以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態を説明する。以下に説明する各実施形態は、透過型のライトガイドを用いた虚像表示装置に関し、より具体的には、左右一対の虚像光学系を備えたヘッドマウントディスプレイ(HMD)に関する。
(第1の実施形態)
図1に第1実施形態に係るHMDとしての虚像表示装置1の構成を示し、その変形例を図6乃至図8にそれぞれ示す。これら図1,図6乃至図8では、虚像表示装置における虚像表示光学系の光路を実線で示すとともに、装置のユーザすなわち虚像観察者の目を模式的に描いている。
図1に示すように、虚像表示装置1は、左右一対の虚像光学系を有しており、各々の虚像光学系は、画像表示素子10(10L,10R)と、コリメート光学系300(300L,300R)と、ライトガイド50(50L,50R)とを含む。また、虚像表示装置1は、これらの光学素子を格納するケーシングやヘッドバンドなどの筐体を有する。以下、特に明示しない限り、左目用(L側)の虚像光学系の構成を説明する。また、ライトガイド50の面に関し、観察者から見て手前側(図1において下側)の面を「後面」とし、奥側(図1において上側)の面を「前面」として説明する。
画像表示素子10は、ライトガイド50を通じて表示する虚像の基となる表示画像の画像光を出力するデバイスである。画像表示素子10は、有機ELD(OLED:Organic Light Emitting Diode)や液晶表示素子が好適であるが、他にも種々の表示方式のものが適用できる。例えば、画像表示素子10として、DMD(Digital Micromirror Device)が適用可能である。また、画像表示素子10として、TFT(Thin Film Transistor)やLCOS(Liquid Crystal On Silicon)が適用可能である。さらに、画像表示素子10として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が適用可能である。
本実施形態では、画像表示素子10は、左目用の画像表示素子10Lと右目用の画像表示素子10Rとで互いに異なる表示画像の画像光を出力する構成となっており、かかる構成の詳細は後述する。
また、本実施形態では、画像表示素子10(10L,10R)は、それぞれ横(水平方向)に長い矩形の表示面を有し、かかる表示面の全ての領域から画像光を出力するのではなく、一部の領域から画像光を出力するようになっている。
具体的には、画像表示素子10(10L,10R)の表示面は、その長手方向に対して、画像光を出力する出力領域10dと、画像光を出力しない非出力領域10nとに区分される。本実施形態では、左目用の画像表示素子10Lの表示面の右側、及び右目用の画像表示素子10Rの表示面の左側に、出力領域10dがそれぞれ形成される。この例では、出力領域10dは、画像表示素子10の表示面の1/2の面積であり、言い換えると、表示面における出力領域10dと非出力領域10nとの面積比は1対1である。表示面における出力領域10dと非出力領域10nとの面積比は種々に変更され得る。
コリメート光学系300は、図1では模式的に描いているが、実際には複数の光学レンズや絞りなどから構成され(図4参照)、画像表示素子10から出力される画像光を拡大し平行光として射出する。
ライトガイド50は、画像表示素子10が射出する画像光を内部に入射及び導光して虚像表示のために射出する素子であり、本実施形態では、全体が略角柱状、平面視で五角形の外形を呈する導光部材100からなる。
ライトガイド50の導光部材100は、画像表示素子10からの画像光を内部に取り込んで導光し、虚像表示のために外部に射出する役割を有する。このため、導光部材100は、画像光を内部に入射する光線入射部101、入射した画像光を反射する反射部102、画像光を内部に導光させるための前面及び後面、導光した画像光を取り出して外部に射出させるための光線射出部104を備える。また、導光部材100は、画像光を光線射出部104に導光して取り出す画像取り出し部103を備える。
本実施形態では、導光部材100の前面に画像取り出し部103が、導光部材100の後面に光線射出部104が、それぞれ設けられている。画像取り出し部103は、導光部材100の内部に導光される画像光を光線射出部104に向けて反射させる役割を有し、光線射出部104は、画像取り出し部103から導かれた画像光を虚像観察者の目に向けて外部に射出させる役割を有する。
導光部材100の前面のうち画像取り出し部103が設けられていない領域は、入射した画像光を全反射して進行させるための全反射面105である。シースルー性を良好にするために、導光部材100の全反射面105と後面は、それぞれ平面であり、互いに平行に形成されている。
図1では導光部材100の前面すなわち全反射面105と画像取り出し部103が一直線であるが、本実施形態では、画像取り出し部103は階段状の構成であり(図3参照)、詳細な構成については後述する。画像取り出し部103は、光線入射部101に向かって導光部材100の部材の厚みが増すような形状となっている。
図2に、導光部材100の光線入射部101及び反射部102を拡大して示し、光線入射部101及び反射部102の各々の延長線を点線で示す。図2に示すように、反射部102は、光線入射部101に対して角度θ0で傾斜している。光線入射部101は、導光部材100の後面に設けられており、反射部102は、導光部材100の前面に対して所定の角度(180−θ0度)をなして設けられている。本実施形態では光線入射部101と反射部102との間に切欠面100aが設けられている。他の形態として、切欠面100aがない構成、すなわち光線入射部101と反射部102とが平面三角形状に連続する構成としてもよい。
反射部102には任意のコート材によるコーティングを施すことができる。ライトガイド50の内部に画像情報を導光させるためには、反射部102は、アルミニウムや銀、誘電コートなどの反射率が高いミラーコートを施すことが望ましい。
導光部材100の画像取り出し部103を図3に拡大して示す。図3中、光線射出部104と平行な基準面を点線で表している。画像取り出し部103は、図3に示すように、光線射出部104に対してθaの角度を有する第1面103aと、光線射出部104に対してθbの角度を有する第2面103bとが交互に配置されており、略階段状の形状をなしている。図3中、光線射出部104と平行な仮想面を点線で表し、第2面103bの幅をwで表している。
画像取り出し部103の第1面103aは、導光部材100の内部に入射した画像光を光線射出部104に導いて光線射出部104から射出させる役割を担う面であり、光線射出部104に対してθaの角度で傾斜する平面となっている。ここで、光線射出部104に対する第1面103aの傾斜の向きは、光線入射部101に対する反射部102の傾斜の向きと逆である。
第1面103aが光線射出部104に対して傾斜する角度θaの値は、導光部材100の材質の屈折率にもよるが、20度から40度までの範囲に設定することが好ましい。また、角度θaの値は、上述した光線入射部101に対する反射部102の傾斜角θ0の値と同一に設定することがより好ましく、かかる設定とすることで、コリメート光学系300の配置の調整等が容易になる。
他方、第2面103bは、入射された画像光を反射させる反射面としての役割を担う面であり、光線射出部104と平行な平面となっている。したがって、角度θb=0°である。さらに、第2面103bは、シースルー性を確保するため、ライトガイド50の前面及び後面からの外部の光を入射させる透過面としての役割も担っている。
画像取り出し部103すなわち第1面103a及び第2面103bには、任意のコーティングを施すことができる。ここで、ライトガイド50にシースルー性を持たせることを考慮すると、画像取り出し部103には、ある程度透過率を確保したハーフミラーなどのコーティングを施すことが望ましい。
第2面103bを光線射出部104に対して傾斜させる、すなわち角度θb≠0°に設定すると、導光部材100内で導光される画像光が、第2面103bで反射される反射角と、光線射出部104で反射される反射角とで一致せずに変化することになる。この場合、光線入射部101から入射される光線と光線入射部101の法線とのなす角で定義される入射角θinと、光線射出部104から射出される光線と光線射出部104の法線とのなす角で定義される射出角θoutとが同角度とならない。さらに、画像光が第1面103a及び光線射出部104を通じてライトガイド50の外部に射出される際に、異なった方向に射出されてしまい、虚像としては思わしくないものとなってしまう。したがって、本実施形態では、角度θb=0°とし、第2面103bを光線射出部104に対して平行に形成している。
図3に示すように、各第2面103bは、光線入射部101から離れるに従って当該面の高さが順次低くなるような構造とすることが好ましい。言い換えると、光線入射部101から離れるに従って、第2面103bと光線射出部104との距離すなわち導光部材100の部材の厚さが薄くなる構成とすることが好ましい。
導光部材100における画像取り出し部103の第2面103bの幅wの値は、
0.5[mm] < w < 3.0[mm]
の条件を満たすように設定される。ここで、幅wは、導光部材100の長手方向に沿った方向すなわち入射された画像光の進行方向に沿った方向における第2面103bの長さである。
以下、第2面103bの幅wの設定条件について詳細に説明する。
虚像として確認できる視野の幅を「アイボックス」と称し、虚像が確認できる光線射出部104から眼球までの距離を「アイレリーフ」と称する。そして、アイボックスの径をφ、アイレリーフをL、ライトガイドの厚み(肉厚)をtl、画像取り出し部103が有する光線射出部104と平行な面すなわち第2面103bの数をnとすると、第2面103bの幅wは、次式で表される。
ここで、アイボックスの幅が広いほど見える範囲も広くなるため、通常、アイボックス径φは大きいほうが望ましい。他方、アイボックス径φを大きくすると、ライトガイドの厚みが厚くなり、ライトガイドの設計難易度が高くなりがちとなる。
一般的には、目の瞳の直径は5mm程度であるが、個人差に応じてライトガイド50の適切な位置設定が必要となるため、アイボックス径φを大きく設定する方が良い。また、後述のようにライトガイド50を眼鏡型の虚像表示装置に適用することを考慮すると、一般にアイレリーフLは15mm以上必要である。
したがって、例えばアイレリーフを20mmに設定し、アイボックスを5mm以上10mm以下に設定すると、第2面103bの幅wは、上記の
0.5[mm] < w < 3.0[mm]
の条件を満たす必要がある。
画像取り出し部103の第2面103bの幅wが0.5mmに満たない場合、第1面103aの幅を短くする必要があり、入射された画像光の回折現象が生じやすくなり、また製造が難しくなるため、望ましくない。さらに、第1面103aの幅を短くすることなしに、アイレリーフ20mmの位置においてアイボックス5mm以上10mm以下を確保するためには、ライトガイドの厚みを増す必要があり、重量も大きくなるため望ましくない。
一方、第2面103bの幅wが3.0mmを超える場合、入射された画像光につき、第1面103aを反射して光線射出部104から射出される光線の密度が低下し、目の位置における光量が低下するため、望ましくない。したがって、画像取り出し部103の第2面103bの幅wは、0.5[mm] < w < 3.0[mm]の条件を満たすことが望ましい。
第2面103bの幅wは、各々の第2面103bで異なる値としてもよい。具体的には、通常、反射部102からの距離が長くなるほど画像光の光線密度が低下することから、反射部102からの距離が長くなるほど第2面103bの幅wを小さくする設定にするとよい。かかる設定とすることで、反射部102から遠くなるほど第1面103aの単位長さあたりの配置数が増えるので、光量ムラを低減させることができる。
同様に、光量ムラを低減させるために、画像取り出し部103の第1面103aの幅を各々の第1面103aで異なる幅としてもよい。ここで、第1面103aの幅は、導光部材100の長手方向に沿った方向すなわち入射された画像光の進行方向に沿った方向における第1面103aの長さである。具体的には、反射部102からの距離が長くなるほど第1面103aの幅を大きくする設定にするとよい。かかる設定とすることにより、反射部102から遠くなるほど第1面103aの面積が大きくなるので、光量ムラを低減させることができる。
導光部材100の厚みは、1mmから8mmの範囲とすることが望ましい。導光部材100の厚みが1mmに満たないと、画像取り出し部103の形状を形成することが困難となる。他方、導光部材100の厚みが8mmを超えると、広視野角を得るには有利であるが、部材の重量が大きくなることから、好ましくない。
かかる構成の導光部材100によれば、光線入射部101から入射した画像光の進む方向から見ると、各第2面103bの高さが順次低くなり、画像光が全反射される間隔が狭まる。このため、画像取り出し部103で反射される光線が次第に増え、光線射出部104から目に入る光線が多くなり、輝度ムラの少ない良好な虚像を観察することが出来る。
図4は、導光部材100の後面側から虚像表示装置1を斜視的に表した図である。かかる虚像光学系を備えた本実施形態の虚像表示装置1によれば、画像表示素子10から射出された画像光は、コリメート光学系300を通過することで、拡大され平行光としてライトガイド50に入射する。すなわち、コリメート光学系300で拡大された平行光である画像光は、ライトガイド50における導光部材100の光線入射部101から入射して導光部材100の内部に導光される。導光された画像光は、導光部材100の内部を、前面及び後面で全反射されながら進行する。画像光は、上述した画像取り出し部103に到達すると、上述した第1面103aで反射されて光線射出部104に導かれ、光線射出部104からユーザの目に向けて画像情報として射出される。ユーザは、導光部材100の光線射出部104を通して前方を覗くことで、画像光の虚像を視認することができる。詳細には、ユーザは、左目で導光部材100Lの光線射出部104を通して前方を覗き、右目で導光部材100Rの光線射出部104を通して前方を覗くことで、画像光の虚像を視認することができる。
図5は、本実施形態の虚像表示装置において左目用、右目用のそれぞれの画像表示素子10に対して別々の領域を表示し、両目で観察した際に得られる画像すなわち虚像の例を示している。図5中、左側に示す画像IRは右目で視認される虚像であり、右側に示す画像ILは左目で視認される虚像である。言い換えると、図5中、左側に示す虚像IRは、右目用の画像表示素子10Rが表示した部分画像に基づく虚像であり、右側に示す虚像ILは、左目用の画像表示素子10Lが表示した部分画像に基づく虚像である。
このように、本実施形態では、画像表示素子10Lと画像表示素子10Rとで互いに異なる画像を射出する。すなわち、画像表示素子10L及び10Rは、それぞれ、両目で同時に視認される全体画像を左右に2分割した部分画像の内の一方の部分画像の画像光を出力する。より具体的には、ユーザの両目で視認される全体の画像(虚像)に関し、左目用の画像表示素子10Lが全体画像の右半分の部分画像を表示し、右目用の画像表示素子10Rが全体画像の左半分の部分画像を表示する。
このような部分画像を表示するために、図1で上述したように、左目用の画像表示素子10Lの表示面の右半分および右目用の画像表示素子10Rの表示面の左半分が出力領域10dとされる。また、画像表示素子10Lの表示面の左半分および画像表示素子10Rの表示面の右半分が非出力領域10nとされる。
画像表示素子10の表示面を出力領域10dと非出力領域10nとに区分けするために、例えば、画像表示素子10Rの右半分及び画像表示素子10Lの左半分の表示面に覆いを被せる構成とすることができる。かかる構成とすることで、当該覆いを被せられた領域が非出力領域10nとして機能し、かかる領域からの画像光の出力が物理的に遮断される。
他方、画像表示素子10の表示面を出力領域10dと非出力領域10nとに区分けするために、電気的な処理で非出力領域10nに対応する領域(画素など)からの出力を禁止する構成とすることもできる。かかる構成とすることで、出力禁止の領域が非出力領域10nとして機能し、かかる領域からの画像光の出力が電気的な処理で禁止される。
このように、画像表示素子10R及び画像表示素子10Lから互いに異なる部分画像を出力することで、各々のライトガイド(50A,50B)から射出された部分画像の虚像を両目で観察する。このとき、左目で見た虚像と右目で見た虚像が補完し合うことで、全体画像の虚像が確認される。
(変形例)
本実施形態の変形例を図6に示す。図6は、コリメート光学系300を構成する光学部品の一部を切欠き形状とした場合を示す平面図である。図6では模式的に描いているが、実際には、コリメート光学系300は、複数の光学レンズや絞りなどから構成される(図4参照)。そして、これら個々の光学部品は、対応する画像表示素子10(10Lまたは10R)の非出力領域10nに対応する部位が切り欠かれた形状となっている。
図1と比較して分かるように、図6に示す変形例では、左目用のコリメート光学系300Lは、かかる光学系を構成する光学レンズの左半分側が切除されている。同様に、右目用のコリメート光学系300Rは、かかる光学系を構成する光学レンズの右半分側が切除されている。このような構成とすることで、コリメート光学系300を軽量、小型に実現できる。
図7は、画像表示素子10から射出された画像光が導光部材100内で伝播する様子を示す平面図である。図7では、画像表示素子10(10L,10R)の表示面の全ての領域、すなわち出力領域10dのみならず非出力領域10nからも画像光を出力する場合を仮定して図示している。図7中、それぞれの画像表示素子10(10L,10R)の表示面の横(水平)方向すなわち長手方向の中央を区画する基準面11を、破線で示している。
図7に示すように、左側すなわち左目用の導光部材100Lに関し、画像表示素子10Lの表示領域の図中の左側から射出される実線で示す光は、右側から射出される点線で示す光よりも、導光部材100L内での反射角度が大きくなることが分かる。他方、右側すなわち右目用の導光部材100Rに関してはその逆になる。すなわち、画像表示素子10Rの表示領域の左側から射出される点線で示す光は、右側から射出される実線で示す光よりも導光部材100内での反射角度が小さくなることが分かる。
導光部材100内で伝播する光は、導光部材100内での反射角度が小さい方が画像取り出し部103の第1面103aに当たる頻度が高くなるため、画像光として取り出しやすくなる。逆に、導光部材100内で大きい反射角で伝播する光は、画像取り出し部103の第1面103aに当たる頻度が低くなるため、画像光として取り出し難くなり、目に到達する光が少なくなる。そのため、導光部材100内で反射角度が大きい光を射出する画像表示素子10の表示面内の領域は、虚像の隙間や輝度ムラなどが発生しやすい部分になる。
そこで、本実施形態では、図7に示すように、左右のそれぞれの画像表示素子10において、画像表示素子から出力された画像光が導光部材100内で伝播する際の反射角が小さくなる領域のみに出力領域10dを設ける。言い換えると、出力領域10dと非出力領域10nとを区画する基準面11の位置は、画像表示素子から出力された画像光が導光部材100内で伝播する際の反射角が小さくなる領域を規定するように設定ないし調整され得る。かかる構成とすることで、左右それぞれの虚像(部分画像)における隙間や輝度ムラなどが低減され、両目で観察したときに良好な虚像(全体画像)になる。
ここで、画像表示素子10の表示面の中心から射出された光が導光部材100内で伝播する際の反射角をθとすると、
反射角θ=2×θ0
となる。
そのため、画像表示素子10から射出された光が導光部材100内で伝播する際に、反射角がθ以下になるように出力領域10dを設けて画像光を射出させるようにする。この場合、導光部材100内で伝播する際の反射角が小さくなり、隙間や輝度ムラが可及的に抑制された良好な虚像を得ることが出来る。
図8は、画像表示素子10として液晶やDMDなどの光源が必要とされるものを使用した場合を示す。図8の例では、光源400を用いて、左右それぞれの画像表示素子10の表示領域の内、画像光の表示部分のみを照明する構成となっている。かかる構成とすることで、画像表示素子10の表示領域の一部(この例では半分)に光源400の光を効率良く集めることが出来るので、省エネルギーになる。
(導光部材の第2実施形態)
図9乃至図13を参照して、導光部材の第2実施形態を説明する。図9は、40度以上の広視野角の虚像表示装置を構成するのに好適な導光部材100Aを示す図であり、上述した第1実施形態と同一機能の部位には同一符号を付して説明する。
図9に示すように、導光部材100Aは、全体が略角柱状、平面視で楔状の外形を呈する。導光部材100Aは、画像光を内部に入射する光線入射部101、入射した画像光を反射して内部に導光させるための前面及び後面、導光した画像光を取り出して外部に射出させるための光線射出部104を備える。さらに、導光部材100は、光線入射部101から入射し導光部材内を導光する画像光の進行方向を反転させる再帰反射部106と、再帰反射部106で進行方向が反転された画像光を光線射出部104に導光して取り出す画像取り出し部103を備える。
導光部材100Aは、前面に画像取り出し部103が、後面に光線射出部104が、それぞれ設けられている。画像取り出し部103は、内部に導光される画像光を光線射出部104に向けて反射させる役割を有し、光線射出部104は、画像取り出し部103から導かれた画像光を虚像観察者の目に向けて外部に射出させる役割を有する。
導光部材100Aの前面のうち画像取り出し部103が設けられていない領域は、入射した画像光を全反射して進行させるための全反射面105である。シースルー性を良好にするために、導光部材100の全反射面105と後面は、それぞれ平面であり、互いに平行に形成されている。
画像取り出し部103は、再帰反射部106に向かって導光部材100の部材の厚みが増すような形状となっており、詳細な構成については後述する。再帰反射部106は、光線入射部101とは反対側の端面に形成されており、詳細な構成については後述する。
導光部材100Aの光線入射部101を図10に拡大して示す。光線入射部101は、導光部材100Aの後面から連続して設けられており、画像光の入射面積をより広く確保するために、導光部材100Aの前面から突起した形状となっている。
導光部材100Aの画像取り出し部103を図11に拡大して示す。図11中、光線射出部104と平行な基準面を点線で表している。画像取り出し部103は、図11に示すように、光線射出部104に対してθcの角度で傾斜する傾斜面(以下、第1実施形態と区別するため「第3面」と称する)103cと、光線射出部104に対してθdの角度を有する第4面103dとを備える。画像取り出し部103は、かかる第3面103cと第4面103dとが交互に配置されており、略階段状の形状をなしている。
画像取り出し部103の第3面103cは、導光部材100の内部に入射し且つ再帰反射部106で反射した画像光を光線射出部104に導いて光線射出部104から射出させる役割を担う面であり、光線射出部104に対して傾斜する平面となっている。第3面103cは、光線射出部104に対して所定の傾斜角で傾斜することにより、再帰反射部106と対向している。
第3面103cが光線射出部104に対して傾斜する角度θcの値は、導光部材100の材質の屈折率にもよるが、20度から40度までの範囲に設定することが好ましい。
他方、第4面103dは、入射された画像光を反射させて再帰反射部106に導く役割、及び再帰反射部106で進行方向が反転された画像光を反射させる反射面としての役割を担う面であり、光線射出部104と平行な平面となっている。したがって、角度θd=0°である。さらに、第4面103dは、シースルー性を確保するため、ライトガイド50の前面及び後面からの外部の光を入射させる透過面としての役割も担っている。
第4面103dを光線射出部104に対して傾斜させる、すなわち角度θd≠0°に設定すると、導光部材100内で導光される画像光が、第4面103dで反射される反射角と、光線射出部104で反射される反射角とで一致せずに変化することになる。この場合、光線入射部101から入射される光線と光線入射部101の法線とのなす角で定義される入射角θinと、光線射出部104から射出される光線と光線射出部104の法線とのなす角で定義される射出角θoutとが同角度とならない。さらに、画像光が第4面103d及び光線射出部104を通じてライトガイド50の外部に射出される際に、異なった方向に射出されてしまい、虚像としては思わしくないものとなってしまう。したがって、本実施形態では、角度θd=0°とし、第4面103dを光線射出部104に対して平行に形成している。
図11に示すように、各第4面103dは、再帰反射部106に近づくに従って当該面の高さが順次高くなるような構造とすることが好ましい。言い換えると、再帰反射部106に近づくに従って、第4面103dと光線射出部104との距離すなわち導光部材100の部材の厚さが大きくなる構成とすることが好ましい。
かかる構成の導光部材100Aによれば、再帰反射部106で光線の進行方向が反転した後の画像光の進む方向から見ると、各第4面103dの高さが順次低くなり、画像光が全反射される間隔が狭まる。このため、画像取り出し部103で反射される光線が次第に増え、光線射出部104から目に入る光線が多くなり、輝度ムラの少ない良好な虚像を観察することが出来る。
次に、図12の前面図および図13の平面図を参照して、導光部材100Aに設けられている再帰反射部106の詳細を説明する。
図12に示すように、再帰反射部106は、光線射出部104に対して垂直な面となる導光部材100Aの一の側面上、具体的には光線入射部101とは反対側の端面上に設けられている。この再帰反射部106は、多数の面で構成されている。言い換えると、光線入射部101とは反対側の端面は、平面ではなく、再帰反射部106としての多数の面が形成されている。
図12に示すように、再帰反射部106は、光線入射部101に連続する導光部材100の一の側面107に対して角度θsで傾斜する第1傾斜面106aと、第1傾斜面106aに対して角度θpで傾斜する第2傾斜面106bと、が連続して形成される。そして、第1傾斜面106a及び第2傾斜面106bにより、一つのプリズムが構成される。言い換えると、再帰反射部106は、光線入射部101とは反対側の端面上に複数の屋根形のプリズムが連続して設けられてなる構成である。第1傾斜面106aと第2傾斜面106bとは、互いに略等しい形状と面積を有する平面である。
本実施形態において、側面107と第1傾斜面106aとのなす角θsは、135度である。また、第1傾斜面106aと第2傾斜面106bのなす角θpは、プリズムの頂角であり、本実施形態では90度に形成されている。したがって、再帰反射部106は、頂角が90度である多数個のプリズムで構成されている。
再帰反射部106に到達した画像光を良好に反射させるため、再帰反射部106すなわち第1傾斜面106a及び第2傾斜面106bに反射率の高いコートを設けることが好ましい。かかるコートの反射率は、70%以上であることが望ましい。
本実施形態では、光線射出部104に対して垂直な側面の内の一つ、すなわち光線入射部101とは反対側の端面に再帰反射部106を形成している。
導光部材100Aの材質は、シースルー性を考慮すると透過性の高い材質が好ましく、さらに、上述した画像取り出し部103の加工を考慮すると、樹脂で成形することが好ましい。
また、画像取り出し部103には任意のコートを施すことができ、例えば、アルミニウムや銀、誘電コートなどのミラーコートを施すことができる。導光される画像光の光量の損失を出来るだけ防止するために、画像取り出し部103の第3面103cは、反射率が略100%のコートを施すことが望ましい。
導光部材100Aにおける画像取り出し部103の第4面103dの幅w2の値は、
0.5[mm] < w2 < 3.0[mm]
の条件を満たすように設定される。ここで、幅w2は、導光部材100の長手方向に沿った方向すなわち入射された画像光の進行方向に沿った方向における第4面103dの長さである。
第4面103dの幅w2の設定条件については、上述した第2面103bの幅wと同様の観点から、
0.5[mm] < w2 < 3.0[mm]の条件を満たすことが望ましい。
画像取り出し部103の第4面103dの幅w2が0.5mmに満たない場合、第3面103cの幅を短くする必要があり、入射された画像光の回折現象が生じやすくなり、また製造が難しくなるため、望ましくない。さらに、第3面103cの幅を短くすることなしに、アイレリーフ20mmの位置においてアイボックス5mm以上10mm以下を確保するためには、ライトガイドの厚みを増す必要があり、重量も大きくなるため望ましくない。
一方、第4面103dの幅w2が3.0mmを超える場合、入射された画像光につき、第3面103cを反射して光線射出部104から射出される光線の密度が低下し、目の位置における光量が低下するため、望ましくない。したがって、画像取り出し部103の第4面103dの幅w2は、0.5[mm] < w2 < 3.0[mm]の条件を満たすことが望ましい。
第4面103dの幅w2は、各々の第4面103dで異なる値としてもよい。具体的には、通常、光線入射部101からの距離が短くなるほど画像光の光線密度が低下することから、光線入射部101からの距離が短くなるほど第4面103dの幅wを小さくする設定にするとよい。かかる設定とすることで、光線入射部101から近くなるほど第3面103cの単位長さあたりの配置数が増えるので、光量ムラを低減させることができる。
同様に、光量ムラを低減させるために、画像取り出し部103の第3面103cの幅を各々の第3面103cで異なる幅としてもよい。ここで、第3面103cの幅は、導光部材100の長手方向に沿った方向すなわち入射された画像光の進行方向に沿った方向における第3面103cの長さである。具体的には、光線入射部101からの距離が短くなるほど第3面103cの幅を大きくする設定にするとよい。かかる設定とすることにより、光線入射部101から近くなるほど第3面103cの面積が大きくなるので、光量ムラを低減させることができる。
導光部材100Aの厚みは、1mmから8mmの範囲とすることが望ましい。導光部材100Aの厚みが1mmに満たないと、導光部材100の画像取り出し部103の形状を形成することが困難となる。他方、導光部材100Aの厚みが8mmを超えると、広視野角を得るには有利であるが、部材の重量が大きくなることから、好ましくない。
かかる構成の導光部材100Aを用いた虚像表示装置の作用について、図12及び図13を参照して説明する。ここで、図12はライトガイド50の前面側(正面)から表した図であり、図13はライトガイド50の側面側(上方)から表した図である。また、図12及び図13では、分かりやすくするために、画像表示素子10の表示面の隅から射出された1本の光線400のみを抽出して示している。
図示のように、画像表示素子10の隅から射出された部分画像の画像光は、コリメート光学系300を通過してコリメート光とされた状態で、導光部材100Aの光線入射部101から入射して導光部材100A内を進行する。導光部材100Aの光線入射部101から入射した画像光は、導光部材100A内を全反射することにより、発散光となって導光部材100A内を進行する。すなわち、光線入射部101から入射した部分画像の画像光は、再帰反射部106に達するまでは、発散光として導光部材100内を進行する。
続いて、画像光は、再帰反射部106で反射することにより、進行方向すなわち導光する方向が反転する。ここで、画像光は、再帰反射部106を構成する第1傾斜面106a及び第2傾斜面106bの両面で反射して、平面方向から見た入射光と出射光が平行になるとともに、収束光となって導光部材100A内を進行する。さらに、画像光は、画像取り出し部103の第3面103cで反射して、収束光として光線射出部104から射出され、観察者の目の方向に導かれる。このように、導光部材100Aを用いた虚像表示装置によれば、画像光が収束光として射出され、観察者の目に提供されるので、広角でも虚像が欠けずに良好に観察できる虚像表示装置を実現できる。
他方、再帰反射部106を設けずに、画像取り出し部103で画像を取り出そうとすると、画像取り出し部103に当たった光は発散光となり、広視野角の場合に目に光が入らず、虚像が欠けることになる。そのため、導光部材100Aでは、図9に示すように再帰反射部106を設ける構成としており、かかる構成により、内部を進行する画像光の方向が再帰反射部106で反転し収束光となるため、広視野角でも良好な虚像を観察できる。
図14は、図12及び図13に示す構成において、左右の画像表示素子10(10L、10R)の全ての表示領域で画像光を表示した場合を説明する図であり、(а)は左目で見たとき、(b)は右目で見たときの虚像の輝度分布の様子を示す。
右目用のライトガイド50Rおよびコリメート光学系300Rは、左目用のライトガイド50Lおよびコリメート光学系300Lを左右の目の中心に対して180度回転させたものであり、図14(а)及び(b)から分かるように、輝度分布も左右対称になる。
また、図14(а)に示すように、左目用の画像表示素子10Lから射出された画像光を左目で見たときの虚像は、その輝度が低い部分は左側に出来、虚像の隙間は右側に出来る。右目で見たときの虚像は、その逆となる。すなわち、図14(b)に示すように、右目用の画像表示素子10Rから射出された画像光を右目で見たときの虚像は、その輝度が低い部分は右側に出来、虚像の隙間は左側に出来る。
かかる2つの画像光を両目で見たときは、これら2つの虚像を重ね合わせた画像になるので、一方の画像の輝度が小さい部分に他方の画像の隙間が重なる。この場合、虚像の輝度によっては隙間が見えることになり、画質の劣化が生じる。
図15は、図7に対応する図であり、図12及び図13で上述した構成において、画像表示素子10から射出された画像光が導光部材100A内で伝播する様子を示す平面図である。図15も、画像表示素子10(10L,10R)の表示面の全ての領域、すなわち出力領域10dのみならず非出力領域10nからも画像光を出力する場合を仮定して図示している。図15中、それぞれの画像表示素子10(10L,10R)の表示面の横方向すなわち長手方向の中央を区画する基準面11を、実線で示している。図15中、左右のそれぞれの導光部材100A(L,R)内で、小さい反射角度で伝播する光線を点線で示し、大きい反射角度で伝播する光線を実線で示している。
図15に示すように、左側すなわち左目用の導光部材100A(L)に関し、画像表示素子10Lの表示領域の左側から射出される実線で示す光は、右側から射出される点線で示す光よりも、導光部材100A(L)内での反射角度が大きくなることが分かる。他方、右側すなわち右目用の導光部材100A(R)に関してはその逆になる。すなわち、画像表示素子10Rの表示領域の左側から射出される点線で示す光は、右側から射出される実線で示す光よりも導光部材100A(R)内での反射角度が小さくなることが分かる。
図16は、図15における画像表示素子10(10L,10R)の基準面11から点線の光線側、すなわち導光部材100内で伝播する際の角度が小さくなる側の表示領域の部位のみから画像光を出力したときに視認される虚像の輝度分布を示す。ここで、図16(a)は左目で見たときの虚像の輝度分布のデータを示し、(b)は右目で見たときの虚像の輝度分布のデータを示す。
図16(a)から分かるように、左目で見たときの虚像分布は、図中の左側部分に表示され、図14(а)に示した虚像の隙間がある右側部分は表示されていない。また、図16(b)から分かるように、右目で見たときの虚像の輝度分布は、図中の右側部分に表示され、図14(b)に示した虚像の隙間がある左側部分は表示されていない。
図17は、図16(a)及び(b)の虚像の輝度分布を合成したデータであり、両目で視認される虚像の輝度分布を左側に示し、両目で視認される虚像の輝度分布スケールを右側に示す。図14と比較して明らかなように、虚像の周辺部に隙間がないことが分かる。そのため、両目で虚像を見たときは、良好な画像を観察することができる。
上述した実施形態では、左目用の画像表示素子10Lの表示面の右半分および右目用の画像表示素子10Rの表示面の左半分を出力領域10dとし、画像表示素子10Lの表示面の左半分および画像表示素子10Rの表示面の右半分を非出力領域10nとした。すなわち、画像表示素子10L及び10Rにおける出力領域10dは、表示領域の中心に対して左右対称の構成である。
他方、表示領域内における出力領域10dの配置は、これに制限されず、種々の変形があり得る。
例えば、左右それぞれの虚像を重ね合わせたときに、その境界の隙間が出ないように、画像の一部が重なるように、各画像表示素子10L及び10Rの出力領域10dを配置することができる。そして、かかる重なり部分の画像表示素子10L及び10Rの出力領域10dの配置を調整することで、左目と右目用の画像を重ねたときの境界の目立たない良好な画像を作ることが出来る。このような構成とすることで、例えば図5に示す虚像IR及びILの境界部分における隙間を無くすことが可能となる。
総じて、左目用の画像表示素子10Lから出力される画像光と右目用の画像表示素子10Rから出力される画像光とを合成した場合に、それぞれの画像表示素子10L,10Rの表示領域の全域から射出された場合の画像と同等の画像になっていればよい。
(実施例)
以下、虚像表示装置の具体的な実施例を説明する。本実施例は、図12等で説明した導光部材100Aを用いて製作した虚像表示装置であり、焦点距離が7.5mmのコリメータレンズを使用し、屈折率(Nd)=1.53のプラスチックで導光部材100Aを製作し、第3面の角度θc=31.5度に設定した。また、導光部材100Aの寸法を以下の数値に設定して製作した。
・導光部材100Aの厚み(肉厚):最薄部1mm 、最厚部1.9mm
・導光部材100Aの長手方向の長さ:46mm
・導光部材100Aの幅:33mm
また、射出される画像光に関し、アイレリーフ15mm以上、アイボックス5mm以上の条件を満たすようにライトガイドを製作した。
かかる実施例では、ライトガイドの水平視野角が50度以上に確保された。
以上説明したように、上述した実施形態及び実施例によれば、ライトガイドの広い視野角を確保しつつ、観察される虚像の隙間や輝度ムラを少なくすることができる虚像表示装置および虚像表示方法を提供することができる。