以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
本発明の熱電変換装置1の一形態の模式一部切欠斜視図を図1に示す。熱電変換装置1は、絶縁ベース層10と、熱電モジュール層20と、絶縁中間層30と、熱拡散層40と、放熱層50とが、この順に重なって積層されているものである。熱電モジュール層20の中央部に、熱電変換チップ21が配置されている。
隣接したこれらの層同士、すなわち絶縁ベース層10及び熱電モジュール層20、熱電モジュール層20及び絶縁中間層30、絶縁中間層30及び熱拡散層40、並びに熱拡散層40及び放熱層50の一対は、夫々化学結合を介して、接合されている。この接合は、例えば接着剤や粘着剤のように分子間力や物理的なアンカー効果によって接合するものと異なって、化学結合である共有結合によって層同士が接合しているので極めて強固であり、熱電変換装置1に加えられた押圧や曲げや捻りによって、層間で剥離しない。しかも熱電変換チップ21によって生じた熱は、接着剤や粘着剤を介さずに層間移動するので、層間移動の際に熱損失を生じない。そのためこの熱電変換装置1は、高い熱電変換効率を有している。
熱電モジュール層20は、熱電変換チップ21と、熱電変換チップ21の側面を取り囲んでいる断熱ゴム22とを有している。熱電変換チップ21と断熱ゴム22とは、同一の厚さを有している。
図2に、熱電変換装置1の模式断面図を示す。断熱ゴム22は、ゴム成分22aとこのゴム成分22a中に均一に分散した中空フィラー22bとを含んでいる。
ゴム成分22aは、シリコーンゴムであることが好ましい。シリコーンゴムは、−40℃〜200℃のような広い温度範囲で高い柔軟性と、耐屈曲疲労性とを有している。そのため、機器等の曲面に沿うように、熱電変換装置1を曲げて取り付けることができるとともにヒートショックによる膨張を防ぐことができる。シリコーンゴムの数平均分子量は、1万〜100万であることが好ましい。中空フィラー22bは、球形をなしており、塩化ビニリデン系樹脂やアクリル系樹脂のような柔軟でガスバリア性を有する熱可塑性樹脂製の殻を有している。この殻の内空に少量の熱膨張性液状炭化水素が封入されている。
中空フィラー22bを構成している殻の内空の体積の大部分は、空気で占められている。それにより断熱ゴム22に空気による空隙が形成されているので、断熱ゴム22は、空気に匹敵する高い断熱性を有している。それにより、熱電変換チップ21の発熱端23で生じた熱は、断熱ゴム22に拡散せず、絶縁中間層30及び熱拡散層40を伝わり、最表層である放熱層50に、効率的に伝導するので、この熱電変換装置1は、高効率で熱電変換することができる。
このような中空フィラー22bとして、熱膨張性マイクロカプセルが好ましく、具体的に例えば、マツモトマイクロスフェアー(登録商標)F、FN、F−E、F−DE、及びMFL(松本油脂製薬株式会社製、商品名);クレハマイクロスフェアー(株式会社クレハ製、商品名);Expancel(日本フェライト株式会社製、登録商標);ADVANCELL(登録商標)EM、HB、及びNS(積水化学工業株式会社製、商品名)が挙げられる。
また、熱電変換チップ21と断熱ゴム22とが同一の厚さを有していることにより、絶電モジュール層20は、すべての面で凹凸の無い直方体をなしている。また熱電モジュール層20は熱電変換チップ21の周囲に空洞を有していない。それにより放熱層50が押圧されても、この熱電変換装置1の上表面は、従来の熱電変換装置のように凹凸状に変形しない。そのため、熱電変換チップ21の縁に押圧力が集中せずに分散されるので、表層に配置された放熱層50が剥がれたり、熱電変換チップの縁が潰れたりしない。これに加え、自動車のステアリングホイールのリング部に取り付けても、使用者の触感を損なわない。
しかも、中空フィラー22bは殻を有しているので、中空フィラー22b同士が合体せずに互いに独立している。すなわち断熱ゴム22中の空隙は連結しておらず、ゴム成分22a中に均一に分散しているので、空隙間の距離は、断熱ゴム22内で略均等である。それによってゴム成分22aも断熱ゴム22内で、均一に存在できるので、熱電変換装置1が曲げられたり押圧されたりした際、ゴム成分22a内で応力分散を生じ、衝撃を吸収する。しかも断熱ゴム22の空隙は、柔軟な殻を有する中空フィラー22bによって形成されているので、単に多数の空隙を有する多孔質ゴムと異なり、ゴム成分22aに由来する弾性のみならず、中空フィラー22bの殻に由来する柔軟性をも有している。その結果、ゴム成分22aと中空フィラー22bとの接合と相俟って、断熱ゴム22は、繰返しの発熱・冷却の条件下、押圧や曲げや捻りのような外力によっても亀裂や断裂を生じない。さらに断熱ゴム22中の空隙は中空フィラー22bによって形成されているので、空隙の存在による外界からの水の浸入が防止されている。このように、断熱ゴム22は高い強度と防水性とを有するとともに、熱電変換チップ21を取り囲んでいることによってこれを支持し、破損や浸水を防止しているだけでなく、熱電変換装置1に強度と耐屈曲疲労性とを付与している。
中空フィラー22bの外表面に、シランカップリング剤を含むシランカップリング膜が付されていてもよい。それによれば、シリコーンゴム製のゴム成分22aと中空フィラー22bとを、シランカップリング剤を介した分子接着によって強固に接合させることができる。また、中空フィラー22bは、平均粒径や、材質や、膨張率が相違する複数種を含んでいてもよい。
ゴム成分22aと中空フィラー22bとを強固に接合している分子接着とは、シランカップリング剤のような分子接着剤の分子中の官能基が被着体であるゴム成分22aのシリコーンゴムと共有結合による化学反応することによって、ゴム成分22aと中空フィラー22bとを、単分子乃至多分子の分子接着剤分子による共有結合を介して結合するものである。分子接着剤は、二つの官能基を有しており、ゴム成分22aと中空フィラー22bとに夫々化学反応して共有結合を形成するものであり、このような両官能性の分子の総称である。
分子接着剤として、具体的に、
トリエトキシシリルプロピルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(TES)、アミノエチルアミノプロピル トリメトキシシランのようなアミノ基含有化合物;
トリエトキシシリルプロピルアミノ基のようなトリアルコキシシリルアルキルアミノ基とメルカプト基又はアジド基とを有するトリアジン化合物、下記化学式(1)
(化学式(1)中、Wは、スペーサ基、例えば置換基を有していてもよいアルキレン基、アミノアルキレン基であってもよく、直接結合であってもよい。Yは、OH基又は加水分解や脱離によりOH基を生成する反応性官能基、例えばトリアルコキシアルキル基である。−Zは、−N
3又は−NR
1R
2である(但し、R
1,R
2は同一又は異なりH又はアルキル基、−R
3Si(R
4)
m(OR
5)
3−m[R
3,R
4はアルキル基、R
5はH又はアルキル基、mは0〜2]。なお、アルキレン基、アルコキシ、アルキル基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の炭化水素基である)で表わされるトリアジン化合物;
トリアルコキシシリルアルキル基を有するチオール化合物;
トリアルキルオキシシリルアルキル基を有するエポキシ化合物;
CH
2=CH-Si(OCH
3)
2-O-[Si(OCH
3)
2-O-]
n-Si(OCH
3)
2-CH=CH
2 (n=1.8〜5.7)で例示されるビニルアルコキシシロキサンポリマーのようなシランカップリング剤
が挙げられる。
シランカップリング剤として、ビニルアルコキシシロキサンポリマーのようなシランカップリング剤;アルコキシ基を有するアミノ基含有のシランカップリング剤が挙げられる。このようなシランカップリング剤として、具体的に、ビニルトリエトキシシラン(KBE-1003)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-602)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-603)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE-603)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-903)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE-903)、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン(KBE-9103)、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-573)、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(KBM-575)で例示されるアミノ基含有アルコキシシリル化合物(以上、信越シリコーン株式会社製;製品名)が挙げられ、また3-アミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6610)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6611)、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6094)、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6883)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N’-[(エテニルフェニル)メチル-1,2-エタンジアミン・塩酸塩(Z-6032)で例示されるアミノ基含有アルコキシシリル化合物(以上、東レ・ダウコーニング株式会社製;製品名)を好適に用いることができる。
ゴム成分22aのシリコーンゴムとして、三次元化シリコーンゴムであることが好ましく、具体的に、付加架橋型シリコーンゴム、パーオキサイド架橋型シリコーンゴム、及び縮合架橋型シリコーンゴムが挙げられる。また非シリコーンゴムを用いてもよく、シリコーンゴムと非シリコーンゴムとの共ブレンド物を用いてもよい。三次元化シリコーンゴムは、これらのゴム原料組成物を、成形金型に入れて架橋させたものである。
ゴム成分22aの付加架橋型シリコーンゴムとして、Pt触媒存在下で合成したビニルメチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー(分子量:50万〜90万)、ビニル末端ポリジメチルシロキサン(分子量:1万〜20万)、ビニル末端ジフェニルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー(分子量:1万〜10万)、ビニル末端ジエチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー(分子量:1万〜5万)、ビニル末端トリフロロプロピルメチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー(分子量:1万〜10万)、ビニル末端ポリフェニルメチルシロキサン(分子量:0.1万〜1万)、ビニルメチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサン/ジフェニルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサン/ジトリフロロプロピルメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ポリビニルメチルシロキサンなどのビニル基含有ポリシロキサンと、H末端ポリシロキサン(分子量:0.05万〜10万)、メチルHシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、ポリメチルHシロキサン、ポリエチルHシロキサン、H末端ポリフェニル(ジメチルHシロキシ)シロキサン、メチルHシロキサン/フェニルメチルシロキサンコポリマー、メチルHシロキサン/オクチルメチルシロキサンコポリマーのようなH基含有ポリシロキサンの組成物、
アミノプロピル末端ポリジメチルシロキサン、アミノプロピルメチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、アミノエチルアミノイソブチルメチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、アミノエチルアミノプロピルメトキシシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、ジメチルアミノ末端ポリジメチルシロキサンのようなアミノ基含有ポリシロキサンと、エポキシプロピル末端ポリジメチルシロキサン、(エポキシシクロヘキシルエチル)メチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマーのようなエポキシ基含有ポリシロキサン、琥珀酸無水物末端ポリジメチルシロキサンのような酸無水物基含有ポリシロキサン及びトルイルジイソシアナート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアナートなどのイソシアナート基含有化合物との組成物から得られるものが挙げられる。
ゴム成分22aのパーオキサイド架橋型シリコーンゴムは、パーオキサイド系架橋剤で架橋できるシリコーン原料化合物を用いて合成されたものであれば特に限定されない。具体的に、ポリジメチルシロキサン(分子量:50万〜90万)、ビニルメチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー(分子量:50万〜90万)、ビニル末端ポリジメチルシロキサン(分子量:1万〜20万)、ビニル末端ジフェニルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー(分子量:1万〜10万)、ビニル末端ジエチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー(分子量:1万〜5万)、ビニル末端トリフロロプロピルメチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー(分子量:1万〜10万)、ビニル末端ポリフェニルメチルシロキサン(分子量:0.1万〜1万)、ビニルメチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサン/ジフェニルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサン/ジトリフロロプロピルメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン基末端ポリビニルメチルシロキサン、メタアクリロキシプロピル基末端ポリジメチルシロキサン、アクリロキシプロピル基末端ポリジメチルシロキサン、(メタアクリロキシプロピル)メチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマー、(アクリロキシプロピル)メチルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマーが挙げられる。
架橋に用いられるパーオキサイド系架橋剤として、例えばケトンパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類、パーカーボネート類が挙げられ、より具体的には、ケトンパーオキサイド、ペルオキシケタール、ヒドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ペルオキシカルボナート、ペルオキシエステル、過酸化ベンゾイル、ジクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジt−ブチルヒドロパーオキサイド、ジ(ジシクロベンゾイル)パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン、ベンゾフェノン、ミヒラアーケトン、ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、ベンゾインエチルエーテルが挙げられる。
パーオキサイド系架橋剤の量は、得られるシリコーンゴムの種類や、要求される断熱ゴム22の機能や特性に応じて適宜選択されるが、シリコーンゴム100質量部に対し、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.1〜2質量部であることが好ましい。この範囲よりも少ないと、架橋度が低すぎてシリコーンゴムとして使用できない。一方、この範囲よりも多いと、架橋度が高すぎてシリコーンゴムの弾性が低減してしまう。
ゴム成分22aの縮合架橋型シリコーンゴムとして、スズ系触媒又は亜鉛系触媒の存在下で合成されたシラノール末端ポリジメチルシロキサン(分子量:0.05万〜20万)、シラノール末端ポリジフェニルシロキサン、シラノール末端ポリトリフロロメチルシロキサン、シラノール末端ジフェニルシロキサン/ジメチルシロキサンコポリマーのようなシラノール基末端ポリシロキサンからなる単独縮合成分の組成物;これらのシラノール基末端ポリシロキサンと、テトラアセトキシシラン、トリアセトキシメチルシラン、ジt−ブトキシジアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエノキシメチルシラン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、テトラ−n−プロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトキシイミノ)シラン、ビニルトリイソプロペノイキシシラン、トリアセトキシメチルシラン、トリ(エチルメチル)オキシムメチルシラン、ビス(N−メチルベンゾアミド)エトキシメチルシラン、トリス(シクロヘキシルアミノ)メチルシラン、トリアセトアミドメチルシラン、トリジメチルアミノメチルシランのような架橋剤との組成物;これらのシラノール基末端ポリシロキサンと、クロル末端ポリジメチルシロキサン、ジアセトキシメチル末端ポリジメチルシロキサン、末端ポリシロキサンのような末端ブロックポリシロキサンの組成物から得られるものが挙げられる。
ゴム成分22aの非シリコーンゴムとして、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、1,2−ポリブタジエン、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、及びウレタン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらは単独で用いられても複数混合して用いられてもよい。
熱電変換チップ21は、n型半導体素子21a1とp型半導体素子21a2とからなる熱電変換素子対21aと、両半導体素子21a1,21a2をそれらの上端と下端とで挟んで電気的に接続している第1電極21b及び第2電極21cと、両電極21b,21cに夫々重なって接合している絶縁シート21d,21eとを有している。n型半導体素子21a1とp型半導体素子21a2とは、互いに間隔を開けつつ、それらの上端で第1電極21bに半田付けによって接続している。一方、熱電変換素子対21aのうちn型半導体素子21a1と、隣り合う別な熱電変換素子対21aのp型半導体素子21a2とが、互いに間隔を開けつつ、それらの下端で第2電極21cに半田付けによって接続している。これらの接続の繰り返しによって複数の熱電変換素子対21aが、直列にパターン化されて並べられている。
熱電変換素子対21aと両電極21b,21cとは、絶縁シート21d,21eによって支持されている。このように、n型半導体素子21a1とp型半導体素子21a2とが、互いに間隔を有しつつ並べられ、絶縁シート21d,21eに支持されているという所謂スケルトン構造を有していることにより、熱電変換チップ21は可撓性を有している。熱電変換チップ21に電圧が印加されることによって、熱電変換素子対21aの上端側である発熱端23で熱が生じ、下端側である吸熱端24は冷却する。このとき発熱端23で生じ、絶縁中間層30に伝達した熱は、高い断熱性を有する断熱ゴム22に阻まれて吸熱端24側へ向かって移動しないので、吸熱端24にこの熱が伝達されることによって生じる発熱・吸熱効率の低下や熱電変換素子対21aの破損が防止されている。なお、熱電変換チップ21内の熱電変換素子対21aの数は、熱電変換装置1の大きさ、形状、及び出力に応じて適宜増減でき、1個であっても複数であってもよい。
熱電変換素子対21aの両半導体素子21a1,21a2の材料として、Bi−Sb−Te−Seのようなビスマステルル系熱電変換材料;Mn−Si及びMg−Siのようなシリサイド系熱電変換材料;Si−GeのようなSi−Ge系熱電変換材料;NaCo2O4、(Ca,Sr,Bi)2Co2O5、(ZnO)5(In−Y)2O3、及び(Zn−Al)Oのような酸化物系熱電変換材料;PbTeのような鉛テルル系熱電変換材料;GeTe−AgSbTe2のようなTAGS系熱電変換材料;Ce−Fe−Co−Sb、及びYb−Co−ptPb−Sbのようなスクッテルダイト系熱電変換材料が挙げられる。
熱電モジュール層20の厚さは、0.1〜5.0mmであることが好ましく、1.0〜2.0mmであることがより好ましい。この厚さは、熱電変換チップ21の厚さに応じて適宜設定される。なお熱電モジュール層20は、複数の熱電変換チップ21を有していてもよい。
熱電モジュール層20をそれの厚さ方向に挟んでいる絶縁ベース層10及び絶縁中間層30は、熱伝導性と電気絶縁性とを有する伝熱性絶縁シートによって形成されている。それによって、熱電モジュール層20の熱電変換チップ21で生じた発熱や吸熱による熱移動を高効率で生じさせることができるとともに、両電極21b,21cの短絡やそれらからの漏電が防止されている。
絶縁ベース層10及び絶縁中間層30を形成している伝熱性絶縁シートは、マトリックスと、これに分散している伝熱性フィラーとを有する伝熱性絶縁組成物で形成されている。絶縁ベース層10と絶縁中間層30との伝熱性絶縁シートは、同種であっても、異種であってもよい。伝熱性絶縁シートの熱伝導率は、1W/m・K以上であることが好ましく、具体的に1〜5W/m・Kであることが好ましい。伝熱性絶縁シートの熱伝導率が1W/m・K未満であると、十分な熱伝導性を有する絶縁ベース層10及び絶縁中間層30が得られず、熱電変換装置1の発熱・吸熱効率が劣化する。なお、熱伝導率は30℃における値である。
また絶縁ベース層10及び絶縁中間層30の厚さは、0.01〜10mmであることが好ましく、0.05〜2mmであることがより好ましい。絶縁ベース層10及び絶縁中間層30の厚さは、この範囲であれば互いに同一であっても異なっていてもよい。この厚さが0.01mm未満であると、強度が十分でないため熱電変換装置1の製造時の取扱性に劣る。一方、厚さが10mmを超えると、熱電変換装置1の可撓性が損なわれ、さらに熱伝導性に乏しくなってしまう。
絶縁ベース層10及び絶縁中間層30の伝熱性絶縁組成物のマトリックスとして、ゴム成分22aと同一のシリコーンゴム、及び非シリコーンゴムが挙げられる。また、伝熱性フィラーとして、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、窒化珪素(Si3N4)、ダイヤモンド、カーボン、フラーレン、及びグラファイトが挙げられる。伝熱性フィラーは一種のみを用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。伝熱性フィラーの含有率は、伝熱性絶縁シート中、50〜95質量%であることが好ましく、65〜90質量%であることがより好ましい。
絶縁中間層30に積層している熱拡散層40は、絶縁ベース層10及び絶縁中間層30よりも高い熱伝導性を有している。そのため熱拡散層40は、熱電変換チップ21の発熱端23で生じ、絶縁中間層30に移動した熱を、水平方向へ効率的にかつ速やかに移動させ、放熱層50の全体に万遍なく拡散させることができる。それにより、放熱層50の表面は、偏りなく均一に温度上昇する。
熱拡散層40の材料として、例えば、アルミニウム(270W/m・K(30℃))、銅(400W/m・K(30℃))、グラファイト(130W/m・K(30℃、面方向))、及び高熱伝性ゴム・高熱伝性エラストマー(5〜10W/m・K(30℃))などが挙げられる。また、熱拡散層40の材料として、絶縁ベース層10及び絶縁中間層30の材料である伝熱性絶縁シートを用いてもよい。これらの材料は、一種のみを用いても、複数種を重ねたり並べたりして用いてもよい。熱拡散層40の厚さは、0.01〜0.5mmであることが好ましく、0.05〜0.3mmであることがより好ましい。熱拡散層40がアルミニウムや銅のような金属材料で形成されている場合、厚さがこの範囲であると、熱電変換装置1の可撓性を損なうことなく、金属材料の剛性によって各層10,20,30,50を支持し、熱電変換装置1の耐屈曲疲労性を向上させることができる。
熱拡散層40に積層している放熱層50は、熱拡散層40から移動した熱を被加熱体に移動させる。そのため放熱層50の材料は高い熱伝導性を有していることが好ましく、具体的に絶縁ベース層10及び絶縁中間層30の材料である伝熱性絶縁組成物が挙げられる。放熱層50は、機器や器具の表面で露出したり、機器等の使用者が直接触れたりするので、その材料は、加工し易く、機器等の意匠性や使用者の触感を損なわないものであることが好ましい。放熱層50の材料として伝熱性絶縁組成物の他、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリウレタンのような樹脂、織布、不織布、木材、並びに皮革が挙げられる。
熱電変換装置1は次のようにして製造される。
まず、断熱ゴム22のゴム成分22aとなるゴム原料組成物と、予め分子接着剤を塗布したりこれに浸漬したりすることによって外表面を分子接着剤で覆った中空フィラー22bとを混練する。加熱前の中空フィラー22bは、平均粒径5〜50μmの範囲でシャープな粒径分布を有しており、その外形はほぼ真球である。中空フィラー22bは、均一な粒径と外形とを有しているので、混練によってゴム原料組成物中に均一に拡散する。断熱ゴム22中、中空フィラー22bの含有率は、5〜60質量%であることが好ましく、15〜50質量%であることがより好ましく、20〜30質量%であることがより一層好ましい。中空フィラー22bの含有率が低過ぎると、充分な断熱性や柔軟性を有する断熱ゴム22が得られない。一方、中空フィラー22bの含有率が高過ぎると、断熱ゴム22の強度が低下し、亀裂や断裂を生じ易くなってしまう。
次いで、この混練物の所定量を、所定温度に保たれた金型に入れて所定時間加熱しながら、成型後の厚さが熱電変換チップ21と同一となるようにプレスする。それによりゴム原料組成物を架橋により硬化させる。このとき、柔軟な熱可塑性樹脂で形成されている中空フィラー22bの殻は、加熱によって軟化する。さらにそれの内空に封入された熱膨張性液状炭化水素が気体に変化して体積の増大を生じて、中空フィラー22bの内圧がそれの外圧を上回り、中空フィラー22bは、体積比で50〜100倍に、あたかも風船のように膨張する。中空フィラー22bは、それの殻がすべて同一厚さで形成されていることにより均一な膨張率を有し、しかも殻が真球をなしているので、気化した熱膨張性液状炭化水素の圧力が、殻全体に均一に掛かる。その結果、例えばゴム成分に含有された発泡剤の発泡によって形成される不揃いな形状及び径の気泡と異なり、均一な形状と径とを有する空隙を形成することができる。なお、加熱温度及び加熱時間等の条件は、付加反応の種類及び特性によって異なるが、0〜200℃で、1分間〜24時間加熱することが好ましい。
所定時間経過後に金型から硬化物を取り出し、冷却する。それにより、中空フィラー22bの熱膨張性液状炭化水素は液体に戻る一方で、それの殻は膨張時の大きさを維持している。このようにして均一な径を有し、均等に分散された空隙を有する断熱ゴム22を成型する。断熱ゴム22の所定位置を、レーザーカッターを用いて、熱電変換チップ21が嵌る大きさに切り抜く。そこへ熱電変換チップ21を嵌めて熱電モジュール層20を得る。
上記のゴム原料組成物に伝熱性フィラーを加えて混練し、断熱ゴム22の製造方法と同様にして、絶縁ベース層10、絶縁中間層30、及び放熱層50を成型する。
アルミニウムシートを各層10,20,30,50と同じ外形となるようにカッターで切り抜いて熱拡散層40を成形する。
絶縁ベース層10の一方の面、及び熱電モジュール層20の両面に、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理又はエキシマ処理のような表面活性処理を施して、それらの面にヒドロキシ基を反応性官能基として新たに生成、増幅、及び露出させる。反応性官能基であるヒドロキシ基は、絶縁ベース層10と熱電モジュール層20との接合面に元来露出しているヒドロキシ基とともに、これらの接合面で点在する。両層10,20の面同士を、向合せつつ治具(不図示)で固定して位置合わせし、重ね合わせて接触させる。それらを高温下で、プレスして圧着する。それにより、ヒドロキシ基同士が脱水により直接的なエーテル結合を形成し、両層10,20の面同士を化学的に結合させて、両層10,20を接合する。
両層10,20を接合する際、常圧下のまま共有結合させてもよいが、減圧下又は加圧下で共有結合させてもよい。両層10,20のヒドロキシ基のような反応活性基の接近は、減圧乃至真空条件下、例えば50torr以下、より具体的には50〜10torrの減圧条件、又は10torr未満、より具体的には、10torr未満〜1×10−3torr、好ましくは10torr未満〜1×10−2torrの真空条件下で、その接触界面の気体媒体を除去することによって、又はその接触界面に応力(荷重)、例えば10〜200kgfを加えることによって、さらに接触界面を加熱することによって、促進される。
両層10,20に施すコロナ放電処理として、例えば大気圧コロナ表面改質装置(信光電気計測株式会社製、製品名:コロナマスター)を用いて、例えば、電源:AC100V、出力電圧:0〜20kV、発振周波数:0〜40kHzで0.1〜60秒、温度0〜60℃の条件で行われる。このようなコロナ放電処理は、水、アルコール類、アセトン類、エステル類等で濡れている状態で、行われてもよい。
表面活性処理は、大気圧プラズマ処理であってもよい。この場合例えば、大気圧プラズマ発生装置(パナソニック株式会社製、製品名:Aiplasma)を用いて、例えば、プラズマ処理速度10〜100mm/s,電源:200又は220V AC(30A)、圧縮エア:0.5MPa(1NL/min)、10kHz/300W〜5GHz、電力:100W〜400W、照射時間:0.1〜60秒の条件で行われる。
表面活性処理は、紫外線照射処理(UV照射によりオゾンを生成させるような一般的なUV処理やエキシマUV処理)であってもよい。紫外線照射処理は、エキシマランプ光源(浜松ホトニクス株式会社製、製品名:L11751−01)を用いて、例えば、積算光量:50〜1500mJ/cm2で行われる。
なお表面活性処理を、両層10,20の接合すべき面の両方に施してもよく、一方にのみ施してもよい。
上記と同様にして、絶縁中間層30の両面に表面活性処理を施してから、絶縁ベース層10との間で熱電モジュール層20を挟むように、絶縁中間層30を重ねて圧着し、これを接合する。熱拡散層40及び放熱層50も同様にして接合し、熱電変換装置1を得る。
隣接する各層10,20,30,40,50同士の接合として、表面活性処理を施すことによる直接的な化学結合を示したが、この接合は、分子接着剤を介した間接的であってもよい。
この分子接着剤として、中空フィラー22bの外表面に付すシランカップリング剤と同一のものを用いることができる。この場合、各層10,20,30,40,50の接合すべき面に分子接着剤を噴霧又は塗布したり、これらの各層10,30,40,50及び断熱ゴム22を分子接着剤の溶液に浸漬したりすることにより、これを付すことができる。
この分子接着剤の別な例として、下記化学式(2)
(化学式(2)中、p及びqは0又は2〜200の数でrは0又は2〜100の数であってp+q+r>2である。-A
1,-A
2及び-A
3は、-CH
3、-C
2H
5、-CH=CH
2、-CH(CH
3)
2、-CH
2CH(CH
3)
2、-C(CH
3)
3、-C
6H
5又は-C
6H
12と、-OCH
3、-OC
2H
5、-OCH=CH
2、-OCH(CH
3)
2、-OCH
2CH(CH
3)
2、-OC(CH
3)
3、-OC
6H
5及び-OC
6H
12から選ばれヒドロキシ基と反応し得る反応性基との何れかである。-B
1及び-B
2は、-N(CH
3)COCH
3又は-N(C
2H
5)COCH
3と、-OCH
3、-OC
2H
5、-OCH=CH
2、-OCH(CH
3)
2、-OCH
2CH(CH
3)
2、-OC(CH
3)
3、-OC
6H
5、-OC
6H
12、-OCOCH
3、-OCOCH(C
2H
5)C
4H
9、-OCOC
6H
5、-ON=C(CH
3)
2及び-OC(CH
3)=CH
2から選ばれヒドロキシ基と反応し得る反応性基との何れかである。p,q及びrを正数とする-{O-Si(-A
1)(-B
1)}
p-と-{O-Ti(-A
2)(-B
2)}
q-と-{O-Al(-A
3)}
r-との繰返単位中の-A
1,-A
2,-A
3,-B
1及び-B
2の少なくとも何れかが前記反応性基であり、各層10,20,30,40,50の接合の際、表面のヒドロキシ基と反応するものである)で模式的に示される反応性基含有ポリシロキサン化合物が挙げられる。この化合物は、繰返単位が、ブロック共重合、又はランダム共重合したものであってもよい。
この場合、ヒドロキシ基と反応する反応性基含有ポリシロキサンの溶液に、各層10,30,40,50及び断熱ゴム22を浸漬することによってこれらに付すことができる。また、熱電変換チップ21の絶縁シート21d,21eの外表面にこの溶液を塗布又は噴霧する。その後熱処理することにより、各層10,20,30,40,50の表面のヒドロキシ基に、反応性基含有ポリシロキサンが結合し、単層の分子膜を形成する結果、接合すべき他方のヒドロキシ基との反応性基が増幅される。各層10,20,30,40,50の一方の表面上のヒドロキシ基が、反応性基含有ポリシロキサンに化学的結合する結果、各層10,20,30,40,50のヒドロキシ基が反応性基含有ポリシロキサンを介して間接的に結合して、各層10,20,30,40,50同士が接合される。熱電変換チップ21と断熱ゴム22とに同時に反応性基含有ポリシロキサン化合物を付す場合、浸漬処理に代えて、反応性基含有ポリシロキサン溶液の噴霧処理、引続く乾燥処理、及び必要に応じて加熱処理することが好ましい。この反応性基含有ポリシロキサン化合物を、シランカップリング膜として中空フィラー22bの外表面に付してもよい。
なお、熱電変換チップ21の発熱・吸熱による加熱・冷却効果を、絶縁ベース層10側に発現させることを要しない場合、絶縁ベース層10は断熱性の材料で形成されていてもよく、また絶縁ベース層10と熱電モジュール層20とが、接着剤又は粘着剤を介して接合していてもよい。
熱電変換チップ21と断熱ゴム22との厚さが異なる場合、絶縁シート21d,21eに、スペーサを重ねることによって熱電変換チップ21と断熱ゴム22との厚さを同一としてもよい。
熱電変換装置1は、例えば自動車のステアリングホイールのリング部内や、シートの座面に、放熱層50が外向きになるように実装することにより、ステアリングヒーターや温熱シートの加熱源として使用される。また、熱電変換装置1をヘルメットや防護服の内側に取り付けることによって、防寒服内を急速に温めることができるので、冷凍庫内のような寒所内で作業する使用者の身体的負担を軽減することができる。
熱電変換チップ21が、吸熱端24を放熱層50に向けて配置されていることにより、熱電変換装置1は放熱層50の表面で冷却現象を生じるものであってもよい。この場合、熱電変換装置1をステアリングホイールのリング部内、及びヘルメットや防護服の内側に取り付けることによって、夏場や熱所でのヘルメットや防護服内の温度上昇を防止し、熱さや暑さによる使用者の身体的負担を軽減できるとともに、やけどや熱中症を予防できる。
このように熱電変換装置1は、隣接する各層10,20,30,40,50同士が化学結合によって強固に接合しているので、曲げられても層間で剥離を生じず、また熱電変換チップ21をこれと同一厚の断熱ゴム22が取り囲んでいることにより断熱に空隙を要しないので、放熱層50に掛かる押圧力によって、放熱層50の表面で凹凸状に変形したり、熱電変換チップ21の破損を生じたりしない。そのため熱電変換装置1は、ステアリングホイールや防護服のような器具に好適に使用でき、これらの使用者の触感を損なわない。
熱電変換装置1は、加熱源又は冷却源として使用されるだけでなく、ゼーベック効果を利用して、電圧を発生させるのに使用されてもよい。この場合、発熱端23側の放熱層50を高温部材に接触させ、吸熱端24側の絶縁ベース層10を低温部材に接触させる。熱電変換チップ21は、高温部材と低温部材との温度差によって、電圧を生じる。
熱電変換装置1は、熱電モジュール層20と絶縁中間層30との間に回路層を有していてもよい。回路層は、熱電変換チップ21と、例えば熱電変換装置1の外部に設けた制御装置とを電気的に中継する配線を有している。回路層の配線の一部が、熱電変換チップ21の各電極21b,21cに、例えばハンダ付けによって導通可能に接合され、配線の別な一部が、制御装置に電気的に接続される。この場合、この制御装置から発生させる信号によって、所望のタイミングや温度に熱電変換装置1を動作させることができる。回路層は、銅のような導電体を、スクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、及びオフセット印刷のような印刷方法を用い、熱電モジュール層20と向き合う絶縁中間層30の面に配線を付すことによって形成できる。
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
(実施例1)
ゴム成分22aとしてジメチルシリコーンゴム(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、製品名:3320−20)の100質量部と、中空フィラー22aとして熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製薬株式会社製、製品名:マツモトマイクロスフェアーF−36−D(平均粒子径13μm)の20質量部、及び同F−36LVD(平均粒子径16μm)の20質量部)の40質量部と、硬化促進剤a(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、製品名:Cat.Ep)の0.1質量部とを混練りし、圧縮成形機で加圧加熱して硬化させ、硬化物をレーザーカッターによって切り出した。それにより50×50mmの正方形で2mm厚の断熱ゴム22を得た。断熱ゴム22の中央部を4×4mmの正方形に切り抜き、熱電変換チップ21を嵌める穴を開けた。断熱ゴム22の熱伝導率を、JIS R2616−2000に準拠し、熱伝導率計(京都電子株式会社製、製品名:QTM−500)によって測定したところ、0.44W/m・Kであった。
0.1mm厚のアルミニウムシートを、カッターによって50×50mmの正方形に切出し、熱拡散層40とした。
ジメチルシリコーンゴムに、伝熱性フィラーとしての酸化マグネシウム(MgO)及び酸化アルミニウム(Al2O3)を分散させ、熱伝導性ゴムからなる可撓性を有する厚さ0.5mmのシートを形成し、絶縁ベース層10、絶縁中間層30、放熱層50及び絶縁シート21d,21e用の組成物を得た。これを加圧加熱して硬化させ、硬化物をレーザーカッターによって切り出した。それにより50×50mmの正方形で0.5mm厚の絶縁ベース層10、絶縁中間層30、及び放熱層50を得た。同様にして4×4mmの正方形で0.5mm厚の絶縁シート21d,21eを得た。各層10,30,50、及び絶縁シート21d,21eの熱伝導率を、断熱ゴム22と同様にして測定したところ、3.0W/m・Kであった。
分子接着剤としてビニルトリエトキシシラン(信越シリコーン株式会社製、製品名:KBE−1003)のエタノール溶液を、複数の熱電変換素子対21aを挟んでいる絶縁シート21d,21eの外表面に塗布し、加熱してからエタノール洗浄した。それにより、絶縁シート21d,21eの外表面が修飾された熱電変換チップ21を得た。
表面修飾された熱電変換チップ21を断熱ゴム22の穴に嵌めて、熱電モジュール層20を作製した。各層10,20,30,40,50の接合すべき面に、コロナ放電処理を施し、ヒドロキシ基を生成させた。各層10,20,30,40,50を順番に重ねて、ヒドロキシ基生成面同士を当接させ、治具で挟んだ。このとき、熱電変換チップ21の吸熱端24が絶縁中間層30側に位置するように熱電モジュール層20を配置し、分子接着剤によって接合した。それにより図1及び2に示すような熱電変換装置1(縦×横×厚さ=50×50×2mm)を得た。
(比較例1)
熱電モジュール層に断熱ゴムを配置しなかったこと、並びに中間絶縁層30及び熱拡散層40を積層しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、絶縁ベース層と熱電変換チップと放熱層とを分子接着によって接合した。それにより、比較例1の熱電変換装置(縦×横×厚さ=50×50×2mm)を得た。
実施例1及び比較例1の熱電変換装置の構造を表1に示す。
(吸熱制御温度分布試験)
図3に示すように、実施例1の熱電変換装置1の放熱層50の表面である測定点A〜Cの位置に熱電対を取り付けた。各点の位置座標は、測定点A:x,y=25,25mm、測定点B:x,y=15,15mm、測定点C:x,y=5,5mmである。測定点Aは熱電変換チップの直上である。直流安定化電源を用いて、熱電変換チップ21に0.45Vの電圧を印加して、吸熱端24側を冷却した。データロガーを用いて各測定点の温度を記録した。実施例1と同様にして比較例1の温度分布試験を行った。図4は、実施例1及び比較例1の温度差ΔT(℃)の経時変化を示すグラフである。温度差ΔT(℃)は、各測定点の温度と室温との差であり、下記式(1)で表される。
ΔT(℃)=(各測定点の温度)−(室温) ・・・(1)
図4(a)は実施例1を、同図(b)は比較例1を夫々示しており、グラフの横軸は時間(分)を、縦軸は温度差ΔT(℃)を夫々示している。また、電圧印加開始から5分後の温度を表2に示す。
実施例1の熱電変換装置は、比較例1のものに比較して、各点間の温度差が小さく、均一な温度分布を示した。実施例1の熱電変換装置は、熱拡散層を有しているため、熱電変換効率と温度分布均一性とに優れている。
(実施例2)
熱電変換チップ21の発熱端23が絶縁中間層30側に位置するように熱電モジュール層20を作製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の熱電変換装置を作製した。
(比較例2)
比較例1の熱電変換装置を裏返して、熱電変換チップの発熱端側である絶縁ベース層の表面に熱電対を取り付け、比較例2の熱電変換装置とした。
実施例2及び比較例2の熱電変換装置の構造を表3に示す。
(発熱制御温度分布試験)
吸熱制御温度分布試験と同様に操作して実施例2の熱電変換チップに電圧を印加し、発熱端23側を発熱させて、各測定点における温度を測定し、式(1)に従って温度差ΔT(℃)を求めた。比較例2の熱電変換チップも実施例1と同様にして測定した。実施例2の結果を図5(a)に、比較例2の結果を同図(b)に夫々示す。また電圧印加開始から5分後の温度を表4に示す。
実施例2の熱電変換装置は、比較例2のものに比較して、各点間の温度差が小さく、均一な温度分布を示した。実施例2の熱電変換装置は、熱拡散層を有しているため、熱電変換効率と温度分布均一性とに優れている。一方、比較例1は、熱電変換チップの直上の測定点Aのみが局所的な温度上昇を示し、温度の均一な分布が見られなかった。
(比較例3)
表面修飾されていない熱電変換チップを有する熱電モジュール層を用いたこと、及び各層をアクリル系接着剤で接着したこと以外は、実施例1と同様にして、分子接着を適用しない比較例3の熱電変換装置を作製した(縦×横×厚さ=50×50×2mm)。
(比較例4)
実施例1で作製した熱電モジュール層に断熱ゴムを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、断熱ゴムに代えて空気が熱電変換チップ取り囲んでいる比較例4の熱電変換装置(縦×横×厚さ=50×50×2mm)を得た。
実施例1、並びに比較例3及び4の熱電変換装置の構造を表5に示す。
(吸熱制御温度変化試験)
印加電圧を0.6Vとしたこと以外は、吸熱制御温度分布試験と同様に操作して、実施例1、並びに比較例3及び4の熱電変換装置の放熱層を冷却し、各測定点A〜Cについて電圧印加開始から5分後の温度差ΔT(℃)を式(1)に従って求めた。結果を図6(a)に示す。同図(a)から分かるように、実施例1は、分子接着を非適用の比較例3に比べて温度が大きく低下していることから、分子接着によって熱の層間伝達損失を抑止し、熱電変換効率を向上できることが分かった。また、実施例1は、断熱ゴムを有しない比較例4よりも高い冷却を示していることから、断熱ゴムが空気と同等以上の断熱効果を有していることが分かった。
(比較例5)
表面修飾されていない熱電変換チップを有する熱電モジュール層を用いたこと、及び各層をアクリル系接着剤で接着したこと以外は、実施例2と同様にして、分子接着を適用しない比較例5の熱電変換装置を作製した(縦×横×厚さ=50×50×2mm)。
(比較例6)
実施例2で作製した熱電モジュール層に断熱ゴムを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、断熱ゴムに代えて空気が熱電変換チップ取り囲んでいる比較例6の熱電変換装置(縦×横×厚さ=50×50×2mm)を得た。
実施例2、並びに比較例5及び6の熱電変換装置の構造を表6に示す。
(発熱制御温度変化試験)
吸熱制御温度変化試験と同様に操作して、実施例2、並びに比較例5及び6の熱電変換装置の放熱層を発熱させ、各測定点A〜Cについて電圧印加開始から5分後の温度を測定し、式(1)に従って温度差ΔT(℃)を求めた。結果を図6(b)に示す。同図(b)によれば、実施例2と、分子接着を非適用の比較例5とに殆ど差が生じなかった。
分子接着の有無について吸熱制御温度変化試験で差を生じた一方、発熱制御温度変化試験で差を生じなかった。これは次の理由によるものと考えられる。まず、熱電変換装置において下記式(2)が成立する。
QH>QC ・・・(2)
ここで、QHは放熱層における発熱量であり、QCは放熱層における吸熱量である。QH及びQCは、少なくとも熱電変換素子対の内部抵抗による発熱量(Qr)、及び各層間の熱伝達抵抗による損失熱量(Qλ)を夫々含んでいる。Qrは、高温で大きい値を、低温で小さい値を夫々示すので、式(2)が常に成立する。一方、QλはQrよりも温度依存性が低く、一定と見ることができる。
吸熱制御温度変化試験においては、Qr<Qλが成立するため、QCにQrよりもQλが大きく寄与する、すなわち各層間の熱伝達抵抗による熱損失を低減している分子接着の有無によってQCに差が生じる。一方、発熱制御温度変化試験においては、Qr>Qλが成立するため、QHにQλよりもQrが大きく寄与する、すなわち熱電変換素子対の内部抵抗による発熱量が各層間の熱伝達抵抗による損失熱量を上回るため、分子接着の有無によってQHに差が生じ難い。
図6(b)から分かるように、断熱ゴムを有する実施例2は、これを有しない比較例6と同等の発熱を示していることから、断熱ゴムが空気と同等以上の断熱効果を有していることが分かった。