JP6670059B2 - セルロースナノファイバーの製造方法 - Google Patents

セルロースナノファイバーの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、セルロースナノファイバーの製造方法に関する。
近年、物質をナノメートルレベルまで微細化し、物質が持つ従来の性状とは異なる新たな物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。化学処理、粉砕処理等のナノテクノロジーによりセルロース系原料から製造されるセルロースナノファイバーは、強度、弾性、熱安定性等に優れているため、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂及びゴムの配合用充填剤等としての工業上の用途や、口紅、粉末化粧料、乳化化粧料等の化粧品の配合剤の用途に用いられている。また、セルロースナノファイバーは、水系分散性に優れているため、食品、化粧品、塗料等の粘度の保持剤、食品原料生地の強化剤、水分保持剤、食品安定化剤、低カロリー添加物、乳化安定化助剤などの多くの用途における利用が期待されている。
このようなセルロースナノファイバーの製造方法として、触媒である2,2,6,6−テトラメチルー1−ピペリジンーN−オキシラジカルと酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムとの共存下でセルロース系原料を処理する方法が検討されている(特開2008−1728号公報参照)。しかし、この方法で用いられる次亜塩素酸ナトリウムは、強酸性物質と混合すると塩素ガスが発生するため、人体への悪影響等が懸念されており、取扱いが煩雑になるという不都合がある。また、セルロースナノファイバーの製造方法として、セルロース系原料をオゾン処理した後、水に分散し、得られたセルロース系原料の水懸濁液を粉砕処理する方法が検討されている(特開2010−254726号公報参照)。しかし、この方法に用いられるオゾンは、光化学オキシダントの主成分であり、環境への悪影響が懸念されているため、取り扱いが煩雑になるという不都合がある。また、セルロース系原料をオゾン処理するとセルロース分子を強力に加水分解するため、セルロース系原料からの回収率が低くなるといった不都合がある。
特開2008−1728号公報 特開2010−254726号公報
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、パルプ繊維を用い、セルロースナノファイバーを簡便な方法により優れた回収率で得ることができるセルロースナノファイバーの製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためになされた発明は、過硫酸類との混合によりパルプ繊維を前処理する工程、及び上記前処理が施されたパルプ繊維を水中に分散した状態で微細化する工程を備えるセルロースナノファイバーの製造方法である。
当該セルロースナノファイバーの製造方法によれば、過硫酸類を用いてパルプ繊維を前処理することにより、セルロースナノファイバーを簡便な方法により優れた回収率で製造することができる。この理由は定かではないが、過硫酸類によりパルプ繊維を前処理することにより、パルプ繊維を形成するセルロース分子の加水分解の制御が容易になり、適度に加水分解された状態でパルプ繊維が膨潤するため等の理由が考えられる。このような状態のパルプ繊維を微細化工程に供することにより、高回収率で良好な特性を有するセルロースナノファイバーを効率的に得ることができる。
上記前処理工程におけるpHとしては、1.0以上3.0以下が好ましい。このように前処理工程におけるpHを上記範囲とすることで、パルプ繊維を構成するセルロース分子の加水分解及び膨潤が適度に促進され、パルプ繊維からのセルロースナノファイバーの回収率をより向上させると共に、均一かつ保湿度に優れるセルロースナノファイバーを製造することができる。
上記前処理工程を液相で行うとよく、上記液相における上記パルプ繊維の固形分濃度としては、1質量%以上20質量%以下が好ましい。パルプ繊維は、一般的に水分散状態として製造されるため、このように上記前処理工程を液相で行うことで、脱水処理、乾燥処理等の過大な設備やエネルギーを要する処理を必要とせず、パルプ繊維を用い、セルロースナノファイバーを簡便な方法により製造することができる。また、液相における上記パルプ繊維の固形分濃度を上記範囲内とすることで、過硫酸類によりパルプ繊維を構成するセルロースの加水分解及び膨潤が適度に促進され、セルロースナノファイバーを高回収率で効率よく製造することができる。
上記前処理工程と上記微細化工程との間に、上記前処理後のパルプ繊維を中和する工程及び/又は上記前処理後のパルプ繊維を洗浄する工程をさらに備えるとよい。このように、上記前処理後のパルプ繊維を中和する工程及び/又は上記前処理後のパルプ繊維を洗浄する工程をさらに備えることで、より良好な特性を有するセルロースナノファイバーを高回収率で製造することができる。
上記微細化工程を石臼、高圧ホモジナイザー、ボールミル又はこれらのうちの少なくとも1つを用いて行うとよい。所定の前処理が施されたパルプ繊維に対して、これらを用いた機械的な微細化処理を施すことにより、パルプ繊維の解繊を低エネルギーで効率的に進行させることができ、セルロースナノファイバーの生産性を高めることができる。
ここで、「セルロースナノファイバー」とは、平均繊維幅が1,000nm以下のセルロース繊維をいう。「平均繊維幅」とは、電子顕微鏡又は電界放射型走査電子顕微鏡を用いて測定される繊維幅の平均の値である。
以上説明したように、本発明のセルロースナノファイバーの製造方法によれば、パルプ繊維を用い、セルロースナノファイバーを簡便な方法により優れた回収率で製造することができる。従って、当該セルロースナノファイバーの製造方法によって得られるセルロースナノファイバーは、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂及びゴムの配合用充填剤、化粧品の配合剤、食品及び塗料の粘度保持剤、食品原料生地の強化剤、水分保持剤、食品安定化剤、低カロリー添加物、乳化安定化助等の多くの用途に好適に用いることができる。
<セルロースナノファイバーの製造方法>
当該セルロースナノファイバーの製造方法は、過硫酸類との混合によりパルプ繊維を前処理する工程(以下、「前処理工程」ともいう)、及び上記前処理が施されたパルプ繊維を水中に分散した状態で微細化する工程(以下、「微細化工程」ともいう)を備える。当該セルロースナノファイバーの製造方法は、必要に応じて、上記前処理工程と上記微細化工程との間に、上記前処理が施されたパルプ繊維を予備叩解する工程(以下、「予備叩解工程」ともいう)、上記前処理が施されたパルプ繊維を中和する工程(以下、「中和工程」ともいう)、上記前処理が施されたパルプ繊維を洗浄する工程(以下、「洗浄工程」ともいう)及び/又は上記前処理が施されたパルプ繊維から過硫酸類を含む水を除去する工程(以下、「脱水工程」ともいう)をさらに備えてもよい。当該セルロースナノファイバーの製造方法が脱水工程を備える場合、脱水工程により除去された過硫酸類を含む水を前処理工程において再利用してもよい。以下、各工程について説明する。
(前処理工程)
当該セルロースナノファイバーの製造方法は、前処理工程を備える。本工程では、過硫酸類との混合によりパルプ繊維を前処理する。本工程では、パルプ繊維は、過硫酸類と混合されることにより、加水分解された状態で膨潤する。
上記パルプ繊維としては、例えば木材パルプ、木材以外の繊維原料を主成分したパルプ、古紙パルプ等が挙げられる。
木材パルプとしては、例えば
広葉樹晒亜硫酸パルプ(LBSP)、広葉樹未晒亜硫酸パルプ(LUSP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)等の広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒亜硫酸パルプ(NBSP)、針葉樹未晒亜硫酸パルプ(NUSP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等の針葉樹クラフトパルプ(NKP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;
ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等の機械パルプなどが挙げられる。
木材以外の繊維原料を主成分したパルプとしては、例えば
リンターパルプ;
麻、バガス、ケナフ、エスパルト草、竹、籾殻、わら等から得られるパルプなどが挙げられる。
古紙パルプとしては、例えば
茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ;
古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。
上記パルプ繊維としては、これらの中で、簡便な方法により優れた回収率でセルロースナノファイバーを製造する観点から、化学パルプが好ましく、LBKPがより好ましい。
上記前処理工程に用いる過硫酸類としては、例えば
ペルオキソ一過硫酸、ペルオキソ二過硫酸、ペルオキソ一過硫酸カリウム等のペルオキソ一過硫酸塩;
ペルオキソ二過硫酸ジアンモニウム、ペルオキソニ過硫酸ジナトリウム、ペルオキソ二過硫酸ジカリウム等のペルオキソニ過硫酸塩などが挙げられる。ペルオキソ一過硫酸は、ペルオキシ二硫酸を加水分解して得てもよく、過酸化水素と硫酸とを任意の割合で混合して得てもよい。
上記過硫酸類としては、これらの中で、パルプ繊維をより適度に加水分解し、優れた回収率でセルロースナノファイバーを得る観点から、ペルオキソニ過硫酸塩が好ましく、ペルオキソ二過硫酸ジアンモニウムがより好ましい。また、上記過硫酸類としては、着色のないパルプ繊維を得る観点から、ペルオキソ一過硫酸が好ましい。
前処理工程は、液相で行っても気相で行ってもよい。
前処理工程を液相で行う方法としては、過硫酸類の水溶液を上記パルプ繊維に混合することにより過硫酸類の水溶液と上記パルプ繊維とを接触させて処理する方法等が挙げられる。
前処理工程を気相で行う方法としては、過硫酸類の蒸気相を上記パルプ繊維に混合することにより過硫酸類の蒸気相と上記パルプ繊維とを接触させて処理する方法等が挙げられる。上記過硫酸類を蒸気相とする方法としては、例えばオートクレーブ装置等を用いて、過硫酸類を蒸気化する方法等が挙げられる。
前処理工程としては、より簡便な方法により優れた回収率でセルロースナノファイバーを製造する観点から、液相で行うことが好ましい。
パルプ繊維に混合する上記過硫酸類の水溶液濃度の下限としては、1質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、上記過硫酸類濃度の上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記過硫酸類濃度が上記下限に満たないと、パルプ繊維を構成するセルロース分子の加水分解及が十分に促進されないおそれがある。一方、上記過硫酸類濃度が上限を超えるとパルプ繊維を構成するセルロース分子の加水分解及び膨潤が過度に促進されるおそれがあり、処理されたパルプ繊維が変色するおそれがある。
上記過硫酸類の混合率の下限としては、パルプ繊維の絶乾質量に対して0.05質量%が好ましく、0.3質量%がより好ましい。一方、上記混合率の上限としては、40質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。上記過硫酸類の混合率が上記下限に満たないと、パルプ繊維を構成するセルロース分子の加水分解及び膨潤が十分に促進されず、セルロースナノファイバーの保湿度が低くなるおそれがある。一方、上記過硫酸類の混合率が上記上限を超えると、パルプ繊維を構成するセルロース分子の加水分解及び膨潤が過度に促進され、パルプ繊維からのセルロースナノファイバーの回収率が低くなるおそれがあり、処理されたパルプ繊維が変色するおそれがある。
前処理工程における処理温度の下限としては、45℃が好ましく、55℃がより好ましく、75℃がさらに好ましい。一方、上記処理温度の上限としては、120℃が好ましく、100℃がより好ましく、90℃がさらに好ましい。上記処理温度が上記下限に満たないと、加水分解反応が著しく低下するおそれがある。一方、上記処理温度が上記上限を超えると、パルプ繊維を構成するセルロース分子の加水分解及び膨潤が過度に促進され、セルロースナノファイバーの回収率が低くなるおそれがある。
前処理工程における処理時間の下限としては、0.5時間が好ましく、2時間がより好ましい。一方、上記処理時間の上限としては、7時間が好ましく、4時間がより好ましい。上記処理時間を上記範囲とすることで、セルロースナノファイバーをより適度に加水分解することができる。
前処理工程における混合物のpHの下限としては、1.0が好ましく、1.5がより好ましい。上記pHの上限としては、3.0が好ましく、2.0がより好ましい。上記pHを上記範囲とすることで、パルプ繊維の加水分解をより適度にすることができる。
前処理工程を液相で行う場合、上記液相における上記パルプ繊維の固形分濃度の下限としては、1質量%が好ましい。上記固形分濃度の上限としては、20質量%が好ましい。上記固形分濃度を上記範囲とすることで、より優れた回収率でセルロースナノファイバー製造することができる。
(中和工程)
当該セルロースナノファイバーの製造方法は、必要に応じて、前処理工程と微細化工程との間に、中和工程をさらに備えてもよい。本工程では、上記前処理が施されたパルプ繊維を中和する。当該セルロースナノファイバーの製造方法は、本工程を備えることにより、効果的かつ適切にパルプ繊維を微細化することができる。
中和の方法としては、例えば水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等のアルカリを上記前処理が施されたパルプ繊維に添加する方法等が挙げられる。これらのアルカリは1種単独で又は2種以上を用いることができる。
(洗浄工程)
当該セルロースナノファイバーの製造方法は、必要に応じて、前処理工程と微細化工程との間に、洗浄工程をさらに備えてもよい。本工程では、上記前処理が施されたパルプ繊維を洗浄する。当該セルロースナノファイバーの製造方法は、本工程を備えることにより、効果的かつ適切にパルプ繊維を微細化することができる。
洗浄の方法としては、例えば上記前処理が施されたパルプ繊維を水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等のアルカリの水溶液、酢酸、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸、酢酸、安息香酸、メタクロロ安息香酸、ギ酸、プロピオン酸等の酸の水溶液、蒸留水、工業用水などにより洗浄する方法などが挙げられる。これらの方法は1種単独で又は2種以上を用いることができる。
(脱水工程)
当該セルロースナノファイバーの製造方法は、必要に応じて、前処理工程と微細化工程との間に、脱水工程をさらに備えてもよい。本工程では、上記前処理が施されたパルプ繊維から過硫酸類を含む水を除去する。当該セルロースナノファイバーの製造方法は、本工程を備えることにより、効果的かつ適切にパルプ繊維を微細化することができる。水を除去する方法は、特に限定されず、公知の方法により行うことができる。
(予備叩解工程)
当該セルロースナノファイバーの製造方法は、必要に応じて、前処理工程と微細化工程との間に、予備叩解工程をさらに備えてもよい。当該セルロースナノファイバーの製造方法が中和工程、洗浄工程及び/又は脱水工程をさらに備える場合は、中和工程、洗浄工程及び/又は脱水工程と微細化工程との間に予備叩解工程を備える。本工程では、上記前処理が施されたパルプ繊維を予備叩解する。当該セルロースナノファイバーの製造方法は、予備叩解工程を備えることで、微細化工程においてより効率的にパルプ繊維を微細化することができる。
予備叩解方法としては、物理的方法、上記酸化処理及び上記前処理以外の化学的方法等が挙げられる。
物理的方法としては、例えばパルパー、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー等の叩解設備を用いる粘状叩解方法、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー等の叩解設備を用いるカッティング叩解方法、これらを組み合わせた方法などが挙げられる。粘状叩解方法かカッティング叩解方法かは、叩解設備により一義的に決まるものではなく、使用する刃、ローター、ディスク等の材質、形状、間隙などにより決定される。粘状叩解方法を行うには、例えば刃幅を広くする、刃長を短くする、接触角度を大きくする等の叩解刃を調整する方法、叩解時の温度を下げる方法などが挙げられる。一方、カッティング叩解方法を行うには、例えば刃幅を狭くする、刃長を長くする、接触角度を小さくする等の叩解刃を調整する方法、叩解時の温度を上げる方法などが挙げられる。
上記前処理以外の化学的方法としては、特に限定されず、公知の化学的方法を用いることができる。
予備叩解方法としては物理的方法が好ましく、粘状叩解方法、カッティング叩解方法及びこれらを組み合わせた方法がより好ましく、ビーターを用いる方法がさらに好ましい。
ビーターを用いる粘状叩解方法により予備叩解工程を行う場合、上記パルプ繊維の固形分濃度の下限としては、0.5質量%が好ましく、1.5質量%がより好ましい。上記固形分濃度の上限としては、5質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。上記固形分濃度を上記範囲とすることで、セルロースナノファイバーをより効率よく製造することができる。
粘状叩解方法を行う場合のビーターの処理時間の下限としては、30分が好ましく、55分がより好ましい。一方、上記ビーターの処理時間の上限としては、5時間が好ましく、3時間がより好ましい。ビーターの回転速度が上記下限に満たないと、微細化が不十分となるおそれがある。ビーターの回転速度が上記上限を超えると、パルプ繊維が劣化してしまうおそれがある。
予備叩解工程を物理的方法により行う場合、処理温度の下限としては、通常20℃であり、25℃が好ましい。上記処理温度の上限としては、通常80℃であり、65℃が好ましい。上記処理温度を上記範囲とすることで、よりサイズのばらつきの小さいセルロースナノファイバーを高回収率で得ることができる。
(微細化工程)
当該セルロースナノファイバーの製造方法は、微細化工程を備える。本工程では、上記前処理が施されたパルプ繊維を水中に分散した状態で微細化する。上記前処理が施されたパルプ繊維は、微細化工程により解繊処理される。微細化方法は、1種単独で又は2種以上を用いることができる。また、本工程を繰り返し行うことにより、セルロースナノファイバーを所望の平均繊維幅とすることができる。
微細化方法としては、例えば石臼型粉砕機等を用いるグラインダー法、パルプ繊維を水に分散させて高圧下で対向衝突させる水中対向衝突法、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーター等を用いて機械的に微細化する方法などが挙げられる。
微細化方法としては、これらの中でセルロースナノファイバーをより容易かつ確実に得ることができる観点から、石臼式磨砕機、高圧ホモジナイザー及びボールミルを用いる方法が好ましく、石臼式磨砕機を用いる方法がより好ましい。
石臼式磨砕機を用いるグラインダー法では、具体的には、石臼式磨砕機の擦り合わせ部にパルプ繊維を通過させることで、パルプ繊維が通過の際の衝撃、遠心力、剪断力等により次第に磨り潰され、化学的に変質することなく、均一なセルロースナノファイバーが得られる。
石臼式磨砕機を用いる方法で微細化処理を行う場合、上記パルプ繊維の固形分濃度の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。上記固形分濃度の上限としては、5質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。上記固形分濃度を上記範囲とすることで、セルロースナノファイバーをより効率よく製造することができる。
石臼式磨砕機の回転速度の下限としては、500rpmが好ましく、800rpmがより好ましい。一方、石臼式磨砕機の回転速度の上限としては、2,000rpmが好ましく、1,400rpmがより好ましい。石臼式磨砕機の回転速度が上記下限に満たないと、遠心力が足りず、微細化処理されたセルロースナノファイバーが排出されないおそれがある。石臼式磨砕機の回転速度が上記上限を超えると、遠心力によってパルプ繊維が微細化されないまま排出されてしまうおそれがある。
微細化工程の温度の下限としては、25℃が好ましく、30℃がより好ましい。一方、微細化の温度の上限としては、80℃が好ましく、65℃がより好ましい。微細化工程の温度が上記下限に満たないと、微細化が十分に促進されないおそれがある。微細化工程の温度が上記上限を超えると、突沸によりパルプ繊維を供給できなくなるおそれがある。
当該セルロースナノファイバーの製造方法により得られるセルロースナノファイバーは、水分散状態でレーザー解析法により測定される擬似粒度分布曲線が単一のピークを有することが好ましい。上記セルロースナノファイバーが上記単一のピークを有することで、ばらつきが小さいセルロースナノファイバーを得ることができる。
パルプ繊維からの上記セルロースナノファイバーの回収率の下限としては、95%が好ましく、98%がより好ましい。
上記セルロースナノファイバーの保水度の下限としては、310%が好ましく、3200%がより好ましい。上記保水度を上記範囲とすることで、セルロースナノファイバーは水等への分散性に優れる。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<評価方法>
実施例及び比較例の各種物性は、以下の評価方法に準じて測定した。
(回収率(%))
前処理前のパルプ繊維の絶乾質量に対する微細化処理後のセルロースナノファイバーの絶乾質量の百分率を求め、これを回収率(%)とした。つまり、回収率(%)は、原料であるパルプ繊維の供給量に対する得られるセルロースナノファイバーの生産量の割合である。
(擬似粒度分布曲線)
ISO−13320(2009)に準拠して、粒度分布測定装置(セイシン企業社の「レーザー回折・散乱式粒度分布測定器」)を用い、セルロースナノファイバーの水分散状態で体積基準粒度分布を示す曲線を測定し、ピークの数を数えた。
(保水度(%))
セルロースナノファイバーの保水度(%)は、JAPAN TAPPI No.26:2000に準拠して測定した。保水度は、その値が大きいほど良いことを示す。保水度は、310以上である場合は「良好」と、310に満たない場合は「不良」と判断できる。
(平均繊維幅)
電界放射型走査型電子顕微鏡を用い、セルロースナノファイバーの繊維幅を測定し、その平均繊維幅を求めた。
<実施例1>
(前処理工程)
25℃において、容器にパルプ繊維(LBKP、水分80%)2,500gと、過硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウムの水溶液濃度30質量%)と、清水2Lとを、過硫酸アンモニウムの混合率がパルプ繊維の絶乾質量に対して30質量%となるように混合し、混合物のpHを1.0とした。次いで、水温95℃にしたウォーターバス中でこの混合物を6時間処理し、前処理を施したパルプ繊維を得た。
(中和工程及び洗浄工程)
前処理をしたパルプ繊維を、水酸化ナトリウムにより中和し、その後、工業用水により洗浄した。
(予備叩解工程)
ナイヤガラビーター(熊谷理機工業社の「試験用ナイヤガラビーター」)を用い、上記洗浄工程後のパルプ繊維を、パルプ繊維の固形分濃度2質量%、23Lにて1時間処理した。
(微細化工程)
石臼式磨砕機(増幸産業社の「スーパーマスコロイダー」)を用い、上記予備叩解したパルプ繊維を回転速度1,000rpmで、パルプ繊維の固形分濃度2質量%にて1回処理し、セルロースナノファイバーを得た。
得られたセルロースナノファイバーは、回収率が95%であり、電界放射型走査型電子顕微鏡で観察される平均繊維幅が1,000mm以下であり、擬似粒度分布曲線においてピークの数が1つであり、保水度が374%であった。
<実施例2及び3並びに比較例1及び2>
実施例2及び3並びに比較例1及び2は、実施例1の前処理工程の条件等を表1のようにしたこと以外は、実施例1と同様に行った。
実施例及び比較例での前処理工程及び微細化工程の条件並びに評価結果を表1に示す。
Figure 0006670059
表1に示すように、実施例で得られたセルロースナノファイバーは、回収率及び保水度に優れ、擬似粒度分布曲線が単一のピークを有し、平均繊維幅が1,000nm以下であることが分かる。
上述のように、本発明のセルロースナノファイバーの製造方法によれば、パルプ繊維を用い、セルロースナノファイバーを簡便な方法により優れた回収率で製造することができる。従って、当該セルロースナノファイバーの製造方法によって得られるセルロースナノファイバーは、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂及びゴムの配合用充填剤、化粧品の配合剤、食品及び塗料の粘度保持剤、食品原料生地の強化剤、水分保持剤、食品安定化剤、低カロリー添加物、乳化安定化助等の多くの用途に好適に用いることができる。

Claims (4)

  1. 過硫酸類との混合によりパルプ繊維を前処理する工程、及び
    上記前処理が施されたパルプ繊維を水中に分散した状態で微細化する工程
    を備え、
    上記パルプ繊維が広葉樹晒クラフトパルプ又は針葉樹晒クラフトパルプであり、
    上記前処理工程を液相で行い、
    上記液相における上記パルプ繊維の固形分濃度が1質量%以上20質量%以下であり、
    上記前処理工程と上記微細化工程との間に予備叩解工程をさらに備え、
    上記予備叩解工程が物理的方法であるセルロースナノファイバーの製造方法。
  2. 上記前処理工程におけるpHが1.0以上3.0以下である請求項1に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
  3. 上記前処理工程と上記微細化工程との間に、上記前処理が施されたパルプ繊維を中和する工程及び/又は上記前処理が施されたパルプ繊維を洗浄する工程をさらに備える請求項1又は請求項2に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
  4. 上記微細化工程を石臼式磨砕機、高圧ホモジナイザー、ボールミル又はこれらのうちの少なくとも1つを用いて行う請求項1、請求項2又は請求項3に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
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