以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一のまたはこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。さらに、明細書全文に示す構成要素の形態は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。
実施の形態1.
<スクロール圧縮機の全体構成>
図1は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機100の縦断面を示す説明図である。図2は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機100のメインフレーム2の周辺構造を示す分解斜視図である。
図1に示すスクロール圧縮機100は、回転軸およびドライビングシャフトを有する駆動軸6の中心軸が地面に対して概略垂直の状態で使用される、いわゆる縦型のスクロール圧縮機である。
スクロール圧縮機100は、シェル1と、メインフレーム2と、圧縮機構部3と、駆動機構部4と、サブフレーム5と、駆動軸6と、ブッシュ7と、給電部8と、を備える。以下では、メインフレーム2を基準として、圧縮機構部3が設けられている上側を一端側U、駆動機構部4が設けられている下側を他端側Lと方向付けて説明する。
シェル1は、金属などの導電性部材からなる両端が閉塞された筒状の筐体となる密閉容器である。シェルは、メインシェル11と、端部シェルとしてのアッパーシェル12と、ロアシェル13と、を備える。
メインシェル11は、軸方向に延びる円筒状である。メインシェル11には、吸入管14が溶接により接続される。吸入管14は、冷媒をシェル1内に導入する管であり、メインシェル11内と連通する。
アッパーシェル12は、略半球状の端部シェルである。アッパーシェル12の側壁部の一部は、メインシェル11の一端側Uの端部に円周が溶接されることにより接合される。これにより、メインシェル11の一端側Uは、アッパーシェル12に固定される。そして、アッパーシェル12は、メインシェル11の一端側Uの開口を塞ぐ。
アッパーシェル12の上部には、吐出管15が溶接により接続される。吐出管15は、冷媒をシェル1外に吐出する管である。吐出管15は、メインシェル11内の吐出空間91と連通する。
ロアシェル13は、略半球状の端部シェルである。ロアシェル13は、アッパーシェル12と同様にメインシェル11に接合される。
シェル1は、複数のボルト穴を備える固定台17によって支持される。固定台17には、複数のボルト穴が形成される。それらのボルト穴には、ボルトが差し込まれることにより、スクロール圧縮機100が空気調和装置の室外機の筐体といった他の部材に固定される。
メインフレーム2は、シェル1内に収容される。メインフレーム2は、中央に空洞の形成される中空な金属製のフレームである。メインフレーム2は、本体部21と、主軸受部22と、返油管23と、を備える。
本体部21は、メインシェル11の一端側Uの第1突出部112に固定される。本体部21の中央には、駆動軸6の中心軸の延長方向と同一なシェル1の長手方向に沿って収容空間211が形成される。収容空間211の一端側Uは、開口する。収容空間211は、一端側Uから他端側Lに向かって内部空間が狭くなる段差状に形成される。
本体部21の一端側Uには、収容空間211を囲む環状の平坦面212が形成される。平坦面212には、バルブ鋼などの鋼板系材料からなるリング状のスラストプレート24が配置される。スラストプレート24は、スラスト軸受として機能する。
平坦面212の外端側のスラストプレート24と重ならない位置には、吸入ポート213が形成される。吸入ポート213は、本体部21の上下方向、すなわち本体部21を一端側Uと他端側Lとに貫通する空間である。なお、吸入ポート213は、一つに限らず、複数形成されても良い。
メインフレーム2の平坦面212よりも他端側Lの段差部分には、オルダム収容部214が形成される。オルダム収容部214には、一対の第1オルダム溝215が形成される。第1オルダム溝215は、外端側の一部が平坦面212の内端側を削るように形成される。そのため、メインフレーム2を一端側Uから見たときに、第1オルダム溝215の一部は、スラストプレート24と重なる。一対の第1オルダム溝215は、対向して形成される。
主軸受部22は、本体部21の他端側Lに連続して形成される。主軸受部22の内部には、軸孔221が形成される。軸孔221は、主軸受部22の上下方向に貫通し、一端側Uで収容空間211と連通する。
返油管23は、収容空間211に溜まる潤滑油をロアシェル13の内側の油溜めに戻す管である。返油管23は、メインフレーム2の内外に貫通して形成される排油孔に挿入固定される。
潤滑油は、たとえば、エステル系合成油を含む冷凍機油である。潤滑油は、シェル1の下部、すなわちロアシェル13内に貯留される。貯留される潤滑油は、後述するオイルポンプ52によって吸い上げられ、駆動軸6内の通油路63を通り、圧縮機構部3などの機械的に接触する部品同士の摩耗を低減し、摺動部の温度を調節し、シール性を改善する。潤滑油としては、潤滑特性、電気絶縁性、安定性、冷媒溶解性、低温流動性などに優れるとともに、適度な粘度を有する油を用いることが好適である。
圧縮機構部3は、冷媒を圧縮する圧縮機構である。圧縮機構部3は、固定スクロール31と、揺動スクロール32と、を備えるスクロール圧縮機構である。
固定スクロール31は、鋳鉄などの金属で構成される。固定スクロール31は、第1円形台板311と、第1渦巻体312と、を備える。
第1円形台板311は、円盤状に構成される。第1円形台板311の中央には、上下方向に貫通した吐出ポート311aが形成される。
第1渦巻体312は、第1円形台板311の他端側L面から突出して渦巻状の壁部を形成する。
揺動スクロール32は、アルミニウムなどの金属から構成される。揺動スクロール32は、第2円形台板321と、第2渦巻体322と、筒状部323と、一対の第2オルダム溝324と、を備える。
第2円形台板321は、円盤状に形成される。第2円形台板321は、一端側Uの面と、一端側Uの面に対して表裏関係にある他端側Lの面と、一端側Uの面および他端側Lの面を接続する外周面と、を備える。
一端側Uの面には、第2渦巻体322が形成される。他端側Lの面には、外側領域の少なくとも一部に摺動面が形成される。摺動面は、スラストプレート24に摺動可能に、メインフレーム2に支持あるいは支承される。
第2渦巻体322は、第2円形台板321の一端側Uの面から突出して渦巻状の壁部を形成する。なお、固定スクロール31の第1渦巻体312と、揺動スクロール32の第2渦巻体322の先端部には、冷媒の漏れを抑制するためのシール部材が設けられる。
筒状部323は、第2円形台板321の他端側Lの面の略中央から他端側Lに突出する円筒状のボスである。筒状部323の内周面には、後述するスライダ71を回転自在に支持する揺動軸受、いわゆるジャーナル軸受の中心軸が、駆動軸6の中心軸と平行になるように設けられる。
第2オルダム溝324は、第2円形台板321の他端側Lの面に形成される長丸形状の溝である。一対の第2オルダム溝324は、対向して設けられる。一対の第2オルダム溝324を結ぶ線は、一対の第1オルダム溝215を結ぶ線に対して、直交する。
メインフレーム2のオルダム収容部214には、オルダムリング33が設けられる。オルダムリング33は、リング部331と、一対の第1キー部332と、一対の第2キー部333と、を備える。
リング部331は、環状に構成される。一対の第1キー部332は、リング部331の他端側Lの面に対向して形成される。一対の第1キー部のそれぞれは、メインフレーム2の一対の第1オルダム溝215のそれぞれに収容される。一対の第2キー部333は、リング部331の一端側Uの面に対向して形成される。一対の第2キー部のそれぞれは、揺動スクロール32の一対の第2オルダム溝324のそれぞれに収容される。
駆動軸6の回転によって揺動スクロール32が公転旋回する際に、第1キー部332が第1オルダム溝215内でスライドし、かつ、第2キー部333が第2オルダム溝324内でスライドする。これにより、オルダムリング33は、揺動スクロール32の自転を防止する。
固定スクロール31の第1渦巻体312と、揺動スクロール32の第2渦巻体322と、が互いに噛み合わさることにより、圧縮室34が形成される。圧縮室34は、半径方向において、外側から内側へ向かうに従って容積が縮小する。そのため、冷媒は、第1渦巻体と第2渦巻体322との外端部側から取り入れられて中央側に移動する際に、徐々に圧縮される。
圧縮室34は、固定スクロール31の中央部にて、吐出ポート311aと連通する。固定スクロール31の一端側Uの面には、吐出孔351を有したマフラー35が設けられる。マフラー35の一端側Uの表面には、吐出孔351を所定に開閉し、冷媒の逆流を防止する吐出弁36が設けられる。そのため、圧縮室34で圧縮された冷媒は、吐出ポート311aを経て、その圧力で吐出弁36を開弁させて吐出孔351からアッパーシェル12内の吐出空間91に吐出される。その後、吐出された冷媒は、吐出管15から流出する。
冷媒は、たとえば、組成中に、炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素、炭素の二重結合を有しないハロゲン化炭化水素、炭化水素、または、それらを含む混合物からなる。
炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素からなる冷媒は、オゾン層破壊係数がゼロであるHFC冷媒、フロン系低GWP冷媒である。これらの冷媒としては、化学式がC3H2F4で表されるHFO1234yf、HFO1234ze、HFO1243zfなどのテトラフルオロプロペンが例示される。
炭素の二重結合を有しないハロゲン化炭化水素からなる冷媒は、CH2F2で表されるR32(ジフルオロメタン)、R41などが混合された冷媒が例示される。
炭化水素からなる冷媒は、自然冷媒であるプロパンやプロピレンなどが例示される。
混合物からなる冷媒は、HFO1234yf、HFO1234ze、HFO1243zfなどに、R32、R41などを混合した混合冷媒が例示される。
有力な低GWP冷媒のうちの、HFO1234yf、HFO1234ze、HFO1243zfなどの成分であるプロパンあるいはプロピレンなどは、比較的低圧低密度で動作する。このため、同等能力を得るのに必要な圧縮機の排除容積は、現行冷媒であるR410Aなどと比較して2倍から3倍程度の大きさである。
駆動機構部4は、シェル1内のメインフレーム2の他端側Lに設けられている。駆動機構部4は、ステータ41と、ロータ42と、を備える。
ステータ41は、円環状の固定子である。ステータ41は、電磁鋼板などを複数積層した鉄心に絶縁層を介して巻線を巻回したティースを環状に複数並べて形成される。ステータ41は、焼き嵌めによりメインシェル11内に固着支持される。
ロータ42は、ステータ41の内部空間に配置される。つまり、ロータ42は、円環状の固定子であるステータ41の内側に形成される中央孔に配置される円筒状の回転子である。ロータ42は、電磁鋼板などを複数積層される鉄心内に永久磁石を内蔵する。ロータ42の中央には、上下方向に貫通する貫通穴が形成される。
サブフレーム5は、金属製のフレームである。サブフレーム5は、シェル1内にて駆動機構部4の他端側Lに設けられる。サブフレーム5は、焼き嵌めまたは溶接などによりメインシェル11の他端側Lの内周面部に固着支持される。サブフレーム5は、副軸受部51と、オイルポンプ52と、を備える。
副軸受部51は、サブフレーム5の中央部上側に設けられるボールベアリングである。副軸受部51の中央には、上下方向に貫通する孔が形成される。
オイルポンプ52は、サブフレーム5の中央部下側に設けられる。オイルポンプ52は、ロアシェル13内の油溜めに貯留される潤滑油に少なくとも一部を浸漬させて配置される。
駆動軸6は、長尺な金属製の棒状部材である。駆動軸6は、シェル1内に設けられる。駆動軸6は、主軸部61と、偏心軸部62と、通油路63と、を備える。
主軸部61は、駆動軸6の主要部を構成する軸である。主軸部61の中心軸は、メインシェル11の中心軸と一致して配置される。主軸部61の外表面には、ロータ42が接触固定される。
偏心軸部62は、主軸部61の一端側Uに設けられる。偏心軸部の中心軸は、主軸部61の中心軸に対して偏心する。
通油路63は、主軸部61および偏心軸部62内にて上下に貫通して設けられる。
駆動軸6における主軸部61の一端側Uは、メインフレーム2の主軸受部22内に挿入される。また、駆動軸6における主軸部61の他端側Lは、サブフレーム5の副軸受部51に挿入固定される。これにより、偏心軸部62は、筒状部323の筒内に配置される。また、主軸部61に接触固定されるロータ42の外周面とステータ41の内周面とは、所定の隙間を保持する。
主軸部61の一端側Uの途中には、第1バランサ64が設けられる。主軸部61の他端側Lの途中には、第2バランサ65が設けられる。第1、第2バランサ64、65は、揺動スクロール32の揺動運動によるアンバランス状態を相殺する。
ブッシュ7は、揺動スクロール32と駆動軸6とを接続する接続部材である。ブッシュ7は、鉄などの金属からなる。ブッシュ7は、2部品で構成される。ブッシュ7は、スライダ71と、バランスウエイト72と、を備える。
スライダ71は、外周側に広がる鍔を有した筒状の部材である。スライダ71は、偏心軸部62および筒状部323のそれぞれに嵌入される。
図2に示すように、バランスウエイト72は、ウエイト部721を備えたドーナツ状の部材である。ウエイト部721の一端側Uから見た形状は、略C字形状である。バランスウエイト72は、揺動スクロール32の遠心力を相殺するために、回転中心に対して偏芯して設けられる。バランスウエイト72は、スライダ71の鍔に焼嵌めなどの方法により嵌合される。
給電部8は、スクロール圧縮機100に給電する給電部材である。給電部8は、メインシェル11の外周面に形成される。給電部8は、カバー81と、給電端子82と、配線83と、を備える。
カバー81は、メインシェル11の外壁面部に底を取り付ける円筒形状であって、メインシェル11から離れた部分に底と対向する開口の形成されるカバー部材である。
給電端子82は、金属部材からなる。給電端子82の一方は、カバー81内に設けられる。また、給電端子82の他方は、シェル1内に設けられる。つまり、給電端子82は、一方と他方とを繋げてシェル1を貫通して設けられる。
配線83の一方は、給電端子82と接続される。また、配線83の他方は、ステータ41と接続される。つまり、配線は、一方と他方とを繋げて給電端子82からステータ41に給電する。
<シェル1と圧縮機構部3の関係>
図3は、本発明の実施の形態1に係るアッパーシェル12の円周が溶接後のメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化を定量化する図1の一点鎖線領域Aを示す拡大図である。
図3に示すように、メインシェル11は、薄肉部である第1内壁面部111と、厚肉部である第1突出部112と、第1位置決め面113と、を有する。
第1内壁面部111は、第1突出部112から外径をそのままの長さで内径を大きく広げて薄肉に形成される。第1内壁面部111は、第1突出部112の一端側Uに連続して形成される。
第1突出部112は、第1内壁面部111から外径をそのままの長さで内径側に突出する。第1突出部112は、第1内壁面部111の他端側Lに連続して形成される。
第1位置決め面113は、第1突出部112と第1内壁面部111との境界部分にて、第1突出部112の一端側Uに向いた面である。第1位置決め面113は、固定スクロール31を位置決めする。
つまり、メインシェル11は、他端側Lに向かって内径が大きくなる段状の部分を備える。そして、固定スクロール31は、第1位置決め面113で位置決めされる状態で、第1内壁面部111に焼嵌めにより固定される。
一方、図3に示すように、固定スクロール31は、載置端部313と、環状突起314と、小径端部315と、を有する。
載置端部313は、第1突出部112と第1内壁面部111との境界部分である第1位置決め面113に載置される。載置端部313は、固定スクロール31の外周部の他端側Lの角部である。
環状突起314は、載置端部313よりも大径であって第1内壁面部111の内壁部に接触する。環状突起314は、固定スクロール31の外周部の最外径部分である。環状突起314は、載置端部313と分離して別体に形成される。環状突起314は、メインシェル11の軸方向の一端側Uと他端側Lとの間で曲線状に形成される。つまり、環状突起314は、円弧状である。環状突起314は、第1円形台板311の外周面での外半径が最大となる頂点314Aを有する。環状突起314の頂点314Aは、円形台板厚みtの1/2の高さ位置に一致するように設計される。環状突起314は、頂点314Aを基準に一端側Uと他端側Lとに線対称な円弧形状に形成される。
小径端部315は、載置端部313とは環状突起314を介する反対側にて環状突起314よりも小径である。小径端部315は、固定スクロール31の外周部の一端側Uの角部である。
載置端部313と環状突起314と小径端部315とは、載置突起部316に設けられる。載置突起部316は、固定スクロール31の第1円形台板311の基部から半径方向外側に突出する。なお、載置突起部316は、第1円形台板311の一部ともいえる。
このように、固定スクロール31が単体でメインシェル11に固定される構造により、従来のようにメインフレームと固定スクロールとをボルト固定するための壁が不要になる。すなわち、揺動スクロール32の第2円形台板321の外周面とメインシェル11の内壁面との間にメインフレーム2の壁部が介在しない。これにより、第2円形台板321の外周面とメインシェル11の内壁面とが対向して配置される構造となる。そのため、メインシェル11内における固定スクロール31の第1円形台板311とメインフレーム2のスラスト軸受との間に設けられ、揺動スクロール32が配置される冷媒取込空間である吸入空間92が従来よりも広げられる。また、メインフレーム2の構造が簡素化されるため、加工性が良くなるとともに、軽量化が図れる。
吸入空間92が広がることにより、種々のメリットが得られる。たとえば、駆動機構部4が配置されるメインシェル11内の空間および吸入空間92の圧力が吸入空間92の圧力よりも低くなる、いわゆる低圧シェル構造では、圧縮される冷媒の圧力により揺動スクロール32の第2円形台板321がスラストプレート24に押し付けられる。このため、摺動箇所でのスラスト荷重が発生する。そこで、第1、第2渦巻体などは従来設計のままで、揺動スクロール32の第2円形台板321およびスラストプレート24の直径が大きくでき、摺動面積が大きくなることにより、スラスト荷重による面圧が低減できる。そのため、スクロール圧縮機100では、スラスト軸受にかかる負担が低減し、信頼性が高まる。
また、製造組立時には、円周が溶接される前のアッパーシェル12が固定スクロール31を第1位置決め面113に押し付けられ、固定スクロール31の位置決めが精度良く行える。その後、一度アッパーシェルは、一旦取り外され、固定スクロールの焼嵌めが行われる。
なお、メインフレーム2は、メインシェル11の第1突出部112から外径をそのままに内径側に突出する第2突出部114の一端側Uを向いた第2位置決め面115で位置決めされる。そして、メインフレーム2は、第2位置決め面115にて位置決めされる状態で、第1突出部112に焼嵌めなどにより固定される。
メインフレーム2の平坦面212の外周端部には、一端側Uに突出する環状の突壁部216が形成されている。スラストプレート24は、突壁部216の内側の平坦面212に、第1オルダム溝215の一部を覆って配置される。突壁部216の平坦面212からの高さは、スラストプレート24の厚みより小さく設定される。このため、揺動スクロール32は、スラストプレート24と摺動させられる。
なお、スラストプレート24の厚みが調整されると、第1、第2円形台板311、321のどちらか一方の渦巻体を有する面と他方の渦巻体の先端部との間隔である渦巻先端隙間が好適な範囲に設定できる。渦巻先端隙間が小さくでき、冷媒が渦巻先端と円形台板との隙間を通って、隣の圧縮空間への漏れが抑制できる。
ここで、スラストプレート24および突壁部216には、凸部または凹部が形成され、スラストプレート24の回転が抑止できるように凸部と凹部とが係合する。これは、メインフレーム2の平坦面212およびスラストプレート24は、ともにリング状であることにより、揺動スクロール32の揺動に伴ってスラストプレート24が平坦面212に対して回転する場合があるためである。凹部に凸部が係止されることにより、その回転が抑制される。
ここでは、凸部は、突壁部216からスラストプレート24の方向に突出して形成される一対の突部217である。凹部は、スラストプレート24の外周縁部分に形成される切欠き241である。一対の突部217は、切欠き241の両側縁のそれぞれに係止される。
なお、メインフレーム2の一対の突部217の間に位置する部分には、吸入ポート213が配置される。すなわち、切欠き241部分に吸入ポート213が配置されるため、冷媒がスラストプレート24により遮られることなく、吸入空間92に取り込める。
<スクロール圧縮機100の動作>
給電部8の給電端子82に通電すると、ステータ41とロータ42とにトルクが発生し、これに伴って駆動軸6が回転する。駆動軸6の回転は、偏心軸部62およびブッシュ7を介して揺動スクロール32に伝えられる。回転駆動力が伝達される揺動スクロール32は、オルダムリング33により自転を規制され、固定スクロール31に対して偏心公転運動する。その際、揺動スクロール32の他方の面は、スラストプレート24と摺動する。
揺動スクロール32の揺動運動に伴い、吸入管14からシェル1の内部に吸入される冷媒は、メインフレーム2の吸入ポート213を通って吸入空間92に到達し、固定スクロール31と揺動スクロール32とで形成される圧縮室34に取り込まれる。そして、冷媒は、揺動スクロール32の偏心公転運動に伴い、外周部から中心方向に移動する圧縮室34で体積を減じられて圧縮される。揺動スクロール32の偏心公転運転時には、揺動スクロール32が自身の遠心力により、ブッシュ7とともに半径方向外側に移動し、第2渦巻体322と第1渦巻体312の壁面部同士が密接する。圧縮された冷媒は、固定スクロール31の吐出ポート311aから固定スクロール31の吐出孔351に至り、吐出弁36の付勢力に逆らって吐出弁36を開弁してシェル1の外部に流出される。
<メインシェル11への圧縮機構部3の収納方法>
図4は、本発明の実施の形態1に係るメインシェル11の壁面部を縦断面で示す説明図である。図4には、メインシェル11の固定スクロール31、メインフレーム2、ステータ41などを焼嵌め挿入する前の寸法あるいは厚みなどの形状が示される。
メインシェル11の厚みは、たとえば4〜6mmである。第2突出部114の高さ、すなわち切削加工による削り深さは、たとえば0.3mm前後である。次に、第2突出部114から一端側Uに所定距離離れる第1突出部112にて、切削用のブラシなどで壁面部を厚み方向に所定の深さだけ切削加工する。これにより、第1内壁面部111が形成され、第1内壁面部111と第1突出部112との境界部分に段差が形成される。このため、第1内壁面部111の内径R1oは、第1突出部112の内半径R20よりも大きくなる。なお、第1突出部112が形成された後に、第2突出部114が形成されても良い。
第1突出部112における第1内壁面部111との接続部分、すなわち第1位置決め面113の第1内壁面部111側の部分には、菱形インサートなどにより外径加工が施され、他端側Lに凹み1131が形成される。また、第2突出部114における第1突出部112との接続部分、すなわち第2位置決め面115の第1突出部112側の部分には、菱形インサートなどにより外径加工が施され、他端側Lに凹んだ凹み1151が形成される。
凹み1131、1151は、切削加工によって上記接続部分に生じやすいメインシェル11の変形を防止する、いわゆるヌスミである。すなわち、切削加工の結果、第1内壁面部111と第1位置決め面113との接続部分が綺麗に直角に削れず、隅部に凸部が形成されることがある。当該部分に凸部が形成されると、固定スクロール31が第1突出部112に配置されても、固定スクロール31が第1位置決め面113に接触せずに浮いてしまい、位置決めの精度が低くなる。これに対して、凹み1131が形成されることにより、固定スクロール31が第1位置決め面113に確実に接触するため、位置決め精度が高められる。凹み1151についても同様であり、メインフレーム2の位置決め精度が高められる。
なお、凹み1131、1151が他端側Lに凹む形状であるので、凹み1131、1151がメインシェル11の厚み方向に形成される場合と比較して、メインシェル11の肉厚減少が抑制でき、メインシェル11の強度の低下が抑制できる。
次に、上記のように形成されるメインシェル11の一端側Uから、メインフレーム2が挿入される。メインフレーム2は、第2位置決め面115に面接触し、高さ方向が位置決めされる。その状態で、メインフレーム2が第1突出部112に焼嵌めあるいはアークスポット溶接により固定される。
そして、メインフレーム2の軸孔221に駆動軸6が挿入される。その後、偏心軸部62にブッシュ7が取り付けられる。さらに、オルダムリング33および揺動スクロール32などが配置される。
次に、メインシェル11の一端側Uから、固定スクロール31が挿入される。固定スクロール31は、第1位置決め面113に面接触し、高さ方向が位置決めされる。
なお、固定スクロール31の周方向の位置決めをする従来のボルトのような部材が無い。このため、固定スクロール31が固定されるまでは、揺動スクロール32に対して固定スクロール31が回転可能である。これにより、第1渦巻体312と第2渦巻体322との位置関係がずれ、スクロール圧縮機100の個体ごとにおいて圧縮ばらつきや圧縮不良が発生するおそれがある。そこで、揺動スクロール32の第2渦巻体322に対する第1渦巻体312の位置関係が所定関係となるように、固定スクロール31が回転され、固定スクロールの位相が調整される。その後、固定スクロール31が第1内壁面部111に焼嵌めにより固定される。
この工程では、アッパーシェル12により固定スクロール31を第1位置決め面113に押付けるように挿入する。そして、一旦アッパーシェル12を取り外す。そして、固定スクロール31が第1位置決め面113に押付けられる状態を維持し、固定スクロール31がメインシェル11に焼嵌め固定される。これにより、スクロール圧縮機100ごとの吸入空間92の高さのばらつきが抑制され、位置精度が高まる。また、スクロール圧縮機100の駆動時における固定スクロール31の上下方向へのずれが抑制される。ただし、第1位置決め面113は、固定スクロール31の製造上の位置決めさえできれば良いので、固定スクロール31が第1内壁面部111に固定された後に、固定スクロール31が第1位置決め面113と接触していることは必ずしも必須ではない。なお、メインフレーム2と第2位置決め面115との関係についても同様である。
最後に、メインシェル11の一端側Uから、アッパーシェル12が挿入される。その後、アッパーシェル12は、メインシェル11に円周が溶接により固定される。
<従来の比較例での固定スクロールの外周面での荷重中心>
ここで、固定スクロール31は、焼嵌めでメインシェル11の第1内壁面部111に固定されると、メインシェル11にアッパーシェル12を円周が溶接した溶接箇所は、冷却後に収縮する。そして、メインシェル11の一端側Uの外周部に収縮させる力が働き、焼嵌めされる固定スクロール31の第1円形台板311が圧縮される。第1円形台板311の外周面には、面圧分布が生じるので、第1円形台板311の外周面に曲げモーメントが働き、第1円形台板311とこれの他端側Lに形成された第1渦巻体312が変形する問題があった。
図5は、比較例でのアッパーシェル12の円周が溶接後のメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化に関して測定範囲を示す説明図である。図6は、比較例でのアッパーシェル12の円周が溶接後のメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化に関してシェル形状の変化量を示す図である。図7は、比較例でのアッパーシェル12の円周が溶接後のメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化に関して円形台板外周面の面圧を示す図である。
図6に示すように、メインシェル11の外半径は、(1)の元の状態では、高さ方向に関係なくほぼ均一であった。(1)の状態から、(2)のように円形台板なしでアッパーシェルの円周が溶接されると、円周の溶接箇所121に近いメインシェル11の一端側Uの上端である測定点高さ0基準で、外半径は、収縮量dRで示すように約0.1%収縮する。これにより、第1内壁面部111の外半径が高さに比例して増加し、第1突出部112の領域が元の均一な状態に戻る。
一方、第1突出部にメインフレーム2の外周面が焼嵌めされるとともに第1内壁面部111に固定スクロール31の第1円形台板311の外周面が焼嵌めされると、一旦、メインシェルの外半径は、(3)のように円形台板の外周面高さ範囲で膨らんで拡大する。次に、(3)の状態から、(4)のようにアッパーシェルの円周が溶接されると、メインシェル11の一端側Uの上端である測定点高さ0基準で、メインシェル11の外半径が約0.1%収縮する。
(4)に示すように、メインシェル11は、固定スクロール31の第1円形台板311の外周面の影響で膨らむように変形した上で、全体として一端側Uを収縮させるように傾斜する。このとき、第1円形台板311の外周面では、中央より他端側Lが最外径である頂点314Aとなるように変形する。そのため、第1円形台板311の外周面には、図57のようなほぼ台形の面圧荷重分布が作用する。
メインシェル11の外半径は、第1円形台板311がない場合は、図6の(2)のように高さ方向に比例的して収縮するので、第1円形台板311の外周面の面圧荷重も高さ方向にほぼ比例的に変化する。これにより、面圧分布荷重の重心位置は、第1円形台板311の外周面の一端側Uの角部311Xから他端側Lへ厚みtの1/3から1/2の範囲に隔てた高さ位置である。
一方で、固定スクロール31の第1円形台板311は、厚みt断面の中性面周りに曲げモーメントが働き、他端側Lに向かって凹型に中央が撓むように軸対称に変形する。参考文献1より、単位長さあたりの曲げモーメントM、慣性モーメントI(=t3/12)、板の曲げ剛性Dとすると、
M=D(1+ν)/ρ
である。
ここで、中性面は円形台板の重心位置に一致し、円形台板厚みtの1/2の高さ位置にほぼ一致する。
参考文献1(寺沢一雄、松浦義一「材料力学(上巻)」86−89頁、115−117頁、219−224頁(昭和59年7版発行、海文堂))には、細長い短形平板の変形について説明がある。しかし、xyz方向の三次元的な変形も、近似的にはポアソン比νの影響が小さいと仮定すれば、二次元的なzx断面の慣性モーメントIで表記して、z方向の変位を梁の撓みと一致する。
外周部を固定支持する第1円形台板311の上下面で働く最大曲げ応力σmaxは、
σmax=6M/t2
となり、梁の撓みの最大曲げ応力と一致する。
また、第1円形台板311の撓み量は、参考文献1のP226の式(5.21)で求められる。
一方、第1円形台板311の重心位置311Gは、円形台板厚みtの1/2の高さ位置である。そして、第1円形台板311のメインシェル11の軸方向での重心位置311Gは、環状突起314の範囲内である。第1円形台板311の重心位置311Gと面圧荷重の重心位置とのズレ分が、第1円形台板311の外周面に重心まわりに曲げモーメントとして働く。つまり、図7に示す斜線部分の荷重は、第1円形台板311の重心位置311Gからt/6ズレ箇所に働いて、第1円形台板311を他端側Lに向けて凹型に変形させる曲げモーメントを生じる。
<実施の形態1の外周面荷重中心>
図8は、本発明の実施の形態1に係るおけるアッパーシェル12の円周が溶接後のメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化に関して測定範囲を示す説明図である。図9は、本発明の実施の形態1に係るおけるアッパーシェル12の円周が溶接後のメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化に関してシェル形状の変化量を示す図である。
図9に示すメインシェル11の外半径の高さ方向の(1)から(4)の形状変化は、比較例の図6とほぼ同様の変化であり、詳細な説明を省略する。つまり、比較例と同様に、(4)のアッパーシェル12の円周が溶接される場合には、メインシェル11は、一端側Uの上端である測定点高さ0基準110にて、外半径が収縮量dRで示す0.1%から0.2%程度収縮する。そして、メインシェル11における他端側Lの円形台板の外周面高さ範囲にて、外側に隆起するように変形する。
第1円形台板311の外周面には、外半径が最大となる点を頂点314Aとする山形円弧形状が形成され、一端側Uから軸高さ位置Z1Aの位置である頂点付近にて第1内壁面部111と接触する。収縮量dRは、R10の0.1%程度である。位置Z1Aでの収縮量は、R10の20%から50%程度とする。この場合には、図3に示すメインシェル11の第1内壁面部111の傾斜角θ1は、
傾斜角θ1=dR/Z1A=1/500から1/200程度
となる。
メインシェル11が傾斜しても面圧荷重が働く位置は、山形円弧の傾斜角θ1の範囲であり、頂点314A付近から大きく移動しない。そのため、山形円弧の頂点314A位置が円形台板厚みtの1/2の高さ位置に一致する第1円形台板311の重心位置311Gに設計されると、第1円形台板311の外周面には重心まわりに大きな曲げモーメントが発生しない。これにより、第1円形台板311の変形と、第1円形台板311の他端側Lに形成される第1渦巻体312と、の変形が抑えられる。
<圧力およびシール状態>
次に、図3を用い、メインシェル11と第1円形台板311との形状変化について、定量的に検討した結果について説明する。
シェル1の内側空間のうちで、固定スクロール31の第1円形台板311より一端側Uには、圧縮室34で圧縮した吐出圧Pdの高圧の冷媒を吐出管15に導く吐出空間91が形成されている。吐出空間91の中央付近には、マフラー35および吐出弁36が取り付けられる。
一方、固定スクロール31の第1円形台板311より他端側Lには、第1渦巻体312と第2渦巻体322とで囲まれた圧縮室34と、吸入管14につながる吸入圧Psの低圧の冷媒取込空間である吸入空間92と、が形成される。
吐出空間と冷媒取込み空間とである2つの空間の差圧により、固定スクロール31の第1円形台板311は、一端側Uから他端側Lに押し付けられる。このため、第1円形台板311の外周面の他端側Lは、第1位置決め面113に押圧され、環状のシール面317Oが形成される。
さらに、第1円形台板311の外周面には、一端側Uの端部314Xから他端側Lの端部314Yの範囲となる山形円弧領域taに、最外径部となる頂点314Aがある。この頂点314A近傍は、上記の差圧により、第1内壁面部111に対して他端側L方向に押圧され、環状にシール面317Aが形成される。
第1円形台板311の外周面では、環状突起314の第1内壁面部111に接触した接触点であるシール面317Aより一端側Uの吐出空間91は、吐出圧Pdの高圧状態である。一方、シール面317Oより他端側Lは、吸入圧Psの低圧状態である。シール面317Aより他端側Lであり、かつ、シール面317Oより一端側Uである隙間では、低圧状態と高圧状態との中間の圧力状態となる。より詳しくは、この隙間は、シール面317Oのシール面積が支配的であるので、高圧状態に近い状態である。
固定スクロール31は、中心側にて、第1渦巻体312と、マフラー35と、を有するため、第1渦巻体312より内側領域の剛性が外側領域の剛性より高い。また、固定スクロール31の第1円形台板311の内側領域は、冷媒が吸入圧Psから吐出圧Pdまで昇圧される圧縮室34である。圧縮室34では、一端側Uの吐出空間91の吐出圧Pdとの差圧が小さい。
ここで、スクロール圧縮機100の中心軸から第1渦巻体312より内側領域の内半径をRbとする。同じくメインシェル11の第1突出部112までの内半径をRaとする。
<最大負荷圧力条件>
以上の圧力荷重条件に類似した計算モデルとして、参考文献2(日本機械学会「機械工学便覧A4材料 力学基礎編」57−58頁(2001年新版9刷発行、丸善))を用いる。参考文献2から内周可動片を有する円輪板に圧力分布が作用する計算モデルを用いて、第1円形台板311の変形量を予測する。
蒸気圧縮式冷凍サイクルにおいて、代表的な設計運転条件として、R410A冷媒を用いた最大負荷圧力条件(Pd=3.8MPa、Ps=1MPa)を想定し、差圧△PはPd−Ps=2.8MPaが一端側Uから他端側Lに作用すると仮定して、差圧(Pd−Ps)荷重による第1円形台板311の撓み量を求める。
第1円形台板311の寸法を、厚みt=20mm、Ra=80mm、Rb=48mm(Rb/Ra=0.6)と仮定し、第1円形台板311の最外径R1からRbの範囲の外周側領域には、駆動軸6の軸中心下側方向へ差圧△Pの荷重が働く。第1円形台板311の材料を鋳鉄としてヤング率100GPa、ポアソン比0.3と仮定する。
<必要な焼嵌め代>
第1円形台板311の外周面には、メインシェル11の第1内壁面部111への焼嵌め固定により固定保持力Ffが働く。
固定保持力Ffは、圧縮運転時の回転方向ガストルクFt1、起動時に圧縮室34から受けるスラスト反力Ft2、さらに、非定常時に吐出空間91に真空引きした状態で吸入空間92に圧力がかかるときのスラスト反力Ft3に打ち勝って、固定スクロール31を固定保持する。
このうち、最も大きいのは、非定常時のスラスト反力Ft3である。吸入空間92にかかる逆圧をPs(=1MPa)と仮定すると、
スラスト反力Ft3=π(Ra)2×Ps=20kN
である。
そして、
固定保持力Ff=静止摩擦係数μ×締付け力Fin>Ft3
である。
μ=0.5として、スラスト反力Ftより大きな固定保持力Ffを得るには、
締付け力Fin>Ft3/静止摩擦係数μ
である。
この結果、締付け力Finは40kN以上となり、焼嵌め代は0.1mm以上、つまり内径Raの0.13%以上必要である。
さらに、メインシェル11にアッパーシェル12の円周が溶接されると、メインシェル11の収縮量dRである0.1mm程度、かつ、傾斜角θ1である1/500から1/200程度に変形する。
<単純支持円板円形台板の上下差圧による撓み量>
これに対して、圧縮運転時に最大負荷運転条件で、差圧△P(=2.8MPa)が作用した場合、No.15(円輪板、外周単純支持、内周可動片に固定、等分布荷重)の計算モデルを適用すると、内周可動片の半径Rbの位置で、
最大撓みw_max=α×△P×(Ra)4/t3=7μm
となる。
外周単純支持の円形台板の外周面は拘束されない、すなわち曲げモーメントMr=0であるので、撓んで傾く。その傾斜角は、3/10000である。このときの第1円形台板311の外周面外径変化量(=厚みt×傾斜角)は、6μmである。よって、焼嵌め代と円周が溶接されることによるメインシェルの外周面の傾斜角θ1である1/500から1/200程度に比べると無視できる傾きである。
以下、第1円形台板311は、焼嵌め代と円周の溶接とによって変形したメインシェル11の第1内壁面部111に固定支持された状態で、外周面に曲げモーメントMrが働いていると考えて、変形量を予測する。
<固定支持円形台板の上下差圧による撓み量>
次に、No.16(円輪板、外周固定支持、内周可動片に固定、等分布荷重)の計算モデルから、上下差圧荷重による曲げモーメントMr1を計算すると、内周可動片の半径Rbの位置で、
最大撓みw_max=α×△P×(Ra)4/t3=1.4μm
である。
撓み角は、0である。
最大応力は、
最大応力|σ_max|=β×△P×(Ra)2/t2
である。
曲げモーメントは、
曲げモーメントMr1=|σ_max|/断面係数Z
=β×π×△P×(Ra)3/3、(ここで、Rb/Rb=0.6のとき、β=0.25である。)
=375Nm
となる。
メインシェル11に固定された第1円形台板311の外周面には、上下差圧荷重による曲げモーメントMr1と、円周が溶接後の収縮による外周面荷重の中心が重心位置311Gの高さ位置から所定距離ずれることで曲げモーメントMr2と、が働く。つまり、第1円形台板311の外周面には、通常、他端側Lに凹型変形させる曲げモーメントが働く。この他端側Lに凹む向きを+とする。曲げモーメントMr2が、上下差圧荷重による曲げモーメントMr1程度であれば、同様に最大撓みw_maxへの影響は、1〜2μmレベルであるので、十分小さく無視して良い。
次に、締付け力Finを、(π(Ra)2×Ps)/μと仮定すると、曲げモーメントMr2は、
Mr2=dH1×Fin=dH1×(π(Ra)2×Ps)/μ
となる。
ここで、Mr2=Mr1とおくと、
dH1=μ×Mr1/Ft3
=(μ×β×π×△P×(Ra)3/3)/(π(Ra)2×Pm)
=Ra×(μ×β/3)×(△P/Ps)
=Ra×γ
となる。
Rb/Raは通常0.6程度である。このとき、β=0.25、γ=6.6%である。さらに、Rb/Raは大きくとも0.8程度である。Rb/Ra=0.8のとき、β=0.067、γ=1.1%となる。
すなわち、面圧中心が重心高さからのずれ距離dH1が、Raの1%程度であれば、上下差圧による影響と同様レベルで、内径Raの位置での最大撓みw_maxは、1〜2μmレベルである。この結果、曲げモーメントMr2は、十分小さいので、無視して良いと考えられる。
また、実施の形態1では、図3に示す第1円形台板311の外周面では、最外径となる頂点314Aの付近である最外径R1でのみ、第1内壁面部111と接触する。第1円形台板311の主要部の肉厚はtである。一方、外周付近側壁の幅は、載置突起部316の肉厚であり、その肉厚はt1でtより小さい。第1内壁面部111の一端側Uは、収縮するため、頂点314A付近の小径端部315で接触する可能性がある。しかし、小径端部315の外半径をR2とし、頂点314Aとの外径差をe2=R1−R2とし、頂点314Aとの高さ位置の差をx1Aとすると、頂点314Aから外周面上端角で接触する傾斜角θ2は、
θ2≒tan(θ2)=e2/x1A
となる。
e2が円周の溶接後におけるメインシェル11の一端側Uの端部110の変形量である0.1mm程度より大きくなるように設計されれば、θ2>θ1の関係が保て、小径端部315と第1内壁面部111との接触が防げる。
ただし、θ1≒θ2の関係が保てる場合には、仮に接触しても小径端部315で働く締め付け力が小さいので無視できる。詳細については、別途実施の形態2で説明する。
一方、第1円形台板311の外周部の他端側Lの角部である載置端部313で、外半径をR1oとし、頂点314Aとの外径差をeo=R1−R1oとし、頂点314Aとの高さ位置の差をy1Aとすると、頂点314Aから載置端部313での接触傾斜角θoは、
θo≒tan(θo)=eo/y1A
となる。
eoが円周の溶接後におけるメインシェル11の一端側Uの端部110の変形量である0.1mm程度より大きくなるように設計されれば、θo>θ1Lの関係が保て、載置端部313にてメインシェル11の第1内壁面部111との接触が防げる。
図3に示すメインシェル11の第1内壁面部111は、頂点314Aにて外径が最大となるように変形し、他端側Lの傾斜角θ1Lとすると、メインシェル11の一端側Uの端部110の収縮量が大きくなる。そのため、一端側Uの傾斜角θ1は、大きくなる。一方、第1突出部112は、メインフレーム2に拘束されて変形し難いので、他端側Lの傾斜角θ1Lは、小さい。この結果、通常θ1L<θ1の関係が成り立つ。
さらに、実施の形態1では、θ1L<θoの関係が保てるように設計すれば、載置端部313にてメインシェル11の第1内壁面部111との接触が防げる。また、θo≒θ1Lの関係が保てる場合には、仮に接触しても、締め付け力が小さいので無視できる。これについては、別途実施の形態3で説明する。
<作用および効果>
以上のような製造方法により、従来のようにメインフレーム2と固定スクロール31とをボルトなどで接続する方法と同等に、メインフレーム2と、固定スクロール31と、揺動スクロール32と、の位置精度を実現しつつ、吸入空間92が拡大できる。また、固定スクロール31の固定にボルトなどが使われないため、製造が容易化できる。
これにより、たとえば、揺動スクロール32の第2円形台板321およびスラストプレート24の直径が大きくでき、摺動面積が大きくなり、スラスト荷重による面圧が低減できる。また、メインフレーム2に固定スクロール31を固定するための壁が必要なくなるため、メインフレーム2の加工時間が短縮化できるとともに、軽量化が図られる。
メインシェル11は、第1突出部112と、第1突出部112から突出してメインフレーム2が位置決めされる第2位置決め面115を形成する第2突出部114と、を有している。そして、メインフレーム2は、第2位置決め面115に単体で固定されている。したがって、固定スクロール31もメインフレーム2も同様の製造工程にてシェル1に固定でき、製造が容易化できる。
このように、固定スクロール31がメインシェル11に固定されたときに、固定スクロール31の第1円形台板311と第1円形台板311の他端側Lに形成した第1渦巻体312が変形せず、第1、第2渦巻体312、322同士の歯先漏れ隙間が拡大せず、圧縮機効率の低下が抑制できる。あるいは、第1、第2渦巻体312、322同士の歯先漏れ隙間が狭まらず、歯先が壁面と接触せず、耐久性の低下が抑制できる。したがって、従来のスクロール圧縮機と同等シェル径のまま、圧縮室34の排除容積が拡大できる。
また、スクロール圧縮機100、凝縮器、膨張弁、および蒸発器を備え、冷媒を循環させる冷凍サイクル装置であって、冷媒にたとえばR32などを含む高圧冷媒を使用しても良い。R32などを含む高圧冷媒を使用した場合には、スラスト軸受にかかる負担が大きくなる。しかし、実施の形態1では、揺動スクロール32の第2円形台板321およびスラストプレート24の直径が大きくでき、摺動面積が大きくできる。このため、スラスト軸受にかかる負担が軽減でき、信頼性が高められる。
<実施の形態1の効果>
実施の形態1によれば、スクロール圧縮機100は、揺動スクロール32を摺動自在に保持するメインフレーム2を備える。スクロール圧縮機100は、揺動スクロール32とともに圧縮室34を形成する固定スクロール31を備える。スクロール圧縮機100は、固定スクロール31をメインフレーム2とは別々に固定するシェル1を備える。シェル1は、厚肉部である第1突出部112と第1突出部112より内径が大きい薄肉に形成される薄肉部である第1内壁面部111とを含んだ筒状のメインシェル11を有する。固定スクロール31は、第1突出部112と第1内壁面部111との境界部分に載置された載置端部313を有する。固定スクロール31は、載置端部313より大径であって第1内壁面部111に接触する環状突起314を有する。固定スクロール31は、載置端部313とは環状突起314を介した反対側にて環状突起314よりも小径である小径端部315を有する。
この構成によれば、メインシェル11の第1内壁面部111の端部110がアッパーシェル12に円周が溶接されると、メインシェル11の第1内壁面部111の端部110の内径が1%から2%程度収縮する。そのとき、固定スクロール31が小径端部315を有するので、小径端部315が収縮する第1内壁面部111の端部110から受ける曲げモーメントが小さくできる。特に、実施の形態1では、小径端部315が収縮する第1内壁面部111に接触しない。よって、この曲げモーメントは、なくなる。その結果、焼嵌めなどによりメインシェル11に固定される固定スクロール31では、外周面に、載置端部313側から小径端部315側に向かって大きくなる面圧分布が生じず、第1円形台板311の中心部を下方に凹ませるように曲げるモーメントが働かない。したがって、固定スクロール31がシェル1内に位置精度良く配置でき、固定スクロール31の第1渦巻体312と揺動スクロール32の第2渦巻体322との歯先同士が適切な位置関係になるように構成される。
その結果、メインフレーム2に固定スクロール31を固定するための周壁を形成することなく、固定スクロール31がシェル1内に位置精度良く、焼嵌めおよび円周が溶接後の変形を最小限にするように配置できる。そして、スクロール圧縮機100の耐久性および信頼性の低下が抑制できる。また、スクロール圧縮機100の漏れ損失が増加せず、圧縮機効率の低下が抑制できる。
実施の形態1によれば、載置端部313と環状突起314とは、分離して形成される。
この構成によれば、載置端部313の外径が環状突起314の外径よりも小さくでき、載置端部313にてメインシェル11の第1内壁面部111との接触が防げる。この結果、メインシェル11の過度の変形が抑制できる。
実施の形態1によれば、環状突起314は、メインシェル11の軸方向で曲線状に形成される。
この構成によれば、環状突起314は、メインシェル11の第1内壁面部111に接触する範囲を広げる。このため、接触範囲の応力集中が回避でき、メインシェル11の第1内壁面部111の耐久性が向上できる。
実施の形態1によれば、固定スクロール31の第1円形台板311のメインシェル11の軸方向での重心位置311Gは、環状突起314の範囲内である。
この構成によれば、第1円形台板311の重心位置311Gと面圧荷重の重心位置とのズレ分が、第1円形台板311の外周面に重心まわりに曲げモーメントとして働く。
実施の形態1によれば、載置端部313と環状突起314と小径端部315とは、固定スクロール31の第1円形台板311から半径方向外側に突出した載置突起部316に設けられる。
この構成によれば、メインシェル11との接触が固定スクロール31の載置突起部316に限られ、固定スクロール31の第1円形台板311とは離間する。この結果、メインシェル11の過度の変形が抑制できる。
実施の形態1によれば、シェル1は、メインシェル11の第1内壁面部111が固定されてメインシェル11の第1内壁面部111側の開口を塞ぐアッパーシェル12を有する。メインシェル11の第1内壁面部111とアッパーシェル12とが接合され、固定スクロール31の小径端部315と第1内壁面部111とが離間する。
この構成によれば、アッパーシェル12の円周が溶接後も固定スクロール31の小径端部315が第1内壁面部111に接触しない。そのため、小径端部315がアッパーシェル12の円周が溶接後に収縮した第1内壁面部111から受ける曲げモーメントがなくせる。
以下、実施の形態2〜5では、実施の形態1に係る図1〜図6のスクロール圧縮機100と同一の構成を有する部位については同一の符号を付してその説明を省略する。また、実施の形態1と同様に、スクロール圧縮機100の効率の向上および信頼性を確保しつつ、圧縮室34の排除容積を拡大する効果が奏されるものである。このような同様な効果については詳細説明を省略する。
実施の形態2.
<小径端部315で接触および傾斜角がθ2≒θ1の場合>
図10は、本発明の実施の形態2に係るアッパーシェル12の円周が溶接後のメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化を定量化する図1の一点鎖線領域Aを示す拡大図である。
載置端部313と環状突起314と小径端部315とは、載置突起部316に設けられる。載置端部313と小径端部315とは、ほぼ同じ外径に形成される。環状突起314は、載置突起部316における載置端部313と小径端部315との間で外周面から突出する。載置端部313と環状突起314とは、分離して別体に設けられる。
円周が溶接後のメインシェル11の一端側Uの端部110の収縮変形量が0.1〜0.2mm程度と同等程度である。このように、傾斜角θ2がθ1程度に設計されれば、仮に小径端部315で接触しても、以下の関係が成立する。つまり、小径端部315で発生する締め付け力は、環状突起314の頂点314Aで発生する締め付け力に比べて十分小さい。
環状突起314の頂点314Aの位置は、固定スクロール31の重心位置311Gと駆動軸6での軸方向高さ位置でほぼ等しい。このため、第1円形台板311の重心まわりの曲げモーメントは、微小である。その結果、第1円形台板311と第1渦巻体312を変形させる影響は、十分小さく無視できる。
ただし、実施の形態2では、実施の形態1よりも円周が溶接後のメインシェル11の収縮変形量のばらつき影響を受け易くなる欠点がある。一方で、利点として、小径端部315が第1内壁面部111と接触してシール面317Bが形成できる。これにより、シール面積を増やし、吐出空間91と吸入空間92との間で冷媒の漏れが防げる。また、固定スクロール31の第1円形台板311の外周面に吐出圧Pdの圧力分布が発生することにより生じる曲げモーメントがなくせる。通常では、第1円形台板311の外周面の圧力分布は、問題とならない程度である。しかし、第1円形台板311の板厚が相対的に厚い、すなわちt/R1が大きいときに有利になる。
実施の形態2によれば、実施の形態1よりも、円周が溶接後のメインシェル11の収縮変形量のばらつき影響を受け易い点があるものの、第1円形台板311の形状によっては有利な面もある。そして、実施の形態1に準ずる効果が得られる。
<実施の形態2の変形例1>
図11は、本発明の実施の形態2の変形例1に係るメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化を定量化する図1の一点鎖線領域Aで固定スクロール31の焼嵌め後の状態を示す図である。図12は、本発明の実施の形態2の変形例1に係るメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化を定量化する図1の一点鎖線領域Aでアッパーシェル12の円周が溶接後の状態を示す図である。
載置端部313と環状突起314と小径端部315とは、載置突起部316に設けられる。小径端部315は、載置端部313より小径に形成される。環状突起314は、載置端部313と一体に設けられる。
載置突起部316の外周面には、頂点314Aを有する山形円弧領域taが形成される。山形円弧領域taは、載置端部313と環状突起314とを一体に設けたものである。山形円弧領域taのうち頂点314Aは、小径端部315よりも他端側Lの根元と載置端部313とのほぼ中央に位置する。つまり、山形円弧領域taは、頂点314Aで線対称な形状に形成される。
山形円弧領域taの頂点314A付近は、メインシェル11の第1内壁面部111に接触する。山形円弧領域taのうち頂点314Aより他端側Lは、中腹部から第1位置決め面113に載置される他端側Lの端面までを載置突起部316としての外径寸法を有して縮径される。載置突起部316の他端側Lの端面は、環状突起314および載置端部313の一部であり、第1位置決め面113に支持される。
傾斜角θ2をθ1程度に設計すれば、仮に小径端部315が第1内壁面部111に接触しても、小径端部315で発生する締め付け力としての荷重319Bは、頂点314Aで発生する締め付け力としての主荷重319Aに比べて十分小さい。頂点314Aの駆動軸6での軸方向高さ位置は、固定スクロール31の重心位置311Gの位置とほぼ等しい。このため、第1円形台板311の重心まわりの曲げモーメントは、十分小さい。その結果、第1円形台板311と第1渦巻体312とを変形させる影響は、十分小さく無視できる。したがって、実施の形態1に準じる効果が得られる。
<実施の形態2の変形例2>
図13は、本発明の実施の形態2の変形例2に係るメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化を定量化する図1の一点鎖線領域Aで固定スクロール31の焼嵌め後の状態を示す図である。図14は、本発明の実施の形態2の変形例2に係るメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化を定量化する図1の一点鎖線領域Aでアッパーシェル12の円周が溶接後の状態を示す図である。
載置端部313と環状突起314と小径端部315とは、載置突起部316に設けられる。小径端部315は、載置端部313より小径に形成される。環状突起314は、載置端部313と小径端部315と一体に設けられる。
環状突起314の外周面には、頂点314Aを有する山形円弧領域taが形成される。山形円弧領域taのうち頂点314Aは、小径端部315と載置端部313との間で中央よりも他端側Lに位置する。つまり、山形円弧領域taは、頂点314Aで非線対称な形状に形成される。
山形円弧領域taの一端側Uは、頂点314Aから小径端部315まで緩やかな傾斜面を形成する。ここで、傾斜角θ2をθ2≒θ1となるように設計した点は、実施の形態2の変形例1と同様である。しかしながら、山形円弧領域taの一端側Uがメインシェル11の第1内壁面部111と接触するように緩やかな傾斜面に形成される点が実施の形態2の変形例1と異なる。このように、山形円弧領域taの一端側Uがメインシェル11の第1内壁面部111と接触すると、接触部分での締め付け力としての荷重319Cにおいては、頂点314Aの締め付け力としての主荷重319Aが最大となる荷重分布が生じる。ここで、頂点314Aの駆動軸6での軸方向高さ位置は、固定スクロール31の重心位置311Gの位置とほぼ等しい。そして、傾斜角θ2がθ2≒θ1となるように設計できれば、実施の形態1に準じる効果が得られる。
ただし、第1内壁面部111と接触する山形円弧領域taの一端側Uの傾斜面が接触する仕方により、固定スクロール31の重心位置311Gが山形円弧領域taの一端側Uの傾斜面の範囲Sで変化し得てしまう難点がある。
<実施の形態2の効果>
実施の形態2によれば、載置端部313と環状突起314とは、一体に形成される。
この構成によれば、環状突起314が載置端部313と一体となって大きく形成でき、環状突起314の強度が向上できる。この結果、環状突起314の耐久性が向上できる。
実施の形態2によれば、シェル1は、メインシェル11の第1内壁面部111が固定されてメインシェル11の第1内壁面部111側の開口を塞ぐアッパーシェル12を有する。メインシェル11の第1内壁面部111がアッパーシェル12に固定されるときに、固定スクロール31の小径端部315が第1内壁面部111から受ける曲げモーメントである締め付け力としての荷重319Cは、固定スクロール31の環状突起314が第1内壁面部111に接触して受ける曲げモーメントである締め付け力としての主荷重319Aより小さい。
この構成によれば、アッパーシェル12の円周が溶接後に固定スクロール31の小径端部315が第1内壁面部111に接触する。しかし、小径端部315がアッパーシェル12の円周が溶接後に収縮した第1内壁面部111から受ける曲げモーメントのうち、小径端部315が第1内壁面部111から受ける曲げモーメントは、環状突起314が第1内壁面部111に接触して受ける曲げモーメントより小さい。その結果、第1円形台板311と第1渦巻体312とを変形させる影響は、十分小さく無視できる。加えて、小径端部315が第1内壁面部111と接触してシール面317Bが形成できる。これにより、シール面積が増え、吐出空間91と吸入空間92との間で冷媒の漏れが防げる。また、固定スクロール31の第1円形台板311の外周面に吐出圧Pdの圧力分布が発生することにより生じる曲げモーメントがなくせる。
実施の形態3.
<載置端部313で接触および傾斜角がθo≒θ1Lの場合>
図15は、本発明の実施の形態3に係るアッパーシェル12の円周が溶接後のメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化を定量化する図1の一点鎖線領域Aを示す拡大図である。
実施の形態1では、傾斜角がθ2>θ1、かつ、θo>θ1Lである。また、載置端部313と小径端部315とは、メインシェル11の第1内壁面部111に接触しない。そして、環状突起314だけは、メインシェル11の第1内壁面部111に接触する。
実施の形態2では、傾斜角がθ2≒θ1である。また、載置端部313と小径端部315とは、環状突起314とともにメインシェル11の第1内壁面部111に接触する。
ここで、第1円形台板311の載置突起部316の載置端部313は、第1位置決め面113に接触して環状のシール面317Oを形成する。このシール面317Oのシール幅c1として、第1内壁面部111の内径R1oから第1突出部112の内径Raを引いたc1=R1o−Raの値を十分大きく確保する必要がある。しかし、上記の実施の形態1では、載置端部313が第1内壁面部111に接触しない寸法である。このため、シール幅c1の大きさに制約がある。また、上記の実施の形態2では、小径端部315が第1内壁面部111に接触する。このため、円周が溶接後のメインシェル11の収縮変形量のばらつき影響を受け易い難点がある。
そこで、実施の形態3では、シール面317Oで十分なシール面積を確保するため、頂点314A付近のシール面317Aに加えて、頂点314Aよりも他端側Lの載置端部313でも第1内壁面部111に緩やかに接触するように、θo≒θ1Lの関係が保たれる。つまり、載置端部313と環状突起314とは、外径が同じ寸法である。環状突起314は、小径端部315から載置突起部316の外径を途中からテーパ状に拡径させて設けられる。環状突起314は、他端側Lに向けて少し縮径される。載置端部313は、環状突起314の他端側Lの少し縮径される根元から緩やかに環状突起314と同じ外径に拡径される。
実施の形態3によれば、シール面317Oのシール幅c1として、第1内壁面部111の内径R1oから第1突出部112の内径Raを引いたc1=R1o−Raの値が十分大きく確保できる。また、載置端部313では、小径端部315より円周が溶接後のメインシェル11の収縮変形量が小さく、ばらつき影響が受け難くなる。
実施の形態4.
<角部が面取りされる頂点を含む断面四角形状の環状突起で接触および傾斜角がθo=θ1Lの場合>
図16は、本発明の実施の形態4に係るアッパーシェル12の円周が溶接後のメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化を定量化する図1の一点鎖線領域Aを示す拡大図である。
ところで、実施の形態1では、環状突起314は、メインシェル11の軸方向で曲線状に形成される円弧形状であり、頂点314A付近で第1内壁面部111に接触する。
実施の形態4では、環状突起314は、載置突起部316に載置端部313と一体に形成される断面四角形状である。載置端部313は、載置突起部316の他端側Lの角部である。載置端部313に至る環状突起314の断面四角形状は、一端側Uと他端側Lとの角部を面取りされる。載置端部313は、角部を面取りされ、メインシェル11の第1内壁面部111には接触しない。環状突起314は、一端側Uと他端側Lとの長さがtaである。環状突起314の外周部は、接触範囲Sで外径が均一の円周面状に形成される。つまり、環状突起314は、メインシェル11の軸方向の一端側Uと他端側Lとの間で直線状に形成される。
ここで、アッパーシェル12がメインシェル11に円周が溶接されると、メインシェル11の収縮により第1内壁面部111が傾斜変形する。次に、第1内壁面部111のうち接触範囲Sの一端側Uの角部に対応する第1接触箇所である頂点314Axも傾斜変形する。このとき、図7の台形分布のような荷重分布が発生する。分布する荷重のうち主荷重は、接触範囲Sの中点位置(S/2)から、一端側UへS/6までの範囲内に働く。このため、固定スクロールにおける第1円形台板311の重心位置311Gの位置がこの範囲内に合えば、第1円形台板311に大きな曲げモーメントが働かない。すなわち、第1円形台板311のメインシェル11の軸方向での重心位置311Gは、環状突起314の範囲内であって環状突起314のメインシェル11の軸方向での真ん中よりも一端側Uである小径端部317側である。その結果、固定スクロール31の変形は、小さな状態に保持できる。
さらに、接触範囲Sが十分小さければ、固定スクロール31の載置突起部316の外周面に働く曲げモーメントが無視できる。接触範囲Sが固定スクロール31の最外径R1のうち6%以下であれば、曲げモーメントが最大負荷運転時の荷重撓みレベルとなって十分無視できる。
実施の形態4によれば、実施の形態1よりも円周が溶接後のメインシェル11の収縮変形量のばらつきによる影響が残るものの、曲げモーメントの影響が十分小さくでき、実施の形態1に準ずる効果が得られる。
<実施の形態4の変形例1>
図17は、本発明の実施の形態4の変形例1に係る固定スクロール31の第1円形台板311を示す拡大図である。
図17に示すように、第1円形台板311は、載置突起部316を有さない。固定スクロール31には、載置端部313と環状突起314と小径端部315とが形成される。載置端部313と環状突起314とは、一体に形成される。環状突起314は、実施の形態4の載置突起部316に形成された形状と同形状である。小径端部315は、載置端部313と環状突起314とは別体に形成される。
<実施の形態4の変形例2>
図18は、本発明の実施の形態4の変形例2に係る固定スクロール31の第1円形台板311を示す拡大図である。
図18に示すように、環状突起314は、載置突起部316に載置端部313と一体に形成される断面四角形状である。環状突起314の断面四角形状は、一端側Uと他端側Lとの角部を面取りされない。環状突起314の外周部は、肉厚に等しい接触範囲Sで外径が均一の円周面状に形成される。
<実施の形態4の変形例3>
図19は、本発明の実施の形態4の変形例3に係る固定スクロール31の第1円形台板311を示す拡大図である。
図19に示すように、環状突起314は、載置突起部316に載置端部313と一体に形成される断面四角形状である。環状突起314の断面四角形状は、一端側Uと他端側Lとの角部を面取りされない。環状突起314の外周部は、載置端部313に向かうに従い縮径される。載置端部313は、環状突起314よりも小径である。このため、載置端部313は、メインシェル11の第1内壁面部111には接触しない。
図19に示す変形例3では、載置端部313を縮径するテーパ角度が大きくなる程、主荷重319Aの働く位置が一端側Uに移動する。主荷重319Aの働く位置がある一定以上一端側Uに移動すると、主荷重319Aは、環状突起314で働くとみなせる。そのため、第1円形台板311の重心位置311Gの位置が環状突起314の位置と等しい高さに合えば、第1円形台板311および第1渦巻体312を曲げる大きな曲げモーメントが働かない。その結果、固定スクロール31の変形の小さい状態は、保持できる。
以上、実施の形態4の変形例1〜3によれば、実施の形態1よりも、円周が溶接後のメインシェル11の収縮変形量のばらつきによる影響が残るものの、曲げモーメントの影響が十分小さくできる。そのため、実施の形態1に準ずる効果が得られる。
<実施の形態4の効果>
実施の形態4によれば、環状突起314は、メインシェル11の軸方向で直線状に形成される。
この構成によれば、環状突起314は、メインシェル11の第1内壁面部111に接触する範囲を直線状の領域全体に広げる。このため、接触範囲の応力集中が回避でき、メインシェル11の第1内壁面部111の耐久性が向上できる。
実施の形態4によれば、固定スクロール31の第1円形台板311のメインシェル11の軸方向での重心位置311Gは、環状突起314の範囲内であって環状突起314のメインシェル11の軸方向での真ん中よりも一端側Uである小径端部317側である。
この構成によれば、第1円形台板311の重心位置311Gと面圧荷重の重心位置とのズレ分が、第1円形台板311の外周面に重心まわりに曲げモーメントとしてより多く働く。
実施の形態5.
図20は、本発明の実施の形態5に係る固定スクロール31の第1円形台板311を示す拡大図である。図21は、本発明の実施の形態5に係るアッパーシェル12の円周が溶接後のメインシェル11と固定スクロール31の第1円形台板311との形状変化を定量化する図1の一点鎖線領域Aを示す拡大図である。
実施の形態4では、載置端部313と環状突起314と小径端部315とは、載置突起部316に設けられる。小径端部315は、載置突起部316に小径突起315Aを有して形成される。小径突起315Aは、小径端部315から半径方向外側に環状に突出する。小径端部315は、載置端部313より大径に形成される。
環状突起314は、載置突起部316から半径方向外側に環状に突出する。環状突起314は、小径端部315の小径突起315Aよりも大径に形成される。環状突起314は、載置端部313と別体に設けられる。
載置端部313は、載置突起部316そのものの角部に形成される。載置端部313は、小径突起315Aを有する小径端部315よりも小径である。このため、載置端部313は、メインシェル11の第1内壁面部111には接触しない。
環状突起314の外周部は、外径が均一の円周面状に形成される。また、小径端部315の外周部は、外径が均一の円周面状に形成される。環状突起314の外周部と小径端部315の外周部との間には、段差を有する凹部318が形成される。環状突起314の駆動軸6での軸方向高さ位置は、固定スクロール31の重心位置311Gとほぼ同じである。
ここで、固定スクロール31がメインシェル11に焼嵌め固定された時点では、環状突起314のみがメインシェル11の第1内壁面部111に接触する。このため、メインシェル11の第1内壁面部111の変形量は、小さい状態である。さらに、アッパーシェル12の円周が溶接されると、小径端部315も環状突起314とともにメインシェル11の第1内壁面部111に接触する。
このとき、メインシェル11が収縮することによる主荷重319Aは、環状突起314に働く。また、荷重319Bは、小径端部315に働く。しかし、荷重319Bは、主荷重319Aよりも微小荷重である。
ここで、第1内壁面部111は、傾斜して変形する。それにより、環状突起314は、傾斜して変形する。主荷重319Aは、環状突起314の接触範囲sに対し、環状突起314の中点(s/2)位置から一端側Uへs/6までの駆動軸6での軸方向範囲内に働く。そのため、第1円形台板311の重心位置311Gの位置がこの範囲内に合えば、第1円形台板311および第1渦巻体312に大きな曲げモーメントが働かない。その結果、固定スクロール31の変形が小さい。
なお、接触範囲sが十分小さければ、曲げモーメントが無視できる。接触範囲sが環状突起314の最外径R1の6%以下であれば、曲げモーメントが最大負荷運転時の荷重撓みレベルとなり、十分無視できる。
実施の形態5によれば、実施の形態1よりも、円周が溶接後のメインシェル11の収縮変形量のばらつきによる影響が残るものの、曲げモーメントの影響が十分小さくできる。それにより、実施の形態1に準ずる効果が得られる。
<実施の形態5の効果>
実施の形態5によれば、小径端部315は、半径方向外側に突出した小径突起315Aを有している。
この構成によれば、小径突起315Aを有する小径端部315が第1内壁面部111から受ける曲げモーメントは、環状突起314が第1内壁面部111に接触して受ける曲げモーメントより小さい、または、ゼロである。その結果、第1円形台板311と第1渦巻体312とを変形させる影響は、十分小さく無視できる。
なお、実施の形態5では、小径突起315Aは、メインシェル11の第1内壁面部111に接触していた。このため、小径突起315Aは、固定スクロール31の環状突起314が第1内壁面部111に接触して受ける曲げモーメントより小さい曲げモーメントを受けていた。しかし、これに限られない。小径突起315Aは、メインシェル11の第1内壁面部111に接触しなくても良い。
<その他>
たとえば、上記実施形態では、縦型スクロール圧縮機について説明した。しかし、駆動軸が水平方向に延出する横型スクロール圧縮機にも適用できる。その際、横型スクロール圧縮機においても、メインフレームを基準として、圧縮機構部が設けられる側を一端側、駆動機構部が設けられる側を他端側と方向付けて定義ができる。また、低圧シェル方式のスクロール圧縮機に限らない。本発明は、駆動機構部が配置されたメインシェル内の空間の圧力が冷媒取込空間の圧力よりも高くなる高圧シェル方式のスクロール圧縮機にも適用できる。
メインシェルは、円筒状に限らない。メインシェルは、たとえば、六角筒および五角筒といった多角筒などであっても良い。また、上記実施形態では、メインシェル内における固定スクロールの円形台板と、メインフレームのスラスト軸受と、の間の冷媒取込空間が従来よりも広げられる効果により、渦巻体などが従来設計のまま、揺動スクロールの円形台板およびスラストプレートの直径が大きくできる。この結果、揺動スクロールの円形台板とスラストプレートとの摺動面積が大きくなり、スラスト荷重が低減できた。しかし、これに限られない。
なお、揺動スクロールの第2渦巻体および第2円形台板が大きい場合には、重さが重くなることなどにより揺動スクロールの揺動運動による遠心力が大きくなる。そのため、バランスウエイトのウエイト部の体積および重量を大きくし、その遠心力を相殺する必要がある。これに対して、本発明では、メインフレームにおいてボルト止めするための壁が無く、メインフレームの設計自由度が高まる。このため、メインフレームの本体部の収容空間が大きく確保できる。収容空間が大きくなることにより、体積の大きなウエイト部を有するバランスウエイトが使用できる。そのため、揺動スクロールの遠心力が相殺され、揺動スクロールの第2渦巻体に作用する径方向の荷重が低減できる。よって、揺動スクロールの信頼性が向上できるとともに、揺動スクロールの第2渦巻体と固定スクロールの第1渦巻体との間の摺動損失が低減できる。
また、揺動スクロールのサイズはそのまま、シェル、すなわち、メインシェル若しくはアッパーシェルなどは、従来よりも小さい内径のものを使用しても良い。これにより、従来と比較して押しのけ量は同等のまま、小型のスクロール圧縮機が実現できる。
第1突出部および第1位置決め面は、固定スクロールを精度良く位置決めできるものであれば、様々な形状若しくは製法を採用可能である。たとえば、第1突出部は、固定スクロールを位置決めできれば良い。このため、第1突出部は、メインシェルの内壁面に形成された少なくとも2箇所以上の突起で構成されても良い。また、第1突出部は、メインシェルの外側から叩打することにより第1突出部を形成しても良い。また、第1位置決め面に凸部が形成され、固定スクロール凹部が形成され、凸部と凹部とが嵌合することにより、メインシェルに対する固定スクロールの回転が抑制されるようにしても良い。
また、スラストプレートおよび突壁部に形成される凸部または凹部は、スラストプレートに突壁部の方向に突出して一対の突部を形成するとともに、突壁に切欠きを形成する。そして、切欠きに一対の突部が配置されても良い。これにより、第1の実施の形態と同様に、スラストプレートの回転が抑止できる。
なお、スラストプレートは、必須ではない。メインフレームの平坦面は、揺動スクロールと摺動する構成でも良い。
メインシェルの内壁面に、駆動軸の中心軸に沿う方向に第1凸部または第1凹部と、メインフレームおよび固定スクロールにその第1凸部または第1凹部に係合する第2凹部または第2凸部を形成しても良い。これにより、固定スクロールの第1渦巻体と、揺動スクロールの第2渦巻体と、の位相が合わさる。このため、揺動スクロールに対して固定スクロールを回転させて位相を調整する工程は、省略できる。
実施の形態6.
<冷凍サイクル装置200>
図22は、本発明の実施の形態6に係るスクロール圧縮機100を適用した冷凍サイクル装置200を示す冷媒回路図である。
図22に示すように、冷凍サイクル装置200は、スクロール圧縮機100、凝縮器201、膨張弁202および蒸発器203を備えている。これらスクロール圧縮機100、凝縮器201、膨張弁202および蒸発器203が冷媒配管で接続されて冷凍サイクル回路を形成している。そして、蒸発器203から流出した冷媒は、スクロール圧縮機100に吸入されて高温高圧となる。高温高圧となった冷媒は、凝縮器201において凝縮されて液体になる。液体となった冷媒は、膨張弁202で減圧膨張されて低温低圧の気液二相となり、気液二相の冷媒が蒸発器203において熱交換される。
実施の形態1〜5のスクロール圧縮機100は、このような冷凍サイクル装置200に適用できる。なお、冷凍サイクル装置200としては、たとえば空気調和装置、冷凍装置および給湯器などが挙げられる。
<実施の形態6の効果>
冷凍サイクル装置200は、上記の実施の形態1〜5に記載のスクロール圧縮機100を備える。
この構成によれば、スクロール圧縮機100を備える冷凍サイクル装置200は、固定スクロール31がシェル1内に位置精度良く配置でき、固定スクロール31の第1渦巻体312と揺動スクロール32の第2渦巻体322との歯先同士が適切な位置関係になるように構成される。