JP6709658B2 - 熱可塑性樹脂組成物およびそれを用いた成形品 - Google Patents

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Description

本発明は、カーボンブラックを含む熱可塑性樹脂組成物およびそれを用いた成形品に関する。
樹脂は、技術の発展に伴って、車両用部品、家電部品、各種工業用材料等、近年益々その適用分野を拡大しており、その成形外観に対する要求レベルも高まっている。
樹脂の接合に関する二次加工技術も、樹脂の適用分野の拡大に寄与する技術の一つである。樹脂の接合方法としては、例えばネジやボルト等による機械的接合、ホットメルト等の接着剤による接合、熱板溶着に代表される熱を与えて溶融させることによる熱板溶着、接合部を振動させることにより発生する摩擦熱を利用した振動溶着、接合部にレーザー光を照射しその部位の吸収発熱を利用したレーザー溶着等が挙げられる。加工工程の削減や軽量化、環境負荷の低減等の観点から、最近では熱板溶着、振動溶着、レーザー溶着が、その有用性を高めており、これらの方法で得られる樹脂接合体の溶着部の外観(溶着外観)の向上が課題となっている。
熱板溶着では、例えば、2つの樹脂部材それぞれの接合したい面(接着用部位)に、加熱した熱板を数秒間押し当てて、ともに溶融させた後、速やかに熱板から引き離し両者を接合する。熱板溶着は幅広く用いられている。しかし、熱板溶着においては、樹脂部材の接着用部位から熱板を引き離した際に、溶融した樹脂が糸状に引き延ばされる糸ひき現象が発生する場合がある。この糸ひきが顕著になると、得られる樹脂接合体が外観不良となる。
振動溶着では、例えば、2つの樹脂部材それぞれの接着用部位に、圧力および往復運動による振動を加え、その摩擦熱によって接着用部位の樹脂成分を溶融して、両者を接合する。振動溶着は、樹脂部材を加熱する必要がなく、樹脂部材どうしを極めて短時間で接合することができる優れた方法である。しかし、この振動溶着においては、溶融した樹脂が、接合部の外側に、糸状にはみ出す糸バリ現象が発生する場合がある。この糸バリが顕著になると、得られる樹脂接合体が外観不良となる。
レーザー溶着では、通常、レーザー光を透過する「透過材」とレーザー光を吸収する「吸収材」との2つの材料を接合する。例えば、吸収材および透過材を、それぞれの接着用部位を接触させて配置し、透過材側から材料接触界面に非接触でレーザー光を照射すると、照射されたレーザー光はそのまま透過材を透過して吸収材表面に到達し吸収される。吸収材表面で吸収された光エネルギーは熱に変換され接着用部位を溶融させる。また、その溶融熱は透過材に熱伝達され、透過材の接着用部位を溶融させる。その後、吸収材および透過材それぞれの溶融した接着用部位が冷却とともに固化、溶着される。このような工程を経て得られる樹脂接合体は、強度や気密性、外観(バリ発生が無い等)に優れる。また、レーザー溶着は、作業環境が良好である、接合しようとする樹脂部材に何らかの部品が内蔵されている場合に、内蔵部品へのダメージが少ない等の特長も有している。しかし、この方法においては、照射するレーザー光が強すぎると、樹脂の発熱量が増大するため、発泡や焦げ、変色等の外観不良が引き起こされる。一方、照射するレーザー光が弱すぎると、接合強度が低下し、場合によっては十分に溶着しないといった不具合が起こりうる。このため、レーザー溶着を行う場合、樹脂の発熱量を適切な範囲に制御することが非常に重要になる。
ところで、熱可塑性樹脂より得られる成形品は、顔料によって着色された状態(着色成形品)で利用されることが多い。製品意匠性の観点から、着色成形品の色調は非常に重要視される。車両用部品等においても色調の重要性は高いが、中でもそのデザインが市場で好まれることから、黒色に対する要求は年々高くなる傾向にある。
黒色の着色剤として代表的なカーボンブラックは、レーザー光の吸収性が高いため、発熱量を増大して樹脂を溶融させることにおいては効率がよい。
しかし、カーボンブラックの添加量が増え過ぎると、発熱量が過剰になるため、上述したように、レーザー光の照射時に発泡や焦げ、変色等の外観不良が引き起こされやすい。つまり、深い黒味を出すためにカーボンブラックの添加量を増やすと、逆にレーザー溶着後の外観は低下してしまう。よって、色調(特に黒味)とレーザー溶着後の外観を両立させることは非常に困難である。
特許文献1には、レーザーマーキング性、成形品外観(表面光沢)に優れた着色スチレン系樹脂成形体として、スチレン系樹脂および着色剤を含有し、成形体中に0.1〜10μmの二次粒子で存在する着色剤の個数が100〜20000個/mであるものが開示されている。
しかし、この文献では、成形品の色調(特に黒味)とレーザー溶着後の外観を両立させることに関する記述はない。特許文献1に開示される着色スチレン系樹脂成形体には、レーザー溶着材料として黒味とレーザー光の吸収のバランスおよび耐衝撃性の観点において技術的に問題がある。
特許文献2には、ランプハウジングと他の部材との接合において振動溶着時や熱板溶着時やレーザー溶着時に発生する不良現象を改善するために、ゴム強化共重合体樹脂(ゲル含有量が70%以上であるゴム質重合体の存在下に芳香族ビニル化合物およびシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られるもの)または該ゴム強化共重合体樹脂とビニル系単量体の(共)重合体との組成物からなるゴム強化樹脂と、マレイミド系単量体単位を含む共重合体および/またはα−メチルスチレンの(共)重合体と、を特定の割合で組み合わせたランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
しかし、この文献では、成形品の色調(特に黒味)とレーザー溶着後の外観を両立させることに関する記述はない。特許文献2に開示される組成物では、黒味に対する要求レベルを十分に満足させることができていない。
特開2000−309639号公報 特開2004−182835号公報
本発明は、色調、成形外観、耐候性、耐衝撃性および溶着外観に優れた成形品が得られる熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、色調、成形外観、耐候性、耐衝撃性および溶着外観に優れた成形品を提供することを他の目的とする。
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレート系重合体とが複合した複合ゴム状重合体にビニル系重合体がグラフトされたグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物に、特定の二次粒子径分布をもつカーボンブラックを配合することによって上記の課題を解消できることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、以下を要旨とする。
[1]熱可塑性樹脂(A)と、カーボンブラック(B)とを含有し、
前記熱可塑性樹脂(A)は、ポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレート系重合体とが複合した複合ゴム状重合体にビニル系重合体がグラフトされたグラフト共重合体(C)を含有し、
前記カーボンブラック(B)は、二次粒子の体積平均粒子径が200nm以上であり、二次粒子全体に対する粒子径800nm以上の二次粒子の割合が20体積%未満であり、
前記カーボンブラック(B)の含有量が、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して0.1〜3.0質量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
[2]前記カーボンブラック(B)の体積基準の粒子径分布において累積値が10%となる粒子径を10%累積粒子径(d10)、前記累積値が50%となる粒子径を50%累積粒子径(d50)、前記累積値が90%となる粒子径を90%累積粒子径(d90)としたときに、下式(1)で求められるMが下式(2)を満たす、[1]の熱可塑性樹脂組成物。
M=(d90−d10)/d50 ・・・(1)
1.5≦M≦2.5 ・・・(2)
[3]前記[1]または[2]の熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品。
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、色調、成形外観、耐候性、耐衝撃性および溶着外観に優れた成形品が得られる。
本発明の成形品は、色調、成形外観、耐候性、耐衝撃性および溶着外観に優れる。
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以下の説明において、「成形品」とは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものである。また、以下の説明において、特に断りがない限り、「色調が優れる」とは、成形品の黒味が深い(濃い)ことを意味する。「成形外観が優れる」とは、成形品の光輝性が高いことを意味する。「溶着外観が優れる」とは、成形品をレーザー溶着、振動溶着または熱板溶着により溶着した後、溶着部に外観不良がないことを意味する。外観不良とは、レーザー溶着の場合は、溶着部における焦げや変色、溶着不足を意味し、振動溶着の場合は、溶着部における糸バリを意味し、熱板溶着の場合は、溶着部の糸ひきを意味する。重合体における「単位」は、重合体を構成する構成単位(単量体単位)を示す。
「熱可塑性樹脂組成物」
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、カーボンブラック(B)とを含有する。
熱可塑性樹脂(A)は、グラフト共重合体(C)を含有する。グラフト共重合体(C)は、複合ゴム状重合体にビニル系重合体がグラフトされたものであり、前記複合ゴム状重合体は、ポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレート系重合体とが複合したものである。
熱可塑性樹脂(A)は、グラフト共重合体(C)以外の他の熱可塑性樹脂(D)をさらに含有することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果が著しく損なわれない範囲内で、熱可塑性樹脂(A)およびカーボンブラック(B)に加えて、その他の添加剤を含有してもよい。
<ポリオルガノシロキサン>
複合ゴム状重合体を構成するポリオルガノシロキサンとしては、特に制限されないが、ビニル重合性官能基を含有するポリオルガノシロキサン(ビニル重合性官能基含有ポリオルガノシロキサン)が好ましく、ビニル重合性官能基含有シロキサン単位と、ジメチルシロキサン単位とを有するポリオルガノシロキサンがより好ましい。
ビニル重合性官能基としては、例えばメタクリロイル基、アクリロイル基、ビニル基等が挙げられる。
ビニル重合性官能基含有シロキサンとしては、ビニル重合性官能基を含有し、かつジメチルシロキサンとシロキサン結合を介して結合し得るものであれば特に制限されないが、ジメチルシロキサンとの反応性を考慮すると、ビニル重合性官能基を含有するアルコキシシラン化合物が好ましい。具体的には、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、δ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクリロイルオキシシロキサン;テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン等のビニルシロキサン;等が挙げられる。
ポリオルガノシロキサンが有するビニル重合性官能基含有シロキサン単位は1種でもよいし2種以上でもよい。
ビニル重合性官能基含有シロキサン単位の含有量は、ポリオルガノシロキサンを構成する全単位の総モル数(100モル%)に対し、0.3〜3モル%が好ましい。ビニル重合性官能基含有シロキサン単位の含有量が上記範囲内であれば、ポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレート系重合体とが十分に複合化し、成形品の表面においてポリオルガノシロキサンがブリードアウトしにくくなる。よって、成形品の表面外観がより良好となり、成形品の耐衝撃性もより向上する。
ポリオルガノシロキサンは、3個以上のシロキサン結合を有するケイ素原子の含有量が、ポリオルガノシロキサン中の全ケイ素原子の総モル数に対し0〜1モル%であることが好ましい。3個以上のシロキサン結合を有するケイ素原子の含有量が1モル%以下であれば、成形品の表面外観がさらに良好となる。
ポリオルガノシロキサンの好ましい態様としては、ビニル重合性官能基含有シロキサン単位0.3〜3モル%と、ジメチルシロキサン単位99.7〜97モル%(ただし、ビニル重合性官能基含有シロキサン単位とジメチルシロキサン単位の合計を100モル%とする。)とからなり、3個以上のシロキサン結合を有するケイ素原子の含有量が全ケイ素原子に対し1モル%以下であるポリオルガノシロキサンが挙げられる。
ポリオルガノシロキサンは、典型的には粒状である。
ポリオルガノシロキサンの平均粒子径は特に制限されないが、成形品の表面外観がさらに良好となることから、400nm以下が好ましい。
ここで、ポリオルガノシロキサンの平均粒子径は、キャピラリー方式の粒度分布測定器を用いて質量基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布より算出される値(質量平均粒子径)である。
(ポリオルガノシロキサンの製造方法)
ポリオルガノシロキサンは、例えば、ビニル重合性官能基含有シロキサンとジメチルシロキサンオリゴマーとを含むシロキサン混合物を重合することで得られる。
ジメチルシロキサンオリゴマーとしては、3員環以上のジメチルシロキサン系環状体が好ましく、3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体がより好ましい。具体的には、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等が挙げられる。これらジメチルシロキサンオリゴマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
シロキサン混合物の重合の方法としては、特に制限されないが、乳化重合が好ましい。
乳化重合は、通常、乳化剤と水と酸触媒とを用いて行われる。
乳化剤としてはアニオン系乳化剤が好ましい。具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸系の乳化剤が好ましい。これら乳化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
乳化剤の使用量は、シロキサン混合物100質量部に対して0.05〜5質量部が好ましい。乳化剤の使用量が0.05質量部以上であれば、分散状態が安定しやすく、微小な粒子径の乳化状態を保持しやすくなる。一方、乳化剤の使用量が5質量部以下であれば、乳化剤に起因する成形品の着色を抑制できる。
酸触媒としては、スルホン酸類(例えば脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸等)等の有機酸触媒;鉱酸類(例えば硫酸、塩酸、硝酸等)等の無機酸触媒等が挙げられる。これら酸触媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、後述するシロキサンラテックスのラテックスの安定化作用にも優れている点で、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。また、n−ドデシルベンゼンスルホン酸と硫酸等の鉱酸とを併用すると、ポリオルガノシロキサンの製造に用いた乳化剤の色が成形品の色に与える影響を小さく抑えることができる。
酸触媒の添加量は適宜決めればよいが、通常、シロキサン混合物100質量部に対して0.1〜20質量部程度である。
酸触媒は、シロキサン混合物と乳化剤と水とを混合するタイミングでそれらと混合してもよいし、シロキサン混合物と乳化剤と水とを混合し乳化させてラテックス(シロキサンラテックス)とし、該シロキサンラテックスを微粒子化した後、該シロキサンラテックスと混合してもよい。得られるポリオルガノシロキサンの粒子径を制御しやすいことから、シロキサンラテックスを微粒子化した後に、該シロキサンラテックスと酸触媒とを混合することが好ましい。特に、微粒子化したシロキサンラテックスを酸触媒水溶液中に一定速度で滴下することが好ましい。
酸触媒を、シロキサン混合物と乳化剤と水とを混合するタイミングでそれらと混合する場合は、これらを混合した後に微粒子化することが好ましい。
シロキサンラテックスは、例えばホモミキサーやホモジナイザー等を使用することで微粒子化できる。ホモミキサーは、高速回転による剪断力で微粒子化を行う。ホモジナイザーは、高圧発生機による噴出力で微粒子化を行う。
シロキサン混合物と乳化剤と水と酸触媒とを混合する方法や、微粒子化したシロキサンラテックスと酸触媒とを混合する方法としては、例えば高速攪拌による混合、ホモジナイザー等の高圧乳化装置による混合等が挙げられる。中でも、ホモジナイザーを使用した方法は、ポリオルガノシロキサンの粒子径の分布を小さくできるので好適である。
重合温度は、50℃以上が好ましく、80℃以上が好ましい。
微粒子化したシロキサンラテックスを酸触媒水溶液中に滴下する場合、酸触媒水溶液の温度は50℃以上が好ましく、80℃以上が好ましい。
重合時間は、シロキサン混合物と乳化剤と水とを混合するタイミングで酸触媒を混合する場合は、2時間以上が好ましく、5時間以上がさらに好ましい。一方、微粒子化したシロキサンラテックスと酸触媒とを混合する場合は、微粒子化したシロキサンラテックスの全量を酸触媒水溶液中に滴下した後、1〜10時間程度保持することが好ましい。
重合の停止は、反応液を冷却した後、反応液の25℃におけるpHが6〜8程度になるように水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ性物質で反応液を中和することによって行うことができる。
ポリオルガノシロキサンの平均粒子径は、シロキサン混合物の組成、酸触媒の使用量(酸触媒水溶液中の酸触媒の含有量)、重合温度等を調整することで制御できる。例えば、酸触媒の使用量が少なくなるほど平均粒子径は大きくなる傾向にあり、重合温度が高くなるほど平均粒子径は小さくなる傾向にある。
<アルキル(メタ)アクリレート系重合体>
複合ゴム状重合体を構成するアルキル(メタ)アクリレート系重合体は、アルキル(メタ)アクリレート単量体単位を有する重合体である。アルキル(メタ)アクリレート系重合体は、アルキル(メタ)アクリレート単量体単位以外の他の単量体単位をさらに有していてもよい。
アルキル(メタ)アクリレート単量体としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−ラウリル等のメタクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。これらアルキル(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。アルキル(メタ)アクリレート単量体が有するアルキル基の炭素数は、1〜12が好ましく、1〜8がより好ましい。アルキル(メタ)アクリレート単量体としては、成形品の耐衝撃性がより向上する点で、アクリル酸n−ブチルが特に好ましい。
アルキル(メタ)アクリレート系重合体中、アルキル(メタ)アクリレート単量体単位の含有量は、アルキル(メタ)アクリレート系重合体を構成する全単位の総質量に対し、80〜100質量%が好ましく、90〜100質量%がより好ましい。
他の単量体としては、アルキル(メタ)アクリレート単量体と共重合可能であれば特に制限されず、例えば、芳香族ビニル化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等)、シアン化ビニル化合物(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、酸基含有単量体(例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等のカルボキシ基を有する不飽和化合物)等が挙げられる。これら他の単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
アルキル(メタ)アクリレート系重合体は、アルキル(メタ)アクリレート単量体を1種以上含む単量体成分を重合して得られる。
単量体成分の重合方法は特に制限されず、公知の方法に従って行うことができる。
<複合ゴム状重合体>
グラフト共重合体(C)を構成する複合ゴム状重合体は、ポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレート系重合体とが複合したものである。
複合ゴム状重合体におけるポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレート系重合体との比率は特に制限されないが、成形品の耐衝撃性と表面外観がより優れたものとなることから、ポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレート系重合体との合計を100質量%としたときに、ポリオルガノシロキサンの割合が2〜14質量%であることが好ましい。
複合ゴム状重合体のゲル含有量は、50〜99質量%であることが好ましく、60〜95質量%であることがより好ましく、70〜85質量%であることが特に好ましい。ゲル含有量がこの範囲内であれば、成形品の耐衝撃性がより良好となる。
複合ゴム状重合体のゲル含有量は、具体的には、以下の方法により測定される。
秤量した複合ゴム状重合体を、適当な溶剤に室温(23℃)で20時間かけて溶解させ、次いで遠心分離した後、上澄みをデカンテーションにより除去して、残存した不溶分を60℃で24時間乾燥した後秤量する。最初に秤量した複合ゴム状重合体に対する不溶分の割合(質量%)を求め、該割合を複合ゴム状重合体のゲル含有量とする。複合ゴム状重合体の溶解に用いる溶剤としては、例えば、トルエンやアセトンを用いることができる。
複合ゴム状重合体は、典型的には粒状である。
複合ゴム状重合体の平均粒子径は特に制限されないが、100〜1000nmが好ましく、150〜500nmであることがより好ましい。
複合ゴム状重合体の平均粒子径は、レーザー回析、散乱方式の粒度分布測定器を用いて体積基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布より算出することができる。
(複合ゴム状重合体の製造方法)
複合ゴム状重合体の製造方法としては、特に制限されないが、例えばポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレート系重合体を各々含む複数のラテックスをヘテロ凝集もしくは共肥大化する方法;ポリオルガノシロキサンおよびアルキル(メタ)アクリレート系重合体のいずれか一方を含むラテックスの存在下で、他方の重合体を形成する単量体成分を重合させて複合化させる方法等が挙げられる。
複合ゴム状重合体の製造方法としては、複合ゴム状重合体の体積平均粒子径を上述した範囲内となるように容易に調整できることから、ラテックス状のポリオルガノシロキサンの存在下で、アルキル(メタ)アクリレート単量体を1種以上含む単量体成分をラジカル重合させて重合体ラテックスを得る工程(ラジカル重合工程)と、前記重合体ラテックスと酸基含有共重合体ラテックスとを混合して前記重合体ラテックスを肥大化させる工程(肥大化工程)と、を有する方法が好ましい。この方法は、ラジカル重合工程の後、肥大化工程の前に、前記重合体ラテックスに縮合酸塩を添加する工程(縮合酸塩添加工程)をさらに有することが好ましい。
「ラジカル重合工程」
ラジカル重合工程は、ラテックス状のポリオルガノシロキサンの存在下で、アルキル(メタ)アクリレート単量体を1種以上含む単量体成分をラジカル重合する工程である。
アルキル(メタ)アクリレート単量体を1種以上含む単量体成分は、ラテックス状のポリオルガノシロキサンに一括して添加してもよいし、連続的にあるいは断続的に添加してもよい。
アルキル(メタ)アクリレート単量体を1種以上含む単量体成分をラジカル重合する際に、必要に応じて、グラフト交叉剤および架橋剤のいずれか一方または両方を用いてもよい。
グラフト交叉剤または架橋剤としては、例えば、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、ジビニルベンゼン、ジメタクリル酸エチレングリコールジエステル、ジメタクリル酸プロピレングリコールジエステル、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコールジエステル、ジメタクリル酸1,4−ブチレングリコールジエステル等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ラジカル重合には、通常、ラジカル重合開始剤および乳化剤が用いられる。例えば、室温下、ポリオルガノシロキサンのラテックスに、乳化剤と、単量体成分と、必要に応じてグラフト交叉剤および架橋剤のいずれか一方または両方を加えて50〜100℃に昇温し、そこにラジカル重合開始剤を加え、重合発熱が確認されなくなるまで重合を行い、さらに1〜5時間程度その状態を維持する。これにより、ポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレート系重合体とが複合した複合ゴムを含む重合体ラテックスが得られる。
ラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらの中では、レドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩とナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートとハイドロパーオキサイドとを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
乳化剤としては特に制限されないが、ラジカル重合時のラテックスの安定性に優れ、重合率を高められることから、サルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸等の各種カルボン酸塩が好ましい。これらの中では、得られるグラフト共重合体(C)およびこれを含む熱可塑性樹脂組成物を高温成形した際にガス発生を抑制できることから、アルケニルコハク酸ジカリウムが好ましい。
「縮合酸塩添加工程」
縮合酸塩添加工程は、ラジカル重合工程にて得られた重合体ラテックスに対し、肥大化工程に先立ち、縮合酸塩を添加する工程である。肥大化工程で酸基含有共重合体ラテックスと混合する前に、前記重合体ラテックスに縮合酸塩を添加することで、肥大化が進行し易くなる。そのため、酸基含有共重合体ラテックスの添加量を減らすことが可能となり、複合ゴム状重合体の体積平均粒子径を上述した範囲内に調整することが容易になる。
縮合酸塩としては、例えば、縮合酸とアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属との塩が挙げられる。縮合酸としては、例えば、リン酸、ケイ酸等が挙げられる。これらの中でも、リン酸の縮合酸であるピロリン酸とアルカリ金属との塩が好ましく、ピロリン酸ナトリウムまたはピロリン酸カリウムが特に好ましい。
縮合酸塩の添加量は、複合ゴム状重合体の体積平均粒子径および粒子径分布が上述した範囲内となるように調整すればよいが、通常は、ラジカル重合工程にて得られる重合体ラテックスの固形分100質量部に対し、0.1〜5質量部とすることが好ましく、0.3〜3質量部がより好ましい。縮合酸塩の添加量が前記範囲の下限値以上であれば、肥大化が十分に進行しやすくなる。縮合酸塩の添加量が前記範囲の上限値以下であれば、肥大化が十分に進行する、あるいはゴムラテックスが安定化しやすく、多量の凝塊物が発生するのを抑制できる。
縮合酸塩は、重合体ラテックスに一括して添加することが好ましい。
縮合酸塩が添加された重合体ラテックス(重合体ラテックスと縮合酸塩との混合物)の25℃におけるpHは7以上であることが好ましい。pHが7以上であれば肥大化が十分に進行しやすくなる。
このpHを7以上とするために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の一般的なアルカリ化合物を添加することができる。
「肥大化工程」
肥大化工程は、ラジカル重合工程にて得られ、必要に応じて縮合酸塩添加工程にて縮合酸塩が添加された重合体ラテックスと、酸基含有共重合体ラテックスとを混合することにより、この重合体ラテックスを肥大化させる工程である。
(酸基含有共重合体ラテックス)
酸基含有共重合体は、酸基含有単量体単位と、アルキル(メタ)アクリレート単量体単位とを有する。必要に応じて、これらと共重合可能な他の単量体単位をさらに有していてもよい。
酸基含有単量体としては、カルボキシ基を有する不飽和化合物が好ましく、該化合物としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等が挙げられ、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。酸基含有単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
アルキル(メタ)アクリレート単量体としては、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。アルキル(メタ)アクリレート単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
他の単量体は、酸基含有単量体およびアルキル(メタ)アクリレート単量体と共重合可能な単量体であり、かつ酸基含有単量体およびアルキル(メタ)アクリレート単量体以外の単量体である。他の単量体としては、芳香族ビニル化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等)、シアン化ビニル化合物(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、2つ以上の重合性官能基を有する化合物(例えば、メタクリル酸アリル、ジメタクリル酸ポリエチレングリコールエステル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、トリメリット酸トリアリル等)等が挙げられる。他の単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
酸基含有共重合体としては、酸基含有共重合体を構成する全単位の総質量に対し、酸基含有単量体単位の割合が5〜40質量%、アルキル(メタ)アクリレート単量体単位の割合が60〜95質量%、他の単量体単位の割合が0〜35質量%であるものが好ましく、酸基含有単量体単位の割合が8〜30質量%、アルキル(メタ)アクリレート単量体単位の割合が70〜92質量%、他の単量体単位の割合が0〜22質量%であるものがより好ましい。
酸基含有単量体単位の割合が前記範囲の下限値以上、アルキル(メタ)アクリレート単量体単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、十分な肥大化能力が得られる。
酸基含有単量体単位の割合が前記範囲の上限値以下、アルキル(メタ)アクリレート単量体単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば、酸基含有共重合体ラテックス製造の際に多量の凝塊物が生成するのを抑制できる。
他の単量体単位の割合が前記範囲の上限値以下であれば、得られる酸基含有共重合体ラテックスが十分な肥大化能力を有することができる。
肥大化に用いる酸基含有共重合体ラテックスは、水中にて、酸基含有単量体、アルキル(メタ)アクリレート単量体、および必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を含む単量体成分を重合して得られる。
単量体成分の重合は、一般的な乳化重合法により行うことができる。
乳化重合は、通常、乳化剤と重合開始剤とを用いて行われる。
乳化重合で使用される乳化剤としては、公知の乳化剤を用いることができ、例えばオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ロジン酸のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩等のカルボン酸系の乳化剤;アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等のアニオン系乳化剤;等が挙げられる。これら乳化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
乳化剤の使用方法としては、重合初期に全量を一括して添加してもよいし、連続的に、あるいは断続的に添加してもよい。乳化剤量やその使用方法によっては、酸基含有共重合体ラテックスの粒子径を、ひいては粒径肥大化された複合ゴム状重合体ラテックスの粒子径に影響を及ぼす場合があるため、適正な量および使用方法を選択することが好ましい。
乳化重合で使用される重合開始剤としては、熱分解型開始剤、レドックス型開始剤等が挙げられる。熱分解型開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。レドックス型開始剤としては、クメンハイドロパーオキシドに代表される有機過酸化物−ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート−鉄塩等の組み合わせが例示される。これら重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
乳化重合の際には、分子量を調整するためにメルカプタン類(例えばt−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン等)、テルピノレン、α−メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を使用したり、pHを調節するためにアルカリや酸、減粘剤として電解質を添加したりすることもできる。
(重合体ラテックスの肥大化)
肥大化工程において、重合体ラテックスに対する酸基含有共重合体ラテックスの添加量(固形分換算量)は、得られる複合ゴム状重合体の体積平均粒子径が上述した範囲内となるように調整すればよいが、通常は、重合体ラテックスの固形分100質量部に対し、0.1〜5質量部が好ましく、0.3〜3質量部がより好ましい。酸基含有共重合体ラテックスの添加量が前記範囲の下限値以上であれば、肥大化が十分に進行する。また、凝塊物が多量に発生するのを抑制できる。一方、酸基含有共重合体ラテックスの添加量が前記範囲の上限値以下であれば、肥大化ラテックスのpHが低下するのを抑制でき、ラテックスが不安定になりにくい。
酸基含有共重合体ラテックスは、重合体ラテックスに一括して添加してもよいし、滴下により連続的または断続的に添加してもよい。
肥大化時の攪拌は適度に制御することが好ましい。攪拌が不十分な場合には、局部的に肥大化が進行することにより未肥大のゴム状重合体が残留することがある。一方、過度に攪拌を行うと、肥大化ラテックスが不安定になり、凝塊物が多量に発生することがある。
肥大化を行う際の温度は特に制限されないが、20〜90℃が好ましく、30〜80℃がより好ましい。温度がこの範囲外であると、肥大化が十分に進行しない場合がある。
なお、複合ゴム状重合体は、ラジカル重合工程にて得られ、必要に応じて縮合酸塩が添加された共重合体ラテックスを、上記のように酸基含有共重合体ラテックスを用いて肥大化した後、アルキル(メタ)アクリレート単量体を1種以上含む単量体成分をさらに添加して重合させることにより製造してもよい。
<ビニル系重合体>
グラフト共重合体(C)を構成するビニル系重合体は、ビニル系単量体単位を有する。
ビニル系単量体は、重合性不飽和二重結合を有する単量体である。ビニル系単量体としては、特に制限されないが、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シアン化ビニル化合物等が好ましい。「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」とは、アクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルの総称である。
芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル等が挙げられる。シアン化ビニル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらのビニル系単量体は1種を単独で、或いは2種以上を混合して使用することができる。
ビニル系単量体としては、上記の中でも、成形品の耐衝撃性がより向上することから、スチレンとアクリロニトリルとを併用することが好ましい。すなわち、ビニル系重合体は、スチレン単位とアクリロニトリル単位とを有することが好ましい。
<グラフト共重合体(C)>
グラフト共重合体(C)は、前記複合ゴム状重合体に前記ビニル系重合体がグラフトされたものである。
グラフト共重合体(C)において、複合ゴム状重合体とビニル系重合体との質量比は特に制限されないが、複合ゴム状重合体とビニル系重合体との合計質量(100質量%)に対し、複合ゴム状重合体が10〜80質量%、ビニル系重合体が20〜90質量%であることが好ましく、複合ゴム状重合体が30〜70質量%、ビニル系重合体が30〜70質量%であることが特に好ましい。複合ゴム状重合体とビニル系重合体との質量比が前記範囲内であると、成形品の耐衝撃性がより優れたものとなる。
(グラフト共重合体(C)の製造方法)
グラフト共重合体(C)は、複合ゴム状重合体にビニル系重合体をグラフトさせて得られる。
複合ゴム状重合体にビニル系重合体をグラフトさせる方法としては、例えば、複合ゴム状重合体の存在下でビニル系単量体を重合(グラフト重合)する方法が挙げられる。このようにして得られるグラフト共重合体(C)は、ビニル系単量体を重合することによって得られるビニル系重合体が複合ゴム状重合体にグラフトされた形態を有している。
グラフト重合を行う方法としては、特に制限されないが、反応が安定して進行するように制御可能であることから、乳化重合が好ましい。具体的には、複合ゴム状重合体のラテックスにビニル系単量体を一括して仕込んだ後に重合する方法;複合ゴム状重合体のラテックスにビニル系単量体の一部を先に仕込み、随時重合させながら残りを重合系に滴下する方法;複合ゴム状重合体のラテックスにビニル系単量体の全量を滴下しながら随時重合する方法等が挙げられる。ビニル系単量体の重合は1段で行ってもよく、2段以上に分けて行ってもよい。2段以上に分けて行う場合、各段におけるビニル系単量体の種類や組成比を変えて行うことも可能である。
ゴム状重合体とビニル系単量体との質量比は特に制限されないが、複合ゴム状重合体とビニル系単量体との合計質量に対し、複合ゴム状重合体が10〜80質量%、ビニル系単量体を20〜90質量%とすることが好ましく、複合ゴム状重合体を30〜70質量%、ビニル系単量体を30〜70質量%とすることが特に好ましい。複合ゴム状重合体とビニル系単量体との質量比が前記範囲内であると、グラフト共重合体(C)における複合ゴム状重合体とビニル系重合体との質量比が前記の好ましい範囲内となりやすい。
乳化重合は、通常、ラジカル重合開始剤および乳化剤を用いて行われる。例えば、ゴム状重合体と水と乳化剤とを含むゴム状重合体のラテックスにビニル系単量体を加え、ラジカル重合開始剤の存在下で前記ビニル系単量体をラジカル重合させる。
ラジカル重合を行う際には、得られるグラフト共重合体(C)の分子量やグラフト率を制御するため、各種公知の連鎖移動剤を添加してもよい。
ラジカル重合の重合条件は特に限定されず、たとえば、50〜100℃で1〜10時間の重合条件が挙げられる。
ラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらの中では、レドックス系開始剤が好ましく、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩とナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートとハイドロパーオキサイドとを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が特に好ましい。
乳化剤としては、特に制限されないが、ラジカル重合時のラテックスの安定性に優れ、重合率を高められることから、サルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸等の各種カルボン酸塩が好ましい。これらの中では、得られるグラフト共重合体(C)およびこれを含む熱可塑性樹脂組成物を高温成形した際にガス発生を抑制できることから、アルケニルコハク酸ジカリウムが好ましい。
上記のようにグラフト重合を行って得られるグラフト共重合体(C)は、通常、ラテックスの状態である。
グラフト共重合体(C)のラテックスからグラフト共重合体(C)を回収する方法としては、例えばグラフト共重合体(C)のラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入することによってスラリー状に凝析する湿式法;加熱雰囲気中にグラフト共重合体(C)のラテックスを噴霧することによって半直接的にグラフト共重合体(C)を回収するスプレードライ法等が挙げられる。
湿式法に用いる凝固剤としては、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸;塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩等が挙げられ、重合で用いた乳化剤に応じて選定される。例えば、乳化剤として脂肪酸石鹸やロジン酸石鹸等のカルボン酸石鹸のみが使用されている場合には、上述した凝固剤の1種以上を用いることができる。乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤を使用した場合には、凝固剤としては金属塩が好適である。
湿式法を用いると、スラリー状のグラフト共重合体(C)が得られる。このスラリー状のグラフト共重合体(C)から乾燥状態のグラフト共重合体(C)を得る方法としては、まず、残存する乳化剤残渣を水中に溶出させて洗浄し、次いで、このスラリーを遠心またはプレス脱水機等で脱水した後に気流乾燥機等で乾燥する方法;圧搾脱水機や押出機等で脱水と乾燥とを同時に実施する方法等が挙げられる。かかる方法によって、粉体または粒子状の乾燥グラフト共重合体(C)が得られる。
洗浄条件としては特に制限されないが、乾燥後のグラフト共重合体(C)100質量%中に含まれる乳化剤残渣量が0.5〜2質量%の範囲となる条件で洗浄することが好ましい。グラフト共重合体(C)中の乳化剤残渣が0.5質量%以上であれば、得られるグラフト共重合体(C)およびこれを含む熱可塑性樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。一方、グラフト共重合体(C)中の乳化剤残渣が2質量%以下であれば、熱可塑樹脂組成物を高温成形した際のガス発生を抑制できる。
なお、圧搾脱水機や押出機から排出されたグラフト共重合体(C)を回収せず、直接、樹脂組成物を製造する押出機や成形機に送って成形品とすることも可能である。
<熱可塑性樹脂(A)>
熱可塑性樹脂(A)は、グラフト共重合体(C)のみで構成されていてもよく、グラフト共重合体(C)以外の他の熱可塑性樹脂(D)をさらに含有してもよい。耐衝撃性と流動性のバランスの点では、熱可塑性樹脂(A)は、他の熱可塑性樹脂(D)を含有することが好ましい。
熱可塑性樹脂(A)は、グラフト共重合体(C)の20〜100質量%と、他の熱可塑性樹脂(D)の0〜80質量%とからなることが好ましく、グラフト共重合体(C)の20〜60質量%と、他の熱可塑性樹脂(D)の40〜80質量%とからなることがより好ましい(ただし、グラフト共重合体(C)と他の熱可塑性樹脂(D)の合計を100質量%とする。)。熱可塑性樹脂(A)中のグラフト共重合体(C)の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、成形品の耐衝撃性、溶着外観がより優れる。
<他の熱可塑性樹脂(D)>
他の熱可塑性樹脂(D)としては、特に制限されないが、例えばアクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−α−メチルスチレン共重合体(αSAN樹脂)、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−スチレン−N−置換マレイミド三元共重合体、スチレン−無水マレイン酸−N−置換マレイミド三元共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アルキル(メタ)アクリレート共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−ジエン−スチレン共重合体(AES樹脂)、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、スチレン−ブタジエン(SBR)、水素添加SBS、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)等のスチレン系エラストマー、各種のオレフィン系エラストマー、各種のポリエステル系エラストマー、ポリスチレン、メチルメタクリレート−スチレン共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリフェニレンサルファイド(PPS樹脂)、ポリエーテルサルフォン(PES樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK樹脂)、ポリアリレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂(例えばナイロン)等が挙げられる。これら他の熱可塑性樹脂(D)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
<カーボンブラック(B)>
カーボンブラック(B)としては、例えば、チャネルブラック系、ファーネスブラック系、ランプブラック系、サーマルブラック系、ケッチェンブラック系、ナフタレンブラック系等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で、または2種以上を組合わせて使用することができる。
カーボンブラック(B)は、粒子表面が二次処理されたものであってもよい。
二次処理としては、例えば、酸化処理による表面官能基の付与、不活性雰囲気下での加熱処理による結晶構造による黒鉛化、水蒸気または炭酸ガスでの賊活処理等が挙げられる。前記酸化処理としては、オゾン、硝酸、亜硝酸、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素のいずれかによる処理が挙げられる。酸化処理によってカーボンブラック表面にカルボキシル基、フェノール性水酸基等の酸性官能基が生成し、カーボンブラック表面の濡れ性や分散性が向上する。
カーボンブラック(B)は、通常、球状の一次粒子が凝集した形状の二次粒子として存在する。
カーボンブラック(B)は、二次粒子の体積平均粒子径が200nm以上であり、二次粒子全体に対する粒子径800nm以上の二次粒子の割合が20体積%未満である。二次粒子の体積平均粒子径が200nm未満、または粒子径800nm以上の二次粒子の割合が20体積%以上であると、色調およびレーザー溶着性が不十分になるおそれがある。
カーボンブラック(B)の二次粒子の体積平均粒子径の上限は、粒子径800nm以上の二次粒子の割合が20体積%未満となる限り特に限定されないが、典型的には600nm以下である。
粒子径800nm以上の二次粒子の割合の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
前記体積平均粒子径は、動的光散乱法より測定される。例えばカーボンブラック(B)を分散媒(N−メチルピロリドン)に分散させ、ナノトラックを用いて体積基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布より前記体積平均粒子径が算出される。
カーボンブラック(B)は、二次粒子の体積基準の粒子径分布において累積値が10%となる粒子径を10%累積粒子径(d10)、前記累積値が50%となる粒子径を50%累積粒子径(d50)、前記累積値が90%となる粒子径を90%累積粒子径(d90)としたときに、下式(1)で求められるMが下式(2)を満たすものであることが好ましい。
M=(d90−d10)/d50 ・・・(1)
1.5≦M≦2.5 ・・・(2)
Mが1.5超であると、色調およびレーザー溶着性がより優れる傾向がある。Mが2.5未満であると、色調がより優れる傾向がある。
Mは、1.5≦M≦2.0を満たすことがより好ましい。
前記粒子径分布は、動的光散乱法より測定される。例えばカーボンブラック(B)を分散媒(N−メチルピロリドン)に分散させ、ナノトラックを用いて粒子径分布が測定される。
熱可塑性樹脂組成物中のカーボンブラック(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して0.1〜3.0質量部であり、0.3〜2.0質量部が好ましく、0.5〜1.0質量部がさらに好ましい。
カーボンブラック(B)の含有量が上記下限値以上であれば、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の色調が優れる。またレーザー溶着で十分な接合強度が得られる。
カーボンブラック(B)の含有量が上記上限値以下であれば、レーザー溶着時に焦げや変色が発生しにくく、溶着外観が優れる。また、振動溶着、熱板溶着でも溶着外観が優れる傾向がある。
<その他の添加剤>
その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤や光安定剤等の各種安定剤、滑剤、可塑剤、離型剤、染料、顔料、帯電防止剤、難燃剤、無機充填剤、金属粉末等が挙げられる。
その他の添加剤の含有量は、添加剤の種類に応じて適宜設定され、特に限定されないが、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、0質量部であってもよい。
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、熱可塑性樹脂(A)と、カーボンブラック(B)と、必要に応じてその他の添加剤とを、V型ブレンダやヘンシェルミキサー等により混合分散させ、これにより得られた混合物をスクリュー式押出機、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、ミキシングロール等の溶融混練機等を用いて溶融混練することにより製造される。また、必要に応じて、ペレタイザー等を用いて溶融混練物をペレット化してもよい。
<作用効果>
以上説明した本発明の熱可塑性樹脂組成物にあっては、熱可塑性樹脂(A)と、カーボンブラック(B)とを含有し、熱可塑性樹脂(A)がグラフト共重合体(C)を含有し、カーボンブラック(B)の二次粒子の体積平均粒子径が200nm以上で、二次粒子全体に対する粒子径800nm以上の二次粒子の割合が20体積%未満であり、カーボンブラック(B)の含有量が熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して0.1〜3.0質量部であるため、成形品としたときに、優れた色調、成形外観、耐候性および耐衝撃性を発現する。また、この成形品は、レーザー溶着、振動溶着または熱板溶着による溶着が可能であり、その溶着部は外観に優れる。また、充分な接合強度を発現し得る。
「成形品」
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いたものである。
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形することにより製造できる。
成形方法としては、公知の成形方法を利用でき、例えば射出成形法、プレス成形法、押出成形法、真空成形法、ブロー成形法等が挙げられる。
本発明の成形品は、レーザー溶着、振動溶着、熱板溶着等により溶着することができる。例えば本発明の成形品同士、または本発明の成形品と他の樹脂成形品とをレーザー溶着、振動溶着または熱板溶着により溶着することで、樹脂接合体が得られる。かかる樹脂接合体は、溶着部の外観や接合強度に優れる。
本発明の成形品およびこれを用いた樹脂接合体の用途としては、例えば、灯具、内装、外装等の車両用部品、OA機器、家電部品、医療用器具、各種の工業用材料等が挙げられ、車両用灯具が好適である。
以下、具体的に実施例を示す。ただし本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の例中の「%」および「部」は、明記しない限りは質量基準である。
以下の実施例および比較例における各種測定および評価方法は、以下の通りである。
<耐衝撃性の評価>
ISO 3167に準拠して、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物から、射出成形機(東芝機械株式会社製、「IS55FP−1.5A」)によって試験片(成形品(1))を作製した。この試験片のシャルピー(Charpy)衝撃強度をISO 179−1:2000に準拠して、ノッチ付、23℃雰囲気下で測定した。
<レーザー溶着外観の評価>
各例で製造したペレット状の熱可塑性樹脂組成物から、4オンス射出成形機(株式会社日本製鋼所製、)を用い、シリンダー設定温度260℃、金型温度60℃、射出率が20g/秒の条件で、長さ100mm、幅100mm、厚み2mmの板状の成形品(2)を作製し、これを吸収材とした。
使用する樹脂を、各例で製造したペレット状の熱可塑性樹脂組成物からペレット状のアクリル樹脂へ変更したこと以外は、吸収材と同様の手順で透過材を作製した。
吸収材と透過材とを重ね合わせ、ライスター社製「レーザー溶着機NOVOLAS−C型」を用い、出力:3W、焦点径:2mm、走査速度:20mm/秒、溶着長:30mmの条件でレーザー光を透過材側から照射して吸収材と溶着させて接合体を得た。その後、接合体の接合面の溶着外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:発泡がない。
△:一部発泡がある。
×:全体に発泡がある、または焦げがある。
<振動溶着外観の評価>
各例で製造したペレット状の熱可塑性樹脂組成物から、射出成形によって厚み2mmの平板成形品(台形状、幅70mm、短辺110mm、長辺160mm)を得た。
得られた平板成形品と評価レンズとを振動溶着させて接合体を得た。評価レンズとしてはポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂(三菱レイヨン(株)製 アクリペットVH4)を射出成形にて3mmのリブ付きシート(台形状、幅70mm、短辺110mm、長辺160mm、リブ:高さ10mm、短辺100mm、長辺150mm)に成形したものを使用した。振動溶着は、日本エマソン(株)製 BRANSON VIBRATION WELDER 2407を用い、振幅1mm、圧力0.3MPa、沈み込み量1.5mmの条件で行った。
振動溶着時に溶融、接合して生じる糸バリの本数を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:0本以上15本未満。
△:15本以上20本未満。
×:20本以上。
<熱板溶着外観の評価>
各例で製造したペレット状の熱可塑性樹脂組成物から、射出成形によって試験用シート(25mm×100mm×3mm)を得た。
得られた試験用シートを、220℃に加熱した熱板に12秒間接触させた後、水平に引き離し、その際の5mm以上の糸ひきの本数を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:0本以上5本未満。
△:5本以上15本未満。
×:15本以上。
<色調の評価>
前記と同様にして成形品(2)を作製し、この成形品(2)を使用して、測色計により色調(L*)を測定した。L*の値が小さいほど、成形品の黒味が深い(濃い)ことを示す。
<成形外観の評価(拡散反射率の測定)>
前記と同様にして成形品(2)を作製した。この成形品(2)の表面に、真空蒸着法(ULVAC製 VPC−1100)により、真空度6.0×10−3Pa、成膜速度10Å/秒の条件で厚み50nmのアルミニウム膜を成膜(ダイレクト蒸着)した。得られた成形品(2)の成膜面について、反射率計((有)東京電色製 TR−1100AD)にて拡散反射率Rd(%)を測定した。拡散反射率Rdの値が低いほど、成形品の表面の光輝性に優れることを示す。
<耐候性の評価>
前記と同様にして成形品(2)を作製した。スガ試験機株式会社製の「サンシャインスーパーロングライフウェザーメーターWEL−SUN−DCH型」を用い、63℃、サイクル条件:60分(降雨:12分)の環境下に成形品(2)を1000時間暴露した。1000時間の暴露前後の成形品の変色の度合い(ΔE)を、色差計を用いて測定した。
<カーボンブラック(B)の二次粒子の体積平均粒子径および粒子径分布の測定>
カーボンブラック(B)をN−メチルピロリドンに分散させ0.04%分散液として、日機装社製のNanotrac UPA−EX150を用いて動的光散乱法より体積基準の粒子径分布を測定し、体積平均粒子径を求めた。
また、上記体積基準の粒子径分布において、累積値が10%となる粒子径を10%累積粒子径(d10)、50%となる粒子径を50%累積粒子径(d50)、90%となる粒子径を90%累積粒子径(d90)として求め、前記式(1)からMの値を算出した。
「酸基含有共重合体ラテックスの製造」
<製造例1:酸基含有共重合体ラテックス(K)の製造>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、イオン交換水200部、オレイン酸カリウム2部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム4部、硫酸第一鉄七水塩0.003部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.009部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を窒素気流下で仕込み、60℃に昇温した。60℃になった時点から、アクリル酸n−ブチル85部、メタクリル酸15部、クメンヒドロパーオキサイド0.5部からなる混合物を120分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに2時間、60℃を維持した状態で熟成を行い、固形分が33%、重合転化率が96%、酸基含有共重合体の体積平均粒子径が120nmである酸基含有共重合体ラテックス(K)を得た。
「ポリオルガノシロキサンの製造」
<製造例2:ポリオルガノシロキサン(E)の製造>
オクタメチルシクロテトラシロキサン98部とγ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部とを混合してシロキサン混合物100部を得た。これに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.67部およびイオン交換水300部からなる水溶液を添加し、ホモミキサーにて10000回転/分で2分間撹拌した後、ホモジナイザーに30MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合オルガノシロキサンラテックスを得た。
別途、試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器内に、ドデシルベンゼンスルホン酸10部とイオン交換水90部とを投入し、10%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液(酸触媒水溶液)を調製した。
この酸触媒水溶液を85℃に加熱した状態で、予備混合オルガノシロキサンラテックスを2時間にわたって滴下し、滴下終了後3時間その温度を維持した後、40℃以下に冷却した。次いで、この反応物を10%水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に中和して、ポリオルガノシロキサン(E)のラテックスを得た。
得られたポリオルガノシロキサン(E)のラテックス2gを180℃で30分間乾燥して固形分を求めたところ18.2%であった。また、ラテックス中のポリオルガノシロキサン(E)の質量基準の平均粒子径は50nmであった。
「グラフト共重合体の製造」
<製造例3:グラフト共重合体(C−1)の製造>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器内に、ポリオルガノシロキサン(E)のラテックスを固形分換算で2.0部と、アルケニルコハク酸ジカリウム0.8部と、イオン交換水190部とを仕込んで混合した。次いで、アクリル酸n−ブチル48.0部、アリルメタクリレート0.6部、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート0.1部およびt−ブチルハイドロパーオキサイド0.1部からなる混合物を添加した。この反応器に窒素気流を通じることによって雰囲気の窒素置換を行い、内温を60℃まで昇温した。内温が60℃に達した時点で、硫酸第一鉄七水塩0.000075部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.00023部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2部およびイオン交換水10部からなる水溶液を添加し、ラジカル重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を75℃とし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに1時間この状態を維持し、ポリオルガノシロキサンとポリブチルアクリレートゴムとが複合した複合ゴムを得た(ラジカル重合工程)。得られた複合ゴムの体積平均粒子径は90nmであった。
反応器内部の液温が70℃に低下した後、5%ピロリン酸ナトリウム水溶液を固形分として0.60部添加した。内温70℃で制御した後、酸基含有共重合体ラテックス(K)を固形分として0.60部添加し、30分間撹拌、肥大化を行い、複合ゴム状重合体のラテックスを得た(肥大化工程)。
得られたラテックス中の複合ゴム状重合体の体積平均粒子径は180nmであった。また、ゲル含有量は88%であった。
この複合ゴム状重合体のラテックスに、硫酸第一鉄七水塩0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット0.3部およびイオン交換水10部からなる水溶液を添加した。次いで、アクリロニトリル10部、スチレン30部およびt−ブチルハイドロパーオキサイド0.18部からなる混合液を80分間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、温度75℃の状態を30分保持した後、アクリロニトリル2.5部、スチレン7.5部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.05部およびn−オクチルメルカプタン0.02部からなる混合物を20分間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、温度75℃の状態を30分間保持した後、クメンヒドロパーオキシド0.05部を添加し、さらに温度75℃の状態を30分間保持した後、冷却し、複合ゴム状重合体にアクリロニトリルとスチレンとをグラフト重合させたシリコーン/アクリル複合ゴム系のグラフト共重合体(C−1)のラテックスを得た。
次いで、1%酢酸カルシウム水溶液150部を60℃に加熱し、この中へグラフト共重合体(C−1)のラテックス100部を徐々に滴下して凝固した。そして、析出物を分離し、脱水、洗浄した後に乾燥して、複合ゴム状重合体のグラフト共重合体(C−1)を得た。
<製造例4:グラフト共重合体(C−2)の製造>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器内に、イオン交換水150部、ポリブタジエンラテックス(体積平均粒子径180nm)を固形分換算で50部、不均化ロジン酸カリウム1部、水酸化カリウム0.03部を仕込み、60℃に加熱後、硫酸第一鉄七水塩0.007部、ピロリン酸ナトリウム0.1部、結晶ブドウ糖0.3部を添加した。次いで、アクリロニトリル15部、スチレン35部、クメンハイドロパーオキサイド0.4部およびt−ドデシルメルカプタン0.5部からなる混合液を120分間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、温度70℃の状態を60分間保持した後、クメンハイドロパーオキサイド0.05部を添加し、さらに温度70℃の状態を30分間保持した後、冷却し、ポリブタジエンにアクリロニトリルとスチレンをグラフト重合させたポリブタジエン系のグラフト共重合体(C−2)のラテックスを得た。
次いで、グラフト共重合体(C−2)のラテックスに酸化防止剤を添加した。1%硫酸水溶液150部を60℃に加熱し、この中へ、酸化防止剤を添加したグラフト共重合体(C−2)のラテックス100部を徐々に滴下して凝固した。そして、析出物を分離し、脱水、洗浄した後に乾燥して、グラフト共重合体(C−2)を得た。
「他の熱可塑性樹脂(D)」
<製造例5:他の熱可塑性樹脂(D−1)の製造>
アクリロニトリル27部およびスチレン73部を公知の懸濁重合により重合し、N,N−ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.61dl/gであるアクリロニトリル−スチレン共重合体を得た。これを他の熱可塑性樹脂(D−1)として用いた。
<製造例6:他の熱可塑性樹脂(D−2)の製造>
アクリロニトリル19部、スチレン53部およびN−フェニルマレイミド28部を公知の連続溶液重合により重合し、N,N−ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.65dl/gであるアクリロニトリル−スチレン−N−フェニルマレイミド三元共重合体を得た。これを他の熱可塑性樹脂(D−2)として用いた。
「カーボンブラック(B)」
(B−1)越谷化成工業(株)製“RB−92995S”。
(B−2)レジノカラー工業(株)製“ABF−TT2351−G”。
(B−3)マエダ化成(株)製“DBSP−3687HC”。
(B−4)オリオン・エンジニアドカーボンズ(株)製“FW285”。
(B−5)キャボットジャパン(株)製“BP2000”。
(B−6)三菱化学(株)製“#44”。
「実施例1〜6、比較例1〜6」
表1〜2に示す種類および量(部)のグラフト共重合体(C)、他の熱可塑性樹脂(D)およびカーボンブラック(B)と、エチレンビスステアリルアミド1部と、シリコーンオイルSH200(東レ・ダウコーニング株式会社製)0.2部と、アデカスタブAO−60(株式会社ADEKA製)0.2部と、アデカスタブLA−57(株式会社ADEKA製)0.4部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、スクリュー式押出機(株式会社日本製鋼所製、TEX−30α型二軸押出機)を用いて250℃にて溶融混練した後、ペレタイザーにてペレット化してペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物について、前記の手順で耐衝撃性、レーザー溶着外観、振動溶着外観、熱板溶着外観、色調、耐候性および成形外観を評価した。これらの結果を表1〜2に示す。
また、各例で使用したカーボンブラック(B)の二次粒子の特性(体積平均粒子径、粒子径800nm以上の二次粒子の割合、粒子径分布から求めたMの値)を表1〜2に併記する。
Figure 0006709658
Figure 0006709658
表1〜2に示すように、各実施例で得られた熱可塑性樹脂組成物からは、色調、成形外観、耐候性、耐衝撃性、レーザー溶着外観、振動溶着外観および熱板溶着外観に優れた成形品が得られた。
一方、各比較例の場合、成形品の色調、成形外観、耐候性、耐衝撃性、レーザー溶着外観、振動溶着外観および熱板溶着外観のいずれか一以上の項目に劣る結果となった。
具体的には、比較例1の場合、カーボンブラック(B)の二次粒子全体に対する粒子径800nm以上の二次粒子の割合が20%以上であるため、レーザー溶着外観が劣っていた。
比較例2の場合、カーボンブラック(B)の含有量が少なかったため、色調およびレーザー溶着外観が劣っていた。
比較例3の場合、カーボンブラック(B)の含有量が多かったため、耐衝撃性およびレーザー溶着外観が劣っていた。
比較例4の場合、グラフト共重合体(C)を含有しなかったため、耐衝撃性、レーザー溶着外観、振動溶着外観および熱板溶着外観が劣っていた。
比較例5の場合、グラフト共重合体がポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレート系重合体とが複合した複合ゴム状重合体を含有していなかったため、成形外観および耐候性が劣っていた。
比較例6の場合、カーボンブラック(B)の二次粒子の体積平均粒子径が200nm以下であるため、レーザー溶着外観が劣っていた。
本発明によれば、色調、成形外観、耐候性およびレーザー溶着、振動溶着または熱板溶着による溶着後の外観に優れ、さらに樹脂部材として十分な耐衝撃性を有した成形品を得ることができる熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。特に成形品の色調とレーザー溶着後の外観とのバランスは、従来知られている熱可塑性樹脂組成物では得られない非常に高いレベルであり、灯具・内装・外装等の車両用部品、OA機器や家電部品、医療用器具、各種工業用材料としての利用価値は極めて高い。

Claims (3)

  1. 熱可塑性樹脂(A)と、カーボンブラック(B)とを含有し、
    前記熱可塑性樹脂(A)は、ポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレート系重合体とが複合した複合ゴム状重合体にビニル系重合体がグラフトされたグラフト共重合体(C)を含有し、
    前記カーボンブラック(B)は、二次粒子の体積平均粒子径が200nm以上であり、二次粒子全体に対する粒子径800nm以上の二次粒子の割合が20体積%未満であり、
    前記カーボンブラック(B)の含有量が、前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して0.1〜3.0質量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
  2. 前記カーボンブラック(B)の体積基準の粒子径分布において累積値が10%となる粒子径を10%累積粒子径(d10)、前記累積値が50%となる粒子径を50%累積粒子径(d50)、前記累積値が90%となる粒子径を90%累積粒子径(d90)としたときに、下式(1)で求められるMが下式(2)を満たす、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
    M=(d90−d10)/d50 ・・・(1)
    1.5≦M≦2.5 ・・・(2)
  3. 請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品。
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