本発明のリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何れかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
(正極)
本発明のリチウムイオン二次電池における正極は、リチウムニッケル複合酸化物と、リチウム金属リン酸化合物とを正極活物質層に含む。
このうちリチウムニッケル複合酸化物は、既述したようにニッケルを含有するものであり、一般式:LiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦2、0<b、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表される。
また、リチウム金属リン酸化合物は、オリビン構造のLiMhPO4(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)が炭素で被覆されたものである。当該LiMhPO4は上記したオリビン構造の正極活物質を包含する一般式である。
本発明のリチウムイオン二次電池における正極において、リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率はリチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率よりも大きい。なお体積抵抗率は、電気抵抗率、抵抗率、比抵抗とも呼ばれる。電気抵抗率ρは、電気抵抗をR、導体の長さをL、導体の断面積をAとすると、ρ=(RA)/Lで表される。電気抵抗率ρの単位はΩ・cmである。
以下、必要に応じて、リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率に対するリチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率の比率、つまり、リチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率をリチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率で除した値をLP/LO体積抵抗比と呼ぶ。LP/LO体積抵抗比が1未満であれば、リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率がリチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率よりも大きいと言える。
ところで、集電体を通じて正極活物質層に電流が流れるとき、電流はリチウムニッケル複合酸化物とリチウム金属リン酸化合物との双方に流れる。したがって、リチウムニッケル複合酸化物とリチウム金属リン酸化合物とを含む混合電極は、リチウムニッケル複合酸化物とリチウム金属リン酸化合物との並列回路で表わすことができる。
上記したように、リチウム金属リン酸化合物はリチウムニッケル複合酸化物に比べて熱安定性に優れる。したがって、熱安定性に優れるリチウム金属リン酸化合物に流れる電流量をリチウムニッケル複合酸化物に流れる電流量よりも大きくできれば、リチウムイオン二次電池全体の熱安定性が高まると考えられる。
ここで、電流は低抵抗回路に多く流れる。並列回路では電流量は体積抵抗率に反比例する。したがって、リチウム金属リン酸化合物としてリチウムニッケル複合酸化物よりも体積抵抗率の小さなものを用いれば、熱安定に優れるリチウム金属リン酸化合物にリチウムニッケル複合酸化物よりも多くの電流を流し得ると考えられる。こうすることで、例えば導電性の異物によってリチウムイオン二次電池の正負極間が短絡する等の事態が生じた場合にも、リチウムニッケル複合酸化物に過大な電流が流れることを防止でき、ひいてはリチウムイオン二次電池の熱安定性を向上させ得ると考えられる。
つまり、本発明のリチウムイオン二次電池によると、正極にリチウムニッケル複合酸化物とリチウム金属リン酸化合物とを併用し、かつ、リチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率をリチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率よりも小さくしたことでリチウムイオン二次電池全体の熱安定性が向上すると考えられる。
本発明のリチウムイオン二次電池においては、上記したLP/LO体積抵抗比は1未満であれば良い。しかし、上述した仮定に基づけば、当該LP/LO体積抵抗比が小さい程、熱安定性が向上すると考えられる。このことを考慮すると、本発明のリチウムイオン二次電池において、LP/LO体積抵抗比は、0.8以下であるのが好ましく、0.6以下であるのがより好ましく、0.4以下であるのが更に好ましく、0.20以下であるのがなお好ましい。更には、LP/LO体積抵抗比は0.18以下であるのが好ましく、0.16以下であるのがより好ましく、0.14以下であるのが更に好ましく、0.13以下であるのがなお好ましい。LP/LO体積抵抗比の下限値は特になく0を超えれば良い。更に言えばLP/LO体積抵抗比は0.1以上であるのが好ましい。
LP/LO体積抵抗比を上記範囲内とする方法として、公知の方法を用いることができる。例えば、リチウムニッケル複合酸化物の種類の選択、リチウム金属リン酸化合物の種類の選択、リチウム金属リン酸化合物の炭素の被覆状態及び被覆量の調整等によって、上記LP/LO体積抵抗比を調整できる。例えば、特開2014−194879号には、炭素の被覆量が増加すると、リチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率が低下することが示されている。
なお、リチウム金属リン酸化合物として、様々な体積抵抗率のものがあることは公知である。例えば、特開2014−179176号公報の段落0043及び段落0057(表1)、特開2014−029863号公報の段落0187、特開2012−204079号公報の段落0057等には、体積抵抗率の多様なリチウム金属リン酸化合物が具体的に開示されている。
既述したように、本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムニッケル複合酸化物と、リチウム金属リン酸化合物とを正極活物質層に含む正極を具備する。
正極活物質層に含まれるリチウムニッケル複合酸化物としては、一般式:LiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦2、0<b、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるものが使用される。
高容量である点から、このうち、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦1.7、0<b、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)で表される化合物が好ましい。
上記b、c及びdの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、0<b<1、0<c<1、0<d<1であるものが良く、また、b、c、dの少なくともいずれか一つが10/100<b<90/100、10/100<c<90/100、10/100<d<90/100の範囲であることが好ましく、20/100<b<80/100、10/100<c<70/100、10/100<d<70/100の範囲であることがより好ましく、30/100<b<70/100、12/100<c<50/100、12/100<d<50/100の範囲であることがさらに好ましく、40/100<b<70/100、15/100<c<35/100、15/100<d<35/100の範囲であることが特に好ましい。最も好ましいのは、45/100<b<55/100、25/100<c<35/100、15/100<d<25/100の範囲である。
a、e、fについては一般式で規定する範囲内の数値であればよく、aは、0.5≦a≦1.5の範囲内が好ましく、0.7≦a≦1.3の範囲内がより好ましく、0.9≦a≦1.2の範囲内がさらに好ましい。e、fについては、e=0、f=2を例示することができる。
層状岩塩構造のリチウムニッケル複合酸化物の具体例としては、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.5Co0.3Mn0.2O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi0.75Co0.1Mn0.15O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.82Co0.15Al0.03O2、及びLiNiO2が挙げられる。
リチウムニッケル複合酸化物の形状は特に制限されるものではないが、平均粒子径でいうと、100μm以下が好ましく、0.1μm以上50μm以下がより好ましく、1μm以上10μm以下が最も好ましい。0.1μm未満では、電極を製造した際に集電体との密着性が損なわれやすいなどの不具合を生じることがある。100μmを超えると電極の大きさに影響を与えたり、二次電池を構成するセパレータを損傷したりするなどの不具合を生じることがある。なお、本明細書における平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で計測した場合のD50の値を意味する。
リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率は、併用するリチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率よりも大きければ良い。但し、体積抵抗率の過大なリチウムニッケル複合酸化物は、リチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率とのバランス上、好ましくない場合がある。したがって、リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率にもまた好適な範囲があると考えられる。具体的には、リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率は、3000Ω・cm以下であるのが好ましく、2000Ω・cm以下であるのがより好ましく、1000Ω・cm以下であるのが更に好ましく、500Ω・m以下であるのがなお好ましい。なおリチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率の下限は特に限定しないが、強いて言えば当該下限として10Ω・cm以上を例示できる。
リチウム金属リン酸化合物は、オリビン構造のLiMhPO4(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)の少なくとも一部が炭素で被覆されたものである。本明細書において、当該オリビン構造のLiMhPO4を、LMPと呼ぶ場合がある。LMPの少なくとも一部が炭素被覆されたものが、リチウム金属リン酸化合物である。
上記LiMhPO4のMは、Mn、Fe、Co、Ni、Mg、V、Teから選ばれる少なくとも1の元素であり、かつ、0.6<h<1.1であるのが好ましい。また、当該Mは、Mn及び/又はFeであり、h=1であるのがより好ましい。LMPとしては、例えば、LiFePO4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4、LiVPO4、LiTePO4、LiV2/3PO4、LiFe2/3PO4、LiMn7/8Fe1/8PO4が挙げられる。この中、LiFePO4が熱安定性の点から好ましい。その理由は以下のように推測される。LiFePO4は放電時に比較的平坦な放電曲線を示す。そうすると、仮に、リチウムイオン二次電池の正極と負極が短絡して急激な放電が生じたとしても、LiFePO4の存在箇所では放電に伴う急激な電位差が生じにくい。そのため、電極内の他の箇所からの電荷移動を誘起しにくく、過電流の発生を抑制することができる。その結果、二次電池の発熱を好適に抑制することができる。
炭素被覆されたLMP、つまり、リチウム金属リン酸化合物としては、体積抵抗率の小さいものを用いるのが好ましい。具体的にはリチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率は600Ω・cm以下であるのが好ましく、500Ω・cm以下であるのがより好ましく、200Ω・cm以下であるのが更に好ましく、100Ω・m以下であるのがなお好ましい。なおLMPの体積抵抗率の下限は特に限定しないが、強いて言えば当該下限として1Ω・cm以上を例示できる。
リチウム金属リン酸化合物は、正極において、一次粒子のままで存在していてもよく、また一次粒子が凝集して二次粒子として存在していてもよい。
LMP及びリチウム金属リン酸化合物の形状は特に制限されないが、平均粒子径でいうと、100μm以下が好ましく、0.01μm以上10μm以下がより好ましく、1μm以上10μm下が最も好ましい。また、LMP及びリチウム金属リン酸化合物の平均粒子径は、リチウムニッケル複合酸化物の平均粒子径よりも小さいほうが好ましい。
LMPは、上記のように少なくとも一部において炭素で被覆されている。炭素は、LMPの表面の一部を被覆していればよく、全表面を被覆していてもよく、また一部が粒子内部に進入していてもよい。
LMPを炭素で被覆してリチウム金属リン酸化合物を得る方法としては、従来の炭素被覆方法を用いることができる。従来の種々の炭素被覆方法の中から適切な方法を適宜選択して用いることで、任意な体積抵抗率のリチウム金属リン酸化合物を得ることができる。例えば、特開2014−194879号公報、特開2012−204079号公報、特開2014−179176号公報、特開2014−029863号公報、国際公開2013/018758号公報、特開2012−216473号公報、渡辺春夫著「リチウムイオン二次電池」第278〜第280頁には様々な炭素被覆方法が開示されている。
正極活物質層におけるリチウムニッケル複合酸化物とリチウム金属リン酸化合物との質量和を100質量%としたときの、リチウム金属リン酸化合物の量は、百分率で、15質量%以上であるのが好ましく、17質量%を超えるのがより好ましく、20質量%以上であるのが更に好ましく、25質量%以上であるのがなお好ましい。また、当該リチウム金属リン酸化合物の百分率は35質量%以下であるのが好ましく、30質量%以下であるのがより好ましく、27質量%以下であるのが更に好ましい。なお、上記したリチウム金属リン酸化合物の好ましい量は、質量比として表しても良い。具体的には、リチウム金属リン酸化合物の質量比は、0.15以上であるのが好ましく、0.17を超えるのがより好ましく、0.2以上であるのが更に好ましく、0.25以上であるのがなお好ましい。また、リチウム金属リン酸化合物の質量比は0.35以下であるのが好ましく、0.30以下であるのがより好ましく、0.27以下であるのが更に好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池における正極は、集電体と、集電体の表面に形成されている正極活物質層とを有する。正極活物質層は、上記のリチウムニッケル複合酸化物とリチウム金属リン酸化合物とからなる正極活物質を含む。
正極活物質層全体を100質量%としたとき、上記のリチウムニッケル複合酸化物とリチウム金属リン酸化合物とからなる正極活物質の量は、百分率で、50〜99質量%の範囲内が好ましく、60〜98質量%の範囲内がより好ましく、70〜97質量%の範囲内が特に好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池において、正極活物質層は、上記の正極活物質の他に、更に、以下の添加剤を含むことがある。
添加剤としては、導電助剤、結着剤、分散剤などを挙げることができる。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。正極に導電助剤が添加されていると、リチウムニッケル複合酸化物とリチウム金属リン酸化合物との双方に電流が流れやすくなる。このため、従来のリチウムイオン二次電池においては、仮に短絡が生じた場合には、熱安定性に優れるとは言えないリチウムニッケル複合酸化物にも、過電流が流れる可能性がある。
しかしながら、かかる場合にも、本発明のリチウムイオン二次電池ではリチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率がリチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率よりも低いため、短絡時の過電流が熱安定性のよいリチウム金属リン酸化合物に流れ、リチウムニッケル複合酸化物への過電流の供給は抑制されると考えられる。実際に、本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムニッケル複合酸化物を含有しかつ導電助剤が含まれていても、熱安定性に優れる。
導電助剤は化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、及び各種金属粒子等が例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック等が例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて正極活物質層に添加することができる。
導電助剤の形状は特に制限されないが、その役割からみて、導電助剤の平均粒子径は小さいほうが好ましい。導電助剤の好ましい平均粒子径として10μm以下が例示され、より好ましい平均粒子径として0.01〜1μmの範囲が例示される。
導電助剤の配合量は特に限定されないが、あえて正極活物質層における導電助剤の配合量を挙げると、0.5〜10質量%の範囲内がよく、1〜7質量%の範囲内が好ましく、2〜5質量%の範囲内が特に好ましい。
結着剤は、正極活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基が例示される。親水基を有するポリマーの具体例として、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸、ポリ(p−スチレンスルホン酸)を挙げることができる。
結着剤の配合量は特に限定されないが、あえて正極活物質層における結着剤の配合量を挙げると、0.5〜10質量%の範囲内が好ましく、1〜7質量%の範囲内がより好ましく、2〜5質量%の範囲内が特に好ましい。結着剤の配合量が少なすぎると正極活物質層の成形性が低下するおそれがある。また、結着剤の配合量が多すぎると、正極活物質層における正極活物質の量が相対的に減少するため、好ましくない。
導電助剤及び結着剤以外の分散剤などの添加剤は、公知のものを採用することができる。
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。
正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。
具体的には、正極用集電体として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系が挙げられる。
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)が挙げられる。
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
集電体の表面に正極活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に正極活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を混合してスラリーにしてから、当該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
(リチウムイオン二次電池用正極の製造方法)
上記のリチウムイオン二次電池用正極を製造する方法は、上記したLP/LO体積抵抗比が所定値以下であることを確認する確認工程を有するのが良い。基本的に、本発明のリチウムイオン二次電池においてLP/LO体積抵抗比は1未満であればよいが、上記したように、0.20以下、0.15以下、0.10以下、0.05以下、及び0.035以下に代表される任意の値を、上記の所定値として採用し得る。さらに、0を超える任意の下限値と上記の任意の上限値とを組み合わせてLP/LO体積抵抗比の範囲を設定し、確認工程においてはLP/LO体積抵抗比が当該範囲内にあることを確認しても良い。
確認工程を実施する際には、リチウムニッケル複合酸化物およびリチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率を測定する。体積抵抗率の測定は、例えば、後述する実施例に記載した方法で行うことができる。
上記確認工程において、LP/LO体積抵抗比が所定値以下でない場合には、当該所定値以下となるように、リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率と、リチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率を調整する。或いは、LP/LO体積抵抗比が当該所定値以下となるように、リチウムニッケル複合酸化物及びリチウム金属リン酸化合物の選択をやり直す。
(リチウムイオン二次電池)
本発明のリチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、正極、セパレータ、負極及び電解液を含む。正極に関しては既述した。
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。本発明のリチウムイオン二次電池では、セパレータとして、少なくとも一表面がポリエチレンで構成されているものを用いる。本発明のリチウムイオン二次電池において、セパレータのうち正極側の表面はポリエチレンで構成されている。以下、セパレータの一対の表面のうち正極側の表面を正極面と呼び、負極側の表面を負極面と呼ぶ。セパレータは、正極面の一部のみがポリエチレンからなるものであっても良いし、正極面の全体がポリエチレンからなるものであっても良い。また、正極面及び負極面がポリエチレンからなるものであっても良いし、セパレータの全体がポリエチレンからなるものであっても良い。
更に、セパレータには、ポリエチレンに加えてセラミックス等の無機フィラーを配合しても良い。また、セパレータは、ポリエチレンを含有する層のみからなる単層構造であっても良いし、ポリエチレンを含有する層と他の層との複層構造であっても良い。
当該他の層の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を挙げることができる。
本明細書におけるポリエチレンとは、エチレンの単独重合体、及び、エチレンと少量の他のモノマー成分との共重合体を含む概念である。当該少量の他成分とは、JIS K 6922−1:1997の附属書(つまり、JIS K 6748−1995)に基づき、5mol%以下となる量のα−オレフィン単量体、及び、官能基に炭素、酸素、及び水素原子のみを有し1mol%以下となる量の非オレフィン単量体を指す。
ポリエチレンの分子量や密度等は特に限定しない。また、ポリエチレンは直鎖状であっても良いし、分岐していても良い。
上記したように、本発明のリチウムイオン二次電池におけるセパレータは、正極面がポリエチレンで構成されたものである。このようなセパレータを上記の正極と併用することで、リチウムイオン二次電池に優れた熱安定性が付与される。その理由は定かではないが、後述する実施例で説明するように、正極面がポリプロピレンで構成されたセパレータを用いたリチウムイオン二次電池に比べて、本発明のリチウムイオン二次電池は圧倒的に優れた熱安定性を発揮した。
負極は、集電体と、集電体の表面に形成された負極活物質層を有する。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。集電体及び導電助剤は、正極で説明したものを採用すればよい。
負極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物、あるいは高分子材料などを例示することができる。
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が例示できる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。高分子材料としては、具体的にポリアセチレン、ポリピロールを例示できる。
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが例示でき、特に、Si又はSnが好ましい。
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、具体的にZnLiAl、AlSb、SiB4、SiB6、Mg2Si、Mg2Sn、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si3N4、Si2N2O、SiOv(0<v≦2)、SnOw(0<w≦2)、SnSiO3、LiSiOあるいはLiSnOを例示でき、特に、SiOx(0.3≦x≦1.6)が好ましい。また、リチウムと合金化反応可能な元素を有する化合物として、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)などの錫化合物を例示できる。
上記のSiOv(0<v≦2)からなる珪素酸化物は、二酸化珪素(SiO2)と単体珪素(Si)とを原料として得られる非晶質の珪素酸化物であるSiOを、熱処理等により不均化することにより得られる。不均化反応は、SiOがSi相とSiO2相とに分解する反応である。一般に、酸素を断った状態であれば800℃以上で、ほぼすべてのSiOが不均化して二相に分離すると言われている。具体的には、非結晶性のSiOに対して、真空中または不活性ガス中などの不活性雰囲気中で800〜1200℃で1〜5時間の熱処理をすることで、非結晶性のSiO2相および結晶性のSi相の二相を含む珪素酸化物が得られる。
この珪素酸化物の平均粒子径は、4μm以上であることが好ましい。平均粒子径とは、メジアン径であり、レーザー回析法による体積基準の粒度分布に基づいて得ることができる。珪素酸化物の平均粒子径は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることが好ましい。平均粒子径が小さすぎると、活性点が多いため、SEI(Solid Electrolyte Interphase)の生成が多くサイクル特性が低下する場合がある。一方、平均粒子径が大きすぎると、珪素酸化物は導電率が悪いため、電極全体の導電性が不均一になり、抵抗の上昇や、出力の低下が起こる場合がある。
また、負極活物質として、国際公開第2014/080608号には、シリコン材料が掲載されている。当該シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有するものである。シリコン材料は、例えば、CaSi2と酸とを反応させてポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成する工程、さらに、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させる工程を経て製造されるものである。
シリコン材料の製造方法を、酸として塩化水素を用いた場合の理想的な反応式で示すと以下のとおりとなる。
3CaSi2+6HCl → Si6H6+3CaCl2
Si6H6 → 6Si+3H2↑
ただし、ポリシランであるSi6H6を合成する上段の反応では、副生物や不純物除去の観点から、通常、反応溶媒として水が用いられる。そして、Si6H6は水と反応し得るため、上段の反応を含む層状シリコン化合物を合成する工程において、層状シリコン化合物がSi6H6のみを含むものとして製造されることはほとんどなく、層状シリコン化合物はSi6Hs(OH)tXu(Xは酸のアニオン由来の元素若しくは基、s+t+u=6、0<s<6、0<t<6、0<u<6)で表されるものとして製造される。なお、上記の化学式においては、残存し得るCaなどの不可避不純物については、考慮していない。そして、当該層状シリコン化合物を加熱して得られるシリコン材料も、酸素や酸のアニオン由来の元素を含む。
既述のとおり、シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有する。リチウムイオン等の電荷担体が効率的に吸蔵及び放出されるためには、板状シリコン体は厚さが10nm〜100nmの範囲内のものが好ましく、20nm〜50nmの範囲内のものがより好ましい。板状シリコン体の長手方向の長さは、0.1μm〜50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長手方向の長さ)/(厚さ)が2〜1000の範囲内であるのが好ましい。板状シリコン体の積層構造は走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。また、この積層構造は、原料のCaSi2におけるSi層の名残りであると考えられる。
シリコン材料には、アモルファスシリコン及び/又はシリコン結晶子が含まれるのが好ましい。特に、上記板状シリコン体において、アモルファスシリコンをマトリックスとし、シリコン結晶子が当該マトリックス中に点在している状態が好ましい。シリコン結晶子のサイズは、0.5nm〜300nmの範囲内が好ましく、1nm〜100nmの範囲内がより好ましく、1nm〜50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm〜10nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶子のサイズは、シリコン材料に対してX線回折測定を行い、得られたX線回折チャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
シリコン材料に含まれる板状シリコン体、アモルファスシリコン及びシリコン結晶子の存在量や大きさは、主に加熱温度や加熱時間に左右される。加熱温度は、350℃〜950℃の範囲内が好ましく、400℃〜900℃の範囲内がより好ましい。
珪素酸化物やシリコン材料等の珪素を含有するSi含有負極活物質は炭素で被覆されていてもよい。炭素で被覆されたシリコン材料は導電性に優れる。
負極用の結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、スチレンブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーを結着剤として具備する本発明のリチウムイオン二次電池は、より好適に容量を維持できる。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基などリン酸系の基などが例示される。中でも、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸などの分子中にカルボキシル基を含むポリマー、又は、ポリ(p−スチレンスルホン酸)などのスルホ基を含むポリマーが好ましい。
ポリアクリル酸、あるいはアクリル酸とビニルスルホン酸との共重合体など、カルボキシル基及び/又はスルホ基を多く含むポリマーは水溶性となる。親水基を有するポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、化学構造でいうと、一分子中に複数のカルボキシル基及び/又はスルホ基を含むポリマーが好ましい。
分子中にカルボキシル基を含むポリマーは、例えば、酸モノマーを重合する方法や、ポリマーにカルボキシル基を付与する方法などで製造することができる。酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸など分子中に一つのカルボキシル基をもつ酸モノマー、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2−ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ酸モノマーなどが例示される。
上記の酸モノマーから選ばれる二種以上の酸モノマーを重合してなる共重合ポリマーを結着剤として用いてもよい。
また、例えば特開2013―065493号公報に記載されたような、アクリル酸とイタコン酸との共重合体のカルボキシル基どうしが縮合して形成された酸無水物基を分子中に含んでいるポリマーを結着剤として用いることも好ましい。一分子中にカルボキシル基を二つ以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造が結着剤にあることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンなどを結着剤がトラップし易くなると考えられている。さらに、当該ポリマーは、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてモノマーあたりのカルボキシル基が多いため、酸性度が高まるものの、所定量のカルボキシル基が酸無水物基に変化しているため、酸性度が高まりすぎることもない。そのため、当該ポリマーを結着剤として用いた負極をもつ二次電池は、初期効率が向上し、入出力特性が向上する。
また、国際公開第2016/063882号に開示されるポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーを、ジアミンで架橋した架橋ポリマーを結着剤として用いてもよい。
架橋ポリマーに用いられるジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の含飽和炭素環ジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、ベンジジン、o−トリジン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
また、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーと、ポリアミドイミドとの混合物又は反応物を結着剤として用いてもよい。
ポリアミドイミドとは、分子内にアミド結合とイミド結合をそれぞれ2つ以上有する化合物を意味する。ポリアミドイミドは、アミド結合及びイミド結合におけるカルボニル部分となる酸成分と、アミド結合及びイミド結合における窒素部分となるジアミン成分又はジイソシアネート成分を反応させることで製造される。ポリアミドイミドを得るには、当該方法で製造しても良いし、また、市販のポリアミドイミドを購入しても良い。
ポリアミドイミドの製造に用いられる酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビス(カルボキシフェニル)スルホン、ビス(カルボキシフェニル)エーテル、ナフタレンジカルボン酸、及び、これらの無水物、酸ハロゲン化物、誘導体を挙げることができる。酸成分としては、上記の化合物を単独で又は複数で採用すればよいが、ただし、イミド結合を形成させる点から、カルボキシル基が結合している炭素の隣接炭素にカルボキシル基が存在する酸成分又はその同等物が、必須となる。酸成分としては、反応性、耐熱性などの点から、トリメリット酸無水物が好ましい。また、ポリアミドイミドの引っ張り強度、引っ張り弾性率、電解液耐性の点から、トリメリット酸無水物に加えて、酸成分の一部として、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ビフェニルテトラカルボン酸無水物を採用するのが好ましい。
ポリアミドイミドの製造に用いられるジアミン成分としては、上述した架橋ポリマーに用いられるジアミンを採用すればよい。耐熱性、溶解性の観点から、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,4−トリレンジアミン、o−トリジン、ナフタレンジアミン、イソホロンジアミンが好ましい。ポリアミドイミドの引っ張り強度、引っ張り弾性率の点からはo−トリジン、ナフタレンジアミンが好ましい。
ポリアミドイミドの製造に用いられるジイソシアネート成分としては、上記ジアミン成分のアミンをイソシアネートで置き換えたものを挙げることができる。
負極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:結着剤=1:0.005〜1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
電解液は、非水溶媒とこの非水溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。電解液には、これらの非水溶媒を単独で用いてもよいし、又は、複数を併用してもよい。
電解質としては、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2等のリチウム塩を例示できる。
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3などのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
リチウムイオン二次電池を製造するために、例えば、正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
リチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。リチウムイオン二次電池は、大きな充放電容量を維持し、かつ優れたサイクル性能を有するため、これを搭載した車両は、高性能の車両となる。
車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
以上、本発明のリチウムイオン二次電池を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
(正極活物質)
正極活物質として、リチウムニッケル複合酸化物およびリチウム金属リン酸化合物を用いた。
リチウムニッケル複合酸化物として、NCM532、NCM523、NCM622の3種類を準備した。NCM532は平均粒子径5μmのLiNi0.5Co0.3Mn0.2O2であり、NCM523は平均粒子径5μmのLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2であり、NCM622は平均粒子径5μmのLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2である。
リチウム金属リン酸化合物として、炭素で表面を被覆したLiFePO4を4種類準備した。各リチウム金属リン酸化合物は公知の方法で製造されたものであり、当該4種類のリチウム金属リン酸化合物の平均粒子径は0.8〜4μmであった。4種類のリチウム金属リン酸化合物を、順に、LFP−1、LFP−2、LFP−3、LFP−4とした。4種類のリチウム金属リン酸化合物の炭素被覆量は1〜3.5質量%であった。このうちLFP−1の炭素被覆量は2質量%であり、LFP−3の炭素被覆量は1.6質量%であった。
上記のNCM532、NCM523、NCM622、LFP−1〜LFP−4の各正極活物質の体積抵抗率を測定した。詳しくは、各正極活物質2gを直径2cmの円筒管に入れ、荷重20kNで各成分を圧縮し、三菱化学アナリテック製抵抗測定装置(商品名 MCP−PD51)にて体積抵抗率を求めた。測定結果を各正極活物質の平均粒子径とともに表1に示す。
(実施例1)
(正極)
実施例1では、リチウムニッケル複合酸化物としてNCM523を、リチウム金属リン酸化合物としてLFP−1を用いた。
70質量部のNCM523と30質量部のLFP−1との混合物を94質量部、導電助剤として平均粒子径0.05〜0.1μmのアセチレンブラックを3質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを3質量部、溶剤として適量のN−メチル−2−ピロリドンをそれぞれ量り取り、遊星式攪拌脱泡装置を用いてこれらを混合して、スラリーを製造した。正極用集電体として厚さ20μmのアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥してN−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、アルミニウム箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を乾燥機で加熱乾燥し、40mm×80mmの矩形状に裁断し、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔からなる正極を製造した。
(負極)
アルゴン雰囲気下、10℃とした濃度36重量%のHCl水溶液に、CaSi2を加えて撹拌した。反応液を濾過し、残渣を蒸留水及びエタノールで洗浄し、さらに減圧乾燥してポリシランを含む層状シリコン化合物を分離した。層状シリコン化合物を、アルゴンガス雰囲気下、900℃で1時間加熱して、シリコン材料を得た。当該シリコン材料の粉砕物を炭素被覆して、以下の負極活物質として用いた。
負極活物質としてシリコン材料を70質量部、負極活物質として天然黒鉛を15質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、結着剤としてポリアミドイミドを10質量部、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として厚さ20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥してN−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を乾燥機で加熱乾燥しその後所定形状に裁断して、負極活物質層が形成された銅箔からなる負極を製造した。
セパレータとして、ポリエチレン製かつ単層構造の多孔質膜を準備した。このセパレータは50×90mmの矩形状かつ厚さ25μmであった。上記の正極および負極で当該セパレータを挟持して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としては、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比3:3:4で混合した溶媒にLiPF6を1モル/Lとなるよう溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉された実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
実施例1のリチウムイオン二次電池において、セパレータの正極面はポリエチレンで構成され、LP/LO体積抵抗比は0.003であった。
(実施例2)
73質量部のNCM532及び27質量部のLFP−1の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例2のリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例2のリチウムイオン二次電池において、セパレータの正極面はポリエチレンで構成され、LP/LO体積抵抗比は0.033であった。
(実施例3)
73質量部のNCM532及び27質量部のLFP−3の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例3のリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例3のリチウムイオン二次電池において、セパレータの正極面はポリエチレンで構成され、LP/LO体積抵抗比は0.123であった。
(実施例4)
75質量部のNCM532及び25質量部のLFP−1の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例4のリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例4のリチウムイオン二次電池において、セパレータの正極面はポリエチレンで構成され、LP/LO体積抵抗比は0.033であった。
(実施例5)
75質量部のNCM622及び25質量部のLFP−1の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例5のリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例5のリチウムイオン二次電池において、セパレータの正極面はポリエチレンで構成され、LP/LO体積抵抗比は0.070であった。
(実施例6)
80質量部のNCM532及び20質量部のLFP−1の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例6のリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例6のリチウムイオン二次電池において、セパレータの正極面はポリエチレンで構成され、LP/LO体積抵抗比は0.033であった。
(実施例7)
83質量部のNCM532及び17質量部のLFP−2の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例7のリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例7のリチウムイオン二次電池において、セパレータの正極面はポリエチレンで構成され、LP/LO体積抵抗比は0.095であった。
(比較例1)
77質量部のNCM532及び23質量部のLFP−4の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
比較例1のリチウムイオン二次電池において、セパレータの正極面はポリエチレンで構成され、LP/LO体積抵抗比は2.130であった。
(比較例2)
セパレータとしてポリプロピレン層を2層のポリエチレン層で挟んだ3層構造のポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、比較例2のリチウムイオン二次電池を製造した。
比較例2のリチウムイオン二次電池においては、セパレータの正極面及び負極面はポリプロピレンで構成され、LP/LO体積抵抗比は0.033であった。
(釘刺し試験)
実施例1〜7及び比較例1、2のリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で強制短絡試験としての釘刺し試験を行った。
リチウムイオン二次電池に対し、4.5Vの電位で安定するまで定電圧充電を行った。充電後のリチウムイオン二次電池(放電容量は4Ah程度と見込まれる。)を、径20mmの孔を有する拘束板上に配置した。上部に釘が取り付けられたプレス機に拘束板を配置した。釘が拘束板上の電池を貫通して、釘の先端部が拘束板の孔内部に位置するまで、釘を上部から下部に20mm/sec.の速度で移動させた。釘貫通後の電池の表面温度を経時的に測定した。測定された表面温度のうち、最高温度を表2に示す。なお、使用した釘の形状は径8mm、先端角度60°であり、釘の材質はJIS G 4051で規定するS45Cであった。
表2に示すように、(1)正極面がポリエチレンで構成されているセパレータを用い、かつ、(2)LP/LO体積抵抗比が1未満である実施例1〜実施例7のリチウムイオン二次電池は釘刺し試験時のセルの表面温度が500℃に至らず、上記の条件(1)、(2)の何れかを欠く比較例1及び比較例2のリチウムイオン二次電池に比べて熱安定性に優れると言える。
また、実施例1〜実施例7のリチウムイオン二次電池が比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて熱安定性に優れていることから、LP/LO体積抵抗比、つまり、リチウムニッケル複合酸化物の体積抵抗率に対するリチウム金属リン酸化合物の体積抵抗率が1未満であれば、リチウムイオン二次電池により優れた熱安定性を付与できると言える。
また、実施例のリチウムイオン二次電池のなかでも、実施例1〜実施例6のリチウムイオン二次電池は実施例7のリチウムイオン二次電池に比べて熱安定性に優れることから、リチウムニッケル複合酸化物及びリチウム金属リン酸化合物の質量和に対するリチウム金属リン酸化合物の質量比が0.17を超えると、熱安定性がより向上すると言える。この結果から更に、当該リチウム金属リン酸化合物の質量比は0.18以上であるのが好ましく、0.19以上であるのがより好ましいことが導出される。
更に、実施例1〜実施例6のリチウムイオン二次電池のなかでも、実施例2〜実施例6のリチウムイオン二次電池が実施例1のリチウムイオン二次電池に比べて熱安定性に優れることから、本発明のリチウムイオン二次電池に用いられるリチウムニッケル複合酸化物としてはNCM532及びNCM622がより好適であると言える。
(保存試験)
実施例4のリチウムイオン二次電池及び比較例2のリチウムイオン二次電池を各々3.9Vまで0.8Cレートで充電後、5時間定電圧充電した。その後、各リチウムイオン二次電池を充電装置から取り外し、60℃の恒温槽に静置して、6日間保持した。その後、各リチウムイオン二次電池を分解してセパレータを取り出した。
比較例2のリチウムイオン二次電池のセパレータには変化が認められなかった。これに対し、実施例4のリチウムイオン二次電池のセパレータには、正極面に黒色の部分が認められた。当該正極面の黒色の部分は、上記の釘刺し試験時にも同様に正極面に形成されていると推測される。表2に示すように、実施例4のリチウムイオン二次電池は比較例2のリチウムイオン二次電池に比べて、熱安定性に著しく優れる。実施例4のリチウムイオン二次電池と比較例2のリチウムイオン二次電池とはセパレータだけが相違することから、セパレータに生じた黒色部が熱安定性に関与すると推測される。