ここで、好適には、前記拡径部は、前記円筒部から遠ざかるほど内径が大きくなるテーパー面に形成されたものである。このようにすれば、拡径部が一様な内径で設けられることによって円筒部側のその開始部分に段差が形成されている場合に比べて、その開始部分の角度が大きくなるので、シール部材が拡径部の位置に到達するまで移動させられたピストンが油圧低下後にスプリングの付勢力に従って油圧室の縮小方向に移動させられる際に、その開始部分に形成された角部によるシール部材の損耗を抑制できる。また、前記ピストンが前記拡径部側から前記油圧室の縮小方向にピストン収容部内を移動させられる場合には、そのピストンが前記テーパー面によって軸心が適切な位置に向かうように案内される利点もある。
また、好適には、前記ピストン収容部は、前記拡径部の前記円筒部側の開始部分がR面に形成されたものである。このようにすれば、シール部材が拡径部に到達する位置まで移動させられたピストンが油圧低下後にスプリングの付勢力に従って油圧室の縮小方向に移動させられる際に、シール部材が拡径部の開始部分を滑らかに通過できるので、その開始部分の角が立っている場合に比較してそのシール部材の損耗を抑制できる。
また、好適には、前記ピストンは、前記油圧室の拡大方向に最も移動した位置においても、前記円筒部に少なくとも一部が位置するものである。このようにすれば、シール部材が拡径部に到達する位置までピストンが移動させられた際にも、ピストンとピストン収容部との軸心が一致した状態に保たれるため、それらの軸心を一致させるための構造を別途設ける必要がない利点がある。
また、好適には、前記スプリングは、前記ピストンを前記油圧室の縮小方向に常に付勢する第1スプリングと、前記ピストンの前記油圧室の拡大方向における通常時の最大ストローク位置と前記シール部材が前記拡径部に到達するストローク位置との間に設けられた作用開始位置からその油圧室の拡大方向のストローク範囲でそのピストンをその油圧室の縮小方向に付勢する第2スプリングとを、含むものである。このようにすれば、通常の油圧が作用するときの最大ストローク位置よりもピストンが油圧室の拡大方向に移動して作用開始位置に到達すると、第1スプリングの付勢力に加えて第2スプリングによる付勢力がその油圧室の縮小方向に作用するようになるので、その位置よりも油圧室の拡大方向ではピストンに作用するスプリングのバネ定数が高くなる。そのため、通常時のストローク範囲では、第1スプリングの付勢力のみが作用することから比較的低い油圧でピストンが作動させられる一方、作用開始位置以降では、第2スプリングの付勢力がこれに重畳されることから、油圧の上昇量に対するピストンの移動量が小さくなる。これにより、通常の作動時に必要な油圧を高くすることなく、ピストンに衝撃荷重が掛かることによって油圧が通常時よりも高くなった際のピストン移動量を小さくすることができるので、装置が大型化することを抑制できる。前記ピストンを前記油圧室の縮小方向に付勢するための前記スプリングは、1つのスプリングで、通常作動時には前記シール部材が前記拡径部に入らないようにそのバネ定数を設定してもよいが、上記のようにすれば、通常作動時と油撃発生時とで切り分けて設計できる利点もある。なお、第1スプリングおよび第2スプリングのバネ定数は、それらによる付勢力とシール部材に許容する最大油圧とが、そのシール部材が前記拡径部に到達するときに均衡するように定めればよい。
また、上記のように前記スプリングが前記第1スプリングおよび前記第2スプリングで構成される場合において、前記作用開始位置は、通常時の最大ストローク位置に近い位置に設けることが好ましい。第1スプリングおよび第2スプリングのバネ定数をそれぞれ一定とすると、作用開始位置が通常時の最大ストローク位置に近くなるほど、スプリングのバネ定数が早く高くなってリリーフ圧に達するまでのストロークが短くなるので、装置の小型化に一層資する利点がある。
なお、前記スプリングのバネ定数は、例えば、前記シール部材が前記拡径部に到達する直前の位置に前記ピストンが位置するときに、そのスプリングの付勢力が、通常時に前記油圧室に生じ得る最大油圧と均衡するように定められる。上記スプリングの付勢力は前記拡径部の開始位置で前記リリーフ圧と均衡するように定められるため、上記「直前の位置」は、上記最大油圧とそのリリーフ圧との差に応じただけ拡径部よりも手前に設定されることになる。
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が好適に適用された車両用変速機10(以下、変速機10)の概略構成を説明するための断面図である。変速機10は、図示しないエンジンと駆動輪との間に動力伝達可能に介挿されている。変速機10は、ケース12内において、トルクコンバータ14のタービン軸としても機能する入力軸16と、図示しない駆動輪に動力伝達可能に接続されている出力軸20と、ベルト式の無段変速機構22と、ギヤ機構24とを含んで構成されている。無段変速機構22とギヤ機構24とは、入力軸16と出力軸20との間で軸方向に並んで配置され、ギヤ機構24が無段変速機構22よりも軸方向においてエンジン側に配置されている。
エンジンと同じ第1回転軸心C1上には、エンジンのトルクが入力され無段変速機構22の後述するプライマリプーリ30に連結されている入力軸16が回転可能に配置されている。この入力軸16の外周側には、トルクコンバータ14側から順番に、そのトルクコンバータ14のポンプ翼車によって駆動される図示しないオイルポンプを駆動させるためのチェーン機構26、ギヤ機構24を構成する第1ドライブギヤ25、および前後進切換機構28が順次設けられている。また、入力軸16の軸方向においてトルクコンバータ14と反対側の端部が、無段変速機構22のプライマリプーリ30(固定シーブ30a)に連結されている。
前後進切換機構28は、前進用クラッチCa、後進用ブレーキB、およびダブルピニオン型の遊星歯車機構32を主体に構成されている。遊星歯車機構32のキャリヤCAが入力軸16に接続され、リングギヤRが後進用ブレーキBを介して非回転部材であるケース12に選択的に連結され、サンギヤSが前進用クラッチCaを介してキャリヤCAに選択的に接続される。前進用クラッチCaおよび後進用ブレーキBは、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。前記遊星歯車機構32のサンギヤSには、ギヤ機構24を構成する第1ドライブギヤ25が一体的に設けられている。第1ドライブギヤ25は、後述する中間軸52上に設けられている第1ドリブンギヤ54に噛み合わされている。また、第1ドライブギヤ25は、その内周端部で入力軸16が挿通されるシャフト挿通部53が、第1ドリブンギヤ54との噛合部59(第1ドライブギヤ25の外周歯)よりも軸方向において無段変速機構側にずらされている(オフセット)。これより、第1ドライブギヤ25の噛合部59(外周歯)の内周側に空間が形成され、この空間に、図示しないオイルポンプから吐出される作動油が供給される油路が形成された部材の一部が収容されている。
無段変速機構22は、入力軸16と第3回転軸心C3上に配置されている出力軸20との間の動力伝達経路上に設けられ、入力軸16に連結されている入力側回転部材である有効径が可変のプライマリプーリ30と、出力軸20に連結されている出力側回転部材である有効径が可変のセカンダリプーリ36と、そのプライマリプーリ30とセカンダリプーリ36との間に巻き掛けられている伝動ベルト38とを備えており、プライマリプーリ30およびセカンダリプーリ36と伝動ベルト38との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
プライマリプーリ30は、入力軸16に連結された入力側固定回転体としての固定シーブ30aと、固定シーブ30aに対して軸まわりの相対回転不能、且つ、軸方向の移動可能に設けられた入力側可動回転体としての可動シーブ30bと、それらの間のV溝幅を変更する為に可動シーブ30bを移動させるための推力を発生させるプライマリ油圧アクチュエータ30cとを、備えて構成されている。
セカンダリプーリ36は、出力軸20に後述するベルト走行用クラッチCbを介して連結されて出力側固定回転体として機能する固定シーブ36aと、固定シーブ36aに対して軸まわりの相対回転不能、且つ、軸方向への移動可能に設けられた出力側可動回転体としての可動シーブ36bと、それらの間のV溝幅を変更する為に可動シーブ36bを移動させるための推力を発生させるセカンダリ側油圧アクチュエータ36cとを、備えて構成されている。
前記一対のプライマリプーリ30およびセカンダリプーリ36の溝幅が変化して伝動ベルト38の掛かり径(有効径)が変更されることで、実変速比γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変更させられる。例えば、プライマリプーリ30のV溝幅が狭くなると、変速比γが小さくなる。すなわち無段変速機構22がアップシフトされる。また、プライマリプーリ30のV溝幅が広くなると、変速比γが大きくなる。すなわち、無段変速機構22がダウンシフトされる。
軸方向において無段変速機構22のセカンダリプーリ36と出力軸20との間には、これらの間の動力伝達を選択的に断接するベルト走行用クラッチCbが介挿されている。このベルト走行用クラッチCbが係合されることで、エンジンのトルクが、入力軸16、無段変速機構22を経由して出力軸20に伝達される。また、ベルト走行用クラッチCbが解放されると、無段変速機構22から出力軸20への動力伝達が遮断される。
第3回転軸心C3上には、無段変速機構22またはギヤ機構24からトルクが伝達される出力軸20が回転可能に配置されている。出力軸20の外周側には、セカンダリプーリ36側から順番に、ベルト走行用クラッチCb、ギヤ機構24を構成する後述する第2ドリブンギヤ40、および出力軸20に形成されている出力ギヤ42が設けられている。第2ドリブンギヤ40は、略円錐形状を有し、軸方向においてセカンダリプーリ36側に径方向外周側が傾斜している。第2ドリブンギヤ40の外周端部には、後述する第2ドライブギヤ56と噛み合う外周歯が形成されており、その外周歯の近傍にはベルト走行用クラッチCbの出力部材が接続されている。また、第2ドリブンギヤ40の内周端部には、出力軸20に対して相対回転不能にスプライン嵌合されたスプライン嵌合部66が設けられている。従って、ベルト走行用クラッチCbが係合されると、無段変速機構22から入力されるトルクが、ベルト走行用クラッチCb、第2ドリブンギヤ40、および出力軸20を介して出力ギヤ42に伝達される。また、第2ドリブンギヤ40のスプライン嵌合部66は、第2ドライブギヤ56との噛合部61(第2ドリブンギヤ40の外周歯)よりも、軸方向においてエンジン側にずらされている(オフセット)。これより、第2ドリブンギヤ40の噛合部61(外周歯)の内周側に空間が形成され、この空間にベルト走行用クラッチCbを構成する部材が一部収容されている。
出力ギヤ42は、第4回転軸心C4上に配置されているカウンタ軸18に設けられているカウンタギヤ48の外周歯と噛み合っている。カウンタ軸18には、前記カウンタギヤ48および、図示しないデフギヤのデフドリブンギヤと噛み合うデフドライブギヤ50が設けられている。従って、出力ギヤ42に伝達されたトルクが、カウンタギヤ48、カウンタ軸18、デフドライブギヤ50、図示しないデフギヤ等を介して図示しない駆動輪に伝達される。
ギヤ機構24は、軸方向において無段変速機構22とトルクコンバータ14との間に設けられており、第1回転軸心C1上に配置されている入力軸16に前後進切換装置28(サンギヤS)を介して設けられている(連結されている)第1ドライブギヤ25と、第1回転軸心C1と平行な第2回転軸心C2まわりに回転可能に支持されている中間軸52にスプライン嵌合されることで中間軸52に相対回転不能に設けられるともに、第1ドライブギヤ25と噛み合う第1ドリブンギヤ54と、中間軸52に相対回転可能に設けられている第2ドライブギヤ56と、第3回転軸心C3まわりに回転可能な出力軸20にスプライン嵌合されて相対回転不能に設けられるととともに、第2ドライブギヤ56と噛み合う第2ドリブンギヤ40とを、有して構成されている。
中間軸52の外周側には、中間軸52と第2ドライブギヤ56との間を選択的に断接するシンクロメッシュ機構(同期機構)を備えた噛合クラッチであるドグクラッチ58が設けられている。なお、第1ドリブンギヤ54の内周部と中間軸52とが相対回転不能にスプライン嵌合されることで、第1ドリブンギヤのシャフト挿通部に対応するスプライン嵌合部64が形成され、第1ドライブギヤ25と第1ドリブンギヤ54とが互いに噛み合うことで、第1ドライブギヤおよび第1ドリブンギヤの噛合部59が構成される。また、第2ドリブンギヤの内周部と出力軸20とが相対回転不能にスプライン嵌合されることで、本発明の第2ドリブンギヤのシャフト挿通部に対応するスプライン嵌合部66が形成され、第2ドライブギヤ56と第2ドリブンギヤ40とが互いに噛み合うことで、第2ドライブギヤおよび第2ドリブンギヤの噛合部61が構成される。
ドグクラッチ58は、中間軸52上であって、第1ドリブンギヤ54に対して軸方向において無段変速機構22側(軸方向において第1ドリブンギヤ54と第2ドライブギヤ56との間)に隣接するようにして設けられている。ドグクラッチ58は、その外周側に設けられているハブスリーブ60と嵌合するシフトフォーク62によってその断接状態が切り換えられる。例えばシフトフォーク62が軸方向においてエンジン側(トルクコンバータ側)に移動すると、ハブスリーブ60も同様にエンジン側に移動させられ、ドグクラッチ58による接続が解除されて中間軸52と第2ドライブギヤ56との接続が遮断される。一方、シフトフォーク62が軸方向において無段変速機構22側に移動すると、ハブスリーブ60も同様に無段変速機構22側に移動させられ、ドグクラッチ58が接続されて、中間軸52と第2ドライブギヤ56とが一体的に回転させられる。本実施例では、上記のハブスリーブ60がスリーブに相当する。
ドグクラッチ58によって中間軸52と第2ドライブギヤ56とが接続されると、第1ドライブギヤ25と第2ドリブンギヤ40との間の動力伝達経路が形成される。すなわちギヤ機構24が動力伝達可能となる。一方、ドグクラッチ58によって中間軸52と第2ドライブギヤ56とが遮断されると、第1ドライブギヤ25と第2ドリブンギヤ40との間の動力伝達経路が遮断される。すなわち、ギヤ機構24が動力伝達不能となる。
前記のシフトフォーク62は、油圧アクチュエータ68によって作動させられるフォークシャフト70の一端に取り付けられている。図2に示すように、油圧アクチュエータ68は、フォークシャフト70の他端に固定されたピストン72と、そのピストン72の外周面に形成された周溝74に嵌め着けられたOリング76と、そのピストン72を収容するシリンダ78と、それらピストン72,Oリング76、およびシリンダ78により形成される油圧室80とを備えている。ピストン72は、リターンスプリング82の付勢力により、常にその油圧室80を縮小する方向に押圧されると共に、油圧室80に油路84から供給される油圧により、そのリターンスプリング82の付勢力に対抗して押圧されるようになっている。本実施例では、上記の油圧アクチュエータ68が油圧装置に、Oリング76がシール部材に、シリンダ78がピストン収容部に、それぞれ相当し、シンクロメッシュ機構のハブスリーブ60は、フォークシャフト70およびシフトフォーク62を介してピストン72に連係させられている。
上記のシリンダ78は、シフトフォーク62側において内周面が一定の内径寸法に形成された円筒部86と、その円筒部86から続いてシフトフォーク62から遠ざかるほど内径寸法が大きくなるように、すなわち、円筒部86よりも大きい内径寸法となるように形成されたテーパー部88とを備えている。テーパー部88の開始位置は、ピストン72の通常の油圧による作動では前記Oリング76が上記円筒部86内で移動するように定められている。本実施例においては、上記テーパー部88が拡径部に相当する。
このように構成された油圧アクチュエータ68によれば、エンジンにより回転駆動される図示しないオイルポンプが発生する油圧を元圧として調圧された作動油圧が油圧室80に供給されることにより、リターンスプリング82の付勢力に対抗する押圧力が発生させられ、上記押付力に対抗してハブスリーブ60を係合側へ移動させる係合力がフォークシャフト70及びシフトフォーク62を介してハブスリーブ60に作用させられる。油圧室80に供給される油圧が予め定められた係合圧以上になると、ドグクラッチ58を係合状態とする位置にハブスリーブ60が移動させられる。
ところで、油圧アクチュエータ68に油圧が供給される変速時にギヤ鳴りが発生した場合には、図3に示すように、フォークシャフト70に対して、シフトフォーク62側に向かって衝撃荷重が生ずるため、フォークシャフト70と一体になって移動するピストン72に油圧室80を縮小する方向の力が作用して油圧室80内に油撃が生じることになる。このとき、ピストン72が図示の位置まで移動して、Oリング76がテーパー部88に到達すると、そのテーパー部88ではシリンダ78の内周面が円筒部86よりも大きくなっていることから、その内周面からOリング76への緊迫力が低下する。この結果、内周面とOリング76との隙間が生じて、その隙間から油圧が逃げるため、油圧室80内に油撃が発生しても、Oリング76の損傷が抑制されることとなる。
図4に、ピストン72のストローク量xとリターンスプリング82のバネ荷重との関係を直線Aで示す。図4において、「通常作動領域」は、ピストン72が通常の油圧範囲で作動しているときのOリング76の位置を示しており、通常の油圧範囲では円筒部86内に納まるように設定されているが、通常領域で使用される油圧最大値Pmaxを超える油撃が発生すると、ピストン72が更に移動し、Oリング76が「油撃発生時使用領域」に入る。ピストン72はリターンスプリング82の付勢力と油圧室80内の油圧とが均衡する位置にあるので、通常作動領域を越えても、Oリング76にバネ荷重Fに相当するだけの油圧が掛かることになる。しかしながら、その油圧が、Oリング76がテーパー部88に入る大きさ、すなわち図4のテーパー部88の開始部におけるバネ荷重Fに等しいリリーフ圧Prまで高まると、Oリング76がテーパー部88に到達して油圧が逃げるので、その後はリターンスプリング82の付勢力に従ってピストンが通常作動領域に速やかに戻ることになる。なお、図4から明らかなように、テーパー部88の開始位置は、リターンスプリング82のバネ定数と、リリーフ圧Prを通常領域の油圧最大値Pmaxよりもどれだけ高い値に設定するかとによって定めればよい。
これに対して、図7に示される従来の油圧アクチュエータ120では、テーパー部88が設けられていないことから、油撃発生時にピストン122が図示の位置まで移動しても、シリンダ124の内周面からOリング126への緊迫力が低下することはない。そのため、油撃の逃げ場がないため、油圧室128の構成部分のうち最も弱いOリング126が油撃ではみ出してちぎれる等の不都合が生じる可能性があった。本実施例の油圧アクチュエータ68によれば、このような不都合が抑制される利点がある。
要するに、本実施例によれば、シンクロメッシュ機構のハブスリーブ60をオン方向に移動させるピストン72は、その油圧が予め定められたリリーフ圧Prを超えると、ピストン72に嵌め付けられたOリング76がシリンダ78のテーパー部88の位置に到達するまで移動させられる。すなわち、ピストン72が通常の作動領域よりも大きく動いてOリング76が円筒部86を出てテーパー部88に到達する。そのため、シリンダ78の内周面からOリング76への締め代が減少し、緊迫力が低下するので、これにより生じた隙間から油が抜けて油圧が低下する。したがって、例えばギヤ鳴りが発生した際にピストン72に衝撃荷重が掛かり、延いては油圧が通常時よりも高くなる油撃が発生した場合にも、その油圧はリリーフ圧Prに達すると速やかに低下するので、油撃によるOリング76の破損が抑制される。
しかも、本実施例によれば、油撃が発生した際にピストン72とOリング76との隙間を大きくするための拡径部は、円筒部86から遠ざかるほど内径寸法が大きくなるテーパー面を備えたテーパー部88に形成されている。そのため、その拡径部が円筒部86の内径寸法よりも大きな一様な内径寸法の円筒面に形成されることによって円筒部86との間に段差が形成されている場合に比べて、その開始部分の角度が大きくなるので、Oリング76がテーパー部88の位置に到達するまで移動させられたピストン72が油圧低下後にリターンスプリング82の付勢力に従って油圧室80の縮小方向に移動させられる際に、その開始部分に形成された角部によるOリング76の損耗が抑制される。また、ピストン72がテーパー部88側から油圧室80の縮小方向にシリンダ78内を移動させられる場合には、そのピストン72がテーパー面によって軸心が適切な位置に向かうように案内される利点もある。
図5は、シリンダ拡径部の他の構成を説明する図である。一点鎖線による丸囲み部を拡大して下方に示すように、このシリンダ90は、テーパー部88の開始部分すなわち円筒部86との境界部がR面に形成されており、それらが滑らかに接続されている。また、図5に示す状態では、ピストン72が油圧室80の拡大方向に最も移動した位置にあるが、この状態においても、拡大図に示すように、ピストン72の外周面72aの一部がシリンダ90の円筒部86とそれらの軸心方向において重なる位置にある。すなわち、テーパー部88のR面の起点は、ピストン72の外周面72aの少なくとも一部が常に円筒部86の範囲内に位置するように定められている。
本実施例の構成によれば、シリンダ90のテーパー部88の開始部分がR面に形成されていることから、Oリング76がテーパー部88に到達する位置まで移動させられたピストン72が油圧低下後にリターンスプリング82の付勢力に従って油圧室80の縮小方向に移動させられる際に、Oリング76がテーパー部88の開始部分を滑らかに通過できるので、その開始部分の角が立っている場合に比較してOリング76の損耗を一層抑制できる利点がある。
また、本実施例によれば、ピストン72は、油圧室80の拡大方向に最も移動した位置においても、円筒部86に一部が位置することから、Oリング76がテーパー部88に到達する位置までピストン72が移動させられた際にも、ピストン72とシリンダ90との軸心が一致した状態に保たれる。そのため、それらの軸心を一致させるための構造を別途設ける必要がない利点がある。
図6は、前記油圧アクチュエータ68に代えて用い得る油圧アクチュエータ92の構成を説明する図である。この油圧アクチュエータ92では、例えば、リターンスプリング82の内周側に第2リターンスプリング94が備えられており、リターンスプリングが二重になっている。第2リターンスプリング94は、リターンスプリング82よりもピストン72の軸心方向における長さ寸法が短くされており、通常作動時にはピストン72に対して付勢力が働かない。しかしながら、油撃が生じた場合など、通常作動時よりも高い作用開始油圧が油圧室80に供給されることにより、ピストン72が通常作動領域を越えて予め定められた大きさだけ余計に移動したとき、ピストン72によって押し縮められ、これに対して付勢力を作用させる。なお、上記作用開始油圧は、前記リリーフ圧Prよりも低い値に定められる。本実施例においては、リターンスプリング82が第1スプリングに、第2リターンスプリング94が第2スプリングにそれぞれ相当する。
上記の油圧アクチュエータ92におけるストローク量xとバネ荷重Fとの関係を、前記図4において一点鎖線Bで示した。上記の構成では、第2リターンスプリング94が働き始めるまでは、ストローク量xとバネ荷重Fとの関係は、前記油圧アクチュエータ68の場合と同様に直線A上にあるが、第2リターンスプリング94が付勢力を作用させ始めた後は、ストローク量xとバネ荷重Fとの関係は一点鎖線B上にある。第2リターンスプリング94が働き始めた後はバネ定数が大きくなることから、図4の直線の傾きが大きくなるのである。すなわち、リターンスプリングが二重化されることによって、ストローク量xとバネ荷重Fとの関係は、第2リターンスプリング94からピストン72に対して付勢力が働き始める作用開始位置で屈曲する線で表される。前述したように、第2リターンスプリング94は、通常作動時よりも高く且つリリーフ圧Prよりは低い作用開始油圧が油圧室80に供給されたときに働き始めるように設定されているため、上記の図4に示されるように、上記の屈曲点は、通常作動領域とテーパー部88との間に生ずる。
本実施例の油圧アクチュエータ92によれば、図4から明らかなように、通常作動領域ではリターンスプリング82のみが作用するので前記油圧アクチュエータ68と同一の低い油圧でピストン72が動くが、ピストン72の移動量が通常作動領域を越え更に作用開始位置を越えると、第2リターンスプリング94も作用してバネ定数が大きくなることによって、油圧の増分に対するピストン72の移動量が小さくなる。このため、油圧アクチュエータ68の場合におけるリリーフ圧Prよりもやや高いリリーフ圧Pr’まで油圧が上昇したときに、Oリング76がテーパー部88に到達する位置までピストン72が移動して、シリンダ78の内周面とOリング76との隙間から油圧が逃げ、これにより、油圧アクチュエータ68の場合と同様に、Oリング76の損傷が抑制される。
ところで、リリーフ圧Pr、Pr’は、Oリング76の損傷を抑制する観点からその最大値が定められるが、必要以上に油圧を逃がすことは、ポンプ負荷が上昇するため好ましくない。そのため、リリーフ圧Pr、Pr’は、Oリング76に許容される範囲でできるだけ大きくすることが好ましい。上記の油圧アクチュエータ92では、油圧アクチュエータ68に比較して高いリリーフ圧Pr’に設定されているが、上述したようにこの油圧Pr’でOリング76の保護に支障がないので、より好ましい構成であると言える。
また、Oリング76がテーパー部88から円筒部86に戻る際には、そのテーパー部88に到達することによって外周側に拡がったOリング76を径方向に押し潰しながら、ピストン72が油圧室80の縮小方向に移動する。そのため、この際にピストン72の移動に必要な荷重は、通常作動時よりも大きくなり、Oリング76を押し潰して変形させるために十分な大きさに設定する必要がある。本実施例によれば、リターンスプリング82,第2リターンスプリング94が二重に設けられていることから、通常作動時の作動油圧を高くすることなく、Oリング76がテーパー部88に到達した位置からピストン72が戻る際の荷重を十分な大きさに設定できる利点がある。
なお、例えば、油圧アクチュエータ68のようにリターンスプリング82のみの構成で、リリーフ圧Pr’でテーパー部88に入るようにそのバネ定数を設定することも可能である。しかしながら、このようにすると、ストローク量xとバネ荷重Fとが直線的な関係になるため、通常作動領域における最大油圧Pmaxを高く設定するか、テーパー部88の開始位置をより大きなストローク量xに対応する位置に設定する必要がある。そのため、前者では通常時の油圧ポンプの負荷が上がり、後者では油圧アクチュエータが大きくなる弊害がある。これに対して、第2リターンスプリング94を備えた油圧アクチュエータ92によれば、通常時の作動に必要な油圧が高くならないので油圧ポンプの負荷を低く保ちながら、油圧アクチュエータを大きくすることなく、高いリリーフ圧Pr’に設定できる利点がある。
また、図4においては、一点鎖線Bの起点すなわち第2リターンスプリング94の付勢力が働き始める位置が通常作動領域の終端からテーパー部88までの概ね中央に描かれているが、この位置は任意に変更できる。通常作動領域にマージンを持たせる必要がなければその直後に設定することもできる。また、リリーフ圧Pr’を余り高くする必要がなければ、テーパー部88の直前に設けてもよい。作用開始点を通常作動領域に近づけるほど、バネ定数増大の立ち上がりが早くなるので、リターンスプリング82のバネ定数が同一とすれば通常作動領域とテーパー部88とのマージンを小さくすることができ、そのバネ定数を低くして通常作動領域の作動油圧を下げることもできる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、無段変速機構22を備えた車両用変速機10のシンクロメッシュ機構に本発明が適用されていたが、ギヤ鳴りの際に油圧アクチュエータに油撃が生じ得る変速機であれば、有段変速機構を備えた変速機にも本発明は同様に適用される。
また、前述の実施例では、テーパー部88は、シリンダ78の内周面とOリング76との間に僅かに隙間ができる程度に形成されていたが、その隙間の大きさは油撃発生時の油圧の抜けやすさを鑑みて適宜設定できる。例えば、テーパー部88に代えて、円筒部86の内周面よりも大きな内径寸法の段付き部に構成することも可能である。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。