本発明の銀付調人工皮革は、平均繊度0.001〜0.5デシテックスの極細長繊維から形成された長繊維絡合体を含む見掛け比重0.5〜0.7g/cm3の基体層と、基体層の少なくとも一面に形成された銀面層とを備えた銀付調人工皮革であって、基体層は、さらに高分子弾性体を該高分子弾性体/前記長繊維絡合体の質量比で0/100〜20/80の範囲で含んでもよく、銀面層は、厚み15μm以上であり、基体層の表面に近い側から順に、高分子弾性体からなるベースコート層と、固体ワックスを含むワックス層と、鉛筆硬度HB以上の高硬度皮膜からなる保護層とを含む。
図1は本実施形態の銀付調人工皮革10の模式断面図である。図1中、1は極細長繊維から形成された長繊維絡合体と必要に応じて少量の高分子弾性体を含む基体層、2は非多孔性の高分子弾性体からなるベースコート層、3は固体ワックスを含むワックス層、4は高硬度皮膜からなる保護層である。
極細長繊維から形成された長繊維絡合体と必要に応じて少量の高分子弾性体とを含む基体層1は、天然皮革に似たしなやかさを有するために揉み処理等を施した場合に細かな皺を発現させるように細かく折れ曲がる。また、ベースコート層2、ワックス層3、保護層4が厚み15μm以上の銀面層5を形成している。ベースコート層2は基体層1の表面を平滑化して、後述する揉み処理等の後処理により賦与される模様を均一に発現させる機能を有する層である。また、ワックス層3は、後述する揉み処理等により成膜されたワックスの膜が揉み、曲げ、引っ張りの作用を受けてひび割れてクラックを形成することにより、ワックス層3で部分的な光の反射率の変化により色が変わり、天然皮革に似た立体感のある細やかな皺のある外観を発現させるプルアップ効果を発現する。また、保護層4は、脆く摩耗しやすいワックス層3を保護して摩擦や引っ掻き等の外部からの摩耗要因に対する耐性を付与する機能を有する。
基体層は、平均繊度0.001〜0.5デシテックスの極細長繊維から形成された緻密な長繊維絡合体を含み、さらに、必要に応じて長繊維絡合体の形態を保持するための少量の高分子弾性体、を含む。
極細長繊維の平均繊度は0.001〜0.5デシテックスであり、0.01〜0.4デシテックス、さらには0.02〜0.3デシテックスであることが好ましい。極細長繊維の平均繊度が0.001デシテックス未満の場合には、繊維強力が低くなりすぎるとともに、極細長繊維が集束しやすくなって柔軟性が得られにくくなり、また、風合いや表面感に斑が生じやすくなる。また、0.5デシテックスを超える場合には、繊維が嵩高くなるために長繊維絡合体が充分に緻密にならず、充実感や表面の緻密感が得られにくくなる。また、平均繊度が大きくなるにつれて総表面積が小さくなって繊維間の動摩擦抵抗が小さくなるために、長繊維絡合体から繊維が抜けやすくなる傾向があり、その結果、剥離強力等の機械的特性も低下する傾向がある。なお、極細長繊維は、後述する極細繊維発生型繊維に由来する、例えば、5〜1000本の極細長繊維からなる繊維束を形成していることが好ましい。このような繊維束の平均繊度としては、0.5〜4デシテックス、さらには1〜3デシテックス程度であることが好ましい。
基体層は、長繊維絡合体の形態を保持するために必要に応じて少量の高分子弾性体を含有してもよい。高分子弾性体を含有する場合、高分子弾性体/長繊維絡合体の質量比は0/100〜20/80の範囲であり、さらには0.1/99.9〜15/85、特には0.1/99.9〜11/89であることが好ましい。高分子弾性体/長繊維絡合体の質量比が20/80を超える場合には、高分子弾性体による反発感が強くなり、後述する揉み処理等のプルアップ仕上げの際に、細やかな皺の表現が難しくなる傾向がある。また、高分子弾性体特有の弾性により天然皮革調の風合いが得られにくくなる傾向がある。
基体層の見掛け比重は、0.5〜0.7g/cm3であり、0.53〜0.66g/cm3、さらには0.55〜0.63g/cm3であることが好ましい。基体層の見掛け比重が0.5g/cm3未満の場合には、充実感が低下して天然皮革に似た風合いが得られにくくなる。また、基体層の見掛け比重が0.7g/cm3を超える場合には、風合いが硬くなるために、後述する揉み処理等によりワックス層に細かなクラックが生じにくくなる。
基体層の厚みは、好ましくは0.4〜3.5mm、より好ましくは0.5〜2.5mm、さらには0.7〜2.0μm程度であることが好ましい。基体層の厚みが厚くなりすぎた場合には、後述する物理的な柔軟化処理により細かな模様が付与されにくくなる傾向がある。逆に薄すぎる場合には、基体層の十分な強度が得られない、皮革調の充実感が表現しにくくなるなどの問題が生じる。
一方、基体層1の表面に形成された銀面層5は、基体層1の表面に近い側から順に、ベースコート層2、ワックス層3、保護層4の少なくとも3層を含む、厚み15μm以上の表面層である。
ベースコート層は基体層の表面を平滑化して、後述する物理的な柔軟化処理により賦与される模様を均一に発現させる機能を有する高分子弾性体からなる層である。
ベースコート層の形成に用いられる高分子弾性体の具体例としては、ポリウレタン系樹脂,アクリル系樹脂,ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂,ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂,弾性ポリスチレン系樹脂,弾性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタン系樹脂、特に、ポリエーテル系、あるいはポリカーボネート系などの耐久性に優れたポリウレタンが好ましい。また、特に、スポンジ状の多孔質ではなく、非多孔性の高分子弾性体であることが、より意匠性と充実感に優れる点から好ましい。具体的には、例えば、ポリウレタンの有機溶媒溶液から得られるようなポリウレタンではなく、ポリウレタンの水性液を凝固させて得られるような水系の高分子弾性体が好ましい。なお、ポリウレタンの水性液とは、ポリウレタンのエマルジョン、ポリウレタン粒子を水系媒体に分散させた水性分散液、水性溶液が挙げられる。
また、ベースコート層は、本発明の効果を損なわない範囲で、顔料や染料等の着色材を含むことが好ましい。ベースコート層を着色することにより、最終的な外観において、色に深みのある天然皮革調の外観を有するようになる。着色剤の具体例としては、カーボンブラック等の顔料やアニリンブラック等の染料が挙げられる。ワックス層中に含有される着色材の割合は特に限定されないが、例えば、0.1〜20質量%程度であることが好ましい。
ワックス層は、後述する揉み処理等の物理的な柔軟化処理が施されることにより、クラックを形成して天然皮革に似た立体感のある細やかな皺のある外観を発現させる層である。すなわち、本実施形態の銀付調人工皮革に、後述するような揉み処理等の物理的な柔軟化処理が施されることにより、皺が形成された部分が部分的に浮くことにより色が変わり、それにより、天然皮革の銀面層の外観に似た立体感のある細やかな皺状の意匠を発現する。
ワックス層は、物理的な柔軟化処理により上述したような効果を発現することが可能な、常温で固体のワックスを、例えば、20質量%以上、さらには40質量%以上、含む層から形成される。このようなワックスの具体例としては、例えば、パラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックスなどの石油系天然ワックス;ミツロウやラノリンワックスなどの動物系天然ワックス;モンタンワックスやセレシンなどの鉱物系天然ワックス;ポリエチレンワックス,酸化ポリエチレンワックス,ビニルエーテルワックス,エチレン酢酸ビニルコポリマーワックスなどの合成ワックス;カルナバワックスや木ロウなどの植物系天然ワックス;等が挙げられる。上述した常温で固体のワックスの中では、融点が60℃以上、さらには80℃以上のワックスがプルアップ効果に特に優れる点から好ましい。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、ワックス層は、プルアップ効果と耐久性の調整を目的として、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の樹脂成分を含むことが好ましい。その他の樹脂成分の具体例としては、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等の各種高分子弾性体等の樹脂成分が挙げられる。その他の樹脂成分を含む場合、ワックス層中に含有される他の樹脂成分の含有割合としては、30〜80質量%、さらには40〜70質量%であることが好ましい。なお、他の樹脂成分を含むワックス層を形成する場合には、ワックスの水性液及び樹脂成分の水性液を混合した塗液を調整し、塗布して形成することが好ましい。
さらに、ワックス層は、本発明の効果を損なわない範囲で、顔料や染料等の着色材を含むことが好ましい。このように、ワックス層を着色することにより、プルアップ効果がより強調される。着色剤の具体例としては、カーボンブラック等の顔料やアニリンブラック等の染料が挙げられる。ワックス層中に含有される他の着色材の割合は特に限定されないが、ワックスおよびその他樹脂固形分の総量に対し、例えば、0.1〜20質量%程度であることが好ましい。
保護層は、脆く摩耗しやすいワックス層の表面を保護して摩擦や引っ掻きから保護する機能を有する。保護層は、鉛筆硬度HB以上の高硬度皮膜である。このような鉛筆硬度HB以上の高硬度皮膜によれば、薄い皮膜でも脆く摩耗しやすいワックス層の表面を充分に保護することができる。
保護層の硬度は鉛筆硬度HB以上であり、好ましくはF以上、さらにはH以上であることが好ましい。保護層の鉛筆硬度がHB未満の場合には、ワックス層の表面を摩耗等から充分に保護することができなくなる。なお、鉛筆硬度はJIS K 5600 塗料一般試験方法の4.4 引っかき硬度(鉛筆法)に準じて測定された硬度である。
このような高硬度の皮膜を形成するための樹脂の具体例としては、例えば、天然皮革の仕上げ剤として用いられるニトロセルロース誘導体や、ポリカーボネート系ポリウレタンやシリコーン変性ポリウレタン等の高硬度のポリウレタン等が挙げられる。これらの中では、ニトロセルロース誘導体が天然皮革に似た艶や表面の質感に優れる点から好ましい。
なお、保護層も着色材を含有してもよいが、耐摩耗性を向上させるためには着色剤を含有しない方が好ましい。保護層が着色材を含有した場合には保護層が脆く、表面物性に劣る傾向がある。
ベースコート層、ワックス層、及び保護層の少なくとも3層を含む銀面層の厚みは15μm以上であり、好ましくは15〜90μmであり、さらに好ましくは25〜60μmである。銀面層の厚みが15μm未満の場合には、厚みが不足して意匠性の高い銀面層を形成することができなくなる。また、銀面層の厚みが厚すぎる場合には銀面層の剛性が高くなりすぎて基体層との一体感が低下して、天然皮革に似たしなやかさが失われる傾向がある。また、銀面層が厚すぎる場合には、後述する揉み工程によるクラック加工を行った場合に、充分な通気性が得られない傾向がある。
また、ベースコート層の厚みは5〜40μm、さらには10〜30μmであることが好ましい。ベースコート層の厚みが薄すぎる場合には、基体層の表面を充分に平滑化することができなくなる傾向がある。また、ベースコート層の厚みが厚すぎる場合には、ベースコート層を形成する際のコーティングの際にベースコート層が基体層に深く浸透して形成され、基体層の風合いが硬くなる傾向がある。
また、ワックス層の厚みは5〜60μm、さらには10〜30μmであることが好ましい。ワックス層の厚みが薄すぎる場合には、物理的な柔軟化処理により天然皮革に似た立体感のある細やかな皺のある外観が充分に発現しない傾向がある。あるいは色の濃度が不足するなどの問題が生じ、意匠性が低下してしまう。また、ワックス層の厚みが厚すぎる場合には、銀面層が厚くなってしまう。
また、保護層の厚みは5〜30μm、さらには10〜20μmであることが好ましい。保護層の厚みが薄すぎる場合には、表面保護効果が充分に得られにくくなる傾向がある。また、保護層の厚みが厚すぎる場合には、硬質な保護層が厚くなることにより銀面層が硬くなりすぎて風合いが低下してしまう傾向がある。
また、ワックス層の厚みに対する保護層の厚みの比である、保護層の厚み/ワックス層の厚み比は、0.2〜0.8、さらには、0.4〜0.6であることが好ましい。ワックス層の厚みに対する保護層の厚み比が高すぎる場合には、硬質な保護層の厚みが相対的に厚くなるために、微細な皺等を発生させにくくなるとともに、風合いも硬くなる。また、ワックス層の厚みに対する保護層の厚み比が低すぎる場合には、硬質な保護層の厚みが相対的に薄くなることにより、耐摩耗性等の表面保護効果が低下する傾向がある。
なお、銀面層は、上述のように、基体層の表面に近い側から順に、ベースコート層、ワックス層、保護層の少なくとも3層を含む厚み15μm以上の表面層であるが、本発明の効果を損なわない範囲で、ベースコート層、ワックス層、及び保護層以外の着色層等の層を必要に応じて含んでもよい。
また、基体層の厚みに対する銀面層の厚み比は、銀面層の厚み/基体層の厚みが0.005〜0.3、さらには0.01〜0.2であることが柔軟性と充実感のバランスに優れる点から好ましい。
次に、本実施形態の銀付調人工皮革の製造方法の一例について詳しく説明する。本実施形態の銀付調人工皮革は、例えば、平均繊度0.001〜0.5デシテックスの極細繊維の長繊維絡合体を含む基体層を製造する工程と、基体層の少なくとも1面にベースコート層を形成するためのベースコート用配合液を塗布して凝固させることによりベースコート層を形成する工程と、形成されたベースコート層の表面にワックス層を形成するためのワックス層用配合液を塗布して凝固させることによりワックス層を形成する工程と、形成されたワックス層の表面に保護層を形成するための保護層用配合液を塗布して凝固させることにより保護層を形成する工程と、を備える。以下、各工程を順に説明する。
はじめに、平均繊度0.001〜0.5デシテックスの極細繊維の長繊維絡合体を製造する。長繊維絡合体を構成する繊維の形状は特に限定されないが、銀付調人工皮革の折れ皺や表面の緻密さを向上させる点から、混合紡糸方式や複合紡糸方式などの方法を用いて得られる海島型繊維のような極細繊維発生型繊維を極細化して得られる極細繊維であることが好ましい。具体的には、例えば、選択的に除去可能な樹脂からなる海成分と極細繊維を形成するための樹脂からなる島成分とを含む海島型繊維などの極細繊維発生型繊維を溶融紡糸して得られる長繊維ウェブを経て、極細繊維の長繊維絡合体を製造する。
なお、本実施形態においては、極細繊維発生型繊維として海島型繊維を用いる場合について詳しく説明するが、海島型繊維以外の極細繊維発生型繊維を用いても、また、極細繊維発生型繊維を用いずに、直接、極細繊維を紡糸してもよい。なお、海島型繊維以外の極細繊維発生型繊維の具体例としては、紡糸直後に複数の極細繊維が軽く接着されて形成され、機械的操作により解きほぐされることにより複数の極細繊維が形成されるような剥離分割型繊維や、溶融紡糸工程において花弁状に複数の樹脂を交互に集合させてなる花弁型繊維や、多層積層型断面繊維等が挙げられ、極細繊維を形成しうる繊維であれば特に限定されずに用いられる。
海島型繊維の島成分であり、極細繊維を形成するための樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),イソフタル酸変性PET,スルホイソフタル酸変性PET,ポリブチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド10,ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド6−12等のポリアミド;ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリブテン,ポリメチルペンテン,塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィン;エチレン単位を25〜70モル%含有する変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコール;およびポリウレタン系エラストマー,ポリアミド系エラストマー,ポリエステル系エラストマーなどのエラストマー等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂はそれぞれ単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、PET,イソフタル酸変性PET,ポリ乳酸,ポリアミド6,ポリアミド12,ポリアミド6−12,これらポリアミドの共重合体,ポリプロピレンが、紡糸性などの生産性に優れ、得られる銀付調人工皮革の機械的特性にも優れる点から好ましい。また、特に、PET及び変性PETは、長繊維絡合体の熱水処理時における収縮特性が良好な点から好ましい。
なお、極細繊維を形成するための樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤、具体的には、例えば、触媒,着色防止剤,耐熱剤,難燃剤,滑剤,防汚剤,蛍光増白剤,艶消剤,着色剤,光沢改良剤,制電剤,芳香剤,消臭剤,抗菌剤,防ダニ剤,無機微粒子等を必要に応じて配合してもよい。
海島型繊維の海成分は、海島型繊維を極細繊維の繊維束に変換する際に、溶剤により選択的に抽出除去されたり、熱水または分解剤により選択的に溶解または分解除去されたりする成分である。従って、海成分を形成する樹脂としては、島成分を形成する樹脂よりも、溶剤による抽出除去性や熱水または分解剤による溶解または分解除去性が高い樹脂が選択される。また、海島型繊維の紡糸安定性の点からは、島成分を形成する樹脂との親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分を形成する樹脂よりも小さい樹脂が好ましく用いられる。
このような海島型繊維の海成分を形成するための樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体,スチレン−エチレン共重合体,スチレン−アクリル共重合体,水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(水溶性PVA)等のポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。これらの中では、有機溶剤を用いることなく製造することができる点から、水溶性PVAが特に好ましい。
水溶性PVAのケン化度としては、90〜99.99モル%、さらには93〜99.98モル%、とくには、94〜99.97モル%、殊には、96〜99.96モル%の範囲であることが好ましい。水溶性PVAのケン化度がこのような範囲である場合には、水溶性に優れ、熱安定性が良好で、溶融紡糸性に優れ、また、生分解性にも優れた水溶性PVA樹脂が得られる。
長繊維ウェブ形成の方法としては、スパンボンド法などにより紡糸した海島型長繊維等の極細繊維発生型長繊維をカットすることなく長繊維ウェブにする方法が好ましく用いられる。
例えば、海島型長繊維は海成分ポリマーと島成分ポリマーとを複合紡糸用口金から押出して溶融紡糸し、口金から吐出した溶融状態の海島型長繊維を冷却装置により冷却した後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて、目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取速度に相当する速度の高速気流により牽引細化し、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させることにより、実質的に無延伸の長繊維ウェブを形成する。また、必要に応じて、得られた長繊維ウェブをプレスすること等により部分的に圧着して形態を安定化させる処理をしてもよい。また、長繊維を高密度化することにより、天然皮革に似た充実感と緻密な折れシワを再現しやすい。
溶融紡糸における紡糸温度(口金温度)は、例えば、海成分及び島成分の樹脂のそれぞれの融点よりも高く、180〜350℃の範囲であることが融点ピークと副吸熱ピークを存在させ易い点から好ましい。
海島型長繊維の平均断面積は特に限定されないが、30〜800μm2であることが好ましい。海島型長繊維の海成分と島成分の体積比に相当する横断面における海成分と島成分の平均面積比も特に限定されないが、5/95〜70/30であることが好ましい。また、得られる長繊維ウェブの目付も特に限定されないが、10〜1000g/m2が好ましい。
上述のようにして得られた長繊維ウェブを複数枚重ねて絡合処理することにより極細繊維発生型繊維の絡合体であるウェブ絡合シートを形成する。具体的には、長繊維ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両外側から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチを行う。パンチング密度は特に限定されないが、500〜5000パンチ/cm2の範囲であることが、海島型長繊維のニードルによる損傷を抑制しながら充分に繊維を絡合させることができる点から好ましい。
このような工程により、海島型長繊維同士が三次元的に絡合されて、厚さ方向に平行な断面において海島型長繊維が、例えば、平均600〜4000個/mm2の密度で存在するような、海島型長繊維が極めて緻密に集合した絡合されたウェブ絡合シートが得られる。ウェブ絡合シートの目付は100〜2000g/m2あることが好ましい。なお、長繊維ウェブには、その製造から絡合処理までのいずれかの段階で、針折れ防止油剤、帯電防止油剤、絡合向上油剤などのシリコーン系油剤または鉱物油系油剤を付与することが好ましい。
ウェブ絡合シートには熱収縮処理が施されることが好ましい。このような熱収縮処理により、長繊維ウェブの絡合状態がさらに緻密化されて形態保持性が良好になり、繊維の素抜けも防止される。なお、収縮処理としては、2通りの方法、すなわち、ウェブ絡合シートの収縮処理後に海成分を別工程で除去する方法と、海成分の除去と同時に収縮処理を行う方法とが挙げられ、これらは目的に応じて適宜選択される。
熱収縮処理の後、海成分を選択的に除去する方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。
熱収縮処理としては、ウェブ絡合シートに、海成分に対して30〜200質量%になるように水分を付与した後、相対湿度が70%以上、さらには90%以上である60〜130℃の水蒸気雰囲気下で60〜600秒間熱処理することが好ましい。このような条件で熱収縮処理した場合には、水蒸気により可塑化された海成分の樹脂が島成分の樹脂の長繊維の収縮力により圧搾及び変形されてより緻密になる。
熱収縮処理によるウェブ絡合シートの収縮率としては、下記式:
[(収縮処理前の面積−収縮処理後の面積)/収縮処理前の面積]×100
で表される面積収縮率が30〜90%、さらには35〜80%、とくには40〜70%であることが好ましい。このような収縮率で収縮させることにより、基体層の表層部の繊維密度を高め、得られる基体層の比重を0.5〜0.7g/cm3に調整しやすくなる。
そして、上述のように熱収縮処理されたウェブ絡合シートを、島成分を形成する樹脂を溶解及び分解せず、海成分を形成する樹脂のみを選択的に溶解または分解するような溶剤または分解剤で処理する。具体的には、例えば、島成分を形成する樹脂がポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂であり、海成分を形成する樹脂が水溶性PVA樹脂である場合、85〜100℃、さらには90〜100℃の温水が溶剤として用いられる。また、島成分を形成する樹脂がポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂であり、海成分を形成する樹脂が易アルカリ分解性の変性ポリエステルである場合、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が分解剤として用いられる。これらの中では、特に、海成分の樹脂として水溶性PVA樹脂を用い、海成分の除去率が95質量%以上になるまで85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することにより水溶性PVA樹脂を抽出除去することが好ましい。また、これらの代わりに、海成分の除去率が95質量%以上になるまで水流抽出処理してもよい。水流の温度は80〜98℃が好ましく、水流速度は2〜100m/分が好ましく、処理時間は1〜20分が好ましい。このようにして海島型長繊維を極細繊維化することにより、繊維束状に存在する極細繊維が形成される。なお、温水で処理する場合には、抽出処理の際に有機溶剤を用いた場合に発生するような揮発性物質の発生が抑制されるために、環境負荷が低く、労働衛生上も好ましい。
また、海成分の除去と同時に収縮処理を行う方法としては、例えば、ウェブ絡合シートを65〜90℃の熱水中に3〜300秒間浸漬した後、引き続き、85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理する方法が挙げられる。前段階で、海島型長繊維が収縮すると同時に海成分ポリマーが圧搾される。圧搾された海成分ポリマーの一部は繊維から溶出する。そのため、海成分の除去により形成される空隙がより小さくなるので、より緻密化した長繊維絡合体が得られる。
このようにして平均繊度0.001〜0.5デシテックスの極細繊維の長繊維絡合体が形成される。形成される極細繊維の長繊維絡合体の目付としては、140〜3000g/m2程度であることが好ましい。
なお、上述のようにして得られた極細繊維の長繊維絡合体は緻密であるために、高分子弾性体を付与しなくても形態保持性が良好で繊維の素抜けも少ないが、長繊維絡合体の形態保持性をさらに高めるために、また、得られる人工皮革基材の機械的特性や風合い等を調整するために、必要に応じて、長繊維絡合体に上述した範囲で高分子弾性体を含浸付与させてもよい。
含浸付与される高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン系樹脂,アクリル系樹脂,ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂,ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂,弾性ポリスチレン系樹脂,弾性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタン系樹脂が、柔軟性と充実感に優れる点からとくに好ましい。
高分子弾性体は、極細繊維化前のウェブ絡合シートに含浸付与しても、極細繊維化後の長繊維絡合体に含浸付与してもよい。ウェブ絡合シートや長繊維絡合体に高分子弾性体を含浸付与する方法の具体例としては、例えば、ポリウレタンエマルジョンやアクリル系エマルジョンのような高分子弾性体の水性液をウェブ絡合シートに含浸させた後、乾燥することにより凝固させる方法が好ましい。
なお、高分子弾性体を含むエマルジョンをウェブ絡合シートや長繊維絡合体に含浸させて乾燥する場合、表面からエマルジョンの乾燥が進行するにつれて内層のエマルジョンがウェブ絡合シートや長繊維絡合体の表層に移行して、表層に高分子弾性体が遍在する、所謂、マイグレーションという現象を生じる場合がある。マイグレーションが生じた場合、長繊維絡合体の厚み方向において、高分子弾性体の分布が不均一になることがある。このようなマイグレーションの発生は、感熱ゲル化性を有する高分子弾性体のエマルジョンを用いることにより抑制される。
高分子弾性体を含むエマルジョンが感熱ゲル化性を有している場合、感熱ゲル化性を有する高分子弾性体のエマルジョンをウェブ絡合シートや長繊維絡合体に含浸させた後、熱風,スチーム,マイクロ波,熱水浴などで処理することにより、内層のエマルジョンがウェブ絡合シートの表層にマイグレーションする前に、高分子弾性体が熱により、ゲル化または凝固化して厚み方向に均一に、固定される。
感熱ゲル化性を有する高分子弾性体のエマルジョンは、親水性親油性バランス(HLB)の低いノニオン性界面活性剤を乳化剤として高分子弾性体をエマルジョン化させたり、高分子弾性体のエマルジョンに熱によりエマルジョンをゲル化させる感熱ゲル化剤を添加することにより得られる。感熱ゲル化剤の具体例としては、例えば、塩化カルシウムなどの無機塩類とポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤、ポリビニルメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、シリコーンポリエーテル共重合体、ポリシロキサン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
高分子弾性体を含む液としては、上述のような水性エマルジョン等の水性液が、有機溶剤を使用しないために環境負荷が小さい点から好ましい。なお、高分子弾性体の水性液としては、高分子弾性体の水性エマルジョンや、高分子弾性体の水性懸濁液や、高分子弾性体を水系媒体に溶解させた水性溶液等が挙げられる。
高分子弾性体を含む水性液の乾燥条件は、高分子弾性体が乾燥凝固する条件であれば特に限定されない。例えば、水性エマルジョンの場合には、100〜160℃程度の温度で1〜20分間乾燥させるような条件が挙げられる。
上述のように、高分子弾性体を含む水性液をウェブ絡合シートや長繊維絡合体に含浸させた後、乾燥することにより、極細繊維の長繊維絡合体に高分子弾性体を含浸付与することができる。極細繊維の長繊維絡合体に含浸させる高分子弾性体の割合は、高分子弾性体の固形分量/長繊維絡合体の量の質量比が0/100〜20/80の範囲であり、好ましくは0.1/99.9〜15/85、さらに好ましくは0.1/99.9〜11/89である。高分子弾性体の割合が20/80を超える場合には、得られる銀付調人工皮革基材が高分子弾性体特有のゴム弾性あるいは樹脂感を持った風合いとなり、天然皮革に似たしなやかな風合いが得られにくくなる傾向があり、その結果、後述する、揉み処理等の物理的な柔軟化処理の際に、その反発感から細やかな皺が表現されなくなり、意匠性が低下する傾向がある。
このようにして得られた極細繊維の長繊維絡合体は、その厚み方向に対して略垂直方向の面にスライスしたり、コンタクトバフやエメリーバフなどを用いたバフィング処理したりすることにより厚み調整及び平滑化されることが好ましい。また、揉み柔軟化処理、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃剤処理等の仕上げ処理を施してもよい。このようにして、基体層が形成される。
なお、基体層の銀面層が形成される面における平均立毛長は100μm以下であることが好ましい。平均立毛長が100μmを超える場合には、80μm以下のような薄い銀面層を形成する場合に、立毛が銀面を突き上げることにより粗い浮き皺の発生の原因となり、風合いの低下を招く場合がある。従って、例えば、バフィング処理を行う場合には、スライス面の平均立毛長が100μm以下となるように、ペーパー番手や回転数等を適宜選択することが好ましい。
次に、基体層の表面に近い側から順に、非多孔性高分子弾性体からなるベースコート層と、固体ワックスを含むワックス層と、鉛筆硬度HB以上の高硬度皮膜からなる保護層とを含む銀面層を形成する工程について説明する。
銀面層を形成する方法としては、基体層上に直接樹脂をコーティングするダイレクトコート法や離型紙上に形成した樹脂膜を基体層の表面に接着剤層を介して接着するいわゆる乾式造面法などが挙げられるが、以下に示すようなダイレクトコート法が特に好ましい。
はじめに、基体層の少なくとも1面にベースコート層を形成するためのベースコート用配合液を塗布して高分子弾性体を凝固させることによりベースコート層を形成する。
ベースコート用配合液としては、高分子弾性体膜を形成するために、上述したポリウレタン系樹脂等の高分子弾性体を含む水性液を主体とする配合液を用いることが好ましい。また、ベースコート用配合液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述したような着色材の他、増粘剤,浸透剤などの界面活性剤,硬化促進剤,増量剤,充填剤,耐光安定剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤,蛍光剤,防黴剤,難燃剤,ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物等の添加剤を必要に応じて含有してもよい。
ベースコート層は、基体層の少なくとも1面に、例えば、乾燥後の厚みが所定の厚みになるように制御しながらリバースロール等のコーティング手段を用いてベースコート用配合液を塗布した後、乾燥させること等により高分子弾性体を凝固させることにより形成される。
次に、形成されたベースコート層の表面にワックス層を形成するためのワックス層用配合液を塗布して凝固させることによりワックス層を形成する。
ワックス層用配合液としては、常温で固体のワックスを含有し、乾燥により成膜するようなワックスを含むエマルジョンや分散液等の水性液を主体とする配合液を用いることが好ましい。また、ワックス層用配合液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述したような着色材の他、上述したような各種添加剤等を必要に応じて含有してもよい。
ワックス層は、形成されたベースコート層の表面に、例えば、乾燥後の厚みが所定の厚みになるように制御しながらリバースロール等のコーティング手段を用い、ワックス層用配合液を塗布した後、乾燥等によりワックス膜を成膜させることにより形成される。
次に、形成されたワックス層の表面に保護層を形成するための保護層用配合液を塗布して凝固させることにより保護層を形成する。
保護層用配合液としては、硬質の被膜を形成するために、乾燥により鉛筆硬度HB以上の高硬度皮膜を成膜するような樹脂を含むエマルジョンや分散液等の水性液を主体とする配合液を用いることが好ましい。また、保護層用配合液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述したような着色材の他、上述したような各種添加剤等を必要に応じて含有してもよい。
保護層は、形成されたワックス層の表面に、例えば、乾燥後の厚みが所定の厚みになるように制御しながらリバースロール等のコーティング手段を用い、保護層用配合液を塗布した後、乾燥等により硬質の被膜である保護層を成膜させることにより形成される。
このようにして、極細繊維の長繊維絡合体を含む基体層の表面に、基体層の表面に近い側から順に、非多孔性の高分子弾性体からなるベースコート層と、固体ワックスを含むワックス層と、鉛筆硬度HB以上の高硬度皮膜からなる保護層とを含む厚み15μm以上の銀面層が形成される。このようにして、本実施形態の銀付調人工皮革基材が得られる。
このようにして得られた銀付調人工皮革基材に揉み処理等の物理的な柔軟化処理を施すことにより、銀面層のワックス層に折れ皺が形成されてクラックとして残存する。その結果、銀付調天然皮革に似た、不規則で立体感のある皺状の模様が形成される。また、このような物理的な柔軟化処理により、銀面層に外観上は目立たない無数のクラックが形成されて通気性も付与される。このような物理的な柔軟化処理の具体例としては、高圧液体流染色機、ウインス、タンブラー、機械的な揉み機等を用いたような柔軟化処理が挙げられる。これらの中では、高圧液流染色機を用い熱水液流と共に狭いノズルを通過させる方法がとくに好ましい。
また、上述した物理的な柔軟化処理に加えて、必要に応じて、柔軟化効果を持つ薬剤を用いた化学的な柔軟化処理や、エンボス加工や、シボ付与処理等を施してもよい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
水溶性熱可塑性PVA系樹脂を海成分に用い、イソフタル酸変性度6モル%の変性PETを島成分として用い、繊維1本あたりの島数が25島で、海成分/島成分が25/75(質量比)となるような溶融複合紡糸用口金を用い、260℃で海島型のフィラメントを口金より吐出した。そして、紡糸速度が4000m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度2.5デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集し、目付30g/m2の長繊維ウェブを得た。
そして、得られた長繊維ウェブをクロスラッピングすることにより12枚重ね、これに、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、6バーブのニードル針で2000パンチ/cm2のパンチ密度でニードルパンチングすることにより、ウェブ絡合シートを得た。
そして、ウェブ絡合シートを水蒸気により熱収縮させた。水蒸気による熱収縮処理は、はじめに、ウェブ絡合シート中の海成分の量に対して30質量%の水分を付与し、次いで、相対湿度が90%、温度が110℃の加熱水蒸気雰囲気下で80秒間加熱処理した。このときの面積収縮率は45%であった。
次に、熱収縮処理後のウェブ絡合シートに、自己乳化型の感熱ゲル化性を有する水性ポリウレタン(100%モジュラス 3.0MPa)のエマルジョンを、水性ポリウレタンの固形分量/島成分の量の質量比が10/90となるように濃度を調整して含浸させた。そして、マイグレーションを防止するために水蒸気雰囲気下で水性ポリウレタン分散液をゲル化処理した後、120℃で10分間乾燥した。
そして、水性ポリウレタンを含浸させたウェブ絡合シートを95℃の熱水中に10分間浸漬することにより海成分を除去して平均繊度0.07デシテックスの極細繊維を形成させた。そして、120℃の温度で10分間乾燥することにより、厚み1.3mmの中間体シートが得られた。水性ポリウレタンの量/長繊維絡合体の質量比は9.6/90.4であった。
そして、得られた中間体シートの表面を#240のサンドペーパーを用いてバフィング処理することにより、厚み1.2mmの基体層を得た。得られた基体層の目付は700g/m2であり、見かけ密度は0.59g/cm3であった。
そして、得られた基体層の表面に、次のように、リバースコーターを用いたダイレクトコートにより銀面層を形成した。
はじめに、基体層の表面に、下記に示す組成のベースコート用配合液を30メッシュのリバースロールで塗布した後、乾燥することにより、厚み20μmのベースコート層を形成した。
(ベースコート用配合液)
・水性脂肪族ポリエーテル系ポリウレタン(100%モジュラス 10MPa、固形分40%) 100質量部
・増粘剤(ポリウレタンタイプの会合型増粘剤) 0.3質量部
・水性黒顔料(固形分25%) 20質量部
次に、基体層の表面に形成されたベースコート層の上に、下記に示す組成のワックス配合液を30メッシュのリバースロールで塗布した後、乾燥することにより、厚み20μmのワックス層を形成した。
(ワックス配合液)
・ワックス水分散体(融点85℃のカルナバワックスを含有、固形分30%) 50質量部
・水性脂肪族ポリエーテル系ポリウレタン(100%モジュラス 10MPa、固形分40%) 50質量部
・水性黒顔料(固形分25%) 10質量部
・増粘剤(ポリウレタンタイプの会合型増粘剤) 1質量部
次に、ベースコート層の表面に形成されたワックス層の上に、下記に示す組成の保護層配合液を60メッシュのリバースロールで塗布した後、乾燥することにより、厚み10μmの保護層を形成した。
(保護層配合液)
・ニトロセルロース水分散体(鉛筆硬度F、固形分15%) 100質量部
・消泡剤(ドデシルスルホン酸ナトリウム) 2質量部
そして、このようにして得られた銀付調人工皮革基材にタンブラー型揉み機で温度80℃で30分間揉み処理を施した。そして、各層の厚み、揉み処理後の銀付調人工皮革基材の表面模様の状態、耐摩耗性、柔軟性、充実感を以下のようにして評価した。
〈各層の厚み〉
揉み処理後の銀付調人工皮革基材の厚み方向と平行な断面の200〜300倍のSEM写真を撮影し、厚み方向に垂直な任意の範囲で、各層の厚み方向に平行な直線を200μm間隔で10本引いた。その直線が各層の断面の上端および下端と交わった点の距離を測定し、算出した10点の平均を各層の厚みとした。
〈表面模様の状態〉
縦20cm×横20cmの正方形に切り出した試験片を、縦方向に上端と下端を併せるように表面を谷折りしたときに発生する表面模様の状態を目視により観察し、以下の基準により判定した。
A:折り込んだときに高級牛皮革と同様の細かで緻密なシワが均一に観察された。
B:折り込んだときに均一に粗いシワが観察された。
C:折り込んだときに部分的に粗いシワが観察された。
D:折り込んだときに皺があまり観察されなかった。
〈耐摩耗性(テーバー磨耗)〉
直径13cmの円状にカットした銀付調人工皮革基材をテーバーアブレージョンテスター(TABER INSTRUMENT Corp製)のターンテーブル上にセットした。そして、2個の摩耗輪(CS−10(ダイトエレクトロン社製))で1000回摩耗させた。なお、荷重は1kgにセットした。そして、このときの銀付調人工皮革基材の摩耗減量及び、表面の状態変化を判定した。なお、表面の状態変化は以下の基準に従って判定した。
1級:外観変化が認められない
2級:保護層が除去されてベースコート層が一部露出している
3級:保護層が除去されてベースコート層が半分以上露出している
4級:基体層が一部露出している
5級:基体層が半分以上露出している
〈柔軟性〉
銀付調人工皮革基材を縦20cm×横20cmの正方形に切り出した試験片を作成した。そして、人工皮革基材分野の当業者から選出された5人のパネリストが試験片を触って、以下の基準で柔軟性を判定した。
A:高級牛皮革と同様に触ったり折り曲げたりしたときの反発感がなく、柔軟性が高かった。
B:雑貨等に用いられる皮革素材として用いられうる程度の、標準的な柔軟性があった。
C:反発感が強く、柔軟性に乏しかった。
D:雑貨等に用いられる皮革素材としては硬すぎて実用上商品化できないような柔軟性であった。
〈充実感〉
銀付調人工皮革基材を縦20cm×横20cmの正方形に切り出した試験片を作成した。そして、人工皮革基材分野の当業者から選出された5人のパネリストが試験片を触って、以下の基準で充実感を判定した。
A:牛皮革と同様の高級感のある充実感であった。
B:雑貨等に用いられる皮革素材として一般的な充実感であった。
C:雑貨等に用いられる皮革素材として使用可能であるが、腰が弱く、好ましくない充実感であった。
D:重厚感に欠け、腰が無く、雑貨等に用いられる皮革素材としては実用上商品化できないような充実感であった。
結果を下記表1に示す。
[実施例2〜4]
表1に示すように、ベースコート層、ワックス層、及び保護層の厚みを変えた以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
[実施例5]
鉛筆硬度Fのニトロセルロース膜を形成するニトロセルロース水分散体を用いた代わりに、鉛筆硬度HBのポリウレタン膜を形成するためのポリウレタン水分散体(ポリエーテル系ポリウレタン、100%モジュラス4MPa)を用いた以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
[実施例6]
熱収縮処理後のウェブ絡合シートに、水性ポリウレタンを含浸付与しなかった以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
[実施例7]
ワックス配合液として、水性ポリエーテル系ポリウレタンを配合しなかった以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
[実施例8]
ワックス配合液中のワックス水分散体の代わりに、ワックス水分散体(融点55℃のパラフィンワックス)を用いた以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
[実施例9]
ベースコート用配合液として、以下に示すような、溶剤系ポリウレタン配合物を用いてスポンジ状にベースコート層を凝固させた以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
(ベースコート用配合液)
・溶剤系ポリエーテル系ポリウレタン(固形分40%) 50質量部
・黒顔料(カーボンブラック) 20質量部
・DMF (希釈剤) 30質量部
[実施例10及び比較例1]
表1に示すように、ベースコート層、ワックス層、及び保護層の厚みを変えた以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
[比較例2]
ベースコート層を形成しなかった以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
[比較例3]
表面保護層を形成しなかった以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
[比較例4]
繊維1本あたりの島数が25島の代わりに、7島となる溶融複合防止用口金を用いて紡糸して、平均繊度3.5デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集し、目付30g/m2の長繊維ウェブを得た以外は実施例1と同様の処理を行うことにより、目付550g/m2、見かけ比重0.53g/cm3の基体層を得た。この基体層を構成する長繊維絡合体の極細繊維の平均繊度は0.6デシテックスであった。このようにして得られた基体層を用いた以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
[比較例5]
ワックス層を形成しなかった以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
[比較例6]
実施例1において、長繊維絡合不織布を、収縮処理工程での面積収縮率が25%になるように紡糸速度を調整した以外は、実施例1と同様の処理を行い、基体層を得た。このときの基体層の目付は519g/m2、見かけ比重は0.46g/cm3であった。このようにして得られた基体層を用いた以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
[比較例7]
実施例1で含浸する水性ポリウレタン分散液の水性ポリウレタン/ウェブ絡合シートの島成分重量の比率が25/75になるように濃度を調整した以外は、実施例1と同様の処理を行い、基体層を得た。このときの基体層の目付は536g/m2、見かけ比重は0.60g/cm3であった。このようにして得られた基体層を用いた以外は実施例1と同様の工程及び条件により銀付調人工皮革基材を得、同様に評価した。結果を表1に示す。
実施例の結果から次のことがわかる。本発明に係る実施例1〜10の銀付調人工皮革においては、いずれも立体的な皺状の意匠が観察された。また、特に、鉛筆硬度Fの保護層を形成した実施例1〜4及び6〜10はいずれも摩耗減量が少なかった。なお、多孔性のベースコート層を形成した実施例9の銀付調人工皮革は、非多孔性のベースコート層を形成した実施例1等の銀付調人工皮革に比べて、意匠性及び充実感がやや劣った。また、ベースコート層を形成しなかった比較例2の場合にも表面の皺が充分に発生しなかった。