以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態を説明する。以下の実施形態は、透過型のライトガイド及びこれを用いた虚像表示装置に関する。
図1に本実施形態のライトガイド50を示し、かかるライトガイド50を虚像表示光学系の光路上に配置した虚像表示装置の構成を図6に示す。図6では、虚像表示装置における虚像表示光学系の光路を実線で示すとともに、装置のユーザすなわち虚像観察者の目を模式的に描いている。以下、ライトガイド50の面に関し、観察者から見て手前側(図1及び図6において下側)の面を「後面」とし、奥側(図1及び図6において上側)の面を「前面」として説明する。
ライトガイド50は、画像表示素子からの画像光を内部に入射及び導光して虚像表示のために射出する素子であり、本実施形態では、平面視で略楔形の導光部材100を有する。
ライトガイド50の導光部材100は、画像表示素子からの画像光を内部に取り込んで導光し、虚像表示のために外部に射出する役割を有する。このため、導光部材100は、画像光を内部に入射する光線入射部101、入射した画像光を反射して内部に導光させるための前面及び後面、導光した画像光を取り出して外部に射出するための光線射出部104を備える。さらに、導光部材100は、光線入射部101から入射し導光部材内を進行する画像光の方向を反転させる再帰反射部106と、再帰反射部106で進行方向が反転された画像光を光線射出部104に導光して取り出す画像取り出し部103を備える。
本実施形態では、導光部材100の前面に画像取り出し部103が、導光部材100の後面に光線射出部104が、それぞれ設けられている。画像取り出し部103は、内部に導光される画像光を光線射出部104に向けて反射させる役割を有し、光線射出部104は、画像取り出し部103から導かれた画像光を虚像観察者の目に向けて外部に射出させる役割を有する。
導光部材100の前面のうち画像取り出し部103が設けられていない領域は、入射した画像光を全反射して進行させるための全反射面105である。シースルー性を良好にするために、導光部材100の全反射面105と後面は、それぞれ平面であり、互いに平行に形成されている。
画像取り出し部103は、再帰反射部106に向かって導光部材100の部材の厚みが増すような形状となっており、詳細な構成については後述する。再帰反射部106は、光線入射部101とは反対側の端面に形成されており、詳細な構成については後述する。
導光部材100の光線入射部101を図2に拡大して示す。光線入射部101は、導光部材100の後面から連続して設けられており、画像光の入射面積をより広く確保するために、導光部材100の前面から突起した形状となっている。
導光部材100の画像取り出し部103を図3に拡大して示す。図3中、光線射出部104と平行な基準面を点線で表している。
画像取り出し部103は、略階段状の形状を呈し、図3に示すように、第1面103aと、第2面103bと、第3面103cと、が光線入射部101に向かってこの順で繰り返し配置された構造となっている。画像取り出し部103の第1面103aは、光線射出部104に対してθaの角度で傾斜する平面であり、再帰反射部106に対向するように配置されている。第2面103bは、再帰反射部106側(図3の右側)に隣接する第1面103aの下端から連続し、光線入射部101側(図3の左側)に隣接する第3面103の下端に連続する平面である。第2面103bは、光線射出部104に平行に形成されている。したがって、第2面103bと光線射出部104とのなす角θb=0°である。
第3面103cは、第1面103aの上端から傾斜の向きを反転して連続する平面であり、光線射出部104に対してθcの角度で傾斜している。第3面103cの下端は、再帰反射部106側(図3の右側)に隣接する第2面103bに連続している。ここで、第3面103cは、光線入射部101に対向するように配置されており、言い換えると、第1面103aとは逆向きに傾斜している。第3面103cは、第1面103aよりも小さい面積であり、第2面103bの一端から第1面103aの上端に向かって立ち上がるように形成されている。
画像取り出し部103において、第1面103aは、導光部材100の内部に入射し且つ再帰反射部106で反射した画像光を光線射出部104に導いて光線射出部104から射出させる役割を担う面である。光線射出部104に対する第1面103aの傾斜の向きは、光線射出部104に対する光線入射部101の傾斜の向きと同じである。言い換えると、光線入射部101及び第1面103aは、光線射出部104に対して所定の傾斜角で傾斜することにより、再帰反射部106と対向している。
第1面103aが光線射出部104に対して傾斜する角度θaの値は、導光部材100の材質の屈折率にもよるが、20度から40度までの範囲に設定することが好ましい。
他方、第2面103bは、入射された画像光を反射させて再帰反射部106に導く役割、及び再帰反射部106で進行方向が反転された画像光を反射させる反射面としての役割を担う面である。さらに、第2面103bは、シースルー性を確保するため、ライトガイド50の前面及び後面からの外部の光を入射させる透過面としての役割も担っている。
第2面103bを光線射出部104に対して傾斜させる、すなわち角度θb≠0°に設定すると、導光部材100内で導光される画像光が、第2面103bで反射される反射角と、光線射出部104で反射される反射角とで一致せずに変化することになる。この場合、光線入射部101から入射される光線と光線入射部101の法線とのなす角で定義される入射角θinと、光線射出部104から射出される光線と光線射出部104の法線とのなす角で定義される射出角θoutとが同角度とならない。さらに、画像光が第1面103a及び光線射出部104を通じてライトガイド50の外部に射出される際に、異なった方向に射出されてしまい、虚像としては思わしくないものとなってしまう。したがって、本実施形態では、角度θb=0°とし、第2面103bを光線射出部104に対して平行に形成している。
図3に示すように、各第2面103bは、再帰反射部106に近づくに従って当該面の高さが順次高くなるような構造とすることが好ましい。言い換えると、再帰反射部106に近づくに従って、第2面103bと光線射出部104との距離すなわち導光部材100の部材の厚さが大きくなる構成とすることが好ましい。
かかる構成の導光部材100によれば、再帰反射部106で光線の進行方向が反転した後の画像光の進む方向から見ると、光線射出部104からの各第2面103bの高さが順次低くなり、画像光が全反射される間隔が狭まる。このため、画像取り出し部103で反射される光線が次第に増え、光線射出部104から眼に入る光線が多くなり、輝度ムラの少ない良好な虚像を観察することが出来る。
第3面103cは、迷光の発生を抑制する役割を担う面であり、その詳細については後述する。
次に、図1の平面図、図4の斜視図及び図5の前面図を参照して、導光部材100に設けられている再帰反射部106の詳細を説明する。
図1に示すように、再帰反射部106は、光線射出部104に対して垂直な面となる導光部材100の一の側面、具体的には光線入射部101とは反対側の端面に設けられている。この再帰反射部106は、図4及び図5に示すように、多数の面で構成されている。言い換えると、光線入射部101とは反対側の端面は、平面ではなく、再帰反射部106としての多数の面が形成されている。
図5に示すように、再帰反射部106は、光線入射部101に連続する導光部材100の一の側面107に対して角度θsで傾斜する第1傾斜面106aと、第1傾斜面106aに対して角度θpで傾斜する第2傾斜面106bと、が連続して形成される。そして、第1傾斜面106a及び第2傾斜面106bにより、一つのプリズムが構成される。言い換えると、再帰反射部106は、光線入射部101とは反対側の端面上に複数の屋根形のプリズムが連続して設けられてなる構成である。第1傾斜面106aと第2傾斜面106bとは、互いに略等しい形状と面積を有する平面である。
本実施形態において、側面107と第1傾斜面106aとのなす角θsは、135度である。また、第1傾斜面106aと第2傾斜面106bのなす角θpは、プリズムの頂角であり、本実施形態では90度に形成されている。したがって、再帰反射部106は、頂角が90度である多数個のプリズムで構成されている。
再帰反射部106に到達した画像光を良好に反射させるため、再帰反射部106すなわち第1傾斜面106a及び第2傾斜面106bに反射率の高いコートを設けることが好ましい。かかるコートの反射率は、70%以上であることが望ましい。
上述のように、本実施形態では、光線入射部101とは反対側の端面上に再帰反射部106を形成している。他の例として、光線射出部104に対して垂直な面である側面107、或いはかかる側面107に対向する他方の側面108にも再帰反射部を設ける構成としてもよい。
ライトガイド50の構成を更に詳細に説明すると、導光部材100の材質は、シースルー性を考慮すると透過性の高い材質が好ましく、さらに、上述した画像取り出し部103の加工を考慮すると、樹脂で成形することが好ましい。
また、画像取り出し部103には任意のコートを施すことができ、例えば、アルミニウムや銀、誘電コートなどのミラーコートを施すことができる。導光される画像光の光量の損失を出来るだけ防止するために、画像取り出し部103の第1面103aは、反射率が略100%のコートを施すことが望ましい。
導光部材100における画像取り出し部103の第2面103bの幅w(図3参照)の値は、
0.5[mm] < w < 3.0[mm]
の条件を満たすように設定される。ここで、幅wは、導光部材100の長手方向に沿った方向すなわち入射された画像光の進行方向に沿った方向における第2面103bの長さである。
以下、第2面103bの幅wの設定条件について詳細に説明する。
虚像として確認できる視野の幅を「アイボックス」と称し、虚像が確認できる光線射出部104から眼球までの距離を「アイレリーフ」と称する。そして、アイボックスの径をφ、アイレリーフをL、ライトガイドの厚み(肉厚)をtl、画像取り出し部103が有する光線射出部104と平行な面すなわち第2面103bの数をnとすると、第2面103bの幅wは、次式で表される。
ここで、アイボックスの幅が広いほど見える範囲も広くなるため、通常、アイボックス径φは大きいほうが望ましい。他方、アイボックス径φを大きくすると、ライトガイドの厚みが厚くなり、ライトガイドの設計難易度が高くなりがちとなる。
一般的には、目の瞳の直径は5mm程度であるが、個人差に応じてライトガイド50の適切な位置設定が必要となるため、アイボックス径φを大きく設定する方が良い。また、後述のようにライトガイド50を眼鏡型の虚像表示装置に適用することを考慮すると、一般にアイレリーフLは15mm以上必要である。
したがって、例えばアイレリーフを20mmに設定し、アイボックスを5mm以上10mm以下に設定すると、第2面103bの幅wは、上記の
0.5[mm] < w < 3.0[mm]
の条件を満たす必要がある。
画像取り出し部103の第2面103bの幅wが0.5mmに満たない場合、第1面103aの幅が短くする必要があり、入射された画像光の回折現象が生じやすくなり、また製造が難しくなるため、望ましくない。さらに、第1面103aの幅を短くすることなしに、アイレリーフ20mmの位置においてアイボックス5mm以上10mm以下を確保するためには、ライトガイドの厚みを増す必要があり、重量も大きくなるため望ましくない。
一方、第2面103bの幅wが3.0mmを超える場合、入射された画像光につき、第1面103aを反射して光線射出部104から射出される光線の密度が低下し、目の位置における光量が低下するため、望ましくない。したがって、画像取り出し部103の第2面103bの幅wは、0.5[mm] < w < 3.0[mm]の条件を満たすことが望ましい。
第2面103bの幅wは、各々の第2面103bで異なる値としてもよい。具体的には、通常、光線入射部101からの距離が短くなるほど画像光の光線密度が低下することから、光線入射部101からの距離が短くなるほど第2面103bの幅wを小さくする設定にするとよい。かかる設定とすることで、光線入射部101から近くなるほど第1面103aの単位長さあたりの配置数が増えるので、光量ムラを低減させることができる。
同様に、光量ムラを低減させるために、画像取り出し部103の第1面103aの幅を各々の第1面103aで異なる幅としてもよい。ここで、第1面103aの幅は、導光部材100の長手方向に沿った方向すなわち入射された画像光の進行方向に沿った方向における第1面103aの長さである。具体的には、光線入射部101からの距離が短くなるほど第1面103aの幅を大きくする設定にするとよい。かかる設定とすることにより、光線入射部101から近くなるほど第1面103aの面積が大きくなるので、光量ムラを低減させることができる。
ライトガイド50の厚みは、1mmから8mmの範囲とすることが望ましい。ライトガイド50の厚みが1mmに満たないと、導光部材100の画像取り出し部103の形状を形成することが困難となる。他方、ライトガイド50の厚みが8mmを超えると、広視野角を得るには有利であるが、部材の重量が大きくなることから、好ましくない。
以下、上述したライトガイド50を用いた虚像表示装置について、図6を参照して説明する。
図6に示す本実施形態の虚像表示装置は、表示画像の画像光を出力する画像表示素子10と、画像表示素子10からの画像光をコリメートして射出するコリメート光学系300と、上述したライトガイド50とを虚像表示光学系として備える。図6では、画像表示素子10の画像表示面の中心から射出される画像光の光路を示している。また、図6中、光線射出部104に対する法線を一点鎖線で表し、かかる法線を基準とした画像光の反射角度をθ1 及びθ2で表している。これら角度θ1 及びθ2の定義は後述する。
かかる虚像表示光学系において、コリメート光学系300は、導光部材100の光線入射部101の直近に配置され、画像表示素子10で表示される画像光すなわち表示画像の画像情報を角度変換して導光部材100に入射させる役割を担う。
画像表示素子10は、ライトガイド50を通じて表示する虚像の基となる表示画像の画像光を出力するデバイスである。画像表示素子10は、有機ELD(OLED:Organic Light Emitting Diode)や液晶表示素子が好適であるが、他にも種々の表示方式のものが適用できる。例えば、画像表示素子10として、DMD(Digital Micromirror Device)が適用可能である。また、画像表示素子10として、TFT(Thin Film Transistor)やLCOS(Liquid Crystal On Silicon)が適用可能である。さらに、画像表示素子10として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が適用可能である。
図6では、画像表示素子10として、光源を必要とするLCOSやDMDなどを用いた例を示しており、画像表示素子10を照明するための光源LSを加えている。光源LSは、種々のものが適用でき、例えばLED(Light Emitting Diode)、半導体レーザ(Laser Diode:LD)、放電ランプなどを用いることができる。
コリメート光学系300は、複数の光学レンズや絞りなどから構成され、画像表示素子10から出力される画像光を拡大し平行光として射出する。
かかる虚像表示装置によれば、光源LSで照明された画像表示素子10の画像光は、コリメート光学系300を通過することで、拡大され平行光としてライトガイド50に入射する。すなわち、コリメート光学系300で拡大された平行光である画像光は、ライトガイド50における導光部材100の光線入射部101から入射し、導光部材100の内部に導光される。導光された画像光は、導光部材100の内部すなわち前面及び後面をθ1 の角度で全反射しながら再帰反射部106に向かって進行する。画像光は、再帰反射部106に到達すると、再帰反射部106の上述した第1傾斜面106a及び第2傾斜面106bによる多数のプリズムによって反射され、光線入射部101の方向に進むように進行方向が反転する。進行方向が反転した画像光は、導光部材100の前面及び後面をθ2の角度で全反射しながら光線入射部101の方向に進む。そして、画像光が画像取り出し部103の第1面103aに到達すると、第1面103aで反射されて光線射出部104に導かれ、光線射出部104からユーザの両目に向けて画像情報として射出される。ユーザは、導光部材100の光線射出部104を通して前方を覗くことで、画像光の虚像を視認することができる。
次に、導光部材100内に導光される画像光の進行状態の詳細について、図面を参照しながら説明する。図7は、再帰反射部106が設けられていない参考例としての導光部材1000に画像光が入射されている状態を示している。この参考例としての導光部材1000は、再帰反射部106を有しない点、および、画像取り出し部103の第1面103aが逆向きすなわち光線入射部101と対向する向きに形成されている点で、上述の実施形態の構成とは異なっている。
図示のように、画像表示素子10から射出された画像光は、コリメート光学系300を通過することでコリメート光とされた状態で、導光部材1000の光線入射部101から入射して導光部材1000内を進行する。光線入射部101から入射した画像光は、導光部材1000内を全反射することにより、図7に示すように、発散光となって導光部材1000内を進行する。すなわち、光線入射部101から入射した画像光は、導光部材1000内を進むに従って発散していることが分かる。この画像光の発散の度合いは、広角方向の光になる程顕著になる。したがって、導光部材1000内を進行する画像光は、垂直視野方向に広がって進行する。
この導光部材1000では、画像取り出し部103の第1面103aから画像光を取り出そうとすると、発散光のまま取り出すことになるので、光線射出部104から射出され観察者の眼に入ってゆく画像光は、垂直視野方向に発散するものとなる。このため、発散角度の大きい画像周辺部などの画像光が観察者の眼に光が入らず、観察される虚像が欠けることになる。
本実施形態のライトガイド50の導光部材100内で画像光が導光される様子を図8及び図9に示す。ここで、図8はライトガイド50の前面側(正面)から表した図であり、図9はライトガイド50の側面側(上方)から表した図である。また、図8及び図9では、分かりやすくするために、画像表示素子10の画像表示面の隅から射出された1本の光線400のみを抽出して示している。
図示のように、画像表示素子10の隅から射出された画像光は、コリメート光学系300を通過してコリメート光とされた状態で、導光部材100の光線入射部101から入射して導光部材100内を進行する。導光部材100の光線入射部101から入射した画像光は、導光部材100内を全反射することにより、発散光となって導光部材100内を進行する。すなわち、光線入射部101から入射した画像光は、再帰反射部106に達するまでは、図7で上述した例と同様に発散光として導光部材100内を進行する。
続いて、画像光は、再帰反射部106で反射することにより、進行方向すなわち導光する方向が反転する。ここで、画像光は、再帰反射部106を構成する第1傾斜面106a及び第2傾斜面106bの両面で反射して、平面方向から見た入射光と出射光が平行になるとともに、収束光となって導光部材100内を進行する。さらに、画像光は、画像取り出し部103の第1面103aで反射して、収束光として光線射出部104から射出され、観察者の眼の方向に導かれる。このように、本実施形態のライトガイド50によれば、画像光が収束光として射出され、観察者の眼に提供されるので、広角でも虚像が欠けずに良好に観察できる虚像表示装置を実現できる。
次に、図10乃至図20を参照して、迷光の発生及び迷光を抑制するための条件等につて詳細に説明する。
まず、図10及び図11を参照して、再帰反射部106に到達する前の画像光が迷光になる場合について説明する。図10及び図11中、画像取り出し部103の第2面103bに当たった正規光としての画像光を実線で示し、迷光の発生原因となる画像光を点線で示している。また、図10及び図11中、第2面103bに対する法線を一点鎖線で表し、かかる法線を基準とした画像光の反射角度をθ1 で表している。
図10は、再帰反射部106に到達する前の画像光のうち、画像取り出し部103の第3面103cに当たる光線が迷光になる場合を説明する図である。上述のように、画像光は、コリメート光学系300を介して導光部材100の光線入射部101から入射し、互いに平行な前面及び後面でθ1の角度で全反射することにより、再帰反射部106に向かって導光部材100内を進行する。ここで、画像光が導光部材100の前面で全反射するためには、上述した全反射面105または画像取り出し部103の第2面103bに画像光が当たることが求められる。
図10中、導光部材100内を進行する画像光のうち第2面103bに当たらずに第3面103cに当たった画像光を点線で示している。図10に示すように、画像光が後面及び第2面103b間で全反射され続けることにより、その光線は、正規光として再帰反射部106に向かって導光部材100内を進行する。他方、画像光が、第2面103bに当たらずに第3面103cに当たって導光部材100内に反射され導光される場合には、その後の全反射角がθ1から変化することになる。したがって、かかる画像光は、図10中の点線で示すように、再帰反射部106に到達する前に光線射出部104から外部に射出されるなどにより、迷光となり得る。
また、図11中の点線で示すように、画像光が第1面103aに当たった直後に第3面103cに当たる場合も、全反射角がθ1から変化するため、その光線は、再帰反射部106に到達する前に光線射出部104から外部に射出されるなどにより、迷光となり得る。
図12は、再帰反射部106で反射した後の画像光のうち、画像取り出し部103の第3面103cに当たる光線が迷光になる場合を説明する図である。図12中、第2面103bに対する法線を一点鎖線で表し、かかる法線を基準とした画像光の反射角度をθ2 で表している。
上述のように、再帰反射部106に向かう画像光は、再帰反射部106で反射して進行方向が反転した後に、当該画像光を光線射出部104からユーザの眼球に入射させるために、画像取り出し部103における傾斜角度θaを有する第1面103aで反射される。図12中の実線は正規光を示しており、再帰反射部106で反射した後の画像光の一部が第2面103b及び光線射出部104をθ2の角度で全反射して進行し、第1面103aで反射されて光線射出部104から射出される様子を示している。他方、図12中の点線で示すように、再帰反射部106で反射した後の画像光が第1面103aで反射されるよりも前に第3面103cに当たる場合、角度が変化し光線情報すなわち画像の角度及び位置情報が保存されなくなるため、かかる画像光は迷光となり得る。
上述のような迷光の発生を防止するための条件について以下に述べる。
図13は、再帰反射部106に到達する前の画像光のうち、画像取り出し部103の第3面103cに当たる光線が導光部材100内に反射されずに外部に射出される場合を説明する図である。図13中、光線射出部104に平行な面を点線で表している。図13に示すように、導光部材100内を再帰反射部106に向かって進行する画像光が第2面103bに当たらずに第3面103cに当たった場合でも、第3面103cの傾斜の度合いによっては、当該画像光は第3面103cで反射されず、外部に射出される。すなわち、第3面103cの傾斜角θcが所定範囲内であれば、第3面103cは、反射面ではなく透過面として機能し、この面に当たる光線を全て透過させることができる。したがって、この場合には迷光の発生を抑制することが可能になる。
このように、再帰反射部106に向かって進行し画像取り出し部103の第3面103cに当たった画像光の光線が第3面103cから外部に射出されるためには、以下の式(1)の条件下において式(2)を満たす必要がある。
θa<90−θ1 ・・・式(1)
|90−θc−θ1|<sin−1(1/n) ・・・式(2)
式(1)及び式(2)中、θaは光線射出部104に対する第1面103aの傾斜角度、θcは光線射出部104に対する第3面103cの傾斜角度である。また、θ1 及び|θ1|は、再帰反射部106で反射する前に導光部材100の内部を導光する光線の光線射出部104及び第2面103bに対する反射角度である(図6、図10等参照)。さらに、式(2)中、nは導光部材100の屈折率である。かかる記号の意味は、後述する式(3)、式(4)でも同一である。
すなわち、再帰反射部106に向かう画像光のうち第3面103cに当たった光線が図13に示すように外部に射出されるようにするためには、上記式(1)の条件下において式(2)を満たすように第3面103cの傾斜角度θcを設定する必要がある。かかる条件を満たすことにより、再帰反射部106に向かう画像光が第3面103cに当たることに起因する迷光の発生を抑制することが可能になる。
図14は、光線射出部104に対する第3面103cの角度θcが式(1)を満たす条件下で式(2)を満たさない場合の画像光の光路を示している。図14では角度θcが相対的に小さいすなわち第3面103cの傾斜が緩やかな場合を示している。この場合、画像取り出し部103の第3面103cに当たった光線は、その後の光線射出部104及び第2面103bに対する反射角度がθ1 と異なった角度に変化して進行する。したがって、かかる光線が例えば再帰反射部106に到達する前に光線射出部104から射出されるなどにより、画像上で局所的に強い迷光が発生し画像を劣化させる。
図15は、再帰反射部106に到達する前の画像光のうち、画像取り出し部103の第1面103aに当たった直後に第3面103cに当たる光線が導光部材100内に反射されずに外部に射出される場合を説明する図である。図15に示すように、導光部材100内を再帰反射部106に向かって進行する画像光が第1面103aで反射した後に第3面103cに当たった場合でも、第3面103cの傾斜の度合いによっては、当該画像光は第3面103cで反射されず、外部に射出される。すなわち、第3面103cの傾斜角θcが所定範囲内であれば、第3面103cは、第1面103a及び第3面103cに当たった光線に対しても透過面として機能し、第3面103cに当たる光線を全て透過させることができる。したがって、この場合にも迷光の発生を抑制することが可能になる。
このように、再帰反射部106に向かって進行する画像光のうち、第1面103aで反射した後に第3面103cに当たった光線が第3面103cから外部に射出されるためには、上述の式(1)の条件下において以下の式(3)を満たす必要がある。
|180−2θc−θ1|<sin−1(1/n) ・・・式(3)
すなわち、再帰反射部106に向かう画像光のうち、第1面103a及び第3面103cに当たった光線が外部に射出されるようにするためには、上記式(1)の条件下において式(3)を満たすように第3面103cの傾斜角度θcを設定する必要がある。かかる条件を満たすことにより、再帰反射部106に向かう画像光が第1面103a及び第3面103cに当たることに起因する迷光の発生を抑制することが可能になる。
図16は、光線射出部104に対する第3面103cの角度θcが式(1)を満たす条件下で式(3)を満たさない場合の画像光の光路を示している。図16では角度θcが相対的に小さいすなわち第3面103cの傾斜が緩やかな場合を示している。この場合、画像取り出し部103の第1面103a及び第3面103cに当たる光線は、その後の光線射出部104及び第2面103bに対する反射角度がθ1 と異なった角度に変化して進行する。したがって、かかる光線が例えば再帰反射部106に到達する前に光線射出部104から射出されるなどにより、画像上で局所的に強い迷光が発生し画像を劣化させる。
図17は、再帰反射部106で反射され進行方向が反転した画像光が、画像取り出し部103の第3面103cに当たることなく第1面103aに当たる場合を説明する図である。図17に示すように、再帰反射部106で反射された後の画像光が画像取り出し部103の第3面103cに当たることなく第1面103aに当たるようにするためには、以下の式(4)を満たす必要がある。
θc>90−θ2 ・・・式(4)
式(4)中、θ2は、再帰反射部106で反射した後に導光部材100の内部を導光する光線の光線射出部104及び第2面103bに対する反射角度である(図6及び図12参照)。
すなわち、再帰反射部106で反射された後の画像光が画像取り出し部103の第3面103cに当たることなく第1面103aに当たるようにするためには、式(4)を満たすように第3面103cの傾斜角度θcを設定する必要がある。かかる条件を満たすことにより、再帰反射部106で反射された後の画像光が第1面103cに当たることに起因する迷光の発生を抑制することが可能になる。
図18は、光線射出部104に対する第3面103cの角度θcが式(4)を満たさない場合の画像光の光路を示している。図18では角度θcが相対的に小さいすなわち第3面103cの傾斜が緩やかな場合を示している。この場合、再帰反射部106で光の方向が反転した後の画像光は、画像取り出し部103の第3面103cに当たって全反射した後に第1面103aで全反射するため、画像上で局所的に強い迷光を生じ画像を劣化させる。
(第2の実施形態)
上述した実施形態では、画像取り出し部103の第3面103cを平滑面ないし鏡面とした場合について説明した。第2の実施形態では、画像取り出し部103の第3面103cを、投射された光が散乱して反射する散乱面とした場合について説明する。図19は、画像取り出し部103の第3面103cを散乱面にした第2の実施形態における画像光の光路を示している。
図10乃至図12で説明したように、導光部材100内で導光される画像光が第3面103cに当たって導光部材100内に反射される場合には、かかる光線は、図10乃至図12中に実線で示す正規光とは異なる角度で反射することから、迷光となり得る。具体的には、画像取り出し部103の第3面103cが鏡面である場合、第3面103cに当たる画像光の光束を構成する各光線は、反射の法則により、各々同じ角度に反射する。すなわち、同じ角度で入射した光線は全て同じ角度で反射するため、鏡面である第3面103cに画像光が当たって導光部材100内に反射される場合には、画像上で局所的に強い迷光を生じ画像を劣化させる。
これに対して、画像取り出し部103の第3面103cを散乱面にした場合には、図19に示すように、第3面103cに当たる画像光の光束を構成する各光線は、散乱して反射する、すなわち、各々異なる角度で異なる方向に反射する。この場合、画像上で局所的に強い迷光を生じることがなく、画像劣化を軽減することが可能となる。
図19では、第3面103cを散乱面とし、再帰反射部106に到達する前の画像光が第3面103cに直接当たる場合を例示して説明した。第3面103cが散乱面であれば、再帰反射部106に到達する前の画像光が第1面103a及び第3面103cに当たる場合や、再帰反射部106で反射した後の画像光が第3面103cに当たる場合にも散乱して反射するので、同様の効果が得られる。したがって、第3面103cを散乱面とすることにより、導光部材100内で導光される画像光のうち、第3面103cに当たる画像光の各光線を散乱して反射させることができ、画像劣化を軽減することが可能となる。
第3面103cを散乱面とする場合、画像取り出し部103における複数の第3面103cの中の一部を散乱面にすること、或いは全ての第3面103cを散乱面にすること、のいずれであってもよい。
(第3の実施形態)
図20は、画像取り出し部103の第3の実施形態の構成を示すものであり、画像取り出し部103の第3面103cを曲面とした場合の画像光の光路を示している。画像取り出し部103の第3面103cの箇所を他の実施形態のような平面とせずに曲面とした場合、かかる第3面103cに当たる画像光の光束を構成する各光線は、同一方向に反射することはない。このため、画像上で局所的に強い迷光を生じることがなく、画像劣化を軽減することが可能となる。
第3面103cを曲面とする場合、図20に示すように、導光部材100の外部から見て凹面にすることが好ましい。この場合、第3面103cは、導光部材100の内部からは凸状の面になり、当該面に当たる画像光の各光線が散乱し、より局所的な迷光を軽減させることができる。第3面103cを曲面とした場合、かかる曲面の曲率は、小さいほど光線の散乱が大きくなるため望ましいが、製造しやすさとのトレードオフの関係となる。
図20に示す実施形態では第3面103cを球面にする例を述べた。他の例として、第3面103cを曲面とする場合、かかる曲面を非球面や自由曲面とすることもできる。
上述した実施形態では、虚像観察者の左側に導光部材100の光線入射部101を配置して、画像光を虚像観察者の左側から入射する例について説明した。かかる配置を左右逆にする場合、すなわち虚像観察者の右側に導光部材100の光線入射部101を配置して、画像光を虚像観察者の右側から入射する場合も、上述と同一の効果が得られる。
また、図6や図9では虚像観察者の片方の目のみ図示したが、ライトガイド50は、射出される画像を両目で確認することができる。他方、ライトガイド50をより小型に形成して、単眼用のライトガイドとすることもできる。
上述した実施形態では、ライトガイド50を眼鏡型のHMDに適用する場合を想定して説明した。上述したライトガイド50は、他の種類のHMDにも適用可能であり、さらには、ヘッドアップディスプレイ(HUD)にも適用できる。ライトガイド50は、特に、微小デバイスにより光変調された光束によって形成される原画像を虚像表示するのに適している。
以上のように、上述した実施形態によれば、肉薄で、広い視野角を確保でき、特に垂直方向の視野角を良好に確保しつつ迷光の発生を抑制できる虚像表示装置用のライトガイドを提供することができる。
(虚像表示装置の実施例および比較例)
以下、再び図13乃至図20を参照して、虚像表示装置の具体的な実施例と比較例を説明する。以下の各例では、共通条件として、焦点距離が7.5mmのコリメータレンズを使用し、屈折率(Nd)=1.53のプラスチックでライトガイドを製作し、第1面の角度θa=31.5度に設定した。
また、共通条件として、ライトガイドの寸法を以下の数値に設定して製作した。
・ライトガイドの厚み(肉厚) :最薄部1mm 、最厚部1.9mm
・ライトガイドの長手方向の長さ:46mm
・ライトガイドの幅:33mm
さらに、射出される画像光に関し、アイレリーフ15mm以上、アイボックス5mm以上の条件を満たし、水平視野角=50度、垂直視野角=27度が確保されるようにライトガイドを製作した。
以下に説明する各実施例では、上述した式(2)を満たし得るものとして、第3面103cの角度θcをθc=45度に設定してライトガイド50を製作した。他方、各比較例では、上述した式(2)を満たさないものとして、第3面103cの角度θcをθc=15度に設定してライトガイドを製作した。そして、各例では、製作されたライトガイドに画像表示素子10とコリメート光学系300を配置して画像表示装置を作り、種々の条件下で実験を行った。
(実施例1)
実施例1では、再帰反射部106に到達する前の画像光が第1面103aに当たらず且つ第3面103cに当たるように、コリメート光学系300の位置を微調整して実験した。
この結果、図13に示すように、再帰反射部106に到達する前の画像光の一部が第3面103cから全て外部に射出されることにより、迷光の発生を抑制することができた。したがって、実施例1のライトガイドによれば、上述した式(2)を満たし、垂直方向の視野角を確保しつつ迷光の抑制が実現された。
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様に、再帰反射部106に到達する前の画像光が第1面103aに当たらず且つ第3面103cに当たるように、コリメート光学系300の位置を微調整して実験した。
この結果、図14に示すように、再帰反射部106に到達する前の画像光の一部が第3面103cからライトガイドの内部に反射され、かかる画像光が迷光の発生原因となった。したがって、比較例1のライトガイドでは、垂直方向の視野角は確保されたものの迷光が発生しやすいものとなった。
(実施例2)
実施例2では、上述した実施例1で製作したライトガイドを使用しつつ、再帰反射部106に到達する前の画像光の一部が第1面103aに当たるようにコリメート光学系300の位置やレンズの種類などを変更して実験した。
この結果、図15に示すように、再帰反射部106に到達する前の画像光の一部が第1面103aで反射した後に第3面103cに当たり、第3面103cから外部に射出されることにより、迷光の発生を抑制することができた。したがって、実施例2のライトガイドによれば、上述した式(3)を満たし、垂直方向の視野角を確保しつつ迷光の抑制が実現された。
(比較例2)
比較例2は、上述した比較例1で製作したライトガイドを使用しつつ、実施例2と同様に、再帰反射部106に到達する前の画像光が第1面103aに当たるようにコリメート光学系300の位置やレンズの種類などを変更して実験した。
この結果、図16に示すように、再帰反射部106に到達する前の画像光の一部が第1面103aで反射した後に第3面103cに当たり、さらに第3面103cからライトガイドの内部に反射され、かかる画像光が迷光の発生原因となった。したがって、比較例2によれば、垂直方向の視野角は確保されたものの迷光が発生しやすいものとなった。
(実施例3)
実施例3では、上述した実施例1で製作したライトガイドを使用しつつ、再帰反射部106で反射された後の画像光の一部が第1面103aに当たるようにコリメート光学系300の位置を微調整して実験した。
この結果、図17に示すように、再帰反射部106で反射された後の画像光の一部は、第1面103aで反射した後に光線射出部104に良好な角度で導かれ、かかる画像光が全て光線射出104から外部に射出されることにより、迷光の発生が抑制された。したがって、実施例3によれば、上述した式(4)を満たし、垂直方向の視野角を確保しつつ迷光の抑制が実現された。
(比較例3)
比較例3は、上述した比較例1で製作したライトガイドを使用しつつ、コリメート光学系300の位置については実施例3と同一の条件で実験した。
この結果、図18に示すように、再帰反射部106で反射された後の画像光の一部は、第3面103cに当たり、第3面103cで反射された後に第1面103aに当たった。かかる画像光は、第1面103aで反射された後に光線射出104に到達するが、光線射出104への入射角度が良好でないため、光線射出104から外部に射出されずに全反射され、迷光の原因となった。したがって、比較例3によれば、垂直方向の視野角は確保されたものの迷光が発生しやすいものとなった。
(実施例4)
実施例4は、第3面103cを光散乱面である粗面に成形したライトガイドを使用した。そして、実施例4では、実施例1と同様に、再帰反射部106に到達する前の画像光が第1面103aに当たらず且つ第3面103cに当たるように、コリメート光学系300の位置を微調整して実験した。
この結果、図19に示すように、再帰反射部106に到達する前の画像光の一部が第3面103cからライトガイドの内部に散乱して反射された。第3面103cからライトガイドの内部に散乱して反射された画像光は、その内の一部が迷光の発生原因となったが、比較例1(図14参照)と比較すると迷光の発生は僅かであり、視認される虚像も良好であった。したがって、実施例4によれば、垂直方向の視野角を確保しつつ迷光の抑制が実現された。
(実施例5)
実施例5は、第3面103cの部位を平面ではなく曲面すなわちライトガイドの外部から見て凹面に成形したライトガイドを使用した。そして、実施例5では、実施例1と同様に、再帰反射部106に到達する前の画像光が第1面103aに当たらず且つ第3面103cに当たるように、コリメート光学系300の位置を微調整して実験した。
この結果、図20に示すように、再帰反射部106に到達する前の画像光の一部が第3面103cからライトガイドの内部に拡散するように反射された。第3面103cからライトガイドの内部に拡散して反射された画像光は、その内の一部が迷光となったが、比較例1(図14参照)に比べて迷光の発生は僅かであり、視認される虚像も良好であった。したがって、実施例5によれば、垂直方向の視野角を確保しつつ迷光の抑制が実現された。
以上のように、上述した実施形態及び実施例によれば、肉薄で、40度以上の広い視野角を確保でき、特に垂直方向の視野角を良好に確保しつつ迷光の発生を抑制できる虚像表示装置用のライトガイドを提供することができる。