上述のように芯材と拘束部材とを有し、芯材の長さ方向の両端部が構築物を構成する2つの構成部材に結合される制振装置では、構築物の振動エネルギが芯材に伝達されて、この芯材の塑性化部の塑性変形により振動エネルギが吸収、減衰されるため、構築物との連結部となっている芯材の長さ方向の両端部を、容易かつ確実に構築物の構成部材に結合できるようにすることが求められる。
本発明の目的は、構築物との連結部となっている芯材の長さ方向の両端部を容易かつ確実に構築物の構成部材に結合できるように制振装置及びその施工方法を提供するところにある。
本発明に係る制振装置は、構築物を構成する2つの構成部材の間に配置され、長さ方向の一方の端部が、前記2つの構成部材のうち、一方の構成部材に結合されているとともに、前記長さ方向の他方の端部が、前記2つの構成部材のうち、他方の構成部材に結合され、かつ軸力の作用によって塑性変形する塑性化部を有し、この塑性化部の塑性変形により前記構築物の振動エネルギが吸収されて振動を抑制するための芯材と、この芯材の外周を、前記芯材の前記長さ方向が長さ方向となって覆っているとともに、前記芯材に圧縮力が作用したときに、前記芯材がこの芯材の前記長さ方向と角度をなす方向に変形することを拘束するための拘束部材と、を含んで構成されている制振装置において、前記芯材は、前記構成部材を挟んで配設された2個の芯部材と、これらの芯部材の間であって、前記構成部材を避けた箇所において、前記2個の芯部材に結合されて配置されたスペース部材とを含んで構成され、このスペース部材は、板状となっている前記構成部材の厚さ寸法よりも少し大きい厚さ寸法を有していることを特徴とするものである。
この制振装置の芯材は、上述のように構築物の構成部材を挟んで配設された2個の芯部材と、これらの芯部材の間であって、構築物の構成部材を避けた箇所において、2個の芯部材に結合されて配置されたスペース部材とを含んで構成されたものとなっており、このスペース部材は、板状となっている前記構成部材の厚さ寸法よりも少し大きい厚さ寸法を有しているため、2個の芯部材を構築物の構成部材を挟んで配設するための作業を、スペース部材により有効に行えることになり、これにより、芯材の長さ方向の両端部を構築物の構成部材に結合するための作業を容易かつ確実に行えるようになる。
なお、本発明では、上述のようにスペース部材の厚さ寸法は、板状となっている構築物の構成部材の厚さ寸法よりも少し大きい寸法とされるが、この少し大きい寸法の一例は、構築物の構成部材の厚さ寸法よりも1mm大きい寸法である。なお、これらの厚さ寸法の差を1mmが含まれる1mm以下とすると、構築物の構成部材と芯部材との間のはだすき量が1mm以下となるため、構築物の構成部材又は芯部材にフィラープレート等の隙間部材を取り付けることを省略できる。
また、本発明において、2個の芯部材は任意の形状のものでよく、2個の芯部材を板状の部材とする場合には、芯材を、2個の芯部材とスペース部材とを板厚方向に重ね合わせたものとしてもよい。
また、芯材に設けられる前記塑性化部が芯材の長さ方向の途中箇所に設ける場合には、スペース部材を、塑性化部から外れた芯材の長さ方向の2つの箇所に配置してもよい。
これによると、芯材の塑性化部が塑性変形することで吸収、減衰される振動エネルギを、スペース部材に影響されることなく、所定値に設定することが可能となる。
また、本発明において、芯材をスペース部材と共に構成する2個の芯部材を、これらの芯部材の長さ方向の中央部で連結してもよい。
このように2個の芯部材を、これらの芯部材の長さ方向の中央部で連結すると、芯材を拘束部材の内部に挿入する作業を行うときに、芯材が塑性化部等において曲がるなどの変形が生ずることを防止して、この挿入作業を容易に行えることになり、また、挿入後の芯材の反りを防止したり、矯正することができる。
本発明において、芯材に設ける塑性化部は、引っ張り力や圧縮力の軸力の作用によって塑性変形して構築物の振動エネルギを吸収できるものであれば、任意の形状のものでよく、その一例の塑性化部は、芯材の長さ方向と直交する幅方向の寸法が小さくなっているくびれ部である。
また、スペース部材は、拘束部材の長さ方向の端部から構築物の構成部材側へ突出する長さ寸法を有するものとすることが好ましい。
これによると、スペース部材は芯材の強度を補強する補強部材にもなっていて、このスペース部材が、拘束部材の長さ方向の端部から構築物の構成部材側へ突出する長さ寸法を有していることにより、芯材における拘束部材の長さ方向の端部の箇所の強度が大きくなるため、芯材に軸力としての圧縮力が作用したときに、芯材における拘束部材の長さ方向の端部の箇所又はその周辺箇所において、芯材の厚さ方向等への座屈や大きな変形が生じることを有効に防止でき、この防止により、塑性化部において、圧縮力による塑性変形を所定どおり生じさせて振動エネルギの吸収、減衰を有効に行えるようになる。
以上の本発明において、拘束部材の内部には、芯材の外周を覆う充填材を充填してもよく、また、このように拘束部材の内部に芯材の外周を覆う充填材を充填する場合には、拘束部材の長さ方向の両端部には、2個の芯部材とスペース部材を貫通させる窓孔が形成された蓋部材を取り付けてもよい。
そして、このように拘束部材の長さ方向の両端部に、2個の芯部材とスペース部材を貫通させる窓孔が形成された蓋部材を取り付ける場合には、スペース部材を、蓋部材から構築物の構成部材側へ突出する長さ寸法を有するものとしてもよい。
なお、拘束部材の内部に充填されて芯材の外周を覆う充填材は、例えば、モルタルでもよく、コンクリートでもよく、これら以外のものでもよい。
本発明に係る制振装置の施工方法は、構築物を構成する2つの構成部材の間に配置され、長さ方向の一方の端部が、前記2つの構成部材のうち、一方の構成部材に結合されているとともに、前記長さ方向の他方の端部が、前記2つの構成部材のうち、他方の構成部材に結合され、かつ軸力の作用によって塑性変形する塑性化部を有し、この塑性化部の塑性変形により前記構築物の振動エネルギが吸収されて振動を抑制するための芯材と、この芯材の外周を、前記芯材の前記長さ方向が長さ方向となって覆っているとともに、前記芯材に圧縮力が作用したときに、前記芯材がこの芯材の前記長さ方向と角度をなす方向に変形することを拘束するための拘束部材と、を含んで構成されている制振装置を前記2つの構成部材の間に配置するための制振装置の施工方法であって、前記芯材を、2個の芯部材と、これらの芯部材の間であって、前記構成部材を避けることができる箇所において、前記2個の芯部材に結合されて配置され、板状となっている前記構成部材の厚さ寸法よりも少し大きい厚さ寸法を有しているスペース部材と、を含んで製造するための作業工程と、前記芯材を前記拘束部材の内部に挿通するための作業工程と、前記構築物が構築されている作業現場において、前記芯材の長さ方向の前記一方の端部を、前記2個の芯部材で前記一方の構成部材を挟んで、この一方の構成部材に1個のボルト及びナットで連結し、前記芯材をこの1個のボルトを中心に回動可能とするための作業工程と、前記芯材を前記1個のボルトを中心に回動させることにより、前記芯材の長さ方向の前記他方の端部を前記他方の構成部材が配置されている箇所まで移動させ、前記芯材の長さ方向の前記他方の端部において、前記2個の芯部材で前記他方の構成部材を挟むための作業工程と、前記芯材の長さ方向の前記他方の端部を前記他方の構成部材に複数のボルト及びナットにより結合するとともに、前記芯材の長さ方向の前記一方の端部を前記一方の構成部材に複数のボルト及びナットにより結合するための作業工程と、を含むことを特徴とするものである。
この制振装置の施工方法でも、2個の芯部材の間に配置されているスペース部材は、構築物の板状となっている構成部材の厚さ寸法よりも少し大きい厚さ寸法を有しているため、2個の芯部材を構築物の構成部材を挟んで配設するための作業を、スペース部材により有効に行えることになり、これにより、芯材の長さ方向の両端部を構築物の構成部材に結合するための作業を容易かつ確実に行えるようになる。
特に、この制振装置の施工方法では、芯材の長さ方向の一方の端部を、2個の芯部材で前記一方の構成部材を挟んで、この一方の構成部材に1個のボルト及びナットで連結することにより、芯材をこの1個のボルトを中心に回動可能とし、この後に、芯材を前記1個のボルトを中心に回動させることにより、芯材の長さ方向の他方の端部を前記他方の構成部材が配置されている箇所まで移動させるため、芯材の長さ方向の前記他方の端部において、2個の芯部材で前記他方の構成部材を挟むための作業を容易かつ確実に行えることになり、また、芯材の長さ方向の前記他方の端部を前記他方の構成部材に複数のボルト及びナットにより結合する作業と、芯材の長さ方向の前記一方の端部を前記一方の構成部材に複数のボルト及びナットにより結合するための作業も容易かつ確実に行えるようになる。
以上説明した本発明は、新築される建物等の構築物の構築作業中にこの構築物に取り付けられる制振装置に適用でき、また、既存の建物等の構築物に後付けで取り付けられる制振装置にも適用できる。
また、本発明に係る制振装置は、建物に適用できるとともに、橋梁やタワー等にも適用でき、任意の構築物に設置することができる。
本発明によると、構築物との連結部となっている芯材の長さ方向の両端部を容易かつ確実に構築物の構成部材に結合できるようになるという効果を得られる。
以下に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。図1には、本発明の一実施形態に係る制振装置1が、構築物である高層建物に設置されているときの状態が示されている。この建物は、左右の間隔をあけて立設されているH型鋼等による柱2,3と、これらの柱2,3の間に上下の間隔を架設されているI型鋼又はH型鋼等による梁4,5とが構造材となって構築されており、柱2と梁5との接合箇所には、ガセットプレート6が設けられ、柱3と梁4との接合箇所には、ガセットプレート7が設けられている。これらの柱2,3と梁4,5とガセットプレート6,7は、建物を構成する構成部材となっている。
また、これらの構成部材のうち、ガセットプレート6,7は、本実施形態の制振装置1を建物の2つの箇所の間に架け渡すために、この建物に設けられた板状の部材であり、ガセットプレート6,7は高さの差をもって建物に配設されているため、柱2,3と梁4,5からなる四角形フレームの内側に配置されている制振装置1は、水平方向に対する傾き角度をもって建物に設置され、また、この制振装置1は、柱2,3と梁4,5とで形成される鉛直構面に配置されている。
図2には、制振装置1だけが示されており、この制振装置1は、拘束部材10の内部に芯材20を、この芯材20の長さ方向の両端部20A,20Bを外部に露出させて移動自在に挿通したものであり、このため、拘束部材10が配置されている箇所では、芯材20の外周は、芯材20の長さ方向が長さ方向となっている拘束部材10により覆われている。拘束部材10は、アルミ又はアルミ合金の押し出し成形品又は引き抜き成形品を所定の長さ寸法で切断したものであり、このため、拘束部材10は、拘束部材10の長さ方向と直交する箇所における断面形状が同一形状となって拘束部材10の長さ方向に連続したものとなっており、この断面形状は、拘束部材10の長さ方向の一方の端部から他方の端部まで連続している。
図3には芯材20が示されており、(A)は芯材20の平面図であり、(B)は芯材20の正面図である。また、図4には、芯材20の斜視図が示されている。芯材20は、細長の板状となっている2個の芯部材21の間に、板状のスペース部材22を介入配置したものであり、これらの2個の芯部材21とスペース部材22は、板厚方向に重ね合されて溶接で結合されている。そして、芯材20は、図4からも分かるように、芯材20全体でも細長の板状となっており、芯部材21とスペース部材22のそれぞれの厚さ方向は、建物の板状の構成部材となっているガセットプレート6,7の厚さ方向と同じ方向である。金属製の2個の芯部材21は、同じ材質、同じ寸法及び同じ形状で形成されており、それぞれの芯部材21の長さ方向の途中箇所、一層具体的には、それぞれの芯部材21の長さ方向の中央箇所には、芯材20の長さ方向と直交する方向である上下方向の幅寸法が小さくなっているくびれ部21Aが設けられ、このくびれ部21Aは、後述するように地震等による引っ張り力や圧縮力が芯材20に軸力として作用したときに塑性変形する塑性化部となっており、芯部材21の長さ方向への長さをもって形成されているくびれ部21Aの長さ方向両側は、芯部材21の長さ方向の端部に向かって上下方向の幅寸法が次第に大きくなる幅寸法拡大部21B,21Cとなっている。
また、これらの幅寸法拡大部21B,21Cの長さ方向外側は、幅寸法拡大部21B,21Cの最大幅寸法と同じ幅寸法で芯部材21の長さ方向の端部に向かって延出している延出部21D,21Eとなっており、これらの延出部21D,21Eのうち、芯部材21の長さ方向の端部の近傍には、芯材20の長さ方向の両端部20A,20Bをガセットプレート6,7に結合するための結合具30(図1を参照)となっているボルトの軸部を挿通するためのボルト孔23が複数形成されている。
上述したように2個の芯部材21の間に配置されていて、これらの芯部材21に溶接で結合されている板状のスペース部材22は、図3に示されているように、芯材20の長さ方向に離れて2個あり、これらのスペース部材22は、芯部材21の延出部21D,21Eのうち、ボルト孔23が形成されていない箇所に配設されている。このため、スペース部材22は、芯材20の長さ方向の両端部20A,20Bをガセットプレート6,7に結合具30で結合したときに、ガセットプレート6,7と干渉しない箇所、言い換えると、ガセットプレート6,7を避けることができる箇所において、芯材20に配設されている。また、これらのスペース部材22が配設されている芯材20における箇所は、それぞれの芯部材21の上述した塑性化部となっているくびれ部21Aから外れた箇所になっており、これらのスペース部材22の配設箇所は、このくびれ部21Aと連続して芯部材21に形成されている幅寸法拡大部21B,21Cからも外れた箇所になっている。
芯部材21の材質は、制振装置1が設置される建物に求められる制振性能に応じて適宜に選択され、その一例は、JIS規格でSN490BやSN400Bである。また、スペース部材22は、芯部材21と同じ材質の金属で製造してもよく、芯部材21とは異なる金属で製造してもよい。
図5及び図6は、図2のS5−S5線断面図及びS6−S6線断面図である。前述したように、アルミ又はアルミ合金の押し出し成形品又は引き抜き成形品となっている拘束部材10は、図5及び図6に示されているように、八角形の閉断面形状を有する外輪郭部10Aの内部に、上下方向に延びる2個の隔壁部10B,10Cが芯材20の厚さ方向に離間して平行に形成されたものとなっている。これらの隔壁部10B,10Cの間は、芯材20が挿通された縦長の挿通部11となっており、この挿通部11についての芯材20の厚さ方向両側は、複数のリブ部10Dにより補強された空間部12,13となっている。
挿通部11と空間部12,13のうち、挿通部11だけに充填材(グラウト材)としてモルタル14が充填されており、このため、芯材20の全長のうち、拘束部材10に覆われている箇所の外周は、モルタル14によっても覆われている。
図7は、図2のS7−S7線断面図であり、この図7に示されているように、拘束部材10の長さ方向の両端部には、蓋部材15がビス等の止着具16により取り付けられている。これらの蓋部材15には、2個の芯部材21とスペース部材22とからなる芯材20を貫通させるための窓孔15Aが形成されており、これらの窓孔15Aから拘束部材10の外部へ突出した芯材20の両端部20A,20Bが、ボルト30A及びナット30Bによる結合具30により、図7では二点鎖線で示されているガセットプレート6,7に結合されている。この結合作業は、芯材20の両端部20A,20Bのうち、一方の端部20Aにおいて、2個の芯部材21をガセットプレート6の厚さ方向の両側に配設することにより、これらの芯部材21によりガセットプレート6を挟み、芯部材21のボルト孔23と、ガセットプレート6にも設けられたボルト孔6Aとにボルト30Aの軸部を挿通し、この軸部の端部にナット30Bを螺合して締め付けることにより、ボルト30A及びナット30Bにより行われ、また、芯材20の両端部20A,20Bのうち、他方の端部20Bでも、一方の端部20Aと同様に、芯部材21のボルト孔23とガセットプレート7のボルト孔7Aとに軸部が挿通されるボルト30A及びナット30Bにより行われ、これらの端部20A,20Bで用いられているボルト30A及びナット30Bによる結合具30の個数は、それぞれ複数個である。
このように結合具30で芯材20の両端部20A,20Bが結合されるガセットプレート6,7の厚さ寸法はT1であり、これに対してそれぞれのスペース部材22の厚さ寸法は、T1よりも少し大きいT2であり(図8も参照)、これらのT1とT2の差は1mmである。
また、図7に示されているように、芯材20を2個の芯部材21と共に構成しているそれぞれのスペース部材22は、拘束部材10の長さ方向の両端部からガセットプレート6,7側へ突出した長さ寸法を有しており、このような長さ寸法となっているそれぞれのスペース部材22は、拘束部材10の内部の挿通部11に充填されているモルタル14の漏出を防止する部材になっている蓋部材15からもガセットプレート6,7側へ突出している。
さらに、図7に示されているように、芯材20の外面には、この外面に拘束部材10の挿通部11に充填されているモルタル14が付着することを防止し、芯材20が拘束部材10及びモルタル14に対し移動することを許容するためのクリアランス材(アンボンド材)25が固定されている。図8は、図7の一部拡大図であり、この図8から分かるように、クリアランス材25には、厚さ寸法が異なる第1クリアランス材25Aと第2クリアランス材25Bとがあり、厚さ寸法がT3となっている第1クリアランス材25Aは、拘束部材10の長さ方向の両端部と対応する芯材20の箇所及びその周辺箇所の外面に設けられ、T3よりも大きい厚さ寸法T4を有する第2クリアランス材25Bは、拘束部材10の長さ方向の中間部と対応する芯材20の箇所の外面、すなわち、第1クリアランス材25Aが設けられていない芯材20における拘束部材10の内部の箇所の外面に設けられている。
また、第1クリアランス材25Aが固定されている芯材20の外面は、図8に示されているように、芯材20の厚さ方向の両側の面、すなわち、この芯材20を構成している2個の芯部材21のそれぞれ厚さ方向外側の面であり、芯材20の上下の面や、スペース部材22が配置されていなくて、スペース部材22の厚さ寸法分だけ離間して互いに対面している2個の芯部材21のそれぞれ厚さ方向内側の面には、第2クリアランス材25Bが固定されている。
なお、第1クリアランス材25Aを固定する芯材20の長さ方向の範囲を、スペース部材22が配置されている範囲と同じ又は略同じとしてもよい。
また、第1クリアランス材25Aは、フィルム状の非発泡樹脂によるものであり、第2クリアランス材25Bは、シート状の発泡樹脂によるものであり、これらの第1及び第2クリアランス材25A,25Bは、芯材20の外面に接着剤や粘着剤等で取り付けられている。そして、第2クリアランス材25Bは、発泡樹脂製であるため、圧縮性を有している。そして、モルタル14に対する第1クリアランス材25Aの摩擦係数は、モルタル14に対する第2クリアランス材25Bの摩擦係数よりも小さくなっている。
図1に示されているように、制振装置1の芯材20の両端部20A,20Bが建物の構成部材となっているガセットプレート6,7に結合具30で結合されることにより、この制振装置1が建物に設置されているときに、地震や風圧よる横荷重Fが建物に作用すると、柱2,3と梁4,5によって形成されている四角フレームが変形し、芯材20に軸力として作用する引っ張りや圧縮力により、芯材20の構成部材となっている2個の芯部材21に塑性化部として設けられているくびれ部21Aが降伏点を越えて塑性変形し、くびれ部21Aの軸方向塑性変形である引っ張り塑性変形や圧縮塑性変形により、横荷重Fによる建物の振動エネルギは吸収、減衰される。
また、芯材20に大きな圧縮力が作用したときに、芯材20がこの芯材の長さ方向と角度をなす方向に大きく変形することは、モルタル14及び拘束部材10により拘束され、芯材20が大きく横座屈することが防止される。
また、芯材20に圧縮力が作用したときには、この圧縮力は、芯材20における拘束部材10の長さ方向の端部の箇所又はその周辺箇所において、芯材20をこの芯材20の厚さ方向に変形させようとする荷重、言い換えると、芯材20を、図1で示した柱2,3と梁4,5で形成される鉛直構面の外側へ変形させようとする荷重にもなるが、本実施形態では、この箇所についての芯材20の厚さ方向の強度がスペース部材22によって補強されており、また、この箇所に設けられているクリアランス材25は、厚さ寸法がT4となっている第2クリアランス材25Bよりも厚さ寸法T3が小さい第1クリアランス材25Aであって、上記箇所でのモルタル14との間の距離もT3となっているため、上記圧縮力により、芯材20における拘束部材10の長さ方向の端部の箇所又はその周辺箇所において、芯材20にこの芯材20の厚さ方向への大きな偏心や変形が生ずることが防止され、この防止により、2個の芯部材21のくびれ部21Aが横座屈することをなくし、これらのくびれ部21Aに、所定どおり振動エネルギを吸収、減衰させて振動を抑制するための圧縮塑性変形を生じさせることができる。
図9は、以上とは異なり、仮想の芯部材120に圧縮力Nが作用し、この圧縮力Nにより、芯材120における拘束部材110の長さ方向の端部の箇所又はその周辺箇所において、芯材120にこの芯材120の厚さ方向への大きな偏心量eが生じたときの模式図である。このような大きな偏心量eが生ずると、偏心量eが生じた箇所から芯材120の長さ方向に離れてこの芯材120に設けられている塑性化部120A等では、大きな偏心量eに基づく大きな曲げモーメントが生じてしまい、これによると、塑性化部120A等で横座屈が生じ、このため、塑性化部120Aに、振動エネルギを吸収、減衰させて振動を抑制するための本来の圧縮塑性変形を生じさせることは困難になる。
これに対して本実施形態では、芯材20には、この芯材20の厚さ方向の強度を補強するための2個のスペース部材22が用いられており、これらのスペース部材22は、芯材20における拘束部材10の長さ方向の両端部の箇所及びその周辺箇所に配置されているため、これらの箇所において、芯材20に芯材20の厚さ方向への大きな偏心量や変形が生ずることを防止でき、これにより、2個の芯部材21に塑性化部として設けられているくびれ部21A等が横座屈することはなく、それぞれのくびれ部21Aに、所定どおり振動エネルギを吸収、減衰させて振動を抑制するための本来の圧縮塑性変形を生じさせることができる。
また、それぞれのスペース部材22は、前述したように、拘束部材10の長さ方向の両端部からガセットプレート6,7側へ突出した長さ寸法を有しており、この長さ寸法は、蓋部材15からもガセットプレート6,7側へ突出した寸法になっているため、芯材20における蓋部材15を含む拘束部材10の長さ方向の両端部の箇所及びその周辺箇所において、芯材20にこの芯材20の厚さ方向への大きな偏心量や変形が生ずることを、スペース部材22により一層有効に防止できる。
また、拘束部材10の長さ方向の両端部と対応する芯材20の箇所及びその周辺箇所には、この芯材20の厚さ方向両側の外面において、厚さ寸法がT3となっている第1クリアランス材25Aが設けられ、この厚さ寸法T3は、第2クリアランス材25Bの厚さ寸法T4よりも小さく、それだけ、モルタル14は、芯材20の厚さ方向両側の面に近づいているため、芯材20に作用する圧縮力により、芯材20における拘束部材10の長さ方向の両端部の箇所又はその周辺箇所において、芯材20に芯材20の厚さ方向への大きな偏心量や変形が生ずることは、モルタル14によっても防止される。このため、これによっても、2個の芯部材21に塑性化部として設けられているくびれ部21A等が横座屈することはなく、それぞれのくびれ部21Aに、所定どおり振動エネルギを吸収、減衰させて振動を抑制するための本来の圧縮塑性変形を生じさせることができる。
また、本実施形態では、第2クリアランス材25Bは、前述したように発泡樹脂により形成されており、この発泡樹脂は圧縮性を有しているため、芯材20に作用した圧縮力により、芯部材21のくびれ部21A等の箇所が振動エネルギを吸収、減衰するために圧縮されたときに、芯材20の長さ方向と直交する芯材20の断面積がポアソン比で規定される分だけ拡大することは、発泡樹脂が圧縮されることによって許容されることになる。このため、芯材20が、上述の圧縮力により、モルタル14に対しこの芯材20の長さ方向に移動しながら圧縮されることも、芯材20とモルタル14との間に大きな摩擦力が発生することを防止しながら、保証することができ、くびれ部21Aに本来の圧縮塑性変形を生じさせて、所定どおり振動エネルギを吸収、減衰させ、振動を抑制することができる。
また、上述したように、モルタル14に対する第1クリアランス材25Aの摩擦係数は、モルタル14に対する第2クリアランス材25Bの摩擦係数よりも小さくなっていて、この第1クリアランス材25Aは、引っ張り力や圧縮力による軸力で塑性変形が生ずるくびれ部21Aが設けられている芯部材21の長さ方向の中央部から遠い箇所に設けられているため、それぞれの芯部材21の長さ方向の各箇所のうち、第1クリアランス材25Aが外面に固定されている箇所が、芯材20の長さ方向の中央部を境界として対称的に生ずる引っ張り力による塑性変形及び圧縮力による塑性変形によってモルタル14に対し移動することを、モルタル14との間で大きな摩擦力を発生させることなく行わせることができ、これにより、くびれ部21Aに振動エネルギを吸収、減衰させるための塑性変形を所定どおり生じさせることができる。
さらに、本実施形態によると、2個の芯部材21に溶接で結合されているそれぞれのスペース部材22は、それぞれの芯部材21に設けられているくびれ部21Aからはずれた箇所に配置されているため、これらのスペース部材22が、くびれ部21Aが塑性化部として引っ張り塑性変形や圧縮塑性変形することに影響を与えることはなく、くびれ部21Aに所定どおりの大きさの引っ張り塑性変形量や圧縮塑性変形量を生じさせることができる。
また、本実施形態では、建物の構成部材となっているガセットプレート6,7と芯材20の長さ方向の両端部20A,20Bとの結合は、スペース部材22を介在させた2個の芯部材21によりガセットプレート6,7を挟み、これらの2個の芯部材21をガセットプレート6,7にボルト30A及びナット30Bによる結合具30で結合することにより行われ、図7で説明したように、スペース部材22の厚さ寸法T2は、ガセットプレート6,7の厚さ寸法T1よりも少し大きいため、芯材20の長さ方向の両端部20A,20Bをガセットプレート6,7に結合するために、2個の芯部材21の間にガセットプレート6,7を挿入することにより、ガセットプレート6,7の厚さ方向両側に2個の芯部材21を配設するための作業を、スペース部材22により容易かつ確実に行えるこになり、また、この後に、ボルト30A,ナット30Bで両端部20A,20Bをガセットプレート6,7に結合する作業も容易かつ確実に行える。
特に、本実施形態では、スペース部材22の厚さ寸法T2とガセットプレート6,7の厚さ寸法T1との差は1mmであり、この差が、1mmが含まれる1mm以下である場合には、芯部材21とガセットプレート6,7との間のはだすき量も1mm以下となるため、芯部材21やガセットプレート6,7にフィラープレート等の隙間部材を取り付けることを省略できる。
図10は、建物の構造材である左右の柱42,43と上下の梁44,45により構成された四角形フレームの内側に、水平方向に対する傾き方向が互いに逆となっている2個の制振装置1を設置した実施形態を示している。この実施形態では、左右の柱42,43間のスパンが大きくなっており、梁44に設けたガセットプレート46に、2個の制振装置1におけるそれぞれの芯材20の一方の端部20Aが結合具30により結合され、2個の制振装置1のうち、一方の制振装置1における芯材20の他方の端部20Bは、柱42と梁45との接合箇所に設けられたガセットプレート47に結合具30により結合され、他方の制振装置1における芯材20の他方の端部20Bは、柱43と梁45との接合箇所に設けられたガセットプレート48に結合具30により結合されている。この実施形態でも、ガセットプレート46,47,48は、柱42,43及び梁44,45と同様に、建物を構成する板状の構成部材となっている。
この実施形態によると、建物に横荷重が作用し、これにより、2個の制振装置1のうち、一方の制振装置1の芯材20に圧縮力が作用したときには、他方の制振装置1の芯材20に引っ張り力が作用し、横荷重の向きが逆になると、一方の制振装置1の芯材20に引っ張り力が作用して、他方の制振装置1の芯材20に圧縮力が作用するため、振動エネルギの吸収が2個の制振装置1により有効に行われ、建物の揺れを一層有効に抑制できる。
図11には、図10で示した2個の制振装置1のうち、1個の制振装置1を2個ガセットプレート46と47の間に設置するための施工方法が示されている。工場では、芯材20を製造するための作業、すなわち、2個の芯部材21の間であって、ガセットプレート46,47を避けることができる箇所において、スペース部材22を2個の芯部材21に溶接に結合する作業が行われ、また、芯材20を拘束部材10の内部に形成された挿通部11に挿通するための作業と、この挿通部11にモルタル14を充填するための作業と、拘束部材10の長さ方向の両端部に蓋部材15を取り付ける作業も、工場で行われ、これにより、制振装置1は工場で製造される。
この制振装置1は、図11の建物が構築されている作業現場に搬入され、この作業現場において、制振装置1を横倒しにして、芯材20の長さ方向の両方の端部20A,20Bのうち、端部20Bを、2個の芯部材21でガセットプレート47を挟んで、このガセットプレート47に1個のボルト30A及びナット30Bで連結し、これによって芯材20をこの1個のボルト30Aを中心に回動可能とする作業が行われる。この後に、芯材20を、拘束部材10と共に1個のボルト30Aを中心に回動させる作業を、ワイヤーや滑車等で組み立てられた持ち上げ手段や機械で行うことにより、芯材20の長さ方向の両方の端部20A,20Bのうち、端部20Aをガセットプレート46が配置されている箇所まで移動させ、この端部20Aにおいて、2個の芯部材21によりガセットプレート46を挟むための作業を行う。次いで、芯材20の端部20Aをガセットプレート46に複数のボルト30A及びナット30Bで結合するとともに、芯材20の端部20Bをガセットプレート47に複数のボルト30A及びナット30Bで結合する。
この制振装置1の施工方法によると、芯材20の端部20Bを、2個の芯部材21でガセットプレート47を挟んで、このガセットプレート47に1個のボルト30A及びナット30Bで連結することにより、芯材20をこの1個のボルト30Aを中心に回動可能とすることができ、この後に、芯材20を、拘束部材10と共に1個のボルト30Aを中心に回動させて、芯材20の端部20Aをガセットプレート46が配置されている箇所まで移動させるため、この端部20Bにおいて、2個の芯部材21でガセットプレート46を挟むための作業を容易かつ確実に行えることになる。また、芯材20の長さ方向の両端部20A,20Bを同時又は略同時にガセットプレート46,47にボルト30A及びナット30Bで結合する作業を行う必要がないため、これらの端部20A,20Bをガセットプレート46,47に複数のボルト30A及びナット30Bにより結合する作業も容易に行えるようになる。
なお、以上の施工方法は、図11で示されている2個の制振装置1のうち、1個の制振装置1についてであったが、残りの制振装置1についても、以上と同じ作業により建物に設置施工される。また、図1で示されている1個の制振装置1についても、以上と同じ作業により建物に設置施工することができる。
図12は、別実施形態に係る芯材20を示している。この実施形態の芯材20も、前記実施形態の芯材20と同様に、板状となっている2個の芯部材21と、これらの芯部材21の間に配置されていて、それぞれの芯部材21に溶接で結合された2個のスペース部材22とからなり、塑性化部となっているくびれ部21Aは、それぞれの芯部材21に設けられている。そして、この実施形態の芯材20における2個の芯部材21は、これらの芯部材21に設けられた塑性化部となっていて、スペース部材22から外れているくびれ部21Aにおいて、言い換えると、それぞれの芯部材21の長さ方向の中央部において、連結手段40によって厚さ方向に連結され、この連結手段40は、上下2個設けられている。
図13には、連結手段40の構造が分解斜視図として示されている。それぞれの芯部材21のくびれ部21Aの上下部には突起21Fが形成され、2個の芯部材21の間には、これらの突起21Fの箇所において、長寸ナット41が介入配置されている。2個の芯部材21のそれぞれの突起21Fには、孔21Gが形成されており、それぞれの芯部材21ごとに用意された2本のボルト42の軸部42Aを、突起21Fの外面に当接させる筒状部材43に挿入した後に、さらに孔21Gにも挿入し、これらのボルト42の軸部42Aを長寸ナット41に螺入して締め付けることにより、2個の芯部材21は、くびれ部21Aにおいて、長寸ナット41やボルト42等で構成される連結手段40により連結される。
なお、図13では、孔21Gに挿入されるボルト42の軸部42Aを、上下方向からこの孔21Gに挿入することができるようにするために、孔21Gは溝21Hにより外部に連通したものとなっているが、このような溝21Hは省略してもよい。
この実施形態によると、芯材20を構成する2個の芯部材21は、それぞれの芯部材21の長さ方向の中央部で連結手段40により連結されているため、工場において、芯材20を前述した拘束部材10の内部に挿入する作業を行うときに、芯材20がくびれ部21Aにおいて曲がるなどの変形が生ずることを防止してこの挿入作業を容易に行え、また、挿入後の芯材20の反りを防止したり、矯正することができる。