本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)を用いた熱分析により得られる、(A−1)融点(Tm)と降温結晶化ピーク温度(Tc)との差が0℃以上50℃未満の半芳香族ポリアミド樹脂(以下、「(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂」と記載する場合がある)、(A−2)融点(Tm)と降温結晶化ピーク温度(Tc)との差が50℃以上90℃未満のポリアミド樹脂(以下、「(A−2)ポリアミド樹脂」と記載する場合がある)および(B)炭素繊維を配合してなる。(B)炭素繊維により機械特性を向上させることができる一方、前述のとおり、表面外観が低下しやすい傾向にある。本発明において用いる(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂は吸水性が低く、さらに(A−2)と組み合わせることにより、融点(Tm)と降温結晶化ピーク温度(Tc)との差に起因する特性を利用して、成形に際して、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂が早期に結晶化し、厚み方向の収縮を抑制して表面うねりを低減するとともに、(A−2)ポリアミド樹脂が(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂よりゆっくり固化して金型転写性を向上させて表面粗さを低減することができる。
本発明における(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂は、融点(Tm)と降温結晶化ピーク温度(Tc)との差、すなわちTm−Tcが0℃以上50℃未満である。(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂のTm−Tcが50℃以上であると、成形品表面のうねり状凹凸(表面うねり)が増加し、表面外観が低下する。成形品の表面うねりをより低減する観点から、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂のTm−Tcは、45℃未満が好ましく、40℃未満がより好ましい。一方、成形品の表面粗さをより低減する観点から、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂のTm−Tcは、20℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。
ここで、本発明における(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂の融点(Tm)とは、融解吸熱ピークの頂点の温度を指し、JIS K7121(1987年)に準じて、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を30℃から10℃/分の速度で昇温して熱量を測定したときのDSC曲線における融解吸熱ピーク温度を意味する。融点の測定には、示差走査熱量計、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製EXSTAR DSC6000を用いることができる。なお、融解吸熱ピークが2つ以上観測される場合には、より高温側に存在する融解吸熱ピーク温度をTmとする。Tmは、耐熱性の観点から、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、280℃以上がさらに好ましい。一方、溶融成形時の分解を抑制する観点から、350℃以下が好ましく、330℃以下がより好ましく、320℃以下がさらに好ましい。
一方、本発明における(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂の降温結晶化ピーク温度(Tc)とは、結晶化発熱ピークの頂点の温度を指し、JIS K7121(1987年)に準じて、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を30℃から10℃/分の速度で融解吸熱ピーク終了温度より30℃高い温度まで昇温し、さらにこの温度で10分間保持した後、10℃/分の速度で降温して熱量を測定したときのDSC曲線における結晶化発熱ピークの頂点の温度を意味する。降温結晶化ピーク温度の測定には、示差走査熱量計、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製EXSTAR DSC6000を用いることができる。なお、降温結晶化ピークが2つ以上観測される場合には、より高温側に存在する結晶化発熱ピーク温度をTcとする。Tcは前記Tmとの差が50℃未満であれば特に制限はないが、成形品の表面うねりをより低減する観点から、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、250℃以上がさらに好ましい。一方、成形品の表面粗さをより低減する観点から、300℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましく、270℃以下がさらに好ましい。
Tm−Tcが50℃未満である半芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド9T、ポリアミド9T/8MT、ポリアミド10T、ポリアミド12T、ポリアミド10T/1012、ポリアミド6T/66、ポリアミド6T/6I、ポリアミド5T/6Tなどが挙げられる。ポリアミド9T、ポリアミド9T/8MT、ポリアミド10Tがより好ましい。これらを2種以上配合してもよい。なお、「/」は共重合体を表し、以下同じである。
本発明における(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂の相対粘度(ηr)は、2.0以上2.8以下が好ましい。(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂の相対粘度が2.0以上であれば、成形品の機械特性をより向上させることができる。2.05以上がより好ましく、2.1以上がさらに好ましい。一方、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂の相対粘度が2.8以下であれば、樹脂組成物の成形加工性を向上させることができる。2.7以下がより好ましく、2.6以下がさらに好ましい。なお、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂の相対粘度とは、樹脂濃度0.01g/mlの98%硫酸溶液について、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定した値である。(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂の相対粘度は、例えば、半芳香族ポリアミド樹脂製造時の圧力、温度、重合時間などの重合条件や、ジカルボン酸、ジアミン、末端封鎖剤などの原料組成により、所望の範囲に調整することができる。例えば、重合条件については、減圧度を高くするほど相対粘度を高くすることができ、重合時間を長くするほど相対粘度を高くすることができる。また、原料組成については、ジカルボン酸とジアミンの組成を等モルに近づけるほど相対粘度を高くすることができ、末端封鎖剤配合量を少なくするほど相対粘度を高くすることができる。
本発明における(A−2)ポリアミド樹脂は、融点(Tm)と降温結晶化ピーク温度(Tc)との差、すなわちTm−Tcが50℃以上90℃未満である。(A−2)ポリアミド樹脂のTm−Tcが50℃未満であると、成形品の表面粗さが増加し、表面外観が低下する。成形品の表面粗さをより低減する観点から、(A−2)ポリアミド樹脂のTm−Tcは55℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。一方、(A−2)ポリアミド樹脂のTm−Tcが90℃以上であると、成形品表面のうねり状凹凸(表面うねり)が増加し、表面外観が低下する。成形品の表面うねりをより低減する観点から、(A−2)ポリアミド樹脂のTm−Tcは、85℃未満が好ましく、80℃未満がより好ましい。
ここで、本発明における(A−2)ポリアミド樹脂の融点(Tm)とは、融解吸熱ピークの頂点の温度を指し、JIS K7121(1987年)に準じて、(A−2)ポリアミド樹脂30℃から10℃/分の速度で昇温して熱量を測定したときのDSC曲線における融解吸熱ピーク温度を意味する。融点の測定には、示差走査熱量計、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製EXSTAR DSC6000を用いることができる。なお、融解吸熱ピークが2つ以上観測される場合には、より高温側に存在する融解吸熱ピーク温度をTmとする。Tmは、耐熱性の観点から、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、220℃以上がさらに好ましい。一方、溶融成形時の分解を抑制する観点から、320℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましい。
一方、本発明における(A−2)ポリアミド樹脂の降温結晶化ピーク温度(Tc)とは、結晶化発熱ピークの頂点の温度を指し、JIS K7121(1987年)に準じて、(A−2)ポリアミド樹脂を30℃から10℃/分の速度で融解吸熱ピーク終了温度より30℃高い温度まで昇温し、さらにこの温度で10分間保持した後、10℃/分の速度で降温して熱量を測定したときのDSC曲線における結晶化発熱ピークの頂点の温度を意味する。降温結晶化ピーク温度の測定には、示差走査熱量計、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製EXSTAR DSC6000を用いることができる。なお、降温結晶化ピークが2つ以上観測される場合には、より高温側に存在する結晶化発熱ピーク温度をTcとする。Tcは前記Tmとの差が50℃以上90℃未満であれば特に制限はないが、成形品の表面粗さをより低減する観点から、120℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、160℃以上がさらに好ましい。一方、成形品の表面うねりをより低減する観点から、260℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、220℃以下がさらに好ましい。
Tm−Tcが50℃以上90℃未満であるポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/66、ポリアミド6/66/6I、ポリアミド6/612、ポリアミドMXD(m−キシリレンジアミン)6などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
また、本発明における(A−2)ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔHm)は、50J/g以下が好ましく、成形品の表面うねりをより低減することができる。成形品の表面うねりをより低減する観点から、(A−2)ポリアミド樹脂のΔHmは45J/g以下がより好ましく、40J/g以下がさらに好ましい。一方、成形品の機械特性をより向上させる観点から、10J/g以上が好ましく、15J/g以上がより好ましく、20J/g以上がさらに好ましい。
ここで、本発明における(A−2)ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔHm)とは、JIS K7122(1987年)に準じて、(A−2)ポリアミド樹脂を30℃から10℃/分の速度で昇温して熱量を測定したときのDSC曲線における融解吸熱量を意味する。融解熱量の測定には、示差走査熱量計、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製EXSTAR DSC6000を用いることができる。
本発明における(A−2)ポリアミド樹脂の相対粘度(ηr)は、1.8以上4.0以下が好ましい。(A−2)ポリアミド樹脂の相対粘度が1.8以上であれば、成形品の機械特性をより向上させることができる。1.9以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。一方、(A−2)ポリアミド樹脂の相対粘度が4.0以下であれば、樹脂組成物の成形加工性を向上させることができる。3.5以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましく、2.8以下がさらに好ましい。なお、(A−2)ポリアミド樹脂の相対粘度とは、樹脂濃度0.01g/mlの98%硫酸溶液について、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定した値である。(A−2)ポリアミド樹脂の相対粘度は、例えば、半芳香族ポリアミド樹脂製造時の圧力、温度、重合時間などの重合条件や、ジカルボン酸、ジアミン、末端封鎖剤などの原料組成により、所望の範囲に調整することができる。例えば、重合条件については、減圧度を高くするほど相対粘度を高くすることができ、重合時間を長くするほど相対粘度を高くすることができる。また、原料組成については、ジカルボン酸とジアミンの組成を等モルに近づけるほど相対粘度を高くすることができ、末端封鎖剤配合量を少なくするほど相対粘度を高くすることができる。
(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂および(A−2)ポリアミド樹脂の製造方法としては、例えば、原料となるジアミンとジカルボン酸またはその塩を加熱して低次縮合物を得て、さらに固相重合および/または溶融重合により高重合度化する方法などが挙げられる。低次縮合物を一旦取り出して、固相重合および/または溶融重合する2段重合、低次縮合物の製造工程に続いて、同一反応容器内で固相重合および/または溶融重合する1段重合のどちらを用いてもよい。なお、固相重合とは、100℃以上融点以下の温度範囲で、減圧下あるいは不活性ガス中で加熱する工程を指し、溶融重合とは、常圧または減圧下で融点以上に加熱する工程を指す。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物における(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂と(A−2)ポリアミド樹脂の配合量は、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂と(A−2)ポリアミド樹脂の合計100重量部に対して、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂50重量部以上99重量部以下、(A−2)ポリアミド樹脂1重量部以上50重量部以下である。(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を50重量部未満、(A−2)ポリアミド樹脂を50重量部を超えて配合すると、成形品の吸水性と表面うねりが増大する。(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を55重量部以上、(A−2)ポリアミド樹脂を45重量部以下配合することが好ましく、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を60重量部以上、(A−2)ポリアミド樹脂を40重量部以下配合することがより好ましく、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を65重量部以上、(A−2)ポリアミド樹脂を35重量部以下配合することがさらに好ましい。一方、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を99重量部を超え、(A−2)ポリアミド樹脂を1重量部未満配合すると、成形品の表面粗さが増大する。(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を95重量部以下、(A−2)ポリアミド樹脂を5重量部以上配合することが好ましく、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を90重量部以下、(A−2)ポリアミド樹脂を10重量部以上配合することがより好ましく、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を85重量部以下、(A−2)ポリアミド樹脂を15重量部以上配合することがさらに好ましい。
本発明における(B)炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ピッチ、レーヨン、リグニン、炭化水素ガスなどを用いて製造される炭素質繊維や黒鉛質繊維などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。これらの中でも、機械特性向上効果により優れることから、PAN系炭素繊維が好ましい。(B)炭素繊維は、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属で被覆されていてもよい。
(B)炭素繊維の形状としては、チョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどが一般的である。(B)炭素繊維の直径は15μm以下が一般的であり、好ましくは5〜10μmである。
(B)炭素繊維の形態は、特に制限されないが、数千から数十万本の炭素繊維からなる炭素繊維束や、これを粉砕したミルド状の形態が好ましい。炭素繊維束として、連続繊維を直接使用するロービング法により得られるものや、所定長さにカットしたチョップドストランドなどが挙げられる。これらの中でも、チョップドストランドが好ましい。チョップド炭素繊維の前駆体である炭素繊維ストランドのフィラメント数は、1,000〜150,000本が好ましく、製造コストを低減し、生産工程における安定性を向上させることができる。
本発明における(B)炭素繊維のストランド弾性率は、成形品の機械特性をより向上させる観点から、150GPa以上が好ましく、220GPa以上がより好ましい。一方、ストランド弾性率は、成形加工性をより向上させる観点から、1000GPa以下が好ましく、500GPa以下がより好ましい。
本発明における(B)炭素繊維のストランド強度は、成形品の機械特性をより向上させる観点から、1GPa以上が好ましく、3GPa以上がより好ましい。一方、ストランド強度は、成形品の表面うねりをより低減させる観点から、10GPa以下が好ましく、5GPa以下がより好ましい。
ここで、ストランド弾性率およびストランド強度とは、炭素繊維単繊維1,000〜150,000本よりなる連続繊維束にエポキシ樹脂を含浸硬化させて作製されたストランドの弾性率および強度をいい、ストランド試験片をJIS R 7601(1986年)に準拠して引張試験に供して得られる値である。
本発明における(B)炭素繊維は、表面酸化処理が施されていてもよく、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂や(A−2)ポリアミド樹脂との接着性を向上させることができる。表面酸化処理としては、例えば、通電処理による表面酸化処理、オゾンなどの酸化性ガス雰囲気中での酸化処理などが挙げられる。
また、(B)炭素繊維は、その表面にカップリング剤や集束剤等を付着させたものであってもよく、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂や(A−2)ポリアミド樹脂に対する濡れ性や、(B)炭素繊維の取り扱い性を向上させることができる。カップリング剤としては、例えば、アミノ系、エポキシ系、クロル系、メルカプト系、カチオン系のシランカップリング剤などが挙げられ、アミノ系シラン系カップリング剤などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。集束剤としては、例えば、無水マレイン酸系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、フェノール系化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物を含有する集束剤が好ましい。
(B)炭素繊維がその表面にカップリング剤や集束剤などが付着したものである場合、カップリング剤および集束剤の含有量は、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂や(A−2)ポリアミド樹脂に対する濡れ性をより向上させる観点から、カップリング剤や集束剤を含む(B)炭素繊維中、0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。一方、(B)炭素繊維の取り扱い性をより向上させる観点から、10重量%以下が好ましく、6重量%以下がさらに好ましい。
また、本発明における(B)炭素繊維は、サイジング剤が付与されたものであってもよい。炭素繊維のストランドにサイジング剤を付与し、チョップド炭素繊維を製造する方法としては、例えば、特公昭62−9541号公報におけるガラス繊維チョップドストランドに記載の方法や、特開昭62−244606号公報、特開平5−261729号公報などに記載の方法などを挙げることができる。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物における(B)炭素繊維の配合量は、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂と(A−2)ポリアミド樹脂の合計100重量部に対して、10重量部以上100重量部以下である。(B)炭素繊維の配合量が10重量部未満であると、成形品の機械特性が低下する。15重量部以上が好ましく、20重量部以上がより好ましい。一方、(B)炭素繊維の配合量が100重量部を超えると、樹脂組成物の生産性および成形加工性、成形品の機械特性が低下し、成形品の表面うねりや表面粗さ、反りが増大する。80重量部以下が好ましく、70重量部以下がより好ましく、60重量部以下がさらに好ましい。
また、本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物における(A−2)ポリアミド樹脂と(B)炭素繊維の配合比((A−2)/(B))が、0.15以上2.50以下であることが好ましく、かかる範囲とすることで、吸水性、機械特性および表面外観のバランスに優れた成形品を得ることができる。(A−2)/(B)の配合比が0.15以上であれば、機械特性の向上、表面粗さ、反りをより低減することができる。0.20以上がより好ましく、0.25以上がさらに好ましく、0.30以上が最も好ましい。一方、(A−2)/(B)の配合比が2.50以下であれば、吸水性、表面うねりをより低減することができる。2.00以下がより好ましく、1.50以下がさらに好ましく、1.00以下が最も好ましい。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物には、さらに(C)1分子中に3個以上のアミノ基を有する多価アミン化合物(以下、「(C)多価アミン化合物」と記載する場合がある)を配合してもよく、機械特性、成形加工性をより向上させることができる。また、金型転写性に優れることから、成形品の表面粗さをより低減することができる。(C)多価アミン化合物は、低分子化合物であってもよいし、重合体であってもよい。
本発明における(C)多価アミン化合物としては、1分子中に3個以上のアミノ基を有する脂肪族化合物が好ましい。1分子中に3つ以上のアミノ基を有する脂肪族化合物は、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂や(A−2)ポリアミド樹脂との相溶性および(B)炭素繊維との界面接着性に優れることから、成形品の機械特性、表面外観をより向上させることができる。1分子中のアミノ基数は、4以上が好ましく、6以上がさらに好ましい。
1分子中のアミノ基の数は、低分子化合物の場合は、通常の分析方法(例えば、NMR、FT−IR、GC−MS等の組み合わせ)により化合物の構造式を特定し、算出することができる。また、ポリマーの場合は、ポリマーに含まれるアミノ基を含有するモノマーの割合をa重量%とし、ポリマーの数平均分子量をbとし、アミノ基を含有するモノマーのグラム当量(モノマーの分子量/アミノ基の価数)をcとした場合に、アミノ基の平均個数=(a/100)×b/cとして求めることができる。
(C)多価アミン化合物としては、例えば、1,2,3−トリアミノプロパン、1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、1,2,4−トリアミノブタンなどのアミノ基を3個有する化合物や、1,1,2,3−テトラアミノプロパン、1,2,3−トリアミノ−2−メチルアミノプロパン、1,2,3,4−テトラアミノブタンおよびその異性体などのアミノ基を4個有する化合物や、3,6,9−トリアザウンデカン−1,11−ジアミンなどのアミノ基を5個有する化合物や、3,6,9,12−テトラアザテトラデカン−1,14−ジアミン、1,1,2,2,3,3−ヘキサアミノプロパン、1,1,2,3,3−ペンタアミノ−2メチルアミノプロパン、1,1,2,2,3,4−ヘキサアミノブタンおよびこれらの異性体などのアミノ基を6個有する化合物や、エチレンイミンを重合して得られるポリエチレンイミンなどが挙げられる。
本発明における(C)多価アミン化合物の分子量は、50〜10000が好ましい。(C)多価アミン化合物の分子量が50以上であれば、溶融混練時に揮発しにくいことから加工性に優れる。(C)多価アミン化合物の分子量は150以上が好ましく、200以上がより好ましい。一方、(C)多価アミン化合物の分子量が10000以下であれば、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂や(A−2)ポリアミド樹脂との相溶性がより高くなるため、本発明の効果がより顕著に奏される。(C)多価アミン化合物の分子量は6000以下が好ましく、4000以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましい。
(C)多価アミン化合物の分子量は、低分子化合物の場合は、通常の分析方法(例えば、NMR、FT−IR、GC−MS等の組み合わせ)により化合物の構造式を特定し、算出することができる。また、ポリマーの場合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて算出した重量平均分子量(Mw)を分子量とする。重量平均分子量は、化合物が溶解する溶媒、例えばヘキサフルオロイソプロパノールを移動相として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を標準物質として用い、カラムは溶媒に合わせ、例えばヘキサフルオロイソプロパノールを使用した場合には、島津ジーエルシー株式会社製の「shodex GPC HPIP−806M」を用いて、検出器として示差屈折率計を用いて測定することができる。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物における(C)多価アミン化合物の配合量は、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂と(A−2)ポリアミド樹脂の合計100重量部に対して、0.1重量部以上5重量部以下が好ましい。(C)多価アミン化合物を0.1重量部以上配合することにより、機械特性をより向上させ、表面うねりをより低減することができる。0.2重量部以上がより好ましく、0.5重量部以上がさらに好ましい。一方、(C)多価アミン化合物を5重量部以下配合することにより、吸水性をより低減することができる。4.0重量部以下がより好ましく、3.0重量部以下がさらに好ましい。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、滑剤、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、流動改質剤、耐衝撃性改良剤、結晶核剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤などの添加剤、(B)炭素繊維以外の充填材、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂および(A−2)ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を配合することができる。これらの配合量は、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂と(A−2)ポリアミド樹脂の合計100重量部に対して、0.01重量部以上5重量部以下が好ましい。0.01重量部以上配合することにより、目的とする特性を発現することができる。0.05重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましい。一方、10重量部以下配合することにより、本発明の効果である低吸水性、機械特性および表面外観を損なわない。5重量部以下がより好ましく、3重量部以下がさらに好ましい。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物において、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂および(A−2)ポリアミド樹脂の合計に対する、炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物のアミノ末端基濃度は3×10−5eq/g以上20×10−5eq/g以下が好ましい。かかるアミノ末端基濃度を3×10−5eq/g以上とすることにより、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂および(A−2)ポリアミド樹脂と(B)炭素繊維との界面接着性を向上させ、成形品の機械特性および表面外観をより向上させることができる。また、異種材料との接着性を向上させることができる。アミノ末端基濃度は、5×10−5eq/g以上がより好ましく、10×10−5eq/g以上がさらに好ましい。一方、アミノ末端基濃度を20×10−5eq/g以下とすることにより、滞留時の分解やガス発生を低減し、表面外観低下を抑制できる。アミノ末端基濃度は、18×10−5eq/g以下がより好ましく、15×10−5eq/g以下がさらに好ましい。
ここで、本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物における、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂および(A−2)ポリアミド樹脂の合計に対する、炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物のアミノ末端基濃度は、以下の方法により求めることができる。まず、炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物を真空乾燥した後、約0.5gを精秤し、フェノール/エタノール混合溶液25mlに室温で溶解する。滴定液として塩酸/エタノール溶液を、指示薬としてチモールブルー溶液を用いて、前記溶液を滴定することにより、アミノ末端基濃度[NH2]を求める。アミノ末端基濃度[NH2]は下式を用いて算出する。
アミノ末端基濃度[NH2]=(A−B)×f×N×10−3/(W×c×10−2)
A:1/50N−HCLの滴定量(ml)
B:ブランクに要した1/50N−HCLの滴定量(ml)
f:1/50N−HCLの力価
N:1/50
W:試料採取重量(g)
c:組成物中の(A−1)と(A−2)の合計の濃度(重量%)。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物における、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂および(A−2)ポリアミド樹脂の合計に対するアミノ末端基濃度をかかる範囲にする手段としては、例えば、炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物の製造時に、末端封鎖剤や前記(C)多価アミン化合物を配合してポリアミド樹脂の末端を修飾する方法、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂および(A−2)ポリアミド樹脂製造時の圧力、温度、重合時間などの重合条件や、ジカルボン酸、ジアミン、末端封鎖剤などの原料組成を調整する方法などが挙げられる。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、220℃以上300℃未満の範囲と160℃以上220℃未満の範囲のそれぞれに降温結晶化ピーク温度(Tc)を有することが好ましく、成形品の表面粗さ、表面うねりおよび反りをより低減することができる。220℃以上300℃未満の範囲に降温結晶化ピーク温度(Tc)を有する成分が成形に際して早期に結晶化するため、厚み方向の収縮を抑制して表面うねりをより低減することができる。一方、160℃以上220℃未満の範囲に降温結晶化ピーク温度(Tc)を有する成分がゆっくり固化して金型転写性を向上させるため、表面粗さを低減することができる。さらに、かかる範囲にそれぞれ降温結晶化ピークを有する成分の一部が相溶した状態で存在することにより、時間差で生成する結晶の配向を緩和し、成形時の反りをより低減することができる。
220℃以上300℃未満のTcは(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂に由来する。(A−1)由来のTcが220℃以上であれば、成形品の表面うねりをより低減することができる。Tcは225℃以上がより好ましく、230℃以上がより好ましい。一方、(A−1)由来のTcが300℃未満であれば、成形品の表面粗さをより向上させることができる。Tcは280℃以下がより好ましく、260℃以下がさらに好ましい。また、160℃以上220℃未満の範囲のTcは(A−2)ポリアミド樹脂に由来する。(A−2)由来のTcが160℃以上であれば、成形品の表面粗さをより向上させることができる。Tcは170℃以上がより好ましく、180℃以上がさらに好ましい。一方、(A−2)由来のTcが220℃未満であれば、成形品の表面うねりをより低減することができる。Tcは215℃未満がより好ましく、210℃未満がさらに好ましい。
ここで、本発明における炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化ピーク温度(Tc)とは、炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物としての結晶化発熱ピークの頂点の温度を指し、JIS K7121(1987年)に準じて、炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物を融解吸熱ピーク終了温度より30℃高い温度まで昇温し、さらにこの温度で10分間保持した後、10℃/分の速度で降温して熱量を測定したときのDSC曲線における結晶化発熱ピークの頂点の温度を意味する。降温結晶化ピーク温度の測定には、示差走査熱量計、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製EXSTAR DSC6000を用いることができる。
本発明における炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化ピーク温度(Tc)をかかる範囲にする手段としては、例えば、前述の(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂と(A−2)ポリアミド樹脂を、前述の好ましい配合量比で組み合わせる方法、後述する好ましい製造方法により炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物を得る方法などが挙げられる。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、半結晶化時間が5秒以上60秒以内の範囲を有することが好ましく、かかる範囲とすることで、成形時の固化を遅らせ金型転写性の向上や急激な結晶化による残留歪みが抑制されることにより、表面粗さや反りをより低減することができる。さらに薄肉、複雑形状において発生するウェルド部の外観や強度低下の抑制も期待できる。一方でかかる範囲とすることで、金型内での冷却固化時間内で十分に結晶化が進行可能であることから優れた機械特性を発現することができる。半結晶化時間は5秒以上であれば、成形品の表面粗さや反りをより低減することができる。半結晶化時間は10秒以上がより好ましく、15秒以上がさらに好ましい。一方、半結晶化時間が60秒以下であれば、成形品の機械特性をより向上させることができる。半結晶化時間は50秒以下がより好ましく、40秒以下がさらに好ましい。
ここで、本発明における炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物の半結晶化時間とは、炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物を30℃から10℃/分の速度で、融解吸熱ピーク終了温度より30℃高い温度まで昇温し、さらにこの温度で10分間保持した後、500℃/分の速度で(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)以上Tg+60℃以下の任意の温度まで急冷し等温保持する。このときの熱量を測定したDSC曲線におけるに、結晶化全発熱量の半分の発熱量に対応する経過時間を意味する。等温保持温度としては、成形時の結晶性を反映させる点から、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)以上Tg+60℃以下で測定することが好ましい。ガラス転移温度(Tg)以上であれば、成形品の結晶化促進により機械特性をより向上させることができる。等温保持温度はTg+10℃以上がより好ましく、Tg+20℃以上がさらに好ましい。一方、等温保持温度がTg+60℃以下であれば成形品の冷却固化時間短縮により生産性をより向上させることができる。等温保持温度はTg+50℃以下がより好ましく、Tg+40℃以下がさらに好ましい。半結晶化時間の測定には、示差走査熱量計、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製EXSTAR DSC6000を用いることができる。
本発明における炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物の半結晶化時間をかかる範囲にする手段としては、例えば、前述の(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂と(A−2)ポリアミド樹脂を、前述の好ましい配合量比で組み合わせる方法や、(A−2)ポリアミド樹脂と(B)炭素繊維を、前述の好ましい配合量比で組み合わせる方法、後述する好ましい製造方法により炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物を得る方法などが挙げられる。
なお、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121(1987年)に準じて、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を30℃から10℃/分の速度で昇温して熱量を測定し、DSC曲線におけるベースラインのシフトから求めることができる。ガラス転移温度(Tg)の測定には、示差走査熱量計、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製EXSTAR DSC6000を用いることができる。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、例えば、少なくとも(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂と(A−2)ポリアミド樹脂の合計100重量部に対して、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を50重量部以上99重量部以下、(A−2)ポリアミド樹脂を1重量部以上50重量部以下、(B)炭素繊維を10重量部以上100重量部以下配合することにより製造することができる。これらを溶融混練することが好ましい。
(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂、(A−2)ポリアミド樹脂、(B)炭素繊維および必要に応じて(C)多価アミン化合物やその他添加剤を溶融混練する溶融混練装置としては、これらを適度な剪断場の下で加熱溶融混練することが可能な、樹脂加工用に使用される、押出機、連続式ニーダー等が挙げられる。例えば、スクリューが1本の単軸押出機またはニーダー、スクリューが2本の二軸押出機またはニーダー、スクリューが3本以上の多軸押出機またはニーダー、押出機およびニーダーを組み合わせたタンデム押出機などが挙げられる。連続溶融混練が可能な二軸押出機が好ましい。これらには、溶融混練せず原料供給のみ可能なサイドフィーダーが設置されていてもよい。溶融混練装置のスクリューエレメントデザインとしては、フルフライトスクリュー等を有する溶融または非溶融搬送ゾーン、シールリング等を有するシールゾーン、ユニメルト、ニーディング等を有するミキシングゾーン等を組み合わせることができる。シールゾーンおよび/またはミキシングゾーンを2ヶ所以上有し、原料供給口を2ヶ所以上有することが好ましい。
例えば、二軸押出機を用いて溶融混練する場合、バレル設定温度は、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂および(A−2)ポリアミド樹脂が溶融し、かつ樹脂の分解が抑えられる温度範囲とすることが好ましい。具体的には、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂および(A−2)ポリアミド樹脂のいずれか融点の高い一方の融点+10℃以上360℃以下のバレル設定温度で溶融混練することが好ましい。バレル設定温度は上記範囲においてより高温になるほど、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂と(A−2)ポリアミド樹脂との親和性や(B)炭素繊維の分散性がより向上する。また、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂、(A−2)ポリアミド樹脂および必要に応じて(C)多価アミン化合物や他の添加剤は、二軸押出機の上流側に位置する主原料供給口から供給することが好ましく、(B)炭素繊維は、主原料供給口と下流側に位置する吐出口との間に位置する供給口から供給することが好ましい。(B)炭素繊維の供給位置を調整することにより、炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物における(B)炭素繊維の繊維長を所望の範囲に容易に調整することができる。具体的には、シールゾーンおよび/またはミキシングゾーンを2ヶ所以上有するスクリューデザインの場合、主原料供給口に最も近いシールゾーンおよび/またはミキシングゾーンと、吐出口に最も近いシールゾーンおよび/またはミキシングゾーンとの中間位置が好ましい。
(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂、(A−2)ポリアミド樹脂、(B)炭素繊維および必要に応じて(C)多価アミン化合物やその他添加剤を溶融混練する場合、下記式より算出される総剪断量が200以上2000以下の範囲とすることが好ましい。
総剪断量=剪断速度(γ)×滞留時間(t)
剪断速度=(D×π×N)/H
滞留時間=(W×H×L)/Q
D:スクリュー径(cm)
N:スクリュー回転数(rps)
H:スクリュー溝深さ(cm)
W:スクリュー溝幅(ピッチ)(cm)
L:スクリュー長さ(cm)
Q:供給量(g/s)
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、総剪断量をかかる範囲とすることで、前述の220℃以上300℃未満の範囲と160℃以上220℃未満の範囲のそれぞれに降温結晶化ピーク温度(Tc)を有する樹脂組成物が、さらに前述の半結晶化時間が5秒以上60秒以内の範囲を有する樹脂組成物が得られやすくなる。
総剪断量は200以上であれば、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂と(A−2)ポリアミド樹脂との親和性や(B)炭素繊維の分散性がより向上する。総剪断量は300以上がより好ましく、400以上がさらに好ましい。一方、総剪断量が2000以下であれば、(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂、(A−2)ポリアミド樹脂の劣化や(B)炭素繊維の折損がより抑制できる。総剪断量は1800以下がより好ましく、1500以下がさらに好ましい。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、ペレット化してから成形加工することが好ましい。ペレット中の(B)炭素繊維の重量平均繊維長は、成形品の機械特性をより向上させる観点から、0.10mm以上が好ましく、0.15mm以上がより好ましく、0.20mm以上がさらに好ましい。一方、ペレットおよび成形品の表面外観をより向上させる観点から、2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましく、1.0mm以下がさらに好ましい。また、ペレット中の(B)炭素繊維の数平均繊維長は、成形品の機械特性をより向上させる観点から、0.10mm以上が好ましく、0.15mm以上がより好ましく、0.20mm以上がさらに好ましい。一方、ペレットおよび成形品の表面外観をより向上させる観点から、2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましく、1.0mm以下がさらに好ましい。
ここで、ペレット中の炭素繊維の重量平均繊維長および数平均繊維長は、ペレットを500℃で1時間焼成し、得られた灰分を水分散させた後、濾過を行い、その残渣を光学顕微鏡にて観察し、1,000本について測定した繊維長から換算することができる。具体的には、炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物のペレットを10g程度ルツボに入れ、電気コンロにて可燃性ガスが発生しなくなるまで蒸し焼きにした後、500℃に設定した電気炉内でさらに1時間焼成することにより炭素繊維の残渣のみを得る。その残渣を光学顕微鏡にて50〜100倍に拡大した画像を観察し、無作為に選んだ1,000本の長さを測定し、その測定値(mm)(小数点2桁が有効数字)から重量平均繊維長(Lw)、数平均繊維長(Ln)を算出する。
数平均繊維長(Ln)=Σ(Li×ni)/Σni
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Wi×Li)/ΣWi
=Σ(πri2×Li×ρ×ni×Li)/Σ(πri2×Li×ρ×ni)
繊維径riおよび密度ρが一定である場合、上式は簡略化され、以下の式となる。
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li2×ni)/Σ(Li×ni)
Li:炭素繊維の繊維長
ni:繊維長Liの炭素繊維の本数
Wi:炭素繊維の重量
ri:炭素繊維の繊維径
ρ:炭素繊維の密度。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物を成形することにより、各種成形品を製造することができる。炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、真空成形法、ブロー成形法などの溶融成形法が挙げられ、射出成形が好ましい。
射出成形法としては、射出成形、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、超高速射出成形などが挙げられる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また、成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
本発明の成形品中の(B)炭素繊維の重量平均繊維長は、成形品の機械特性をより向上させる観点から、0.05mm以上が好ましく、0.10mm以上がより好ましく、0.15mm以上がさらに好ましい。一方、表面外観をより向上させる観点から、1.0mm以下が好ましく、0.50mm以下がより好ましく、0.40mm以下がさらに好ましい。また、成形品中の(B)炭素繊維の数平均繊維長は、成形品の機械特性をより向上させる観点から、0.05mm以上が好ましく、0.10mm以上がより好ましく、0.15mm以上がさらに好ましい。一方、成形品の表面外観をより向上させる観点から、1.0mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましく、0.40mm以下がさらに好ましい。
ここで、成形品中の炭素繊維の重量平均繊維長および数平均繊維長は、成形品を500℃で1時間焼成し、得られた灰分を水分散させた後、濾過を行い、その残渣を光学顕微鏡にて観察し、1,000本について測定した繊維長から換算することができる。具体的な測定方法は、ペレット中の炭素繊維の重量平均繊維長および数平均繊維長測定と同様である。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物によれば、吸水性が低く、機械特性および表面外観に優れた成形品を得ることができる。
本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物および成形品は、電子部品、電気部品、家庭用品、事務用品、自動車・車両関連部品、建材、スポーツ用品など、様々な用途に好ましく使用される。
電子部品としては、例えば、コネクタ、コイル、センサー、LEDランプ、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップシャーシ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに好ましく使用される。
電気部品としては、例えば、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品、モーターケース、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジングおよび内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、各種ギヤー、各種ケース、キャビネットなどに好ましく使用される。
家庭用品、事務用品としては、例えば、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ、レーザーディスク(登録商標)、コンパクトディスク、DVD等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、パソコンやノートパソコン等の電子機器筐体、オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライター、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに好ましく使用される。
自動車・車両関連部品としては、例えば、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・冷却系・ブレーキ系・ワイパー系・排気系・吸気系各種パイプ・ホース・チューブ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、電池周辺部品、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、トランスミッション用オイルパン、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ワイヤーハーネスコネクタ、SMJコネクタ、PCBコネクタ、ドアグロメットコネクタ、ヒューズ用コネクタ等の各種コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルパン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、トルクコントロールレバー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウォッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、インストルメントパネル、エアバッグ周辺部品、ドアパッド、ピラー、コンソールボックス、各種モーターハウジング、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、ルーフパネル、フードパネル、トランクリッド、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプベゼル、ドアハンドル、ドアモール、リアフィニッシャー、ワイパーなどに好ましく使用される。
建材としては、例えば、土木建築物の壁、屋根、天井材関連部品、窓材関連部品、断熱材関連部品、床材関連部品、免震・制振部材関連部品、ライフライン関連部品などに好ましく使用される。
スポーツ用品としては、例えば、ゴルフクラブやシャフト等のゴルフ関連用品、アメリカンフットボールや野球、ソフトボール等のマスク、ヘルメット、胸当て、肘当て、膝当て等のスポーツ用身体保護用品、スポーツシューズの底材等のシューズ関連用品、釣り竿、釣り糸、リール等の釣り具関連用品、サーフィン等のサマースポーツ関連用品、スキー・スノーボード等のウィンタースポーツ関連用品、自転車ペダルなどのサイクル関連用品、その他インドアおよびアウトドアスポーツ関連用品などに好ましく使用される。
本発明をさらに具体的に説明するために、以下、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず、各実施例および比較例に用いたポリアミド樹脂の特性の評価方法について説明する。
[ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)および降温結晶化ピーク温度(Tc)]
後述する(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂を、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量計(ロボットDSC、EXSTAR DSC6000システム)を用いて、JIS K7121(1987年)に従い、30℃から10℃/分の速度で昇温して熱量を測定し、DSC曲線におけるベースラインのシフトからガラス転移温度(Tg)を求めた。
後述する(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂、(A−2)ポリアミド樹脂または(A’)他のポリアミド樹脂を、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量計(ロボットDSC、EXSTAR DSC6000システム)を用いて、JIS K7121(1987年)に従い、30℃から10℃/分の速度で昇温して熱量を測定し、DSC曲線における融解吸熱ピーク温度から融点(Tm)を求めた。
また、後述する(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂、(A−2)ポリアミド樹脂または(A’)他のポリアミド樹脂を、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量計(ロボットDSC、EXSTAR DSC6000システム)を用いて、JIS K7121(1987年)に従い、30℃から10℃/分の速度で融解吸熱ピーク終了温度より30℃高い温度まで昇温し、さらにこの温度で10分間保持した後、10℃/分の速度で降温して熱量を測定し、DSC曲線における結晶化発熱ピークの頂点の温度から降温結晶化ピーク温度(Tc)を求めた。
[(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂の相対粘度]
後述する(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂の樹脂濃度0.01g/mlとなるように98%硫酸に溶解した溶液について、25℃でオストワルド式粘度計を用いて想定粘度を測定した。
[ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔHm)]
後述する(A−2)ポリアミド樹脂または(A’)他のポリアミド樹脂を、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量計(ロボットDSC、EXSTAR DSC6000システム)を用いて、JIS K7122(1987年)に準じて、30℃から10℃/分の速度で昇温して熱量を測定し、融解熱量(ΔHm)を求めた。
次に、実施例および比較例に用いた原料について説明する。
(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂
(製造例1)半芳香族ポリアミド樹脂(A−1−1)の製造
テレフタル酸4539.3g(27.3モル)、(a)1,9−ノナンジアミンと(b)2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物〔(a)/(b)=50/50(モル比)〕4478.8g(28.3モル)、安息香酸101.6g(0.83モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物9.12g(原料の総重量に対して0.1重量%)および水2.5リットルを混合し、加圧容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。この混合物を100℃で30分間撹拌した後、撹拌しながら2時間かけて加圧容器内部の温度を220℃に昇温した。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで上昇した。そのまま220℃で2時間撹拌を続けた後、230℃に昇温し、その後2時間、温度を230℃に保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次に、30分間かけて圧力を1MPaまで下げ、さら230℃で1時間撹拌を続けた。次に30分間かけて圧力を常圧まで下げ、内容物を水中に吐出しプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを、100℃、減圧下で12時間乾燥後、2mm以下の粒径まで粉砕し、230℃、13Pa(0.1mmHg)の条件で8時間固相重合させ、全ジカルボン酸由来単位中、テレフタル酸由来単位を100モル%含有し、全ジアミン単位由来中、1,9−ノナンジアミン由来単位および2−メチル−1,8−オクタンジアミン由来単位をそれぞれ50モル%ずつ含有する、白色の(A−1−1)半芳香族ポリアミド樹脂を得た。
(A−1−1)半芳香族ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は119℃、融点(Tm)は262℃、降温結晶化ピーク温度(Tc)は226℃であり、Tm−Tcは36℃であった。相対粘度は2.13であった。
(製造例2)半芳香族ポリアミド樹脂(A−1−2)の製造
(a)1,9−ノナンジアミンと(b)2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物のモル比を(a)/(b)=80/20に変更した以外は、製造例1と同様の方法で、全ジカルボン酸由来単位中、テレフタル酸由来単位を100モル%含有し、全ジアミン由来単位中、1,9−ノナンジアミン単位を80モル%、2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を20モル%含有する、白色の(A−1−2)半芳香族ポリアミド樹脂を得た。
(A−1−2)半芳香族ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は120℃、融点(Tm)は302℃、降温結晶化ピーク温度(Tc)は264℃であり、Tm−Tcは38℃であった。相対粘度は2.15であった。
(製造例3)半芳香族ポリアミド樹脂(A−1−3)の製造
デカメチレンジアミンとテレフタル酸を全量10kgになるように等モル量混合し、さらに、デカメチレンジアミン全量に対して0.5mol%のデカメチレンジアミンを過剰に添加し、これら原料の合計70重量部に対して、末端封鎖剤として安息香酸0.5重量部、水30重量部をさらに混合し、加圧容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。その後、製造例1と同様の方法で反応させプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを、100℃、減圧下で12時間乾燥後、2mm以下の粒径まで粉砕し、240℃、50Paの条件で8時間固相重合させ、全カルボン酸由来単位中、テレフタル酸由来単位を100モル%含有し、全ジアミン由来単位中、デカメチレンジアミン由来単位を100モル%含有する、(A−1−3)半芳香族ポリアミド樹脂を得た。
(A−1−3)半芳香族ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は125℃、融点(Tm)は318℃、降温結晶化ピーク温度(Tc)は281℃であり、Tm−Tcは37℃であった。相対粘度は2.30であった。
(A−2)ポリアミド樹脂
(A−2−1)MXD6樹脂であるMXナイロンS6001(三菱ガス化学(株)製)を使用した。融点(Tm)は238℃、降温結晶化ピーク温度(Tc)は161℃であり、Tm−Tcは77℃であった。融解熱量(ΔHm)は31J/gであった。
(製造例4)共重合ポリアミド樹脂の製造
ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の当モル塩76重量%、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の当モル塩16重量%およびεカプロラクタム8重量%を混合して加圧容器に投入し、投入した全量と同量の純水をさらに加え、加圧容器を密閉し、窒素置換した。この混合物を撹拌しながら加熱を開始し、加圧容器内圧力を2MPaに調整しながら2時間かけて最終到達温度の270℃まで昇温した。さらに270℃で2時間、撹拌しながら反応を進めた後、1時間かけて水蒸気を徐々に抜いて圧力を常圧まで下げ、内容物を水浴中に吐出し、ストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットを95℃熱水中で5時間撹拌する洗浄処理を計4回繰り返し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットを80℃で50時間以上乾燥し、(A−2−2)3元共重合ポリアミド樹脂を得た。融点(Tm)は230℃、降温結晶化ピーク温度(Tc)は163℃であり、Tm−Tcは67℃であった。融解熱量(ΔHm)は44J/gであった。
(A−2−3)ナイロン6樹脂を使用した。融点(Tm)は222℃、降温結晶化ピーク温度(Tc)は167℃であり、Tm−Tcは55℃であった。融解熱量(ΔHm)は60J/gであった。
(A−2−4)ナイロン610樹脂を使用した。融点(Tm)は225℃、降温結晶化ピーク温度(Tc)は171℃であり、Tm−Tcは54℃であった。融解熱量(ΔHm)は56J/gであった。
(A’)他のポリアミド樹脂
(A’)ナイロン12/MACMI共重合体“グリルアミド”(登録商標)TR55(エムスジャパン(株)製)を使用した。融点(Tm)、降温結晶化ピーク温度(Tc)はともに確認できなかった。
(B)炭素繊維
(B−1)炭素繊維“トレカ”(登録商標)カットファイバーTV14−006(東レ(株)製)を使用した。
(C)多価アミン化合物
(C−1)ペンタエチレンヘキサミン(東京化成(株)製)を使用した。
(D)その他の添加剤
(D−1)次亜リン酸ナトリウム(太平化学産業(株)製)を使用した。
(D−2)塩素法酸化チタン(ルチル型)CR−63(石原産業(株)製、平均粒子径0.21μm)を使用した。
[実施例1〜19、比較例1〜9]
表に示す(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂、(A−2)ポリアミド樹脂、(A’)ポリアミド樹脂、(D)その他の添加剤を、(株)日本製鋼所製2軸押出機TEX30αの主フィーダーに供給した後、(B)炭素繊維をサイドフィーダーを用いて(株)日本製鋼所製2軸押出機TEX30αに供給し、表に示す押出条件により溶融混練した。ダイから吐出されたストランドを水中において冷却し、ストランドカッターにより長さ3.0mm長にカットして、炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。ここで溶融混練時の総剪断量については、下式を用いて算出した。
総剪断量=剪断速度(γ)×滞留時間(t)
剪断速度=(D×π×N)/H
滞留時間=(W×H×L)/Q
D:スクリュー径(3cm)
N:スクリュー回転数(rps)は表中記載
H:スクリュー溝深さ(0.65cm)
W:スクリュー溝幅(ピッチ)(2.25cm)
L:スクリュー長さ(105cm)
Q:供給量(g/s)は表中記載
得られた炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物ペレットを用いて、次に示す方法により各種特性を評価した。
[(A−1)半芳香族ポリアミド樹脂と(A−2)ポリアミド樹脂に対する、炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物のアミノ末端基濃度]
各実施例および比較例により得られた炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物ペレットを130℃で12時間真空乾燥した後、約0.5gを精秤し、フェノール/エタノール混合溶液(比率:84/16重量%)25mlに室温で溶解した。滴定液として塩酸/エタノール溶液を、指示薬としてチモールブルー溶液を用いて、前記溶液を滴定することにより、アミノ末端基濃度[NH2]を求めた。アミノ末端基濃度[NH2]を下式を用いて算出した。
アミノ末端基濃度[NH2]=(A−B)×f×N×10−3/(W×c×10−2)
A:1/50N−HCLの滴定量(ml)
B:ブランクに要した1/50N−HCLの滴定量(ml)
f:1/50N−HCLの力価
N:1/50
W:試料採取重量(g)
c:組成物中の(A−1)と(A−2)の合計の濃度(重量%)。
[炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化ピーク温度]
各実施例および比較例により得られた炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物ペレットを、140℃で12時間真空乾燥した後、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量計(ロボットDSC、EXSTAR DSC6000システム)を用いて、JIS K7121(1987年)に従い、30℃から10℃/分の速度で融解吸熱ピーク終了温度より30℃高い温度まで昇温し、さらにこの温度で10分間保持した後、10℃/分の速度で降温して熱量を測定し、DSC曲線における結晶化発熱ピークの頂点の温度から降温結晶化ピーク温度(Tc)を求めた。
[炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物の半結晶化時間]
各実施例および比較例により得られた炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物ペレットを、140℃で12時間真空乾燥した後、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量計(ロボットDSC、EXSTAR DSC6000システム)を用いて、JIS K7121(1987年)に従い、30℃から10℃/分の速度で融解吸熱ピーク終了温度より30℃高い温度まで昇温し、さらにこの温度で10分間保持した後、500℃/分の速度で140℃まで急冷/等温保持して熱量を測定し、DSC曲線における結晶化全発熱量の半分の発熱量に対応する経過時間を求めた。
[成形品中における(B)炭素繊維の繊維長]
各実施例および比較例により得られたペレットを140℃で一昼夜真空乾燥した後、住友重機械工業(株)製射出成形機SG75H−DUZを用いて、表に示す成形条件により、射出速度:100mm/秒、射出圧:下限圧(最低充填圧力)+1MPaとしてISO3167タイプA試験片を射出成形した。ISO3167タイプA試験片から約10gを切り出し、500℃に設定した電気炉中で1時間焼成した後、イオン交換水に分散、濾過を行い、その残渣を光学顕微鏡にて50倍の倍率で観察しながら、無作為に選んだ1,000本の長さを測定した。得られた測定値から、下記式により、重量平均繊維長(Lw)、数平均繊維長(Ln)を算出した。
数平均繊維長(Ln)=Σ(Li×ni)/Σni
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li2×ni)/Σ(Li×ni)
Li:炭素繊維の繊維長
ni:繊維長Liの炭素繊維の本数。
[機械特性]
各実施例および比較例により得られたペレットを140℃で一昼夜真空乾燥した後、住友重機械工業(株)製射出成形機SG75H−DUZを用いて、表に示す成形条件により、射出速度:100mm/秒、射出圧:下限圧(最低充填圧力)+1MPaとしてISO3167タイプA試験片を射出成形した。
ISO3167タイプA試験片の中央部並行部分を残し、両サイドを切り落とした試験片を使用し、ISO179に従い、23℃でシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を測定した。試験片12本について測定した値の平均値を算出した。また、ISO3167タイプA試験片を使用し、ISO178に従い、23℃で曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。いずれも試験片6本について測定した値の平均値を算出した。また、ISO3167タイプA試験片を使用し、ISO527に従い、23℃で引張強度を測定した。試験片6本について測定した値の平均値を算出した。
[成形品の吸水性]
各実施例および比較例により得られたペレットを140℃で一昼夜真空乾燥した後、住友重機械工業(株)製射出成形機SG75H−DUZを用いて、表に示す成形条件により、射出速度:100mm/秒、射出圧:下限圧(最低充填圧力)+1MPaとしてISO3167タイプA試験片を射出成形した。ISO3167タイプA試験片の重量(乾燥時重量)を測定した後、を80℃、95%RH環境下にて500時間静置した後の重量を測定し、以下の式より吸水率を求めた。
吸水率(%)=〔(95%RH500時間経過後の重量−乾燥時重量)/乾燥時重量〕×100。
[成形品の表面外観]
各実施例および比較例により得られたペレットを140℃で一昼夜真空乾燥した後、住友重機械工業(株)製射出成形機SG75H−DUZを用いて、表に示す成形条件により、射出速度:100mm/秒、射出圧:下限圧(最低充填圧力)+1MPaとして80mm×80mm×3mmの角板を射出成形した。
80mm×80mm×3mmの角板を使用し、表面粗さ測定装置(ACCRTECH社製)を用いて、評価長さ8mm、試験速度0.6mm/秒の測定条件で、成形品表面の算術平均粗さ(Ra)を測定し、表面粗さを評価した。
また、80mm×80mm×3mmの角板を使用し、表面粗さ測定装置(ACCRTECH社製)を用いて、評価長さ20mm、試験速度0.6mm/秒の測定条件で、成形品表面のうねり曲線の算術平均高さ(Wa)値を測定し、表面うねりを評価した。
[成形品の反り]
各実施例および比較例により得られたペレットを140℃で一昼夜真空乾燥した後、住友重機械工業(株)製射出成形機SG75H−DUZを用いて、表に示す成形条件により、射出速度:100mm/秒、射出圧:下限圧(最低充填圧力)+1MPaとして80mm×80mm×1mmの角板を射出成形した。この角板の角の1点を重りで固定し、ハイトゲージを用いて、反り高が最大の箇所の高さを測定した。これを角4点すべてについて行い、最も反り高の大きい値を反り量とした。
[成形加工性]
各実施例および比較例により得られたペレットを140℃で一昼夜真空乾燥した後、住友重機械工業(株)製射出成形機SG75H−DUZを用いて、表に示す成形条件により、射出速度:100mm/秒、射出圧:下限圧(最低充填圧力)+1MPaとして80mm×80mm×3mmの角板を射出成形する際に、金型内に樹脂が充填される下限の射出圧力を測定した。この値が小さいほど、成形加工性に優れる。
実施例1〜19の評価結果を表1〜2に、比較例1〜9の評価結果を表3に示す。
実施例1〜19と比較例1〜9との対比より、本発明の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物により、吸水性が低く、機械特性および表面外観に優れた成形品を得ることができることが分かる。
実施例3、8と実施例9との対比より、融解熱量(ΔHm)が50J/g以下の(A−2)ポリアミド樹脂を用いた方が、表面外観がより優れることが分かる。また、実施例3と実施例15との対比より、さらに(C)多価アミン化合物をすることにより、機械特性、表面外観および成形加工性をより向上させることができることが分かる。また、実施例3と実施例17、実施例13と実施例14との対比より、220℃以上300℃未満の範囲と160℃以上220℃未満の範囲のそれぞれに降温結晶化ピーク温度を有する炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物により、機械特性および表面外観をより向上させることができることが分かる。また実施例1,2と、実施例3〜5とを対比すると、半結晶化時間が5〜60秒の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物により、機械特性を低下させることなく、表面粗さの向上、反り量を抑制できることが分かる。実施例17と、実施例3〜5とを対比すると、半結晶化時間が5〜60秒の炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物により、機械特性を低下させることなく、表面粗さが向上することが分かる。