以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、便宜上、図1の左側及び右側をそれぞれ「左」「右」とし、図1の手前側及び奥側をそれぞれ「前」「後」とする。また、図1及び図2では便宜上、後述する各種の構成要素の一部の符号の図示を省略している。
図1は、本発明の第1実施形態による振動抑制装置1を、これを適用した建物Bの一部とともに概略的に示している。この建物Bは、例えば高層ビルであり、上下方向に延びる左右の柱PL、PRと、左右方向に水平に延びる上下の梁BU、BDとを井桁状に接合したラーメン構造を有している。これらの柱PL、PR及び梁BU、BDはいずれも、例えばH型鋼で構成されており、上下の梁BU、BDの上側のフランジの各々には、例えばコンクリートで構成された床スラブSが一体に設けられている。
建物Bは、例えばプレキャストコンクリートで構成された外壁Wをさらに有している。外壁Wは、梁BU、BDや床スラブSに、ファスナ(図示せず)を介して取り付けられることで、上記のラーメン構造に支持されており、ラーメン構造を外側(後側)から覆っている。また、外壁Wには、窓枠(図示せず)を設けるための複数(例えば6つ)の開口AP、AP、…が形成されている。これらの開口AP、AP、…は、左右方向に互いに同じ所定の間隔を存した状態で並んでいて、各開口APは、前後方向に開放しており、前後方向において、左右の柱PL、PR、上梁BU及び下側の床スラブSで囲まれた空間と重なるように、配置されている。
図1に示すように、振動抑制装置1は、上下方向にそれぞれ延びる複数の第1連結部材2、2、…と、梁BU、BDと平行に左右方向に延びる第2連結部材3と、左右一対の回転慣性質量ダンパ4、4を備えている。第1連結部材2、2、…の数は、複数の開口AP、AP、…の数よりも1つ少なく、例えば5つである。また、振動抑制装置1は、建物Bの内部における外壁W側(外壁Wの近傍で)で、かつ、柱PL、PR及び梁BU、BDで囲まれた空間内に配置されている。
各第1連結部材2は、弾性を有する鋼材、例えばH型鋼で構成されており、連結金具5を介して上梁BUに連結されている。第1連結部材2の上端部は、例えば開先加工によってフランジが削除され、板状に形成されており、半円形の主面を有している。また、第1連結部材2の上端部には、前後方向に貫通する挿入孔(図示せず)が形成されている。
図1及び図3に示すように、連結金具5は、矩形状のベースプレート5aと、ベースプレート5aから直角に延びる前後一対のガセットプレート5b(前側のもののみ図示)を一体に有している。ベースプレート5aは、上梁BUの下側のフランジに、例えば溶接により取り付けられている(なお、ボルト及びナットを用いて取り付けてもよい)。また、前後のガセットプレート5bには、両者5bの間にピン5cが取り付けられている。ピン5cは、前後方向に延びており、その軸線が梁BU、BDの長さ方向と直交している。
第1連結部材2の上端部は、前後のガセットプレート5bの間に配置されており、その挿入孔には、上記のピン5cが挿入されている。これにより、第1連結部材2の上端部は、上梁BUに、前後方向に延びるピン5c(軸線)を中心として回動可能に接合されている。また、第1連結部材2は、前後方向において、外壁Wの互いに隣り合う2つの開口AP、APの間の部分に重なり、かつ、複数の開口AP、AP、…と重ならないように、配置されている。
第2連結部材3は、第1連結部材2と同様、弾性を有する鋼材、例えばH型鋼で構成されており、その上面が、複数の第1連結部材2、2、…の底面に、例えば溶接により取り付けられている。第2連結部材3の第1連結部材2、2、…との接合部分には、補強用のリブが一体に設けられており、第2連結部材3の左右の端には、回転慣性質量ダンパ4を取り付けるためのウェブ(図示せず)が一体に設けられている。また、第2連結部材3は、前後方向において、外壁Wにおける複数の開口AP、AP、…よりも下側で、かつ、下側の床スラブSよりも上側の部分に重なるとともに、複数の開口AP、AP、…と重ならないように、配置されている。第2連結部材3の左右方向の長さは、一対の回転慣性質量ダンパ4、4の分、左右の柱PL、PRの間の左右方向の距離よりも短く設定されている。
前記回転慣性質量ダンパ4は、本発明の発明者が提案した特願2012−158921号に開示されたものと同様に構成されているので、以下、回転慣性質量ダンパ4について簡単に説明する。図4に示すように、回転慣性質量ダンパ4は、内筒11、ボールねじ12、回転マス13、及び制限機構14を有している。内筒11は、円筒状の鋼材で構成されている。内筒11の一端部は開口しており、他端部は、回転慣性質量ダンパ4の発生するトルクでは回転しない程度の摩擦を有する自在継ぎ手を介して、第1フランジ15に取り付けられている。
また、ボールねじ12は、ねじ軸12aと、ねじ軸12aに多数のボール12bを介して螺合するナット12cを有している。ねじ軸12aの一端部は、上述した内筒11の開口に収容されており、ねじ軸12aの他端部は、回転慣性質量ダンパ4の発生するトルクでは回転しない程度の摩擦を有する自在継ぎ手を介して、第2フランジ16に取り付けられている。また、ナット12cは、軸受け17を介して、内筒11に回転自在に支持されている。
回転マス13は、比重の大きな材料、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されている。また、回転マス13は、内筒11及びボールねじ12を覆っており、軸受け18を介して、内筒11に回転自在に支持されている。回転マス13と内筒11の間には、一対のリング状のシール材19、19が設けられている。これらのシール材19、19、回転マス13及び内筒11によって形成された空間には、シリコンオイルで構成された粘性体20が充填されている。
以上のように構成された回転慣性質量ダンパ4では、内筒11及びねじ軸12aの間に相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ12で回転運動に変換された状態で、制限機構14を介して回転マス13に伝達されることによって、回転マス13が内筒11に対して回転する。回転マス13の回転は、内筒11と回転マス13の間の粘性体20によって減衰させられる。以下、このように内筒11及びねじ軸12aの間の相対変位を回転マス13の回転運動に変換する回転慣性質量ダンパ4の動作を、「回転慣性質量ダンパ4の回転変換動作」という。
前記制限機構14は、この回転慣性質量ダンパ4の回転変換動作を制限するものであり、リング状の回転滑り材14aと、複数のねじ14b及びばね14c(2つのみ図示)で構成されている。回転滑り材14aは、回転マス13とボールねじ12のナット12cとの間に配置されている。この回転滑り材14aが配置された回転マス13の部分には、複数のばね収容孔13aが形成されている。これらのばね収容孔13aは、周方向に等間隔に配置されており、径方向に貫通している。各ばね収容孔13aには、ねじ14bがねじ込まれるとともに、ねじ14bと回転滑り材14aの間に、ばね14cが収容されている。
以上の構成により、ねじ14bを強く締め付けると、回転滑り材14aがばね14cの付勢力でナット12cに強く押し付けられることによって、回転マス13は、回転滑り材14aを介してナット12cに一体に連結された状態になる。
また、この状態からねじ14bを緩めると、その締付度合が低くなり、回転慣性質量ダンパ4の軸線方向に作用する荷重(以下「軸荷重」という)が、ねじ14bの締付度合に応じて定まる制限荷重に達するまでは、回転マス13がナット12cと一体に回転する。一方、回転慣性質量ダンパ4の軸荷重が制限荷重に達すると、回転滑り材14aとナット12c又は回転マス13との間に滑りが発生することによって、回転慣性質量ダンパ4の回転変換動作が制限される。この状態では、回転滑り材14aとナット12c又は回転マス13との間に発生する摩擦抵抗によって、回転慣性質量ダンパ4の回転変換動作の制限により低下した回転マス13の回転慣性力が補われる。
左側の回転慣性質量ダンパ4の第1フランジ15は、左側の柱PLにおける下梁BDとの接合部に近く、かつ床スラブSよりも上側の部分である第1連結部分E1に取り付けられており、左側の回転慣性質量ダンパ4の第2フランジ16は、第2連結部材3の左端に取り付けられている。以上により、左側の回転慣性質量ダンパ4は、左側の柱PLの第1連結部分E1に連結されるとともに、第2連結部材3を介して、複数の第1連結部材2、2、…のうちの左側の柱PLに最も近いもの(最も左側の第1連結部材2)の下端部に連結されており、前後方向において複数の開口AP、AP、…と重ならないように、配置されている。
また、右側の回転慣性質量ダンパ4の第1フランジ15は、右側の柱PRにおける下梁BDとの接合部に近く、かつ床スラブSよりも上側の部分である第2連結部分E2に取り付けられており、右側の回転慣性質量ダンパ4の第2フランジ16は、第2連結部材3の右端に取り付けられている。以上により、右側の回転慣性質量ダンパ4は、右側の柱PRの第2連結部分E2に連結されるとともに、第2連結部材3を介して、複数の第1連結部材2、2、…のうちの右側の柱PRに最も近いもの(最も右側の第1連結部材2)の下端部に連結されており、前後方向において複数の開口AP、AP、…と重ならないように、配置されている。
以上の構成の振動抑制装置1では、例えば地震などにより建物Bが振動すると、それに伴って発生した上梁BUと、左右の柱PL、PRの第1及び第2連結部分E1、E2との間の左右方向の相対変位が、第1及び第2連結部材2、2、…、3を介して、回転慣性質量ダンパ4、4に伝達される。伝達された相対変位は、前述したようにボールねじ12で回転運動に変換された状態で回転マス13に伝達され、それにより、回転マス13が回転する。回転マス13の回転は粘性体20で減衰させられる。
回転慣性質量ダンパ4、4、第1及び第2連結部材2、2、…、3は、付加振動系を構成しており、回転マス13、13の回転慣性質量m、粘性体20の減衰係数c、及び、第1及び第2連結部材2、2、…、3の全体の剛性kは、例えば定点理論に基づいて、付加振動系の固有振動数ωが建物Bの所定の固有振動数に同調するように、設定されている。付加振動系の固有振動数ωは、ω=sqrt(k/m)/2πで表される。以上により、建物Bの振動は、付加振動系で吸収され、適切に抑制される。
以上のように、第1実施形態によれば、建物Bの一対の柱PL、PRとともにラーメン構造を構成する上下の梁BU、BDが左右方向に水平に延びていて、このラーメン構造に支持された外壁Wが、複数の開口AP、AP、…を有しており、これらの開口AP、AP、…は、前後方向に開放するとともに、左右方向に間隔を存した状態で互いに並んでいる。また、上下方向にそれぞれ延びる複数の第1連結部材2、2、…の各々の上端部が、上梁BUにピン接合されており、これらの第1連結部材2、2、…は、前後方向において複数の開口AP、AP、…と重ならないように、左右方向に互いに並んだ状態で、外壁W側に配置されている。さらに、複数の第1連結部材2、2、…の下端部同士が、左右方向に延びる第2連結部材3により連結されており、第2連結部材3は、第1連結部材2、2、…と同様、前後方向において複数の開口AP、AP、…と重ならないように、外壁W側に配置されている。
また、左右の回転慣性質量ダンパ4、4がそれぞれ、回転自在の回転マス13及び回転マス13の回転を減衰する粘性体20を有している。左側の回転慣性質量ダンパ4は、左側の柱PLの前述した第1連結部分E1と、複数の第1連結部材2、2、…のうちの左側の柱PLに最も近いもの(最も左側の第1連結部材2)の下端部とに連結されている。右側の回転慣性質量ダンパ4は、右側の柱PRの前述した第2連結部分E2と、複数の第1連結部材2、2、…のうちの右側の柱PRに最も近いもの(最も右側の第1連結部材2)の下端部とに連結されている。建物Bの振動に伴って第1及び第2連結部材2、2、…、3を介して伝達された上梁BUと左右の柱PL、PRの第1及び第2連結部分E1、E2との間の左右方向の相対変位が、回転マス13、13の回転運動に変換される。
さらに、回転慣性質量ダンパ4、4は、前後方向において複数の開口AP、AP、…と重ならないように、外壁W側に配置されており、回転慣性質量ダンパ4、4、第1及び第2連結部材2、2、…、3によって付加振動系が構成されている。回転マス13、13の回転慣性質量m、粘性体20の減衰係数c、第1及び第2連結部材2、2、…、3の全体の剛性kは、定点理論に基づいて、付加振動系の固有振動数が建物Bの固有振動数に同調するように、調整されている。以上により、建物Bの振動を付加振動系で吸収し、適切に抑制することができる。
また、上述したように、回転慣性質量ダンパ4、4、第1及び第2連結部材2、2、…、3のいずれもが、複数の開口AP、AP、…が開放する前後方向において、窓が設けられる開口AP、AP、…と重ならないように配置されているので、建物Bの意匠性を向上させることができる。
さらに、前述した構成により、建物Bの振動に伴う回転慣性質量ダンパ4、4の反力は、第1及び第2連結部材2、2、…、3に対して、上下の梁BU、BDの長さ方向である左右方向に作用する。これに対して、前述した従来の場合と異なり、回転慣性質量ダンパ4、4が連結された第1連結部材2、2、…の上端部が上梁BUに、前後方向に延びる軸線(ピン5c)を中心として回動可能にピン接合されているので、回転慣性質量ダンパ4、4の反力に起因して上梁BUに作用する曲げ力(曲げモーメント)を抑制でき、それにより、上梁BUの補強を軽減することができる。この場合、回転慣性質量ダンパ4、4の反力に起因する剪断力については、第1連結部材2、2、…を介して上梁BUに伝達できるので、上述した建物Bの振動を適切に抑制できるという効果を、支障なく得ることができる。
さらに、図6を用いて説明したように、建物Bの振動中、上梁BUが正弦波状に比較的大きく変形し、上梁BUにおける第1連結部材2、2、…との接合部が回動するように変位しても、その回動分を、上述したピン接合により吸収できるので、この回動による第1及び第2連結部材2、2、…、3の変形効率への影響を抑制することができる。また、建物Bの振動中、下梁BDが正弦波状に大きく変形しても、左右の回転慣性質量ダンパ4、4が、この下梁BDではなく、左右の柱PL、PRの第1及び第2連結部分E1、E2にそれぞれ連結されているので、下梁BDの変形(回動)による第1及び第2連結部材2、2、…、3の変形効率への影響を回避することができる。さらに、図6を用いて前述したように、建物Bの振動中、一対の柱PL、PRの変形度合は、上下の梁BU、BDと比較して小さい傾向にある。
以上により、建物Bの固有振動数に付加振動系の固有振動数を同調させるための回転マス13、13の回転慣性質量mや第1及び第2部材2、2、…、3の全体の剛性kの調整を容易に行うことができ、ひいては、振動抑制装置1を容易に製造することができる。
また、複数の第1連結部材2、2、…及び第2連結部材3によって、いわゆる門型ラーメンが構成されるので、第1実施形態の場合と異なり、第2連結部材3を省略するとともに上梁BUに剛接合された単一の第1連結部材に回転慣性質量ダンパを連結した場合と比較して、建物Bの振動中、回転慣性質量ダンパ4、4の反力を、この門型ラーメンにより十分に負担でき、上梁BUにかかる負担を低減することができる。
さらに、左右の回転慣性質量ダンパ4、4は、前後方向で見て、第2連結部材3を間にして互いに対称に配置されており、複数の第1連結部材2、2、…及び左右の柱PL、PRに、前述したようにして連結されている。以上により、建物Bの振動中、左右の柱PL、PR及び上下の梁BL、BRから成るラーメン構造全体の振動を、一対の回転慣性質量ダンパ4、4、第1及び第2連結部材2、2、…、3から成る付加振動系で適切に吸収でき、ひいては、建物Bの振動をより適切に抑制することができる。
次に、図5を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置31について説明する。この振動抑制装置31は、第1実施形態の振動抑制装置1を左右の柱PL、PR及び上下の梁BU、BDから成るラーメン構造に、上下を逆にして設けたものであり、第1実施形態と比較して、複数の第1連結部材2、2、…が、上梁BUではなく、下梁BDに連結されている点と、左右の回転慣性質量ダンパ4、4が、左右の柱PL、PRにおける上梁BUとの接合部に近く、かつ、それらよりも若干、それぞれ下側の部分である第1及び第2連結部分E1’E2’にそれぞれ連結されている点が、主に異なっている。図5において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
建物B’は、第1実施形態の建物Bと同様に構成された高層の建物であり、その外壁W’に形成された複数の開口AP’、AP’…には、窓枠や扉(図示せず)が取り付けられる。このため、各開口AP’の下縁は、第1実施形態の場合と異なり、床スラブSの上面と面一になっている。
連結金具5は、例えば複数のボルト及びナットから成る締結具32(連結金具5の各々について2つのみ図示)を用い、床スラブSを介して下梁BDに接合されている。これにより、各第1連結部材2の下端部は、連結金具5を介して、連結金具5の前後方向に延びるピン5c(図3参照)を中心として回動自在に、下梁BDに連結されている。また、第1連結部材2は、第1実施形態の場合と同様、前後方向において、外壁W’の互いに隣り合う2つの開口AP’、AP’の間の部分に重なり、かつ、複数の開口AP’、AP’、…と重ならないように、外壁W’側に配置されている。
第2連結部材3の下面は、複数の第1連結部材2、2、…の上面に、例えば溶接により取り付けられている。また、第2連結部材3は、前後方向において、外壁W’における複数の開口AP’、AP’、…よりも上側で、かつ、上梁BUよりも下側の部分に重なるとともに、複数の開口AP’、AP’、…と重ならないように、外壁W’側に配置されている。
また、左側の回転慣性質量ダンパ4の第1フランジ15は、左側の柱PLにおける前述した第1連結部分E1’に取り付けられており、左側の回転慣性質量ダンパ4の第2フランジ16は、第2連結部材3の左端に取り付けられている。以上により、左側の回転慣性質量ダンパ4は、左側の柱PLの第1連結部分E1’に連結されるとともに、第2連結部材3を介して最も左側の第1連結部材2の上端部に連結されており、前後方向において複数の開口AP’、AP’、…と重ならないように配置されている。
さらに、右側の回転慣性質量ダンパ4の第1フランジ15は、右側の柱PRにおける前述した第2連結部分E2’に取り付けられており、右側の回転慣性質量ダンパ4の第2フランジ16は、第2連結部材3の右端に取り付けられている。以上により、右側の回転慣性質量ダンパ4は、右側の柱PRの第2連結部分E2’に連結されるとともに、第2連結部材3を介して最も右側の第1連結部材2の下端部に連結されており、前後方向において複数の開口AP’、AP’、…と重ならないように配置されている。
以上の構成の振動抑制装置31では、例えば地震などにより建物B’が振動すると、それに伴って発生した下梁BDと、左右の柱PL、PRの第1及び第2連結部分E1’、E2’との間の左右方向の相対変位が、第1及び第2連結部材2、2、…、3を介して、回転慣性質量ダンパ4、4に伝達される。伝達された相対変位は、第1実施形態の場合と同様、回転運動に変換された状態で回転マス13に伝達され、それにより、回転マス13が回転する。回転マス13の回転は粘性体20で減衰させられる。
また、回転慣性質量ダンパ4、4、第1及び第2連結部材2、2、…、3は、付加振動系を構成しており、回転マス13、13の回転慣性質量m、粘性体20の減衰係数c、及び、第1及び第2連結部材2、2、…、3の全体の剛性kは、第1実施形態の場合と同様にして設定されている。以上により、建物B’の振動は、付加振動系で吸収され、適切に抑制される。
以上により、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様、建物B’の意匠性を向上させることができ、下梁BDの補強を軽減できるとともに、振動抑制装置31を容易に製造することができる。その他、第1実施形態による前述した効果、すなわち、複数の第1連結部材2、2、…及び第2連結部材3から成る門型ラーメンにより下梁BDにかかる負担を低減できるという効果などを、同様に得ることができる。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、左側及び右側の回転慣性質量ダンパ4、4の第1フランジ15、15を、左右の柱PL、PRの第1及び第2連結部分E1、E2(E1’、E2’)にそれぞれ取り付けるとともに、第2フランジ16、16を第2連結部材3の左右の端にそれぞれ取り付けているが、第1及び第2フランジ15、16の取付けを逆に行ってもよい。すなわち、左側及び右側の回転慣性質量ダンパ4、4の第1フランジ15、15を、第2連結部材3の左右の端にそれぞれ取り付けるとともに、第2フランジ16、16を、第1及び第2連結部分E1、E2(E1’、E2’)にそれぞれ取り付けてもよい。
また、実施形態では、左右の回転慣性質量ダンパ4、4をそれぞれ、第1及び第2連結部分E1、E2(E1’、E2’)に直接、連結しているが、他の適当な部材を介して、間接的に連結してもよい。このことは、左右の回転慣性質量ダンパ4、4と第1及び第2連結部材2、2、…、3との連結についても、同様に当てはまる。図7は、第1実施形態に関し、左右の回転質量ダンパ4、4をそれぞれ、例えばゴムユニット51を介して、第2連結部材3に連結した場合の振動抑制装置などを示している。なお、図7では便宜上、ゴムユニット51の構成部品の符号を省略している。
図8に示すように、ゴムユニット51は、回転慣性質量ダンパ4に連結された基部52と、第2連結部材3に連結されたフランジ53と、フランジ53に一体に設けられた係合プレート54などで構成されている。基部52は、ベースプレート52aと、ベースプレート52aの両端部から直角に水平に延びる前後一対のサイドプレート52b、52bを一体に有しており、一対のサイドプレート52b、52bの互いに対向する面にはそれぞれ、左右一対のゴム52cが取り付けられている(なお、ゴム52cの数は任意である)。ベースプレート52aは、回転慣性質量ダンパ4の第2フランジ16に、例えばボルトなどを用いて取り付けられている。また、フランジ53は、第2連結部材3の左端(右端)に、例えば溶接により取り付けられており、係合プレート54は、一対のサイドプレート52b、52bのゴム52c、52cに挟持されている。
以上の構成により、建物Bの振動中、上梁BUと第1及び第2連結部分E1、E2との間の相対変位は、第1及び第2連結部材2、2、…、3、ならびにゴムユニット51を介して、回転慣性質量ダンパ4に伝達され、第1及び第2連結部材2、2、…、3の剛性に加え、ゴムユニット51(ゴム52c)の剛性が発揮される。すなわち、ゴムユニット51、51は、第1及び第2連結部材2、2、…、3ならびに回転慣性質量ダンパ4、4とともに、付加振動系を構成している。この場合、例えば、第1及び第2連結部材2、2、…、3の全体の剛性が比較的高いような場合に、ゴムユニット51、51により第1及び第2連結部材2、2、…、3ならびにゴムユニット51、51の全体の剛性を低下させるとともに、ゴムユニット51、51の剛性を調整することによって、付加振動系の固有振動数を建物Bの固有振動数に同調させてもよい。
また、この場合、図9に示すように、第2連結部材3を、ゴムユニット61を介して、床スラブSに連結してもよい。なお、図9では便宜上、ゴムユニット61の構成部品の符号を省略している。また、ゴムユニット61の数は任意である。ゴムユニット61は、図10に示すように、ベースプレート61aと、ベースプレート61aの前端部及び後端部から直角に上方にそれぞれ延びる前後一対のサイドプレート61b、61bを一体に有しており、一対のサイドプレート61b、61bの互いに対向する面にはそれぞれ、ゴム61cが取り付けられている。ベースプレート61aは、複数のボルトやナットから成る締結具62(2つのみ図示)を用い、床スラブSを介して下梁BDに取り付けられている。
H型鋼で構成された第2連結部材3のウェブ3aの一部は、一対のサイドプレート61b、61bの間に配置されており、ウェブ3aの一対のサイドプレート61b、61bの間の部分には、前後一対の補強プレート3b、3bが取り付けられている。なお、図10では便宜上、第1連結部材2などの図示を省略している。
さらに、ウェブ3aは、補強プレート3b、3bを介して、一対のサイドプレート61b、61bのゴム61c、61cに挟持されている。また、一対のサイドプレート61b、61bの間隔は、第2連結部材3の上側のフランジの幅よりも小さくなっており、一対のサイドプレート61b、61bの間に位置する第2連結部材3の下側のフランジの幅は、一対のサイドプレート61b、61bの間隔よりも小さくなっている。
以上の構成により、ゴムユニット61は、付加振動系のゴムユニット51、51及び回転慣性質量ダンパ4、4に、並列に接続された関係になる。このため、例えば、第1及び第2連結部材2、2、…、3、ならびにゴムユニット51、51の全体の剛性が比較的低いような場合に、ゴムユニット61を設けるとともに、ゴムユニット61の剛性を調整することによって、付加振動系の固有振動数を建物Bの固有振動数に同調させてもよい。
なお、上述した図7〜図10に示す変形例は、第1実施形態に関して適用したものであるが、第2実施形態に関して適用してもよいことは、もちろんである。また、これらのいずれの場合にも、回転慣性質量ダンパ4の第1及び第2フランジ15、16の取付けを逆に行ってもよいことは、もちろんである。さらに、ゴムユニット51、61のゴム52c、61cを、他の適当な弾性体、例えば、コイルばねや皿ばねなどで構成してもよい。
さらに、実施形態では、左右の回転慣性質量ダンパ4、4を、第2連結部材3の左右の端にそれぞれ取り付けているが、例えば次のようにして、複数の第1連結部材2、2、…のうちの最も左側及び最も右側の第1連結部材2、2に、それぞれ取り付けてもよい。
すなわち、最も左側及び最も右側の第1連結部材2、2の長さを、他の第1連結部材2よりも第2連結部材3の分、大きく設定し、第2連結部材3の左端を最も左側の第1連結部材2の右側面に、第2連結部材3の右端を最も右側の第1連結部材2の左側面に、それぞれ取り付ける。また、左側の回転慣性質量ダンパ4の第2フランジ16を、最も左側の第1連結部材2の左側面に取り付け、右側の回転慣性質量ダンパ4の第2フランジ16を、最も右側の第1連結部材2の右側面に取り付ける。
この場合にも、第1及び第2フランジ15、16の取付けを逆に行ってもよい。すなわち、左側及び右側の回転慣性質量ダンパ4、4の第1フランジ15、15を、最も左側の第1連結部材2の左側面及び最も右側の第1連結部材2の右側面に、それぞれ取り付けるとともに、左側及び右側の回転慣性質量ダンパ4、4の第2フランジ16、16を、左右の柱PL、PRの第1及び第2連結部分E1、E2(E1’、E2’)に、それぞれ取り付けてもよい。また、実施形態では、第2連結部材3を、単一の部材で構成しているが、第1水平方向に分割された複数の部材で構成し、これらの第2連結部材を用いて、複数の第1連結部材の他端部同士を連結するようにしてもよい。
さらに、第2連結部材3を第1水平方向に分割された複数の部材で構成する場合、図11に示すように、第2連結部材3を、互いに隣り合う2つの第1連結部材2、2との2つの接合部分の間の部分で分割するとともに、分割された第2連結部材3、3同士を、例えば、鋼板で構成された前後一対のガセットプレート71(前側のもののみ図示)と、複数のボルト72やナット(図示せず)を用いて、接合(すなわち半剛接合又はピン接合)してもよい。その場合には、建物Bの施工時、この場合と異なり、単一の部材で構成した第2連結部材3と複数の第1連結部材2、2、…とを互いに剛接合した門型ラーメンをクレーンなどで搬入する場合と比較して、互いに剛接合された複数組の第1及び第2連結部材2、2、…、3、3、…を、エレベータなどで容易に搬入できるとともに、搬入した後に、第2連結部材3、3、…同士を、上述したガセットプレート71やボルト72を用いて連結することによって、門型ラーメンを容易に構成することができる。
また、図12に示すように、第2連結部材3を2つに分割し、両者3、3を互いに接合せずに、左側の第1及び第2連結部材2、2、…、3ならびに回転慣性質量ダンパ4によって1つの付加振動系を構成するとともに、右側の第1及び第2連結部材2、2、…、3ならびに回転慣性質量ダンパ4によって1つの付加振動系を構成してもよい。さらに、これらの2つの付加振動系の固有振動数が建物Bの互いに異なる振動モードの固有振動数に同調するように、第1及び第2連結部材2、2、…、3の剛性ならびに回転マス13の回転慣性質量を調整してもよい。
さらに、上述したように2つの付加振動系を構成する場合に、図13に示すように、2つの第2連結部材3、3を、回転慣性質量ダンパ4を介して互いに連結してもよい。
なお、上述した図11〜図13に示す変形例は、第1実施形態に関して適用したものであるが、第2実施形態に関して適用してもよいことは、もちろんである。また、これらのいずれの場合にも、回転慣性質量ダンパ4の第1及び第2フランジ15、16の取付けを逆に行ってもよいことは、もちろんである。
さらに、実施形態では、回転慣性質量ダンパ4、4を一対、設けているが、両者の一方を省略してもよい。また、実施形態では、入力された相対変位をボールねじ12で回転運動に変換する回転慣性質量ダンパ4を用いているが、入力された相対変位を互いに噛み合うラックとピニオンで回転運動に変換する回転慣性質量ダンパを用いてもよい。さらに、実施形態では、シリコンオイルで構成された粘性体20を用いているが、他の適当な粘性体、例えば、ポリイソブチレンで構成された粘性体などを用いてもよい。
また、実施形態では、上下の梁BU、BDの一方に第1連結部材2、2、…をピン接合するために、連結金具5を用いているが、他の適当な金具を用いてもよい。例えば、ベースプレートと、これから直角に延びる単一のガセットプレートと、ガセットプレートに一体に設けられるとともに、本発明における第2水平方向に延びるピンを有する連結金具を用いてもよい。この場合、第1連結部材2の一端部には、挿入孔が形成された一対の連結プレートが設けられるとともに、挿入孔にピンを挿入した状態で、これらの連結プレートの間にガセットプレートが配置されることによって、第1連結部材がピン接合される。また、この場合、上記とは逆に、ガセットプレートに挿入孔を、連結プレートにピンを、それぞれ設けてもよい。
さらに、実施形態では、複数の第1連結部材2、2、…の数を、複数の開口AP、AP、…の数よりも1つ少なく設定しているが、2つ以上少なく設定してもよいことは、もちろんであり、その場合における複数の第1連結部材の配置の仕方は、本発明の趣旨の範囲内で任意である。また、実施形態では、複数の開口AP、AP、…は、互いに同じ間隔で並んでいるが、互いに異なる間隔で並んでいてもよい。
さらに、実施形態では、振動抑制装置1、31を、建物の内側に設けているが、外側に設けてもよい。また、実施形態では、本発明における第1及び第2水平方向は、左右方向及び前後方向であるが、平面で見て互いに直交する他の適当な方向でもよく、例えばこれとは逆に、前後方向及び左右方向でもよい。また、第1及び第2水平方向は、必ずしも互いに完全に直交していなくてもよく、ほぼ直交していればよい。さらに、実施形態では、本発明における開口方向は、前後方向であるが、他の適当な方向でもよい。
また、実施形態では、回転慣性質量ダンパ4を用いているが、これに代えて、又は、これとともに、他の適当なダンパ、例えば、オイルダンパや粘性ダンパなどを用いてもよい。このように回転慣性質量ダンパに代えてオイルダンパや粘性ダンパを用いた振動抑制装置を、固有振動数が比較的低い建物に適用した場合には特に、第1及び第2連結部材(2、2、…、3)から成る門型ラーメンの影響による粘性減衰の損失が比較的小さいため、オイルダンパや粘性ダンパによる制振効果を有効に得ることができる。さらに、以上の実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。