本発明の装飾不織布は、不織布表面に、樹脂を含む装飾部を部分的に有し、(1)装飾部における光沢度が3.9%以上、(2)装飾部と非装飾部との段差が0.2mm以下、かつ(3)装飾部の総面積が不織布表面の面積の30%以上を占めるため、光沢性、耐磨耗性に優れている。つまり、装飾部と非装飾部との段差が0.2mm以下であり、光沢度が3.9%以上であるため、光沢性に優れ、意匠性に優れている。また、光沢度が3.9%以上であるため、ある程度の量の樹脂が装飾部に存在しており、しかも装飾部の総面積が不織布表面の面積の30%以上を占めていることから、繊維同士が充分に樹脂で固定されており、また、装飾部と非装飾部との段差が0.2mm以下で引っ掛かりにくいため、耐磨耗性にも優れている。
前記装飾部における光沢度は光沢性に優れ、意匠性に優れているように、また、ある程度の量の樹脂が装飾部に存在していることによって、耐磨耗性に優れているように、光沢度は3.9%以上であるが、光沢度が高い方が光沢性に優れているため、4.6%以上であるのが好ましく、8.6%以上であるのがより好ましい。光沢度の上限は、不織布と装飾部の色、及び装飾部の面積の影響を受けるため、特に限定するものではないが、70%以下であることが好ましい。本発明における「光沢度」はJIS Z8741−1997に規定されている、方法2で得られる値を意味する。つまり、デジタル変角光沢計(スガ試験機株式会社製)を用い、次の条件で測定した値を意味する。
入射角(θ):75±0.1°
受光角(θ):75±0.1°
光源像の開き角 入射面内(α1’):2.85±0.30°
垂直面内(β1’):5.7±0.30°
受光器の開き角 入射面内(α2) :11.50±0.05°
垂直面内(β2) :円形
また、装飾部と非装飾部との段差が0.2mm以下であるため、装飾部が平滑で光沢性に優れており、しかも指などに引っ掛かりにくいため、耐磨耗性に優れている。この段差が小さければ小さい程、前記効果に優れているため、0.1mm以下であるのがより好ましく、0.07mm以下であるのが更に好ましい。本発明における「装飾部と非装飾部との段差」は、装飾不織布の装飾部と非装飾部とを含むように、装飾不織布を厚さ方向に切断し、その断面写真をマイクロスコープ等によって撮影し、非装飾部上面と隣接する装飾部上面との段差(絶対値)を10点計測し、その計測した値の平均値を意味する。
更に、装飾部の総面積が不織布表面の面積の30%以上を占めており、繊維同士が充分に樹脂で固定されているため、耐磨耗性に優れている。この装飾部の総面積の比率が高ければ高い程、耐磨耗性に優れているため、40%以上を占めているのが好ましく、45%以上を占めているのがより好ましく、50%以上を占めているのが更に好ましい。一方で、装飾部の総面積の比率が高過ぎると、装飾不織布が硬くなり、触感が悪くなる傾向があるため、90%以下であるのが好ましく、80%以下であるのがより好ましく、70%以下であるのが更に好ましい。なお、装飾部の総面積の比率は次の式から得られる値を意味する。
At=(Dt/N)100
ここで、Atは「装飾部の総面積の比率(単位:%)」、Dtは個々の装飾部の面積の総和である「装飾部の総面積(単位:cm2)」、Nは空隙がないとみなした時の面積である「不織布表面の面積(単位:cm2)」を、それぞれ意味する。
本発明の装飾不織布は前述の通り、不織布表面に、樹脂を含む装飾部を部分的に有するものである。本発明の不織布を構成する繊維の繊度は特に限定するものではないが、ある程度細く、しかも均一に分散していることによって、不織布の装飾部を有する面(以下、「装飾面」と表記することがある)が平滑で、装飾部と非装飾部との段差が小さいことによって、光沢性、耐磨耗性に優れているように、0.5〜6.6dtexであるのが好ましく、0.5〜4.4dtexであるのがより好ましく、0.7〜3.3dtexであるのが更に好ましい。この「繊度」はJIS L 1015(2010)、8.5.1(正量繊度)に規定されているA法により得られる値を意味する。
また、本発明の不織布を構成する繊維の繊維長は特に限定するものではないが、均一に分散していることによって、平滑かつ均一な装飾面であることができるように、20〜110mmであるのが好ましく、30〜80mmであるのがより好ましい。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
本発明の不織布を構成する繊維も特に限定するものではないが、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維などの合成繊維;レーヨン繊維などの再生繊維;アセテート繊維などの半合成繊維;綿、麻などの植物繊維;羊毛などの動物繊維;などを挙げることができる。これらの中でも、耐熱性、耐候性、防汚性等に優れるポリエステル繊維、及び/又は難燃性に優れるレーヨン繊維を含んでいるのが好ましい。
また、本発明の不織布を構成する繊維は白色であっても、白色以外の色に着色していても良い。特に、不織布の装飾面における繊維は、装飾部とのコントラストにより、装飾部による模様の確認が容易となり、意匠性が優れることから、白色以外の色に着色しているのが好ましい。なお、着色した繊維は顔料及び/又は染料を含有している。
本発明の不織布を構成する繊維はどのように配向していても良いが、装飾部と非装飾部との段差が小さいように、繊維同士が交差するように配向した状態にあるのが好ましい。このように繊維同士が交差するように配向した状態の不織布は、例えば、一方向性繊維ウエブをクロスレイヤー等によりクロスレイドウエブを形成し、繊維同士を結合して製造することができる。
本発明の不織布は柔軟性に優れ、触感が優れているように、繊維同士が絡合した状態にあるのが好ましい。このように繊維同士が絡合した状態にある不織布は、例えば、繊維ウエブに対して、ニードルパンチ処理又は水流絡合処理を施すことによって製造することができる。特に、ニードルパンチ処理によれば、柔軟性、触感がより優れているため好適である。
また、本発明の不織布は装飾部と非装飾部との段差が小さく、光沢性、耐磨耗性に優れているように、装飾面がバインダで接着した状態にあるのが好ましい。このようにバインダで接着した状態にある場合、バインダ量が多過ぎると、柔軟性が損なわれ、触感が悪くなる傾向があるため、バインダ量は1〜20g/m2であるのが好ましく、1〜10g/m2であるのがより好ましい。また、バインダ樹脂が硬いと、装飾不織布の柔軟性、触感が損なわれる傾向があるため、バインダ樹脂のガラス転移温度は0℃以下であるのが好ましく、−10℃以下であるのがより好ましく、−20℃以下であるのが更に好ましく、−30℃以下であるのが更に好ましい。一方で、バインダ樹脂のガラス転移温度が低過ぎると、粘着性に起因して触感が悪くなる傾向があるため、−50℃以上であるのが好ましい。なお、バインダ樹脂は、例えば、エチレンー塩化ビニル系、エチレンー酢酸ビニル系、エチレンー酢酸ビニルー塩化ビニル系、塩化ビニリデン系、塩化ビニル系、ポリエステル系、アクリル酸エステル系などの樹脂から構成することができる。本発明の「ガラス転移温度」はJIS K7121(2012)に則って描いたDSC曲線から読み取った中間点ガラス転移温度(Tmg)を意味する。
本発明の不織布の目付は特に限定するものではないが、不織布に厚さ斑がないように、150g/m2以上であるのが好ましく、軽量で、成形する場合には、成形性に優れているように、500g/m2以下であるのが好ましい。
また、本発明の不織布の厚さも特に限定するものではないが、柔軟性に優れ、触感が優れているように、0.6mm以上であるのが好ましく、1.3mm以上であるのがより好ましく、1.5mm以上であるのが更に好ましい。一方、不織布の厚さの上限は特に限定するものではないが、軽量であるように、3mm以下であるのが好ましい。本発明における「厚さ」は、2.0kPa荷重時の値をいう。
本発明の装飾不織布はこのような不織布の装飾面に樹脂を含む装飾部を部分的に有するものであるため、意匠性に優れている。つまり、装飾部を構成する樹脂が不織布の装飾面における空隙を埋めたフィルム状態にあることによって、光沢度が3.9%以上の光沢性に優れるものであることができる。このような光沢度であるために、装飾部は充分な量の樹脂が存在している必要があるため、装飾部を構成する全樹脂の40mass以上はホットメルト樹脂が占めているのが好ましい。ホットメルト樹脂は粒子径が比較的大きく、造膜性に優れているためである。このホットメルト樹脂が多ければ多い程、前記効果に優れているため、ホットメルト樹脂は装飾部の全樹脂の50mass%以上を占めているのがより好ましく、60mass%以上を占めているのが更に好ましく、70mass%以上を占めているのが更に好ましい。一方で、一般的にホットメルト樹脂は硬く、装飾不織布の触感、及び装飾不織布を成形する場合には、金型への追従性や密着性が悪くなる傾向があるため、ホットメルト樹脂は装飾部の全樹脂の90mass%以下を占めているのがより好ましく、85mass%以下を占めているのが更に好ましく、80mass%以下を占めているのが更に好ましい。
このホットメルト樹脂は特に限定するものではないが、例えば、熱可塑性ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂またはポリオレフィン変性樹脂など、1種類以上であることができる。
このように、この装飾部は全樹脂の40〜90mass%をホットメルト樹脂が占めているのが好ましいが、装飾部を構成する残りの樹脂はガラス転移温度が20℃以下の樹脂(以下、「低Tg樹脂」と表記することがある)であるのが好ましい。前述の通り、ホットメルト樹脂は硬く、装飾不織布の触感等を悪くする傾向があるため、その傾向を緩和するためである。より好ましくはガラス転移温度が10℃以下の低Tg樹脂であり、更に好ましくはガラス転移温度が0℃以下の低Tg樹脂であり、更に好ましくはガラス転移温度が−10℃以下の低Tg樹脂である。
この低Tg樹脂は特に限定するものではないが、例えば、エチレンー塩化ビニル系、エチレンー酢酸ビニル系、エチレンー酢酸ビニルー塩化ビニル系、塩化ビニリデン系、塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、アクリル酸エステル系などの樹脂、1種類以上であることができる。
このような低Tg樹脂の含有量はホットメルト樹脂との関係から、装飾部における全樹脂の10〜60mass%であるのが好ましく、15〜50mass%であるのがより好ましく、20〜40mass%であるのが更に好ましく、20〜30mass%であるのが更に好ましい。
なお、ガラス転移温度が20℃以下の低Tg樹脂は柔軟性に優れ、低Tg樹脂を含む装飾部を有する装飾不織布は、触感の優れる装飾不織布であることができるため、装飾部を構成する樹脂としてホットメルト樹脂を含まない場合であっても、装飾部を構成する樹脂として、低Tg樹脂を含んでいるのが好ましい。
本発明の不織布の装飾部はホットメルト樹脂及び/又は低Tg樹脂を含むことができるが、装飾部の総樹脂量は耐摩耗性に優れているように、20g/m2以上であるのが好ましく、25g/m2以上であるのがより好ましく、30g/m2以上であるのが更に好ましい。一方で、装飾部の総樹脂量が多くなり過ぎると、柔軟性が低下し、触感が悪くなる傾向があるため、80g/m2以下であるのが好ましく、60g/m2以下であるのがより好ましく、50g/m2以下であるのが更に好ましい。
本発明の装飾部は前述のように、ホットメルト樹脂、低Tg樹脂の2種類以上の樹脂を含むのが好ましいが、これら樹脂に替えて、又は加えて、これら樹脂以外の樹脂(例えば、ガラス転移温度が20℃を超える樹脂、熱硬化性樹脂など)を含むことができる。また、樹脂以外に、光沢性、耐磨耗性を損なわない範囲内で、各種薬剤を有していても良い。例えば、難燃剤、染料、顔料、界面活性剤、撥水剤、撥油剤、抗菌剤、滑剤、及び/又は増粘剤などを含んでいることができる。
本発明の装飾不織布は装飾部を部分的に有する、つまり、装飾部の総面積が不織布表面の面積の30%以上を占めるように装飾部を有する。この装飾部の模様は特に限定するものではないが、例えば、格子模様、市松模様、縦縞模様、横縞模様、ドット模様、ヘリンボーン模様、或いはこれらの組合せであることができる。
このような本発明の装飾不織布は、例えば、不織布表面に、ホットメルト樹脂を全樹脂の40〜90mass%含む樹脂液を部分的に塗布して、前駆装飾部を部分的に有する前駆装飾不織布を形成する工程、前駆装飾不織布の前駆装飾部を有する表面に、平滑化部材を積層した状態で、ホットメルト樹脂を溶融後、固化させて装飾部とする工程、及び平滑化部材を取り除いて、不織布表面に、樹脂を含む装飾部を部分的に有する、本発明の装飾不織布とする工程、により製造することができる。このように、ホットメルト樹脂を全樹脂の40〜90mass%含む樹脂液を部分的に塗布して前駆装飾部を形成した後、平滑化部材を積層した状態でホットメルト樹脂を溶融し、固化させて装飾部としているため、装飾部と非装飾部との段差が小さく、装飾部における光沢度が3.9%以上の光沢性に優れる装飾不織布を製造することができる。また、ホットメルト樹脂量が多いこと、装飾部と非装飾部の段差が小さいことに加えて、本発明の装飾不織布は、装飾部の総面積が不織布表面の面積の30%以上を占めているため、耐磨耗性に優れる装飾不織布を製造できる。
より具体的には、まず、不織布を製造する。好ましくは、表面が平滑な不織布を製造する。このような不織布を製造しやすいように、前述の通り、繊度が0.5〜6.6dtex(好ましくは0.5〜4.4dtex、より好ましくは0.7〜3.3dtex)で、繊維長が20〜110mm(好ましくは30〜80mm)の繊維を準備する。また、前述の通り、繊維はポリエステル繊維及び/又はレーヨン繊維であるのが好ましい。更に、繊維は着色した繊維であるのが好ましい。
次いで、準備した繊維を用いて、繊維ウエブを形成する。繊維ウエブの形成方法は特に限定するものではないが、比較的嵩高で、柔軟な繊維ウエブを形成できる、カード法などの乾式法により繊維ウエブを形成するのが好ましい。なお、表面が平滑な不織布を製造しやすいように、不織布の装飾面の元となる繊維ウエブの面において、繊維同士が交差した状態にあるように繊維を配向させるのが好ましい。例えば、一方向性繊維ウエブをクロスレイヤー等によりクロスレイドウエブを形成することによって、繊維同士が交差した状態とするのが好ましい。
次いで、繊維同士を結合して不織布を製造する。この結合方法は特に限定するものではないが、不織布が柔軟性に優れているように、ニードルパンチ処理又は水流絡合により結合するのが好ましく、より柔軟性に優れる不織布を製造しやすい、ニードルパンチ処理により結合するのが好ましい。
このようにニードルパンチ処理、水流絡合処理などの絡合処理によって繊維同士を絡合した不織布(絡合ウエブ)は、装飾面の平滑性が劣り、光沢性に優れる装飾不織布を製造しにくい傾向があるため、絡合ウエブの平滑性を高めるために、加熱加圧するのが好ましい。この加熱と加圧は同時に行っても良いし、加熱後に加圧しても良い。例えば、加熱ロールを用いれば加熱と加圧を同時に実施することができ、オーブン等により加熱した後に、加熱温度よりも低い温度の一対のロールによって加圧すれば、加熱と加圧を別に実施することができる。
また、加熱加圧した絡合ウエブの平滑性を高め、また、耐磨耗性に優れているように、装飾面となる絡合ウエブの面をバインダで接着して不織布とするのが好ましい。このようなバインダとして、例えば、エチレンー塩化ビニル系、エチレンー酢酸ビニル系、エチレンー酢酸ビニルー塩化ビニル系、塩化ビニリデン系、塩化ビニル系、ポリエステル系、アクリル酸エステル系などの樹脂のエマルジョン又はサスペンジョンを用いることができる。このようなバインダを用いる接着は、絡合ウエブの装飾面に、バインダを含浸、泡立て含浸、コーティング、又はスプレーし、乾燥して実施できる。なお、バインダ量は前述の通り、1〜20g/m2(より好ましくは1〜10g/m2)であるのが好ましい。また、バインダ樹脂のガラス転移温度は0〜−50℃(好ましくは−10〜−50℃、より好ましくは−20〜−50℃、更に好ましくは−30℃〜−50℃)であるのが好ましい。
一方で、ホットメルト樹脂を全樹脂の40〜90mass%含む樹脂液(以下、「装飾樹脂液」と表記することがある)を用意する。このホットメルト樹脂としては、前述の通り、例えば、熱可塑性ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂またはポリオレフィン変性樹脂など、1種類以上を用意する。このホットメルト樹脂は一般的に粉体である。このホットメルト樹脂の粒子径は特に限定するものではないが、1〜150μm程度であると、装飾樹脂液塗布時に不織布内部へ浸透しにくく、不織布の装飾面上に留まって、装飾部を効率的に形成できるため好適である。
このようなホットメルト樹脂は硬く、装飾不織布の触感を悪くする傾向があるため、ガラス転移温度が20℃以下(好ましくはガラス転移温度が10℃以下、より好ましくはガラス転移温度が0℃以下、更に好ましくはガラス転移温度が−10℃以下)の低Tg樹脂も用意するのが好ましい。この低Tg樹脂は、例えば、エチレンー塩化ビニル系、エチレンー酢酸ビニル系、エチレンー酢酸ビニルー塩化ビニル系、塩化ビニリデン系、塩化ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、アクリル酸エステル系などの樹脂、1種類以上であることができる。このような低Tg樹脂は一般的にエマルジョン又はサスペンジョン状態にある。
次いで、ホットメルト樹脂の量が全樹脂の40〜90mass%含む装飾樹脂液を調製する。好ましくは、前述のような低Tg樹脂を含む装飾樹脂液を調製する。上述の通り、ホットメルト樹脂は一般的に粉体であるのに対して、低Tg樹脂は一般的にエマルジョン又はサスペンジョン状態にあるため、ホットメルト樹脂質量と低Tg樹脂の固形分質量の全質量に対して、ホットメルト樹脂量が40〜90mass%(好ましくは50〜85mass%、より好ましくは60〜80mass%、更に好ましくは70〜80mass%)となるように、装飾樹脂液を調製する。低Tg樹脂を含む装飾樹脂液を調製する場合には、低Tg樹脂はホットメルト樹脂質量と低Tg樹脂の固形分質量の全質量に対して、10〜60mass%(好ましくは15〜50mass%、より好ましくは20〜40mass%、更に好ましくは20〜30mass%)であるのが好ましい。
なお、ホットメルト樹脂を分散させる溶媒は特に限定するものではないが、例えば、水、アルコールであることができ、装飾不織布製造時の環境に優れている、水であるのが好ましい。また、装飾樹脂液はホットメルト樹脂、低Tg樹脂以外に、例えば、難燃剤、染料、顔料、界面活性剤、撥水剤、撥油剤、抗菌剤、滑剤、及び/又は増粘剤などを含んでいることができる。
次いで、不織布の装飾面に対して、装飾樹脂液を部分的に塗布して、前駆装飾部を部分的に有する前駆装飾不織布を形成する。この装飾樹脂液を部分的に塗布する方法は特に限定するものではないが、例えば、活版印刷、平版印刷、凹版印刷、孔版印刷、などの印刷方法を挙げることができる。なお、装飾樹脂液の塗布量は耐摩耗性に優れているように、固形分で20g/m2以上(好ましくは20〜80g/m2、より好ましくは25〜60g/m2、更に好ましくは30〜50g/m2)であるのが好ましい。なお、前駆装飾部は装飾部の元になる部分であるため、前駆装飾部の総面積が不織布表面の面積の30%以上(好ましくは40〜90%、より好ましくは45〜80%、更に好ましくは50〜70%)を占めるように、部分的に塗布する。また、前駆装飾部は装飾部の元になる部分であるため、例えば、格子模様、市松模様、縦縞模様、横縞模様、ドット模様、ヘリンボーン模様、或いはこれらの組合せ模様を有することができる。
このように形成した前駆装飾不織布の前駆装飾部は不織布の装飾面から突出した状態にあり、光沢性が低く、また、耐磨耗性も低い状態にあるため、前駆装飾不織布の前駆装飾部を有する装飾面に、平滑化部材を積層し、この積層した状態で、ホットメルト樹脂を溶融させた後、固化させて装飾部とする。つまり、突出した状態にある前駆装飾部を構成するホットメルト樹脂が溶融し、固化する際に、平滑化部材の平滑面に沿って変形し、平滑化部材の平滑面に対応した平滑面として、装飾部と非装飾部との段差を0.2mm以下とする。
この平滑化部材は装飾不織布の装飾部と非装飾部との段差を0.2mm以下とすることのできる平滑面を有するものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、ホットメルト樹脂の溶融温度よりも高い融点と耐熱寸法安定性を有する樹脂フィルム(例えば、ポリエステルフィルム)又は樹脂板、金属箔又は金属板、ケイ酸などからなる無機フィルム又は無機板を挙げることができる。
なお、前駆装飾不織布と平滑化部材とを積層した状態でホットメルト樹脂を溶融させ、その後、固化させて、前駆装飾部を装飾部とする方法は特に限定するものではないが、例えば、(1)連続式接着プレス機を用いてホットメルト樹脂を溶融させ、平滑化部材と密着させた後に、充分に放熱又は冷却して固化させる方法、(2)加熱ロールを用いてホットメルト樹脂を溶融させ、平滑化部材と密着させた後に、充分に放熱又は冷却して固化させる方法、(3)オーブン等により加熱してホットメルト樹脂を溶融させた後に、冷却ロールにて加圧することにより、平滑化部材と密着させた状態で冷却し、固化させる方法、などを挙げることができる。
そして、この前駆装飾不織布と平滑化部材とを積層した積層体から平滑化部材を取り除いて、不織布表面に、樹脂を含む装飾部を部分的に有する装飾不織布を得ることができる。このようにして得られる装飾不織布は、ホットメルト樹脂を全樹脂の40〜90mass%含む樹脂液を部分的に塗布して前駆装飾部を形成した後、平滑化部材を積層した状態でホットメルト樹脂を溶融し、固化させて装飾部としているため、ホットメルト樹脂量が多く、しかも装飾部と非装飾部との段差が0.2mm以下で、装飾部における光沢度が3.9%以上の光沢性に優れるものである。また、ホットメルト樹脂量が多いこと、装飾部と非装飾部の段差が0.2mm以下であることに加えて、装飾部の総面積が不織布表面の面積の30%以上を占めているため、耐磨耗性にも優れている。
なお、平滑化部材は取り除いた後、廃棄することができるし、再度、前駆装飾不織布の装飾面に積層して、再利用することもできる。
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、耐磨耗性、柔軟性及び光沢性は、次の方法により評価したものである。
(耐磨耗性)
(社)自動車技術会で規定するJASO M 403/88/シ−ト表皮用布材料の平面摩耗試験機(B法)を用いる方法であり、試験機の平面摩耗台に装飾不織布を試験片として取り付け、JIS L 3102(綿帆布)6号の綿帆布を取り付けた摩擦子を用い、荷重4.9Nにて試験片上を5000回往復させ、その後の試験片の表面状態を観察し、次の基準で評価した。
(基準)
5:変化が認められない
4:変化がわずかに認められる
3:変化が明らかに認められる
2:変化がやや著しい
1:変化が著しい
(柔軟性)
モニターに直接、装飾不織布に触ってもらうことにより、柔軟性について、3段階で評価してもらった。つまり、柔軟性に優れている場合「○」と評価し、柔軟性が悪い場合「×」と評価し、その中間の柔軟性である場合「△」と評価してもらった。
(光沢性)
モニターに、装飾不織布における装飾部の光沢性を観察してもらい、3段階で評価してもらった。つまり、光沢性に優れている場合「○」と評価し、光沢性に劣る場合「×」と評価し、その中間の光沢性である場合「△」と評価してもらった。
(不織布の製造)
黒顔料で着色したポリエステル短繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:51mm)を100%用いて、カード機により開繊して一方向性繊維ウエブを形成した後、クロスレイヤーにより、繊維同士が交差した状態のクロスレイウエブを形成し、更にニードルパンチ処理を行って絡合し、目付175g/m2のニードルパンチウエブを形成した。
次いで、このニードルパンチウエブを、一方が温度180℃、もう一方が常温であり、ロール間ギャップが0.3mmのカレンダーロール間を通過させることにより加熱加圧を実施して、平滑化ウエブを形成した。
次いで、平滑化ウエブの片面に対して、アクリル酸エステルエマルジョンバインダ溶液(ガラス転移温度:−38℃)を泡立て含浸し、温度160℃のキャンドライヤーで乾燥して、不織布(目付:180g/m2、厚さ:1.5mm、バインダ量:5g/m2)を形成した。
(装飾樹脂液の調製)
ホットメルト樹脂として、変性ナイロン樹脂(融点:約117℃、粒子径:1〜80μm)、低Tg樹脂として自己架橋型のアクリル酸エステルエマルジョン(ガラス転移温度:−40℃)を用意し、ホットメルト樹脂と低Tg樹脂とを表1に示す質量比率で含む装飾樹脂液(溶媒:水)を調製した。
(実施例1〜5、比較例1〜5)
前記不織布のバインダ含浸面に対して、孔版印刷機を用いて、表2に示す樹脂溶液a〜jを水玉模様に塗布した後、140℃に設定したドライヤーで乾燥して、前駆装飾不織布を形成した。
次いで、前駆装飾不織布の水玉模様(前駆装飾部)を有する表面に、ポリエステル樹脂製離型フィルムを積層した後、この積層状態のまま、温度140℃に設定した連続式接着プレス機を使用して、圧力1.5kg/cm2、加熱時間20秒の条件にて、前駆装飾部を構成するホットメルト樹脂を溶融及び接着させ、放冷して固化させた後に、ポリエステル樹脂製離型フィルムを剥がし、不織布表面に光沢性を有する水玉模様の装飾部を有し、表2に示す物性を有する装飾不織布(目付:220g/m2、厚さ:1.3mm、装飾部の総質量:40g/m2)をそれぞれ製造した。
この表1、2の結果から、光沢度が3.9%以上であることによって、光沢性に優れていることがわかった。また、ホットメルト樹脂量が固形分質量の全質量の40mass%以上であると、耐磨耗性に優れ、また、光沢度が3.9%以上となりやすいことがわかった。更に、ホットメルト樹脂量が固形分質量の全質量の100mass%となると、柔軟性が悪くなる傾向があるため、ホットメルト樹脂量は固形分質量の全質量の90mass%以下であるのが好ましいこともわかった。
(実施例6〜7、比較例6)
前記不織布のバインダ含浸面に対して、孔版印刷機を用いて、前記樹脂溶液hを、表3に示すような装飾部の総面積の不織布表面の面積に占める割合で、水玉模様に塗布した後、140℃に設定したドライヤーで乾燥して、前駆装飾不織布を形成した。
次いで、前駆装飾不織布の水玉模様(前駆装飾部)を有する表面に、ポリエステル樹脂製離型フィルムを積層した後、この積層状態のまま、温度140℃に設定した連続式接着プレス機を使用して、圧力1.5kg/cm2、加熱時間20秒の条件にて、前駆装飾部を構成するホットメルト樹脂を溶融及び接着させ、放冷して固化させた後に、ポリエステル樹脂製離型フィルムを剥がし、不織布表面に水玉模様の装飾部を有し、表3に示す物性を有する装飾不織布をそれぞれ製造した。
この表3の結果から、装飾部の総面積の不織布表面の面積に占める割合が30%以上であると、耐磨耗性に優れていることがわかった。
(比較例7〜9)
前記不織布のバインダ含浸面に対して、孔版印刷機を用いて、表4に示す樹脂溶液を水玉模様に塗布した後、140℃に設定したドライヤーで乾燥して、不織布表面に水玉模様の装飾部を有する前駆装飾不織布を形成し、この前駆装飾不織布を装飾不織布(目付:220g/m2、厚さ:1.7mm、装飾部の総質量:40g/m2)とみなした。なお、前駆装飾部を構成するホットメルト樹脂は溶着していた。また、装飾不織布の物性は表4に示す通りであった。
この表4の比較例9と表2の実施例3との比較から、装飾部と非装飾部との段差が0.2mm以下であることによって、光沢性及び耐磨耗性に優れていることがわかった。なお、比較例7と実施例5との比較からも同様のことがわかった。
(実施例8〜12、比較例10)
(装飾樹脂液の調製)
ホットメルト樹脂として、変性ナイロン樹脂(融点:約117℃、粒子径:1〜80μm)、低Tg樹脂として、ガラス転移温度が−20℃、0℃又は20℃の自己架橋型のアクリル酸エステルエマルジョンを用意し、ホットメルト樹脂と低Tg樹脂とを表5に示す質量比率で含む装飾樹脂液(溶媒:水)を調製した。
前記不織布のバインダ含浸面に対して、孔版印刷機を用いて、表6に示す樹脂溶液k〜pを水玉模様に、装飾部の総面積の不織布表面の面積に占める割合が56%であるように塗布した後、140℃に設定したドライヤーで乾燥して、前駆装飾不織布を形成した。
次いで、前駆装飾不織布の水玉模様(前駆装飾部)を有する表面に、ポリエステル樹脂製離型フィルムを積層した後、この積層状態のまま、温度140℃に設定した連続式接着プレス機を使用して、圧力1.5kg/cm2、加熱時間20秒の条件にて、前駆装飾部を構成するホットメルト樹脂を溶融及び接着させ、放冷して固化させた後に、ポリエステル樹脂製離型フィルムを剥がし、不織布表面に水玉模様の装飾部を有し、表6に示す物性を有する装飾不織布をそれぞれ製造した。
表5、6から、ホットメルト樹脂量が比較的少なく、低Tg樹脂のガラス転移温度が高いと、光沢度が低く、光沢性が悪くなる傾向があることがわかった。また、ホットメルト樹脂が比較的少なく、低Tg樹脂のガラス転移温度が低くなると、耐磨耗性が悪くなるものの、柔軟性は向上する傾向があることもわかった。更に、ホットメルト樹脂量が比較的多いと、低Tg樹脂のガラス転移温度に関係なく、光沢性、耐磨耗性に優れているものの、柔軟性が悪くなる傾向があることもわかった。