以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
1.回路装置の構成
図1に本実施形態の回路装置の基本的な回路構成を示す。図1に示すように本実施形態の回路装置は、デジタルI/F部30、処理部50、発振信号生成回路140、クロック信号生成回路160、第1、第2、第3の端子群TG1、TG2、TG3を含む。またレジスター部32を含むことができる。なお本実施形態の回路装置は図1の構成には限定されず、その一部の構成要素(例えばクロック信号生成回路)を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
デジタルI/F部(インターフェース部)30は、回路装置の外部装置(マイクロコンピューター、コントローラー等)との間のインターフェース処理を行う回路である。例えばデジタルI/F部30は、外部装置からのデータ(デジタルデータ、デジタル信号)を入力したり、外部装置にデータを出力するためのインターフェースである。処理部50には、デジタルI/F部30を介して外部装置からのデータが入力される。例えばレジスター部32を介して外部装置からのデータが入力される。処理部50は、入力されたデータに基づいて種々の信号処理を行う。
デジタルI/F部30は、シリアルインターフェース処理を行う回路により実現できる。例えばデジタルI/F部30は、シリアルデータ線とシリアルクロック線を含む2線、3線又は4線のシリアルインターフェース回路により実現できる。即ち、デジタルI/F部30のインターフェース処理は、シリアルクロック線とシリアルデータ線を用いた同期式のシリアル通信方式により実現できる。例えばI2C(Inter-Integrated Circuit)方式や、3線又は4線のSPI(Serial Peripheral Interface)方式などにより実現できる。
レジスター部32は、ステータスレジスター、コマンドレジスター、データレジスターなどの複数のレジスターで構成される回路である。回路装置の外部装置は、デジタルI/F部30を介してレジスター部32の各レジスターにアクセスする。そして外部装置は、レジスター部32のレジスターを用いて、回路装置のステータスを確認したり、回路装置に対してコマンドを発行できる。或いは、回路装置(処理部50)に対してデータを転送したり、回路装置(処理部50)からデータを読み出すことなどが可能になる。
処理部50は、入力されたデータに基づいて各種の信号処理を行う。例えば、デジタルI/F部30を介して外部装置(例えば外部周波数制御データ生成部)から入力された周波数制御データDFCI(周波数制御コード)に対して信号処理を行う。なお、後述するように回路装置の内部に周波数制御データ生成部が設けられる場合には、この内部の周波数制御データ生成部からの周波数制御データDFCI(内部の位相比較部の位相比較結果に基づく周波数制御データ)に対して信号処理を行ってもよい。
具体的には処理部50(デジタル信号処理部)は、周波数制御データDFCI(外部又は内部からの周波数制御データ)に対して、エージング補正処理、カルマンフィルター処理、必要に応じて温度補償処理などの信号処理(デジタル信号処理)を行う。そして信号処理後の周波数制御データDFCQを発振信号生成回路140に出力する。この処理部50は、ゲートアレイ等のASIC回路により実現してもよいし、プロセッサー(DSP、CPU)とプロセッサー上で動作するプログラム(プログラムモジュール)により実現してもよい。
振動子XTALは、例えばATカットタイプやSCカットタイプなどの厚みすべり振動タイプの水晶振動子等や屈曲振動タイプなどの圧電振動子である。振動子XTALは、一例としては、オーブン型発振器(OCXO)の恒温槽内に設けられるタイプであるが、これに限定されず、恒温槽を備えないタイプのTCXO用の振動子であってもよい。振動子XTALは共振器(電気機械的な共振子又は電気的な共振回路)であってもよい。なお振動子XTALとしては、圧電振動子として、SAW(Surface Acoustic Wave)共振子、シリコン製振動子としてのMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動子等を採用できる。振動子XTALの基板材料としては、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電単結晶や、ジルコン酸チタン酸鉛等の圧電セラミックス等の圧電材料、又はシリコン半導体材料等を用いることができる。振動子XTALの励振手段としては、圧電効果によるものを用いてもよいし、クーロン力による静電駆動を用いてもよい。
発振信号生成回路140は発振信号OSCKを生成する。例えば発振信号生成回路140は、処理部50からの周波数制御データDFCQ(信号処理後の周波数制御データ)と振動子XTALを用いて、周波数制御データDFCQにより設定される発振周波数の発振信号OSCKを生成する。一例としては、発振信号生成回路140は、周波数制御データDFCQにより設定される発振周波数で振動子XTALを発振させて、発振信号OSCKを生成する。
なお発振信号生成回路140は、ダイレクト・デジタル・シンセサイザー方式で発振信号OSCKを生成する回路であってもよい。例えば振動子XTAL(固定発振周波数の発振源)の発振信号をリファレンス信号として、周波数制御データDFCQで設定される発振周波数の発振信号OSCKをデジタル的に生成してもよい。
発振信号生成回路140は、D/A変換部80と発振回路150を含むことができる。但し発振信号生成回路140は、このような構成には限定されず、その一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
D/A変換部80は、処理部50からの周波数制御データDFCQ(処理部の出力データ)のD/A変換を行う。D/A変換部80に入力される周波数制御データDFCQは、処理部50による信号処理後(例えばエージング補正、温度補償、或いはカルマンフィルターの処理後)の周波数制御データ(周波数制御コード)である。D/A変換部80のD/A変換方式としては例えば抵抗ストリング型(抵抗分割型)を採用できる。但し、D/A変換方式はこれには限定されず、抵抗ラダー型(R−2Rラダー型等)、容量アレイ型、又はパルス幅変調型などの種々の方式を採用できる。またD/A変換部80は、D/A変換器以外にも、その制御回路や変調回路(ディザー変調又はPWM変調等)やフィルター回路などを含むことができる。
発振回路150は、D/A変換部80の出力電圧VQと振動子XTALを用いて、発振信号OSCKを生成する。発振回路150は、第1、第2の振動子用端子(振動子用パッド)を介して振動子XTALに接続される。例えば発振回路150は、振動子XTAL(圧電振動子、共振子等)を発振させることで、発振信号OSCKを生成する。具体的には発振回路150は、D/A変換部80の出力電圧VQを周波数制御電圧(発振制御電圧)とした発振周波数で、振動子XTALを発振させる。例えば発振回路150が、電圧制御により振動子XTALの発振を制御する回路(VCO)である場合には、発振回路150は、周波数制御電圧に応じて容量値が変化する可変容量キャパシター(バリキャップ等)を含むことできる。
なお、前述のように発振回路150はダイレクト・デジタル・シンセサイザー方式により実現してもよく、この場合には振動子XTALの発振周波数はリファレンス周波数となり、発振信号OSCKの発振周波数とは異なる周波数になる。
クロック信号生成回路160は、発振信号OSCKに基づいてクロック信号CKを生成する。例えばクロック信号生成回路160は、少なくとも位相比較部161(比較演算部)を有し、発振信号OSCKの発振周波数を逓倍した周波数のクロック信号CKを生成する。クロック信号生成回路160は、例えば出力バッファー回路168を有し、この出力バッファー回路168によるバッファリング後のクロック信号CKを出力する。このクロック信号生成回路160は、例えばPLLループを有するPLL回路である。PLL回路はアナログ方式であってもよいし、デジタル方式(ADPLL)であってもよい。また発振信号OSCKの発振周波数を逓倍したクロック信号CKを生成する場合に、逓倍数(逓倍率)は1以上であってもよいし、1より小さくてもよい。また逓倍数は整数に限定されず、小数であってもよい。
回路装置は、デジタルI/F部30の接続用の第1の端子群TG1と、発振信号生成回路140の発振回路150の接続用の第2の端子群TG2と、クロック信号生成回路160(PLL回路)の接続用の第3の端子群TG3を含む。ここで接続用の端子群とは、各回路ブロックを外部と接続するための外部接続用の端子群という意味である。これらのTG1〜TG3の各端子群(パッド群)は、例えば複数の端子(パッド)を含む。端子は、外部接続端子であり、外部(外部装置)との間で信号(デジタル信号、アナログ信号)を入力又は出力するためのものである。
例えば第1、第2、第3の端子群TG1、TG2、TG3は、デジタルI/F部30、発振回路150、クロック信号生成回路160に接続される端子群である。第1、第2、第3の端子群TG1、TG2、TG3は、I/Oセルを介してデジタルI/F部30、発振回路150、クロック信号生成回路160の各回路ブロックに接続されていてもよい。I/Oセルとしては、入力バッファーを有する入力I/Oセル、出力バッファーを有する出力I/Oセル、入力バッファー及び出力バッファーを有する入出力I/Oセルなどがある。例えばデジタルI/F部30、発振回路150、クロック信号生成回路160の各回路ブロックに外部から信号を入力する場合には、第1、第2、第3の端子群TG1、TG2、TG3の各端子から入力I/Oセル(或いは入出力I/Oセル)を介して各回路ブロックに信号を入力してもよい。各回路ブロックから外部に信号を出力する場合には、出力I/Oセル(或いは入出力I/Oセル)を介して第1、第2、第3の端子群TG1、TG2、TG3の各端子に対して各回路ブロックが信号を出力してもよい。各回路ブロックと各端子の間には、これらのI/Oセルが設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。
デジタルI/F部30用の第1の端子群TG1は、例えばデジタルI/F部30のシリアルインターフェース用のシリアルクロック線の端子(パッド)、シリアルデータ線の端子(パッド)を含むことができる。また信号入力用シリアルデータ線と信号出力用シリアルデータ線がある場合には、第1の端子群TG1は、信号入力用シリアルデータ線の端子と、信号出力用シリアルデータ線の端子を含むことができる。また第1の端子群TG1は、これらの端子以外にも、例えば電源電圧VSS(GND)用の端子やチップセレクト端子などを含んでもよい。
発振回路150用の第2の端子群TG2は、例えば振動子XTALに接続される第1、第2の振動子用端子(振動子用パッド)を含むことができる。例えば第1の振動子用端子は、振動子XTALの一端に接続され、第2の振動子用端子は、振動子XTALの他端に接続される。また第2の端子群TG2は、例えば発振信号OSCKの出力端子、安定化用キャパシターの接続端子、発振周波数調整用キャパシターの接続端子、或いはフィルターの接続端子などを含んでもよい。
クロック信号生成回路160用の第3の端子群TG3は、例えばクロック信号CKの出力端子を含むことができる。例えばクロック信号生成回路160が周波数(逓倍数)の異なる複数のクロック信号CK1〜CKj(例えば図33のCK1〜CK5)を出力する場合には、これらの複数のクロック信号CK1〜CKjが出力される複数の出力端子を含むことができる。また第3の端子群TG3は、出力バッファー回路168によるバッファリング前のクロック信号の出力端子(PLLクロック信号出力端子)や、バッファリング前のクロック信号の入力端子(PLLクロック信号入力端子)を含んでもよい。また後述する図11のように、クロック信号生成回路160のクロック信号CKの生成に、回路装置の外部の発振器VCXOを用いる場合には、第3の端子群TG3は、発振器VCXOへの周波数制御電圧の出力端子を含んでもよい。
図2に本実施形態の回路装置の詳細な構成例を示す。図2では図1の構成に対して、温度センサー10、A/D変換部20、記憶部34、周波数制御データ生成部40(広義には位相比較部)、基準信号生成回路180、オーブン制御回路190、第4の端子群TG4などが更に設けられている。なお回路装置の構成は図2の構成には限定されず、その一部の構成要素(例えば周波数制御データ生成部、基準信号生成回路、オーブン制御回路等)を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。例えば温度センサー10として回路装置の外部に設けられた温度センサーを用いてもよい。
温度センサー10は、温度検出電圧VTDを出力する。具体的には、環境(回路装置)の温度に応じて変化する温度依存電圧を、温度検出電圧VTDとして出力する。温度センサー10の具体的な構成例については後述する。
A/D変換部20は、温度センサー10からの温度検出電圧VTDのA/D変換を行って、温度検出データDTDを出力する。例えば温度検出電圧VTDのA/D変換結果に対応するデジタルの温度検出データDTD(A/D結果データ)を出力する。A/D変換部20のA/D変換方式としては、例えば逐次比較方式や逐次比較方式に類似する方式などを採用できる。なおA/D変換方式はこのような方式には限定されず、種々の方式(計数型、並列比較型又は直並列型等)を採用できる。
記憶部34は、回路装置の各種の処理や動作に必要な各種の情報を記憶するものである。この記憶部34は、例えば不揮発性メモリーにより実現できる。不揮発性メモリーとしては、例えばEEPROMなどを用いることができる。EEPROMとしては例えばMONOS(Metal-Oxide-Nitride-Oxide-Silicon)型のメモリーなどを用いることができる。例えばMONOS型のメモリーを用いたフラッシュメモリーを用いることができる。或いはEEPROMとして、フローティングゲート型などの他のタイプのメモリーを用いてもよい。なお記憶部34は、電源が非供給でも情報を保持して記憶できるものであればよく、例えばヒューズ回路等により実現することも可能である。
この記憶部34は、例えばカルマンフィルター処理のシステムノイズの設定用のシステムノイズ定数(V)と、カルマンフィルター処理の観測ノイズの設定用の観測ノイズ定数(W)を記憶する。例えば製品(発振器等)の製造、出荷時において、発振周波数等の各種の情報をモニターするための測定(検査)が行われる。そしてこの測定結果に基づいて、システムノイズ定数や観測ノイズ定数が決定されて、例えば不揮発性メモリー等により実現される記憶部34に書き込まれる。このようにすれば、素子ばらつきによる悪影響を低減したシステムノイズ定数や観測ノイズ定数の設定が可能になる。
処理部50は、ホールドオーバー処理部52(ホールドオーバー処理の回路又はプログラムモジュール)、カルマンフィルター部54(カルマンフィルター処理の回路又はプログラムモジュール)、エージング補正部56(エージング補正処理の回路又はプログラムモジュール)、温度補償部58(温度補償処理の回路又はプログラムモジュール)を含む。ホールドオーバー処理部52は、ホールドオーバーに関する種々の処理を行う。カルマンフィルター部54は、カルマンフィルター処理により例えば周波数制御データ(発振周波数)の真値を求める処理を行う。エージング補正部56は、発振周波数の経時変化を補償するためのエージング補正を行う。温度補償部58は、A/D変換部20からの温度検出データDTDに基づいて発振周波数の温度補償処理を行う。具体的には温度補償部58は、温度に応じて変化する温度検出データDTD(温度依存データ)と、温度補償処理用の係数データ(近似関数の係数のデータ)などに基づいて、温度変化があった場合に発振周波数の変動を小さくするための温度補償処理を行う。
基準信号RFCKは、回路装置の外部接続端子である端子TRFCK(パッド)を介して回路装置に入力される。外部PLL回路がロック状態となっているか否かを通知する信号PLOCKは、回路装置の外部接続端子である端子TPLOCK(パッド)を介して回路装置に入力される。外部PLL回路は、回路装置に外部に設けられる外部周波数制御データ生成部200と、回路装置に内部に設けられる発振信号生成回路140により構成されるPLL回路である。
周波数制御データ生成部40は周波数制御データDFCIを生成する。例えば発振信号OSCKに基づく入力信号と基準信号RFCKとを比較して周波数制御データDFCIを生成する。生成された周波数制御データDFCIは処理部50に入力される。ここで発振信号OSCKに基づく入力信号は、発振信号OSCKそのものであってもよいし、発振信号OSCKから生成された信号(例えば分周した信号)であってもよい。以下では、入力信号が発振信号OSCKそのものである場合を主に例にとり説明する。
周波数制御データ生成部40は、位相比較部41、デジタルフィルター部44を含む。位相比較部41(比較演算部)は、入力信号である発振信号OSCKと基準信号RFCKとの位相比較(比較演算)を行う回路であり、カウンター42、TDC43(時間デジタル変換器)を含む。
カウンター42は、基準信号RFCKの基準周波数(例えば1Hz)を、発振信号OSCKの発振周波数で除算した結果の整数部に相当するデジタルデータを生成する。TDC43は、当該除算結果の小数部に相当するデジタルデータを生成する。TDC43は、例えば、複数の遅延素子と、複数の遅延素子が出力する複数の遅延クロック信号を、基準信号RFCKのエッジ(High)タイミングでラッチする複数のラッチ回路と、複数のラッチ回路の出力信号のコーディングを行うことで、除算結果の小数部に相当するデジタルデータを生成する回路を含む。そして位相比較部41は、カウンター42からの整数部に相当するデジタルデータと、TDC43からの小数部に相当するデジタルデータを加算し、設定周波数との位相誤差を検出する。そしてデジタルフィルター部44が位相誤差の平滑化処理を行うことで、周波数制御データDFCIが生成される。例えば発振信号OSCKの周波数をFOS、基準信号RFCKの周波数をFRF、設定周波数に対応する分周数(分周比)をFCWとした場合に、FOS=FCW×FRFの関係が成り立つように、周波数制御データDFCIが生成される。或いはカウンター42は、発振信号OSCKのクロック数をカウントしてもよい。即ちカウンター42は、発振信号OSCKに基づく入力信号でカウント動作を行う。そして位相比較部41は、基準信号RFCKのn周期(nは2以上に設定可能な整数)におけるカウンター42のカウント値と、カウント値の期待値(n×FCW)とを整数で比較してもよい。例えば期待値とカウンター42のカウント値との差分が、位相誤差データとして位相比較部41から出力される。
なお周波数制御データ生成部40の構成は図2に示す構成に限定されず、種々の変形実施が可能である。例えば位相比較部41をアナログ回路の位相比較回路で構成したり、デジタルフィルター部44をアナログ回路のフィルター部(ループフィルター)で構成してもよい。またデジタルフィルター部44の処理(位相誤差データの平滑化処理)を処理部50が行ってもよい。例えば処理部50が、他の処理(ホールドオーバー処理、カルマンフィルター処理等)と時分割にデジタルフィルター部44の処理を行う。例えば位相比較部41の位相比較結果(位相誤差データ)に対するフィルター処理(平滑化処理)を処理部50が行う。
また本実施形態では、回路装置の外部に設けられた外部周波数制御データ生成部200と発振信号生成回路140とによっても、PLL回路のループが形成可能になっている。この場合には、外部周波数制御データ生成部200からの周波数制御データDFCIがデジタルI/F部30を介して処理部50に入力される。処理部50は、温度補償処理、エージング補正等の信号処理を、外部周波数制御データ生成部200からの周波数制御データDFCIに対して行い、信号処理後の周波数制御データDFCQが発振信号生成回路140に入力される。そして、当該周波数制御データDFCQを用いて発振信号生成回路140が発振信号OSCKを生成する。生成された発振信号OSCKは、第2の端子群TG2の出力端子を介して、外部周波数制御データ生成部200に出力される。外部周波数制御データ生成部200は、この発振信号OSCKと基準信号RFCKの位相比較(比較演算)を行って、周波数制御データDFCIを生成する。この外部周波数制御データ生成部200は、回路装置内部の周波数制御データ生成部40と同様の構成により実現でき、例えばカウンター及びTDCを有する位相比較部やデジタルフィルター部を含むことができる。
基準信号生成回路180は、基準電圧VRF、基準電流IRFなどの基準信号を生成する。この基準信号生成回路180は、例えばバンドギャップリファレンス電圧などの定電圧の生成回路や、生成された定電圧等に基づいて基準電圧VRを生成する回路や、生成された定電圧等に基づいて基準電流IRFを生成する回路などを含むことができる。生成された基準電圧VRF、基準電流IRFは、回路装置のアナログ回路(例えばA/D変換部20、D/A変換部80又はオーブン制御回路190等)に供給される。アナログ回路は、これらの基準電圧VRF、基準電流IRFを用いてアナログ回路処理を行う。
オーブン制御回路190は、振動子XTALが、恒温槽を有するオーブン型の振動子(ダブルオーブン、シングルオーブン等)である場合に、オーブン型の振動子XTALのオーブン制御を行う。例えばオーブン制御回路190は、オーブン温度の調整用のヒーター(発熱素子)の発熱を制御する。具体的には、ヒーターに対応して設けられるオーブン制御用の温度センサーを用いて、ヒーターの発熱を制御する。そしてオーブン温度が設定温度になるように温度調整を行う。
第4の端子群TG4は、オーブン制御回路190の接続用(外部接続用)の端子群(パッド群)である。この第4の端子群TG4は、オーブン型の振動子XTALのオーブン制御用端子を含む。例えば第4の端子群TG4は、オーブン制御用端子として、ヒーター制御電圧の出力端子を含むことができる。例えば後述するダブルオーブン構造の場合には、それぞれのオーブン制御に対応する2つのヒーター制御電圧の出力端子を含むことができる。また第4の端子群TG4は、オーブン制御用の温度センサーの接続端子(ダブルオーブン構造の場合には2つの温度センサーに対応する2つの接続端子)、オーブン制御の安定化キャパシターの接続端子、或いはオーブン制御の基準電圧の入力端子などを含むことができる。
2.位相ノイズ
以上のように本実施形態の回路装置では、デジタルI/F部30が設けられており、処理部50は、外部装置からデジタルI/F部30を介して入力されたデータに基づいて、種々の信号処理を行うことが可能になっている。一例としては、前述したように外部装置である外部周波数制御データ生成部200から、デジタルI/F部30を介して周波数制御データDFCIが処理部50に入力される。そして発振信号生成回路140が、信号処理後の周波数制御データDFCQに基づいて発振信号OSCKを生成し、この発振信号OSCKが第2の端子群TG2の出力端子を介して外部周波数制御データ生成部200にフィードバックされることで、外部PLL回路のPLLループが形成される。
また本実施形態では、発振信号OSCKの発振周波数を逓倍した周波数のクロック信号CKを生成するクロック信号生成回路160が設けられている。このようにすれば、一定の発振周波数の発振信号OSCKから、クロック信号生成回路160により任意の周波数のクロック信号CKを生成して、回路装置が組み込まれる電子機器の各回路に供給できるようになる。後述する図33の基地局の電子機器を例にとれば、クロック信号生成回路160によりクロック信号CK1〜CK5を生成して、基地局を構成する各回路に供給できるようになる。
この場合に、周波数制御データ生成部40(位相比較部41)又は外部周波数制御データ生成部200と発振信号生成回路140とにより構成されるPLL回路(以下、1段目のPLL回路と呼ぶ)は、低い周波数(例えば1Hz)の基準信号RFCKに位相同期して、発振信号OSCKを生成する。このため、低い周波数の基準信号RFCKにロックする1段目のPLL回路により生成される発振信号OSCKは、低周波数帯域での位相ノイズは小さいが、高周波数帯域での位相ノイズが大きい信号になってしまう。例えばGPS等からの基準信号RFCKには様々なノイズが重畳されるが、このノイズ等の影響により、発振信号OSCKの高周波数帯域での位相ノイズは大きくなってしまう。
一方、クロック信号生成回路160により実現される2段目のPLL回路は、基準信号RFCKよりも周波数が高い発振信号OSCKに位相同期して、クロック信号CKを生成するため、高周波数帯域での位相ノイズを低減できる。従って、1段目のPLL回路により発振信号OSCKを生成し、2段目のPLL回路(クロック信号生成回路160)により、発振信号OSCKからクロック信号CKを生成する本実施形態の回路装置によれば、1段目のPLL回路により低周波数帯域での位相ノイズを低減でき、2段目のPLL回路により高周波数帯域での位相ノイズを低減できるようになる。従って、低周波数帯域から高周波数帯域に亘る広い周波数帯域において位相ノイズが小さなクリーンなクロック信号CKを生成できるという利点がある。例えば後述する図33の基地局では、RF回路608の受信性能等を向上するためには、RF回路608に供給されるクロック信号CK5の位相ノイズを低くする必要がある。本実施形態の回路装置によれば、低周波数帯域から高周波数帯域に亘る広い周波数帯域において位相ノイズが低いクロック信号CK5(=CK)を生成して、RF回路608に供給することが可能となり、受信性能の向上等を図れるようになる。
このように本実施形態の回路装置では、2段のPLL回路を用いてダブルで位相ノイズを低減することで、ノイズの少ないクリーンなクロック信号CKを生成できるという利点がある。
しかしながら本実施形態ではデジタルI/F部30を設けているため、このデジタルI/F部30で発生する通信ノイズが原因となって、クロック信号CKの位相ノイズが増加してしまう問題があることが判明した。例えば、デジタルI/F部30の端子群TG1での通信ノイズが、クロック信号生成回路160の端子群TG3に伝わって、クロック信号CKの位相ノイズを増加させてしまう。
例えば図3は、クロック信号CKの位相ノイズの例を示す図である。横軸が周波数であり、縦軸が位相ノイズである。図3のG1は、デジタルI/F部30の通信クロックの周波数に対応する位相ノイズである。例えばデジタルI/F部30ではシリアルクロック線とシリアルデータ線を用いて通信を行っているが、このシリアルクロック線の通信クロック周波数(例えば100KHz)の位相ノイズが、クロック信号CKに発生している。また、G1の周波数よりも高いG2の周波数帯域や、G1の周波数よりも低いG3に示す周波数帯域においても、大きな位相ノイズが発生している。このように、G1、G2、G3に示すような大きな位相ノイズがクロック信号CKに重畳されると、例えば図33のRF回路608の受信性能が低下するなどの問題が生じてしまう。
更に、発振回路150の端子群TG2で発生するノイズが、クロック信号生成回路160の端子群TG3に伝わったり、逆に、端子群TG3で発生するノイズが端子群TG2に伝わると、位相ノイズが更に増加してしまう。
3.レイアウト配置
本実施形態では、以上のような問題を解決するために、以下に説明するようなレイアウト手法を採用している。例えば図5に本実施形態の回路装置のレイアウト配置の一例を示す。なお本実施形態での回路装置のレイアウト配置は図5の配置には限定されず、種々の変形実施(例えば後述する図6〜図10)が可能である。
図1、図2、図5に示すように、本実施形態の回路装置は、デジタルI/F部30、処理部50、発振信号生成回路140(発振回路150)、クロック信号生成回路160(PLL回路)、第1、第2、第3の端子群TG1、TG2、TG3を含む。ここで処理部50は、デジタルI/F部30を介して外部装置(例えば外部周波数制御データ生成部200)からのデータ(例えば周波数制御データDFCI)が入力され、信号処理を行う。例えば温度補償処理、エージング補正等の信号処理を行う。発振信号生成回路140は、処理部50からの周波数制御データDFCQと振動子XTALを用いて、周波数制御データDFCQにより設定される発振周波数の発振信号OSCKを生成する。クロック信号生成回路160は、少なくとも位相比較部161を有し、発振信号OSCKの発振周波数を逓倍した周波数のクロック信号CKを生成する。
ここで図5に示すように、回路装置の第1の辺SD1に交差(直交)する辺を第2の辺SD2とし、第1の辺SD1に対向する辺を第3の辺SD3とする。また第2の辺SD2に対向する辺を第4の辺SD4とする。
この場合にデジタルI/F部30の接続用の第1の端子群TG1は、回路装置の第1の辺SD1に沿った第1の端子領域AT1に配置される。一方、クロック信号生成回路160の接続用の第3の端子群TG3は、第2の辺SD2に沿った第2の端子領域AT2、第3の辺SD3に沿った第3の端子領域AT3、第4の辺SD4に沿った第4の端子領域AT4のうちのいずれかの端子領域に配置される。具体的には図5では、発振回路150の接続用の第2の端子群TG2は、第2の辺SD2に沿った第2の端子領域AT2に配置され、クロック信号生成回路160の接続用の第3の端子群TG3は、第3の辺SD3に沿った第3の端子領域AT3に配置されている。
なお、本実施形態における端子群等の配置手法としては、後述の図6〜図10で説明するように種々の変形実施が可能である。例えば第2の端子群TG2を第3の端子領域AT3に配置し、第3の端子群TG3を第2の端子領域AT2に配置してもよい。即ち、第2の端子群TG2は、第2、第3の端子領域AT2、AT3のうちの一方の端子領域に配置され、第3の端子群TG3は、AT2、AT3のうちの他方の端子領域に配置されればよい。また第4の辺SD4に沿った第4の端子領域AT4には、第4の端子群TG4が配置されている。
ここで第1〜第4の辺SD1〜SD4は回路装置のICの端辺に相当する。第1〜第4の端子領域AT1〜AT4は、第1〜第4の辺SD1〜SD4の内側に設けられる所定幅の領域である。第1〜第4の端子領域AT1〜AT4の長辺方向は、第1〜第4の辺SD1〜SD4に沿った方向であり、この所定幅は、第1〜第4の端子領域AT1〜AT4の短辺方向での幅である。
第1〜第4の端子領域AT1〜AT4は、いわゆるI/O領域(ペリフェラル領域)とも呼ばれる領域であり、端子群TG1〜TG4等のパッド群に加えて、I/Oセルが配置されていてもよい。I/Oセルは、外部から各端子を介して信号が入力される入力I/Oセル、外部に各端子を介して信号を出力する出力I/Oセル、入出力兼用の入出力I/Oセルなどがある。端子群TG1〜TG4の各端子とデジタルI/F部30、発振回路150、クロック信号生成回路160等の各回路ブロックは、これらのI/Oセルを介して接続されていてもよいし、I/Oセルを介さずに接続されていてもよい。
本実施形態では図5に示すように、デジタルI/F部30用の端子群TG1は、辺SD1に沿った端子領域AT1に配置される一方で、発振回路150用の端子群TG2は、辺SD1に交差する辺SD2に沿った端子領域AT2に配置される。従って、端子群TG1とTG2との距離であるL12を長くすることができ、デジタルI/F部30で発生した通信ノイズが、端子群TG2に伝達されるのを効果的に抑制できる。この結果、当該通信ノイズが原因で発振信号OSCKに重畳されてしまう位相ノイズを低減できる。発振信号OSCKの位相ノイズが低減されることで、クロック信号CKの位相ノイズも低減される。
また本実施形態では、デジタルI/F部30用の端子群TG1は、辺SD1に沿った端子領域AT1に配置される一方で、クロック信号生成回路160用の端子群TG3は、辺SD1に対向する辺SD3に沿った端子領域AT3に配置される。従って、端子群TG1とTG3との距離であるL13を長くすることができ、デジタルI/F部30で発生した通信ノイズが、端子群TG3に伝達されるのを効果的に抑制できる。この結果、当該通信ノイズが原因でクロック信号CKに重畳されてしまう位相ノイズを低減できるようになる。
更に本実施形態では、端子群TG2は、辺SD2に沿った端子領域AT2に配置される一方で、端子群TG3は、辺SD2に交差する辺SD3に沿った端子領域AT3に配置される。従って、端子群TG2とTG3との距離であるL23も長くすることができる。従って、例えば、発振信号OSCK等が原因で端子群TG2において発生したノイズが、端子群TG3に伝達されるのを抑制できると共に、クロック信号CK等が原因で端子群TG3において発生したノイズが、端子群TG2に伝達されるのも抑制できる。
例えば前述したように、1段目のPLL回路(周波数制御データ生成部40、200と発振信号生成回路140)と、2段目のPLL回路(クロック信号生成回路160)は、そのロック周波数が異なっている。そして、このようにロック周波数が異なる2つのPLL回路が存在すると、相互に信号ノイズが伝達してしまうことで、重畳される位相ノイズが大きくなってしまう。
この点、図5では、端子群TG1、TG2、TG3が、異なる端子領域AT1、AT2、AT3に配置されている。即ち、端子群TG1、TG2、TG3が、異なる3つの辺SD1、SD2、SD3にそれぞれ対応して設けられる端子領域AT1、AT2、AT3に配置されている。このため、端子群TG1とTG2の距離L12や端子群TG1とTG3の距離L13のみならず、端子群TG2とTG3の距離L23も長くできる。従って、デジタルI/F部30の通信ノイズに起因する位相ノイズのみならず、2つのPLL回路間での信号ノイズの伝達に起因する位相ノイズについても低減できる。従って、従来に比べて、ノイズが十分に低減されたクロック信号CKや発振信号OSCKの生成が可能な回路装置の提供が可能になる。
例えば図4に本実施形態の手法を適用した場合のクロック信号CKの位相ノイズの例を示す。図3のG1、G2、G3と図4のG4を比べれば明らかなように、本実施形態によれば、低周波数帯域から高周波数帯域に亘る広い周波数帯域において、クロック信号CKの位相ノイズを小さくできる。従って、回路装置が組み込まれる電子機器の各回路(例えば図33のRF回路608)に対して、ノイズが少ないクリーンなクロック信号CKを供給することが可能になる。
また図5において、辺SD1は回路装置の短辺であり、端子群TG1は、短辺である辺SD1に沿った端子領域AT1に配置される。即ち図5において、辺SD1、SD3は回路装置の短辺であり、辺SD2、SD4は回路装置の長辺であるが、デジタルI/F部30の接続用の端子群TG1は、短辺である辺SD1に沿った端子領域AT1に配置される。このようにすれば、端子群TG1と他の端子群とを、長辺である辺SD2、SD4に対応する距離だけ離すことが可能になる。例えばデジタルI/F部30の接続用の端子群TG1と、クロック信号生成回路160の接続用の端子群TG3とを、長辺である辺SD2、SD4に対応する距離L13だけ離して配置することが可能になる。これにより、デジタルI/F部30で発生した通信ノイズが、端子群TG3に伝達されるのを効果的に抑制できるようになる。
また図5では、端子群TG1と端子群TG2との距離をL12とし、端子群TG1と端子群TG3との距離をL13とし、端子群TG2と端子群TG3との距離をL23とした場合に、L12及びL13の少なくとも一方はL23よりも長くなっている。具体的には、図5ではL13>L23となっており、端子群TG1と端子群TG3との距離L13が長くなっているため、デジタルI/F部30で発生した通信ノイズが端子群TG3に伝達されるのが効果的に抑制される。また図5ではL12>L23となっており、端子群TG1と端子群TG2との距離L12が長くなっているため、デジタルI/F部30で発生した通信ノイズが端子群TG2に伝達されるのが効果的に抑制される。この結果、デジタルI/F部30での通信ノイズが原因でクロック信号CKや発振信号OSCKに重畳されてしまう位相ノイズを十分に低減できるようになる。なお、端子群と端子群の距離は、例えば各端子群に含まれる複数の端子のうちの中央に位置する端子同士の距離(代表的な端子同士の距離)とすることができる。また図5ではL13及びL12の両方がL23よりも長くなっているが、L13及びL12の一方のみがL23よりも長くなっていてもよい。
また本実施形態では図2で説明したように、発振信号OSCKに基づく入力信号(例えば発振信号OSCKそのもの)と基準信号RFCKとを比較する外部周波数制御データ生成部200からの周波数制御データDFCIが、端子群TG1、デジタルI/F部30を介して処理部50に入力される。そして発振信号生成回路140は、処理部50を介して入力される外部周波数制御データ生成部200からの周波数制御データDFCQに基づいて発振信号OSCKを生成する。
このようにすれば、回路装置の外部に設けられた外部周波数制御データ生成部200を有効活用して、内部の発振信号生成回路140と共にPLL回路を構成し、発振信号OSCKを生成できるようになる。例えば、回路装置の外部のシステムが、マイコンやコントローラーやDSPなどにより外部周波数制御データ生成部200を実現している場合に、そのハードウェア資産を有効活用してPLL回路を構成し、発振信号OSCKを生成できるようになる。
そして、このように外部周波数制御データ生成部200を活用する場合には、外部周波数制御データ生成部200からの周波数制御データDFCIが、デジタルI/F部30を介して処理部50に入力されるようになる。このため、周波数制御データDFCIの入力による通信ノイズが原因となって、図3のG1、G2、G3に示すような大きな位相ノイズが発生するおそれがある。
この点、本実施形態では図5に示すように、端子群TG1、TG2、TG3を、異なる端子領域AT1、AT2、AT3に配置することで、TG1とTG2の距離L12と、TG1とTG3の距離L13を長くできる。従って、上記のように外部周波数制御データ生成部200を有効活用してPLL回路を構成した場合にも、周波数制御データDFCIの通信ノイズを原因とする位相ノイズの増加も、効果的に抑制することが可能になる。
また本実施形態の回路装置は、図2に示すように、発振信号OSCKに基づく入力信号と基準信号RFCKの位相を比較する位相比較部41(周波数制御データ生成部40)を有する。この位相比較部41や、位相比較部41を有する周波数制御データ生成部40は、例えば図5の処理部50が配置される制御ロジックの領域に形成できる。例えばゲートアレイなどの自動配置配線で形成された制御ロジックにより、位相比較部41や周波数制御データ生成部40を実現することができる。
そして発振信号生成回路140は、第1のモードでは、外部周波数制御データ生成部200から処理部50を介して入力される周波数制御データDFCQに基づいて、発振信号を生成する。即ち、処理部50は、外部周波数制御データ生成部200から入力される周波数制御データDFCIに対して、温度補償処理、エージング補正等の信号処理を行い、信号処理後の周波数制御データDFCQが発振信号生成回路140に入力されて、発振信号OSCKが生成される。
一方、発振信号生成回路140は、第2のモードでは、位相比較部41(周波数制御データ生成部40)から処理部50を介して入力される周波数制御データDFCQに基づいて、発振信号OSCKを生成する。即ち、第2のモードでは、処理部50は、回路装置内部の位相比較部41での位相比較結果に基づく周波数制御データDFCIに対して、温度補償処理、エージング補正等の信号処理を行い、信号処理後の周波数制御データDFCQが発振信号生成回路140に入力されて、発振信号OSCKが生成される。なお処理部50には、周波数制御データ生成部40から、デジタルフィルター部44でのフィルター処理後の周波数制御データDFCIが入力されてもよい。或いは処理部50は、位相比較部41の位相比較結果が入力されて、位相比較結果に対するフィルター処理を行ってもよい。
このようにすれば、外部のシステムが外部周波数制御データ生成部200を有している場合には、回路装置の動作モードを第1のモードに設定し、外部のシステムの外部周波数制御データ生成部200を有効活用してPLL回路を構成し、発振信号OSCKを生成できるようになる。
一方、外部のシステムが外部周波数制御データ生成部200を有していない場合には、回路装置の動作モードを第2のモードに設定し、回路装置の内部に設けられた位相比較部41(周波数制御データ生成部40)によりPLL回路を構成し、発振信号OSCKを生成できるようになる。
従って、外部のシステムが外部周波数制御データ生成部200を有している場合と有していない場合の両方に対応できるようになり、利便性の向上等を図れるようになる。
また本実施形態ではデジタルI/F部30として、シリアルデータ線とシリアルクロック線を含む2線、3線又は4線のシリアルインターフェース回路を採用できる。このようにすれば、デジタルI/F部30として、例えばI2CやSPIなどのシリアルインターフェース回路を用いることができる。従って、マイクロコンピューターやコントローラーなどの外部装置が、I2CやSPIなどのシリアルインターフェース回路を有している場合に、この外部装置との間でI2CやSPIに従ったシリアルインターフェース処理を行って、外部装置(外部周波数制御データ生成部200)からのデータ(周波数制御データ)を処理部50に入力できるようになる。
また図5において、第1の辺SD1から第3の辺SD3の辺に向かう方向を第1の方向DR1とし、第1の方向DR1の反対方向を第2の方向DR2とする。また第1の方向DR1に交差(直交)する方向を第3の方向DR3として、第3の方向DR3の反対方向を第4の方向DR4とする。この場合に本実施形態の回路装置では図5に示すように、処理部50は、第1の端子群TG1(第1の端子領域AT1)の第1の方向DR1側に配置される。例えば第1の端子群TG1(第1の端子領域AT1)の第1の方向DR1側にデジタルI/F部30が配置され、デジタルI/F部30の第1の方向DR1側に処理部50が配置される。
このようにすれば、第1の端子群TG1の端子を用いて入力される外部装置からの周波数制御データ等のデータを、デジタルI/F部30を介して、ショートパスの信号経路で処理部50に入力できるようになる。これにより、例えば周波数制御データ等のデータの通信ノイズの発生源の場所を、第1の端子群TG1の場所や処理部50の第2の方向DR2側の場所の付近に、限定できるようになる。従って、この通信ノイズの発生源と第2の端子群TG2や第3の端子群TG3との距離(L12、L13)を長くすることが可能になり、通信ノイズを原因として発生する位相ノイズを低減できるようになる。
また図5では、第2の端子群TG2は第2の端子領域AT2に配置され、第3の端子群TG3は第3の端子領域AT3に配置されており、クロック信号生成回路160は、第3の端子群TG3(第3の端子領域AT3)の第2の方向DR2側に配置されている。例えば第3の端子群TG3とクロック信号生成回路160とが、他の回路ブロック(回路素子)を介さずに、隣合うように配置されている。
このようにすれば、クロック信号生成回路160からの出力信号(例えばクロック信号CK、周波数制御電圧信号)を、クロック信号生成回路160から第3の端子群TG3の端子へと、ショートパスの信号経路で出力できるようになる。また第3の端子群の端子への入力信号を、第3の端子群TG3の端子からクロック信号生成回路160へと、ショートパスの信号経路で入力できるようになる。これにより、クロック信号生成回路160の信号(クロック信号CK等)によるクロックノイズの発生源の場所を、第3の端子群TG3の場所やクロック信号生成回路160の第1の方向DR1側の場所の付近に、限定できるようになる。従って、当該クロックノイズの発生源と第2の端子群TG2との距離(L23)を長くすることが可能になり、クロックノイズを原因として発生する位相ノイズを低減できるようになる。
また図5では、処理部50は、第1の端子領域AT1とクロック信号生成回路160の間に配置されている。例えば第1の端子領域AT1の第1の方向DR1側に処理部50が配置され、処理部50の第1の方向DR1側にクロック信号生成回路160が配置される。そしてクロック信号生成回路160の第1の方向DR1側に第3の端子領域AT3が配置される。
このようにすれば、第1の端子領域AT1の第1の端子群TG1と、第3の端子領域AT3の第3の端子群TG3の間には、処理部50及びクロック信号生成回路160が介在するようになる。従って、第1の端子群TG1と第3の端子群TG3の間の距離L13として、少なくとも処理部50の幅とクロック信号生成回路160の幅に対応する距離を、確保できるようになる。即ち距離L13として、処理部50とクロック信号生成回路160の第1の方向DR1での幅に対応する距離を、少なくとも確保できるようになる。従って、第1の端子群TG1と第3の端子群TG3の距離L13を長くすることが可能になり、デジタルI/F部30での通信ノイズを原因として発生する位相ノイズを低減できる。
また図5では、発振回路150は、処理部50とクロック信号生成回路160の間に配置されている。例えば処理部50の第1の方向DR1側に発振回路150が配置され、発振回路150の第1の方向DR1側にクロック信号生成回路160が配置される。なお、処理部50と発振回路150の間には、例えば基準電圧及び基準電流を生成する基準信号生成回路180が配置されている。また処理部50と発振回路150の間には、温度センサー10やA/D変換部20が配置されている。
このようにすれば、第1の端子領域AT1の第1の端子群TG1と、第3の端子領域AT3の第3の端子群TG3の間には、処理部50及び発振回路150及びクロック信号生成回路160が介在するようになる。従って、第1の端子群TG1と第3の端子群TG3の間の距離L13として、少なくとも処理部50の幅と発振回路150の幅とクロック信号生成回路160の幅に対応する距離を、確保できるようになる。従って、第1の端子群TG1と第3の端子群TG3の距離L13を、更に長くすることが可能になり、デジタルI/F部30での通信ノイズを原因として発生する位相ノイズを更に低減できる。
また図5では、発振回路150は、第2の端子群TG2の第3の方向DR3側に配置されている。例えば発振回路150と第2の端子群TG2は、他の回路ブロック(回路素子)を介さずに、隣合うように配置される。
このようにすれば、発振回路150と第2の端子群TG2の端子とを、ショートパスの信号経路で接続できるようになる。これにより、例えば発振信号OSCKの信号線の長さを短くすることができ、発振信号OSCKの信号線に寄生する寄生容量を低減できる。従って、デジタルI/F部30の第1の端子群TG1からの通信ノイズが、寄生容量を介して、発振信号OSCKの信号線に伝達されて発振信号OSCKの位相ノイズが増加してしまう事態を抑制できる。またクロック信号生成回路160の第3の端子群TG3からのクロックノイズが、寄生容量を介して、発振信号OSCKの信号線に伝達されて発振信号OSCKの位相ノイズが増加してしまう事態も抑制できるようになる。
また本実施形態では、振動子XTALとして、恒温槽を有するオーブン型の振動子を用いることができる。この場合に図5では、オーブン型の振動子XTALのオーブン制御用端子を含む第4の端子群TG4が、第4の辺SD4に沿った第4の端子領域AT4に配置される。例えばヒーター制御電圧の出力端子や温度センサーの接続端子などのオーブン制御用端子が、第4の端子群TG4として、第4の端子領域AT4に配置される。
このようにすれば、デジタルI/F部30用、発振回路150用、クロック信号生成回路160用の第1、第2、第3の端子群TG1、TG2、TG3が、各々、第1、第2、第3の端子領域AT1、AT2、AT3に配置される場合に、残りの第4の端子領域AT4を有効利用して、オーブン制御用端子を含む第4の端子群TG4を配置できるようになる。即ち第1、第2、第3の端子領域AT1、AT2、AT3に第1、第2、第3の端子群TG1、TG2、TG3を配置することで、上述のように位相ノイズを低減しながら、残りの第4の端子領域AT4にオーブン制御用端子を含む第4の端子群TG4を配置することで、オーブン型の振動子XTALのオーブン制御を実現できるようになる。
そして本実施形態の回路装置は、この第4の端子群TG4のオーブン制御用端子が接続され、オーブン型の振動子XTALのオーブン制御を行うオーブン制御回路190を含む。そして図5では、このオーブン制御回路190が、第4の端子領域AT4の第4の方向DR4側に配置される。
このようにすればオーブン制御回路190と、第4の端子群TG4のオーブン制御用端子をショートパスの信号経路で接続できるようになり、より適正なオーブン制御を実現できるようになる。例えば、オーブン制御用端子として、ヒーター制御電圧の出力端子や、温度センサーの接続端子が設けられていたとする。この場合に、オーブン制御回路190が、第4の端子領域AT4の第4の方向DR4側に配置されることで、オーブン制御回路190とヒーター制御電圧の出力端子とを結ぶ信号配線や、オーブン制御回路190と温度センサーの接続端子とを結ぶ信号配線の長さを、短くできる。従って、これらの信号配線の寄生抵抗等を小さくできるため、この寄生抵抗等がオーブン制御に及ぼす悪影響を少なくでき、より適正なオーブン制御を実現できるようになる。
また図5では、発振回路150は、オーブン制御回路190と第2の端子領域AT2の間に配置される。例えば第4の端子領域AT4の第4の方向DR4側にオーブン制御回路190が配置され、オーブン制御回路190の第4の方向DR4側に発振回路150が配置され、発振回路150の第4の方向DR4側に第2の端子領域AT2が設けられる。
これにより、第4の端子領域AT4と第2の端子領域AT2の間の領域を有効活用して、オーブン制御回路190と発振回路150をレイアウト配置できるようになる。従って、オーブン制御回路190と第4の端子群TG4をショートパスで接続すると共に、発振回路150と第2の端子群TG2をショートパスで接続しながら、第4の端子領域AT4と第2の端子領域AT2の間の領域に、オーブン制御回路190と発振回路150を効率的にレイアウト配置できるようになる。従って、位相ノイズの低減と回路装置のレイアウト面積の縮小化とを両立して実現することが可能になる。
また本実施形態では、処理部50(プロセッサー)は、周波数制御データDFCIの真値をカルマンフィルター処理により推定する処理を行い、推定された真値に基づいて、周波数制御データDFCIのエージング補正を行う。
このように周波数制御データDFCIの真値をカルマンフィルター処理により推定し、推定された真値に基づいてエージング補正を行えば、エージング補正の精度を大幅に向上できる。即ち、観測ノイズやシステムノイズの影響を考慮したエージング補正を実現できるようになる。
より具体的には処理部50は、ホールドオーバーが検出された場合に、ホールドオーバーの検出タイミングに対応するタイミングでの真値を保持する。この真値を保持するタイミングは、ホールドオーバーの検出タイミングそのものであってもよいし、当該タイミングの前のタイミング等であってもよい。そして処理部50は、保持された真値に基づく演算処理を行うことで、エージング補正された周波数制御データDFCQを生成する。生成された周波数制御データDFCQは、発振信号生成回路140に出力される。このエージング補正された周波数制御データDFCQの生成処理は、エージング補正部56により実行される。
例えば通常動作期間において、処理部50は、位相比較部41での位相比較結果に基づく周波数制御データDFCI又は外部周波数制御データ生成部200から入力された周波数制御データDFCIに対して、例えば温度補償処理等の信号処理を行い、信号処理後の周波数制御データDFCQを発振信号生成回路140に出力する。発振信号生成回路140は、処理部50からの周波数制御データDFCQと振動子XTALを用いて、発振信号OSCKを生成して、周波数制御データ生成部40(位相比較部41)又は外部周波数制御データ生成部200に出力する。これにより、周波数制御データ生成部40(位相比較部41)又は外部周波数制御データ生成部200と、発振信号生成回路140とによるPLL回路のループが形成され、基準信号RFCKに位相同期した正確な発振信号OSCKを生成できるようになる。
そして本実施形態では、ホールドオーバーが検出される前の通常動作期間においても、処理部50のカルマンフィルター部54が動作し、周波数制御データDFCIに対するカルマンフィルター処理を実行している。即ち、周波数制御データDFCIの観測値に対する真値を、カルマンフィルター処理により推定する処理を行っている。
ホールドオーバーが検出されると、ホールドオーバーの検出タイミングに対応するタイミングでの真値が、処理部50において保持される。具体的にはエージング補正部56が、この真値を保持する。そしてエージング補正部56が、保持された真値に基づく演算処理を行うことで、エージング補正された周波数制御データDFCQを生成する。
このようにすれば、ホールドオーバーの検出タイミングに対応するタイミングでの真値に基づいて、エージング補正が行われるため、エージング補正の精度を大幅に向上できる。即ち、観測ノイズやシステムノイズの影響を考慮したエージング補正を実現できるようになる。
また処理部50は、保持された真値に対して補正値を加算する演算処理(エージングによる周波数変化を補償する演算処理)を行うことで、エージング補正された周波数制御データDFCQを生成する。例えばホールドオーバーの検出タイミングに対応するタイミングでの真値に対して、エージングレート(エージングの勾配、エージング係数)に対応する補正値(エージングレートによる周波数変化をキャンセルする補正値)を、所定タイミング毎に順次に加算することで、エージング補正された周波数制御データDFCQを生成する。なお本実施形態の加算処理は負の値を加算する処理である減算処理を含む。
例えばタイムステップkでの補正値をD(k)とし、タイムステップkでのエージング補正された周波数制御データをAC(k)とする。この場合に処理部50は、タイムステップk+1でのエージング補正された周波数制御データAC(k+1)を、AC(k+1)=AC(k)+D(k)により求める。処理部50は、このような各タイムステップごとの補正値D(k)の加算処理を、ホールドオーバーからの復帰タイミング(解除タイミング)まで行う。
また処理部50は、真値に対してフィルター処理後の補正値を加算する演算処理を行う。例えば、補正値D(k)に対して、ローパスフィルター処理等のフィルター処理を行い、フィルター処理後の補正値D’(k)を真値に対して順次に加算する演算処理を行う。具体的にはAC(k+1)=AC(k)+D’(k)の演算処理を行う。
また処理部50は、補正値を、カルマンフィルター処理における観測残差に基づき求める。例えば処理部50は、ホールドオーバーが検出される前の期間において、観測残差に基づいて、エージング補正の補正値を推定する処理を行う。例えば観測残差をekとした場合に、D(k)=D(k−1)+E・ekの処理を行うことで、補正値D(k)を推定する。ここでEは例えば定数であるが、定数Eの代わりにカルマンゲインを用いてもよい。そして、ホールドオーバーの検出タイミングに対応するタイミングでの補正値を保持し、保持された補正値を真値に加算する演算処理を行うことで、エージング補正された周波数制御データDFCQを生成する。
なお本実施形態における端子群等の配置手法としては、例えば図6〜図10に示すような種々の変形実施が可能である。例えば図6では、端子群TG1は、辺SD1に沿った端子領域AT1に配置される一方で、端子群TG3は、辺SD4に沿った端子領域AT4に配置されている。また端子群TG2は、辺SD2に沿った端子領域AT2に配置されている。なお端子群TG3を、端子領域AT4と端子領域AT3に分散して配置(両方に配置)してもよい。端子群TG2についても同様に、端子領域AT2と端子領域AT3に分散して配置してもよい。また図6に示すように、端子群TG2、TG3は、辺SD1に比べて辺SD3の方に近い側に配置することが望ましい。こうすることで、端子群TG1と端子群TG2、TG3との距離を、より離すことが可能になる。
図7では、図6とは逆に、端子群TG3が端子領域AT2に配置され、端子群TG2が端子領域AT4に配置されている。別の言い方をすれば、図5等では、回路装置の基板(半導体基板)に交差する方向から見た平面視(トランジスターの形成領域側から見た平面視)において、辺SD2が右辺となり、辺SD4が左辺となっているが、辺SD2が左辺となり、辺SD4が右辺となってもよい。同様に辺SD1、SD3が上辺、下辺である必要はない。
図8では、端子群TG1、TG2が端子領域AT1に配置され、端子群TG3が端子領域AT3に配置されている。即ち、端子群TG2は、端子領域AT2以外の端子領域に配置されていてもよい。また、この場合に端子群TG3が、端子領域AT2や端子領域AT4に配置されていてもよい。
図9、図10では、端子群TG1は端子領域AT1に配置される一方で、端子群TG2及び端子群TG3が端子領域AT2に配置されている。そして図9では、端子群TG3の方が端子群TG2に比べて、端子群TG1から遠い領域に配置されている。また図10では、端子群TG2の方が端子群TG3に比べて、端子群TG1から遠い領域に配置されている。なお端子群TG2及び端子群TG3を、端子領域AT4や端子領域AT3に配置してもよい。
以上のように本実施形態では、デジタルI/F部30の接続用の端子群TG1が、端子領域AT1に配置される一方で、クロック信号生成回路160の接続用の端子群TG3が、端子領域AT2、AT3、AT4のうちのいずれかの端子領域に配置されている。また発振回路150の接続用の端子群TG2は、例えば端子群TG1や端子群TG3が配置されている端子領域とは異なる端子領域に配置されている。なお図9、図10のように端子群TG2、TG3を同じ端子領域に配置する変形実施も可能である。
4.クロック信号生成回路
図11にクロック信号生成回路160の第1の構成例を示す。図11のクロック信号生成回路160は、位相比較部161、チャージポンプ回路162、フィルター部163、分周器165、166、出力バッファー回路168を含む。なお図11では、発振信号生成回路164と振動子XTAL2で構成される発振器VCXOは、回路装置の外部に設けられている。即ち、外付け部品として設けられた発振器VCXOを用いて、PLL回路のループを形成している。但し、発振信号生成回路164等を回路装置の内部に設ける変形実施も可能である。
クロック信号生成回路160の発振信号生成回路164により生成されたクロック信号CKSは、分周器165に入力される。そして分周器165は、CKSの周波数を1/Nにしたクロック信号CKNを出力する。また図1、図2の発振信号生成回路140により生成された発振信号OSCKは、基準信号として分周器166に入力される。そして分周器166は、OSCKの周波数を1/Mにしたクロック信号CKMを出力する。位相比較部161は、クロック信号CKNとCKMの位相比較を行い、位相比較結果であるアップ/ダウンパルス信号を出力する。チャージポンプ回路162は、アップ/ダウンパルス信号をアップ/ダウン電流信号に変換して、フィルター部163に出力する。フィルター部163は、アップ/ダウン電流信号を直流電圧に変換して、発振制御電圧として発振信号生成回路164に出力する。発振信号生成回路164は、この発振制御電圧により設定される周波数のクロック信号CKSを生成する。クロック信号CKSは、出力バッファー回路168によりバッファリングされて、クロック信号CKとして出力端子TCKを介して外部に出力される。この場合に分周器169によるクロック分周が行われる。なお出力端子TCKは図5の端子群TG3に含まれる端子である。
このようにしてクロック信号生成回路160は、発振信号OSCKの発振周波数を逓倍した周波数のクロック信号CKを生成する。この場合の逓倍数は、分周器165、166、169の分周比により設定される。
図12はクロック信号生成回路160の第2の構成例である。第2の構成例のクロック信号生成回路160は、ダイレクト・デジタル・シンセサイザー方式のPLL回路により実現される。
位相比較部380(比較演算部)は、基準信号となる発振信号OSCKと、クロック信号CKSの位相比較(比較演算)を行う。デジタルフィルター部382は、位相誤差の平滑化処理を行う。位相比較部380の構成、動作は図2の位相比較部41と同様であり、カウンターやTDC(時間デジタル変換器)を含むことができる。デジタルフィルター部382は図2のデジタルフィルター部44に相当するものである。数値制御型発振器384は、振動子XTAL2を有する基準発振器386からの基準発振信号を用いて、任意の周波数や波形をデジタル的に合成する回路である。即ちVCOのようにD/A変換器からの制御電圧に基づいて発振周波数を制御するのではなく、デジタルの周波数制御データと基準発振器386(振動子XTAL2)を用いて、デジタル演算処理により任意の発振周波数のクロック信号CKSを生成する。クロック信号CKSは出力バッファー回路168によりバッファリングされて、クロック信号CKとして出力端子TCKを介して外部に出力される。図12の構成により、ダイレクト・デジタル・シンセサイザー方式のADPLL回路を実現できる。
なお、クロック信号生成回路160は、クロック信号を生成するためのすべての回路要素を含んでいなくてもよい。例えば、回路装置500の外部に設けたディスクリート部品によって一部の回路要素を構成し、第3の端子群TG3を介してクロック信号生成回路160と接続するような構成であってもよい。
5.温度センサー、発振回路
図13に温度センサー10の構成例を示す。図13の温度センサー10は、電流源ISTと、電流源ISTからの電流がコレクターに供給されるバイポーラートランジスターTRTを有する。バイポーラートランジスターTRTは、そのコレクターとのベースが接続されるダイオード接続となっており、バイポーラートランジスターTRTのコレクターのノードに、温度特性を有する温度検出電圧VTDが出力される。温度検出電圧VTDの温度特性は、バイポーラートランジスターTRTのベース・エミッター間電圧の温度依存性によって生じる。この温度センサー10の温度検出電圧VTDは、例えば負の温度特性(負の勾配を有する1次の温度特性)を有する。
図14に発振回路150の構成例を示す。この発振回路150は、電流源IBX、バイポーラートランジスターTRX、抵抗RX、可変容量キャパシターCX1、キャパシターCX2、CX3を有する。
電流源IBXは、バイポーラートランジスターTRXのコレクターにバイアス電流を供給する。抵抗RXは、バイポーラートランジスターTRXのコレクターとベースの間に設けられる。
容量が可変である可変容量キャパシターCX1の一端は、振動子XTALの一端に接続される。具体的には、可変容量キャパシターCX1の一端は、回路装置の第1の振動子用端子(振動子用パッド)を介して振動子XTALの一端に接続される。キャパシターCX2の一端は、振動子XTALの他端に接続される。具体的には、キャパシターCX2の一端は、回路装置の第2の振動子用端子(振動子用パッド)を介して振動子XTALの他端に接続される。キャパシターCX3は、その一端が振動子XTALの一端に接続され、その他端がバイポーラートランジスターTRXのコレクターに接続される。これらの第1、第2の振動子用端子は図5の第2の端子群TG2に含まれる端子である。
バイポーラートランジスターTRXには、振動子XTALの発振により生じたベース・エミッター間電流が流れる。そしてベース・エミッター間電流が増加すると、バイポーラートランジスターTRXのコレクター・エミッター間電流が増加し、電流源IBXから抵抗RXに分岐するバイアス電流が減少するので、コレクター電圧VCXが低下する。一方、バイポーラートランジスターTRXのベース・エミッター間電流が減少すると、コレクター・エミッター間電流が減少し、電流源IBXから抵抗RXに分岐するバイアス電流が増加するので、コレクター電圧VCXが上昇する。このコレクター電圧VCXはキャパシターCX3を介して振動子XTALにフィードバックされる。
振動子XTALの発振周波数は温度特性を有しており、この温度特性は、D/A変換部80の出力電圧VQ(周波数制御電圧)により補償される。即ち、出力電圧VQは可変容量キャパシターCX1に入力され、出力電圧VQにより可変容量キャパシターCX1の容量値が制御される。可変容量キャパシターCX1の容量値が変化すると、発振ループの共振周波数が変化するので、振動子XTALの温度特性による発振周波数の変動が補償される。可変容量キャパシターCX1は、例えば可変容量ダイオード(バラクター)などにより実現される。
なお本実施形態の発振回路150は、図14の構成に限定されず、種々の変形実施が可能である。例えば図14ではCX1を可変容量キャパシターとする場合を例に説明したが、CX2又はCX3を、出力電圧VQで制御される可変容量キャパシターとしてもよい。また、CX1〜CX3のうち複数を、VQで制御される可変容量キャパシターとしてもよい。
また、発振回路150は、振動子XTALを発振させるためのすべての回路要素を含んでいなくてもよい。例えば、回路装置500の外部に設けたディスクリート部品によって一部の回路要素を構成し、第2の端子群TG2を介して発振回路150と接続するような構成であってもよい。
6.デジタルI/F部、基準信号生成回路、オーブン制御回路
図15にデジタルI/F部30の第1の構成例を示す。図15のデジタルI/F部30は、2線のI2C方式のシリアルインターフェース回路により実現されており、I2C制御回路35とバッファー回路36を含む。R1、R2はプルアップ抵抗である。I2C方式は、シリアルクロック線SCLと、双方向のシリアルデータ線SDAの2本の信号線で通信を行う同期式のシリアル通信方式である。I2Cのバスには複数のスレーブを接続でき、マスターは、個別に決められたスレーブのアドレスを指定して、スレーブを選択した後に、当該スレーブと通信を行う。
図16にデジタルI/F部30の第2の構成例を示す。図16のデジタルI/F部30は、3線又は4線のSPI方式のシリアルインターフェース回路により実現されており、SPI制御回路37とバッファー回路38を含む。R3、R4、R5はプルアップ抵抗である。SPI方式は、シリアルクロック線SCKと、単方向の2本のシリアルデータ線SDI、SDOで通信する同期式のシリアル通信方式である。SPIのバスには複数のスレーブを接続できるが、それらを特定するためには、マスターは、スレーブセレクト線を用いてスレーブを選択する必要があり、その場合にはスレーブセレクト線が必要になる。
図17に基準信号生成回路180の構成例を示す。この基準信号生成回路180は、バッドギャップリファレンス回路182、基準電圧生成回路184、基準電流生成回路186を含む。バッドギャップリファレンス回路182は、オペアンプOPA1、バイポーラートランジスターBA1、BA2、トランジスターTA1、抵抗RA1、RA2、RA3を含み、バンドギャップリファレンス電圧である定電圧VBGを生成する。バイポーラートランジスターBA1、BA2は、コレクターとエミッターが接続されたダイオード接続となっている。バッドギャップリファレンス回路182は、これらのバイポーラートランジスターBA1、BA2を用いて、バンドギャップ電圧の温度依存性をキャンセルし、温度変化に対して一定になる定電圧VBGを生成する。
基準電圧生成回路184は、オペアンプOPA2、トランジスターTA2、抵抗RA4、RA5を含む。そしてVRF=VBG×{(RA4+RA5)/RA5}となる基準電圧VRFを生成する。基準電流生成回路186は、オペアンプOPA3、トランジスターTA3、TA4、抵抗RA6、RA7を含む。そして定電圧VBGに基づいて定電流IRFを生成する。
図18にオーブン制御回路190の構成例を示す。オーブン制御回路190は、オペアンプOPB、抵抗RB1〜RB6を含む。RB1〜RB5はその抵抗値が可変に制御される抵抗である。
温度センサー193は、オーブン制御用の温度センサーであり、発振器内に設けられる温度センサー(後述する図32の460又は462)である。図18では温度センサー193はサーミスターにより実現されている。
温度センサー193は、接続端子TCTSを介してオーブン制御回路190に接続される。接続端子TCTSは図5の第4の端子群TG4に含まれる端子である。
抵抗RB1、RB2による電源電圧の抵抗分割により、オーブン温度設定用の電圧VB1が生成される。そして発振器のオーブン温度に応じて、温度センサー193であるサーミスターの抵抗値が変化して、電圧VB2が変化する。この電圧VB2とオーブン温度設定用の電圧VB1が仮想接地により同じ電圧になるようにオペアンプOPBが動作して、ヒーター制御電圧VBQが生成される。
オーブン制御回路190により生成されたヒーター制御電圧VBQは、出力端子TVBQを介して、発振器内に設けられるヒーター191(図32の450、452)に出力される。出力端子TVBQは図5の第4の端子群TG4に含まれる端子である。ヒーター191は、発熱素子である発熱パワーバイポーラートランジスター192を含む。ヒーター制御電圧VBQにより発熱パワーバイポーラートランジスター192のベース電圧等が制御されて、ヒーター191の発熱制御が実現される。
なおオーブン制御回路190は図18の構成には限定されない。例えば温度センサーとしてダイオードを用い、発熱ヒーターMOSトランジスターが発熱素子として設けられる構成のヒーターが、ヒーター制御の対象となるような回路構成のオーバー制御回路190であってもよい。
7.エージングによる発振周波数変動
OCXO、TCXO等の発振器では、エージングと呼ばれる経年変化により、発振周波数が変動する。そして、発振器の個体間における発振周波数のエージング変動の挙動には、発振器を構成する部品の性能、部品や発振器の実装状態、または発振器の使用環境などの個体ばらつき(以下、素子ばらつきと称す)に起因した差がある。
図19のA1〜A5は、出荷ロットが同じ又は異なる複数の発振器についてのエージング特性の測定結果の一例である。図19のA1〜A5に示すようにエージング変動の様態には素子ばらつきに伴う差が存在する。
エージングによる発振周波数の変動の原因は、気密封止容器内で起きる振動子への粉塵の脱着や、何らかのアウトガスによる環境変化、或いは発振器に使用される接着剤の経年変化と言われている。
このようなエージングによる発振周波数の変動を抑えるための対策としては、出荷前に発振器を一定期間動作させるという初期エージングを実施して、発振周波数を初期変動させてから出荷する手法がある。しかしながら、高い周波数安定度が要求される用途では、このような初期エージングの対策だけでは不十分であり、エージングによる発振周波数の変動を補償するエージング補正が要望されている。
またその他、発振器を、基地局の基準信号源として用いる場合には、いわゆるホールドオーバーの問題がある。例えば基地局では、GPSやネットワークからの基準信号に対して、PLL回路を用いて発振器の発振信号(出力信号)を同期させることで、周波数変動を抑制している。しかしながら、GPSやネットワーク(インターネット)からの基準信号が消失又は異常となるホールドオーバーが発生すると、同期のための基準信号を得ることができなくなる。
このようなホールドオーバーが発生すると、発振器の自走発振による発振信号が、基地局の基準信号源になる。従って、ホールドオーバーの発生タイミングから、ホールドオーバーからの復帰タイミング(解除タイミング)までのホールドオーバー期間において、発振器の自走発振による発振周波数の変動を抑えるというホールドオーバー性能が要求される。
しかしながら、上述のように発振器にはエージングによる発振周波数の無視することができないレベルの変動があるため、これが原因で、高いホールドオーバー性能を実現できないという課題がある。例えば24時間等のホールドオーバー期間において、許容される周波数偏差(Δf/f)が規定されている場合に、エージングによる発振周波数の大きな変動があると、この許容周波数偏差の規定を満たせなくなってしまう。
例えば基地局と通信端末との通信方式としては、FDD(Frequency Division Duplex)や、TDD(Time Division Duplex)などの種々の方式が提案されている。そしてTDD方式では、上がりと下りで同じ周波数を用いて時分割でデータが送受信され、各機器に割り当てられたタイムスロットの間にはガードタイムが設定されている。このため、適正な通信を実現するためには、各機器において時刻同期を行う必要があり、正確な絶対時刻の計時が要求される。
図20のB1は、ホールドオーバーが発生した場合における理想的な発振周波数のエージングの特性を示している。一方、B2(点線)は、エージングにより発振周波数が変動する特性を示している。B3が、エージングによる発振周波数の変動幅である。また図21のB4は、ホールドオーバーが発生した場合におけるB1の特性に近づけるための周波数制御電圧の推移を示している。一方、B5(点線)は、基準信号消失又は異常が発生した時点から周波数電圧制御が一定である状態を示している。
図20のB2に示す特性を、B1に示すような理想的な特性に近づける補正をするために、エージング補正が行われる。例えばエージング補正により、図21のB4に示すように周波数制御電圧を変化させれば、図20のB2に示す特性をB1に示す理想的な特性に近づける補正ができ、例えば補正精度を上げて行けばB2に示す特性をB1に示す理想的な特性へと補正できる。一方、図21のB5に示すようにエージング補正を行わなかった場合には、図20のB2に示すようにホールドオーバー期間において発振周波数が変動してしまい、例えばホールドオーバー性能に対する要求仕様が図20に示すB1であれば、その要求を満たすことができなくなる。
例えばホールドオーバー期間における発振周波数の変動に基づく時間のずれ量(総量)を表すホールドオーバー時間θtotは、下式(1)のように表すことができる。
ここでT1はホールドオーバーによるエージングの経過時間を表す。f0は公称発振周波数であり、Δf/f0は周波数偏差である。上式(1)において、T1×f0は総クロック数を表し、(Δf/f0)×(1/f0)は1クロックでのタイミングのずれ量を表す。そしてホールドオーバー時間θtotと経過時間T1を用いて、周波数偏差Δf/f0は上式(2)のように表すことができる。
ここで、周波数偏差Δf/f0は、経過時間に対して1次関数的に一定の傾きで変化するものと想定している。この場合に、経過時間T1が長くなるにつれてホールドオーバー時間θtotは2次関数的に長くなる。
例えばTDD方式の場合には、ガードタイムが設定されたタイムスロットが重なってしまうのを防止するために、ホールドオーバー時間は例えばθtot<1.5μsであることが要求される。従って、上式(2)から明らかなように、発振器に許容される周波数偏差Δf/f0としては、非常に小さな値が要求されることになる。特に、この許容周波数偏差は、経過時間T1が長くなるほど、小さな値が要求される。例えばホールドオーバーの発生タイミングから、メインテナンス作業によるホールドオーバーからの復帰タイミングまでの時間として想定される時間が、例えばT1=24時間である場合には、許容周波数偏差として非常に小さな値が要求されることになってしまう。そして、周波数偏差Δf/f0には、例えば温度依存の周波数偏差と、エージングによる周波数偏差が含まれるため、上記要求を満たすためには、非常に高精度なエージング補正が必要になる。
8.カルマンフィルター処理を用いたエージング補正
本実施形態では、カルマンフィルター処理を用いたエージング補正手法を採用している。具体的には本実施形態では、ホールドオーバーが検出される前の期間において周波数制御データ(発振周波数)の観測値に対する真値を、カルマンフィルター処理により推定する。そしてホールドオーバーが検出された場合には、ホールドオーバーの検出タイミングに対応するタイミング(時点)での真値を保持し、保持した真値に基づく演算処理を行うことで、エージング補正を実現する。
図22は、エージングによる発振周波数の変動の測定結果の例を示す図である。横軸は経過時間(エージング時間)であり、縦軸は発振周波数の周波数偏差(Δf/f0)である。図22のC1に示すように観測値である測定値には、システムノイズや観測ノイズに起因する大きなばらつきが存在する。このばらつきには、環境温度に起因するばらつきも含まれる。
このように測定値に大きなばらつきがある状況において、真値を正しく求めるために、本実施形態では、カルマンフィルター処理(例えば線形カルマンフィルター処理)による状態推定を行う。
図23は、時系列の状態空間モデルを示すものであり、このモデルの離散時間状態方程式は、下式(3)、(4)の状態方程式、観測方程式により与えられる。
x(k)は時刻kにおける状態であり、y(k)は観測値である。v(k)はシステムノイズであり、w(k)は観測ノイズであり、Aはシステム行列である。x(k)が発振周波数(周波数制御データ)である場合に、Aは例えばエージングレート(エージング係数)に相当する。エージングレートは経過期間に対する発振周波数の変化率を表すものである。
例えば図22のC2に示すタイミングでホールドオーバーが発生したとする。この場合に、基準信号RFCKが途絶えたC2の時点での真の状態x(k)と、図22のC3に示す傾きに相当するエージングレート(A)とに基づいて、エージング補正を実行する。具体的には、C2の時点での発振周波数(周波数制御データ)の真値x(k)を、C3に示すエージングレートによる周波数変化を小さくするための補償(補正)として、例えば当該周波数変化をキャンセル(相殺)する補正値で、順次に変化させるエージング補正を行う。即ち図20のB2に示すようなエージングレートでの周波数変化をキャンセルして、B1に示すような理想的な特性になるような補正値で、真値x(k)を変化させる。このようにすれば、例えばホールドオーバーの期間が24時間であった場合に、24時間経過後における発振周波数の変動である図22のFDVを、エージング補正により補償できるようになる。
ここで図22のC1に示す発振周波数(周波数偏差)の変動には、温度変動に起因するものと、エージングに起因するものが含まれる。そこで本実施形態では、例えば恒温槽を有するオーブン構造の発振器(OCXO)を採用することで、温度変動に起因する発振周波数の変動を最小限に抑える。また図2の温度センサー10等を用いて、温度変動に起因する発振周波数の変動を低減する温度補償処理を実行する。
そしてPLL回路(内部PLL回路、外部PLL回路)が基準信号RFCKに同期している期間(通常動作期間)において、周波数制御データ(周波数制御コード)をモニターし、誤差(システムノイズ、観測ノイズ)を除去した真値を求めて、レジスターに保持しておく。そして、基準信号RFCKの消失又は異常によりPLL回路のロックが外れた場合に、ロックが外れた時点において保持されている真値(周波数制御データの観測値に対する真値)に基づいて、エージング補正を実行する。例えば、保持された周波数制御データの真値に対して、図22のC3の傾きであるエージングレートによる周波数変化を小さくするための補償として、例えばキャンセルする補正値を、順次に加算する処理を行うことで、ホールドオーバー期間の自走発振時における周波数制御データDFCQを生成して、振動子XTALを発振させる。このようにすれば、ホールドオーバーの突入時点での真値を、最小誤差で求めて、エージング補正を実行できるため、エージング変動による悪影響を最小限に抑えたホールドオーバー性能を実現できるようになる。
9.処理部の構成
図24に処理部50の詳細な構成例を示す。図24に示すように処理部50は、カルマンフィルター部54、エージング補正部56、温度補償部58、セレクター62、63、加算器65を含む。
カルマンフィルター部54は、周波数制御データDFCI(環境変動成分が除去された周波数制御データ)が入力され、カルマンフィルター処理を実行する。そして、カルマンフィルター処理により推定された真値に相当する事後推定値x^(k)を出力する。なお本明細書では、推定値であることを表すハットの記号「^」を、適宜、2文字に並べて記載する。
カルマンフィルター処理とは、観測値及びシステムの状態を表す変数にノイズ(誤差)が含まれると仮定し、過去から現在までに取得した観測値を用いてシステムの最適な状態を推定する処理である。具体的には、観測更新(観測過程)と時間更新(予測過程)を繰り返し行って状態を推定する。観測更新は、観測値と時間更新の結果を用いてカルマンゲイン、推定値、誤差共分散を更新する過程である。時間更新は、観測更新の結果を用いて、次の時刻での推定値、誤差共分散を予測する過程である。なお本実施形態では線形カルマンフィルター処理を用いた手法を主に説明するが、拡張カルマンフィルター処理を採用することも可能である。本実施形態のカルマンフィルター処理の詳細については後述する。
エージング補正部56は、カルマンフィルター部54から事後推定値x^(k)と補正値D’(k)が入力される。そして、周波数制御データの真値に相当する事後推定値x^(k)に対して、補正値D’(k)を加算する演算処理を行うことで、エージング補正された周波数制御データであるAC(k)を生成する。ここでD’(k)は、フィルター処理後(ローパスフィルター処理後)の補正値D(k)である。即ち、タイムステップk(時刻k)での補正値(フィルター処理後の補正値)をD’(k)とし、タイムステップkでのエージング補正された周波数制御データをAC(k)とした場合に、エージング補正部56は、タイムステップk+1(時刻k+1)でのエージング補正された周波数制御データAC(k+1)を、AC(k+1)=AC(k)+D’(k)により求める。
温度補償部58は、温度検出データDTDが入力されて、温度補償処理を行い、温度変動に対して発振周波数を一定に保つための温度補償データTCODE(温度補償コード)を生成する。
発振周波数の温度特性は製品のサンプルごとに大きくばらつく。このため、製品(発振器)の製造、出荷時の検査工程において、発振周波数の温度特性や、周囲温度に対応する温度検出データの変化特性を測定する。そして測定結果に基づいて、下式(5)の多項式(近似関数)の係数A0〜A5を求め、求めた係数A0〜A5の情報を、図2の記憶部34(不揮発性メモリー)に書き込んで記憶させる。
上式(5)において、Xは、A/D変換部20により得られた温度検出データDTD(A/D変換値)に相当する。周囲温度の変化に対する温度検出データDTDの変化も測定されているため、上式(5)の多項式で表される近似関数により、周囲温度と発振周波数とを対応づけることができる。温度補償部58は、記憶部34から係数A0〜A5の情報を読み出し、この係数A0〜A5と、温度検出データDTD(=X)とに基づいて、上式(5)の演算処理を行って、温度補償データTCODE(温度補償コード)を生成する。これにより、周囲温度の変化に対して発振周波数を一定に保つための温度補償処理を実現できる。
セレクター62、63は、セレクト端子Sの入力信号の論理レベルが「1」(アクティブ)である場合に、「1」側の端子の入力信号を選択して、出力信号として出力する。またセレクト端子Sの入力信号の論理レベルが「0」(非アクティブ)である場合に、「0」側の端子の入力信号を選択して、出力信号として出力する。
信号KFENはカルマンフィルター処理のイネーブル信号である。カルマンフィルター部54は、信号KFENが論理レベル「1」(以下、単に「1」と記載)である場合にカルマンフィルター処理を実行する。信号PLLLOCKはPLL回路がロック状態である場合に「1」になる信号である。信号HOLDOVERはホールドオーバーが検出されたホールドオーバー期間において「1」になる信号である。
信号TCENは、温度補償処理のイネーブル信号である。以下では信号TCENが「1」であり、セレクター63が「1」側の入力信号を選択する場合を主に例にとり説明を行う。また信号KFENも「1」であるとする。
通常動作期間では、信号HOLDOVERが論理レベル「0」((以下、単に「0」と記載)になるため、セレクター62が「0」端子側の周波数制御データDFCIを選択する。そして、この周波数制御データDFCIに対して、加算器65により温度補償データTCODEが加算され、温度補償処理後の周波数制御データDFCQが、後段の発振信号生成回路140に出力される。
一方、ホールドオーバー期間では、信号HOLDOVERが「1」なり、セレクター62が「1」端子側のAC(k)を選択する。AC(k)はエージング補正された周波数制御データである。
図25はカルマンフィルター部54の動作を説明する真理値表である。信号PLLLOCK、KFENが共に「1」である場合には、カルマンフィルター部54は真値推定処理(カルマンフィルター処理)を実行する。即ち、通常動作期間においてPLL回路(内部又は外部のPLL回路)がロック状態である場合に、観測値である周波数制御データDFCIの真値推定処理を行い続ける。
そしてホールドオーバーの状態になってPLL回路のロックが外れ、信号PLLLOCKが「0」になった場合には、カルマンフィルター部54は前回の出力状態を保持する。例えば図24において、周波数制御データDFCIの真値として推定される事後推定値x^(k)や、エージング補正の補正値D’(k)として、ホールドオーバーの検出タイミング(PLL回路のロックが外れたタイミング)での値を、保持して出力し続ける。
エージング補正部56は、ホールドオーバー期間において、カルマンフィルター部54からの事後推定値x^(k)、補正値D’(k)を用いてエージング補正を行う。具体的にはホールドオーバーの検出タイミングにおける事後推定値x^(k)、補正値D’(k)を保持して、エージング補正を行う。
また図24では、カルマンフィルター部54には、温度変動成分(広義には環境変動成分)とエージング変動成分のうち、温度変動成分が除去された周波数制御データDFCIが入力される。カルマンフィルター部54は、温度変動成分(環境変動成分)が除かれた周波数制御データDFCIに対してカルマンフィルター処理を行って、周波数制御データDFCIについての真値を推定する。即ち、事後推定値x^(k)を求める。そしてエージング補正部56は、推定された真値である事後推定値x^(k)に基づいて、エージング補正を行う。より具体的には、カルマンフィルター部54からの事後推定値x^(k)と補正値D’(k)に基づいて、エージング補正された周波数制御データAC(k)を求める。そしてエージング補正された周波数制御データであるAC(k)は、セレクター62を介して、加算器65に入力され、加算器65がAC(k)に対して、温度補償データTCODE(環境変動成分の補償用データ)を加算する処理を行う。
例えば図26の模式図に示すように、温度が変動すると、E1に示すように周波数制御データもそれに応じて変動してしまう。従って、E1のように温度変動に伴い変動する周波数制御データを用いて、カルマンフィルター処理を行ってしまうと、ホールドオーバー検出タイミングでの真値にも揺らぎが生じてしまう。
そこで本実施形態では、温度変動成分が除去された周波数制御データを取得して、カルマンフィルター部54に入力する。即ち、温度変動成分(環境変動成分)とエージング変動成分のうち、温度変動成分が除かれた周波数制御データを、カルマンフィルター部54に入力する。つまり、図26のE2に示すような周波数制御データを入力する。E2の周波数制御データは、温度変動成分が除かれており、エージング変動成分が残存した周波数制御データになっている。
カルマンフィルター部54は、このように温度変動成分が除去されて、エージング変動成分が残存した周波数制御データDFCIに対して、カルマンフィルター処理を行うことで、真値として推定される事後推定値x^(k)や、エージング補正の補正値D’(k)を求める。そして、ホールドオーバーの検出タイミングで推定された真値である事後推定値x^(k)や、補正値D’(k)がエージング補正部56に保持されて、エージング補正が実行される。
例えば加算器65により温度補償データTCODEを加算する処理を行うことで、周波数制御データDFCQは温度補償された周波数制御データになる。従って、周波数制御データDFCQが入力された発振信号生成回路140は、温度補償された発振周波数の発振信号OSCKを出力することになる。従って、この発振信号生成回路140と共にPLL回路を構成する図2の周波数制御データ生成部40(又は外部周波数制御データ生成部200。以下、同様)は、図26のE2に示すように温度変動成分が除去された周波数制御データDFCIを、処理部50に供給することになる。そして、この温度変動成分が除去された周波数制御データDFCIには、図26のE2に示すように、経過時間と共に変化するエージング変動成分が残存している。従って、処理部50のカルマンフィルター部54が、このエージング変動成分が残存する周波数制御データDFCIに対するカルマンフィルター処理を行い、エージング補正部56が、カルマンフィルター処理の結果に基づいてエージング補正を行えば、高精度のエージング補正を実現できるようになる。
なお図24の変形例として、加算器65での温度補償データTCODEの加算処理を行わずに、周波数制御データDFCIの温度変動成分(環境変動成分)を除去するための演算処理を行って、演算処理後の周波数制御データDFCIをカルマンフィルター部54に入力するようにしてもよい。例えば図17の加算器65及びセレクター63の構成を省略して、カルマンフィルター部54の前段に、周波数制御データDFCIから温度補償データTCODEを減算する減算器を設け、この減算器の出力をカルマンフィルター部54に入力する。またエージング補正部56とセレクター62の間に、エージング補正部56の出力と温度補償データTCODEを加算する加算器を設け、加算器の出力をセレクター62の「1」側の端子に入力する。このような構成によっても、温度変動成分が除去されて、エージング変動成分だけが残存した周波数制御データDFCIを、カルマンフィルター部54に入力できるようになる。
図27に、エージング補正部56の詳細な構成例を示す。通常動作期間では、信号HOLDOVERが「0」になるため、セレクター360、361は「0」端子側を選択する。これにより、通常動作期間においてカルマンフィルター部54により演算された事後推定値x^(k)、補正値D’(k)(フィルター処理後の補正値)が、各々、レジスター350、351に保持される。
ホールドオーバーが検出されて、信号HOLDOVERが「1」になると、セレクター360、361は「1」端子側を選択する。これによりセレクター361は、ホールドオーバーの検出タイミングでレジスター351に保持された補正値D’(k)を、ホールドオーバー期間中は出力し続けることになる。
そして、加算器340は、ホールドオーバーの検出タイミングでレジスター350に保持された事後推定値x^(k)に対して、レジスター351に保持されてセレクター361から出力された補正値D’(k)(補正値)を、各タイムステップごとに順次に加算する処理を行う。これにより下式(6)に示すようなエージング補正が実現される。
即ち図22のC2のタイミングで保持された真値である事後推定値x^(k)に対して、C3の傾きに相当するエージングレートによる周波数変化をキャンセル(補償)する補正値D’(k)を、順次に加算する処理が行われて、エージング補正が実現される。
10.カルマンフィルター処理
次に本実施形態のカルマンフィルター処理の詳細について説明する。カルマンフィルターのモデルの状態方程式、観測方程式は下式(7)、(8)のように表される。
kは離散的な時間であるタイムステップを表す。x(k)はタイムステップk(時刻k)におけるシステムの状態であり、例えばn次元のベクトルである。Aはシステム行列と呼ばれるものである。具体的には、Aはn×nの行列であり、システムノイズがない場合のタイムステップkにおけるシステムの状態とタイムステップk+1におけるシステムの状態を関連づけるものである。v(k)はシステムノイズである。y(k)は観測値であり、w(k)は観測ノイズである。Cは観測係数ベクトル(n次元)であり、Tは転置行列を表す。
上式(7)、(8)のモデルのカルマンフィルター処理では、下式(9)〜(13)の処理を行って、真値を推定する。
上式(9)、(10)は時間更新(予測過程)の式であり、上式(11)〜(13)は観測更新(観測過程)の式である。離散的な時間であるタイムステップkが1つ進む毎に、カルマンフィルター処理の時間更新(式(9)、(10))及び観測更新(式(11)〜(13))が1回行われる。
x^(k)、x^(k−1)は、タイムステップk、k−1でのカルマンフィルター処理の事後推定値である。x^-(k)は、観測値を得る前に予測した事前推定値である。P(k)は、カルマンフィルター処理の事後共分散であり、P-(k)は、観測値を得る前に予測した事前共分散である。G(k)はカルマンゲインである。
カルマンフィルター処理では、観測更新において、上式(11)によりカルマンゲインG(k)が求められる。また観測値y(k)に基づいて上式(12)により、事後推定値x^(k)が更新される。また上式(13)により、誤差の事後共分散P(k)が更新される。
またカルマンフィルター処理では、時間更新において、上式(9)に示すように、タイムステップk−1での事後推定値x^(k−1)と、システム行列Aに基づいて、次のタイムステップkでの事前推定値x^-(k)を予測する。また上式(10)に示すように、タイムステップk−1での事後共分散P(k−1)と、システム行列Aと、システムノイズv(k)に基づいて、次のタイムステップkでの事前共分散P-(k)を予測する。
さて、上式(9)〜(13)のカルマンフィルター処理を実行しようとすると、処理部50の処理負荷が過大になり、回路装置の大規模化を招く場合がある。例えば上式(9)のx^-(k)=Ax^(k−1)のAを求めるためには、拡張カルマンフィルター処理が必要になる。そして拡張カルマンフィルター処理は、処理負荷が非常に重く、処理部50を、拡張カルマンフィルター処理が可能なハードウェアにより実現しようとすると、処理部50の回路面積が非常に大きくなり易い。このため、発振器に内蔵される回路装置に小型化が強く求められている状況においては不適なものになってしまう。一方、システム行列Aとして固定値のスカラー値を用いると、適切なエージング補正を実現する際の難易度が上がる。
そこでこのような状況を避ける必要性がある場合の解決手段として、本実施形態では、カルマンフィルター処理を、上式(9)〜(13)に代えて、下式(14)〜(19)に従った処理により実現する。即ち、処理部50(カルマンフィルター部54)は、下式(14)〜(19)に基づくカルマンフィルター処理を実行する。
なお本実施形態において、真値の推定処理の対象となるx(k)は周波数制御データであり、観測値y(k)も周波数制御データであるため、C=1になる。また、Aのスカラー値は1に限りなく近いため、上式(10)の代わりに上式(15)を用いることができる。
前述したように、カルマンフィルター処理として、拡張カルマンフィルター処理を採用する場合と比較して、本実施形態のカルマンフィルター処理では、上式(14)に示すように、タイムステップkでの事前推定値x^-(k)を、タイムステップk−1での事後推定値x^(k−1)と補正値D(k−1)の加算処理により求めている。このため、拡張カルマンフィルター処理を用いる必要がなくなり、処理部50の処理負荷の軽減や回路規模の増加の抑制等を図れるという点で優れる。
本実施形態では下記のような式の変形により、上式(14)を導出している。
例えば上式(20)は上式(21)のように変形できる。ここで上式(21)の(A−1)は非常に小さい数になるため、上式(22)、(23)に示すように、(A−1)・x^(k−1)を、(A−1)・F0に置き換える近似が可能になる。そして、この(A−1)・F0を、補正値D(k−1)と置く。
そして上式(19)に示すように、タイムステップk−1からタイムステップkへの時間更新の際に、補正値D(k)=D(k−1)+E・(y(k)−x^-(k))=D(k−1)+E・ekの更新処理を行う。ここで、ek=y(k)−x^-(k)は、カルマンフィルター処理における観測残差と呼ばれるものである。またEは定数である。なお、定数Eの代わりに、カルマンゲインG(k)を用いる変形実施も可能である。即ち、D(k)=D(k−1)+G(k)・ekとしてもよい。
このように式(19)では、観測残差をekとし、定数をEとした場合に、D(k)=D(k−1)+E・ekにより補正値D(k)を求めている。このようにすることで、カルマンフィルター処理における観測残差ekを反映させた、補正値D(k)の更新処理が可能になる。
以上のように本実施形態では、処理部50は、上式(14)に示すように、カルマンフィルター処理の事前推定値の更新処理(時間更新)において、今回のタイミングでの事前推定値x^-(k)を、前回のタイミングでの事後推定値x^(k−1)と補正値D(k−1)との加算処理により求める処理を行う。そしてカルマンフィルター処理の結果に基づいて、周波数制御データのエージング補正を行う。即ち、前回のタイミングであるタイムステップk−1での事後推定値x^(k−1)と補正値D(k−1)との加算処理を行って、今回のタイミングであるタイムステップkでの事前推定値x^-(k)を、x^-(k)=x^(k−1)+D(k−1)により求める。
そして処理部50(エージング補正部56)は、このカルマンフィルター処理の結果(真値、補正値)に基づいて、エージング補正を行う。即ち、タイムステップkでの補正値をD(k)(或いはD’(k))とし、タイムステップkでのエージング補正された周波数制御データをAC(k)とした場合に、タイムステップk+1でのエージング補正された周波数制御データAC(k+1)を、AC(k+1)=AC(k)+D(k)(或いはAC(k)+D’(k))により求める。
また処理部50は、上式(19)に示すように、今回のタイミングでの補正値D(k)を、前回のタイミングでの補正値D(k−1)とカルマンフィルター処理での観測残差ekとに基づいて求める。例えば前回のタイミングでの補正値D(k−1)に対して、観測残差に基づく値であるE・ek(或いはG(k)・ek)を加算する処理を行うことで、今回のタイミングでの補正値D(k)を求める。具体的には、今回のタイミングであるタイムステップkでの補正値D(k)を、前回のタイミングであるタイムステップk−1での補正値D(k−1)とカルマンフィルター処理における観測残差ekとに基づいて求める。例えば、観測残差をekとし、定数をEとした場合に、D(k)=D(k−1)+E・ekにより、補正値D(k)を求める。
例えば本実施形態では、図26で説明したように、温度変動成分情報等の環境変動成分情報を取得し、取得された環境変動成分情報を用いて、環境変動成分とエージング変動成分のうち環境変動成分が除かれた周波数制御データを取得する。ここで環境変動成分情報は、電源電圧変動成分、気圧変動成分又は重力変動成分等であってもよい。そして環境変動成分が除かれた周波数制御データに基づいて、エージング補正を行う。具体的には環境変動成分が温度であったとする。この場合、環境変動成分情報を取得するための環境変動情報取得部としての図2の温度センサー10からの、温度検出電圧VTDにより求められる温度検出データDTDに基づいて、環境変動成分情報である温度変動成分情報を取得する。そして取得された温度変動成分情報を用いて、温度変動成分が除かれた周波数制御データが取得される。例えば図24の温度補償部58が温度補償データTCODEを取得し、加算器65により温度補償データTCODEの加算処理を行うことで、温度変動成分が除去された周波数制御データDFCIが周波数制御データ生成部40(又は外部周波数制御データ生成部200)から入力され、処理部50により取得されるようになる。即ち、図26のE2に示すように、温度変動成分が除去される一方で、エージング変動成分が残存した周波数制御データDFCIが取得されて、カルマンフィルター部54に入力されるようになる。
なお、環境変動成分が除かれた周波数制御データとは、環境変動成分が完全に除かれた好適な状態の周波数制御データの他に、周波数制御データ内に無視できるレベルの環境変動成分が含まれている状態の周波数制御データも含む。
例えば温度変動成分情報、或いは電源電圧変動成分情報等の環境変動成分情報については、環境変動成分情報を検出する環境変動情報取得部である温度センサー、電圧検出回路等により取得することができる。一方、エージング変動成分は、時間経過と共に変化する発振周波数の変動成分であり、当該エージング変動成分の情報をセンサー等により直接に検出することは難しい。
そこで本実施形態では、センサー等により検出可能な温度変動成分情報等の環境変動成分情報を取得し、この環境変動成分情報を利用して、環境変動成分とエージング変動成分のうち環境変動成分が除かれた周波数制御データを取得する。即ち、周波数制御データの変動成分から、環境変動成分を除去する処理(例えば加算器65による加算処理)を行うことで、図26のE2に示すようにエージング変動成分だけが残存した周波数制御データを取得できる。そして、エージング変動成分が残存した周波数制御データに基づいて、カルマンフィルター処理等を行えば、周波数制御データについての真値を推定できる。そして、このようにして推定された真値に基づいて、エージング補正を行えば、従来例では実現できなかった高精度のエージング補正を実現できるようになる。
このように本実施形態では、カルマンフィルター部54には、温度変動成分(環境変動成分)が除去される一方で、エージング変動成分が残存する周波数制御データDFCIが入力されている。そして図19、図22に示すように、期間を限定すれば、その期間内では、発振周波数は一定のエージングレートで変化するものと想定できる。例えば図22のC3に示すような一定の傾きで変化するものと想定できる。
本実施形態では、このようなエージング変動成分による一定のエージングレートでの周波数変化を、補償(キャンセル)するための補正値を、D(k)=D(k−1)+E・ekの式により求めている。即ち、図22のC3の傾きに相当するエージングレートによる周波数変化を、補償するための補正値D(k)を求めている。ここで、エージングレートは一定ではなく、図19、図22に示すように、経過時間に応じて変化する。
この点、本実施形態では、D(k)=D(k−1)+E・ekというように、カルマンフィルター処理の観測残差ek=y(k)−x^-(k)に基づいて、エージングレートに対応する補正値D(k)の更新処理を行っている。従って、経過時間に応じたエージングレートの変化についても反映させた補正値D(k)の更新処理を実現できるようになる。従って、より高精度なエージング補正の実現が可能になる。
11.変形例
次に本実施形態の種々の変形例について説明する。図28に本実施形態の変形例の回路装置の構成例を示す。
図28では、図1、図2とは異なり、発振信号生成回路140にD/A変換部80が設けられていない。そして発振信号生成回路140により生成される発振信号OSCKの発振周波数が、処理部50からの周波数制御データDFCQに基づいて、直接に制御される。即ちD/A変換部を介さずに発振信号OSCKの発振周波数が制御される。
例えば図28では、発振信号生成回路140が、可変容量回路142と発振回路150を有する。この発振信号生成回路140には図1、図2のD/A変換部80は設けられていない。そして図14の可変容量キャパシターCX1の代わりに、この可変容量回路142が設けられ、可変容量回路142の一端が振動子XTALの一端に接続される。
この可変容量回路142は、処理部50からの周波数制御データDFCQに基づいて、その容量値が制御される。例えば可変容量回路142は、複数のキャパシター(キャパシターアレイ)と、周波数制御データDFCQに基づき各スイッチ素子のオン、オフが制御される複数のスイッチ素子(スイッチアレイ)を有する。これらの複数のスイッチ素子の各スイッチ素子は、複数のキャパシターの各キャパシターに電気的に接続される。そして、これらの複数のスイッチ素子がオン又はオフされることで、複数のキャパシターのうち、振動子XTALの一端に、その一端が接続されるキャパシターの個数が変化する。これにより、可変容量回路142の容量値が制御されて、振動子XTALの一端の容量値が変化する。従って、周波数制御データDFCQにより、可変容量回路142の容量値が直接に制御されて、発振信号OSCKの発振周波数を制御できるようになる。
12.発振器、電子機器、移動体
図29に、本実施形態の回路装置500を含む発振器400の構成例を示す。図29に示すように、発振器400は、振動子420と回路装置500を含む。振動子420と回路装置500は、発振器400のパッケージ410内に実装される。そして振動子420の端子と、回路装置500(IC)の端子(パッド)は、パッケージ410の内部配線により電気的に接続される。
図30に、本実施形態の回路装置500を含む電子機器の構成例を示す。この電子機器は、本実施形態の回路装置500、水晶振動子等の振動子420、アンテナANT、通信部510、処理部520を含む。また操作部530、表示部540、記憶部550を含むことができる。振動子420と回路装置500により発振器400が構成される。なお電子機器は図30の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
図30の電子機器としては、例えば基地局又はルーター等のネットワーク関連機器や、高精度の計測機器や、GPS内蔵時計、生体情報測定機器(脈波計、歩数計等)又は頭部装着型表示装置等のウェアラブル機器や、スマートフォン、携帯電話機、携帯型ゲーム装置、ノートPC又はタブレットPC等の携帯情報端末(移動端末)や、コンテンツを配信するコンテンツ提供端末や、デジタルカメラ又はビデオカメラ等の映像機器などの種々の機器を想定できる。
通信部510(無線回路)は、アンテナANTを介して外部からデータを受信したり、外部にデータを送信する処理を行う。処理部520は、電子機器の制御処理や、通信部510を介して送受信されるデータの種々のデジタル処理などを行う。この処理部520の機能は、例えばマイクロコンピューターなどのプロセッサーにより実現できる。
操作部530は、ユーザーが入力操作を行うためのものであり、操作ボタンやタッチパネルディスプレイをなどにより実現できる。表示部540は、各種の情報を表示するものであり、液晶や有機ELなどのディスプレイにより実現できる。なお操作部530としてタッチパネルディスプレイを用いる場合には、このタッチパネルディスプレイが操作部530及び表示部540の機能を兼ねることになる。記憶部550は、データを記憶するものであり、その機能はRAMやROMなどの半導体メモリーやHDD(ハードディスクドライブ)などにより実現できる。
図31に、本実施形態の回路装置を含む移動体の例を示す。本実施形態の回路装置(発振器)は、例えば、車、飛行機、バイク、自転車、或いは船舶等の種々の移動体に組み込むことができる。移動体は、例えばエンジンやモーター等の駆動機構、ハンドルや舵等の操舵機構、各種の電子機器(車載機器)を備えて、地上や空や海上を移動する機器・装置である。図31は移動体の具体例としての自動車206を概略的に示している。自動車206には、本実施形態の回路装置と振動子を有する発振器(不図示)が組み込まれる。制御装置208は、この発振器により生成されたクロック信号により動作する。制御装置208は、例えば車体207の姿勢に応じてサスペンションの硬軟を制御したり、個々の車輪209のブレーキを制御する。例えば制御装置208により、自動車206の自動運転を実現してもよい。なお本実施形態の回路装置や発振器が組み込まれる機器は、このような制御装置208には限定されず、自動車206等の移動体に設けられる種々の機器(車載機器)に組み込むことが可能である。
図32は、発振器400の詳細な構造例である。図32の発振器400はダブルオーブン構造(広義にはオーブン構造)の発振器となっている。
パッケージ410は、基板411とケース412により構成される。基板411には不図示の種々の電子部品が搭載される。ケース412の内部には、第2の容器414が設けられ、第2の容器414の内部には第1の容器413が設けられる。そして第1の容器413の上面の内側面(下側面)に振動子420が実装される。また第1の容器413の上面の外側面(上側面)に、本実施形態の回路装置500、ヒーター450、温度センサー460が実装される。ヒーター450(発熱素子)により、例えば第2の容器414の内部の温度を調整できる。そして温度センサー460により、例えば第2の容器414の内部の温度を検出できる。
第2の容器414は基板416上に設けられる。基板416は各種の電子部品を搭載可能な回路基板である。基板416のうち、第2の容器414が設けられる面の裏側面に、ヒーター452、温度センサー462が実装されている。例えばヒーター452(発熱素子)により、ケース412と第2の容器414の間の空間の温度を調整できる。そして温度センサー462により、ケース412と第2の容器414の間の空間の温度を検出できる。
ヒーター450、452の発熱素子としては、例えば発熱パワーバイポーラートランジスター、発熱ヒーターMOSトランジスター、発熱抵抗体、ペルチェ素子等を用いることができる。これらのヒーター450、452の発熱の制御は、例えば回路装置500のオーブン制御回路により実現できる。温度センサー460、462としては例えばサーミスター、ダイオードなどを用いることができる。
図32ではダブルオーブン構造の恒温槽で、振動子420等の温度調整を実現できるため、振動子420の発振周波数の安定化等を図れる。
図33は電子機器の1つである基地局(基地局装置)の構成例である。物理層回路600はネットワークを介した通信処理における物理層の処理を行う。ネットワークプロセッサー602は、物理層よりも上位層の処理(リンク層等)を行う。スイッチ部604は通信処理の各種の切替処理を行う。DSP608は、通信処理に必要な各種のデジタル信号処理を行う。RF回路608は、ローノイズアンプ(LNA)により構成される受信回路、や、パワーアンプにより構成される送信回路や、D/A変換器、A/D変換器などを含む。
セレクター612は、GPS610からの基準信号RFCK1、物理層回路600からの基準信号RFCK2(ネットワークからクロック信号)のいずれかを、基準信号RFCKとして、本実施形態の回路装置500に出力する。回路装置500は、基準信号RFCKに対して発振信号(発振信号に基づく入力信号)を同期させる処理を行う。そして周波数が異なる各種のクロック信号CK1、CK2、CK3、CK4、CK5を生成して、物理層回路600、ネットワークプロセッサー602、スイッチ部604、DSP606、RF回路608に供給する。
本実施形態の回路装置500によれば、図33に示すような基地局において、基準信号RFCKに発振信号を同期させ、当該発振信号に基づいて生成された周波数安定度の高いクロック信号CK1〜CK5を、基地局の各回路に供給できるようになる。
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語(環境変動成分等)と共に記載された用語(温度変動成分等)は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本発明の範囲に含まれる。また回路装置、発振器、電子機器、移動体の構成・動作や、回路ブロック、端子の配置手法や、エージング補正処理、カルマンフィルター処理、ホールドオーバー処理、温度補償処理等も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。