例えば、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,4−ペンタメチレンジアミンなどが挙げられる。ペンタメチレンジアミンは、単独使用または2種類以上併用することができる。ペンタメチレンジアミンとして、好ましくは、1,5−ペンタメチレンジアミンが挙げられる。
アミン原料におけるペンタメチレンジアミンの含有割合は、例えば、98質量%以上、好ましくは、99.5質量%以上、例えば、100質量%以下、好ましくは、99.99質量%以下である。
テトラヒドロピリジンとしては、例えば、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン、1,2,3,4−テトラヒドロピリジン、1,2,3,6−テトラヒドロピリジンなどが挙げられる。テトラヒドロピリジンは、単独使用または2種類以上併用することができる。テトラヒドロピリジンとして、好ましくは、2,3,4,5−テトラヒドロピリジンが挙げられる。
アミン原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合は、0.005質量%以上、好ましくは、0.01質量%以上、0.20質量%以下、好ましくは、0.15質量%以下、さらに好ましくは、0.10質量%以下である。
アミン原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合が上記上限以下であれば、ペンタメチレンジアミン塩酸塩を含む造塩混合物の流動性の低下を抑制でき、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が撹拌槽に付着することを抑制できる。アミン原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合が上記下限以上であれば、後述するアミン原料の準備方法において、簡易な精製によりアミン原料を準備できる。
次に、アミン原料の準備方法について説明する。
このようなアミン原料は、例えば、市販品として入手することもできるが、例えば、リシンおよび/またはその塩の脱炭酸酵素反応などの生化学的手法によって準備される。
より具体的には、まず、リシンまたはその塩が溶解されたリシン水溶液に、リシン脱炭酸酵素を添加し撹拌して、リシンまたはその塩を脱炭酸酵素反応させる。
リシンとしては、例えば、L−リシンなどが挙げられる。
リシンの塩としては、例えば、カルボン酸塩(例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、2−エチルヘキサン酸塩、ステアリン酸塩など)、有機酸塩(例えば、スルホン酸塩など)、無機酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩など)などが挙げられる。リシンの塩として、好ましくは、リシン塩酸塩が挙げられ、さらに好ましくは、L−リシン塩酸塩が挙げられる。
このようなリシンまたはその塩は、単独使用または2種以上併用することができる。
リシン水溶液におけるリシン(またはその塩)の濃度は、例えば、1質量%以上、好ましくは、20質量%以上、例えば、70質量%以下、好ましくは、50質量%以下である。
リシン脱炭酸酵素は、リシン(またはその塩)をペンタメチレンジアミン(またはその塩)に転換させる酵素であって、例えば、公知の生物に由来するものが挙げられる。リシン脱炭酸酵素として、より具体的には、例えば、バシラス・ハロドゥランス(Bacillus halodurans)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ストレプトマイセス・コエリカーラ(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、ナイセリア・メニンギチデス(Neisseria meningitidis)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、ピロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)またはコリネバクテリウム・グルタミカス(Corynebacterium glutamicum)などの微生物に由来するものが挙げられる。安全性の観点から、好ましくは、Escherichia coliに由来するものが挙げられる。
リシン脱炭酸酵素は、例えば、特開2004−114号公報(例えば、段落番号[0015]〜[0042]など)の記載に準拠するなど、公知の方法により製造することができる。
脱炭酸酵素反応における反応温度は、例えば、28℃以上、好ましくは、35℃以上、例えば、55℃以下、好ましくは、45℃以下である。脱炭酸酵素反応における反応時間は、例えば、1時間以上、好ましくは、12時間以上、例えば、72時間以下、好ましくは、36時間以下である。リシン脱炭酸酵素が添加されたリシン水溶液のpHは、例えば、5.0以上、好ましくは、5.5以上、例えば、8.0以下、好ましくは、6.5以下である。
これにより、リシン(またはその塩)が脱炭酸酵素反応して、ペンタメチレンジアミンに転換される。その結果、ペンタメチレンジアミン(またはその塩)を含むペンタメチレンジアミン水溶液が準備される。なお、ペンタメチレンジアミンの塩としては、上記のリシンの塩と同様のものが挙げられる。
その後、必要により、ペンタメチレンジアミン水溶液のpHを1〜3に調整した後、ペンタメチレンジアミン水溶液に吸着剤(例えば、活性炭など)を添加して、その水溶液を撹拌した後、ろ過して吸着剤を除く。次いで、必要により、ペンタメチレンジアミン水溶液のpHを10〜14に調整する。
次いで、ペンタメチレンジアミン水溶液に含まれるペンタメチレンジアミン(またはその塩)を、抽出溶媒へ抽出する。
抽出溶媒としては、例えば、例えば、非ハロゲン系有機溶剤が挙げられる。非ハロゲン系有機溶剤は、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)を分子中に含有しない有機溶剤であって、例えば、非ハロゲン脂肪族系有機溶剤、非ハロゲン脂環族系有機溶剤、非ハロゲン芳香族系有機溶剤などが挙げられる。
非ハロゲン脂肪族系有機溶剤としては、例えば、直鎖状の非ハロゲン脂肪族系有機溶剤、分岐状の非ハロゲン脂肪族系有機溶剤などが挙げられる。
直鎖状の非ハロゲン脂肪族系有機溶剤としては、例えば、直鎖状の非ハロゲン脂肪族炭化水素類(例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−デカンなど)、直鎖状の非ハロゲン脂肪族エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテルなど)、直鎖状の非ハロゲン脂肪族アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、n−デカノールなど)などが挙げられる。
分岐状の非ハロゲン脂肪族系有機溶剤としては、例えば、分岐状の非ハロゲン脂肪族炭化水素類(例えば、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,2−ジメチルへキサン、2−メチル−3−エチルペンタン、2,2,5−トリメチルヘキサンなど)、分岐状の非ハロゲン脂肪族エーテル類(例えば、ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテルなど)、分岐状の非ハロゲン脂肪族1価アルコール類(例えば、2−ブタノール、イソブタノール、2−ヘキサノール、2−メチル−2−ペンタノール、イソオクタノール、イソデカノール、2−オクチルドデカノールなど)、分岐状の非ハロゲン脂肪族多価アルコール類(例えば、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなど)などが挙げられる。
非ハロゲン脂環族系有機溶剤としては、例えば、非ハロゲン脂環族炭化水素類(例えば、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p−メンタン、ビシクロヘキシルなど)が挙げられる。
非ハロゲン芳香族系有機溶剤としては、例えば、非ハロゲン芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、フェノール類(例えば、フェノール、クレゾールなど)などが挙げられる。
このような抽出溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
抽出溶媒として、好ましくは、直鎖状の非ハロゲン脂肪族系有機溶剤、さらに好ましくは、直鎖状の非ハロゲン脂肪族アルコール類が挙げられ、とりわけ好ましくは、n−ブタノールが挙げられる。
抽出溶媒として直鎖状の非ハロゲン脂肪族系有機溶剤を用いると、ペンタメチレンジアミン(またはその塩)を効率良く抽出することができ、アミン原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合を上記上限以下に確実に低減することができる。
なお、抽出溶媒は、本発明の効果を阻害しない範囲において、例えば、ハロゲン系有機溶剤(ハロゲン原子を分子中に含有する有機溶剤)を含むこともできる。ハロゲン系有機溶剤としては、例えば、ハロゲン系脂肪族炭化水素類(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、テトラクロロエチレンなど)、ハロゲン系芳香族炭化水素類(例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなど)などが挙げられる。
ペンタメチレンジアミン(またはその塩)を抽出溶媒へ抽出するには、例えば、常圧(0.1MPa)において、ペンタメチレンジアミン水溶液と抽出溶媒とを混合する。
抽出溶媒の混合割合は、ペンタメチレンジアミン水溶液100質量部に対して、例えば、30質量部以上、好ましくは、50質量部以上、さらに好ましくは、80質量部以上、例えば、300質量部以下、好ましくは、200質量部以下、さらに好ましくは、120質量部以下である。
ペンタメチレンジアミン水溶液と抽出溶媒との混合温度は、例えば、5℃以上、好ましくは、10℃以上、さらに好ましくは、15℃以上、例えば、60℃以下、好ましくは、50℃以下、さらに好ましくは、40℃以下である。ペンタメチレンジアミン水溶液と抽出溶媒との混合時間は、例えば、1分以上、好ましくは、5分以上、例えば、120分以下、好ましくは、90分以下、さらに好ましくは、60分以下である。
これにより、ペンタメチレンジアミンまたはその塩が、抽出溶媒中へ抽出される。
次いで、ペンタメチレンジアミン水溶液と抽出溶媒との混合液を、例えば、5分以上300分以下静置して、水層と有機層(抽出溶媒)とに分離させる。その後、有機層(すなわち、ペンタメチレンジアミン(またはその塩)が抽出溶媒に溶解した溶液)を公知の方法により取り出す。
なお、水層にペンタメチレンジアミン(またはその塩)が残存している場合、水層に含まれるペンタメチレンジアミン(またはその塩)を、新たな抽出溶媒により、複数回(例えば、2〜5回)抽出することもできる。
また、ペンタメチレンジアミン水溶液に含まれるペンタメチレンジアミン(またはその塩)を、例えば、抽出塔などを用いて、抽出溶媒に連続的に抽出することもできる。このような抽出塔としては、例えば、塔内部に棚板が数十段組み込まれた抽出塔や、棚板が回転円盤型の抽出塔などが挙げられる。
これによって、ペンタメチレンジアミン(またはその塩)が抽出溶媒に溶解された有機層が準備される。なお、以下において、当該有機層をペンタメチレンジアミン有機溶液とする。
ペンタメチレンジアミン有機溶液における、ペンタメチレンジアミン(またはその塩)の濃度は、例えば、0.2質量%以上、好ましくは、0.3質量%以上、さらに好ましくは、0.4質量%以上、とりわけ好ましくは、0.8質量%以上、例えば、40質量%以下、好ましくは、35質量%以下、さらに好ましくは、30質量%以下、とりわけ好ましくは、25質量%以下である。
次いで、ペンタメチレンジアミン有機溶液から、公知の方法により抽出溶媒を除去して、アミン原料を準備する。
ペンタメチレンジアミン有機溶液から抽出溶媒を除去するには、例えば、ペンタメチレンジアミン有機溶液を、公知の蒸留塔により蒸留する。
蒸留温度は、例えば、40℃以上、好ましくは、90℃以上、さらに好ましくは、100℃以上、とりわけ好ましくは、130℃以上、例えば、180℃以下、好ましくは、150℃以下、さらに好ましくは、140℃以下である。蒸留圧力は、例えば、0.3kPa以上、好ましくは、5kPa以上、例えば、常圧(0.1MPa)以下、好ましくは、15kPa以下である。蒸留時間(滞留時間)は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.5時間以上、例えば、12時間以下、好ましくは、10時間以下である。
これにより、ペンタメチレンジアミン有機溶液から抽出溶媒が留去されて、アミン原料が準備される。
しかるに、ペンタメチレンジアミンの保存や取扱において、ペンタメチレンジアミンが六員環を形成するとともにアンモニア(NH3)が脱離して、テトラヒドロピリジンが生成する。
これにより、アミン原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合が上記の範囲を超過する。なお、以下において、テトラヒドロピリジンの含有割合が上記の範囲を超過するアミン原料を精製前原料(精製前組成物)として、テトラヒドロピリジンの含有割合が上記の範囲であるアミン原料と区別する。
精製前原料におけるペンタメチレンジアミンの含有割合は、例えば、98.0質量%以上、好ましくは、99.0質量%以上、例えば、99.5質量%以下である。精製前原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合は、0.20質量%を超過し、好ましくは、0.30質量%以上、例えば、3.0質量%以下である。
そして、精製前原料を精製して、精製前原料からテトラヒドロピリジンを除去する(精製工程)。
精製前原料を精製するには、例えば、精製前原料を、公知の蒸留塔により減圧蒸留して、初留分を留出させた後、主留分をアミン原料として採取する。精製工程では、精製条件(蒸留条件)を変更することにより、アミン原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合を調整することができる。
蒸留塔としては、例えば、連続多段蒸留塔、回分多段蒸留塔などが挙げられる。蒸留塔の段数は、例えば、1段以上、好ましくは、10段以上、例えば、100段以下、好ましくは、60段以下である。
精製工程における蒸留温度(塔底温度)は、例えば、40℃以上、好ましくは、60℃以上、さらに好ましくは、100℃以上、例えば、180℃以下、好ましくは、130℃未満である。
蒸留温度が上記下限以上であれば、テトラヒドロピリジンを確実に除去することができ、蒸留温度が上記上限以下であれば、精製工程においてテトラヒドロピリジンが生成することを抑制できる。
精製工程における蒸留圧力は、例えば、0.3kPa以上、好ましくは、1.0kPa以上、例えば、100kPa以下、好ましくは、20kPa以下である。
蒸留圧力が上記の範囲であれば、蒸留温度が上記の範囲であっても、テトラヒドロピリジンを確実に除去することができる。
精製工程における蒸留時間(滞留時間)は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.5時間以上、例えば、12時間以下、好ましくは、10時間以下である。
精製工程における還流比は、例えば、1以上、好ましくは、5以上、さらに好ましくは、8以上、例えば、50以下、好ましくは、30以下である。
還流比が上記の範囲であれば、テトラヒドロピリジンを確実に除去することができ、アミン原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合の低減を確実に図ることができる。
初留分の質量割合は、精製前原料を100質量%としたときに、例えば、1.0質量%以上、好ましくは、2.0質量%以上、さらに好ましくは、10質量%以上、とりわけ好ましくは、20質量%以上、例えば、50質量%以下、好ましくは、30質量%以下である。
初留分の質量割合が上記下限以上であれば、アミン原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合を確実に低減することができる。初留分の質量割合が上記上限以下であれば、ペンタメチレンジアミンの収率の向上を図ることができる。
また、市販品のアミン原料であっても、テトラヒドロピリジンの含有割合が上記の範囲を超過する。そこで、上記の精製工程により、市販品のアミン原料(精製前原料)を精製して、アミン原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合を上記の範囲内とする。
(1−2)アミン原料と塩化水素との混合
次いで、アミン原料と塩化水素とを混合して、ペンタメチレンジアミン塩酸塩を製造する(塩酸塩法)。このようなペンタメチレンジアミン塩酸は、粒子(二次粒子)として製造される。
アミン原料と塩化水素とは、例えば、不活性溶媒存在下において混合される。
不活性溶媒は、造塩工程およびイソシアネート化工程における各種成分(アミン原料、塩化水素、ペンタメチレンジアミン塩酸塩、塩化カルボニル、およびペンタメチレンジイソシアネートなど)に対して、不活性な(反応しない)有機溶媒であれば、特に制限されない。具体的には、不活性溶媒として、例えば、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、脂肪族炭化水素類(例えば、オクタン、デカンなど)、脂環族炭化水素類(例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなど)、ハロゲン化芳香族炭化水素類(例えば、クロロトルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジブロモベンゼンなど)、含窒素化合物類(例えば、ニトロベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルイミダゾリジノンなど)、エーテル類(例えば、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、アニソール、フェネトール、メトキシトルエン、ベンジルエーテル、ジフェニエーテルなど)、ケトン類(例えば、ヘプタノン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなど)、エステル類(例えば、ギ酸アミル、酢酸−n−アミル、酢酸イソアミル、酢酸メチルイソアミル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−2−エチルブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸エトキシエチル、酢酸メトキシエチル、酢酸メトキシプロピル、酢酸エチル、酢酸第2ヘキシル、酢酸−2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸フェニル、酢酸メチルカルビトール、エチレングリコールジアテート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−ブチル、プロピオン酸イソアミル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸イソアミル、ステアリン酸ブチル、乳酸ブチル、乳酸アミル、フタル酸ジメチル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなど)などが挙げられる。このような不活性溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
不活性溶媒のなかでは、好ましくは、ハロゲン化芳香族炭化水素類が挙げられ、さらに好ましくは、ジクロロベンゼンが挙げられる。
このような造塩工程は、例えば、図1に示す撹拌装置1により実施される。また、好ましくは、造塩工程に続いて、イソシアネート化工程が、撹拌装置1により実施される。
撹拌装置1は、撹拌槽10と、アミン供給ライン12と、塩化水素供給ライン13と、塩化カルボニル供給ライン11と、輸送ライン14と、回転軸15と、回転羽根16とを備えている。
撹拌槽10は、アミン原料と塩化水素とを撹拌混合するための槽である。撹拌槽10は、好ましくは、アミン原料と塩化水素とを撹拌混合するための槽と、ペンタメチレンジアミン塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させるための反応容器(ホスゲン化反応槽)とを兼ねていてもよい。撹拌槽10は、例えば、温度・圧力が制御可能な耐熱耐圧容器からなる。撹拌槽10は、アミン供給口10Aと、塩化水素供給口10Bと、塩化カルボニル供給口10Cと、排出口10Dとを有する。
アミン供給口10A、塩化水素供給口10Bおよび塩化カルボニル供給口10Cのそれぞれは、撹拌槽10の上部に形成されている。排出口10Dは、撹拌槽10の底部に形成されている。
アミン供給ライン12は、撹拌槽10にアミン原料を供給するための配管である。アミン供給ライン12の下流端部は、アミン供給口10Aに接続されている。アミン供給ライン12の上流端部は、図示しないが、アミン原料が溶解されたアミン溶液(後述)を貯留するタンクに接続されている。
塩化水素供給ライン13は、撹拌槽10に塩化水素を供給するための配管である。塩化水素供給ライン13の下流端部は、塩化水素供給口10Bに接続されている。塩化水素供給ライン13の上流端部は、図示しないが、塩化水素を貯留するタンクに接続されている。
塩化カルボニル供給ライン11は、撹拌槽10に塩化カルボニルを供給するための配管である。塩化カルボニル供給ライン11の下流端部は、塩化カルボニル供給口10Cに接続されている。塩化カルボニル供給ライン11の上流端部は、図示しないが、塩化カルボニルを貯留するタンクに接続されている。
輸送ライン14は、撹拌槽10内において生成される反応混合物(後述)を、撹拌槽10から排出するための配管である。輸送ライン14の上流端部は、排出口10Dに接続されている。なお、図示しないが、輸送ライン14には、輸送ライン14を開閉するためのバルブが設けられている。バルブは、常には、輸送ライン14を閉鎖している。
回転軸15は、回転羽根16を回転させるための軸部であって、回転羽根16を支持している。回転軸15は、上下方向に延びている。回転軸15は、回転方向Rに回転可能となるように、撹拌槽10に支持されている。回転軸15の上端部は、撹拌槽10の外側において、駆動源に接続されている。回転軸15の下端部は、撹拌槽10内に位置している。
回転羽根16は、撹拌槽10内の塩酸塩スラリー(後述)を撹拌するための撹拌翼である。回転羽根16は、回転軸15の下端部に設けられている。これにより、回転羽根16は、撹拌槽10内に配置される。回転羽根16としては、フルゾーン翼、3枚後退翼などが挙げられる。
次に、撹拌装置1による造塩工程について説明する。
図1に示すように、まず、撹拌槽10に不活性溶媒を予め仕込む。
予め仕込まれる不活性溶媒の質量割合は、造塩工程に供されるアミン原料および不活性溶媒の質量の総和(予め仕込まれる不活性溶媒と後述するアミン溶液との総和)に対して、例えば、20質量%以上、好ましくは、50質量%以上、例えば、80質量%以下、好ましくは、70質量%以下である。
その後、回転羽根16を回転させて不活性溶媒の撹拌を開始する。
回転羽根16の周速は、撹拌槽10の内容積が1Lである場合、例えば、0.3m/s以上、好ましくは、0.5m/s以上、例えば、3.0m/s以下、好ましくは、2.0m/s以下である。回転羽根16の回転数は、撹拌槽10の内容積が1Lである場合、例えば、100rpm以上、好ましくは、200rpm以上、例えば、700rpm以下、好ましくは、500rpm以下である。
次いで、撹拌槽10内の温度を造塩温度に昇温する。
造塩温度としては、例えば、90℃を超過し、好ましくは、100℃以上、さらに好ましくは、130℃以上、とりわけ好ましくは、140℃以上、例えば、不活性溶媒の沸点以下、好ましくは、180℃以下、さらに好ましくは、170℃以下、とりわけ好ましくは、150℃以下である。
造塩温度が上記下限以上であれば、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の粒子の平均二次粒子径を大きくでき、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が撹拌槽に付着することを抑制できる。造塩温度が上記上限以下であれば、不活性溶媒が揮発することを抑制でき、撹拌槽10内の圧力が過度に上昇することを抑制できる。
このとき、撹拌槽10内の圧力は、例えば、常圧(0.1MPa)以上、例えば、1.0MPa以下、好ましくは、0.5MPa以下である。
次いで、撹拌装置1による撹拌を維持しながら、上記造塩温度および圧力において、塩化水素ガスを、塩化水素供給ライン13を介して撹拌槽10に供給する。
塩化水素ガスの供給は、断続的であっても連続的であってもよいが、好ましくは、連続的である。
塩化水素ガスの供給速度は、撹拌槽10の内容積が1Lである場合、例えば、5.0g/hr以上、好ましくは、30g/hr以上、例えば、300g/hr以下、好ましくは、100g/hr以下である。
次いで、撹拌装置1による撹拌を維持しながら、上記造塩温度および圧力において、不活性溶媒にアミン原料が溶解されたアミン溶液を、アミン供給ライン12から撹拌槽10に供給する。
アミン溶液におけるアミン原料の含有割合は、特に制限されないが、例えば、3.0質量%以上、好ましくは、4.5質量%以上、例えば、20質量%以下、好ましくは、17質量%以下である。
アミン溶液の供給は、断続的であっても連続的であってもよいが、好ましくは、連続的である。つまり、造塩工程では、好ましくは、アミン原料を連続的に供給する。
アミン原料の供給速度は、撹拌槽10の内容積が1Lである場合、例えば、7g/hr以上、好ましくは、14g/hr以上、例えば、150g/hr以下、好ましくは、100g/hr以下である。
アミン原料の供給時間は、例えば、1.0hr以上、好ましくは、1.5hr以上、例えば、10hr以下、好ましくは、5hr以下である。
また、アミン原料および不活性溶媒の質量の総和(予め仕込んだ不活性溶媒と供給されたアミン溶液との総和)に対する、造塩工程において供給したペンタメチレンジアミンの質量割合(全アミン濃度)は、例えば、5質量%以上、例えば、40質量%以下、好ましくは、35質量%以下、さらに好ましくは、10質量%以下である。
全アミン濃度が上記下限以上であれば、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の生産効率の向上を図ることができる。全アミン濃度が上記上限以下であれば、塩酸塩スラリー(後述)の流動性の低下を抑制でき、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の撹拌槽10に対する付着を抑制できる。
なお、アミン溶液の供給時において、塩化水素ガスの供給は維持されている。塩化水素の供給割合は、アミン原料のアミノ基1つに対して、例えば、1倍mol以上、好ましくは、1.1倍mol以上、例えば、10倍mol以下、好ましくは、6倍mol以下、さらに好ましくは、2.5倍mol以下、とりわけ好ましくは、2.0倍mol以下である。
塩化水素の供給割合が上記下限以上であれば、ペンタメチレンジアミンからペンタメチレンジアミン塩酸塩への転化率の向上を図ることができる。塩化水素の供給割合が上記上限以下であれば、経済的観点から工業的に有利である。
また、アミン溶液の供給停止後、必要により、例えば、10分間〜2時間、塩化水素ガスの供給を維持して熟成させる。次いで、未反応塩化水素を、反応系外(撹拌槽10外)に放出する。
以上により、アミン原料と塩化水素とが撹拌混合されて、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が製造される(塩酸塩化反応)。そして、撹拌槽10の内容物がスラリー状液(造塩混合物)として調製される。以下において、アミン原料の塩酸塩を含有するスラリー状液(造塩混合物)を、塩酸塩スラリーとする。
ペンタメチレンジアミン塩酸塩の粒子の平均二次粒子は、例えば、30μm以上、好ましくは、50μm以上、さらに好ましくは、70μm以上、例えば、200μm以下、好ましくは、150μm以下である。なお、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の粒子の平均二次粒子は、実施例に記載の方法により測定できる。
ペンタメチレンジアミン塩酸塩の粒子の平均二次粒子が上記の範囲内であれば、塩酸塩スラリーの流動性の低下を抑制でき、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の撹拌槽10に対する付着を抑制できる。
2.イソシアネート化工程
次いで、ペンタメチレンジアミン塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させて、ペンタメチレンジイソシアネートを得る。
イソシアネート化工程では、撹拌槽10内の圧力を、例えば、常圧(0.1MPa)以上、例えば、1.0MPa以下、好ましくは、0.5MPa以下とする。また、撹拌槽10内の温度を、例えば、80℃以上、好ましくは、90℃以上、例えば、180℃以下、好ましくは、160℃以下に昇温する。
そして、昇温後、塩化カルボニル供給ライン11を介して塩化カルボニルを撹拌槽10内に供給する。これにより、塩酸塩スラリーに塩化カルボニルが吹き込まれる。その後、例えば、30分以上20時間以下、塩化カルボニルの供給を継続して反応させる(イソシアネート化反応、ホスゲン化)。
なお、イソシアネート化反応の進行は、発生する塩化水素ガスの量と、上記の塩酸塩スラリーの懸濁が消失し、反応液(反応混合物)が澄明均一になることより確認できる。
これによって、塩化カルボニルとペンタメチレンジアミン塩酸塩とが反応して、ペンタメチレンジイソシアネートが、主成分として生成する。
得られるペンタメチレンジイソシアネートは、原料成分として用いられる上記のペンタメチレンジアミンに対応し、より具体的には、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,4−ペンタメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。例えば、1,5−アミン原料が用いられる場合には、1,5−ペンタメチレンジイソシアネートが得られる。
以上によって、反応混合物(反応液)が製造される。
反応混合物は、ペンタメチレンジイソシアネートと、塩素誘導体と、不活性溶媒とを含有している。塩素誘導体は、イソシアネート化工程において副生する有機塩素化合物であって、例えば、5−クロロペンチルイソシアネートなどが挙げられる。
反応混合物におけるペンタメチレンジイソシアネートの反応収率は、例えば、90mol%以上、好ましくは、95.0mol%以上、例えば、100mol%以下、好ましくは、99mol%以下である。なお、反応収率は、実施例に記載の方法により測定される。
また、反応混合物における塩素誘導体の生成率は、例えば、0.01mol%以上、好ましくは、0.10mol%以上、例えば、1.0mol%以下、好ましくは、0.30mol%以下である。なお、生成率は、実施例に記載の方法により測定される。
また、好ましくは、反応混合物(反応液)から、反応工程において余剰な塩化カルボニルや、副生する塩化水素などのガスを除去する(脱ガス工程)。
ガスを除去する方法としては、例えば、不活性ガスを供給して通気する方法や、公知のフラッシュタンクにより、上記ガスを反応混合物(反応液)から分離する方法が挙げられる。
不活性ガスを供給して通気する方法により、反応混合物(反応液)からガスを除去するには、例えば、80〜220℃、好ましくは、100〜170℃の反応混合物に、不活性ガスを、例えば、単位体積当たり0.01〜0.5/min、好ましくは、0.02〜0.2/minの供給速度で供給する。
不活性ガスとしては、例えば、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられ、好ましくは、窒素が挙げられる。このような不活性ガスは、単独使用または2種類以上併用することができる。
また、フラッシュタンクによりガスを反応混合物(反応液)から分離するには、例えば、ガスを含む反応混合物(反応液)を、フラッシュタンク内に流入させて急激に減圧する。これにより、ガスと液状成分(例えば、ペンタメチレンジイソシアネートや、不活性溶媒など)とを分離する。
これによって、反応混合物から、余剰な塩化カルボニルや、副生する塩化水素などのガスが除去される。
また、好ましくは、脱ガス工程後、例えば、公知の蒸留塔により、反応混合物から不活性溶媒を留去する(脱溶媒工程)。
蒸留塔における塔底温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、90℃以上、例えば、160℃以下、好ましくは、150℃以下である。蒸留塔における塔頂温度は、例えば、60℃以上、好ましくは、70℃以上、例えば、100℃以下、好ましくは、90℃以下である。蒸留塔内の圧力は、例えば、1kPa以上、好ましくは、2kPa以上、例えば、10kPa以下、好ましくは、5kPa以下である。
これによって、反応混合物から不活性溶媒が除去される。
3.脱タール工程、熱処理工程、蒸留工程
また、上記の反応混合物は、ペンタメチレンジイソシアネートに加えて、タール成分と、加水分解性塩素とを含有する場合がある。
そこで、本実施形態は、好ましくは、脱タール工程と、熱処理工程と、蒸留工程とをさらに含んでいる。なお、脱タール工程と熱処理工程との順序は、イソシアネート化工程の後であれば、特に制限されない。脱タール工程後に熱処理工程が実施されてもよく、熱処理工程後に脱タール工程が実施されてもよい。また、蒸留工程は、脱タール工程および熱処理工程の両工程の後に実施される。
脱タール工程では、反応混合物からタール成分を除去する。タール成分は、イソシアネート化工程において副生するポリイソシアネート残渣である。脱タール工程では、例えば、公知の薄膜蒸発器によって、反応混合物からタール成分を除去する。
脱タール工程における温度は、例えば、100℃以上、好ましくは、110℃以上、例えば、150℃以下、好ましくは、140℃以下である。脱タール工程における圧力は、例えば、2.6kPa以下、好ましくは、1.3kPa以下である。
これによって、反応混合物からタール成分が分離される。
熱処理工程では、反応混合物を加熱処理して、加水分解性塩素を分解除去する。
加水分解性塩素は、イソシアネート化工程において副生する有機塩素化合物であって、ポリウレタン樹脂の着色原因となる化合物である。また、加水分解性塩素は、加水分解により塩化水素を生成する化合物である。熱処理工程では、例えば、反応混合物に、必要により不活性ガス(例えば、窒素など)を導入しながら加熱する。
熱処理温度は、例えば、140℃以上、好ましくは、150℃以上、さらに好ましくは、160℃以上、例えば、260℃以下、好ましくは、220℃以下、さらに好ましくは、200℃以下である。熱処理時間(滞留時間)は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、1時間以上、さらに好ましくは、3時間以上、例えば、12時間以下、好ましくは、8時間以下、さらに好ましくは、6時間以下である。熱処理工程における圧力は、例えば、1kPa以上、好ましくは、10kPa以上、例えば、1000kPa以下、好ましくは、500kPa以下、さらに好ましくは、常圧(0.1MPa)である。
これにより、加水分解性塩素が加熱により分解される。そして、加水分解性塩素に由来する塩素分を、ガス成分として反応混合物から除去する。
蒸留工程では、反応混合物を蒸留して、反応混合物からペンタメチレンジイソシアネートを分離する。
蒸留温度としては、例えば、90℃以上、好ましくは、100℃以上、例えば、160℃以下、好ましくは、150℃以下である。蒸留圧力としては、例えば、1.0kPa以上、好ましくは、2.0kPa以上、例えば、4.0kPa以下、好ましくは、3.0kPa以下である。
また、蒸留時間(滞留時間)は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.5時間以上、さらに好ましくは、1時間以上、例えば、12時間以下、好ましくは、10時間未満、さらに好ましくは、8時間以下である。
以上により、反応混合物から、純度の高いペンタメチレンジイソシアネート(精ペンタメチレンジイソシアネート)が分離される。
精ペンタメチレンジイソシアネートの純度は、例えば、95質量%以上、好ましくは、97質量%以上、さらに好ましくは、98質量%以上、とりわけ好ましくは、99質量%以上、特に好ましくは、99.5質量%以上、例えば、100質量%以下、好ましくは、99.999質量%以下である。
また、精ペンタメチレンジイソシアネートは、ペンタメチレンジイソシアネートと、少量の加水分解性塩素とを含有する組成物である。
精ペンタメチレンジイソシアネート中の加水分解性塩素の濃度は、例えば、5ppm以上、好ましくは、10ppm以上、例えば、150ppm以下、好ましくは、100ppm以下、さらに好ましくは、80ppm以下、とりわけ好ましくは、60ppm以下、特に好ましくは、50ppm以下である。なお、加水分解性塩素の濃度は、JIS K−1603−3(2007)に記載されている加水分解性塩素の求め方に準拠して測定できる。
4.作用効果
上記の実施形態では、アミン原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合が、上記範囲内である。そのため、造塩工程において、得られるペンタメチレンジアミン塩酸塩の平均二次粒子径が上記範囲内となる。
しかるに、造塩工程において、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の平均二次粒子径が上記範囲未満であると、比較的小さな粒子が互いに凝集して、塩酸塩スラリーの流動性が低下し、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が撹拌槽10に付着する場合がある。
一方、上記の実施形態では、アミン原料におけるテトラヒドロピリジンの含有割合が上記範囲内であり、ペンタメチレンジアミン塩酸塩の平均二次粒子径が上記範囲内であるので、塩酸塩スラリーの流動性の低下を抑制でき、ペンタメチレンジアミン塩酸塩が撹拌槽に付着することを抑制できる。そのため、塩酸塩スラリーの効率的な撹拌を確保することができ、ひいては、ペンタメチレンジイソシアネートの収率の向上を図ることができる。
5.変形例
上記の実施形態では、造塩工程において、撹拌槽10に不活性溶媒を予め仕込み、上記造塩温度に昇温した後、塩化水素ガスおよびアミン溶液を順に供給開始するが、これに限定されない。例えば、塩化水素ガスおよびアミン溶液を同時に供給開始することもできる。また、撹拌槽10にアミン溶液を予め仕込み、上記造塩温度に昇温した後、塩化水素ガスを供給してもよい。
上記の実施形態では、造塩工程後にイソシアネート化工程が実施されているが、これに限定されない。例えば、造塩工程とイソシアネート化工程とを同時に実施することもできる。より詳しくは、アミン原料に、塩化水素ガスを供給するとともに、塩化カルボニルを供給して、ペンタメチレンジアミン塩酸塩を製造するとともに、ペンタメチレンジアミン塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させて、ペンタメチレンジイソシアネートを得ることもできる。
上記の実施形態では、造塩工程とイソシアネート化工程とが、同一の撹拌槽10において実施されているが、これに限定されない。例えば、撹拌槽10において造塩工程を実施し、撹拌槽10とは別の反応容器においてイソシアネート化工程を実施することもできる。この場合、撹拌槽10には、塩化カルボニル供給ライン11が接続されておらず、輸送ライン14の下流端部は、反応容器に接続されている(図1参照)。また、反応容器には、塩化カルボニル供給ライン11が接続されている(図1参照)。
そして、撹拌槽10において、上記実施形態と同様に造塩工程が実施され、塩酸塩スラリーが調製された後、塩酸塩スラリーは、輸送ライン14を介して反応容器に輸送(移液)される。
このとき、上記のように、塩酸塩スラリーの流動性の低下が抑制されているので、塩酸塩スラリーを円滑に輸送(移液)することができる。
その後、反応容器において、塩酸塩スラリーに塩化カルボニル供給ライン11を介して塩化カルボニルが供給されて、上記実施形態と同様にイソシアネート化工程が実施される。これによっても、ペンタメチレンジイソシアネート(反応混合物)を製造することができる。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。
また、以下において記載される各種物性の測定法を下記する。
<ペンタメチレンジアミン塩酸塩の平均二次粒子径の測定(単位:μm)>
ペンタメチレンジアミン塩酸塩をアセトンにより質量比で5倍に希釈して、塩酸塩スラリーを調製した。次いで、塩酸塩スラリーをスライドグラス上に滴下し、プリヒーター(商品名:FR−830、白光社製)により加熱して溶媒を揮発させた。その後、デジタルマイクロスコープ(商品名:VHX−700F、キーエンス社製)にて、ペンタメチレンジアミン塩酸塩粒子を写真撮影した。当該写真から、ペンタメチレンジアミン塩酸塩粒子の平均二次粒子径を測定した。
<ペンタメチレンジイソシアネートの反応収率(単位:mol%)>
まず、純度99.8質量%のペンタメチレンジイソシアネートを用い、以下のガスクロマトグラフ分析条件で得られたガスクロマトグラフの面積値から作成した検量線から、反応混合液におけるペンタメチレンジイソシアネートの濃度を求めた。
装置;GC−2010(島津製作所製)
カラム;DB−1、内径0.53mm×長さ30m×膜厚1.5μm(アジレントテクノロジー社製)
オーブン温度;120℃から280℃まで、7℃/minで昇温、280℃で5分間保持
注入口温度;250℃
検出器温度;280℃
キャリアガス;窒素
検出方法;FID
そして、下記式から、ペンタメチレンジイソシアネートの反応収率を算出した。
C1/{(W1×M1/M2)/(W2+W1×M1/M2)}
C1:反応混合液におけるペンタメチレンジイソシアネートの濃度
M1:ペンタメチレンジイソシアネートの分子量
M2:ペンタメチレンジアミンの分子量
W1:供給したペンタメチレンジアミンの質量部
W2:供給したジクロロベンゼン(予め仕込んだジクロロベンゼンとアミン溶液に用いたジクロロベンゼンとの総和)の質量部
<塩素誘導体(5−クロロペンチルイソシアネート)の生成率(単位:mol%)>
反応混合液をガスクロマトグラフにて分析して、塩素誘導体のモル数を得た。これを供給したペンタメチレンジアミンのモル数で割り、塩素誘導体の生成率を算出した。
調製例1(アミン原料(a)の調製)
L−リシン塩酸塩を水に溶解して、濃度が45質量%であるリシン水溶液を得た。次いで、リシン水溶液にリシン脱炭酸酵素を添加し、温度を37℃、pHを6に調整した。その後、24時間、リシン脱炭酸酵素が添加されたリシン水溶液を撹拌して、リシン塩酸塩を1,5−ペンタメチレンジアミンに転換させた。これにより、1,5−ペンタメチレンジアミンを含むペンタメチレンジアミン水溶液を得た。
その後、ペンタメチレンジアミン水溶液のpHを2に調整し、ペンタメチレンジアミン水溶液に活性炭を添加して、25℃で1時間攪拌した。次いで、ペンタメチレンジアミン水溶液を濾過した。ペンタメチレンジアミン水溶液における1,5−ペンタメチレンジアミンの濃度は、17.0質量%であった。その後、ペンタメチレンジアミン水溶液のpHを12に調整した。
次いで、ペンタメチレンジアミン水溶液100質量部と、n−ブタノール100質量部とを分液ロートにより混合した後、30分間静置した。その後、水層である下層を抜き出し、次いで有機層である上層を抜き出した。
次いで、温度計、蒸留塔、冷却管および窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、有機層の抽出液80質量部を仕込み、常圧(0.1MPa)にて、液温が139℃に達するまで加熱し、n−ブタノールを留去させた。これにより、精製前原料17質量部を得た。
精製前原料における1,5−ペンタメチレンジアミンの含有割合は、99.3質量%であり、精製前原料における2,3,4,5−テトラヒドロピリジン(THP)の含有割合は、0.3質量%(3000ppm)であった。
次いで、精製前原料を、多段蒸留塔において、10〜14kPaにて、液温を118℃〜125℃、還流比10の条件で蒸留し、初留分25質量%を留出させた後、主留分65質量%をアミン原料(a)として得た。
アミン原料(a)は、1,5−ペンタメチレンジアミンと、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン(THP)とを含有していた。
アミン原料(a)における1,5−ペンタメチレンジアミン(PDA)の含有割合は、99.7質量%であり、アミン原料(a)における2,3,4,5−テトラヒドロピリジン(THP)の含有割合は、0.05質量%(500ppm)であった。
なお、精製前原料における1,5−ペンタメチレンジアミン(PDA)の含有割合および2,3,4,5−テトラヒドロピリジン(THP)の含有割合と、蒸留条件と、アミン原料におけるPDAの含有割合およびTHPの含有割合とを表1に示す。
調製例2(アミン原料(b)の調製)
初留分43質量%を留出させた後、主留分47質量%を留出させたこと以外は、上記の調製例1と同様にしてアミン原料(b)を得た。
アミン原料(b)における1,5−ペンタメチレンジアミンの含有割合は、99.9質量%であり、アミン原料(b)における2,3,4,5−テトラヒドロピリジン(THP)の含有割合は、0.01質量%(100ppm)であった。
調製例3(アミン原料(c)の調製)
還流比を5に変更したこと、および、初留分16質量%を留出させた後、主留分74質量%を留出させたこと以外は、上記の調製例1と同様にしてアミン原料(c)を得た。
アミン原料(c)における1,5−ペンタメチレンジアミンの含有割合は、99.6質量%であり、アミン原料(c)における2,3,4,5−テトラヒドロピリジン(THP)の含有割合は、0.12質量%(1200ppm)であった。
調製例4(アミン原料(d)の調製)
還流比を5に変更したこと、および、初留分2質量%を留出させた後、主留分88質量%を留出させたこと以外は、上記の調製例1と同様にしてアミン原料(d)を得た。
アミン原料(d)における1,5−ペンタメチレンジアミンの含有割合は、99.4質量%であり、アミン原料(d)における2,3,4,5−テトラヒドロピリジン(THP)の含有割合は、0.22質量%(2200ppm)であった。
実施例1〜6および比較例1
(1)造塩工程
撹拌槽(内容積1L)と、撹拌槽内に配置される回転羽根とを備える撹拌装置を準備した。撹拌槽には、還流冷却管、温度計、アミン供給ライン、塩化水素導入ラインおよび塩化カルボニル導入ラインが設けられる。撹拌槽に、反応溶媒としてo−ジクロロベンゼン370.4gを仕込んだ。次いで、o−ジクロロベンゼンを周速1.57m/sで撹拌するとともに、大気圧(0.1MPa)下において撹拌槽内の温度を下記表2に示す造塩温度に昇温した。そして、塩化水素ガスを、塩化水素導入ラインから撹拌槽に、10.7g/hrの供給速度で連続的に供給した。
次いで、下記表2に示すアミン原料45.2質量部をo−ジクロロベンゼン220.5質量部に溶解したアミン溶液(アミン濃度:17質量%)を、アミン供給ラインから撹拌槽に、66.4g/hrの供給速度で、下記表2に示す造塩時間、連続的に供給した。
なお、ジクロロベンゼンとアミン原料との総和(予め仕込んだジクロロベンゼンとアミン溶液との総和)に対する、ペンタメチレンジアミンの質量割合(全アミン濃度)は、7.1質量%であった。
これにより、アミン原料と塩化水素とが撹拌混合されて、1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩が製造された。撹拌槽内の混合溶液は、淡褐白色スラリー状液となった。
そして、そのスラリー状液(塩酸塩スラリー)の流動性を目視観察により下記の基準で評価した。その結果を表2に示す。
○:特に良好
△:良好
×:不良
また、造塩工程における、1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩(PDA塩酸塩)の撹拌槽に対する付着を目視観察により下記の基準で評価した。その結果を表2に示す。
○:少ない
△:やや多い
×:多い
そして、アミン溶液のフィード終了後、30分間、塩化水素ガスの供給を維持して熟成させた後、塩化水素ガスの供給を停止した。その後、撹拌槽内を脱ガスした。
以上によって、1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩を含む塩酸塩スラリーを製造した。
このとき、撹拌槽内の混合溶液(塩酸塩スラリー)の一部をサンプリングして、上記のように、1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩の平均二次粒子径(PDA塩酸塩の平均二次粒子径)を算出した。その結果を表2に示す。
(2)イソシアネート化工程
次いで、撹拌槽の内液を150℃まで昇温した。その後、塩化カルボニルを、大気圧(0.1MPa)下において、塩化カルボニル導入ラインから撹拌槽に、連続的に30.6g/hrで、下記表2に示す反応時間、連続的に供給した。撹拌槽内液は、淡褐色澄明溶液となった。
これにより、1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩がイソシアネート化して、1,5−ペンタメチレンジイソシアネートを含む反応混合液が製造された。
このとき、実施例5および比較例1の反応混合液の一部をサンプリングして、上記のように、ペンタメチレンジイソシアネートの反応収率(PDIの反応収率)および塩素誘導体の生成率を測定した。その結果を表2に示す。
イソシアネート化終了後、160℃において、窒素ガスを100L/時で通気し、余剰の塩化カルボニル、副生する塩化水素を除去した(脱ガス工程)。その後、脱ガス工程後の反応液を、100℃において、減圧下でo−ジクロロベンゼンを留去した(脱溶媒工程)。
以上によって、反応混合物を得た。反応混合物は、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)と、タール成分とを含有していた。
次いで、公知の薄膜蒸発器によって、反応混合物からタール成分を分離し除去した(脱タール工程)。薄膜蒸発器内の温度は、125℃であり、薄膜蒸発器内の圧力は、0.13kPaであった。
次いで、脱タール後の反応混合物を、撹拌機、温度計および窒素導入管を備えたフラスコ(熱処理容器)に装入し、窒素をフラスコ内に30分間導入した後、引き続き、窒素を、10mL/min(窒素の反応混合物の単位体積当たりの供給速度:0.05/min)で導入するとともに、250rpmで撹拌しながら、常圧下、200℃で4時間加熱した。その後、40℃以下に冷却して、熱処理後の反応混合物を得た。
次いで、熱処理後の反応混合物を、撹拌機、フラスコおよび冷却管を備える蒸留装置により、120〜150℃、1.7〜2.4kPaの条件で蒸留(精留)した(蒸留工程)。
そして、初留分12質量%を留出させた後、主留分(本留分)76質量%を、精ペンタメチレンジイソシアネートとして採取した。なお、釜残分(蒸留残渣)は、12質量%であった。